いろはす・あらかると   作:白猫の左手袋

4 / 24
2017年04月16日・いろはす生誕祭2017の記念SS。
実はこちらが第1弾。内容的には八→色です。




好きな人ができてしまった。

 

 好きな人ができた。

 いや、好きな人ならこれまで何度だってできた。幼稚園の頃、小学校の頃、中学校の頃、視界に入った見た目かわいい女子にすぐ惚れて、好きだと思って、告白したことだって何度もあった。

 けれどもそれは、今考えてみれば、恋と言えるものだったのかどうか自信がない。ただかわいいから好きだと思ってしまって、あるいはただ話しかけてくれたことで勘違いしてしまって。そんなもの、ただの未熟者の勘違いで、恋なんて言わないのではないか――と。

 だから俺は、以来ずっと気をつけてきた。

 勘違いしてはいけない。自意識過剰になるな。それは恋ではない。恋愛感情としての〝好き〟とは異なる感情だ――と。

 なのに、好きな人ができてしまった。

 俺なんかでは全然釣り合わないほどの美少女で、世界一かわいくて、あざとくて。

 手を伸ばそうにも、決して届くことがない場所にいて。

 あいつは葉山に気があるはずだから、俺なんて論外に決まっているのに。

 だから俺は、こんな気持ちはただの勘違いだと。妹を大切に思う気持ちと同類の感情でしかないと。心の中で、何度もそう否定してきたのだ。

 だが結局、好きになってしまった。

 中学時代の勘違いと似たような感情を、あの頃よりもずっとずっと強く確かに抱いてしまっている。これも勘違いなのか、それともこれこそが確固たる恋愛感情なのか、わからないけれども。

 とにかく、大好きなのだ。

 

 一色いろはのことが。

 

 不思議なもので、一度でも好きだと思ってしまうと、以降はもう否定しようとすればするほど一色いろはの存在を強く再認識させられ、更に大好きになってしまうのだ。なんなら世界で一番愛してるまである。今なら、一色いろはのかわいいところや大好きなところを二十四時間ぶっ続けで語れそう。誰かに聞かせたい、この熱く昂るいろはす愛!

 さて。

 となればやることは、ただひとつだ。

 告白である。

 タイミングがいいことに、一色の誕生日が来週日曜に迫っている。考えたのは、誕生日プレゼントとして良さげなものを用意して、渡すついでに告白しちゃおう作戦。当日はお休みだし、月曜は奉仕部で誕生日会があるから都合が悪く、念のため金曜を予備日として、少し早いが木曜日に実行しようという計画だ。

 めちゃくちゃ浅はかな考え方だろうが、どうせ振られるならば、いっそのこと捨て身の告白といこうじゃないかと思ったのだ。ばっさり振られてしまえば諦めもつくというもの。プレゼントも、要らないなら売っぱらってもらえばいい。

 というわけで、春休み中に久々のアルバイトをして、稼いだお金で奮発して、いんたーねっとさんを参考にあるものを用意した。

 モノがモノだけにドン引きされる可能性大だが、喜んでもらえたらいいなぁとちょっとだけ期待しつつ、忘れないようにカバンに収めておく。

 

 

               ×   ×   ×

 

 

 実行当日、昼休み。

 事前にちょろっと伺っておいたところ、一色は近頃いつも生徒会室でぼっち飯と洒落込んでいるらしい。俺にとってのベストプレイスが寒くてバッドプレイスと化しているうちに、一色は年中快適なベストプレイスを手に入れていたということで、なにそれずるい。俺もご一緒したい。

 何はともあれ、ならば好都合だ。昼休みのうちに生徒会室へ突撃して、高まるこの想いをあいつの薄い胸にぶつけてしまおう。

 昼飯のあま~い菓子パンをマックスコーヒーでぐぐっと流し込み、頃合いを見計らってカバンを引っ掴んで席を立つ。教室を出て廊下を進んで、生徒会室前へとやってきた。

 目の前に、こちらとあちらを分け隔つ扉。開ければそこに奴がいる。

 さながら、プレイ開始直後のはじまりの街がいきなりラスボス部屋だったようなもので、ゲームバランス崩壊なんてレベルじゃない。きっと俺は、即死することになるだろう。

 しかし不思議なことに、緊張といったような感覚はない。手もそれほど震えないし、心臓もそれほどバクバク鳴っていない。どうせ振られるとわかっているからこその落ち着き――とでもいうんだろうか。それとも、告白なんて行為は久しぶりのことだから、感覚でも麻痺しているのか。

 念のために一呼吸置いてから、こんこん、と扉をノックする。

 すぐさま「はーい」と間の抜けた声が聞こえ、続けてガラス窓の向こうに一色の姿がひょこっと現れた。あぁ、かわいい。

 

「あれ? 先輩、こんにちはー」

 

 扉を開けながらのご挨拶。

 ただ挨拶しているだけなのに、なんてかわいいんだ……。

 

「……うす。ちょっといいか?」

「はい、どぞどぞ」

 

 生徒会室を、それも昼休みに訪ねたことが珍しいからだろうか。不思議そうに首をくりっくりっとしきりに傾げながら、一色が俺を招き入れる。なにその仕草、超あざとかわいい。

 一色の横を通り抜けるようにして、奥へと進む。瞬間、ふわっとフレグランスやトリートメントの甘い香りが鼻に届いた。

 今日もいい匂いだなぁ……。なんで一色、こんなにいい匂いするんだろうなぁ……。一色と同じア スイのフレグランス使ったら、毎日好きなだけ一色の匂いを嗅げるのかなぁ……。

 これから告白しようって時に、なに変態なこと考えてるんだっつうね。けどしょうがないよね。俺、純粋な男の子だもん!

 

「それで、どうしたんですか? あっ、もしかしてー、わたしと一緒にお昼ごはん食べたくなっちゃいましたかー?」

 

 ピンク色カーディガンの萌え袖を口元に当て、くすくすといたずらっぽく一色は笑う。見れば机の上には小ぶりな弁当箱が置かれていて、中身はもう既に空だ。一緒に食べるも何も、こいつもう食い終わってるし……。

 あー、しっかしムカつくなーこいつのこういうところ。何がムカつくって、このいたずらっぽい笑顔もかわいすぎてムカつく。けどかわいいし一色だから無条件で許しちゃう。懐深い、さすが俺。

 

「生憎、俺も今日の昼飯はもう食っちまったんだが……、もしも俺が『これから毎日一緒に昼飯食ってくれ』とか返したらどうするんだ。食ってくれんの?」

 

 聞くと一色は、しばしぽけーと考えた後に、これまた誂うような笑顔で言う。

 

「ふふっ、そうですねー……。いっつもぼっちごはんの可哀想な先輩のために、わたしが腕によりをかけてお弁当作ってきてあげましょっか?」

 

 なにそれ、ぜひ宜しくお願いしますと口を大にして言いたい。が、ひとつ誤解があるようなので訂正したい。こればかりは譲れないのだ。

 

「俺は可哀想な存在じゃない。一人で率先してぼっち飯してるんだ。ていうか、お前だってここでぼっち飯してるだろ」

「わたしはここが落ち着くからなんとなくここで食べてるだけで、ぼっち飯してるつもりじゃないですしー。誰かと食べようと思えばクラスで男子が一緒に食べてくれますもん」

 

 つんと唇を尖らせて、心外だとアピールする。

 くっ、ゆるふわ隠れビッチめ。わたしは先輩と違ってモテますよアピールかよ。

 けどそれって、男子からはモテても、一緒に昼飯食ってくれる女子は一人も居ないってことですよね……。

 この様子だと例の生徒会役員選挙や先日のクラス替え以降も、学年内での『一色いろは』の立ち位置はあまり変化が起きていないのかもしれない。ていうか、一色ってあまり自分のこと語らんから、いじ――悪ノリが続いているのか解消したのかもわからんしな……。仮に一色へのアンチが解消したとしても、ヘイトを解消することは不可能だろうし。一度逆恨みして憎んだ相手を好きになれ、なんて簡単なことではないのだから。

 まあなんにせよ、限度を超えて一色を傷つけるような奴が今後現れたとしたら、俺がそいつをぶっ殺してやる。……あくまで社会的にね? 俺はよほどのことがない限り、暴力には頼らないよ?

 などと強く意思を固めたところで、感触を掴む意味でも、ためしに言ってみる。もし反応が悪いようなら、この後の告白も望み薄だろう。

 

「なら、仕方がないな。手作り弁当はさすがに悪いし遠慮しておくけど、これからは俺がここで一緒に飯食ってやってもいいぞ。お前も俺もぼっち飯回避できて、WIN-WINだろ」

 

 それある! そうしようぜ!

 

「いや、なにドヤ顔で誇らしげしてるんですか。言ってること超情けないですよ……」

 

 呆れ半分お情け半分といった表情で、一色は小さくはぁと溜息を吐いた。

 しかしすぐさま「仕方がないですね」と言って、きゃるっとあざとく表情を変える。なんだそれ、めちゃくちゃかわいいなお前。

 

「明日から、一緒に食べましょうね?」

「え、マジで?」

「こんなことで嘘なんてつきませんよ」

「それで明日俺がここに来たら、鍵かかっててお前来なかった的なオチは?」

「先輩、過去にどんなトラウマ抱えてるんですか……」

 

 ごめんね。色々あったんだよ、色々と。

 しかしそれにしても、マジで明日からここで飯食っていいのか? ほんとに? ……なんつうか、マジで嬉しいよ、俺。

 いや待て、待て待て。こんな事で喜んでちゃだめだろ。ここに何しに来たんだよ。達成してないうちから達成した気分に浸ってどうする。

 けどもし振られちゃったら、明日からの昼飯はまたぼっち飯なんだよな……。せっかく一色とふたりきりの昼休みを手に入れたのに、無駄にしていいのか? だが一方で、告白しなかったら今後もずっと片想いのままになってしまいかねない。このために用意したプレゼントだって渡しそびれてしまう。

 ……あー、もう。我ながら情けねえなほんと。

 よし。

 いっちょ、やりますか。

 カバンを長机に置いて、中から小さな紙袋を取り出す。更にそこから白い箱を。青いリボンでシンプルに飾られたものだ。

 突然がさごそはじめた俺を訝しんで見ている一色へ、箱を突き出してやる。

 こういう時、まずは何と声をかけるべきなのだろうか。

 わかんねーよ。

 わかんねえけど、わかんないなりに。

 

「次の日曜、誕生日だろ? 少し早いけど、万が一にも明日とか月曜に忘れちゃうとあれだから先に渡しとくわ」

 

 つっけんどんな口ぶりになってしまったかもしれないが、俺としてはまずまずだろうと自己評価。一色がどう思うかは知らん。

 さて反応はどうでしょうかと、顔色を伺う。

 一色の視線は、俺が突き出す白い箱の隅っこ、ブランドロゴマークが印刷された場所をぽけっと見つめて、そのまま固まっていた。

 

「…………」

「っと、どうした?」

 

 お気に召さなかったのかしらと不安になる。

 女子高生はこういうの喉から手が出るほど欲しいって、ぐーぐるさんが紹介してくれたブログが言ってたんだけどなぁ。一色の好みではなかったのかしら。

 やっぱ、この選定は失敗だったか? ドン引きされたか? 告白に辿り着く前に気持ち悪い奴扱いされたら嫌だなぁ。どうしよう、時間巻き戻してなかったことにしたい!

 今になって胸の奥から後悔の感情が湧き始めたところで、突然と一色が我に返ったように頭を上げ、しゅばっと距離を取った。

 

「な、な……」

「……な?」

 

 憤慨しているのか顔を真っ赤に染めて目に涙を溜め、口をぱくぱく動かしている。言葉を出したいけど声が出ないといった感じらしい。が、すぐにいつものあれがはじまる。

 

「なんですかなんですか! ま、まさかあれですかプロポーズでもするつもりですか、いきなり0℃のアクセとか渡されて結婚申し込まれても困るのでひとつひとつ手順を踏んでからもう一度プロポーズしてもらっていいですか、ごめんなさい!」

 

 いきなり振られちゃったんですけど。まだ告白してないのに!

 ん? 振られたのか? いや、振られてはいないな。いきなりプロポーズすんなって言われただけだもんな。なら全然まったく問題ない。むしろ、振られなかったということは、まだまだチャンスがあると見ていいまである。勝ったな、ガハハ!

 なお、これから振られる模様。

 

「別にプロポーズはしてないんだが……」

「え、あ。っていうかそういう問題じゃないですよ! なんですかこれ、0℃のアクセですよね……? わたしなんてただの後輩でしかないのに、こんなすごいの誕プレでもらっちゃっていいわけないじゃないですか」

 

 ずいぶんと萎縮した様子で、ぶんぶんと手を振って受け取らない意思を見せる。

 箱の中身は、若い女性に人気のブランドが出しているアクセサリーで、高校生からすればちょっとお高い品物だ。

 

「……ただの後輩に、こんな高いもん贈るわけないだろ」

「け、けど、それって……」

「とりあえず、なんだ……? 中身確認してから受け取るか受け取らないか判断するってことじゃダメか?」

 

 外の箱だけではなく、中身を確認してもらいたいもの。

 俺のセンスなんて当てにならんし、ズレまくってるかもしれんが、恥を忍んで千葉そごうまで行って一色に似合いそうなものを選んできたのだ。受け取ってもらえなかったとしても、せめて感想くらい聞きたい。

 

「……わ、わかりました。開けちゃいますよ?」

 

 ごくりと唾を飲む仕草を見せて、一色は俺よりもずっと緊張した様子で箱を手にした。

 机に置いて、しゅるとリボンを解き、上蓋が外される。

 

「えっ、えっ……」

 

 戸惑ったように左の萌え袖で口元を抑えながら、収められていたケースにそっと触れる。

 透明なアクリル製と思わしき蓋はダイヤモンドカット風にきらめいていて、ケースそのものは鈍い金色に着色されている。そんな、バースデープレゼント向けの専用ケース。

 ちなみにケースだけでも二千円弱である。アホか俺は。はい、アホです。

 

「ま、待って先輩……。これ以上無理。先輩殺してわたしも死にます」

「おい、いきなり物騒なこと言うな。意味わからん」

 

 一色が取り乱しているので、代わりに俺が蓋をぱかっと外してやる。

 覆い隠すものが一切なくなり、現れたもの。

 透明感あるシルバーの、シンプルなオープンハートネックレス。ハートのチャームの中央には、ダイヤモンドとアクアマリンが、どちらもサイズこそ小粒ながらも美しく輝き、しっかりと存在感を放っている。

 見た瞬間から絶句してしまっている一色に、とりあえずコンセプトだけでも伝えようと、俺はぼそぼそ声を出す。

 

「ほれ、この真ん中にところにぶらさがってる水色の石がさ、明るく可愛らしくきらきら輝いてるだろ? そんでもって、シルバーのチャームも鎖も、余計なデザインがない感じが、着飾りすぎない透き通った水みたいな感じで、一色いろはに似合うんじゃないかと思って……」

「…………ちなみに、これ、おいくらでした?」

「本体とケース、合わせて二万弱とかそんな感じ」

 

 ごまかさず素直に伝えると、一色は再び溜息を吐いた。

 

「先輩ばかですか……。どうしてこんな高いもの……」

 

 驚きが過ぎ去って、回り回って呆れるしかないという感じなのだろうか。だがこの程度で呆れられちゃ困る。これから俺は、もっと呆れられてしまうであろうことをするのだから。

 回りくどいことはもう必要ない。

 あとはもう、単刀直入に。ストレートに。ド直球で。

 

「なんつうか……。一色のこと、好きになっちまったから。んで、俺と付き合ってくれって気持ちを伝たかったんだが、なんか自分でもどうしていいかわかんなくなってさ」

 

 言うだけ言って、一色の言葉を待つ。

 どんな答えが返ってくるだろうかとかは、考えないでおく。考えれば地獄のような時間になるから。

 若干の間を置いて、一色が口を開く。

 

「……ありがと、です」

 

 それだけ呟くと、俯きなにやらもごもごと唇を動かしはじめる。微かに声が聴こえるが、言葉としてはっきりと捉えることは叶わなかった。眼前に垂れた前髪が邪魔になって、表情も見えづらい。

 やがて、一色は納得いったふうに顔を上げる。その頬には、一滴、二滴と光る物が伝い流れていた。袖からちょこんと出した指先でぐしぐしと拭いながら、むすっとむくれる表情を作った。

 

「告白の答えより先に、先輩に言っておきたい文句がいくつかあります」

「文句?」

 

 思いがけない台詞に、つい首を傾げさせられる。

 文句とはなんだろうか。やっぱり俺、何かまずいことでもしてしまったのだろうか、と。思い当たる節はある。

 

「ひとつ。高校生にとってこれは高額商品ですよね? こんなの突き出されながら告白されたら、大好きな相手だったとしても普通はドン引きです」

 

 お、おう……。やっぱそうだよね。一応、そうだろうなとは思ってはいたんだよ? ただ他に思いつかなくてね?

 

「ふたつめ。どうせなら、事前に誕生日デートを申し込んで、当日に告ってほしかったです」

 

 ひとつふたつと指折りしながら、諭すように一色が語る。

 ……デート? デートか。まったくさっぱり考えてすらいなかった。くっそ、その手があったなんて、なぜ気づかなかったんだ……。つってもあれだな、仮にデートするとしてエスコートできる気がしないが。

 

「それともうひとつ。これ、とにかくお値段的に高すぎますから、わたしからのお返しも同じくらい奮発しなきゃですよね? じゃないとフェアじゃないですし、受け取れません」

「い、いや、別にお返しとか見返りは求めてないんだが……。単に気持ちというか。それにもし要らないようならメノレカリとかで――」

 

 情けなく言い訳しようとする俺を遮るように、一色が真面目くさった表情で続ける。

 

「だから今日の放課後、部活終わった後とかでもいいんで時間作ってくださいね? 0℃のショップ行って、わたしチョイスでおそろいに見えるネックレス買ってあげますから。その代わり毎日欠かさず身に着けること」

「お、おう……」

「以上です。……答えはもう、いまので伝わりましたよね?」

 

 そこまで言い終えてから、一色はネックレスを指先で掬うように取り、手早く自らの首にかける。緩めたスクールシャツの胸元で、オープンハートのシルバーチャームと水色の石がきらりと光を反射した。

 

「どうですか?」

 

 上目遣いでじっと俺の瞳を見つめ、感想を待つ。

 生憎、俺はこういう性格なもんで、気の利いたことは言えそうにないが、思ったことをそのまま言葉にすることならできる気がする。

 

「……狙い澄ましたあざと可愛さって感じで、似合ってるな」

「それ褒めてるんですかね……」

「褒めてるんだよ。お前のあざと可愛い仮面の部分も素の部分も全部ひっくるめて、好きだって思ったの。何? 悪い?」

「や、悪態ついてどうするんですか。せっかくかっこいいこと言ってるなーと思ったのに、最後ので台無しです」

 

 今日一番の大きな溜息を、一色が肩を竦めて吐く。

 呆れられっぱなしの俺だが、それでも告白はOKの返事をしてもらえたらしい。ということはつまり、もう俺たちは恋人同士ということになるのだろう。

 恋人同士。

 ……え、うっそお前、なに、俺リア充になっちゃったの!? 恋人ってことはあれでしょ、そのうちお手々繋いで腕組んでデートしたり、ぎゅってしちゃったり、キスしちゃったり、いつかはそういうこともするようになるってことでしょ?

 どうするんだよ……。ヤバいだろ。まじヤバい。ていうかこの子、葉山のことは良いの? 俺なんかと付き合っちゃっていいの……?

 想定していたのは【告る→振られる】の流れのみで、振られなかった場合のことなんて考えてすらいなかった。

 思いがけない結果。

 けれども。

 俺なんかに、こんなに可愛い彼女ができたのであれば。

 とりあえずは、嫌われちゃわないように、そして一人前の彼氏として認めてもらえるように、頑張ってみようじゃないか。

 

 

   了

 




いくら好きな相手だからと、高校生が“よんどしー”のアクセを贈るかどうか謎ですが、ぶきっちょな八幡だからこそ前へと踏み出そうとした時、こういう感じの暴走気味な行動があってもいいのかなーと思って書きました。

まあ、なぜよんどしーなのかといえば、実はただ単純にわたしがあのブランドのデザインが好きなだけなんですけども。

(次のお話は、いろはす生誕祭2016記念SSとなります)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。