SAO <少年が歩く道>   作:もう何も辛くない

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第15話 VSアステリオス・ザ・トーラスキング後編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チャクラムを人差し指で弄りながら、アステリオス王に視線を向けたままナーザがケイとアスナの立っている所に歩み寄ってくる。

 

アステリオス王から全く動く気配が感じられない中、ナーザは視線をケイとアスナに向け、ほっ、と安堵の笑みを漏らす。

 

 

「お二人が無事で、よかった…」

 

 

「ナーザ、お前…。あのクエストをクリアしたのか…」

 

 

「はい。…クエストをクリアしてから、アルゴさんと一緒に超特急で来ました」

 

 

「え、アルゴさんも来てるの?」

 

 

声を掛けてくるナーザと、ケイとアスナが言葉を交わす。最後にアスナがナーザに問いかける。だがその時、三人の前方で立ち止まっていたアステリオス王が雄叫びを上げる。

 

 

「ンモォオオオオオアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 

「っ、お二人は安全圏に!それ以外の皆さんは全力でバラン将軍をお願いします!!」

 

 

こちらに突っ込んでくるアステリオス王に向かって、再びナーザがチャクラムを放る。青いライトエフェクトを帯びながら、システムアシストにも導かれチャクラムはアステリオス王の冠に命中する。

 

直後、アステリオス王は先程と同じように動きを止めて、さらにHPを見てみるとケイやアスナの攻撃やソードスキルを喰らった時と比べて明らかに、大きくHPが減っている。

 

 

(アステリオス王の弱点は…、あの冠か!)

 

 

「王は…、俺が引き受けます!」

 

 

アステリオス王の弱点が冠だとしたら、ナーザが奴を引き受けるのがこれ以上ない程適任だ。さらに冠に命中すると、僅かながらアステリオス王に硬直時間が訪れている。

 

 

「アスナ、ここは一旦下がろう」

 

 

「…」

 

 

アスナもアステリオス王の弱点に気付いていたようだ。ケイの言葉に頷いて返し、ナーザを置いてアステリオス王から距離をとる。

 

 

「ンモ!」

 

 

「行かせませんよ!」

 

 

背中を向けて逃げるケイとアスナを目で追うアステリオス王。それに気付いたナーザがチャクラムで冠を攻め、再び動きを止める。アステリオス王は、ヘイトをケイ達から正面に立つナーザへと移行する。

 

 

「…大丈夫」

 

 

ボスの視線を受けたナーザが、一瞬体をびくりと震わせる。だが頭を振るい、一瞬過った恐怖を払ってアステリオス王を見据える。

 

 

「今の僕なら…!」

 

 

ケイとアスナはボス部屋の端で立ち止まり、互いのストレージからポーションを取り出し、口に含んでHPの回復を図っていた。

 

 

「!」

 

 

「きゃぁっ!…あ、アルゴさん!?」

 

 

アスナが口に含んだポーションを飲みこんだ直後だった。いつの間に近づいていたのか、一人のプレイヤーがアスナの背後から声を掛けてきた。ケイも気付いておらず、口に含んだポーションを飲みこみながら目を見開いて驚きを浮かべる。

 

声を掛けてきたのは、フードが取れてお髭の付いた顔が丸見えとなったアルゴだった。アルゴはアスナの肩に肘を乗せて、にししと悪戯っぽい笑みを浮かべながらケイとアスナを見回している。

 

 

「いやぁ、二人が無事で良かったヨ。…ボス部屋に入っていきなり、ピンチになってたのには焦ったけどサ」

 

 

疲労を隠しもせず、息を荒げながら壁に寄りかかるケイとアスナに苦笑を浮かべながらアルゴは言う。

 

 

「あー…、見られてたのか」

 

 

「あァ。オイラだけ先に来ちまってな…。どんだけナーザの到着が待ち遠しかった事カ…。まっ、面白いのも見えたけド」

 

 

どうやらあの場面を見られていたらしい。…こうして無事に済んで、後になって思い返すと恥ずかしい以外の何物でもないあの場面を。

 

 

「っ!」

 

 

「それにしても、アーちゃんがケイ坊に抱き付くなんてナー。…良い情報が手に入っタ」

 

 

「抱き付いてません!」

 

 

「やめれ」

 

 

アルゴの言葉にびくりと体を震わせ、頬を染めたアスナがさらに続いたアルゴの言葉に喰い付く。ケイもまた、苦笑を浮かべながらアルゴに止めるよう口にする。

 

 

(ああああああああああああ、もう!私、何であんなことしたの!?あの時わたし、どんな顔してたっけ!?)

 

 

ずるずると座り込んで頭を抱えるアスナ。その光景を見ていたケイが疑問符を浮かべながら首を傾げ、アルゴが本当に面白そうに爆笑する。

 

 

「おい二人共!回復済んだらこっちに来てくれ!」

 

 

「おっと…、そうだな。アスナ、そろそろ…」

 

 

キリトに声を掛けられ戦況を見ると、すでにバラン将軍の姿はなく…どうやらとっくに倒していたらしい。本隊はアステリオス王を囲み、後方からナーザがチャクラムでブレス攻撃を妨害している。理想的な戦況を展開していた。

 

HPもほとんど回復が済んでおり、ケイはアスナに戦場へ戻ろうと声を掛ける。

 

 

「やだっ!」

 

 

「え」

 

 

だが、アスナは座ったまま動かない。ケイから視線を外し、そっぽを向いたまま立とうとしない。

 

 

「あの、アスナ?いやさ、別に俺達が動かなくてもボスは倒せると思うけど…、このままじゃ危なそうな人もいるし…」

 

 

「…」

 

 

ケイはアスナの傍まで歩み寄ると、しゃがんでアスナと視線を合わせようとする。が、アスナはふいっ、と顔を動かして断じてケイと視線を合わせようとしない。

 

しかし、目こそ見えないもののアスナの頬は見える。その頬は、ケイから見ても明らかに…。

 

 

「なぁアスナ。何か顔赤くない?」

 

 

「っ!!?ふんっ!」

 

 

「ちょぉ!?何レイピア突き出してんですかぁ!?」

 

 

アスナの頬が染まっている事が気になり、声を掛けた直後、アスナのレイピアがケイの肩に向かって突き出される。何とか体を傾けて回避したが…、殺気の籠ったアスナの目がケイを射続ける。

 

 

「モオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 

「最後の一段も赤くなったぞ!前の二匹同様、猛攻に警戒しろ!」

 

 

アスナが一歩ずつこちらに歩み寄ってくる中、アステリオス王との交戦状況に大きな動きがあった。ナーザによってブレス攻撃という大きな武器を失ったアステリオス王は、最早バラン将軍にも劣る。クリティカルを受けてしまえばスタンするが、バラン将軍やナト大佐との行動パターンによく似ており、クリティカルを受けるプレイヤーはいない。

 

つまり、アステリオス王に対して警戒すべきなのは、HPが減ったことによって陥る暴走状態のみ。

 

 

「おいお二人さん!いつまでものんびりしてねぇで、そろそろ手ぇ貸してくれ!!」

 

 

「悪い、すぐ行く!ほら、アスナも」

 

 

「…」

 

 

アステリオス王の暴走によって起こる轟音の中から、エギルがケイとアスナを呼ぶ声が聞こえてくる。さすがにこれ以上はのんびりしてられないと、先程と違って迫真を込めた声でケイはアスナを呼ぶ。

 

まだ微妙に納得し切れていないようだが、アスナも頷いて立ち上がり、ケイに続いてアステリオス王との交戦地帯へと向かう。

 

 

「っ、ナーザさん!」

 

 

「ナーザ!そこから離れろ!」

 

 

ケイとアスナがアステリオス王に向かって駆けだした直後だった。アステリオス王が、何度もブレス攻撃を妨害したナーザに向かって突進を始めたのだ。壁隊の包囲を物ともしない。ダメージディーラーの攻撃に見向きもせず、ただナーザに向かっていく。

 

ナーザも、それ自体には気づいているのだろう。だが、動けない。ナーザはNFCで距離感が掴めない上に、恐らく今から逃げようとしてもレベルの関係上不可能だろう。

 

 

「ちっ!アスナ、まずはナーザを…」

 

 

ケイがアスナを連れてナーザを助けに行こうとした、その時だった。アステリオス王がナーザに向かって拳を振り下ろした、その時だった。ナーザの前に、五人の人影が躍り出る。ナーザの前に立った五人は、大きな盾を掲げ、ナーザに向かって振り下ろされるアステリオス王の拳を押さえ、受け止める。

 

 

「レジェンドブレイブス…!」

 

 

その人影が誰かを悟った瞬間、アスナが小声で呟いた。ナーザを守ったのは、同じ英雄の名を持つ集団、レジェンドブレイブスだった。

 

ずがん、と耳障りな轟音が響き渡り、レジェンドブレイブスとアステリオス王との力比べが始まる。

 

 

「っ、まずい!アスナ、急ぐぞ!」

 

 

「えぇ!」

 

 

アスナもどうやら気付いていたらしい。アステリオス王の攻撃を受け止めたオルランドの盾に、ひびが入っていた事に。

 

ケイとアスナはナーザを守り、アステリオス王の拳の連打を防ぎ続けるレジェンドブレイブスに向かって駆けだそうとした。だがその瞬間、レジェンドブレイブスのさらに前に立ちはだかる三人のプレイヤーが現れる。

 

 

「き、貴卿ら…!まだ回復が…」

 

 

「へっ、あんたらのガッツに当てられちまってな…。いいから手伝わせろよ!」

 

 

レジェンドブレイブスの前で、同じようにアステリオス王の攻撃を押さえるのはキリトを除いたH隊、エギル達。レジェンドブレイブスとエギル達の力が合わさり、アステリオス王の攻撃は全て完全に防がれる。

 

 

「ぬ、ははっ!ここにいるのは本当の勇者ばかりだな…!ならば…、押し返すぞっ!」

 

 

「「「「「おぉっっっ!!!」」」」」

 

 

さらに、オルランドの声を合図に一斉にアステリオス王の拳を押し返す。

 

 

「モ!!?」

 

 

アステリオス王の身体は一斉に加えられた力によって大きく仰け反り、体勢が崩れる。それを確認したオルランドが、ケイとアスナの方に振り向いて口を開く。

 

 

「ファントム殿!」

 

 

オルランドに言われなくとも、わかってる。ケイとアスナが、体勢を崩したアステリオス王に向かって疾駆する。

 

 

「遅れるなよ!」

 

 

「あなたこそね!」

 

 

互いに憎まれ口を叩きながら、互いの獲物を握り締め、ライトエフェクトを灯らせる。アステリオス王の足下から、二人が同時に跳躍する。そこから、二人は空中で、全く同じタイミングで加速する。

 

ケイの放ったスキルは、曲刀単発突進スキル<フェル・クレセント>、アスナが放ったスキルは、細剣単発突進スキル<シューティングスター>。

 

空中で突進スキルを放った二人は、こちらを見下ろすアステリオス王の冠に向かって一直線に突っ込んでいく。

 

 

「モオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!」

 

 

二つのソードスキルが同時に命中した直後、アステリオス王の苦悶の叫びが響き渡る。ケイとアスナはアステリオス王のすぐ横を通り過ぎると、背後で着地する。

 

 

「おっしゃ!一斉攻撃で止め刺すでぇ!!」

 

 

アステリオス王のHPは残り僅か。それを見たキバオウが、リンドもまたパーティーメンバーに一斉攻撃の指示を出す。しかし、ケイとアスナはそれよりも早く動き出す影を見て…苦笑を浮かべた。

 

 

「まーたお前が掻っ攫ってくのかよ…」

 

 

プレイヤー達の間を縫って行き、アステリオス王へと迫る影、キリトが放つ。<ソニックリープ>がアステリオス王へと命中し、残り僅かだったHPを完全に消滅させる。

 

直後、アステリオス王の動きはぴたりと止まり、ポリゴン片となって散らばり、消えていく。

 

プレイヤー達の視線の先には、<Congratulations!>と書かれたフォント。

 

ある者はそのフォントを呆然と見つめ、ある者は俯いて拳を握りしめる。

 

それぞれ違った仕草を見せるものの、両腕を振るい、喜びの雄叫びを上げたタイミングだけは同じだった。

 

 

「「…」」

 

 

ボス部屋にいるプレイヤー達が雄叫びを上げる中、ケイとアスナは互いの目を見合わせる。そして同時に、笑みを浮かべると、口を開いた。

 

 

「「お疲れ(さま)」」

 

 

獲物を鞘へとしまい、掌をぱちん、と合わせる。

それは、第一層のボス戦ではできなかった、ボス討伐を称え合うハイタッチだった。

 

 

 

 

 

 

「勝った…、犠牲者もゼロ…。っ、完全勝利だぁーっ!!」

 

 

両拳を振り上げて喜びを露わにするリンド。リンドと共に討伐隊をまとめ続けたキバオウもまた、同じパーティーメンバーと喜びを分かち合う。

 

共に戦ったエギル達やレジェンドブレイブスの面々からも笑みが零れている。

 

そして、ラストアタックを掠め取っていったキリトはというと…。

 

 

「お前は!また!LAをとっていきやがって!」

 

 

「ちょっ、ちょっ、やめろ!HPが減る!減っちゃうって!」

 

 

「…そういえばあなた、ナト大佐のLAもとってなかった?まさかバラン将軍のLAも…」

 

 

「びくっ」

 

 

「びくって自分でいう奴初めて見たぞ…。てかお前ぇ!」

 

 

「ひぃっ!?お、落ち着いてくれ!落ち着いてください!」

 

 

ケイの腕で首を絞められているキリトと、そんなキリトを冷ややかな目で見るアスナ。

それもこれも、キリトがLAを、ボス戦で出てきた三体とも全てを取っていったからだ。

 

勿論、本気で怒っているわけではないが…悔しさは誤魔化せなかった。ケイは後に語る。「反省はしてた。でも後悔はしなかった」と。

 

 

「皆さん…」

 

 

「…ナーザ」

 

 

戯れるケイ達に歩み寄り、声を掛けてきたのは、どこか儚げな笑みを浮かべたナーザ。ナーザは一度、ケイ達から大勢のプレイヤーに称賛されるレジェンドブレイブスを一瞥し…すぐに視線を切って拳を握った。

 

 

「皆さんのおかげで僕は…、やっと、なりたかったものになれました…。ありがとうございました!」

 

 

ナーザが腰を折って頭を下げ、お礼を言ってくる。

 

 

「や、やめろよ仰々しい」

 

 

ケイとアスナは目を丸くして頭を下げるナーザを見下ろし、ケイの拘束から抜け出たキリトがどこか照れくさそうに手をヒラヒラと振る。

 

 

「コングラチュレーション。また今回も、見事な働きだったな」

 

 

「エギル…。いや、お前らこそ、いなかったらこの戦いでボスを討伐するのは不可能だったよ」

 

 

頭を下げ続けるナーザを宥めていると、こちらに歩み寄ってきたエギルが称賛の声を掛けてきた。ケイはナーザから視線をエギルへと向けて、称賛の言葉を返す。

 

 

「…だけで、済ませたかったんだけどな」

 

 

「?」

 

 

だが次の瞬間、エギルの表情と声質が変わる。それによく見ると、エギルの背後には表情を険しくしてこちらを…ナーザを睨むプレイヤー達が立っていた。エギルはそんなプレイヤー達を連れてナーザの背後へと立ち、口を開く。

 

 

「あんた」

 

 

「っ…」

 

 

ナーザが頭を上げて、振り返ってエギルを見上げる。

 

 

「あんた、少し前まで鍛冶師だったな」

 

 

「…はい」

 

 

「何で戦闘職に転職した?そんなレア武器まで手に入れて…、鍛冶屋というのはどこまで儲かるのか?」

 

 

「っ!」

 

 

この会話でケイは悟った。戦闘中も疑問に思っていた、エギルのパーティーメンバーの欠員。そして、エギル達の装備の弱体化。それは、強化詐欺の被害に遭ったからなのだと。ようやく気付いた。

 

 

「あんた知らないだろ。あんたに強化を頼んだ剣が破壊されてから、俺達がどれだけ苦労したか…」

 

 

「やめろ。…別に恨み言を言いたいわけじゃないんだ。ただどうも、皆、俺と同じ経験をしているようなんでな」

 

 

ナーザに詰め寄ろうとするプレイヤーを宥めてから、エギルは続けた。

 

 

「そして、俺と同じ懸念を持っているようでな」

 

 

(まずい…)

 

 

ボス討伐に沸いていた空気が一気に冷えていき、そして懸念の矛先は全てボス討伐の立役者であるナーザに向けられる。

 

 

「き、聞いてくれ!このチャクラムは俺が────」

 

 

キリトもケイと同じ懸念に行きついたのだろう。

 

このままでは、ナーザの公開裁判が始まると。そして、もし死刑という事になれば…、と。

 

すぐにキリトはナーザを庇おうと行動した。だが…、ナーザ自身が、キリトの前に腕を伸ばしてその行動を止めた。

 

 

「いいんです、キリトさん。皆さんの、お察しの通りなんですから」

 

 

「っ!?」

 

 

キリトも、ケイも、ナーザが口にした言葉を耳にして目を見開く。

ナーザは顔を俯かせたかと思うと、膝を折って地面に着き、両掌を床に着いて頭を下げる。

 

 

「皆さんの武器をエンド品とすり替えて、騙し取りました」

 

 

「…それは金に換えたのか?」

 

 

「はい、全て。それに、換金した金は全て高級レストランの飲み食いとか、高級宿屋とかで残らず使ってしまいました」

 

 

「っ、ナーザ、何を…っ」

 

 

ナーザの謝罪を聞いた直後、ケイの内心で浮かんだのはバカなの一言だけだった。

 

高級レストランで使った?違うだろ。本当はお前は…、お前には、一緒に罪を背負わなければいけない人達がいるのに!

 

その憤りを言葉に乗せて吐こうとした時、アスナがケイの腕を掴む。

 

 

「アスナ…!?」

 

 

「…」

 

 

きっと、自分の目には何故!?という疑問がありありと浮かんでいただろう。だが、アスナは表情を変えず、エギル達に見下ろされるナーザに目を向けたままただ、頭を振るだけ。

 

 

「お…、お前ぇええええええええええええ!!!わかってんのか!?大事に育てた剣失くして、俺達がどんな思いしたのか!」

 

 

「俺だって…、もう前線に出られないと思って…。でも、仲間が必死にフォローしてくれて…迷惑かけまくってよ…!」

 

 

「それをお前!その金で飲み食いに使っただぁ!?宿屋で使っただぁ!?挙句に自分はレア武器使って、ボス戦でヒーロー気取りかよ!えぇ!?」

 

 

武器を失ったプレイヤー達の容赦ない罵声がナーザにかけられる。すると、ある一人のプレイヤーがナーザの胸倉を掴んで立ち上がらせ、両目から涙を流して口を開いた。

 

 

「俺はな…やっちゃだめだけどよぉ…!今すぐあんたをたたっ斬りたくてしょうがねぇんだ!」

 

 

「…わかります」

 

 

胸倉から片手を離し、腰の鞘の剣の柄に手をかけるプレイヤー。だが、そんなプレイヤーの前でナーザは言い放つ。

 

 

「覚悟の上です。怨みもしません。…どうか、お気の済むように」

 

 

ナーザが言った直後、プレイヤー達の怒りが爆発する。ナーザの胸倉を掴んでいたプレイヤーが、ナーザの身体を床へと叩き付ける。さらに、他のプレイヤー達も床に倒れたナーザを囲んでそれぞれの怒りの思いの丈をナーザにぶちまける。

 

そして、一人のプレイヤーが手にかけた鞘を掴み、剣を引き抜こうとして…。

 

 

「っ!」

 

 

さすがに限界だと察したケイが動き出そうとした、その時だった。

 

 

「待たれよ」

 

 

声が聞こえてきた方からは、何人かの足音が混ざって聞こえてくる。

 

 

(こ、こいつら…、何を…!)

 

 

ケイが視線を向けた先には、レジェンドブレイブスの面々が剣を抜いて、床に崩れるナーザに歩み寄っていた。

 

ケイには、彼らの真意が分からない。彼らはナーザを見捨てなかったのではないのか?ナーザの仲間ではなかったのか?

 

何故…、彼らは剣を抜いている?

 

 

「貴卿らが手を汚すには及ばん」

 

 

オルランドが告げる。

 

 

(まさか…、俺達の推理が間違ってたのか?こいつらは、本当は…!)

 

 

ケイの頭をよぎる。もしかしたら、レジェンドブレイブスは、ナーザを捨てごまにしか思っていなかったという可能性が。

 

 

「この者は我らの…いや」

 

 

「くっ…、何でだアスナ…!」

 

 

ちゃきっ、と剣を握り締めるオルランドに向かって駆けだそうとするケイ。だが、再びアスナがケイの腕を掴んで止める。

 

何でアスナはここまで頑なに介入を拒む?このままではまずい事になるのはわかるはずだ。

キリトもまた、エギルに止められている様だ。他の者も誰も止める様子は見られない。

 

リンドもキバオウも、ただ見ているだけしかしていない。

 

 

(これじゃあ────)

 

 

ケイが最悪の可能性を想像した、その時だった。

 

 

「こいつは、俺達の仲間です」

 

 

レジェンドブレイブスの面々が床に剣を、脱いだ兜を置いて、床で崩れるナーザの隣で一列に並び、膝を床に着け、ナーザと同じように手を付けて頭を下げた。

 

 

「こいつに強化詐欺をさせてたのは、俺達です」

 

 

そして、オルランドはそう口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回で第二層は終了です。

感想待ってますよー。

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