いろはす・あらかると   作:白猫の左手袋

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かつて某所で行われた企画での作品です。お題は「桜」。
「23:00からの60分間でどれだけ書けるか」というもので、プロット等の組み立てはなく一気に勢いだけで書いたものです。


俺の世界は、桜の一色に染められた。

 

 

「――桜色、か」

 

 四月も半ばに迫り、咲き誇っていた染井吉野の盛りもそろそろ終りを迎える頃。

 少し強い春風に乗って、花弁は空へと舞い上がり、桜吹雪となって降り注ぐ。数歩前を行く一色いろはの短いプリーツスカートも旗のようにぱたぱたとはためき、ちらっと桜色が見えた。

 いいですね、サテンの淡いピンク無地(川柳)。

 

「桜色……ですか?」

 

 突然ぽそりと呟いた俺の声が気になったのか、一色は立ち止まり振り返って、くりっと小首を傾げる。

 そうこうしているうちにも風はスカートの裾を泳がせ、少し光沢感ある桜色のサテン地が僅かに見え隠れしていた。

 フロントも無地とは、清楚感あっていいですね。最高ですね。

 

「……あー、いや。桜を見てたらな、ふと、一色っていつも淡いピンクのカーディガン着てるよなーと思ってな。好きなのか? 桜色的な感じの」

 

 まさか『お前のぱんつが気になって、幼げなお尻やふとももを凝視していました』なんて口が裂けても言えるはずがないので、頭を高速回転させててきとーに言い繕う。

 上手いこと誤魔化せたのか、一色は怪訝そうな様子は見せず、ごくごく自然な口ぶりで語りだした。

 

「ほら、わたし春生まれじゃないですか。だから、すごく桜って愛着感じるんですよねー。わたしが生まれた日も、こんなふうに咲いてたのかなーって」

 

 あたかも懐かしい記憶にでも思いを巡らせるかのように、一色が優しげな微笑みを浮かべる。少し細めたまぶたから覗く瞳は、俺とは比較にならないほど綺麗に澄んでいて、そこに邪気はかけらもない。

 

「そうか……。大切な色なんだな、桜色」

 

 ……ごめんね、大切な色を色欲で汚しちゃって。でも、俺は悪くないよね。お前のその華奢な身体やお前のぱんつが俺を色々と刺激するのが悪いのだ。だから俺は悪くない。

 

「はい。なので、カーディガンもこれがお気に入りなんですよね。って言っても、サックスとかパステルグリーンとか、そういう感じの色はぜんぶ好きですけど」

 

 なるほど、一色の下着は淡いピンク以外にも、水色や淡い緑色があると。ほかにはどんな色がありますか? 八幡とっても気になります!

 

「ちなみに先輩は、桜色ってお好きですか?」

「おう! 桜色というか淡いピンクは大好きだ!」

「そ、そうですか。ずいぶん食いつきがいいですね……」

 

 おっといけない。ついうっかり本音が出てしまった。

 ぱんつ、ぴんく、大好き!

 

「まあな。特にあれだな、お前みたいなかわいい系の女子が桜色とか身につけてると、いいよな……と思うぞ。うん」

 

 特にほら、今日の一色みたいな大人しめのデザインの桜色下着とか!

 

「かわい……そ、そうですかね。えへへ……」

 

 何がどうしたのかは知らないが、突然一色が頬を桜色に染め身を捩りながら照れ始めた。どうしたのこの子、頭大丈夫?

 

「やー、そうですかそうですか。っへへ。このお気に入り、似合ってますかねー?」

 

 言ってその場でくるりんと回転。亜麻色の髪やブレザーが大きく翻り、スカートもぶぁさっと広がり捲れ、暫時ぱんつ丸出し。最後にしゅたっと気をつけの姿勢を取って、とってもあざとく敬礼してみせる。はいはい、あざとかわいいあざとかわいい。

 お気に入りとはもちろんいつものカーディガンのことだろうが、ここまで堂々とぱんつ披露されちゃうと、もう求められているものはぱんつに対する感想としか思えない。

 Yes! 桜色ぱんつ! Iroha's ぱんつ!

 

「おう! 超めちゃくちゃ似合ってるぞ! 最高にかわいいまである!」

 

 ぐっと親指を立てて、最大限の賞賛を送る。

 似合ってます、超にあってます桜色! いや、ぱんつじゃないよ? カーディガンね? ほんとだよ?

 

「むふへっ、似合ってる……。ふふっ。かわいい……。えへー……」

 

 これ以上の笑みはないのではなかろうかと思うほどでれでれぇと頬を綻ばせた一色は、締まりのないその表情で何やらぶつぶつ呟いている。

 おお……。この子、ほんとどうしちゃったのかしら。

 今まで見たことのないデレMAXモードの一色の姿に驚かされ、同時にどう扱えばいいのかと戸惑わされる。とりあえずほら、自分の世界にでも入っちゃってる感じでさ、なんて声かけりゃ良いのかわからん。

 まあせっかく珍しいものが見れているわけだし、もうしばらくこのまま放っといてみるか――と、しばし眺めることにする。

 その時。

 びゅわっと、今日一番の強い風が吹き。

 

「きゃあっ!」

 

 一色のスカートが、勢い良く捲れ上がった。

 思わず引き寄せられる視線。そこにあるものは当然、無地桜色のサテン生地ぱんつ。

 そして、一色は気づく。

 

「……あっ。え、桜色って……!」

 

 俯き一気に紅潮させて、スカートの裾をぎゅーっと抑え、内股になってもじもじする。

 すみません。調子に乗りすぎました、ごめんなさい。

 

「ま、まさかですけど、先輩の言ってた桜色って、わたしのぱんつのことですか……?」

「…………まあ、そういうことになるな」

 

 潔く、罪を認める。だって、もうバレた以上は誤魔化せそうにないし。

 いや、ほんとすみません。ちょっと調子に乗って一色の桜色ぱんつに興奮しすぎました。ごめんなさい。

 

「そ、そ……」

 

 腕をぷるぷると震わせ、一色がゆっくりとその手を上げる。いまからぶん殴りますと言わんばかりに。

 

「そんなにぱんつが好きなら、見せるなり触るなり舐めるなり挿れるなり好きにすればいいじゃないですか! そのかわり、絶対責任とってくださいね!」

 

 言うが早いか、一色がスカートをがばっとたくし上げた。眼前に広がる、素晴らしき桜色のトライアングルゾーン。

 あぁ、そうか。俺の天国は、ここにあったのだ。一色のぱんつ……。桜色のぱんつ……!

 こんなの、いくら俺とて我慢することなどできるはずもない。俺は押し倒すように一色いろはのトライアングルゾーンに飛びかかり、俺の世界は桜の一色に染められていった(※屋外です)。

 

 桜一色、恋ぱんつ。

 なお、このあとたっぷり責任取らされ尻に敷かれるようになったのは、別のお話。 

 

 

 




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