分岐点 こんごうの物語   作:スカルルーキー

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突如 現れた所属不明の艦隊
眼下に見える もう一人の自分

彼女達は…


6.はじめまして

なんとか 急場をしのいだ感がしていたが、問題はまだ山積していた

「こんごう まずは一安心だな」

 

「司令 ありがとうございます」

 

「では こんごう、次のステップに移ろう」

「金剛さんと面会してきてくれ」

 

「はい?」やや驚く こんごう

「面会ですか?」

 

「このまま さようなら とはイカンだろう?」

「船体の応急修理をして パラオへ引き渡す。急がんと転覆するぞ」

 

「はい 司令。急ぎ接触します」

 

金剛の艦橋では、先程の戦闘の戦闘詳報の作成で騒がしかった

誰も 経験のない戦闘で、理解できないのだ

そんな時 見張り妖精が

「前方の不明艦より 発光信号です」

「ワレ コレヨリキカンへムカウ ジョウカンキョカ ネガウ」

 

「乗艦ですか?」と 金剛は言う

 

「どうしますか 艦長?」

暫し考え 金剛は

「お礼も言いたいし 説明も聞きたいデス。許可シマス!」

 

発光信号で 返信しながら、金剛は

「航行中の艦へ どうやって来るのでしょうかね、副長?」

 

「内火艇辺りを 出すのでしょうか?ラッタル下しますか?」

 

「まだ いいデス 様子を見ましょう」

 

こんごうの後部ヘリデッキでは こんごうが 副長を待っていた。そこへ

「艦長 揃えてきました」と 副長が タクティカルバッグを下げて来た

 

「ありがとう 副長」とお礼を言いなら、それを背負う こんごう

 

「それと これも一応準備しましたが、どうされますか?」と差し出した 

こんごう 愛用のブラックホークCQBホルスターに入る 9mm拳銃と予備弾倉だ

 

「うん 要らない、お祖母様が本気で怒ったら そんなモン豆鉄砲よ」

 

「じゃ 武器庫へ返却しておきます」と 副長

 

「後はお願い、ちょっと行ってくる」

 

「では お気を付けて」と艦内へ下がる 副長

 

「さてと、やりますか」と気合を入れる こんごう

戦艦金剛まで 約200m 普通なら内火艇とか ヘリで移動するのだけど 時間がないので、21世紀生まれの艦娘のとっておきの技を披露シマス!

「フィールド展開 形成!」と命じる

左手のブレスレットが光り、青い板が足元に浮かびあがる

「まっ こんなもんか」と言いながら 右足を乗せる、続いて左足を前に出すと その先には 同じように青白い板が浮かびあがる

そうやって彼女は テクテクと 金剛まで空中を歩いて 渡っていった

 

金剛は 艦橋で前を航行する こんごうの後部を見ていた

艦娘とおぼしき女性と 妖精が何やら話しているのが見える

そのうち女性は テクテクと艦尾に歩きだした、艦尾まで来ると止まる事なく 一歩を踏み出した。

「あっ 落ちる!」と思った瞬間 在ろう事かその女性は 空中に浮いていた

そして まるで歩くように こちらに近づいてくる。

 

「副長 日本神話に 天の羽衣というのがアリマシタネ?」と聞く 金剛

 

「ええ 確かに」と 副長

 

「もし それが実話だとすると、こんな感じデスカ?」

 

「艦長、もう此処まで来れば 何が起きても驚きませんよ」と あきれ顔の 副長

 

「空を歩く艦娘など、彼女は神デスカ?」と 金剛

 

「だとすると きっと美人な神ですな」と 副長

金剛は やや飽きれて艦長席に座り直し、じっとコチラに近づいて来る女性を眺めた

 

こんごうは そのままクラインフィールドの展開位置を調整しながら、徐々に階段を上るように 進んで行った、眼下には 金剛の第一主砲や 対空機銃が見える

ぼーと 此方を見ている 妖精兵員が見える、中には驚いて 拝んでいる者までいた

「ほんと スカートで無くて良かった、下から丸見えです」と見当違いな事を考えながら 艦橋横の見張り所まで辿りついた

見張り所の手すりに手をかけて 一気にジャンプして ストンと 体操選手のように 両足を揃えて着地して見せた

 

「うん 10点」と元気よく言ってみる

 

「ぶ~ 8.5 手が揃ってない!」と横から ひえいが 話かけてきた

 

「えっ 厳し~」と こんごう

 

「じゃ 頑張ってね」と ひえいは通信を終わった

 

見張り所には 見張りとおぼしき 妖精がいた

「こんにちは 金剛艦長は中ですか?」と尋ねてみる

 

「はい 艦橋にいらっしゃいます」と答える 妖精

 

「ありがとう」と言って そのまま艦橋内部へ向う

 

やや狭い入口を抜けて、艦橋内部へ入る

初めて入る艦橋だが、不思議と行先が分かる

中に入ると 数人の旧海軍の士官服を着た妖精と 艦長席に座る見慣れた女性

艦長席の後には 神棚、私と同じ建水分神社の分霊が祀られている

お祖母様は 確か金剛山 山頂に鎮座する「葛木神社」だったかな?

その下には 戦艦金剛の装備品を模した 装着艤装

海神の巫女たる 艦娘は船の装備を模した この装着艤装を身につける事で、神々の力を宿し 艦霊(ふなだま)と精神を強化できる

ただ コレって結構重いのよね オマケにデカいから実際は こうして神棚近くに置いて 霊力を繋いている場合が多い

大体こんなモン付けたら 戦闘指揮なんて出来ないわ

 

まずは 神棚に二礼二拍一礼して、艦霊にご挨拶します

こう見えても 私も海神の巫女ですから

そして ゆっくりと艦長席の前に進みでます

じっと 前方を見る見慣れた横顔 長いブラウンの髪に特徴的なあほ毛、そしてカチューシャ 巫女服をアレンジした戦闘装束 整った体躯に メリハリのある腰つき

間違いなく 戦艦金剛 お祖母様だ

 

ゆっくりとした 動作で 敬礼し、そして

「申告します、日本国海上自衛隊 佐世保基地所属 第2護衛隊群第一艦隊 イージス艦統括 護衛艦 こんごう 2等海佐です」

 

「“護衛艦 こんごう” デスカ?」と 尋ねられ

 

「はい、初めまして お祖母様」とつい 答えてしまった

内心 しまった、と思った

 

その子は ゆっくりと艦橋に入ってきた

まるで 自分の家に入るように、何の ためらいも無い

そして、まず 神棚に有る もう一人の私 艦霊に参拝した

「お〜 この子はデキマス!」と思った

中々 艦橋に来て 神棚を参拝する人は居ません

 

そして、ゆっくりと私の前に立ち きりっとした動作で敬礼し

自らを 「こんごう」と名乗った そして

「はい、初めまして お祖母様」と言ったのだ

この子 私をお祖母様って 言ったわよ?

お祖母様…。 一瞬 目まいがした

自分ソックリな女性 おまけに声までソックリ、双子でも通りそうな位 似ている女性に

お祖母様って…

そっと横に立つ 副長を見ると

「やっぱり ですな」って顔をシテマス

 

う~ その件は後にして、まずは

「戦艦 金剛へ ようこそ、私が艦長の 金剛デース」

 

「金剛 副長妖精です、よろしく」と横の幹部妖精

 

「まずはお礼から、対空援護と対潜戦闘 ありがとう」と 金剛

 

「いえ、自分たちは やるべき事を したまでです」と答える こんごう

 

「まあ 色々聞きたい事は有るのですが、まずは貴方の航行の目的は?」

 

そう聞かれちょっと困った、この時代 オーストラリアは敵性国家だ、そこに演習に行く途中ですけど なんて言えないわよ

でも お祖母様 色々説明しても 理解できないだろうし、う〜ん

此処は やっぱり 金剛家お得意の「当たって ぶち抜こう」で行くしかない

 

「ズバリ 言います! 私達は2025年の日本、今から80年後の異世界から来た、迷子の艦隊です」

 

「2025年?」「異世界?」「迷子の艦隊?」 金剛と 副長は?マークを並べていた

 

 

 

いずもCICで成り行きを見ていた 司令と いずもであるが

「おっ こんごう ストレートにいったな」と

 

「まあ 金剛さんの性格を考えると 妥当な選択ではありますし、金剛家の家訓は 当たって ぶち抜け ですからね」と諦め顔の いずも

 

「まあ 仕方ない、部下を信じて待とう」

 

「しかし司令、あまり時間の余裕が無いのも事実ですよ、ほら」と レーダーディスプレイを指す

そこには、こちらへ向う 2つの光点が有った

 

 

 

 

 

「あっあは アハハハハ……」突然 金剛は お腹を抱えて 笑い出した

余りに可笑しかったのか、つい涙目になっていた

 

「2025年の日本デスカ?」

 

「はい」

 

「では、2025年まで 日本は存在していると いう事ですね」

 

「はい お祖母様」

 

「そして、貴方は私の孫デスネ?」

 

「はい その通りです」と答える こんごう

 

 

「副長、これを笑えないでどうシマス!」

 

「艦長?」と困惑する 副長

 

「まあ いいでしょう、深海凄艦ではないのは確かです、それに米国でもない。こんな完成度の高い艦娘を建造できる技術を彼らは持ちません」

「しかし、2025年と言うのは納得デキマセンネ」とやや横柄に言ってみる

 

その時 金剛の左半身に激痛が走った

「うっ」傷みで 顔がゆがむ

 

「やはり 傷が酷くなっていますね お祖母様!」と走り寄る こんごう

「治療します」と言い タクティカルバッグを下ろす

 

「貴様 何を!」と近づく 参謀妖精

 

「何か!問題でも?」と鋭く睨む こんごう

 

副長妖精が 手で部下を制止した

「お任せしなさい」

副長は 何となくわかっていた、眼前のこの娘は間違いなく 金剛艦長の血縁者であると

時よりみせるあの鋭い眼、要点を抑えた交渉術、そして直球勝負なところ。さらに 金剛艦長と同じ艦霊

間違いない、彼女こそ 金剛艦長の孫だ。長年 戦艦金剛の 副長をしている自分だからこそ分かる、コレは…。

 

 

こんごうは、手際よくバックから メディカルキットを取り出した

最初は、消毒液付きのガーゼで傷口を消毒する

「少し 染みますが我慢してください」

左の脇腹、そして左足 雷撃箇所に相当する部位が 傷口となって広がっている

「痛っう、結構しみますネ」と 金剛

この辺りまでは 人間と似た処置だが、ココからは艦娘専用だ

まずは 傷口を塞ぎ

こんごうは、バッグの中から 白いスプレーを取り出した

カシャカシャと よく振ってから 患部にスプレーした

傷口が 白くなる

「これは、ナンデスカ?」と 不思議がる 金剛

「携帯型の高速補修材です、艦娘の傷を塞いで霊力の流失を防ぎます」

「OH! 傷みが引いてイキマス!」

次は 傷口の補修だ

彼女は バッグの中から 2枚の透明なフィルムを出した

そして 裏紙を剥がし、患部にシワにならない用に、貼り付ける

すると 艦娘の皮膚と同化して 傷口を塞ぎ 傷一つ残っていない綺麗な肌が現れた

「コレハ? 魔法デスカ?」と驚く 金剛

「艦娘専用の人工皮膚です。一時的に皮膚と同化して傷を塞ぎます、後は入渠すれば完治します。但し飽くまで艦娘の霊体の保全が目的ですから、船体は物理的に修理する必要があります」と説明する

 

「ありがとう。うん ラクにナリマシタ」と 金剛

 

「お役に立てて光栄です お祖母様」と 嬉しそうに答える こんごう

 

艦長席に 再度座り直し 金剛は

「さて 話を戻しましょう、貴方が 2025年から来たのなら、証拠は?」

と落ちついた雰囲気で問いただす 金剛、目つきが鋭い

 

しまった、こんな時のお祖母様は何か企んでいる

意図が読めないので 返答に困るな〜

チラッと 横に立つ副長を 見ると、我関せずと目線を逸らした

内心 「副長の裏切り者~」と叫んでしまった

 

副長は内心「こんごう艦長 ごめんなさい」と拝んでいた

正直 これ以上ナニが要るのでしょうね、凄まじい戦闘力、高度な指揮統制、高い能力の艦娘、そして理解できない艦娘治療法、十分 未来から来たと説明できるでしょうに

第一 艦長の目の前に証拠が居るでは ないですか?

雷撃機が 攻めてきているのに、艦内に退避せず 堂々と艦外で戦闘指揮とる姿なんか、もう ソックリじゃないですか?

コレは もうイジメですよ、流石「鬼金剛」と呼ばれた方です、はい

 

う〜ん 少し話題を逸らそう

「では まず私の僚艦を紹介しましょう」と言い、バッグの中からタブレットを取り出し、艦長席の横の小さいテーブルの上に置き スイッチをいれた

「ディスプレイ投影 イージス艦 各艦呼び出し」と音声命令を掛ける

投影型ディスプレイが 金剛達の前の空中に映し出される

「これは 映画みたいデス!」と 投影ディスプレイを触ってみるが 手だけすり抜けていく

ディスプレイの内部に 次々と艦娘と思しき娘が映し出された

「皆 自己紹介して、まずは ひえいから」

 

「えっ もう写っているの、やん髪の毛グチャグチャ」と慌てる ひえい

 

「もう いいから早く」と急かす こんごう

 

「あっ はい、新こんごう型イージス艦2番艦 ひえいです」

 

「次 はるな」

はるなは 画面の中で ゆっくりとお辞儀をして

「こんにちは 金剛様、同じく3番艦 はるなです」

 

「では 最後に きりしま」

きりしまは メガネを掛け直し

「ご無沙汰しております 金剛様、4番艦の きりしまです」

 

「彼女たちが 私の僚艦です、そして 戦艦 比叡様、榛名様、霧島様の直系の孫にあたります」と紹介してみた

 

金剛は 紹介された3人を見て、驚きを通り越して納得するしか無かった

いつも私を慕ってくれる 少しおっちょこちょいな 元気な次女 比叡

暴走ぎみの姉二人を心配してくれる 優しい三女 榛名

姉妹の中で冷静沈着 いつも頼りになる四女 霧島

顔や声が似て居るだけでは無い 画面を通して感じる 姉妹にしか分からない霊力

間違いなく 彼女達の孫だ…

だが 此処で引き下がるわけには

「分かりました 彼女達がよく似ているのは、でも 世の中3人は似た艦娘が居ると言いますからね」

 

さあ どう出る! 孫娘!

 

ぐ~う お祖母様 そう来るか!

う〜 もう手持ちのカードが無いぞ、どうする…

仕方ない もうこのカードしかない、これで納得して貰えなければ お手上げです

こんごうの目が、一瞬 不敵に煌めいた

 

「お祖母様 よろしいのですか? 色々お聞きしておりますよ…?」

余りに こんごうの態度が変わったので 少し驚く 金剛

 

「なっ ナンデスカ?」と たじろいだ

 

「お若い頃の熱いお・は・な・し」ニコッとしながら こんごうが近づいて来た

「そうですね、最初は パラオで」と言いながら、彼女はヘッドセットのマイクを手で塞ぎ 金剛の耳元で何やら囁いた

 

見る見るうちに 顔を真っ赤にする 金剛、少しプルプルと体が震えている

「なっ なんで貴方がそれを知っているのデスカ!? これは 由良と 私と 鳳翔しか知らないハズです!!」と物凄い剣幕で怒った

 

「え〜、私は お祖母様から直接お聞きしましたよ、もうそれは楽しそうに お話しして頂きました」

「次はですね、横須賀で 高…」と言い掛けた所で 金剛は こんごうの口を押えた

 

「もう いいデス! 分かりました 貴方は私の孫娘です」

 

 

 

「勝った!」と思った

心のなかで ガッツポーズを決めていた、今まで この手の話でお祖母様に勝てた試しが無いので 心底嬉しかった。しかし 世間はそんなに甘くない

涙目になりながら 勝利を確信した こんごうであったが、此処から 金剛の反撃が始まった

 

 

 

突然 艦長席から立ち上がると、こんごうを掴んで 艦橋の端へ行き 皆に聞こえないように優しい声で

「ねえ こんごうちゃん?」

 

「はい お祖母様?」 冷汗が流れる こんごう

 

「仮に 私が貴方のお祖母ちゃんだと しましょうね」

「でも こんな若くて綺麗なレディーに お・ば・あ・さ・ま は無いのでは?」

 

「……」 顔面蒼白な こんごう

「では どの様にお呼びすれば?」と 恐る恐る聞いてみる

 

「う〜ん そうね」と言いながら

「金剛お姉さま!、うん そうしましょう!」と笑顔で答える

そう言うと 踵を返し、投影ディスプレイに映る ひえい達に

「貴方たちも 私の事は、金剛お姉さまと呼びなさい!」

「今日から 皆さんは 金剛型の姉妹艦です!!」

 

「へっ?」

こんごうは、一瞬 頭が真っ白になった、お姉さま!ですか!姉妹艦ですか!

 

 

 

一番最初に 反応したのは、はるなであった

「はい 金剛お姉さま、よろしくお願い致します」

 こら~ はるな!否定しろ!

 

「うん いいかも、お祖母ちゃんも 金剛お姉さまって言ってるから 問題なし」

ひえい、ダメだ彼処は元々 比叡様がそうだ…。

 

「きりしまも 問題ありません、金剛お姉さま!」

きりしま お前もか。

完全に 外堀が埋められてしまった

 

「はい 金剛お姉さま…」 肩を落として落胆する こんごう、完敗です。

副長に 笑顔で サムアップサインをしてみせる 金剛

 

 

 

「艦長 どうせ要らん事を考えてますな」 金剛副長は思った

現在 海軍内の艦娘派閥は 駆逐艦勢と 戦艦勢が入り乱れる構図

数は 多くても権力の少ない 駆逐艦、数は少なくても権力が大きい 戦艦

その中でも 最新鋭は 大和派だが、まだ2隻

次は 長門派、扶桑派、伊勢派も2隻ずつ

金剛派の最大のライバルは 妙高派と 高雄派、どちらも4隻

此処で 彼女達を抱き込めば 8隻体制、派閥として十分

よっぽど、前回の呉カレー対決で 足柄さんたちに負けたのが悔しいのでしょうかね。

副長は テーブルに置かれた タブレットのランプが点滅しているのに気が付いた

「護衛艦 こんごう艦長? 何か光ってますよ?」

 

「やば 旗艦からの呼び出しサインだ」と慌てる こんごう

「ディスプレイ接続、こちら こんごうです 司令」と姿勢を正して答えた

 

「こんごう? 身内の話は終わったかな? そろそろ浮上したいのだが?」と 司令

よく見ると目に涙が、そんなに笑わなくても良いじゃないですか 司令!

 

 

金剛は 映し出された男性を見て

「旗艦? 司令?」と呟いた、まだ他に船がいるのデスカ?

男性の第一印象は 切れるという感じだ

山本長官というより 宇垣参謀長に近い感じがする、この人できる

司令は、静かに敬礼して

「初めまして 金剛さん、自分は日本国 海上自衛隊 佐世保基地 第三護衛群第一艦隊 司令 階級は海将補、まあ少将の少し下位に思ってください」

 

横に立つ女性が敬礼してきた

「同じく、第一艦隊 旗艦いずもです、階級は1佐 大佐待遇です、副司令をしています、まあ 秘書艦のようなものです」

この女性を 見た時、一瞬 艦娘?と思ってしまった

確かに 艦娘だが、少し違和感を感じる

「お姉さま、私たちの直接の上司です」と こんごうに言われた

 

もう一つの 表示窓が開いた

「初めまして 金剛さん、工作支援艦の あかしです、階級は3佐、修理は 任せてください」この子は 可愛い子ですね、薄いピンクの髪が特徴です

あかしと言う事は 明石の孫ですか?

 

 

「初めまして、英国で産まれた帰国子女の 金剛デース! ヨロシクオネガイシマース!」

金剛は 上機嫌であった、姉妹艦が一気に 四隻も増えたのだ

 

「さて、護衛艦 こんごう、私達も 金剛さんの左舷後方に浮上する、きりしまを下げてくれ」

 

「はい 司令 周囲警戒行います、きりしま お姉さまの後方 1kmまで後退して!」

こんごうは 素早く指示すると、金剛と二人 左舷見張り所まで出てきた

 

金剛の左舷300m程の所に、ゆっくりと 艦橋のような構造物が 海面から浮上して来るのが見えてきた。

金剛は 双眼鏡で覗く、他の艦と同様な四角い艦橋だ

続いて 飛行甲板のようなものが見えた、あの子 空母だったのデスカ?

全体の姿が 見えてきた

大きい ゆうに300mはある、大和並み いやそれ以上か

こんな巨大な空母が 未来の日本にはあるの?

少し後方に もう一隻

此方も 空母のようです、少し小さいですが 200mあるでしょうか

祥鳳や 瑞鳳並みです!

「お姉さま 最初に浮上したのが、旗艦の護衛艦 いずも、後方の艦が支援艦 あかしです」

 

「あれは 空母では無いのですか!」と驚く 金剛

 

「いえ、あれは護衛艦と呼ばれる艦種です お姉さま、2025年日本は空母を保有出来ません なぜなら日本は」

そこまで言いかけて 詰まった、金剛の肩に手を添えて

「何故なら、日本はこの戦 太平洋戦争に負けました」

 

呆然とする 金剛

「うそデスヨネ、こんごう、ウソですよね」と 震えている

 

「いえ、私たちの居た世界では 日本は太平洋で 深海凄艦と米軍との三つ巴の戦闘になり、次第に国力が低下 そして敗戦を迎えました」

「戦後 海軍は解体、艦娘も艤装を解かれて 除隊となりました」

「しかし、その後米国とソ連の間で緊張状態となり 国防、専守防衛の為 組織を再編、そして誕生したのが 海上自衛隊です」

「確かに 日本は莫大な犠牲を払い敗戦しました、でも」

 

「でも?」

「日本は 復興しました、世界で3位の経済大国 そしてアジア最大の経済国家」

「世界の中で 日本は重要な位置を占める国家へ生まれ変わったのです」

 

金剛は混乱していた

日本が負けた、深海凄艦に?

でも今 アメリカを含む三つ巴の戦いって言った?

おかしい、私達はまだアメリカと緊張状態だけど 戦争状態ではない?

これは どういう事?

「こんごう どういう事ですか?私達はまだアメリカと戦争状態ではアリマセン!」

 

「お姉さま 私達は昨日からこの世界へ来ています。今まで色々と無線情報や短波ラジオを傍受して解析しましたが、私達が歩んだ歴史と今いる次元の歴史に少し食い違いがあります」

 

「? どういう事ですか?」と 金剛

 

「私達は 良く似ている歴史を歩んでいますが、全く異なる歴史を歩んでいるという事です」と こんごう

 

「では、あなたは 私の孫ではないのですか?」

 

「違うと いう訳ではないと思いますが、どちらにしても お姉さま!」

「どこかの 提督さんを口説いていただかないと 私のお母さんが生まれません!」と

力説する こんごう

「頑張って下さい、お ね え さ ま!」とウインクして見せた

 

「まあ この手の話はややこしくなるので 落ち着いたらまたします、敗戦の話は 現段階では可能性があるという程度の事ですよ、ですから他の方には内緒にしてくださいね」と気楽に答えた

 

「可能性デスカ?」と 金剛

 

「可能性です、でも私達が現れた事で それも変わります」

「私達が現れなければ たぶんそのまま、でも現れた事で少し変わりつつあります」

 

「変わる?」と 金剛

 

「そうです お姉さま!」

「お姉さまは今日 撃沈されていた筈ですが、今は生きています」

「変える事が出来るのですよ 此れから、ですから 明日の為に生き残りしょう!」

 

金剛は こんごうを見つめ、明るく

「そうね 生き残りましょう、明日の為に」

 

「はい お姉さま!」

 

 

いずもCICで 二人の会話をモニターしていた、司令と いずもは安堵した

「なんとか なったか?」と 司令

 

「ですね、しかし こんごうさんが 敗戦の話をした時はダメかと思いましたよ」

 

「まっ 下手に隠して後々問題になるのも嫌だしな」

 

「一応、司令部の情報分析妖精にいくつかパターンを考えさせておきます」

 

「すまない、今後海軍と接触した場合 どういう風に情報を開示するかが鍵だな」

 

 

いずもの艦橋から いずも副長が

「いずも艦長へ浮上完了です、各部異常なし、通常航行へ移行します」

 

「副長 引き波に注意しつつ 戦艦金剛さんの後方 300mへ」

 

「あかし! 私が移動したら 貴方はその後方へお願い」

 

「あかし了解です、でも 司令急がないと 金剛さん かなり危ないですよ!」

 

金剛達は 見張り所で

「お姉さま ともかくパラオへ向いましょう、急がないと転覆する恐れがあります」

 

「それは分かっていますが これ以上は速度が出マセン!」と困惑する 金剛

確かに 少しであるが船体傾斜が増している。雷撃のショックで浸水が続いているのだ

 

こんごうは 少し胸をはって

「任せて下さい、強い味方がいますから」と言い ヘッドセットのマイクを下した

「あかし 出られる?」

 

「はい こんごうさん あかしです」と あかしから明るい返事があった

 

「金剛お姉さまの船体修理の件だけど 出来る?」

 

「もう 準備出来てます、今から出ますよ」

 

支援艦 あかし 後部ウェルドック内、あかしは 船外補修船に乗っていた

 

「副長、此方 あかし、聞こえる?」

 

「此方 あかし副長妖精です、艦長準備いいですか? 注水しますよ」

 

「OKよ、注水後 ドック開放して、ちょっと出張修理いってくる」

 

「では お気をつけて」と 副長が元気に答えた

 

「よし 艇長、補修船1号 発進!」

 

「艦長 2号も3号も有りませんよ、補修船は本艦だけです あとはLCACですよ」

 

「も~う 気分のでんやっちゃな」すねる あかし

 

「気分で修理は 出来ませんよ、では仕事行きま~す」

 

 

 

少しすると 後方の小さい空母もどきの艦の後から 30m位の小さい船が出てきた

小型の作業船の様だ、大発のような形をしている

「あの船は ナンデスカ?」

 

「あれは あかしの船外補修船です」

 

よく見ると、先程紹介された あかしと名乗った娘が 手を振っている

「こんごうさん 艦首から修理に入るよ、速度と方位を固定して!」あかしが無線で知らせてきた

 

「副長さん、速力 進路とも このままでお願い!」と こんごうが言うと

 

「はい こんごう艦長」とあっさりと指示に従う 金剛副長

 

「副長は 私の部下デ〜ス!」と 少し拗ねる 金剛

 

「でも わかりませんよ、同じ波動の霊力を持ってますからね」と こんごう

 

あかしは 金剛の左舷船首 破砕部の横に補修船を近づけると大型のロボットアームを使い破砕した部分を整えだした

「船から 手が生えてイマス! 凄いデス!」 初めてロボットアームを見た 金剛が驚いている

 

次に 破孔を 囲うように 棒状の物を貼り付けている

終わると 船を少し離し

「こんごうさん いくで!」と言うと タブレットを操作した

バーンという音と共に、破孔を覆うように 黄色い風船のようなものが膨れた

「あれは?」 先程から 質問の連続攻撃である

 

「破孔を覆うバルーンです、海水の流入を防ぐと同時に 浮力を保ちます。まあ 艦専用の救命胴衣ですね」と答える

浮力が少し回復したのか、傾斜が少し戻った

あかしは 同じ要領で 後部にも バルーンを設置して浮力を稼いだ

「よし あとは排水作業で なんとか保つとおもうよ、速力は無理だけど」と あかし

 

「あかし サンキュー!」と こんごう

 

こんごう達は 艦橋内部へ戻った

「司令 応急修理は完了しました。現在 排水作業継続中です、何とかパラオまでは 持ちそうです」と報告する こんごう

 

「では こんごう、戦術ディスプレイを開いて状況を説明してくれ」

 

「はい 司令、戦況プロット表示! レンジを150kmへ」タブレットに音声命令を出す、先程まで ひえい達が写っていた投影ディスプレイに 今度は水上レーダーの解析表示が映しだされた

「この画面は 電探デスカ?」と 覗き込む 金剛

 

「はい、本艦隊を中心に 周囲150km圏域内の海上目標が表示されています」

 

「150kmデスカ!?それも水上艦艇! 21号でも高度のある 航空機しか探知できないのに、凄いデス!」驚く 金剛

 

「対空レーダーは 300km以上の探知能力がありますから、それと組み合わせて使えば もっと詳細な表示ができますよ」と 得意げに言ってみた

「さてと では説明します」と こんごう

「本艦隊の1時方向から接近している艦隊、約100km前後の距離ですね 方位からすると パラオ泊地艦隊と思われます、総数5隻で、速度は およそ18ノット程度です」

「約3時間程度で 接触できると思います」

 

「この距離で 数も分かるのデスカ?」と 金剛

 

「まあ よほど小型の艦艇を含んでいなければ分かります」

 

「問題は こちらですね」と画面の下の光点を指した

「距離80km 艦隊の後方6時、真っ直ぐ此方を追ってきています」

「速度は 15~18ノット 数は5隻です」

 

「これは まさか!」

 

「そうです、先程の艦載機を発艦させた軽空母を含む 艦隊です」

「こちらも 3時間以内に追いつかれます」

 

「パラオは 間に合うでショウカ?」と 少し不安がる 金剛

多分 この艦隊には 巡洋艦と駆逐艦が付いている筈だ、ここで砲撃戦になれば動きの取れない自分は一溜まりもない

 

ディスプレイに 司令が映し出された

「そこで、護衛艦 こんごう ひえいとお使い頼めるかな?」

 

「はい 追撃艦隊の足止めですね」と平然と答えた

 

「司令 無茶デス! たった2隻で 5隻を相手にするなど、相手は巡洋艦がいる可能性がアリマス、幾ら こんごう達が優秀でも 危険です!」と慌てて言う 金剛

 

「どう思う こんごう?」と 司令に言われ

 

「問題有りません、ひえい イケる?」と僚艦に声を掛けた

 

「待ってました 砲戦!砲戦! 気合いれてイキマス!」と興奮状態の ひえい

 

「もう ひえい!」と注意するが、全然聞こえていないようである

 

「では 決まりだ、こんごう 頼むぞ」と 司令

こんごうは 手早くディスプレイをバッグに仕舞うと、医療キットを残した

バッグを背負うと 

「では お姉さま、チョットお使い 行ってきま~す」と言って 金剛に敬礼して、艦橋横の見張り所から 飛び降りた

 

「こんごうちゃん!」と 慌てて見張り所から身を乗り出す 金剛

 

こんごうは 器用に空中にクラインフィールドを展開すると ストンとそこに降りた

そして 今度は、まるでお使いを言われた子供の様に スキップしながら自分の艦へ戻って行った

金剛は 艦長席に座ると グッタリした

「ハア ビックリしました」と 溜息をついた

 

「まあ ああいうお転婆な所なんか、もうソックリじゃないですか」と 副長に言われ

 

「やっぱり デスカ?」と 孫娘の後姿を見送った

 

 

 

こんごうは 護衛艦 こんごうの艦橋に戻ってきた

「お帰りなさい 艦長」

 

「副長 指揮替わります」と艦長席に座りながら こんごうが答えた

 

「はい 艦長」と 副長が答える、何やら 艦橋の雰囲気がおかしい?

 

「どうかしたの 副長?」

 

「いや 艦長、だって 金剛様と感動の対面かと思って 艦内放送でライブ画像流してましたから、いやあの対決は傑作でしたな」

 

「なっ なんですって!」と こんごう

 

「いずも副司令が ディスプレイのモニター画像“見たいなら見ていいわよ”って言ってくれましたから 皆で見てました、砲雷長なんか笑いすぎて痙攣してますよ」

 

余りの恥ずかしさに 赤面する こんごう、だめだ これで艦長としての権威も落ちた 、お姉さま!のば~か!

「もういいです! お使いイキマス!」と ふて腐れてみる こんごう

 

「はい 艦長」と笑顔の 副長

 

「はるな 聞こえる? 私が抜けたら お姉さまの前に出て 露払いお願い」

 

「はるな 了解です、こんごう 出来たら深海凄艦の音紋データ取ってきて!」

 

「CIC ソナー、はるなのオーダーできる?」

 

「高速走行、戦闘でうまく取れるか分かりませんが、フィルターかけてみます」

 

「よし、いくよ ひえい」

 

「了解 こんごう!」と元気に答える ひえい

 

「艦隊離脱 第三戦速! 取り舵 回頭一八〇度!」

 

 

 

 

この日 二度目の戦闘に こんごうは向かった

 

 

 




こんにちは スカルルーキーです

個人的には 9mm拳銃よりP226の方が好きなんですが やっぱり海自は 錨マークの9mmですよね~

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