東方携帯獣  ~ポケット・モンスター |幻。夢。|~   作:キョウキ

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遅れて申し訳ありませんでした!


45ページ目 日照りの夢 

暑い・・・。

AZ「うう・・・く・・・」

 

空に浮かぶ陽の球は、いくら今の季節が夏とはいえ

あり得ない熱を地上へと向けて落としている。

 

また、その熱は地面の砂に反射し、容赦なく私をジリジリと焼いた。

 

 

私は、その炎天下の中。人里を歩いていた。

・・・いや、正確には「人里だったところ」を歩いていた。

 

辺りは、人がいなくなった多くの民家が建っているだけで

人も、獣も、ポケモンの気配も無かった。

 

そのことを、最初確認したときは。

暑さ故か、恐怖故か。汗が止まらなかった。

 

しかし、今は汗は一滴も出ない。

この日差しの中、人を探して歩いたせいで体の水分を全て奪われてしまったからだった。

 

AZ「うっ・・・ああぁ・・・」

ガクリ、と膝から力が抜けて立てなくなる。

 

その間も日差しが弱まる気配はなく、水分を失った私の体をゆっくりと焼いていた。

 

そして、ついには倒れた。

 

 

『ぐらぐらるぅぅぅぅ!』

 

どこか彼方から、地震でも起こすのではないかと思うほどの大音声が

体を揺らした。

 

私は、すでに諦めていた。

もうどうしようもない。ここで干からびていくしか道はない。と。

思っていた。

 

その時だったか。

 

じゃり・・・。じゃり・・・。

 

地面を踏みしめて近づいてくる音・・・誰かの足音が聞えた。

 

それは、私から見て正面から歩いてきた。

 

AZ「(あれは・・・阿求・・・?)」

 

その足音の主は、「稗田 阿求」。

しかし、その顔には表情がなかった。

 

眼は虚ろで、焦点が合っていなく。

口は開いて、その端から涎が垂れている。

それでも足取りはしっかりとしており、ゆっくりと私との距離を詰めてきていた。

 

その様子を見た私は思い出した。

AZ「(・・・こいつ・・・阿求ではない。

   いつかの夢で見た、「阿求の姿をした何か」・・・!)」

 

阿求は・・・虚・阿求は私との距離を1mほど置いてしゃがみこんだ。

その視線は真っ直ぐに私を捕えて揺るがなかった。

 

「・・・・・」

 

虚・阿求は何も言わずに、ただジッと見つめてくるだけ。

ただそれだけなのにも関わらず、その気迫・迫力は人外のそれだった。

 

その時。私は見た。

しゃがんだ阿求の背後。その彼方に、黒い影が立っている様子を。

 

その黒い影が何なのか。それは分からなかったが、人ではないことは確かだった。

 

途端。阿求が立ち上がり、私のすぐ横を歩いて去って行く。

 

陽が落ちる気配はない。

 

 

そしてその時、急に風が起こり。

私は、自分の体が塵となって晴天に溶けてゆく感覚を味わった。

 

???「AZさん!起きてください!緊急事態ですよ!」

・・・何者かに体を揺すられ、名前を呼ばれる。

 

私は、まだ目は開けていなくても声の持ち主は分かった。

その正体は「本居 小鈴」。

 

その小鈴が、さっきから体を激しく揺らしていた。

 

AZ「・・・なんだ・・・」

 

私は、腕で目を擦りながら布団から体を起こした。

その時、私の体が汗でビショビショになっているのに気が付いた。

 

小鈴「あ!やっと起きてくれましたか!急いでください!

   今から博麗神社に避難しますよ!」

 

ん?と思った。

いきなり体を揺すられて、緊急事態と言われ、その上避難すると。

 

 

なにが何だか分からない。しかし、ただ事ではないという事は

小鈴の顔を見て理解できた。

 

AZ「・・・小鈴、お前。昨日は帰ったんじゃなかったのか?」

 

小鈴「いえ、帰りましたけど!とにかく時間がありません!

   ホラ、立ってください!寝巻のままでいいですから!」

 

そう言われ、腕を引っ張られ立たされる。

寝室を抜け、廊下を通り、玄関の前へ。

 

そこには、笠を被った見知らぬ男性と『阿求』が立っていた。

 

阿求「・・あっ!AZさん、こっちです!」

阿求が気づき、それに続いて男も気づく。

 

???「・・・あなたが、AZさんですね?

    小鈴から話は聞いています」

そう男は、こちらに頭を下げ挨拶をしてきた。

 

本居(父)「私、貸本屋の鈴奈庵を経営させてもらっている

      『本居 小鈴』の父です。

      以前から、小鈴に対して何かと良くしてくれまして

      ありがとうごいます」

 

AZ「いえ。私は、自分のやりたいことをやっただけですので・・・」

 

私も、それなりに礼儀を通して挨拶をしようとしたところに

阿求が割って入り、

阿求「とりあえず、その挨拶の続きは神社の方で。急ぎましょう」

 

そう言って、扉を開けて出て行ってしまった。

それに続いて、小鈴の父親が。次に私が。

最後に小鈴がという形で、全員が外に出た。

 

外は、まだ陽が出ていない早朝であった。

しかし、辺りは多くの提灯の光で照らされ、明るかった。

 

所々で、提灯を持った者達が周辺の家々を訪ね

住人を連れ出して大通りを歩いている。

 

AZ「一体・・・何が・・・?」

私は不安に思い、阿求に聞いた。しかし、応えたのは小鈴の父親だった。

 

本居(父)「あれでございますよ・・・」

彼は、右手の人刺し指を、人々が行き交う方向とは反対方向を指さした。

 

 

AZ「・・・!?、こ、これは・・・ッ!?

  山が、動いている・・・のか!?」

 

見た通りだった。

まだ早朝の薄闇の中、巨大な影が少しづつではあるが迫ってきていた。

 

本居(父)「原因は分かりませんが、山が動いているのです」

 

阿求「かなりのスピードね。山は止まるのかしら・・・」

 

小鈴「AZさん・・・。私達、どうなるのでしょうか?」

 

AZ「・・・それは・・・逃げてから考えるべきことだろう?」

私は、迫りくる山への恐怖を抑えながら言った。

 

阿求「そうね・・・。とりあえず、神社へ急ぎましょう」

 

阿求が先頭に立ち、皆を率先して神社に率いる間。

私は少しの間立ち止まり、『山をどう止めるか』を考えた。

 

しかし、今のポケモン達の体力。能力ではあのエネルギーを止めることはできないだろうと

考え、苦虫を嚙み潰したかのような酷い気分に襲われながら、人里を後にした。

 

「妖怪の山・・・人里方面」

 

「ズッ・・・ズッ・・・‼」

予想以上に重かった。

 

今まで、何度も主のために立ちふさがる大岩を砕き。

壁を押しのけ、穴をふさぎ、山を切り開いた。

 

しかし、この山は「重い」。

まるで、天を支える支柱のように重い。

 

その重量の・・・もとい重力の正体は、さっきから私の上でフワフワ浮いている

この生物達によるものだった。

 

???「はぁ・・・はぁ・・・チッ!

    私のオンバシラでも、諏訪子の鉄の輪でも止められないとはね・・・」

 

諏訪子「まさか本当に動かされるとはねー・・・正直言ってビックリ」

 

早苗「どどどどど、どうしましょうううう!・・・

   私の弾幕も奇跡も効かないなんて・・・こんなの反則ですよ反則!」

 

さっきから何なのだろうか。

私は、「この山ごと、火山の怪物を生き埋め」にしようとしているだけなのだが。

 

やはり、「わるいおうさま」の末裔。もしくは遺志を継ぐ者達。

 

しかし、どうにもならないだろう。

 

以前は、不完全な状態で復活を遂げたが今回は違う。

 

完全な状態で復活。もうこいつらでは止められないだろう。

 

・・・もうこれ以上。

これ以上、主を。待たせるわけにはいかなかった。

 

数時間前・・・。

 

深夜。

私は、大きな揺れで目が覚めた。

 

地震のような、地割れのような・・・。

大地が傷つくような振動だった。

 

諏訪子「ん・・・どうしたんだい「神奈子」。

    ・・・この揺れは?」

 

背後から、「諏訪子」の声が聞こえてきた。

 

神奈子「いや、何か様子がおかしいような気がしてね・・・・ん?」

    ・・・!?、まずい‼」

 

諏訪子「おい、神奈子―。まったく・・・早苗。

    起きろー、緊急事態だぞー」

 

本当に緊急事態だった。

 

「まさか」とは思っていたが、それが現実になるとは。

 

案の定、石像の封印が解かれていた。

 

四方を囲んだ御柱は、すべて凍らされて折られており。

石像を縛っていた鉄の輪は、巨大な金槌で潰されたかのように変形していた。

 

神奈子「(私と諏訪子の封印をこうも簡単に破るなんて・・・‼)」

 

私は言葉を失い、愕然としたが。

すぐに次の行動、「こんなときのために」。という策を展開させる。

 

神奈子「早苗!すぐに妖怪の山全域の天狗たちに協力を要請しろ!

    諏訪子!」

 

諏訪子「もう早苗なら行ったよ。後は私達の出番だね」

 

諏訪子も、完全に目が覚めたのか、戦闘態勢に入っている。

 

神奈子「よし・・・。この山の神に喧嘩を売ったこと。

    後悔させてやろうか!」

 

 

しかし、その数時間後。

後悔するのは、私達の方であったと理解することを。

 

この時は誰も考えることはなかった。

 

 

「やぶれた世界」

 

ズズゥ・・・ズン。

 

ムゲン「おお?なんだこの音・・・「こっち」じゃあないな」

 

博士は、背負っていたリュックから取り出したカップにコーヒーを注ぎながら

呟いた。

 

咲夜「(レミリアお嬢様・・・妹様・・・どうかご無事で)」

 

私は、浮かぶシャボンのような物体の中で。

山が激しく揺れる様子を見て、心で願った。

 

To be continued・・・




うろ覚えキャラクタープロフィール:稗田 阿求
種族:人間
能力:「見聞(見聞きした物)を忘れずに覚えておける程度の能力」
性格:好奇心旺盛で、多少勝気。幻想郷住民にしては良識がある方。
   AZに宿として自分の家を貸しているあたり、親切である。
   (その親切心の裏側は見ないのがお約束)
稗田家:初代稗田家当主、「稗田 阿礼」から続く見聞の一族。
    阿求で九代目だが、その類稀なる記憶能力により、幻想郷で起きた物事を
    記す役割と責任を背負ってきた。
    しかし、当の本人はまだ書く時期までは余裕がある為
    遊びまわりたいらしい。
寿命:代々短命である。(せいぜい20代行けて大往生というレベル)。

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