SAO <少年が歩く道>   作:もう何も辛くない

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戦闘自体はすぐに終わります。本題はその後…。










第21話 VS神仏の無限魔手後編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アスナ…、お前…」

 

 

「何をボーっとしてるの!早く、ケイ君は団長と一緒にボスを!」

 

 

背中越しに立つアスナに、ぽつりと呟くケイ。だが、すぐにアスナはケイに向かって一喝する。

 

 

「なっ…、ダメだ!こいつら、倒すごとにまた新しくポップする!一人じゃ…」

 

 

「一人じゃねぇよ!!」

 

 

突然沸いてきた取り巻きは、倒すごとに新たな取り巻きがポップする。ただでさえ同時にポップしてきた数が一人で相手にするのは辛く感じるほどだ。アスナ一人をその場に残すわけにはいかない、と考えていた。

 

その時、後方からまた新たなプレイヤーの声がケイの耳に届く。直後、黒の軌跡がケイの前を横切っていき、さらに続いて七人のプレイヤーがまるでケイを守る様に、周りを取り囲んで取り巻きと対峙する。

 

 

「お前ら…、何で…」

 

 

「へっ、お前ら二人だけに任せてられっかよ!」

 

 

「他の奴らは、みんな逃げちまったけどな」

 

 

呆然と目を見開き、問いかけるケイに視線を送りながら、こちらに駆け付けたプレイヤーの一人であるクラインとエギルが返す。

 

風林火山の面々とエギル。では、先程のあの黒い影は────

 

 

「俺達で取り巻きは喰い止める!だからお前は、ヒースクリフとボスを倒せ!」

 

 

取り巻きを打ち倒しながら、キリトがケイに呼びかけてくる。

 

ケイは呆然と目を見開いたまま、一度周りにいる全員を見回す。クラインに、風林火山のメンバー達。エギルに、キリト。そして背中越しにいるアスナ。自分たちを置いていかず、戻って来てくれた、この世界で一番大切な仲間たち。

 

 

「…すぐ終わらせてくる」

 

 

「…うん」

 

 

独り言のつもりで呟いたのだが、背中越しにいたアスナには聞こえてしまったようだ。呟いた直後、ボスの元へとかけるケイの耳に、小さく返事を返すアスナの声が聞こえてきた。

 

 

「…っ」

 

 

ヒースクリフは体勢を崩すことなく神仏の攻撃を防ぎ続けていた。しかし、取り巻きポップ以前の時と比べると神仏の攻撃は、明らかに熾烈さを増している。

 

 

「ヒースクリフ、しゃがめ!」

 

 

ケイは刀を鞘へしまうと、ヒースクリフに向かって叫ぶ。咄嗟の事にも関わらずケイの声に反応し、ヒースクリフはケイの言う通りにしゃがんで見せた。

 

彼の頭上を通り過ぎるは、神仏の片腕。その腕に向かって、ケイは鞘に収めていた刃を、抜き放つ。

 

抜き放たれた刃は、通常とは比べ物にならないほどの速さを以て突き出された神仏の腕を斬り落とす。放たれたスキルは、重単発スキル<雷鳴>。だが、その速さは先程ケイが放ったものよりも桁違いだった。

 

抜刀術。もしくは居合、居合術と呼ばれるそれは、刀を鞘に収めた状態から抜き放つ動作。抜刀術は、神速の一撃で相手を打ち倒すという働きもできるが、本来は相手の攻撃を受け流し、二の太刀で相手に止めを刺すという飽くまで繋ぎの剣術として使う者が多い。

 

だが、このソードアート・オンラインの世界での抜刀術は違った。

 

ケイがそのスキルを見つけたのは、第四十六層でのことだった。自分で決めた狩りのノルマを終え、安全圏でスキル熟練度の確認を行っていた時、それを見つけた。

 

<抜刀術>

何かから派生する、恐らく刀なのだろうが、そのエクストラスキルだと思われる。当初、刀のスキル熟練度をMAXに上げるのが解放条件では、と考えた。だが、クラインが刀の熟練度をMAXまで貯めたと聞いた時、それと同時に抜刀術の名前が出ない時点でそれはないと確定した。

 

ならば、何なのか。

 

ケイはこう考えている。

何故自分にそれが与えられたのかはわからないが、ヒースクリフの<神聖剣>と同じようにその人専用、解放条件不明の、ユニークスキルと呼ばれるものなのではないかと。

 

<抜刀術>の恩恵は、ソードスキルのスピードアップ。ソードスキルの初撃を納刀状態から行うと、自身が放ったスキルはシステムアシストを受けて通常よりも格段に速さが上がる。

 

 

「…今のは」

 

 

着地したケイの背後で、ぽつりとヒースクリフの呟きが聞こえてくる。その声には、珍しく驚愕が込められていた。

 

 

「俺は、あんたの<神聖剣>と同じ、ユニークスキルだと思っている。<抜刀術>、スキルの解放条件はわからん」

 

 

「…<抜刀術>、か。ふっ、君はまた、とんでもない物を隠し持っていたようだ」

 

 

笑みを浮かべながら、ヒースクリフがケイの隣に立つ。二人の視線の先には、所々ケイによって斬りおとされた分の腕が抜けながらも、それでも未だ無数ともいえる腕を広げる神仏の姿。

 

だがそのHPは、一本のバーのうち残り半分。

 

 

「次で決めよう」

 

 

「あぁ」

 

 

一言だけ。

 

ケイとヒースクリフは同時に神仏に向かって駆けだしていく。神仏は、全ての腕を同時に豚理に向かって突き出してくるが、ケイとヒースクリフには当たらない。

 

ヒースクリフはその絶対防御の盾で全てを受け流し。ケイは<抜刀術>の恩恵を受けた、なおかつスキル使用後の硬直時間が短いソードスキルを連続で使用して突き出される腕を切り裂いていく。

 

 

「GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」

 

 

あっという間に懐への侵入を許した神仏が、一人のプレイヤーを奪ったあの片腕をケイに向かって振り下ろす。

 

<抜刀術>というスキルは本来、技という物は存在しない。<抜刀術>というスキルは、飽くまでソードスキルの初撃に反応し、そこからスキル全体にシステムアシストによるスピードアップの恩恵を与えるのみなのだから。

 

だが、一つだけ。<抜刀術>には一つだけ、技が存在した。

 

 

「<瞬光>」

 

 

ケイの握る刀が、納刀する鞘を巻き込んで白く輝く。直後、神速と言う他表現しがたい斬撃が、ケイに向かって振り下ろされる破壊の鉄槌を切り裂いた。

 

 

「GI…GA…」

 

 

この時、状態異常を警戒して目だけは決して見上げなかったケイには分からなかったが、神仏の目は何かに驚愕するように大きく見開かれていた。

 

 

「はぁああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

「ぬぅん!」

 

 

ケイが放つは、<抜刀術>から繋いだ刀最強の九連撃ソードスキル<獄炎>。

ヒースクリフが放つは、<神聖剣>八連撃スキル<インヴィテーション>。

 

地獄の業火が神仏を焼き、死への誘いが神仏を襲う。

 

傍から見ればオーバーキル以外の何物でもない二人の攻撃は、当然神仏のHPを余すことなく減らす。

 

二人の頭上に浮かぶのは<Congratulation!!>と書かれたフォント。ほとんどのプレイヤーが逃げ出してしまった第五十層のボス戦は、最早たった二人によって倒されたと言って差し支えない展開で幕を閉じる事となった。

 

 

 

 

 

 

「で?何だよあのスキルはよ」

 

 

「…近い。離れろクライン」

 

 

剣を鞘へと戻し、ボスを倒すまで取り巻きを相手にしていたアスナ達の元へ戻っていったケイとヒースクリフだったが…。突然クラインがケイへと詰め寄り問いかけてきた。

 

いや近い、近すぎる。鼻と鼻がくっつきそうだ。ケイにそんな趣味はない。

 

 

「いや、だってよぉ!俺ぁあんなスキル見た事ねぇぞ!?」

 

 

ケイの言う通りに離れたクラインだったが、再び質問が投げかけられる。どうやら逃れる事は出来ないらしい。ケイは諦めを込めたため息を吐き出してから、そっと口を開く。

 

 

「エクストラスキル、<抜刀術>。効果は、ソードスキル全体の速度アップだ」

 

 

「「「「「おぉ~…」」」」」

 

 

スキルの名前と効果を説明すると、この場にいるプレイヤー達の歓声が漏れる。

 

 

「で、解放条件は!?」

 

 

「すまん、それがわからないんだ。ヒースクリフの<神聖剣>と同じだ」

 

 

「…ユニークスキルって事か。ちくしょー!俺も使ってみたかったぜ!こう、鞘からスパァーンと!」

 

 

クラインが<抜刀術>の解放条件を問いかけてきたが、ケイはそれについては全く分からない。その事を伝えると、クラインは本当に悔しそうに頭を掻いてから、先程のケイの真似をして、鞘から刀を抜き放つ仕草を何度も始める。

 

 

「けど…、良かった」

 

 

「ん?あぁ、そうだな。俺もボスを倒せて良かったよ」

 

 

「ううん、そうじゃなくて」

 

 

クラインが何度も<抜刀術>の真似をしている姿を眺めていると、アスナが歩み寄って声を掛けてくる。しかし、アスナの言葉の意味を勘違いしていたようで、ケイが言葉を返すとアスナはそっと頭を振る。

 

そして、花が咲かんばかりの笑顔を浮かべて、こう言った。

 

 

「ケイ君が無事で、本当に良かった」

 

 

「っっっっ!!!?」

 

 

現実で関わりがあった女の子など、妹の司くらいのもの。後は親の付き合いで少し紹介されてちょっと世間話をした程度。それくらいしか現実で女子との付き合いがなかったケイは、アスナが向けてくる笑顔を見て一気に顔を真っ赤にさせる。

 

 

「あぁそうだ!おいケイ!おめぇ、アスナさんとどういう関係なんだ!?見たところ、ただの知り合いじゃねぇだろ!」

 

 

「なっ、いや、知り合いだ!ただの知り合いだから!」

 

 

アスナの笑顔から目が離せないでいると、突然ケイの視界にクラインの顔が飛び出してくる。直後、顔の熱は一気に引く。だが、クラインの口から出てきた問いかけにケイの内心で僅かに焦りが奔る。

 

…アスナとのやり取りを話したら、クラインが発狂しそうだ。怖い。

 

 

「いや、ただの知り合いじゃ…」

 

 

「ねぇだろ」

 

 

「キリトォ!エギルゥ!貴様らぁ!!」

 

 

何とか誤魔化そうとする矢先、突然の裏切り。二人に一喝するも時すでに遅し。ふと気付けば、何かに飢えた様な、恐怖さえ感じさせる空気を醸し出す風林火山の面々にケイは囲まれていた。

 

 

「さぁ答えろケイ…。さっさと吐いた方が楽になるぞぉ?」

 

 

「え…、いや、ホントに何もないぞ?ほ、ホントだぞ?」

 

 

「何もねぇならなおさら話せるよなぁ?…ナァ?」

 

 

怖い。怖すぎる。クラインに…、いや、人間からここまで恐怖を感じたのがこれが初めてだ。

ケイは身震いする。これが…、これが、本当のクラインの力なのか…?

 

 

「いや、ただ出会いに飢えてる中年男の執念だろ」

 

 

「エギル、しぃーっ」

 

 

エギルとキリトが何か言っているが、そんな事に構っていられない。ケイは何としてもこの包囲から抜け出さなくてはならない。それを成せなかった場合…、待つのは死だ。

 

だがどうする?本当の事を話せばそれは簡単だが…、そうなった場合、逆上されるという事も考えられる。…どうする、どうすればいい?

 

 

「…何やってるんだか」

 

 

と、そんな下らないやり取りをするケイ達を呆れた様子でため息を吐きながら眺めるのはアスナ。それでも、どこか嬉しそうに笑みの形を浮かべる唇は、果たして意識的にか、それとも無意識か。

 

 

「アスナ君」

 

 

「あ…、団長」

 

 

風林火山のメンバーたちに囲まれるケイを眺めていると、アスナは背後からヒースクリフに声を掛けられた。振り返り、姿勢を正して次のヒースクリフの言葉を待つ。

 

 

「私はこれから次の層のアクティベートをしに行く」

 

 

「わかりました。それなら私も…」

 

 

「いや、君は残りたまえ」

 

 

アクティベートをするというヒースクリフについていこうとしたアスナだったが、何故か断られてしまう。

 

 

「それと、君は三日間の休暇を与えよう」

 

 

「そ、そんな!どうしてですか!?」

 

 

さらに突然の休暇宣告。訳が分からず、アスナはヒースクリフに問いかける。

 

 

「…せっかく久しぶりに顔を合わせることができたのだ。積もる話があるだろう?」

 

 

「…ぁ」

 

 

不意にヒースクリフはアスナから視線を外す。その視線の先には…、未だ風林火山のメンバーに囲まれてあたふたするケイの姿が。

 

 

「もちろん、休暇を終えたらまた君には攻略に励んでもらう。だが…、君はここまで十分すぎるほど働いてくれた。たまには羽を伸ばすのもいいだろう」

 

 

「団長…」

 

 

ヒースクリフは、もう何も言うことなくボス部屋を、第五十一層へ繋がる扉を開き、潜っていく。

 

アスナはこれまで、ヒースクリフにケイの居場所を聞いたりしたこともあった。時に、感情が暴れてヒースクリフに愚痴を吐いた事もあった。だからかもしれない。アスナがどれだけ、ケイとまた言葉を交わすことを望んでいたか、彼はわかっていたのかもしれない。

 

 

「…」

 

 

アスナは、ヒースクリフが潜っていった扉に向けて頭を下げる。言葉には出さないが、けど、それだけで彼に感謝が通じるのではないか、そんな予感がして。

 

 

「…ケイ君!」

 

 

そして、顔を上げてすぐ、アスナはケイの方に顔を向けて呼ぶ。ケイが、ケイを囲んでいた風林火山のメンバー達が、彼らのやり取りを眺めていたキリトとエギルがアスナへと視線を向ける。

 

 

「今日この後、お話しできない?」

 

 

「え?」

 

 

唐突なアスナの言葉にケイの目が丸くなる。

 

 

「ケイ君がここまで何を経験してきたか聞きたい。それに、私もここまで何を経験してきたか、ケイ君に教えたい」

 

 

「…」

 

 

「…ダメ、かな?」

 

 

第三層で別れて、アスナはずっとケイの姿を探していた。時に姿を見つけた事はあったが、話をする間もなくケイはいなくなって。

 

当初はどうしてあんな事を言ったのか、それを問い質そうという一心だった。だけど今は…、ただケイの話を聞きたい。自分が、ケイと話をしたい。ただ、それしか自分の胸にはない。

 

 

「…そうだな。なら、最近知った凄く旨い肉を出す店があるんだけど…、そこに行くか。奢るよ」

 

 

「っ…!」

 

 

だから、ケイが頷いた時は嬉しいやら感激したやら、決して悪い感情ではないものの、よくわからない感情が全身を奔った。笑みが零れ、油断をすれば目から涙さえ出てきそうな。そんな思いにアスナは襲われた。

 

 

「ぃよっしゃぁ!じゃあこれから皆で宴会やろーぜ宴会!アインクラッド半分到達した祝いだぁ!奢るって言ってる奴もいることだしな!」

 

 

「は?」

 

 

「あ、なら俺も」

 

 

「俺も行くか。ケイの奢りで」

 

 

「いや待て、別にお前らがついてくるのはいい。けど何でお前らの分まで俺が奢る流れになってる!?おい!」

 

 

ケイとアスナの話の約束は、いつの間にやら皆で宴会をやるという流れに変わってしまった。しかもその宴会の費用はケイが払うという流れになっており、ケイは必至にクラインやキリトに詰め寄って交渉している。…が、効果があるようには見えない。

 

 

「…?」

 

 

その時、アスナの中で一瞬、ちりっ、と苛立ちに似た感情が浮かぶ。すぐにその衝動は収まったが、その意味が分からずアスナは首を傾げる。

 

…だけど、まあいい。それよりも、今はまたケイと話せるという喜びに浸ろう。他のみんなに囲まれながら、になってしまったけれど。また、ケイと話せる。

 

 

「ほら行こ?ケイ君!」

 

 

「え…、あ、おいアスナ!引っ張るなって!」

 

 

結局宴会は決定事項となり、さらに費用は全てケイが払うことになったのだろう。立ち止まって項垂れていたケイの手を掴んで、アスナは走り出す。

 

後ろでケイが引っ張るなと喚いているが、無視。アスナはケイと手を繋いだまま、前を歩くキリト達を追い越して、アルゲートへと繋がる転移ポイントがある方へと駆ける。

 

 

 

 

 

もう二度と、会えないかもしれないと思った時もあった。もしかしたら、ケイは二度と自分と話したくないのかもしれないと考えた時もあった。

 

だけど今、自分はケイの隣にいる。あの時の様に、ケイと話すことができている。ボス討伐の達成感など、どこかに吹き飛んでしまった。今アスナの中にあるのは。ケイと再会できた喜びだけ。

 

こうして、決別した二人は、再び交わることになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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