SAO <少年が歩く道>   作:もう何も辛くない

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第25話 VSキリト

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然現れたモンスター、<破壊の王の牙>との戦闘を終えたケイ達は、当初の予定だったレベリングを中断し、昼食を食べた時に使った安全圏へと入っていた。それぞれが武器をしまい、アイテムでHPの回復を図る。

 

 

「で、こいつは何なんだ。ケイ」

 

 

「近い。近いから離れろキリト」

 

 

ケイもまた、ポーションを飲んでいると、キリトが眼前まで詰め寄りながら問いかけてきた。あまりの近さに、ケイは軽く顔を引きながら掌をキリトの額に当てて押し離す。

 

キリトが問いかけてきたのは、先程の戦闘でケイが投げ渡したあの黒い剣の事だ。今、その剣はキリトの両腕で抱えられており、切っ先が日の光を受けて輝いている。

 

 

「五十層ボスのLAボーナスだよ。片手直剣カテゴリ、<エリュシデータ>」

 

 

「エリュシ…データ」

 

 

「俺が使ってる武器と違うカテゴリってのもあって、ストレージに仕舞ったままになってたんだよ。ただ、お前もわかってると思うけど、要求筋力値がバカ高い」

 

 

「…あぁ。一応さっき試してみたけど、装備できなかったよ」

 

 

キリトに渡した剣、エリュシデータについて、今わかっている事を説明するケイ。

そして、キリトは安全圏に入ってからエリュシデータを装備できるか試したようだが、やはりできなかったらしい。それは、今キリトが剣を両手で抱えている様子を見て容易にわかる事なのだが。

 

 

「けどこれ、モンスタードロップなんだよな?…魔剣クラスの性能だぞ」

 

 

「あぁ。俺が片手剣使いだったら、死に物狂いでレベリングしてたわ」

 

 

悔やむはこのエリュシデータが<片手直剣>のカテゴリだった事だ。もしエリュシデータが、<刀>だったら…嬉々としてフィールドに出て、周りの目も気にせずMob狩りに徹していただろう。

 

 

「インゴットにして、新しい武器作ろうとしてたんだけど…、剣として役に立ったみたいで俺としても嬉しいよ」

 

 

「なっ…!あ、いや…、うん。ありがとな、これ渡してくれて。助かった」

 

 

ケイがそう言うと、突然キリトが目を丸くして、何かに焦る様に慌てふためいた。だがすぐに表情を戻し、取り直してケイにお礼を言いながらエリュシデータを返すために差し出した。

 

…キリトが何を思っているのか、正直バレバレだ。

 

 

「キリト君…。その剣、欲しいなって思ってるでしょ」

 

 

「え!?い、いや、そんな事は…」

 

 

「キリト、顔にこの剣欲しいです!て、書いてあるよ」

 

 

「…」

 

 

どうやらキリトの気持ちがわかっていたのはケイだけではなかったようで。アスナとサチが、キリトをからかうように声を掛け、その後ろではケイタ達がにやにやと面白げな笑みを浮かべながらキリトを眺めている。

 

内心が筒抜けになっていた事にようやく気が付いたキリトは、口を閉じて黙り込んでしまう。

 

 

「…」

 

 

そこで、ふとケイはある事を思いつく。キリトをからかうこの流れに乗りながら、キリトと会ってからこれまで、心のどこかでハッキリさせたかった、ある事を。

 

 

「なぁキリト。この剣、欲しいか?」

 

 

「ぐっ…。ほ、欲しい、です」

 

 

どこか悔し気に歯を噛み締めながらケイの問いかけに答えるキリト。それを見て、ケイの唇が弧を描く。

 

 

「なら、俺に勝て」

 

 

「…は?」

 

 

「<デュエル>でお前が勝ったら、その剣はお前のもの。逆に、俺が勝ったら予定通りにその剣はインゴットにする。…どうだ?」

 

 

キリトだけではない。この場にいる全員がケイの言葉に呆気にとられる。

 

 

「…本当に良いのか?その剣はお前が手に入れたものなんだ。それを────」

 

 

「気にすんな。俺がそうしたいってだけなんだから。それに…、俺、お前と闘ってみたいって前から思ってたんだよ」

 

 

「…」

 

 

ニヤリ、と笑みを向け合う二人。互いが、同じ事を考えていたのだと理解する。

 

SAOには、<PvP>が実装されている。つまり、プレイヤー対プレイヤーで闘う事も可能なのだ。さらに、プレイヤー同士の戦闘を安全に行うためのシステムも搭載されている。

 

 

「ルールは初撃決着。あと、お前は武器がないからNPCの店で買った物を使う。俺も、条件を平等にするために店で買ったのを使う。これでどうだ?」

 

 

「別にお前の相棒を使ったっていいんだぜ?」

 

 

「バーカ。あっさり勝っちまったらつまんねーだろ」

 

 

「ちょっ、ちょっと待って!何を勝手に決めてるのよ!?」

 

 

戦闘が始まる前から牽制し合うケイとキリトの間に、割り込む一人の人物。アスナが二人を見回しながら問いかけてきた。

 

 

「大体、場所はどこにするの?そんなすぐにデュエルができる場所なんて…」

 

 

「この時間帯なら、アルゲートの転移門前広場でできるだろ。フィールドに出てるプレイヤー多いだろうし」

 

 

「…」

 

 

何かもう、何を言っても無駄なのでは、と悟ったアスナがため息を吐きながら呆れの視線を二人に向ける。が、そんなアスナの視線を知ってか知らずか、二人は視線をぶつけて火花を散らしている。

 

 

「あ、あのぉ…。やっぱり、デュエルすることになったんですか…?」

 

 

「もう二人はその気みたいよ。…はぁ。もう好きにさせましょう」

 

 

三人のやり取りを眺めていたサチが、アスナに歩み寄って問いかけた。アスナはため息交じりにサチの問いかけに答えてから、未だ視線をぶつけ合うケイとキリトを見遣る。

 

 

「ごめんなさい。ケイ君が勝手しちゃって…、レベリング、ここまでになりそうだね」

 

 

「い、いや!それだったら、うちのキリトもですし…。こちらこそ、折角アスナさんに来てもらったのに…ごめんなさい」

 

 

アスナがケイタにお辞儀しながら謝罪し、ケイタもまた両手を横に振りながら、アスナに謝り返す。

 

そして、アスナとケイタが、サチ達ギルドのメンバーが、もう一度ケイとキリトに視線を向ける。彼らは、同時に大きくため息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

午後からのレベリングの再開もせず、ケイ達はアルゲートへとやって来ていた。目的は勿論、ケイとキリトの二人の間で勝手に決めたデュエルを行うためである。ケイとキリトは、武器屋にて大体同程度の得物を購入してから、転移門前の広場で対峙していた。

 

 

「さっきも言ったが、ルールは初撃決着モードでいいな」

 

 

「あぁ」

 

 

初撃決着モードとは、どちらかが強攻撃を当てる、またはどちらかのHPが半分を下回った時点で決闘が決着するというルール。デュエルを行う場合、ほとんどがこのルールが用いられている。

 

キリトとデュエルのルールを確認し合ってから、ケイはウィンドウを操作し、キリトを対象にデュエルの申し込みのメッセージを飛ばす。直後、キリトの眼前でケイからデュエルの申し込みがされたことを報せるフォントが浮かぶ。

 

<Yes>か<No>か、答えを求めるフォントを見て、キリトは人差し指で<Yes>の欄をタップする。

 

すると、二人の間でデュエル開始までのカウントダウンが行われる。残り、六十秒。

 

 

「えっと…、本当に大丈夫なのかな?」

 

 

「初撃決着モードだから、どちらかが死ぬって事はないわ」

 

 

対峙し、得物を握って構える二人の姿を見ながら、未だ戸惑いを見せるケイタがぽつりと呟く。そのケイタの呟きに、アスナが呆れ混じりの声で答えた。

 

残り、三十秒。

 

 

「なぁ。サチはどっちが勝つと思う?」

 

 

「えっ?えっと…、わ、わからないかな…。キリトが強いのは知ってるけど、ケイさんだって強いって評判だし…」

 

 

「俺はケイさんかな?レベリングで一緒に戦ったけど…、あの人が負けるところは正直想像つかねぇよ…」

 

 

「なら、俺はキリトで!」

 

 

二人が素知らぬ所でデュエルの勝者がどちらになるかを賭け始める面々。さらに、広場を歩いていたプレイヤー達も、ケイとキリトの間で行われているカウントダウンに気付き、野次馬となって二人を囲んで見物し始める。

 

 

「おいおい。あれって<黒の剣士>だろ?それにあいつは<幻影>じゃねぇか!」

 

 

「何だよ…、あの二人、これからデュエルするのか?」

 

 

残り、十秒。

 

 

「…あの剣を賭けてデュエルした事、後悔させてやる」

 

 

「へぇ…。そりゃ楽しみだ」

 

 

小さく声を掛け合う、ケイとキリト。その直後────カウントが零となり、デュエル開始を報せるウィンドウがでかでかと表示された。

 

その瞬間、ケイとキリトは同時に、勢いよく互いに向かって飛び出していった。

 

 

「「しっ────」」

 

 

同時に振るわれた二人の剣が、中央で甲高い金属音を上げながらぶつかり合う。スキルなどは使用していない、純粋な二人の力がぶつかり合う。

 

 

「…っ!」

 

 

ぶつかり合った刃が音を立てながら、ケイの方へと少しずつ押し込まれていく。レベルから言えばこちらの方が上なのだが…、筋力値だけはキリトの方が上だ。

 

 

(やっぱ、力比べは敵わない…か!)

 

 

ケイは手首を捻り、刃を回転させる。直後、障害を失ったキリトの剣がケイに向かって勢いよく振るわれる。

 

 

「────っ」

 

 

ケイは上体を逸らして、キリトの斬撃を回避。目の前、状態のすぐ上をキリトの剣が横切ったことを確認してから、ケイは後方へと倒れていく勢いに逆らわずに、両手を地面についてバック宙を繰り返してキリトから距離を取る。

 

両足で踏ん張り、距離を取るのを止めると、その直後。ケイが距離を取ろうとしている間にも距離を詰めてきていたキリトが迫る。さらに、キリトが握る剣がライトエフェクトを帯びている。

 

 

「ちぃっ!」

 

 

キリトがこちらに剣を突き出しながら加速する。このソードスキルは、片手直剣突進技スキルの<ソニックリープ>。何もせず止まっていれば、このスキルを一撃受けるだけで決闘が終了してしまうだろう。

 

通常のソードスキルでは間に合わない。すぐさま判断を下したケイは一度、刀を鞘へと戻し、直後にライトエフェクトを帯びた刃を抜き放つ。

 

<抜刀術>からのソードスキル<雷鳴>。横薙ぎに振るったケイの刃は、突き出されるキリトの剣の腹を捉え、<ソニックリープ>の軌道をずらす。キリトは剣を振り切った体勢で止まるケイのすぐ横を通り過ぎていき、スキルが止まった直後に振り返る。

 

 

「…厄介なスキルだ」

 

 

「使う気はなかったんだけどな。初っ端から判断ミスしたせいで、これがなかったら詰んでたところだった」

 

 

ケイが言った判断ミスとは、決闘開始直後に行った力比べ。あれのせいでケイは体勢を崩すこととなり、<抜刀術>がなければ呆気なくやられていた所まで追い詰められていた。

 

 

「ま、もう使わねぇよ。…これ使わざるを得ない所まで追い詰められるのは、もうないだろうしな」

 

 

「…言ってろ!」

 

 

ケイの挑発に乗ったか、それとも乗らずか。キリトは再びケイに向かって突っ込んでくる。ケイは先程の様に迎え撃ちに行く事はせず、キリトがこちらまで来るのを刀を構えて待つ。

 

キリトが振るう剣を、鍔迫り合いにならないように注意しながら弾く。時折、連撃数が少なく、なお硬直時間が短いソードスキルを交えながらケイとキリトは剣戟を打ち合う。その中では、通常ではあり得ないプレイングも披露され、周りの観客がその度に沸き、歓声が上がる。

 

しかしその間でも二人のHPは僅かだが、それでも確実に減っていた。下手な防御には入らない。互いに攻め続ける結果が、確かにHPバーで表れていた。

 

 

「ぜぇいぁあっ!」

 

 

「ふっ!」

 

 

キリトの放つ重単発スキル<ヴォ―パルストライク>を、デュエル序盤で<ソニックリープ>を弾いた時と同じ要領で、ケイは<雷鳴>でキリトの剣の腹を捉えて弾く。さらにケイはスキル硬直時間が解けたと同時にステップ、一瞬にしてキリトの背後を取る。

 

 

「っ!」

 

 

だがキリトの反応も速い。ケイがキリトの背目掛けて振り下ろす刀を、剣を横に倒し、腹に手を添えて衝撃に耐えられるように備え、防ぎ切る。

 

 

「はぁっ!」

 

 

「くっ…!」

 

 

筋力値に関してはキリトの方が上。キリトはぶつかり合った刀を力一杯押し切ってケイを押し退ける。

 

僅かに体勢が崩れたケイだったが、キリトの追撃が来る前に整える。その直後に、キリトの振り下ろしを後方へステップを取って回避する。

 

 

「ぜぇ…ぜぇ…。はぁっ」

 

 

「はぁ…はぁ…。ふぅ」

 

 

距離が空いてから、ケイとキリトは乱れた息を整えてから視線をぶつけ合う。互いの頭上に示されるHPは、あと少しで注意域に迫る。このまま、これまでのように剣戟をぶつけ合っても、どちらが勝者か、決着が着くだろうが…。

 

 

(それじゃ、つまんねぇよな)

 

 

ケイは一度目を閉じてから、瞼を開けてキリトの目を見据える。

それだけで、悟る。キリトもまた、自分と同じ思いでいるのだと。

 

刀を構え、腰だめに溜める。キリトもまた、剣を構えてこちらを見据えている。

 

それは、デュエル開始時と全く同じ光景だった。ケイとキリトは同時に飛び出し、互いに剣をぶつけるために振るう。しかし、そこからはデュエル開始時とは別の光景が繰り広げられることとなる。

 

二人の刃が、それぞれ違う色のライトエフェクトで染められたのだ。

 

それぞれが持つ、最強クラスのソードスキルがぶつかり合う。

 

刀五連撃奥義技<散華>

片手剣六連撃奥義技<ファントムレイブ>

 

互いが持つ全ての力を振り絞り、刃を切り結ぶ。

 

一、二、三。このデュエルの中で一番、大きな金属音が響き渡る。二人の戦いに魅了され、何度も歓声を上げていた観客は、すでに静まり返っていた。二人の間に流れる緊迫感が、観客達にも伝わっていた。

 

独特の空気が流れる空間で、ケイとキリトは最後の技のぶつけ合いの、四度目の切り結びを行う。

 

 

(ここ────)

 

 

所で、ケイは体を横に傾ける。脳だけでなく、体全体で、システムアシストに抗いスキルの継続を無理やり遅らせる。

 

 

「っ!?」

 

 

ケイの視界に、目を見開いて驚愕の表情を浮かべているキリトの顔が入る。このまま剣をぶつけ合う未来を想像していたのだろうが…、ケイはそんなキリトの顔を見て小さく笑みを零した。

 

キリトの振るう剣が空を切る。そして、その直後。一瞬遅れて振るわれたケイの刃がキリトの身体を捉えた。

 

HPを削り切らないように配慮された一撃だが、それでもキリトのHPは簡単に注意域へと減らされていく。

 

スキルをまともに受けた事により、キリトのソードスキルは中断。そしてケイは残ったスキルの連撃をキリトに当てないよう、全く別方向に放って<散華>を終わらせる。

 

そして────

 

おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお

 

────立ってキリトを見下ろすケイと、座り込んでケイを見上げるキリトの間に、デュエルの決着と勝者を報せるウィンドウが表示された。

 

 

「…まけ、たのか」

 

 

「…」

 

 

ケイの顔から視線を外し、俯いたキリトが呆然と呟いている。ケイは、うつむいたままのキリトの視線に入る様に腕を伸ばし、手を差し伸べた。

 

 

「…強いな、ケイは。全然敵わなかった」

 

 

「いや、そんな事ねぇよ。何回やばいって思った事か…」

 

 

キリトがケイの手を掴み、ケイがキリトの腕を引き上げる。立ち上がったキリトがケイを賛辞する言葉を贈り、ケイもまた賛辞の言葉を返す。

 

 

「おーい、二人共ー!」

 

 

そこに、少し遠くから二人を呼ぶ声が聞こえてくる。振り向くと、そこには、アスナと月夜の黒猫団の面々がこちらに歩み寄ってくる姿があった。

 

 

「いや、凄かったぜ二人共!くぅ~!俺も早くあんな風に闘えるようになりたいぜ!」

 

 

「…あ」

 

 

興奮していたダッカーは、無意識にその言葉を口にしたのだろう。だが、その言葉はケイの中に突き刺さる。

 

 

「ケイ君?」

 

 

「…ごめん!レベリングほったらかしてこんなデュエルしちまった!」

 

 

「あ」

 

 

アスナが覗き込んできた直後、ケイはケイタ達に向かって頭を下げて謝罪する。キリトとのデュエルが楽しすぎてすっかり忘れてしまっていた。今日、自分が何のために彼らと行動していたのかを。

 

そして、キリトのデュエルのためにその目的をほったらかしにしてしまっていた事を。

 

キリトもまたケイと同じように思い出したのか、微妙に顔色を悪くしている。

 

 

「あ、いや。気にしないでよ。午前中だけでも十分すぎるほど経験値貯まってたし、それに…二人の凄いデュエルも見れたし」

 

 

謝罪するケイに、手を横に振りながら大丈夫だと伝えるケイタ。しかし、それではケイの気も済まない。何しろ、ギルドの予定を自分勝手に狂わせてしまったのだから。

 

ケイタを見る限り、本当に気にしていなさそうではあるが…、と、ここでケイは思いつく。

 

 

「お詫びに、この剣を上げよう」

 

 

「え?…こ、これって」

 

 

ケイはアイテムストレージからある物を取り出し、ケイタに手渡した。そのある物とは、デュエルの賞品として賭けていた、<エリュシデータ>。

 

 

「それをどうするのかはギルドで決めていい。これは、完全に月夜の黒猫団の物だ」

 

 

「い、いや、でも…」

 

 

「でさ、この後の事なんだけど、どうする?またレベリングに行くか?」

 

 

ケイタの言葉を遮って、ケイは違う話題に切り替えて問いかけた。このままではいたちごっこになりそうだったので、無理やり話題を変えようとしたのだが、その効果はケイタに通用したようだった。

 

 

「あ…。僕達はまたレベリングに行こうと思ってます。ケイさんとアスナさんが手伝ってくれるんですから…、な?」

 

 

ケイタが振り返って、サチたちを見ながら問いかけた。サチたちは数瞬後に同時に頷く。

 

 

「…いえ、今日のレベリングはここまでにしましょう。予定外の戦闘で疲れてるだろうし、サチだって武器を壊されてるんだから」

 

 

すると、そのやり取りを見ていたアスナが口を開いた。ケイタにレベリングはこれで止めるように言う。

 

 

「そ、そんな!だけど…」

 

 

「私達に申し訳なく思ってる?それとも、もうこんな機会がないって勿体なく思ってる?…でも、そのために危険に遭うのはあなたの仲間達なのよ?」

 

 

「っ…」

 

 

アスナに食い下がろうとしたケイタだったが、続いてアスナが口にした言葉に口を噤み、俯いて黙り込んでしまう。

 

 

「…ケイタ、今日はここまでにしておこう」

 

 

「キリト…」

 

 

「アスナの言う通りだ。俺はまだ<体術>でどうにか対応できるが、サチは<体術>を習得してない。レベリングを強行すれば…、分かるよな」

 

 

続いてケイタに声を掛けたのはキリトだった。ケイタの肩をぽん、と叩きながら言うキリトに、ケイタはじっ、と目を向ける。

 

 

「…分かった。今日のレベリングはここまでにしよう。ケイさん、アスナさん。今日はありがとうございました」

 

 

早く攻略組に入りたいという焦りか、レベリングを強行しようとしていたケイタはすぐに折れ、リーダーとして正しい判断を下す。そして、ケイタはケイとアスナにお礼を言った。その表情には、どこか申し訳なささが浮かんでおり、さらにケイタの後ろにいるサチ達もまた、ケイタと同じ感情を表情に浮かべていた。

 

 

「いや、アクシデントはあったけど、こっちも楽しかったよ。だから、そんな顔すんな」

 

 

「右に同じく。…それと、今度は一緒に攻略に行こうね」

 

 

お礼を言ってきたケイタに、申し訳なさそうに見てくる月夜の黒猫団の面々に言葉を返すケイとアスナ達。

 

今日の合同レベリングはこれで終わりとなり、アルゲートの広場で解散となった。キリトはケイタ達と共に拠点へと戻っていき、そしてケイとアスナは────

 

 

「…で?アスナは本部に戻らないのか?」

 

 

「ん?ちょっと、ケイ君に聞きたいことがあって」

 

 

ケイとキリトのデュエルを見ていたプレイヤー達が去っていく広場で、言葉を交わす。

 

 

「ケイ君、デュエルに勝っても負けても、あの剣を上げるつもりだったでしょ」

 

 

「…そんなはずないだろ」

 

 

こちらを覗き込みながら問いかけてきたアスナから視線を外してそっぽを向き、ケイは顔を向けた方へと歩き出す。

 

 

「ねぇねぇケイ君、勿論今日じゃないけど、今度は私ともデュエルしてよ」

 

 

「嫌だ」

 

 

「え?な、何で?」

 

 

「アスナとデュエルすると疲れそう。アスナのスピード、ホントやばいから」

 

 

「ちょ、ちょっと!それを言うならケイ君だって速いでしょ!?」

 

 

「はっ!<閃光>のアスナに比べたら、まだまだですよー」

 

 

初めの質問に関してはすぐに引き下がったアスナだったが、デュエルの誘いに関しては中々引き下がってくれない。

 

結局、ケイが帰路に着けたのは、ギルドの召集のメッセージがアスナに届いた後の事だった。

 

ケイはホームに着くと、すぐさま外用の装備から家用の装備に着替えてベッドへと倒れ込む。この一日で色々とあったせいか、寝転んだ途端にケイの全身を一気に疲れが襲う。

 

そのまま、あっという間に、ケイは眠気に誘われ、目を閉じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回から原作番外編の話へといくと思います。

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