分岐点 こんごうの物語   作:スカルルーキー

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73 マーシャル諸島解放作戦 第二次海戦6

「鳥海! 被弾!!!」

 

赤城艦橋に悲痛な叫びが響いた

南雲や赤城は、咄嗟に鈍い衝撃音のする左舷方向を見た。

そこには、大きな水柱にのまれた重巡鳥海の姿があった。

 

「鳥海さん!!!」

赤城の叫び声が室内に響く

 

南雲をはじめ赤城や草鹿参謀長たちがその水柱を睨んだ。

上空に舞い上がった大量の海水の中から、重巡鳥海の艦影が浮かびあがる

南雲は

「水柱は何本だ!!!」

「はっ、司令。一本だけです!!」

艦橋見張り員が直ぐに答えた

「赤城! 鳥海は!」

「返事がありません!!」

概念伝達を使い、鳥海を呼び出す赤城の切羽詰まった悲痛な声が返ってきた。

「いかん! 呼び続けろ。ここで意識をもって行かれたら艦がもたんぞ!!」

「はい、南雲司令!」

赤城は鳥海の意識を呼び戻す事に専念した。

「副長、俺が指揮を執る!」

南雲は長官席から立ちあがると

「右舷対空機銃は、そのまま侵入する敵機を迎撃、左舷対空機銃は上空を警戒!」

「はっ!」

南雲は続けて

「信号手! 各艦へ通達。敵雷撃後は回頭。各個に回避行動を行う」

「はい!」

信号手妖精は直ぐに外へ伝達した。

「鳥海! 速力低下! 脱落します!!」

左舷見張り員の報告が艦橋に入った

状況は、少しずつ悪くなっていた。

 

 

「鳥海!  魚雷命中!」

重巡摩耶の艦橋にも鳥海に命中した魚雷の重い爆音が響いた

「なっ!!!」

艦娘摩耶は、慌てて艦長席から立ちあがり左舷方向を見た。

そこには、大きな水柱に包まれた、姉妹艦の姿があった。

 

「鳥海!!! 返事をしろ! おい、返事をしろ! こら!!」

摩耶は咄嗟に、鳥海を呼んだが返事がない。

一瞬で、頭に血が昇る。

 

「このクソ野郎!!!」

摩耶はぐっと右手の拳を握ると、右舷方向から新たに接近する敵雷撃機を睨み

「機銃員妖精!! あの深海魚のハエどもを生かして返すな!! 各銃座全力射撃! 銃身焼き切れるまで撃ちまくれ!!」

「おう!!」

激しさを増す摩耶の対空射撃

戦場は混乱を増していた。

 

「敵機 雷撃進路に入っています!!」

防空駆逐艦 照月の艦橋で、双眼鏡を覗く見張り員が叫んだ

「主砲! 諸元間に合わないなら砲測照準でいいから打ち続けて!!!」

右舷方向に回り込もうとした敵雷撃機5機に向け、4基8門の長10cm砲は絶え間なく、敵機へ向け砲撃を続けていた。

それだけでなく、25mm連装機銃も盛んに弾幕形成を行っていた。

敵機の動きから照月は、

「狙いは赤城さんです! 本艦と摩耶さんの間を必ず抜けてきます!!! そこを狙い撃ちしなさい!!」

「右舷弾幕形成急げ!!!」

照月砲術長がメガホン片手に檄を飛ばした。

右前方の上空から右急降下旋回をしながら、敵の雷撃機5機が急速旋回してくる。

その前方に、照月、摩耶、潮 そして赤城、加賀から激しい対空射撃が展開されていた。

敵機前面を真っ黒に染めて敵の行く手を阻んでいた。

そこら中から機銃の赤く尾を引く曳光弾が空中を突き進んでいた

 

その中をもがきながら進む敵雷撃機TBD デヴァステイター

艦橋内部までたちこめる硝煙の匂い

そして長10cm高角砲の発射音

 

「お願い! 一機でいいの、だから」

照月思わず声に出した。

新造間もない照月、初月にとって今回の海戦は、初陣であった。

トラックで再会した秋月姉からは

“とにかく二人とも生きて帰る事!”と何度も言われた。

それだけ今回の戦いは、熾烈になる

その証拠に、既に鳥海さんが被弾し、戦列から離れつつあった。

焦る気持ちと裏腹に、戦果が欲しいという気持ちもある。

「一機でも撃墜できれば・・・」

そう声に出した瞬間、隊列を組む敵編隊の真ん中で黒煙が上がり、火の玉が起こった

火の玉となった敵機は、錐揉みしながら急降下しそのまま海面へと突き刺さった。

「やった!!」

声を上げる照月

「もしかして、照月の砲撃?」

そう砲術長に聞くと、砲術長は、

「この砲撃の雨の中、識別なんてむりですよ!!」

そういうと、

「艦長! 残りは4機です! もう2千を切ってます!」

残り4機は、既に雷撃可能高度まで降下し、赤城へ向けまっしぐらに突き進んでいた。

照月の目でもはっきりと敵機が識別できる

「来る!!!」

声を上げた時、敵編隊の最後尾の一機が急に脱落し、あらぬ方向へと機首を向けた。

「えっ?」

脱落した敵機は急に機首を下げ、そのまま墜落してゆく

「残りは3機!!」

照月の声が艦橋に響く

 

 

「野郎ども!!あと3機だ!!」

摩耶の艦橋でも艦娘摩耶の叱咤の声が響き渡った。

 

摩耶はチラッと左舷方向を見た

本来なら鳥海が見えるはずだが、そこに重巡鳥海の姿は無かった。

「見張り員! 鳥海は!!」

「はい、速力低下! 現在艦隊最後尾まで遅れています!!!」

「くっ!!」

 

先程から時折 呼びかけていたが返事がない。

こちらの対空射撃に集中する為に、ぐっとこらえた

「とにかく、ここを切り抜ける!」

摩耶の声に、副長が

「敵機、魚雷投弾進路にはいりました!!!」

そこには高度を20m前後にまで落とし、赤城前方へ向けまっしぐらに進む敵雷撃機の姿があった。

「くそ! しぶとい! 当たってる筈なのに!!」

摩耶の必死な声が出た

右舷前方からややふらつきながらも敵雷撃機TBD3機は果敢に接近を試みていた。

 

「来ます!!!」

摩耶副長の声が艦橋に轟く

その声と同時に、3機のTBDデヴァステイターは、次々と魚雷を海面へ投下してゆく

投下と同時に、次々と右急旋回をして逃走を図る敵雷撃機

3本の魚雷は、照月と摩耶の間をすり抜けて 赤城へ向う進路を取った。

「赤城!!」

摩耶の焦った声が響き渡った

 

「来たな!」

右舷前方で魚雷投下態勢に入った敵雷撃機を睨み南雲はぐっと拳を握った。

「操舵手! 合図と同時に取舵! 魚雷と反航進路をとる!」

南雲はしっかりとした声で命じると、赤城へ

「赤城 概念伝達を使い、各艦へ指示 本艦回頭開始と同時に右へ各個に回頭。鳥海の様子は!」

「はい、先程意識を取り戻したようです。弱いですが返事がありました」

「よし! 鳥海はそのまま殿へつけ、朧に掩護させろ!」

「はい」

赤城は南雲の指示を聞き、直ぐに各艦へ概念伝達を使い、指示を出した。

照月、摩耶から激しい対空射撃が続くなか、高度を落とし接近するTBD3機

南雲が視線を敵機に戻した瞬間、敵機が次々と魚雷を投下した。

 

南雲は、投下した敵機の機首方向、現在の各艦の位置、そして敵魚雷の走行方法を予測し、

「取舵!! 15! 回頭急げ!!」

「取舵! いそ~げ~!!」

操舵手妖精が復唱しながら、操舵輪を回した。

赤城の艦首が、急速に右回頭してゆく

その動きに合せ、後方の加賀を始め 各艦回頭を始めた

ストップウォッチを持った航海長が

「通過まで40秒!!」

 

南雲は静かに

「うん、これなら躱せる」

自信に満ちた声で答えた。

 

南雲の予想通り魚雷は、照月、摩耶の間を抜け、赤城へと差し掛かった。

「報告!! 右舷、雷跡フタ! 通過を確認!!!」

「同じく左舷 ヒト通過しました!!」

左右の舷側の見張り員妖精が海面に目を凝らし、雷跡を発見した時は、既に魚雷は赤城をすり抜けていった

「おおお!!」

艦橋に一航戦の幹部達の安堵の声が流れた。

艦娘赤城は一瞬だけ南雲をみると、ニコッと笑顔を振りまく

静かに頷く南雲

 

普段、その風貌から頼りない“爺”ような印象を受ける南雲ではあるが、現場畑を渡り歩いた軍人である。

戦史に残らぬような深海棲艦との戦いを幾度となくこなしてきた漢でもある。

 

南雲は窓から遠ざかる敵雷撃機を見ながら

「次はどう来る」

上空にうごめく敵戦闘機と艦爆隊へと視線を移した

 

「陣形崩れんか」

時折周囲に高角砲と思われる対空砲弾が炸裂するなか、上空でTBD隊の攻撃を見守っていた深海棲艦ヲ級elite402号艦ドーントレスの隊長は、渋い声で唸った

TBD隊の雷撃により日本空母艦隊の陣形が崩れ、対空射撃に隙ができた瞬間を狙い、敵空母上空へ一気に侵入し急降下爆撃を敢行しようとしたが、雷撃を受けた重巡が一隻脱落しただけで、未だに陣形そのものは強固なままであった。

重巡や軽巡(照月、初月)からは、高角砲と思われる砲撃が絶え間なく続き、安易に接近できない状況が続いていた。

敵空母から20km圏内を周回飛行しながら、様子を伺っていた。

「やはり、無理矢理にでも接近するしかないか」

そう言うと周囲を見回した。

そこには ドーントレスが12機、F4Fが8機前後飛んでいた。

「うちが6機に他の艦のが、6機か」

敵の戦闘機隊の追撃を躱し、なんとかここまでたどり着いたが、殆どの隊が指揮官機を撃墜され、組織的な攻撃ができない状態であった。

それでも敵を前にしてなんとか再集結できたのが、今いる20機である。

「ジークは見当たらないのか!!」

後席で機関銃を構える機銃員に声をかけると

「はい、隊長! 周囲に敵の機影はありません」

「ううう」

唸るドーントレス隊の隊長

「これは、何かの罠か?」

 

彼がそう思うのも無理はない

本来なら直掩機が20機程度待ち構えていたはずだが、それがいない

その代わり艦艇の対空砲撃は、普段より激しい

今までと勝手が違う日本軍の動きに戸惑いをみせながらもドーントレス隊の隊長は、思考を切り替え、空母を見た

「おかしい、2隻しかいない」

「どうしました、隊長!」

後席の機銃員が声を掛けてきた

「空母が2隻しかみえん! 出撃前の話だと4隻だったはずだが、そこから他の艦が見えるか?」

機銃員は周囲をみまわしたが、

「ここからは、他の艦隊はみえません」

その頃 山口率いる二航戦は30km以上離れた位置に陣取っていた。

「ん?」

ドーントレス隊の隊長は、ふと

“俺達は目標とは別の艦隊を攻撃しているのか?”

そんな不安が寄った

“いや、発艦前に確認した哨戒機からの位置情報を元に算出してきた。哨戒機の発見した空母部隊で間違いない”

姿の見えない2隻が気にはなるが、今は目の前の敵空母に集中しよう。

隊長は咽喉マイクを操作すると、

「402ドーントレス隊の隊長より各機へ、これより敵艦隊へ向け艦爆隊の攻撃を開始する。402隊は俺と前方の敵空母、その他の隊は後方の空母を攻撃。戦闘機隊は各個に周辺艦艇への牽制の機銃掃射を行え!」

一斉に各機が主翼を振って“了解”と合図してきた。

「各機散開! 攻撃態勢!」

ドーントレス隊の隊長の合図と同時に各機は、編隊を再編成した。

エンジンの回転を上げ、一旦上昇するドーントレス隊

眼下に見える敵空母を睨み

「3発もあれば、撃沈できるか」

隊長は、赤城へと機首を向けた。

 

去りゆく敵雷撃機と入れ替えに上空で待機していた敵艦爆隊が動き出した。

「敵機に動きアリ!!」

赤城艦橋の見張り員妖精の報告と同時に南雲達は一斉に上空を見上げた。

その視線の先には、先程まで高角砲の射程外でウロウロしていた敵艦爆隊が編隊を組み直して、複数の集団を形成し、接近しようと試みはじめていた。

赤城を始め各艦の高角砲や副砲が、対空砲撃を再開した。

双眼鏡で、接近する敵機を見る赤城

「接近するのはドーントレスとワイルドキャットです。例の新型機はいません」

赤城の報告に、草鹿参謀長が

「直掩を前方に配置しすぎました」

しかし、南雲は

「仕方あるまい、今回は極力遠方で敵編隊を分断する事が主目的だ。艦隊防空に専念する為にも、射程内をウロウロされては困る」

そう言うと、一言

「まあ、その辺りも、生きて帰ったら反省するか」

 

南雲は、間を開け

「敵機は必ずこの赤城と加賀を狙ってくる。直上侵入するまで間を計れ! 投弾態勢に入ったら各艦 各個に回避せよ!」

「はっ、指示します!」

信号妖精が直ぐに伝令に走った

「敵艦爆隊、二手に分離! 上昇します! 戦闘機らしき機影、そのまま本艦隊へ接近!」

見張り妖精は双眼鏡を覗いたまま大声で報告した

「さあ、赤城。腕の見せ所だぞ」

「はい、南雲司令! 既に、準備は出来ています」

赤城はしっかりと返事をした。

 

南雲、そして赤城は自衛隊からの情報により、彼方の世界でのミッドウェイ作戦を研究していた。

特に、空母被弾時の対応については幾度となく幹部達を交え議論した。

赤城、加賀共に元は戦艦から空母へと改装された経緯があり、船体自体は、蒼龍達に比べ強固である。

しかし、建造途中で空母へ改装されたという事は、その分ダメージコントロールという観点からみれば、非常に貧弱であるという事であった。

混乱したミッドウェイ作戦

繰り返される換装指示

艦内に放置された大量の陸用爆弾

帰還した攻撃隊、その多くが損傷していた。

本来なら爆弾2発程度で、機能停止するはずのない赤城が、たった2発の爆弾でその機能を失ったのは、被弾した事により、大量の可燃物が誘爆し、艦内で大規模火災が発生

内部から焼かれ、機能停止に追い込まれたという事であった。

南雲にとってこれは、予想していなかったといえる事態であった。

今回の作戦にあたり、南雲は

「赤城、加賀を被害担当艦とする」と同時に、被弾に対して万全を期していた。

その一つが、中を空っぽにしておく事であった

自衛隊のレーダー情報を元に敵機の侵入を予測、そこにありったけの戦闘機をぶつけ防空圏を確立すると同時に、予め被弾に備え対処しておく

今回の作戦の課題の一つでもあった

 

赤城は、艦橋で

「今度は、誘爆如きで沈みはしません!」

静かに呟いた。

 

赤城左舷を航行する駆逐艦漣の甲板上でも、接近を試みる敵編隊へ向け12.7cm連装砲の砲撃が続いていた。

「徹底的にやっちまうのねっ!」

威勢のいい声が漣艦橋に響く

「敵機の接近を許さないで!!」

艦娘漣の指示が飛ぶ

「こういう時に、対空兵装の少なさは致命傷なのね」

漣の心の声がぽつりと出た

なんせ1930年代の竣工の駆逐艦である。

対空装備といえば13mm機銃が2丁だけというお粗末な状態である。

漣は

「ご主人様(南雲司令)に言って、次の改修はせめて25mm機銃が欲しいわ」

そう言いながら、横に立つ副長へ

「敵の艦爆隊が来たら各個に回避します! 準備は!」

直ぐに副長が

「何時でも、見張り員妖精も増強してます!」

「爆弾、躱してみせるのね」

ぐっと上空を睨む漣

再び緊張が走る一航戦

 

「奴ら来るぞ! 赤城に近づけるな!!!」

摩耶の艦橋で艦娘摩耶の叱咤が飛ぶ

25mm連装機銃が一斉に上空に侵入しようするドーントレスを追った。

「右舷前方 低空! 敵戦闘機!!!」

見張り妖精の報告が艦橋に届いた。

直上侵入しようとするドーントレス隊に合わせて、ワイルドキャット数機が低空へ舞い降りて、急接近してきた。

「機銃掃射くるぞ!!!!」

対空士官妖精が、メガホン片手に大語で叫んだ

迎撃目標を指示する連装機銃班の分隊士妖精は一瞬焦った

“どっちを狙う!!”

“我が隊はまだ照準が低い、なら・・・”

「目標 敵戦闘機!! 仰角15 方位右20!!」

「分隊士! 戦闘機狙いですか!!」

25mm連装機銃の旋回手妖精が問いただした

「他の隊が、ドーントレスを追っている! なら俺達はあの猫を落とす!!」

「了解です!!」

班員達が一斉に動き、照準を摩耶へ接近しようとするワイルドキャットへ向けた

「撃ち方始め!!!」

分隊士は、ワイルドキャットへ向け大きく指揮棒を振りかざした!

「落ちやがれ!!!」

「うおおおおお!!!!」

 

此方へ向け突進してくるワイルドキャットから機銃が放たれた

“ガン、ガン、ガン・・・”

重巡摩耶の銃座付近に多数の敵機銃弾が降り注ぎ、火花を散らした

“うわっ!”

25mm機銃の弾倉を抱えた水兵妖精が一人、鮮血を流しながら倒れた

「大丈夫か!!!」

近くにいた別の水兵妖精がおもむろに倒れた水兵妖精を引っ張りながら物陰へと逃げ込む

「うっ、肩に何かが当たった!!」

肩から大量の血を流していた。

「しっかりしろ!! いま救護室へ連れてゆくぞ!!」

肩車されて運ばれてゆく水兵妖精

その横では、25mm連装機銃が、逃げゆくワイルドキャットを追いかけて、射撃が続いていた。

甲板に転がった血塗れの弾倉を拾い、必死の形相で弾薬補充する機銃妖精達

 

その前方を腹を見せながら旋回する2機のワイルドキャット

「いまだ!!! 撃ち込め!!!!」

機銃班長妖精の叱咤が飛ぶ

赤い銃弾の閃光が、ワイルドキャットを捉えた

 

ポッ!!

 

2機のワイルドキャットの内、先頭を飛んでいたワイルドキャットの主翼から火が出た

黒煙を引きながら逃げるワイルドキャット

「やった!!!」

歓喜に湧く銃座

「気を抜くな!! 射撃を続けろ!!!」

班長妖精の指示が飛んだ

再び25mm連装機銃は旋回し、銃身を新しい標的に向けようとしていた。

 

「敵艦爆隊! 直上侵入してきます!!!」

赤城艦橋に見張り員妖精の怒号が飛んだ

南雲達は、艦橋から上空を見上げた。

そこには12機近い敵艦爆 ドーントレスが二手に分かれて、艦隊の直上へと侵入してきていた。

照月を始め各艦の主砲が、上空に差し掛かろうとするドーントレス隊へ向け盛んに砲撃を繰り返し、上空は真っ黒な黒煙が周囲を覆い尽くそうとしている。

「来るぞ!!」

南雲達は、構えた

先頭を行くドーントレスが、機首を急速に下げ真っ直ぐ此方へ向ってきた

「回避!取舵! いっぱい!! 両舷前進強速!!!!」

赤城の指示と同時に、操舵手妖精は

「とぉぉりかぁじ」復唱しながら舵を切った。

急速左回頭する空母赤城

対空機銃が激しく迎撃するが、中々捉える事ができない

「来ます!!!」

見張り員妖精の悲痛な声が響いた

 

敵ドーントレスが直上から真っ逆さまに急降下してきた。

最初の1機目が、500lbs爆弾を投下して来た。

赤城達の目にはっきりと投下された爆弾が見てとれた。

「大丈夫!! 右に逸れます!」

赤城は直感した。

 

赤城の直感通りに、最初の一発目は右舷から150mほど離れた所に着弾し、派手な水柱上げた。

だが安心する間もなく次の機体が急降下に入る。

“切り返す?”

一瞬赤城の脳裏に、取舵に切り返す事が浮かんだが、それを自らかき消した

“ダメ! ここで切り替えしては速力が落ちる! 余計に狙われる、ここは全力で回り切らないと!!”

最大速力で、最小の旋回半径を描きながら回頭する赤城、そしてその後方では加賀が、逆方向に回頭し敵の爆撃を躱そうとしていた。

「次!! 投弾!!」

赤城や南雲の視線が、上空へ向く

「外れます!!」

赤城は、航跡をみて直ぐに判断した

今度は左舷100m程の距離に着弾し、大きな水柱が立ち昇る

水飛沫が飛行甲板を洗った

頭から海水を浴びなら、左右両舷の対空機銃員達は、賢明に接近するドーントレスへ向け射撃を繰り返していたが、空母赤城自身が急速回頭をしていた為、敵機を捉える事が出来ないでいた。

「残り4機!」

厳しい表情の赤城は、再び上空を見上げた。

そこには、4機のドーントレスが続けざまに降下を開始していた

「最初の2機は、様子見です!!」

最初の2機は、赤城の回避方向を見定める為にわざと間隔を開けて投弾してきたが、ほぼ赤城の回頭方向が決まった今、敵にとっては赤城の未来位置を把握する事は難しくない

「来る!」

そう直感した赤城

4機のドーントレスが続けざまに急降下爆撃の姿勢に入ろうとした。

突如、その4機の周囲に黒煙の花が咲いた

「照月!!」

見れば、前方を同じ様に取舵回頭する照月の後部主砲が盛んに砲弾を打ち上げていた。

加賀の上空にも、初月の長10cm砲の砲弾が炸裂し、敵機の侵入を防ぐ

ドーントレスの1機がその照月の砲弾が直撃し、爆散した

炎をまき散らして砕け散るドーントレスを後目に、残りの3機は、まっしぐらに赤城へ突っ込んできた。

被弾した鳥海、そして潮から機銃の応戦が続く

 

だが、3機のドーントレスはそれに臆する事なく、機首を下げると、真っ直ぐ赤城へと向け、エアーブレーキを展開

そして、次の瞬間 3機はほぼ同時に500ポンド爆弾を投下した。

 

「来ます!! 衝撃に備えて!!」

赤城の悲痛な声が艦橋に響いた

 

その瞬間、一瞬 時間の流れが一瞬止まった様に思えた

 

ほぼ同時に投弾された3発の爆弾の内最初の一発は、赤城の左舷直ぐ脇の海面へと着弾し、艦橋を超える高さの水柱を立ち昇らせた。

衝撃で大きく揺れる赤城艦橋

巻き上げられた大量の海水が水飛沫となり艦橋の中まで押し寄せる。

それと同時に、二発目はそれよりやや外側に着弾し、再び水飛沫を立ち昇らせた。

全員姿勢を低くするなか、じっと立つ南雲、そして赤城

2発目の水柱が収まらない内に、空母赤城の船体を轟音が包んだ。

最後の3発目は、赤城艦尾へ命中

甲板を吹き飛ばし、後部格納庫へ直撃した。

 

“どっんー”

まるで地鳴りの様な振動と、轟音が赤城を包む

同時に、後部飛行甲板に開いた穴から大量の黒煙が舞い上がり、船体後部の開口部から大量の黒煙が盛列な勢いで吹き抜けた。

船体を揺るがす振動で、艦橋付近にいた幹部達は一瞬、足をすくわれその場に倒れた。

「後部格納庫に被弾!!!」

見張り員妖精の悲痛な叫び声が艦橋に響き渡った。

 

「くっ!!」

赤城が、被弾の痛みで、表情が歪んだ

「赤城!」

痛みで、倒れそうになった南雲や、草鹿参謀長が手を差し伸べ支えた

「大丈夫です」

気丈に答える赤城は、姿勢を起こして周囲を見回した

 

一瞬言葉を失う幹部達に、赤城は一喝した。

「落ち着きなさい!!!」

 

着弾の衝撃は、赤城の身体にも、直接伝わる、痛みに耐えながら、赤城の厳しい声を聴き我を取り戻す幹部達

「応急修理班、消火班は被害状況の確認と対応!! 救護班は負傷者の確認を急ぎなさい! 敵はまだ来ます!! 対空砲座、確認して!!」

赤城は続けざまに指示した

「機関、操舵の損害状況確認!!!」

 

冷静に対応を指示する赤城

まるで、被弾する事が分かっていたかのように、指示をだしていた

副長以下の幹部達は一斉に落ち着きを取り戻してゆく

 

そう、彼女はいつも脳裏にシミュレーションしていた。

“空母は動く火薬庫、被弾したら即行動しなくては”

素早い対応ができるかどうかが、艦の生死を決める

 

赤城が、周囲の状況を確認しようと左舷を見た。

その時、鈍い衝撃と、音は赤城の艦橋に響く

 

「あっ! 加賀、被弾!!!」

誰かの悲痛な叫び声が聞こえた

赤城の視界に飛び込んで来たのは、船体の中央部分から黒煙を上げる加賀の姿であった。“加賀さん!!!”

赤城は咄嗟に、概念伝達を使い、加賀を呼んだ。

 

返事がない!

「加賀さん! 聞こえてる!!」

つい概念伝達の思いが声に出た

 

やや顔色を青くする赤城

 

“うう、大丈夫”

加賀の唸るような声が脳裏に届いた。

 

“加賀さん!! しっかりして!!!”

赤城は自分の出せる思念を思いっきり加賀へ送った

 

“聞こえているわ、少し焦ったけど今対応している。一発くらいで沈む私ではないわ”

やや声は小さいが、しっかりとした加賀の返答が脳裏に届いた

加賀は、

“格納庫内で爆発したみたいですけど、ちゃんと対応できていますから心配しないで”

そう返事をして来た。

 

「加賀の様子は」

南雲は赤城の表情を見ながら、聞くと

「はい、長官。格納庫に着弾したようですが、対応できるそうです」

「赤城、加賀に誘爆等に注意する様に、伝達してくれ」

「了解しました」

赤城は直ぐに概念伝達を使い、加賀へ指示を出した。

 

南雲や赤城が対応する間も、敵のワイルドキャット戦闘機が赤城、加賀へ接近を試みるが、周囲を固める摩耶、そして照月達に阻まれ攻撃は散発的となりつつあった。

 

「敵戦闘機、離れていきます!!」

周囲を警戒する見張り妖精報告が入る。

見れば、ドーントレスの後を追うように、数機の敵戦闘機が、空域を離脱しようとしていた。

 

それを見た南雲は、

「赤城、今の内に態勢を整える。加賀に消火を急ぐように伝達、各艦へ再度防空体制を整える様に指示を」

 

「はい、南雲司令」

赤城は直ぐに返事をすると、概念伝達を使い、各艦へ指示を出した。

未だに加賀からは激しく黒煙が上がっていた。

そして、赤城の格納庫では

「火元を押さえろ! 消火ポンプの水圧を確保しろ!!!」

消火隊を指揮する小隊長妖精の声が格納内に響いていた。

今回の作戦では、間違いなく被弾する。

その為に、被弾後の対応をする応急修理班、消火班、そして医療班は赤城艦内に分散配置されていた。

もし一ヶ所に集まれば、そこが被弾した場合、組織的な対応が出来ない。

そして即応力も落ちてしまう。

被弾に対するリスク分散

各班は、被弾に対し安全かつ対応できる位置に配置された。

 

消火班員妖精達は、即座に行動を開始した。

ホースを各消火栓へ繋ぎ、送水を開始

被弾により発生した火災を多方向から、押さえに入った。

「頭を上げるな!! 煙に巻かれるぞ!! 換気を急げ!!」

消火隊隊長の指示が飛ぶ

熱波の中、火元に向け放水する消火班

煙の漂う格納庫内で、消火活動を見守る消火隊隊長妖精は、

「よし、これなら鎮圧できる」

そう言いながら、続けて部下に指示を出し続けていた。

 

同じころ、戦列から離れた重巡鳥海でも、生き残りを掛けた戦いが続いていた。

「そこだ!! そこを押さえろ!!!」

家の柱程の太さのある角材を数人がかりで持ち上げ、歪みのある壁面を押さえようとする

その壁面の継ぎ目からは大量の海水が流れだしていた。

“ギギギッ”

不気味な金属音が流れるなか、重巡鳥海の応急修理班は賢明に、漏水箇所と戦っていた。

応急修理妖精は、流れ込む海水に足を取られながらも、太い角材を抱え、壁面を補強していた。

「くそ! 浸水が止まらん!」

班長妖精は、壁面の継ぎ目から流れ出る海水を睨み唸った

「なんとしても、この区画で食い止めなけば、この先は機械室へ通じる区画だ」

 

敵の放った魚雷3発の内、一発が鳥海の左舷中央に着弾した。

艦底爆発ではなく、バルジ部分に着弾した為 機械室を含むバイタル・パートへ被害がでる事はなかったが、それでも水防区画のあちこちで浸水が始まっていた。

外側の水防区画は仕方ないとしても、できる限り浸水を、押さえなければ艦に悪影響を及ぼす

応急修理班の必死の作業が続いていた。

既に、この区画も浸水が始まり、足元の海水はくるぶし付近まで迫っていた。

壁面から勢いよく吹きだす海水を浴びながら、班長妖精は、

「予想より浸水の勢いがある、破孔が思ったよりでかいのか!」

しかし、次の瞬間、周囲に轟音が鳴り響いた

 

“ゴン、ギギギ”

 

耳に触る亀裂音と同時に、大量の海水が、通路の奥から流れ込んできた。

「まずい! たっ! 退避! 退避しろ!!!」

奥の水防区画のどこかで水圧に耐えきれなくなり、壁面に亀裂ができたに違いない

「上がれ!! 上がれ!!!!」

上の区画へと通じるラッタルへ殺到する応急修理班妖精たち

「慌てるな! まだ時間はある!!」

班長妖精がラッタルの横で班員達を上へと押し上げていた

急激に流れ込む海水を押し分け、奥の区画から一人の妖精水兵がラッタルへとたどり着いた。

「お前が最後か!!」

班長妖精がきくと、その水兵妖精は

「いっ、いえ! 自分の他に数名いました」

その水兵は、切れ切れの息をしながら

「急に、壁面から海水が流れ込んできて・・・」

そういうと、

「奥の区画にまだ、取り残された者が!!」

それを聞いた班長妖精は、ぐっと奥の区画を見た

そこは、既に暗く、ただ青い海水が怒涛の様に吹き上がってきていた。

「のまれたか!」

表情を厳しくしながら、水兵妖精に向い

「ラッタルを登れ! この区画は閉鎖する!!」

「えっ! 班長殿。 奥には仲間が取り残されいます!! 救助を!!」

驚く水兵妖精に班長は、鬼の様な形相をして、その水兵妖精の襟首をつかみ

「上がれというのが聞こえんか! 馬鹿者!!!」

怒鳴りながら、ラッタルへと投げ飛ばした。

「いいか! ここでノタノタしてたら缶室やタービン室が浸水するぞ! そうなれば艦長をはじめ700名乗員の命に関わる! グズグズするな!」

そう言うと、その水兵妖精を無理矢理つかみラッタルを登らせた。

水兵妖精がラッタルを登る間も、班長は、ギリギリで待った

しかし、奥の区画からは無常にも海水だけが流れ込んでくる。

 

「ここまでか」

 

そういうと、急ぎラッタルを掛け合った。

その上には小さな出入口があった。

身を乗り出し、上の区画へでると、もう一度ラッタルを覗き込んだ

既に、海水は、直ぐそこまで迫っていた。

班長妖精は、静かに防水ハッチを閉め、気密を保持する為ハンドルを回した。

「はっ、班長・・・・」

回りに班員達が集まる。

皆、ずぶ濡れのままであった。

班長は、じっとハッチに手を掛けたまま、動かなかった。

 

班長の表情を読み取った古参の水兵妖精が、他の者達へ

「ここは班長に任せて、次へいくぞ! まだ戦いは始まったばかりだ!!」

「はっ!!」

声を出しながら、水兵妖精達は、一斉に動きだした。

皆がいなくなった後、班長妖精は、ハッチに手をついたまま、静かに

 

「済まん、許してくれ」

 

そう一言だけ告げると、静かに立ちあがり班員達の後を追った。

 

 

「機関室からです、缶室、タービン共に異常なし。航行問題ありません」

鳥海艦橋で、副長が機械室と直通の電話を持ちながら艦娘鳥海へ報告した

鳥海は、艦長席についたまま

「副長、速力もどせますか?」

それを聞いた副長は、電話口で二言、三言いうと、

「出力順次回復中です、程なく」

「副長、右舷に注水できる?」

「傾斜を戻しますか? 艦長」

鳥海は左舷に被弾した為、少し左へ傾いていた。

「副長、浸水収まり次第、調整して。砲術長、主砲その他の火器類は?」

「はい、艦長。損傷ありません」

砲術長は即座に答えた。

「艦長、赤城の火災、収まったようです」

副長は続けて、前方を航行する加賀から昇る黒煙を見た副長は

「加賀はいまだ延焼していますが、あの煙の色なら鎮圧できるでしょう」

そこには、先程に比べ黒煙が薄くなり始めた空母加賀の姿があった。

 

「赤城より、発光信号を受信!!」

信号手妖精が手板をもって艦橋へ飛び込んできた。

「読め!!」

副長の指示に、信号手妖精は大きな声で

「はっ、発赤城 宛て各艦艦長 新たなる敵編隊接近の報あり。数およそ18機。方位030、距離120km、飛来高度は2500前後。各艦対応急げ。以上です!!」

 

「後続の敵部隊です。砲術長! 主砲いけますか!」

鳥海の問に

「傾斜していますので、かなり厳しいです。それより機銃での対応の方がよいかと進言します!」

「では各銃座へ伝達急いでください。あと10分程度で目視圏内です!!」

「はっ!」

砲術長は伝令を数名、銃座へと急がせた。

鳥海は、前方、赤城の横を進む摩耶へ向い

「摩耶姉さん! お願い! 赤城さん達を守って」

 

 

「どうやら、これが最後の敵攻撃隊になりそうだな」

赤城艦橋で、南雲は東の方向を双眼鏡で覗きながら声に出した

「はい、司令。自衛隊からの情報では、この敵編隊が最後です」

草鹿参謀長が、

「18機ですか。少し減りましたな」

それには赤城が、

「零戦隊が頑張ってくれたようですが、だいぶすり抜けてきました」

「赤城、それは致し方なかろう」

南雲は赤城の返事に答えると続けて、

「確か、要撃管制といったか。電探を使った迎撃機誘導方法は」

「はい、南雲司令」

南雲は、双眼鏡を覗いたまま

「やり方を理解したとはいえ、今の我々には、装備も訓練も足らん。自衛隊のおかげで今回は無様な戦いはせずに済みそうだが、その域になるまでまだまだ足らんな」

南雲の声は厳しかった

「よし、もう一息耐えれば、あとは此方の番だ!」

南雲は気合の入った声で、

「迎撃態勢を整えろ! もうひと踏ん張りだ!」

「はい、司令!!」

一斉に艦橋の要員達が動き始めた

 

 

対する深海棲艦側でも、厳しい状態であった。

「なんとか、待ち伏せは躱したが、・・・」

ヲ級空母艦隊4番艦のドーントレス隊を率いてきた隊長は、周囲の機体をみて、唸った

彼から見れば、今回の出撃はラッキーとアンラッキーが交互に続いた。

4隻の空母から総数100機近い航空機が出撃したが、自分達の4番艦はワイルドキャットとドーントレスが主な編成で構成されていた。

最初のブリーフィングでは、“敵艦隊は此方を捉えていない、今攻撃できれば敵機が上がる前に敵に到達できる”と説明された。

攻撃隊一同、“ラッキー”と叫んだ

だが、最初の躓きは直ぐに起こった

ヲ級flagshipより発艦指示があり、まずワイルドキャット隊から発艦を始めたが、なんと1機のワイルドキャットが発艦に失敗し甲板上で擱座してしまった。

幸い火災は起きなかったが、機体を海面へ廃棄して、発艦を再開するまで20分程度をロスした。

その間に他の艦の艦載機は全て発艦を終わり、空中集合して、敵艦隊へと進路を取っていた。

我々は遅れる事20分、ようやく全機の発艦を終え、編隊を整え敵艦隊へと向かった。

ワイルドキャットにドーントレス

旧型機ばかりで速力がでず、結局flagship隊に追いつく事ができないまま敵との会敵予想海域へと来てしまった。

「遅れをとったか・・」

そう思っていたが、遥か前方を進むflagship隊に突如 ジークの群れが襲い掛かるのが目視できた。

咄嗟に自らの編隊を引き連れ高度を取り、雲間へと逃げ込んだ。

無線に、友軍機が助けを呼ぶ声がひっきりなしに飛び込んでくる。

分厚い雲へ飛び込み、身をかくしたが、どうやら友軍機が多数ジークに襲われたようだった。

「待ち伏せされた!」

周囲を警戒しながら、隊長はそう考えた。

何とか、日本軍機を避けながら敵艦隊を目視圏まで進む事ができたが、護衛の戦闘機が何機か、ジークに食われたようだ。

「我が隊が12機に、ワイルドキャットが6機か」

操縦桿を握りながら、

「ドーントレスだけなら目標を絞らないと、効果がない」

隊長は唸った。

マイクを操作し、

「404ドーントレス隊各機へ継ぐ、此方隊長。各機目標は俺が攻撃した空母へ集中せよ! 繰り返す、攻撃目標は空母だ!」

周囲を飛ぶドーントレスが一斉に主翼を振って返事をしてきた。

隊長は、

「何とかこのまま、雲に隠れて敵の空母の直上までいければ、ラッキーだが」

そのまま前方の空域を睨んだ。

その時、少し雲は切れた。

「見えた! あれか!」

雲の切れ間から、微かに数隻の艦艇が見える。

「隊長! 一隻黒煙を上げています!」

後席の機銃員の声が聞こえた。

隊長も、

「どうやら燃えているのは空母だ! もう一隻の方も少し煙が出ている!」

「隊長、他の部隊の攻撃が成功したようですね」

「ああ、俺達で止めを刺せる!」

404号艦のドーントレス隊長は、前方で黒煙を吐く加賀、そして赤城を見て唸った

「どっちを狙います」

機銃員の問に隊長は、少し考えて

「先頭の空母を狙おう、艦橋が左だ、あれが敵の旗艦“アカギ”に間違いない」

機銃員は手元の敵味方識別表を開き、確認した

「はい、アカギの艦橋は左です。ではその後で燃えているのが“カガ”です」

隊長は

「残りの2隻が見当たらんな」

周囲を見渡した

隊長は、

「おい、敵空母アカギ、カガと接触。これより404号隊攻撃開始すると、本隊へ打電しろ」

「はい!」

機銃員は直ぐに電鍵を持つと打電を開始した

「なんとしても、一隻は仕留めたい」

ドーントレス隊は、一気に赤城達の直上へと進んでゆく

 

「敵機視認!! 艦首右! 1時方向!!!」

照月の艦橋に一報が入った

一斉にその方向を見る艦橋要員達

上空を見上げた照月は唸る

「あんな近くに!」

上空に厚く広がる雲に隠れて接近してきた敵攻撃隊

赤城を経由した自衛隊の通報がなければ、気づかずに奇襲されていたに違いない

「測距、諸元計算急いで! 各砲はそれまで各自判断で砲測照準砲撃!」

「急げ!!!」

艦橋から次々に指示が飛ぶ

 

“どっんー”

重い衝撃波が、照月の艦橋を襲った

「摩耶! 主砲発砲!!」

右後方に展開している重巡摩耶の20.3cm砲が火を噴いた。

「こちらもはじめてください!」

艦娘照月の指示で、艦首の2基の長10cm砲が砲撃を開始した。

「ガンガン撃って! 今度こそ防ぎ切って見せます!!」

照月は、ぐっと雲間に隠れる敵編隊を睨んだ

 

「敵編隊、分散します!!」

同じく赤城の艦橋でも、対空射撃に向け指示が飛んでいた。

敵の編隊は二手に分かれた

「下に降りたのは戦闘機か、艦攻はいないようだな」

双眼鏡を覗く南雲

「まだ20km以上距離があります。上空まで5分程度でしょう」

赤城は静かに答えた。

「見張り員、加賀の火災はどうだ」

「はい、司令。状況は良くなっています。煙も収まりつあります」

直ぐに艦橋付の見張り員妖精が答えた。

「艦爆が12機か、これはきついか」

南雲は唸った。

 

照月や摩耶、そして7駆の各艦も主砲砲撃を開始した。

前方空域に無数の黒煙の花が咲き誇るが、敵艦爆隊は、高度を落とさないまま、赤城へ向け真っ直ぐに直進してきた。

「やはり、高度を取られるときついか」

南雲、赤城、そして艦橋の皆 上空を見上げた

12機のドーントレスが、ほぼ群れをなして赤城直上へと侵入してくる

「間もなく直上!! 来るぞ!!」

艦橋に厳しい声が響いた

必死に、各艦から主砲、高角砲の射撃が続くが、敵機を捉える事ができない。

12機のドーントレスは、よく見ると二手に分かれ、6機の塊となっていた。

最初の6機がほぼ赤城の直上へさしかかる

「回避!」

南雲の鋭い指示に、赤城は直ぐに、答えた。

「取舵!!!」

「とりか〜じ!!!」

操舵員が操舵輪を勢いよく回す。

一瞬、間がある

船体全体が、左方向へ流れる。

そして艦首が、急速に左に回頭すると同時に艦橋は右へ傾き始めた

摩耶を始め他の艦も弾幕を張りながら一斉に左回頭し、赤城、そして加賀を守る

だが敵機もその動きに合せて、少し侵入方向を修正してきた。

 

「くっ! 弾幕に切れ目が!!」

赤城は唸った

敵機の投弾をそらす為に回頭すれば、敵機を追う高角砲や機銃群の照準に多大な影響を与える。

見越し射撃ができないのだ。

一瞬止まった弾幕の隙をつき、敵機が急降下を始めようと機首を下げ始めた

「直上!!!」

赤城の悲痛な声が艦橋にひびいた

6機のドーントレスは、ほぼ団子になったまま赤城へ向け、真っ逆さまに急降下態勢に入ろうとしたその時

 

突如、何かがその6機のドーントレスを射抜いた。

 

「えっ!」

 

真っ直ぐ此方へ向って急降下するドーントレスを睨んでいた赤城達は、直後信じられない光景を目にする

 

“どっんー”

 

6機のドーントレスは、ほぼ同時に空中爆散した。

 

「なっ、・・・」

一瞬の出来事に声を失った。

主翼や胴体が粉々になりながら、火の玉になり海面へと黒煙を引きながら落下する元ドーントレスだった鉄の塊

唖然とする赤城達

 

“ゴオーーーー”

 

突然、聞き慣れない雷鳴様な音が周囲に響いた

周囲を見回す赤城

“ビリビリ”という振動音が艦橋内部に響いた

皆音に驚き、艦橋横の見張り所へ飛び出してきた。

それは、突然現れた。

 

2機の見慣れない航空機が、今まで赤城達が経験した事のない猛スピードで左舷後方から接近してきた。

「おおお!!」

一斉に声を上げる艦橋要員達

 

高度400m前後で赤城の左舷後方より接近した2機のF-35Jは、赤城の艦橋上空を過ぎた時、一気に機首を90度上に向けたのと同時にアフターバーナーに点火

 

“ドーン”

 

聞き慣れない衝撃波が赤城達を襲った

唖然とする赤城や南雲達

 

ほぼ垂直に立ちあがった2機のF-35Jは、機体の背中から大量のヴェイパーを引きながら一気に駆け上り、あっという間に視界から消え去っていった

 

「あの機体! 雲を曳いたぞ!!」

驚きの声が起こった

 

「赤城、あれは」

南雲の問に、赤城は

「はい、間違いありません! いずもさんの戦闘機です」

消え去ってゆくF-35を見ながら南雲は、一言

「長生きはしてみるもんだな」と呟いた

 

「稲妻だ! あれは空の稲妻!!」

南雲達と同じく赤城艦橋横でF-35を見た源田航空参謀は、興奮を抑えられないでいた。

見た事のない速力、そして脅威の上昇力

ドーントレス6機を一瞬で瞬殺した火力

源田は、体中の血が騒ぐのを抑えきれなかった

飛行機乗りとしての性

「乗ってみたい」

つい本音がでた。

 

「後続の敵機接近します! 艦爆6 戦闘機6!! 間もなく直上!!」

敵機を監視していた見張り妖精の声が再び、南雲達の意識を戻した。

F-35の突然の登場に、一瞬動きの止まっていた南雲達であったが、

「対空射撃を継続しろ!! 残りは少ない!!」

直ぐに指示を再開した。

 

F-35の攻撃で、一旦危機は免れたが、依然厳しい状況である事には代わりない。

その時再び見張り妖精の声が届いた

「左舷後方より新たな編隊!」

「何!!」

南雲達は一斉にその方向をみた。

黒い機影が複数視界に飛び込んでくる

「あれは!」

南雲の問に、赤城は

「零戦です!」

 

 

「ホウショウアルファー1、スカル21フライト、ミッションコンプリート」

「スカル21、ホウショウアルファー1、ありがとうございます、後は此方で」

「スカル21、了解です」

零戦の操縦桿を握る艦娘鳳翔は、先行して敵ドーントレスを撃墜したF-35の報告を聞いた。

護衛艦いずもを飛び立った鳳翔戦闘機中隊の12機の零戦は、赤城達の後方およそ100km程の距離を保ったまま待機していた。

もし、赤城達が押し込まれそうになった場合、いち早く応援に駆け付ける為であった。

 

敵の第1次攻撃隊の第1波、第2波を迎え撃った一航戦戦闘機隊であったが、戦闘空域が広範囲になり、第3波を取り逃がしてしまう。

これにいち早く気づいたのは、上空で監視していたE-2Jであった。

E-2Jの要撃管制士官は、直ぐに直掩の2機のF-35Jを赤城上空へと差し向けると同時に、待機していた鳳翔戦闘機中隊を前進させた。

 

「エクセル11、ホウショウアルファー1。これより戦闘空域へ入ります」

「ホウショウアルファー1、エクセル11了解。敵残存機は12機。うち6機は低空へ降下し、赤城へ接近中!」

鳳翔は、無線機のトークボタンを2度押し了解を意味するジッパーコマンドを送った

「ホウショウアルファー1より、戦闘機中隊各機へ、第1小隊は低空へ抜けた敵機を追撃、第2小隊は、上空のドーントレスを迎撃」

「1小隊、了解です」

「2小隊、敵機を確認、了解」

各小隊長が答えた。

鳳翔は、気合を込めて

「鳳翔隊全機突入!! 敵機を蹴散らしなさい!!」

「おう!!」

一斉に各機主翼をふると、分隊毎に、敵機へと襲いかかった

鳳翔も、一気に機首を下げ、赤城へ襲いかかろうとするF4Fワイルドキャットを眼前に捉えた。

2機のワイルドキャットを後方上空から捉えた鳳翔

鳳翔の後には、僚機を務める第1小隊の5番機がしっかりと追従してきていた。

鳳翔達に気づいた2機のワイルドキャットは、赤城への接近を諦め、上昇しようと、機首を上げながら左旋回へと入る。

それを見逃さない鳳翔。

愛機を左へ捻りあっという間にワイルドキャットの後方へ食らいついた。

一瞬だけ風防枠に新しく取り付けたバックミラーをみた。

後方には、僚機がしっかりと映っていた

前方のワイルドキャットに視線を戻す

「コルセアとお手合わせしたかったですが、相手は選べません」

じわじわと敵機との距離を詰める

2機のワイルドキャットは鳳翔機の射線を躱す為、右左に機体を揺さぶりながら必死に逃げ回るが、低空に追い込まれたF4Fには選択肢は少ない

鳳翔は相手の動きを読んだ。

空戦経験の長い鳳翔は、窮地に落ちた相手のパイロットの心理を突く

「上げれば、此方の的です。右、左どちらに・・・」

逃げ回るワイルドキャットの右翼の補助翼が跳ね上がった。

「右です!」

ワイルドキャット2機が、右旋回を始める前に、鳳翔は愛機を右へ切り込ませた。

次の瞬間、鳳翔の視線の先

OPL照準器の円形の照門の中一杯に、先頭のワイルドキャットが飛び込んできた。

“今!”

鳳翔は、ほんの数秒、機銃発射把柄を握る

“ガリ、ガリ・・・”

機首から、7.7mm機銃が勢いよく発射された

 

赤い航跡を引きながら、次々とワイルドキャットへ命中する7.7mm機銃弾

先頭のワイルドキャットは、エンジンに被弾したのか、機首から黒煙を吐きそのまま右へ横転しながら、背面状態となり、機首を海面へと向け急降下してゆく。

鳳翔が、先頭のワイルドキャットを追尾する間、僚機の5番機は、後方のワイルドキャットを追尾する態勢に入っていた

鳳翔は、そのまま右へ機体を切り込んだ

天と海が切り替わり、背面状態になりながら、姿勢を維持するその隙に、後方の5番機が背面状態になった鳳翔機を追い抜き、前方へ躍り出た。

既に、残りのワイルドキャットを視界に収めている。

一気に接近する5番機

その後方で、鳳翔は背面状態から機体を戻し、直ぐに5番機の後方へついた。

 

“コークスクリュー”

 

鳳翔隊は、いずもに乗艦している間、第六飛行隊と絶えず、シミュレーターを使った訓練を続けていた。

複数のパソコンをLANでつなぎ、フライトシミュレーションソフトを使った簡単な対戦である。

第六飛行隊側のパイロット妖精は、ワイルドキャットやコルセア、ヘルキャットなどの動きをシミュレートして対戦した。

第六飛行隊のパイロット妖精の中には、第11飛行隊や飛行教導群から転籍して来た者もいる

鳳翔隊は、当初この空自パイロットの卓越した空戦技術に翻弄された。

そして、コンバットマニューバを奥深く探求する様になった。

鳳翔隊は、貪欲にその技術を盗んだ

足繫く第六飛行隊へ通い、意見を交換し、そして実践した。

それが、空戦機動に現れてきていた。

 

敵機を捉えた5番機は、躊躇する事無く、ワイルドキャットへ機銃弾を浴びせる。

躱す間もなく、被弾し炎上するワイルドキャット

黒煙を曳きよろめきながら降下するワイルドキャット

敵機の被弾を確認した5番機は、速度をすこし落とし、鳳翔機の下へ潜りこむと、直ぐに鳳翔機の後方に位置する。

編隊を組み直す鳳翔と5番機

一糸乱れぬ動き

まるで、見えない糸で操られているようである。

 

鳳翔は、そのまま低空へと舞い降りると、艦隊の後方から接近した。

朧に掩護された鳥海の艦橋横をすり抜ける。

やや左舷に傾斜してはいるが、しっかりと航行する重巡鳥海

艦橋横の見張り所に出てきた艦娘鳥海が、必死に手を振っているのが鳳翔の目に留まった。

「あの様子なら、大丈夫ですね」

鳳翔は、鳥海の姿を見て安堵した。

鳥海の機銃妖精達も帽フレで、鳳翔達に声援を送ってきた。

主翼を少し振り、答える鳳翔

 

そのまま直進し、空母加賀の左舷上空を抜けた

甲板に被弾したのか、大きな穴が開き、そこから煙が舞い上がっていたが、その色は白色に変わりつつあった。

鳳翔は艦橋に目をやると、メガホンを片手に、必死に指揮をとる加賀の姿を見つけた。

 

“えっ! あの識別帯は!!”

 

左舷を飛び抜ける鳳翔機を見つけ、目が点になる艦娘加賀

 

鳳翔は、そのまま前方を航行する空母赤城へと接近した

右翼を下げ、バンクを取る

同時に左ラダーを踏み込む

“ナイフエッジ”

大きく主翼に描かれた日の丸をアピールするように飛ぶ鳳翔機

 

低空を接近してくる零戦2機をみながら、南雲司令は

「赤城、どこの部隊だ?」

双眼鏡で、接近してくる零戦2機の識別帯を見た赤城は、

「あっ、あれは・・・」

息を飲み

「ほ、鳳翔隊です!! 先頭は鳳翔さんです!!」

それを聞いた南雲は、笑顔で一言

「やはり、来たか」

 

赤城左舷をローパスする鳳翔機と5番機

「友軍機だぞ!!!」

「おおおお!!!!」

機銃妖精達が一斉に、手を大きく振り、声援を送ってきた

 

ナイフエッジを決めたまま 赤城左舷をパスする鳳翔

それを見た南雲は、

「いつ見ても、いい腕をしておる」

 

その南雲達の横で、鳳翔の空戦を見ていた源田は、自身の身の震えを抑えきれないでいた。

「まるで、別次元だ!」

喉の奥から唸った

2機の零戦が、連携して敵機を次々と撃墜していく

動きに無駄がない、まるで相手の動きが読めるのかと思いたくなる

海軍でも、一、二の技量を誇る鳳翔航空隊

確かにその腕前は凄い

艦長の鳳翔を始め、歴戦の飛行士妖精達が揃っていたが、我が一航戦とほぼ互角か少し上といった感じであっただが、今の動きはまるで段違いである。

源田は、その飛びっぷりをみて、

“美しい!”

とさえ思った

今目の前で繰り広げられる空戦は、見る者が見れば衝撃的な展開であった。

「近未来の空戦は、こうなるのか!」

源田に何かが芽生えた。

 

赤城上空の空戦開始後5分が経過した。

既に赤城達の上空を飛ぶ機体は、全て日の丸をまとった零戦だけとなった。

空戦を終えた零戦が次々と編隊長である鳳翔機の周囲に集まり始めた。

赤城を中心に、周回飛行を始める鳳翔飛行隊の零戦

一機の欠落もなく、全機無事であった。

見事な編隊を組み、赤城達の上空を旋回飛行する。

赤城の飛行甲板の上に、水兵妖精達が出てきて、上空を通過する鳳翔隊に、声援を送っていた。

見れば、他の艦でも、多くの水兵妖精達が、鳳翔隊へ手を振っていた。

 

南雲は、艦橋横の見張り所に立ち、上空を飛ぶ鳳翔隊を見上げ、笑いながら

「赤城、また美味しい所をパラオにもっていかれたな」

「はい、司令」

赤城も笑顔で答えた

「失礼します! パラオ泊地特務艦隊警戒機より入電です!」

通信妖精の元気な声が背後から聞こえた

「うん、読め」南雲は短く返事をすると、通信妖精は、

「はい、“赤城を中心とする半径200km圏機内に敵性航空機を認めず”との事です」

それを聞いた草鹿参謀長は、

「なんとか凌ぎました」

「ああ、そうだな参謀長」

南雲も安堵した声で答えた

 

通信妖精は続けて、

「なお、“攻撃隊、敵空母まで150km圏内まで接近、現在の所、敵航空機との接敵を認めず”です」

南雲は、静かに腕を組むと、

「このまま、奇襲できればいいが」

しかし、それを聞いた赤城は、笑顔で

「大丈夫です、ちゃんと山口司令と飛龍さんが仕込んでますから」

 

「そうだな。山口なら」

南雲は静かに答えると、

「さあ、鳳翔たちがいる内に修理を急げ! 零戦隊の収容の準備だ!」

「はい!」

赤城達は一斉に動き始めた。

 

 

「長官達は、なんとか凌いだようだな」

赤城達の後方30kmほどの距離を置く二航戦の旗艦 空母飛龍の艦橋で山口少将は、双眼鏡を覗きながら唸った。

水平線上に、幾つかの黒煙の帯が見える。

通信電文をもった艦娘飛龍が

「赤城さんからの電文では、鳥海さんが雷撃被弾、赤城さんと加賀さんが艦爆攻撃で被弾したとの事ですけど、航行支障なしだそうです」

「そうか。飛龍それと、さっき通過した零戦隊は」

「はい、鳳翔さんです」

飛龍は元気に答えた

「やはり、来たか」

山口の問に飛龍は、

「この状況で、パラオで大人しくしている方ではないですからね。でも艦は改修中とききましたけど」

山口は少し考え

「瑞鳳は、満載だろう。すると残りは・・・」

「いずもさんですか?」

「だな、大和を超える超大型艦らしいじゃないか。零戦12機位なら露天係留でも余裕だろう」

山口はそういうと

「山本長官も色々と隠し駒をもってるからな」

意味ありげな笑みを浮かべた

「飛龍、こちらの攻撃隊もそろそろだな」

「はい、無線封鎖中ですので、詳細は不明ですが、報がないという事は予定通りです」

山口は、静かに

「敵の第2次攻撃隊が発艦する前に叩けるといいが」

じっと前方の空を見上げた

その視線の遥か先、敵空母本隊が待ち構えていた。

 




こんにちは
スカルルーキーです

分岐点 こんごうの物語 第73話をお送りいたします。

近況報告で、6月末に投稿します・・・
と言ってしまいましたので、バタバタと仕上げてしまい、少し荒い仕上がりとなりお見苦し点もあるかと思いますが、そこは生暖かく見てください。

梅雨真っ只中ですけど、近年の梅雨は、しとしと雨じゃなくて、ゴーって激しい雷雨ばかりですよね。
紫陽花が似合う、優しい雨は何処へ・・・

次回は、”飛龍! 反撃します”です

では

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