その日、俺は怒りをたぎらせながら駆け出し冒険者の街「アクセル」に向かっていた。
毎日、毎日、どっかの頭のおかしい魔法使いが俺の城に爆裂魔法なんて悪意に満ちた高火力攻撃魔法を撃ち込んでくることに、流石の俺も我慢の限界がきたのだ。
上位の結界を張っているから城が破壊されるようなことにはなっていないが、震動で物は倒れるわ、卵などのデリケートな食材が全滅するわ、自慢の愛馬がストレスでハゲるわで被害は散々だ。
そして何よりうるさい。
本当に爆裂魔法の直撃というのはとんでもなく喧しいのだ。
自宅で寛いでいる所に突然、轟く爆撃音。いくらタフガイな精神力の俺でもそりゃあビビるさ。
というかなんで今まで俺は寛大な心で我慢なんてしていたんだろうか?
今考えれば一週間程前に最初に爆撃された時点で何らかの抗議を示すべきだったのだ。
そうしなかったのは駆け出し冒険者如きの魔法でいちいち魔王軍幹部のこの俺が出向いて騒ぎ立てるのはみっともないのではないかと妙なプライドが邪魔をして怒り出す機会を逃してしまったからだ。
しかし昨日で迷惑な爆撃被害はちょうど10回目になるのだし、そろそろクレームの一つでも入れに行ってもいいんじゃないかと思った。実はもう8回目の爆撃でおやつに作ったパンプキンパイを台無しにされた頃から怒り心頭だったのだ。
いざ、苦情を言いに行こうと思ったら、これまでの怒りがフツフツとこみ上げてくる。
毎日毎日毎日毎日・・ドッカンドッカン馬鹿みたいに撃ち込みやがって・・・!
それは配下のアンデットと暇つぶしのボードゲームに興じているとき・・・
魔界で流行りのサキュバス物の官能小説のクライマックスを読み進めているとき・・・
密かに趣味にしているお菓子作りに癒されているとき・・・
センチメンタルな気分でかつて彼女が愛していた雪華“スノーローズ”の蕾を感傷に浸りながら眺めているとき・・
悪魔的な爆裂魔法が俺の生活を侵し、全てを台無しにしてきた・・・
変な意地を張ってやせ我慢をしていたが、本当にストレスの貯まる日々だった・・・・
いつ訪れるかわからん爆音にいつしか怯えていた。暗黒騎士であるこの俺が!
そう俺、ベルディアは激怒している。かの邪智暴虐な魔法使いに必ず報いを受けさせてやると誓っていた。
だから、わざわざ日の昇る時間帯を見計らって俺自ら街へ出向いてきたのだ。
冒険者ならば外出でいないことも多いだろが、この時間帯ならば間違いなく例のキチガイ魔法使いも街のどこかで眠っていることだろう。
逃がしはしない。絶対に誠心誠意に心から謝らせてやる。
正門で愛馬に跨りながら待ち構える。
デュラハンの禍々しい魔力がうねりを上げ、その影響で草原の草花が一気に枯れ果てていく。
ここなら、直ぐに異変を感じたギルドが警報を鳴らすことだろう。
冒険者達が駆けつけるのも時間の問題。それまで、どういう方向性で決着をつけるか計画を立てておこう。
俺は何も、今日この場で怒りに身を任せて街を壊滅させるつもりは微塵もないのだ。
悪いのはあの頭のイカレタ魔法使いで、その他の住人には罪はない。
魔王様の方針には反するかもしれんがアンデットに身を落として腐りきっても元聖騎士だ。無闇な殺生はできればしたくはなかった。
諸悪の根源である爆裂魔を半殺しにして土下座でもさせればいいだろう。
しかし、まぁ、有り得ないと思うが、もし万が一相手が可愛らしい美少女で涙ながら謝ってきたら軽く説教をした後、寛大な心で許してやろうかな。ああ、でも、その一件で心優しいこの俺様に惚れてしまってデュラハンとの禁断の恋に落ちる哀れな女が生まれてしまったらどうしよう?その時は俺の側近として傍に置いてやっても・・・
グフフフフフ・・・
そうして退屈な待ち時間を悲しくなる妄想に費やしていると―――――――――――
「よう。おはよう。こんな早くからこの街にいったいなんの用だってばよ?」
いつの間にか、一人の老人が立っていた。
この俺に全く気付かれることなく、ごく自然な様子で目の前にいた。
禍々しい魔力を発している首なし騎士を前にまるで臆した様子もなく気軽に声をかけられた。
今考えればそれだけで只者ではないとわかる。
しかし言い訳をさせてもらえれば、俺はこの時、魔王軍にも相手にされない駆け出し冒険者の街という先入観でこの辺りの人間を完全に舐めきっていたのだ。だから目の前に突然あらわれた得体の知れない老人に特に警戒心も危機感も覚えることなく、こう言い放った。
「爆裂魔法を操る魔法使いに用がある。もし覚えがあったらそいつを連れてこい。そうすれば、老い先短い命を無駄にせずに・・・・・ふぁ?・・・ぐぎゃぁぁっぁぁっぁ!!!」
一瞬で馬から引きづり落とされてボコボコにされた。
そう、それが悪夢の始まりだった・・・・
◇◆◇◆
ベロベロに酔っ払っているベルディアがワシを右腕に抱き抱えながら涙ながらに語る。
左腕に抱えられた奴の真っ赤な顔がやけに近かった。
う、超酒臭い・・・・
「何回やっても、何度挑んでも、あの妖怪じじいが倒せないんだ・・・・!」
ベルディアが泣いていた。こいつは本当に泣き上戸だなぁ・・・
「あのギュんギュん唸っている危ねぇ玉はなんなんだ!?魔王様からいただいた聖魔防御の頑強な鎧が一撃で砕け散ったぞ!!剣での真っ向勝負を挑んでも異常な回避能力でよけられてカウンターであれがぶち込まれるんだ!死ぬよ!!不死身が売りのアンデットだって昇天しちまうよ!?」
あー、うん。ナルトのアレを喰らって生きながらえていること自体がお前の強さの証拠であるから、どうか自信を持ってくれ。
と、言いたいが言えない。ワシはこいつの中ではあの老人とは全く関係ない喋る獣モンスターという設定だからなぁ・・・
「死の宣告を試してみても発動前に指をへし折られる!仲間のアンデットを大量召喚してもそれ以上の人数に増えやがって蹂躙される!もう嫌だと逃走を謀ってみても巨大な底なし沼に沈められてゲームオーバー!詰んでんじゃねぇか!あんな奴にどう立ち向かえばいいんだよ!?唯一効果のある行動が命乞いしかねぇんだよ!!」
ああ、あれは確かに効果的だったな。ナルトは人生の大半を平和な忍び世界で過ごしてきたから脅威を感じる敵以外だと非情になることができない甘ちゃん忍者なのだ。まぁそこがいいところでもあるんだが。
「そして、本当の恐怖はそれからだ・・・それから・・あの爺さんは度々、俺の城に現れるようになったんだ・・・テレポートでも使っているのか始めっからそこにいたかのように突如として出現するんだ。・・・そして小一時間程雑談をして大人しく帰っていく。・・・まるでお前なんぞ何時でも始末できるんだよと言いたげに・・・敵わない相手から決して逃げることができないこの絶望的な恐怖といったら・・・!」
ぐすぐすと鼻水を垂らしながら男泣きをするベルディアが余りにも哀れで、ワシは自慢の尻尾でその涙を拭いてやった。
「ううぅ・・・やさしいなぁ、お前は・・・グス・・クラマだけだ・・俺の辛さを分かってくれるのは・・・」
そして今度は感激したようにおいおいと咽び泣くベルディア。
酒の水分を全て涙で流してしまっているんじゃないか、コイツ。酔いが回るのも早いはずだ。
ああ、それにしても胃が痛い。もしワシがコイツの苦難の元凶共の一味だと知られたら・・・
不死のベルディアが精神的に死にそうである。
「グス・・・おっと、悪い。ツマミがもうなかったな。いま美味いのを用意する。」
そう言ってワシをやっと解放して立ち上がるベルディア。
可愛らしいピンクのエプロンを鎧の上から掛けて台所に向かう。
このテントは意外に広く、台所や寝室、風呂まで完備しているのだ。
ただ、無駄に広いだけのあの城よりワシは正直こっちのほうが気に入っている。
「ちょっと、待ってろ。チーズにトマト、お、ベーコンもあったな・・・」
鼻歌交じりにゴソゴソと鉄箱の中を漁るベルディア。料理のことを考えているコイツは本当に楽しそうだな。
「あ、そうだ、良いリンゴが手に入ったから焼きリンゴにでもして・・・・」
食材を手に顔を上げて、凍りついたように硬直するベルディア。
そこには・・・・・
「あ、お邪魔してるってばよ、ベルちゃん。」
いつの間にかナルトが台所の椅子に座っていた。オーブンで何かを勝手に焼いているのか香ばしい匂いが漂ってくる。
ベルディアの体がブルブルと震える。
「で、でででででででででたぁあああああああああ~~~~~~~~~っっ!!!!妖怪じじぃだぁぁぁぁああああああああああ~~~~~~~!!!」
仮にもアンデットであるベルディアがまるで幽霊に出くわしたかのような悲鳴をあげて腰を抜かす。
ナルトはそれをキョトンとした顔で見ている。
「どうしたんだってばよ?そんなに大きな声をあげて・・・・あ、もしかしてお腹がすいとるんか?まぁちょっと待っているってばよ。今、俺特製のキノコグラタンを焼いているところだからな。」
そう言って無邪気に笑うナルト。
というか人んちで勝手にグラタンなんて焼いているんじゃない・・・・
そして、なぜかベルディアは恐れ慄いたように後ずさる。
「この匂いは・・・有毒キノコのトグロダケ・・!やはり、今日この場で俺を始末するつもりなんだ・・・!」
しかも毒キノコかよ!
「どうだ?うまいか?」
「あ、ああ・・いい味だ・・・知らなかった・・トグロダケってこんなに美味いのか・・・ホワイトソースとの相性もバッチシだ。」
毒キノコのグラタンを無駄にせずにちゃんと食べてくれる心優しいベルディア。
さっきまでナルトにビビって大蛇を前にしたカエルのように縮こまっていたがもう大分慣れたようである。
それをナルトはニコニコと嬉しそうに眺めていた。
「さっき味見した時にすんげぇ美味かったから絶対にベルちゃんの口にも合うと思ったんだってばよ。」
「え!?ちょっ、食べたの!?それはまずいだろう!!毒耐性のあるアンデットならともかく、人間がこれを口にしたら、下痢でやばい事になるぞ!!」
「大丈夫、大丈夫。昔から腹は丈夫な方なんだってばよ。」
「・・・・敵としての情けだ。下痢に効くこの丸薬をくれてやる。これで多分死ぬことはないだろう。それでも明日は地獄の苦しみを味わうことになると思うが・・・」
「ええー・・薬とかは苦手だってばよ・・・」
「良いから飲め。ほら水。薬を飲んだら今日は酒を飲むなよ。いいな。」
「・・・ベルちゃんと飲み交わして親睦を深めようと思っていたんだけどなぁ」
「上等なぶどうジュースがあるからそれで我慢しろ。チッ・・どうして俺が宿敵であるこのジジィにこんな世話を・・・」
全くだ。
というかどんだけお人好しなのだ、この首なし騎士は。
敵だというのならナルトが勝手に毒キノコを食って自滅する状況こそコイツにとって最大のチャンスだろうに。それどころか身を案じて薬までくれるとは・・・
ホントなぜこんなやつが魔王軍の幹部なんて・・・・
ワシがぼんやりとベルディアを見上げていると、それに気づいた首なし騎士が気さくに笑って、ぶどうジュースの入ったコップを差し出してくる。どうやらワシも欲しがっていると勘違いしたらしい。それを尻尾を長く伸ばして受け取る。一口舐めると芳醇な香りが鼻を抜け、極上の甘味が舌先から口内に幸福に広がっていく。う、うまい・・・
それからぶどうジュースに鼻までつけて夢中で飲んでいると、ナルトが何気なく言う。
「あ、そういえばクラマって最近いつもいないと思ってたらベルちゃんとこに遊びにきてたんだな!まったく、そういうことなら俺も誘ってくれってばよ。」
「・・・ふぁ?・・」
や、やば・・・よく考えればこれは良くない状況だ。
ベルディアも嫌な予感がしたのだろう。そわそわと落ち着きのない様子だ。
「な、なぜ貴様がクラマのことを・・・・え?し、知り合いなのか?魔物であるクラマと?」
「知り合いもなにも・・・・俺とクラマはガキの頃からずっと一緒の相棒だってばよ。」
「あ、あいぼう・・・」
そんな悲しそうな目でワシを見るんじゃない・・・・
なんだ、この気色の悪い修羅場は・・・・
「・・はっ・・・まさか・・・爆裂魔法を打ち込んでくる魔法使いは・・・・・」
「あー、ごめん。それは俺達の仲間のめぐみんだってばよ。やめさせようとはおもっているんだけど・・・・」
お、おい。俺達の仲間という言い方はよせ。まるで共犯者みたいだろうが!
「お、お前だけは、お前だけは信じていたのにぃぃぃぃぃぃぃ!!ちっっくしょおおおおおおおおおおおお!!」
「ちょっとまて!どこへいくんだよ!」
泣き叫びながらテントを飛び出していくベルディア。
そのあとを、ワシとナルトが懸命に追いかける。
森の中を疾走する首なし騎士。しかも泣き叫びながら。
気の弱いものが見たら心停止してもおかしくないような奇怪な光景だ。
「おい、話を聞いてくれ!」
「ついてくるな!もう放っておいてくれ!」
もう一度言うが、なんだこの気色の悪い修羅場は!
どうしてこうなった!
「ああ、もういい加減止まれってばよ!土遁・黄泉沼!」
「げっ、うわぁ!・・・・ブクブクブク・・・」
そしてお前は少し自重しろボケジジィ!
底なし沼に沈められたベルディアをワシが尾を伸ばしてどうにか救助するのだった。
その後は、気色が悪くて面倒くさい修羅場を散々繰り広げ、どうにか和解という形で落ち着いた。
正直、もう疲れたし帰って寝たかったがベルディアがどうしても一緒に飲み直したいと言って聞かないのでしょうがなくナルトと二人でコイツの酒に付き合うことにしたのだが・・・・
「おい・・・ヒック・・・聞いているのか爺さん!」
「お、おお。ちゃんと聞いてるってばよ・・・聞いてるから、ちょ、やめ・・」
ワシを左腕でガッチリと抱え込み、右手に持った自分の頭をぐりぐりとナルトの頬に押し付けるベルディア。
完全に悪酔いをしていた。
泣き上戸の次は絡み酒かよ・・・めんどくせー・・。
「今まで散々俺をボロクソにしやがってよー・・・貴様が壊したこの鎧を修理するのに、どれだけ苦労したと思うよ?ええ?もう絶対に壊してくれるなよ?絶対だぞ?次の魔王軍会議の時にこれ着ていかないと魔王さまに怒られるんだからなー・・・俺が物を大切にしないだらしがない奴だと思われたらどうすんだよー?」
「ああ、うん、俺が悪かった・・・悪かったからその酒臭い頭を押し付けないで・・・」
「だいたいよぉ・・・爺さんよぉ・・・お仲間の爆裂魔ちゃんをなんで止めてくれなかったのよ?あそこに俺が住んでいることは貴様だけは知ってんだろ?なんでやめさせないかなぁ・・・」
「う、それは・・・・」
「まぁ、理由はなんとなくわかるよ?俺だってバカじゃない。爆裂魔法の威力が日々、飛躍的に向上していっているのはわかる。脅威を感じるほどな・・・あれだろ?どんどん成長していく仲間の姿に止めることができなくなったんだろ?もっともっとこの先が見てみたいとそう思ったんだろ?人が住んでいる城なのにね・・・どうせ都合の良い魔法の撃ち込み場所だとでも思っていたんだろ?」
「い、いや、そんなことは・・・・」
「もう何が何でもぶっ壊してやるという意思がひしひしと伝わってくるんだよ!あの魔法からは!ねぇわかる?貴様の仲間のひたむきな努力が報われる時って俺が自宅を失う時なんだよ?そうなったらどうすんの?祝うの?“ベルディア城破壊を祝して”とか言って乾杯でもするの?・・・俺が大切な物を全て無くして寒空の下、泣いているかもしれないのに?・・・いやぁー、鬼だねぇー・・鬼畜だわぁー・・・」
「ご、ごめん。悪かった、やめさせる・・・やめさせるから・・・」
相当ストレスを溜め込んでいたんだろうベルディアは日頃の不満を爆発させて、素面のナルトはそれにただ平謝りするしかなかった。まぁ、確かにあの爆裂娘を止めることのできなかったワシ等にも責任はあるからな。
「本当だろうなぁ?頼むぜマジで・・・・あの城には俺の大切なものがあるんだ・・・」
「大切な物?」
ナルトが聞き返すとベルディアの顔はしかめっ面から穏やかな表情に変化していった。
「ああ、雪華“スノーローズ”だ。こっちに長期滞在するから魔界の城からわざわざ持ってきてこっちに植え替えたんだ。今はまだ秋だから蕾のままだが、冬になれば満開の白く美しい華が庭一面に咲き誇ることだろう。俺はそれが毎年楽しみでならない。」
「花ってまさか、あの?」
ワシは思わず問いかける。以前コイツに聞いた話に出てきたのだ。
「そういえばクラマには話していたな。ああ、そうだアンジェリカの愛した花だ。」
そう言って静かに目を閉じて愛おしそうに笑うベルディア。
アンジェリカ。
かつてベルディアが愛した女。
ワシも詳しいことはわからないが、以前話をしていた時にこうこぼしていたことがあった。
魔王軍に加わった理由はアンジェリカのためだと・・・・・
「冬になったら、一度、見に行きたいものだな」
「ああ、ぜひ来てくれ、クラマだったら何時でも歓迎する。」
「あれ?俺は?」
「明日にでも一度城に戻って避難させておいたほうがいいんじゃないか?」
「そうだな。結界をこの前、厳重に貼り直したから大丈夫だと思うが、万が一ということもあるか。そうしよう。」
「あ、お前は来るなってことなのね・・・まぁいいけど・・・う、きゅうに・・腹が・・」
便所に駆け込むナルトをスルーしながら、ベルディアと二人で花見の計画を立てる。
・・残酷な真実など知る由もなく・・・・・・
◇◆◇◆
―――――――――――数時間前
とある廃墟の残骸は炎に包まれていた。
大地を震撼させる程の強烈な爆裂魔法。圧倒的な爆音が鼓膜を突き抜け、脳に本能的な恐怖を覚えさせた。
巻き上がる爆炎はどす黒い煙を生み、焦げ臭い匂いが風に乗って遠く離れたこちらまで漂ってくる。
めぐみんの新型爆裂魔法によって崩壊させられた廃墟。
なんて威力だよ・・・スケールがデカ過ぎて、小心者の俺はまだ心臓がバクバクと脈打っている。
これは最早、災害の一種ではなかろうか・・・・
「や、やりました!やりましたよ!カズマ!」
うつぶせに倒れこみながら喜色満面の笑みを浮かべてガッツポーズをするめぐみん。
「ああ!ついにやりやがったな!なんだよあの破壊力!すっげぇじゃねぇか!!」
「へへへへへ。まぁ、少し手間取りましたがようやく目標を達成しました!」
俺が褒め称えると、めぐみんは弛緩した顔でニマニマと照れくさそうに笑う。
「次の目標はブラックドラゴンとかですかね?噂に聞く厄介な耐魔装甲をブチ抜いてみたいです。そうしたら私、伝説になっちゃいますね。うへへへへ・・」
「いやいや、まずは例の魔王軍幹部が先だろう?さっきの威力のやつが当たればひとたまりもないだろうぜ?」
「おっと、そうでした。あの首なし騎士を私の新爆裂魔法の最初の生贄にしてあげましょう!」
「おう、その粋だ!約束どおり今夜はクレイジーいちごパフェをたらふく食わせてやるよ。キャベツの金がまだかなり残ってるんだ遠慮しなくていいぜ。」
「やったぁ!さすがカズマ!そこはかとなくいい感じなナイスガイです!よっ!アクセル街の鬼畜王!」
「へへ、おいおい、そんなに褒め・・・てねぇなこいつ・・・誰が鬼畜王じゃい!」
「おっと、どさくさに紛れて私のお尻を足の裏で楽しむのはやめてもらおうか。今日はなんだか良い気分なのでカズマのどんな悪行も許せてしまう危険な精神状態なのです。」
「はいはい、それはとてもいいことを教えてくれてありがとうよ。ほら、さっさと帰ろうぜ?今日は廃墟爆破記念パーティだ。」
「なんだかその言い方だととても人聞きが悪いような・・・その前にカズマ。」
「ん?ああ、了解。」
魔力不足でへこたれている上体をなんとか起きあげて両手を掲げるめぐみん。
「「イェーーーイ!!」」
軽やかなハイタッチを交わして俺達はバカみたいに笑い合うのだった。
そして、その晩。
「それじゃあ、めぐみんの大いなる躍進と呼べる、あの名も無き頑強な廃墟の爆破を祝いまして、乾杯!!」
「「「かんぱ~~~~い!!」」」
杯を掲げて、酒を一気に飲み干す俺と・・・・・・
「がつがつがつ・・」
「もぐもぐもぐ・・・」
「シャリシャリ・・・がつがつ・・」
いちごパフェを一心不乱に貪り食う女共。
いや、乾杯した酒ぐらいは飲んでくれよ。なんで大食いバトル開始の合図みたいになってんだ。
「おかわりお願いします!」
「くっ・・・アクアに先を越されました!・・・・がつがつ・・ごくん・・こっちもおかわりを!」
「ばくばく・・がりっ・・いひゃい・・したかんだ・・・」
「無理せずリタイアしなさい!ダクネス!残りのパフェは私が全部食べ尽くしてあげるんだから!」
「くっ・・そうは行くか・・・騎士としてこの程度の痛みなど食事にはちょうどいいスパイスだ!・・おかわりをお願いする!」
「このパーティの主役である私に全く遠慮がないとは恐れ入ります。もぐもぐ。しかし、それでいい・・・所詮この世は弱肉強食・・・もぐもぐ・・私も譲るつもりはありません・・・今宵、一番多くパフェを食べるのはこの私なのです!・・・あむ・・」
好きなだけ食べていいとは言ったがこの店のパフェは20個までの限定品らしい。なので食い意地の張った女共は血で血を洗う激しいパフェ争奪戦を繰り広げているのだ。
割と甘いものが好きな俺も一つだけ貰おうとしたら、三人に暗殺者のような凍るような目で睨まれた。
くそ・・・俺が払うんだから良いじゃねぇか・・・・
正直、隙を見てスティールで奪おうと思っていたんだが、この様子を見るとそれをやったらシャレにならない事件に発展するだろう。まぁ俺は大人しく唐揚げで一杯やっていますよ。
クリームまみれの女どものフードファイトを眺めながら。
そういえば、師匠とクラマはどこに行ったんだろう?夕方から見かけないが・・・・
「もぐ・・もぐ・・・・う・・・」
「お・・おおっと、スプーンを持つ手が止まりましたね・・・げ、限界ですか?アクア?」
「そ、そんなわけないでしょ・・・まだ、まだ・・・」
「がつがつがつ・・・どうやら、速さでは負けていても胃の強靭さでは二人より私が優っているらしいな・・・悪いがあと二つくらいは余裕だよ・・・・おかわりをお願いする!」
「くっ・・・頭角を現してきましたね・・・ダクネス・・・しかし体格の差が全てではないのです・・・真に勝敗を左右するのは心の強さ・・爆裂魔法のような熱いハートをもった私にかかれば・・・うっぷ・・」
「ラスト一つのパフェは・・・絶対に私が・・・」
「あ、クレイジー苺のパフェを一つ頼むわ。」
「「「!?」」」
ラスト一つのパフェを新たに入店してきた客にかっさわれて唖然とするアクアたち。
あいつは確か・・・ダストとかいう街のチンピラ冒険者じゃ・・・
「おいおい、ダストいきなり甘いもんを頼むのかよ?女子供じゃあるまいし・・・」
「うっせ。俺は甘いものには目がないんだよ。最近疲れるし糖分を必要としてんんんのおおおおっ!!」
「あら、ごめんなさい・・・宴会芸に使う鳩が脱走したみたい」
「あー、すいません。手が滑ってナル爺の手裏剣が・・・・」
「いや、本当にすまん素振りをしていたら剣がすっぽ抜けてしまった」
絶対わざとだこいつら!
食べ物の恨みというのは恐ろしい。例えそれが逆恨みだとしても。
青ざめたダストが差し出したイチゴパフェを仲良く三人で分けながら食べ合っている。
もう絶対こいつらに甘いものをおごるなんて軽はずみなことはしないでおこう。
俺はそう心に誓って、店員のお姉さんに俺の払いであそこの俯いて震えている男に上物の酒を一杯出すように伝えた。
早朝、寝巻きのジャージから冒険者の装備に着替えていると
『緊急!緊急!全冒険者の皆さんは直ちに武装して街の正門に戦闘態勢で集まってください!特にうずまきナルトさんとその一行は大至急!!というかナルトさんを!早く!!」
そんな切羽詰った声の緊急放送が街中に響き渡った。
なんだ?またベルディアの襲来か?
だとしたらヤバイな・・・師匠とクラマは昨夜は帰って来ず、今もどこにいるのかわからなかった。
それを心配してこれからアクア達と探しに行くところだったというのに・・・
この間の悪さは偶然なのか?いや、もしかしたら師匠の失踪にベルディアが関係しているのかもしれない。
俺達は急いで正門前に向かった。
すると――――――
「俺の城を跡形もなく無残に消し飛ばしやがった残虐非道な魔法使いはだれだああああああああああああああ!!!!出てこおおおおお~~~~~~い!!!・・・う、う、う、うおおおお~~~~~ん!!あんまりだ~~~!!あんっっまりだああああ~~~~~~!!!」
魔王軍幹部ベルディアは泣いていた。
同情した冒険者達が「かわいそう」と呟くほど。
それはもう、盛大に泣き叫んでいた・・・・
ま、まさか・・・・あの廃墟って・・・
めぐみんは脂汗をダラダラ流しながら青ざめていた。
次回ベルディアVSカズマ一味
なぜか今回は書いていてベルディアを応援したくてたまらなくなりました。