東方携帯獣  ~ポケット・モンスター |幻。夢。|~   作:キョウキ

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遅れて申し訳ありません!

今回はかなり長めです。



54ページ目 這いよる影

・・・黒しか見えない視界の中を、私は走っていた。

息を切らせながら、足をもつれさせながら、ただひたすらに前へと進んでいた。

 

自分でも、何故走っているのかは分からない。気が付いたら、走っていたとしか言いようがない。

それでも、走る。理由が分からなくても、目の前が黒しか見えない世界でも、走る。

 

小鈴「はぁっ・・はっ・・はあっ・・・」

しかし、所詮は貸本屋で本を運び、接客をし、それ以外では基本的に本を読んでいるだけの

文学少女である私が、そのダッシュによる疲労に耐えられるはずも無く。

 

やがて進むスピードは遅くなり、歩幅は狭まり、ついには動けなくなってしまった。

 

小鈴「ぜぇー・・・ぜぃー・・・う、うぅ・・・」

 

一体どうしてしまったというのだろう。何故私は走っていたのだろう?

私は、頭の中を満たすその疑問を、胸の内を満たす焼けるような苦しみに耐えながら考えた。

 

どうしてって・・・それは・・・。

 

「呼ばれたから、でしょ?」

 

そこまで考えたとき、聞き覚えのある友人の声と共に

下に向けていた視線の先に見覚えのある草履の鼻緒が姿を見せた。

 

小鈴「!?、その声は、阿」

求と続けようと思い、顔を上げたが、そこにいたのは阿求ではなかった。

 

 

そこにいたのは、一人の成人した男だった。

しかし、幻想郷の人間ではないこと。自分が知っている人間ではないことは理解できた。

 

黒色の長いズボンを履き、上はグレーや白、黒を基調とした色のない服で

左胸に、アレンジされた黄色の「G」の文字が入っている。

髪は青色で、顔には血の気が無く、目は鋭く、こちらを見てもいなかった。

 

まるで、私の背後に誰かがいて、その人と話しているような・・・。

 

私は、その男の鋭く感情といったものが無い物のような目と

背後に誰かがいるかもしれないという恐怖のあまり怖気づき、「ヒィ」という悲鳴と共に

下を向いてしまった。

 

青髪の男は、今の自分を見ているのだろうか?

背後に誰かがいるのだろうか?

阿求は何処へと行ってしまったの?

ここは何処なの?

 

恐怖と疑問が頭の中を飛び交い、息を無意識のうちに激しくさせる中

青髪の男と思われる、これまた音のような声が耳に入ってきた。

 

「・・・さて。今まで私のやることにたてついてきたが、それも許そう。

 何しろ、今からすべての『心』が消えるのだから」

 

非常に淡々としていて、冷たい声。

 

「キミから!キミの『ポケモン』から!キミの大事な人達から・・・ ・・・!」

 

声を荒げても、激情といったものが感じられない。

私は、自分が見ている地面がいつの間にか石の煉瓦を組み合わせたかのような

見慣れないモノへ変化していることに気づき、思わず顔を上げた。

 

見れば、辺りの景色も変わっている。

 

もうここは、真っ黒な空間ではなく。

暗雲うず巻き、崩れた柱が立ち並ぶ石造りの建物の荒れ地となっていた。

 

正直に言って、さらなる混乱と恐怖で何も考えられなくなっていたが

奥の方に青色と、桃色をした巨大な「何か」がいることはかろうじて見えた。

 

目の前の男が、感情のない声で叫ぶ。

 

「ようやく・・・私の夢が叶う時がやってきたのだ!」

 

そう叫び、今にも笑いだしそうなほどに、その青白い顔を歪ませるが・・・。

 

 

突如として、辺りが昏くなり、一瞬にして凍り付く。

全身の毛が逆立つような緊張感が場を包み込み、動けなくなる。

 

「なんだ、この気配・・・・・・

 

 何者かが 怒り狂っている?」

 

 

そう青髪の男が呟いた時だった。

 

男の背後から、黒いしみが地面に浮きだし、やがて大きな「穴」になる。

その穴からは、今までに感じたことが無い怖気と共に、静電気が全身を包むような緊迫感

と分かりやすい敵意があふれ出していた。

 

青髪の男も、それに気づいてこちらに背を向け、ゆっくり後ずさる。

 

小鈴「ヒッ!?・・・」

 

私は、この時ほど目を持って生まれたことを後悔したことはなかった。

いっそのこと、盲目であれば。そんなことまで考えてしまった。

 

男の背中越しに、穴からおぞましい何かが這い出てくるのを見てしまった。

 

小鈴「    」

もう私は、息をしていなかった。速く気絶したいと思い、呼吸をやめていた。

しかし、まだまだ意識はハッキリとしていて、倒れようにも倒れることができない。

 

 

「おもしろい」

青髪の男が、若干の好奇心と恐怖を混ぜた声でその何かに呼びかける。

 

「影でしか出てこられない『ポケモン』がいるのか」

 

私は、その言葉に目を見開いた。

 

これが、ポケモン?これがAZさんが見せてくれたものと同じ?

これが山を動かしたという、巨神と同じ?

 

きっと違う。私は自分にもそう言い聞かせる。

 

 

こんなに禍々しく、敵意と邪念を纏った魔物が、ポケモンな訳が無い。

 

 

その禍々しい何かは、私の心からの叫びを肯定するかのように

黒くボロボロで、赤い棘のついた、得体の知れない黒い液体が滴る翼を広げる。

 

男は続ける。

「それにしても愚かな・・・・・・○○○○○と△△△△の2匹の力を操るこの私に・・・」

 

そう言った途端、翼の紅い棘が爪のように変形し、まるで腕のように振り上げられる。

 

 

潰される!

 

小鈴「‼‼‼‼」

私は、何とか叫んで逃げるよう伝えようとしたのだが

畏れによって舌が痺れ、何も言えないまま・・・。

 

「この アカギに

 さからららららららら・・・・・・!!」

 

何も言えないまま、全ては魔物の闇に包まれて最初に戻った。

 

「人里:鈴奈庵:早朝:快晴」

 

小鈴「!、はぁ、はぁ、はぁはぁ、はぁ!」

私は飛び起きるように、布団をはねのけて空中に手を振り回し、そこがいつも通りの

自分がよく知る天井・・・自分の寝室であることを認識する。

 

小鈴「はぁ・・・はぁ・・・あ、朝・・・」

 

私は、窓から差し込む明るい陽光にを確認して自分の胸を撫でおろす。

 

どうやら、ただの夢だったようだ。

 

小鈴「なんだろ・・・なんか、ものすごく嫌な夢を・・・・・‼」

 

その時、私は気づき、ちょっとした眩暈を覚えた。

 

 

小鈴「・・夢の内容を、覚えている・・・」

 

そう。すべて覚えていたのだ。

最初の暗闇から、青髪の男・・・あかぎ、といっただろうか?

その男の言った言葉も一言一句漏らさず覚えていたし、穴から這い出た

ポケモンとは思えない悪魔の姿も・・・。

 

小鈴「うっ・・また・・・」

また、眩暈がした。それに頭痛も。

 

正直言って、最悪な気分だった。

胃がキリキリとして、頭を内側からガンガンと叩かれるような痛みが

頭蓋骨の中を暴れまわっている。

どうやら、夢のことを思い出すとこうなるらしい。

 

小鈴「うぅ・・・うわ、汗でびっしょり・・・水、飲も」

 

私は、ゆっくりと自分のいる2階から一階へ向かい

水桶の蓋を開け、柄杓を使っていっきに喉へ流し込む。

 

小鈴「ぷはぁー・・・生き返る・・・・・・・ん?」

 

ふと、私は水桶の水面に何かを見つけた。

青色のガラス玉のような物と、その下に並ぶ赤い何かが写っているように見えた。

 

小鈴「うん・・・?」

 

私は、寝起きの錯覚かと思い、目を擦る。

すると、水面にはもう何も映っていなかったので

やはり、寝起きの幻覚だったのだろう。

 

小鈴「・・・気のせいか」

 

私は、寝起きの良し悪しは兎も角、早起きしたことをいいことに

まだ読み終えていない本を読むことに決め、自分の寝室へと戻っていった。

 

その時、気づかなかった。

 

木の格子をはめられた窓から差し込む陽光が、自分の影を壁に写す中。

 

 

ゆらりと自分の影が揺れ、一瞬青色の瞳をした異形になったことに

私が気づくことはなかった。

 

気付くことになったのは・・・しばらく経ってのことだ。

 

「人里:稗田家:朝:快晴」

 

阿求「AZさん。朝ですよー」

AZ「ぅ・・・うん・・・」

 

巨神異変からすでに6日目。

夏の光もさらにやる気を出し、地上の全てをジリジリと焼き。

嫌な羽音を出しながら生き血を吸おうと策を練る、忌々しい蚊がはびこる日々。

 

今のところ、異変やポケモン・妖怪による被害は出ておらず。

 

気にすべきものが、夏バテと、蚊と、突然の夕立しかないという

かなり平和な毎日を、私達は送っていた。

 

阿求「朝食はもうできてますから。早めに来てくださいね」

そう言って、AZさんを寝室に残し。私はそそくさと

食事が用意された居間へと足を運んだ。

 

しかし、居間に続く襖を開けた途端。

私は言葉を失い、その場に立ち尽くした。

 

 

何故なら、そこには見覚えがある一人の「妖怪」がいたからである。

 

白いワイシャツに、黒いスカートを着こなした。

有翼の人外にして、幻想郷で1、2を争う人気(?)新聞の

記者にしてカメラマン。

 

文「あやや、お久しぶりですねぇ。お邪魔してますよー」

 

鴉天狗、「射命丸 文」はにこやかに挨拶をし、カメラを構え

用意された朝食を様々な角度から撮っている。

 

阿求「・・・最近の妖怪は、割と礼儀が成っているように思っていたのだけど。

   ここ最近の平和と異変の落差に頭をやられたのかしら?」

 

私はさっきまで、平和だなんだと言っていた自分を

頭の中で真正面から否定し、鴉避けの薬品か道具が必要かと

本気で思った。

 

 

文「あや・・・何とも辛辣ですね・・・。

  いや、無断で侵入したことは申し訳なく思っていますよ?

  ただ、最近挨拶できていないなと思いまして」

 

そう目の前にいる鴉天狗は、全く悪びれる様子も無く、また写真を撮る。

 

阿求「・・・挨拶だけですか?」

文「・・・いえ、どちらかというと挨拶はおまけです。

  本題は、この写真なんですが・・・」

そう言って、ポケットの中から数枚の写真を取り出す。

 

文「これは私の同僚である『はたて』が『念写』をしたものなんですが。

  どうにも、おかしいんですよね。そ・こ・で!

  数百年分の書物の知識を持つ阿求さんと

  外の世界の知識を持つ外来人のAZさんに協力をしていただきたいという事です!」

 

そう言って、またニコリと人が良さそうに笑う。

正直に言って、妖怪の笑顔というのは不吉の象徴とさえ言われている。

 

「来年のことを言うと鬼が笑う」とあるように。

妖の笑顔は、「面倒ごと」を呼び込む合図のような物だ。

 

 

しかし。この天狗には、何度か世話になっている。

ここで断れば、後日の新聞で何を書かれるか分からない・・・。

 

 

私は、気づかれないように小さくため息をつき、

「朝食が済むまで待っていてください。話はそれからです」

 

そう言うと同時に、空いたままの襖を身をかがめて入ってきた

AZさんが射命丸に気付き、目を見開いた後。

 

 

私と同じように小さくため息をついて

AZ「朝食が終わるまで。外で待ってくれはしないか?」

 

そう言い、射命丸はまた輝くような笑顔を貼り付け

さっそうと縁側から外へと出て行った。

 

 

阿求「それで、何の用でしょうか?」

 

朝食を食べ、片づけを済ませた私と阿求は

客間にいつの間にか移動していた射命丸と向き合って

その例の写真とやらを見せてもらった。

 

文「これなんですが・・・あっ、念写についての説明はいりますか?」

AZ「いや。すでに阿求から大体聞いている」

 

それならば話が早い、と射命丸は机の上に

写真の束を並べ、こちらに見やすいようにしてくれた。

 

文「念写は成功している。と、はたては言っていましたが。

  にしてはこれ、『異様』なんですよね」

阿求「これは・・・」

AZ「・・・・・」

 

正直に言って、念写と言うものが普段どういうものなのか

実物を見たことが無いため、すこし反応に困るかと思ったが。

 

確かに。普通の写真だとしてもこれは異質。異様だった。

 

 

写真の枚数は、4枚

その写真すべては、風景だけが写っているものだった。

 

しかし、風景が写っていても、まるでもやがかかっている

かのように何が写っているのか、判断が付きにくい。

 

辛うじて、「折れた柱らしきもの」や「森の中にある社らしきもの」。

「巨大な塔のようなもの」と、「夜のように黒い中、白く線を引く何か」が写っているのは

見て取れた。

 

阿求「・・・分からないわね。

   多分、私が今まで見たことがないものだと思う」

文「ですよねぇ。私も1000年ほど生きてますが、こんな風景も

  景色も見たことがありませんよ。AZさんは、見覚えがありますか?」

AZ「・・・いや。どこかで見たことがあるかもしれないが・・。

  すまない、覚えていない」

 

そう言って、もう一度写真を見る。

 

しかし、その写真の内容に何か関連性があるとは思えないし。

何か規則的な物があるとも思えない。

 

ただ、二人の口ぶりからして幻想郷にある物ではなさそうだ。

ならば、これらは何処を写したものなのだ?

 

文「そうですかぁ・・・予兆か何かとは思うんですけどねェ・・・。

  まぁ、分からないのなら仕方がないです。

  

  それでですね・・・もう一つ。

  写真のことについて聞きたいことと相談したいことがあるんですよ」

 

射命丸がそう言った瞬間、目が途端に険しくなり。

表情に影が濃くなったのを、私は感じた。

 

阿求「聞きたいことと、相談?

   それは・・・私達に何か関係あったりすることなの?」

 

文「はい・・・なにしろ、『小鈴』さんが写っている写真のことなんです」

 

「「!?」」

 

 

小鈴・・・?

 

 

AZ「小鈴が、どう映っているものなんだ?」

 

正直に言って、いい予感がしない。

何か・・・とてつもなく不吉なことが起こるような気がしてならない。

 

射命丸は、ポケットから1枚の写真を取り出しテーブルへ置く。

 

 

阿求「!・・・」

AZ「!?・・・なんだ、これは・・」

文「はい・・何か、ただならぬことが起きてるような予感がします」

 

 

その写真に写っていたのは、確かに小鈴だった。

どうやら、何か桶のような物を覗いてるらしい。

 

さっきの風景写真とは違って、ピントが合い。

細部まではっきりと見える。

 

ただ、ハッキリと見れるが故に

その写真に写ったモノの異質さが際立って見えるのだが。

 

 

それが写っている個所は、小鈴の背後。

小鈴の姿が陽光で照らされ、背後の壁に影がある場所。

 

そこにはあるべき形の、小鈴の影はなく。

代わりにガラスを通したかのように色のついた

青色の球と、赤色の帯が煌めく。

まるで闇のように昏い異形の影が。

助けを求めるかのようにその手を小鈴に向けて伸ばしていた。

 

「紅魔館:時計塔前、屋上:昼前:晴れ」

 

自分は、何者なのだろうか?

 

この世に生まれたときから、この場所に来る前から。

そして、この場所に来てからも。

 

ずっとずっと、何度も何度も。

森の中で、山の中で、水の中で、街の影でも、空の上でも。

 

答えが出ないまま、胸の内にくすぶり続け。

時に大蛇のように暴れだそうとする、怒りや悲しみにも似た疑問を

自らに問いては、それを黙殺する日々を送っていた。

 

『私は・・・私は・・・』

 

そう呟いたまま、次の言葉が出てこない。

おもむろに、人間とは違う灰色の腕と3本の指を見つめてみても

何か、その答えが出る訳も無く。

 

『・・・・・・・』

 

また、前と同じように押し黙る。

 

 

だが、正直に告白すれば、自分が何もなのかはハッキリと分かっている。

 

遺伝子ポケモン。タイプ:エスパー。特性はプレッシャー。

名は、顔も声も知らぬ「親」から一部取った。

 

「M2」・・・『ミュウツー』と呼ばれている。

 

 

だが、これは自分ではない。

自分であって、私ではないのだ。

 

なら、『私』とは何だ?

 

 

『・・・』

答えは出ない。いつになったら出るのだろうか?

 

私は、外していたボロのフードを再び深く被り。

同じくボロボロのローブで全身を隠し、飛び立つ。

 

 

『・・・・・』

 

空を風を切って進む中、眼下に大きくえぐれた山並みに

多くのポケモンや人間が集い、山を治す様子が見て取れた。

 

正直に言って、あの巨大なポケモンが山を動かそうとしたとき

人間達はそのポケモンを殺すだろうと思っていた。

 

しかし、結果はいたって平和的な解決だった。

ポケモンも人間も、どちらも死者を出すことなく。

被害は環境だけに留めた。

 

私はその様子を見て、感嘆した。

 

 

にわかには信じられないが、この世界にはポケモンという存在がいなかった。

完全に、お互いのことを知らぬまま。

 

騒動によって始まったその険悪な関係は、崩れ去るどころか

より強固な結びつきとして、お互いを補強し合うことになった。

 

 

私は、眼下に白い地面を見つけたため、近くに人間がいないことを確認して

その白い地面・・・・・大量のスズランが覆う丘へ向かった

 

 

私は、その鈴蘭を踏まないよう細心の注意を払って着地し。

また、自分の三本指を見つめる。

 

『・・・お互いのことを、全く知らぬ2つの世界が混じり合い。

 ついには融け合い始めている・・・』

 

それが、とてつもなく深刻で重大な問題であることは明白だったが

私はその興味や、好機の念よりも。

心の中に急に落ちてきたかのような、希望的な観測に胸を高鳴らせていた。

 

 

『・・・私の生まれや、私の力を・・・ここの人間達が知らないのならば・・・』

 

 

 

そう、もし知らないのであれば。

 

 

 

 

『私のことを・・・受け入れてくれるのだろうか・・・・』

 

 

それは疑問ではなく、希望として口から流れ。

北から吹いてきた風が揺らす、白いスズランと共に

何処かへと散り、消えていった。

 

「幻想郷:迷いの竹林:昼頃:晴れ」

 

陽の光のほとんどが長く太い竹に阻まれ、奥に届くことが少ない

薄暗い竹林の中。桃色の服を着た少女はタケノコを抱えて

素早く駆けていた。

 

所々、地面に露出している竹の根をジャンプして避ける度に

首から下げた人参のアクセサリーと、黒髪から

突き出た二本の兎耳が揺れる。

 

「因幡 てゐ」。永遠亭に住み着いている

地上の兎を束ねる、幸運を呼び込む妖獣である。

 

そんな兎の統領である彼女が、何故タケノコを抱えて

竹林の中を駆けているのか?

 

 

それは、お使い兼『罰』のためである。

 

いくら兎の統領、元締め、ボス、親分であろうとも

本人は非常にイタズラ好きで、人を騙し、平然と嘘をつく。

 

その本人の行動に、いつも業を煮やしている

永遠亭の者達は、逃げ足の速いてゐを捕まえたとき。

 

なんらかの罰・・・要は課題を出すことにしている。

 

 

それが、因幡の白兎(自称)である彼女が

タケノコを抱えて竹林の中を跳びまわっている理由である。

 

 

しかし、それで彼女が行動を反省するかというと

 

てゐ「あ”-、めんどくさい・・・落とし穴に竹やりを敷き詰めただけで

   こんなことをさせるなんてぇ・・・・」

 

一切、後悔も反省も感じていないのである。

 

 

てゐ「しっかしまぁ・・・あの生き物達はなんなのかねぇ・・・

   まぁ、ここにたどり着く奴なんてほぼいないだろうけど」

 

そんな独り言を言っている時だった。

 

 

着地した地面から、わずかに突き出た石に片足を引っかけてしまい

派手にスッ転ぶ。

 

てゐ「え・・・あ、イダッ・・・いたたた・・・」

 

思いっきり重心を前に傾けていたため、前のめりに

地面を滑っていく。

 

そして、勢いが止まり。少し情けない格好で地面に倒れ伏す。

 

てゐ「あーちくしょー・・・どいつもこいつも全部まるっと

   鈴仙のせいだー・・・・ん?」

 

倒れ伏したまま、視界の隅に何か光る物を見つける。

 

てゐ「んにゃ?なんだ、あれ・・・」

 

 

それは、竹の根もとに半分埋まるようにして存在していた。

光っているように見えたのは、その物体がある場所だけ

竹の隙間から陽光が射しこんでいたからだった。

 

 

てゐ「おー・・・お・・おお!これって、宝石ってやつじゃないか!?」

 

てゐは、その煌めく物体を掘り返すためにタケノコを近くに置き

手が汚れるのも構わずに、その物体・・・宝石らしきものを取り出す。

 

若干、土や砂がついているので軽く擦り。陽光に照らす。

 

 

形は明らかに人工物としか思えないほどに丸く。

光を通すほどに透けていて、紫色をしている。

 

てゐ「へぇ・・・アメジスト、かな?いや、紫水晶?

   ん?中心に何かある・・・」

 

そう。普通の宝石ではなく、その紫の球体に包まれるかのように

S字にくねった、紅色と藍色で構成された何かがあった。

 

大きさは、ビー玉より若干大きいくらいだったが

妙に、ずっしりと乗っかる様な重みを感じられた。

 

てゐ「・・・へへ、こりゃ大国主神様が、私にくれた

   お小遣いだね。ふふ、もらっとこ」

 

彼女はそう言って、その宝石をポケットの中に隠している

もう一つの隠しポケットへ入れ、タケノコを抱えて

また竹林の中を上機嫌に駆けてゆく。

 

 

自分が足を引っかけた石が、骨のような物を

含んでいることに気付かないまま・・・。

 

 

To be continued・・・




うろ覚えキャラクタープロフィール:本居 小鈴
種族:人間 性別:女 
性格:かなりの好奇心と、本に対する愛情を持つ文学少女。
人里の貸本屋、「鈴奈庵」で店員兼店番をすることが多く
長期にわたって外出することは珍しい。
本に対する愛情と思い入れは、妖魔本にも及んでおり
何度かその好奇心と行動力で危険な目に合ったこともある。
それでも、妖魔本を集めることをやめない。ドM?
友人:・稗田 阿求 ・博麗 霊夢 ・霧雨 魔理沙
能力:ありとあらゆる文章を解読することができる程度の能力
解説:様々な文字で書かれた文章であっても。
そこから文字のパターン・意味・読み方を瞬時に解析し、理解することができる。
ただし、単語や文字一つだけだと、読めるのかどうかは不明。
ただ、文章であれば古代の文字であろうと妖怪の文字であろうと英文であろうと
読めてしまうことは確かである。
余談:ちなみに読めるだけ。書くには勉強するっきゃない。

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