かんせんぐらし?   作:Die-O-Ki-Sin

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※誰得
※独自設定及び独自解釈


番外章―だうんろーどこんてんつ
でっどえんどわーるど


 朦朧とする意識。私の手には、試作品と書かれた注射器。……きっと、七草さんが鞄に入れたのだろう。

 

「なん、で……」

 

 でも、もう彼女はあいつらになっていた。もうその答えを聞くことなんて出来やしないのだ。

 

「……もう、いいや」

 

 私は手に込めた力を抜いた。注射器は地面に落ち、コロコロと転がっていく。

 ……私が、何かに溶けていく。そんな感覚。

 生きていたって何も良いことは無かった。これで終わり。それでいいじゃないか。

 

「……あぁ、畜生……」

 

 私の意識は、呪いの言葉を最後に途絶えた。

 

 

「……?」

 

 目を覚ます。そこにはいつもと変わらない風景。あれは、夢だったのか?

 起き上がって周囲を見回した。もしかして路上で寝てたのか?……うわぁ。

 時間の問題か、駅の周囲に人はいない。眩しい青空だけが私を見下ろしていた。

 

「……」

 

 酷くお腹が空いた。どれだけ寝ていたのだろう。もしかしたら一晩過ぎているのかもしれない。だとしたら補導されなかったのが不思議でしょうがないが。

 とりあえず、何か食べられるものでも探そう。私は繁華街を抜け、自分の家にたどり着いた。……どうしてだか知らないけどアパートの入り口のドアが壊されている。事件でもあったのだろうか。

 つまづきそうになりながらも階段を登り、自室へ。私はドアに手を当てて、ふと思い至った。

 

 ドアってどうやって開けてたっけ?

 

 ど忘れってやつだ。えっと、そうだ、ドアノブだ。……ドアノブってどれだっけか。

 

「……!」

 

 わからない、わカらナい。

 ついイライラ来て、ドアを殴ってしまった。何度も何度も殴る内、ドアは壊れてしまった。

 これで、部屋に入れる。

 ただいまー、なんて誰もいない部屋に言う。返事は帰ってこない。……帰ってきたら怖すぎる。

 とりあえず机の上に置いてあった袋入りの菓子パンを手に取る。そしてそのまま噛みついた。………美味しくない上に噛みきれない。というかなんの味もしない。何でだろう。それでもずっと噛んでいる内に私の手は唾液にまみれてしまった。

 

「……」

 

 あぁ、不愉快だ。この餓えは、この乾きは、どうしたら癒されると言うのか。

 

 

 次の日。次の日?いつの間にか記憶が飛んでいる。あのあと私は何をしていたんだっけか。

 まぁ、何はともあれ学校に行かなくては。……って、昨日教科書とか捨てていった気がする。私のバカ、何て事を。

 

「……」

 

 壊れたドアを踏み越えてアパートの外へ。そして駅まで辿り着いた所で私は立ち止まった。

 

 ……何処に行こうとしたんだっけか。

 

 もう、なんか全てがどうでも良く感じられる。ただただお腹が空いた。私の頭にあるのはその言葉だけだ。何か、ナにカ食べないと。

 

「待っててね、美紀……!」

 

 女の子だ。何処かの制服を着ている。

 その子は何かに怯えているようで、スごく美味シそウダった。

 たべたい、たベタい、オ腹ガ空いた。

 

「ひっ……」

 

 人のかオを見て怖がるとは失礼な。確かに私は強面かもしれないがその反応は酷すぎる。

 少女は直ぐに逃げようとしたが、私はその腕をつかんだ。

 

 やッと見ツけたご飯を逃がしたリハしない。

 

「離してよ!」

 

 ぐしゃり、そんな音がして私の頭が抉れた。頭を殴られたのだろうか。脳までは達していないけど。その衝撃で私は手を離してしまう。

 

「っ……」

 

 そして少女は走り出す。でも、私はお腹が空いた。

 

「キャッ!?」

 

 私の伸ばした右腕は彼女の足を掴んだ。伸びた爪が彼女の足に食い込んでいく。

 

「嫌っ!離して、離してよっ!」

 

 そう叫んだ少女は私の足を踏みつける。ギシ……と嫌な音が骨を通じて私の脳に伝わった。

 そのまま彼女は走っていった。……お腹が空いた。これからどうしたら良いのか。

 

「……」

 

 そうだ、学校へいこう。私は学生だった。学校に行かなくては。

 私はゆっくりと立ち上がると、ゆらゆらと通学路を歩き始めた。

 

 

 学校には沢山の生徒が集まっていた。校庭ではサッカー部がいつも通りの活動をしている。そう、いつも通りの風景だ。毎日繰り返したあの色の無い日常。2年生の教室に向かうために階段を登っていく。ゆっくりと、ユっくリと。

 だけど、私を待っていたのは机によって封鎖された3階だった。なんでこんなことになっているのだろう。……上で何かあったのだろうか。立ち入り禁止区域に入るようなことはしないので、とりあえず2階に降りた。先生やら責任者やらが説明しに来てくれると信じて。

 

 

 説明には来なかった。待てど暮らせど誰も来ない。ただ私はずっと窓の外を見つめていた。

 何をするのにも空腹感が邪魔をする。

 

 ――!

 

 そんな突然の大きい音。窓の外から、美味しそうな気配がする。

 

「……」

 

 手を伸ばすが、届かない。音は、光はそこにあるというのに。

 ずっとずっと、私は手を伸ばし続けた。だけどその手が掴むものは何もなく、ただただ無意味な時間が過ぎていく。

 

「……」

 

 なんか、めんどくさくなった。お腹が空いた。もう、立っていられない。

 ふと振り向くと、そこには待ち焦がれた明かりが。ゆらゆらと、そして勢いよく教室を侵食したそれは、私の体を飲み込んでいく。

 

「ァ……ァが……」

 

 あつい、暑い?熱い!

 私はのたうち回った。熱い明かりは私の体を焼き付くしていく。

 

「…ァ…」

 

 ……しばらくして、どうにか熱さは無くなった。だけど私の体は動かない。両手を使って這いずり回るのがやっとだ。

 

「ヒュー、ヒュー」

 

 口から漏れる音。喉も焼けてしまったのだろう。どうして、こんなことに?

 私が一人思い悩んでいると、教室の扉が開いた。

 

「よし、お掃除がんばるよ!」

 

 棒状の何かに布がついている道具を持ったお肉が入ってきた。あんまり大きくないけど、今の私にとっては貴重なご馳走だ。

 その子は鉄と木を組み合わせて出来たものを移動させている。なんで、そんなことをやっているのだろう。

 

「ヒュー、ヒュー」

 

 声はかすれた風となって出ていくだけだ。その子に私の声は届かない。

 

「……」

 

 その子は私を見下ろしていた。何処か遠い瞳。目の前のものを、見ているような見ていないような。

 

「……うん、掃除してるの」

 

 掃除……食事?

 

「当番じゃないけど」

 

 お腹が、空いた。

 

「そそ、部活動みたいな」

 

 お腹が空いたお腹が空いたお腹が空いたお腹が空いたお腹が空いたお腹が空いたお腹が空いたお腹が空いたお腹が空いたお腹が空いたお腹が空いたお腹が空いたお腹が――

 

「……っ」

 

 アと少しデ、届く。

 私ハ必死に手ヲ伸ばシた。

 

「うあぁぁぁぁぁぁーーっ!」

 

 視界が暗くなる。

 

「うぁっ!」

 

 体が動かなくなる。

 

「あぁっ!」

 

 何も――聞こえなくなる。

 

 もう、何も感じない。もう、そこには何もない。

 

 

 

 ――ただただ、お腹が空いた。





番外編でした。お久しぶりです。私です。
『この小説の中では』5巻に出てきた彼女は渚だったりします。原作では違うと思いますけど。そういった意味での独自設定となっております。
さて、今回は3話にて渚が試作品を使わなかった場合のお話でした。圭も、学園生活部も、基本原作通りの道を歩むことになってます。まぁバットエンドなのは渚と圭だけですけどね。学園生活部はぶっちゃけ渚がいなくてもどうにかなる(原作)ので。……後の展開は知りませんけどね。

それでは、今回もお読みいただきありがとうございました!もし次に番外編を書いたときにはほのぼのを書きたいなー……と思っています(書くとは言ってない)。

ではでは。

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