かつての英雄に祝福を!   作:山ぶどう

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第27話 魔王の謎

 

 

 本日のクエストの張り紙を掲示板に貼り終わり、そろそろギルドの受付を開始しようとした頃でした。

 

 もはや冒険者ギルドの馴染みの顔である彼女達がやって来たのは。

 

 「あら、おはようございます。今日は随分とお早いんですね?」

 

 「ああ、おはようルナさん。こんな朝早くにすまない。」

 

 「いえ、そろそろ始めようと思っていたので、かまいませんよ。」

 

 ダクネスさんが爽やかに挨拶を返してくる。他の皆さんは挨拶もそこそこにいつもの席へと向かっていったので私に用があるのはこのダクネスさんだけなのでしょう。

 

 この街最強の冒険者、うずまきナルトさんのパーティ。

 メンバーは皆冒険者になって日の浅い方達ですが、つい先日魔王軍幹部ベルディアの討伐に成功した確かな実績のある冒険者達です。

 討伐金を得てからしばらくはギルドへ来てもクエストを受けずに他の冒険者さん達と朝から酒盛りをするばかりでしたが、ようやくクエストを受ける気になったのでしょうか?

 

 「それで、今日はどうなさいましたか?」

 

 「あー・・・その、新しい冒険者カードが欲しいんだ・・・・」

 

 「え?冒険者カードの紛失ですか?それは大変ですね。すぐに新しいものを発行いたしますので、こちらの方に手続きを・・・・」

 

 「あ、いや、私のはちゃんとある!私のではないんだ・・・」

 

 「えーと・・・それでは、一体どなたのを?申し訳ありませんが冒険者カードはご本人がいらっしゃらないと・・・・」

 

 「い、一応、連れてきてはいるんだ・・・・その、ここに・・・・」

 

 ダクネスさんは何故か緊張した様子で一本の大剣をカウンターの上にそっと置く。

 

 あら?この剣は確か・・・・・

 

 「・・・・ルナさん。突拍子のないことだが驚かずに聞いてくれ・・・・・

 この剣には悪霊が・・・ゲフンっ・・・・いや、精霊が宿っているんだ。」

 

 「え?」

 

 今、悪霊って言いましたよね?

 

 「ご存知のとおりこの剣は魔王軍幹部のベルディアが使っていたものだ。しかし、この剣に宿る精霊はとても清らかで無害なんだ。・・・・・・ほら、なんか言え。」

 

 ダクネスさんが語りかけると、剣はひとりでにカタカタと動き、その声を発する。

 

 「やぁ、僕は精霊のベル!よ、よろしくねっ!」

 

 無理やり声色を変えたような不自然に高い声が辺りに響く。

 

 「剣が喋った!?」

 

 「だから、言ってるじゃないかぁ。 僕は精霊だって。決して悪いことをする精霊じゃないから早く冒険者カードを作っておくれよー!」

 

 

 なるほど、そういうことですか。

 確かに意思のある剣なら冒険者カードを作ることも可能かもしれません。子狐のクラマ君用のカードを作ったという前例もありますしね。

 

 ただ、どうも胡散臭いんですよね・・・・

 

 明らかに演技をしているのが丸分かりですし、精霊とは自然が生んだ上位的な存在ですからそんな軽い口調で話しかけてくるわけがないんですよね・・・・。

 そもそもアンデッドが精霊を宿した剣を所持していたというのもおかしい話です。私もそこまで精霊に詳しいわけでは無いですが、アンデッドと精霊が共存できないくらいの常識は知っています。

 ・・・ということはこの剣は精霊ではない?

 あのアクアさんが除霊していないということは多分悪霊の類ではないのでしょうけど・・・・。

 

 うーん・・・まぁ、いいでしょう。

 

 多少引っかかりますが、ダクネスさんは誠実で信頼のできる方です。間違っても法に触れるようなことはしないでしょう。

 

 「それでは冒険者カードを作成いたします。特例としてプロフィールの記入はよろしいので、まずはこの水晶にに触れてステータスの表示をしてもらいます。・・・・えーとダクネスさん、剣の腹の部分を水晶に当ててあげてください。」

 

 「あ、はい。わかりました」

 

 「ダクネスそっとだよ?壊しちゃダメだからねー。」

 

 「わ、わかっているっ・・・・その気持ち悪い声であまりしゃべるな・・・・!」

 

 ダクネスさんが剣を恐る恐る水晶に触れさせる。すると水晶は淡く輝きだして下に置かれたカードに向って光線が放出され、数秒後には冒険者カードの作成が無事に完了しました。

 

 「はい、ありがとうございます。なんの問題もなく出来上がりましたね。」

 

 これで前代未聞の剣の冒険者が誕生したわけですね・・・・。

 

 そんなことを考えながら確認のために出来上がったばかりの冒険者カードを見る。

 

 ・・・・・・えっ?

 

 「・・・・・・・・」

 

 思わず沈黙する私にダクネスさんは額に汗をにじませながらオドオドと顔色を窺ってくる。

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・あの、思いっきり名前の欄にベルディアって表示されているんですけど・・・・

 

 これは・・・・・まさか・・・・・・・・

 

 

 

 「か、かなりの高ステータスですね!幸運値だけがアクアさん並に低いですが他はどれも人間だったら上級職になれるほどですよ!スキルポイントも初期から30もあるなんて凄いです!

 さ、さすがは精霊様ですねっ!」

 

 ・・・・・・・・よし、見なかったことにしましょう・・・・・

 

 わたしは何も見ていません。ベルディアは確かに討伐されましたし、剣になんてなっていません。

 ここにいるのはベルという名の精霊を宿した剣です。 

 

 なので、通報する必要もないですよね・・・・うん。

 

 ・・・・・・討伐賞金が三億エリスですからね・・・・・

 バレたら下手しなくても死罪確定ですよね、きっと・・・・・。

 

 

 私のことをうかがいながらビクビクしていたダクネスさんは心底安堵したように息をつく。

 

 「そ、そうか・・・・良かったなベルディ・・・・ゲフンっ・・・・ベルさん。」

 

 「そうだねー、嬉しいなー、やったー高ステータスだー、やったぁ、やったぁ、や・・・ゴフンっ、ゲホンっ、オエっ・・・・・の、喉が・・・・もう限界だ・・・・」

 

 「・・・・・だから余計なアドリブをするなと言ったんだっ!頼むから耐えてくれ!・・・・あと少しだからっ!」

 

 小声で聞こえないように言っているつもりなんでしょうが、すいませんけど丸聞こえですよ。

 

 「そ、それでは冒険者カードをお返しします。精霊の剣ベルさんの今後の活躍にギルド一同大いに期待しています」

 

 あまり活躍しすぎて注目されると足がつく恐れがあるので、程々にしてくださいとは言えない。

 

 「あ、ありがとう、ルナさん。それでは、私たちはこれで。」

 

 「ありがとー、受付のおねぇちゃん。」

 

 ダクネスとベルさんはそう言って逃げるように早足でギルドのカウンターから離れる。

 

 

 

 

 「どうだ?上手くいっただろう?」

 

 「ああ。なんとかな。まったくベルディアさんのせいで冷や汗ものだったよ。」

 

 「なぜだ!?俺の演技は完璧だったはずだ!女が想像するような可愛らしい精霊を見事に演じきっていただろう!」

 

 「いえ・・・・非常に言いにくいのですが・・・・・ただキモかっただけです。」 

 

 「なん・・・・だと・・・・」

 

 「まぁ、確かにベルディアは思っていたよりもキモかったけど。それでも私の言ったとおり余裕だったでしょう?」

 

 「そうだな。アクアが最初に言い出した時は高級酒の飲みすぎで知能値がついにマイナスに振り切ったのかと思ったが・・・・意外にあっさりとカードを作れたな・・・。」

 

 「俺も最初はそんな危ない橋を渡るのは反対だったけど、よく考えたら魔王と戦っていくなら必須アイテムなんだよなぁ、冒険者カード。」

 

 「スキルの会得はカードがないとできねぇしな。お、“浮遊スキル”があるぜベルディア。これがあれば一人で移動できるんじゃねぇか?」

 

 「いいな、それ!さっそく覚えよう!ポイントはまだまだ余裕があるからな。」

 

 「ストーカー魔剣が自分で移動できるようになったら、色々と不安なんですが・・・」

 

 「絶対、お風呂とか覗きそうよね・・・」

 

 「だからストーカーではないと言っているだろうが!」

 

 「ベルディア声がデカイ!地声だと気づかれるだろうが!」

 

 「というかルナちゃんは本当に気づいてないのかな?・・・・心配だってばよ。」

 

 「大丈夫ですよー。ナルじぃは心配性ですね。」

 

 「そうだとも、目の前で対応した私が保証する。ルナさんは少しも気づいた様子はなかったよ。」

 

 「俺も元騎士として洞察力には長けているつもりだ。その俺に言わせれば彼女は微塵も疑っていなかったな。この俺がベルディアだとは夢にも思わないだろうよ。」

 

 

 

 あのー、聞こえているんですけど・・・・・・

 

 もう疑うとかそういう次元ではないんですけど・・・

 

 

 人の少ないギルド内は驚く程声が通るんですよね。

 ・・・・彼等の内緒話の声が大きすぎるせいでもありますが・・・・・

 

 というか、本気で気づかれていないと思ってたんですか?

 

 周りの店員や他の冒険者さんがあなた達のことを心配そうに見ていますよ?

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 冬の訪れを感じさせるような肌寒い空に一羽のグリフォンが飛んでいた。

 

 ファンタジー世界ではお馴染みの鷲の上半身と獅子の下半身を持つ幻想生物。

 

 それが枯れ木の森の上を何かから逃げるような懸命さで必死に翼をはためかせていた。

 

 その大きな体躯にはクナイや手裏剣がいくつも突き刺さっていて、機動力が大幅に削がれているのがわかる。

 

 「待ちなさいよ!このチキン野郎!」

 

 低空飛行するグリフォンをアクアが本職の忍者のような身軽さで木々に飛び移りながら追跡していた。

 

 「待ちなさいって言ってるでしょ!こんのぉっ!」

 

 アクアが木の枝を踏みしめ大きく跳躍をしてグリフォンへと飛びかかる。

 翼を負傷したグリフォンにはそれを回避することは不可能だった。

 

 「うらぁ!!ゴッド・ブロー!!」

 

 グリフォンの背中にアクアの必殺の拳が炸裂する。

 カエルやベルディアにはまるで通用しなかったそれは確かな威力を持ってグリフォンを森へ叩き落とした。

 

 「行ったわよ!カズマ!」

 

 「あいよ!まかせとけ!」

 

 枯れ木に強く叩きつけられて必死に暴れ狂うグリフォンに警戒しつつ近づいていく。

 

 もがくように忙しなく翼をばたつかせていたグリフォンがようやく地面に着地した瞬間、俺は好機とみて印を素早く結んでそれを発動する。

 

 「“影真似の術”!」

 

 俺の影が一直線に伸びていき、グリフォンの影と繋がる。

 

 すると、グリフォンは暴れていた体をピタリと硬直させた。

 

 よし、影真似の術、成功。

 

 

 混乱したようにあちこちに視線を走らせ、動かない体を力ずくでどうにかしようと抵抗しているようだが、当然その程度で破れるはずもなく、その身をプルプルと震わせることしかできなかった。

 

 スキルポイントがやたら高くて習得することを悩んでいたが・・・なるほど。使える術だな。

 

 影真似の術。

 それは自分の影の形を自在に操り、影をつなげた相手に自分と同じ動きを強制する術。

 その縛る力はチャクラ量に比例するため、師匠の強大なチャクラを使わせてもらっている俺ならば大抵の相手なら影で縛り付けて自由自在にできることだろう。

 

  「さぁ、狙いやすいように急所をさらけ出させてもらうぞ・・・」

 

 両手を広げ胸を張るように動くと向こうも、翼を広げて無防備に心臓の位置をさらけ出す。

 

 「ダクネス!ベルディア!今だ!やれ!」

 

 「承知した!・・・・・はあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 雄叫びを上げながらグリフォンの方に駆け出していくダクネス。

 チャクラを収束させているのかベルディアの刀身がキラキラと輝いている。

 

 あの必殺技を出す気か・・・・今度こそ当たればいいが・・・・

 

 当たらなかった時のことを考えて、すぐに救出できるように身構える。

 

 「エクス・・・・・カリバーーーーーーッッ!!!」

 

 性懲りもなく格好良い聖剣の名前を叫びながら、ダクネスは力強く跳躍した。

 

 そのまま、真上からその必殺剣を振り下ろした。

 

 ズドンっと体の芯まで響く轟音と共に大地を揺るがすほどの衝撃が走る。

 

 剣がベルディアに変わったせいか、以前より威力が上がったんじゃないだろうか?

 

 周囲の枯れ木が吹き飛び、グリフォンがいた場所を中心に大きなクレーターが広がっていた。

 

 近くにいた俺?当然吹き飛ばされましたけど?

 

 土まみれになりながら、森の中を転がり、数メートル先の大樹にぶち当たってようやく止まることができた。

 

 クソ・・・痛てぇ!・・・あの、馬鹿力なガチムチ女騎士め・・・・!少しは考えて技を放ちやがれ!

 日課に成りつつあるSM幻術を今日はお預けにしてやろうか・・・!

 

 全身の痛みに顔をしかめながらヨロヨロと立ち上がる。

 

 砂埃は未だに晴れていないので戦況がどうなったのかまるでわからない。

 

 もし、またあの必殺剣が外れていたのなら腹立たしいことだが俺が筋肉痛に倒れているダクネスを回収しなければならないのだ。

 とはいえ、手負いのグリフォンに防御力が取り柄のダクネスがそう簡単に殺されるとは思えないので、もしクレーターの中心で怒り狂うグリフォンに啄まれていたとしてもしばらく助けずに放置してそのざまを眺めながら指をさして笑ってやるつもりだった。

 

 そんな想像をしながら初級風魔法のウィンドブレスで視界を晴らしていく。

 

 しかしクレーターが思ったより深くて遠くからではダクネスの様子がわからなかった。

 

 

 木から降りてきたアクアと合流してダクネスの元へと急ぐ。

 

 するとそこには

 

 

 「あ、あ、あ、あ、あ・・・・・・・・」

 

 血に染まったダクネスの姿が・・・・・

 

 「そんな・・・まさか、あのダクネスが・・・・」

 

 「うそだろ・・・?あの、ダクネスが・・・・・」

 

 血まみれのダクネスは目を見開きながらワナワナと震える。

 

 「あ、あ、あ、あ、あ・・・・・・・・・あたった・・・・・・・・当たったーーーーーっ!」

 

 返り血に染まったダクネスはようやく歓喜の声を上げる。

 

 その足元にはとてもグロイことになっているグリフォンの屍。もはやそれは原型をとどめておらず、ただの肉塊に姿を変えていた。

 

  「「よっしゃーーーーーー!当たったーーー!!」」

 

 俺達も両手を上げて自分のことのように喜ぶ。

 

 「うぅ・・・・・ノーコンクルセイダーだとか散々馬鹿にされてきた私がついに・・・・!

 街の中で素振りをしていてもどうせ誰にも当たらないだろうと衛兵さんに注意もされずにスルーされていた私が・・・・!

 どうせ当たらないんだから装備を盾に変えたほうが良いんじゃないかと武器屋のおじさんに毎回しつこく言われ続けていた私が・・・・!

 武器が無い方が強いんじゃね?メスゴリラだし!と近所の子供達にまで馬鹿にされていた私が・・・・!!

 ・・・・・・ついに・・・・モンスターに攻撃を当てることができたのだ!!」

 

 

 「おめでとう!ダクネス!!」

 

 「おめでとう。・・・・今までノーコンクルセイダーだとか言って馬鹿にして悪かったよ。」

 

 脱ノーコンを果たしたダクネスに温かい拍手を送る俺とアクア。

 

 「ありがとう・・・本当にありがとう・・・・二人のおかげだ・・・。二人がグリフォンを追い詰めてくれたおかげで私は・・・」

 

 「いや、俺が剣先をずらして当てに行かなければ今回も見事に外れていたわけなんだが・・・・」

 

 今まで大人しくしていたベルディアが堪りかねたように真実を口にする。

 

 「えっ」

 

 「いや、何を驚いた顔をしているんだ。今まで止まっている相手にすら外しまくっていた筋金入りのノーコンがいきなり治るわけがないだろう?俺のおかげだ。俺の!」

 

 「・・・・・・」

 

 「べ、ベルディア?・・・・ダクネスのことばかり褒め称えていたから拗ねているのは分かるけど・・・・ここは一つ、ダクネスに花を持たせてあげて?この子、結構ノーコンなのを気にしちゃってるのよ・・・・。ね、帰ったら刀身にあなたの好きな苺ジャムを塗ってあげるから・・・。」

 

 「べ、別に拗ねてねーし!」

 

 「まぁまぁ、ここは俺達四人全員の勝利ということで。なかなか良いチームワークだったと思うぜ。なぁ?」

 

 筋肉痛に震えるダクネスを背負う。相変わらずの重量感だった。

 

 「そ、そうだな・・・・私達の誰か一人でも欠けたらこの勝利は無かっただろう。

 なのに、すまないな・・・・ベルディアさん。私の攻撃を当ててくれたあなたを無視して・・・・。

 しかし、決してあなたを蔑ろにしていたわけではないんだ・・・・。

 ただ私が勘違いして舞い上がって勝手に浮かれてしまっただけで・・・・」

 

 「あー、いや、その・・・・俺の方こそ喜びに水を差してすまなかった・・・

 えーと・・・剣を振る姿勢とかはすごく良かったと思うぞ?流れるような動きで威力も申し分ない。

 ・・・・・ただ、攻撃が驚くほど見当違いな方向へ行ってしまうだけで。・・・・・んー、なぜだろう?・・・・

 あ、もしかして過去に命中率が極端に下がる呪いを受けたことは・・・?」 

 

 「・・・・そんな過去はない。・・・・そうだったら、どんなに良かったことか・・・・」

 

 俺の背中で落ち込み始めるダクネス。それを浮遊スキルで浮かびながら懸命に慰めるベルディア。

 

 「つーか、そんなにノーコンなのを気にしてたんなら、さっさと両手剣の修練スキルを取れば良かっただろうが。」

 

 「うっ・・・・」

 

 俺の真っ当な意見にダクネスが気まずそうに呻く。

 

 「ん?なんの話だ?」

 

 「いや、このドMクルセイダーはさぁ・・・攻撃が当たるようになって苦戦してボロボロになる機会が減るのは嫌だとかほざいて今までわざと両手剣修練スキルを取って来なかったんだよ。」

 

 「はぁ!?」

 

 「だからベルディアも別に慰める必要なんてねぇぞ。こいつの自業自得なんだから。」

 

 

 修練スキルとは取得するだけで武器への理解を深め、長年修練をしたかのように巧みに扱えるようになるという冒険者には必須のスキルだ。俺も片手剣スキルと投擲武器スキルの両方を取っている。ナルト師匠に言わせれば邪道らしいのだが、ド素人が少ないスキルポイントで武器をある程度使えるレベルにまで一瞬で成長できるのだから、効率よく強くなるのにそれを使わない手はない。

 だというのにこの常に自分の痛み優先のド変態はくだらない理由でそれを取得しないでスカスカ剣を外しまくっているのだ。そのことを落ち込み始めたとしてもそれは身から出た錆としか言えない。

 

 「え?カズマったら何を言っているの?」

 

 「あん?なにって・・・・事実だろ?」

 

 アクアが何故か不思議そうなに小首を傾げる。どうしてそんな顔をするのか俺の方もわけがわからなかった。

 

 「ああー!そういえばカズマはちょうど修行をしていた時期だから知らないのよね!忘れてたわ。」

 

 「え、なにがだよ?」

 

 「あ、アクア?それは内緒にしておいてって私言わなかったっけ?・・・・いや言ったよね?だから、言わないでくれると助かるんだが・・・・」

 

 「ダクネスはねっ!カズマが修行している間にこっそりと両手剣修練スキルを取っていたのよ!」

 

 「・・・・へ?」

 

 「言わないでって言ったのにーーーーっ!」

 

 俺の背中で煩く暴れるダクネス。

 

 修練スキルを習得していたということは・・・・まさか・・・・

 

 「そう。カズマならもう察していることでしょうけど、ダクネスはとっくに攻撃を当てるためのスキルを取得していたのにも関わらず・・・・・それでも、あのノーコンぶりを発揮していたの・・・・!」

 

 アクアは涙ながらにダクネスが胸に秘めたまま墓場まで持って行きたかったであろう真実を明かした。

 

 なんてことだ・・・・・・!

 修練スキルというのは言うなれば未来の自分の技術を前借りするもの。

 本来、修練を重ね行き着く先である己の技術を一瞬で体現させることができるスキルなのだ。

 それはもちろん個人差がある。才能の有無によって急激に強くなる者から、大した変化が無いものまで、その効果は理不尽なまでにバラつきがある。

 俺だってスキルを取ったのに師匠の納得がいく程の練度ではなかったから武具の修行を一からやり直すはめになるくらいの才能の無さを発揮した。

 

 それでも、修練スキルを取ったのにも関わらず、攻撃を尽く外すほどのド下手な剣術のままでいる奴なんて俺は他に聞いたことがない。

 数年間、剣の修行に明け暮れたと仮定して・・・・・それでも敵に一切攻撃を当てることもできないなんて・・・・悪夢だ。 

 

 ということは・・・・ダクネスの剣術の才能は・・・・伸びしろは・・・・・・もう、絶望的だった。

 

 

 「ダクネスっ・・・・お前・・・!そんな、ことに・・・・!」

 

 「あのベルディアさんの悲恋話にも涙を見せなかったカズマが泣いている!?」

 

 「自業自得とか言っちまって悪かった!まさかお前がそんな呪われた宿命を背負っていたなんて・・・・」

 

 ダクネスの心中を察して切なくなる。

 スキルを取っていない頃なら、“私はまだ本気を出していないだけ”と自分に言い聞かせることができたのだろうが、修練スキルを取得してもなお、あのノーコンぶりを発揮していたのならもう言い訳などできない。

 ダクネスはアクセル街一のノーコン騎士としての烙印を押されてしまったのだ。

 ・・・・・そりゃあ落ち込みもするよな・・・。

 

 「あ、謝らなくていいから!私をそんな哀れむような目で見るな!あーもうっ、こういうのが嫌だから内緒にしていたというのに!」

 

 「でもねダクネス。見栄を張りたいのも分かるけどカズマには言っておかないと後々、修練スキルを取れってしつこく言われ続けることになってたわよ?その度に切ない思いをするのは嫌でしょ?」

 

 「うぐ・・・・確かに・・・・」

 

 うん。ダクネスの悲しい真実を知らなければ、俺は絶対に攻撃を当てるためのスキルを取得するよう強要していたと思うよ。場合によっては影真似の術とパーフェクトスティールの複合技で脅迫していたかもしれない。

 

 「そう落ち込むことはないぞダクネス。俺も無駄に長いこと生きてきたから剣術の才能がまるで無い者は何人も見てきた。そういう奴らは自分の欠点を並外れた努力や創意工夫を駆使して補ってきたのだ。むしろ苦労知らずの天才より何度も壁にぶち当たったことのある凡人の方が後々名を轟かせることになる英雄になったものさ。」

 

 「・・・・しかし、止まっている獲物にも的を外す私が努力や工夫でどうにかなるんだろうか・・・?」

 

 「フ・・・そんなお前がさっき見事にグリフォンを仕留めて見せたじゃないか。お前にはこの俺がついている。何も恐れずに愚直に真っ直ぐ剣を振るえばいいさ。俺が必ず命中させてやる。」

 

 「・・・・ベルディアさん・・・・・」

 

 「何も俺の傀儡になれと言っているわけではない。戦いの主導権はお前が握れ。俺は多少助言をするのと剣の軌道を変えるだけに留めることにする。自信を持てよダクネス。お前の防御力とパワーは驚異的だ。そこに俺の経験と命中精度を合わせれば鬼に金棒だろう。もう己を恥じる必要は無いんだ・・・・。俺を装備したお前は欠点など無い完全無欠な騎士なのだから・・・」

 

 「・・・・ベ、ベルディアさぁーん!!」

 

 「ふふ、泣くやつがあるか。・・・・あと、俺のことは呼び捨てでいい。敬語も不要だ。今日から俺達は戦友なのだからな・・・・・」

 

 「ああ!・・・・わかったよベルディア!これからも不甲斐ない主だがよろしく頼む!」

 

 俺の背中でドМとストーカーのコンビが絆を深めていた。

 ちょっと、背中が冷たいんですけど・・・・鼻水とか垂らしてない?これ?

 

 

 ちょうどその時、聞き覚えのある強烈な爆発音と共に冬の季節には似つかわしくない熱風が頬を撫でた。

 

 「あっちの方も終わったみたいね」

 

 アクアがお弁当のハムサンドを口にしながら能天気に言う。

 

 師匠とクラマとめぐみんのチームがグリフォン四頭の討伐を終えたのだろう。

 

 爆裂魔法を最後の一頭を仕留めた合図にすると言っていたからな。

 

 これで合計グリフォン五頭を仕留めて討伐クエスト完了だ。

 

 「随分と早いな・・・・向こうは四頭だろ?」

 

 「おじいちゃんとクラマたんのコンビだからね・・・これくらい当然よ」

 

 「いつものことだ。ベルディアも慣れといたほうがいいぞ。・・・・あの人たちは規格外だから・・・」

 

 「・・・あの爺さんは俺にとって恐怖の対象だったんだが、味方にするとこうまで頼もしいものなんだな・・・」

 

 「あの人を敵に回して戦いを挑んでいたお前には心から同情するよ。

 ・・・・そんじゃあ、さっさと合流しにいきますか。」

 

 ダクネスを担ぎ直して、俺達は合流地点へと急ぐのだった。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 「クラマ、クラマ!今日の私の爆裂魔法はどうでしたか?ふふん。まぁー、聞かなくてもあれを放った私自身が一番分かっているんですけどねっ。それでも一応、この前私の爆裂魔法に難癖をつけてくれやがったクラマに今一度聞いてあげますよ!どうでした?ねぇ?どうでしたー?今回もパッとしない威力でしたか?ん?」

 

 出来上がったカップ焼きそばをグリグリとかき回しながらめぐみんは得意げな顔でワシを見る。

 ・・・イラつく顔だな、おい。

 形態変化を覚えて進歩したのは認めるが、ワシから言わせればまだまだ威力は物足りない。全魔力をこめて放つ一発限りの切り札なのだからこの程度で満足されたら困る。・・・・せめてワシの通常サイズの尾獣玉に迫るくらいでないとな。

 

 「ふん。調子に乗るな。お前なんてまだまだだ。」

 

 「な、な、な、なにお~~~~~っ!?この頑固者のツンデレ小動物め!前から思っていましたがその妙な上から目線は何ですか!」

 

 「ん?お前より格上の存在なんだからしょうがないだろう?」

 

 「よし、良いでしょう!それじゃあ勝負しましょうか!表に出てください!飼い狐に我がパーティの序列というものを刻み込んであげましょう!!」

 

 「おいおい止めておけ。後悔するぞ?ワシが封印を解いたらお前なんぞワンパンだぞ?」

 

 「まだ真の力が封印されているとかいう痛い設定を語っているんですか?」

 

 「設定じゃないわい!」

 

 「じゃあ私も真の力を開放しましょう!お酒をがぶ飲みして禁断の二発目の爆裂魔法を放ってやりますよ!・・・・・アクア!お酒を!」

 

 「ダメよめぐみん・・・・約束したでしょう?もう飲まないって・・・・きゃあっ」

 

 「いいから寄越すのです!早くお酒を・・お酒ぇ・・・・」

 

 アル中の駄目亭主のように酒を持つアクアににじり寄るめぐみん。

 ワシはその体を九つの尾で素早く拘束して外に放り出す。

 

 「寒っ!ちょっとクラマ、何をするんですか!・・・・・って入口がない!?わ、私の負けでいいですから入れてくださいクラマっ、さ、寒いのですっ!」

 

 もう酒を飲まないことを改めて誓わせると、入口を塞いでいた尻尾を開放してめぐみんを中に入れてやる。

 

 「ああ、寒い・・・・カズマ、私を暖めてください・・・・」

 

 「・・・・ほら、上着を貸してやるよ」

 

 「そういう意味では・・・まぁ、いいでしょう・・・・」

 

 カズマの上着を羽織りながら七輪に手をかざして暖を取るめぐみん。

 

 ここは合流地点に指定した大樹の真下。

 

 思っていたよりも雪が積もっていたので、そこに大きなカマクラを作ったのだ。

 

 さすがは工事現場で働いていただけのことはある。瞬く間に人間五人が入っても狭くないほどの巨大カマクラを建造してしまった。

 中は意外に温かく、七輪や食料や酒なんかを口寄せしてちょっとした宴会をしても寒さをまるで感じさせなかった。

 

 とはいえ、所詮雪の上なので、正直ワシはさっさと帰って暖かいホテルのベッドの上でぬくぬくしたいのだがな・・・・。

 

 「すっかり寒くなってきましたねぇ。最近は。」

 

 カップ焼きそばをチュルチュルと啜りながらめぐみんは言う。

 

 「そうだな。今の時期、まだ馬小屋で寝泊りしてたら凍死してたんじゃねぇか?」

 

 カズマが七輪の上の餅をひっくり返しながら、嫌な想像をしたのかブルリと身を震わせる。

 

 「実際この季節は馬小屋暮らしの貧しい冒険者の凍死者が続出するのだ。他の街ならその対策に避難所を設けたりするのだが・・・・・この街の領主はそんな良心的なことに金を使う気は無いのだろうな・・・・」

 

 ダクネスはきな粉餅をハムハムしながら忌々しそうに言う。

 

 「ふふん。死にそうなくらい貧乏な人を見かけたらこの女神さまが慈悲深い心でお金を貸してあげましょう!なんてったって今の私たちはホテル暮らしのセレブですからねっ!貧しい人々に少しくらいお金を恵んであげてもホテルで冬を越す私たちには余裕よ!」

 

 最近散財が激しい金食い女神は高級酒をマイカップに手酌しながらいやらしく笑う。

 

 「え?あのホテルで冬を越すつもりなの?それは無理だと思うってばよ・・・・。あそこ宿泊費が馬鹿みたいに高いし。」

 

 ナルトがカップラーメンに餅を投入しながら苦笑する。

 

 「大丈夫よ!私の計算だとこれから一年泊まってもお釣りがくるわ!ねっ、ベルディア!」

 

 「いや、どんな計算だよ!・・・俺も計算の方は得意ではないが、あのホテルは中々高そうだからな。もって半年位じゃないか?」

 

 浮遊スキルで浮かび上がったベルディアが自分の刃でチーズを切り分けながら答える。

 

 「アホか。あとふた月も泊まればワシらは文無しだっつーの!」

 

 金銭感覚の麻痺した馬鹿共に現実を突きつける。毎日高級酒をがぶ飲みするものだから三億エリスの財産はもう既に二割ほど消えている。今のペースで豪遊しまくったら下手したら後ひと月も待たずに貧乏冒険者へと逆戻りだ。ワシもあの馬小屋へ舞い戻るのはもう御免だが流石に宿泊場の格は下げたほうがいいだろう。

 

 「またまた~~クラマたんも大げさなんだから~!」

 

 「はっはっは!三億エリスがそう簡単に消えるわけがないだろう!」

 

 アクアとベルディアのコンビが能天気そうに笑う。

 他の連中も大金を得たばかりだという意識が強いせいか危機感を全く持った様子はなかった。呑気に餅なんか食ってやがる。

 まぁ、三億もの大金が底をつくというイメージがまだ持てないのかもしれない。金を得てからまだ一週間くらいしか立っていないしな・・・・。

 

 ま、今はいいだろう。財産が半分位になったら流石にこいつらも慌てることだろうし。その頃になって一般の宿屋に移住しても十分冬は越せるだろう。

 

 とりあえず今は大金を得て浮かれている馬鹿を諭すよりも、もっと実のある話をするべきだ。

 

 冒険者ギルドへ帰ったらどうせこいつらはいつものように他の冒険者達の酒盛りに混ざって日付が変わるまでドンチャン騒ぎをするのだろう。そうなったら真面目な話などできない。

 

 今のうちにベルディアに話してもらおう。魔王軍のことを。

 

 「おい、お前ら。少し真面目な話をするから一旦馬鹿話を止めろ。」

 

 弛緩した空気を引き締めるために威圧するような強い口調で言い放つ。

 そうすると、どうでもいい雑談をだらだらとしていたナルト達が喋るのをピタリと止めて、大人しくこちらへ注目する。

 ・・・なんか教師にでもなった気分だ。

 

 「くっ・・・なんで私はあの上から目線の狐の言うことにいつも従ってしまうのでしょうか?」

 

 「クラマたんは怒ると怖いからじゃない?」

 

 「わかる。なんかカミナリオヤジ的な怖さがあるよな・・・」

 

 「俺もいつも怒られてばっかりだってばよ。」

 

 「私は・・・・つい怒鳴られたくていつもわざと怒らせてしまうんだ・・・・」

 

 「やめてくれよ相棒。俺はまだ慣れてないからあいつの怒鳴り声にはビクついてしまうんだ・・・・」

 

 「静かにっ!私語は慎め!」

 

 ヒソヒソと小声で話すナルト達を一喝する。

 静かになるのを待って、改めてベルディアに向き直る。

 

 「それじゃあ、ベルディア。いい加減教えてもらおうか・・・・」

 

 「え?何をだ?あ、もしかしてアンジェリカのことをもっと聞きたいのか?しょうがないなぁ・・・じゃあ馴れ初めからもう一度・・・・」

 

 「違うっ!お前のブスな彼女の話なんてどうでもいい!魔王軍についてだよ!」

 

 とぼけた事を言うベルディアを怒鳴りつける。別にはぐらかしているわけではなく恐らく素で忘れているだけなのだろう。仲間になってからはベルディアの奴もコイツらの影響を受けて随分とユルくなってしまったものだ。今まで殺伐とした職場にいた反動だろうか?急激に馬鹿っぽくなっていくコイツにワシは驚きを隠せない。

 

 「ああ!そういえば全然そういう話をしていなかったな!俺としたことがうっかりしていた!」

 

 照れ隠しのつもりなのかクルクルとカマクラの中を鬱陶しく旋回するベルディア。イラッときたので尻尾を伸ばして叩き落としてやった。

 

 「言われてみれば、普通、真っ先に聞くべきことなのに魔王軍のことについて全く質問した覚えがないってばよ・・・・」

 

 「・・・そういえばベルディアって魔王軍の幹部だったわね。」

 

 「もはやただの言葉を喋る面白い剣という認識でしたね・・・」

 

 「私も風呂場にまでついてくるベルディアとの死闘の日々でそんなことすっかり頭から抜けていたな。」

 

 「むしろ魔王軍とか、もういいんじゃね?このまま皆で遊び人に転職して面白おかしく暮らしていこうぜ。」

 

 「ふざけてんのかテメェら!もう少し緊張感を持ちやがれ!・・・・・あと、カズマは後日、精神修行のやり直しな。二度とそんな舐めた口聞けないように再教育してやる。」 

 

 ひぇぇ、というカズマの情けない叫びを聞き流して、ベルディアに問いかける。

 

 「魔王軍について教えてくれるな?」

 

 「・・・ああ、もちろんだ。・・・とはいえ、何から話すべきか・・・・」

 

 ベルディアはようやく真面目な口ぶりになってしばし考え込む。

 

 「そうだな・・・まずは魔王軍の目的について教えよう。」

 

 「魔王軍の目的?それは女神である私も知らないことだわ。」

 

 アクアが珍しく真剣な目でベルディアを見つめる。

 

 「人類の抹殺とかではないんですか?」

 

 「うーむ。単純に人間の領土を奪うためでは?」

 

 「RPGじゃ人間への復讐とかがよくある話だな」

 

 「そういうのならまだ良いけど。病気の娘を治すためとか、同族の仲間のためとかそういう真っ当な理由だったら、やりづらいだろうなぁ・・・・そこら辺、どうなんだってばよ?ベルちゃん?」

 

 ベルディアは否定するように剣の鍔の部分をゆっくりと左右に振る。

 

 「残念だが全部違う。というか、この目的というのは恐らく魔王軍全体の総意ではないのだ。どちらかというと魔王個人の目的を叶えるため手段にすぎない。」

 

 「もったいぶらずに早く言え。なんなんだその魔王の目的というのは・・・・」

 

 ベルディアは「そう急かすな」と呟き。ナルトの煎れたお茶をマイペースに啜る。

 そして一息つくとようやく口を開く。

 

 「神の力の収集。それが魔王の目的だ。」

 

 「神の力?」

 

 「ようは神器と呼ばれる別世界からここへ送り込まれた転生者が持つ武具のことだ。またはそれに連なるものの回収を俺達幹部は魔王に命じられている。」

 

 「神器の回収・・・それって・・・えっと、どういうこと?」

 

 察しの悪いアクアにベルディアは優しく教える。

 

 「つまり、魔王軍が人間の領地に侵攻していたのは天界の神々を煽るためだ。魔物が人間を蹂躙すると神々が黙っていないことを魔王は知っていた。そして魔王の狙い通りお前達は神の力を宿した武具や能力を人間に与えてこの世界に送り込んだ。・・・全ては魔王の計画通りだったんだ」

 

 「な、なんですって!じゃあ私たちは魔王の野郎に踊らされていたってこと!?」

 

 「そうなるな。魔王軍が人間を襲うのも神の力を携えた英雄を釣るための撒き餌にすぎない。」

 

 「で、でも!ちょっと待って、それってやっぱりおかしいわ!神器が魔王軍に奪われたなんて話、私聞いたことない!これでもこの世界に来るまではちゃんとした職に就いた立派な女神だったのよ?その私が知らないなんておかしい!神器が魔物の手に渡るなんて大事件、天界全体に知れ渡っていてもおかしくないわ!」

 

 「・・・・・・この世界の神は、それを確認するために地上へ降りてきたか?」

 

 「ええ、私の後輩の女神がちゃんと確認しているはずよ。あの子は真面目だから些細な問題でも見逃すはずが・・・」

 

 「本当にそうかな?」

 

 「えっ?」

 

 「魔王を甘く見ないほうがいい・・・・・・あいつは、人の認識を簡単に捻じ曲げる。その女神がもし魔王に遭遇していたとしたら、無かったものを有ったという事実に変えられていてもおかしくはない。」

 

 「・・・・・・」

 

 催眠術というやつか。写輪眼でもその手の能力は存在するが、まさか魔王がその使い手だとは・・・。

 仮にも女神相手にそこまで完璧に催眠で認識を改変できるということは、恐らくは相当強力な術者だろう。

 

 「じゃあ、送り出した転生者達は・・・・まさか皆・・・」

 

 「いや、皆殺しにされたという事は無い。天界に勘付かれないように神器の回収にはかなり慎重になっていたようだったからな。大体、一年に3、4人のペースだ。」

 

 「あら、思ったより犠牲者が出ているわけではないのね。」

 

 「そうでもないさ・・・・・かなり昔から続けられていることだ。魔王に始末された転生者はもう100人は軽く超えるだろう。」

 

 「ひゃ、百人!?」

 

 「そう。それだけの神器が既に魔王の手に渡っているのだ。天界からしたら一大事だろう?」

 

 「そ、そりゃそうよ!こんな不祥事やらかしたらエリスのクビが飛ぶわ!女神から堕天して無職のプーさんになってしまうわ!ど、どうしましょう・・・自室で一日中パジャマのまま何もせずに膝を抱えて泣いているあの子の姿が目に浮かぶわ!可哀想!」

 

 頭を抱えてワナワナと震えるアクア。

 

 「魔王はそんなに神器なんて集めて何をしようってんだ?」

 

 使い物にならなくなったアクアに変わってカズマが聞く。

 

 「本人は魔族を導く神・・・魔神になるためだと公言しているが・・・・恐らく嘘だろう。」

 

 「ん?なんでだ?そうかもしれないじゃん?力を得るためというのが結構しっくりくる理由だと思うんだけど。」

 

 「それはない。なぜなら魔王は・・・魔神の如き力など、最初から持っていたのだから・・・・」 

 

 「えっ・・・」

 

 ベルディアはお茶を啜りながら話す内容を整理するように悩まし気に唸る。

 

 「んー・・・少し話は逸れるが、お前達はレベルアップの仕組みを正しく理解しているか?」

 

 唐突にベルディアがそんなことを言い出した。疑問符を浮かべながらもダクネスは答える。

 

 「確か倒した敵の魂の記憶の一部・・・・いわゆる経験値というものが自然と私達の中に蓄積していって、それが一定値に達するとレベルアップという現象が起きる。・・・・それで間違いないだろう?」

 

 「ああ。それで相違ない。だが、なぜそんなことが起きると思う?」

 

 「え?」

 

 「普通は有り得んだろう。目に見ることもできない魂なんてものを勝手に吸収し、それによってたかが人間が強大な悪魔やドラゴンに打ち勝てるほどの力を得るなど。スキル習得にしたってそうだ。お前らは当たり前な顔をして受け入れているが、何故ポイントなどというあやふやなものを割り振るだけで今まで扱ったことのない魔法や技術が体得できる?その力は一体どこから来る?」

 

 「うっ・・・あー、えーっと・・・・神様の、祝福・・・とかでは?」

 

 ダクネスが超自信無さげに答える。

 ベルディアはそれを聞いて動きを止め、押し黙る。

 長い沈黙が続き、ためて、ためて、ためて、ダクネスが泣きそうになった頃、ようやくベルディアは解答を口にする。

 

 「正解!よくわかったな!」

 

 「へ?」

 

 「そのとおり。それらは全て神の祝福によるものだ。」

 

 まさか適当に口にしたことが正解するとは思わなかったのか、ダクネスは引きつった笑顔を浮かべる。

 

 「この世界の生物は神からの祝福によりレベルアップやスキルの恩恵を受けて暮らしている。

 ・・・唯一、魔物を除いてな。」

 

 「なるほど。モンスターには神様の恩恵は与えられてないのか。まぁ、当然ではあるが。」

 

 「そう。魔物は滅ぼされるべき邪悪な者として神から見放されていた。だからレベルアップもしないし、生まれながら習得しているスキル以外は容易に覚えることができない。そういう存在のはずだった。・・・魔王が現れるまではな。」

 

 重々しく語るベルディアの言葉にワシ等は息をのんだ。

 ようやく話が見えてきた。そうか、魔王は・・・

 

 「魔王は突如この世界に出現し、全ての魔物に神の祝福と同じ恩恵を与えた。その日から魔物は人の命を奪うとレベルアップをして力が増すようになり、スキルポイントを得てより強力なスキルを簡単に習得できるようになった。それは魔王が神器を得るよりもずっと以前の話だ。奴は最初から魔物にとって神同然の存在だったのだ。」

 

 魔神の如き力とベルディアが評した訳がようやく分かった。大袈裟でもなく、何かの比喩でもなく、魔王は確実に神と同じ力を持っているのだ。

 

 どうやら魔王というのはワシとナルトをもってしても一筋縄じゃいかない相手のようだ。

 

 そのことが、つい嬉しくて犬歯を剥き出しにしてニヤリと笑う。

 胸の踊る戦いが近いうちに訪れる予感がした。

 ・・・なんだかワシ、ワクワクすっぞ!

 

 「じゃあ、そんな魔王が神器の力を手にして、一体何をしようというのですか?」

 

 めぐみんがいつになく緊迫した様子で問いかける。

 

 「すまんが俺も詳しいことはわからない。他の幹部も恐らく知る者はいないだろう。魔王とその側近の二人がとんでもない計画を企てているだろうというのはなんとなく察していたんだが・・・」

 

 「ん?側近とは誰ですか?」

 

 「魔王の右腕と呼ばれている側近だ。魔王と同じ仮面を被って一言も言葉を喋ったことのない不気味な奴さ。噂では魔王の身内らしいが・・・実際のところはよくわからない。魔王軍の中じゃ魔王に次ぐ実力者らしいが・・・」

 

 「へー。魔王軍のNO2ですか。ふっ、今の私とどちらが強いでしょうね?」

 

 「は?今のお前だったら瞬殺されると思うぞ?普通に。」

 

 「えっ」

 

 「いや、発動のタメの長い一発屋ウィザードが何を驚いた顔してんだ。当たり前だろうが。」

 

 

 しょんぼりするめぐみんを放置して、カズマはベルディアの茶碗にお茶のおかわりを注ぎながら言う。

 

 「それにしても教えられてもいない計画に魔王軍の幹部連中もよく協力しているよな?魔王軍全体の総意じゃないって言ってたけど、やっぱり従わない奴らもいるのか?」

 

 「いや、不満を持っている奴は確かにいたが、魔王の命令に従わない奴は皆無だった。皆恐れたのだ。魔王に逆らって恩恵が消されてしまうことを・・・。」

 

 「あー、なるほどね。」

 

 「幹部の中には俺のように自分の望みを叶えるための特別なスキルを求めてレベルを上げ、スキルポイントを貯めている者もいる。経験談だがそういう連中はどれだけ魔王に不満を持っていても離れることはないだろう。」

 

 「ん?そういえばお前はアンジェリカさんを生き返らせるために魔王軍にいたんだっけ?じゃあ、そのためのスキルをポイントを貯めて会得しようとしていたのか?」

 

 カズマの問いにベルディアは少しだけ言葉を詰まらせ、やがて自分の罪を噛み締めるように重く返答をする。

 

 「そうだ。俺はスキルポイントを得るために今まで人々を殺し、レベルを上げていった。全てはそのスキルを習得するために・・・。そのために・・・俺は・・・。」

 

 「ベルディア・・・。」

 

 「今思えば、何かに取り憑かれているようだった。何故あんなスキルに縋ろうとしたのか・・・。死者を弄ぶような・・・あんな術でアンジェリカを蘇らせても意味などないのに・・・」

 

 死者を弄ぶという単語を耳にして、なぜか妙に胸がざわついた。そんなわけがないと思いつつも嫌な予感は消えてくれない。

 

 きっとあいつも同じなのだろう。ナルトのやつが険しい顔をしてベルディアを見ている。

 

 長年の忍びとしての勘が何かを感じ取っているようだった。

 

 「なぁ、ベルちゃん。そのスキルはなんていう名前なんだってばよ?」

 

 ナルトが恐る恐る問いかける。その声にはそうであって欲しくないという願いが込められているようだった。しかし、その願いは虚しく崩れ去る。

 

 「“穢土転生”・・・・・そう呼ばれていた。魔王はそのスキルを餌に俺を仲間に引き入れたのだ。」

 

 その言葉を聞き、顔を歪ませてうつむくナルト。

 

 嫌な予感が的中してしまった。

 

 まさか、この世界でその名を聞くことになるとは・・・・。

 

 一体どういうことなのか?・・・・その術は・・・・・・

 

 「?・・・どうしたんだ?ナルトの爺さん・・・」

 

 ベルディアがナルトの様子がおかしいことに気づいて心配そうに声をかける。

 

 「その術は・・・・・・穢土転生は・・・・俺たちの世界の禁術だってばよ・・・」

 

 絞り出すようにそう口にするナルトに皆が驚きの声をあげる。

 

 穢土転生。

 それは二代目火影が考案し、大蛇丸が完成させた最悪の禁術。

 死者を現世に復活させ思うがままに操ることができる外道な術だ。かつては亡者の忍者を蘇らせ第四次忍界大戦を引き起こしたこともある厄介極まりないもので、ナルトもその戦いを終結させるために奔走した。

 滅びることのない肉体を得た亡者は術者が解除しない限り決して止まらず、それに操られた亡者は術者の命令に抗うことができずに生前の自我を保ったまま望まぬ殺戮に駆り出されるのだ。

 死者を愚弄する本当に卑劣な術である。

   

  「えっ、ナルじぃの世界って・・・前に話してくれたあれですよね?忍者とかいう職業のくせにまったく忍ばないで派手な技ばかりを好む、おかしなアサシンもどきがたくさんいるという、あの?」

 

  「どういうことだ?なんで師匠の世界の忍術を魔王が・・・?」

 

 カズマとめぐみんは狼狽えたように顔を見合わせる。アクアなんかは驚いた拍子に餅を喉に詰まらせたのか青い顔をしてダクネスに口の中に手を突っ込まれて救助されていた。

 

  「爺さんが異世界人だとは聞いていたが、まさか魔王も・・・?あ、もしや爺さんが以前言っていた愛する者を生き返らせようとした禁術というのは・・・」

 

 ベルディアが聞き捨てならないことを言った。

 おい、なんだそれ?ワシは初耳だぞ?

 

 ワシが鋭い眼光で睨みつけるとナルトはアタフタとして弁明をする。

 

 「え、いや、穢土転生ではないってばよ?あんな術は流石にいくら心が病んでいても手を伸ばさないってばよ・・・。俺が新しく開発した術だ。その、一応、禁術指定を受けてはいるけど・・・。」

 

 ああ、あの術か。

 

 確かに穢土転生のように外道な術ではないが、あれはほとんど自殺をするようなものだ。

 サラダとボルトが鬼のような顔でナルトに説教をして絶対に使わないことを誓わせていたが・・・こいつはやはりあの時、使うつもりだったのか・・・。

 

 ワシがジト目で睨めつけると、ナルトは誤魔化すようにゴホンと一つ咳払いをする。

 

 「とにかく今はっきりしていることは俺達忍者と魔王には何らかの繋がりがあるって事だってばよ。

 ・・・・あるいは・・・・もしかすると・・・」

 

 ナルトは真剣な表情で七輪の中で火花を散らして燻る炎を見つめながらゆっくりと口を開く。

 

 「魔王っていうのは、俺達の世界の、忍者なのかもしれないってばよ・・・」

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 うん、真剣な話をしているのはわかるよ?

 

 驚くべき事実が次々と明らかになってきて、そのことについてこれから皆でじっくり話し合うべきなのは重々承知だよ?このタイミングで席を外すのはアクア以上に空気が読めないことだというのはわかってる。

 

 わかってるんだけど・・・・・。

 

 「悪い!俺、ちょっとションベン行ってくる!」

 

 そう宣言して立ち上がると、皆が呆れた顔で見てくる。

 

 しょうがないだろ!生理現象なんだから!

 

 まぁ、確かに外が寒いからって横着してギリギリまで我慢していた俺も悪いとは思うよ?

 でも、いつも大体馬鹿話しかしてこなかった俺達が急にこんな真面目な話を始めるとは思ってもみなかったんだ。だからトイレに行くタイミングを完全に逃してしまった。

 これでも大分我慢した方なんだ。もう、俺の膀胱が限界値をとっくに超えている・・・!

 今、行っておかないと最近妙に俺に懐いてくるめぐみんに幻滅される事態に陥るだろう。

 こんなところで貴重な俺のフラグを折ってたまるか!

 

 俺は脂汗を流しながらカマクラを飛び出した。

 

 「なるべく遠くでしなさいよー!カズマの黄色い聖水なんて私みたくないんだからねー!」

 

 「わかってるわっ!」

 

 デリカシーの欠片もないアクアへ怒鳴り返す。

 そして、俺はアクアに言われたとおり決壊寸前の膀胱を抱えてなるべく遠くへ移動するのだった。

 

 後になって思えば、もうこの時にはフラグが立っていたんだ・・・。

 

 

 そう、死亡フラグというやつが・・・。

 

 

 

 

「・・・はぁーー・・・・間に合った―――・・・」

 

 あまりの開放感に間の抜けた声が思わず口に出る。

 美しいアーチを描きながら俺の聖水は白銀の雪を溶かしていく。そこからほかほかの湯気が立ち上がっていてとても温かそうだった。

 めぐみんに防寒服の上着を貸しているせいか冬の寒風が随分と身に堪える。いつものジャージだけでは明らかに役不足な装備だった。一陣の木枯らしが吹きつけ、小便をして体温の下がった身体がブルりと震える。

 

 うー、寒っ・・・!

 女性陣に小便の形跡を見られたくないからって、ちょっと遠くに来すぎたかな?。

 早くカマクラに戻って熱いお茶でも煎れてもらおう・・・。

 

 スッキリした愚息をしまいこんだ俺は寒さに身を縮ませながら早足で来た道を引き返そうとした。

 

 その時だった。

 

 目の前を何か白いものがフワフワと横切って行った。

 なんだろうと思い、よく目を凝らして見てみると小さな雪玉につぶらな瞳が付いている不可思議な生き物が空中を漂っていた。

 

 「あれは確か・・・雪精だっけか?」

 

 以前、この世界の知識に乏しい俺にダクネスが教えてくれたことがある。

 なんでも冬の精霊で厳密に言えばモンスターには分類されないが、雪精が一匹いなくなると春が一日早く訪れるという迷信じみた現象が実際に起きるので割と高額な報酬でギルドに討伐依頼が張り出されているらしい。

 

 具体的に言うと一匹十万。

 

 警戒する様子もなく無邪気に漂っている雪精を眺めてニヤリと笑う。

 

 いやー、金なら余る程あるんだけどなー。いまさら十万程度のはした金なんて別に全然欲しくもなんともないんだけどさー。寒いし余計な労力を使いたくないしー。早く帰りたいんだけどなー。いやー、でも、せっかく目の前に降りてきた幸運をみすみす逃したらバチが当たるよな?

 これはきっと女神エリス様から日頃頑張っている俺へのご褒美ということなんだろう。

 うん。きっとそうに違いない。だったらその好意を無碍にするのもなんだし、ありがたく頂戴しましょうか。

 

 忍具入れから静かにクナイを取り出す。金にがめつい貧乏冒険者なら血眼になって追い掛け回すのだろうが、今の俺は違う。逃げられるなら別にそれでも構わない。財産が億単位のこの俺にとってそれほど執着するものではないのだから。

 そんな冷静な面持ちでクナイを構え・・・・・

 

 「死ねやこらぁ!!」

 

 雪精目掛けて思いっきり投擲した。

 投げる寸前なぜか標的に気づかれてしまったが、距離が近かったおかげかなんとか命中させることができた。

 クナイに穿たれた雪精はあっさりと崩れて溶けるように消えていった。可愛らしい見た目のため少しだけ良心が痛むが、これも厳しい自然の摂理。弱肉強食の世界なのだ。どうか許してくれ。

 

 それはさておき、とりあえずこれで十万ゲットだぜ!

 へへへへ、楽勝すぎだろ!

 

 雪精をあまり乱獲しすぎると冬の精霊たちのボスである冬将軍とかいう超危険な奴が現れるらしいが、まぁ一匹くらいなら大丈夫だろう。

 

 「さて、思わぬへそくりを得たことだし、今日はダスト達の言っていたエロい店にでも行っちゃおうかなー」

 

 ホクホク顔で投げたクナイを回収し、今度こそ戻ろうと雪道を踏みしめて歩きだそうとすると、また森の奥からフワフワと雪精がやってきて・・・・・

 

 うん、もう一匹くらいなら大丈夫だよな?

 

 そう自分に言い聞かせて俺は舌舐めずりをしながら再びクナイを構えた。

 

 

 

 そこから先は怒涛の雪精ラッシュだった。

 もう次から次へと雪精が出るわ出るわで笑いが止まらなかった。

 

 「ふははははは!これで二十九匹目!あと一匹で三百万だぁ!!」

 

 笑いながら雪精をクナイで切り裂いていく。

 本当は豪火球の術で一気に焼き払いたいところだが、熱波を感じて他の雪精が逃げていくかもしれないので一匹ずつ直接手を下していく。

 

 森の奥から更に数体の雪精が飛び出してくるのを見て俺は歓声をあげる。

 

 「ヒャッハーーー!また来やがったぜーーーっ!!」

 

 あはははははは!俺って本当に運がいいな!いや、これはエリス様の祝福かぁ?ありがとうエリス様!愛してるぜ!

 よーし、今日はとことん雪精を狩るぞ!今日一日で忌々しい冬の季節を終わらせてやる!

 

 俺はそう意気込みながら影分身達と共に雪精達に襲いかかるべく駆け出そうとする。

 

 すると、突如、近くの大木が何者かに切断され大きな音を立てて薙ぎ倒された。

 

 ギョッとして固まる俺の前にそいつは圧倒的な存在感を持ってその姿を現す。

 

 精巧な雪の彫刻がそのまま動き出したかのような汚れのない純白な姿。唯一兜の下から覗くその鋭く細められた眼光だけは心の内に秘めた激しい憤怒を思わせる不吉な深紅の輝きを見せていた。

 そして氷を鋭く削り出したような透明感のある美しい刃を煌めかせ、その切先を真っ直ぐ俺の方へと向けている。

 

 「・・・・・・・・・・・・・・」

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 ある日、森の中、冬将軍に、出会った・・・・・・・・・・

 

 

 嫌な汗がダラダラと流れる。

 

 ず、ずいぶんと殺気立っていらっしゃる・・・・・・

 子分の雪精達を大量に消滅させた俺に対してとんでもなく怒っているのが伝わってくる。

 やっべー・・・雪精狩りについ夢中になって冬将軍のことを完全に忘れていたよ・・・。

 どうしよう?やっぱり逃げるべきだよな?

 アクアが前に「冬将軍は寛大だから土下座をして誠心誠意謝ればいざという時は許してくれるわ」なんて言ってたけど全っ然そんな空気じゃないぞ・・・・・今土下座なんてしても絶対、下げた頭に容赦なく刃を振り下ろされて首チョンパされるだろう。間違いない。

 

 俺の生存本能が全力で逃走することを訴えかけてくる。

 逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ・・・早く逃げろ!

 

 影分身と影真似の術で足止めして本体の俺は仲間のいるカマクラへ猛ダッシュ。うん、その作戦でいこう。逃げるが勝ちだ。

 

 そう考えながら震える指で影分身の十字印を結ぼうとしたとき、

 ・・・・・ふと、脳裏に余計な思考がよぎる。

 

 ・・・・いや、ちょっと待てよ?本当に逃げる必要はあるのか?

 

 つい先日この俺のことを勇者みたいだと言って信頼に満ちた熱い眼差しを向けてきためぐみんを思い出す。

 

 そう、俺は勇者カズマ。仮にもあの魔王軍幹部と勇敢に戦い、見事に打倒してみせた男。

 師匠から一人前の証である額当てを譲り受けた、もう立派な忍者でもある。

 よく考えてみれば、なぜこの俺様が負け犬のようにおめおめと逃げ帰らなければならないんだ?

 ちょっと、弱者でいた期間が長すぎて俺は自分のことを過小評価しているだけなのではないだろうか?

 

 俺の中の生存本能が口汚く罵りながら逃げろ逃げろとしきりに警報を鳴らしているが、理性的な俺はそんな本能なんて非科学的なもの鼻で笑って無視をする。 

 

 俺は幸運に恵まれた男だ。冬将軍などという精霊なのに特別指定で高額な懸賞金がかけられているA級危険度の相手に巡りあったのも、もしかしたら幸運なことなのかもしれない。

 

 ここでこいつを討ち取れば、俺はさらなる力・・・・圧倒的な財力を手にするだろう。

 あの、可愛いメイドさんがいる高級ホテルを金にものを言わせて手中に収めることも可能だ。

 レベルも相当上がるだろうし、それにちょうど俺もダクネスみたいな強力な武器が欲しかったんだ。

 その、切れ味が凄そうな刀を貰い受けようか・・・・。

 

 気合を入れるように額当てをギュッと強く結び、冬将軍を睨み返す。

 眼に力をいれると、またあの時の鮮明な視界に切り替わる。

 うん、なんか、いける気がする。

 よし冬将軍なんて返り討ちにしてやるぜ!

 

 「冬将軍狩りじゃあぁぁぁ!!しゃーーんなろぉぉーーー!!」

 

 雄叫びをあげ、千鳥の迸る雷と共に俺は冬将軍へと襲いかかった。

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 「っ!?・・・・カズマのチャクラが・・・・・消えた・・・?」

 

 「え、どうしたのお爺ちゃん?カズマがどうかした?」

 

 「そういえば随分遅いですね・・・オシッコにしては長すぎます・・・」

 

 「な、なんだか、ひどく胸騒ぎがするのだが・・・」

 

 「ダクネスもか・・・実は俺も何だか嫌な予感がするんだ・・・」

 

 「カズマの身に何かあったのかもしれんな・・・・お前ら!探しに行くぞ!」

 

 

 




本当に今更ですが魔王は原作とは異なります。

それに伴い、幹部達も結構変えていく予定です。

確実にこの魔王軍には入らない人もいますしね・・・。


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