分岐点 こんごうの物語   作:スカルルーキー

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闇が覆う南の島に、その閃光は突如走った!


(一部残酷な描写があります)



67 タロア島強襲作戦3

深海棲艦マロエラップ飛行場のバラック兵舎の中で、眠りについていたA-20爆撃機隊の隊長は、突如襲った振動と閃光で瞬時に目が覚めた。

開口一番!!

「爆発か!!」

そう叫びながら咄嗟にベッドから起きあがると、足を靴へ突っ込みながら窓辺に視線を移した瞬間、粉々に粉砕された窓ガラスが室内へと飛び込んできた。

“おわっ!!!”

咄嗟に腕で顔を庇った。

誰かが声にならない叫び声をあげていた。

 

ベッドの縁に掛けてあった上着をつかむと、粉々に粉砕された窓辺に立った。

そこから見えたのは、赤々と燃える滑走路脇の対空陣地であった。

「どうした!! 弾薬の誘爆か!!」

そう思った瞬間、上空に微かにプロペラの音が響く。

「航空機!」

慌てて外へ飛びだし上空を見上げると、2機の航空機が滑走路に沿うような進路を取りながら上空へ差し掛かってきた。

「どこの機体だ!」

闇夜で機体の識別ができない。

機体らしき影を見上げた時、不意に何かが上空で光り始めた。

眩しさを押さえる為、手をかざしてその光に照らされた機影を見た瞬間、爆撃機隊の隊長は血の気が引いた。

「日本軍の観測機! それにあれは照明弾か!!」

元艦載機乗りであった隊長は煌々と明るい光を放つ吊光弾を見上げながら、一瞬で状況を理解した。

「奴ら! そこまで来ているのか!!」

「隊長何事です! 対空陣地が燃えています! あの航空機は!!」

「敵襲ですか!!」

隊長の回りにA-20爆撃隊の隊員達が集まり始めた。

「日本軍の奇襲だ!!」

隊長は大声で叫んだ!

その直後、今度は司令部棟の方から爆発音が響く。

閃光と共に大量の土埃が舞い上がった。

「爆撃ですか!!」

隊員が聞くと、

「解らん! とにかく敵の攻撃だ!」

爆撃機隊の隊長は爆音に負けないように大声で叫び返した。

爆撃機隊の隊長達の横を、コルセア戦闘機隊やP-40、P-38の操縦士達が慌てながら愛機へと駆けだしていった。

爆撃機隊の隊員達も愛機へと駆けだそうとした時、隊長から制止された。

「待て!!! 行くな! 戻れ!!!」

「隊長! なぜです! 敵機は少ない! 離陸すれば」

隊員達がそう言い返したが、

「馬鹿野郎! よく見ろ! あれは観測機だ!! 艦載機だぞ!!! すぐ近くまで敵の艦隊が来ている証拠だ!!」

「えっ!」

立ち止まって上空を見上げる爆撃機隊の隊員達

そこには吊光弾に照られた複葉の水上機がうっすらと闇夜に浮かんでいた。

その水上機から、また吊光弾が投下された。

滑走路が、照明をつけたように明るく照らし出していた。

「いかん!」爆撃機隊の隊長はそう言うと、

「今直ぐここを離れろ!! 奴らの狙いは滑走路だ!!」

「しかし、隊長!!」

「ぼさっとするな!! もうすぐ砲弾の雨が降り注ぐぞ!!!!」

爆撃機隊の隊長は大声で怒鳴りながら、隊員達を滑走路から一番遠い塹壕へと避難させた。

塹壕へと駆け込むと、そこにあったヘルメットを全員に着用させた。

「いいか! 砲撃が始まったら絶対に外を見るな! 爆風で頭ごと持っていかれるぞ!!」

塹壕の中で、うずくまり衝撃に備える爆撃機隊の隊員達

 

外では、コルセア戦闘機や、P-40などの戦闘機隊が急ぎエンジンを始動しようと準備している声がした。

「隊長! こんな所に逃げ込んでいいんですか?」

隊員の一人が聞いたが、

「どうせ俺達では間に合わない。エンジンが温まるまで何分かかると思っている。そのあ・・・」

隊長の声は途中で切れた。

空気を切り裂く独特の飛来音を立てながら、最初の砲弾が飛行場の上空へとやってきた。

「伏せろ!!!」

隊長は大声で叫ぶと同時に、皆一斉に塹壕内で姿勢を落とした。

 

次の瞬間

滑走路の上空で 眩いばかりの閃光が起こると同時に猛烈な爆音と爆風が周囲を包み込んだ!

戦艦金剛の放った“近接信管付き散弾砲弾”が対地攻撃モードで炸裂したのだ。

初弾は、滑走路と駐機場の中間点辺りの上空で炸裂した。

音速を超える速さで超硬質球が、駐機場に居た戦闘機群を襲った。

コルセア戦闘機は、あっという間にこま切れにされ、主翼内の燃料に引火、搭乗していた操縦士もろとも機体を粉々にしながらがら地上で爆散した。

近くに駐機していたP-40やP-38も同様に火の海に飲み込まれてゆく!!

 

散弾砲弾が襲ったのは機体だけではなかった。

戦闘機隊の周囲にいた整備員や操縦士達を元の形を留めない程の肉片へと変えてゆく。

「うううう、あああ!!!」

砲撃の着弾音の合間に人の声とも呻き声とも取れない音が塹壕の周囲に響いた。

 

塹壕に逃げ込んでいた爆撃隊の隊長達は、その声とも叫びともつかない音と周囲へ砲弾の破片が突き刺さる音、何かの爆発音と振動。

そして巻き上げられた無数の破片と土煙に耐えた。

耳を押さえ、姿勢を低くし、じっと耐えるしかない。

頭上へと降り注ぐ無数の土埃を払いのけながら隊長は

「くっ、まだ砲撃がはじまって1分も経っていないのに、この砲弾の数は何だ!」

そういった矢先に近くに砲弾が着弾した。

「ごわっ!!」

凄まじい衝撃が塹壕を襲う。

地面が盛り上がり、体が宙に浮きあがった。

恐怖に耐えかねた一人の隊員が青い顔をしながら、

 

「たっ、助けてくれ!!!」

 

叫びながら立ちあがり、塹壕から抜け出そうともがき始めた。

「馬鹿!! 出るんじゃない!!」

爆撃隊の隊長は、咄嗟にその隊員の首根っこを押さえた。

他の隊員達も足や服を押さえて、塹壕の中へと引きずり込んだ!

隊長は、ほんの少しだけ地上を覗いた。

しかし、覗いた事を後悔した。

まさにそこは地獄絵図だった。

原型を留めないほど破壊された戦闘機だった金属の塊

壁面に無数の穴が開き、火災を起こして燃える司令部棟

そして駐機場の周囲では、人影らしき物が炎に包まれて消えていった。

 

「くそ!!!」

 

悪態をつきながら隊長は再び姿勢を低くしながらかがみ込み、

「生きてここをでられるのか!」

しかし、その声は頭上で炸裂する散弾砲弾の爆音でかき消されてしまった。

 

 

深海棲艦マーシャル分遣隊司令のル級flagshipは連日の激務の為、体ら疲労感が漂っていた。

特に今日は、マジュロ島の沖での敵重巡の撃破やと北部海域での敵潜水艦活動の活発化への対応で終日忙しかった。

従卒兵の煎れてきたコーヒーを飲んだ後、急に眠気が差し、そのままベッドへと潜り込んが、いざ寝ようとすると先程のコーヒーのせいか寝る事が出来ない。

意識が睡魔で朦朧としている時、ふと何かの気配を感じた。

自分の意識中で、思い描くある風景

 

海原に立つ自分。

 

呆然と水面に立ちながら、遠くの水平線を見ていた。

何もない、その水平線に少しずつ霧の様な物が立ち込み始めた。

あっという間に自分の周囲を覆い尽くす。

その霧は、まるで生き物のように自分にまとわりつく。

声を上げようとしても声にならず、まるでその霧に絡めとられるように自分が動けなくなってゆく。

そして、その霧の中から、誰かが近づいて来た。

凄まじい威圧感

その気配は少しずつ近づき、霧の中で人影となって表れる。

「誰だ!」

心の中でそう叫ぶ!

しかし、答えはない。

ただ威圧するような重厚な視線を人影から感じる。

じっと恐怖に耐えた。

 

何か霧の中の人影が言おうとした瞬間

体を揺さぶる振動で目が覚めた!

ル級flagshipは、自分の艦の艦長室のベッドの中から飛び起きた。

 

「なっ、何事だ!!」

 

咄嗟に叫ぶ、

舷窓から、閃光が見えた。

その直後、艦を揺るがす振動と爆音が周囲に響き渡った。

直後、艦内に戦闘警報のブザーが鳴り響く

“敵襲! 飛行場に敵襲!!!”

艦内放送が流れた。

一斉に廊下を走る水兵たちの足音が聞こえて来た。

ドアが激しくノックされ、返事をする前に、勢い良くドアが開いた。

「ル級司令!! 敵襲です! 飛行場が艦砲による攻撃を受けています!」

従卒兵であった。

「何!」

ル級司令は、体を起こすと、

「艦橋に上がる!」

急ぎ支度をし、艦長室から飛び出した。

艦内は騒然としていた。

総員起こしのベルが鳴り響く

「総員、戦闘配置! 繰り返す!! 総員戦闘配置へ!!」

艦内放送が幾度も繰り返し放送された。

足早に配置へ着く水兵たち、

普段ならル級司令が通れば、立ち止まり敬礼する所であるが、今は非常時だ。

皆、一心不乱に自分の持ち場へと向かっていた。

ル級司令は操舵艦橋へと繋がる艦内の階段を幾つも昇りようやく操舵艦橋へと飛び込んだ。

「状況、報告!!」

ル級司令は、艦長席につくと直ぐに駆け寄って来た艦の副長へ声を掛けた。

「はっ、司令。詳細は不明ですが、マロエラップ飛行場が艦砲砲撃を受けている模様です」

「敵は何処だ!」

「本艦の目視圏内には敵艦は見当たりません。飛行場を挟んだ反対側 タロア島の南部海域かと思われます」

「くっ、裏口を叩かれたか!」

ル級司令は、即座に、

「艦の出力を上げろ! 通信! 各艦隊に速やかに戦闘態勢へ入るように艦隊無線で通達! レーダー員はレーダーを起動! 敵艦を補足しろ!」

副長は艦内電話をとり通信室を呼び出し、何か二言三言話すと急に表情を強張らせ、ル級司令に向い

「ル級司令! 無線が使えません!」

「何! どういう事だ!」

副長は、

「はい、無線室によると、第2、第3艦隊を呼び出しているそうですが、雑音が多く呼び出せないそうです。電信も同じ状況で聞き取れないとの事です」

ル級司令は厳しい口調で、

「故障なのか?」

「原因は不明です」副長はそう答えた。

「至急調べさせ、復旧させろ!」

ル級司令は渋い顔になった。

その時 レーダー員の一人が血相を変えて艦橋へ慌てながら入ってきた。

「司令!!」

レーダー員は慌てながらル級司令の前にくると、

「対空レーダーが不調です。全く機能しません!」

「どういう事だ」

ル級司令が聞くと、

「PPIモニターがノイズで真っ白です。故障かと思い調べましたが、発信電波には異常はありませんので、受信波に問題があると思われます」

ル級司令は、

「急ぎ原因を調べろ!」

「はっ、」敬礼して慌てながら艦橋を後にするレーダー員

ル級司令は小さな声で、

「日本海軍の電波妨害だ」と呟いた。

声には出さなかったが、

“今までの日本海軍とは違う、このトラックにいる艦隊のどれかに最新の電子技術を持った艦がいるはずだ。でなければこんな短時間に日本海軍がレーダー妨害技術と無線妨害技術を会得できるとは考え難い”

“どちらにしても私の艦のレーダーは初期型だ、水上では探知距離は20kmもない”

そう考えながら、

「副長、通信が使えないのなら、発光信号! 伝達を急がせろ」

「はい、司令」

副長は急ぎ信号員を呼んだ。

ル級司令は、砲撃の続くタロア島のマロエラップ飛行場を見た。

「くっ、砲撃が本格化してきた。本射を始めたな!」

滑走路上空には、敵の観測機らしき機影が吊光弾により照らし出されていた。

島の北東部の沖合に停泊していた為、日本海軍の接近に全く気がつかなかった。

50隻近い艦艇が全く無防備な状態で停泊していたのだ。

「奴らここまで攻めてくるとは。山本お得意の奇襲か」とふと脳裏によぎったが、今は敵の要撃が最優先だ。

島に近い位置に停泊していた数隻の駆逐艦が、飛行場上空を舞う機影に向け対空砲を撃ち始めたが、殆ど闇夜の中、てんでバラバラにあちらこちらに向け、対空砲を打ち上げていた。

「いかん! 統率が取れていない!」

バラバラに行動を開始する駆逐艦をみて、ル級司令は渋い顔になった。

「ダメだ! このままでは。何とか動いて敵を目視補足しなくては」

副長が、伝声管に向い

「機関!! 出力まだ上がらないのか!!」

すると、伝声管越しに機関長が

「もう少しお時間を! 主砲、対空砲への電力供給を優先します!」

と返事をしてきたが、その直後突如艦橋の電源が落ち真っ暗となった。

「どうした!!」

ル級司令が席を立ちながら叫ぶ。

「司令!!!」

伝声管越しに機関長の声がした。

「機関長! 艦橋の電源が落ちたぞ!」

「申し訳ございません。 出力を上げる途中で艦内の電力バランスが狂い安全装置が作動しました。復旧まで10分下さい!!」

「10分は待てん! 5分で復旧させろ!!」

「善処します!!」

ル級司令は伝声管から離れると、艦橋横の見張り所へ出た。

タロア島のマロエラップ飛行場の方向を双眼鏡で見た。

闇夜の中 微かな月明かりに島影が確認できる。

敵の艦砲砲撃が弾着する度に、上空を明るく照らし、大きな火柱が立ち昇り、島影を明るく照らし出した。

腹に響く弾着音がここまで響き渡ってくる。

「くっ! 飛行場が燃えている!」

ル級司令は 電源を消失した自分の艦でじっとその砲撃を見守る事しか出来なかった。

 

「戦艦比叡の砲撃が、少しずれ始めています」

CICの砲術士が艦橋のこんごうへ報告を上げてきた。

こんごうは、インカム越しに砲術士へ

「着弾位置のばらつきは?」

「はい、散布界はある程度まとまっていますが、弾着位置がやや遠です。多分の艦の移動分の補正が出来ていない可能性があります」

「弾着位置のデータを回して。他の艦もお願い」

「はい、四艦分の弾着位置の解析データを回します」

砲術士妖精はそういうと、SPY-1が捉えた戦艦金剛達の主砲弾弾着航跡図を艦橋のこんごうのモニターに転送した。

艦長席のこんごうのモニタ―に色分けされた各艦の弾着位置が表示された。

「流石、戦艦四隻の砲撃は凄まじいわね」

そこに、映し出された画面には。タロア島に無数に弾着する4色に区別された弾道計算航跡である。

その合間にも、後方で単縦陣で進む戦艦金剛以下の艦隊は絶え間ない砲撃を続けていた。

砲撃の度に、護衛艦こんごうの艦橋の窓が振動する。

モニターを覗き見るすずやが、

「金剛大佐は最新のFCSが搭載されているので、この散布界の正確なのはわかりますが、榛名さんや霧島さんもいいですね。特に霧島さんは正確に補正できています」

「でも、その分、砲撃回数が少ないのが難点ね。榛名様は、その点多少ずれてはいるけど、結果オーライだわ」

こんごうはそう答えながら、

「比叡様の修正をしなくては」といいつつ顔は渋かった。

「艦長?」

すずやがこんごうの顔色を見て聞くと、

「どうも、比叡様と話すのはちょっと苦手なの」

こんごうはそう言うと、すずやをみて

「ねえ、すずやさん」

「はっ、はい?」こんごうの優しい声に緊張しながらすずやが答えると

「概念伝達は使える?」

「はあ、多分。霊波補強のブレスレットもしているので大丈夫かと」

それを聞いたこんごうはニコッと笑いながら艦長席を立つと、すずやの肩を両手で掴んで艦長席へ押し込んだ。

「えっ!!」

艦長席で目を白黒させながらあわてるすずやへ向い、こんごうはぐっと顔を近づけて、

「お願い、概念伝達で比叡様たちの弾着点情報を伝達して!!!」

「えええ!!! すずやがですか!」

するとこんごうは、やや怯えながら、

「比叡様と話すとろくなことにならないから! お願い」

そう言いながら両手ですずやを拝んだ。

すずやは、

“へ~、こんごう艦長にも苦手な事があるんだ!”と思いつつ

「分かりました。弾着点修正作業にはいります」

そう言うと、意識を集中していった。

 

戦艦比叡の艦橋ではその艦の主である艦娘比叡が興奮気味に叫んでいた。

「当たってぇ!!!」

そんな比叡を横目に比叡副長は戦闘艦橋にいる砲術長へ伝声管越しに怒鳴った。

「諸元計算 間に合うか!」

「副長! なんとか。しかし、測距儀だけでは夜間は不安です!」

「砲術長! 戦艦金剛からの位置情報の補正値も加えろ!」

「了解です」

興奮気味の比叡とは裏腹に、やや焦りの出て来た比叡副長

“いかん、弾着点が不明な分、補正が間に合わん。あてずっぽうになりつつある!”

そう思い比叡に向い

「艦長、砲撃諸元の修正を具申します!」

「えっ、副長。修正いるかな?」

「はい、本艦は第一戦速を保ったまま敵地へ近づきつつあります。艦の移動分の諸元を修正していますが、追いついていません!」

「えええ!!!」と驚く比叡

そのとき、比叡の脳裏に声が響いた。

 

「聞こえますか! 比叡さん!」

脳裏に響く声に比叡は驚きながら、

「えっ、その声は鈴谷!!」

「はい、すずやです。現在この海域は強力な電波妨害を実施していますので、概念伝達で弾着観測結果を報告します」

すずやは続けて、

「この護衛艦こんごうの電探機構は最新鋭です。皆さんの砲撃の弾着点も観測できています」

「うそ!」と驚く比叡

「比叡! すずやの指示に従いなさい!」

戦艦金剛が割って入ってきた。

「金剛お姉さま」

「私の艦の電探でも比叡の砲撃がずれているのは確認しています。こんごうちゃんの艦ならより詳細な分析ができます。すずやフォロー宜しくネ!」

「はい、金剛大佐!」

すずやの元気な声が脳裏に響いた。

すずやは、

「現在、戦艦比叡の弾着点は、全体的に“やや遠”です。各砲とも-500mお願いします!」

比叡はそれを聞き

副長へ向い

「各砲! 迎角修正! -500m!」

「了解です!!」」

副長は直ぐに伝声管を使い、射撃指揮所にいる砲術長へ修正値を伝えた。

それを聞いた砲術長は、射撃計算機を修正して仰角を算出し直す。

修正された仰角は直ぐに各主砲へ伝達され、発射諸元を修正する。

各艦の砲術士妖精は、この作業を如何に迅速に行う事が出来るが腕の見せ所であった。

各艦毎に、砲撃訓練で実測された数値と測距儀等の複数の数値を元に射撃計算盤をフル稼働させて、諸元を計算する。

この間、およそ数分間この作業を幾度と繰り返すのだ。

この時点で、日本海軍の砲撃術力は米軍、深海棲艦を遥かに凌駕していた。

それは日頃の教練の地道な積み上げの成果であった。

 

すずやは次に、

「榛名さん!」

「はい、榛名です」

脳裏に響く榛名の声

「弾着点は、問題ありません。やや散布角が広くなる傾向はあります、修正大丈夫ですか?」

「はい、榛名は大丈夫です」

「えっと次は、霧島さん」

「はい、霧島よ、鈴谷元気そうね」

「お蔭様で」

「聞いたわよ! あの世に行きかけたらしいわね」

すずやは、

「あはは、皆さんのお孫さんのお蔭で命拾いしました。で、弾着点は、問題ありません。補正情報は正確です」

「じゃ、このままでいいわね」

 

すずやが概念伝達を終えようとした時、

「そろそろ五十鈴達もいいかしら?」

すずやの脳裏に艦娘五十鈴の声が響いた。

「五十鈴さん!」

「鈴谷、やっぱり生きてたのね」

「へへ、最上型はしぶといですから」

「そうね、ぶつかっても生き返る強運艦だもんね。でそろそろ敵の飛行場まで1万5千になりそうなんだけど」

「はい、現在位置は敵飛行場から1万5千まで近づきました」

すると、五十鈴は、

「金剛大佐! 水雷戦隊砲撃はじめます!」

「Okネ! 五十鈴!」

金剛の返事が脳裏に響いたのと同時に、

「水雷戦隊! 砲撃始め!!!」五十鈴の声が木霊した。

「白露! 一番! 頂き!!」

「時雨 行きます!」

「やぁーっ!!!」

「喰ーらえー!!!」

五十鈴の号令とほぼ同時に白露達の掛け声が響き一斉砲撃が始まった。

本来なら、1,2発試射をして弾着点を見るのだが、既に金剛から距離、方位の諸元が刻々と発光信号で送られていた。

五十鈴達は、それを元に適時諸元を修正しながら、砲撃の機会を待っていたのだ。

 

駆逐艦五月雨の艦橋では、艦娘五月雨が独特の長い青髪を揺らしながら、

「もうドジっ子なんて言わせませんから! 砲術長! 射線確認した?」

すると艦橋に立つ砲術長は、

「はい! 安心してください! 比叡さんは向こうです! 間違ってもあたりません!」

そう言うと、前方を航行する戦艦比叡を指差した。

「じゃ、やるわよ!」

五月雨は気合を込めて

「主砲、交互撃ち方始め! やぁーっ!!!」

そう叫びながら 大きく右手をタロア島へ振り向けた。

「主砲、交互撃ち方始め!」

砲術長の復唱と同時に、駆逐艦五月雨の12.7cm連装砲が火を噴く!

 

戦艦4隻、軽巡、駆逐艦5隻の集中砲撃を受け、燃え上がるマロエラップ飛行場

絶え間なく光る閃光が島影を照らしていた。

 

「ああ~あ」と護衛艦こんごうの艦橋では、すずやがレーダーモニターを見ながら唸っていた。

既に9隻の艦艇による砲撃で 弾道計算モニターは放物線でいっぱいになり、何が何だが分からん状態である。

おまけに金剛以下の戦艦群は15.2cm単装砲や高角砲まで砲撃を始め、乱痴気騒ぎ状態となりつつあった。

そんな中、艦娘こんごうは慎重に、上空で警戒監視を行うE-2Jの情報をにらんでいた。

インカムを使い

「スワロー、こんごう! まだ標的は見つからない?」

すぐに操縦桿を握る飛行班長が出た。

「はい、艦長。現在島の北側を捜索していますが、見当たりません! 西側の礁湖内に侵入します!」

「了解、対空砲に注意しなさい!」

こんごうもレーダーモニターを睨みながら、目標を探した。

 

今回 こんごうに与えられた任務は、

「敵の通信、索敵施設を破壊する事」である。

飛行場本体は戦艦金剛率いる第四遊撃隊が殲滅するが、それ以外にも敵の司令部や通信施設、索敵機を破壊する必要があった。

「既に、司令部とおぼしき建物、通信塔は破壊したわ。陸上機は金剛お姉さまの達の砲撃で壊滅、残りは!」

その時 インカムに

「艦橋! CIC! 見つけました! PBYです!」

「砲雷長。どこにいたの!」

「はい、艦長。礁湖内です。島の西部の海岸線に6機を確認しました!」

「主砲で攻撃できる?」

こんごうの問いに、

「ちょっと距離がありますね。確実なのは航空攻撃です」

「分かったわ、上空で待機中のF-35による航空支援攻撃を申請して!」

「はい。航空支援攻撃を申請します!」CICの砲雷長はそう答えると直ぐに攻撃管制士官妖精は、上空で警戒監視飛行をするE-2Jを呼び出した。

「エクセル1-1、こんごうCIC」

「エクセル1-1!」

「航空攻撃支援を要請する」

こんごうの攻撃士官は攻撃目標のデータをC4Iを通じてE-2Jへと伝達した。

E-2Jの戦術士官妖精は送信されたデータに艦娘こんごうの承認コードを確認すると、

「エクセル1-1、了解。 航空爆撃支援を行う」

戦術士官妖精はコンソールを操作しながら

「スカル1-4フライト! エクセル1-1。ターゲットチャーリーに攻撃を行う」

「1-4Roger!」

直ぐに上空で待機する2機のF-35からの返答があった。

「コンタクト! こんごうスワロー!」

 

タロア島上空5千メートルで待機する2機のF-35J

スカル1-4のパイロット妖精は、ミッションチャンネルを使い、こんごうの艦載機を呼び出した。

「こんごうスワロー!! スカル1-4」

「こんごうスワロー! 戦術士官です」

F-35のパイロット妖精は、ロクマルの戦術士官妖精へ向け

「ターゲットは、視認できるか!」

「6ターゲット全て視認できる。レーザー照準を開始する。データリンク確認!」

こんごうスワローの戦術士官は、FLIRに装備されたレーザー照準器を使い、海面上に停泊する6機のPBYへ向け照準用レーザーを照射した。

それと同時に、レーザー識別コードをC4Iを使い上空で待機するF-35へと伝達する。

「データを受領した。順次攻撃にはいる」

F-35のパイロット妖精はそう答えると僚機へ向い

「1-4は、ターゲットチャーリー1から3。1-5は残りの3機だ」

「1-5Roger!」

2機のF-35は編隊を散開して、個別に爆撃体制へと入った。

機首下に装備された電子・光学式照準システムEOTSが、こんごう艦載機が照射したレーザー波を感知し、その情報を爆撃照準システムへと伝達する。

同時に胴体弾倉内に吊り下げされたMk82JDAM弾へとデータが転送された。

コクピットの兵装モニターに使用する3発のJDAMの状態が表示される。

兵装システムのJDAMの安全装置を解除し、素早く各種モニターを確認すると、

「マスターアーム! シムレッド、トリガーカバーオープン! 1-4Ready!!」

投下準備完了を宣言した。

 

「1-5 トリガーカバーオープン! Ready!!」

僚機も準備を整えた。

 

F-35のパイロット妖精は、

「1-5 そのまま直進してエリアに入るぞ!」

“パチ、パチ”と二回無線を叩くジッパーコマンドが返って来た。

2機のF-35Jは、高度を落として、タロア島の西部へと侵入を開始した。

「ドロップエリア! ドロップナウ!!!」

スカル1-4のパイロット妖精は、無線でそう言いながらトリガーを引いた。

瞬時に、胴体下部の弾倉のドアが開き、3発のレーザー誘導装置付きのJDAMが次々と闇夜の中へと溶け込んでゆく。

後方にいた僚機も、同じタイミングで3発のJDAMを投下した。

投下されたJDAMは、直ぐにロクマルが照準した各々のレーザー波を感知し、標的である海上に停泊するPBYへむけ一直線に吸い込まれていった!

 

“ドッッン”

 

重低音の腹に響く様な音が、闇夜に島に響き渡った瞬間、海面に6つの火花が立ち昇った!

「全ての標的の破壊を確認!」

こんごうスワローの戦術士官妖精の声が無線越しに聞こえる。

「スカル1-4フライト、Roger! エリアカバーに戻る」

2機のF-35Jは、主翼を翻しながら、闇夜の中に溶け込んでいった。

 

その間にも、戦艦金剛以下の第四遊撃隊によるタロア島砲撃は続いていた。

砲撃開始より既に15分が経過していた。

「金剛艦長! 散弾砲弾。予定分を消費しました! 零式通常弾へ変更します!」

「Okネ! 砲術長! 諸元修正急ぐネ!」

「はい!」

タロア島のマロエラップ飛行場上空では、砲撃の中。果敢に金剛の水観2機が吊光弾の投下を続けていた。

金剛は、その水観の機影をFCS-3で捉え、距離と方位を算出して、諸元計算を行っていた。

今まで、複雑な諸元計算をしていたが、FCS-3の導入でそれらは全て自動化されていた。

またFCSが故障した場合に備えあかしは、各主砲にレーザー測距儀を装備し、簡易諸元計算ができるようにしていた。

既に4基8門の主砲は交互撃ち方から独立打方へと変え、各主砲は、全力攻撃を行っていた。

おかげで艦内は凄まじい状況であった。

発射の度に轟音と閃光が艦内を包み込んでいた。

机の上の物が、衝撃でガタガタと動きまわる。

水兵妖精達がせわしなく艦内を動きまり、故障個所がないか見て回っていた。

既に建造から30年近い年月が過ぎようとする戦艦金剛

パラオで、最新の改修を行ったとはいえ、最新の艦に比べればその艦としての疲労度はかなり高い。

砲撃の振動で、いつリベットが吹き飛ぶかもという不安は拭えない。

しかし、艦娘金剛は、自分の艦に絶対の自信をもっていた。

「この金剛! まだまだ戦えるネ!」

そう言いながら拳を握った。

正直言えば、パラオ沖で敵のカ級の雷撃を受けた時は、“もうダメ”と諦めかけた。

でも、海の神は私を見捨てなかった。

こんごうちゃん達に助けてもらった。

パラオで最新の電探に船体の寿命延長改修を受けた。

新しくなった船体を見て、心に決めた。

「こんごうちゃん達に続く道を私が切り開く!」

艦娘金剛は、主砲の一撃に願いを込めた!

 

 

「砲撃終了予定まで 残り20分です!」

護衛艦こんごうの艦橋の艦橋に航海長の声が響いた。

こんごうは、再び艦長席に座り、じっとサブモニターを睨んでいた。

そこには、上空で監視飛行をするMQ-9リーパーの赤外線映像が流れていた。

滑走路は、あちらこちらに大穴が開き、そこが滑走路であったと言わなければただの荒れた土地といった方がよい状態であった。

簡易格納庫やバラッグ兵舎も、金剛の放った散弾砲弾で、大多数が破壊され、比叡の放った三式弾は、それらの建物を燃やし尽くしていった。

榛名、霧島が放つ零式通常弾は、駐機場にあった機体を粉々に粉砕していった。

既に、飛行場に人影と呼べる物はなく、ただ破壊を繰り返していた。

 

「ほぼ飛行場の滑走路と駐機場は破壊できたわね」

「艦長。こうなると、暫くは使えませんね」

サブモニターを覗き込むすずやが言うと、こんごうは

「そうね、飛行場としての機能はほぼ消失とみていいわ」

しかし、こんごうの表情は厳しいままであった。

その表情をみて、すずやは、

「艦長、何か気になる事でも」

するとこんごうは、サブモニターの画面を指差し

「すずやさん。そろそろ来るわよ」

すずや、そして副長以下の艦橋要員達の表情が厳しくなった。

「敵艦隊。動き出しましたか?」

「ええ、なにか混乱しているようだけど、数隻抜け出したみたい」

こんごうが指し示すサブモニターにが、タロア島北部海域に停泊していた50隻を超える艦艇群が映し出されていた。

「砲撃開始から既に10分以上経過していますが、動きが鈍くないですか?」

すずやの問いにこんごうは、

「答えは、これね」

そう答えると、リーパーの赤外線画像を拡大表示した。

じっと拡大されたサブモニターの画面をみていたすずやは

「あの、もしかして」

「そう、そのもしかしてよ」

「同士討ちですか?」

そこには、50隻超える艦艇群が、幾つかの塊を作って停泊していたが、その一部の艦で発砲炎が見受けられたが、どう見みても狙っているのは金剛達ではなく、別の塊の艦艇群だった。

照準が甘いのか。命中弾がないようであるが、かなり混乱しているのは見て取れた。

そんな中、数隻の艦艇が混乱から抜け出し、金剛達を迎え撃つように、島伝いに南下して来ていた。

 

こんごうは、インカムを操作して、戦艦金剛の艦橋を呼び出した。

「戦艦金剛、此方護衛艦こんごう」

直ぐに艦娘金剛から返事があった。

「Hi! こんごうちゃん!」

「お姉さま、警戒機からの情報が届いているとおもいますが、敵の小型艦艇4隻 多分大きさから駆逐艦だと思われますが、南下してきています!」

「此方でも確認しました。このままだと側面を突かれます。五十鈴達にインターセプトさせます!」

するとこんごうが、

「では、本艦が囮になりますので、その隙に五十鈴さん達に迎撃を。お姉さまの達はそのまま離脱進路を取ってください」

モニターに映る金剛は、ニコッとしながら

「大丈夫ですかと聞く所ですが、私は信じています! こんごうちゃんは負けません!」

「はい、お姉さま。お任せください」

こんごうは笑顔で返事をした。

 

こんごうは、艦長席にある艦内放送のマイクを取ると、切れのある声で、

「艦長のこんごうです。各部署へ達する。本艦の当初の目的であるタロア島の飛行場破壊ならび通信、哨戒機の破壊についてはほぼ成功しつつある。しかし、敵艦艇4隻が我が艦隊へ向け侵攻しつつある。本艦は、この敵艦に対し囮となり、日本海軍の水雷戦隊の支援を行う。対水上戦闘となる。各員、気を引き締めて掛かる事! 以上」

こんごうがマイクを置くのと同時にすずやの声が艦内に響く

「対水上戦闘用意!!」

「対水上戦闘用意!!!!」

艦橋内部でも、復唱され、緊張感が高まってきた。

 

こんごう内部で迎撃へ向け行動を起こそうとしていた頃、戦艦金剛より発光信号で指示を受けた軽巡五十鈴は、後続の白露達へ概念伝達を使い指示を出した。

「皆、出番よ! 敵駆逐艦4隻! 私達を追いかける為 南下してきているそうよ! 水雷戦隊で迎え撃つわよ!」

「おおお!!!」一斉に白露達から返事があった。

五十鈴は、

「よし、やるわよ! 各艦 右8点回頭!!」

五十鈴の号令と同時に各艦は一斉に回頭を開始した。

闇夜の中、綺麗な回頭をする5隻の艦艇

回頭を終了すると、即座に五十鈴を先頭に単縦陣へと移行してゆく。

金剛達から離れ、敵の駆逐艦隊へと進む五十鈴達

概念伝達を使い、金剛より

「五十鈴、電探の情報を送ります。そのまま直進、敵との距離は1万8千デス! 敵艦は左舷11時方向を反航してイマス!」

「ありがとうございます。金剛大佐!」

五十鈴は

「皆、聞こえてる! 敵はほぼ正面左を反航するわよ! 砲雷撃戦用意!!!」

「絶好の位置! 一番最初に敵艦いただき!」白露の声が脳裏に響く

「時雨、いつでも!」落ち着いた時雨の声

「まだまだ、これからです!」元気な五月雨

「一発おみまいしてやる!」気合十分な涼風

五十鈴を先頭に単縦陣を整えた。

五十鈴の脳裏に 再びすずやの声は響く

「五十鈴さん、すずやです。本艦も水雷戦隊の支援に入ります」

「支援?」

「はい、本艦が囮役になるので、その隙に雷撃戦を仕掛けてください」

「できるの?」五十鈴の問いにすずやは

「はい、本艦の性能と艦長の能力は、絶大です! 任せてください」

すると五十鈴は、

「さっきから気になるんだけど、その艦。鈴谷さんの艦じゃないわよね」

「はい、私の艦は現在絶賛修理中です」

「すると、その艦の艦長は、さっきちらっと見えた方かしら?」

「ええっ、と。その辺りは軍機ですので、という事に」

すずやはそっと話を誤魔化した。

「まっ、由良やその旦那さんも信用してるって事だし、任せたわ」

「はい、本艦は水雷戦隊の左舷後方に位置します。敵艦隊に接近し探照灯照射を行い、敵を引きつけます」

「了解よ、」五十鈴は、そう答えると、

「水雷戦隊各員へ、攻撃はすれ違いざまの一回のみ! 反航しての追撃は行わず、攻撃後は、最大戦速で海域を離脱します!」

「はい!!!」再び白露達の声が脳裏に響いた。

「電探情報伝達、敵艦4隻 距離1万6千! 位置左舷11時方向! 敵速18ノット!」

すずやから水上レーダー情報が伝達された。

「皆! もうすぐ見える頃よ! 視認次第砲撃開始、雷撃は各艦任意に行え!」

「了解!!」白露達の元気な返事が返ってきた。

五十鈴は、

「副長! 左舷11時方向 距離1万6千 敵は18ノット。見張り員は警戒を厳として!」

「はい、艦長!!」

五十鈴は、

「副長! ぎりぎりまで引きつけて、一気に叩くわよ!」

「はい!」

五十鈴が睨む先には、闇夜の中敵艦隊が此方へと向かってきていた。

 

護衛艦こんごうの艦橋では、水上レーダーが捉えた敵駆逐艦隊のエコーを見ながらこんごう達が話し合っていた。

「いい、五十鈴さんの性格からして、ぎりぎりまで引きつけて一気に叩く戦法だと思うけど、すずやさんはどう思う?」

「はい、私も同感です。夜間ですし、向こうは頼みのレーダーが使えないという事になれば余計に近距離砲雷撃戦で確実に仕留めに来ます」

こんごうは、副長や航海長を見ながら、

「本艦は、このままの位置を保ちながら、距離5千まで敵に接近し、左へ急旋回しながら探照灯照射、敵艦の注意をこちらへ引きつけます。相手が此方へ向ってくれば全力で回避、もしそのまま五十鈴さん達を狙うようなら、側面から主砲攻撃を行います」

こんごうはインカム越しに、

「砲雷長、それでいい?」

「艦長、了解です」

こんごうは、副長をみながら

「副長、五十鈴さん達との位置関係に留意して、向こうの雷撃進路に入らない様に」

「はい」

こんごうはそう言うと、

「よし! 敵艦隊まで1万6千! はじめるわよ!」

と気合を込めて、右手を大きく前へ振り出しながら叫んだ

「左 対水上戦闘!! 第5戦速!」

 

「左 対水上戦闘!! 第5せんそ~く!」

すずやが直ぐに復唱する。

操舵員の横に待機する機関操作員が

「第5戦速!!!」

と復唱しながら、2基のエレクトリックテレグラフを操作した。

一気に加速する護衛艦こんごう

機関操作員は、艦内電話をとり、機関室へ向い

「第5戦速!!」と通達すると電話から、

「第5戦速! 回転静定」と返事が返る。

機関操作員妖精は、機関の運転モニタ―を見ながら、

「両舷前進 第5戦速 赤黒なし! 回転静定!!」

と機関の運転状態を報告した。

30ノット近い速力で突き進む護衛艦こんごう

 

並走する五十鈴達をあっという間に置いて、前方へと繰り出した。

「さあ、私の艦の実力、見せてあげる」

そういうと、ぐっと前方の闇夜を睨んだ。

 

「支援艦! 加速して前に出ます!!!」

駆逐艦白露の艦橋に見張り妖精の声が轟く

「えええ、何あの速さ!」

白露は艦橋で、加速しながらあっという間に自分達を追い抜いて前方へ出た支援艦を見た。

五十鈴さんと支援艦に乗る鈴谷さんらしき艦娘との話を盗み聞きしていたので、大体の事は解っていたが、あの支援艦が囮役になって敵艦隊の注意をひくという事であったが、正直、“あんな艦で大丈夫?”と思ってしまった。

夕刻、すれ違った時に見た限りだと主砲らしき物は1基1門の単装砲

おまけに駆逐艦級が搭載する12.7cm砲のような感じだった。

船体の割に武装が殆どない。

“支援艦”という事だったから、てっきり燃料とか弾薬の補給支援の艦だとばかり思っていたが、凄まじい加速で、前方へと進みでた。

微かに見える航海燈や、月明かりに照らされた艦影を見ながら白露は、

「あの支援艦、かるく30ノットはでている。重巡級の大きさがありながら加速は駆逐艦より速いって、一体何者!」

驚きながら、遠ざかる護衛艦こんごうを睨んだ。

「艦長、そろそろ敵が見えてくる頃です」

白露副長の声に艦娘白露は、我を取り戻し、元気に

「さあて、一番に突っ込むよ!!!」

と発破をかけた。

「はい!!」

白露艦橋に元気な返事が響く。

 

第5戦速を保ったまま敵駆逐艦隊との距離を詰める護衛艦こんごう

「敵艦隊との位置、1万を切ります!」

艦橋内にCICからの位置情報が流れた。

すずやは、概念伝達を使い五十鈴達へ敵艦の位置情報を送り続けていた。

それと同時に発光信号でも情報を伝達していた。

「CIC、艦橋!」

「はい、CIC。砲雷長です」

「ECMは問題ない?」こんごうの問いに砲雷長は

「今の所、問題はありません。今頃向こうのレーダースコープはゴーストの嵐です。無線も無電もジャミングで使用できない状態です」

それを聞いたこんごうは、

「これなら、日本海軍伝統の夜戦でもいけるわね」

するとすずやは

「どこかの夜戦バカが聞いたら、小躍りしそうな状況ですね」

こんごうも苦笑いしながら、

「あんまりこう言う戦い方は “護衛艦”らしくないのだけどね」

「ですよね、やっぱアウトレンジで決めたいですよね」

すずやは、

「艦長、今回もフィールドを使いますか?」

「いえ、今回は足だけで躱すしかないわね。敵の本拠地です。どこで見られているか分からないし、五十鈴さん達もいますから」

すずやは、

「しかし、艦長。もう1万を切ったというのに、敵艦撃ってきませんね」

こんごうは、右手の人差し指で、左舷方向を指さして

「そりゃ、あれだけドンパチやったらそっちに気がいくわよ」

こんごうの指示した方向では、金剛率いる第3戦隊が、未だ激しくタロア島へ向け砲撃を加えていた。

発砲の度に、海面が赤く光り、金剛達の艦影を照らし出していた。

対する深海凄艦の駆逐艦隊は混乱しながらも、タロア島の南部海域で、マロエラップ飛行場へ向け砲撃を繰り返す金剛達へ向け全力航行していた。

4隻のイ級は、元々周辺海域の警戒艦としてタロア島周辺海域を周回していた。

たまたま砲撃が始まった時に北部海域に到達していた。

しかし、そこに金剛達のタロア島への砲撃が開始された。

金剛達の接近に全く気がつかなかった理由はいくつかある。

まず、イ級に装備されたレーダーが初期型で探知距離が短い事。

そのレーダーもこんごうのECM戦で完全に妨害されて使い物にならなかった。

次に艦隊間無線も無電も不通となり、対応におわれて周囲への警戒が疎かになった事

そして最大の要因は

“敵の艦隊が、ここまでくる事は出来ない”という思い込みであった。

前日、マジュロ島の近海で島に接近を試みた敵の重巡を航空攻撃で撃沈できた事も災いし、深海棲艦のマーシャル諸島分遣隊内部に油断が生じていたのだ。

“この海域の制海権は我が方にある”という思い込みであった。

周回警戒業務を終わり、艦隊本拠地へ帰り着いたと同時に、島が砲撃を受けた。

混乱する深海棲艦の艦隊群

たまたま闇夜の中、航行していた4隻の駆逐艦隊は、友軍から“敵艦隊”と誤認され、近隣の艦艇から機銃などで攻撃を受けたのだ。

駆逐艦隊は、“友軍に撃沈されてはかなわん!”と錨地から抜け出した。

その時、前方の水平線に無数の発砲炎を見た。

“敵艦隊か!”

慌てながらその発砲炎目指して全力で航行していたのだ。

そんな深海棲艦の駆逐艦隊へ向け、五十鈴達が密かに接近しているとは思いもしなかった。

頼りのレーダーはノイズでホワイトアウト、無線は使い物にならず連携を欠きながら、なんとか艦隊をまとめ、たった4隻の駆逐艦隊で反撃に出ようとしていたのだ。

 

「そろそろはじめるわよ!」

こんごうの声が艦橋に響く

「敵艦隊との距離 8千!!」

OPSレーダーをモニターしていた航海士妖精が敵艦隊との距離を報告した。

こんごうは、素早く、転舵を指示する

「取舵! 10」

「とりか〜じ 10」

操舵士妖精が、復唱しながら操舵輪を切る。

30ノット近い速力が出ているが、旋回はスムースだ。

少し艦橋が右へ傾いた。

「よし、これで敵艦の前方へでたわね」

こんごうは、艦長席のモニタ―を見ながら

「右舷探照灯、敵1番艦へ向け照射開始!」

「右舷探照灯、敵1番艦へ向け照射開始!」

艦橋要員が、探照灯の操作パネルを操作しながら、艦外モニターに映る敵1番艦へ探照灯の照準を合わせ、ロックした。

こんごうの装備する大型探照灯は、艦外モニターと連動しており、一度照準した標的を自動で追尾する機能を持つ。

そのほか遭難者救助の際のサーチモードや遠距離の発光信号モードなど機能を有する多機能探照灯である。

10km以上の照射距離をもつ探照灯が点灯され、即座に闇夜の中に煌々と敵駆逐艦隊を浮かび上がらせた。

その間にも護衛艦こんごうは、敵艦の前方へと躍り出てゆく。

 

「ごわっ!!」

突然、前方から眩い光で照らされた敵駆逐艦隊は慌てた。

「発見されたのか?」

「敵艦は何処だ!!」

先頭を行くイ級駆逐艦の艦橋では、突然の事に混乱していた。

眩い光を照射され、皆、手で光を遮るが、光源が強く、真面に前が見れない。

「敵艦を探せ!!」

すると見張り員が、

「敵艦、本艦の前方です! 光源右方向へ移動していきます!」

「追うぞ!」

右舷方向へ移動する光源へ向け、舵を切る深海棲艦の駆逐艦隊

 

「見えた! あそこよ!」

突如照射された敵艦隊

「イ級が4隻?」

五十鈴は 双眼鏡で照らし出された敵の駆逐艦隊を見た。

「イ級でも、前の2隻は艦橋の形状が少し違う。後期型というやつかしら。まあどっちでもいいわ」

艦橋要員が、

「敵艦、支援艦の探照灯照射につられて回頭し始めました」

それを聞いた五十鈴は、再び双眼鏡で探照灯に照らされた敵艦を見た。

「好都合だわ、このまま切り込むわよ!」

そういうと、

「砲術長! 砲測照準でいい! 準備でき次第撃ち方始め!!」

だが、一番最初に砲火を開いたのは、やはり

 

「一番最初にいただき!!」

後方の白露であった。

「敵艦は見えてるの! すぐそこよ! 砲測照準! 撃ちまくって!!」

白露の指示が出たのと同時に白露の艦首12.7cm連装砲が火を噴いた!!

 

それを皮切りに、時雨、五月雨、そして涼風の艦首主砲が次々と火を噴く

特に殿の涼風は

「えいっ!もってけドロボー! この前食らった分の倍返しだ!! 遠慮はいらねー!!!」

艦橋で叫び散らしていた。

それに答えるかのように砲撃を開始する12.7cm連装砲

 

敵駆逐艦隊は、未だ接近する五十鈴達に気が付いていなかった。

探照灯の光源である護衛艦こんごうへ向け、艦首を向けた瞬間 突然周囲に無数の砲撃を受けた。

艦を包み込むように幾つもの水柱が立ち昇った。

「おっ!」

とつぜんの砲撃に慌てる敵駆逐艦隊

「どこからだ!」

先頭のイ級駆逐艦の艦橋では、状況が呑み込めず狼狽える艦長達が騒いでいた。

だが、既に時は遅かった。

イ級達を襲った五十鈴達の砲撃は、次第に激しさを増し、確実にイ級達を追い込んでいった。

イ級達は、完全に反撃する機会を喪失した。

護衛艦こんごうからの強力な探照灯の照射をうけ、真面に敵艦の位置すら確認できない。

逆に五十鈴達は、ずずやから概念伝達で砲撃に必要な方位、距離の情報を流して貰い、

相対距離が8000mを切ったあたりからは、砲測照準で十分補正できる状況であった。

探照灯に照らされた敵イ級に無数の砲弾が降り注ぐ。

先頭のイ級に火柱が立った!

命中弾が出た。

それと同時に他の艦にも火柱が上がりはじめた。

「よし! そのまま押し切るわよ! 水雷長!! 魚雷の発射位置は任せたわよ!」

五十鈴の声に見張り所に控え得る水雷長は

「合点承知の助です!! 必ず当てて轟沈させてみせます!」

と大声で返事をした。

「副長! 敵の反撃が来ない内にもっと近づくわよ! あと1000は寄せて!」

「了解です」

五十鈴副長はそういうと、

「支援艦が上手く探照灯を照射してくれるお蔭でこちらへの反撃はありません」

「ええ、しかし、向こうは大変よ」

五十鈴はそう言うと、護衛艦こんごうの方を見た。

そこには、闇夜の中、幾つもの光の帯が、海上を流れていた。

 

こんごうは、右方向に敵駆逐艦隊を捉えたまま、回頭を続けていた。

「敵艦! 発砲!!」

右舷見張り員の声が艦橋に響いた

こんごうは、直ぐにSPY-1のレーダーモニターを睨む

そこには、敵艦の発射した砲弾が既に捉えられていた。

「面舵! 5! 切り込んで!!」

こんごうの鋭い指示が飛ぶ

艦首が右へ切り込む

護衛艦こんごうの後方に数本の水柱が立ち昇った。

「まだ、照準が甘いわね」

こんごうは、そう言いながら再び敵艦隊を見た。

五十鈴さん達の攻撃もはじまり、敵艦隊は混乱しているのが見て取れる。

こちらを攻撃するか、それともまだ位置のはっきりしない五十鈴さん達を攻撃するか、悩んでいるようだが、五十鈴さん達が、そんな敵の隙を見落とす筈もなく、一斉攻撃で相手を追い込んでいた。

「うわ~、五十鈴さん達容赦ないですね」

双眼鏡で、敵艦に弾着する五十鈴さん達の砲撃をみながらすずやは声を上げた。

「まあ、軽巡を中心とした水雷戦隊の十八番はやはり、夜戦だからね」

こんごうは、そう答えながら

「すずやさんも夜戦は得意じゃないの?」

「う~ん、どうでしょう? すずやの艦は最初は軽巡の扱いでしたけど元々重巡級で設計されたので、細かい動きは苦手です」

すずやは続けて、

「でも、今度の改装で機関も操舵系も一新して、護衛艦こんごう並みとはいきませんが、かなりいい線いっているとは思うのですけど」

こんごうは、ニコニコしながら、

「じゃ、パラオに帰ったら一度私と演習してみる?」

「えええ!」すずやは驚きながら、真顔で、

「いきなりボディーブローとか、なしですよ」

「あら、そう」

笑いながら返すこんごう。

その間にも敵艦は、探照灯を照射し続けるこんごうへ向かい、砲撃を散発的に繰り返していた。

その度にこんごうの指示で、華麗に砲撃を交わしてゆく護衛艦こんごう

五十鈴達の砲撃も激しさを増していた。

既に敵艦隊に数発命中弾を与えていた。

先頭のイ級は、後部から炎を上げ、後続艦も大なり小なり被害が出始めていた。

五十鈴は、艦橋から双眼鏡で闇夜の中、照らされた敵艦をみた

「だいぶ追い込んだわ。そろそろ仕上げかしら」

五十鈴副長が

「あと一息で撃沈できますが、よろしいですか?」

「構わないわよ、足止めできればいいわけだし、今回の作戦の本命はあっちよ」

そう言いながら、タロア島を見た。

既に金剛達の砲撃も佳境に入ったようで、主砲、副砲、高角砲など、射程が届く火器類がフル稼働して敵飛行場を業火で焼き尽くしていた。

「あれだけ叩けば、暫くは使えないでしょう」

その時、左舷見張り所から、水雷長が、

「艦長、そろそろいいですか!」

五十鈴は、左舷方向にみえる敵艦を見ながら

「頃合よ! 敵1番艦へ照準を合わせて」

「合点です」気合の入った水雷長の声が返ってきた。

直ぐに水雷長は、方位盤を操作し、射角を算出する。

長年の経験と勘を駆使しながら、最適な射角をはじき出した。

その諸元は、直ぐに左舷2基4門の魚雷発射機へと伝達される。

ゆっくりと回転しながら敵一番艦へ照準を合わせる魚雷発射機

「よう~い!!」

水雷長の号令に息を吞む水雷妖精達

「てー!!!!」

水雷長の発射の号令が響く!

 

“パシュー”

 

独特の圧搾空気の音と同時に、空中へ放り出され、次々と海中へと姿をけしてゆく魚雷達

「当たれ!!」

水雷長は、海中に消えた4本の魚雷を拝んだ。

五十鈴が魚雷を射出したのとほぼ同時に白露達も敵艦へ向け魚雷を発射していた。

各艦4本づつ、合計20本近い魚雷が敵駆逐艦隊へ向け猛進して行った。

その頃、敵の駆逐艦隊は、まだ混乱が続いていた。

なかなか反撃の糸がつかめないでいた。

そうするうちに、五十鈴達に完全押し込まれてしまったのだ。

五十鈴は、砲火の弱くなった敵艦隊を見ながら、

「信号手、支援艦へ発光信号! 水雷戦隊は雷撃を実施! 本海域より離脱する、続け」

「はい!」

信号手は直ぐに、発光信号を送信する為に艦橋から離れた。

「副長、白露達はついて来ている?」

「はい、艦長。脱落艦はありません」

五十鈴は、

「そろそろ 潮時かしら」

そう言うと、

「信号 各艦左一斉回頭! 戦域を離脱します!!」

立て続けに、

「主砲、撃ち方止め! 離脱します! 両舷前進強速! 取舵!」

「両舷前進強速! とりか〜じ!!!」

テレグラフの動く音と同時に操舵手が舵を切った。

艦橋が右へ揺れるのと同時に、艦首が左へと切れる。

ストップウォッチを握る水雷長が

「魚雷到達まで、30秒!!」

五十鈴を始め艦橋にいた幹部たちが一斉に敵駆逐艦隊をみた。

「お願い! 一本でもいいから当たって」

「そのまま、そこでじっとしてろ イ級!!」

幹部妖精達は祈る様に声に出した。

その時、敵艦隊の先頭を行くイ級に大きな火柱が一本上がった!

爆発の振動がここまで届きそうな大きな火柱だ!

「本艦の魚雷!! 命中です!!」

水雷長は興奮しながら声を上げる。

「や! やった! 当たったぞ!!!」

「うおおおお!!!」

肩を叩き合いながら大声で叫ぶ水雷妖精達

直後、後続の艦でも数本の火柱が次々と上がった。

「少なくとも2隻に魚雷が命中した模様! 敵艦隊炎上しています!」

マスト上の見張り妖精の報告が入る。

「よし!!」

五十鈴はぐっと拳を握った。

「航海長。全力で、金剛さん達を追うわよ、進路指示!」

「はい」

航海長は、海図の上の三角定規を動かしながら進路を定め、操舵手へ指示した。

右舷見張り所へ出た五十鈴は、右後方の海面に炎を上げる敵艦隊を見た。

「三隻燃えているみたいね、一隻じゃ追撃はできないだろうから、足止めとしては上々ね」

そう言うと、左舷方向の闇夜の中、航行する支援艦を見た。

軽巡五十鈴とほぼ平行する進路を取る護衛艦こんごう

こんごうの艦橋から、チカチカと発光信号が放たれた。

五十鈴の横に立つ信号員が解読し、声に出す

「宛て、水雷戦隊各艦。発パラオ泊地特務艦隊支援艦 本文 貴水雷戦隊の雷撃攻撃見事なり、本艦の電探で敵1隻の轟沈を確認。他3艦についても航行不能と判断される 以上」

五十鈴は、

「やっぱり、あの艦は由良の所の艦なのね」

続けて

「信号員、発行信号送れ! 宛てパラオ泊地支援艦艦長殿、発軽巡五十鈴艦長。本文 貴艦の探照灯の照射支援に感謝する。今度間宮羊羹をご馳走させていただくわ」

「はっ、」

信号員妖精は、直ぐに艦橋横の信号灯を使い護衛艦こんごうへ発光信号を送った。

 

それを見たこんごう達は

「すずや補佐。五十鈴さんが間宮羊羹驕ってくれるって、良かったわね」

「やりましたね。間宮さんの羊羹もいいですけど伊良湖さんの酒饅頭とかもいいですよね」

すると、こんごうは、

「大和さんのサイダーとか飲んでみたいわね」

「すずやも飲んだ事ないですけど、熊野が以前大和さんに行った時に飲んだらしいですけど、熊野の口には合わなかったみたいです」

「へえ~」

「熊野、ああ見えても意外とお子ちゃまですから」

「ふふ」と笑いながらこんごうは前方を航行する戦艦金剛達を目で捉えた。

「副長、そろそろ砲撃終了時刻では?」

「はい、丁度頃合だと思われます」

副長の返事とほぼ同時に、戦艦金剛以下の第三戦隊は、砲撃を止めた。

「発光信号 撃ち方止めです」

双眼鏡で、金剛の発した発光信号を解読したすずやが答えた。

こんごうは右手 タロア島のマロエラップ飛行場のある方向を見た。

そこには、赤々と燃えるタロア島の姿があった。

「これで、向こうは索敵、通信、そして司令部という目をなくしたわ」

「はい、艦長。かなり戦局は此方に有利です」

「すずや補佐、敵はどう動くと思う?」

「う~、そうですね」

すずやは少し悩みながら、

「日本軍に警告する為にマジュロ島を砲撃するとか?」

「それは、無意味ね」こんごうはそう言うと

「今回の行動で、日本軍は表向きには、深海棲艦の脅迫には屈せず、マーシャル諸島の統治権回復を優先するという意思表示した事になるわ。敵がしっかりとこの砲撃のメッセージを理解すれば、いくらマジュロ島を人質と言っても日本軍には影響ないという事を理解するはずよ」

「艦長。何か酷ですね、本当は人質解放したのに、表向きは見捨てという事になるとは」

「そうね。しかし、脅迫に屈して侵略を許すという行為は愚策だわ。一旦それを許すと次はもっと脅迫がエスカレート、即ち過激になるわ」

すずやは、表情を厳しくしながら、

「悩ましい所ですね」

「そうね。では、それがダメならどうすると思う?」

「間違いなく日本軍は自分達を攻撃してくるという事で、防御に出ます」

「でも。今回の砲撃で敵の司令部機能はほぼ喪失したわ。混乱する部隊で防御戦ができるかしら?」

こんごうは立て続けに聞いた。

思考回路をフル回転させてすずやは考えた。

「ううう」とうなり、

「はっ! 聯合艦隊が出てくる前に、中間線に防御陣をひいて迎え撃つっていうのはどうですか? 空母6隻で出てくる大和さん達を叩き、弱った所にル級flagshipが突入して止めを刺す。これなら互角に戦えます」

するとこんごうは、

「こっちには、赤城さん達がいるわよ、それに正体不明の超大型空母もいる」

「ですよね」と困り顔のすずや

「それだけ、今回の砲撃は、敵に与える影響は大きいわ。今頃敵の司令は、自分達の立っていた土台が脆く崩れ去った事を実感しているところよ」

すずやは眉間にしわを寄せながら、

「艦長。もしかして、由良司令が最初からいずもさんの攻撃力で捻り潰すのではなく、遠回しにネチネチ攻めたのはこの為ですか?」

「そういう事。今回の攻撃はマーシャル諸島作戦の転換点でもあるのと同時に、ミッドウェイの主への警告よ。“太平洋の治安を乱せば日本海軍は総力をもって反撃するという”メッセージです」

こんごうは、一言一言、嚙み締めるように言葉にだした。

そして、

「ミッドウェイはハワイも実質人質にしているわ。そう遠く無い時期にハワイが戦場になるかもしれないわね」

それを聞いたすずやの顔がさらに引き締まった。

“こんごう艦長の感はだいたい当たる、それまでに私の艦も”

 

ふいにこんごうは、前方を見て

「かなり撃ち込んだみたいだけど、お姉さま達の弾薬庫は大丈夫かしら」

「あれだけ撃ちましたから、今頃艦内は大騒ぎですよ」

すずやの心配は現実のものとなった。

 

「弾薬庫温度上昇しています!!!!」

戦艦榛名の艦橋に悲鳴に似た声がした。

「急いで、換気と冷却を!! 弾薬庫要員の避難はできているの!」

艦娘榛名は慌てながら答えた。

「はい。数名熱で倒れたようですが、現在医務室で治療中です」

「温度は!!」

榛名は鋭い声で聞くと

「艦長、誘爆の危険はありませんが、室温はかなり高いです。弾薬庫内での作業は危険です」

副長の答えに榛名は、

「仕方ありません。夜明けまでは空襲もないでしょう。今のうちに各砲の弾薬庫の冷却作業を急ぎなさい!」

「はっ」

砲撃は終わったとはいえ、まだまだ気の抜けない状態であった。

金剛をはじめとする金剛型4隻は、ある意味日本最古の軍艦である。

(若干一隻、名目上は最古でも中身は超最新艦がいるが・・・・)

竣工当初にくらべ、改修に改修を重ね、なんとか今現在も一線で戦う事が出来るものの、艦内の環境はお世辞にも良いといえず、問題も多数抱えていた。

主砲塔最下部にある弾薬庫は、戦闘中は防水隔壁が閉鎖され密閉状態となる。

主砲上層部と一体構成された弾薬庫は気密性が高く、熱がこもりやすい。

長時間の砲戦では、その熱で弾薬庫内は蒸し地獄状態となり、最悪兵員妖精達が熱射病で倒れる事もしばしばであった。

最新鋭の大和では、この点が改良され大型の冷房設備が装備された。

「これから、戦況は厳しくなるというのに」

榛名は、厳しい表情のまま、漆黒の闇夜をみた。

 

 

「終わったようじゃの」

トラック泊地の夏島、戦艦錨地に停泊する戦艦三笠の士官室で、艦娘三笠は自衛隊の護衛艦いずもより送信されてくるタロア島奇襲作戦の戦況状況を見て一言呟いた。

「五十鈴達に損害は?」

山本が聞くと、

「今の所はないと見るべきかの、自衛隊司令」

三笠の問いに、直ぐに前方のモニタ―にウインドが開き、自衛隊司令と副司令のいずもが映し出された。

「はい、こんごうからの戦況報告ならび上空で監視している無人偵察機からの情報からも、戦艦金剛さんをはじめ友軍艦艇に損害は出ておりません」

「こんごう君は無事なのか? 探照灯を照射していたが」

山本の問いにいずもは

「はい、敵艦からの砲撃はありましたが、全弾躱しております」

「流石だな。初めてこんごう君の演習を見た時も驚いたが、実戦でこれだけとは、いや素晴らしい」

山本は驚嘆の声を上げた。

いずもは、

「こんごうは、その辺は柔な鍛え方はしておりません」

含みのある笑みを見せるいずも。

三笠は

「現世最強の艦娘。そういっても過言ではないな」

「そこまでとは言えませんが、彼女の力はある意味未知数ですので」

いずもは言葉を選びながら答えた。

 

「自衛隊司令。早速で済まないが、戦果評価をしたい。現状の写真は手に入るか?」

宇垣の問いに自衛隊司令は、

「いずも。リーパーの映像を転送してくれ」

いずもは、司令指示に即答え、タロア島上空で偵察飛行を行うMQ-9リーパーの赤外線画像を戦艦三笠へと転送した。

士官室前方の大型モニターに、いまだに燃え上がるタロア島マロエラップ飛行場が映し出された。

いずもは、映し出された写真上にマウスポインターを表示させて、まず滑走路を指し

「此方の写真偵察班の解析では、まず滑走路は多数の命中弾により完全に使用できません。ほぼ完全に破壊したと言えます」

そこには、無数のクレーターに埋め尽くされた滑走路の姿があった。

「次に駐機場並びに周辺施設ですが、これもほぼ原形をとどめないほどに破壊されています」

いずもの指示した駐機場では、いまだ燃え続ける元戦闘機だった無数の鉄の塊が、無残な姿を晒していた。

「戦艦金剛さんの放った新型散弾砲弾と比叡さんの三式弾で地上の航空機は全て破壊されました。」

それを聞いた三笠は

「比叡め! 三式弾を地上へ向け撃ったのか?」

「その様ですね」いずもの答えに宇垣が、

「規則では、三式弾は秘匿兵器ですので、地上への使用は厳禁の筈ですが」

「まあ、致し方ないのではないでしょうか。ここまでの行程で対空警戒の為、揚弾して装填していた為にそれを使いきるまで撃つしかなかったという状況ではないかと」

いずもは、三笠や宇垣の問いにそう答えた。

「まあ、いいじゃないか。結果よしだよ」

山本の声が室内に響く、そして、

「自衛隊司令、最大の標的は捉えたのかい?」

「はい。敵基地司令部ならびにPBY部隊は完全に破壊しました」

口元に笑みを浮かべながら自衛隊司令は答えた。

司令の返事と同時にいずもが、

「まず、敵司令部とおぼしき建物についてですが、こんごうの127mm速射砲により完全に破壊しました」

そういうと、リーパーが捉えたこんごうの127mm砲が命中し、粉々に砕かれて行く司令部棟を映し出した。

「凄い」

長門は、その映像を見て唸るように一言

「127mm砲というと、我が海軍の駆逐艦の単装砲と同じ口径ですが、そんなに凄いのですか?」

大和が不思議そうに聞くと長門は

「大和、よく見ろ。あの砲撃はほぼ全弾建物に命中している。この砲撃は確か3万近くで始まったはずだ。小口径弾をそこまで飛ばす事も凄いが、全弾挟叉もしくは命中となると、その技量は計りしれん」

腕を組み、じっと映像を見る長門

「しかし、長門さん。こんごうさんは最新の電探照準機構をもっていると聞きましたが」

大和が長門に問うと、

長門は表情を厳しくし、

「いいか、大和。この金剛達は第一戦速を保ったまま砲撃を開始した。そこまで速力を出せば、艦は大きく揺れる。それは理解できるな」

「はい」頷く大和

「そうなれば、主砲の砲角を一定方向に維持するだけでも至難の業だ。今回の奇襲作戦の要員は、その辺りの練度の高い艦娘が選抜されている」

長門は、腕を組みながら、

「大和、よく覚えておけ。どんなに装備が最新で素晴らしい物でも、それを操作する妖精兵員達の練度が低ければ宝の持ち腐れだ。心技体。何ものにも屈しない強き心を持ち、それを裏付ける確かな技術、そしてそれを支える身体、いわば船体。それ等が揃って初めて、戦果が出る」

長門はそう言うと、重く

「この子は、その全てが揃っている。多分私でも敵わない」

「長門さんでもですか?」

大和が聞くと

「一度、機会があれば演習をお願いしたいが、早晩結果が見えている気がする」

「それでもやるのが、お主の性じゃの。長門」

「はい、三笠様。ビッグ7と呼ばれた私です、元聯合艦隊旗艦は伊達ではありません」

三笠は長門の答えを聞き満足そうな顔をした。

 

 

宇垣が話を続けた、

「いずもさん。敵の哨戒機については?」

「それは、此方をご覧ください」

ロクマルのレーザー誘導によりF-35Jの投下したLJDAMが、停泊中のPBYを次々と破壊するシーンが映し出された。

「確かピンポイント爆撃というそうだな」

「はい、宇垣参謀長。特殊な波長光線を目標に照射し、上空から別の航空機が投下した誘導装置付きの爆弾が指定目標に確実に命中する仕組みです」

宇垣が、

「いずもさん。時代の流れは今後この様な誘導兵器へと大きく変化するという事だな」

「はい、現行の技術ではまだ実用性に乏しいですが、既にその基礎は出来つつあるという事です」

「気合じゃ、弾はあたらんよ」

山本はそっけなく答えた。

「はは、比叡が聞いたら泣きますな」

宇垣が笑いながら答え、

「敵の動きが思ったより鈍かったですな。もし少し猛反撃されるかと思ったのですが」

「自衛隊司令、敵の追撃はないのか?」

「はい。山本長官 今のところ金剛さん達を追撃する艦隊はありません。夜明けと同時に航空機による追撃が予想されます」

「そうなると、瑞鳳達の出番という事だな」

「はい」

瑞鳳率いるパラオ艦隊は、すでにタロア島とポンペイ島の中間地点で待機していた。

敵の空母群に動きがあれば、瑞鳳隊ならびにいずもに展開する鳳翔隊が駆けつける手筈であった。

「なお、先程話も出ましたが金剛さん達へ接近を試みた敵駆逐艦4隻ですが、五十鈴さん達水雷戦隊に行く手を阻まれ、追撃に失敗しています」

いずもは、五十鈴達に砲撃されるイ級4隻の映像を表示した。

そこには、護衛艦こんごうにより探照灯を照射され姿を映し出されたイ級4隻がはっきりと捉えられていた。

そして、そのイ級艦隊へ向け全力砲撃をする五十鈴達の姿があった。

巧みに敵艦の砲撃を躱しながら、探照灯照射を続けるこんごうをみて大和は

「たしか、こんごうさんは重巡級の大きさがあったと思いますが機動性が凄いですね」

「はい、大和さん。こんごうを含めて私達自衛隊の艦艇は機動性を重視して設計されました。こんごうは特にあのような動きが得意です」

いずもは大和の問いに答えた。

「そういういずも殿もいつぞやは、敵の放った必中の魚雷を交わしてみせたの」

「フフフ、そういう事もありましたね」いずもは含みのある笑いで三笠の問いに答えた。

大和は、そっと

“あのような機動力を私や武蔵に取り入れる事ができれば! 私達はもっと活躍できる”

そう心に思った。

 

戦艦大和

 

現世最強の軍艦

3基9門の46cm砲を装備し、その巨大な艦は見る者に“鉄の城”と言わしめるほど強大な存在であった。

しかし、その強大な船体ゆえの欠点もあった。

“鈍重なのである“

とにかく、舵の効きが悪かった。

熟練の操舵員妖精をもってしても真っ直ぐ進む事すら至難の業であり、回頭などは舵を切ってしばらくたってから効き始める始末である。

大和は内心、

“この操舵性で、本当に敵の攻撃を躱す事ができるのか?”と不安であった。

 

大和の不安をよそにモニターの中のいずもは

「五十鈴さん達の夜戦により敵駆逐艦隊の1隻を撃沈、3隻についてはその場で航行できない状態です。事実上中破以上と判定します」

「まずまずの戦果じゃな、儂がおれば全艦沈めてやったものを」

「そういうな、三笠。五十鈴や白露達の装備では十分すぎる戦果だよ」

山本はそうこたえると、横に座る宇垣も

「まあ、金剛始め参加艦艇に被害が出ず、敵航空基地は壊滅。追撃してきた駆逐艦隊も撃破できたとあればいう事ありません」

「あの、それと」

宇垣の話にいずもが

「この映像を見ていただけますか?」

そういうと画面に、敵主力艦隊が錨泊する付近を上空から捉えた夜間赤外線映像を映し出した。

流れる映像を見た長門が

「味方撃ちしている?」

「三笠様、もしかしてこれは」大和も驚きながら

「誤射じゃの、金剛達の砲撃に驚き、急に動き出した艦を敵と間違えて攻撃しておる」

そこには、闇夜の中動き出した軽巡を敵艦と誤認し、対空機銃で攻撃する駆逐艦の姿が映し出されていた。

いずもは、

「これ以外にも数か所で深海棲艦の同士の誤射が確認されています。この誤射による轟沈艦はいない模様ですが、現場は現在も混乱している状況です」

山本は腕を組み、

「これが、金剛達を追撃できない理由の一つだな。この状況下で下手に動けば、味方撃ちされかねん。状況が落ち着くまで、最低でも夜明けを待つ必要がある」

「はい、継続して護衛艦こんごうならび上空の早期警戒機より敵の通信、電探への電波妨害戦を継続して行っています。現在も敵の通信、電探は完全に機能していません」

同席していた黒島作戦参謀は、

「我が海軍は、いえ日本軍自体が電子作戦について、研究はしていますが、実用性に懐疑的な意見が多く、欧米各国の装備より劣っているのは否めません。今回の作戦の勝因を検討するにあたり、自衛隊の活動なくしては成功できない作戦であったと自分は考えております」

山本は、

「自衛隊司令。済まないね。今回もこんごう君を始め自衛隊の関連する部分は、極秘扱いとさせてもらう。この攻撃はうちの金剛達が敵地を強襲し混乱を与えたという事で報告したい」

「はい」自衛隊司令は静かに答えた。

 

宇垣が

「大淀、軍令部への報告は?」

「はい、既に作文の筋書きは出来ております。敵艦の追撃を受け、金剛さん達に多少被害が出たという部分を補足して報告しておきます」

「うむ、それで頼む」山本はそうこたえると、

「さて、これで全てのお膳立ては整った」

その言葉に 室内の空気が一気に緊張した。

 

「時は熟した。出撃じゃの」

三笠の声が室内に響く

 

頷く長門に大和達

 

「大淀。明朝ヒトマルに、作戦参加する全ての艦隊司令並び旗艦艦娘を夏島の司令部へ招集。陸軍の山下中将にもお声がけをしてくれ。最終の軍議を開催する。出撃予定は明後日マルロクマル時より開始する」

山本は大淀を見ながら、指示を出した。

「了解いたしました。取り急ぎ各方面へ連絡いたします」

そう答えると、席を立ち士官室を退出する大淀

山本は壁面の時計を見た。

深夜2時を回っていた。

「大和に戻ってもう一眠りする時間はあるな」

トラック泊地の夜は深々更けて行った。

 

 

タロア島に朝日が昇る。

その朝日に照らされるマロエラップ飛行場だった場所。

そこには、無数の穴が開き、未だあちらこちらで、何かの残骸が燃え上がっていた。

島全体を覆うように黒煙が覆い、硝煙と様々な物が焼ける匂いが漂うなか、ル級flagshipは呆然と立ち尽くした。

じっと司令部の建物があった辺りを見回した。

そこには無数のコンクリート残骸が散らばっていた。

一人無言のまま、トボトボと歩きながら周囲を見回した。

「司令」

静かに声を掛けられ振り返るとル級elite副官であった。

「副官、負傷者の収容状況は?」

「はい、司令。現在手分けしておりますが・・・」そこまで言うと声を詰まらせた。

「絶望的か」

「残念ながら」副官はそう答えると続けて、

「目撃情報によると、大型戦艦4隻、軽巡を含む水雷戦隊での奇襲でした。混乱の中、我が方の駆逐艦4隻が接近を試みましたが、敵水雷戦隊の反撃を受け1隻轟沈、残りは航行不能。現場海域で待機しております」

「その3隻は修理はできるのか?」

「今はなんとも」副官は小さな声でそう答えた。

その時、滑走路のあった方向から轟音が響き、火柱が上がった!

大量に舞い上がった土砂が、まるで雨のようにル級eliteたちの頭上へ降り注ぐ

「司令!危険です!」

副官のeliteはル級司令を庇うように身を乗り出したが、

「構わん」

ル級司令はそれを振りほどくと、

「敵の追撃か!」

すると副官のeliteは

「いえ、多分不発弾が炸裂したと思います」

「不発弾だと!」

「はい、司令。昨夜の砲撃の際、多数の不発弾が着弾しております。今朝から撤去作業をして・・・」そう言いかけた瞬間、今度は滑走路の端から火柱が上がった!

再び多量の土煙が周囲を覆う。

「処理を止めさせろ! これ以上の被害は無益だ」

「しかし、飛行場の復旧が」副官が反論したが、ル級司令は、

「致し方無い。飛行場は放棄する」

「司令!!!」

「副官、基地の設営部隊は先日ミッドウェイの指示で撤収した。今から呼び戻す事はできない。それに今からでは多分決戦には間に合わない」

副官は、厳しい表情のまま、

「分かりました」

そういうと後に控える兵員を呼び ル級司令の指示を伝えた。

 

ル級司令は、再び歩きある所で止まった。

目の前の地面に落ちていた軍服の上着を取る。

その軍服はパイロット妖精の飛行服で、所々に焦げた後と、黒く変色した血の後があった。

「ダメだったか」

そう小さな声で呟いた。

その飛行服には、A-20爆撃隊の隊長の階級章が付いていた。

そっと目の前の光景を見た。

そこには、本来塹壕があった筈だ。

だが今は巨大なクレーターがあり、無数の黒煙に包まれていた。

「くっ!」

ル級司令は右手に持った飛行服を握りしめると、

「許さん! 山本! 三笠! この仇 かならず取らせてもらう!」

ぐっと腹の底から唸った。

振り返ると、副官へ向い

「副官! 各艦隊司令を招集! 全力出撃用意!」

「はい! ル級司令!!」副官は敬礼すると急ぎ走り去った。

 

ル級司令は黒煙舞う元飛行場で、

「必ず勝つ!」

強く声に出した。

 

その頃 護衛艦こんごうを含めた第四遊撃隊は、マジュロ島北部海域まで全力で退避してきていた。

「対空情報に留意して!」

護衛艦こんごうの艦橋でこんごうの指示が飛ぶ。

直ぐにインカム越しに、

「CIC対空監視士官です。現在の所本艦を中心に半径200km圏内に敵性航空機を認めません」

「水上はどう?」

「はい、水上についても特に動きはありません。完全に敵を振り切りました!」

砲雷長の声がインカムから聞こえる。

「ふう」

こんごうは深い息をつきながら艦長席の背もたれに身を預けた。

時計をみるともうすぐ午前7時を回ろうとしていた。

「副長、戦闘態勢を解除。警戒態勢へ」

「はい。警戒監視体制へ移行します!」

直ぐに艦橋付の号令妖精が艦内放送を流し警戒監視体制へとシフトした。

艦内の水密ドアが開放され、戦闘態勢が解除された。

緊張の糸がほんの少し緩む。

「お疲れ様でした」

そっとすずやがマグカップを差し出した。

「ありがとう」

差し出されたカップを受け取るこんごう

「すみません。珈琲しかご用意できなくて」

すずやが申し訳なさそうにいうと、

「贅沢はいえないわよ。本来艦橋は飲食禁止ですからね」

そう言いながら、そっとカップの中の珈琲を一口飲んだ。

「う~ん、生き返るわね」

艦橋では、警戒監視体制へ移行した事で、監視要員が交代引継ぎが行われていた。

「副長も少し休みなさい」

「はい、ありがとうございます。引継ぎ終了しだい順次休憩に入ります」

副長や航海長達は引継ぎの為の打ち合わせに入った。

すずやは

「今回の夜戦。予想以上の成果でしたね」

「そうね。敵飛行場は完全に破壊され、敵艦隊は完全に足止めされた。予想以上に敵に圧力をかける事に成功したわ。今頃敵は、呆然と立ちつくしている頃ね」

「今頃、トラック泊地では、宇垣参謀長の笑みが浮かんでいる頃ですか?」

「そういう事ね」

「しかし、今回の攻撃。金剛型戦艦を4隻も投入しなくても良かったのではないでしょうか? 金剛さんと榛名さんだけでも十分成果が出たかと思うのですが?」

こんごうはすずやを見ながら、

「すずや補佐は、私達の次元の大戦の経過は勉強したわね」

「はい、艦長。太平洋戦争、日本名の大東亜戦争については一通り」

「その中にヘンダーソン飛行場砲撃というのがあるのは知ってる?」

「読んだ記憶が、確かソロモン諸島に関する戦闘の一環ですね」

「そう、ガダルカナル島の深海棲艦へンダーソン飛行場を攻撃した戦闘。私の祖母の戦艦金剛と榛名様がヘンダーソン飛行場を奇襲砲撃したわ。両艦で合計900発近い砲弾を撃ち込んだの」

「900発!」

驚くすずや

「敵のヘンダーソン飛行場は完全に破壊されたわ。しかし敵はこの数日前に別の場所に第2飛行場を完成させていたの」

「えええ!!!」

こんごうは続けて、

「第2飛行場の事を知らない日本軍はガダルカナル島の航空戦力は壊滅したと思い込んで、ガダルカナル島への上陸作戦を実施したわ、しかし第2飛行場から飛来する敵航空機に壊滅的な被害を被るの」

こんごうは続けて

「日本軍の情報収集能力不足が露呈した戦いだったともいえるわ。飛行場は壊滅させたけど、すでに代替地があるとは思わなかった、戦況情報のみで戦った結果よ」

こんごうは、

「今回の作戦にあたり、聞く所によると宇垣参謀長と黒島作戦参謀はあらゆる手を使ってこのマーシャル諸島における深海棲艦の活動情報を集めたそうよ。もちろん私達自衛隊の探知情報から、駆逐艦での威力偵察にはじまり現地人を使った潜入偵察も実施したそうよ」

「そこまでやったのですか? 艦長」

「ええ、その結果。敵の航空戦力がこのタロア島と例の中間基地にある事を掴んだ。そして中間基地は陸攻隊で、そしてこのマロエラップ飛行場は戦艦の圧倒的砲撃力で潰す事を決めたの、中途半端な攻撃は敵に復旧の機会をあたえるわ」

「艦長。それで、戦艦4隻ですか?」

「そういうことね」

すずやは、

「黒島作戦参謀も思い切った事をしますね。もし敵の猛反撃があれば貴重な戦艦4隻を失う事になりかねませんよ」

こんごうは、

「ふふ、これはいわば敵に対する猫パンチよ」

「猫パンチ?」

こんごうの答えに驚くすずやに、こんごうは再び

「相手の意表を突く、素早い動きで最大の威嚇行為をするという意味で、猫の喧嘩の様なものだわ」

すずやは、呆れた顔になり、

「黒島作戦参謀も大胆になりましたね」

「そうね、私達のもう一つの大戦の戦訓は黒島作戦参謀はじめ多くの人々に深い戦訓を与えたわ。このままいけばどういう結末を迎えるか、殆どの人が想像しながら目を背けた結果が形となって見えた筈よ」

こんごうはそう言うと、深く

「私達がこの次元へ送り込まれたのは、それを回避するだけじゃなくて、如何に新しい時代を築いていけるかという試行だと思うの」

「艦長、試行ですか?」

「ええ、すずやさん、既にこの次元の流れは私達の先達が経験した歴史とは違う流れになったわ。それは私を含めて皆に新しい流れを作れという海神の問いに聞こえるの」

「そういうものなのですか?」

「まあ、その答えは、まだ先にあると思うわ」

そういうと、こんごうはそっと艦橋の右舷方向を見た。

そこには、戦艦金剛を先頭に離脱進路を進む第四遊撃隊の艦艇の姿があった。

 

「艦長、そろそろ変針点です!」

航海長の声に、こんごうは

「では、予定通り日本海軍部隊より分離します」

「はい!」航海長の返事が艦橋に響く

こんごうは、艦長席のモニターを操作し、戦艦金剛の艦橋を呼び出す

直ぐに

「Hi! こんごうちゃん!」

艦娘金剛の元気な姿がモニターに映し出された。

「お姉さま、そろそろ本艦は御暇いたします」

それを聞くと金剛は、寂しそうな顔をして、

「もうそのような時間デスカ?」

「はい、本艦はこのままマジュロ島北部海域に留まり、敵艦隊の動きを監視する任務があります」

こんごうはそう答えると、

「既に情報は伝わっていると思いますが、敵艦隊並び航空機による追撃は今の所ありません。このままポンペイ島まで退避できると思います」

「それは此方でもモニターしています。ここまで来ればいきなり空襲される事もありませんし、もう少し行けば瑞鳳の航空隊の支援がアリマス!」

そう言うと金剛は、

「次は何時会えるでしょうか?」

「それは、まだ分かりませんけど、本作戦が終われば暫くはパラオにいると思いますので」

こんごうはそう答えたが、確信はなかった。

「では、またパラオに遊びにいきます! 皆でティータイムしましょう。すずやもどうですか?」

「はい、金剛大佐! ご一緒させてください」

すずやの元気な返事が返った。

「では、決まりデス!」

嬉しそうな顔をする金剛

「では、これより本艦は変針して、艦隊より離脱します」

「Okネ! こんごうちゃん、これからも気を付けてネ」

「はい、お姉さまも帰路お気を付けて」

こんごうはそう返事をすると、

「航海長 変針! 進路をマジュロ島へ」

「はい、艦長! 進路をマジュロ島へとります」

航海長は、即座に進路をマジュロ島へ向ける為に指示を出した。

こんごうは席を立ち、右舷見張り所へと出て、通信士妖精に向い

「通信! 発光信号。宛て第四遊撃隊各艦艦長殿 発パラオ泊地特務艦隊支援艦艦長 これより本艦は別任務の為、艦隊より離脱する。各艦の艦長に敬意を表すると共に、皆様の武運長久を祈る。以上」

信号手妖精がメモを取りながら復唱すると、直ぐに艦橋の入力端末から電文を入力した。

すると自動で信号用探照灯が起動し、パタパタと各艦へ向け発光信号を送信し始めた。

旧式の護衛艦なら手動でパタパタと信号用探照灯を操作するのだが、最新鋭護衛艦こんごう型では、省力化という事で、この手の操作は自動化されていた。

無論、ちゃんと信号手は手動でも送信できるように訓練を積んでいた。

 

返事は直ぐに帰ってきた

「各艦の艦長からです」

受信した発光信号の通信文を渡す信号手妖精

そこには各艦の艦長より、砲撃支援ならび駆逐艦への探照灯照射に関する支援への感謝の言葉が綴られていた。

それを受け取りながら、すずやは、

「そう言えば、艦長。今回は概念伝達を使いませんでしたね、何故ですか?」

するとこんごうは、

「だって私は金剛の艦魂を受け継いでいるのよ、概念伝達は基本、艦魂の個別波動を識別して相手を特定するの。金剛お姉さまと同じ波動で話しかけられたら、五十鈴さん達は混乱するわよ」

「ああ、なるほど。そう言う事ですか」すずやは納得した。

こんごうは

「それに私たちの存在は秘匿されていますからね、日本海軍のパラオ泊地の艦娘さんや三笠様や金剛お姉さま達のような一部の関係者を覗いて他の艦娘さんと接触するときは、すずやさんにお願いする事になるわね」

するとすずやは

「すずやの艦の改修の際に、由良司令が“重巡鈴谷の面影を残すように”ってあかしさんに注文したのはその為ですか?」

「そういう事ね。すずやさんは私達自衛隊と日本海軍を繋ぐ役目もあるわよ」

「なにか、物凄く重責ですけど、すずやにできるでしょうか?」

不安そうな顔をするすずやに、こんごうはにこやかな顔をしながら、

「こう思うのよ。他人ができるなら自分もできる」

「じゃ、艦長。他人が出来ないときは?」とすずやの問に、こんごうは、笑顔を崩さず

「他人ができなくても、自分ならできる」

「えええ、それじゃ、出来るって言い聞かせるって事じゃないですか」

「おっ、鋭い」とこんごうは笑いながら、自らが座る青と赤のシートが掛けられた艦長席を指さし、

「いい、護衛艦の艦長席は誰でも座る事ができる席じゃないわ。海上自衛隊でも厳しい教練と鍛錬を積み重ねた艦娘だけがあの席にたどり着くの。それだけ重責を担う事も多々あるわ。自分の行動一つが、国の運命を決める事案だってある。その時自分が迷い、負けてしまう様ではあの席に座る価値はないわ」

こんごうは続けて、

「自分に勝つという事は、意志だけではダメよ。心技体、これが揃って初めてできる事なの」

頷くすずや。

「もうすぐすずやさんの艦は改修が終わるわ。パラオに戻ったら、厳しい教練がまっているわ、でもその先にあるのは、新しい“護衛艦すずや”よ」

「はい!艦長! すずや頑張ります!」

すずやはぐっとこんごうの顔を見た

「その意気ね」

その時 艦橋から航海長の声がした。

「艦長! 変針点です! 取舵切ります!」

「はい! 取舵! 進路マジュロ島!」こんごうの声が右舷見張り所に響く

艦橋で航海長は、進路をマジュロ島へ向ける為操船指揮を執った

艦首が、大きく左へ切れる。

短い短音の汽笛が2回鳴った。

戦列を離れ行く護衛艦こんごう

こんごうは右見張り所へ出て右手の第四遊撃隊の戦列を見た。

各艦の左舷に多くの水兵妖精達が出て皆“帽フレ”で護衛艦こんごうを見送ってくれていた。

此方も甲板右舷に隊員妖精達が一斉に整列して、それに答えた。

こんごう、そしてすずやも姿勢を正し敬礼し、離れゆく戦艦金剛を見ながら

「お姉さま、また逢いましょう」

こんごうは、そっと呟いた。

 

「ああ!! こんごうちゃんが離れていく」

戦艦比叡の艦橋上部の戦闘指揮所で、艦娘比叡は双眼鏡で護衛艦こんごうを食い入るように見ていた。

そこには此方へ向い、姿勢を正し、凛々しい立ち姿で敬礼する艦娘こんごうの姿があった。

そんな艦娘比叡の姿を見ながら、横に立つ比叡副長は諦め顔でそっと声に出した。

「だめだ こっりゃ」

 

戦いの舞台は、決戦へ一つ駒を進めたのである。

 

 




こんにちは、スカルルーキーです
「分岐点 第67話」をお送りいたします。

新元号 「令和」になって最初の投稿であります。
10連休という今までにない長期の休みでしたが、恙なく新天皇の即位も終わり、令和という時代の始まりではありますが、いつもと変わらない日々を過ごしております。

そう言えば、最近時代の流れを感じる事が、ありました。
連休前に所用で、役場へ出向いたのですが、受付で申請用紙を記入する時、申請者の生年月日を記入する欄をみて、以前は、「大正、昭和、平成」の三つの元号が記載されていましたが、今回の用紙には、「昭和、平成」と空欄が少しありました。
少しずつではありますが、時代が流れてゆくというのを感じております

次回は 出撃編です!
では


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