マオ達を乗せたオスプレイは、輸送艦あかしの上空へと差し掛かっていた。
あかしの上空で旋回しながら、待機するオスプレイ
既に甲板上には先に到着した２機のオスプレイが、島民を降ろしていた。
後部のウエルドックには、今まさにＬＣＡＣが収納されようとしている
水飛沫を巻き上げながら、輸送艦あかしの後部ウェルドック内に真っ直ぐ進むＬＣＡＣ
「凄い！ 船が船の中に入ってる！！」
マオは、オスプレイの窓にへばりつき、食い入るように眼下で輸送艦あかしに収容されるＬＣＡＣをみた。
「日本軍って凄い船をもっているのですね、隊長さん」
マオは、横に座る曹長を見たが、その曹長も声を失った。
「凄い、あの様な事が可能なのか！」
漁師の家に生まれた守備隊隊長の曹長
陸軍マジュロ島守備隊の中では、一番船に詳しい彼がみても眼下のその艦は異様であった。
「艦尾から舟艇を収容できるなど、それにどう見ても空母だ」
曹長は、眼下の輸送艦あかしを凝視した。
確かに、陸軍は神州丸という大発を艦尾から発艦させる事ができる揚陸艦を装備しているが、この艦は完全な空母と言っていい。
いや、そもそもあの特殊舟艇そのものがけた違いに大きい。
それをそのまま収容できるとは！
甲板上にいる２機のオスプレイから大体の大きさを割り出した
「祥鳳級より少し大きい程度か」
上空から見るその空母を細かに見た。
「確かに見た事のない艦だ！ 新鋭艦か」
曹長がそう思っていた時、マオが機上整備員に
「兵隊さん、あの船の名前は何ですか？」と素朴な質問をした。
機上整備員は、何気に
「ああ、あの艦ですか？ あれは輸送艦あかしです」
「あかし。変な名前ですね」とマオが聞くと
「まあ、此方の方にはなじみがないですよね」と機上整備員は笑いながら答えた
「横にいる、あの軍艦は？」マオは興味本位で、続けざまに聞いた。
「あれは、護衛艦ひえいです」
「ヒエイ？」
「ええ、少し言いづらいでしょう」
マオは窓にへばりつきながら、
「じゃ、あの少し離れていく軍艦は？」
「こんごうです。護衛艦こんごう」
そう聞いたマオは、ぐっとその艦を見た。
「あれが、金剛さんの船」
そう言うと、一言
「凄く強そう！」
マオは頭の中に、あの砲撃を防いだ時の力強いこんごうの姿が浮かんでいた。
青白い光を放ちながら、ブラウンの髪がまるで生き物のようにたなびき、左手を天高く上げ、防壁を作るこんごうの、その勇ましくも優雅な姿を。
その姿と眼下を進む護衛艦こんごうの艦影が重なる。
こんごうの贅肉のないスマートな体躯
余分な所がなく、それでいて女性らしい艶やかさを持つ、マオにとってはある意味憧れの人になりつつあった。
その彼女の艦
鋭い艦首から流れるような舷側、そしてきりっと引き締まった艦尾
艦橋などの構造物は直線的で、無駄な所がない。
正に彼女の姿が艦になったらこんな船といった感じで見入っていた。
生まれて初めて軍艦というか本格的な戦闘艦をみるマオや島の人達にとっては、特に違和感を感じないこんごう達自衛隊艦隊であったが、なまじ知識のある曹長は唸った。
「明石に比叡に、金剛だと！」
マオと機上整備員の会話を聞いて驚きの声を上げた。
マオの横から食い入るように洋上に浮かぶその艦を再び見た。
眼下に映る護衛艦ひえい
「あれは、戦艦比叡じゃない」
曹長は以前 横須賀で見た比叡の艦影を思い出した。
「もっと大きい筈だ、3万トン級だったはず。それに明石は工作艦だ！ 空母じゃない」
機上整備員をみた曹長は何か言おうとしたが、機上整備員は“静かに”と口元に指を立てた。
「あの、ご指摘の部分は解りますが、これ以上は軍機にあたります」
「軍機だと」
「はい、パラオから来た少尉さんから説明があったと思いますが、作戦自体が軍機であると同時に自分達の存在も海軍の中、いえ日本軍の中では最高位の軍機です」
機上整備員は続けて
「我々は、特務艦隊。この様な特殊な作戦に従事する影の存在です」
「では、やはり島に来た金剛大佐は別人なのか？」
すると機上整備員は、少し困った顔をしながら
「まあ、確かに金剛である事には間違いないのですが、あの内緒ですよ」といい、小さな声で、
「おなじ金剛でも、大佐ではなくこんごう二佐。皆さんの階級に合せると中佐です」
「でも、殆ど金剛大佐と区別できん」
「そりゃそうでしょう。血縁者ですから」
「血縁者？」曹長が聞くと
「妹さんだそうですよ」機上整備員は笑いながら答えた。
「姉妹か！ なら合点はゆく」
曹長は、上手く機上整備員に言いくるめられてしまった。
そんな会話をするうちに、最終便のオスプレイは、静かに輸送艦あかしへ着艦する為に降下旋回へと入った。
その頃 ひえい達から離れやや北よりの進路を取る護衛艦こんごう
白い航跡を引きながら、海面を切り裂く護衛艦こんごう
その艦尾にいま 艦娘こんごうを乗せたＳＨ－60Ｋが着艦しようとしていた。
操縦席に右席に座る操縦士が、操縦桿を細かく動かしながら機体を後部ヘリデッキ上にホバリングさせる。
実際、艦は15ノット近い速力で航行している、そこに着艦する為には、やや前進飛行しながらデッキ上にホバリングする必要がある。
ＳＨ-60Ｋはレーザー誘導可能なSLAS(着艦誘導支援装置)を持つ。
悪天候の場合などは、有効な手段であるが、全ての艦がこのシステムを運用している訳ではない。
素早い着艦には、やはりマニュアルでの進入が一番であった。
格納庫右前方で誘導するマーシャラーの指示に従い、デッキ上でホバリング態勢に入り、徐々に高度を落とすこんごう艦載機
甲板上50ｃｍ程まで降下すると、最後は一気にストンと降りた。
直ぐに甲板上のベアトラップが機体の下部から伸びるブローブを掴み、機体をがっちりと甲板に固定した。
「機体固定完了！！」
機体底面の開口部からベアトラップの状況を確認した機上整備員が報告を上げた。
「艦長！ 着艦完了です！！」と飛行士が、言うと同時に、ロクマルのサイドドアが開けられた。
機内に、ロクマルのダウンウォッシュが流れ込む。
こんごうは、前髪を押さえながら、ロクマルから降りると、やや姿勢を低くしながら、格納庫へと向かった。
格納庫の前方ドアから艦内へと入る、目の前に艦内へと通じる通路があった。
見慣れた通路の風景に安堵した。
士官用の艦内服に着替える間も惜しんで足早に艦橋の操舵室へと向かう。
すれ違う隊員妖精達が立ち止まり、通路を開けながら敬礼し
「お帰りなさい、艦長！」と各々声を上げた。
素早く答礼しながら通路を進むこんごう
艦橋の操舵室へと滑り込んだ
「艦長、入室します！！」
艦橋付の一士が声を上げた。
こんごうが入室すると、居合わせた艦橋要員が一斉に敬礼する。
「皆、ただいま」
元気に答礼しながら、艦長席へと向かった
艦長席の右横には 留守番役のすずや補佐
その横には 副長が待っていた。
艦長席に座るとこんごうは、
「指揮は私が執ります」
即座に、すずやが
「艦長が指揮を執ります！」
こんごうは、すずやに向い
「留守中、お疲れ様。何か問題は？」
「はい、任務に支障になるような事はありません」
こんごうは、副長を見たが、静かにうなずいた。
「では、状況報告を！」
「はい、現在敵偵察機ＰＢＹ1機が、当海域へ向け進空中です。本艦からの距離およそ80ｋｍ、方位０２５です」
こんごうは、艦長席のサブモニターで、その情報を確認した。
「じゃ、この辺りからゆっくり回頭して、マジュロへ接近する進路をとりましょう。面舵」
「おもか〜じ！」
それを聞いた航海長が、復唱すると同時に操舵員が、舵を少し右へ切った
マジュロ島から北へ離れる航路を取っていた護衛艦こんごうは、飛来するＰＢＹへ向け少し東よりの進路を取り始めた。
「舵中央！」
こんごうの指示に従い、転舵を止め、進路を固定する
こんごうは、次にモニターにひえいとあかしを呼び出した。
「ひえい！ 収容状況は！」
「ＬＣＡＣは収容完了！ 現在島民の誘導中。オスプレイは最終機が着艦する所」
「了解。避難民収容後は、速やかに潜航待機して」
「解った。オスプレイ隊は直ぐにいずもへ帰還させるけどいい？」
「お願い、発見されれば敵の航空攻撃があるわ。いくら足があるとは言え、オスプレイには荷が重いわ」
「りょうか～い！ こっちは任せて！」ひえいが元気に答えた
「あかしは？」こんごうが聞くと
「了解や！」あかしもピンク色の髪を揺らしながら答えた。
こんごうは、インカムを操作して
「ＣＩＣ、艦橋！ 砲雷長」
「はい、艦長。ＣＩＣです」直ぐにＣＩＣに詰める砲雷長が出た。
「敵機情報！」
「はい、方位０２６ 高度1500ｍ 速度１００ノット、距離８０ｋｍ」
「有視界まで３０分って所かしら」
「はい、向こうの索敵能力が不明ですが、２０ｋｍ圏内まで近づけば見つかると思います」
「こちらとしては、見つけてもらわないと困るわ」とこんごうがいうと、
「本来なら威嚇射撃したい所ですけど、本艦の兵装だと威嚇ではなく確実に撃墜してしまいます」砲雷長がそう答えた。
こんごうは少し考え
「ねえ、以前使った式典用の訓練弾の在庫はある？」
「？」砲雷長は少し考え
「ああ、あれですね。あれならまだ確か残っていたとおもいますが」
「それ使いましょう。行ける？」
「はい、艦長。至急用意させます」
こんごうと砲雷長の会話を聞いていたすずやが
「あの、艦長。その式典用の砲弾ってなんですか？」
するとこんごうは
「ふふ、見てのお楽しみよ」
こんごうの不気味な微笑みが 少し怖かった。
マジュロ島を目指し、一路南下する深海凄艦ＰＢＹカタリナ飛行艇
機上では、間もなく島が有視界範囲に入るという事で、機銃手達は、片手に双眼鏡を持ち周囲を警戒していた。
胴体後部の左右にある機銃用の窓から周囲を監視する機銃手達
一人の機銃員が、退屈そうな声で、
「マジュロ島まであとどれ位だ？」と声を上げると、対面で双眼鏡を片手に遠方をみる他の機銃員が
「あと３０分くらいじゃないか」とこちらも退屈そうな声で答えた。
「だと、そろそろ水平線上に島影が見える頃だな」
機銃員は、軽く肩を揺らして、体をほぐしながら、
「司令部も気楽に偵察してこいとか言ってくるが、あの島には少数の日本軍がいたな」
「ああ、周囲を機雷で封鎖して、事実上俺達の人質という事だがな」
「下手に降りれば対空機銃で撃たれるな」
「さあどうだか？ 確か別の島にいた部隊の残党らしいが」
「じゃ、ろくな装備も持たないか」
そんな会話をしていたが、
「司令部の話だと、今日の偵察は昨日の戦果確認らしい」
「戦果確認？」
「昨日、軽巡部隊が島に砲撃を加えたので島の損害状況の確認だ」
「軽巡の砲撃なら大した効果もないだろうに」
「まあ、威嚇程度だが、写真撮影をしてこいだと」
「いいよな、司令部は気楽で」
機銃員は、そう言い放った。
「こっちは、連日の哨戒飛行に偵察に、もうヘトヘトだ」
「そう言うな。俺達は敵機が来ない限り、ここに座っているだけでいいが、機長はずっと操縦しっぱなしなんだ。そう思えば申し訳ない」
「まあそうだが、そろそろミッドウェイから機体とは言わんが人員の補充が欲しいよな」
「まあ確かに」
その時、耳元のヘッドホンから
「おい、そろそろ前方に島影が見える頃だ！ 監視を強化してくれ」
機長の声が聞こえた
「了解です！」
再び機銃員達は前方の監視を始めていた。
輸送艦あかしに着艦した最終の輸送用オスプレイ、キャリア０４は、タービンエンジンをアイドリング状態にしたまま甲板上で待機していた。
機体の整備用アクセスパネルに甲板から伸びたアース線が接続されていた。
甲板上では、着艦したキャリア０４に燃料を補給する為 紫色のジャケットを着たあかしの甲板員が甲板上に延びるホースをオスプレイの給油口へ接続した。
「給油口接続確認！！」
「プレッシャーゲージ ＣＫ！」
「圧力異常なし！」
「送油開始！！」
給油口のハッチの中には、ホースジョイントと一点加圧式の給油システムの表示パネルがある。
給油員はハンドサインで、送油開始を合図した。
同時に機首横で待機する機上整備員がインカムで機長へ報告する。
機長は、操縦席のセンターモニター画面で給油状態を確認していた。
機内の燃料計のデジタル表示が目まぐるしく増えていく。
急ぎ給油を行うオスプレイ
その後部カーゴドアから最終便に搭乗した日本陸軍の曹長や族長、マオに杉本二等兵
立ちが甲板員に誘導されながら降りてきた。
「風が凄いですから、足元に気をつけてください！！！！」
甲板員がメガホンを片手に、大声で曹長達を誘導する。
「わあ、大きい！！！」
マオは初めて見る本格的な艦に声を上げた。
今まで船といえば島に物資を運んでくる貨客船位しか見た事の無いマオにとっては 全長１７０ｍをゆうに超える輸送艦あかしは巨大な船だ。
空母瑞鳳が２０５ｍであるから瑞鳳よりやや小型のように思われがちだが、瑞鳳は全長こそ２０５ｍあるが甲板長は１８０ｍである。
あかしは完全な全通甲板であるので、甲板の長さでいけば瑞鳳クラスという事になる。
マオは前方に見える大きな艦橋をみた
「こんな大きな鉄の建物 生まれて初めて見た！！」
もう周囲をキョロキョロと見回していた。
「お嬢さん！！！ こっちです！ 急いでください！！！」
甲板員の妖精隊員がマオを手招きした。
前方をぞろぞろと歩く族長達に追いついた。
最後尾にいた曹長に追いつくと、
「隊長さん、凄い船ですね！」マオは、気さくに声を掛けたが、その曹長の眼はじっと甲板を見つめていた。
「隊長さん？」マオが不思議そうに声をかけると
「えっ、済まん」マオの声に気が付いて曹長は返事をした。
再び甲板を歩きながらじっと見た。
“凄い、もしかしてこれは噂の装甲甲板か！”
足元から伝わるざらついた感触で、そう感じた。
“日本海軍の空母は全て木製甲板のはずだ、しかしこの空母は違う。なんだこの甲板は”
今までの常識を覆す、そのざらついた甲板の表面仕上げに驚きながら、誘導され右舷後方の舷側まできた。
白い点線に囲まれた四角い枠の中に誘導された。
甲板員が
「皆さん！！！ 動きますから驚かないでください！！」
大きなブザー音が鳴り響く。
周囲にいた甲板員達が数歩、その場から下がった時、静かに甲板の一部が下へ降下し始めた。
「きゃ！」
いきなり床が動き出したので、マオは横にいる杉本二等兵へ抱き着いた
抱きつきながらも、
「凄いよ！ 健司！ 見て床が動いてる！」
「お、おう」杉本二等兵もオドオドしながら答え、
「曹長殿。これは？」
「ああ、空母の昇降機だ！ 格納庫から甲板に艦載機を上げる際に使う」
「へえ～」
マオも杉本二等兵も降下するエレベーターの周囲を見回した。
“舷側に昇降機がある空母か！ 今までの日本軍、いや米軍も持たない装備だ！”
静かに降下するエレベーターの上で曹長は、思考を巡らせていた。
舷側エレベーターは静かに停止すると、前方のシャッターが音を立てながら巻き上げられた。
「おおお」
初めて見た大型の防水シャッターに驚く曹長
その防水シャッターの先には、大勢の島民や先程到着したばかりの伍長達が待っていた
「曹長殿！！」
「おう、伍長。今着いたぞ！」
伍長達の下へ寄る曹長
「え〜、日本陸軍の皆さんは此方へお願いします！」
「マジュロ島の島民の方は此方へどうぞ！！」
青い艦内服を着たあかしの乗員妖精達が再び誘導し、受付が始まった。
曹長は、伍長に命じて隊を整列させた。
「伍長達は終わったのか？」
「はい、残りは隊長と杉本二等兵だけであります」
それを聞き、杉本二等兵を連れ受付へと向かう曹長
受付にくると隊員妖精から
「では、ここにお名前と階級と隊での役職を記入ください」そう言われ鉛筆を渡された
「ここか」そう言いながら、鉛筆で用紙に記入する曹長
曹長が記入するのを見ながら受付の隊員妖精は、ネームタグを複数作成した。
「これでいいか？」
「はい、ありがとうございます。それと火器類は規則でお預かりいたします」
そう言うと横に並ぶテーブルを指さして、
「こちらに並べてください。小銃の弾薬は排莢してこちらの金属の箱へ、手榴弾は横の金属箱へお願いします」
「解った」
曹長はそう聞くと、肩に掛けた三八式小銃から丁寧に弾薬を排莢し、弾薬ケースへと入れた。背嚢にあった二発の手榴弾も別のケースへと仕舞う
乗員妖精が、
「あの曹長殿。喫煙はされますか？」
「まあ、吸うには吸うが、ここ暫くは補給かなかったから、禁煙状態だよ」と笑いながら答えると、乗員妖精は
「大変申し訳ございませんが、本艦は艦内禁煙ですので、クサイ島に着くまでご協力をお願いします」
「ああ分かっている。空母といえば航空燃料満載の動く火薬庫だ」
乗員妖精は
「船にお詳しいですね、曹長殿」
「まあな、これでも漁師の家に生まれた」
少尉の小銃を預かる火器担当の武器庫隊員妖精は、曹長の小銃にネームタグをつけながら
「この小銃、不具合はありませんか？」
「不具合？」
「はい、動きが鈍いとか。動作が硬いとか？」
「まあ、だいぶくたびれた感はある。時々機関部が硬いな」
「解りました。内の工作担当が皆様の火器類を一度点検するそうです」
「えっ、いいのか？」曹長が聞くと
「はい、本艦はその名の通り工作艦機能も有しておりますので、この手の作業も可能です」
「済まん、いままで整備の為の潤滑油などの補充もなくて皆点検できていない」
「了解です。では武器庫にてお預かりいたします」
武器庫員は、曹長の小銃を大事に抱え、そっと背後にあるラックへと収めた。
曹長は後を振り返り、伍長へ
「戦友の遺骨は、どうした？」
伍長は、
「はい、先程安置所へお納めいたしました」
「そうか」曹長がそういうと、伍長は、
「この艦の艦長の御意向で大変立派な安置所をご用意していただいております」
「そうなのか」
「はい、戦友たちも喜んでいると思います」
「なら、後で参ろう」
その時背後で声がした。
「皆さん！ 集まって下さい！」
乗員妖精が、メガホンで、島民達へ声を掛けた。
ぞろぞろと集まる島民達
陸軍の兵達も指定の場所へ背嚢や持ち込み品を置き整列した。
何事かと集まる人々の前に、乗員妖精がオレンジ色のプラスチックの箱を一つ置いた。
よく言う“ミカンの箱”
正式名称は “サンテナー”という。
農家では必需品のこのコンテナ。非常に便利で、果実の収穫だけでなく、工具類や用品の収納などでも便利で、積み重ねが出来て、使用しない時は組み合わせる事で容積を減らす事もできる優れモノである。
むろんあかしの艦内でも、あちらこちらで収納用として使われていた。
島民の前に置かれたコンテナ箱、その前方に集まる人々
まるで、選挙の街頭演説会の様な雰囲気であるが、そこに現れたのは、幹部用の紺色の艦内服をまとい、ピンク色の髪を独特な形状にまとめ、紺色の帽子を被った艦娘あかしであった。
慣れた足取りで、コンテナ箱の上に上がると、メガホンを受け取り
「え〜、皆さん。艦長の艦娘あかしです」
静まりかえる格納庫内
「え〜と」島民の真っ直ぐにあかしを見る反応に、多少焦りながらあかしは
「島民の皆さん。ようこそ輸送艦あかしへ。そして日本陸軍の守備隊の皆さん。任務ご苦労様でした」
そう言われ、姿勢を正す陸軍兵達
「本艦は、皆さんをここより900ｋｍ離れたクサイ島までお送りします。およそ2泊3日の行程になります！」
頷く島民達
あかし、真顔で、
「まず皆さんに注意事項を。本艦の艦内は、大変入り組んで迷路のようになっています。迷子になると、二、三日は出てこれませんので、指定場所以外は勝手に出歩かない様に！ 時々行方不明になる水兵もいますから」
あかしが真面目な顔でいうと、島民達は青くなったが、急に
「嘘です」
あかしは笑いながら、
「まあ、それ位広い艦ですし、危険な個所もありますので、特に小さいお子さんやそこのやんちゃなお姉さんは要注意や！」
あかしは、島民の先頭に立つマオを指さした。
「えっ」
あかしに突然指さされ慌てるマオ
一斉に皆から笑いが出た。
「さて、島民の皆さんと陸軍の皆さんは、しばしこの格納庫内で過ごしてもらいます。食事は、此方で準備しますのでご安心ください」
食事の話が出て、嬉しそうな顔をする島民達
あかしは、一呼吸おいて
「最後に、先程僚艦から、この海域へ敵の偵察機が向って来ているとの報告がありました」
それを聞いてざわつく格納庫内
「本艦は、これより敵航空機より逃れる為の行動を行います。多少揺れる事がありますけど、ご安心ください。見た通り大船ですから任せてください」
あかしはそう言うと、コンテナ箱から降りた。
あかしの前に 族長とマオが進み出た。
「艦長殿、この度は島民達をクサイ島まで送って頂けるとの事。感謝いたします」
族長はそう言うと深く一礼した。
マオもそれに続く
「気にせんといてください。これ位お安い御用や」あかしは先程とは違い気さくに答えた。
そしてマオを見て
「マオさんやったな、本当あの“こんごうさん”相手に決闘挑むなんてようやるわ」
感心しながらマオを見た。
「えっ、何故それを」マオは驚くが
「フフフ、それは秘密やけど、その度胸は褒めたる！」そう言うとマオの肩を叩き、
「マオさん、いい体してはる。“自衛隊に入らへん！”」
「はあ」意味が分からず、目が躍るマオ
あかしは、笑いながら２列縦隊で整列し、微動だにしない日本陸軍の守備隊の前に来た。
即座に伍長が
「気お付け！！」と号令を掛けた
ザっ！
よく訓練された素早い動きで、姿勢を正す陸軍兵達
守備隊長の曹長が一歩前に出て、敬礼し
「帝国陸軍 暫定マジュロ島守備隊隊長です」
あかしは
「帝国海軍、パラオ泊地所属 特務艦隊輸送艦あかし艦長のあかし少佐です」と答礼しながら答え、
「皆さん、姿勢を楽に」
「はっ」曹長が答えると、伍長の号令と同時に腕を後に回して“休め”姿勢を取った。
曹長は
「先程のお話では、敵機が近づいてきているという事ですが」
「そう、大体５０ｋｍ位の距離まで来てる。真っ直ぐマジュロ島を目指して来てます」
「まさか発見されたのでしょうか」曹長が聞くと、
「いや、それはないやろ。昨日の砲撃の戦果確認にきよると見た方が自然やな」
「しかし、発見されれば、タロア島より多数の敵機が来ます！ もしよろしければ我々も弾運び程度ですが、対空戦闘のお手伝いを。」
曹長はそう身を乗り出して具申したが、あかしは
「大丈夫や、奴らは私達を見つける事は出来へん。例え見つけても手出しできん」
「どういう事ですか？」曹長がそう言うとあかしは
「なんせ、ここはもう海の下や」
「はあ」意味が分からず怪訝な顔をする曹長
それもその筈である。
曹長達が格納庫内に入った後、艦は静かにバラストに注水。
殆ど揺れる事なく、深度２０ｍの海底へと姿を隠したのである。
護衛艦ひえいも同時に潜航し、今海面上で航行しているのはおとり役の護衛艦こんごう一隻だけであった
あかしは
「まあ、敵機はこんごうさんに任せておけば大丈夫や」
あかしは自信に満ちた顔でそう答えた。
マジュロ島のやや北よりの海域を航行する護衛艦こんごう
進路を反転させ、艦首をマジュロ島へと向けていた。
「偽装進路はこれでいいわ」
艦橋で、戦術情報モニタ―を見ながらこんごうは答えた。
モニターには、島へ向うこんごうの左舷方向から接近する深海凄艦ＰＢＹカタリナのブリップが表示されていた。
既に、敵認識されエネミーコードが割り当ててあった。
「護衛艦ひえい、並び輸送艦あかし。退避完了。潜航待機に入りました！」
艦橋前方にある戦術情報モニタ―を見ながら、すずや補佐が報告を上げた。
「さて、この海域にいるのは本艦のみ。単艦で、マジュロ島に接近し守備隊を救出に来た。という設定でいくわよ」
こんごうがそう言うと、
「単艦突入ですか？」
すずやは笑い顔で聞くと、
「さあ、派手にやるわよ！」こんごうの声が艦橋に響いた。
「合戦準備！！！ 対空戦闘！！！」
こんごうが鋭く下命すると、即座にすずやが艦内放送のマイクを取り
「合戦準備！！！ 対空戦闘！！！」と清んだ声で艦内号令を掛けた。
「両舷前進！ 第一戦速！！」
こんごうが戦闘準備に入る為に艦の増速を命じた。
直ぐに操舵手が、復唱しながら機関の電子式テレグラフを操作し、艦を増速させる
COGLAG方式を採用した護衛艦こんごうは、通常航行に使用する電動モーターに加え4基あるガスタービンエンジンを起動し、戦闘態勢に入った。
加速する護衛艦こんごう
「旗旒 戦闘旗！！」副長の声が艦内に響く
こんごうのステルスマストに、フォトミッション用のフルサイズの自衛隊旗が掲揚された。
南の海の潮風を受け、はためく海上自衛隊旗
「艦長。敵から良く見えるように、式典用の大き目のやつにしておきました」
副長がそう言うと、
「Good jobよ。副長！ これでどこから見ても日本海軍の軍艦ネ！！」
増速した護衛艦こんごうは派手にウエーキを引きながら、一路マジュロ島へ接近する航路を取った。
戦術モニターには、マジュロ島と敵機の間を進む護衛艦こんごうのブリップが写っていた。
艦橋では、副長以下の要員がテッパチやベストを着こむ。
ただ、艦娘であるこんごうとすずやはそのままで、ましてこんごうはあの服のままで着替えてもいなかった。
「敵航空機。方位025 距離2万５千！ 高度1400！」
ＣＩＣからの探知報告が艦橋に響く。
同時にこんごうの座る艦長席にある戦術情報モニタ―には、ＳＰＹ-１Ｄが捉えた敵機情報が詳細に表示されていた。
「左舷後方から接近するわね」
「艦長、回頭して艦首を敵機に向けますか？」
すずやの問いにこんごうは、少し考え
「いえ。このままの進路を維持しましょう。敵機は後方から近づく進路だし、ウエーキを見つけてくればあとは、敵の注意をこちらへ向けさせます」
すずやは、
「こんごう艦長。その後はどうされますか？ この敵機は撃墜しないわけですし」
「ええ、単機で近づいてきているという事は、偵察飛行ね。多分こちらを見つけて何処へ向うのかつけてくると思うわ」
すずやは、“げっ”と怪訝な顔をして、
「もしかして、ストーカーという奴ですか？」
「あら、よくそんな言葉を知っているわね」こんごうが感心して言うと、すずやは、ポケットの中の携帯タブレット端末を出して
「この中のアプリの現代用語の基礎知識っていうのに載っていました。今度熊野に逢った時に、色々教えてあげよと思って」
「あんまり変な言葉を教えないでよ」
「はい」ニコニコしながら答えるすずや
「発見された後は、振り切る為の回避行動ですな」
副長が聞くと、こんごうは
「ええ、この海域から少し遠ざかるような回避進路をとりましょう」
「逃げまわっている内に、わんさかと敵機がやってきますよ。艦長」
「すずやさん。そういう事。大立ち回りを演じて、私達はあえなく救出作戦に失敗した。という筋書きね」
すずやは渋い顔をしながら、
「そういういやらしい事を考えるのは、やっぱり宇垣参謀長ですか？」
「らしいわね。向こうは向こうで色々考えがあるようだし、由良司令も同意したという事は、それだけ作戦としての効果が高いという事よ」
「でも、タロアのマロエラップからかなりの機数が来ますよ。本当に撃沈されたら参謀長の枕元に立ってやります！」
すずやはムッとした顔で答えた。
「ふふふ」こんごうも笑みをこぼしながら、接近する敵偵察機の位置情報を見た。
その頃、深海凄艦ＰＢＹカタリナは、一路マジュロ島へ向け飛行を続けていた。
頭上に低い雲が流れていく
操縦桿を握る機長は、じっとマジュロ島のある方向を睨んでいた。
その時、ふと遠方の海面に光る光点を見た
「ん？」
右手で操縦桿を握りながら、器用に左手でサイドポケットにある小型の双眼鏡を取り出した。
そっと前方のその海面上に見えた光点の付近を凝視した。
「船だ！」
薄っすらと見える影を見て咄嗟に叫んだ。
「何処です！」副操縦士や後方にいたナビゲーター員が前方を見た。
「2時方向、水平線の少し手前！」
副操縦士たちは一斉に指示された方向を見た。
「大型の船です！ ウエーキがあります。 速力もかなり出ていると思われます」
艦影を見た副操縦士が立て続けに報告した。
「ナビゲーター員！ 艦隊の行動予定を確認！ 該当海域に友軍艦は！」
ナビゲーター員は、席へ戻ると、司令部より渡されていた艦隊の行動予定表を確認したが
「機長！この海域で作戦行動中の友軍艦艇はありません！」
「機長！ 日本軍でしょうか？」
機長は、その艦影の方向に少し進路を修正しながら
「解らん。この付近はたまに米国の商船も通過する。司令部からの通達では米国籍の船なら構うなということだが、それにこんな敵地の真っ只中に単艦で来るようなやつがいるか？」
すると副操縦士は、
「機長、さっきご自分でいったでしょう。日本軍は間抜けだが馬鹿じゃないって。もしかしたら、単艦なら見つからないと踏んだのでは？」
機長は、スロットレバーを少し押し込んだ。
唸りを上げる２基のレシプロエンジン
「とにかく高度を取る、接近して確認だ！ ナビゲーター、現在位置を確認しておけ」
「了解です！」
ＰＢＹはそのウエーキーを引く艦影に向い一路進んだ。
「エネミー１００１ 転進。後方より本艦に真っ直ぐ近づく進路をとりました！」
ＣＩＣの対空警戒管制士官の報告が艦橋のこんごうの下に届いた。
「かかりましたな」
副長がいうと、
「距離にして２０ｋｍ。およそ１０分で接敵です」すずやが概算の時間を弾きだした。
その時、左舷見張り員が
「左舷後方、7時方向、機影ヒト！ 真っ直ぐ本艦へ向ってきます！」
「さて、此方も向こうを視認したし、お仕事の時間です」
こんごうはそう言うと、
「左 対空戦闘！」しっかりと声にだした。
「左 対空戦闘！！！」すずやの声が艦内放送を通じて一斉に下命された。
既に、合戦準備の号令が掛かっているので、艦は臨戦態勢である。
全ての防水ドアが閉まり、各員が所定の位置へついていた。
やや肩に気合の入るすずやを見て、こんごうは、
「ほら、すずや補佐。リラックスでしょ」
「艦長。しかし、何度やっても号令は緊張します。この声一つで皆の士気も変わりますし」
「うん、それがわかっていれば、No problemよ」
こんごうは、知っていた。
すずやが、人知れず深夜に後部甲板で、発声の練習をしていた事を。
海軍独特の言い回しの発令が多いなか、はっきりと確実に伝える為に、普段から意識しておかないといざという時に声が出ない。
自分が指揮官になった時、部下に対してしっかりとした声で命じる事の重要性をこんごうの下、学んだのだ。
「艦橋！ ＣＩＣです」砲雷長がこんごうを呼んだ。
「何？」
「現在敵機のとの距離 2万を切りつつあります。仕掛けますか？」
こんごうは、戦術情報モニタ―を確認すると、
「今砲撃すると、相手が此方を十分認識できないから、1万まで待って。相手をそれ以上 近づけさせないで」
「了解です。主砲、模擬弾による威嚇射撃を実施します。照準はマニュアルです。射撃速度は毎分6発程度で調整します」
「それでお願い」こんごうは、続けて
「砲雷長、当てちゃだめだからね」と念押しした。
「難しいですね。普段、必中を猛特訓してますから」
「砲雷長。ちゃんと当てる事ができるなら、ちゃんと外す事もできる筈よ！」
「了解です！」
横で聞いていたすずやが
「艦長、かなり無茶苦茶な指示ですね」
「あら、そう？」
「だって、当てるなって。本艦の装備なら確実に敵機に当りますよ」
「まあ、そうだけど。今回のように状況に応じてギリギリ当てないっていう技術も必要になるわ。具体的には、不審船への停船指示とかね」
「海上警備行動という奴ですか？」
「そうね。ちょこまかと逃げ回る小型船に威嚇砲撃して、停船させるなんて本当はかなり難しい話よ。もし本気で止めたいと思うなら、ヘリで上空から制圧する方が確実よ」
すずやは
「すずや、そう言う状況になった事がないので良く分からないのですけど」
「まあその辺りも、今後の教練で身に付けてもらいましょう」
こんごうとそんな会話をしている内にＰＢＹは、更に接近してきた。
こんごうは席を立ち、艦橋左舷の窓から双眼鏡を使い近づく機影を見た。
「そろそろかしら？」
双眼鏡越しにはっきりと機影が見える
「ＰＢＹカタリナ飛行艇です。艦長」
「すずやさんには、見慣れた機体？」
「はい、艦長。でもあまり見たくないです」すずやは嫌そうな表情を見せた。
「これから、いやという程見る事になりそうよ」
「うえ～」渋い顔をするすずや
「艦長！ 間もなく1万！」ＣＩＣの砲術長から報告が入る。
こんごうは、凛として下命した。
「エネミー１００１に対し、主砲攻撃始め！！」
砲雷長は、ＣＩＣの管制席に座り
「ＣＩＣ指示の目標 主砲攻撃始め！！」インカムを通じて攻撃士官へ指示を出した。
直ぐに攻撃士官は、火器管制コントロールパネルを操作し
「使用弾頭 特殊弾頭！ 照準マニュアル！ 射線障害物なし！ 主砲 うち～方始め！」
攻撃士官の隣に座る砲手員は、オットーメララ127ｍｍ砲の管制パネルを操作し、給弾ラックに特殊弾頭を装備した砲弾がセットされた事を確認した。
「主砲、うち～方始め！！」
復唱する砲手
通常ならここで、砲手はピストル型の発射トリガーを引くだけであるが、今回はマニュアル照準である。
ＦＣＳ-２と連動した赤外線カメラに映し出されたＰＢＹの映像を見ながら、主砲と連動したジョイスティックを操作した。
「初弾は後方で炸裂させます！」砲手員が攻撃士官へ報告すると、
「よし！ 信管の設定、確認しろ！」
「はい、通達確認しました！」
「よし！」
攻撃士官の声を返事を聞いた砲手は、赤外線カメラの映像内の照準を ＰＢＹの後方に合せると、一言
「よ〜く狙って！ てっ！！！」気合の入った声と同時にジョイスティックの発射トリガーを引いた！
甲板上に主砲の発射を伝える警報音が鳴り響いた直後
“タッンーー”
独特の発射音を響かせ、オットーメララ127ｍｍ砲は 白煙を噴き上げながら、主砲弾を発射した。
その砲身の先には こんごうに近づこうとするＰＢＹの姿があった
深海凄艦ＰＢＹカタリナ飛行艇は、高度を上げ前方を航行する不明艦へ向け進路を取っていた。
ようやく艦影がはっきりと見えだして来た。
「撃ってきませんね？」
副操縦士がそう言うと、
「気を抜くな！ 向こうも此方の動きを見ている可能性もある。高角砲の射程内だ！ 撃ってくるまで近づく！」
双眼鏡を覗く副操縦士が、
「見た事の無い艦影です。敵味方識別表にも記載のない艦です」
「新型艦か！」機長は興奮気味に声を出した。
その時、後方で監視業務をしていた機銃員が
「機長！ 不明艦のマストに日本軍のライジングサンが見えます！」
「なに！！」
それを聞いた機長は、自分も操縦桿を握りながら、双眼鏡で前方の艦のマストらしき部分を見た
そこには、大きな日本海軍の軍艦旗が誇らしく掲揚されていた。
「日本海軍の新型艦か！」
ナビゲーター員が
「現在位置算出できています。タロアの司令部へ打電しますか！」
「おう、直ぐに打て！ 現在地と敵艦の進路だ！ この方向なら目的地はマジュロ島だ！」
それを聞いたナビゲーター員と通信士が、電文をまとめ緊急電を打電し始めた。
機長が再び、操縦桿を握り直した瞬間、機体に振動が伝わってきた。
「ん？」
ガタガタと小刻みに揺れる機体
「撃ってきたか！」
右前方に見える艦の艦首部分から、白煙が数回上がるのが見えた
その直後に、機体の後方に白い爆発煙が広がった。
「後方に対空砲撃弾 弾着多数！！」
後部機銃員の報告を聞き、機長が振り返ると、窓越しに後方で白い煙をまき散らしながら砲弾が多数炸裂していた。
その度に 機体がビリビリと振動し、プロペラの風切り音が異様な音を立てた
「正直、気持ちいいもんじゃない」
機長がそう言いながら敵の新型艦を見た。
「なに！ 砲が一門だけか？」
先程から敵艦の発砲を見ていたが、艦首付近にある小さい砲 多分5インチクラスの砲がしきりに此方を狙ってきていた。
「他の兵装は見えるか！」副操縦士へ声を掛けたが、
「いえ、主砲が一門だけで、細かい兵装はわかりません！」
機長は、機体を少し傾け、その新型艦を凝視した
「Cruiserクラスの船体にDestroyerの兵装だと？」
異様な船体であった。直線的な艦橋に目を引くのは後方の飛行甲板らしき空間
「もしかして、あれが日本軍が計画していると噂される航空巡洋艦というやつか？」
そう思っている間にも、機体の後方では敵の砲弾が炸裂していた。
「どこ狙ってやがる！ ぜんぜん的外れだ」副操縦士が、笑いながら声に出したが、機長は
「おかしい」と呟いた
「どうしました、機長」
「そろそろ対空機関砲の射程に入るはずだが、ぜんぜん機銃を撃ってこん、どういう事だ」
ＰＢＹは既に、こんごうの左舷6000ｍ付近まで近づいていた。
「そう言えば、主砲だけですね」
副操縦士もそう思い返事をしたが、その時通信士から
「タロア司令部より返信です。“基地より爆撃隊を急派させる。可能な限り敵艦を追尾し、位置を報告せよ”との事です」
それを聞いた機長は、
「よし！ 一旦離れて後をつけるぞ！ あれだけでかい艦だ、見失う事もないだろう」
そう言うと、操縦桿を左へ切り、機体をバンクさせると、一旦戦域を離脱し始めた。
こんごうは、艦橋左舷の窓から近づくＰＢＹをずっと目で追っていた。
「賢い機長ね、無理に近づこうとせず此方の進路を伺っているわ」
横に立つすずやが
「対空射撃ですが、全弾後方で炸裂しているようですが、わざとですよね」
「ええ、あくまで此方に注意を引きつけるのが目的だがら、落とす気ならとっくに海の藻屑にしてるわ」
「ですよね。そう言えば先程から不思議だったのですが、あの上空の爆煙はなんですか？ まるで敵機に対して効果がないというか、爆発音と煙は凄いみたいですけど」
すずやはそう言いながら、上空のＰＢＹの後方で次々と白い爆煙をまき散らす砲撃煙を指さした。
「ああ、あれね」こんごうはそう言うと、インカムでＣＩＣの砲雷長を呼び
「砲雷長！」
「はい、艦長！」
「試しに ２，３発色付き出せる？」
「はい、次の砲撃で一旦打ち止めします」
そう返事があったあと、一旦砲撃が止み、しばし間が空いた後に再び対空砲撃が始まった。
その時、艦橋の誰かが
「よっ！ たまや～！」と掛け声を出した。
その瞬間 ＰＢＹの後方で 数発の砲弾が炸裂した。
「えええ？」驚くすずや
そこには、青や、赤、黄色の三色の爆煙が綺麗に大空に浮かび上がった
「なっ、なんですか？」
驚くすずやにこんごうが
「ふふ、この砲弾はね以前観艦式の際に、私達こんごう型イージス艦４隻で空中に虹を描くなんてデモンストレーションをやった時に使った訓練弾の改造砲弾よ。砲弾の中身は炸薬じゃなくて顔料と小麦粉。信管は海自では珍しい時限信管よ」
すずやは、上空に咲いた三色の花を見ながら、
「今頃 ＰＢＹの操縦士たち驚いてますよ」
こんごうは、
「まあ、ちょっとしたご挨拶ね。これ以上近づかなければ見逃してあげる」
そう言った直後ＰＢＹは左へ旋回を開始した。
「敵航空機 本艦から離れます！」
見張り員の声が艦橋に響く
「主砲、撃ち方止め！ 現状待機！」
こんごうの下命に、砲雷長が復唱し、主砲の攻撃が止んだ
「艦長！ 通信です」インカム越しにＣＩＣの通信傍受担当から報告が上がった
「何？」
「はい、敵航空機からと思わる電文を傍受」
「通信、解析できるの？」
すると通信員は、
「はい。どうも暗号電文ではなく英文の信号のようです。自動変換して艦長のモニターに転送します」
こんごうとすずやは席に戻ると、電文を確認した。
そこには、英文の電文が表示されていた。モニターを覗くすずや
「え〜と」というが、次の言葉が出ない。
その表情をみたこんごうが
「もしかして、英語苦手？」
すずやは照れながら
「はい、女学校でも成績すれすれで」と笑いながらゴマしかした
こんごうは、笑顔で
「じゃ、次回の講習からは英語の特訓ね」
「はい」諦め顔のすずや
こんごうは、英文を見て
「敵艦種不明の艦１隻を発見、位置マジュロ島北３０ｋｍ付近、進路はマジュロ島と思われる」
続けて
「あとは、詳細な位置情報だけね」
「完全に見つかったという事ですね」
「ええ、これで敵の攻撃隊がわんさかやってくるわよ」
「ＣＩＣ！ 砲雷長」
「はい、ＣＩＣ」
「対空監視を強化して。上空のＥ-２Ｊとのデータリンク再確認！」
「はい、問題ありません。既にＥ－２Ｊが北進してタロア島のマロエラップを探知範囲に収めております。動きがあり次第 報が入ります！」
「解ったわ。敵の内容がわかり次第、即報告を」
「了解です」
こんごうは、モニターを睨み、離れゆくＰＢＹを見ながら
「さあ、ついてらっしゃい」そう呟いた
「なに！！ 日本軍の艦艇だと！！」
その一報を受け取ったタロア島にある深海凄艦マーシャル諸島分遣隊の司令部にたまたま作戦会議の為招集されていた各艦隊の指揮官たちは会議室に飛び込んで来た通信員の言葉を聞き、騒然となった。
「はい、マジュロ島に向け飛行中のＰＢＹ５号機が発見しました！ 艦種不明の日本海軍の艦艇１隻を確認、位置はマジュロ島の北３０ｋｍ付近。およそ１２ノット前後でマジュロ島へ向け航行中です」
マーシャル諸島方面隊の総司令であるル級flagshipは テーブル上の海図を見ながら、
「やられたわ。まさかここまで堂々とくるとは」
副官のル級eliteも
「高速艦による単艦侵入。威力偵察でしょうか？」
ル級総司令は暫し考えたが、
「今は、この艦をマジュロへ近づけさせる訳にはいかない。至急基地航空隊に攻撃指示。空母艦隊司令、艦載機は出せるか？」
すると空母艦隊司令のヲ級flagshipは、
「残念だが、空母艦載機は出せない。そもそも空母群は出撃に備えて北部で停泊待機中だ。直ぐには動けん、マロエラップ基地に予備機があるそれでどうだ？」
「では、基地航空隊に爆撃隊の編成を！」
「了解しました」副官のル級eliteはそう答えると部下を呼び、爆撃隊の編成を指示した。
それを見ていた第３艦隊のル級は
「なにをそんなに慌てる、たかだか１隻の艦艇など」と高をくくったがル級総司令は
「艦種不明という事だけども、ここまで接近されたという事は、此方の索敵網の隙を突かれた事になる。もしトラックに帰還されれば、情報が漏れる」
そういうと、
「今出せる爆撃機は何機？」
すると資料を見ていた副官は
「はい、Ａ―２０型攻撃機が１２機です。あと護衛にＦ４Ｕを数機つける事ができます」
「それで構わないわ、直ぐに準備させて。逃がしてはだめよ！」
「はい、司令」
次々指示が飛ぶ司令部内
ル級総司令は
「予想よりも日本軍の動きが早かったわ」
「やはり昨日の砲撃を受けての事でしょうか？」副官が聞くと
「それにしても、早すぎる。トラックからここまで２０００ｋｍはある。こちらが手出しする前にすでに近くまで来ていたという事ではないか？」
そう話していた時、副官の下へ通信員が現れ
「副司令！ ＰＢＹ５号機より続報です」そう言って電文のレポートを渡した
レポートを受け取り一読する副官の表情が厳しくなった。
「どうした、elite」
「はい。発見した敵艦ですが、大きさは巡洋艦級。後部に大型の飛行甲板を備えているとのです。但し主砲は一門しか確認できないとの事です」
それを聞いたル級総司令は一気に表情を厳しくした。
“ガタッ”
急に席から立ちあがると、通信員へ向け大声で
「ＰＢＹ５号機へ緊急電！ その艦の周囲に大型の空母が居ないか至急確認させろ！」
「はあ？」あまりのル級総司令の慌てぶりに驚いた通信員
「なにをぼさぼさしている！ 急げ！」副官に急かされ、急ぎ退室する通信員
席に着き直したル級総司令へそっと副官のeliteが
「司令。この艦はもしかして」
「ええ、カ６１０号が確認したという超大型空母の随行艦と特徴が似ているわ。もしその空母群がここまで来ているなら大問題だ」
そう声を潜めて答えた。
ル級総司令は、
「基地航空隊へ伝令！ マジュロ島へ接近中の日本海軍の巡洋艦を“全力をもって撃沈せよ！ 容赦はするな、確実に沈めよ”そう厳命せよ！」
「はっ！」司令部要員が伝令に走った。
ル級総司令は
「カ級達の敵を討つには、今しかないわ」そう言いながら海図の上に置かれた赤い巡洋艦の駒を睨み付けた。
深海棲艦マーシャル司令部は、見えない“超大型空母と謎の艦隊”に振り回されはじめていた。
隣接するタロア島のマロエラップ航空基地は、てんやわんやの大騒ぎとなっていた。
「急げ！ 敵艦は待ってくれんぞ！！」
整備兵が怒号を上げながら、駐機された１２機のＡ-２０ハヴォックへ対艦用爆弾を搭載していく。
爆弾を積んだ台車を数人がかりで押しながら、次々と搭載してゆく。
その隣の駐機場では、F４Uコルセア戦闘機6機に5インチロケット弾を搭載する為、台車に積まれたロケット弾がずらりとならんでいた。
そのほか基地には P-40やＰ-38がいたが、これらは海上での戦闘には不向きという事で今回は待機とされた。
「かなり大袈裟だな。たかだかCruiserクラス一隻に」
マロエラップ基地の乗員待機室の窓から、外を見たＡ－20ハヴォック隊の隊長は、そう愚痴をこぼした。
「そうですね。ハヴォック隊が１２機にコルセアが６機。どんな艦隊かと思えばCruiserクラス一隻ですからね」
爆撃機隊の副隊長も、同感と言わんばかりに声にだした。
「仕方あるまい。ル級司令の命令だ」爆撃隊の隊長はそう言うと、隊員達が座る席の前の檀上に上がった
その瞬間、ガヤガヤと雑談していた爆撃隊とコルセア隊の飛行士達の私語が止んだ。
「野郎ども！ 久しぶりの仕事だ」
爆撃隊の隊長はそう言うと、前方の黒板に張り出された航空図の一点を指さした
「今回の仕事は、シンプルでイージーだ！ 先程ＰＢＹがこのマジュロ島へ接近する日本海軍のCruiserクラス一隻を補足した。俺達の仕事はこの艦の撃沈だ」
「おおお」頷く爆撃隊の隊員達
「ル級司令より、容赦無用、必ず撃沈せよとの厳命だ！ いいか野郎ども全弾命中させ、この日本海軍の軍艦を海の底へ沈めろ！」
「おう」一斉に返事をする爆撃隊の隊員達
「コルセア隊は掩護を頼む」
「了解した」コルセア隊の隊長が答えた。
「現在、ＰＢＹ５号機が接敵中だ。誘導がある。聞き漏らすな！」
隊長はそう言うと、
「相手は、一隻だが油断するな！ ここまで来たという事はそれなりの能力があるという事だ」
「はい！！」一斉に隊員達が答えた。
「では、諸君。出撃だ！」
爆撃隊の隊長はそう言うと、檀上を降りた。
一斉に席を立ち、それぞれの愛機へと向かう爆撃隊の隊員達
爆撃隊の隊長は、航空図の入ったバッグを肩に掛けると、
「何か、腑に落ちない」そう言うと、自分の愛機へと足早に向った。
その頃 護衛艦こんごうを追跡するＰＢＹ５号機は、こんごうの後方１５ｋｍ程の距離を周回飛行しながら、追跡を継続していた。
高度を上げ機体を雲間で隠蔽しながら、前方を派手にウエーキを引きながら航行する敵艦を追っていた。
速度こそ遅いが、数千キロに及ぶ航続距離を誇るＰＢＹカタリナ飛行艇
海上自衛隊でも初期の頃 米国より供与された機体を使用していた。
その機体の操縦席では、機長が操縦桿を握りながら
「ここまで 離れれば撃ってこないか」
「そのようです」副操縦士もこわごわそう答えた。
「しかし、機長。さっきの色付きの砲撃は何ですか」
「ああ、あれは慌てたな」
敵艦から一旦離れようとした時。直ぐ後方で、数発の砲弾が炸裂し、衝撃波が機内を大きく揺らした
その時、周囲を青や赤、黄色といった色とりどりの爆煙が包んだ
「聞いた話しでは、日本海軍は対空戦闘の際に、自分の撃った弾の判別の為に、砲弾に顔料を入れて、その色で判別すると聞いた。多分今回も、砲の諸元修正の為だろう」
「機長。それにしても当たりませんでした」副操縦士は気楽に答えた。
機長は少し考え
「多分、練度不足なのかもしれん」
そう言いながら、
「後部に飛行甲板らしき物があるが、艦載機が見当たらん。もし水上機がいるなら要注意だが」
「機長。ここまで来て空襲は受けていないという事は、搭載していないのでは」
「だといいがな」機長は、用心深くそう答えた。
そのＰＢＹの遥か上空では、２機のＦ-３５Ｊが、ＰＢＹの動きを監視していた。
前方を進む敵艦を目で追っていたＰＢＹ機長は、敵艦が進路を変えた事に気が付いた。
「ん？ 進路を変えたか」
「はい、少し西よりに進路を変更したようです」副操縦士もこんごうが変針した事を確かめた。
「機長。自分達に発見されたので、マジュロ島への接近を諦めたのでしょうか？」
「解らん。通信、敵艦変針の報を入れろ！ 敵艦はマジュロ島より離れつつあり」
「了解です！」
通信員が大声で返事をした。
機長は、
「どこに逃げても無駄だ！ 既に爆撃隊は離陸している。１時間以内に攻撃開始だ」
「変針完了です」
航海長がチャートを見ながらこんごうへ報告した。
「両舷前進原速！ 敵航空機の到着を待ちます！」こんごうの指示に従い速力をやや落とし、行き足を緩める護衛艦こんごう
艦長席のモニタ―には、上空で監視飛行を続けるＥ-２Ｊエクセル１６の探知情報が表示されていた。
「１２と６か」
モニタ―に表示されたブリップの数は合計１８機
１２機の編隊とその後方に６機の編隊が追従していた。
タロア島を離陸し、真っ直ぐ此方へ向って来ていた
「距離にして２００ｋｍ。大体１時間ってとこかしら」こんごうは頭の中で換算した。
すずやもそれを見て
「この段階で機種とか分かるのですか？」
「う～ん、反射の大きさから程度は解るけど、この距離だと信頼性が薄いわね。この時代ではまだその技術がないけど、わざとＲＣＳレーダー反射面積を弄って本来の大きさを誤魔化す事もあるわ」
「あのステルスというやつですね」すずやは自信ありげに答えた。
「おっ、勉強しているわね。偉いわ」
「へへ、すずや、褒められました」嬉しそうなすずや
こんごうは、
「では、すずや補佐。ステルスとは何？」
「はい、ステルスとは対象物をレーダーから探知されにくくする技術です」
「具体的には？」とこんごうが聞くと
「はい。例えばこの艦のように形状を直線的にする事で、レーダー反射を極力抑える。電波などを吸収し、熱に変換する特殊塗料などを使う手法などがあります」
「そうね、レーダーだけでなく、熱などのセンサー類からの探知を防ぐという手法もあるわ。いくらステルス性が高いといっても目視されれば全く意味がないという事は留意しておく事」
こんごうは続けて
「では、その逆は？」
「逆ですか？」
「そう、逆に“ここにいるぞ！”って自己主張する物」
すずやは少し考え
「あのデコイというやつですね」
こんごうは、ニコッとして
「そう、戦場で存在感をアピールして囮になるという戦法よ。そう言う意味では、今の私達がデコイの様なものね」そう言うと、戦術情報モニタ―を見ながら
「こういう、レーダー情報のみで相手を判断する場合すぐその情報を鵜呑みにしがちだけど、本当にそれが実体ある物か、他の可能性はないか。指揮官としてしっかり判断しなくては、いざ目の前に来たとき、“そんな筈では”という事になりかねないわよ」
「はい、艦長。肝に銘じて覚えておきます」すずやはしっかりと返事をした。
こんごうは、インカムを操作し
「ＣＩＣ！ このエコーにゴーストは？」
するとＣＩＣに待機する砲雷長が
「はい、本艦ならびＥ－２Ｊ、Ｆ－３５からのクロスで調べましたが、全てRealです」
砲雷長は、
「間もなく前衛偵察中のリーパーが有視界で敵機を捉えますので、機種も判別できると思います」
「分かったわ。判別でき次第。報告を」
「はい」
こんごうは、じっと戦術情報モニタ―を見ながら
「さて、何か来るかしら」と呟いた。
その答えは直ぐに出た。
「Ａ－２０にＦ４Ｕコルセアか」
こんごう達の作戦支援の為、後方の海域で待機していた護衛艦いずものＦＩＣ内部の大型モニターに、前衛監視中のＭＱ－９リーパーが捉えたこんごうへ向け進空する敵爆撃隊の映像が映し出された。
「いずもさん。新型機が混じっていますね」
そう声を掛けたのは、艦娘鳳翔であった。
こんごうへ向け敵機が進空してきたという報を聞き、航空機乗員待機室から駆け込んで来た。
「ええ、形状からＦ４Ｕコルセア戦闘機です」
いずもはそう言うと、タブレット端末にＦ４Ｕコルセアの詳細情報を呼び出し、鳳翔へと渡した。
その機影を見た鳳翔は、直ぐに
「機首がかなり長いですね。これでは空母での運用は難しいのでは？」
「流石 鳳翔さん。空飛ぶ艦娘と言われるだけはありますね」いずもはそう言うと、
「この機体の最大の欠点がそこです。この機体は車輪を降ろした時の失速特性が悪く、前方視界の悪さを相まって空母での運用は不向きという評価が米軍では出ています」
「では陸上配備の機ですか？」と鳳翔が聞くと、
「鳳翔さん。先程の評価ですが、“不向き”という事で“不可”ではないという所です」
「いずもさん。では」
「ええ、問題点さえはっきりとわかっていれば、運用上は問題ないという事です。この機体は、非常に耐久性に優れ荒い着艦をしても主脚が折れる事がなく、構造も見た目によらず簡素。そして2000馬力級のエンジンを搭載し、速力、運動性もまずまずといった優秀な機体です」
「手ごわいですね」鳳翔がそう言うと、
「格闘戦なら、零戦の敵ではありませんが、非常に頑丈な構造なので、前線では好んで使われたそうです」
いずもは、続けて
「この機体はある意味、Ｆ-35と通じる所があります」
「あの機体とですか？」鳳翔が聞くと、
「ええ、戦闘攻撃機の原型とも言えます、12.7ｍｍ機関銃6門を搭載し艦隊防空の制空戦闘機としての運用や、２０００馬力級エンジンの生み出す余剰馬力を使いロケット弾や多数の爆弾を搭載し攻撃機としての運用もできる。実に米国らしい飛行機です」
鳳翔は少し考え
「もしこの様な機体が我が軍にあれば、空母での艦載機運用は大きく変化します。私の艦ではどんなに頑張っても艦戦8機、艦攻6機が限界です。でもこの様に両用できる航空機なら、定数限界まで搭載して、作戦に応じて運用自体を変更すればいいという事ですね」
「まあ、細かい部分は専用機よりは能力がおとりますが、作戦の幅は大きく広がります。正規空母と軽空母を対で運用し、前衛は正規空母、後方に軽空母が待機し何時でも補充機を出せる環境を作るという事も可能になりますよ」
いずもはそう答えた
鳳翔は、
「実は、海軍航空本部より次世代の艦載機について、現場からの意見をと打診されています。当初は噴式戦闘機の開発を打診するつもりでしたが、この両用機についても検討してもらえるように意見します」
そんな二人の会話の横で、渋い表情をする自衛隊司令
「あら、えらく不機嫌ね」
いずもが声をかけると
「まあな、コルセアが出てきたという事は、性悪猫も出てくる可能性があるぞ」
「ヘルキャットね、Ｆ６Ｆヘルキャット。零戦とほぼ互角に戦える米戦闘機」
いずもの返事を聞いて、驚く鳳翔
「いずもさん。零戦と互角に戦える機体があるのですか？」
「はい、まだ実戦配備前ですが、既に開発が米国で始まっている筈です」
「新型機の構想を急がないと、いけません！」唸る鳳翔
司令は、静かに
「まあ、鳳翔さん。そんなに慌てなくても。直ぐに零戦の優位性が崩れる訳ではりませんし、我が国は航空機開発ではテンポの遅い国です。そんな日本があれこれと場当たり的に手を出しても、資源も人材もありません。ここは現場として絞るべきでしょう」
「やはり、戦闘攻撃機ですか？」
「ですね。噴式機の開発と並行しながら、強力なレシプロエンジンを搭載した戦闘攻撃機が欲しいところです」
司令は
「烈風かＪ改か。どちらにしてもエンジンが問題だな」
そうぶつぶつと呟きながら、前方の戦術情報モニタ―を睨んだ
「そろそろ始まるな。頼むぞ、こんごう」
そう言うと、モニター上の護衛艦こんごうのブリップをじっと睨んだ。
護衛艦こんごうの艦橋にＣＩＣからの報告が響く
「敵攻撃隊１２機並び戦闘機６機。距離４０ｋｍ。本艦の右４時方向より接近中 高度2000ｍ、緩やかに降下中」
「右舷見張り員！ 間もなく有視界範囲に入る！ 発見次第即時報告！」
「了解です」
すずやの指示に右舷見張り妖精大きな声で返事をした。
緊張が艦橋を包んだ
「艦長！ ＣＩＣです」
「はい、どうしたの」
「あの今回の敵航空機は ちゃんと撃墜してもよろしいでしょうか？」
砲雷長が聞くと、こんごうは
「ええ、構わないわ、多少うち漏らしても構いません。その分目撃者が増えるだけです」
こんごうはそう言うと、
「砲撃開始は １万５千で開始、発砲間隔は毎分６発程度に。使用火器は主砲とＣＩＷＳのみで、マニュアル射撃でお願い」
「了解です」砲雷長が返事をすると、
「撃ち方止めとほぼ同時に潜航だから、準備をしておいて！」
「了解しました。しかし攻撃が続くと止め時の判断が難しいですが？」
「そこは、任せて。最後は多分力業だから」
「艦長、了解しました」砲雷長はしっかりと答えた。
こんごうは、艦長席にサイドコンソールにある艦内放送のマイクを取った。
「総員！ 傾注！ 艦長のこんごうデ～ス！」
こんごうの声が艦内に響く
一斉に艦内に緊張が走った。
「現在、本艦を攻撃する為に爆撃隊が接近中です。あと２０分もしない内に交戦状態となります」
こんごうは続けて
「今回は任務の関係で、本艦は偽装撃沈されます。この任務は非常に難しいですが、今回の戦いの趨勢を決めるポイントでもあります。各員の奮闘を期待します！」
その瞬間、艦内で
「おお、やったるぞ！！」と声が上がった
艦内の士気が上がった
こんごうは最後に
「では、皆さん！ お仕事の時間デス！」
「おう！！」一斉に艦内から声が上がった
その頃対する敵爆撃機隊の隊長は、ＰＢＹ5号機の誘導に従い一路洋上を飛行していた。
徐々に高度を落とし、攻撃態勢を整えつつあった。
一番機の操縦桿を握る隊長は、後席の通信員へ向い
「各分隊へ打電！ 敵艦との距離が２万ｍになったら散開する。各分隊は訓練通りに散開し、３方から各個に爆撃を開始」
「はい、打電します」
「散開後の攻撃のタイミングは各分隊の機長に任せる」
「了解です」
通信士はそれを聞くと、直ぐに電鍵を叩き始めた。
A- ２０の機内は狭い
爆撃機とは言え、元々高高度爆撃機として計画された事もあり、出来うる限りコンパクトに設計された機体であった。
その為 乗員は最少の３名。
機内も狭く、居住性はお世辞にも良いとは言えなかった。
狭い機内で身をよじらせながら隊長は前方を見た。
「艦影！ 発見！！」
遥か前方の海原に白い航跡を引きながら航行する艦影を見た。
後方の機銃員が
「右前方にＰＢＹ５号機を確認！」
隊長は前方に、ＰＢＹ５号機を見つけ声を上げた
「間違いない。あれが目標の敵の巡洋艦だ」
目標を確認した各機が、軽く主翼を振って合図してきた。
「よし、目視したな」
攻撃隊の隊長はそう言うと、
「各機、攻撃隊形に！」
通信士が隊長の声を聞き、“攻撃隊形作れ”と打電する。
１２機のＡ-２０は、４機ずつの３つの分隊へと再集合した。
各分隊、分隊長機を先頭にレフト・エシュロンへと編隊を組み替えた
斜め左方向に並ぶ４機のＡ-２０
爆撃機隊隊長は、左右の窓から散開するＡ-２０を見ながら
「合計１２機の爆撃機で三派に分かれて波状攻撃だ。幾ら逃げてもかわせまい。コルセアもロケット弾攻撃で加勢してくれる」
そういうと、再び遥か前方を航行する敵艦を見て
「巡洋艦という事だが、Light Cruiser（軽巡洋艦）のようだ。この距離に来ても砲撃がない。甲板らしきものは見えるが」
隊長は、
「敵の艦載機に注意しろ！ 相手は飛行甲板を有しているぞ！」
「はい！ 今の所気配はありません」
見張りを兼ねる機銃員が返事をした。
通信士が
「隊長。艦載機はいないのでは。そうでないと、ドン亀ＰＢＹなんか直ぐに落とされてますよ」
「だといいがな」隊長の返事は、やけに元気が無かった。
「隊長、考え事ですか？」
「いや、何でもない」隊長は操縦桿を握りながらそう答え、
「たかが一隻だが、日本軍はこの一隻でどうするつもりだったのか」
ふとそんな事が脳裏を横切った。
「敵航空機群、間もなく2万！」
艦橋にＣＩＣからの報告が届いた。
既に艦の右後方に迫る敵航空機群の先頭を視認していた。
「ん～？」
艦橋横の右舷見張り所に出て敵機を双眼鏡越しに見ていたすずやが
「敵航空機群 散開はじめました！」
いち早く動きを察知して声に出した。
こんごうも備え付けの大型望遠鏡で機影を見た。
直後、ＣＩＣから
「敵航空機群 4派に分散、先頭の１２機は3群へ別れました。進路は本艦を中心に左右に1群ずつ、後方に1群が接近中！ 後続の6機はバラバラに進空してきます！」
こんごうは、
「ＣＩＣ 一番近いのは？」
「はい。このままですと、右へ回り込んだアルファ群4機が最初に直上に来ます！」
「では、右対空戦闘からはじめましょう」
こんごうはそう言うと、すずやを伴い艦橋の中へと戻り、艦長席についた。
巫女服調の戦闘装束の長い袖が宙に舞う
こんごうは、席に着くと、
「第３戦速 進路そのままヨーソロー！」
直ぐに航海長が復唱し、操舵員が機関出力を上げた
艦尾から巻き起こるスクリューの渦が一段と激しさを増す。
体に伝わる加速感
艦橋前方にある運航情報モニタ―の速力表示が２０ノットを軽々と突破した
「来た来た！」
こんごうの横に立つすずやはつい声に出した。
「ううん！ この加速感！やっぱりガスタービンと高性能スクリューの加速感は最高です！」
そんなすずやにはお構いなく、こんごうは艦長席の戦術情報モニタ―に映る敵航空機群を見た
「３派に分かれて、左右の分隊で此方の動きを止めながら、後方の分隊で仕留めるつもりでしょうけど、そうはさせないわよ」
こんごうは、近づく敵機を見ながら、
「さて、私の足についてこれるかしら？」自信に満ちた声を上げた。
後方より接近する敵爆撃機隊の隊長は、前方に見えた敵巡洋艦が急に増速した事に驚いた。
「増速したか！」
３つの分隊へ散開したあと各々攻撃ポイントへと向い進路を返信した直後に敵艦は此方の意図を読み取ったようで、速力を増加し始めた。
第２分隊は右へ、第３分隊は左へ散開し左右から敵艦の頭を抑える
直撃弾が出なくても敵の動きは制約される。そこへ後方から我が分隊が低高度爆撃で直撃弾を与えれば敵を仕留める事ができる。
そう作戦をたて、日々訓練してきた。
「此方の意図がばれたか」
爆撃隊の隊長はやや焦ったが、進路がそのままなのを見て、
「そのまま真っ直ぐ進め！ そうすれば安心して海の底へ送り届けてやる」
敵巡洋艦に接近する為、第２分隊の４機が増速しながら敵の右舷方向へと機体を捻る。
左舷方向には、同じく第３分隊の４機が爆撃進路へと入りつつあった。
両分隊の位置を見ながら爆撃隊の隊長は
「よし、そのままで相手の頭は押さえる事はできる」
敵巡洋艦まで１万５千メートルまで近づきつつあった。
「じゃ、始めましょうか」
こんごうは、気楽にいうと、姿勢を正し凛として右手を大きく振りだし
「右対空戦闘！ ＣＩＣの指示の目標！ 主砲ならび右舷ＣＩＷＳ攻撃始め！！」
「攻撃始め！！」
こんごうの声がＣＩＣのスピーカーから響いた
ＣＩＣで席に座る砲雷長は、管制卓を操作しながら、次々と命令を発した
「右対空戦闘！ 警報発令！」
そう言うと、コンソール上の赤いボタンのクリアーカバーを外し、ボタンを押しこむ。
独特の電子警報が艦内に鳴り響いた
既に、艦内は合戦準備の号令が掛かっていた為、全ての防水ハッチは閉鎖され臨戦態勢である。
艦内の状態表示モニターを確認し、戦闘態勢に入った事を確認した砲雷長は警報を止め、即座にインカム向い怒鳴った
「右対空戦闘 目標トラックナンバー 2011から14！ 主砲、弾種、対空調整破片榴弾！」
「対空戦闘情報！ データインプット完了」
対空管制士官から攻撃士官へＳＰＹ－1が捉えた敵航空機群のデータが転送される。
攻撃士官は砲雷長の指示する目標4機をコンソール上でタッチパネルを使い選択すると、自動的に艦橋最上部にあるＦＣＳ－２が目標を捉え、砲撃諸元が算出されると同時に艦首のオットーメララ127ｍｍ砲が選択された標的を指向した。
「射線方向、障害物なし！」
攻撃士官の声がＣＩＣに響いた。
「主砲！ うち～方始め！」
「うち～方始め！」攻撃士官が復唱するとの同時に、横に座る砲手が主砲の制御卓からピストル型の発射トリガーを引きだすと、
「発砲！」の声を同時にトリガーを引いた。
甲板上に発射警報が鳴り響いた直後
タッン！！！
右旋回を終えた127ｍｍ砲が、小気味よい音を響かせ砲弾を発射する。
砲身から発射煙が出たあと、冷却水が吹きだす。
直後、空薬莢が甲板上に排出された。
“カラン”小気味よい音を立てて空薬莢が甲板上を転がり回った。
本来なら、ここで続けて次弾が発射されるが、今はこの時代の１２．７ｃｍ連装砲の発射速度に合せているので、暫し間が開く、
その間も主砲は 艦の揺れに合せ砲身を細かく動かしながら敵航空機群を指向し続けていた。
その砲身の先には、こんごうの右舷方向から接近しようとしていた敵の第２分隊のＡ-２０爆撃機４機がいた。
第２分隊長率いる４機はこんごうの右側面から接近し、進路を塞ごうとしていた。
「間もなく爆撃針路へ入るぞ！」
分隊長である操縦士が声を上げた。
「目標まで間もなく１０ｋｍだ！！！」
前方に右側面を見せながら航行する敵の巡洋艦が見えた
「ここまで近づいて撃ってこんとは、主砲の故障か？」
そう思った瞬間、敵艦から白い発砲炎が上がった
「もう遅い」操縦士は既に機体の高度を300ｍまで落としていた。
「弾倉開け！」そう声に出した瞬間、機体に凄まじい振動が走った
ガタ、ガタ、ミシ、ミシと機体が軋む音と同時に機体が左右、上下に大きく揺れた
「なんだ！！」
飛行士が周囲を見わした瞬間、左横を飛んでいた６番機がいきなり爆散した。
「おわ！！」
６番機の前方で突然対空砲らしきものが炸裂し、眩い光と黒煙が６番機を包んだ
直後、６番機は右主翼を真っ二つにしながら、ほぼ真っ逆さまに海面へと黒煙を引きずりながら引火した燃料の火の玉をまき散らしながら落下していく。
「くっ！ 直撃か」
直ぐに６番機のいた位置に７番機が詰め寄り隊形を組み替えた。
一機撃墜され３機になった第２分隊であったが、編隊を組み替えた直後 今度は最後尾の８番機が火球に包まれた。
「８番！！！」
操縦士が左手を見ると、詰め寄った７番機の後方で、火達磨になりながら飛ぶ８番機の姿があった。
「なっ！」
驚く分隊長の操縦士
しかし、その直後８番機は、爆弾に誘爆したのか、眩い閃光と共に爆散し跡形もなく散り去った。
「何だ！ なにが！！！」
敵艦が砲撃を開始してまだ１分もたっていないというのに、既に２機が爆散した。
敵艦を目前にしながら２機が空に散った。
「あと少しで爆撃できるというのに！！！」
分隊長は怒鳴ったが、直後左横を飛ぶ７番機の左翼に火の手が上がった
「っ！！ ７番機が！！」
７番機の左翼に上がった火の手はアッという間に機体全体に燃え広がった
「７番 被弾！ 離脱します！」
機銃員の声とほぼ同時に７番機は、急速に速度を落としながら機首を下げ急降下してゆく
操縦席の視界から黒煙を吐きながら消える７番機
「くっ！！！」
分隊長の操縦士は操縦桿を握り絞めた！
「あと少し、もう少しで敵艦の直上！！」
そう思った瞬間！ 敵艦の対空機関砲が火を噴いた
真っ直ぐ此方へ向ってくる赤い航跡！
「うおおおお！！！」
無意識に声に出したが、その声が音となる事はなかった。
ガン、ガンガン！！！
立て続けに機体に無数の衝撃が走った直後、左右の主翼からほぼ同時に燃料に着火！
あっという間に機体は火に包まれた
「たっ、」
分隊長の操縦士が何かを言おうとしたが、それは機体が爆散する音でかき消された
「２０１１から２０１４ ターゲットキル！」
ＣＩＣに攻撃士官の冷静な声が響く
砲雷長は、
「攻撃続行！ 左対空戦闘！ 目標 左舷！ トラックナンバー３００１から０４！」
攻撃士官が復唱すると、直ぐに諸元データが転送された。
「砲雷長！」
艦橋のこんごうから声がかかった
「はい、艦長！」
「取舵切るわ！ 第２目標群に正対するわよ！ 行ける？」
「お任せください！ 既に攻撃可能です！」
「じゃ、逐次攻撃開始！ こちらは回頭します！」
艦橋の指示がＣＩＣに流れた
「とりか〜じ！！！」すずやの切れのある声がスピーカー越しに流れた瞬間右側に取られるような感触を受けた。
「おっと！」
攻撃士官が、管制卓の上を転げまわるボールペンを押さえた。
「砲雷長！ 上は張り切ってますね！」
攻撃士官が声をかけると砲雷長は
「そうだな。ここは派手にいくつもりだろう。ブラボーへ正対後直ちに攻撃始めるぞ！」
「はい！ いつでも」
攻撃士官や砲手が一斉に返事をした。
「舵中央！！」こんごうの声が艦橋に響く
操舵手が復唱しながら舵を切り替えし、進路を固定した
護衛艦こんごうは、左回頭を終え、直進進路へと復帰する
前方上空には此へ向い真っ直ぐ此方へ向ってくる敵爆撃機４機がいた。
レーダーモニターの航跡を見ながらこんごうは、
「ふふ、此方の動きに慌てているみたいね」
「それはそうでしょう。あっという間に４機。瞬殺ですよ」
興奮気味にすずやが答えた。
「さあ、次もやるわよ」
こんごうの声と同時に、艦首の127ｍｍ砲が 正面少し左より接近する敵爆撃機隊へ向け砲撃を開始した。
唸るこんごうの127ｍｍ砲
「何だ！ あれは！！！！」
爆散する第2分隊をみながら爆撃隊の隊長は叫んだ
隊長率いる第一分隊とコルセア隊は敵艦の後尾から接近するように時間調整の為、敵の射程圏外とおぼしき距離で、右旋回をしながら突入のタイミングを計っていた。
双眼鏡越しに見る敵艦は、大きさは敵のクルーザー級ではあったが、主砲は見る限り1門
それも、デストロイヤー級に装備する5インチの単装砲の様である。
それに引きかえ目につくのは、後部の大型の飛行甲板のような平らな空間とその前方の格納庫のような構造物
初めは艦載機がいるのかと思ったがそれもない。
爆撃隊の隊長は、
「あの格納庫のような物はもしかして上陸用の舟艇の格納庫？ あの平らな甲板から舟艇を降ろし、友軍を救出するつもりだったのか！」
そう思い始めていた頃、第２分隊が敵艦の進路を塞ぐ為に、敵艦の右方向から艦首へ向け爆撃侵入を開始した。
「これであの艦の動きは止めた。第２、３分隊で足を止め、我々とコルセア隊で・・・」
と思った時、敵艦の攻撃が始まった
艦首にある１門の砲が白煙を上げるのがみて取れた
「ふん、あの程度の・・・・」と思った瞬間
次々と第２分隊のＡ-２０が火の手に包まれ、粉々に砕け散っていった！
呆然とそれを見る爆撃隊の隊長
「何だ！ あれは！！！！」
ようやく、腹の底から声を出して
「第３分隊は！」
そう言いながら第３分隊の進空する方向をみた。
既に敵艦の左舷へ向け進路をとる第３分隊の４機
「油断するな！！」
だがその時、敵艦は急速に回頭し第三分隊へと舵を切った
「いかん！！！」
本来なら第２分隊の攻撃で混乱した所へ第３分隊がしかけて行き足を止める筈であった
しかし、敵艦は圧倒的な対空砲撃であっという間に第２分隊を瞬殺した
“このままでは 第３分隊も！”
だが爆撃隊の隊長の声も第３分隊には届かなかった
回頭を終えた敵艦から再び対空砲撃か開始された。
直後、まるで狙い撃ちされたように第３分隊の４機のＡ-２０も次々と被弾し、炎上爆散してゆく
粉々になりながら、海面に落下する第３分隊のＡ-２０残骸
「くっ！！！」
爆撃隊の隊長は、
「後だ！！！ あの艦の砲は１門だけだ！ 後へ回り込り込むぞ！」
「えっ」慌てる機銃員達へ
「あの艦の主砲はやたらと当たる！ 正面きっての攻撃は危険だ！ 後方へ回り込んで一気にやる！」
隊長は、機体を右旋回させながら敵艦の後方へ回り込もうと切り込んでいく
その隊長機に続く３機のＡ-２０と６機のコルセア戦闘機は右急旋回をしながら 護衛艦こんごうの後方へ回り込むべく機体を大きく捻った
「後なら、撃てないと思った？」
こんごうは、後方へ回り込もうとするＡ-２０の動きを見て、そう呟いた。
「副長、例の準備は？」
「はい、完了しております。点火後は直ぐに退避できように各員配置してあります」
「すずや補佐！ 潜航警報発令！ 潜航用意！！」
こんごうの声に直ぐにすずやは、インカムのボタンを押し
「発令！ 潜航警報！ 各員潜航準備！！」
艦内が一斉に、潜航体制に向け準備を開始した。
「ＣＩＣ 艦橋！ こんごうよ！」
「はい、ＣＩＣ」砲雷長の声が返って来た
「主砲、撃ち方止め！」
「了解です、主砲、撃ち方止め。潜航対応に入ります！」
「砲雷長！ 後部ＣＩＷＳはマニュアル照準で牽制射撃！ 適当にあしらって！」
「はい、艦長」
艦橋横の見張り所から
「右舷後方より敵爆撃機4機接近！ その後方にコルセア戦闘機が6機続いています」
こんごうは、ぐっと右手の拳を握ると
「さあ、来なさい！ 貴方達の獲物はここよ」
「敵！ ５千まで接近！ 弾倉開いています！！！」
見張り員の声が響く
「見張り員は艦内退避！！」
副長の指示が飛ぶ、
一斉に艦橋内部に駆け込む見張り員達
防水ドアか閉められ、固くロックされた
既に艦橋の窓にも防水シャッターが下ろされ、艦内の各所は潜航へ向け準備を整えていた。
艦外の監視カメラが右後方から接近する爆撃隊を捉えた
艦橋前方の大型モニターでそれを見るこんごう達
“ブウゥゥゥ”
後部航空機格納庫上部に設置されている２０ｍｍＣＩＷＳが敵爆撃隊へ向け、マニュアル射撃を開始した。
不審船対策で、ＣＩＷＳにマニュアル射撃モードを付加してあるこんごうのＣＩＷＳブロック１Ｂは 短い射撃を繰り返しながら敵爆撃隊とその後方に展開するコルセア戦闘機へ向け２０ｍｍタングステン弾をばら撒きちらした。
ＣＩＣのＣＩＷＳ砲手は、上手く弾幕を張り、相手を牽制していた。
「おっ！ 最後尾にあたったようですね」
モニターを見ていたすずやが声に出した。
４機の横隊で侵入してきた敵爆撃隊の左端にいたＡ－２０の右エンジンから火の手が上がっていた。
しかし、その火も直ぐに消えまだ猛然と此方へ進んでくる敵爆撃機
「間もなく２千です！！」
副長がレーダー情報を見ながら報告した
「ＣＩＷＳ！ 撃ち方止め！！」こんごうの指示が飛ぶ！
即座にすずやが、艦内放送を掛けた。
「総員！ 衝撃に備え！！！」
「敵機 直上です！！！！！」
敵Ａ-２０の胴体弾倉から、次々と護衛艦こんごうめがけて、投下される500ポンド汎用爆弾
「今よ！」
こんごうはそう言うと、一瞬目を閉じ、精神を集中させた。
「フィールド展開！！」気合を込めて唸るように声に出した。
こんごうの左手頸にある精神反応金属製のブレスレットが青白く光り輝き、艦橋を包む
瞬時に 護衛艦こんごうを包むように青白くハニカム構造のクラインフィールドが展開した。
Ａ-２０の編隊がそのフィールドの直上を通過した直後、無数の５００ポンド爆弾が護衛艦こんごうを襲った。
“ズスズ”という地響きと同時に、
“ドッ～ン”という振動が、船体を大きく揺らす！
護衛艦こんごうの直上で、フィールドに阻まれて、爆発する無数の汎用爆弾
多量の爆煙と閃光が護衛艦こんごうを包んだ
「くっ！」こんごうはフィールドを通じて伝わる振動を受け、その痛みに耐えた。
「艦長！！」すずやが苦痛の表情を浮かべるこんごうの顔をみたが、
「大丈夫よ！ それより！！ 偽装炎！！」
こんごうは唸る様にいうと、直ぐに副長が艦内マイクをとり
「ダメコン！ 偽装炎点火！ 点火後直ちに艦内に退避！！」
その放送がかかると、甲板上の至る所から火の手が上がった。
主砲の周辺や艦橋の横、煙突の回り、格納庫の周囲など軽く１０カ所を超える場所から黙々と黒煙と炎が舞い上がった。
予めこんごうの船体の各所にドラム缶を加工した使い捨ての偽装炎装置を設置してあった
そこで、廃油や燃料を燃やして多量の煙と炎を出していた。
遠くから見れば、まるで各所に直撃弾を受け、火の手が上がったように見える。
フィールドのコントロールに集中するこんごうに変わりすずやが、
「右舷注水でいいですか？ 艦長！」
頷くこんごう
「右舷バラストタンク注水 傾斜５度！！」
航海長が直ぐに復唱すると、担当員がパネルを操作し右舷のバラストタンクへの注水を開始した。
じわじわと右へ傾く護衛艦こんごう
爆撃隊の４機のＡ-２０は、護衛艦こんごうの右後方からこんごう直上を通過しながら、爆撃を行っていった。
ＣＩＷＳの威嚇射撃により、多少の損害が出ていたが何とか辛うじて、投弾に成功した。
黒煙を引きながらこんごうの左前方へと飛び抜ける爆撃隊
「やったか！」
爆撃隊の隊長は、身を乗り出して後方に過ぎ去る敵艦を見た。
次々と爆炎に包まれる敵艦
「着弾多数確認！！！」
機銃員の声が機内に響いた。
「高度だ！！ 高度を取れ！！ あの艦の対空兵器は異常だ」
隊長の指示を聞き、急ぎ高度を取り敵艦から離れるＡ-２０第一爆撃分隊
「４番機はついて来てるか！」
「はい、少し遅れ気味ですが来てます！」
左旋回をしながら、敵艦からの離脱行動を取る爆撃隊
隊長は窓から敵艦を見た。
そこいは、爆撃で生じた黒煙に交じり、幾つもの炎と大量の黒煙を上げる敵艦の姿があった
「よし！ 致命傷を与えたぞ！！」
湧きかえる機内
監視していた機銃員が
「敵艦 右に傾斜しています！！」
その声を聞き、隊長は再び煙と炎に包まれた敵艦を見た
「右に傾斜している！ あそこまで傾斜すればそう長くはない！」
既に敵艦の右舷甲板の上を波が洗っていた。
マストを大きく右へ傾ける敵艦
その敵艦へ向け右方向から、コルセア戦闘機隊が接近していた。
「止めだ 日本人！！」
隊長はそう毒づいた
「右舷 ４時方向よりコルセア戦闘機６機 低高度で接近中！！」
レーダー情報を監視していたすずやが叫ぶ
「いい５インチロケット弾と１２．７ｍｍ機銃弾の雨よ！ それをやり過ごしたら潜航して誤魔化すわよ！」
こんごうが、顔を赤くしながら、怒鳴った。
それをみた、すずやが
「艦長！ 大丈夫ですか？」
「ええ、この程度。米軍のハープーンに比べればＢＢ弾の様なものよ」
「はあ、あまり無理をしないでください。艦長」
よく意味が分からず返事をするすずや
こんごうは、意識を集中した
艦娘最強と言われるこんごうの霊波防壁。クラインフィールドといえど、欠点はある。
多量の攻撃を一度に受ければこんごうの霊波の演算と霊力が持たない。
飽和攻撃に弱いという欠陥があった。
しかし、こんごうはそれを強靭な精神力でカバーしていた。
ある艦娘が言った
“こんごうの辞書には、諦めるという言葉は存在しない”
どの様な状況に陥ろうとも、必ず次へ進み細い道を見いだす。
それがこんごうという艦娘であった
こんごうは、モニターを見ながら敵戦闘機隊の進路を想定し、フィールドを再構築してゆく
「すずやさん！ 傾斜もう少し！！」
「はい。航海長！ 右舷バラスト再注水！！」
航海長が復唱すると、操作員がバルブを操作し、艦の傾斜が再び増す
「おっ」
副長達は、身近な物を掴んだ。
すずやは器用に足を踏ん張って持ちこたえた。
接近するコルセア戦闘機隊をモニターで確認しながらすずやは
「最終段階へ入ります よろしいですか艦長！」
「ええ、お願い」
こんごうの返事を聞くなりすずやは、
「機関両舷前進 半速！！」
すずやの指示と同時に、機関員がテレグラフを操作すると、艦の行き足が急速に緩んだ！
既にコルセア戦闘機隊は目前まで迫っていた。
右後方からバラバラに接近するコルセア戦闘機
その翼下には１機当たり８発の５インチロケット弾が搭載されていた。
このロケット弾が意外に厄介者である。
弾頭重量は僅か45ポンド（20kg）であるが、ロケット推進により撃ちっぱなしが可能であり、戦闘機を攻撃機へと変貌させた。
確かに威力としては大した事はなく、重巡以上の艦なら十分に防御可能であったが、対空防御力の低い駆逐艦や民間の船などでは被害が続出する。
当りどころが悪ければ、艦の指揮命令系統を破壊する事もあるのだ。
コルセア戦闘機隊は、黒煙を上げながら、急速に行き足の止まった敵巡洋艦へ向け低空から接近していった
先頭を行く、戦闘機隊の隊長は
「ここまで接近して対空砲火が上がって来ないという事は、既に瀕死だな」
そう言いながら、機首を敵艦へ向け、修正した。
50ｍ以下まで高度を落とし、敵艦に向うコルセア戦闘機隊
周囲には、敵艦から上がる黒煙が無数に漂い、敵艦を遮っていた。
5インチ FFARの射程は1マイル（１．６ｋｍ）だ、ギリギリで突っ込む必要があった
速度を上げながら敵艦に接近する
前方の照準器を覗きながら、敵艦の艦橋へと照準を合わせた
「ふん！ 既に速力もない！ これで終わりだ！」
そう言うと、発射レバーを引いた
次の瞬間 左右の主翼の下に装備された５インチロケット弾が次々と推進薬に点火され、炎を吐きながら、敵艦へと吸い込まれてゆく。
隊長機の発射を合図に一斉に残りの機体も次々とロケット弾を発射する
発射の終わった機体は右へ大きく主翼を振り、一気に敵艦の上空から離脱を試みた。
「撃ってこん！ 電気系もやられたか？」
コルセア戦闘機隊の隊長は、深く右へ切り込みながら、高度を稼ぎつつ後方に遠ざかる敵艦を見た。
敵の対空機銃掃射も沈黙し、敵艦は大きく右へ傾きながら至る所から煙とその中に赤い炎が見える
「火災か！」
そう思った瞬間、敵艦のほぼ真横で次々爆発があった
「よし！ 命中多数！！」
黒煙に包まれる敵艦の周囲に着弾時に発生する爆炎を多数確認した。
「これで、もう息の根もあるまい」
コルセア戦闘機隊の隊長の判断はある意味確かに正しかった。
「右舷 フィールドに着弾多数！！」
5インチロケット弾は、こんごうの展開したフィールドに阻まれ、全て右舷直前で破壊されていた。
「ダメコン！損壊確認！！」
艦内各所に配備された機関科のダメコン要員が一斉に持ち場の損害情報を確認し、報告を艦橋へ上げる
運行情報モニタ―を確認する副長が
「船体損傷ありません！！ 何時でも潜航できます！！」
すずやが、艦長席に座るこんごうへ
「艦長！ ロケット弾全弾 防御壁で防ぎました！！」
頷くこんごう
その額には 大粒の汗がにじみ出ていた。
それを見たすずやはそっとポケットからハンカチを取り出し、こんごうの額の汗を優しくふき取った
「大丈夫ですか？」
「ええ、後少しだから」
こんごうは何とか答えた。
艦外監視カメラの映像では、生き残ったＡ-２０爆撃機４機とコルセア戦闘機隊の６機は一旦、護衛艦こんごうから離れつつあった。
「残存敵機、本艦より離れます！」
すずやはその隙を見逃さない
「艦長！ 今です！ 隠れましょう！！」
「ええ、お願い」
すずやはこんごうの返事を聞くと同時に
「機関両舷停止！！ 潜航警報発令！！」
航海長が復唱したのと同時に、艦内に潜航警報の電子音と音声警報が鳴り響いた
その音のなかすずやは、インカムでＣＩＣの通信担当へ
「通信！ 偽造電文送信！ 文面は指示通り！」
「了解です。しっかりとトラックまで届くように打ちます！！」
すずやは、立て続けに
「航海長！ 艦首バラスト注水 ダウントリム！ ゆっくりです」
「はい、すずや補佐！」
航海長の指示の元、艦首のバラストタンクにゆっくりと注水が始まった。
機関が停止し、惰性で航行していた護衛艦こんごうは艦首のバラストタンクに注水した事で、艦首からゆっくりと沈み始めた。
右舷に傾き、艦首も徐々に波間に消えつつある護衛艦こんごう
前方甲板が波に洗われはじめる。
「敵機は！！」
すずやの声に副長が
「本艦の左舷５ｋｍ程の距離で再集結しています、接近する様子はありません！」
すずやは、そっとこんごうを見た。
頷くこんごう
「このままの傾斜を保ちつつ、潜航！！」
すずやの声が艦橋に響く
船体を海面へと埋没させる護衛艦こんごう
「敵艦！ 沈んでいきます！」
Ａ-２０爆撃隊１番機の機銃員の声が機内に響いた
「やったか！！」
隊長は双眼鏡で、右後方に見える敵艦を見た。
通信士や機銃員も黒煙に包まれる中、艦首より海面下へと沈みゆく敵艦を見た。
「やった！！！」
「撃沈したぞ！！」
「俺達は生き残った！！！」
機銃員や操縦士は声を上げて喜んだ！
双眼鏡で敵艦を監視する爆撃隊の隊長には、艦を右舷へ傾け艦首から急速に沈む敵艦が見えた。
周囲に無数の気泡を湧きあがらせ、艦の各所からおびただしい黒煙を上空へとまき散らしていた。
「あれでは、もう復原はできまい、そのまま沈没だ」
そう呟いている内にあれよあれよという間に、敵艦は海面下へと無数の泡を上げながら姿を消した。
既に、マストも海面下へと沈み、海上には何もない
爆撃隊の周囲で散開しながら飛行していたコルセア戦闘機隊が、編隊から離脱し、敵艦の沈んだ当りへと降下してゆく。
隊長は、未だに無数の気泡が浮かび上がる海面を双眼鏡で見た。
「重油の膜か！ それにあれは」
そこには、油膜にまみれた人型の様なものがいくつも浮かびあがっていた。
その周囲には、浮き輪、角材や木箱などが無数に浮かんでいる
実はそれらは、事前に浮遊物を偽装する為にこんごうの後部飛行甲板上に置かれてあった偽装用の小物や人形であった。
周回飛行しながら待機する爆撃隊。
海面付近へ降下したコルセア戦闘機隊が、海面上に浮かぶ人とおぼしき物へ向い１２．７ｍｍ機銃を掃射しながら、過ぎてゆく。
度重なる海面への機銃掃射を見ながら爆撃隊の隊長は
「あれでは、敵の生存者はおるまい」そう言うと
「よく見ろ！ 日本人これが戦争だ！」そう言い放つと、大きな声で、
「通信！ タロア島の司令部へ打電！ “我 敵巡洋艦を撃沈！”」
「はい、時刻、場所を確認後直ちに打電します！」通信員の嬉しそうな声が返ってきた。
隊長は、
「よし 久しぶりの勝ちだ！」
そう言いながら、再び眼下の海面を見た。
そこには、既に何もなく、いつもと変わらぬ静かな海原が広がっていた。
「敵爆撃隊、戦闘機隊！ 戦域を離脱します！」
小型のブイ型対空レーダーの情報を元に海面上の敵航空機群の動きを監視していたＣＩＣの対空管制士官の声が艦橋に響いた。
こんごう副長が艦内電話をとりながら、
「砲雷長！ 上空に残る航空機は！」
「最初に探知したＰＢＹが1機 撃墜した機体の乗員捜索だろう。周辺海域をうろついている」
「分かった。Ｅ－２Ｊとのデータリンクを確認してくれ、上空がクリアーになり次第浮上する」
「ＣＩＣ了解」
副長達が、確認作業を行っている間、艦長のこんごうは艦長席にもたりかかり、荒い息を整えていた。
ハア、ハアと肩で息をしながら、身を起こすと
「すずや補佐、艦の状態は？」
「はい、現在深度２５ｍ 船体姿勢制御異常なし。艦内気密も異常なしです」
「負傷者はいないわね」
「はい、艦長」すずやはそう返事をしながら、ハンカチを差し出し
「あの、お体大丈夫ですか？」と心配そうにこんごうの顔をのぞいた。
すずやからハンカチと受け取ると、額の汗を拭いながら
「まあ、今回はね」とやや顔を引きつらせながら答えた。
「精神防御壁、クラインフィールドはこの手の細かい動きが苦手なのよ、ばっと一気に防御壁を張るのはいいけど、今回みたいに敵の動きに合わせて張るとなると、集中力の勝負になるから」
こんごうは汗を拭い終わった。
するとすずやは手際よく、艦長席のサイドポケットから冷えたミネラルウォーターのペットボトルを取り出し、こんごうへ手渡しながら
「でも、いつ見ても凄いですよ！ 艦長の防御壁」
「ふふ、すずやさんも練習してみる？」
「すずやにもできるのですか？」すずやが驚きながら聞くと
「ええ、艦娘なら規模の大小の差はあるけど、可能よ。ただ霊力消費が激しすぎて、実用的じゃないという事ね」
「でも、具現化できるわけですか」すずやが興味深く聞くと、
「可能よ」
それを聞いたすずやは、
「うう、欲しいです。最強の護衛艦すずやの楯 頑張ります！」
他愛の無い会話をしながら、こんごうは対空モニターを見た。
「まだ１機 残っているわね」
「はい、最初に発見したＰＢＹが周囲をうろついています、多分撃墜した爆撃機の乗員救助の為と思われます」
こんごうは、ペットボトルの水を飲みながら、
「日没まで待ちましょう。折角偽装してもまた発見されては台無しよ」
「はい、現状を維持します」
すずやはそう答えると、副長へ現状維持を通達した。
すずやや副長がせわしなく指示を出す中、こんごうは艦長席に身を深く預け、じっと艦橋の天井を見た。
一言
「ああ、次は敵の本拠地にお姉さま方と殴り込み、もうどうにでもなれだわ」と深くため息をついた。
「ＤＤＧ１９０こんごう。退避完了しました。船体異常なし。負傷者なしです」
護衛艦いずものＦＩＣ（艦隊司令部）の作戦士官がモニターを見ながら自衛隊司令に報告を上げた。
それと同時に、通信傍受を担当する情報処理士官から、
「敵航空機よりの無電を傍受！ “敵巡洋艦の撃沈を確認。損害８機、損傷機１機 帰投する”と打電しています！」
Ｅ－２Ｊの対空レーダー情報を監視していた管制士官が続けて
「エネミーエコー６機！ 転進せず！ そのままマジュロ島を目指しています！！」
それを聞いた司令の由良は
「やはり来たか！ いずも、現地部隊に警報を！」
いずもは、さっと席から立ちあがり、
「現地陸自部隊へ 空襲警報！ 直ちに避難指示！」
司令部内が慌ただしくなる。
いずものＦＩＣには 海上自衛隊の士官妖精だけではなく、航空戦力を管轄する空自の作戦士官妖精や特戦隊を管轄する陸自の作戦士官妖精達もいる。
このＦＩＣはまさに 組織の枠を超えた一つの部隊であり、それをまとめるのが副司令官のいずもであり、その行動を決定するのが由良司令であった。
このＦＩＣこそ、由良司令の城である。
Ｅ－２Ｊの探知情報は、海自の作戦士官から陸自の現地部隊を管理する陸自の作戦士官へと通知され、デジタル通信網を使い直ぐにＥ－２Ｊを経由してマジュロ島にいる現地隊長へと送信された。
「奴ら、行きがけの駄賃を狙っているな」自衛隊司令が前方の大型モニターに映る
「あの、いずもさん。現地部隊大丈夫でしょうか？」同席する鳳翔が聞くと、いずもは
「まあ、想定されていますからご心配なく」
笑みを浮かべながら、
「まあ、今回の彼らの行動が後々 彼女らの首を絞める事になりますけど」そう言いながら、じっとモニターを見た。
「敵戦闘機来襲！！！ 機数は6機！ 方位０１２！！！」
「来たか！！」
「はい、隊長！！」
通信員の報告に 特戦隊の隊長妖精は大声で答えた
既に、護衛艦いずもの司令部や上空で警戒にあたるＥ－２Ｊよりの警報で隊員達は塹壕の中や 近くの林の中へ身を隠していた。
「岡少尉！ 間もなく視認できる距離です！」特戦隊の隊長妖精の声に岡少尉は、塹壕の影から、ほんの少しだけ顔を出し海岸線を見ながら
「どの辺りだ？ 小隊長」と問いただした。
「あの辺りです！！」特戦隊の隊長妖精が、敵機の飛来方向を右手で指し示した。
特戦隊の隊長妖精から借りた高倍率の双眼鏡で指し示された方向を覗く岡少尉
「あれだな」
岡少尉の視界に、編隊を組み こちらへと向う敵の戦闘機群が見えた。
「見た事の無い機体だな」
「はい、少尉殿。あの機体はＦ４Ｕコルセア戦闘機。空中戦から敵地爆撃までこなす空のなんでも屋ですよ」
特戦隊の隊長妖精が答えた
「小隊長、新型機か」
「ええ、そうです。」
特戦隊の隊長妖精は、そう答えながら、インカムを操作し
「オールメンバー！！！ 敵機はコルセア戦闘機だ！ 手出しはするな！ 全員防御態勢！ ロケット弾攻撃に注意しろ！！」
次々と 各分隊から了解の返答があった
特戦隊の隊長妖精は、
「あの機体は重武装です。１２．７ｍｍ機銃６門に、噴進弾を装備できます！」
「厄介だな」といいながら岡少尉は
「まあ、ここで奴らの手の内を見せてもらうとしよう」
そういうと、隊長妖精達と塹壕の中へ身を潜めた
近づく深海凄艦のコルセア戦闘機
島の上空に接近すると、２機づつの分隊に分かれ、島の周囲を囲むように分散し、海岸線にそって飛行し始めた。
高度を一気に落とすと、海岸線に見える、人影に向け容赦なく１２．７ｍｍ機銃を掃射し始めた。
上空から急襲され、海岸線にいた人影は逃げる間もなくバタバタとなぎ倒されてゆく
１機のコルセア戦闘機が、ローラの村の上空にくると、上空から５インチロケット弾を数発村へ向け発射した！
翼下から次々と発射された５インチロケット弾は、眼下の家々に次々と着弾してゆく
村の中では、人影が逃げまどう姿があった。
その中 一つの人影が攻撃を仕掛けるコルセア戦闘機へ向け、弓を射る仕草をしたが、その人影も５インチロケット弾の直撃を受け四散した。
コルセア戦闘機隊は、マジュロ島の上空に十数分とどまり、破壊の限りを尽くし、再び北の空へと帰っていった。
海岸線の塹壕の中で、コルセア戦闘機の攻撃を凌いだ岡少尉は、敵機が過ぎ去った後の海岸線を見た。
そこには、青い炎を上げながら燃える人型の護符が多数横たわっていた。
「派手にやってくれたな」
「酷いですな」特戦隊の隊長妖精もそう答えた。
そこにはざっと１０体以上の護符が機銃掃射を受け破壊され、燃えていた。
「村の方にも被害が出たようだな」
「はい、噴進弾を打ち込まれました。民家が数軒と囮の人型が数名やられたようです」
特戦隊の隊長妖精が答えた。
「記録は？」岡少尉が聞くと
「はい、キチンと映像記録として撮影してあります」
特戦隊の隊長妖精が答えた
そう、彼らは深海凄艦の襲撃を予想し、島の各所にＣＤＤカメラを設置してあった。
岡少尉の放った人型の護符にめがけて 問答無用で攻撃を仕掛ける深海凄艦の戦闘機の映像を記録していた。
実は深海凄艦のミッドウェイ群体は かねてより自分達のマーシャル諸島占領を正当化する為に、「日本軍による圧政に苦しむ住民を開放する為に進軍した」と第３国経由で世界へ発信していた。
それをうけ米国内では、対日批判の高まりと同時に、深海凄艦のこの宣伝に便乗し、“邪悪な日帝”という構図が生まれつつあり、米国議会の中には、「深海凄艦へ積極的な軍事支援を行い、日本を打つべし！」という声まで上がりつつあった。
日本側には、それを打ち砕く証拠が欲しかったのである。
岡少尉は、燃える人型の護符を見ながら
「真実は、見方で大きく変わる。これが現実ということだ」と呟いた。
「深海凄艦戦闘機群、マジュロ島より離れます！」
航空管制士官の声が護衛艦いずものＦＩＣに響く
「現地部隊に、人的被害の確認を急がせなさい！」
いずもの指示が飛ぶ
モニター上では、現地部隊に被害は出ていなうようであるが、実際は確認しないと分からない
数分も絶たない内に現地の部隊より、
「特戦隊並び日本陸軍特務少尉に被害なし。部隊の任務遂行に支障なし」
デジタル通信電文で報告が入る
「うむ」
報告を受け頷く由良司令
そんな司令達の横で、表情を硬くする艦娘鳳翔
そんな表情を見たいずもが声を掛けた
「どうしました、鳳翔さん？」
「いえ、あのコルセア戦闘機という機体。意外に厄介ですね」
鳳翔はそう言うと、
「戦闘機としての性能はさほどないかもしれませんが、地上攻撃機としての能力はかなり高いと推察します。あの小型噴進弾やブローニング機銃6門という重装備。やはり脅威です」
続けて
「あのような機体を軽空母に多数搭載し、船団護衛と上陸支援されては、防御する方としてはやりづらいでしょう」
「そうですね、日本は専用機、相手は多目的機。数の勝負となると厳しくなるのは目に見えています」
いずもは、
「鳳翔さん、零戦は確かに優れた機体ではありますが、凡人が乗りこなすには難しい機体です、しかしあのＦ4Ｕは短期の訓練で乗りこなす事のできる汎用性が売りの機体です」
そう言うと一言
「日本人は、凝り性過ぎたという事ですね」
それは 深海凄艦の流れをくむいずもならではの答えであった
頷く鳳翔
いずもと鳳翔の飛行機談話の会話を聞き流しながら、由良司令は、ＦＩＣ前方の大画面に写し出された広域戦術情報モニターを睨んでいた。
そこにはポンペイ島の東海域を一路マジュロ島南部へと急進する艦隊が映しだされていた。
「さて、相手の横面をどうなぐるが問題だが、金剛さんなら上手くやる」
由良司令の眼は、その先のマーシャル諸島マロエラップ環礁北部海域に集結する敵主力艦隊へと注がれた
「さて、盤面は中盤を過ぎた。オオヨセを上手くしのげば、局面は此方だ！ 頼みます金剛さん」
司令は、腹の底から唸った
こんにちは スカルルーキーです
「分岐点 こんごうの物語」 第６４話お送り致します
毎回 多くの方より誤字報告やご感想を頂きありがとうございます
誌面をお借りして御礼申し上げます
昨年末に投稿してから暫し時間が空いてしまいましたが、マジュロ編ようやく終わりました。
ああ長かった・・・
さて提督の皆さんは冬イベの戦果はいかがでしょうか？
私ですか？
新規の艦娘さんが数名ドロップしましたけど、今回のイベントは完走出来ませんでした。
だって、エラー猫に３回も、それもＥ-１とＥ-２の２本目のボス戦の時に襲撃されたらそりゃ、途中でめげますよ。
エラー猫が出る度に
「いなばのチャオチュールあげるから、二度と来ないで」と思うのは私だけでしょうか？
気を取り直して、現在節分モードをこなしながら資源備蓄作戦中です。
次回 「天子様の声」です
では