かつての英雄に祝福を!   作:山ぶどう

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第12話 貧弱冒険者が強くなる方法

筋骨隆々の大男達がカズマに迫り来る。

それを息を切らせながらも冷静な目で避け続けるカズマ。

捕まってしまえば暑苦しい筋肉に骨が軋むほど強く抱きしめられるのだ。必死にもなるだろう。

一度怠けてわざと捕まったカズマに千年殺しを食らわせたところ、それからは本当に死ぬ気で体力の限界を超えても逃げ続けることができるようになった。

この修行法は一見馬鹿らしいが、死より恐ろしい恐怖を与えることで体力増強を促す非常に理にかなったものだといえる。

ちなみにこの二週間は朝から日が暮れるまでずっとこれを続けていた。相当体力は増えてることだろう。

 

「うん、いい感じだってばよ。修行の第一段階はこれにて終了。おめでとさん」

 

汗で衣服をビシャビシャに濡らし、肩で息をしている疲労困憊なカズマ。

筋肉軍団を消してナルトがそのカズマを労う。そしてカズマの冒険者カードに目を落とすと納得したように頷く。

ワシもカードを覗き込みカズマの現在のステータスを見る。敏捷値と体力値と精神力が大幅に増えている。

わずか二週間でこの増加は大したものだ。

 

「ハァハァ・・・ぜぇぜぇ・・よう・・やくか・・・これで・・この地獄の日々から・・・解放・・され」

 

「じゃ、基礎体力作りは終わりにして、明日からは次の第二段階の修行に移るから。

これからが本番だから覚悟しておけってばよ」

 

カズマが地面に倒れる。

 

「・・・いっそのこと殺せー・・・・・」

 

涙声で呻くカズマを無視して背負いナルトは風呂屋へと歩き出した。

 

 

 

「あ・・・お疲れ様でーす。今日は随分と遅くまで頑張っていたんですね。」

めぐみんが見るからにグロッキーなカズマを暖かく迎える。

 

「・・・体力作りの仕上げとかで・・・いつもより一時間は長かった・・・・もう、俺はダメかもしれん・・・」

 

カズマが席に着くなり、テーブルに上半身を突っ伏し弱音を吐く。

 

「まぁまぁ、毎日そう言いつつ今まで頑張ってきたじゃないか。後二週間程の辛抱だ。修行が終わったらお祝いでワイバーン肉のバーベキューをするつもりだからそれを励みに頑張ってくれ。」

 

ダクネスがカズマの肩を叩き、励ます。

 

「おいおい、ワイバーン肉は高級品だろ?良いのか・・・」

 

「親方に認められたのか工事現場の給金が上がったのだ。遠慮することはない。これから強くなったカズマが活躍して返してくれればそれでいい・・・・ほら、シャワシャワだけじゃ力が出ないだろう。肉を食え肉を。」

 

ダクネスの優しさに涙ぐむカズマ。そんなカズマに笑ってスモークリザードのハムの皿を差し出すダクネス。

 

「ほら、辛いことはお酒で忘れましょ?シャワシャワなんてノンアルコールを飲んでいないで、ちゃんと気持ちよく酔っぱらいなさいよ!おねぇさーん!この疲れ果てた修行者にキンキンに冷えたクリムゾンビアを一杯!」

 

「アクア・・・お前・・・」

 

「この私が奢ってあげることなんて滅多にないんだからね!感謝なさい!ほら、このカエルの唐揚げも食べなさいよ!唐揚げとクリムゾンビアのコンボは神の組み合わせだわ。だからってあまり深酒したらダメだからねっ」

 

「お前に言われたくねーよ・・・・でも、ありがとうな・・・・」

 

カエルの唐揚げを美味しそうに頬張りながら微笑むカズマ。アクアは照れくさくなったのか頬を染めてそっぽを向く。

 

「聞いてくださいカズマ!今日、爆裂魔法を放つのにちょうどいい廃墟を見つけたのです!

私の全力の爆裂魔法でも崩壊しない、なかなか根性のある建物です!あの廃墟を木っ端微塵に吹き飛ばせた時、

私は更なる爆裂道の高みに登っていることでしょう!」

 

「・・・本当に大丈夫か?その廃墟に人がいないか確認したほうが・・・・」

 

「大丈夫ですよー。カズマは心配性ですね。私が言いたいのはカズマが一生懸命修行している間、私もまた進化しているということです!ナル爺の地獄の特訓メニューが終了した時、お互いの成長を確認し合いましょう!

この私の更なる進化を遂げた究極の爆裂魔法を見せてあげます!」

 

「ふふ、俺が強くなったら、めぐみんの爆裂魔法の出番なんて回ってこなくなると思うぞ?

いつまでも永遠に待機している、補欠魔法使いの出来上がりだ。」

 

「な、なにおー!絶っっ対にそんな事態にはなりません!むしろ私の爆裂魔法の余りの強烈さにカズマが存在意義を見失う未来が私には見えています!そんなカズマはザコ敵の露払い位には使ってあげますよ?」

 

「ぬかせ!爆裂魔法を間抜けに外してザコ敵に蹂躙されそうな半泣きのめぐみんを俺が颯爽と助けている未来が俺には見えているぜ!そんなことになっても俺に惚れるなよ!ロリっ子は守備範囲外なんだ!」

 

「なるほどっ。妄想ですね。思春期の男の子にありがちなとても痛い妄想です!

それが現実になることはありませんので!むしろその逆パターンを私は想定していますよ!」

 

「この俺がロリっ子に惚れるわけないだろ?牛乳飲んで自分の乳に栄養を与えてから言いやがれ、この・・・・アイタタタタタ!チョッ・・・ギブ!ギブアーップ!!」

 

めぐみんに関節技を決められて情けない叫びを上げるカズマ。

それを仲間たちは可笑しそうに笑いながら見ていた。

大して根性のないカズマがここまで頑張ってこれたのはきっとコイツ等のおかげだろう。

本当に良い仲間に恵まれたものだ・・・

 

翌日

 

いつもの平原にカズマとナルトが向かい合っていた。

 

「じゃあ、これから修行の第二段階に入るってばよ。準備はいいな。」

 

「押忍っ!!」

 

カズマはいつも通りのジャージ姿で気合が入っている。

 

「とりあえず、さっき教えたやつをやってみるってばよ。」

 

「えーと・・・確か・・こうか・・―――――――――――――影分身の術!」

 

ボンという火薬が破裂するような音と共にカズマと全く同じ姿の分身が現れる。

 

成功か・・・まさかこうも容易くこの術を習得することができるとはな・・・

 

もちろんこれはカズマの才能によるものではない。

この世界はレベルが上がるたびに溜まっていくスキルポイントというものが存在する。

そのポイントを使って冒険者は鍛錬を必要とせずに様々な技能を一瞬で習得できるのだ。

しかし、影分身などの忍術は本来ナルトのようにニンジャマスターという特殊なジョブではないとスキル習得はできない。

こちらの人間に知りもしない忍者の適正者など現れるはずもなく、忍術を使うためには向こうでのワシ等のように地道に血の滲むような鍛錬で習得するしかない。だが、唯一の例外が存在し、それが最弱職と言われる“冒険者”なのだ。

“冒険者”は目視と発動方法を教わるだけで全ての職業のスキル習得が可能なのだという。

大抵は本職に及ばず、ポイントの消費量も多いらしいが、それを考慮しても有り余る程の利点だ。

 

ちなみに影分身の消費ポイントは3だ。一応、高等忍術のはずなんだが・・・意外とこいつに適性があったのだろうか?

 

「やっぱり今のカズマだと一体が限界かぁ・・・」

 

「なに・・・これ・・すっげー疲れる・・・」

 

早くも呼吸を荒くし影分身を消失させるカズマ。わかっていたことだがやはりチャクラ量が貧弱だ。

今のこいつにはまるで使い物にならない忍術だ。

 

今のこいつならな・・・・

 

「うわ、すぐ消えちゃうなぁ・・これ。すげぇ便利そうだけど今の俺には・・・・」

 

昨夜、影分身の話を聞いて燥いでいただけに落胆が大きいのだろう。しょぼくれて俯くカズマ。

 

「大丈夫だ。それを使えるようにする方法がちゃんとあるってばよ。カズマ、腹をだせ。」

 

「は、腹?・・・・よくわからんが、了解です師匠。」

 

素直に腹を出すカズマ。印を結び、その腹に掌を添えるナルト。

 

「――――――盃の術!」

 

カズマの腹に太陽を思わせる緋色に輝く特殊な紋章が発現する。

 

「熱っ!」

 

焼印を押すように光を発するそれはカズマの肉体に馴染んできたのか徐々に眩さが収まっていく。

 

「なんだ・・これ、どうなってんだ・・すげー・・魔力が、体の底から溢れてくる・・・!」

 

普段のカズマでは考えられないほどの膨大なチャクラを身に纏い、興奮したように言う。

 

「俺とお前のチャクラを繋げたんだってばよ。これからは、お互いのチャクラを共有することになる。

これでお前のチャクラ不足は解消されたってばよ。」

 

盃の術―――――それはかつて第四次忍界大戦の時にワシのチャクラを仲間達に分配した技の応用だ。

特殊な印を相手に刻むことで互いのチャクラを一つにまとめ、そこから引き出し合うことができるのだ。

そう聞くとお互いに利点があるように思えるが、馬鹿みたいに膨大なチャクラを身に宿すナルトはそもそもチャクラ不足に陥ることなどまずない。それに対して相手の方は無限に近いチャクラを手にすることになるのだ。

利害関係は全く釣り合っていない。大金持ちが貧乏人と共有財産をするようなものだ。

 

「チャクラって、魔力のことだよな?・・・でも良いのか?俺と共有したって師匠に良いことなんて一つもないだろう?我ながらショボイ魔力値だと思うし・・・それに師匠の魔力を消費して負担をかけるわけには・・」

 

その辺のことを自分でもよくわかっているのかカズマも遠慮がちだ。

 

「ハッハッハ、カズマがいくら遠慮なく使ったとしても俺のチャクラを枯渇させることなんてできないってばよ。

・・・・相手がめぐみんならわからないけど・・・」・

 

「あー・・めぐみんなら確かに魔力切れが起きるまで延々と爆裂魔法を撃ち続けそうだな・・・」

 

もし、あの爆裂馬鹿と共有してしまったら・・・・とても恐ろしいことになるだろうな・・・

 

「まぁ、気にするなってばよ。これは修行する上で重要なことなんだ。

俺ぐらいのチャクラ量があってようやくあの修行法が実践できる。」

 

「あの修行法?」

 

「うずまき家、伝統の修行法、“千人教練”」

 

「千・・・えっ?」

 

「とりあえずその状態で全力の影分身を。最初は全然千に届かないと思うけど、そのうち慣れるってばよ。

ほら、ぼさっとしてないで!早く!」

 

 

―――――――――――それから数時間後

 

「ほいさっ!」

 

「ぐはっ!」

 

ナルトに掌底突きを喰らい吹き飛ばされるカズマ。地面を転がり、時間差でボンと掻き消える影分身。

 

次の瞬間、後ろから迫り来るカズマの拳を軽く受け流すナルト。

 

「後一秒は影分身を持続させないと意表はつけないってばよ!後ろを取る時も焦りすぎだ!バレバレだったってばよ!」

 

「お・・押忍!」

 

本体であるナルトとカズマはマンツーマンで組手の修行。

 

それを中心に六百体程の影分身たちが各々、体術訓練、チャクラコントロールや忍具の扱い、剣の素振りなどをしていた。半分はナルトの影分身で一人一人丁寧にカズマの影分身に教えている。

 

かつて、螺旋手裏剣を開発する際にカカシが発案した影分身を用いた修行法だ。

影分身は解除された時、分身の経験値が本体にフィードバックされるという特性がある。

それを活かして多重影分身で様々な修行を行い大量に経験値を蓄積させるのがこの“千人教練”だ。

もちろんこの世界の経験値と呼ばれるものとは別物の精神的なものなのでレベルも上がらないしステータスの変動も大したことはない。しかし、短時間の修行で実戦経験は確実に磨かれ、体術、忍術の練度も著しく上昇することだろう。

チャクラの大量消費はナルトが請け負っているし、フィードバックによる精神的疲労も三百人程度なので恐らく倒れるほどのものではないだろう。多分。

 

「どわぁっ!」

 

「防御力が貧弱なんだから受けようとするな!これまで鍛え上げたその足を使って回避するんだってばよ!」

 

「どへぇっ!」

 

「本体で考えなしに我武者羅に突っ込んでくるな!そういう時は影分身を陽動に使うんだってばよ!自分のチャクラじゃないんだからケチケチするな!盛大に使っていい!」

 

「あうちっ!」

 

「なんで今、無意味に千年殺しを使おうとした!ふざけてんのか!あれは相当な力量差と余裕があって初めて行えるネタ体術だぞ!それこそ千年早いってばよ!!」

 

 

――――――――そして、いつもの酒場にて

 

 

「カズマさ~~ん!起きて~!寝る前にご飯食べないと持たないわよ~!!」

 

テーブルに突っ伏して寝息を立てているカズマ。

それをアクアは揺さぶって起こそうとしている。

 

「へんし゛か゛ない、ただのしかは゛ねのようた゛

・・・・今日はもう帰らせたほうが良いだろうな。」

 

ダクネスがカズマの料理をパンに挟んでサンドイッチのようにしている。

馬小屋で目を覚ましても何時でも食べられるようにとの配慮だろう。意外と女子力の高いやつだ。

 

「そんなにハードな訓練だったんですか?昨日まではここまではならなかったのに・・・」

 

めぐみんが心配そうにカズマの頭を指でつつく。

 

「肉体的にはそれほどでもないんだけど、特殊な修行だからなぁ・・・

精神的な疲労が後になって来るんだってばよ。」

 

もちろんナルトはピンピンしている。カズマと合わせても合計六百体程度の影分身だ。いつも千体以上の数を気軽に創り出すコイツにとっては軽い運動のようなものだろう。実際チャクラは一割も削れていないし。

 

「まだ始まったばかりだ。これから嫌でも慣れるってばよ」

 

ナルトはそう言って寝ているカズマを背負う。

しょうがないからワシも今日はもう馬小屋に帰ろう。

 

「あ、起きたらこれを食べさせてやってくれ」

母ちゃんみたいなことを言って紙に包んだサンドイッチをナルトに手渡すダクネス。

 

「私はまだ帰らないから、一応いつものをやっておくわね。“ヒール”・・・うん、これで元気になるわ。」

いつものように疲れたカズマを回復魔法で癒してくれるアクア。慈愛に満ちているこの時だけは確かに女神のようであった。

 

「疲れた時はこれが一番。私特性・超元気爆裂栄養ドリンクです。疲れが抜けない時に最適です。ただ、眠る前には絶対飲ませないでください。元気になりすぎて眠れなくなります。」

 

めぐみんが怪しげな黒い液体の入った瓶を渡してきた。なんか嫌な感じがするので後で捨てておこう。

 

 

馬小屋へ帰る途中、星の見える夜道でカズマを背負ったナルトが落ち着いた声で言う。

 

「クラマは・・・・・カズマのこと、どう思う?」

 

「あ?どう思うって・・・・まぁ、似てるよなぁ」

 

誰にとは言わない。言う必要を感じさせないくらいにアイツに瓜二つなコイツ。

コイツを目にしてからワシはずっと考えていたのだ。巡りあわせというものを。

この世界でワシらがコイツに出会ったのは何かしらの意味があるのではないかと。

 

「なぁ、カズマってさぁ・・・・」

 

「ん?・・・なんだ?」

 

口ごもるナルト。

 

「・・・いや・・・強くなるなぁって思ってさ・・・」

 

それが言いたかったわけではないと思うが、一体何をごまかしたのだろうか、コイツは。

 

「きっと、カズトのやつよりもずっと、ずっと、強くなるってばよ・・・・」

 

夜空を見上げてナルトは嬉しそうに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

オッス俺カズマ!今俺は・・・・・・

 

「キシャ~~~~~~~~~~ッッ!!!」

 

モンスターの群れに追われていた。

 

「うわぁ~~~~~~!お助け~~~~~!!」

 

“クリーム・スパイダー”捕らえた人間をクリーム状に溶かして我が子に与えるという恐ろしいモンスター。

この時期は繁殖期なので数が多く常に餌を求めている。

その餌に選ばれてしまった俺は森の中を必死に逃げ回っていた。

 

「うわぁっ!や、やめろぉ~~~~!離せ~~~~!!」

 

大きな岩が道を塞ぐ行き止まりに追い詰められた俺は蜘蛛の群れが次々に放出する粘糸に絡め取られてしまう。カチカチと牙を鳴らす蜘蛛たち。あれは人間を溶かすための溶液を口の中で作っているのだ。

無駄な争いをしないためにクリームになった人間は均等に分配するのだが、始めに液をつけた蜘蛛は少しだけ多めにもらえるのがこいつらのルールなのだ。だからこいつらは早く溶液を飛ばすために必死なのである。

――――ああ、なんで俺がこんなことを知っているかというと

 

一斉に飛ばされた溶液は俺に降り注ぐ。

無様にもがいていた俺はそれを見てニヤリと笑い・・・・ボンと音を立てて消える。

 

混乱する蜘蛛達は次の瞬間、木の上から降りてくる複数の俺に剣で弱点である上頭部を貫かれて絶命する。

逃げ惑うフリをして影分身が待機するここに誘導したのだった。

 

「ごちそうさまでした。とっても美味しい経験値でした。」

 

蜘蛛の死骸にそう言って合掌する俺も役目を終えて消える。

 

「あ、レベルが上がった!」

 

師匠との組手の休憩中にそれを知る俺。影分身をモンスターの討伐に向かわせていたのだが。どうやらうまくいっていたようだ。最初のうちは全滅することも多かったが同じ相手と何度も戦っているうちに必勝パターンが出来上がり最近は安定して勝てるようになった。師匠の飛雷神の術で一瞬で向かうことができるし、本当に効率のいいレベリングだ。

現在レベル18。いい感じにスキルポイントが溜まっているし、アレを習得できる日もきっと近いだろう。

ニシシシと笑っていると師匠に額を小突かれる。

 

「レベル上げもいいけどほどほどにな。アクアたちは普通に働いてくれているんだ。抜け駆けしているみたいで気持ちが良くないってばよ。」

 

師匠の言うことにハッとする。修行に身を費やして稼ぎのない俺達のためにアクア達はせっせと働いてその給金を俺達に貸してくれているのだ。なんだかこれは女を騙して金を巻き上げるダメ男のようで非常に居心地が悪い。

今回のことでわかったがあいつらは結構献身的なのだ。修行に疲れた俺にとても優しくしてくれるし、くじけそうな時は励ましてくれる。俺はそのことを心の奥ではとても感謝していて。

修行が終わり次第、少しずつでも返していきたいものだ。

 

『緊急クエスト!緊急クエスト!冒険者各員は至急正門に集まってください!繰り返します。冒険者各員は至急正門に集まってください!」

 

馬小屋の中で内職をしながら待機していた影分身が街に大音量で流れるアナウンスを聞きつける。

 

これは・・・・俺の出番だ!

 

「師匠!街で異変が!」

 

「ああ!何かただならぬ気配だってばよ!すぐに街へ飛ぶぞ!掴まれ!」

 

「はい!」

 

飛雷神の術で仲間のピンチに駆けつけるため、俺は慌てて師匠の手を取る。

 

待ってろよ皆、修行でパワーアップした俺が絶対に助けてやる!

 

この時の俺の頭の中は魔王軍幹部に追い詰められて絶体絶命の仲間達という構図が出来上がっていた。

うん、思春期の男子特有の痛い妄想を思い描いていたんだ。

まさか飛んだ先で・・・・・

 

「「「「「収穫だーーーー!!!!」」」」」

 

「マヨネーズ持ってこーい!!」

 

キャベツの収穫が待っているなんて思わないだろ?

 

師匠と格好よく登場して拳を打ち付けて「修行の成果を見せてやる!!」なんて叫んでいた俺は絶対に浮いてた。

だってキャベツの収穫だもの。別に脅威的な敵でもないもの!

 

っていうかなんだよ!修行後の最初に当たる敵がキャベツって!

そんな王道少年漫画があるか!即打ち切りコースだよ!

 

「火遁・豪火球の術!」

 

「す、すごいですカズマ・・・!」

 

「なんて・・火力だ・・!キャベツがこんがりと美味しそうなソテーに・・!」

 

新技だって披露しちまったよコンチクショウ!キャベツ相手に!

 

「さ・と・う・・・・・カズマ連弾!」

 

ズドドドドドドドドッ!

 

「ああ!大勢のカズマにキャベツがタコ殴りに!」

 

「や、止めてくださいカズマ!キャベツがもうボロボロです!完全なオーバーキルです!」

 

もういい・・・キャベツなんて・・・キャベツなんて全て冥界に送ってやる!

 

皆殺しだ!一欠片も残らないと思えよ!ヒャッハーーーーーー!

 

「奥の手を・・・・見せてやる!!」

 

「ダメだってばよカズマ!それは・・・それはキャベツ相手に使うものじゃない!苦労の末ようやく習得できた切り札じゃないか!ここぞという時に見せてくれってばよ!」

 

「止めろよ!別に体術だけでもいいだろ!キャベツなんだから!」

 

必死に俺を止めてくれる師匠とクラマの姿に正気に戻る。

 

・・・・俺は一体なにを・・・・危なかった・・・グッジョブ師匠!

 

「はー・・・カズマって本当に強くなったのねー・・・」

 

「すごいですカズマ!修行の成果が出ていましたよ!」

 

「ああ、血の滲むような努力が実を結んだんだな・・・!良かったな!本当に・・・!」

 

こういう反応は!もう少し後に取っておいて欲しかった!!

 

だって無双した相手ってキャベツだから!襲ってくるといっても所詮野菜風情だから!

 

いや、魔王軍幹部相手に快勝できるとは言わないよ。

 

それでももう少し強敵であって欲しかったよ!

 

「わかるってばよ・・・・カズマ。今のお前の気持ちはよくわかる・・・・」

 

「し・・・師匠~~~~~!!」

 

今年度のキャベツの収穫は前例のないほどの大漁でありました。

その蹂躙されたキャベツの中心で世の無情さを叫んで抱き合う師弟の姿がありました。

 

 

 

 

 

 




盃の術はほぼオリジナル忍術になります。

チートっぽいですが、リミッターをかけているので仙術チャクラや九喇嘛のチャクラは共有できず、また、カズマのチャクラを練りこむ技術が未熟のせいで膨大なチャクラを引き出したり、身に纏うことなどができません。

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