「ぎゃぁあああああああああああああああああっっ!!!」
穏やかな秋の昼下がり・・・・・・そこに切り裂くように響き渡る絶叫。
もしここに子供がいたら、いやたとえ大人だとしても恐怖に震えることだろう。
そこには地平線を埋め尽くすかのような無数のガチムチ筋肉男たちが一挙に押し寄せてくる謎の光景。
薄気味悪いスマイルを顔に貼り付け、テカテカと輝く筋肉を躍動させて全員が飛びかかるように殺到する・・・
冒険者仲間であるカズマに・・・・・・
草原を全速力で駆け抜けながら、たまらず絶叫するカズマ。
「こんなの修行じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~!!
もうやめてくれ~~~~ギブア~~~~~ップ!!」
あれ?・・・・・なんかデジャブ・・・・
・・・ああ・・ひ孫のハヤトと反応がそっくりなんだ・・・・・
懐かしい気持ちでナルトとカズマの修行風景を眺めるワシ。
「クラマさまたすけてクラマさまたすけてマジおねがいしますくらまサマーーーーー!!」
転んだカズマは無様に這いつくばってワシに助けを乞う。
いやいや、本当に似ているな・・・
しかし、許せカズマ。お前には特に恨みはないが、ここで甘やかすわけにはいかないのだ。
無言で背を向けて走り去るワシ。草原にカズマの絶望的な悲鳴が虚しく響いた。
なぜこんなことになったかというと・・・・時間は数日前に遡る・・・・・
「え!?爺さん達も異世界から来たのか!?」
ワシがナルトの冒険者カードを見せて自慢したあの日。
ナルトの圧倒的ステータスの前にひどく興奮した様子のカズマ達は矢継ぎ早にナルトに質問の集中砲火を浴びせた。
やれ、「火影とは何か」「ニンジャとはどういうものなのか」「なぜレベル1でステータスがそこまで高いのか」「そもそも爺さんは何者なのか」「この街にはどうしてやってきたのか」
「以前はどういう暮らしをしていたのか」「家族はいないのか」
良い機会だとばかりに以前から疑問に思っていたであろうことを重ねて聞いてくる。
それに対して特に隠す理由がないということでナルトは全てぶちまけたのだった。
アーデルハイドと名乗る悪魔に強制的に連れられてやってきた異邦人であることも含めて。全て。
最初はみんな半信半疑だったが、ナルトが口寄せの術で向こうの物をいくつか呼び寄せたら割と簡単に信じてくれた。
向こうの我が家では今頃きっと食料やらゲーム機やらナルトの私物がいきなり消え失せて驚いていることだろう。
「妙な魔法を使うとは思っていましたが、まさか異世界の人だったとは・・・・・」
マジックで“ハヤトの”と書かれたプリンを美味しそうに食べながらめぐみんは言う。
「それは裏ルートってやつね。正規の手順を踏んだ異世界来訪じゃないわ。
違法よ、違法。そのアーデルハイトっていうクソ悪魔には罰金を嫌というほどふんだくってやらないとね!」
アクアがゲーム機で遊びながら言う。どうやらクリア寸前のハヤトのセーブデータは上書きされてしまったようである。
「アクアが言っていることはよくわからんが・・・・とにかくナルトさん達が家族の元に帰るには、その悪魔を捕まえないといけないんだな?」
ハヤトが隠し持っていた“イチャイチャパラダイス”復刻版を頬を赤らめて読みながらダクネスが言う。
「ああ、今のところあの悪魔ぐらいしか帰る方法が思い当たらないってばよ。」
ナルトがカップラーメンを夢中ですすりながら答える。久しぶりのラーメンに感激して涙まで流しているところ悪いが・・・これは、なかなか難しい事態なのだ。
「書物などで調べてみたんだが・・悪魔っていうのは普段、人間が行くことのできない魔界という世界に住んでいるらしい・・・・そこに逃げられたのだとしたら・・・ワシらに打つ手はないな・・・」
なにもワシらもこの街でのんびり異世界生活を謳歌してばかりではない。
大量の影分身を世界中に張り巡らせ、常に大規模な捜索を行っていたのだ。
仙人モードでの感知を繰り返し、あちこちで聞き込みをし、各国の冒険者ギルドで捕獲の依頼まで出した。
それでも未だにあの悪魔は見つからない。一ヶ月が過ぎた今でもまるで尻尾を掴むことができないでいた。
だから、今はもう相手の出方を待つしかないという結論になっている。
わざわざこの世界に呼び寄せたのだから、何らかの目的はあるのだろう。恐らくそのうち接触してくるとは思うが・・・しかし、あのヘタレた悪魔にそんな根性があるだろうか?
・・・泣きながら土下座を繰り返していた鼻垂れ悪魔の姿を思い出す。
螺旋手裏剣を喰らって心が折れて引き篭っているとしたら・・・非常にまずい・・・
あれは細胞レベルで肉体をズタズタにする超凶悪忍術だからな・・・トラウマになっていないといいが・・
・・・敵対するのなら打ちのめすこともできるが、完全に放置されたとしたらもう、お手上げである。
「じゃあさ、いっそのこと俺等と一緒に魔王討伐を目指しちゃうか?」
カズマの突拍子のない発言に皆の目が集まる。
急に何言ってんだろ?こいつ・・・
俺達は元の世界に帰る方法について話しているというのに・・・
ナルトのボケが移ったか?
「いや、そんな頭が湧いたのかコイツ、みたいな目で見るなよ・・・・
確か、魔王を討伐すると、何でも願いが一つ叶うって話なんだって・・・なぁ、アクア?」
ワシらの視線にたじろきながら同意を求めるカズマに、アクアは、ぼやんとした目で数秒沈黙した後、
「・・・・・・・ああー・・そんな話もあったわね・・・って・・そうよ!そうだったわ!
そうしないと私も帰れないじゃない!今の生活は楽しいけど私は女神の座に返り咲きたい!!
天界で女神として崇められる神々しい存在に戻りたい・・・・!」
なにやら慌てたように騒ぎ立てるアクア。
「願いが叶うとか、どこ情報ですか?そんなの聞いたことないんですが・・・・」
戸惑うめぐみんにアクアがドンと胸を叩いて宣言する。
「もちろんこの私のお告げ!女神情報よ!!」
「・・・・・うわー・・・一気に胡散臭くなりましたねー・・・・」
「・・・・正直この状況でそういった冗談は不謹慎ではないだろうか?
アクアはもう少し場の空気というのを読むようにしたほうがいいと思う・・・
もちろん私は明るくて無邪気なアクアが大好きだが、改めないと社会に出たら誤解を受け反感を買うことが多くなるだろう。煩わしいと思うが聞いてくれ。だいたいアクアは普段からして・・・・」
また始まった、と言いたげな白けた半目で一瞥するめぐみんと心を鬼にしてガチの説教を展開するダクネス。
そのいつもの反応にアクアは泣いた。
「うわぁ~~~ん!!これだから下界は嫌なのよぉ~!!誰も私を信じてくれない!
・・・だいたい空気云々はエロ本から片時も手を離さないあなたにだけは言われたくないわよ!
このエロネス!!うわぁぁぁ~~ん!!」
「ぐ・・・こ、これはエロ本ではないのだ・・・今日から私のバイブル・・聖書のように神聖なものなので・・・う、うん私が悪かった・・・言いすぎたよ、ごめん、信じる・・信じるからそんな本気で泣かないで・・」
「た、確かに女神のようなオーラをどことなく感じるような気がしますね!ほら信じました!
私は信じましたよー・・・・だから、そんなに泣かないでください・・・・」
本気で泣き伏せるアクアに慌てた二人はついにアクアを女神だと認めてしまう。
「・・・・・・・だったらアクシズ教に入団して私の信者に・・・・」
「「それはお断りします」」
宗教の勧誘にきっぱりと断りを入れるめぐみんとダクネス。
アクシズ教というのは頭のおかしい集団として有名であるらしいし当然であろう。
プルプルと涙目で震えるアクア。
・・・・おいおい、いい加減本題に入りたいんだが・・・
「俺は別に入っても良いってばよ?」
「・・・・え?・・・ほ、本当?・・・・」
ナルトが穏やかな笑みを浮かべて言う。
それを仏様を見るような眼差しで見上げるアクア。
「ああ、元々信じている神様がいるわけでもないし。こんな可愛い女神様にならこんな老いぼれでよければいくらでも身を捧げるってばよ?とりあえずお供えはこんなものでいいかな?」
そう言って口寄せした栄養ドリンクを捧げるナルト。え?そういうものでいいのか・・・?
「おじぃちゃぁぁぁぁぁ~~~~~ん!!」
感激してナルトにしがみつくアクア。全然OKらしい・・・
「はぁ・・・わかったわかった。お前が女神だっていうのは100歩譲って信じてやるから・・・・
それで?・・・・・願いが叶うという辺りを詳しく教えてくれ・・・・・」
ワシがため息を吐きながら尋ねるとアクアは水を得すぎた魚のように嬉々として答える。
「ふふん、じゃあこの女神様のお告げをありがたくお聞きなさい!」
色々脱線しまくりで要領を得ないが、調子に乗ったアクアの話を要訳するとこうだ。
この世界に現れた魔王の存在に天界の神々は大いに困っており、それをどうにかするために非業の死を遂げた別世界の人間に特別な武器や能力を与えてこの世界に送り込み魔王を倒すように仕向けているとか。
その報酬としてそれを成し遂げた人間には神から一つだけ願いを叶えてもらえることらしい。
そして、このカズマも別世界から送り込まれた者のひとりであるという。
「へぇー!じゃあカズマも何か特別な能力を授かったんですね!もう!何をもったいぶっていたんですか?
ここぞという時に隠された能力を開放するのは確かにカッコイイですが格下のカエル相手に逃げ惑うくらいならサクッと使っちゃえば良かったのに・・・・・」
「いやいや、もしかしたら特殊な状況下にしか発動しない魔剣なのかもしれないぞ!
きっと、邪悪なものと相対したときにその真価を発揮するたぐいのものだ!」
めぐみんとダクネスが大いに期待した瞳でカズマを見つめる。
そのカズマはというと気まずそうに無言で指をアクアに向ける。
「え?なんです?アクアがどうかしましたか?」
「まて!もしかしたらあの指先からビームが出るのかもしれないぞ!危ない伏せろ!アクア!」
「ヤバイです!だとしたら絶対に貫通力のあるビームが飛び出しますよ!ダメですカズマ!その能力は仲間に向けるものではないはずです!正気に戻って!ダークサイドから戻ってきて!」
「くっ・・・撃つなら私を撃て!・・・・」
何やら二人で盛り上がっているめぐみんとダクネスを悲し気に見つめるカズマ。
「いや、だから、アクアなんだよ・・・・・」
「何がですか?アクアがどうかしましたか?」
「いや、もしかしたら、アクアは生物型兵器なのかもしれないぞ!いざというとき人から剣に変身する類のやつだ!」
「なんと!そんな・・・・・アクアは道具ではありません!私達の大切な仲間です!」
「そうだとも!私達の大切な・・・!」
「いや・・・だから!・・・・ふんぞり返って超生意気な大して役に立たなそうな女神を・・・・俺がついカッとなって・・・・物として連れてきちまったんだ・・・・・・・」
カズマが口にする真実を無表情で受け止める二人。
「「・・・もっと他に良いものがあったんじゃ・・・・」」
「だよなー・・・・」
同時に重々しいため息をつく三人。
「ねぇ!大切な仲間じゃなかったの!?もうなんなのよもう!私は被害者なのに!
天界に帰ったら弁護士を呼んで色々と訴えてやるんだからね!!」
憤慨して指を突きつけるアクア。
「しかしそれじゃあ、能無しのカズマでは魔王討伐は少し厳しいのでは?」
「お、おう・・・まぁそうなんだけどさ・・・確かに特殊な能力もちじゃないけど・・・その言い方は・・・」
「事実でしょ?まぁ、カズマの至らない部分は仲間である私達が補いますが・・・・」
「超高ステータスのナルトさんもいることだしな・・・」
それを無視して話を進める三人。
というかワシは一つ疑問があるんだが・・・・・
「そういえば、叶えてくれる願いって、一つなんじゃないかってばよ?・・・・」
ナルトが言う。そう、それだ。ワシもそれが言いたかった。
全員がハッとした顔をして問い詰めると、アクアはあっけらかんと言う。
「ああーそれは問題ないわ。代表者の願いを“パーティメンバー全員の願いを叶えてくれ”ってことにすればオールOK!クラマたんのお願いはおじいちゃんと同じだから一枠空くでしょう?だから全員の願いが叶うという、すんぽうよ!」
えー・・・・そんなんでいいのか?・・・・・
「え?・・・それで良いなら願いを100個に増やすとか・・・・無限に好きなだけ願いを叶えるという超強欲な方法も取れるのでは?・・・・」
めぐみんが当然の疑問を上げるがアクアは目を釣り上げて否定する。
「そんなわけないでしょ・・・・神様だって願いを叶えるだけの機械じゃないの。心がちゃんとあるの。
許容できる願いとそうじゃない願いをきちんと弁えているのよ?
本来は条例で一人だけって決まっているけれど、その他の人間も頑張ったのに報われないのは可哀想だってことで、特例としてこれくらいのことは目を瞑ってくれることになっているのよ。
だから願いを増やすお願いはここまでが限度なの。それ以上だと神様が怒って何があるかわからないわよ?
欲を張った人間の末路なんておとぎ話でも良く聞くことでしょ?」
アクアが急にまともなことを言い出した。
「まぁ、全員の願いが叶うってんならそれで十分だってばよ。そこまで多く望むことなんて今更無いしな。
一応俺らは元の世界に帰ることを願うつもりだけど、他の皆は何か叶えたい願いはあるのか?」
ナルトがカップラーメンのスープを幸せそうに飲みながら言う。半端じゃなく健康に悪そうである。
「悩ましいです・・・今まで散々妄想したシチュエーションではありますが・・・ひとつかー・・うーん・・いっそのこと私が魔王の座に就いて、世界をこの手に・・・好きな時に爆裂三昧・・・・それとも・・カエルの肉、十年分?・・いや、そこまでカエルが好きというわけでは・・・」
プリン容器の底に付いているカラメル糖をペロペロ舐めながらめぐみんは唸る。
「私は・・・・王都で最近有名な腹筋マシーンを・・・いや、そんなもののために魔王を倒すのも・・・他に・・・他は・・・古代文明の遺宝である“エロゲー”というものを復活させてみるか?・・・文献を読む限り、とても素晴らしい物のようであるが・・・いや、何を言っているんだ私は・・・!
己の欲のために神の祝福を使うなど騎士の名折れ・・・!
恵まれない子供たちに愛の手を!飢餓に苦しむ人々に暖かな食事を!」
騎士として誇り高い眼差しで高潔な願いを口にするダクネス。
・・・・片手に持ったイチャイチャパラダイスが色々と台無しにしているが・・・
「もちろん私は・・・・・女神に・・・いや・・でもよく考えたら、女神にそこまでこだわらなくてもいい気が・・・・・基本お菓子をだらだら食べながら適当に人間を転生させるだけの退屈なお仕事だし・・・・
よく考えるのよアクア?なんでもお願いが叶うのよ・・・?
あの頃より良い暮らしを・・・向上心を持つべきじゃないかしら・・?
私がここで新世界の神として降臨することも・・・・・それによってより一層ちやほやされて崇められるの。大きなお城に暮らして、美味しい物も食べ放題。毎日、使用人のカズマ達と一緒に高級なお酒で朝まで飲み明かして・・・たまにペットのドラゴンの背に乗って皆で空中ドライブ・・・・ドラゴンの名は・・・そう、ゼル帝と名づけましょう。そして、ゼル帝ばかりを可愛がる私にヤキモチを焼いたクラマたんが私の布団に潜り込んでくるようになるの。・・フフ・・そうなったらこちらのもの・・モフモフし放題・・・・そして、そのまま誰に憚られることもなくお昼まで気持ちよく眠るの・・・
そんな夢の生活が・・・フフフ・・なるわ・・・魔王を倒し、この私は新世界の神になる・・・!」
欲望にまみれた締まりない顔でグへへへへとゲスな笑いをこぼすアクア。
コイツが元女神とか絶対嘘だろう・・・・
「俺は・・・とりあえず保留かなぁ。元の世界に戻ることも考えてるけど、爺さん達みたいに何が何でも帰りたいわけじゃないんだよな・・・俺、これでも一応死んじゃってるし・・・向こうに帰っても居場所がないし、やりたいことといえば楽しみにしていた新発売の大作RPGをプレイしたいくらいだ・・・いっそのこと向こうの娯楽をこちらに自由に呼び寄せられる能力でももらおうかな・・・・・・っていうかなにこれ全然知らないゲーム機なんだけど・・・爺さんの世界のやつかー・・すげぇ映像綺麗だな・・」
カズマがゲーム機をアクアから奪い取り、それを興味深そうに遊びながら言う。
それは少し型が古いがなかなかの名機器だ。カズマの世界のゲーム技術もかなりのものらしいがワシらの世界には敵うまい。忍術をゲームに組み込む技術はあちらには無いようだしな。
最新のハードは強力な幻術を駆使したリアル体感型ゲームでまるでゲームの世界に入り込んだようにプレイできる優れものなのだ。
「何それ凄くやりたい!・・・ん?めぐみん、どうした?」
安堵するように笑みを深めるめぐみんにカズマが気づく。
「いえ・・少し安心しました。ナル爺とクラマはしょうがないですが・・・カズマとアクアまでいなくなってしまうのかと思っていたもので・・・・魔王を倒した途端に仲間が一気にいなくなるのならモチベーションがダダ下がりですからね。」
そう言って笑うめぐみん。僅かに寂しさを滲ませるそれはワシ等との別れを予期しているからだろうか。
だとしたら、なかなか、可愛いところもあるじゃないか。
こいつらとの別れは避けられない。わかっていたことだ。
しかし、その時のことを考えたらこの冷血な孤高の獣であるこのワシでもほんの少しだけ、寂しい。
しんみりとしてしまった空気を気にせずナルトは二つ目のカップ麺にお湯を注ぐ。
「じゃあ、俺等の世界とこの世界を自由に行き来できるように願えばいいんじゃないかってばよ?」
ナルトの何気ない発言に皆ハッとする。このジジィはボケ気味のくせにたまにこういう思いもよらない発想をするのだ。
「なるほど!ナル爺、冴えてますよ!そうですよ、そういう願いにしてしまえばいいんですよ!」
眼を紅く輝かせて興奮するめぐみん。不安が一気に解消されてスッキリした顔だ。
「目からウロコだ・・・・そういうスケールの大きい発想を私も見習わなければ・・・」
そう感心したように頷くダクネス。ようやくイチャイチャパラダイスから手を離し、ナルトの超濃い目に作ったカップ麺にお湯を足している。ジジィの健康を気遣ってくれる介護精神にあふれた良い娘だ。
「え?そういうのでもありなら、俺の世界も含めて3つまとめて世界を繋げるのもあり?」
カズマがアクアに疑問を投げかける。
「どうかしら?・・・多分ギリギリいけるかなぁ・・・・神様がなんでもOKって明言しちゃったわけだし・・・なにより面白そうだしね!」
アクアはそう楽しそうに笑うとナルトにカップ麺を一口ねだった。渋々アクアにカップ麺を差し出すと相当でかい一口で麺を持っていかれて悲哀の叫びを上げるナルト。
「とにかくこれからの俺達の方針は決まったな。魔王を倒して各々、望みを叶える。
そのために、まず悪名高い幹部連中を力を付けながら各個撃破していこう。」
「「「「「おーー!!!」」」」
カズマがそう締めくくると他の四人が戦意をたぎらせて声を張り上げる。
正直ナルトとワシだけでもいいのでは?と思わないでもないが、無粋なことは言わないでおこう。
仲間がいるのはいい事だ。その存在が今までのナルトを支え、幾度も強くさせてきた。
この世界ではレベルという概念があり、ナルトはまだまだ伸びしろがある。
こいつらと同じペースで強くなっていけばかつての強さを取り戻せるかもしれない。
それが、ワシは楽しみで仕方がない。
「よーし!景気づけに飲むぞ!!明日はワンランク上の依頼を受けるから覚悟しておけよ!」
「任せて頂戴!今度こそゴッドブローの真価を見せてあげるわ!」
「ふっふっふっ・・・先日一つレベルが上がったことにより強化された我が爆裂魔法の威力を見せてあげます!」
「どんな敵だろうとこの身に変えて皆を守りきる!・・ハァ、ハァ・・この身を犠牲にしても・・」
いい感じに活気づいているな。
「じゃあ、改めて乾杯するってばよ!我らの今後の活躍を祝して・・・・カンパーイ!!」
「「「「カンパーイ」」」」
ジョッキグラスを互いに打ち付けて一気に煽る四人。
プハーと四人同時に美味そうに息を吐くと皆で楽しそうに笑い合う。
いい雰囲気だ。・・・・・・・それでナルト・・・いつ言い出すんだよ・・・
ワシが眼を配らせるとナルトはハッとしたような顔をして・・・・
「あ・・・そうだ・・・カズマは明日から俺と一緒に修行だってばよ。」
「・・・え?・・・・」
唐突に発せられたナルトの一言にカズマの目が点になる。
「ちょっ・・・えっ?・・・修行って??・・・」
「修行とは強くなるための鍛錬のことだってばよ」
「いやそれは知ってるけど、なんでいきなり?しかも俺だけ!」
明日から依頼をガンガンこなそうとしていただけに、肩すかしをくらったのだろう。 カズマが戸惑ったように言う。
「ああー・・・だって、カズマって弱いし・・・・」
「えー・・・まぁそうですけど・・・最弱職でステータスも平凡ですけど・・でもさぁ・・」
「職業とかステータスはまぁ、置いておいて。カズマはまず、戦うための下地が全くできていないんだってばよ。」
「下地・・・・」
「戦い方を全く知っていない。剣の振り方、防御の仕方、体捌き、その他諸々の基礎的なものが何も出来ていないってばよ。それはきっとレベルが上がっても変わらない。 今のままだと同格の敵と戦った時、カズマは絶対に負ける。格上の魔王軍と戦っていこうっていうのなら、このままではダメだってばよ。」
「・・・・・・・・」
「他の三人の長所を生かすためにはカズマの強さは必要なんだってばよ。
これから一ヶ月をかけてカズマを鍛え上げる。それでも少し足りないかもしれないけど今よりは数段強くなるはずだってばよ」
「こんな俺でも・・・強くなれるのか?・・・最弱職にしかなれないような俺でも・・・・」
カズマが自信無さげに俯く。コイツもやっぱりそういうコンプレックスを持っていたか・・・・
本当に・・・あいつにそっくりだ。
「なれるさ。その最弱の冒険者にしか使えない最適な修行法もある。
カズマは・・・俺が強くしてやるってばよ・・・・・」
ナルトが力強く頷くと、カズマの瞳に強い意志の光が宿った。
「よろしく、お願いします!!」
ナルトに勢いよく頭を下げるカズマ。ナルトは二カッと笑ってカズマの頭を荒っぽく撫でる。
「ああ、覚悟しておけってばよ」
そうして、ここに新たな師弟が誕生したのだった。
「あれー・・・私たちは?・・・放置なの?・・・」
「仕方ありませんよ・・・・カズマが修行を終えるまで私たちは土木工事に戻りましょう。」
「まだ、冒険者に戻って3日目なのに・・・・親方達に笑われるだろうな・・・・・」
そして女達は稼ぎのない男達のためにあくせくと働く日々に戻るのだった。
次回は修行編!
ちなみにクリスは悪魔の話を聞いて殺気立って飛び出していきました。
投稿直前に気づいたクリスの存在・・・・・