分岐点 こんごうの物語   作:スカルルーキー

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こんにちは スカルルーキーです

一部 設定の修正を致します
今まで あかしの艦種を 工作補給艦という表現をしていましたが、いまいち馴染まないので、単純に輸送艦という表現に修正しております。
今まで投稿文と一部表現が違う部分についてはご容赦ください




63 マジュロ撤退作戦5

水平線に、朝日が顔をのぞかせる頃

マーシャル諸島のマジュロ島では、島民達が行動を開始していた。

薄暗い内から、村々の住民は、まとめた荷物を抱え家を出た。

指定された集合場所へ集合すると、村長と村の青年達に誘導され、静かに村を出る。

誰一人として、無駄口や不平不満を言う者はいない

それは、艦娘金剛の“全員を無事島から脱出させます!”という言葉を信じていたからだ。

とは言え、一部の年老いた者達は、

「自分が行けば、向こうで迷惑になる。ここで最後を」と言って中々避難を渋る者もいたが、族長の娘でもあり、次期族長との声もあるマオが

「金剛さんは、全力で私を助けてくれました。その恩に答える為にも、皆で避難しましょう」と説得し、同行した杉本二等兵は

「島を最後に離れるのは、自分達日本軍です。だれも残しはしません!」

そう言って、渋る老人たちを説得し、何とか心を動かした。

島の全員が、撤退地点であるローラの村の北部海岸線にある日本軍の警備所に集まるまで数時間はかかる。

島自体はけっして大きくない。

しかし、全ての村が陸地で繋がっている訳ではない。

この地方独特のラグーンという特性上、リング状になった陸地の一部は陥没し、礁湖と外洋が繋がっている。

村が浅い海で孤立している所もある。

マジュロ島の外周道路が完全につながったのは戦後の事で、この時代はまだ所々で、陸地が切れていた。

そんな集落では、村人達が干潮の時間を見計らい、男達は浅瀬を膝まで海水に浸かりながら渡り、女子供達は陸軍兵達が小舟を出し輸送していた。

人数が多い所は、陸自の妖精隊員が、こんごうが乗ってきたゾディアックボートを使いピストン輸送して人員を運んでいた。

夜が明ける頃には、ローラの村の族長の家の前には、大勢の島民が待機していた。

皆の顔には、不安な表情はなく、明るい表情の者が多い。

族長が家の前にでると、島民へ向け

「皆の者! 間もなく迎えの船が来る! 不安に思う者もおろうかと思うが、避難はいっとき。艦娘金剛様の導きに従い、進もうではないか」

「おう!!!」

一斉に返事が返ってきた。

その返事をきいた族長は、静かに村人の先頭に立った

向いには、日本軍の曹長達がいた

「では、お願いいたします」

族長は深く一礼すると、曹長は、敬礼し、

「はい、皆様を待機場所へご案内します」

そう言うと 配下の伍長達へ命じ、一斉に誘導を開始した。

先頭を歩く族長

その横をマオが進む。

道沿いに日本軍の陸軍兵とマオの命を受けた各村々の若者達が立ち、住民を誘導していた。

向かうは、ローラの村の北部にある警備所裏の広場。

元は陸軍の野砲部隊が展開していたが、昨日の内に綺麗に片付けられ、周囲の木々を少しきり倒して、見通しを確保していた。

早朝より陸自の妖精隊員達が広場に海水を撒いていた。

指揮所の外で、その作業を見守るこんごう

朝焼けがこんごう達の顔を明るく照らしていた。

「いよいよだな」

背後から声をかけられた。

振り向くと岡少尉であった。

「ええ、ここまではまあ予定通りだけど」

「決闘とか、敵の砲撃も予定の内か?」

「そんな訳ないでしょう! 多少の事は考慮してるけど、あれは完全にやられたわ」

こんごうは、岡少尉へ向い

「そういえば、お礼まだだったわね、決闘の時、マオさんの放った矢。貴方が手を引いてくれなかったら当たっていたわ。ありがとう」

「そんな事か」と少尉はあっさりと答え、

「いや、君の意識だいぶ族長達の方に向いていたからな。あれだけの殺気を見逃すとは君らしくないな」

「本当に自分でも、情けないけど、あの時はあと一歩で説得できると少し焦ったのよ」

こんごうはそう言うと、

「まあ、決闘は予定外だけど、まあいいんじゃないの。ああ見えても、マオさんは皆の事を思って、私に決闘を申し込んだ訳だし、族長もそれで顔が立ったなら万事良しという事よ」

こんごうのその答えを聞いた岡少尉は

「君はいつも前向きだな」

「あら、そう?」

「君の笑顔は、人を惹きつける」

それを聞いたこんごうは、顔を赤くしながら、

「もう、何も出ないわよ。そういう貴方は、えらく疲れた顔してるわね」

岡少尉は、肩に掛けた背嚢を降ろしながら

「徹夜で、仕込んだ」

こんごうは、

「司令の言っていた、例の物?」

「ああ、中々君の上司は、人使いが荒いな。まあ簡単な術式の護符だが、数がな」

少尉は続けて、

「こればかりは君に、手伝ってもらう訳にもいかん」

「大丈夫なの? これだけの数に霊力を込めて」

こんごうがそう聞くと岡少尉は、

「問題ない。そう軟な鍛え方はしとらん」

「じゃ、これで欺瞞工作も大丈夫ネ」

そんな会話をしていたら、背後の林の中から大勢の人達の足音が聞こえてきた。

振り返ると、ローラの村の人々であった

先頭は族長、そしてマオと38式小銃を肩に抱えた杉本二等兵

周囲を村の若者達が固め、伍長達が誘導していた。

「金剛さ~ん!!!」

こんごうの姿を見つけたマオが一生懸命手を振って駆け寄ってきた。

「えらく懐かれたな」

岡少尉が聞くと、こんごうは、

「いいじゃないの。元気な子は好きよ」

そう言っている内に、こんごうの下へ駆け寄るマオ

マオは元気な声で、

「おはようございます、金剛さん。ローラの村の人達を連れてきました!」

こんごうも

「おはよう、マオさん。時間通りね」

「はい」

族長を先頭に、ローラの村の人達が、島の循環路に沿って並んで待っていた。

よく見れば、例の幼女と母親の姿も見える

こんごうを見た幼女が手を振ると、こんごうも気さくに手を振って挨拶していた。

こんごう達の下に、族長が近づき

「おはようございます、金剛様。村人達を連れてまいりました」

「族長さん。おはようございます」とこんごうも挨拶しながら、

「もうすぐ、迎えの船が見える頃です」

「はい。しかし、昨日の件もありますが、こんな敵地の近くに来れるのでしょうか」

族長が聞くと、こんごうは笑顔で、

「問題ありません」というと、前方の海域を指さし、

「もうそこまで来ています」

そう皆に聞こえるように大きな声を出した。

一斉に海上を見る島民や日本軍の兵達

 

その時、水平線の上に突如3隻の船の艦影がゆっくりと見えだした。

「おおお!!」

一斉に、海上を見て声を上げる人々

遠くにはっきりと大型艦の艦影が、朝日に映えて見える

「来た! 本当に来た!!」

双眼鏡で海上を見ていた日本軍の兵が感極まって声にだした。

「隊長! 伍長殿! 迎えです! 迎えの船です!!」

「ああ、この距離でもはっきり艦影が見えるという事はかなりの大型の船だぞ!!」

兵達は、お互いの肩を叩きながら、

「海軍は約束を守った!」と歓喜の声を上げていた。

日本兵の顔に笑顔が見える。

こんごうは、族長や曹長へ向い

「さあ、迎えは来ました!」

曹長は、伍長達へ

「よし、計画に従い。舟艇乗船組と、航空機輸送組の振り分けを急げ」

「はっ!」伍長達は一斉に動き出し、島民達の振り分けを始めた

こんごうは、近づく艦影を見ながら、一言

「さて、あとは無事に乗船できれば、OKよ」と元気な声で叫んだ。

 

 

「船体、浮上完了! 通常航行状態へ戻ります!」

「主機 起動完了! 機関異常ありません!」

護衛艦こんごうの艦橋に各部の報告が入る。

艦長席に座る艦娘すずやは緊張しながら、その報告を順次確認してゆく。

護衛艦こんごう以下の艦隊は、昨夜闇夜に乗じて島の西20km地点まで接近していた。

そのままその場に潜航して待機。

夜明け時刻に、ゆっくりと船体を浮上させた。

そうする事で、朝焼けのまだ薄暗いなか水平線に徐々に現れる艦影を再現してみせた。

 

艦橋前方にあるモニタ―に僚艦である、護衛艦ひえい、ならび輸送艦あかしの運行状況が表示されているが、此方も完全浮上し航行可能となっていた。

「航海長! ひえい、並びあかしの位置を確認!」

「機関長! 主機稼働状況、電動駆動系 バッテリーを確認!!」

すずやは矢継ぎ早に指示をだした

「報告! ひえい 本艦右舷前方300m! あかし左舷前方同じく300m!」

「機関室より報告! 機関部問題なし! 電動駆動系、バッテリーも異常なし、いつでも全力航行可能です!」

すずやは横に立つ副長へ向うと、

「では、ひえい艦長の指示に従い単縦陣。本艦が先頭に出ます」

副長は、直ぐに

「はい、進路060 両舷前進原速!」

「進路060 両舷前進原速!」

「各所見張り員は、各艦の位置に注意!」

すずやは、艦長席にある艦内電話の受話器を取ると、後部甲板にある飛行科を呼び出した

電話口に飛行科班長が直ぐに出た

「飛行科班長! すずやです。ロクマル発艦準備は?」

「はい、すずや補佐。現在後部甲板に展開作業中。」

「了解です。LCAC発艦と同時に、出られるように準備!」

「はい!!」

 

すずやの操船指揮の下、艦隊の先頭に踊り出た護衛艦こんごう

その後方に、護衛艦ひえい そして輸送艦あかしが続く

艦隊は、船速を徐々に落としそのまま単縦陣を保ち島の沖10kmまで接近する。

沖合10km圏域に達すると各艦 停船しその場を保持した。

艦橋で双眼鏡を構えるすずや

島がはっきりと目視できる。

「やはり、島は小さい」

そう言うと、艦長席のサブモニタ―を起動して、こんごうを呼び出した。

直ぐにこんごうが出た

モニタ―に映るこんごうの顔を見て安堵の表情を浮かべ、

「こんごう艦長! ご無事で良かった」とモニターに向い声を上げた

すずやは、昨日の砲撃の後、こんごうの容体をかなり気にしていた

「もう、朝一番の挨拶がそれ?」

こんごうは呆れていたが、横から画面が開き

「そう言わない! すずやはだいぶ心配してたらね~」

ひえいの明るい声がした。

「おはよう、ひえい」

こんごうが軽く挨拶をすると、モニタ―上で、右手を上げて答えるひえい

それを見たこんごうは、

「で、ひえいは心配してくれた訳?」と聞くと

「する訳ないじゃん! こんごうがあの程度でくたばると思う? 米軍のハープーンミサイルをはじき返した防御壁よ。この時代の5インチ砲なんか問題じゃないわ」

とあっさりと答えた。

「それは、艦の艦娘用イージスシステムのサポートを受けた場合でしょう! 個人の霊力でやると、結構きついのよ!」

こんごうはむっとした顔で答えたが、気を取り直して

「そちらの準備は?」

するとひえいが

「艦隊は、単縦陣へ移行。すずや指揮の護衛艦こんごうは警戒。私とあかしで撤退作業を実施。すでにあかしの方はLCACの離艦準備に入った。オスプレイ隊もあかしの甲板上で展開して、発艦準備に入っている」

「じゃ、予定通りに LCACの第一陣は マルキュウマルマルにビーチングできるわね」

「うん、問題なし」

ひえいは、元気に答えた。

こんごうは、

「私は、最終便でここを離れるわ」

するとひえいは、

「ねえ、こんごう。やっぱり少尉さんは残るの?」

「本人がそう言ってるし、色々とあるみたいよ」

「ふ~ん、じゃ今のうちに少尉さんとよろしくね」

こんごうは、少し顔を赤くしながら、

「なに? それ」

 

その頃、艦隊の最後部に位置するあかしの艦内はてんやわんやの状態であった。

輸送艦あかしの艦橋で、艦娘あかしは

「LCACは、準備でき次第直ちに発艦!」

ピンク色の髪を振り乱しながら気合の入った大きな声で号令を掛けていた。

すでに、船体後部の大型ヒンジドアは開かれていた。

後部区画、ウエルドック内に格納されていたLCACでは、2基のエンジンが起動され轟音を響かせながら離艦準備が進んでいた。

LCACのカーゴベイには、人員輸送ユニットが搭載されている。

このユニットを使えば一度に200名を輸送できる

LCACの艦橋では、艇長が、

「各員、準備はいいな!」横に並ぶナビゲーターや機関士に声をかけた

「はい、艇長!」

後方の席に座るカーゴローダー向い、

「ユニット関連いいか!」

「はい、ユニットの固定確認済みです!」

「相手は、一般の民間人だ、慌てずに誘導しろ!」

「はい!」

各員が持ち場に着く

LCACの艦橋は狭い。下手をするとミサイル艇の艦橋の方がまだ広く感じる。

LCACでは、艇長が操船を直接担当する。

あとは、航法士に、機関士、

そして後方の席には貨物室関連を担当する要員が2名

場合によってあと一名機関砲手が搭乗する。

LCAC一号艇は、すでに船底の黒いゴム製のスカートと呼ばれるクッション壁が空気圧により膨れて、スカートより噴出する空気が凄まじい勢いで、ウエルドック内に水飛沫を巻上げていた。

LCAC艦橋前方の窓に装着されたワイパーが全力で動き視界を確保している。

ウエルドック内にLCACの装備する4基のガスタービンエンジンの轟音が響き渡っていた。

舞い上がる水飛沫が艦橋の窓に張り付き、周囲の視界を遮る。

艇長は、各部確認を行うと、

「あかし管制! LCAC一号艇。離艦準備完了!」

直ぐに無線に

「LCAC一号艇 あかし管制。離艦許可!」と返事が返って来た

艇長は、インカムで各員に、

「よし! 出るぞ!!」

そういうと、推進レバーを後進へと切り替えた。

後部に装備された2基の大型プロペラが、後進の推力を生み出すと、LCAC一号艇は、ゆっくりとあかしのウエルドックをバックし始めた。

既に船体は浮揚しているので、左右に不規則に揺れる。

艇長は小刻みに操舵輪を切りながら、LCACを後進させた。

ゆっくりと あかしの後部ハッチより、海面へと滑り下りるLCAC一号艇

海面に降り立つと周囲に猛烈な水飛沫が舞い上がる。

そのまま少し後進して、十分あかしから離れると、船首を右へ回頭させた。

ナビゲーター員が、

「風250度 2ノット。波高0.5です!!」

気象情報を艇長へ報告する

「まずまずの天候だな」

「はい」

「よし、艦隊の右を抜けて、マジュロ島へ向う」

艇長がそう言うと、再び推進レバーを今度は前進へと切り替えた

船体は、後進から制動がかかり、ゆっくりと停止すると、前進方向へと動きを変えた

後部の大きなラダーが小刻みに動きLCACの進路を保持していた。

輸送艦あかしの右舷を抜け一路 マジュロ島へ向う

 

「波もない。絶好の条件だ!!」

艇長がそう言うと、

「日頃の行いですか! 艇長!」

機関士員がインカム越しに声をかけてきた。

「おうさ!」

艇長は返事をしながら、操舵輪を動かしLCACの進路を保持する。

操縦席のモニタ―にマジュロ島の上陸地点までのマップが表示されていた

「ナビゲーター! GPSが使えん! INSだけが頼り! 島は目視できるが、指定航路以外は機雷の山だ! 皆、前方監視を怠るな!!」

「了解です!!」

一斉に各員がインカム越しに返事をしてきた。

本来ホバークラフトは五月蠅い。

絶えずスカート部分へ送風していないと浮力を確保できないからだ。

よって航行中は4基あるガスタービンエンジンはフル稼働で、浮揚力と推進力を確保している。

そのガスタービンエンジンのエンジン音とスカート部分から発生する送風音で、通常の会話が出来ない。

これが民間用のホバークラフトなら 遮音設計で快適な船旅を楽しめるが、LCACは軍用艇である。

騒音なんぞは、当たり前である。

おまけに、乗り心地はお世辞にもいいとは言えない。

海面から浮いているので、波の影響を受けないように思われがちだが逆で、波高が2mを超えると運航に支障をきたす事もある。

波に弱いのだ。

おまけに浮いている事で、直進性が悪い。

風の影響を受けやすく、操船が難しい

LCACの艇長は、護衛艦など操船経験者が訓練を受けて昇格するのだが、殆どの者は最初、直進どころかその場に停止(ホバリング)させる事すら出来ないという。

そして、スカート部分で浮力を稼ぐという構造上、被弾に弱い

よって運用はあくまで橋頭堡を確保したあとの部隊揚陸や、補給物資輸送で、敵前上陸となるとやはりAAV7などの防弾性の高い水陸両用車の独壇場である。

ただ利点もある。

浮いている事で、機雷等の影響を受けない。内陸部への侵攻も可能である。

そして最大の売りは、なんといっても40ノットを超える高速性能と積載量である。

 

水飛沫を巻上げながら海上を猛進するLCAC

すると、LCACの前方に2機のロクマルが進み出た。

「上空直掩 入ります!!」

航法士員の声がインカム越しに響く

「了解!」

艇長はそう答えながら、前方の上空を進む2機のロクマルを見た

2機のSH-60K

こんごうならびひえいのロクマル2機はLCACの前方を飛びながら海面を監視していた。

LCACの後方には、すずや所属のMCH-101が空中レーザー機雷探知システムを使い、海面上の浮遊機雷を探査していた。

3機のヘリに護衛され、海上を水飛沫を巻き上げながら突き進むLCAC

 

その頃 輸送艦あかしの全通甲板では4機のオスプレイが 甲板上に一直線に並べられていた。

既に、各機とも主翼を格納位置から飛行形態へと展開し、ティルトローターを真上に向けローターも展開を完了していた。

甲板上に待機するマーシャラーの指示に従い一番艦首よりの機体からエンジンの始動準備にはいる。

艦娘あかしは、艦橋から横にある見張り所へ出て、インカム越しに

「甲板長! 慌てんでいいから。確実や! 確実にな」

すると、甲板上で指揮をとる甲板長が、見張り所にいるあかしへ向い

「了解です!」

と身振りを交えて返事をしてきた。

工作輸送艦あかし

もともとは、輸送艦として設計されていたが、防衛省の方針により工廠支援機能を追加された特殊艦艇である。

ベースは 輸送艦おおすみを元にしているとはいえ、船体は一回り大きい

艦橋もひゅうが型のように飛行隊運用能力を持つタイプを採用している

まあ、ひゅうが型とおおすみ型を足して二で割ったといえばいいだろうか。

建造当初より、オスプレイやF-35を運用できるように甲板は耐熱仕様であり、サイドエレベーターを装備、後部には大型のヒンジドアがあるなど輸送艦というよりは、強襲揚陸艦としての性格が強い。

そのあかしの甲板上で、最初のオスプレイのエンジンが始動された。

翼端に装備されたロールスロイス製T406エンジンが独特の始動音を響かせ始めた。

排気口から大量の白煙が上がる。

初めてオスプレイのエンジン始動を見た者は、その白煙の多さに“火災、それとも故障?”と思ってしまうことも多い。

オスプレイは、通常の航空機とは違いエンジンを垂直に立ててエンジンを始動する。

その為 エンジン内の各部のオイル類が燃焼室や排気口などに溜まりやすい

始動した際、それらが燃焼され盛大に白煙をまき散らすのだ。

エンジンが始動され、徐々にローターの回転数が上がってゆく。

後続の機体も次々とエンジンを起動し、発艦準備へと入る。

甲板上に4機のオスプレイの放つローター音とエンジンの轟音が響き渡っていた。

 

「Tower Career one-one, ready for departure.」

「Career1-1, QNE 29.97, wind 250 at 2. Cleared for takeoff.」

「Roger.」

発艦許可を受けたオスプレイ1番機の機長は、ハンドサインで、前方右に待機するマーシャラーへ向け

“離陸する!”と合図すると、マーシャラーは周囲を確認、オスプレイの後方に待機中の整備妖精が後方を確認後にOKサインを出したのを見て、静かに両手を水平の位置まで上げた後、斜め上方へ上げ下げして“上昇”の指示を出す。

「よし! 行くぞ」

機長の声と同時にオスプレイはゆっくりと浮揚、十分甲板から離れた事を確認したマーシャラーは、腕を水平に戻す。それに呼応して、オスプレイは甲板上3m程の位置にホバリングした。

マーシャラーはオスプレイがホバリング態勢に入った事を確かめると、今度は右手で進行方向を指さし、左腕を水平から右下方に曲げる動作を繰り返し、“左横進”の指示を出す。

オスプレイ1番機は、そのまま機体を左へ平行に移動横させると、機体が甲板上から離れた。

完全に海面上に浮揚した事を確かめたマーシャラーは、動作を止めると頭上に右手を持って行き、くるりと1周させると人差し指で艦の左舷上方へ鋭い勢いで指差した。それを確認した機長は、ティルトローターを前傾させ、転換モードへ変化させてマーシャラーに敬礼する。

マーシャラーが答礼する頃には、ゆっくりと機体が前進を開始する。

それと同時に、徐々に高度を上げていく。

あっという間に輸送艦あかしから離れ、護衛艦ひえい、そしてこんごうを追い抜いてゆく

「さあ、お仕事の時間だ!」

機長は、そう言いながら、しっかりと右手で操縦桿を握り直した。

 

マジュロ島の指揮所ではこんごうをはじめ 曹長や族長など主だった人達が集まっていた

こんごうは、小型のインカムを装備し、タブレット端末からリアルタイムで、各部隊の動向を聞き取っていた。

「上陸用舟艇が今出たわ」

曹長が、

「沖合の艦艇からかなり距離があるようですが、どの程度で到着ですか?」

「ざっと計算して 10分程度で到着するわよ」

「えっ!」驚く曹長

「大佐殿、こう見えても自分は漁師の出身ですが、沖合の艦艇は10km以上先です。この距離を10分程度でくるとは?」

こんごうは

「まあ、海軍特務艦隊、ご自慢の高速艇よ」

そう言うと、皆を連れて、指揮所の外へ出た。

双眼鏡で、沖合に見える艦隊を見る。

「来た来た!」

嬉しそうな声を上げるこんごう

横に立つ陸自の先遣隊隊長が、

「誘導員等の配置完了しております」

「誘導用のビーコンは?」

先遣隊隊長はそっと回りに聞こえないように

「はい、二佐。既に電波送信を開始しました」

それを聞いたこんごうは、族長へ向い

「間もなく第一陣の迎えの舟艇がきます。搭乗予定の方々は大丈夫ですか?」

族長は、

「はい、金剛様。曹長殿のご手配で、既に振り分けを終わっております」

するとこんごうは、

「族長さんも、最初の便でも構わないのでは?」

族長は

「それは、ご勘弁を。こう見えても島の長。皆が船に乗り込むまで島を離れる事はできません。それはマオも同じでございます」

こんごうは、そっと林の中で待機する島民達を見て回るマオの姿を目で追った。

「立場は違えど、背負う物は同じという事かしら」

 

そう話している内に岡少尉が、

「見えてきたな」

そう言って沖合を指さした

そこには、2機のロクマルに護衛されたLCACが、猛然と水飛沫を舞い上げながら海上を猛スピードで航行していた。

「はっ! 速い!」

初めてLCACを見た曹長や日本軍の兵達は驚きの声を上げた

いや、そればかりではなく、林で待機していた島民達も 初めて見る異形の船に驚きを声上げた。

曹長はこんごうを見て、

「大きい! あれが上陸用舟艇ですか!」

「ええ、そうよ」

伍長は、

「どう見ても、大発より数倍は大きい」そう言いながら、

「まるで、鯨のようだ!」と唸った。

こんごうは、曹長のその素朴な感想を聞いて

「まあ、確かに」

LCACを正面から見れば、スカート部分の形状などから水飛沫を上げる鯨のように見えない事もない。

曹長は

「あれだけの大きい舟艇なら あまり海岸線に近づく事はできませんな。女性や子供は、我々が背負っていきましょう」

それを聞いたこんごうは、

「心配いらないわ、ちゃんとここまでくるから」

「は? 大佐殿。どういう意味でありますか?」

こんごうの言った意味が分からず、不思議な顔をする曹長達であったが、そう話している内にLCACは、沖1kmほどの距離まで近づいてきた。

ここまで来ると、船体の形がはっきりと見える。

「見た事のない艦艇です。それにこの金属音は? 推進力は後方のプロペラですか」

と曹長が、立て続けに聞くと、岡少尉が

「曹長、それ以上は聞くな。あの艦艇群は海軍の最高機密だ。これから見る物は口外するな」

「はあ、しかし」

 

なだらかな浜辺に、数名の陸自の隊員妖精達が立った。

波打ち際から50m程の所に一人の迷彩服を着た隊員妖精が立つ

LCACは海岸線から500m程の距離まで近づいた

ここまで速度をあまり落としていない。

白い波しぶきを巻き上げながら、悠々とマジュロ島の海岸へ向うLCAC

速度が殆ど変化しない

それを見た曹長は、慌てて

「大佐殿! あの付近から浅瀬です! 減速するように連絡を!」

しかしこんごうは、平然と

「大丈夫です! 見ていなさい」

LCACはそう話している内にあっという間に海岸線に近づく

浜辺で待機する陸自の妖精隊員が、両手を大きく頭上へ上げ、

“ここへ”と誘導を開始した。

海岸に待機する誘導員に向け猛進するLCAC

遂に 海岸線にたどり着いた。

通常の上陸用舟艇ならそこで行き足が止まり、浜辺へ乗り上げて止まる

しかし、その異形の舟艇は、なんとそのまま浜辺に乗り上げると、スルスルと浜辺の上を滑走し始めた

「なっ!!」

「おおおお!」

初めてLCACのビーチングを見た曹長達は驚きの余り声を失った。

水際から浜辺へと乗り上げたLCACは、一瞬砂を大量に巻上げたが、直ぐにその砂嵐から身を出して、スイスイと浜辺を進み、50mほど陸地に入った所でピタリと止まった

猛然と砂ぼこりを舞い上げていたが、急に金属音が小さくなると同時に、船底部分の黒いスカートがしぼみ、船体を砂浜へと降ろした。

一体なにが起こったのか、分からずきょとんとした表情でLCACを見る曹長達

それもその筈だ。

曹長達の常識では、水面から陸地まで上陸できる上陸用舟艇などまだ見た事がない。

日本軍には水陸両用装軌車というものがあるが、ここまで大きくはなく、精々渡河能力がある程度である。

曹長は、一言 目の前の光景を見て

「丘を走る、鯨だ!!」と唸った!

 

意外に平然と状況を受け入れているのは、島民達であった。

浜辺に上陸したLCACを興味深く見ていた。

そう彼らにとって上陸用舟艇やヘリコプター、そしてティルトローター機も全て生まれて初めてみる物ばかりである。

「ああ、そう言う便利な乗り物を 日本海軍はもっているんだ」と思えば、平然と受け入れる事ができる。

なまじ兵器について知識のある日本兵達よりは、混乱は無かった

呆然とLCACを見る曹長達を横に、先遣隊の隊員妖精達が一斉にLCACに駆け寄った。

それと同時にLCACの前方の大型ドアが静かに降ろされた。

LCACの貨物室には、人員輸送用のコンテナセットが搭載されている。

手際よく、いつもの訓練通り、陸自妖精達はLCACへの収容準備に入った。

やや呆然とその作業をみていた曹長へこんごうが

「曹長! 島民の第一陣の乗船の準備を!」と号令を掛けた。

「はっ! 大佐殿。誘導準備に入ります」

曹長は、こんごうの指示に従い、直ぐに配下の兵達に誘導を開始するように指示した。

日本兵の誘導にしたがい、予め決められた島の人々が、林の中から一列になってLCACへと進みゆく

その周囲を日本兵達が誘導し、村の若者たちもマオの指揮の下、老人や子供を背負って砂浜を歩いていた。

こんごうは、時計を見て

「現在マルキュウマルマル。うん時間通り」

横に立つ岡少尉は、

「流石、海軍。いや自衛隊だな。こんなにもあっさりと上陸されては、守る方としては敵わんな」

「そうね。あのLCACだと、今の兵力で1個中隊辺りを一度に揚陸させる事ができるわ」

「兵員以外には? 例えば戦車とか輸送車などは?」

「可能よ、一度に50トン近い貨物を搭載して、揚陸させる事ができるわ」

「凄いな。ぜひ陸軍にも一艇欲しいところだ」

少尉がまじまじというと、こんごうは

「今の技術では、運用どころか建造すら困難ですから貴重な艦よ」

こんごう達がそう話している内に、島民の第一陣はLCACのランプドアへと辿り着いた。

陸自の妖精隊員に誘導されて、一人づつ人員輸送モジュールの中へと入ってゆく。

避難する島民の殆どが、手荷物程度の荷物しかもっていない。

これは事前に族長達を通じてこんごうが、“荷物は最小限に”と連絡していたからである。

順調に島民の乗船が進む

100名程の島民が乗り込んだ頃、マジュロ島の上空に1機のオスプレイが現れた。

曹長は

「あれは、昨日の特殊航空機か」

こんごうより聞かされていた撤退作戦では、島民の輸送は、特殊上陸用舟艇と航空機を使うと聞いていたので、曹長はてっきり大型飛行艇がくるのでは思っていた。

ふと、“あの機体はたしか昨日 空中で停止した”事を思い出した。

「もしかして、この狭い場所に降りる事ができるのか?」

そう言いながら、指揮所後方にあった野砲陣地を見た

既にそこには、陸自の妖精隊員が待機していた。

海岸線をかすめて、飛ぶオスプレイ1番機は、ティルトローターを既に垂直に立てヘリコプターモードへと変換していた。

林の上を轟音を響かせながら通過するオスプレイ

初めて聞く独特の羽音に一瞬驚く島民達。

林の上空から、ゆっくりと前進降下するオスプレイ1番機

地上では陸自の妖精隊員が、両手を使い誘導を開始した。

誘導役の陸自隊員へ、機首を向けながら降下するオスプレイ

それを、林の中より見守る島民達

既に昨日 一度オスプレイを見ている日本兵達も動揺はないというものの、はやり驚きの表情は隠せない。

パタパタという独特の音を響かせながら、猛烈な風をまき散らして此方へ向ってくる特殊航空機 MV-22オスプレイ

降下してくるオスプレイを陸自の妖精隊員が、ハンドサインで誘導する。

誘導に従いゆっくりと前進降下するMV-22オスプレイ

 

曹長は降下するオスプレイを見ながら

「この機体とあの舟艇があれば、我々の諸島攻略は根底から考えがかわります!」

曹長はそう言うと 岡少尉を見て

「海軍は、いつからこの様な戦力を持ったのですか!」

岡少尉は、

「80年」と小さな声で答えた

「少尉殿?」曹長が聞くと、岡少尉は、曹長をぐっと見て

「彼女らは、このままでは破滅の道を歩む我が祖国を救わんが為、具現化した我が国の守護神」

「少尉殿」と曹長は、じっと少尉を見た

「少尉殿がそう言われるという事は、それなりの確証があるという事ですか?」

「そうだ。おれはこの眼で見て来た。」

そういうと、前方で撤退指揮をとるこんごうをみた。

岡少尉はそう返事をすると、一言

「今の日本、いや世界にとって、彼女達は、破滅へと向かう人類を救う希望の光だ」

そう言いながら、こんごうの背中を見た。

 

降下するMV-22オスプレイ 1番機のコクピットでは、右側の席に座る機長が、慎重に周囲を確認していた。

左に座る副操縦士が、高度を読み上げていた。

「50FT!」

電波対地高度計を睨む副操縦士が声を上げた

前方の地上に誘導する陸自の妖精隊員が見える。

「よし、LZ(着陸地点)確認! オールクルー、セットランディングコンディション!!」

機長の声がインカム越しに各員へ届いた。

「コ・パイ!」副操縦士が答えた

「キャビン!」

貨物室の方から声がした。

「よし、Now landing!」

機長はそう言うと、エンジン出力レバーを操作しなから、徐々に高度を落とす

林の中に開いた50m四方の空間へ向け前進降下をはじめた。

2基のティルトローターが生み出すダウンウォッシュが地上の木々を揺らしていた。

「しっかりと固めてあるな!」

機長は降下地点を見た。

昨日、先遣隊が上陸してから、最初に行ったのは、LCACの上陸地点の確保、並びにオスプレイの着陸地点の確保であった。

先に上陸していたこんごうの指示により、LCACは警備所前の浜辺を上陸地点とし、オスプレイは指揮所後方の野砲陣地へ着陸する事となった。

陸自の妖精隊員達は着陸地点に指定された野砲陣地の野砲を日本陸軍の兵達と協力して人力で別の場所へ移動させ、場所を確保すると、着陸地点を水平になるように踏み固めた。

オスプレイは、燃料を満載すると27トン近い重量がある。

SH-60Kが10トンであるので、単純に3倍近い重量があるのだ。

下手な場所に降りると、タイヤが地面にめり込み、離陸できない事がある。

CH-47などの重量級ヘリコプターの泣き所であった。

これを防ぐ為、着陸地点は慎重に選び、事前に整備しておく

特に今回のように、短時間に数機が繰り返し着陸する場合などは、しっかりと整地しておく事が事故を防止する為にも重要であった。

機長は、慎重に操縦桿とスロットレバー(ピッチレバー)を操作しながら降下する。

「慌てるな、時間はある」

自分にそう言い聞かせる機長

オスプレイが巻き起こすダウンウォッシュで周囲の木々が大きく揺れた。

オスプレイの発する独特のエンジン音、そしてローターの羽音。

吹き降ろす凄まじい風圧

林の中にいた島民達は皆身を屈めた。

しかし、こんな状況の中、目を輝かせて降下してくるオスプレイを羨望の眼差しでみる一人の少年がいた。

少年の脳裏は、自分の目の前にまるで、大きな海鳥が、優雅に海面に舞い降りる。その場面を重ねていた。

「あれが、艦娘様の飛行機」

今目の前にあるその姿を、しっかりと脳裏に焼き付けた

 

「Landing!!」

機内で短く機長がいうと、副操縦士が

「左、異状なし」

短く返事をした。

「後方、キャビンいつでも!」

インカムが無くても聞こえるのではと思うほどの大きな声が後方から帰ってきた。

ほんの僅かに高度を落とした。

地上まで1mを切る

ゆっくりと主脚、そして機首の前輪が地面に接触する。

しかし、オスプレイはそのまま地面に接地した状態で僅かに浮力をもちホバリング態勢へ入る

操縦席の前方で、機長に対面する形で誘導する陸自の妖精隊員は、両手を下げ、

“降下せよ”のサインを出していた。

機長は、慎重に機体の浮力を落とす

ここで一気に、ローターのピッチを抜いて、浮力を落としてしまえば、脚に機体の重量が一気に掛かる。

足場が不安定な場合は、脚が地面にめり込む危険もある。

しずかに、浮力を落とす。

それに伴い、主脚と前脚のショックアブソーバーが機体の重量を支え、縮んでゆく。

トルクリングが、くの字型になり、完全に接地した。

それを見た誘導員は、直ぐに両手を前方で交叉させ、“接地した”とサインを送る

それを確認すると同時に、副操縦士は、頭上のスイッチ類を操作して、着陸後の確認作業にはいった。

その間も機長は、右手でしっかりと操縦桿を握り、左手でスロットレバーを保持したままであった。

「収容始め!!」

機長の声が機内に響いた!

オスプレイが着陸した広場は、予め陸自の妖精隊員が、水を撒いて砂ぼこりが舞い上がるのを防いでいたとはいえ、ティルトローターが生み出す猛烈なダウンウォッシュで埃が舞い上がっていた。

 

機長の声と同時に、右のサイドドアから一人の機内要員が外へ出た

直ぐに反時計回りに、機外を点検し始めた。

それと同時に貨物室後方より別の隊員妖精が出て、林の中で待機する陸自の妖精隊へ合図を送った

それを確認した先遣隊の隊員妖精は大声で

「では 第1陣の方!! 行きます! 後を付いてきてください!」

数名の陸自妖精の誘導のもと。20名近い島民が一塊になってオスプレイの後方からへ近づいてゆく

皆、初めて聞くオスプレイのエンジン音と風圧に耐える為に耳元を抑えながら機体の中へと姿を消して行った。

機内に入った島民達は、陸自の妖精隊員の指示の元 キャンバス地の座席に座る。

すると、隊員妖精は、座席ベルトを軽く締め、ロックを確かめて回った

この間およそ5分とかかっていない

左右の壁際にそった形で配置された座席に座る島民達を確認した陸自の妖精隊員は、インカムで、操縦席の機長へ向け

「キャプテン。キャビン、収容終了です!」

「よし 直ちに離陸する。周囲確認!」

機内が慌ただしくなる。

機長は、機外で待機する陸自先遣隊の隊員妖精へ、インカムを通じて

「収容完了した。離陸準備にはいる」

「グランド了、障害物なし!」

「コクピット了解、ディスコネクトインターフォン」

すると、通話用のインカムを被る陸自の妖精隊は、機首のメンテナンスハッチに接続していたインカムのコネクターを外し、パネルを閉め、しっかりとロックを掛けた。

外したコネクターを右手に持ち、操縦席の機長へかざして見せた。

機長の確認のサムアップサインが帰ってくる。

直ぐに、機体から離れる陸自の妖精隊達

機体前方に立つ誘導役の隊員妖精が腕を垂直に上げた。

ややエンジン音が大きくなる。

貨物室内では、乗り込んだ島民達が不安な表情を浮かべていた。

島民の中で、飛行機に乗った事のある者などいない。

全員 生まれて始めての空の旅である。

優雅な旅客機ならまだしも、騒音にまみれ、小刻みに揺れる機内、そしてキャンバス地の椅子。

不安になるなという方が不思議であった。

その中、先程林の中で、オスプレイの着陸をじっとみていた少年がいた。

座席に座り、シートベルトで体を固定されていたが、興味深そうに周囲をキョロキョロとしていた。

外で響き渡るエンジンやローターの轟音もその少年にとっては興味の対象でしかない。

先程から、外が気になるのが、しきりに後方のカーゴドアの方を見ていたが、そのドアがゆっくりと持ち上がり、閉まった。

すると少年は、ドアサイドに立つ陸自の妖精隊をじっと見始めた。

彼が、いったいどんな動きをするのか興味深々といった感じで 隊員妖精の動きを目で追っていた。

急にエンジンの音色が変わり、ローターの風切り音が激しさをました。

その瞬間、機体はふわりと宙に舞った

「おおお」

同乗する島民達は小刻みに揺れる機体に驚きの声を上げた。

少年は、座る座席から身をよじり、背後の窓から外を見た。

そこには、猛烈な砂煙が舞っていたが、時折その間から離れゆく地面が見えた。

「浮いた! 飛んでる!!」

少年の声が機内響く。

目を輝かせながら、じっと窓から外を見る少年

その時、塹壕の土嚢の上に立ち、両手を腰に当て、じっと此方を見る人影を見た。

純白の巫女装束をまとう金剛が ブラウンの長い髪をまるで生き物のように揺らしながら、威風堂々と立っていた。

「金剛様!!」

少年は、そう声に出した

そして、静かに

「いつか、僕もあの方のお役に立ちたい」

と心に誓った。

 

離陸するオスプレイ キャリア1-1を見送るこんごう。

その後方に 先遣隊の隊長妖精と通称「野通」と呼ばれる野外通信システムを背負った陸自の妖精隊員が控えていた。

通信システムを背負う陸自の妖精隊は、インカムを装備し、右手には小型のタブレット端末をもっていた。

陸自の野戦通信システムは85式野外無線機そして携帯無線機1号、その後の多目的通信システムと段階的に発展してきた。

そしてその最新バージョンがこの「野通」と呼ばれる物だ

最大の特徴は、音声通信のみではなく映像などの通信も可能な事だ。

またC4Iシステムへの接続も可能であり、上空で待機するMQ-9のハードポイントに装備する中継システムを通じて、管制機であるE-2J、そして護衛艦との相互連携も可能である。

この携帯無線機だけをとっても陸、海、空という組織の枠を超えた改善を積み重ねてきた事がうかがえる。

野通を背負う陸自の妖精隊が、

「キャリア1-1、離陸完了です! 後続のキャリア1-2 到着まで5分!」

上空で航空管制を行うE-2Jからの情報をこんごう達に伝えた。

こんごうは、

「LCACの準備は?」

「はい、乗船終了との事です。最終確認中」

「確認でき次第 直ちに浮揚、帰還せよ」

「はい! 二佐」通信員はそう返事をすると、復唱しLCACへ指示をだす

こんごうは、表情一つ変えずに、収容される人々を見ていた。

普段の優しい表情ではなく、それは戦場での厳しい表情であった。

LCACの前方のカーゴドアが締まり始めた。

「LCACより、確認作業終了。浮揚後あかしへ帰還」

通信員が手短にこんごうへ報告した。

その間にも、LCACのドアが閉まった。

誘導に当たっていた日本兵や島の若者達。そして陸自の妖精隊達がLCACから離れてゆく。

LCACの前方に待機する誘導員が無線で、周囲の安全が確保された事を、LCACへと通知した。

すると、LCACのエンジン音が再び高くなった。

浮揚用のファンが船底のスカートへ高圧空気を送り始めた。

一気にスカートが膨らみ、地面とスカートの隙間から砂埃が大量に空中に舞い上がる。

LCACは、一旦その場にホバリングすると、誘導員の指示に従いゆっくりとその場で右へ回頭した。

回頭が終了すると、一気に海岸線を滑り下り、再び海面を滑走し始めた。

2基の大型ファンが生み出す強力な推進力は、船体をあっという間に加速してゆく。

向うは、沖合に停泊する輸送艦あかし

その姿を見ながら、こんごうの横に立つ岡少尉は、

「揚陸から離岸まで10分か。まあ今更だが凄いな」

作業を見守る曹長も、表情を厳しくして、

「もしこれが本当の上陸作戦なら、我々は打つ手があるのでしょうか?」

「あると思うか? 曹長」

「はっ、少尉殿。自分には全く思いつきません。海岸線には大型の舟艇が一度に中隊規模を輸送、後方には小隊規模が空から空挺奇襲。挟叉された自分達は、逃げ場がありません」

すると少尉は、

「まあそういう事だ。聞けばあの舟艇には戦車やトラックも搭載できるそうだ」

「せっ! 戦車でありますか!」

すると少尉は、

「俺達は今まで、大陸でのソビエトや支那との戦闘を想定して兵器や装備を開発してきた。しかし今回のマーシャル諸島での戦闘ではっきりした事は、“我々陸軍の常識は、深海凄艦には通用しなかった”ということだ」

「はい、それは十分に思い知りました。重機関銃や自動装てん型の小銃をもった敵兵の猛攻は凄まじいものでした」

曹長はそういうと、以前経験した深海凄艦との戦闘を思い出した。

少尉は、

「海には、海の戦い方がある、陸には陸のそれがある。ではその境界では、どんな戦い方があるか、俺達は考えた事がない」

「はい、その通りであります」

「曹長、クサイ島では暫くゆっくりできるはずだ。そこで今までの経験をまとめてくれ。我々は今後、諸島攻略という課題が待ち構えている。君達の経験は貴重な教訓になる」

「はっ、承りました」

岡少尉は、海上を疾走するLCACの後姿を見ながら、

「指南役はいる。あとは俺達が変化できるかが問題だ」

 

 

クサイ島とマジュロ島を結ぶ中間海域では、護衛艦いずも、はるな、きりしまが単縦陣を組み、周回航行を続けていた。

もし仮に撤退作戦が露呈した場合、いつでも救援にでる事ができるように徐々に接近していた。

護衛艦いずもの洋上司令部(FIC)では、撤退部隊の情報がほぼリアルタイムで受信され、整理され、各部署へと伝達されている。

周辺海域の情報も上空で待機するE-2J、そして護衛艦こんごう以下のフェーズドアレイレーダーが捉えた情報を受信していた。

司令室内で刻々と代わる情報を見ながら、自衛隊司令である由良司令は、

「始まったか」と横に座るいずもへ告げた

いずもは、右手に持ったレポートを見ながら

「第1陣で220名を収容。LCACはあと2往復、オスプレイはピストン輸送で3往復といった感じかしら」

「大体、1時間以内に終わりそうだな」

「まあ、民間人が対象ならこの程度の時間でしょう。訓練された軍人ならもう少し短縮できると思うけど」

司令は

「この手の作戦としては、例のキスカの作戦が有名だが、よく1時間で5000名が撤退したというが、実体は違う。事前の準備に集合。そして訓練された兵だったから、入港から出港まで1時間という短時間でできた訳だ。一般の民間人なら半日は掛かった筈だ」

司令は、続けて

「まあ、そう考えるとこのマジュロ島の族長の統率力は凄いというしかないな」

「司令。こんごうからの報告では、島に隣組や青年団の様な組織があり組織化がかなり進んでいたようです。そういう部分の民度が高かったという事です」

いずもは、レポートに目を落としながら

「こんごうの報告では、各村を治めるのは村長。そして各村に実行部隊としての青年団、

その青年団を治めるのが、族長の娘で・・・」

「あのこんごうに模擬戦を挑んだ少女か」

「そうよ、確か名前はマオさんです」

司令は、呆れながら

「まあ、知らなかったとはいえこんごう相手に格闘戦を挑むとは」そう言うと、いずもを見て

「お前ならやるか?」

「まさか! 霊力使えるなら、まあ勝てなくなくはないけど、その時は家の一軒くらい吹き飛ばす覚悟ね」

司令は

「なら俺が家を建てるときは、山奥の一軒か離れ小島にするよ」

いずもが不思議そうな顔をすると、司令はサラッと

「夫婦喧嘩が起きても、近所に迷惑がかからん」

ぽっと顔を赤くしながらいずもは

「そ、そうね」

 

司令は椅子にもたれ掛かりながら、いずもからレポートを受け取ると、じっとマオの写真を見た。

写真を見ながら、思考を巡らす司令

その顔を見たいずもは、

「また、何か良からぬ事を考えているわね」

「そう言う訳じゃないが、意外と使えそうなだなこの子」

怪訝な顔をするいずもに、司令は

「いや、艦娘に戦いを挑む度胸。その後の状況変化への対応力。意外に使える」

「何考えてるの?」いずもが聞くと

司令は、

「今後、戦域は確実に南下してツバル、フィジー方面に展開する。その時に必要な人材になりそうな子だ」

「ふ~ん、そうなの」と意地悪く聞くいずも

司令は

「まあ、せっかくこんごうと親しくなったんだ。こちら側に来てもらう事も考える必要がある。マジュロ島の部隊も我々の事を目撃している。いずれはな」

そう言うとまた思考を別の場所へと向けた

既に彼の脳裏には、フィジー諸島を抜け、オーストラリアを如何に救うか。その図面が出来上がりつつあった。

 

その頃 マジュロ島では

「LCAC 第2陣到着しました!」

通信員の声と同時に、海岸線には、LCACが到着し着地し避難民受け入れの為に、前方のカーゴドアを開きかけていた。

既に、海岸線には、陸軍兵達が住民を誘導して待機している。

既に一回目の輸送で、要領を得た日本軍の兵達は、第2陣に備え マオ率いる青年団と協力して住民達を誘導し、整列させていた。

オスプレイ部隊は既に4機目が今まさに離陸しようとしている

その間、こんごうは、微動だにせず、じっと塹壕の上にいた

皆から一番良く見える場所で、手を腰にあてがい立っていた。

「指揮官、騒がす、慌てずか」

岡少尉は、そっとこんごうに声を掛けた

「そうね、ここまで来れば、私ができる事はないわ。指揮官は“ここにいる”と誇示するだけでいいわ」

そう言うと、

「うちの隊員達は、こう言う民間人相手の訓練を積んでいるわ。だから手慣れているし、マオさん達の青年団も協力してくれている」

そして、曹長をみて

「陸軍さんも頑張っているわ、これで成功しなかったらもう運が無かったって思うしかないわね」

「はっ、お褒めの言葉ありがとうございます。大佐殿」

曹長は深く一礼したが、こんごうは

「曹長、まだ気を抜くにははやいわ。無事クサイ島に着くまで気を抜いては、Noネ!」

「はっ!」

陸自の先遣隊隊長が

「あのLCACで、ほぼ半数の輸送を完了します」

こんごうはぽつりと、

「木村少将の気持ちが少しわかった気がするわ」

すると、先遣隊の隊長妖精は、

「あの木村少将ですか?」

「ええ、あの方は慌てず、騒がず、冷静に物事を見る、そして人情に厚い。以前すずやさんから聞いた人柄だからこそあの作戦は成功した。いまここで私が騒いでも部隊が混乱するだけだわ。ここに立つ事が私にできる事よ」

こんごうはそのブラウンの長い髪を風に揺らしながら答えた。

こんごうの視線の先には、必死に避難民を誘導する日本軍の兵や青年団の姿があった

急に、肩をポンと叩かれた

「固くなるな」

岡少尉がそっと声を掛けた

「君は、そこにいるだけで皆を勇気づけられる。その存在こそ、“艦娘”なんだよ」

それを聞いたこんごうは、静かに

「子供の時」

「子供の時、なんで私は艦娘の一族に生まれたのかって不思議だった。母は最新鋭艦の艦長で世界初の艦娘対応型イージスシステムを持った艦娘、祖母はあの戦艦金剛、親類といえば、比叡に榛名に霧島。皆艦娘一族ばかり」

そういうと、

「もし普通の家庭に生まれていれば、普通の女の子として過ごし、大人になって恋をして、幸せに暮らすって思いを描くけど、私達は違った。艦娘候補生となり、自衛艦娘となり、そして自分の艦を持った瞬間、そんな生活なんてどうでもいいと思った。初めて自分の艦を目の前にした時、ああこの艦と一生を共に過ごす、そう直感したわ」

そして

「艦娘としての性かしら」と静かに答えた。

すると岡少尉も

「まあ 俺も似たようなものだな」

「そうなの?」

「ああ」岡少尉はそう答えると

「陰陽師の宗家。土御門家に生まれ、幼い頃から陰陽道を極めるべく精進してきたが、もの心ついた時に家の都合で、縁者に養子にだされた。暫く本家から見放されたと思っていたが、このご時世で我々に陽があたりだすと、本家に帰って来いと勝手を言われて、それが疎くて、陸軍に逃げ込んだが、結局“陰陽師”という性からは逃れる事はできない」

「似た者同士という事かしら」

「それはどうかな。俺よりは君のほうが数段優れていると思うが」

「まあ、褒めてもらえたという事にしておくわ」

こんごうはそう答えた。

その視線の先には、LCACへ収容される島民達の姿があった。

こんごうは時計を見ながら、

「残り30分。何もなければいいけど」

 

 

マジュロ島上空8000m

周囲を警戒するE-2J エクセル1-6

水平巡回飛行を継続していた。

操縦席に座る機長は、コクピットのモニタ―に映るデジタル時計を見た。

「30分で作戦終了か」

右横に座る副操縦士が、

「燃料は3時間って所ですね。いずもにタンカーとのランデブーポイント確認しておきます」

「おう、頼むぞ」

副操縦士は、センターコンソールのパネルを操作し、いずもより派遣されたMV-22オスプレイの空中給油機型とのランデブーポイントの入力情報を確認した。

いずもが搭載するE-2Jはプローブアンドドローグ方式による空中給油機能がついた能力向上型である。

これにより航続距離、作戦可能時間が大幅に改善された。

しかし、パイロットには不評であった。

最大の理由が、

「その分、長く飛ぶ必要がある」からである。

旅客機を改造したE-767などでは、機内環境がよく、長時間の飛行にも支障がないが、元々、輸送機を改造したE-2シリーズは、機内が狭い。

ギャレーやトイレも狭く、長時間の飛行には不向きであったが、今はそんな事を言っている余裕はなかった。

機長は、ナビデータを覗き込みながら、周回飛行コースを確かめた。

「警戒飛行は疲れる」そう愚痴をこぼした

それもそのはずである。

E-2Jを始め警戒機は、レーダー照射しながら飛行する。

出来うる限り水平に近い状態で飛ばなくては、正確にレーダーを照射、受信できない。

警戒飛行中は旋回するにも、通常飛行のように大きく機体を傾かせて旋回する事ができない。

ラダーと呼ばれる方向舵を使い、機体を横滑りさせながら旋回する必要がある。

そのくせ、このE-2シリーズはその独特の尾翼形状から横方向の安定性が悪かった

操縦には 通常の機体以上の神経を使うのであった。

狭いコクピットの後方にある各種コンソールが並ぶ管制室

3名のオペレーターが並んで座っていた。

レーダー操作員、CIC士官、そして航空管制士官である

レーダー操作員は、E-2Jの主力装置であるAN/APY-9の操作を担当し、

航空管制士官は周囲550km圏域内の航空機の監視と管制を行う。

そしてCIC士官は、水上監視ならび戦闘指揮を執る

機内は、複数の機材が発する独特の動作音と外から聞こえるターボプロップエンジンの音に包まれていた。

対空監視を行っていた航空管制士官は、忙しくタッチペンを動かしながら、モニタ―に映るオスプレイやロクマルを管制していた。

4機の輸送用オスプレイは、数分間隔でマジュロ島へ着陸し、島民を収容、輸送艦あかしへとピストン輸送していた。

また、こんごう、ひえいに搭載されたロクマル2機はLCACの護衛。

MCH-101は、その航路上に機雷がないかの確認の為低空飛行を繰り返していた。

管制士官は モニターに映る各機の位置情報を元に、その高度差を脳裏に3次元に組立ててゆく。

そんな彼の視線が、レーダーモニターの一点に注がれた

「チィ!」

そう小さくいうと、インカムへ向い

「Unknown radar contact!」

直ぐに横に座るCIC士官が動いた

「タロアからか!」

「はい、低高度からいきなり上がってきました。機数1、高度400m、速度100ノット。真っ直ぐマジュロ島へ向ってきます」

CIC士官は

「高度も低い、速度も遅いという事はPBYあたりか、マジュロ島までの距離は?」

「およそ180kmです」

「島まで、一時間か」

航空管制士官は、

「要撃しますか?」

「いや、逸るな。まずは確認だ。スカルをぶつける。お前はマジュロ島の航空管制に集中しろ、こっちは俺がやる」

「了解です」

CIC士官は、コンソールを操作して、デジタル通信を使いE-2Jの直掩機であるF-35J2機へ、アンノウン機の確認を指示した。

直ぐに直掩機であるF-35J2機が、機体を翻し、指示されたアンノウン機へ向う

CIC士官は、

「あと少しで収容も終るというのに!」と唸った。

 

マジュロ島で指揮を執るこんごうにも、敵機飛来の報は直ぐに伝えられた

「で、ひえい。接近する敵機は1機だけなのね」

「そう、エクセルからの報告では、そうね。いまスカル隊が確認に向った」

ひえいは、

「どうする、こんごう」

こんごうは少し考え

「このまま、接近させましょう。もし迎撃すれば此方の動きが露呈するし、ここにくるまで1時間程あるなら、収容も終って撤収できるわ」

こんごうは、そう言うとインカム越しに

「あかし、島民の収容状況は?」

すると、あかしは

「今、LCACの第二陣が到着した所 10分で離艦させる!!」

「慌てないでいいわ、時間は十分あるから」

こんごうはそう答えると、今度は

「すずや補佐!」

「はい! こんごう艦長」

すずやの清んだ声が直ぐに帰ってきた。

「敵機捉えた?」

「はい、先程 本艦のSPY-1でも補足しました」

「敵機の動きに注意して。それとマリーンを収容」

「はい」すずやが返事をすると、

「護衛艦こんごうは、艦隊より離脱。現在位置より、北へ10kmほど移動して」

「えっ」慌てるすずやにこんごうは、

「偽装計画を実施します」

「りょ! 了解しました! 計画書に従い準備に入ります」すずやの元気な声が帰ってきた。

「やるの?」ひえいの冷静な問いにこんごうは

「丁度いいわ、その偵察機に道案内役をお願いするとしましょう」

「了解よ、あと30分で収容を完了して私とあかしは雲隠れする。あとはお願い」

「任せなさい」こんごうはそう言うと無線を切った

 

「敵機か?」

横に立つ岡少尉が聞くと、

「ええ、敵の偵察機らしき機影が捕捉されたわ。あと1時間でこの島の上空にくるわ」

「撤収間に合うか?」

「十分よ。ひえいとあかしは島民収容後、一旦雲隠れ、私は偽装工作に入るわ」

「一人で大丈夫か?」岡少尉が聞くと

「何、心配してくれる訳?」

「いや、多分君の事だ、計算されているとは思うが、念の為に」

「大丈夫ネ! 派手にやられてみせるわよ」

岡少尉は、笑いながら、

「普通は逆じゃないのか?」

するとこんごうは、

「たまには、向こうも白星が欲しいでしょう?」

岡少尉は、真顔になると、

「本当に君達は怖いな」

「ふふ」こんごうの不気味な笑顔が光った。

 

輸送艦あかしの艦尾では、いままさに着艦したLCACのスカートがしぼみ前方のカーゴドアが開かれていた。

人員輸送コンテナの中にいた避難してきた島民は およそ数分間轟音に包まれながらの航海を楽しんだ。

楽しんだというより、余りの音に驚きながら小さな窓から外を見ていたが、周囲は水飛沫ばかりで、でまるで嵐の中にいるようであった

ただ体に感じる加速感が、“この船が物凄い速度で走っている”という事を感じさせていた。

多少の揺れが続いたあと、少し大きな衝撃があり、急に周囲が暗くなったと思ったら、同乗していた見慣れない軍服をきた兵員さんに

「輸送艦に到着しました! もう少し座ったまま、まってください!」

と言われた

すこし待つと、

「準備ができました。降ります!」と言われ、ドアが開いた

島民達はドアから出て、輸送コンテナの外へ出て驚いた

そこは、巨大な軍艦(輸送艦)の内部であった

「おおおお!」

驚きの声を上げる島民達

周囲をキョロキョロと見回す

それもそのはずである。

初めてLCAC 即ちホバークラフトをみて

「日本には、陸を走る船がある」と驚きながらLCACに乗り、道中皆輸送艦についたら梯子かなにかで、輸送艦に乗りうつると思っていたが、いざ輸送艦についてみれば、なんといきなり輸送艦の内部に収容されてしまった。

もう狐につままれたような表情を浮かべる島民達を、隊員妖精達が誘導し、ウエルドックと併設するあかしの大型車両格納庫へと誘導する。

通常は、車両やヘリコプターを格納する為の大型格納庫

今回は、避難してきた島民や日本兵の守備隊を収容する為に使用されていた。

既に、第1陣で到着した島民達が 格納庫の奥にいた。

床にブルーシートや毛布が敷かれ、家族毎に集まり座っている。

あかしの乗員妖精が、手分けして受付をして、島民達に首から小さなネームプレートを掛けて回っていた。

到着した島民達は受付をしながら、高い天井をみて、

「なんて大きな船だ!」と声を上げた

島を出る時ほんの少しだけ輸送艦あかしが遠くに見えた

遠方であった為、大きさまではっきりとわからなかったが、いざ艦に乗ってみるとその大きさに圧倒されていた。

「日本海軍はこんな立派な船を私達に差し向けてくれたのか」

島民達は 口々にそう言い合っていた。

その頃 あかしの艦橋では、艦娘あかしが艦長席に座り

「LCACの発艦は?」と横にたつ副長へ声をかけていた。

「間もなくです」

副長はそう答えながら、艦橋にあるウエルドック内の監視カメラの映像を見ていた。

既に、収容した島民達の降機が終わり、ウエルドックと格納庫を隔てる大型ドアが閉鎖され、LCACはスカートを膨らませて、離艦準備に入っていた。

「LCAC離艦します!」

艦橋に設置されたスピーカーから管制士官の声が響いた

甲板上では、2機のオスプレイが、離艦に向け準備に入り、前方の上空にはもう1機のオスプレイが此方へ向ってくるのが見える。

あかしは、艦長席にある小型モニターを睨むと

「もう、堪忍してや。この忙しい時に偵察機かいな!」

あかしの副長は、

「E-2Jからの情報では、飛来するまで1時間ほどありますから、十分時間があります」

「そやけど、問題はその後や」

「そっちはこんごう艦長が引き受けるという事ですが」

すると、あかしは

「まあ、こんごうさんの事さかい、上手くやるとは思うけど、どこぞのアニメ見たいに40対1とかやとけっこうキツイ」

「まあ、そこは上手く切り抜けるでしょう。それよりLCACはあと1便で終わりです。オスプレイも一巡すれば終わりです」

あかしは、艦内電話をとると、艦橋下部の甲板員室で指揮をとる甲板長を呼び出した

「オスプレイ隊はあと一巡で収容終わりだけど、燃料補給の手筈は?」

「はい、既に準備できています。帰路を支援するタンカー2機も準備完了です」

「いい、収容完了と同時に、潜航待機。今の内に甲板上の不用品は収容!」

「了解です、既に準備に入りました!」甲板長は、しっかりと答えた

そう言うと会話をしている内にも、1機のオスプレイが離陸し、あかしを離れてゆく

「もうちょいや!」

あかしは、離れゆくオスプレイを睨んだ

マジュロ島の野外指揮所では、撤退する人員の確認作業が続いていた。

集落を見回った伍長が戻り、守備隊長の曹長へ向け

「各集落を確認しましたが、残留者はおりません。ここに残る人員が最後です」

それを聞いたこんごうは、陸自の隊長へ

「あと何名?」

「はい、300名を切りました。オスプレイが4機、LCACは1回で終わりです」

通信員が、

「LCACの最終便、あかしを離れました!」

こんごうは、チラッと腕時計を見た

「20分以内に撤退できるわね」

「はい」返事をする陸自の隊長

陸軍の曹長が

「金剛大佐殿。先程聞きましたが、本島へ向け敵の航空機が接近しているという事ですが、自分達が残り対処いたしますか?」

こんごうは、にこりと笑い顔で、

「No problemネ! ここは私に任せなさい!」

「はあ」と困惑する曹長達向い岡少尉が

「君達は最終の航空機で輸送艦へ向ってもらう」

「はい、岡少尉殿はやはり残られるのですか?」

「ああ、色々とやる事があるからな」

その会話を遮るように、上空にオスプレイが再び現れた

こんごうは、上空に現れたオスプレイを見上げ

「よし、あと少し!」と声を上げた

 

 

その頃 マジュロ島を目指し一路南下する1機の航空機

深海凄艦所属、PBY-5カタリナ飛行艇

1935年の初飛行以来、開発国のアメリカを始め、連合国を中心に運用されている飛行艇である。

日本海軍の二式大艇や九七式飛行艇に比較すると、航続距離や速力、着水性能で劣るものの、構造が簡単な上、小型で小回りが利くという利点から多数製造された。

深海凄艦でも、第三国経由で機体を入手、運用していた。

操縦桿を握る機長は、周囲を見回しながら、後方の席に座るナビゲーター員へ

「あとどれ位で、マジュロ島だ?」

「はい、現在の速度だと1時間程度で、上空に達します」

計算盤を片手に持ったナビゲーター員が答えた。

機長はウンザリした顔で、

「こう、こき使われると休みたいと思うのは 贅沢な欲望か」

機長がそう愚痴をこぼすのも無理はなかった。

深海凄艦のマーシャル諸島分遣隊が組織された当初、PBY部隊は12機近い機数があった。

この機数を使い、マーシャル諸島全域を警戒飛行し、侵入してくる日本海軍の艦艇や潜水艦を発見し、撃退してきた。

これにミッドウェイから追加派遣された空母艦隊の艦載機も加わり、マーシャル諸島の制空権は我が深海凄艦が手中に収めていた。

しかし、最近流れが変わった

事の発端は、トラック攻略の前段作戦であったパラオ泊地侵攻作戦が失敗に終わった事だ。

派遣された艦隊はほぼ全滅し、一部の駆逐艦が何とか帰還してきた。

その後 このマーシャル諸島の中間海域で起きた海戦でも多数の艦艇が失われた。

PBY部隊も中間海域の仮設基地に派遣された半数以上の機体が、敵戦闘機の攻撃を受け損失。

残りの機を使い、マーシャル諸島の哨戒を行っているが、圧倒的に運用機数が足らない。

おまけにミッドウェイからの補給が滞る事がありPBYの稼働率にも影響が出始めていた。

PBYの機長は、誰にも聞こえないように、小さく

「確実に、全体戦力が目減りした」と呟いた

まだ主力のル級戦艦3隻や、空母6隻は健在であるが、ワークホース役の軽巡や駆逐艦の損害が多い、我々のPBY部隊もそうだ。

いくら強力な艦隊でも、普段の警備に戦艦を使う訳にはいかない。戦艦で潜水艦狩りはできないのである。

航空機も、空母群の損失が軽空母1隻だけでほぼ無傷であるが、いつ出撃があってもいいように全ての艦載機を空母へ収容しており、陸上基地には洋上飛行に不慣れなP-40や少数であるがP-38がある。他はA-20などの軽爆撃機だ。

実際の洋上パトロールはPBYを酷使していた。

少ない機数をやり繰りして、なんとか哨戒飛行を続けていた。

むろんそのしわ寄せは、搭乗員達にも押し寄せる。

洋上飛行に熟練した乗員の数が少なくなりつつあった。

PBY部隊のベテラン乗員達は、哨戒飛行の他 見方機の敵地誘導や救助など休みなしの状態が続いていた。

操縦輪を握る機長の横に座る副操縦士が、

「機長、昨日軽巡部隊がマジュロ島を砲撃したそうですが、何かあったのですか?」

機長は、前方を見たまま、

「日本軍への警告だそうだ。お前も知っていると思うが、中間海域の仮設基地が日本軍に攻撃されて全滅した。日本軍にこれ以上近づけば、マジュロ島の島民を攻撃するぞってな」

「そういう事ですか。日本軍が島を取り返しにくるという事でしょうか?」

「それは解らん。すでにトラックとマジュロ島の間の制海権は空白地帯になった。制空権は辛うじて俺達が取っているが、向こうにはアカギクラスが4隻もいる。どの艦も此方のヲ級flagshipと同じ位練度が高い。頭数は此方が上だが、質は向こうが上だ」

すると副操縦士が、

「でも機長、司令がよく“戦いは数が勝負だ”って、ほら何とかの法則ってありますよね」

「ランチェスターの法則か?」機長はそう答えると、

「あれは元々、地上の歩兵戦を前提にした法則だ。最近の研究じゃ集団戦を想定した物もあるようだが、あてには出来ん。それにな」

「それに?」

「あの手の法則は、あくまで両軍の質が同じで、数の確立論だ。いいか、日本人は間抜けだが“馬鹿”じゃない。器用な思考能力を持つ。油断すると、仮設基地の二の舞になる」

「そんなもんですかね」副操縦士は、気が抜けたような声で返事をしたが、

だが、急に機長が 上空を指差して、大声で叫んだ!

「直上! 敵機!!」

「えっ!」

のったりと構えていた副操縦士は慌てて上空を見た。

「どこですか!!!」

周囲をキョロキョロと見回す副操縦士

いきなり後のナビゲーター員や機銃員達が笑いだした。

「油断大敵だぞ」

機長は、そういうと、笑いながら副操縦士の肩を叩いた。

笑いに包まれるPBYの機内

 

しかし、その機長が指さしたPBYの遥か上空では2機のF-35が高度を取り PBYを監視していた。

PBYとは、速度差があり過ぎる為、周回飛行をしながら、雲間の中から機首に装備されたEOTS(電子式光学照準システム)は、洋上を進むPBYカタリナをはっきりと捉えていた。

その情報は、マジュロ島上空のE-2Jを通じて、こんごう達や後方で待機するいずも達へと送信されていた。

 

「十分間に合う」

こんごうはそう言うと、海岸に到着したLCACの第三陣を見た。

既に、揚陸しスカート部分を収縮させて、前方のカーゴドアを開いていた。

先程と同じ島民達が日本兵に誘導されてLCACへと乗り込んでゆく。

その島民達の列の後には 綺麗に2列縦隊に整列した帝国陸軍守備隊が続いていた。

先頭を歩く兵は、誇らしく軍旗である旭日旗を掲げて歩いていた。

それに続く者達は、亡き戦友の遺骨や遺品を大事に抱えていた。

隊列は、指揮所前まで来ると、止まり、“左向け左!”という号令と共に一斉に左を向き

指揮所前に待機していたこんごうや守備隊長である曹長へと向かった。

 

指揮する伍長が こんごうの前まで出てくると姿勢を正して、素早く敬礼した。

こんごうや岡少尉が答礼すると、伍長は

「帝国陸軍 マジュロ島守備隊。撤退開始いたします!」

こんごう達と並ぶ守備隊隊長である曹長が、

「最後までご苦労であった。帝国陸軍として恥ずかしくない戦いだった」

「はっ!」

曹長は、続けて

「伍長以下の人員は、海軍の舟艇にて先に輸送艦へ向かえ。俺は最終の特殊航空機で族長達と向う」

「はっ」一礼する伍長

曹長は、隊列の中にいる杉本二等兵へ

「杉本! お前はマオさんのお伴だ! 最後まで残れ」

「はい!」

隊列を離れマオの横に立つ杉本二等兵

マオの顔がここなしか少し赤い

「いよ! もてる男は辛いね~」

隊列の中から、声が上がった

こんごうは、伍長へ

「お疲れ様でした」と優しく声を掛けた

「はっ、ありがとうございます」

「輸送艦では、乗員妖精の指示に従って行動してください」

「はっ!」

こんごうは、ニコニコしながら、

「多分、食事は海軍ご自慢のカレーがでると思うから、楽しみにしてください」

「おおおお!」

それを聞いた兵達から声が上がった。

曹長は、隊列に向い

「乗船 始め!」

「縦隊! 前へ 進め~!!」

号令と同時に、陸軍兵達は、綺麗に歩調を整え LCACへと歩み始めた

それを敬礼しながら、見送るこんごう達

潮風に陸軍旗がはためく

LCACの前には、自衛隊の陸自妖精やLCACのカーゴローダーが整列して、撤退する陸軍兵達を迎えていた。

カン、コン

軽い音を立てながら、カーゴドアのスロープを昇る陸軍兵達

 

曹長は静かにそれを見守っていた

「曹長。肩の荷がおりた、そういう顔をしているぞ」

「はい、少尉殿。正直そう思います」

曹長は、小さな声で答えた。

「昨年末、いざ日米開戦かとタラワ島の北部を守っていましたが、ラジオ放送で開戦ならずと聞いた時は訳が分からず混乱したものです。その後間を開けず、深海凄艦が攻めてきて、防戦一方で、補給は滞り、頭上には敵の艦載機が飛来するようになりました。ここマジュロ島にあった司令部との連絡も不通となり、自分の判断でここまで撤退してきましたが、司令部はもぬけの殻。おまけに島民は 日本軍に対し不信感を募らせる日々。完全に孤立し、正直 ここで最後かと覚悟を決めました」

そういうと、カーゴドアが閉まり、浮揚の為のガスタービンエンジンが唸りを上げ始めたLCACを見て

「杉本二等兵を始め、若い者も多かった。できれば彼らだけでもと思い、幾度となく無電を打ちましたが、トラックの陸軍守備隊からは、”島を死守せよ“とその返事ばかりです。艦娘さん達が必死で補給を試みてくれましたが、それも上手くいかず、諦めばかりが募る日々でした」

岡少尉は、そっと曹長の肩を叩くと

「辛い思いをさせたな」

「いえ。自分はただ生き残るに必死であっただけであります」

曹長は、岡少尉へ向き

「岡少尉殿。自分達は危険を冒して救助に来ていただいた金剛大佐殿にどのように報いればよろしいのでしょうか?」

「なに、焦る事はない、まずはクサイ島でゆっくりしろ」

「はっ、有難いです」

島民と日本陸兵を乗せたLCACの最終便は、スカートを膨らませて、浮揚すると陸自隊員妖精の誘導の下、砂煙を巻き上げながらその場で回頭すると一気に海面へと滑り下りていった。

砂煙が、水飛沫へと変わり、海面を滑るように進むLCAC

上空に最後の島民と、日本兵を輸送する為に2機のオスプレイが現れた。

一機は、そのまま降下し、着陸帯へ舞い降りる。

直ぐに後部ドアが開く。

陸自の隊員妖精に誘導され陸軍兵達が手際よく次々と乗り込んでゆく

あっという間に20名近い陸軍兵を収容し、後部のドアが閉まった

同時に、タービンエンジンの音が高まり、ティルトローターの独特の羽音が島中に響き渡る

次の瞬間 オスプレイはふわりと浮き上がって、空高く舞い上がる

 

その後方に、もう1機のオスプレイが着陸侵入してきた

それを見た岡少尉は

「曹長、最後の便だ。ご苦労であった」

「はっ!」敬礼する曹長

答礼する岡少尉

曹長は、こんごうへ向い、同じく敬礼すると

「金剛大佐殿。帝国陸軍マジュロ島守備隊。自分をもって撤退完了いたします」

こんごうは、しっかりとした答礼を返し

「ご苦労様でした。クサイ島まで道中お気をつけて」

「はっ、ありがとうございます」

曹長は、右手を降ろすと、

「では」と一礼し、最終便のオスプレイに乗る為集合場所へと向かった

集合場所には、族長とマオ。杉本二等兵に各村の村長達が待っていた。

マオが此方を見ながら、手を振っていた。

挨拶がてら軽く手を振るこんごう

最終便のオスプレイが、埃を舞い上げながら、着陸する。

甲高いエンジン音を響かせながら、待機に入る

直ぐに後部のカーゴドアが開き機上整備員の隊員妖精が外へ出て、族長達を手招きした。

陸自先遣隊の隊員妖精に誘導され族長達が、オスプレイへと向かう

マオは、横に並んで歩く曹長へ

「隊長さん、金剛さんはこの飛行機には乗らないのですか?」

「ああ、別の迎えがくるそうだ」

「別の迎え?」

「なんでも、自分の船から迎えの機体が来ると聞いたが」

曹長がそういうと、

「戦艦金剛か。横須賀にいた時に数回見たが、とても大きな艦で、正に戦艦ここにありといった感じだったな」

「マオも見る事ができるかな」

マオがそう聞くと、

「さあ、どうかな」

曹長は大きな声で返事をしながら、オスプレイの機内へと足をふみこんで行った

オスプレイの機内へ入り、機上整備員に誘導され座席に座る族長達

機上整備員2名は手分けしてシートベルトを締めて回る。

乗り込んだ人数を確認すると、外で待機する陸自の妖精隊へ“OKサイン”を出した。

それを確認し機体から離れる陸自の隊員妖精達

機上整備員は。機体側面のパネルを操作し、後部カーゴドアを閉めた。

その作業をじっと見守る曹長

“やはり”そう感じた

金剛大佐や先遣隊の隊員妖精達を見て、確かに自分達と同じ日本語を話す。

ただ少し妙な発音というか 違和感があった。

言葉の中に英語の単語が数多く出てきていた。

仕草もそうである。

最初は、英国生まれの金剛大佐の影響か?と思ったが、この部隊全員がそのようであった。

ふと岡少尉との会話を思い出した

「彼らこそ 我々の希望だ」

その言葉の意図を考えた

 

甲高い独特の羽音が大きくなりオスプレイは 大量の埃を舞い上げながら マジュロ島を離陸した。

ここに、決して歴史の面に出る事のない「マジュロ島撤退作戦」は完遂されたのだ

 

離陸し、高度を取るオスプレイを見送りながらこんごうは

「うん、当初の任務は完了。あとは無事に送り届けるだけネ!」

横に立つ岡少尉が、

「とはいうが、敵の偵察機がこっちに向かって来ているときいたが」

こんごうは時計を見ながら、

「あと30分で、島の上空にくるわ」

「一芝居という訳か?」

岡少尉がそう聞くと、こんごうは

「まあ、上手く騙せるかどうかはわかんないけど、やるだけやるわ。でそっちの準備は?」

「じゃ、今から始めよう」

そう言うと岡少尉は、背負っていた背嚢の中から分厚い紙束を取り出した。

「済まん、集中するから少し下がってくれ」

そう言われ、数歩下がるこんごう

岡少尉は、左手にその紙束を持つと、右手で九字を切った

「臨!兵!闘!者!  皆!陣!列!前!行!」

勇ましい詠唱の声と同時に、左手に持った紙束を空中へ投げ出した。

一斉に宙に舞う紙

その紙は、人型の護符であった。

空中でひらひらと舞うと、辺りの砂浜に静かに舞い降りた。

すると、その人型の護符は、まるで意志を持ったようにひらりと立ちあがると、てくてくと砂浜を歩きだした。

小さな人型の護符がぞろぞろと砂浜を歩いてゆく

途中すれ違った陸自の隊員妖精が、ぎょっとしながらその人型を見ていた。

「君の様な、術に対して耐性のある高位の艦娘さん達には、護符が歩いているようにみえるが、普通の人間や妖精達には、ほぼ人と同じに見える」

人型の護符は歩きながら村の方向へと向かう

「あの護符には、意志があるの?」

「いや、それはない。そこまで来ると式神の域へ入る」

こんごうは、ひときわ元気よく歩く護符をみた

「あの元気な護符は、もしかしてマオさん?」

岡少尉は、ニコニコしながら、

「彼女には悪いが、彼女の髪の毛を織り込んである。普通の人間にはマオさんそっくりに見える筈だ」

「へ~、そんな事もできる訳」

「まあ、普通の護符を作るより手間がかかるが、特定の人間の影武者を作る事も可能だ」

こんごうは、はっとして岡少尉は、を睨むと

「もしかして、私の護符とか作ってないでしょうね」

「個人的には、欲しい所だがな」

「なっ、なんですって!!」

こんごうが物凄い形相で睨むと岡少尉は笑いながら、

「済まん、冗談だ」

続けて、

「残念ながら、それは無理だ。なぜなら君達、艦娘はその存在そのものが神の化身である。神を模る事は禁忌に触れる。それに君も受けたと思うが“艦魂下し”の儀式の際に使う召喚の術式には、艦娘の魂を保護する術式が組み込まれている。君達の複製は出来ない」

「あの術式ね」

「俺も、数回見学させてもらったが、あの術式は和洋折衷といった感じだ。日本古来の神道に基づき、陰陽道、そして西洋魔術の術式を組み込んだものだと思う」

「あら、詳しいのね」

「これでも、その陰陽師なんでね」

こんごうの背後で、バタバタとロクマルのローター音が近づいてきた。

指揮所にいた先遣隊の隊長が、こんごうのタクティカルバックをもって近づいてきた。

こんごうの前までくると、敬礼し

「こんごう艦長、報告します。お迎えのロクマル、到着まで5分です」

既に、視界に此方へ向ってくるこんごう艦載機の姿があった。

こんごうは、先遣隊の隊長へ向い

「現時刻をもって先遣隊は、マジュロ島民撤退任務を終了し、偽装作戦を開始します」

「はい。先遣隊は撤退任務を終了し、偽装作戦を開始します」

「私の撤退後、特戦隊は、臨時に日本陸軍岡少尉の指揮下へ入りなさい。少尉の指揮の下 マジュロ島での島民偽装工作に従事する事」

「はい。計画書に従い実施します」

先遣隊の隊長妖精は、復唱し新しい命令を受理した。

こんごうは、岡少尉へ

「岡少尉、そういう事だからよろしく」

「了解した。まあ、こんな立派な部隊を預かったんだ。うまくやるよ」

「撤退の時期は、少尉に一任するけど無理しないでよ」

「友軍に誤爆されんうちに、さっさと皆で逃げるよ」

こんごうの背後で、ロクマルが着陸するのが見えた。

「来たようだな」

「そうね」こんごうがそう言いながら、タクティカルバックを肩に担ぐと、岡少尉へ向き

「少尉。無事にパラオに帰ってきたら、そうね。お茶会に招待してあげる」

「ほう、金剛家の紅茶か」

「ええ、さっきの術式の話。詳しく聞かせて」

「そうだな。無事に生きて帰れば約束する」

それを聞いたこんごうは、さっと身をひるがえして、ロクマルへと向かった

ロクマルが巻き起こすダウンウォッシュでブラウンの長い髪を揺らしながら、慣れた手つきでロクマルへと乗り込むこんごう

サイドドアがスライドし、閉まるとローター音が急に甲高くなり、あっという間に離陸して行った。

窓に映るこんごうの姿を見ながら、岡少尉は

「人の心配より、自分の方が危ないだろうに」

そう言いながら、こんごうを見送った。

 

戦いの舞台は 南の島から海へと変わりつつあった。

 

 




こんにちは スカルルーキーです
分岐点 こんごうの物語 第63話をお送りいたします。

早いもので、もう2018年も終わりです
年末というに、暖冬なんですかねぇ いまいちピンと来ない日々であります

さて 先日リアルで オスプレイを初めてみました
大分県の日出生台演習場で行われた日米共同訓練に参加する為に築城基地へ飛来したオスプレイを見る事ができました。
第一印象は 「意外と音が小さい」です
少し離れると全然気にならないですね。
一部の方は、”うるさくて生活できない”とか言っていましたが、まああの程度なら慣れの問題なのではないしょうかね

丁度 撤退シーンを書いていた頃なので、オスプレイの姿 脳裏にしっかりと焼付塗装してきまいした。

次回は「日本人 これが戦争だ」です

では




では

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