SAO <少年が歩く道>   作:もう何も辛くない

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今回はアインクラッド編の最後のヒロインである彼女が登場します。
ハーレムにはならないので、ケイと結ばれるという事はないですが…。










第36話 <天叢雲剣>と鍛冶師

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕には出来ません」

 

 

「…は?」

 

 

目の前で、両掌に載せた刀をこちらに差し出しながら言う鍛冶屋のプレイヤーに、ケイは思わず目を丸くする。

 

 

「え…。いや、だって。村正は…」

 

 

「確かにあれも魔剣って呼ばれてましたけど…、でもこれは桁違いですよ。百層まで通用するんじゃないんですか?まだ熟練度が溜まり切ってない僕には出来ませんよ」

 

 

呆然としながら問うケイに、苦笑を浮かべながら返してくる鍛冶プレイヤー。

 

 

「これは…、マスタースミスでないとメンテナンス出来ませんよ」

 

 

「…」

 

 

 

 

 

「てことでさ、腕のいい鍛冶師探してんだけど、知らない?」

 

 

「会っていきなり、何を言ってるの…?」

 

 

そんなケイと鍛冶師の会話が行われてからおよそ十分後。何とも運が良い事か、ケイはバッタリ、アスナに出会っていた。

 

今ケイが歩いている層は三十二層の主街区<セイガス>。武器の手入れをするために、知り合いが営んでいる鍛冶屋に頼みに行ったのだが…結果は、冒頭で語った通りである。

それにより、ケイは熟練度をMAXまで貯めているマスタースミスを探さなければならなくなったのだが…、ケイにはマスタースミスの知り合いなどいない。というより、先程会いに行った相手が唯一の知り合いの鍛冶師だったのだ。

 

そのため、どうすればと路頭に迷っていた所で…このアスナの登場だ。もしかしたら、アスナなら誰か紹介してくれるかもしれない。

 

 

「へぇ、そんな事があったんだ…。って、マスタースミスじゃないと手入れできない武器って…。キリト君の<エリュシデータ>じゃないんだし…」

 

 

「いや…。あんまり口外したくないけどさ、ぶっちゃけあれよりも性能は上だぞ?要求筋力値が少ない分、破壊力は劣るけど…」

 

 

「…チート?」

 

 

「違う」

 

 

失礼な。チートなはずがないだろ。ただ受けたクエストのボスがやたら強くて、何とか倒したらドロップしてきたのがそれだっただけだ。

 

と、正直に説明したら、アスナが「また一人で~」等々、説教してくるのは目に見えているのでそれは喉奥に仕舞い込む。

 

 

「腕のいい鍛冶師、か…。知ってるよ?マスタースミスの人」

 

 

「え?マジか!?なら、その人の居場所を…」

 

 

やはり、ケイが睨んだ通り、アスナは知り合いにマスタースミスがいたらしい。…睨んだというか、ただの勘なのだが。

 

 

「ただし!条件があるの」

 

 

「は?条件?」

 

 

これで武器の手入れができる。喜びながら、そのアスナの知り合いという鍛冶師がいる場所を聞こうとするケイにアスナが待ったをかけた。

 

 

「条件て何だよ?」

 

 

アスナが言った条件。それが何なのかをケイが問いかける。

 

 

「あ、えっと…。鍛冶師のいるところは教えてあげるよ?だけど…その…」

 

 

「…?」

 

 

すると、何故かアスナが言いづらそうに、それと同時に恥ずかし気に、僅かに頬を染める。

そんなアスナの気持ちが分からず、ケイは首を傾げて疑問符を浮かべる。

 

 

「えっと…。ケイ君は、私が鍛冶屋の場所を教えたら今すぐにでも行く気…だよね?」

 

 

「そりゃな。まだ時間も早いし、メンテが終わった頃はもう攻略は出来ないだろうけど…、熟練度上げする時間はあるだろうし」

 

 

アスナがケイに問いかけてくる。その問いかけにケイが答えると、何故かアスナは口籠ってしまった。

 

 

(…何だ?)

 

 

煮え切らないアスナの態度にケイの中でさらに疑問符が増えていく。

そんな中で、アスナは何かの決意を秘めた目をケイに向けて口を開いた。

 

 

「ケイ君!」

 

 

「はい?」

 

 

「明日、私と一緒に鍛冶屋に行こ!?」

 

 

「…はい?」

 

 

突然のアスナからの誘い。アスナはじっ、とケイの目から視線を離さない。

ケイはアスナの視線を合わせたまま、ゆっくりと口を開く。

 

 

「あの、さ。俺、今すぐにでも行くつもりなんだけど…ていうか、行きたいんだけど…」

 

 

「知ってる」

 

 

「知って…、ならさ、何で明日なんだ?アスナが着いてくる意味も分かんないけど…、それはいいや。何で明日?」

 

 

「っ…」

 

 

まぁ、アスナが着いてくることに関してはいい。その理由は分からないが、その知り合いの鍛冶師に自分が粗相を働くかもしれないと不安に感じているとかそんなだろう。

 

…あれ?それ、滅茶苦茶失礼じゃね?

 

 

「ともかく!明日!明日、私と一緒に行く!いい!?」

 

 

「え…、いやいやいや!全くもって意味わからん!そしたら、今日の俺の予定は?色々と滅茶滅茶になるんだけど!?」

 

 

「明日。私と。行く。いい?」

 

 

「…はい」

 

 

アスナの強引な誘いに反論するケイだったが、結局はアスナに押し切られ、明日に行くという事で同意してしまう。

 

…何だろ、アスナの尻に敷かれてる感が半端じゃない。別に付き合ってるとかでもないのに。

 

 

「じゃあ、明日ね?ケイ君」

 

 

「ハイハイ、アシタアシター」

 

 

さっきと打って変わって、輝かんばかりの笑顔を浮かべたアスナがこちらに手を振りながら去っていく。ケイはそんなアスナの顔も見ずに手を振りながら適当に返事を返す。

 

だが、そんなケイの態度も気にならなかったのか、アスナは何も言わずに、それだけでなくご機嫌そうにスキップしながら帰っていく。…何なんだ、本当に。

 

 

「…村正で狩りに行くか」

 

 

手入れを済ませた武器で狩りに行くという予定を変更し、今から元使っていた刀での狩りへ向かう事にする。

 

 

「…はぁ」

 

 

ここまで予定が拗れたことにため息を吐くケイ。それと同時に、何故か予定が拗れた原因であるアスナにそこまで不快感を抱いていない自分に対して、疑問を抱いた。

 

ともあれ、以上の経緯でケイはアスナと一緒にアスナがお勧めする鍛冶屋に行く事になった。それからケイは昼食時まで適当に時間を潰し、昼食を取った後は夕刻まで狩りを行い、ホームへと帰った。

 

そして、次の日。アスナから届いたメッセージに書かれた、【四十八層主街区<リンダース>転移門前に九時集合】という言葉通り、ケイはリンダースの転移門広場へ来ていた。

しっかり、約束の時間通り、それも十分前に。ケイにしては珍しい時間に関しての常識に合った行動だ。

 

だが────

 

 

「遅い」

 

 

現在の時刻、九時半。そして人の往来を眺めながら一人立っているのはケイ。

そう。何と珍しい事に、いつもは遅刻するケイを叱るアスナが、未だここに来ていないのだ。

 

それも、遅刻する事すら珍しいというのに約束の時間から三十分も過ぎている。

 

 

(何かあったか?)

 

 

アスナに確認のメッセージを送るべきか、考え始める。遅刻だけならば、まだアスナでもそういう事はあるだろうと流すことができるが、さすがに三十分もなると心配になってくる。

 

 

(…よし)

 

 

少しの間考えてから、ケイはアスナにメッセージを送る事に決める。右手を振ってウィンドウを呼び出し、メッセージ作成欄を開いて文を打ち込む。

 

 

「ケイ君」

 

 

その時だった。メッセージを打ち込むケイの正面から呼ばれたのは。目の前に開いたウィンドウに集中していたせいで、正面に人が来ていた事にも気が付かなかった。

 

ケイを呼んだのはアスナだ。いや、ウィンドウのせいでその姿は確認できてないが、聞こえてきた声でわかる。ケイは開いていたウィンドウを全て閉じて、ようやく来たアスナに文句の一つでも言ってやろうと口を開く。

 

 

「あす…」

 

 

「お、遅れてごめんね?その…ちょっと…」

 

 

ケイの目の前には、両手を後ろで組み、爪先でとんとんと地面をつつきながら、気まずそうに視線を彷徨わせて言葉を濁すアスナがいた。ケイはそのアスナに遅刻に対する文句を口にしようとしたのだが…、アスナの格好を見た瞬間、言おうとした言葉が喉奥へと飲み込まれた。

 

今のアスナは血盟騎士団の制服姿ではない。今日は私用だからなのだろうか、これまで見た事のない外出用(?)の私服を身に着けている。

ピンクとグレーの細いストライプ柄のシャツに黒レザーのベストを重ね、ミニスカートもレースのフリルが着いた黒、脚には光沢のあるグレーのタイツ。おまけに靴はピンクのエナメルと、やけに気合の入った服装をしている気がする。

 

ケイには普通の女子のファッションセンスは分からない。現実で妹の司と出かける事もあったが、それ以外で女子と遊びに行くなどしたことはない。それに一年間全く司と会っていないせいか、どんな服を着ていたかも思い出せなくなっている。

ともかく、ケイは今のアスナの服装が女性の平均普段着であるのだと結論付けた。

 

 

「…どうしたの?」

 

 

「あ…、いや…」

 

 

すると、アスナが不思議そうに首を傾げながら問いかけてきた。どうやらこの思考を行っている間、無意識にアスナを見つめていたらしい。それを自覚した途端、何故か気恥ずかしくなってしまい、アスナから視線を逸らしてしまう。

 

 

(な、何て返せばいい?ここで何も言わないのは怪しまれる…)

 

 

「?」

 

 

アスナが鋭いのは周知の事実。今も、ケイが何かに葛藤している事を悟っただろうアスナがじっ、とケイを覗き込んでいる。

 

 

(…っ、そうだ!)

 

 

ここで、ケイはまだSAOに入る前。それこそいつだったかも思い出せないほど昔に、父に言われたある事を思い出した。

 

これなら…勝つる!

 

 

「その服、似合ってるなって思ってて」

 

 

「え!?え…、あ…。そ、そう…かな?」

 

 

ケイが服装を褒めると、アスナは弾けるように頬を真っ赤に染めて、先程のケイの様に恥ずかし気にこちらから視線を逸らす。完全に立場が入れ替わった。

 

 

(うん。現実で父さんに言われた通りにしたけど…、話も逸らせたしアスナも喜んでるっぽいし。良かった良かった)

 

 

『良いか、慶介。いつかお前も、女の子と二人でデートに行く機会が来る。その時は必ず、最初に相手の子の服装を褒めるんだぞ?それから────』

 

 

どうしてそんな話になったのかは覚えてないし、それから父が何て言ったのかも忘れてしまったが…。服装を褒めろと言っていた事は思い出せたのが幸いした。

まさか見惚れてたとはいえないだろう。それに、アスナも先程までの疑問を持った表情が消えて嬉しそうに笑みを浮かべている。

 

 

「え、えっと…。じゃあ、早速だけど…行こっか」

 

 

「あぁ、そうだな」

 

 

二人の間に広がっていた甘い雰囲気もそこまでにして、目的である鍛冶屋へと向かう事にする。

アスナが、こっちよと口にしてからケイの一歩前を歩き出し、ケイはその後をついていく。

 

<リンダース>は都会というほど賑やかな場所でもない。かといって、田舎というほどでもない。適度な賑やかさを保ちながらのどかさも持っている、ケイはこの場所が結構気に入っていた。

一時期、この街にあるプレイヤーホームを買おうとも思っていたのだが、その時には遅く、全ての物件が他のプレイヤーにとられていた。その時のケイの落胆ぶりは凄まじいものがあった。人生の中で最大級だったと今のケイは断言できる。

 

…先になったらどうなっているかわからないが。

 

 

「そういやさ、アスナはその剣、誰に研いでもらってんだ?…もしかしなくても」

 

 

「うん、そう。今から行く武具店の店主に担当してもらってる。それだけじゃなくて、この剣もその店主に作ってもらったんだよ」

 

 

「ほぉ~、それは期待できるな」

 

 

アスナの帯剣である、固有名<ランベントライト>。敏捷性と正確性を最大限に高めながら、耐久性もその他の剣とは一線を画している、押しも押されぬ名剣だ。

そんな剣を作れるようなプレイヤーだ。間違いなく、今のケイの刀を研ぐくらいは容易く熟してくれるだろう。

 

 

「ここだよ」

 

 

そんな事を考えながら歩いていると、アスナが立ち止まって口を開いた。

 

街の中央からは少し外れ、道のわきにある家の数が少なくなってきたエリア。アスナの視線を追うと、緩やかに回転する大きな水車が付いたホームがあった。どうやらそこが、アスナの知り合いという鍛冶師が経営している鍛冶屋らしい。

 

ケイとアスナは並んで歩き出し、店の扉まで行く。

 

 

(<リズベット武具店>…)

 

 

扉の上、屋根からかかった看板に書かれた文字を読むケイ。

 

そして────

 

 

「リズー!いるー!?」

 

 

「お、おい…」

 

 

大声で朝の挨拶をしながらバン!と勢いよく扉を開けるアスナ。

 

アスナが開けた扉から、店内の様子が見えた。

中はあまり広くない。だが明るい雰囲気を保っており、店内の印象は良い。

 

 

「あれ…。また工房かな?」

 

 

「おいアスナ、さすがに失礼じゃないのか?さっきも…」

 

 

「あ、大丈夫大丈夫!リズとは気心知れた友達だから!」

 

 

またアスナの口から出てきたリズという言葉。どうやらそのリズという人がこの店を経営している鍛冶師らしい。

 

 

(リズベット武具店…か。もしかして、プレイヤー名がリズベットだからそのまま店名に付けたとか?…さすがに単純か)

 

 

ずんずん店の奥へと入っていくアスナに続いて、ケイも店内へと入っていく。

開いた扉とアスナの体の隙間からではよくわからなかったが、店内には所狭しと商品の武具が飾られていた。

 

 

「…」

 

 

ケイはその内の一本、刀身が赤く塗られた刀を手に取る。

 

 

(…軽い。けど、敏捷や正確重視なのか、振りやすいな)

 

 

さすがマスタースミス、といったところか。ケイが望むほどの破壊力は耐久値はなさそうだが、かなり性能の高い業物だ。

 

 

(もう少し早くここを知ってたら、俺の刀を打ってもらってたかもな…)

 

 

ここの存在を今まで知らなかったことを後悔する、皮肉気味の笑みを浮かべながらケイは手に持った刀を元の場所に戻した。その時。

 

 

「リズー!おはよー!」

 

 

「きゃぁっ!?」

 

 

店の奥の扉。恐らく、工房へと繋がる扉を先程入り口の扉を開けた時の様に勢いよく開けるアスナ。直後、工房と思われるその中から女の子の悲鳴が聞こえてくる。

 

 

「ちょっとアスナ!あんたそれ何回目よ、もう!」

 

 

「あはは、ごめんなさーい」

 

 

「…」

 

 

快活そうな女の子の声。この武具店の店主は女の子らしい。

 

それにしても、その店主と思われる女の子と喋るアスナの声が明るい、明るすぎる。こんな楽しそうなアスナの声は久しぶり…いや、初めてかもしれない。

 

 

「あ、そうそう!今日はお客さんを連れてきたの」

 

 

「え?お客さん?」

 

 

(忘れてたのか?)

 

 

それから少しの間、工房にいる店主と話し込んでいたアスナだったが、そこでようやくケイの存在を思い出したらしい。工房から出てきたアスナが手招きしている姿が見える。

 

ちなみに、アスナが話し込んでいる間、ケイは店内に飾られていた武器や防具を眺めていた。

 

 

「あ…、いらっしゃいませ!リズベット武具店へようこそ!」

 

 

「あ、あぁ…。うん」

 

 

工房から出てきた店主の姿を見て、待ち合わせしていたアスナを見た時とはまた違った意味でケイは唖然とした。

 

鍛冶屋という事で、店主が女の子でも作業服を着ているんだろうなと勝手に想像していたケイ。だが、工房から出てきたのは作業服とはかけ離れた、カフェのウェイトレスさんが身に着けているような服装をした少女。

さらに、その髪の毛はピンク色に染められており…とても鍛冶屋を営んでいるようには見えない。

 

 

「…男?」

 

 

「え?…あぁ、うん。男だけど」

 

 

こちらの姿を見た瞬間、お辞儀をして挨拶をした店主。そして頭を上げて改めてケイの姿を見ると、目を丸くして呟いた。

 

 

(え?俺、女に見えた?…キリトみたいな女顔じゃないはずなんだが)

 

 

店主の言い様からどうやら自分は女の子と思われていたらしいが…。

その理由を考えていると、店主がアスナの耳元で何やら呟いている。

 

 

「ちょっとアスナ…。あんたが男連れて来るなんて…。あ、もしかして~…」

 

 

「ちょっ、リズ!」

 

 

「?」

 

 

距離が離れているせいで店主が何を言っているのかはケイには聞こえていない。だが、店主が何かを呟いた瞬間、アスナが頬を染めて軽く憤慨しているのは分かった。

 

店主は一体、何を言ったんだか。

 

 

「あはは、さっきのお返しよ!」

 

 

「もぉ~…」

 

 

「…」

 

 

アスナと店主の二人で繰り広げられるガールズトークにケイはついていく事ができない。

すると、黙って静かに待っているケイに気付いた店主がこちらを向く。

 

 

「あ、ご、ごめんなさい。私、リズベット武具店の店主、リズベットです。えっと…、アスナの紹介でここに来た…のかな?」

 

 

「あぁ。ちょっと、マスタースミスじゃないと頼めないらしくてね」

 

 

リズベット…。あぁ、あの単純な予想が当たっていたのか。

 

そんな胸中の呟きは言葉に出さず、ケイはリズベットに返事を返しながら腰に差してある刀を鞘ごと外して差し出す。

 

 

「これのメンテナンスをしてほしいんだ。知り合いの鍛冶師に頼んだら、マスタースミスじゃないとできないって言われちまって…」

 

 

「へぇ…。うわっ、重っ」

 

 

ケイが差し出した刀を両手で受け取ったリズベットが、目を見開きながら重いと口にする。確かに、通常の武器と比べれば、それこそ攻略組で使われている武器と比べても破格といえる要求筋力値を誇るこの刀。

このリズベットがどれだけレベルがあるのかはわからないが、鍛冶屋を営み、最前線で戦っていない以上、この刀を振り回す筋力値は持っていないだろう。

 

 

「どれどれ…。<天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)>…えっ、なにこれ!?魔剣クラスじゃない!」

 

 

「け、ケイ君!これ、どこで手に入れたの!?」

 

 

ケイから受け取った刀、<天叢雲剣>をテーブルに置いてから鑑定するリズベット。そして、その鑑定結果をリズベットの肩口から覗くアスナの二人が目を見開いて驚愕する。

さらにアスナが、この刀をどこで手に入れたのかを問い詰めてきた。

 

 

「えっと…。モンスタードロップで手に入れたんだけど…」

 

 

「…」

 

 

「…クエストボスのドロップ品です。一人で行きました」

 

 

色んな部分を端折って答えようとしたケイだったが、アスナの眼力には勝てませんでした。

 

 

「ハァ…。まぁ、ケイ君がそう簡単に死ぬなんて思ってないけど…。でも、心配なんだからね…?」

 

 

「…あぁ、大丈夫。無理はしないって」

 

 

確かに、この<天叢雲剣>を落としたクエストボスは強かったが、無理をしたという気持ちはこれっぽっちもなかった。だが、アスナが心配してくれるその気持ちは嬉しいし、無碍にするつもりもない。

 

 

「あぁ~、はいはい。ここは鍛冶屋ですよ~。お二人がイチャイチャする場じゃありませ~ん」

 

 

「い、イチャイチャなんてしてないわよ!」

 

 

待ち合わせ場所での時のような甘い雰囲気が広がり始めた時、リズベットのうんざりしたような声がその空気を打ち破った。

リズベットの言葉にアスナが反論するが、リズベットはそれを聞き流しながらケイの方を向く。

 

 

「これをメンテナンスしてほしいって事よね?喜んでお受けするわ。…て、言いたいところなんだけど」

 

 

「…何か不都合でもあるのか?」

 

 

リズベットの言い方から、もしかしたら、彼女でもこの剣を研ぐのは無理なのかという考えが頭をよぎる。そうなればまた、鍛冶師の探し直しだ。

アスナがまだマスタースミスの鍛冶師を知っていれば話は別だが、そんな虫の良い話があるわけがない。

 

 

「あぁ、別にこの刀を研ぐことはできるわよ?ただ…、ちょっと、メンテナンスが終わるまで時間がかかりそうなのよね」

 

 

「どういう意味?」

 

 

「今ね、私大手ギルドに集団で武器のメンテナンスを頼まれてるのよ。さっきも、その仕事をしてたってわけ。そのせいで…多分、二日三日はかかると思う」

 

 

「…なるほどね」

 

 

マスタースミスとなると、名前もそれなりに知れ渡ってるのだろう。その大手ギルドがどこなのかは知らないが、彼らもリズベットという名前を知って仕事を頼んでいるに違いない。

 

 

「…うん、それでも頼むわ。またマスタースミスを探す方が絶対に時間かかりそうだし」

 

 

「そう?…、まっ、それもそうよね。じゃあ、この刀のメンテナンスをお受けするわ。えっと…、三日後にまたここに来て。それまでに終わらしておくから」

 

 

「了解」

 

 

アスナの知り合いというのが利いているのか、店主と客の関係というよりどこか友人に対する言葉遣いで言葉を交わすケイとリズベット。

 

ともかく、これでケイの刀のメンテナンスの目途は完全についた。

 

 

「あ、それよりさリズベット。…あの工房に入る時のアスナ、いつもああなのか?」

 

 

「えぇ、そうなのよ。幸い、まだそのせいで失敗したーてことはないんだけどねー」

 

 

「…すいませんねぇ、うちのアスナが。ご迷惑をおかけして」

 

 

「いえいえ。お宅のアスナさんにはいつも得意にしてもらってますし。この程度の迷惑くらい、どうってことないですよ」

 

 

「ちょっと!?何その娘が迷惑をかけてるのを知った親と店の人みたいな会話!やめてよ!」

 

 

この時、ケイは察する。このリズベットという少女とは、仲良くできそうだと。

 

そして、彼女との会話で一番盛り上がる時は、二人でアスナをいじる時だろう、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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