「手ごたえあった。どうやら勝敗が見えてきたな」
背後からボロスの奇襲を喰らい、その場で静かに立ち尽くすサイタマ。
「何故だか、わかるか?」
「知りたいワン♪ すごく知りたいワン♪」
顔が露出した犬の着ぐるみを着て「ハッハッ」と尻尾を振るボーボボ。
「いいだろう。ならば教えてやる…」
気分を良くしたボロスが説明をしようとしたその時、ボーボボは着ぐるみのまま「おアタ――!!」と雄叫びを上げつつ、ボロスの喉元にラリアットを喰らわす。
「御託はいい。さっさと掛かって来い」
「まだ何も言ってないぞ、アイツ」
静観していたサイタマが口を開く。
「でも、ボーボボの言う通りだな。もう終わりなのか? 戦いは?」
どこか落胆した声で問う。その場にいた者は彼の力量の一端を知って臆したのか押し黙る。
「いや、まだだ」
右腕の切り口から肉が盛り上がって見る間に復元。
ボロスは腰を低く落として片手指先を床につけると、放電を放ちながら自身を中心に暗い半円形状のエネルギーの幕を生成。周囲の鉄板一つ一つが捲れ上がって宙に浮かんでは砕け散る。
『 メテオリックバースト 』
昆虫の甲殻のような体から変化。力の塊が人の形を取っているとでも形容すべき姿へと変貌を遂げた。
「くっ、なんて凄まじい力なんだ!!!? 相手の了承を得ない合体は不完全になる危険を伴うが致し方ない!!!!」
ボーボボは二本の鼻毛を伸ばすと白眼を剥いて気を失った状態の首領パッチと天の助に絡ませ、アフロの中へと引き寄せる。
『 鼻毛真拳究極奥義聖鼻毛融合(ボーボボ・フュージョン)!!!! 』
閃光が発し、収まった後には…
「融合完了。俺様の名は『ボボパッチの助』」
肩アーマーのついた黒いコートの青年が立っていた。ただし全体的に線が歪んでおり、幼児が書いた落書きのように雑。
「どう見ても不完全だ――――!!!!」
「力が落ちた分、融合時間は五時間に延びている。決して不完全ではない」
「明らかに不完全だぞ!? それに融合時間、ムダに長くない!?」
「気をつけろ、奴が来るぞ…」
ボロスがボーボボたち目掛けて一直線に駆ける。
迎え撃つべく、ボボパッチの助は鞘から剣を抜くが…腕の関節が一つ増えている。
「腕の形、おかしくなってるぞ!?」
「魔剣エクスカリバー」
彼の持つその剣は線が途切れてる上に、はみ出てる箇所があり…武器としての機能を果たしてるとは到底思えない。
「その剣じゃ、切れないだろ!?」
「俺の本気を見せよう」
サイタマに背中を向けるボボパッチの助、その背中は大きな四角に平仮名で「せなか」と書かれたお粗末な作りになっていた。
「背中はもっとヒデェ!!!!」
「いくぞ!」
止める間もなく剣を片手にボロスへと走る。
「いっちゃった――――!!」
しかし、並みの怪人なら一撃で消し去るであろうボロスの拳をその剣で受け止めた。
「予想外に強い!?」
だがボロスの攻撃はそれで止まらず、拳から放出された力の奔流が扇状に広がって宇宙船を破壊していく。二人もその濁流のような力の流れに呑み込まれてしまう。
その中をボロスは距離を縮めるべく懐へと跳んでいく。接近に気づいたボボパッチの助は下段から掬い上げる一閃で剣を振るうが…ボロスは直前で左に跳んで躱わし、標的をサイタマへと切り替える。
サイタマはこれに対処することできずに膝蹴りを喰らい――――真上に蹴り上げられて、視界から消えた。
遥か上空で岩石と激突して大の字になるサイタマ。見上げるとそこには地球。ボロスの蹴りで月まで飛ばされたのだ。
「無事か、サイタマ!?」
そこへどうやって来たのかボボパッチの助が現れた。宇宙空間にも関わらず普通に喋っている。サイタマは思わず吹き出しそうになった。
「来い! バトルホッパー!」
ボボパッチの助が剣を掲げると、誰も乗っていない緑色のママチャリが砂塵を巻き上げて爆走。二人の前で止まる。
「よし乗れ、さすがのお前でもこの宇宙空間では呼吸できないだろう」
ママチャリに跨がり、その後ろにサイタマが乗る。
サイタマは何でお前は呼吸ができる上に喋れるんだ、と思ったが伝えることが出来ないので黙る。
「時を越えて、空を駆けろ! この星のために! バトルホッパー!」
そう吼えるとペダルを漕いで箒星のような尾を引きながら宇宙の海を進んでいく。
宇宙船に飛来物が垂直に落下して大きく傾く。二人を乗せたママチャリが落ちたのだ。二人は無事だが落下による衝撃でママチャリは無惨にひしゃげている。
その一部始終をボロスが息を切らしながら眺めていた。
「バイバイ、マスター…」
ママチャリのライトが点滅しながらその言葉を紡いで…最後に光が消えて沈黙する。サイタマが「ママチャリが喋ったぞ!?」と驚くが誰も答えない。
ボロスが落下した二人に攻撃を仕掛ける。
始めは揺るかに駆けて、段々と加速。流線となって二人に攻撃の手を一方的に加える。
――がサイタマからの反撃。その一撃でボロスは目を真っ赤にして血を吐き、飛ばされた。
「それでこそ倒しがいが――――!!!?」
体勢を立て直したボロスの目の前には拳を構えたサイタマ。右腕が神速の動きで霞んで見えなくなり、ボロスの体が四方八方に弾ける――――直後、散った体が宙で停止。一ヶ所に集まり肉体を形成、再生する。
「ならば、もう一つの切り札を喰らえ!」
宙に浮かび、口から雷が迸る。
『
傾いた鋼板に立つ二人目掛けて高密度の光の束を吐き出す。
「伝説の首領パッチソード!」
ボボパッチの助がネギを縦に構えて、二つに割れた光が両脇を通り過ぎていく。
だが徐々に欠けていくネギに焦る。その空気を察したか…
「この星もろとも消え去るがいい!!」
さらに大きさを増す光。
「ならこっちも切り札を使うぜ、必殺『マジシリーズ』――――」
『 マ ジ 殴 り 』
光の壁が大きく抉られて――――散った。
雲一つない青空。サイタマのマジ殴りはボロスの魂を込めた一撃を散らし、背後の雲を消失させた。
「俺は…敗れたのか…?」
サイタマの攻撃でボロスは両腕、下半身、体の大部分を失い。その瞳は黒く濁っていて…もはや死者と見紛うほどの有り様。
「予言の通り対等な、いい勝負だった」
「ああ、そうだな」
言葉が途切れて沈黙が流れる。暫くしてボロスは自虐めいた嘲笑を浮かべて途切れ途切れながら…
嘘だな、お前にはまだ余裕があった。
まるで歯が立たなかった。
戦いにすらなっていなかった。
お前は強すぎた。
サイタマ……
ボロスを背に立ち去るサイタマ。その表情は逆行のせいで見えない。
「終わったようだな。サイタマ…」
道中でボボパッチの助と会う。ボロスの攻撃のせいだろう、衣服に損傷が目立つ。
「長年求めた相手。しかし自分は足元にも及ばない…」
「……………………」
「だが忘れるな奴は侵略者であり、A市を壊滅させた極悪人だ。そして俺たちはヒーローだ。サイタマ」
「……わかってるよ」
「俺たちには戦いが終わったことを伝える義務がある。戻るぞ俺たちの帰るべき場所へ…」
崩れてゆく宇宙船の中を歩き出す。
やがて宇宙船は派手な音ともに墜ちた。
地上に落ちてバラバラになった宇宙船を背景にS級たちとA級のアマイマスクの間に険悪な空気が漂っていた。そこへオープンカーのタクシーが疾走。アマイマスクを撥ね飛ばして、さらに轢く。
「おい、今なんか轢かなかったか?」
「気のせいだろ」
タクシーに乗っていたのはサイタマとボーボボ。後部座席には首領パッチと天の助の姿も。
「君たちがいながらこのザマなのかい? ボーボボ君? それと人を轢くな!」
顔面を血で滴らせながらタクシーの下から這い出るアマイマスク。その彼に…
「おのれ! 宇宙人! まだいたか!」
鼻毛をムチのようにしならせてアマイマスクを上空に打ち上げる。
その後、頭部を下にして地面に落下。白目を剥いて気絶する。
「俺は俺よりもモテる男の存在を赦さない…」
鼻毛をくねらせ伸ばした両手を前に突き出して奇妙なポーズを取るボーボボ。
「「ただの私怨!!!?」」
「うるさいのがいなくなったから、勝戦祝いに焼き肉パーティーに行くぞ――!」
アマイマスクをその場に放置。ボーボボを先頭に一行は移動する。
かくして巨大宇宙船襲来事件は幕を閉じた。そして――――
「俺の願いを聞いてくれるとは思わなかったぜ」
街から遠く離れた郊外。サイタマと対峙するのはボーボボ含むハジケリスト三人組。
「最初に言っておくが『ボボパッチの助』でいられる時間は一分だけだ」
飴玉に変身した首領パッチがボーボボの口の中へ、天の助は開いたアフロの中に乗り込む。
ボーボボの体が光輝き、ボーボボの姿がウェーブのかかったロングヘアーの女性に変わっていた。
「誰!!!?」
「大人の女、またの名を横浜の純子」
「横浜!? 純子!?」
人知れぬ場所にて人智の及ばない激しい戦いがあったそうな…
(´・ω・)にゃもし。
原作進んでないからキリのいいところで完結するぜ。
ここまで読んでくれて、ありがとー。