東方携帯獣  ~ポケット・モンスター |幻。夢。|~   作:キョウキ

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遅れてすんません。
そして気付けば50話目。


49ページ目 決戦、決着

「博麗神社」

 

………ォォォォォォオオオン‼

 

それは唐突に届いた。

何か、隕石でも落ちたのではないかと錯覚するほどの轟音。そして振動。

それらが一つの波となり、鼓膜だけではなく全身を震わせる風となり。

私達を大変驚かせた。

 

魔理沙「うわぁっ!?・・・なんだ、今の・・・」

霊夢「・・・~~っ!・・・耳が痛いわ・・・」

AZ「ぬぅ・・・くっ・・・」

小鈴「あぅ、あぅ・・・耳がぁ」

阿求「うぅーん・・・耳だけじゃなく、体も痛いわね・・・」

 

レミリア「・・・どうやら、決したようね・・・」

 

反応はそれぞれ三者三葉で、その殆どが突如現れた大気の振動に動揺していた。

その中でただ一人、動揺の色を見せなかった吸血鬼。レミリアは俯いてそう言った。

 

魔理沙「えっ?決したって・・・この異変がか?」

霊夢「他に何があるってのよ・・・レミリア。どうなったか分かる?」

レミリア「分からないわ・・・でも、立っているのは一人だけ」

 

私はそれを聞いてまず安堵。そしてその後に背筋が凍るような不安が駆け抜けた。

魔理沙「どっちが立っている?」

レミリア「だから分からないと言っているでしょう?

     そんなに気になるなら見に行けばいいじゃない。ねぇ、霊夢?」

 

霊夢は答えない。悩んでるようにも、困ってるようにも見える表情のまま俯いていた。

 

霊夢「・・・なら、あんた達だけで行ってきなさい。

   私はここを動けないんだから」

 

私はそれを、「承諾」の返答として捉えた。

 

魔理沙「・・・吸血鬼と一緒か・・・」

レミリア「あら?嫌そうじゃない。私も嫌だけど」

 

魔理沙「・・・まぁいいや。私は行くぜ」

レミリア「べ、別にあんたが心配だからついて行くんじゃないんだからね!」

魔理沙「本当にそういう訳じゃないんだろう?」

レミリア「御名答」

 

そんな掛け合いをしつつ、私はほうきに跨り、高スピードで上昇して

涼しい夏の夜風を全身で浴びながら妖怪の山へと向かう。

 

レミリアもまた、吸血鬼の威厳の一つである蝙蝠の翼を羽ばたかせて

飛翔する。そのスピードは私よりも早かった。

 

魔理沙「くそぅ・・・やっぱ妖怪には勝てないか」

『妖怪でも勝てないかもしれない』

 

私は、明らかに不安を感じていた。

立っているのが一人、という事実を聞いた時の安堵は消え去り

同時に感じていた不安が大きくなっていた。

 

『妖怪でも勝てないかもしれない』

 

その不安は、一つの幻聴となって。

先程の衝撃とはまた別に私の体を震わせた。

 

『妖怪の山』

 

私は、自慢のスピードで人里から戻っていた。

風に乗り、気流にまたがり、山へ。山へ。

 

それはいきなり来ていた.

 

 

ド‼……ォォォォォォオオオン‼‼

 

 

まずは、大きな振動。巨大な鉄球同士がぶつかり、押し合ったかのような激突音。

続いて、衝撃。それはもはや地震だった。

地面だけでなく、大気。水、炎。樹木。人間も妖怪もポケモンにも。

等しく与えられる、とてつもない風と音。

 

それは、天狗である私にもかなり響いた。

 

射命丸「ぅ・・・イタタ・・・」

余りの衝撃に、空中でバランスを崩しそうになったが持ち直し、また山へ。

 

私は、正直に言ってこれほどまでの・・・『黒い感情』を味わったことはなかった。

 

殺意。憎悪。嫌悪。憤怒。悲哀。焦燥。後悔。

 

それらはもう、私の血と肉を構成するモノになったのではないかと思う程。

私はその感情を全身で浴びていた。

 

しばらく飛んで、見えてくる。

 

妖怪の山よりも巨大になった砂煙。そしてその中で微かに見えるもの。

倒れた樹木。転がり込んできた大岩。抉れた地面。

 

射命丸「・・・・・」

私は・・・1000年近く生きてきた人生の中で、何度か天災を起こす神。

『祟り神』に会ったことがある。

 

この様相はまさにそれだった。

 

とても、一体のポケモンと一人の鬼が起こした事態とは思えない。

勿論、そのポケモンも巨大で強力。その鬼も凶悪で狂暴であることは知っている。

 

しかし、これでは神の仕業。

龍神様や、ミシャグジ様。八咫烏や、須佐之男命等の気性の荒い神の領域。

 

そこで私は気づいた。

ここでは、神が戦っていたことに。

 

巨神VS鬼神

 

 

恐らく、この様子では決着がついたのだろう。

 

射命丸(萃香様・・・どうかご無事で!)

私はそう思い、団扇を扇いで風を起こし、砂煙をかき消す。

 

 

・・・まず、見えてきたのは天を衝く巨体。

次に鮮やかな緑が顔を出し、巨大な剛腕が姿を見せた。

 

そいつ(巨神)は立っていた。

 

射命丸「     」

私はその時、なんて言ったのかは思いだせない。

恐らく・・・私が知っている中で最も汚い言葉を使ったのだと思う。

 

私は、こいつに。溜め込んでいた『黒い感情』を吐き出すべく

ありったけのスペルカードを掲げて叫ぼうとしたとき・・・。

 

「やめろ」

 

射命丸「ッ!?・・・」

 

全身が凍り付いたかと思った。

もうこれは止められないな。と、思うほどに燃え上がった『黒い感情』は

たった一言。静止の命令で瞬く間に冷やされ、凍結した。

 

このトーンの声を聞いたのは何百年ぶりだろうか。

 

萃香「・・・」

 

伊吹萃香。

かの悪名高い大妖怪。『酒呑童子』。

 

常に酒に酔い、はたから見れば気楽な鬼の四天王。

 

しかし、その正体。

外の世界において、数々の村を。都を。町を。京を破壊してきた鬼神。

 

この声のトーンは、『酔いが醒めたときにだけ発する』ものだった。

 

つまり、完全な本気。鬼の本質。枷が外れた状態。

 

 

しかし、肝心なその姿は満身創痍。

服はもう既に所々が破け、煤けていた。

角は右側の先端が少し欠け、右腕に至っては肘から先が存在していなかった。

 

射命丸「萃香様!その腕は・・・」

萃香「そのうち治る。騒ぐな」

 

私はそう言われて怯み、思わず口に手を当ててしまった。

萃香様はその様子を見て少し苦笑し、すぐに巨神の方へと視線を向ける。

私もそれにならい、視線を向けると。

 

ズッ・・・ズゥ・・・

 

鳴き声が聞こえた。

生きている!

 

萃香「・・・これはもう、勝負にならないな。

   お互い満身創痍・・・いや、向こうはまだ少し動けるかな・・・。

   兎にも角にも、私は動けない・・・。射命丸」

射命丸「!、ハイ‼」

 

萃香「後は任せた・・・。私は少し休む・・・」

 

そう言って、萃香様から上がっていた鬼の気は消え去り

瞼は力なく落ちて萃香様は膝から倒れ伏した。

 

射命丸「・・・・・」

私は、奇妙な安らかさを感じていた。

 

確かに、私の内にはまだ『黒い感情』が渦巻いている。

しかし、それは暴走することはなく。

 

私が使うべきカードを選んで、私の手の内に包んでくれた。

 

射命丸「突風『猿田彦の先導』」

 

妖怪の山に、その言葉が静かにこだまし。

山から吹き下ろす寒風は巨神の体を打ちのめして地に伏せた。

 

射命丸(そういえば、山の神達は・・・)

萃香「私が帰らした。今では彼女らがこの山の”表”の支配者だからね。

   仮にあのデカブツに踏みつぶされでもしたら、紫が不機嫌になりそうだからね」

 

萃香様は、私の心を見透かしたように。横たわりながら呟いた。

 

辺りはとても静かだ。

風はなく、蝉の声もない。

遠くから聞こえる川のせせらぎだけが辺りを荘厳に清めている。

 

今、立っているのは私一人だけ。

巨神はもう動かない。

 

 

勝ったのは、私「達」だった。

 

「妖怪の山 玄武の沢」

 

「じゃきー!」

「じじぜじぞ!ぜぜじぞ!」

「ざざざりざりざりざ!」

 

静寂を切り裂くような機械的な生物の声。

 

零度以下の光線や、鋼色のビーム。突き上げそびえる咎岩。

それらが、あたりを凍らし。破壊し。地形を変えていた。

 

しかし、それも全て結界の中。

音はしても漏れることはなく。攻撃も外へと出ることも無く。

 

その三匹の怪物を前に余裕の笑みを見せる者が一人。

妖怪の賢者、「八雲 紫」。

 

彼女は、創りだしたスキマの中から一つの紅白球を取り出して。こう呟く。

 

紫「・・・さ、よい子は寝る時間よ・・・?」

 

To be continued・・・




うろ覚えキャラクタープロフィール。『伊吹 萃香』。
種族:鬼
性格:ひょうひょうとしていて、つかみどころのない。
   常に酔っているため、言動もよく分からないものが多い。
   しかし、決して怒らせてはいけない。絶対に。
能力:疎と密を操る程度の能力。
解説:端的に言えば、密度を操る能力。
   具体的には、人を集めたり(人口密度)。酒を濃くしたりする。
   また、自分に使うこともできる。
   疎にすればその体は細分化し、霧のようにもなる。
   密にすれば、その体は巨大化し、質量・重量も増える。
酒:無類の酒好きで、人生のほとんどを酔って過ごしていると言われる。
  名称はここでは忘れたが、『無限に酒が湧き出るひょうたん』を持つ。
  そこに入っているのは神酒にも劣らない大吟醸。飲んでみたい。

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