佐藤カズマ16歳、異世界にて労働の喜びを知る。
「フンッ・・・・フンッ・・・・おぉりゃぁせぃっ!・・・・・そぉらせいっ・・・!」
同僚のダクネスと並んでツルハシを力いっぱい振るう。汗がほとばしり、すでに額に巻いたハチマキは絞れるくらいずぶ濡れだ。
仕事も昼近くになると疲れを通り越してなんだか良い感じにハイになってくる。
限界が近いはずなのに妙に活力が湧いてくる感覚。この感じが俺はもう病みつきになっていた。
妙なおかしさがこみ上げてきて頬を緩めると、隣のダクネスも全く同じ顔をしていてさらに可笑しくなってくる。
顔を見合わせてクックックと忍び笑いを交わすと、それからお互い張り合うようにツルハシの速度を上げる。
馬鹿力なこの女に今まで一度も勝てたことはないが、それでも男として女より温い仕事はできない。
筋肉が唸る、筋肉が唸る、筋肉が唸りをあげる!これが俺の全力全開!
「うぉおおおおおおおおおおおおお!!!」
そして、昼休憩までこの女のペースに付き合った結果、休憩場の隅で大の字で倒れるほど体力を浪費してしまった。
こりゃ、昼からは地獄だな・・・・とニヤリと不敵に笑う俺は意外とダクネス並みのドМなのかもしれない・・・・
「おつかれ、カズマ」
ダクネスが爽やかに笑って飲み物を差し出してくる。
俺より遥かにHPを残しているような余裕そうな顔が気に入らず、つい無愛想にそれを受け取ってしまう。
特に気にした様子もないダクネスを横目に見ながら水に口を付けると火照った体に染み渡る水の冷たさに機嫌の悪さが吹き飛んだ。
馬車馬のように働いたあとの水はどうしてこんなに美味いのだろうか・・・?
ゴクゴクと勢いよく水を飲み干す俺をみてクスクスとおかしそうにダクネスが笑っている。
出来の悪い弟に向けるような視線がまた妙に気に入らず、三杯目の水をぶっかけてやろうかと考えていたら
めぐみんとアクアとナルトの爺さんの声が聞こえた。
「ねー、早くお昼食べに行きましょうよー!」
「もう、お腹がすきすぎてナルじいがそこらに生えてた甘い野花の蜜をすすっていますよ・・・・!」
「ちゅー、ちゅー・・・これはなかなか・・・・イケルってばよ!」
花の蜜に必死に吸い付いている爺さんが可笑しくて休憩中の同僚たちも皆揃ってドッと笑いが巻き起こる。
「ぶはははは、なにやってんだよ、じいさ~~ん!」
「クックック・・・・腹いてぇ・・・・」
「・・・・つーか、あれっていつも近くの犬が小便引っ掛けている辺りの花じゃ・・・・・」
強面の大男達が皆爆笑して笑い転げている。見た目は怖いが気の良い人たちなのだ。
なんとなく場が盛り上がった流れで今夜は親方が皆に酒を奢ってくれる話になった。
また、日付が変わるまで飲むことになるのだろう。
肩を組んで陽気に親方を称える男たち。
飛び跳ねて喜ぶアクアと爺さん。
テンションが上がって爆裂魔法を上空に打ち上げようとするめぐみんを必死に止めるダクネス。
それを苦笑して眺めながら、本当に良い職場に恵まれたな・・・と思うのだった。
「おーい・・・・思い出せー・・・・・冒険は?・・・・・冒険はどうなったんだー・・・・」
クラマがチョコチョコと動き回りながら何か控えめに囁いているが、なんだろう?
クラマも今夜の宴にはしゃいでいるのかな?
夜が更け、宴も終わり、酔っ払って気持ち良さそうに眠っているアクアと爺さんを引きずりながら馬小屋へ帰る。
藁の上にひいたシーツの上にまとめて放り込むと、俺もジャージに着替えて布団をかぶって横になる。
今日も充実した良い一日だった・・・・・
大好きなゲームも漫画もアニメもない・・・・しかしこんなに心は満ち足りている・・・
まさか俺がこんな健全な生活を送ることになるとはな・・・・・
異世界に来て良かった・・・・・
これからも頑張ろう・・・・そう、俺はこれからこの世界で土木工事を極めて・・・・
・・・・・あれ?・・・・
「冒険は!?・・・・俺って冒険者じゃなかったっけっ!?」
「・・・・だから、ずっと前から、そう言っていただろうがっ!?」
驚愕の事実に飛び起きる俺をクラマは容赦なく吠えた。
◇◆◇◆
「おはよーございまーす。・・・あれ?カズマとアクアは?お休みですか?」
「めずらしいな・・・昨日は相当飲んでいたようだし、二日酔いかな?」
朝飯を注文しながら、いつもは騒がしい仲間達が座っている空席を不思議そうに見るめぐみんとダクネス。
毎日のように一緒にいたせいか、心なしか物足りなそうである。
「なんか今朝になっていきなり冒険に出かけるとか言って飛び出していったってばよ。
まったく・・・・・休業するなら親方に事前報告は必要なのになぁ・・・・」
「!?」
「なん・・・・だと・・・・」
ぼやくナルトを尻目に衝撃を受け、慄いたように体を震わせる二人。
「「なぜ私たちを誘わないっ!?」」
綺麗にハモって同じ叫びを上げるめぐみんとダクネス。
「アークウィザードですよ私!?連れて行かない意味がわからないです!!」
「私だってクルセイダーとして日々鍛錬を積んでいるというのに・・・・なぜにスルー!?
どう考えても必要な人材だろう!!私が壁役にならなくて誰が壁になるというのだ!」
置いていかれた憤りをあらわにする作業着の女二人。
どう見ても上級職の冒険者には見えないよな・・・・
「カズマ達は多分、二人が冒険者だってことを忘れていたんだってばよ・・・
今まで全然冒険者としての話はしてこなかったし・・・」
あー、確かに。
土木工事の仕事の話はしていたが、冒険者がどうこうって話題は皆無だったな
「そんな馬鹿な!毎日、私の破壊力抜群の爆裂魔法を皆して鑑賞していたじゃないですか!?
あれですか?私が本当に趣味で爆裂魔法を撃っているだけの普通の町娘とでも思っていたというのですか!?」
「おのれ・・・!私が、騎士として、という口癖を口走るたびに生暖かい目をしていたのはそのためか!
この私を騎士を自称するただのガテン系の女だとでも思っていたわけか!?ちくしょう!ぶっ殺してやる!!」
顔を真っ赤にして怒り狂う二人をワシはしらけた目で見つめる。
「いや、お前らだって実は軽く忘れていただろう?自分が冒険者だって」
ワシの指摘にビクッと肩を震わせる二人。図星か。
「い、いや、まぁ資金集めのアルバイトのつもりが居心地がよくて本業みたいになっていたのは確かですけど・・・それでも私の爆裂魔法への愛は微塵も揺らいでませんよ!!・・・・もう随分と長いこと作業着でエクスプロージョンしていますが・・・あれ?そういえばローブとマント、どこいったかな?・・・・」
「・・・・正直、とても充実していたし・・・肉体労働で自分を虐め抜く快感は悪くなかった・・・・
いや・・むしろ、すごく良い・・・あれで、お金をもらえるなんて天職なんじゃ?・・・
いやダメだ!自分で自分をいじめるなんて自慰と変わらない!!それでは私は満たされない!
・・・・き、騎士に戻らなければ・・・鎧・・・・あと剣は・・・・あ、実家に忘れてきた・・・」
装備を整えるために慌ただしく店を飛び出そうとするめぐみんとダクネス。
その首根っこを即座に捕まえてニヤリと笑うナルト
「四人も急に抜けられたら困るってばよ。親方には俺から言っておくからお前らは明日な」
「は、はい・・・・ごめんなさい・・・」
「すみません・・・本当に・・・」
シュンとした様子でナルトに連行される二人は全く冒険者には見えなかった。
仕事の疲れを風呂屋で癒し、いつもの酒場へと向かう途中。
カズマとアクアに出くわした。
「生臭い・・・・なまぐさいよぉ~~・・・」
「 あ・・・お疲れデース・・・・」
カズマが気まずそうに会釈する。
アクアは何故かデロデロの粘液まみれで泣いていた。
それだけでもう結果は火を見るより明らかだった。
「「ざまぁ見ろぉー!!」」
そう言ってダクネスとめぐみんは二人揃って高笑いをする。
嬉しそうに「やった!」とハイタッチまで交わす。
気持ちはわかるが、なんて大人気ない・・・・
「なによー!どうしてこの私の惨状を見てそんな酷いこと言えるの!?
昨日の友は今日の敵なの!?
・・・・・お風呂上がりのあなた達にとって今の私がどれほど驚異的な敵か教えてあげましょうか?」
そう言って両手をぶん回して追いかけてくる汚女神を必死な形相で逃げるダクネスと、めぐみん。
「いきなり休んで悪いな爺さん・・・・」
カズマがバツ悪そうに言う。
するとナルトは真顔で
「お前ら二人はクビだってばよ・・・・・」
「・・・・・え?・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なーんて、冗談だってばよ」
クビ宣言にこれからは冒険者を生業とするはずのカズマが青ざめる。
冗談だとわかるとあからさまにホッとした顔だ。
意外に土木工事に未練タラタラらしい。
「休業扱いだからいつでも戻ってきていいって親方は言ってたってばよ」
「あ・・・でも、俺・・・これからは冒険者で・・・・」
「収入が不安定な仕事だって聞いてる・・・・・お金に困る時期はきっと来る。
その時いつでも受け入れてくれる仕事場があるって・・・・それは覚えておけって・・・・親方が・・・」
「親方ぁぁぁぁぁ!!」
親方の愛に男泣きするカズマ。
親方・・・何人も殺ってそうな凶悪な面してなんて懐のデカイ男なんだ・・・
「それで・・・・何か言うことがあるんじゃないですか?」
酒場に全員集合したのを見計らって、めぐみんが重々しくカズマとアクアに尋ねる。
カズマは心得ているとばかりに真面目に頷いて言う。
「ああ、お前らの魔女っ子と女騎士のコスプレの感想だな。うん、似合っていると思うぞ」
ガンっと二人から両足の脛を蹴られて悶絶するカズマ。
「違います!これは別に仮装ではないのです!」
「これが私達の真の姿!つまり正装だ!自称騎士とかではないのでそこは間違えるなよ・・・・!」
「え?二人って本当に上級職の冒険者だったの?・・・・自己紹介の時はてっきり冗談なんだとばかり・・・・」
怒れる二人にアクアが水をぶっかけるような発言で鎮火する。
「まさか・・・・・本当に分かっていなかったなんて・・・・」
「知りたくなかった・・・・自分がそんなに騎士らしく見えないなんて・・・・」
落ち込み始めた二人にアクアが慌てる。
「いや~・・・そこはかとなく見えないこともない感じなのよ?・・・・ペンキまみれのダボダボの作業着で動き回るめぐみんと泥だらけでハチマキ巻いて男前なダクネスからは想像できなかっただけで・・・・」
「おい、やめろ、それは追い打ちだ・・・・とにかく二人は俺達のパーティに入ってくれるということでいいのか?」
カズマの発言に二人は顔を見合わせニヤリと不敵に笑う。
「我が名はめぐみん!アークウィザードにして紅魔族随一の魔法の使い手!最強の爆裂魔法を極めしもの!
一撃必殺の超火力は岩をも砕き、山をも崩れさせる!パーティの最大攻撃力!」
「我が名はダクネス!クルセイダーにして最硬の女騎士!我が鋼の意思は龍の牙でも打ち砕けない!
体力と防御力に長けるパーティの守護神!」
二人共、自分に酔っているようだ。超キメ顔である。
「「さぁ・・・・私たちをパーティに加える権利をやろう」」
クールなセリフが綺麗にハモリ、ポーズも格好よく決まっている。
うん、練習したとおりだ、良い感じに決まった。
カズマとアクアはポカンとしているが・・・・
「あ、うん、よろしくな・・・・」
「あははは・・・・とっても、頼もしいわ・・・・・あはは・・・」
「良かったなぁ。お昼休憩にわざわざ練習した甲斐があるってばよ・・・」
ナルト・・・やめてやれ・・・・顔を真っ赤にして羞恥心に耐え忍んでいるじゃないか・・・
◇◆◇◆
翌日
オスっ俺カズマ!粘液まみれのデロデロな仲間と愉快な冒険を繰り広げているんだ!
あのカエルのあん畜生を仕留め損ねちまったが次こそは息の根を止めてやるぜ!
「生臭いよ~・・・なまぐさいよぉ~・・・・うぇぇぇぇぇ~~~ん!!」
「 カエルのお腹の中って暖かいですねぇ・・・・・ついついうたた寝を・・・・」
「ああ、こんな汚らわしい粘液にまみれた私を・・・・・もっと汚物を見るように見つめてくれ・・・・・もっと・・・・ああ・・もっっと・・・・・」
仲間が集まったことだし、昨日のリベンジも兼ねて大型カエルモンスター“ジャイアントトード”の討伐に意気揚々と向かった俺達はものの見事に返り討ちにあったのだった。
手始めにカエル相手に性懲りもなく肉弾戦を挑んだアクアが食われ、次にたった一匹のカエル相手に爆裂魔法を放って魔力切れで倒れためぐみんが餌食になった。それを見たダクネスが息を荒くしてカエルに突撃。自らカエルの口をこじ開けて中に侵入した。
・・・そう、この馬鹿は自分から食われに行ったのだ。
そして一人になった俺は孤独に仲間の救出に奮闘した・・・・・・・・
めぐみんが倒した一体に俺が倒した無防備なカエル三体。合わせて四体だ。
クエストのノルマは10体。人数が多いから昨日よりランクの高いクエストを受けたのが失敗だった。
あ~あ・・・・こんなことになるとは思ってたんだよな・・・・・
なんだかんだで付き合い長いし・・・・もう把握してる・・・・アクアと類友なこいつらに冒険者として華麗な活躍を期待するのがが間違いだったんだ・・・・・まぁ、俺も獲物を飲み込んだ無防備なカエルしか相手にできないヘナチョコ冒険者なんですけどね・・・
粘液まみれの仲間たちを引き連れてギルドに入る。
一応、ノルマには達さなかったが何匹か仕留めたからな。四人で分けると本当にはした金だが・・・受け取っておこう。
土木工事の仕事が早くも恋しくなりながらギルドの扉を開けると、なにやら、ザワザワと賑わっていた。
何があったのかと人をかき分けて進むと、その中心にはナルトの爺さんとクラマがいた。
俺たちを目にすると爺さんはいつもの気の抜けた顔で笑いかけてくる。
「お~、お帰り!早かったな。実は今日から俺も冒険者になってみたんだってばよ!」
冒険者って・・・・おいおい、大丈夫かよ?
怪しげな魔法を使うことはよく知っているが、98の老人を戦闘に参加させられるものなのか?
「おお!ナル爺もついに・・・!」
「やっぱりお爺ちゃんとクラマたんがいないとなんか物足りなかったのよねっ!
これからもよろしくね!ポックリ逝きそうになっても私がすぐに蘇生してあげるから安心してねっ」
「おいアクア、縁起でもないことを言うな・・・・壁役の私がいるのだ。ナルトさんへの攻撃は一切通さない。
ダメージは全て私が貰っていく!」
「いやいや、そこまでしなくても・・・まぁ、これからよろしくな。年寄りなりに精一杯頑張るってばよ!」
ナルトの爺さんの参戦に完全に歓迎ムードの皆。
まぁ、確かに少し心配だけど俺も個人的には爺さんの加入は嬉しい。
なんだかんだでこの爺さんといると楽しいしな・・・・・
それに仮にもアクセル街の怪物じじいと畏怖されている男だ。
もしかしたら結構強いのかもしれない・・・
後で冒険者カードを見せてもらおう。
「・・・うそでしょ?・・・・上級冒険者のレベル88相当のステータスって・・・
・・・・しかも、“老化”でステータスが半減している状態でそれ!?・・・・・魔力の数値に関しては・・・桁がおかしい事になってるけど・・・
・・・なにこれ・・・私の目がおかしいのかな?・・・・疲れてるんだわきっと・・・
職業ニンジャマスターって・・・・・ニンジャってなんなの?・・・ニンジャ怖い・・・」
その日、ギルドで人気の受付嬢が珍しく早退した。その原因を知る者はいない。
補足
この作品ではチャクラと魔力を同じものとして扱います。
ですので魔法と忍術は発動までの過程が違っていても基本的に同じものであることになります。色々と矛盾があるかもしれませんが・・・・できれば目をつむっていただきたいです・・・
バッドステータス“老化”・・・・・冒険者が老いることで本来のステータスから徐々に低下していく現象。鍛錬やレベルアップである程度、元に戻すことは可能。