SAO <少年が歩く道>   作:もう何も辛くない

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第13話 VSバラン・ザ・ジェネラルトーラス&ナト・ザ・カーネルトーラス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当初は二本あったHPバーは、すでに一本が完全に削り取られ、残りは半分の一本となった。目の前の巨大なモンスター、ナト大佐が槌を振りかぶり、その手に握られている槌が黄色いライトエフェクトが迸る。

 

 

「パターンBだ!三連撃来るぞ!」

 

 

その予備動作を目にしたキリトが口を開き、大声を上げて指示を出す。ナト大佐はタゲを向けているエギルのパーティーにソードスキルを放つ。

 

しかし、ソードスキルはエギル達に全て凌がれ、ナト大佐はスキル後の硬直時間が訪れる。

 

 

「今だ!」

 

 

エギル達の間を縫い、キリトが、ケイとアスナがナト大佐の懐へと潜り込む。

 

ケイの二連撃ソードスキル<デュアルリーバー>、アスナの三連撃ソードスキル<トライリニア―>、キリトの二連撃ソードスキル<バーチカルアーク>がナト大佐の身体を切り裂く。

 

三人が放ったスキルが、ナト大佐の身体に赤い傷跡を残す。HPバーも三人のスキルによってがくんとイエローゾーンに達するほど減らす。

 

 

「…暴走モード突入、ケイ!アスナ!」

 

 

「わかってる!」

 

 

「っ…」

 

 

演出が入ったナト大佐を見たキリトがケイとアスナを見回して呼びかける。ケイとアスナはナト大佐に視線を向けたまま頷き、三人同時にナト大佐から距離をとる。

 

 

「スイッチ!」

 

 

「おぉ!」

 

 

キリトの合図と同時に前へと飛び出してきたのは、オルランド率いるレジェンドブレイブス。暴走モードに入ったナト大佐が振り下ろす槌を彼らは受け止め切り、命中すると起こるスタンを打ち消してしまう。

 

 

「あいつら…、形だけじゃないな。こりゃ負けてられないぞ、ファントム殿?」

 

 

「その呼び方やめて…。いやまぁ、こっちは全く問題はないな」

 

 

レジェンドブレイブスに押さえられているナト大佐を眺めていると、エギルが傍まで歩み寄り、話しかけてくる。ケイはそのエギルをじと目で見遣ってから、ため息を吐きながらナト大佐から視線を外す。

 

 

「あぁ。…問題は」

 

 

「…本隊の方ね」

 

 

ケイとエギルが視線を向けた先に、アスナとキリトもまた目を向けて、ケイの言葉を引き継ぐ。

 

彼らの視線を向けていたのは、バラン将軍と交戦する本隊が散らばっていた。

 

 

「か、回避ぃーっ!!」

 

 

リンドが指示を出す叫び声がこちらにまで届く。しかし彼の指示もむなしく、バラン将軍が繰り出す範囲ディレイ攻撃がバラン将軍を取り囲んでいたプレイヤー達を襲う。

ディレイ攻撃を受けたプレイヤー達はスタン状態となり、動けなくなる。

 

 

「お、おい!大丈夫か!?」

 

 

「す、すまねー…」

 

 

スタン状態で動けないプレイヤーを、攻撃を回避した、または範囲外にいたプレイヤー達がフォローする。

 

どうやら、ボス戦前にキリトが口にした最悪の事態、スタンの二重掛けという事態には陥っていないようだが、犠牲者が出ていないだけ。バラン将軍のHPはまだたった一本を減らしただけ。まだ二本目の大半を残している。

 

 

「くっ…、ちょっと行ってくる!撤退も頭に入れておいてくれって忠告出す!」

 

 

「あぁ…!」

 

 

キリトが、本隊の後方で指揮をしているリンドとキバオウに駆け寄っていく。ケイは走るキリトの背中を見送ってから、未だナト大佐と交戦するレジェンドブレイブスに目を向ける。

 

彼らはディレイ攻撃を喰らうことなく、順調にナト大佐のHPを減らしていく。HPは注意域へと至り、さらに勢いよく危険域へとがくりがくりとHPが減っていく。

 

 

「キリト君…。どうなったの?」

 

 

「あぁ…。後一度、ディレイ攻撃を受けてスタン状態に誰か一人でも陥れば撤退する。この基準で確定したよ」

 

 

「…そうか」

 

 

レジェンドブレイブスの戦いぶりを見守っていたケイ達に、戻ってきたキリトが近寄る。それに最初に気づいたアスナが問いかけ、キリトは話し合いで決まった撤退基準について説明する。

 

やはり、何だかんだであの二人は状況が見えていたのだろう。このまま戦闘を続けると恐らく犠牲者が出る可能性は高い。しかし、この戦いの間で使ったアイテムの損失も大きい。だがプレイヤーの命には代えられない。

 

プレイヤー達もタイミングは掴めてきているはず。本隊を見ているとわかるが、集中もできている。士気も高い。だから…、今すぐ撤退しないという二人の案をキリトは納得した。

 

 

「ともかく…、こっちはこっちのやることをやろう。向こうはあの二人に任せて大丈夫だ」

 

 

キリトのその言葉を皮切りに、ケイ達の意識はナト大佐に集中する。暴走モードのナト大佐の攻撃をレジェンドブレイブスが、エギル達が受け止め、スキル硬直時間が訪れたナト大佐にケイ達が攻撃を仕掛ける。

 

暴走モードに突入すると、ナト大佐の防御力は上がるようで、先程の様なペースでHPを削ることは出来なくなったが、それでもいよいよナト大佐のHPバーは危険域へ突入する。

 

 

「よーし、あと一息であるッ!必殺の…フォーメーションXだ!」

 

 

ナト大佐のHP残量を見たオルランドが指示を出すと、レジェンドブレイブスの面々がオルランドを中心に、X字の隊形をとる。

 

 

「…なぁアスナ。オルランドさん以外が、ただ何となくって感じでやってるように見えるのは俺だけ?」

 

 

「…安心して。私もだから」

 

 

やはりあの隊形にグダグダ感を覚えてるのはケイだけではなかったようだ。アスナが小さくため息を吐いたのが分かる。

 

 

「向こうも…残り一本。暴走モードに入った」

 

 

ナト大佐との戦いが大詰めとなった時、本隊の方の戦闘に動きがあった。バラン将軍のHPバーの二本目が消滅し、残り一本となった時。バラン将軍がナト大佐と同じように暴走モードへと突入したのだ。

 

バラン将軍がハンマーを折り、投げ捨てる。これは、攻略本に書かれた通りのバラン将軍の行動だった。

 

 

「どっちもベータの時と同じだ…。どうやらこの層では、ベータとの変更点はないらしいな」

 

 

キリトがほっ、と安堵の笑みを浮かべながら口にする。確かに、ここまで攻略本の情報との相違点は全くない。だから、キリトが安心する気持ちはよくわかるのだが…。

 

 

「なぁ、ブラッキーさんよ。俺には、どうも腑に落ちない点があるんだが…」

 

 

「ん?どうした、エギル?」

 

 

キリトの背後から声をかけるエギル。キリトは振り返り、ケイとアスナもエギルの方へと視線を向ける。

 

 

「第一層のボスは、<ロード>、だったよな?」

 

 

「?」

 

 

エギルの言葉を聞いて、キリトとアスナは首を傾げる。だが、ケイは…体をびくりと震わせ、目を見開いてエギルを見る。

 

 

「おいエギル…。まさか…」

 

 

ケイがそう、口にした瞬間だった。

 

バラン将軍とナト大佐、それぞれに注意を向けていたプレイヤー達が、全く目を向けていない場所。ボス部屋の中央が突如、円形に開かれていき、さらに空いた穴から何かがゆっくりと上がってくる。

 

中央から発せられる機械音にも似た震動音が響き、モンスターと交戦しているプレイヤー以外はその方向へと視線を向け…呆然と武器を落とす者まで現れる。

 

 

「どうして、<将軍>に格下げされたのか…。そう思ったんだが…」

 

 

「マジかよ…。こんなの…」

 

 

ケイは一筋の汗を垂らしながら、中央からせり上がってきた存在を睨み付け、唇を歪ませて笑みを浮かべる。

 

もう、笑うしかなかった。どこかで情報との相違点があるだろうと覚悟はしていたが…、まさか、新たな本ボスが現れるとは想像もしていなかった。

 

 

「マジで…。性格悪ぃよ、あんた…」

 

 

「<アステリオス・ザ・トーラスキング>…!?」

 

 

左手を胸に当て、右腕を広げて、まるで誰かが演出をしているような体勢で登場してきた、ナト大佐やバラン将軍をも超える背丈を誇るモンスター、<アステリオス・ザ・トーラスキング>。

 

ナト大佐やバラン将軍とは違い、肋骨が皮膚から浮き出ている所を見ると、恐らくそう硬くはないはず。だがその代わりというべきか、目を引くのは六本のHPバー。

 

 

「っ、まずい!本隊の退路が塞がれた!」

 

 

「ジーザス!挟み撃ちだ!」

 

 

ケイ達は、本ボスと思われたバラン将軍と交戦を行う本体からナト大佐の意識を外し、ナト大佐をボス部屋の端へと誘い込んでいたため影響はない。だが、バラン将軍が現れた場所でそのまま交戦していた本隊はそうはいかなかった。

 

中央に現れたアステリオス王とバラン将軍が二方向から本体を囲む。これで、撤退したくても彼らはできなくなってしまったのだ。

 

 

「私達で、あれの足止めを…!」

 

 

「いや!奴と本体との距離はまだある!まずは…取り巻きだ!」

 

 

アスナがレイピアを構え、ゆっくりと本体に近づいていくアステリオス王へと駆けだそうとするのをキリトが止める。キリトは振り返り、ナト大佐の方に視線を向けて大きく口を開く。

 

 

「G、H隊!総攻撃だ!防御不要!回避不要!攻撃あるのみ、ごり押しだ!」

 

 

駆けだしたキリトに続いて、ケイがアスナが、エギル達も続き、ナト大佐を囲んでいたレジェンドブレイブスと共に総攻撃を仕掛ける。

 

十二人それぞれのソードスキルがナト大佐に命中し、すでにほとんど減っていたHPはあっという間に尽き、最後のHPバーは消滅する。ケイ達はナト大佐がポリゴン片となり、四散していくところを見ることなく、驚愕に固まる本体との合流を図る。

 

 

「次っ、将軍を…!あれは!」

 

 

ケイ達が次に目指すのは、半分以上はHPが減っているバラン将軍の下。まずは、敵の数を減らすべきだ。バラン将軍を倒し、アステリオス王に集中しながら撤退を視野に入れて考慮すべきだ。

 

しかし、ケイ達が本体に向かって駆けだした瞬間、アステリオス王は奇妙な動作を始めた。大きく息を吸い込み、骨が浮き出るほど細い胸が膨らむ。

 

 

「まさか…!」

 

 

歯を食い縛り、目を見開くキリトが信じられない様子で口を開く。だが次の瞬間、アステリオス王の口から直線状の何かが吐き出された。

 

<遠隔攻撃>、通称ブレス。この攻撃は威力こそ打撃攻撃より小さいものの、大抵何らかの追加効果が加えられている。

 

このボス戦で、バラン将軍もナト大佐もスタン効果が加えられた攻撃を繰り出してきた。そこから、このブレス攻撃に加えられた効果は容易に想像できる。

 

 

「─────…!」

 

 

「止まるな!エギル達は麻痺者を安全圏に!」

 

 

ブレス攻撃を受けた大勢のプレイヤーがスタン状態になり倒れるという燦々たる光景を前に、立ち止まるエギル達とレジェンドブレイブスを鼓舞し、キリトはケイとアスナを伴ってなおも駆ける。

 

 

「ケイとアスナ、ブレイブスはこっちだ!俺達で、バラン将軍を討ち取る!」

 

 

キリトの指示を受けたエギル達は麻痺状態となったプレイヤーのフォローを行い、キリトとアスナ、レジェンドブレイブスはキリトと共にバラン将軍への一斉攻撃を行う。

 

多少のダメージは気にも留めず、ただバラン将軍のHPを早く削るためだけに動き続ける。

 

 

(だが、これじゃ…!)

 

 

バラン将軍のHPは、本隊と交戦していた時以上のペースで減り続けていた。だが、ケイは悟る。これでは、間に合わない。アステリオス王も混じり、大混戦となってしまう。

 

 

「っ!」

 

 

バラン将軍が大きく拳を振り下ろす。この動作は、暴走状態となった将軍がディレイ攻撃を行う合図。キリトとレジェンドブレイブスが駆けだし、バラン将軍が振り下ろす拳を受け止めてディレイ攻撃の妨害に成功。

 

だが、ケイは横目で見たアステリオス王の動作を見て大きく目を見開く。

 

それは、つい先程見たアステリオス王のブレス攻撃の予備動作。それを悟ったケイは、何かを考える前にアステリオス王に向かって駆けだした。

 

 

「ケイ君!?」

 

 

背後からアスナの戸惑いの声が聞こえてくるが、構わない。ケイは大きく息を吸い込むアステリオス王の足下へ着くと、すぐさま王の背後へと回り込む。

 

ケイはアステリオス王の動作をよく見ていた。ブレス攻撃を行う直前、アステリオス王は大きく体を前に倒す習性がある。その時の体勢ならば、背後からアステリオス王の足から上ることができる。

 

アステリオス王がブレスを吐き出そうと体を倒す。それによってできた、駆け上るための道に、ケイは足を踏み入れる。

 

 

(間に合え────)

 

 

踵、ひざ裏、腰から背中、そして…頭へと辿り着いた時、ケイはアステリオス王が被る冠に向けて渾身の単発ソードスキル<リーバー>を叩き込んだ。

 

 

「ン゛モオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!?」

 

 

頭上から受けた衝撃に寄り、アステリオス王の身体が大きく沈み込む。ケイはアステリオス王の頭から跳躍し、倒れ込む身体を両手を床について支える無様な王の前で着地した。

 

 

「ケイ君!何を…」

 

 

「アスナはキリト達と一緒にバラン将軍に集中しろ!」

 

 

ゆっくりと体を起こし、ギラギラと怒りに満ちた目でこちらを睨むアステリオス王を見据えながら、アスナに声を返す。

 

 

「…ずいぶんだらしねぇ王だな。だらだら涎流しやがって」

 

 

曲刀を構えながら、口から涎を流しながら雄叫びを上げるアステリオス王に冷ややかな視線を送りながら呟くケイ。直後、ケイにタゲを向けたアステリオス王が駆けだし、振りかぶった右腕をケイに向かって振り下ろす。

 

ケイはその場から左にステップして回避し、スキルを使うことはせず、素のままの刃でアステリオス王が振り下ろした右腕を切りつける。

 

 

「ンモ…」

 

 

「…HP自体は減ってるが」

 

 

まるで効かないよと言わんばかりに微笑むアステリオス王の顔は見ず、六本のHPバーを見上げるケイ。一本目のHPバーは減った様子は見られるのだが、何しろ六本分という多大なHPをアステリオス王は持っている。

 

 

(これは変に欲は持たないで、時間稼ぎだけに徹した方がいいな)

 

 

この直前まで、あわよくばと欲を持っていたケイだったが、そんな下らない欲は頭を振って打ち消す。だが、一人でボスを倒すことはできないが…、時間は稼いでやる。アスナ達がバラン将軍を倒し、こちらに来るまで、何としても耐えきってやる。

 

アステリオス王が、本当にこちらに狙いを付けているのか疑いたくなるほど我武者羅に両腕を振り下ろしてくる。その軌道をしっかり目で見て、着弾点を見極めながらケイは足を動かし、体を翻してアステリオス王の猛攻を回避し続ける。

 

 

(今度は…、同じ過ちを犯すものか…!)

 

 

脳裏に浮かぶのは、自分を庇って死んでいった騎士の顔。今度はもう、あんな犠牲者は出してなるものか。

 

ケイは胸に決意を刻みながら、アステリオス王から決して目を離さない──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




自分にとっての理想の文字数、5000~6000文字に収めることができました。次回も継続していきたいですね。

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