かつての英雄に祝福を!   作:山ぶどう

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第2話 旅立ちの夜

 今日もナルトのボケジジィモードは絶好調だ。

 

 

 「禁断の秘技!ガチホモボディービルダー地獄!!」

 

 「ぎゃぁあああああああああああああああああっっ!!!」

 

 

 地平線を埋め尽くすかのような無数のガチムチ筋肉男たちが押し寄せてくる。ひ孫のハヤトに。

 

 阿鼻叫喚の地獄絵図に普段生意気な小僧もたまらず絶叫をあげる。

 

 ざまぁ。

 

 

 「クラマさまたすけてクラマさまたすけてマジおねがいしますくらまサマーーーーー!!」

 

 

 筋肉にもみくちゃにされながらこちらへ必死に手を伸ばすハヤト

 

 

 「なんのための修行だ。自分の力で切り抜けて見せろ」

 

 

 全く、最近の若いのは辛い修行になるとすぐに根を上げる。

 天才といわれて持て囃されているが精神的にまだまだだな。

 

 そら、お得意の火遁忍術でどうにかしてみろよ。自称9代目火影様よう。

 

 

 「むりむりむりっ!!こんなの修行じゃないただの虐待・・・・・・ぐぅえええええ!舐めるんじゃない!俺をペロペロするなあああああ!!」

 

 

 筋肉隆々のテカテカしたおっさん(ナルト)に物理的に舐められむせび泣く

 

 自称「木ノ葉の紅い爪」

 

 トラウマになればいい。筋肉質なおっさんを見るたびにビクつくようになればいい。

 

 そして、ワシのお昼寝動画を某動画サイトに無断でアップしたことをあの世で悔いるがいい。

 

 

 「トドメだ。至福の奥義。プリプリ女体天国の術!!」

 

 

 さっきまで上腕二頭筋やら大胸筋なんぞをポージングをして見せつけていた男たちが一瞬で色気たっぷりの美女軍団に変化した。

 

 

 「大丈夫?かわいそうに・・・怖かったわね坊や。」

 

 

 豊満な胸にハヤトの顔を埋めさせて囁く美女。(ナルト)

 

 

 「怖かったよぉおおおおおお!!筋肉が・・・・筋肉がぁああああ!!」

 

 オッパイに顔を押し付けて盛大に泣くハヤト。両手はしっかりと美女(ナルト)の胸を鷲掴みにしている。

 

 

 「よしよし、もう大丈夫よ。ここは柔らかい女の肢体しかない夢の国。誰もあなたを危険な目に合わせないわ」

 

 「お、おねぇさぁああああああああん!!」

 

 ああ、なんて茶番だ。しかし、ムチで殺す寸前まで嬲った後のアメは効くだろうなぁ。

 

 

 「大丈夫、あなたは死なないわ。私が守るもの。」

 

 「ふん、情けないやつ・・・しょうがないから今日からは私が守ってあげるわ!」

 

 「ちょっと!ナル子っ!いつまでくっつてるのよ!彼は私のものなんだからねっ」

 

 「お慕いしています。ご主人様」

 

 「ワタシは死にましぇーーーん!!アナタがスキダカラ!!」

 

 

 流石ナルトだ。あえて美女を裸にしないことで現実感を出し、容姿も皆個性的で選り取りみどり。

 

 しかも声色まで変えて多種多彩な女性をひとりひとり別人物として完璧に演じきっている。

 

 

 そう、これがハーレムの術の最終形態! これにかかった相手はただの変化と影分身の複合技だとは思いもよらないだろう。

 

 都合のいい甘い世界に引きずり込まれて帰って来れなくなるのだ。例え途中で気づいたとしても手遅れだ。影分身とはいえ情が移った相手を攻撃できまい。

 

 ただのドスケベ変態忍法を無限月詠の域まで昇華している。まったく恐ろしい術だ。

 

 いつもクールを気取っているハヤトの小僧が見ていて哀れになるくらいデレデレしている。まさに骨抜き。

 

 

 「ハヤト様、すみませんがひとつお願いがあるのです。」

 

 奥ゆかしい黒髪の美少女(ナルト)が申し訳なさそうに言う。

 

 「なんだいミヤビ。俺と君の仲だろう。なんでも言っておくれ。」

 

 

 たった数分でこいつのキャラも随分崩壊したものだ。動画を撮って某サイトに投稿したい気持ちをギリギリで我慢する。それにしても、一体何を要求するつもりだナルトは。

 

 

 「絵の具とバケツ。あと大きな筆を買ってきて欲しいのです。」

 

 

 このジジィ全くこりてねぇぞ!

 

 

 

 

 

 

 「お義父さん・・・・仏の顔も三度までと言いますが。今度同じことしたら本当の仏様に会いに行かせますからね・・・・」

 

 その結果がガチギレサラダちゃんである。

 

 というかよく我慢できるな。久しぶりにこの娘の必殺技「千鳥怪力パンチ・極み」がお目にかかれると思ったんだがな。残念。

 

 

 「ごめんってばよ、サクラちゃん」

 

 「サラダです。アカデミーの校舎に描いたクラマちゃんの絵は、まぁ良くかけていたと思うのでそのままにしますが、本当に気をつけてください」

 

 消さないのかよ!ナルトに対して甘すぎだろコイツ。アカデミーの教師とかなんか死んだ目をしてたぞ。

 

 

 「そんなことより、ナルじぃ! 頼むからナルコとミヤビとアスカとレイとその他大勢の女の子達に会わせてくれよ!!」

 

 ああ、今回で一番の被害者はこいつだな。どうすんだこれ。将来どうなるんだ。女体天国(無限月詠)から抜け出していないぞ。精神力弱っ。

 

 「その子達は今もお前の心の中で生きているってばよ。胸に手を当て、耳を澄ましてごらん。いつでも会えるさ」

 

 適当な綺麗事で誤魔化した!

 

 「違う!俺はただ彼女たちのオッパイが触りたいだけなんだっ!あの柔らかさが忘れられないんだ!」

 

 うわぁ、責任重大だ。ナルトのせいで孫が自来也と同じエロ忍道の階段を登り始めた!絶対将来イチャイチャパラダイスに次ぐエロ小説を書き出すぞ。

 

 「・・・・正直、実のひ孫に乳揉まれるのはもうやだよ・・・」

 

 お前のせいだろうがっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして平和な一日が終わる。

 

 

 相変わらず騒がしい晩餐だった。

 

 ナルトとボルトが仲良くケンカして、それをサラダが仲裁する。ハヤトがわしの鳥の唐揚げを虎視眈々と狙っていたので隙を見て逆に奪ってやったら

 

 猿のようにキーキー騒いで面白かった。なんだかんだひ孫に甘いナルトが大きな唐揚げをあげて場を収めたり、ナルトに甘いサラダが自分のものをナルトに与え、今度はサラダに甘いボルトが泣く泣く最後の一つをあげるので、決まりが悪くなったワシがボルトに奪った唐揚げをやるという暖かい一幕。

 

 

 平和だ。

 

 

 ワシは皆が就寝した後に人知れず、屋根に上がって月を眺めていた。

 

 夜風がヒゲをくすぐり、満月が辺りを照らしている。

 

 これで、酒の一杯でもあれば、と思い始めた頃にいつの間にか上がってきたナルトがワシの隣に座った。

 

 手には日本酒を一升瓶と茶碗が二つ。気の利くやつだ。

 

 無言で受け取りナルトの茶碗に酒を注ぐ。ナルトも無言でワシのものに注ぎ、小さく二人で乾杯をして煽った。

 

 胃が熱くなり、身体が染み渡るようにほんのりと暖かくなった。

 

 ナルトも顔を赤くして気持ちよさそうに夜風にあたっている。

 

 

 いつものことだ。たまにこうして二人で飲むのは何も珍しいことじゃない。

 

 ただ、前触れが何もないのにどこか予感があった。いつもと違う何かがある予感。

 

 

 「俺は年をとったな。」

 

 

 ナルトはポツリと零すように呟いた

 

 

 「ボケてきてる自覚はあったか」

 

 

 ワシが笑いながら軽く返すとナルトは重々しく頷いた。

 

 

 「たまに頭がボンヤリする。俺が今の俺じゃなくなるような、そんな感覚になるんだってばよう。」

 

 「・・・・怖いのか?」

 

 

 ワシだったらきっと怖い、と思いながら聞くとナルトは静かに頭振った。

 

 

 「今の俺じゃないだけだ。若い頃の俺がやってくる。寂しがり屋で馬鹿でどこまでも前向きだった頃の俺が。」

 

 

 懐かしそうにナルトは笑うが、それは怖い事なんじゃないだろうか?

 

 

 「俺は長く生き過ぎたな。皆、潔く逝ったのに俺だけがしぶとく生きて、後ろばかり見てる。」

 

 

 珍しく、自嘲するように笑うナルト。似合わない顔だ。

 

 ナルトはもしかして、今の自分が嫌いなのかもしれない。今のこの里の中で一番ナルトを疎ましく思っているのはきっとナルト自身だ。

 

 

 「思い出ばかりに引きずられて動けない。もうずっとそうだってばよ・・・・。」

 

 

 それはいつからだったんだろう?

 

 一体誰が死んだ頃からだろうか。

 

 ヒナタか。サクラか。シカマルか。我愛羅か。サスケか。

 

 いや、きっと全員だろう。

 

 こいつを残して先に逝った大切な者たち。

 

 築いてきた絆の全てがこいつを縛り上げて身動きを取れなくさせている。

 

 なんて皮肉だろうか。孤独だったコイツが生涯をかけて得たものが、大切に守ってきたものが

 

 最後にはこいつをここまで傷つけるなんて。

 

 

 

 「だからさ、旅に出ようかと思うんだってばよ」

 

 ・・・・・・・・んんん?

 

 

 「いや、どうして、その流れで旅に出ることになるんだよ・・・・」

 

 またボケジジィモードが発動したんだろうか。

 

 

 「ここは思い出が多すぎるんだってばよう。ヒナタを思い出す温かい家があって、七班の皆で鍛えた修練場があって、同期の皆と騒いだ街並みが広がっていてさ、たまらなくなる。」

 

 「・・・・・・・・」

 

 「このまま、里のみんなに無様を晒しながら死ぬくらいなら、旅先で新しい仲間に大きな悲しみを振りまきつつポックリ逝きたい。」

 

 「まぁ、発想は最悪だが言いたいことはわかる。だが、お前にだってまだ、大切な家族がいるだろうが。あいつらを置いてまで旅に出る必要があるのか?」

 

 

 わかっている。コイツがそんな薄情なやつではないことくらい。情が深すぎて長い間苦しんできた男だ。愛する里を、家族を放り出す決断にこいつはきっとワシの知らない間にずっと葛藤してきたはずだ。それでも、思いとどまって欲しいと思った。

 コイツの家族はボケ老人であるナルトを受け入れている。

 

 悪意に敏感なワシ等には最初からわかっていたはずだ。

 

 今のこの里の人間は誰もこいつを疎ましくなんて思ってない。

 邪魔だなんて思ってない。

 こいつは今だって必要とされているんだ。

 

 

 「昔、俺が長門に言ったことおぼえてるか?」

 

 ナルトは静かに呟いた。

 

 「楽な道に逃げず、険しい道だってちゃんと歩き続けるって。それが俺の忍道だって、そう言った。でも今の俺はそうじゃないって気づいたんだよ。

 

 俺ときたら、楽な道で立ち止まって歩くのを、生きるのをやめてた。後ろを気にしてばかりで前になんてまるで進んでいなかった。

 

 体は衰えて、ここ数年チャクラもろくに練っていない。こんな俺が忍道まで曲げちまったらさ、・・・・・もう忍びですら無くなっちまうよ。」

 

 

 

 

 それだけは嫌だと、コイツの眼が語っていた。

 

 

 なんだ、コイツもまだまだ若いじゃないか。

 

 歳をとればもっと落ち着くものだ。立ち止まることも振り返ることも何も悪いことじゃない。年相応にそれが当たり前だ。

 

 

 なのにこいつはまだ、前を向いてどこかに歩いて行って何かを得ようとしている。

 

 

 「まぁ、ごちゃごちゃ言ったけども、ただ旅に出てみたいと思っただけだ。

 エロ仙人・・・・自来也師匠みたいにあちこち旅して回ってみたいって思ってたんだってばよ。」

 

 いつもの底抜けに明るい間抜けヅラでナルトが言う。

 

 

 ・・・・重く考えることもないのかもしれない。ただの隠居したじじぃの道楽旅行だ。

 

 死に場所を探すとかそういう暗い意図はこの馬鹿は考えないことだろう。

 

 

 「わかったよ、明日でもボルト達を説得してみよう。」

 

 きっと反対されるだろうが、ワシも少しは援護してやろう。

 

 

 「え?なんで?今から行こうぜ!」

 

 

 ・・・・・・・・・は?

 

 

 

 「いやいや、何言ってんだ。流石にそれはないだろう!」

 

 

 アイツ等がどれだけ心配すると思うんだ。

 

 サラダなんて過保護だから捜索部隊を組んだりして絶対、大事になるぞ。

 

 ボルトのやつも親父直伝の千人影分身でくまなく探し回るだろうし、ハヤトの小僧も数日後に控えた中忍試験が散々な結果に終わるだろう。あいつメンタル弱いし。

 

 

 「チョロっと行って、すぐ飛雷神の術で帰ってくればいいじゃん。」

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・はい?

 

 

 「とりあず、昔マーキングした雲隠れあたりに下見に行ってさ、朝飯時には帰ろうぜ。明日も昼まで寝て飯食ったら夕方まで旅に出よう。」

 

 

 ・・・・・・いや・・・それってお前・・・・・・・

 

 

 「ただの散歩じゃねぇかっ!!!」

 

 


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