SAO <少年が歩く道>   作:もう何も辛くない

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お久しぶりです。VSラフコフはまだまだ終わりませんよ。(苦笑)









第33話 覚悟を胸に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「らぁっ!」

 

 

先手を打ってきたのはジョニーブラックだった。同時に踏み出してきたジョニーブラックとザザだったが、先にケイの懐に潜り込んできたのはジョニーブラック。

 

ケイは手首を使って刀を小さく振い、ジョニーブラックが突き出してくるダガーを弾く。その際、ケイはジョニーブラックが握るダガーの刃に塗られている液体を目にする。間違いないとは思っていたが、やはり一撃喰らえば終わりだと考えて相違ない。

 

だが注意する相手はジョニーブラックだけではない。相手の初撃をあっさり凌いだケイだったが、後方からは間を置かずに、ジョニーブラックに続いて仕掛けてくるザザがいる。

 

首を回し、横目でザザの斬撃を見極める。ザザの狙いは…、やはりというべきか、ケイの顔面。ケイは首を傾けてザザが突き出すエストックの切っ先を避ける。さらに、ケイは右足をザザの方に踏み出し、胴体を狙って刀を一文字に振るう。

 

 

「…ちっ」

 

 

直後、ケイは刀のスイングを中断してその場から後退する。ケイが先程までいた場所を、短剣が横切っていく。短剣が通った方に目を向けると、そこには何かを投じた体勢で腕を伸ばすジョニーブラックの姿。

 

 

(さっきのも、あいつか…!)

 

 

先程ケイが目にした短剣は、キバオウに止めを刺した毒付き短剣と同一の物だった。つまり…、キバオウを殺した奴は、そういう事になる。

 

 

「っ…」

 

 

ケイの口の中から、歯を噛み締める音が聞こえてきたのは気のせいか。

 

足下から土が跳ねる。それと同時に、ケイは駆けだし、一瞬にして距離を詰める。

その行先はもちろんというべきか…、ジョニーブラック。

 

 

「うぉっ!?」

 

 

仮面の中でジョニーブラックの目が瞠り、その口から驚愕の声が漏れる。

 

ケイは刀を一文字に振るう、が、後方に下がられかわされてしまう。だが、そこで離されはしない。ケイは一度刀を鞘に戻しながら、なおもジョニーブラックに密着する。

 

 

「こんのっ…!邪魔だ!」

 

 

どれだけ動いても距離が離れないケイに、短剣を振るうジョニーブラック。

 

短剣三連撃ソードスキル<シャドウ・ステッチ>。打撃系のスキルのため、塗られている毒の効果はないが、スキル自体に高確率で相手に与える麻痺効果が付与されている。クリーンヒットを受ければ、ほぼ確実にケイの動きは囚われる。

 

だが、ケイの目はぶれることなく短剣の切っ先を捉えていた。速さで相手を翻弄する短剣のスキルの動きを、ケイの目は捉えていた。

 

刀ソードスキル<辻風>。刀カテゴリの中で、攻撃の出が最も速いソードスキルを放ち、ケイは短剣を弾く。

 

 

「っ!?」

 

 

ジョニーブラックの手から短剣が離れる事はなかった。だが、彼の腕が大きく弾かれ、ソードスキルは強制解除される。それにより、ジョニーブラックには大幅な硬直時間が訪れる。

 

殺った

 

ケイは心の中で確信していた。ここでスキルを使わなくとも、奴の首を飛ばせばHPは消滅するはず。だが、ケイの振るう刃はジョニーブラックの首を捉える────寸前で横やりを入れられてしまう。

 

ケイとジョニーブラックの交戦を今まで傍観していたザザが、ケイの背後からエストックを突き出す。ケイはすぐさま振り返ってエストックを刀で防ぐと、背後を取られる形になったジョニーブラックを警戒してすぐさま二人から距離を取る。

 

 

「くっそ…!ムカつくほど速ぇぞ糞が!」

 

 

「まるで、ぶんぶんうるさい、ハエみたいにな」

 

 

「…」

 

 

挑発には耳を貸さない。ただ、眼前にいる敵に集中するのみ。

 

刀を鞘に収めて、<抜刀術>の使用に備える。先程のジョニーブラックとの交戦で分かった。スピードは確実にこちらが上。それに、奴の武器が短剣である限り、力比べもこちらに分がある。

 

完全にこちらが有利だ。スピードもこちらが上な以上、次の交錯で<抜刀術>を交えれば確実に殺せる。

 

問題は、その後のザザだが…

 

 

「っ」

 

 

そこでケイは思考を切る。目の前の二人が左右に分かれて駆けだし、二方向からケイに向かって襲い掛かる。

 

<抜刀術>の使用を思考から外す。それをするにしても、まずはどちらかを引き離して、一対一に持ち込んでからだ。ケイは刀を抜いて二つの斬撃に備える。

 

 

「ふっ────」

 

 

一歩前に出て、斬りかかってきたのはザザ。突き出されるエストックを体を翻してかわし、ザザの視界の外から刀を振るおうとする。

 

 

「もらったぁ!!」

 

 

「誰がっ」

 

 

ケイがスイングのモーションを見せた瞬間、ジョニーブラックが短剣で斬りかかる。だが、先程のモーションはケイが張った罠。背後から斬りかかってくるジョニーブラックに振り返って、ケイは拳を固めて腕を伸ばす。

 

体術スキル<光拳>

淡い青のライトエフェクトを纏ったケイの拳が、ジョニーブラックの短剣とぶつかり合う。ソードスキルのシステムアシストが効いている限りは、ダメージ以外の付与効果は受けない仕様になっている。

 

その僅かな時間をケイは利用する。今、ジョニーブラックは武器を押さえられている形になっている。この隙に、首を狙う────

 

 

「!」

 

 

ところで、ジョニーブラックの唇が吊り上がる。さらにケイの背後で、ザザがエストックを左薙ぎに振るっている。その先にあるのは、ケイ自身の首。

 

罠に嵌められたのはケイの方だったのだ。ジョニーブラックに大きな殺意を持っていた事を、二人は気づいていた。そして、そのケイの殺意を利用して罠に嵌めた。

 

ケイが冷静だったならば、それを悟って避けることができていただろう。だが、先程までのケイは殺意を抱き、傍からは冷静に見えたのだろうが、内心では決してそうではなかった。

 

ほんの少しの差ではあったが、その差が奴らに決定的なチャンスを与えてしまった。

 

 

「終わり、だ」

 

 

「あばよ、幻影!」

 

 

ザザとジョニーブラックが、確信を込めてケイに向かって言い放つ。これで終わりだと。これで詰みだ、と。確かに、ケイにとって危険な状況だというのは事実だ。だが…、ここで終わりだというのは、心外だ。

 

ケイの口元がニヤリと歪む。

 

握る手に力を込めて、腕の動きを止めるケイ。そしてケイは刀を握ってない方の拳でジョニーブラックの顔面を殴りつけて吹き飛ばす。

その後、手に持つ刀をザザが振るうエストック目掛けて振り下ろす。ここでジョニーブラックを仕留めるのを諦め、防御に徹した行動だが…、それでも間に合うかは微妙なタイミング。

 

ザザのエストックが、ケイの刀とぶつかるよりも先に首元に命中する。

 

 

「ケイ君!!」

 

 

「っ、なっ」

 

 

首に小さな赤いライトエフェクトが刻まれた瞬間、ケイを呼ぶ声が響き渡った。その直後、驚愕の声と同時にザザがケイの首からエストックを離し、あらぬ方向へとエストックを振るう。

 

ガキン、と金属音。ザザの眼前には、純白のレイピアをザザに向かって突き出す、アスナの姿があった。

 

 

「ちっ…。閃光」

 

 

「ケイ君、大丈夫!?」

 

 

邪魔さえ入らなければ決まっていたはずの攻撃を遮られたザザが、アスナを忌々し気に睨み付ける。アスナは、そんなザザの視線を物ともせず、背後に立っているケイを見遣って気遣う。

 

だが、ケイはアスナに返事を返すことができなかった。

 

 

「…ケイ君?」

 

 

黙ったままのケイが気になったのか、もう一度アスナが呼んでくる。だが、ケイは口を動かさない。

 

 

(俺は…、何をしてきた?)

 

 

アスナによって戦闘に一呼吸置かれ、それによってケイを襲ったのはこれまでの行動に対する混乱だった。

 

怒りに任せて、自分は人を殺した。それも、二人。それに加えて、さらにもう二人を殺そうとしていた。

 

ここで、ケイに先程ジョニーブラックが放った言葉が心に刺さる。

 

 

『わからねぇのかぁ?お前は俺達と同類になったんだよ!人殺し野郎ぉ!!』

 

 

人殺し…。そうなのか?自分は、奴らと同類なのか?

思い出せ、俺はあいつらを殺した時に何を感じた?…まさか、喜びや充実を感じてたりしてたのか?

 

 

「ケイ君!」

 

 

「っ…、アスナ…」

 

 

ケイ自身の体感では、何秒にも何分にも感じた。頬に、温もりを感じる。

 

 

「見てたよ。だから、ケイ君が今、何を考えてるのか…わかる」

 

 

「…」

 

 

頬に感じる温もりの正体は、ケイの頬に触れるアスナの掌だった。アスナは、微笑みを浮かべながらケイの頬を撫でて続ける。

 

 

「だから…、ここからは任せて」

 

 

「なっ…」

 

 

アスナがケイの頬から手を離して、体の向きをザザとジョニーブラックがいる方へと変える。

 

 

「あすっ…」

 

 

ケイが呼び止める間もなかった。アスナがレイピアを握り締めて、殺人鬼二人に向かって駆け出していった。ケイが伸ばした手は、虚しく空を握るのみ。

 

ケイの目の前で、アスナが駆けていく。これまでの行為に恐怖し、動けない自分と違って、アスナは前に向かって駆けていく。

 

 

「ひゃははは!まじか!閃光が一人で来やがったぜ!」

 

 

「飛んで火に入る、夏の虫、だな」

 

 

向かってくるアスナに対して、当然ザザとジョニーブラックは臨戦態勢を取る。

 

アスナは武器を構える二人にも怯まず、レイピアの切っ先を向けながらなお走る速度を上げていく。

 

 

「らぁあああああああああああ!!!」

 

 

「はぁあああああああああああ!!!」

 

 

出てきたのはジョニーブラック。交錯する二人は、それぞれの武器を打ち合い固まる。

 

 

「ダメだアスナ!すぐに下がれ!」

 

 

「っ!」

 

 

「遅い」

 

 

ケイの時と同じ展開。ジョニーブラックが囮となって対象の動きを止め、ジョニーブラックに隠れて死角からザザが襲う。

 

ザザが相手の動きを鈍らせれば、ジョニーブラックが毒で捕らえる。これが、あの二人で戦う場合の基本戦略だ。ケイの場合は、かわし、あるいはアスナのおかげで回避できた。

 

だがアスナは、この連携を見るのが初めてだったせいか、目に見えて反応が遅れている。

ザザのエストックの先が迫る中、アスナが回避しようと体を翻すが…間に合うようには見えない。

 

 

「くそっ!」

 

 

ケイが刀をアスナとザザの間に割り込ませ、アスナに迫る刃を受け止める。

 

 

「邪魔するな、幻影」

 

 

「邪魔するに決まってんだろうが!これ以上、殺させてたまるか!」

 

 

腕を伸ばし、何とか届かせたという不安定な体勢のまま無理やり体を捻って力を加え、刀を振り切ってザザを飛び退かせる。それを見て、すぐにアスナの前に割り込んで再びザザ、ジョニーブラックと対峙する。

 

 

「アスナ、ここは俺がやる。だから、お前は全体への指示を優先しろ」

 

 

「ケイ君…」

 

 

ザザとジョニーブラックを見据えたまま、ケイが言う。

 

キバオウというリーダーが消えた今、実質アスナがこの場のリーダーといって差し支えない。

こんな前線にいてはならないのだ。アスナは後方で他のプレイヤーをサポートしながら、全体の状況を見極めて判断を降さなければならない。

 

そう、ケイは考えていた。が────

 

 

「ごめんね」

 

 

「は?…いてっ」

 

 

突然の謝罪の意味を問う暇も無く、ケイは後頭部に衝撃を受けた。特に痛みなどは感じないのだが…、不意な出来事に思わず言葉が漏れてしまった。

 

 

「な、何すんだ!?」

 

 

振り返って声を荒げるケイ。当然だ。この状況で、アスナは何を考えているのか。

ケイにはこれっぽっちもわからなかった。

 

 

「さっきも言ったよ。ケイ君の考えてること、わかるって。だからこそ、この場をケイ君に任せる訳にはいかない」

 

 

息を呑むケイの目を、アスナはまっすぐ見つめる。

 

 

「私たちは、殺しに来たんじゃないんだよ?」

 

 

「っ────」

 

 

全部、全部、アスナには見透かされていた。自分が二人を殺そうとしていた事も。その理由が、何なのかも。全部。

 

 

「キバオウは駄目だったけど…、他の奴らは何とか間に合ったよ」

 

 

背後からアスナとは違う、今度は少年の声が聞こえてきた。その声の主が誰なのか、見ずともケイはすぐにわかる。

 

 

「キリト」

 

 

「とりあえず、お前は下がれ。正直、アスナみたいにお前の気持ちはわかるとは言えないけど…、けど、少なくとも今のお前に戦わせちゃいけないってことくらいはわかる」

 

 

キリトは言いながらケイの一歩前に出て、剣…ケイが授けた<エリュシデータ>を握って身構える。その直後、アスナが何も言わず、ケイの前に出てキリトの隣でレイピアを構える。

 

 

「黒の剣士、か。次から次へと」

 

 

「良いじゃねぇかよ!どんどん獲物が増えてくのはよぉ!!」

 

 

攻略組トッププレイヤーすらをも、獲物と評する奴らの心の狂気はどれほどのものなのか。

それを考えると同時、ケイの中で怒りが再燃する。

 

 

(…これだから、こいつらに駄目出しされんだよな)

 

 

だが、すぐに怒りの炎を鎮めるべく深く息を吐く。少しずつ、内心の火が消えていくのを感じながら、ケイは口を開く。

 

 

「じゃ、任せる。…同類には、なりたくないから」

 

 

「うん、任されました」

 

 

「すぐに終わらせて、勝利の報告届けてやるよ」

 

 

アスナとキリトの返事の言葉から、今、二人がどんな表情をしているか読み取れる。きっと、アスナは微笑んで…キリトは悪戯っぽい笑みでも浮かべてるんだろう。うん、わかる。

 

そんな二人の表情を頭の中で思い浮かべて、思わずケイは噴き出してしまう。

 

 

「近くにサチ達がいる。合流してくれ」

 

 

「あぁ、わかった」

 

 

ケイがアスナとキリト、ザザとジョニーブラックに背を向けると、再び背後からキリトの声が届く。その声に短く返事を返してから、ケイは駆けだした。

 

 

「なっ!幻影、逃げんのか!?」

 

 

「逃がさない」

 

 

駆けだすケイの背中を見て、すぐさまジョニーブラックとザザが追いかけようとする。

 

 

「待てよ。あんたらの相手は…」

 

 

「私達だから」

 

 

しかし、二人の前には黒の剣士と白の閃光が立ちはだかる。二人はケイを追いかけるのを止め、前に立ちはだかる二人に意識を集中させて対峙する。

 

 

「ちっ…。しゃあねぇ。まずはお前らから殺す!」

 

 

「黒の剣士、閃光。…死ね」

 

 

それぞれがそれぞれの得物を向かい側にいる相手に向ける。

 

直後、四つの軌跡が一瞬にして距離を詰め、交錯した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ケイさん!こっちです!」

 

 

手を振るケイタの姿を見つけたのは、駆け出してからすぐの事だった。ケイは、軍のメンバーを安全地帯へと連れて行った月夜の黒猫団と合流し、一息つく。

 

 

「…」

 

 

刀を鞘に戻し、すぐにこれから自分がするべきことを決めてから地面に座り込む軍のプレイヤー達を見下ろす。

 

 

「…すまなかった」

 

 

「え?」

 

 

突然のケイの謝罪に、呆けた声を漏らしたのはキバオウの一番傍にいたプレイヤーだった。頭から顔の鼻から上を覆う兜のせいで目は見えないが、間違いなくケイを見上げているだろう。

 

 

「キバオウは俺を庇って死んだ。…俺が殺したようなものだ」

 

 

ケイの言葉に誰も返事を返すことができない。

 

言おうとはしているのだ。お前のせいじゃない、と。だが、何かの覚悟を秘めるケイの眸を目にすると、その言葉は喉の奥へと仕舞い込まれてしまう。

 

 

「ど、どこに行くの?ダメだよ、ケイ君は…」

 

 

「ありがと、サチ。けど、行かなきゃいけない。復讐なんかじゃない。この戦いを終わらせるために、どの道誰かが行かなきゃいけない」

 

 

終わりの見えないこの戦いを、終わらせるために。ケイは、ラフコフプレイヤー達が多くなだれ込んでくる方へ目を向ける。

そっちに、あいつがいるはずだ。この戦いを起こした…、ラフィンコフィンの…いや、全ての犯罪行為が起こる発端となった男が。

 

 

「全部、片づけてくる」

 

 

ケイはそう一言呟いてから、視線を向けた方へと足を踏み出し、飛び出していった。

背後からかけられる制止の声を振り切って、戦いの決着をつけるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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