かつての英雄に祝福を!   作:山ぶどう

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第3話 襲撃者

 早朝、テレビの占いを確認する。

 二人共ボロクソに言われて外出しないことを勧められたが、構うものか。

 

 自宅を飛び出し、今日も元気に旅に出る。

 

 

 今日は霧隠で水影と将棋を打ったあと、共に砂隠れに飛んで新米風影のお嬢ちゃんをからかいにいって、その後、現五影の皆で雲隠れに集合。人気なラーメン店を巡る予定だとか。

 

 旅ってこういうものだっけ?

 

 

 ナルトが飛雷神の術によるお手軽小旅行を趣味にしてからもう一週間も立つ。確かに以前より活力に満ちて楽しそにしているが、何か違うんじゃないだろうか。

 

 もっとこう、忍びの誇りを取り戻すための旅みたいなことを言ってなかっただろうか。

 

 

 あいつが最近したことといえば、

 

 中忍試験に変化でこっそり参加したり、風影のお嬢ちゃんをからかって泣かせたり、旅先で意気投合したジジィ仲間と吐くまで飲んだり、

 ガチホモボディービルダー地獄で悪徳商人にトラウマ植えつけたり、旅先の頑固ラーメン店長とガチンコラーメンバトルを繰り広げて最後は友情を芽生えさせたり。

 風影のお嬢ちゃんをたぶらかして一緒に落書きをして回ったり、女体天国の術で雷影にハニートラップを仕掛けたり。

 

 

 うん、ろくなことをしていないな。

 

 

 「フンフンフンフーーン♪フフフンフンフーン♪」

 

 ナルトが陽気に鼻歌を歌いながら並木道をスキップしている。

 すれ違うジョギング中の老夫婦や犬の散歩をしている女の子がクスクス笑っている。

 

 恥ずかしい。顔から火遁が出そうだ。

 

 この馬鹿があの伝説の七代目火影だと言ってもきっと誰も信じないだろうな。

 

 実際、ただの金を持ってそうなジジィとして目をつけられ、ゴロツキに絡まれたことも数回ある。

 たいていは螺旋丸で威嚇すれば今の忍び世界ではあまりに有名な術の前に印籠を掲げられた下手人の如き速さで頭をたれ、ひれ伏すのだ。気分は水戸黄門だ。

 

 

 「フンフンフン♪フンフンフフーン♪♪」

 

 ちなみに今は、水影との約束まで時間があるので適当な場所に飛んでブラブラ散歩中である。

 早朝からやってる定食屋をはしごして三軒目にしてようやくボケ老人特有の「ばあさんや、飯はまだかのう」状態から抜け出したところだ。

 

 三食分の朝飯が入った腹は大きく膨らみ、シャツから肉がはみ出して、スキップするたびにポヨポヨ揺れている。

 

 

 あの腹、波打つ肉、幸せそうなボケ面。

 

 

 コイツもうとっくに忍者とか呼べるもんじゃないんじゃないか?

 

 何度考えたかわからない疑問が頭をよぎる。

 

 

 耐え忍ぶものが忍者とか自来也の受け売りをキメ顔で息子に語ってたこともあったが、この道楽じじぃは一体何を耐え忍んでるっていうのか。

 

 毎日好きなだけ、食って飲んで寝て、遊びまわっている。里の任務なんて見向きもしない。

 

 最近使った忍術なんて、威嚇用の螺旋丸、散歩用の飛雷神、イタズラ忍術かエロ忍術くらいだ。

 かつて覚えた攻撃性たっぷりの凶悪な忍術はすっかり錆び付いている。

 

 というか、戦闘自体、ご無沙汰すぎて、もうコイツがどれだけ衰えているのかも把握していない。

 

 本当にこいつは、ワシがしっかりしないと間抜け面をさらしたまま、あっさりとそこらの忍者くずれに殺されそうで怖い。

 

 子狐モードで常にそばにいるのはそのためだ。決してワシ自身も堕落した生活を送りたいとかそういうことでは断じてない。

 

 

 せめて、ワシだけでもかつて最強とうたわれた九尾の九喇嘛でい続けなければならんのだ。

 

 

 

 そう決意を新たにしていると、いつの間にか呑気な鼻歌が止んでいた。

 ナルトはスキップをピタリと止めて立ち止まり、目を静かに閉じている。

 

 

 なんだ? 疲れたのか?

 

 ナルトにそう問いかけようとすると

 

 「クラマ・・・・お前も鈍ったな・・・」

 

 ニンマリと意地が悪そうに笑い、ナルトがそう呟いた。

 

 あん?何言ってんだこいつ?

 

 お前にだけは言われたくない、と怒鳴り返そうとしたとき

 

 

 

 そこでようやくワシも事態を察した。

 

 

 なんてことだ・・・・・まさかワシの方がこういう時にマヌケを晒すことになるとは・・・

 

 

 数秒の静寂。

 

 

 それを破るように風を切る鋭い音が耳を打ち、その瞬間上空から黒い槍が雨のように降り注いだ。

 

 

 ただの老人に向けるには過剰すぎるほどの執拗な攻撃。

 石道を穿ち、粉砕してもなお永続的に降り注ぐそれは術者の殺意そのものを思わせた。

 

 

 そこから数十メートル程離れた大木。

 

 

 その木の上で刺さった特注クナイを回収しつつそれの観察を続けるナルト。

 

 瞬時にクナイを投げ、飛雷神の術で当然のように避けたが、

 遠くへ飛ばないところを見るとナルトは敵対者をこの場で仕留めるつもりのようだ。

 

 久しぶりの命のやり取りに若干の不安を覚えるが、先ほどの一連の動きを見るとナルトの戦闘の勘はそこまで衰えていないらしい。

 

 むしろ、今のところワシが足を引っ張っているようで非常に歯がゆい。

 

 先ほどの失態を取り戻すべく、すぐさま自然エネルギーを取り込んで感知範囲を広げていく。

 

 

 上空に潜む敵を感知するまで、そう時間は掛からなかった。

 

 

 「相手は一人。攻撃地点の真上だ!相当高い位置で浮かんでやがるぞ。」

 

 

 口寄せ生物に乗っているわけでもなさそうだ。ということはかつてのオオノキのジジィのように土遁・軽重岩の術で体を軽くして浮いているのか。

 まさかかつてのナルトのように六道仙術の力を用いているわけではないだろう。

 

 

 「じゃあ、とりあえず―――影分身の術」

 

 

 隠れている大木から三体の分身が飛び出し、山道を駆ける。

 

 上空から狙いすますようにと黒い槍が降り注ぎ、それを貫こうとするが、当たらない。

 

 妖怪じみた身軽さで次々に避け、挑発を繰り返す。そうすると相手の憤りがわかるように攻撃に苛烈さが増していく。

 

 ついに、一体がやられ、スポンッ♪という間抜けな音を立てて煙のように消える。術者が苛立つのがわかる。

 

 さらに激しい猛攻に避けきれずに二体目もあえなくやられるがそれも当然、影分身。

 

 パッパパパーン♪とまたしても、小馬鹿にしたような音で術者を苛立たせる。

 

 ナルトが開発した挑発用影分身だ。やられた時の音を限りなく間の抜けたものにすることで相手を馬鹿にして遊ぶイタズラ忍術。

 

 風影が散々弄ばれてたあげく、顔を真っ赤にして涙目でプルプル震えていたのが記憶に新しい。

 

 その効果はてきめんだ。

 

 黒い槍が豪雨のように降り注ぐ。草木が無残に荒れ果て、地形も変わり始めて来た。

 

 術者はこの半ケツを出して踊りながら回避するじじぃを殺すことに全てを注いでいる。

 ・・・・ただの影分身なのにな。

 

 

 「おい、そろそろいいだろう?」

 

 

 相手の分析は十分なはずだ。恐らくこれ以上やつに底はない。

 

 

 「ん?ああ・・・そうだな、朝飯も食ってないしな、早く終わろうか」

 

 ・・・・どうやらこの後、四度目の朝食を取らねばならんらしい・・・

 

 ワシが悲観していると、ナルトが懐から手裏剣を取り出す。風のチャクラを纏わせて空に向けて力いっぱい投げた。数十年ぶりにしては、なかなかの速度だった。

 

 

 「多重影分身の術」

 

 

 一瞬にして山道がナルトの分身で埋め尽くされた。

 

 見渡す限りのジジィ。いきなり出現したジジィの大群に敵対者はそれはもう驚いたのだろう。

 

 黒槍の豪雨がピタリと止んだ。

 

 その隙を見逃さずジジィ軍団が皆そろって印を結び始める。

 

 

 ――――手裏剣超多重影分身の術

 

 

 遠くで誰かが見ていたのなら突然、空に巨大な黒い柱が現れたように見えただろう。

 

 

 先程投げた手裏剣が分身を繰り返し膨大な数の暴力となって地上から空へ駆け上ったのだ。

 

 印を止めないかぎり無限に増殖し続ける手裏剣は風切り音が重なり合い暴風が吹き荒れるような荒々しい音を響かせている。

 

 

 単発の威力は相手の黒槍の方が断然上だろう。しかし、攻撃範囲、規模、攻撃回数は比べるまでもなく圧倒的にこちらが上だった。

 

 しかも凶悪なことに分身された手裏剣は肉体に刺さったそばから消えてゆくのだ。その結果、同じ傷場所に幾度も手裏剣が刺さり人体を確実に削り取っていく。

 

 

 敵の甲高い断末魔が一瞬聞こえ、押し寄せる手裏剣の群れに飲み込まれて呆気なくかき消された。

 

 

 久しぶりに見たが相変わらずの反則的な忍術だ。

 

 突然、押し寄せる凶器の奔流は初見では対処など不可能。回避は絶望的で、防御も間に合わない。

 

 サスケならば瞬間的にスサノオを出現させて鎧で防ぐことなど造作もないだろうがそれをこの名も知らない賊に求めるのは酷だろう。

 

 哀れなことに骨も残らないオーバキルだった。久しぶりの戦闘で過剰になりすぎたとナルトも反省していた。

 

 

 

 

 

 その後、念のために仙術で辺りを感知しても生命反応がなく、影分身で探索しても敵の衣服の一部だと思われる血に染まった布しか見つからなかったので十中八九死んだのだろう。

 

 

 

 

 

 また、ワシの出番がなかったな。

 

 ナルトもだいぶ衰えたがまだまだ、この程度の相手に遅れを取るほどじゃない。

 

 

 思っていたよりずっと、あの頃の強さが残っていた。

 

 それは確かに嬉しいが、それではワシの出る幕など何もない。

 

 久しぶりに尾獣玉の一つでもぶっぱなせると期待していたのに。

 

 

 「あー終わった終わった。じゃ、水影のところで朝飯でもご馳走してもらうってばよ」

 

 「もう、そろそろ昼だっつーの」

 

 一応、正体不明の襲撃ということで五影にも報告が必要だが、・・・まぁ皆でラーメン食う時でいいだろう。

 

 

 ナルトがいつもどおり飛雷神の術で霧隠れの里に飛ぼうとする。ワシもいつもどおり肩の上に乗って付いていく。

 

 

 この時は信じて疑っていなかった。疑う余地など微塵もなかった。

 

 昨日から適当に考えた予定は問題なく実行されるだろうと。

 

 サラダや他の五影達におすすめのラーメン屋に案内する約束は間違いなく果たされるだろうと。

 

 今日まで続いた平穏は、幸福な家族の絆は、ワシたちを決して離さず死ぬまで暖かい日向のような日常が続くのだろうと。

 

 そう考えていた。

 

 だから何気なく飛んだ先が見知らぬ空間に繋がっていた時、ワシらは揃って間抜けな顔をするしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 霧隠の里の街道に飛んだはずだった。眼前には水辺に面した美しい街並みが広がっているものだと思っていた。

 

 しかし、今目の前にあるのはただ、ただ青いだけの空間。

 

 

 景色も何もない、見渡す限り青一色。どこまでも続きそうな無機質な世界。

 

 

 

 ふたり揃って呆然としていると人影がこちらに向かって走ってくる。

 

 黒いフードをかぶった怪しい人物。

 

 余り洗礼されてない走り。ドタドタと騒がしく肩を怒らせている。いつでも対処できるように身構えるが、フードから除く瞳が涙に濡れているのを見て毒気を抜かれた。

 

 

 「殺す気ですかっっ!?いや実際死んだんですけどズタズタにされて猟奇的に骨も残さず殺されたんですけど!そりゃ確かにこっちが悪いですよ!こっちが仕掛けましたよ

ごめんなさい!でもいきなり有無も言わせず容赦なく慈悲もなく全力でぶっ殺しに来なくてもいいでしょ!?もっとこう正体不明の謎の敵なんだから無傷で無力化して、どんな目的だったのかとか、なぜ自分が狙われたのかとか色々聞き出したいことがあるでしょ!ないんですか!?もうとりあえずぶっ殺しとこう、みたいな感じなんですか!?

 悪魔にだって心くらいあるんですよ痛いのが嫌だとか苦しいことからにげだしたいか弱い女の子みたいな一面だってあるんです!あなたがたと同じ心ある生命なんです!」

 

 黒いローブに身を包んだ怪しげな女が何やら一方的にまくし立てる。

 

 「そう、私、女の子なんです!!見ればわかるでしょ!ひと声聞けば可愛らしい女子だって事前に気づくでしょ!まぁ姿見せなかったし声もかけなかったからしょうがないですけど!もともとお前が悪いんじゃないかとそう理不尽にお思いでしょうけど!確かに私が悪いんですけどねッでもそれでも怒りたい!行き場のない憤りをぶつけたい!

いいですよねっ散々怖い思いして殺されたんだからそれくらいの権利ありますよねっ

 それではお耳汚しでしょうけど言いたいことを言わせてもらいます!

思いっきり傷物にされましたよ!?自慢の美肌がボロボロですよ!

オッパイなんてもげてましたよ!自分のオッパイが少しずつなくなって感覚ってわかります?

 わっかんないだろうなぁ男には!というか加害者には!魔界の方じゃ美巨乳のアーデルといえばそれはもう名が知れてましてね!

どうか一揉みさせてくれってバカ男が後を絶たなかったぐらいですよ。その至高の宝であるこのアーデル様のオッパイをまさか乳首一つ残さずに跡形もなくこの世から消してしまうなんて魔界に知れ渡ったらもう戦争ですね!戦争ですよ!あ、信じてませねっ!マジですよそれくらい価値のある女の子なんですよ私!魔界のベストオッパイ部門で3位に輝いたぐらいで・・」

 

 

 

 う・・・・うぜぇーーーーーー!!

 

 このわけのわからない空間でわけのわからない女がわけのわからんことを一方的にまくし立てているこのわけのわからない不快な状況。気が触れてどうにかなっちまいそうだ。

 

 

 

 

 「地獄忍法シリーズ・・・不衛生便所こうろぎ地獄&ゴキブリパニック地獄・・・」

 

 

 突如現れた虫の大軍。ぴょんぴょん跳ねる便所コオロギとアグレッシブに動くゴキブリの軍勢が女を取り囲んだ。

 

 グロテスクに蠢く虫たちはキシキシと鳥肌が立つような鳴き声を奏でる。

 

 「ひっっっっ!!・・・ごべんなざい・・・・ゆるじでくだざい・・・・生意気言って・・す・・すびません!・・・どうかお慈悲を!・・・虫のエサは・・嫌っっ!!」

 

 よほど虫が苦手なのか光速で土下座を行う女。涙と鼻水で顔がグシャグシャだ。

 

 それを見て仏のような微笑みを浮かべて術を解くナルト。

 

 「じゃあ、さっさと知ってることを洗いざらい喋るってばよう。」

 

 跪いたまま首を縦に高速に振る女。

 その顔は同情するほど真っ青だった。

 

 


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