かつての英雄に祝福を!   作:山ぶどう

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第20話 奮闘

こんな俺が騎士を志した理由は一体なんだったのだろうか?

 

罪のない誰かを殺めた日の夜には、いつもそんなどうでもいい疑問を自分に投げかける。

それはさして意味のないことだ。分かっている。自分の起源を今更知ったところで俺は何も変わらないし、変われない。

俺は自分の望みを叶えるためだけに魔王様の命令に従い、人間を殺す。ただ、それだけだ。

最早そこに騎士としての矜持などなにもない。

人の命を奪う忌むべき魔物。それが今の俺だ。

そう、頭では分かっていても何かを求めるように心が過去へと飛んでしまう時がある。

辛い現実を酒で忘れるように気が緩むと軟弱な魂が過去へと逃避を始めるのだ。

 

生前のことは今でもよく覚えている。苦しくなるほど鮮明に思い出せる。

それでも、ただ一点、思い出すことができないことがあった。

 

あの頃の自分が騎士などというものを目指した理由が何一つ思い出せない。

 

それだけが、小さな穴が空いたように記憶から消え失せている。

それが、どうも奇妙なのだ。

 

そんな大事なことを忘れてしまっていることもそうだが、よくよく考えてみると、あの頃の俺が騎士を目指すこと自体が不可解なのだ。

 

なぜなら、騎士などという高潔な大人など俺の周りには一人もいなかったのだから。

 

 

俺はとある大国の“ネズミの巣”と呼ばれる荒れ果てた街で育った。

その名の通り人間がネズミのような生活を強いられる素敵な街だ。

人々は常に腹を空かせ、ゴミのような食べ物を得るために毎日必死だった。

もし誰かに故郷で思い出深い食べ物は?と聞かれたら「腐った野菜の根」とか、「雨水の雑草スープ」としか答えられないだろう。それだけ食べるものというものが無かったし、数少ないそれを巡って争いが絶えなかった。

人を殴る音と誰かの悲鳴が聞こえない日は無く、道端に死体が落ちていることも珍しくない。

見慣れたそれを素通りするのは物心が着いた頃にはもう当たり前のことだった。

それはやせ細った大人の男だったり、弱そうな老人だったり、若い女の時もあれば、その頃の自分と変わらない小さな子供の時もあった。

そいつらの共通点はただ一つ。弱者であること。

不運にも上等な食料を手に入れてしまったか、強者の機嫌を損ねたか、あるいは退屈な誰かの暇潰しとかそんな下らない理由もあの街なら有り得る。

あの街には二種類の人間しかいない。奪う者と奪われる者だ。

金も食料も命さえ油断するとあそこでは容易く奪われるのだ。

そんな街に信用できる人間なんて皆無だった。

 

みんな常にしかめっ面を浮かべていて、もし誰かが素敵な笑顔を浮かべればそれは十中八九、他の誰かを騙そうとしている時だ。

特に女はそういう手を心得ているのか俺も幼い頃に随分と純粋な心を汚されたものだ。おっぱいを見せてあげるなんて言われたらそりゃあ純粋な子供は僅かな食べ物を差し出してでも見たいと思ってしまうものだろう。

それがまさか、乳首に毒針を仕込んでいるなんて・・・危うく死にかけたぞ。

 

両親にしてもロクデナシ中のロクデナシという感じだった。下衆どもの集うネズミの巣のご近所でも有名な、親が子供に与える外道な行いを全てやり尽くしたと言っていいくらいの完全なる駄目親だった。

子は親を選べないというが、まさかこの地獄のような街で最大のハズレくじを引くことになるとは、どんだけ付いていないんだ俺は。

 

まともな人間なんてあそこには誰もいなかった。

 

きっと最初からそうではなかったのだろうが、誰もが極度の貧しさに人としての心を失い、魔物のような悪の塊に変貌していた。それは俺も例外ではなく、あの街にいた頃は誰かを傷つけることに疑問なんて沸かなかった。奪うことは当たり前で、弱いことは罪だった。

 

あの頃、俺は知らないことが多すぎた。

あまりに殺伐とした世界に優しさを知れず。

罪を犯すことが当たり前の日常に誇りを知れず。

ダメな大人ばかりに囲まれたせいで気高さを知れず。

与えられたことが一度もないから愛情も知らなかった。

 

そんな俺がどうして騎士なんて身の程知らずなものになろうとしたんだろうか?

噂話に出てくるいけ好かない偽善者。そういう情報しか知らなかったはずなのに。

 

なぜ俺は、騎士になってしまったのだろう?

 

あの頃の何も知らない罪深い子供のままでいれば、

 

・・・・こんなにも苦しまなくて済んだのだろうか?

 

脆弱な魂がまた、余計な想いを心に描く。

 

水に溺れるような息苦しさを覚えて、たまらず空を見上げるが、星一つ無い曇天に答えなど見つからずまた首のない頭を俯かせるしかなかった。

 

明日もまた、殺戮のための異動が始まる。

次の目標地点はそう、駆け出し冒険者の街「アクセル」だったか・・・・・

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

アクセル街の正門前は緊迫した空気に包まれていた。

 

大勢の冒険者が武器を強く握り締めながら目の前の戦いを固唾を飲んで見守っている。

 

「お、おい、俺達も加勢したほうが良いんじゃねぇか?」

 

「あ、あんな戦いに割り込めるわけねぇだろ。俺達が出て行っても邪魔なだけだ・・・」

 

ある冒険者が耐え兼ねたようにそう口にするが、言われた方は卑屈そうな顔で下を向く。

同じ顔の者は少なくない。ベルディアの強大な殺気をぶつけられたことで戦意を削り取られたようだった。

駆け出し冒険者の街といっても若いルーキーばかりではない。

中にはそこそこのレベルの熟練冒険者もいる。

そいつ等まで揃いも揃って不抜けているのには理由があった。

 

「はぁぁぁああああああ!!」

 

街の冒険者の総数を遥かに上回る数でベルディアを取り囲むカズマの影分身。

クナイを逆手に持ち、次々に斬りかかるカズマ達。

その練度は決して悪くない。フェイントを混ぜながら、影分身同士のコンビネーションをちゃんと意識している。

ナルトの教えをよく守っている証拠だ。

しかし、相手が悪過ぎた。

 

「温いっ!!」

 

不甲斐ないとでも言いたげに一喝すると、大剣を暴風の如く振り回すベルディア。

それに成す術なくカズマの集団は煙に変えられていく。

ベルディアは鬼のように強かった。

我武者羅に振るっているようでその実、精錬された強者の武技である。

 

それを見て顔色を悪くしながら震え上がる冒険者たち。

この街の猛者と呼べる者たちはベルディアの殺気に当てられた時、一人残らず植えつけられた。

吐き気が覚えるほど暗く濃い、死のイメージを。

そしてそのイメージを体現させるように影分身を葬っていくベルディアの強さに、経験豊富なゆえに確信してしまったのだろう。

立ち向かったところで、目の前の分身達のように簡単に斬り殺されるだけだと。

 

「なんで・・最弱職のあいつが戦っているのに、俺達は・・・」

 

ダストと呼ばれる若者が、悔しそうに拳を握りながら呻いた。

 

 

 

「さ!・・と!・・・う!!・・・」

掛け声とともに集団で下段蹴りを放つ。体勢を崩すことを狙ったようだが、しかしベルディアの足は大地に根を下ろした大樹のようにピクリとも動かない。

 

それに構わず、千体に及ぶカズマの影分身が鋭いクナイを閃かせて、ベルディアに殺到する。

 

 「カズマ連弾!!」

 

それを迎え撃つでも、避けるでもなく、ベルディアは腰を深く下げて全て受けきった。

 

ギギギギギギギギギギッと硬いものを切りつける硬質な金属音が断続的に響き、

 

「うわぁっ!」

 

わずかな隙を見て、大剣を一閃させて複数の影分身を一瞬にして煙に変えた。

 

「悲しいが、レベル差というやつだ。お前の攻撃ではいくら重ねようと俺には届かん。」

 

そう言ってベルディアは剣舞のような滑らかな動きで影分身達を次々に蹂躙していく。

時にはなぎ払い、振り下ろし、乱れ突き、拳打を浴びせ、蹴りを放つ、時折怪しげな魔法で攪乱までする。縦横無尽に動き回る姿は戦士として、すでに完成されていた。

前回のホモ魔剣士とはわけが違う。今回の相手は百年もの年月を戦いに費やしてきた不死の騎士だ。わずか一ヶ月余りの戦闘経験しか持たないカズマとでは天と地ほどの差があるのだ。

千体あった影分身はすでに三割以下にまでなっていた。

 

煙玉も幻術もスティールも何一つ意味をなさなかった。

あの頭上でベルディアの頭を保護している“イービルアイ”という術のせいだ。

邪悪に光る一つ目が幻術を看破し、巻き上がる煙を見通し、弱点の頭をスティールから守っているのだ。

おまけに解析能力まであるらしく、カズマの動きをパターン化して完全に見切っていた。

 

唯一当たるのが昔のナルトのような数に物を言わせた集団特攻だが、それも火力不足で何一つ決定打を与えられずにいた。

 

「舐めんな!」

 

カズマの影分身達が四方八方からベルディアに手裏剣を浴びせる。

その凶器の雨をベルディアは曲芸のように器用に大剣を回転させ、なぎ払っていく。

打ち返された手裏剣に当たって更にカズマの分身たちは数を減らしていった。

 

「クソッ、火遁・豪火球の術!」

 

カズマが印を結ぶと同時に息を大きく吸い込み、その口から身の丈ほどの大きさの火球を吐き出した。

ベルディアに向かって直進する豪火球。まともに命中すれば確かなダメージを与えられるほどの火力だ。

それをやつは恐れる様子を微塵も見せずに走り出し、その勢いのまま袈裟斬りに大剣を振るい豪火球を見事に両断してみせた。

 

「お前が本体だな?」

 

「クッ・・・・」

 

そのまま距離を詰め、カズマに向って大剣を横なぎに振るうベルディア。

カズマは攻撃範囲の広いその攻撃を影分身を踏み台に空中に逃れることでなんとか躱しきる。

しかし、ベルディアは大剣を高飛びの棒のように地面に突き刺してカズマに追い迫るように空中へ勢いよく飛び上がった。

右腕を大きく振り上げ、唖然とするカズマの腹めがけて拳を振り落とした。

 

「ゴッ・・ハッ・・・!!」

 

拳が腹にめり込みカズマの体が空中でくの字に曲がる。そのまま凄まじい勢いで地面に叩きつけられた。

地に激しく体を打ち付けられ、壊れた人形のように力なく横たわる。

 

「「「カズマぁっ!?」」」

 

仲間の三人が悲鳴を上げる。

足手まとい二人を置いてアクアが駆け出すが、その行く手を着地したベルディアが塞ぐ。

 

「もう10分か・・・思ったよりも時間が掛かってしまったな。」

 

「そこをどきなさいっ!クソアンデッド!!」

 

「残り20分。どれ・・少しペースを上げるとしよう・・・」

 

そう言ってアクアに向かって大剣を振り下ろそうとするベルディア。

 

――――――その油断しきった背中に豪火球が炸裂した。

 

「ぐぁあああっっ!!」

 

ベルディアの後ろには影分身に両肩を支えられた満身創痍のカズマが不敵に笑っていた。

 

「へへ・・ようやく、イイのが一発入ったな・・・あと千発は・・・おみまいしてやるよ」

 

すでにカズマの体はボロボロだった。拳とはいえ魔王軍幹部の一撃がまともに入ったのだ。

初級冒険者の域を出ないカズマのレベルでは相当のダメージだろう。

恐らくは大の男でも泣いてのたうち回る程の痛みに襲われているはずだ。

しかし、それでもカズマは笑っていた。

脂汗を流して殴られた腹を片手で押さえながらもカズマは獰猛に笑ってみせた。

その瞳は全く死んでいなかった。ギラギラと輝く瞳には確固たる決意を宿している。

昨日までの逃げ腰でヘタレだったカズマはもういない。

仲間を守るという不屈の意志の下、軟弱だったカズマの精神が一人の立派な忍びとして成長を遂げていた。

 

その姿がどうしても、かつてのナルトと重なってしまい胸の奥が熱く震えた。

 

「・・・お、おのれ・・・この死にぞこないが!!」

 

背中から煙を上げながら、カズマに向かって駆け出そうとするベルディア。

 

その背に・・・

 

「“ターンアンデッド”」

アクアの浄化魔法の光が再び襲う。

 

「ぐぬぅ・・・・」

 

「どきなさいって言ってるでしょ!邪魔っ!!」

 

硬直したベルディアを蹴飛ばしてカズマの元へ駆け寄るアクア。

すぐさまヒールをかけてカズマの腹を治癒する。

 

「うっわ、いったそー・・・骨がバキバキに折れて内蔵に突き刺さってる・・・ねぇ、なんでこんな状態で立ってるの?Mなの?ダクネスと同じドМなの?」

 

「・・・うるせーな・・めぐみんを助けるためなら多少の無理はしょうがねぇんだよ。相手は魔王軍の幹部なんだからな・・・それぐらい覚悟しないと、届かねぇ・・」

 

「う・・い、言いづらい・・朗報なはずなのに言えない・・・わ、私、今日初めて空気を読むということを覚えた気がするわ・・・うん、私は今、空気を読みました。」

 

「あん?ボソボソと何言ってんだよ?」

 

「な、なんでもないわ!が、頑張ってね!!あまり無理したらダメよ」

 

「おう!サンキュー。でも流石だな、あれだけの怪我がもう完治してやがる。うん、これでまだ、戦える」

 

カズマがチャクラを更に練り上げ、影分身を増量させる。

 

「さて、お仲間との別れは済んだか?」

 

それを硬直が解けたベルディアに向って特攻させた。

 

「「「火遁・豪火連球!!!」」」

 

影分身たちの放つ豪火球の乱れ打ち。

それをベルディアはもう見切ったとでも言うように軽やかな身のこなしで躱していく。

そして刃を煌めかせ、一人、また一人と次々に始末していく。

 

それを少し離れた後方から真剣な顔で見守るカズマ。

影分身の情報を蓄積しながら必死に活路を見出そうとしているようだった。

 

「アクアは下がっていろ。危ねぇからな。」

 

「何言ってるのよ。私の浄化魔法で動きを止めればさっきの口から吐くやつを当て放題じゃない。私も一緒に戦うわ!」

 

掌に拳を打ち付けてやる気満々のアクアにカズマはゆっくりと首を横に振ってみせる。

 

「もう、あの浄化魔法は当たらねぇよ・・・完全に警戒されちまってる。発射速度も遅いし不意をつかないとあれは絶対に当たらない。」

 

「だったら、不意をつく方法を考えなさいよ!」

 

「え?」

 

「一人で戦うなんてどっちにしろ限界があるの!本当に何が何でも勝ちたいんだったら私の力をちゃんと使いなさいよ。この私を物としてこの世界に持ってきたんでしょ?だったらちゃんと上手に使いなさい。言っておきますけどこの女神アクアの力はそんじょそこらのチート持ちなんかよりよっぽど強力なんですからね!」

 

「・・・・・」

 

「あんたがめぐみんを守りたいように、私たちだってカズマがボロボロに傷ついた姿を見るなんて嫌なのよ。あの動けない足手まとい達はともかく、私は元気なんだから黙って後ろで見てろなんて言われても困るわ。ゲームでもボス相手にパーティーが力を合わせて集団でボコるなんて常識的な攻略法でしょう?何を素直にタイマンなんて張ってんのよ?馬鹿なの?」

 

「・・・・先程、タイマン勝負とかほざいて単独で突っ込んで自滅した女神がいた件について・・・・」

 

「黙りなさい。全く人の揚げ足ばっかりとって・・・・だからあんたはヒキニートなのよ。そんでヒキニートならヒキニートらしく得意なゲーム知識でも披露してもっとうまくやりなさいよ。最初の街に攻めてくるような序盤ボス風情にいいようにやられてんじゃないわよ。」

 

「ヒキニート言うな。はぁ・・ったく好き勝手言いやがって・・・」

 

カズマはため息をつきながらもどこか嬉しそうに口角を上げ、アクアに向って拳を突き出す。

 

「期待してもいいんだな?アクア。」

 

それに対して得意げに笑い、拳をコツンと突き合わせるアクア。

 

「当然よ!この女神様の偉大なる力を見せてあげるわ!」

 

「くれぐれも勝手に突っ込んだりするなよ?マジで死ぬからな?俺とタッグを組む以上、こっちの指示に従ってもらうぞ」

 

「えーー・・それは女神的プライドが・・・まぁちょっと聞いて?私にいい作戦があるの。いい?ここにバナナの皮があるわ。これをね?敵に向って思い切り投げるの。すると相手は・・・」

 

「いいから黙って従え低知能駄女神!

バナナの皮なんて取っておくんじゃない、捨てろ!・・・いいか?お前がやることは・・・」

 

カズマがバナナの皮を奪い取って邪魔そうに放り捨てる。

そして身を寄せ合い小声で作戦会議を始めるカズマ達。

 

戦況はあまりよろしくない。作戦を立てたとしてもカズマの現在習得している忍術を考えたら、どうもひと押し足りないように思う。豪火球ではベルディアは倒しきれないだろうし、かと言って“アレ”を使うのもこの状況ではただの愚行だ。

 

さて、ワシはどうしたものか・・・・

今、加勢しても問題が生じないのはワシだけだ。

ワシが動いたとしてもあの“計画”には何の支障も出ない。

本来ならこの仲間たちの苦難に力を貸すべきなのだろうが・・・・

できればベルディアとは戦いたくないな。

 

隣のナルトを見ると、そわそわと落ち着きがない。こういう選択をしたが、内心では心配でたまらないのだ。

さっきカズマが殴られる直前も飛雷神の術で割って入ろうとしたのをワシが止め、必死に我慢していた。

 

アクアが自滅して泣かされた時も、ベルディアに怒りの炎を燃やしていたナルト。

 

ダクネスが必殺技を叫んだ時にハラハラしながら掌を合わせて「当たりますように」と神頼みしていたナルト。

 

めぐみんの爆裂魔砲弾の完成度に興奮して叫びだそうとしていたナルト。

 

加勢したくてたまらない気持ちを血を飲む思いで、懸命に押し殺してきたのだ。

仲間思いのこいつには辛い状況だろうが、例の“計画”を成功させるために耐えてもらわなければならない。

 

そもそもコイツが毒キノコなんぞ食ったせいで、こんなまどろっこしい事態になったのだ。

 

本当なら、もうこの戦いはとっくに終わっていたというのに・・・

まったく、ナルトのせいで計画が随分と狂っちまった。

 

 

ワシが批難がましく見つめると、ナルトの落ち着きのなさが最高潮に達していることに気づく。

最早、そわそわなんて可愛らしいものではなくガクガクブルブル、死ぬ前の老人の発作のような尋常ではない落ち着きの無さ。

 

「あークソ・・・せめて弱点でも分かれば・・・」

 

そのカズマがこぼした苦しそうな一言でナルトの過保護な師匠心が爆発した。

 

「水だああああああーーーーー!!水が弱点だってばよおおおおおおお!!!!」

 

ナルトの魂の叫びが天に駆け上る風遁・風龍弾のような怒涛の勢いで皆の鼓膜を強烈に衝いた。

 

突然の大音量にひとり残らずこちらへ、何事かと恐れ慄いたように視線を向ける。

 

そこには・・・・

 

青いオーバーオールに赤いシャツ。Mという一文字が目立つ赤い帽子を被った小太りのヒゲオヤジがいた。

そう、ナルトである。

 

その隣には同じくオーバーオールに緑のシャツとLと書かれた緑の帽子を被るノッポのヒゲオヤジもいる。

・・・認めたくないが、それはワシだ。

ああ、本当に何やってんだろうなぁー・・・

こんな姿をもし他の尾獣共に見られたら自殺ものである。

 

「だ、誰だ・・あいつら・・・」

 

「あんな奇抜な服装なやつ、見たことあるか?」

 

「い、いや、おれは初めて見るやつらだぜ・・・」

 

「お、おれも・・・あんな存在感のある奴らがいたら忘れねぇよ。」

 

「あ、でも、あいつ今、・・・あの爺さんの口癖を・・・」

 

モブ冒険者達の怪しいものを見るような視線が痛い。

ナルトもさすがにまずいと思ったのか、フレンドリーな笑みを浮かべて爽やかにプンという軽快な音と共にジャンプを披露した。

 

「Yahoo!!!」

 

「「「!?」」」

 

「Mamma mia!!」

 

「おい、今なんか喋ったぞ!なんて言ったんだ!?」

 

「わ、わかんねぇよ!なんなんだあいつは!?」

 

「怖えーよ!わけがわかんなくて怖えー!」

 

人畜無害なオッサンを演じるはずがモブたちの更なる恐怖を煽ってしまったようだ。なぜだろう?

 

「み、みず?弱点を教えてくれたのか?」

 

「というか今、だってばよ、とか言いませんでしたか?あのヒゲのおじさん。」

 

「ま、まさか・・・」

 

「いや、多分そうでしょうね。おトイレに行っていると思ったらあんなところで見ていたなんて・・・」

 

さすがに付き合いの長いパーティメンバーは感づいたみたいだった。

恨みがましそうな目線でジリジリとほふく前進でにじり寄って来る。少し怖い。

 

「スンスン・・・この嗅ぎ慣れた加齢臭は・・・やはり・・」

 

「うう・・笑ってたんだな・・・必殺の一撃を無様に外した私を隠れて影で笑っていたんだ・・・ひどい・・」

 

ゾンビみたいに這い蹲りながらナルトのオーバーオールの裾をグイグイ引っ張る二人。

 

そんなワシらをカズマとアクアは呆れたようなジト目で見つめていた。

 

「ほー・・あんなところにマ○オがいるぜ。どう思う?アクア」

 

「あの配管工のおじさんが実在するとは考えづらいわ。あれは、私の名推理によると恐らく・・・」

 

「まぁ、だってばよ、とか言っちゃってたからな。あの某子供探偵が鼻で笑うような、ずさんな変装だ。」

 

「・・・何をやってるのかしらね・・・」

 

「ホント、何をやってんだろうな・・・」

 

そう言って顔を見合わせる二人。その肩はプルプルと震え、顔面は徐々に崩れ始めた。

次の瞬間、二人同時にブフッと吹き出し、腹を抱えて爆笑した。

 

「ブハハハハハハ!!!馬鹿みてぇ!!クラマまで何やってんだよ!!ククク・・腹痛てぇ・・」

 

「アッハッハッハ!!おっかしいー!!キノコを食べたからあんな風になっちゃったの?1UPしちゃったの?プフフフッ・・もー、あんな不審人物になんで誰も気づかなかったのかしら!明らかにおかしいでしょうに!プッフーー!」

 

「クックック・・何か事情があるのかもしれんが・・ブフフッ・・あの姿はふざけすぎだろ!さっきまでの緊迫した雰囲気をどんな顔して見てたんだ?クフフフ・・二人だけ世界観が違いすぎだろ!」

 

「プフフフフッ・・お爺ちゃんたち超ウケるんですけど!クソデュラハンの一発芸なんかよりよっぽど面白いわ!今度私とトリオで芸を考えましょう!きっとウケること間違いないわ!」

 

こちらを指差して涙を浮かべながら笑いまくる、爆笑コンビ。

ナルトのせいでワシ等の変化は完全に見破られてしまったようだった。顔から火遁が出そうだ。

・・・恥ずかしいっ。

クッ・・そんなに笑わなくても・・・ワシだって何も好きでこんな姿に変化しているわけではないのに。

 

というか何故マ○オを知っているんだろう?ワシ等の世界の有名なゲームキャラクターであるはずなのに。

まさか、任○堂の関係者にも転生者が?・・・だとしたら一体どちらがオリジナルなのか・・・

などと、とあるゲーム会社の謎を解き明かそうと思考を巡らせていると、ベルディアの怒声が耳についた。

 

「貴様ら何がおかしい!!この絶望的な状況に気でも狂ったか!?」

 

たった今、カズマの増量した影分身を全て倒しきったベルディアが怒りを顕にして怒鳴る。

今まで無視されていたものだからご立腹らしい。

 

「ハハッ、笑いたくもなるさ!今、ようやくお前を倒す算段がついたんだからな!」

拳を掌に打ち付けて自信満々に言い放つカズマ。

 

それを見たベルディアは忌々しそうに鼻を鳴らす。

 

「フンッ・・聞こえていたさ。俺の弱点を知って希望でも湧いたか?そこの見慣れぬヒゲがなぜそれに気づいたかはわからんが、確かに水は俺にとって大いなる弱みだ。それは認める。

・・・だが、それがどうした?」

 

大剣を隙なく構え、ベルディアがなんでもないように力強く言う。

 

「たったそれだけのことでこの俺に勝てるとでも思ったか?

そういうのをな・・・思い上がりというのだよ!小僧!!」

 

大剣を後ろに振りかぶり、殺気立って突進してくるベルディア。

 

それを見て、あわわわわ、と慌てるアクアの横で冷静にカズマは多重影分身を生み出し、応戦する。

 

「アクア、さっき言った作戦通りにやるぞ!大丈夫だ!自信を持て!お前はやれば出来る子だ!」

 

「え、ええ!そうよ!魔王軍幹部がなんぼのもんじゃーい!!や、やったるわっ!!」

 

カチコミに行くヤクザみたいなことを叫んで我武者羅に突っ込むアクア。

そんなアクアの周りを守るように取り囲む影分身達。

一体何をするつもりだ?

 

「いくぞアクア!お前の女神としての力を見せてやれ!セクシーなポーズを忘れるな?」

 

は?セクシーなポーズって?・・・まさか。

 

「“ドキドキ♪女神ハーレムの術”!!」

 

そんなカズマの叫び声と同時に展開された、扇情的なポーズを決めたアクアの群れ。

見渡す限りのおびただしい数のアクアの軍勢。大量発生したアクアはウッフーン、と色っぽい声を出して小ぶりな胸やら尻を蠱惑的に魅せている。

 

ちなみにその中で一番、色っぽさが皆無で男心をまるで刺激しないのが本物である。

一人だけ顔を紅潮させ、恥ずかしそうにアハンッアハンッと小声で呟き、ぎこちないポーズでアホみたいな姿を晒していた。

本物がこんだけわかりやすくて大丈夫なのか心配になる。

しかし、まぁ中身はともかく見た目は確かに文句なしの美少女なわけだし虚を突くのには良さそうだ。

ベルディアも相当な女好きだし、これは結構な効果が・・・・

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

あれ?

特に動揺した様子を見せない、完全な“無”の状態のベルディアに疑問を覚える。

 

「・・・ハンッ・・・・・」

 

小馬鹿にしたように鼻で笑ったベルディアは躊躇なく一番近くの影分身が化けたアクアを切り裂いた。

あ、あれーーーー?

 

「悪いが、その娘は、思いっっっきり・・俺のタイプではない!!」

 

そう力強く断言するベルディアにアクアがキレた。

 

「はぁぁあああああ!?ふざけんじゃないわよっ!このロリペドクソアンデット!!美的感覚が狂ってんじゃないの!?」

 

キーキーと猿のように怒りのままに、まくしたてるアクア。悔しさのあまりちょっぴり泣いていた。

それを見ていたカズマの本体が頭を抱える。

 

「あークソッ、いきなり作戦が狂った!顔が良いのがこの駄女神の数少ない美点なのに、まさかここまでアクアに女としての魅力に欠けていたとは・・・仕方ないこうなりゃ、ヌードを披露するしか・・!アクア!全裸モードの許可を!」

 

「嫌よっ!馬鹿じゃないのっ!?絶っ対に嫌よ!」

 

「そこをなんとか!めぐみんの命が掛かっているんだぞ?お前の裸体で仲間が救えるなら安いものだろ?」

 

「まだそんなこと言ってるの?この情弱が!めぐみんはねっ・・・いえ、なんでもないわ・・

とにかく嫌だから!もし私が裸体まで披露したのにそれでもあのロリペドに鼻で笑われるようなことがあったら私、女として死んじゃいますから!一度負った心の傷はね、どんな優秀なアークウィザードでも決して癒すことはできないの!」

 

などと二人が言い合っているうちにベルディアは何か鬱憤を晴らすように楽しそうに偽アクアを斬殺していく。

浄化魔法を何度も食らわせられたことを根に持っているのかもしれない。耐えられるとはいっても直撃したら相当痛いと本人が言っていたしな。

 

「チッ・・どうする?今のままじゃ当てられない・・・気を少しそらすだけでいいんだ・・何かないか・・なにか・・」

 

迫り来るベルディアを見つめて焦ったように考え込むカズマ。

めぐみんの死の呪い発動まで、もうあまり時間は残されていない。と、カズマは思い込んでいるわけだから余裕があまり無いようだった。ワシも死の宣告が解除されてなかったら、こうして気楽に傍観なんてしていられなかっただろう。

 

「ふははははははは!青髪が32匹、青髪が33匹、青髪が34匹!」

 

青髪というのはアクアのことらしい。同情を誘うように泣きながら逃げ惑う演技をしている影分身たちを笑いながら容赦なく切り伏せて行くベルディア。どんだけアクアのことが嫌いなんだよ。さっきまで幼女に優しく接していた紳士的なお前はどこに行ったんだ。

何かスイッチが入ったように狂戦士と化したベルディア相手にもう、打つ手はないように思われた。

その時だった。奇跡が起きたのは。

 

「青髪が36匹、青髪が37匹!青髪が・・どわああぁぁっ!」

 

何かに足を滑らせて無様に転倒するベルディア。

それは――――――

 

「あ、さっき俺が投げ捨てた、バナナの皮・・・」

 

アクアが持っていたそれを奪い取り、何気なく投げ捨てたバナナの皮が偶然ベルディアへのトラップになったのだ。

別に緻密な計算でベルディアを誘導したわけじゃない。今の今までその存在なんて気にも止めていなかった、ただのゴミが偶然ベルディアを古典的なギャグのように愉快に転ばせた。

サトウカズマの持つ最大の武器。やたらと高い幸運値がここに来てようやくその真価を発揮したのだ。

まぁ、ベルディアの運の悪さも良い具合にハマったのだろうが、とにかく千載一遇の隙ができた。

 

「今だ!やれ!アクア!!」

 

「よくも私を37人もぶった斬ってくれたわね!喰らいなさい!“セイクリッド・ターンアンデッド”!!」

 

先程までのと比べて一際大きな輝きを放つ純白の光の塊がうつ伏せに倒れ込んでいるベルディアに襲う。

咄嗟に転がって避けようとしたようだが、今回のそれは効果範囲があまりに広すぎた。

奮闘虚しく浄化の光はベルディアを覆い尽くし、その不浄の身を焼き焦がした。

 

「ぐぬああああぁっ・・お、おのれええええええぇ・・!」

 

プスプスとドス黒い煙を上げながらベルディアは怨嗟の声と共に、緩慢な動作で片膝を着き、身体に鞭を打つようになんとか立とうとしている。

それを見てカズマは一切気を緩めることなく次の手をうってくる。

 

「追撃だぁあああああ!!撃てぇえええええ!!!」

 

「「「“クリエイト・ウォーター”!!!」」」

ベルディアを包囲していた影分身達が手から一斉に初級水魔法を撃ち出す。

初級魔法なだけあってそれは殺傷能力が皆無のただの水の放射に過ぎない。いくら水が弱点の者であってもなんのダメージにもならないだろう。ましてや、その相手が魔王軍幹部ともなればバケツの水で山火事を消すような無謀な行為だと言える。

しかし、それが百を超える数で一斉掃射されたとなれば話は別だった。

 

「ぬああああああああああ、や、やめ、つ、冷たい!あひゃぁああああああああああ!!」

 

ベルディアの身体に絶え間なく打ち込まれるクリエイト・ウォーター。数の暴力とは恐ろしい。単なる水鉄砲が凶悪な拷問に成り得てしまうのだから。

というか頭のないベルディアだからまだ生易しく見えるが、これが普通に呼吸器官のある生物相手だと相当惨たらしい事態になりそうだ。相手の動きを止めれば陸地で溺れさせることも可能なのだからな。

 

「ふっふっふ・・随分と手ぬるい水責めをしているわねカズマ。この私に言わせればそんなの水遊びもいいところよ。少し待ってなさい。私が本物の水責めというものを見せてあげる!そう、水といえばこの私。みんな忘れてるかもしれないけれど、なんたって水の女神様なんですからねっ!」

 

自信満々に言い放つと、アクアは腰を深く落として構え、「はああああああああ」という雄々しい唸り声をあげて力んでいる。別に特にチャクラを練っているわけでもないので、ただ猛者っぽい雰囲気を出したくてやっているだけの丸っきり無意味な行動である。

 

「我が女神流・水浄拳の真髄を見せてあげるわ・・・!はああああ!!」

 

なんだその流派は!絶対今、適当に考えたやつだろう!

 

気合の雄叫びを上げたアクアは両手首を合わせて掌を開いて、体の前方に構える。

ん?どっかで見たことがあるような・・・

 

「ク・・リ・・・エ・・・イ・・・ト・・・!!」

 

力強く呟きながら、ゆっくりとした動作で腰付近に両手を持っていく。その掌には蒼く輝く水の塊が収束していく。これは完全にあれだろう。あの某バトル漫画の必殺技のパクリ・・・

 

「ウォオオオーーーーターァアアアアアアアア!!!」

 

「は?・・・ぐわああああああああああ!!!!・・・・・・・・・・・」

 

アクアの掌から勢いよく噴出された膨大な水の奔流がベルディアを飲み込み、その断末魔すら圧倒的水量によってかき消された。

カズマのクリエイトウォーターとは比較にもならない理不尽な水害のようなそれはまるで巨大な滝だった。

 

その暴虐的な水の猛威がようやく収まった頃には、もうベルディアは可哀想なぐらい消耗していた。

片膝を突き、大きく肩で息をしている。

咄嗟に大剣を地面に突き刺すことで、どうにか遠くへ飛ばされることを免れたようだが、むしろそのせいで正面から凶悪な水圧に晒されることとなったのだ。

上を見ると空中に浮いた頭部がピクピク痙攣しながら白目を剥いている。

肉体のダメージは安全な空中にいたはずの頭にも影響があったらしい。

 

身を震わせて衰弱するその姿を見る限り、もうこの戦いの勝敗は決したかのように思えた。

戦闘の終結は恐らく近い。

だとすれば、わしらもそろそろ動き出さなければならない。

 

「それで、ナルトよ。“あれ”の準備はいい加減に整ったか?」

 

この戦いを計画通りに終結させるためには必要不可欠なことだった。それをワシが尋ねるとナルトは難しそうに眉を寄せる。

 

「まったく・・歳は取りたくねぇもんだなぁ。悪い、もう少しだけ時間がかかるってばよ。」

 

申し訳なさそうに答えるナルトにワシは頭を抱えたくなった。

まさかここまで手間取るとは・・・毒キノコのせいで万全の状態じゃないとしても予想外だった。

 

まぁ、40年以上も眠らせていた力をいきなり呼び起こせと言われたのだから無理は無いのかもしれない。

昔使っていた乗り物をメンテナンスしているようなものだ。いくら燃料を注いで、正しい手順で動かそうとしても長いこと使われてこなかったエンジンはなかなか動いてはくれない。

結局はワシらは慢心していたのだ。あの力がなくても上手くやっていけると。

だから、ナルトの中であれを錆びつかせたまま放置し続けてしまったのだ。

 

「それに、どうもこのままこの戦いがすんなり終わるようには思えないってばよ。」

 

「・・なぜ、そう思う?」

 

「まぁ、単に年寄りの勘ってやつなんだけどさ。・・・ただ、一つの願いのために百年以上も戦い続ける執念っていうのは、相当だぜ?こんなに甘いものではないと思うんだってばよ。」

 

「うーむ・・」

 

確かにナルトの言うこともわかるが、目の前で子犬のように震えているベルディアを見ると、どうも警戒心というものが湧いてこない。むしろ同情的な気持ちになって暖かい所に連れてって熱燗でも奢ってやりたくなる。

 

 

「カズマ!後は任せたわよ!あの鎧を砕かないことには浄化ができないわ!」

 

魔力を大量に消費したのか、かったるそうに肩を回すアクア。

 

「ああ、ご苦労さん。・・トドメは俺に任せてくれ。」

 

アクアの隣に並び立つとカズマは術に集中するために影分身を残らず消し去った。

 

そして素早く印を結ぶと、左手首を添えるように右手で掴み、そこに一点集中された膨大なチャクラが少しずつ雷へと変質していく。

やがて放電するように形態変化を加えたそれは、チッ チッ チッ と千もの鳥の威嚇する鳴き声のような攻撃的な音を奏でる。

これがカズマの奥の手だ。幻術修行により、会得を可能にしたとっておきの切り札。

 

かつてナルトの師であるカカシが開発し、ライバルであるサスケが最期まで必殺の術として使い続けたその術の名は――――

 

「“千鳥”!」

 

術の発動と共にカズマが地を蹴る。肉体活性で強化された脚で電光石火の如く加速していく。そのまま猛スピードでベルディアに向って一直線に向かって突っ込んでいった。

 

千鳥とは肉体活性で得たスピードのまま、雷に性質変化されたチャクラを一点集中させた貫手で突き出す術。

その余りのスピードゆえに相手の攻撃に反応しきれずカウンターの餌食になりやすいという弱点があるが、トドメに使う分には問題ない。

 

最大限に加速した状態で放たれる雷の突きの威力は絶大だ。

ベルディアの鎧さえも容易く貫けることだろう。

 

カズマの勝利を確信したワシはこの後、どう時間稼ぎをしたものかと頭を巡らせていると、

 

――――ふと、空中に浮いているベルディアの頭に目がいき、戦慄した。

哂っていたのだ。

自らの肉体へと駆けてくるカズマを見てニヤリと不敵な笑みを浮かべている。

 

それは決して弱りきった敗北者の顔では無い!

 

騙された!あの衰弱した姿は演技だったのだ!

 

「止まれぇええええ!!カズマぁあああああああああ!!!」

 

 

なりふり構わず必死に叫ぶが、その時にはもう遅かった。

 

膝をついていたベルディアは何事も無かったかのように大剣を手に立ち上がる。

 

目を見開くカズマ。加速した身体は止まれない。

 

そして大剣の間合いまで接近したカズマにベルディアは罠にかかった獲物を狩る獣のような俊敏さで大剣を振り下ろし・・・・

 

――――――千鳥が鎧を貫くよりも先に、深く、カズマを斬り裂いた。

 

 




前回、次でベルディア編が終わると言っていましたが・・・
全然、終われませんでした(´・_・`)

構成を見直した結果、後二話程は必要になりました。
展開が遅くて誠に申し訳ありませんが、どうかお付き合いください。
(^_^;)

さて、カズマは果たして無事なのか?

次回「カズマ、死す!」お楽しみに(笑)


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