東方携帯獣 ~ポケット・モンスター |幻。夢。|~ 作:キョウキ
結論から言おう。
私は。私達はあの岩山に出し抜かれた。
▼
私はその瞬間、死を覚悟したが、その死の宣告である攻撃が行われることなく
こいし様がその岩山を打倒した。
勝った!勝利だ!戦いは終わったんだ!
その喜びと達成感が疲労となって私を襲った。
こいし「お燐、大丈夫?」
お燐「ああ、はい。大丈夫です」
私のその言葉にこいし様は安堵したのか、にこりと目を細めて笑った。
しかし、そのひと時の安寧はすぐさま崩れることになった。
お空「お燐!後ろォ‼」
途端。お空の言葉が後ろから響いた。
その声に反応して後ろを向いた瞬間、右頬に鋭い衝撃が走った。
お燐「ぐうっ‼」
うめき声をあげ、吹き飛ばされる。
一瞬、こいし様がとても驚いた顔をしているのが見えた。
ボロボロの体になっても動いている岩山の怪物の姿も。
その視界を脳で処理しようとした瞬間、背中に強い衝撃が走る。
どうやら吹き飛ばされて壁に激突したらしい。
意識が霧がかったように朦朧とし、こいし様の声が聞こえる。
お燐(いっ・・・意識が・・・ッ!)
目がかすんで、何もかもが薄れて見えてくる。
耳もやられたのか、耳鳴りがしている。
頭を打ったのか、頭痛もする。
それでも私は、なんとか意識を手放さないように目を見開いていた。
お空がかなりのスピードで飛んでくるのが見えた。
こいし様が私の方へと駆け寄ってくるところも見えた。
その霞んだ視界の中で、気のせいだと思いたいものが一瞬見えた。
岩山が、床へともぐっている所である。
:あなをほる:
お空が岩山の方へと飛ぶ様と、ヒ―ドランが攻撃を仕掛けるところも見える。
こいし「お空!私はお燐を担いでここを離れるから、スペルを使ってもいいよ!」
お空「ッ‼、いいんですか・・・?」
こいし「ほら、早く!ここは任せたよ!」
確かにそうこいし様が言ったのが聞こえた。
次の瞬間。私はこいし様に本当に担がれたらしい。
また次の瞬間。
お空がカードを取り出して、辺りに警告音を響かせたのを聞いた。
お空「爆符『メガフレア』‼」
「ゴボボボォ‼」 :マグマストーム:
▼
体の大半が破損。しかし、まだ完全に破壊されたわけではない。
まだ戦える・・・。
だが、ここは撤退するほかないようだ。
もうこの体力と距離では「爆発」を起こして道連れにも行かない。
ならば最善の策。一時撤退。
そもそもここには「戦闘力のデータ収集」に来た訳である。
もうここに長居する必要も無いだろう。
しかし、相手も既に逃げようとすることに気が付いている。
ここに残った、戦闘可能な者は二体。
どちらの攻撃も当たったら瀕死は免れないだろう。
何とかして穴を掘り、炎から身を守らねばいかない。
そうこうしているうちに穴が開いた。この地底から地上へ出るための穴が。
しかし、攻撃はすぐさま発射された。
▼
爆炎の渦と、火炎の大玉が、岩山に向けて発射される。
その瞬間の室内気温は一気に80度を超えたと思われる。
そして刹那。辺りは弾幕と溶岩の渦で地獄のような光景となり、周りに強い光が漏れた。
その光は、私もヒ―ドランも岩山も包んで。
最後に。
ドウゥゥン・・・。
という揺れと高熱と炎を残して辺りは焼野原となった。
そこに残されたのは、尖った岩の残骸。焼けたカーペットやシャンデリア。
そして、奴が逃げたと思われる穴だけだった。
その穴は、私達が存在に気が付いたのを察知したかのよに消え去り。
その穴が存在していたところだけ、爆炎や弾幕の影響を受けずに綺麗なままの床を
晒した。
まるで穴も、岩山もなかったかのように辺りは消炎し、私とヒ―ドランだけが残された。
私達は、あの岩山に逃げられた。
▼
~人間の里~ 慧音・妹紅サイド。
地上は、よく晴れた夜となっていた。
雲は一切無く、瞬く星々と輝かしい月はその光を地上へと注いでいた。
夜は人間の里の酒屋等を覗いて、出歩く人間が一気に減る時間帯である。
その代わり、人ではない者が出歩く時間となっている。
その白く輝く月光を、鏡のような鋼の体で反射させて、人里の外へと歩み出る
異形の姿がそこにはあった。
その異形・・・激しい暴風から慧音と妹紅の身を護ったその存在は
ゆっくりした足取りで、人里から森へと出ていこうとしていた。
その様子を見ていたのは、ただ一人。
人とは言えぬ、青い目と赤い帯。黒い体に白の頭髪のような物を持つ闇だけであった。
その方向の先には、高くそびえる妖怪の山が、巨大な化け物のように
天を支えていた。
▼
~紅魔館~
同時刻。灯りが消え去り、代わりに白い月明かりが館を照らしている頃。
スーッ、と。滑るように館の玄関から、尖った多角形のような影が飛び出した。
その影は、またすーっと滑るように移動して庭を横切っていく。
その影の正体は、一人の妖精のパートナーとして巫女と魔法使いと戦い。
現在はこの館の製氷を任せられる異形であった。
その異形は、ゆっくりと館の門を開け、湖を凍らせつつ、森の中へと入っていった。
また、その様子を見ている存在が一人。
ボロボロの薄汚れたローブを纏う不気味な者。
『・・・・・』
その存在は、何も言うことはなかった。
何も言うことはなく、空を飛んで、また何処かへと離れていった。
その飛んでいくものとは逆に行く者。その異形は、巨大な影。
妖怪の山へと進む。
▼
迂闊だった。
まさかあそこまで強力な者が青の地下にいるとは思わなかった。
なんなのだ、あいつは?
気が付いた時からいたのか?
分からない。だが、あそこにいた中ではトップクラスに危険だということを認識した。
これからは、あの存在を判断基準に戦闘をしていきたい。
だが、あの存在よりも強い者がいたとしたらどうするか?
それは、出会ってみなければ分からない。
ひとまずは、この身体が再生するまでジッとしていなければ。
▼
~人間の里~ 阿求・小鈴・AZサイド
変な夢を見た。
私がAZさんと阿求と一緒に、何処かへと行く夢だった。
それが『夢』と認識できたのは、何故かは分からない。
しかし、これは夢であるという確固たる自覚があった。
その行先は、何なのかよく分からない場所。
紫色の桜と、地面から所々突き出た小さい岩が印象に残る荒れ地だった。
空は紺色に染まっているが、地面や桜はハッキリ見える。
その荒れ地を、AZさんと阿求はどんどんと進んでいく。
私は、二人に遅れていることに気が付き、スタスタと足を速めてついて行った。
途中。
ヌチャ、と変な音が地面からした。
それは、底の部分だけぬかるんでいるようだった。
そのぬかるみに私は足を取られ、動けなくなってしまう。
二人は私を置いて先へと行ってしまう。
小鈴「AZさ~ん!待ってくださいよぉー!」
返事はない。振り返りもしない。隣にいる阿求も同様に。
小鈴「お~い!二人とも―‼」
返事はない。振り返ることもなく、ただ歩く。
途端。
ドドドドドドド‼‼
何かがのたうち回るような音が聞こえてきた。
小鈴「?、何の音だろう・・・・・って、ええ!?」
この様子を見て、驚かない人がいるだろうか?いや、いないだろう。
きっとあの霊夢さんや、魔理沙さんですら驚愕してしまうはず。
それは、水だった。
それもただの水ではなく、空と同じ紺色に染まった潮。
その潮に、先を歩いていた二人が呑まれる。
小鈴「‼‼」
もう一度言うが、これは夢である。
しかし、いくら夢とはいえその恐怖。実感は現実とそう大差はないと思えた。
高波が唸るような音を立てて近づいてくる。
ぬかるみにはまった足は抜けそうにない。
全てが駄目だと思ったその刹那。
波の中から青色の巨大な何かが飛び出してきた、
その青色をした、大海のようなイメージを持つ何かは私にのしかかり・・・。
気が付くと、私は布団から飛び上がって起きていた。
小鈴「はあー。はあー。はあー」
私は、起きてすぐ。体に異常が無いか調べた。
しかし、それは夢であるため体に何か異変があるわけはなく。
無傷。ただし汗でビショビショになった私の体がそこにはあった。
小鈴「・・・(なんだったの・・・今の夢は・・・)」
私は、何故そのような夢を見たか考えてみたが。
結局は眠気には勝てず。
今度はいい夢が見られるように願いながら再び眠りについた。
翌朝。
父親にたたき起こされた。
避難するのだという。
何故避難するか、父親に聞いたところ。奇妙な回答が返ってきた。
「山が動いて人里に迫ってきている。早く避難しなければ」
そのようなことが帰ってきた。
私は、これも夢なのではと思いつつ、父親に手を引かれて外へと出ていった。
To be continued・・・