分岐点 こんごうの物語   作:スカルルーキー

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深海棲艦 空母機動部隊に肉薄する第一航空艦隊攻撃隊

深海棲艦にとって魔の時間帯が、始まろうとしていた。


75 マーシャル諸島解放作戦 第二次海戦8

迫りくる日本海軍攻撃隊

海面近く 超低空を無数の航空機が、ヲ級空母艦艦隊を目指し猛進してきた。

 

「外周艦、砲撃開始しました!!」

ヲ級401号艦の艦橋に声が響く

輪形陣の外周を固めるリ級重巡を始め、ホ級などが対空砲撃を開始した。

「低空侵入する雷撃機を近づけるな! 直掩隊はまだ戻らないのか!!」

ヲ級空母艦隊司令の焦った声で指示を出すが、

「ダメです! 通信状態依然不良! 友軍機、敵機に食いつかれています!」

通信室との直通電話を持った士官が答えた。

「くっ、計られたか!」

ヲ級空母艦隊司令は、渋い表情のまま、敵機の飛来方向を睨んだ。

敵は、既に二手に分かれ始め、此方に間もなく肉薄しようとしていた。

リ級を始め各艦の対空砲が、防空戦の為の射撃を開始した。

艦内には、先程から対空戦闘開始のサイレンが鳴り続けている。

 

“ダン!!!”

401号艦の左舷のキャットウォークから5インチ砲の砲撃が始まった。

もう数分で、敵の先陣が外周へ到達する。

「対空砲! 急げ!!」

艦橋に怒号が飛び交う。

「司令! 回避しますか!!」

航海長が聞くとヲ級空母艦隊司令は、

「まだ動くな! いま隊列を乱せば各個に雷撃されるぞ! ギリギリまでまて」

彼らの視線は、低空を真っ直ぐ直進してくる九七艦攻隊へと注がれていた。

ヲ級空母艦隊司令をはじめ、艦橋に詰める幹部達は、日本軍の攻撃に慌て、冷静さを欠いていた。

その本質は、

“敵は此方を発見できていない”という油断から生じていた。

それと同時に、第一次攻撃隊が日本海軍の空母部隊に接敵し、少なからず損傷を与えた事で、

“敵は此方を攻撃する機会を失った”という思い込みがあった。

しかし、実際は、日本海軍側は自衛隊の広域索敵と、きめ細かな情報伝達の恩恵を受け、リアルタイムで深海棲艦側の動きを把握していた。

ヲ級空母艦隊は、前のめりになった所を、第一航空艦隊の攻撃隊に奇襲されたのだ。

艦橋にいる幹部だけでなく、第二次攻撃隊の飛行士や甲板員、そして防空要員達もまさか日本海軍の艦載機の大軍が一挙に押し寄せてくるなど想像していなかった。

完全にヲ級空母艦隊は、後手に回った。

 

防空体制の要としていた、レーダーは敵影を探知した後、原因不明の妨害を受け、まともに機能しない。

本来、レーダーの誘導を受け敵機を迎撃するはずの直掩隊は、闇雲に進み、なんと敵の戦闘機と正面勝負を挑む羽目になった。

最新鋭機を揃えたヲ級401号艦であったが、その練度不足がここで露呈した。

混乱する艦橋で、ヲ級空母艦隊司令は

「この状況は、まずい」

本能的に、危機を感じとっていた。

 

だが混乱するヲ級空母艦隊の中、冷静な艦もいた。

輪形陣の左舷を守るリ級重巡であった。

「慌てるな! 敵は二手に分かれた。敵の狙いはヲ級空母だ! 我が艦は、前方へ展開した敵機を迎撃する、前方低空弾幕形成急げ!」

リ級重巡の艦橋で、艦長は左手前方から急接近する日本海軍攻撃隊を睨んだ。

「もう、目視距離か!」

リ級艦長の声に、

「主砲間に合いません! 副砲と機関砲で対応します!」

砲術長の声にリ級艦長は、

「それでいけ! 即応できる砲で構わん! 砲測照準で各個射撃を開始しろ! 機銃群は前方弾幕形成に備えろ!」

「はっ!」

砲術長は直ぐ返事をし、艦内放送のマイクへ怒鳴っていた。

「旧式装備が恨めしい」

リ級艦長は誰にも聞こえないように呟いた。

 

ミッドウェイの本部では、接収したハワイのパールハーバーの資材と施設を使い、各艦の近代化改修と新造船の建造を急いでいると聞いていた。

自分達の様な遠方の分遣隊は、中々改修の機会が回ってこない。

最新鋭艦にくらべると、レーダーもなく、砲の形式も一世代は古かったが、部隊への貢献度は良かった。

先のパールハーバー侵攻作戦では、先陣を切り湾への侵入を果たし、無血占領への道を開き、接近してきた日本海軍の空母部隊をあと一歩という所まで追尾した。

日本海軍の救援部隊さえこなければ、ハワイ沖で“赤城”を沈めることもできた。

リ級艦長としては、自分の艦の速力と火力不足が恨めしかった。

 

色々と脳裏に浮かぶがリ級艦長は、それらを振り払うが如く、強く声に出した。

「いいか! 日本海軍の攻撃隊を通すな!」

一斉にリ級重巡の艦橋に緊張が走った。

敵機の群れを睨みながら、リ級艦長は、

「ハワイでは逃したが、ここではそうはさせん!」

そう言うと、目を赤く光らせた。

 

「やはり、近づけば厳しくなるか!」

淵田は、周囲を見回し唸った。

ヲ級空母を守る様に配置された駆逐艦や軽巡、そして特に激しい砲火を浴びせてくるリ級重巡が視界に飛び込む。

周囲に炸裂する対空砲弾

段々と、その距離が近づくのが感覚で分かった。

「楽には通してくれんか」

淵田は、小刻みに震える機体の中で、視線を外へと向けた。

激しい砲火を浴びせるリ級重巡の背後に、目標のヲ級空母が見える。

「あの重巡をなんとかせねば」

そう思うが、どうする事もできない。

焦りが脳裏をかすめる。

「あの重巡、何処かで」

淵田は、その船影を見た。

「彼奴は、ハワイ沖で俺達を追跡して来た重巡か! 何処までもシツコイ奴らだ。 だが今はお前達に構っている時間はない」

激しさを増す対空砲火をかいくぐり、接近する九七艦攻隊

 

その九七艦攻隊の前方に不意に、零戦が数機舞い降りてきた。

「あれは、飛龍の零戦隊じゃないか!」

淵田は声に出した。

艦攻隊の前方に零戦が数機陣取った。

先頭を行く零戦が数回主翼を振る。

「露払い役を引き受けてくれるのか!」

 

淵田の声に答える様に、零戦は、一斉に敵艦へ向け機銃掃射を開始した。

敵の重巡や軽巡の甲板上に、零戦の機銃弾が降り注ぐ

行く手を塞ぐリ級重巡の甲板上に機銃弾が吸い込まれ、火花が散った。

零戦隊は、7.7mm機銃、そして20mm機銃を絶え間なくリ級重巡へ浴びせてゆく。

 

零戦隊の機銃掃射によりほんの一瞬、リ級重巡の攻撃に隙ができた。

「今しかない! 前席! 回避せずに突っ込むぞ!!」

「了解です!」

淵田の声に前席の飛行士妖精は、リ級重巡を飛び越える事ができるギリギリを攻めた。

淵田機をはじめとした赤城攻撃隊の九七艦攻隊は、一斉にリ級重巡を飛び越えようと動き出した。

「いけるか!」

淵田は、厳しい表情のままリ級重巡の艦橋前を飛び越えた。

「後はついて来ているか!!!」

機銃員妖精が、リ級重巡へ向け銃撃を加えながら大声で

「はい! あっ!」

「どうした!」

淵田の焦る声に、

「何機か食われました。ここから見えるだけで二機、いえもう一機。被弾してます!」

機銃員妖精の声に、淵田は、ほんの一瞬、後を振りえった。

そこには、リ級重巡を飛び越えようとした数機が黒煙に包まれていた。

「くっ!」

淵田の表情が凍る。

炎に包まれながら1機の九七艦攻が力尽きて、リ級重巡の手前の海面へと飲み込まれる。

“回避するべきだったか?”

淵田の脳裏に一瞬だけその思いがよぎった。

“いや、リ級を飛び越えるしかあのヲ級空母を捉える方法がない。リ級を楯にすれば他の艦やヲ級空母からの攻撃は防げた”

淵田達が、輪形陣の中央に位置するヲ級空母へ最短で到達する為には、どうしてもヲ級の左側に位置するリ級を超えなくてはならなかった。

淵田率いる赤城九七艦攻隊が、リ級へ急接近した事により、周囲を固めていた他の艦は射線が確保できず、攻撃が散発的になっていた。

だが、それはリ級重巡にとっては淵田達が自分の集中砲撃圏内を通る事を意味する。

リ級重巡に近づけば近づくほど、淵田達の損害は雪だるま式に増えていった。

「後続機、なおも被弾!!!」

機銃員妖精の悲痛な声が響く。

「くっ、このままでは」

何とか自分はリ級を飛び越えたものの、後続は厳しい状態を迎えていた。

 

「ゴホ、くっ!!」

黒煙に包まれた赤城艦攻隊6番機の操縦席では、機内に充満する煙にむせ返りながら、必死に飛行士妖精が、操縦桿を握っていた。

“ガン、ゴン、ガン”

機体に先程から絶え間なく、敵の重巡から機銃弾らしき物が無数に当たっていた。

飛行士妖精は、伝声管をつかむと、途切れ途切れの声で、

「ぶ、無事か!」

しかし、中席の航法士妖精は、

「機銃員、・・・へ、返事・・あ、ありません」

返事をした航法士妖精も途切れ途切れの声だった。

“ドッン”

機体が大きく揺れ衝撃が、機内を走った

煙りの充満する操縦席から、ふと右翼を見ると、既に右翼の外板があちらこちらでめくり上がり、そこから大量の燃料と炎が流れていた。

“ここまでか”

飛行士妖精の脳裏にその一言が浮かんだ。

 

飛行士妖精は、次の瞬間、無意識に

「煙で前が見えん! 敵の重巡はどこだ!!」

その声を聴いた中席の航法士妖精は、意を決して

「や、・・・殺りますか!」

途切れ途切れの声で返事をすると、照準器を覗き込んだ。

そこには、重巡リ級の姿がはっきりと捉えられていた。

「進路少し左」

飛行士妖精は、ほんの僅か操縦桿を左へ切った。

航法士妖精の覗く照準器には、リ級の艦首が映った

「進路そのまま、よそ、ごっ・・・よ、ヨーソロー」

 

航法士妖精は、被弾した際、破片を腹部へ食らい大量の出血をしていた。

朦朧とする意識の中で、最後の気力を振り絞り、魚雷の投下レバーを引いた。

 

「てっ!!!」

 

胴体下部から、航空魚雷が切り離され、海面へと突き刺さる。

航法士妖精の最後の言葉

「こ、こ、この距離なら・・・、ぐっ」

その言葉を最後に、航法士妖精は吐血し、意識を失った。

既に、機内にも少しずつ炎が回り込みはじめていた。

飛行士妖精は、炎に包まれる機内で、ぐっと敵リ級重巡を睨み、

 

「魚雷一つじゃ、寂しかろう!」

 

そう叫ぶと、ぐっと操縦桿を押した。

“ガン、ガン”

リ級から激しい20mm機銃の雨が機体を襲う。

 

「うおおおおお!!!」

 

飛行士妖精は、雄叫びをあげながら、リ級を目指した。

飛行士妖精の脳裏に、赤城甲板上でほほ笑む艦娘赤城や、南雲司令達の屈託のない笑顔がよぎった。

操縦席が炎に包まれてもなお、飛行士妖精は、操縦桿を離さない。

彼が最後に見た光景は、迫りくるリ級の艦橋の姿であった。

 

 

 

「敵機 魚雷投下!!!! そのまま突っ込んできます!!!」

リ級の艦橋に見張り員の悲痛な叫び声が飛び込んで来た。

リ級艦長は慌てて、左舷の見張り所へ飛び出した。

そこで見たのは、全身炎に包まれながら、此方へ突っ込んでくる敵の艦攻であった。

「おっ! 落とせ!!! 機銃、何をしている!!」

副長の声が聞こえた。

リ級の左舷に設置されたエリコン20mm機銃群が、猛烈な勢いで対応するが、確実に当たっている筈なのに、敵機はひるむ事なく此方へまっ直ぐ突っ込んできた。

リ級の機銃妖精は必死に、機銃を撃ちまくった。

次々と排莢された空薬莢が、機銃の足元へ落ち、山を作る。

 

リ級の艦橋に居た者たちは、赤く炎に染まりながら此方へ突き進んでくる日本海軍機を見た。

見れば、機体の主翼はあちこちらで外板がめくりあがり、一部はリブが剝き出しになってもなお、こちらへ猛進してくる。

その姿を見たリ級艦長は、全身が震えあがった。

「あれでも、まだ来るか!!」 

その姿は、炎をまとった怪鳥というべきものであった。

 

その姿を呆然と見るリ級艦長

 

赤城艦攻隊6番機は、リ級まであと100mという所で、機体を右へ回転させ、ほぼ背面状態のまま、リ級重巡の操舵艦橋に突入していった。

機体が艦橋にめり込み、爆散したと同時に大量の航空燃料と粉々になった機体がリ級の操舵艦橋を押しつぶし、そこにいたリ級艦長以下の幹部達を灼熱の炎へといざなった。

 

その爆発とほぼ同時に、赤城6番機が投下した航空魚雷がリ級左舷中央に命中

リ級重巡を凄まじい衝撃が襲った。

 

赤城6番機の犠牲により、ヲ級空母群の左舷を守っていたリ級重巡は、その瞬間完全に戦闘力を喪失した。

 

鉄壁を誇る深海棲艦のヲ級空母機動部隊の防空網に穴が生じた。

黒煙と炎に包まれるリ級重巡

その隙をついて、残りの九七艦攻が次々と輪形陣の内側へ侵入してきた。

 

炎上し黒煙を上げるリ級重巡

既に、艦橋は大量の炎に包まれてその姿が見えない。

そのリ級の後方に展開するホ級軽巡も、また別の艦攻隊が押し寄せていた。

友永隊長率いる二航戦飛龍、蒼龍の艦攻隊である。

ホ級軽巡の激しい対空砲火を躱し、ホ級の後方から敵空母群の中心へと侵入してきた。

海面を無数の銃弾が叩き、水柱が立ち昇る中、飛龍友永隊、そして蒼龍隊は果敢に防空網を食い破った。

「後、どれ位ついてきている!!」

友永隊長の声に、後部の機銃妖精は

「友永隊長! 6、いえ8です!」

友永隊長は、少しだけ後方を振り返った。

そこには数機の艦攻が見える。

中には黒煙を曳いている機もあった。

「蒼龍隊は!」

「いま、敵ホ級をすり抜けます!」

機銃妖精の返事が返ってきた。

 

敵空母群の左舷後方に位置するホ級には、40機近い艦攻が一斉に向った。

自分の方に一斉に向ってくる日本海軍の艦攻隊に対して、ホ級は慌てた。

射撃統制が取れないまま、対応し、友永隊を始め、多くの九七艦攻を通過させてしまった。

しかし、それでも数機の九七艦攻が深海棲艦側の対空砲火に掴まり撃墜されていた。

 

友永は、ホ級を躱すと直ぐに機体を一旦右へ捻り、輪形陣の中央。複縦陣で進む後方のヲ級空母の最後尾を捉えた。

「あの最後尾のヲ級を狙う!」

すると、前席の飛行士妖精が

「いまケツ振ったやつですね!」

「おう、この位置からいけるか!」

すると、飛行士妖精は、

「隊長! 目標空母右回頭して此方の射線を躱そうとしてます」

「そうは、させるか! 動くのが早い!」

友永は目標としたヲ級eliteを睨むと、

「逃がすな!!」

飛行士妖精は、回頭を始めたヲ級eliteを捉える為、低空で機体を少し左に捻り込んだ。

もう海面が手に届きそうな高度だ。

“カン、ゴン”

機銃弾らしき曳光弾が機体をかすめて、幾つか火花がちった。

「ここまで来たんだ!」

飛び散る火花に臆する事なく海面ギリギリを猛進する友永機

 

 

「402、右へ回頭しています!」

その報告を聞いた、ヲ級空母艦隊司令は慌てて席を立ち

「馬鹿者! なぜいま回頭する!! 隙を見せてはならん!!」

 

防空輪形陣の中央を、進む4隻のヲ級空母は、2隻ずつ、2列の複縦陣を中央で形成し、防空網を敷いていた。

4隻が密集隊形を中央で組むことで、濃密な防空網を生み出す筈だった。

しかし、左舷側を守るリ級重巡の一隻が撃破され、その隙をついて大量の日本海軍の艦攻隊が輪形陣の中央へと進出してきた。

複縦陣右側後方を航行していた402号艦ヲ級eliteは艦攻隊に周囲を囲まれる前に回避するべきと判断し、右へ回頭を開始してしまった。

回頭を開始したヲ級eliteを回避する為 左舷側に展開していた残りのリ級重巡とホ級軽巡もやや右へ回頭する。

 

「くっ、このままでは敵の侵入を許してしまう!」

完璧な防御態勢であったはずの陣形に隙が生じた。

ヲ級空母艦隊司令の焦りは現実となった。

 

「おっ!」

やや回頭する敵空母の1隻に狙いを定めた友永は、敵の陣形が崩れ始めたのを見逃さない

「やれるか!」

友永は、爆撃照準器を覗きながら、前席の飛行士妖精へ

「進路、少し右へ」

友永の声を聴き 飛行士妖精は操縦桿をほんの僅か右へ傾けたと同時に、右のラダーペダルをほんの僅か踏み込んだ。

「進路、そのまま! ヨーソロー あと300!」

周囲に狙いを定めたヲ級空母からの機銃弾らしき曳光弾が通り過ぎる。

機銃員妖精は、咄嗟に左右を見た。

そこには、6機近い九七艦攻が連なっていた。

尾翼の識別帯を見たが、

「隊長! 蒼龍や加賀隊も混ざっています!」

 

友永機の左右には、友永隊の他 蒼龍隊や加賀隊の機体も並んでいた。

友永は、照準器を覗いたまま、

「仕方ない,あれだけ砲撃が厳しかったからな、突入できただけも儲けだ、あと、200!!」

友永の声が伝声管から響く!

周囲に敵の機銃曳光弾が飛び去ってゆく

“ガン、ガン!”

機体に、幾つも敵の機銃弾が命中する音が響き渡った

 

ポッ!

突然、右後方で火球が上がった

「誰が やられた!」

友永の問に機銃員妖精が、

「隊長! 被弾機は、うちの8番機です!」

手短に答えた。

 

 

対空機銃にやられた1機の97艦攻は、左の主翼から大量の炎を出し、左右にふらつきながらも、友永機の後方を必死に、ついて来た。

“最後の最後まで、諦めない!”

必死な思いで飛龍艦攻隊8番機は友永機の後を追った。

 

「くっ!」

その姿を見た友永の声が漏れる。

ここで不時着すれば、敵の集中攻撃を受ける。

かといってあの損傷では、安全に母艦にもどれるか?

友永の脳裏にその言葉がよぎった。

 

しかし、友永は意識を前方の敵空母へと集中し直した。

 

「投下ようーい!!!」

 

既に、敵ヲ級eliteは、目前だ。

赤く尾を引く機銃弾、黒煙の花が、操縦席の周囲を絶え間なくかすめてゆく

爆撃照準器を覗く友永は、意識を集中した。

 

“今は進路を保て! この距離なら必中だ!!”

 

「てっ!!!!」

 

 

友永の気合の入った声と同時に、ヲ級eliteへ向け、航空魚雷の投下レバーを引いた。

友永機から切り離された航空魚雷は、海面へと突き刺さり、直ぐに滑走を始めた。

友永機の投弾を合図に、周囲の艦攻も次々と魚雷を投下してゆく。

海面を5本の魚雷が敵ヲ級elite402号艦へ突き進んだ。

 

投下と同時に、友永機は敵艦の艦首方向へ直ぐに機首を振った。

他の艦攻も、弾幕の隙をつき、各機離脱してゆく。

しかし、黒煙をひく飛龍8番機はよろめきながらそのまま空母へ真っ直ぐ直進していった。

それを見たみた友永は、

「ばか!! 8番! やめ・・・・」

友永の声がそこで途切れた。

 

飛龍艦攻隊8番機は、ヲ級eliteの左舷対空機銃の猛攻を受け、機体の損傷するのも構わず、炎にまみれながら自らを攻撃してくる対空機銃群が据付られていたヲ級eliteの左舷へ機首からのめり込んだ。

 

突入と同時に、ヲ級eliteの左舷のキャットウォークに8番機の搭載していた航空燃料が散乱し、そして即座に引火した。

火の玉になりながら、8番機の残骸はそのまま甲板上へと跳ね上がった。

そして、甲板上に待機していたF4Fワイルドキャットを操縦士もろとも、押しつぶすと、

甲板上をあっという間に灼熱地獄へと叩き落とした。

慌てる甲板員達。

消火しようとホースを構える消火員

しかし、航空ガソリンの威力は大きく、次々と甲板上にいた艦載機や甲板員を炎に包み込む。

左舷キャットウォークも、そして甲板上も既に地獄絵図と化していた。

全身、炎に包まれ逃げ惑う甲板員達

 

そして、甲板上で、巨大な火球が生まれた。

甲板上に待機していた敵雷撃機の搭載していた航空魚雷が、誘爆したのだ。

誘爆の火球は、艦橋を始めとする艦の上部構造物を飲み込んでいった。

ヲ級elite402号艦はこの段階で既に指揮系統の混乱をきたしていた。

飛龍8番機の起こした火災は、艦橋を巻き込み、そこに居た者達を、灼熱地獄へと叩き落とした。

この時、既に402号艦は操舵不能状態となっていた。

 

右舷側の対空機銃が逃走する友永機を捉えようとした時、最初に投弾した友永機の魚雷が、左舷中央に命中した。

凄まじい衝撃がヲ級402号艦を襲う。

左舷に立ち昇る1本の水柱

衝撃が収まらない内に、次の魚雷がヲ級402号艦の乗員を襲った。

これも、ほぼ艦の中央に巨大水柱を立てていた。

衝撃で、甲板上の最後尾に待機していたドーントレスがずり落ち海面へと落下していく。

乗員達は衝撃に耐える為、身近な物にしがみついたが、立て続けに2回大きな衝撃が402号艦の左舷を襲った。

 

合計4発の魚雷が命中したヲ級402号艦は、左舷喫水線下に開口した4カ所の破孔から大量の海水が機関部、機械室へと流れこみ、左舷へ傾きはじめた。

右舷側の対空機銃は、逃げる友永機を追いかけようとするが、甲板上の火災はあっという間に右舷にも広がり始め、艦全体を黒煙と炎が包みこんでいった。

 

友永機が402号艦を攻撃したのとほぼ同時に淵田達もその前方を行く401号艦に肉薄していた。

 

“ガン、ガン!”

敵の放つ20mm対空機銃と思われる銃撃が、先頭を行く淵田機を襲う

“ガン!”

機体に、衝撃が走った。

淵田は咄嗟に右翼を見た。

「右に食らったか!」

淵田の視線の先 右翼の補助翼(エルロン)の外皮がはがれ落ち、不規則に振動していた。

飛行士妖精が、必死に操縦桿を押さえこんだ。

九七艦攻は、人力操舵である。

操縦桿の動きをワイヤーと滑車を使い、各動翼面へ伝達する。

逆に言えば、各動翼面の振動や荷重は、全て操縦桿へとフィードバックする。

飛行士は、その荷重や振動に耐えなくてはいけない。

「くっ!」

飛行士妖精の表情が引きつった。

多少、機体がふらつくが、奇跡的に、そのまま飛行を続ける。

 

淵田は、目前に迫った敵ヲ級flagshipを睨んだ!

「もうひと踏ん張り!」

自分に言い聞かせた。

 

淵田は、照準器を覗き込みながら、

「進路そのまま! ヨーソロー」

淵田の指示が伝声管を通じて、飛行士妖精の耳元に響いた。

周囲を無数の敵弾が舞う中、飛行士妖精は、必死に機体を水平にした。

「高度! よし!」

投弾可能高度を確認する飛行士妖精

 

「ようーい!」

再び、淵田の声が機内に響く

 

一呼吸、間があいた。

ほんの数秒であったが、淵田や飛行士妖精員にとっては計り知れない時間だ。

不規則に揺れる機体、真っ赤な航跡を曳き、周囲をかすめる敵の機銃弾

淵田の視界に、照準器越しに敵の空母がはっきりと見て取れた。

脳裏に色々な風景が流れる。

しかし、何故か音がない。

無音のまま、ほんの数秒、自分が見た風景が無音のまま流れた。

 

静寂が支配する世界

 

 

「てっ!!!!」

 

その静寂を、破る声が中席から聞こえた。

淵田は、経験をフル稼働させ、これ以上理想的な位置は無いという場所で、航空魚雷を投下した。

 

淵田機の投下を皮切りに、周囲にいた九七艦攻が一斉にヲ級flagshipへ向け投弾してゆく

 

「甲板上をすり抜けます!!」

飛行士妖精の声に、

「了解です! 置き土産です!!」

後席の機銃員は大声で答え身を乗り出して機銃を構えた。

 

ここで、機体を振って敵に腹を見せれば、間違いなく敵の機銃群の的だ!

足で逃げ切る。ギリギリを責めなくては!

投弾した九七艦攻隊は高度を上げることなく、ヲ級flagshipへ真っ直ぐ突き進んだ。

敵左舷から、対空機銃の猛攻を受ける。

淵田の視線に不意に、敵空母艦橋が映った。

その艦橋横の見張り所に複数の影が!!

その影に、

「あれは! ヲ級の艦長!!!」

 

艦娘達は、自分の艦の装備を模した、艤装と呼ばれる物を身に纏う。

深海棲艦でも、同様に、自分の艦の装備や階級を表す艤装に相当する物を持つ事が確認されている。

 

艦橋横の見張り所に、一人だけ他の者と違う気配を淵田は感じとった。

一瞬

“このまま、突っ込んで・・・、確実に屠るか!”

 

その言葉が浮かんだが、不意に赤城艦長の厳しい声が脳裏をよぎった。

 

“戦いはこれからです! 必ず帰還しなさい!”

 

 

「機銃! 艦橋を狙え! 敵の大将だ!!」

淵田の声に機銃員は返事をする間もなく、身をよじり、銃口を敵空母の艦橋へと向けた。

 

「てやぁ!!!!」

掛け声と同時に、後部機銃員は、今まさに真横を通過しよとする敵空母の艦橋へ向け7.7mm機銃弾を全身の気力を込めて撃ち込んだ。

 

“カン、カン、カン”

 

 

ヲ級空母艦隊司令の目の前を通過する日本海軍の艦攻機からの機銃掃射が、艦橋横の見張り所に降り注いだ!

「ごっ・・」

閃光が、見張り所や艦橋内部を蹂躙してゆく。

咄嗟に身を伏せたヲ級空母艦隊司令であったが、見張り所付近にいた水兵妖精達が次々と銃弾に倒れた。

 

「救護!! 衛生兵!!!」

副長の声が背後から聞こえた。

振り向くと、副長が立っていたが、右腕から鮮血が流れていた。

「副長、被弾したのか!」

「はい、司令。しかし大丈夫です、跳弾が当たったようで」

副長は力なく垂れさがる右腕を押さえながら答え、

「司令、御怪我は」

「私は大丈夫だ!」

周囲を包む爆音に負けないように大きな声で答えた。

 

独特のエンジン音を立てながら次々と甲板上を過ぎ去ってゆく日本海軍の艦攻機

それを追う、味方の機銃群

 

色々な轟音が入り乱れるなか、ヲ級空母艦隊司令を凄まじい衝撃と轟音が襲った。

 

“ドッン”

 

重低音の音と同時に、左舷前方に大きな水柱が立ち昇る。

衝撃が、ヲ級空母艦隊司令達を襲った

続けて、

“ドン、ドン”

ヲ級空母艦隊司令を衝撃が襲う。

 

“くっ! 雷撃か!”

衝撃に耐える為、咄嗟に近くにあった手摺を握った

「うわ!!!」

叫び声が聞こえた。

衝撃で、見張り所や甲板上にいた者たちが、転げまわり、数人が甲板の下に落ちたのが見て取れる。

周囲に舞い上がった大量の海水が、一斉に頭上から、まるでスコールの様に降り注ぐ。

 

ヲ級空母艦隊司令は、その状況下でも冷静に、

「被弾個所を把握! ダメコン隊は消火ならび浸水対応!!」

そのヲ級空母艦隊司令の声を、次々と甲板上を飛び抜ける日本海軍の艦攻機がかき消した。

 

「くっ! 忌々しい奴らめ!」

ヲ級空母艦隊司令は、飛び去る日本海軍の艦攻機を睨んだ。

しかし、ヲ級空母艦隊を襲う日本海軍の攻撃はまだ序の口であった。

 

上空で待機していた赤城九九艦爆隊の隊長は、淵田率いる九七艦攻隊の動きを見ながら

「淵田さん! 感謝です! これで敵の動きが止まった!」

艦攻隊の一斉攻撃は、損害を出しつつも、敵の防空陣形を崩していた。

数本の魚雷が、敵空母に次々と命中し、水柱を上げていた。

上空で待機していた九九艦爆隊は、各隊毎に既に攻撃態勢を整え、突入の機会を伺っていた。

四隻の空母は、魚雷を回避する為に各個に回頭し始めていた。

「今が好機か」

赤城九九艦爆隊隊長は、そう言うと配下の部隊に対し、主翼を数回振った

“各隊、突撃始め!!”の合図である。

 

周囲に、自分の指揮する赤城隊の九九艦爆が集まってきた。

先の前衛空母部隊への攻撃で損害が出て今回は10機だけであるが、それでも十分だ。

赤城九九艦爆隊の隊長は、敵陣形の中央先頭を行く、ヲ級空母に視線を向けた。

 

既に、九七艦攻隊の攻撃への対応で、殆ど此方への砲撃は無い

「一気に、いくぞ!」

高度は2000m

 

周囲を薄い雲が、いくつも点在し、此方の姿をかき消していた。

加賀、飛龍そして蒼龍の各艦爆隊も各々目標となる空母へ向け編隊を変針させていた。

赤城隊隊長は、周囲を見回し、後席の機銃員へ

「敵直掩機に気を付けろ! 零戦隊もそう長くは持たん」

「はい。今の所、敵影なし!」

機銃員妖精が周囲を警戒しながら大声で返事をしてきた。

 

次第に、目標の敵空母がはっきりと見えだした。

「そろそろ、くるか?」

その言葉と同時に、機体の周囲に黒煙の花が咲き始めた。

ホ級軽巡、イ級後期駆逐艦からの五インチ砲弾の対空砲撃である。

「低いか! 敵は、上手く射撃統制が出来ていないようだ」

九九艦爆隊の隊長は、前方下方で炸裂する五インチ砲弾らしい黒煙をみて、唸った。

各隊の隊長はトラックを出撃する際に、赤城達より、敵の対空装備に関する情報を聞かされていた。

各隊の隊長達は、皆

「電探に捉えられれば、此方は丸裸では?」という疑問に、赤城は、

「こちらの得た情報では現状の電探では、方位、距離の測定は可能ですが、高度は測定できません。あくまでどの方向から来るのか、どの程度離れているのかが判別できる程度の能力です。電探もまだ万能ではないという事を理解してください」

そう説明しながら、敵の新型のVT信管なるもの説明を聞いた。

敵機の近くで、自動で信管が作動するという代物に驚いたが、これも赤城から

「これも、極秘情報ですが、そのVT信管はまだ完全な完成品ではなく、不良品も数多くあります。もし砲撃を受けた時、周囲で砲弾が炸裂するようなら、新型砲弾を疑いなさい」

 

九九艦爆隊の隊長はその言葉を思い出した。

「すると、あれは旧型の時限信管か。間合いさえ計れば、突破できる」

そう確信した。

 

時折、機体の周囲で炸裂する砲弾もある。

「新型砲弾も混ざっているが、数はないのか?」

赤城艦爆隊の隊長は、大声で

「機銃員! もうすぐ突入する! 準備は」

「隊長! いつでも」

後席の機銃員も、ベルトをしっかりと締めた。

艦爆は、50度、場合によっては60度近い角度をもって急降下する。

乗る者にとっては、ほぼ真逆さまに落ちるようなものである。

飛行士妖精達は、激しい荷重変化に対応しなくてはならない。

 

艦爆隊の隊長は、周囲を見回した。

各機突入へむけ態勢を整えて合図をまっていた。

第一航空艦隊の艦爆隊は、各隊一定の間隔をあけ、ヲ級空母群の中心へと差し掛かった。

 

赤城隊の隊長は、視線を目標に定めた先頭を行くヲ級空母へと向けた

そこには、次々と魚雷を投下し、回避行動へ移る九七艦攻隊が映った。

赤く炎に包まれ背面状態になりながら、海面へと落ちる九七艦攻が目に留まった。

 

「すまん!!」

 

各九七艦攻隊が、敵の注意を低空へと引きつけてくれたおかげで、我々はここまで、殆ど無傷できた。

 

視界の下方に目標が差し掛かった

「よし! 行くぞ! 全機突入!!」

隊長は、気合を込めた声を張り上げると同時、機体を右へ捻り込んだ。

ほぼ背面状態になる九九艦爆

天地が入れ替わり、頭上に、はっきりとヲ級空母を捉える。

操縦桿をゆっくりと引き起こし、降下姿勢を整えた。

ラダーペダルとエルロンを小刻みに動かし、機首方位と敵艦の艦首方位を合わせてゆく。

「よっ、しぃ!」

隊長の体に 引き起こしの際に生じた荷重がのしかかる。

意識を失わないように、下腹に力をいれ、肺の奥から小刻みに息を吐く独特の呼吸法で、意識を保った。

 

直ぐに制動板を開き、降下速度を抑える。

視線を射爆照準器へと注いだ。

そこには、はっきりとヲ級空母の艦首を捉えていた。

 

“ダン、ダン、ダン”

周囲の軽巡や駆逐艦から一段と対空砲撃の弾幕が激しさを増す。

時折、爆風で機体は左右に揺れるが、もう引き返すことはできない。

後続の九九艦爆も次々と投弾進路へと機体を滑らせてきた。

一〇機の九九艦爆が、一斉にヲ級flagship401号艦へ向け急降下姿勢に入っていた。

 

「投下ようーい!!!」

隊の隊長の目には、射爆照準器一杯に広がったヲ級flagshipの甲板が映っていた。

 

「てっ!!!!」

 

気合の入った声と同時に、250kg航空爆弾が切り離された。

 

それを皮切りに、後続機も次々と航空爆弾を投弾する。

 

赤城艦爆隊の隊長は、暴れる機体を慎重に引き起こし始めた。

“ガン、ガン”

機体に衝撃が走る

左主翼に、幾つもの穴が開いた

20mm機銃弾が主翼を貫通したのだ。

しかし、それに構う事なく、隊長は機体を水平にすると、一気にエンジン出力を上げ、

敵空母群から離脱を試みた。

 

周囲の駆逐艦から、20mm機銃の機銃弾が赤い曳光を引きながら幾つも、機体を通り過ぎていく

 

“ドン”

 

背後から、振動が伝わった。

「めっ、命中です!! 敵空母の艦首に命中しました!!」

戦果を確認した機銃員が、大声で、叫んだ

「他は!!!」

 

「はっ、はい! えっ、もう一発! 甲板に命中! 至近弾が複数! 周囲に水柱3本!!」

一呼吸おいて、

「あっ、艦尾にもう一発命中! 3発命中です、火災です! 黒煙が上がってます!」

機銃員は興奮気味に答えた。

 

隊長は、必死の形相で、前方を見た。

輪形陣の外周を固める一隻の駆逐艦が見える。

此方へ向け無数の機銃を撃ち込んできた。

 

「絶対に帰るぞ!!!」

 

隊長は、再び気合を込めて、

「おらぁぁ!!!!」

機首の7.7mm機銃をその駆逐艦めがけて撃ち込んだ。

敵イ級駆逐艦の甲板上に、火花が散った。

 

ほんの一瞬、敵イ級の銃撃の手が緩んだ瞬間、九九艦爆は機体を右に捻りながら高度を取ってゆく。

少し離れると、敵の砲撃はなく、まるで嘘の様に静かな空になった。

 

「敵機警戒! この位置で味方を待つ」

「了解です」

機銃員は直ぐに返事をすると、後部機銃を構え、対空警戒を始めた。

隊長は、敵輪形陣をみた。

そこには、黒煙を上げる4隻のヲ級空母。そして既に左舷に大きく傾き、停止したリ級重巡の姿があった。

「よし!」

隊長は、ぐっと拳を握った。

 

 

怒号と叫び声が木霊するヲ級401号艦の艦内格納庫

「消火急げ!!!」

消火ホースを持った水兵妖精が、必死に炎上するドーントレスに放水するが、搭載されていた燃料に、火が回り、火柱を天井近くまで立ち昇らせた。

その炎は、まるで真紅の龍。

まるで、生き物の様に、天井を這うと、次々と格納庫内に駐機してあった機体をまるで、獲物を食いちぎる龍のごとく呑み込んで行った。

 

余りの炎の勢いに、遂に消火作業を行っていた者達も、退路へと向かうが、その通路にも既に、炎が雪崩込んでいた。

 

「ひっ! 火が回ってきたぞ!」

「退路が!!」

「退避!! 逃げろ!!」

混乱する艦内

黒煙が、通路や換気口を通じて、流れ込んできた。

艦内の通路に充満する有毒ガスを含む黒煙は、次々と401号艦の乗組員を飲み込んでゆく。

見た目は、ただの黒煙であるが、防毒マスクをしていなければ、あっという間に酸欠状態になる。

黒煙に包まれ乗員達は、次々とその場に倒れ、そして迫りくる炎に、焼かれていった。

 

数発の魚雷を艦の左舷に受け、左へ傾きだしたヲ級flagship401号艦

そこに艦爆の強襲を受け、艦首、中央、そして艦尾に被弾した。

艦首に被弾した爆弾は、そのまま前方格納庫内で爆発。

格納庫内で待機中であった艦載機を巻き込み大爆発を起こした。

格納庫内は一瞬で火の海と化した

立て続けに、甲板中央に被弾した

これは中央エレベーターを破壊し、粉々に吹き飛ばし、艦橋に甚大な被害を与えた。

艦橋横の見張り所にいた多くの幹部がこの爆発に飲み込まれた。

 

そして艦尾に着弾した航空爆弾は、甲板上に並んでいた、敵攻撃隊のど真ん中に着弾した。

駐機中のドーントレスの主翼をへし折り、ほぼ甲板上で炸裂した。

周囲に駐機していた発艦予定の艦載機が次々と炎上、爆発し始めた。

甲板上はこの世の地獄と化した。

 

「ごっ・・、副長! 無事か!!」

ヲ級空母艦隊司令は、黒煙に包まれた艦橋の中で、声を張り上げたが、返事はなかった。

視界の効かない中、目を凝らすと複数の影が床にあった。

近寄ると副長や、航海長達であった。

「副長! しっかりしろ!!」

ヲ級空母艦隊司令は副長を抱えたが、既に額から大量の血を流し、こと切れていた。

 

「司令! 御無事ですか!!」

艦橋に、やや枯れた声で叫びながら入ってきたのは、空母群司令部の幹部であった。

「作戦参謀! ここだ!!」

煙に巻かれながらも、ヲ級空母艦隊司令は答えた。

その声を頼りに作戦参謀が駆け寄る。

「司令、お怪我はありませんか」

「参謀、私は無事だ! 他の者達は!」

 

すると、作戦参謀は首を横に振った。

 

「格納庫内で、複数の爆弾が誘爆しております。司令部機能もほぼ停止し艦内に有毒ガスが発生。伝達機能もほぼ失われています」

「ダメコン隊は、何を」

ヲ級空母艦隊司令は、厳しい声で作戦参謀を見たが作戦参謀は、

「艦内の統制が取れません。各部と連絡が取れない状態です。艦内機能をほぼ消失しています」

「くっ! たった数発の魚雷だけで、艦内機能が麻痺するなど」

ヲ級空母艦隊司令は、この時まだ気が付いていなかった。

97艦攻隊は、敵の対空砲火の囮であり、日本軍の艦爆隊が本命で、艦に多大な損害を与えた事を。

 

作戦参謀は、濃くなる黒煙を見て、強く進言した。

「司令、ここは危険です! 退艦のご指示を!」

 

しかし、その問にヲ級空母艦隊司令は、

「ならん! 最後までこの艦を死守せよ」

そして

「この艦は、深海棲艦の空母艦隊の旗艦であると同時に、私の艦だ! 最後ま・・・」

そう言いかかったとき、ヲ級空母艦隊司令の体が、凄まじい衝撃と同時に、浮き上がり、艦橋の天井に叩き付けられた。

 

「なっ!」

 

それがヲ級空母艦隊司令の最後の言葉であった。

 

艦橋横の甲板が大音響と同時に、膨れ上がり、一気に粉々になりながら空中高く舞い上がったと同時に、大量の火柱を立ち昇ぼらせた。

その巨大な爆発の火球は、上部構造物である艦橋を飲み込み、大量の炎が、艦橋や側舷に居た者達を焼き尽くす。

ヲ級401号艦は、完全に航行する能力を失い、惰性で迷走しながら、左舷に傾き、そして瞬く間に横転して行った。

 

 

「空母1隻! 横転しました!!」

機銃員妖精の嬉々とした声が、淵田機の機内に木霊した。

「やったか!」

「はい、隊長! 我が隊が攻撃した艦です!」

「やったぞ!!!」

飛行士妖精も嬉声をあげて拳を突き上げた。

 

淵田は、注意深く、敵空母群をみた。

そこには、既に横転し船底を見せる一隻の空母

左舷に傾き、黒煙を上げる空母

そして、喫水を下げ甲板上や開口部から多量の黒煙を上げる空母

 

その外側では、上部構造物を破壊され、艦首から沈み込み始めたリ級重巡の姿があった

しかし、最後尾にいたヲ級空母は、やや喫水が下がっているものの、未だ甲板は無傷であった。

 

「撃ち漏らしたか?」

淵田は渋い顔をしたが、気を取り直し

「よし、赤城宛に奇襲攻撃成功を打電。“トラ、トラ、トラ”」

「了解です!!!」

機銃妖精は、直ぐに電鍵を叩き始めた。

淵田機は、敵空母群の外周を旋回し、残存機を集めた。

1機、また1機と次々と残存機が集結する。

その上空には、護衛の零戦が周囲を警戒していた。

淵田は上空の零戦をみた。

「ひい、ふう・・・」

編隊を組む分隊の数を数える。

「16機。半数は落ちたか」

小さな声で呟いた。

 

その後、淵田は残存機をまとめ、帰路へとついた。

 

 

その頃、第一航空艦隊旗艦赤城では、火災の消火作業も終了し、負傷者の収容と破損個所の修復へ向けた作業を開始していた。

 

「攻撃隊より入電です!」

息を切らせながら、通信妖精が、赤城艦橋へ飛び込んできた。

通信妖精は草鹿参謀長の前に、来ると短く敬礼し、電文を渡した。

 

そっと電文を開く草鹿参謀長

草鹿参謀長の口元が、緩んだ。

 

「南雲司令。攻撃隊の淵田からです」

「うん」

艦橋にいた全員の表情が、引き締まった

 

「“トラ、トラ、トラ”です。攻撃成功です、戦果ありです」

草鹿参謀長の嬉しそうな声に

「おう、やったか」

今まで、厳しかった南雲の表情も緩んだ。

歓喜の声に包まれる赤城艦橋

 

南雲は、艦娘赤城へ向い

「赤城、飛龍へ合流を急ぐように伝達してくれ」

それを聞いた、草鹿参謀長が、

「司令、やはり第2次攻撃は無しですか?」

「ああ、当初の予定通りにいく、攻撃隊を収容後、当海域を離脱。ポンペイ島にて補給ののちトラックへ帰還する」

若手の参謀が、

「南雲司令、意見具申よろしいでしょうか?」

「うん」

「淵田隊から報告では、“攻撃成功のトラ、トラ、トラのみです。戦果が不明なら残存機を集め、第2攻撃を具申します」

南雲が何か言いかけたが、航空参謀である源田が、

「待て。その残存機をどうする。赤城も加賀も甲板の損傷は予想よりも激しい。二航戦で収容するにしても、本日中の追撃は厳しくなる。近海には敵のル級無印艦隊がいる事を忘れるな」

源田の言葉通り、赤城達の前方百数キロ先には、深海棲艦の第三艦隊ル級無印艦隊が、此方へ向いつつあった。

 

「しかし、このまま引き下がるわけには」

若手参謀は食い下がるろうとしたが、

南雲は、静かに、海図の前に立った。

そこには、自衛隊から通報された敵艦隊の位置が詳細に、書かれていた。

南雲は、作戦海図の前に立つと、若手参謀に向い

「参謀、今回のマ号作戦における我が艦隊の任務はなにかね?」

「はっ、敵空母艦隊に対し陽動行動を行い、敵空母艦隊を誘引し、これを攻撃。当海域における制空権を確保する事であります」

「うん」

南雲は満足そうな顔をすると、

「攻撃隊の淵田には、出撃前から十分、本作戦の目的を理解してもらっている。第2次攻撃については、淵田が戻ったあとから判断しても遅くない。作戦では制空権の確保が第一であって、此方の損害に構わず敵空母艦隊を撃滅せよとは言われておらん」

南雲はそう言うと、海図上の二つの空母の駒、一航戦と二航戦の駒を指で押さえ、静かに動かした。

「予定通りこのまま転進し、ポンペイ島へ向う」

そして、後方にあった青い戦艦の駒を前方へ置いた

「次は、山本長官や三笠様の出番だ」

若手参謀は、南雲の指示に対し

「しかし、それでは聯合艦隊本隊の上空支援に支障がでます。もし敵空母が生き残っていたら・・・」

 

南雲は、それをきくと赤城をみた。

笑顔で静かに頷く赤城

南雲は、駒箱の中を漁ると、一つの青い空母の駒をとり南の海上へ置いた。

その駒には、漢数字の“五”と書かれていた。

 

「えっ!」

 

草鹿をはじめ、居合わせた幹部達は驚いた。

「無線封鎖中だが、そろそろ、このあたりか」

 

「くっ、くっ・・」

 

草鹿参謀長は、笑いを堪えながら、

「こういう意地悪い作戦を考えるのは、やはり変人黒島作戦参謀ですな。第一航空艦隊まるごと囮ですか。長官も相変わらずですな」

「まあ、最近は黒島だけでなく、もっと意地悪な知恵者も加わったようだしな」

「パラオですな」

南雲は、

「さて、敵の空母残存部隊と他の戦艦部隊をおびき寄せる為、赤城と加賀はしばらく大破という事になる」

南雲はそう言うと、草鹿に向い

「聯合艦隊に救援要請の偽電文を打電。赤城、加賀、鳥海が被弾、大破。航行に支障あり、支援求むと」

「はっ」

草鹿は直ぐに動き始めた。

 

南雲は、

「源田、しばらく赤城と加賀は囮になる。帰還した隊は二航戦で収容するように。損傷激しい機は、むりに回収せず着水させ、乗員達の収容を最優先に」

「司令、機体投棄もやむなしですか?」

「構わん。乗員が無事なら機体はなんとかなる」

 

南雲は、再び作戦海図を睨んだ。

「さて、敵の戦艦部隊がどう動くか。我々を追うか、それとも大和と勝負するか。どちらにしても、次の海戦できまるな」

南雲の声に、静かに深くうなずく艦娘赤城

 

 

 

その頃、作戦海域の手前で足踏み状態であった深海棲艦ル級flagship司令は、艦内の作戦司令部内で、錯綜する情報に追い込まれていた。

 

会議室の中央テーブル上には、大判の海図、味方を表す青い駒と、日本海軍を表す赤い駒が、いくつも並べられ、今までの戦闘を記録したメモが押しピンで、貼り付けられていた。

主な戦闘が行われた地点には、×印がつけられ、戦況が鉛筆書きされている。

ル級総司令は、その海図をじっと見た。

 

海図のあちらこちらに、×印が散らばっていた。

 

「うー」

 

ル級艦隊司令は、深く息をした。

“日本海軍の動きが、早すぎる。最初のカ級潜水艦部隊への攻撃から、今までほぼ戦闘に間がない。まるで計算し尽くしているようだ。それに戦闘が行われた範囲が広い。日本軍は、ここまで広域の作戦能力を保有していなかった筈だが”

脳裏に、今までの事を思い浮かべた。

そして、一言

「とりあえず、空母攻撃隊の情報をまずまとめろ、こちらの損害の把握を急げ」

 

ル級flagship第一艦隊司令部は、錯綜する戦局情報に混乱していた。

早朝の前衛空母部隊の全滅の報。

そして、午後に始まった敵主力空母部隊とヲ級空母艦隊の遠距離航空戦の情報が入り乱れ、戦局判断が出来ない状態であった。

ル級総司令は、艦内に設置された司令部で、次々と入電する情報に、目を通していた。

ふと壁面の時計を見ると既に 午後4時を回っていた。

手元には、今までまとめられた情報があった。

居並ぶ幹部へ向い、

「確認するが、前衛空母部隊は、ほぼ全滅で間違いないのか?」

作戦幹部は、渋い表情のまま

「はい。ヲ級2隻、撃沈されました。随行艦も被害他多数です。近海を航行中であった第三艦隊が救援に向かい、残存艦隊を集結。負傷者を収容、残存部隊はクェゼリン環礁へ撤退。第三艦隊は、現在海域にて待機。明朝本艦隊との合流を調整中です」

ル級総司令は、

「合流は第三艦隊、無印の意向か?」

作戦幹部は、

「確認できませんが、空母部隊の壊滅を見て制空権無しでは不利、と悟ったのではないでしょうか」

ル級総司令は、腕を組み

「現在、敵の戦艦部隊の位置は掴めていない。しかし近海にいる事は間違いない。下手をすれば本日中にも接敵の可能性すらある。敵には超弩級の大和に長門。手練れが多い。それに、猛将三笠もいる。此方もル級2隻では分が悪い」

「はっ、敵の大和クラスの情報が殆ど無いため、こちらの火力で何処まで対抗できるか未知数です。此方の駒が多いに越したことはないです」

作戦幹部の険しい表情が、現状の苦しさを物語っていた。

ル級艦隊司令は、

「第二艦隊と協力して、急ぎ第三艦隊と合流、もしくは共同作戦が可能な距離まで接近する。とにかくこのままでは、明日以降、予想される艦隊戦で押し負ける」

「はっ」

作戦幹部は、返事をすると直ぐに司令部内に檄を飛ばした。

「それよりも、今最大の問題は、空母の動向か」

ル級艦隊司令は、別の作戦幹部の顔を見た。

「空母戦の状況の把握は、何処までできた」

ル艦隊司令の問に、電文を抱えた参謀は、

「まず確認できた、敵の損害についてですが」

少し間を置き

「此方の艦爆隊の攻撃により複数の空母に損害を与えた模様です」

「複数とは、なんだ? 敵の損害の程度は?」

「はっ、司令。航空爆弾が複数命中し、甲板は使用不可。機関ならび格納庫に火災あり、速力低下という事です」

参謀は別の電文を取ると

「先程、その空母からの電文を受信しました。平文です。“第一航空艦隊、損害多数、アカギ、カガ、重巡チョウカイ、航行に支障あり。後方へ撤退する”との内容です。また別の電文では “第二航空艦隊、ヒリュウ、ソウリュウ敵攻撃をうける。甲板に被弾、後方へ退避する”という内容の電文を日本の聯合艦隊宛てに打電しております」

ル級艦隊司令は、

「その電文の戦果確認はとれたのか?」

「いえ、確定できる情報はありませんが、此方の攻撃隊が発信した戦果情報によると、敵空母は二手に分かれていたようで、我が部隊は各々を攻撃し、それぞれに航空爆弾を命中させているので、ほぼ4隻に被害を与えたと推測されます。また攻撃隊も、各敵空母部隊の旗艦であるアカギ、ヒリュウを攻撃したと打電してきています」

「うー」

その報告を聞いたル級艦隊司令は腕を組んだまま、暫し考えた。

 

この時 深海棲艦の受信した攻撃隊の電文は、実は南雲達の発した偽装電文であった。

日本海軍の零戦部隊により分断され、混戦状態となった深海棲艦の攻撃隊は、第一航戦の赤城、加賀を、飛龍、蒼龍と誤認した部隊もあり、本来一航戦のみを攻撃したにもかかわらず、二航戦も攻撃したと発信した者が少なからずいた。

その誤報に拍車をかけたのが、南雲達の発信した偽の被害電文であった。

山口司令も、打ち合わせ通り被弾したと偽情報を打電していたのであった。

単純な偽電文であるので、普段なら引っかかる筈もない深海棲艦側であったが、今回は違った。

原因は深海棲艦側の心理的な圧迫であった。

マーシャル方面分遣隊では、ここに至るまで、まるで戦果らしい戦果がない。

パラオの軽空母に被害を出したとか、金剛級に損害を与えたなどという未確認情報ばかりで、司令部としては確実な戦果に飢えていた。

そこに、“敵空母に打撃を与えた”という友軍機からの電文を受信し、司令部は沸き返ったが、肝心の電文の精査はできていなかった。

 

“攻撃したのは、2隻か、それとも4隻か?”

 

ル級艦隊司令は悩んだ。

悩むル級艦隊司令の表情を読み取った作戦幹部は、

「司令。敵の第二航空戦隊も、被弾撤退とトラックへ打電しています。敵空母4隻に作戦続行が不可能なほど損害を与えたと判断してよろしいと思います」

ル級艦隊司令は、その言葉に疑いをもった。

 

「確証はあるのか!」

 

「うっ!」

ル級艦隊司令の鋭い問に、作戦幹部は返事が出来なかった。

それもその筈である。

今までの情報は、全て味方、そして敵の電文情報を都合よく解釈したものである。

 

焦る作戦幹部に

「ヲ級空母艦隊司令とは、連絡が取れんのか」

「はい。401号艦を呼び出しておりますが、ほぼ空母機動部隊の司令部機能を消失したものと推測します。現在空母機動部隊は、403号艦を中心に救助および再編を行っており、その他の空母については、ほぼ絶望的かと」

作戦幹部の声は小さかった。

 

「事実上、制空権は消失したか」

ル級艦隊司令は、静かに声にだしたが、作戦幹部は

「司令。こちらにはまだ403号艦が残っております。残存機を再編成すれば、十分制空権を確保できます。敵の空母は4隻とも、損傷しています。こちらはまだ一隻あります。それに、あと数日持ち堪えればタロア島の滑走路も復旧でき、増援が期待できます」

 

しかし、ル級艦隊司令は、渋い表情で、

「希望的な観測だな。例え敵の主力空母群が撤退したとしても、我々を散々悩ませたパラオの空母部隊の動向は不明のまま、例の超大型の空母も所在がつかめていない。希望的観測はできんな」

ル級艦隊司令の指摘は厳しかった。

ここに来て、所在のつかめない謎の超大型空母と新型重巡の存在が、彼らの判断を狂わせはじめていた。

 

ル級艦隊司令は、

「まずヲ級空母艦隊へは、残存艦と負傷者の救助を優先させろ。駆逐艦数隻を救護艦に割り当て、負傷者の収容後はクェゼリン環礁へ移送しろ。その他の戦闘可能な艦は、本艦隊への合流を急がせろ」

「空母艦隊司令との連絡が取れませんが」

作戦幹部の問に

「残存艦の最高位は403号艦か?」

「はい」

「では、403号艦を臨時の指揮官に指名。401号艦のヲ級空母艦隊司令の捜索、ならび救助を」

作戦幹部は、少し暗い表情で、

「絶望的な場合は」

「403号艦艦長に、艦隊司令を下命する。速やかに艦隊を再編成し、明日以降、敵主力部隊との会敵が予想ざれる。制空権確保を行うように」

「はっ」

 

ル級艦隊司令は、舷窓から、差し込む陽の光を浴びた。

確実に陽は傾き、夜のとばりが刻々と近づきつつあった。

 

差し込む陽の光を浴びながらル級艦隊司令は、小さな声で

「夜か」

 

そっと呟いた。

 

その夜、戦史に残る過酷な夜戦が彼らの仲間を襲う事になる。

 

 





皆様 こんにちはスカルルーキーです
分岐点 第75話を投稿いたします

いや、なんだとしている内に もう10月も終わりです(-_-;)
次回の投稿分 なかなか進まないです。

ちょっと焦ってますが、ここは落ち着いて、考えをまとめています。
では、次回投稿まで 


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