東方携帯獣  ~ポケット・モンスター |幻。夢。|~   作:キョウキ

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お久しぶりです。一か月ぶりの投稿となります。

今回で、巨神異変完結となります。
次話からは、永遠亭組と徘徊型ポケをメインに書いていきたいな(理想)。



53ページ目 説得 その②

「妖怪の山~中腹」

 

日差しは少しづつ高くなっていき、さんさんとした陽光が降り注いでいるこの場。

夏の山のことである。蝉や鳥の鳴き声がけたたましく鳴り響く蒸し暑い様相を

想像するような状況ではあるが、現実はそれに反していた。

 

普通なら7日間の命を燃やすが如く鳴きまくる蝉も存在せず。

その蝉を狙うような鳥もいない。

それどころか、一切合切の獣及び妖怪、そしてポケモンの気配がそこから消え去り

代わりに鳥肌が立つほどの冷気が漂っていた。

 

まさに『瘴気』。

巫女、魔法使い、風守人、鬼、吸血鬼、天狗、スキマ妖怪・・・。

この場にいる、全ての種族。全ての存在が緊張感を抱えていた。

 

本当に、先程まで新たに判明した『時間神』の脅威について右往左往していたとは

とても考えられないほどの切り替えぶりであった。

 

文(流石、ですね。やはりこれだけの面子が後ろから守ってくれてると

  考えると、緊張感もだいぶ薄まってきますね)

ふぅ~・・・と、ゆっくり息を吐いて心を落ち着かせる。

 

文(フフ・・・椛達に「やる」とか言っておきながら・・・

  私が一番緊張しているじゃありませんか・・・)

そう思いつつ、横に立つ4人の部下達。白狼天狗を見やる。

 

それぞれがそれぞれ、恐怖や緊張や責任などの不可を確かに感じ

それに苦しんでいるかのような表情をしている。

 

しかし、逃げることはできないし逃すこともできない。

時間はなるべく早いほうがいいし、結果はより良いほうがいい。

 

その結果・・・運命がどうなるかは恐らく吸血鬼にしか分からないのだろうけど。

彼女はまだ動く気配を見せない。

それは運命を見たが故か、見えない故か・・・。

 

さとり「・・・そろそろ、始めるわよ」

 

そんなことを考えているうちに、彼女は準備を済ませたらしい。

私達も、背をさらにピンと伸ばし、肩の力をゆっくりと抜いていく。

 

紫「それでは・・・『巨神・レジギガス』の説得を始めるわ」

 

スキマ妖怪のその言葉で、説得の火ぶたが切って落とされた。

 

「・・・ズッ、ズッ・・・・」

さとり「!・・・そう、なるほど・・・・」

 

今まで大いなる沈黙を守ってきた巨神が、説得の開始と共に初めて声を発した。

その声を聞いたさとりは、ただ静かに頷いて私達の方に向き直った。

 

文「今、何と・・・?」

さとり「『ここは島国ではないのか?』と。

    それと、『これはどういう状況なのだ?」とも」

 

・・・これは、もしかしたら説得というよりも『説明』に近いのかもしれない。

相互に誤解と疑問があるから、それを問いて答えてゆく。

 

文「・・・ここは、島国ではありません。

  『幻想郷』という、山奥に存在する秘境です」

「ズッ、ズゥ・・・・」

さとり「・・・『では何故、あの火の魔獣がいたのだ・・・?』

    すみません、火の魔獣とは・・・・・・」

紫「あなたが今管轄しているヒ―ドランのことね・・・。

  よし、次は私が答えてみるわ」

 

そう言って、自らレジギガスの前へ出た。

 

紫「貴方が調べた火の魔獣・ヒ―ドランは、貴方の知る者とはまた別。

  貴方は間違えて、ここの住人や自然に攻撃を仕掛けてしまった。

  だから、今は貴方の誤解を解くために拘束させてもらっているわ」

そう言って、レジギガスを真っ直ぐ見据える。

その視線は、凍てつく様な殺気と燃え上がる様な怒りが込められていた。

 

紫は、その怖気を含んだ瞳を向けながらレジギガスに近づき、その体に触れた。

 

「ズゥッ・・・・」

さとり「・・・かなりショックを受けているわね。

    困惑と後悔と混乱に包まれているわ・・・」

 

確かに、今のレジギガスからはそう言った暗い感情が

心を包んでいるかのような、そんな雰囲気があった。

 

確かに、誤解と見解の違いと、様々なことがあったからこの悲劇は起こった。

それでも・・・許そうと思って許せることでもない。

 

文「・・・何故・・・。

  貴方はあの洞窟で、こちらを攻撃してきたのですか・・・?」

 

そう、恐らく。

全ての原因はあの戦闘にあった。

あの戦闘で、お互いに敵対意識が生まれ。

今回の異変でそれが増殖、肥大化してしまったのだ。

 

「・・・・・・・・」

今度は、一言も発さなかった。

だが、それでも心は読めるため何の問題も無いが・・・。

 

何故か、少し嫌な予感がした。

 

さとり「・・『主に、侮辱は決して許してはいけないと教えられたためだが。

    何故、あの時。あそこまで殺意と敵意を抱いてしまったのか分からない』。

    と、言っていますが・・・・」

そう言って、私の方へと向く。

 

しかし、私もよく分かってはいなかった。

どこかで、侮辱するような行動を起こしてしまったのだろうか・・・?

いや、それもあるが・・・。

 

『何故、あの時。あそこまで殺意と敵意を抱いてしまったか分からない』。

 

私は、何気なくさっきから言葉を発していない四人を見ると。

彼女たちも私と同じ疑問にとらわれているようだった。

 

 

 

 

そこまで考えていたとき、

 

紫「・・・!、もしかして・・・。

  ちょっといいかしら・・・?」

と、私達に説得の一時停止を求めてきた。

 

さとり「何ですか・・・?」

紫「ちょっと、気になる事があってね・・・。

  文、椛。栄、微意、椎。少し体に触れるわよ・・・。動かないでね」

そう言って、こちらの意見も何も聞かずに次々に肩や腕。

手や首筋を本当に「少し」だけ触っていった。

 

最後の椎の手を触って、少し押し黙ってから顔を上げた。

 

紫「・・・やっぱり、ね」

文「あの・・・一体これは何なんですか?・・・」

 

私は、若干の疑心感を抱きつつ説明を求めた。

紫は、チラリ、とレジギガスの方を見つつ、話を始めた。

 

 

紫「今、あなた達の霊力を少し計ったわ。

  そしたら、この中の数人に・・・もしかしたら、

  「裏切者」がいるかもしれないわ」

レミリア「裏切者・・・って、どういうことかしら?」

 

紫「いえ、裏切者じゃ語弊があるわね・・・だって、本人には

  裏切っただとか、悪意があってやったわけではないんだし」

椛「紫様、いったいどういう事ですか・・・?」

 

その場にいる全員に動揺が広がってゆく中、紫は

再びレジギガスの体に触れ、

 

紫「地底、霧の湖、そして今回の巨神騒動。

  今のところ、大きな異変に関わっているポケモンや住民には

  何らかの催眠・・・『洗脳』がかかっていたことが分かっているわ」

霊夢「洗脳って・・・チルノとか、大妖精とかのあの行動のこと?」

 

霊夢の疑問を聞いて、紫は頷く。

 

紫「大体、その洗脳の影響を受けた妖怪は霊力・妖力が上昇し

  感情のコントロール不振。判断不全。独善的。そういった

  妖怪にとっては生命線である『精神』を操作されているわ」

 

その言葉に、また場が凍り付く。

精神操作・・・?いつ、どこで、誰に・・・?

 

疑問と不安が最高潮に達し、火山のように燃え上がっていった。

 

栄「あ、あのっ!・・・この中の、一体だれが・・・?」

その問いを聞いた紫は、少し目を伏せて。言った。

 

 

紫「それは・・・・あなた達よ」

紫はゆっくりと、白の手袋をはめた人差し指をその者達に向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

栄「えっ・・・私・・?」

微意「え、嘘・・・嘘ですよね?」

椎「ま、まさか・・そんなはずは・・・」

 

指を指された者達は、栄と微意と椎の三人だった。

 

文「ま、待ってください!」

私はそのスキマ妖怪に声を大にして待ったをかけた。

 

文「彼女達が、裏切者?一体どういうことですか!?」

紫「待ちなさい。今から説明するわ」

 

そう言って、三人に向き直り

 

紫「そう、あり得ない。

  彼女達は、レジギガスの発見。沈静化に活躍したし協力もした。

  それでも、洗脳の痕・・・一時的な力の上昇が見られたわ。

  影響を受けていたのは確実」

 

早苗「え、でもですよ・・・。

   なんで洗脳をかける必要があったのか・・・」

 

紫「・・・これは、私の予想。考えによるものだけど・・・。

  今回の異変の中心には、このレジギガス。そして山の存在があった。

  恐らく、洗脳をかけた何者かは・・・ポケモンと妖怪とを争わせたかったんだわ」

 

争い・・・。

 

紫「その洗脳をかけた奴は、この幻想郷にダメージを与えたかった。

  と考えるのが妥当。そのために、双方に誤解を生じるよう洗脳をかけた。

  争わせて、疲弊させるために・・・」

 

そこまで言って、レジギガスの方に向き直った。

 

紫「今回の異変は、確実に誰か・・・黒幕がいて操らていた。

  私達は、まんまとその黒幕の掌で無様に踊らされたという事・・・。

  

  理解、してもらえたかしら?」

 

「・・・・・・・・・」

レジギガスは、何も喋らず。なんの声も発さず。

ただただ黙っていた。

 

そして、栄達も黙っていた。

ただこちらの沈黙は、衝撃と混乱によるものだった。

いや、もしかしたら。レジギガス・・・この巨神も操られていた

事に対してショックを受けているから、黙っているのかもしれない。

 

文「・・・兎に角。双方が何者かによって操作されて。

  しなくもいいハズの戦闘及び被害を被ったことは確かってことね・・・」

紫「そういうこと」

 

・・・・・・・。

私は、レジギガスに向き直り。

静かに言った。

 

文「貴方も、私達も。誰かの悪意によって遊ばされた。

  そして・・・その悪意は、貴方の主に対する意思を『侮辱』した。

  確かに私は、貴方が出した山の被害に関しては許すことができない。

 

  でも・・・・・」

 

「・・・・・・・」

 

文「でも、私達も貴方と一緒で『侮辱』は許せない。

  そこで、レジギガスさん・・・・・」

「ズ・・・」

 

文「協力して、貴方の主に対する侮辱を晴らしてやりましょう」

 

そう言って、私は周りが息を呑む気配を感じながら

手を差し出した。握手のつもりだった。

 

 

しかし、向こうは結界で動けないため。ポーズとしての握手になるが・・・。

 

「ズッ・・・ズッ・・・!」

 

その鳴き声に込められた協力の意志は

例え心が読めずとも私にはハッキリと伝わった。

 

 

「妖怪の山~麓」

レジギガスの説得から、早数日。

 

戦闘と山の動きによって甚大な被害を受けた妖怪の山は

全天狗及び河童の復興作業によって、少しづつではあるが

元の景色、様相を取り戻してきていた。

 

その中でも、栄、微意、椎は。

まるで馬車馬のように働き、自分たちが操られていた罪悪感から逃れようとしていたが

最近ではそれも周囲の気遣いあってか、元の性格を取り戻してきていた。

 

また、協力を約束したレジギガスは、

その後。さとり様の通訳を通して、大天狗様と契約。

 

復興作業にも全面協力して、その怪力を生かして作業を飛躍的に

スピードアップさせてくれた。

ちなみに、また山を動かして元の位置に戻そうとするのを止められたのは

御愛嬌であった。

 

 

封印目的で捕らえられた、三匹のポケモン達も。

洗脳を再度かけられていたことが判明したため、その洗脳を解いて

今では各々が、製氷係や留守番役。鬼の戦闘練習相手と

自分の居場所を見つけて、今では問題なく過ごしているという。

 

そう・・・本当に何事も無く・・・。

 

博麗の巫女も、白黒の魔法使いも、緑色の風守も。

最近では、異変だと何だと言った事情に捕らわれることもなく

ゆったりと疲労回復や、人里への説明などをすることができたという。

 

 

 

空はその平和を象徴したかのように高く、そして青く。

このまま平和であれば何の問題も無し、とすることができるのだが。

 

恐らく、黒幕は待ってはくれないだろう。

その正体が、空間神であっても時間神であっても。

 

私達が私達の生活を守るのは変わらず、その良心と意志に従って

助け合っていくのも変わらないハズ。

 

ただ・・・・・・。

 

その意志すらも、催眠による洗脳ではないと言い切ることが難しいのは

酷く辛く、そして腹立たしいことである。

 

一体、これから何処へ向かって。

行きつく先は平和なのか、混沌なのかは。

 

まさに、『神』のみぞ知るという事なのかもしれない。

 

「宇宙」

 

黒く、様々な光の色を見せる漆黒の空間と時間の混合物の中。

ゆっくりに見えるような、高速の動きで「それ」は迫ってきていた。

 

「それ」の軌道上にあるのは、水と大気の星。地球の衛星。月。

 

そこに住む住人達は、既に「それ」の動きに感づいていた。

 

??「珍しいですね・・・。

   私達の結界を破ってまでぶつかろうとする隕石は。

   でも、ここまでです・・・」

 

月面、そこにはあるはずのない悠久の海が静かな波を称えて

揺らぐ傍らに、剣を携え。髪を結んだ一人の女性がいた。

 

綿月 依姫(わたつきの よりひめ)

 

そう呼ばれる、月の有権者の一人であった。

 

彼女は、ゆっくりと、さやから刀身を少しだし・・・。

 

依姫「この程度、能力を使わなくとも十分です」

 

刹那。迫ってきていた「それ」・・・隕石は

見ることすら叶わない須臾の居合切りで細かく裁断され・・・。

 

依姫「・・・?」

 

裁断。されたはずの隕石の欠片から、赤と青の触腕が飛び出て

静止する間もなく飛び散った隕石の欠片をより集めて再形成。

 

そして、何かエンジンでもついてるかのような急加速で

不自然に動き、さっきとは比較にならないほどのスピードで

月からその姿を消した。

 

依姫「・・・今のは、一体・・・・?」

 

彼女は、その胸の内に今まで感じたことが無かった

未知の不安を抱えて、その隕石が向かう星。

 

地球を静かに見つめた。

 

To be continued・・・


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