分岐点 こんごうの物語   作:スカルルーキー

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時系列は、少し巻き戻る。



59 マジュロ撤退作戦1

太平洋の穏やかな海面を切り裂きながら、進む2隻の護衛艦と支援艦

先頭を行くのは護衛艦こんごう、そしてひえい。

最後尾に支援艦あかしが続く。

目的地は敵深海棲艦の支配地域であるマーシャル諸島マジュロ島

島といっても一般の人が想像するような島ではない。

火山が隆起、その後活動停止し、徐々に中央が沈下。その過程で周囲に出来た珊瑚礁が成長しリング状の陸地を形成するという環礁である。

島の全体面積は300㎢もあるが、その内陸地は僅かに10㎢しかないという。

マーシャル諸島にはこの様な環礁がいくつも存在する。

日本海軍が太平洋の拠点としているトラック泊地もその環礁の一つである。

現在このマジュロ島には日本陸海軍とその軍属、現地島民を含め1000名近い人々が深海棲艦によって海上封鎖され孤立状態となっている。

こんごう達3隻の護衛艦の任務は日本海軍の本格的な反攻作戦が始まる前にこの1000名の残留員を全員無傷で救助し、900km西にある日本軍の支配地域であるクサイ島(コスラエ島)へ一時避難させる事であった。

 

 

艦娘こんごうはいつもの様に艦橋の艦長席に座り、愛用のビッカースの刻印の入った双眼鏡で前方を監視していた。

後方のオブザーバー席に座るすずや補佐は先程から声をかけようかどうしようかと副長にアイコンタクトを投げていた。

そんな副長やすずやの視線を感じこんごうは

「なに?」

ちょっとぶっきらぼうに声を出した。

すずやはややおどおどしながら

「いや……ちょっと驚きました。現地案内人が少尉さんですから」と白々しく言った

既に完全に目が宙を泳いでいる。

こんごうはいつもの様に笑顔だが、口元を引きつらせて

「あら、すずやさんなら“知っていた”のではなくて?」

すずやは内心

“あちゃ~やっぱり怒ってます?こんごう艦長。声が……”

即座にすずやは全力で首を横へ振り

「いっ、いえ。全然ですよ」そう言うと続けて

「いずも副司令からの書類を見ましたけど、現地案内人は聯合艦隊が手配する要員をクサイ島で乗船させる。作戦の機密保持の観点から氏名についてはギリギリで伏せておくって」

「くっ!」と目を吊り上げるこんごう。

その時艦長席のモニターに後続艦のひえいが映し出された。

「甘いな……自分で色々と条件出しといてそれはないでしょう」

「うっ!」

ひえいに厳しい所を突かれた。

続けざまに

「大体さ~マジュロにいるのは陸軍さんでしょう。となると案内人も当然陸軍さんになる可能性があった訳で私達の艦に乗っても秘密を守ってくれる陸軍さんって言ったらパラオの駐留部隊しかないでしょう」

「うっ」再び突っ込まれたこんごう。

ひえいは

「おまけに今回の様な潜入ミッション、パラオの陸軍さんじゃ少尉さんの所しかないって以前由良さんに言われなかった?」

こんごうは

「ううう……そこは言わないで。できるだけ彼の事は思い出さないようにしてたから」

ひえいは

「それにさ、私達の艦の事を秘匿するという意味じゃ少尉さん以外心当たりないでしょう」

「ううう……」唸るこんごう

そして前日の事を思い出していた。

 

マーシャル諸島の中間海域に展開していた深海棲艦の潜水艦部隊を殲滅した後、いずも達と分離したこんごうとひえいはあかしと合流すべくクサイ島へと向かった。

途中特に問題もなく無事クサイ島の北部の小さな入り江の沖に停泊した。

この入り江にマジュロからの避難民の一時避難キャンプを設営する。

 

既に先着していたあかしは艦内から作業艇やLCACを出し、仮設テントの準備作業に入っていた。

沖合に停泊したこんごうとひえいは停泊作業をしながらあかしの機材揚陸を見守っていた。

艦橋横の見張り所からその作業を見ていたこんごうとすずや。

すずやは

「一時収容所はどの位で出来上がるのですか?」

双眼鏡でビーチングするLCACを見ながらこんごうは

「ちょっと不自由かもしれないけど、テント生活をお願いする事になるわね。テントだけなら1日もあれば十分かしら」

「うえ、テントですか?」とすずやは答えたが、

「テントといってもちゃんとした防水加工の立派な奴よ、台風でも来ない限り問題ないわ。それに作戦が終了すればここを撤収してきれいさっぱり何もなかったって事にするから大層な物は建てられないわよ」

すずやは双眼鏡を覗きながら

「海岸線に複数の人影があります。服装からすると陸軍さんと現地の島民の様です」

こんごうは

「聯合艦隊の大淀さんからの連絡では現地案内人が事前にこの島の族長と事前調整してくれているとの事です。駐留する陸軍守備隊との調整もお願いしているとか」

「へえ~、現地島民の長と話するだけでも大変なのに守備隊との調整もですか?」

すずやは感心しながら言うと

「聯合艦隊がらみというと長官の名前あたりを使ったのでしょうか?」

しかし、こんごうは

「それはどうかしら? この作戦自体が秘匿されているから余り聯合艦隊の名前を前に出す訳にはいかないと思うけど」

「難しいですね。艦長」

「そうね」

こんごうはそう言うと双眼鏡から目を離して

「さて……明日の朝にはここを出るわ。副長、あかしからの燃料補給の準備は?」

「はい、現在準備中です。あかしさんの資材揚陸作業終了後、合流してひえいと同時に補給を受けます」

「では調整よろしく」

「はい」と副長は答えながら敬礼した。

こんごうはすずやへ向い

「じゃあ私達は今の内に作戦をもう一度詰めておくわよ」

「はい。こんごう艦長」

すずやの返事を聞いたこんごうはすずやを伴って艦内へと消えた。

 

その護衛艦こんごう達を海岸線から見る複数の男性

日本陸軍の防暑衣を着た現地守備隊を預かる隊長は双眼鏡で沖合に停泊するあかし、そしてその先に停泊するこんごう達を見ながら、

「凄い船だな。海軍の最新鋭艦か?」と隣に立つ岡少尉へ声をかけた。

「守備隊長、そこは聞かないでください」

守備隊長は双眼鏡を降ろしながら

「まあ、あれだけの物を貰ったんだ。しっかり部下にも口止めしておくよ」

「はっ」と一礼する岡少尉

守備隊長は声を潜めて

「でも……いいのか? 軍規違反になりかねんぞ」

「そこは」と岡少尉も声を潜めた。

「まあ、少尉がいいというなら有難く受け取っておく。いや正直助かる」

守備隊長はそう言うと

「部隊には若い者も多い。年老いた親を抱える者もいる。あの金でまあ少しは仕送りできるだろう。有難く皆で分けて支給させてもらう」

岡少尉は

「作戦が成功すればここにはいる筈のない避難民が滞在します。よろしくお願いいたします」

守備隊長は、

「君には満州でも幾度も助けられた。その君が来たという事は御方の御意向という事だな」

「はい……本作戦は極秘であり存在自体が秘匿されますが、主は“成功せねば日本の威信に関わる”と仰せです」

守備隊長は、静かに、

「君が出た後の調整はどうなる?」

「はい……海軍、聯合艦隊の担当官が引き継ぐ予定です」

守備隊長は岡少尉へ向き、

「機密作戦という事だ……これ以上は聞くまい。無事帰還する事を祈っている」

「はっ!」岡少尉は、しっかりと返事をすると敬礼しその場を立ち去った。

立ち去る岡少尉の背中を見送る守備隊長へ別の兵が寄り

「守備隊長殿、彼は何者ですか?」と声をかけた。

守備隊長は小さな声で

「二重橋の御庭番だよ」と答えながら、

「岡! 必ず生きて帰って来い!」そう彼の背中を見送った。

 

あかしは数時間で仮設テントなどの設営機材と設営の為の陸自の隊員妖精の揚陸を終え、その後一旦抜錨し、沖合で並んで待機するこんごうとひえいの間へ滑りこんで来た。

両舷にこんごう、ひえいを捉えるとその位置にて再び錨を降ろし停泊。

両艦へ燃料を補給する為にラインを張り、燃料ホースが渡された。

通常は洋上航行をしながらこの作業を行うが、今日は両艦とも停船している。

こんごう、ひえいの航海長を中心に作業が始まる頃、艦娘ひえいとあかしは作戦の打ち合わせの為揃って護衛艦こんごうの士官室へと足を運んだ。

士官室では既にこんごうとすずやが待機していた。

着席するひえいとあかし

ひえいは着席するなり

「こんごう、戦術情報みた?」と声をかけた。

「ええ、瑞鳳さん見事にのり切ったみたいね」

ひえいは

「まあ、きりしまがついていたとはいえ、損害無しで相手のヌ級軽空母を撃破。上出来!」

「ふふん、色々と装備を仕込みましたからね。当然や」

あかしは自信満々に答えた。

こんごうは呆れながら

「聞いたわよ……由良さん所の砲術妖精に“対艦ミサイル積んでくれ!”って懇願されたみたいね」

するとあかしは

「まあね。技術的には問題ないですけどあれを使うとなると、ホークアイとかリーパーの支援がないと座標情報が心もとないですから別の手段を考えたで! もう初弾必中、間違いなし!」

こんごうは

「もう、あまり変な物仕込まないでね」

するとあかしは

「何を仰いますこんごうさん。この海戦は貴重な実戦データを得る機会。あれやこれやと仕込んでますのに!」

ひえいは

「こんごう……言うだけ無駄よ。司令がOK出してる時点で諦めないと」

「何か向こうが可哀想に見えてきたわ」とこんごうが言うと、横に座るすずやも

「ですね」と呆れ顔で答えた。

 

その時、壁面にある艦内電話が鳴った。

直ぐに席を立ち、それを受けるすずや

少し受け答えをしながらこんごうへ向い

「こんごう艦長、舷門からです。聯合艦隊手配の案内人が乗艦許可を求めています」

こんごうは

「許可します。舷門当直員にここまで案内させて」

「はい」 すずやはこんごうの指示を聞くと、直ぐに電話口にそれを伝えた。

少し受け答えをしながら受話器を置いた。

「艦長。艦橋から副長が向いました」

「どうしたの?」とこんごうが聞くと

「はい……どうも日本陸軍の方らしく武器を携行しているので副長が舷門で対応しているようです」

「陸軍?」とこんごうは怪訝な顔をしたが、すずやは

「はい……しかし聯合艦隊の山本長官と三笠様の命令書をもっていたとの事です。一応武器は舷門で副長が預かるという事で話が付いたようです」

「分かったわ」とこんごうが答えた。

ひえいは、

“なにか面白い予感が”と笑みを浮かべた。

 

しばし雑談をしていたが、程なくして士官室のドアが開き

「副長、入ります。現地案内人の方をお連れいたしました」

副長はそう言うと後方にいた彼を案内した。

ドアから現れた彼を見た瞬間、こんごうの表情が強張った。

「おおお!!!」とひえいやすずやの声が室内に響く

岡少尉はこんごうの前まで来ると、きりっとした姿勢で一礼、

「聯合艦隊司令長官、山本イソロク大将、並びに艦娘艦隊総司令三笠大将の命により マジュロ島における島民救出作戦の現地案内及び調整官に任命されました帝国陸軍パラオ駐留偵察第一小隊の岡です」

岡少尉はそう言うと、持参した命令書をこんごうの前に差し出した。

「よろしくお願いいたします」と再び一礼した。

「くっ!」

ギッと岡少尉を睨み付けるこんごうであったが、横からすずやが

「ど、どうします?」

こんごうは表情を変えずその命令書を受け取ると一読した。

間違いなく山本長官と三笠の直筆の命令書であった。

こんごうは

「はい。確かに山本長官並びに三笠様の命令書。確認いたしました」

こんごうが何かを言おうとした瞬間、テーブルに置いてあるこんごうのタブレットが鳴った。

画面を見ると、いずもからである。

タブレット端末を操作して、通信回線を開き、前方の大型モニターに映像を映した。

画面には自衛隊司令といずもが映し出された。

ニコニコしながら此方を見るいずも副司令とその横で“我、介せず”といった表情で、全く違う方向に視線を泳がせる司令の姿があった。

いずもは、

「こんごう。岡少尉は到着したかしら?」

「はい、只今」とこんごうは答えながら

“副司令も、だいたい此方の映像は拾う気になれば司令権限でいくらでも拾えるでしょう!”と目で訴えた。

むくれ顔のこんごうを見ながら、いずもは

「では少尉さんと作戦打ち合わせをよろしく」そう言うとモニターに越しに岡少尉を見て

「岡少尉、こんごう達に至らぬ点があるとは思いますが、よろしくお願いいたします」

すると岡少尉は、

「はっ、微力ではございますが尽力いたします」と姿勢を正して答えた。

いずもは横にたつ司令を肘で突いて

“何かないの?”と急かした。

自衛隊司令は渋々

「こんごう……本作戦の重要性は十分理解していると思う。島民、そして残留日本陸軍部隊。欠員なく全員撤退させよ」

「はい」

司令は岡少尉を見て

「少尉、乗艦中は何かと不便をおかけするがご容赦願いたい」

岡少尉は

「いえ此方こそ。友軍並びに島民救出の為にこの様な立派な艦と艦娘さん達をお貸ししていただき、感謝いたします」と一礼した。

いずもは、

「じゃ、こんごう、あとはお願い」というと、

「ひえい、あかし、すずやもよろしくね」

「はい、副司令」と三人揃って返事を返した

いずもは最後に

「こんごう、せっかくの機会だから少尉さんと仲良くね。少尉のプロフィールを後で送っておくわ」そう笑顔でいうと通信が切れた。

 

モニターが消えた瞬間、こんごうは少尉を見て

「なんで貴方なのよ!」と声を上げた。

 

すると岡少尉は冷静に

「俺は単純に泊地の提督、先輩から“自衛隊側の出した要求を満たせる人員はお前しかいない”という事で海軍の指揮下に入った。それだけだ」

こんごうはぐっと少尉を睨んで、

「どういう事!」

少尉は

「座ってもいいかな」と言いながらこんごう対面の席へ着くと、

「まず君達の出した条件。現地に詳しい事、できれば現地守備隊と面識がある事だが、俺は来るべき日米開戦に備え偵察小隊の任務でこのマーシャル諸島の各島々を回り、各地の守備隊と接触した経験がある。次に戦闘経験がある事、まあこれは軍人だからな。問題は最後だ。自衛隊の事を秘匿できる人間。そうなると“パラオ泊地の人間又は関係者”という事になる。まあ……そう言う事で俺に白羽の矢が立った」

少尉は淡々と答えた。

「他にもいるでしょう! 他にも!」

こんごうは少尉を睨み付けた。

すると少尉は

「まあ、詳しい経緯は知らんが最終的に三笠様が推薦してくれたようだがな」

 

その時、こんごうのタブレットにメールの着信音が鳴った。

タブレットを手に取りメールを開くこんごう

「うん? 誰から?」

ひえいが聞くと

「副司令から」とこんごうは答えながらメールの文章を捲った

メールを読み進めるこんごうの表情が一段と厳しさを増した。

「中々の戦歴のようですね、少尉」

岡少尉はこんごうを見ながら

「大した事はない。満州から南洋まで渡り歩いてきただけだ」

と静かに答えた

こんごうは表情を緩め

「わかりました。当艦への乗船並びに本作戦への参加を許可します」

「どうも」と少尉はいうと、

「何分至らん所もあるとおもうが、宜しく」と右手をこんごうへ差し出した。

「ええ、此方こそ」とこんごうも右手を差し出し握手を交わす。横に座るすずやは

こんごうの目元が引きつっていたのを見逃さなかった。

“うわ~”と思いながら対面に座るひえいをみたが、ひえいは

“これは!” あらぬ方向に期待しているという顔であった。

あかしは

“そっち方面は関心なし”といった感じであった。

 

副長が

「少尉殿の携行武器については、本艦の武器庫にて保管させていただきます」と付け加えた。

こんごうは、

「預かった武器は?」

「はい……九四式拳銃一丁、予備弾倉及びナイフ類です」というと預かった携行武器のリストをこんごうへ差し出した。

一読するこんごうは小声で

「あれはないのね」と呟き少尉をみた。

岡少尉は笑みを浮かべながら、

「その仕込みはこれからだ」と答えた。

「分かったわ。火器類は規則上預かるわ。それ以外、規定が無いから自由だけど、変な事しないでよ」

「了解した」と少尉は答えた。

こんごうはひえい達を見ながら

「では、マジュロ島救出作戦の打ち合わせにはいります」

その声を聞くと、すずやは素早く手元のタブレットを操作して、前方のモニターにマーシャル諸島全域の海図を映し出した。

 

これらの施設をみても、微動だにしない岡少尉を見てこんごうは

“こちらの事は全て把握済みという事ネ……さすがに噂の部隊という事かしら”と岡少尉を見た。

こんごうはすずやに向い

「すずやさん、現状の説明を」

するとすずやは席を立ち、モニターの前までくると

「はい。説明します」といい、

「現在の主戦場はこのトラックとマーシャルの中間海域です。現在パラオ泊地瑞鳳を旗艦とした対潜掃海部隊は敵カ級潜水艦部隊をほぼ殲滅し、この敵航空基地へ向け牽制航路を取った結果、敵ヌ級軽空母群が攻撃の為瑞鳳艦隊を追う形をとりましたが、我が自衛隊の支援を受けた瑞鳳並びに鳳翔航空隊が敵ヌ級軽空母群を撃破。ヌ級より発艦した敵航空機群も秋月を中心とした防空戦によりこれを撃破し、敵に甚大な損害を与えつつ当方はほぼ無傷といった所です。詳細につきましてはお手元の報告書をご覧ください」

岡少尉も配られた報告書を見ながら

「ほう……大勝利だな、先輩達は」

するとこんごうは

「岡少尉、この戦果については一部秘匿されます。後日連合艦隊から発表される報告が“歴史”に残る戦果です」

すると岡少尉は

「勿体ないな。先輩もこれだけ戦果があればパラオから呉に凱旋できるとおもうが」

「そうなんですか?」とひえいが聞くと

「パラオ泊地提督は広島の出身だ。同じ提督をやるならパラオより呉の方が地元に近い。おまけに由良さんと結婚までしたんだ……おじさん達も世継ぎが欲しいと思うのは当然だと思うが」

ひえいは

「広島か〜」と声を上げながら遠くを見た。

「広島がどうかしたのか?」岡少尉が聞くと、

「広島はね……」とひえいが言いかけた瞬間、こんごうが

「ひえい!!」と厳しい声で名前を叫ぶと首を横へ振った。

こんごうは

「少尉、既に私達の素性については十分理解していると思います。私達は別の次元から来たある意味“未来人”です。しかし私達の経験した事がこの世界でも起こるとは限りません。すでにこのマーシャル諸島の戦闘も私達の経験とは大きく違います」

「ああ、それは理解している」

「そして私達の存在自体がこの時代においては特異点です。この艦内で不用意な事に首をつっこまないように」

「ほう」岡少尉がそう言うと、

「うろついた時は?」と聞くとこんごうはニコニコしながら左手を前に差し出し、手のひらに霊力を集中さえ、小さな魔法陣を空中に描きだした。

「貴方の存在自体をなかった事にして差し上げます」

 

少尉は表情一つ変えずに

「気を付けておくよ」と静かに答えた。

 

ひえいはずずやへ向い、アイコンタクトで

“そこまでやる?”と送った。するとすずやは、

“艦長、本気ですよ!!”と返してきた

ひえいは、

“ひひひ、これはあの時なにがあったが聞きだす必要があるようね! しかし少尉もこんごうの霊力を感じて動じないって……何者?”

 

こんごうは霊力を静かに終息させながら

「話を戻します」というと

「現在、パラオ艦隊は欺瞞情報を出しながらこのポンペイ島まで退避中です。いずもの司令部からの情報では欺瞞情報につられた敵リ級を中心とした艦隊が追撃していますが、それを迎え撃つべく金剛お姉さまと三笠様の合同艦隊が向っています」

そう言いながら、モニターに映し出された情報を説明した。

「ああ、リ級も終ったわね。金剛姉さんと榛名おば……姉さんの砲撃で粉々だね」

ひえいがそう言うとこんごうは

「そうでもないみたいよ?金剛姉さま達は今回は遠距離砲撃でリ級の動きを押さえて、三笠様達が後方から水雷戦を仕掛けるみたい」

「すきだねぇ~三笠様も」と呆れるひえい

 

「この海戦でほぼ中間海域における敵勢力は一掃されると思います。一種の戦力空白地帯が生まれます、私達はこの機に乗じてマジュロ島へ接近し、救出作戦を実行します」

こんごうは続けて

「明日の朝にこのクサイ島を出発し、30時間後、目標のマジュロ沖30kmまで接近し、私と案内人の少尉さんが先行してマジュロへ夜間上陸。現地守備隊と接触後、マジュロの族長へ面会し退避を説得します」

「その間、此方は待機だね」

ひえいが聞くと

「ええ……ただマロエラップ方面から定期的に巡回艦隊があるとの報告があるから、警戒は怠らない様に。それとあかし、潜水ドローンによる機雷の位置の確認は事前に行って」

あかしは

「了解。探査は全島する?」と聞くと

「いえ、今回は時間がないわ。優先的にLCACの予定航路をお願い」

「LCACの上陸地点は?」とひえいが聞くと

こんごうはモニターにマジュロの地図を開き

「一番人口の集中しているこのローラ地区の海岸を想定しているわ」

そう言うと

「機雷掃海はこの周囲を重点的にLCACの航路を確保して。住民の移動作業と並行してまずあかしの潜水ドローンで海域の精査、その後すずやさんのMCH-101で機雷の掃海。浮上した機雷の除去は少し手荒いけど私とひえいのロクマルで掃討します」

 

ひえいは

「こんごう、LCACの航路だけを確保するの?」

「そう言う事。島を取り囲む機雷原は日本軍の侵入を防ぐのと同時に深海棲艦も進入できなくしているわ。できる限り温存しておきたいの」

 

「でもいいの?中途半端に残してきて」

こんごうは手元の書類を見ながら

「聯合艦隊の大淀さんからの連絡では私達が撤退したあと、日本陸海軍の合同部隊が同島に上陸する予定だけど、その時に“欲求不満な戦艦姉妹が全ての機雷を吹き飛ばす予定です”って」

ひえいは怪訝な顔をしながら

「なにそれ。すずや……分かる?」

すずやは笑いながら

「思い当たる方はいますけど」と何とも言えない笑みを浮かべながら答えた。

こんごうは

「まあ、其方の心配はしなくていいという事だから任せます」というと続けて

「航路の確保と並行して私と少尉さんで島民の脱出準備を行います。使用する機材は上陸用大型舟艇LCAC1艇、輸送用航空機MV-22が4機、燃料補給用が2機です」

こんごうはモニタ―を指しながら

「LCACの上陸地点はローラ地区の西海岸、オスプレイはローラ地区内の学校の校庭を予定しているわ」

ひえいは

「住民の集結と準備にどの位の時間を予定してるの?」と聞くとこんごうは

「そうね……現地の守備隊の協力があるとして24時間、族長を説得できたら即行動開始よ」

ひえいは椅子に深くもたれ掛かりながら

「問題は現地の族長をどうやって説得するかね。前情報ではだいぶ日本軍に恨みがあるみたいね」

「そこは……ほら」とこんごうが岡少尉を見て

「少尉さんの出番よね」

「おっ、俺か?」と少尉は驚きながら、

「まあ……一通りの方法は考えてあるが、まずは現地守備隊を通じて説得する。それが失敗した場合は直談判だな」

「上手くいくの?」とこんごうが聞くと、岡少尉は

「正直不確定要素が多い。まず現地の守備隊だが、この部隊は本来のマジュロ守備隊じゃない。マロエラップ以北の部隊が深海棲艦の侵攻に抵抗しながらようやくマジュロまで撤退してきた部隊だ」

岡少尉はそこまでいうと

「あえて陸軍の恥をさらしていうが、元々マーシャル方面軍司令部を中心とした部隊は深海棲艦のマーシャル侵攻の知らせを聞いた途端に“戦線の立て直し”と称してトラックへ逃げ込んだ。必死に抵抗しながら撤退して来た前線部隊はいざ方面軍司令部を見てもぬけの殻だったと知ってかなり激昂した。それだけじゃない。避難する民間人を抱えて命からがらようやく司令部に来たら、上の連中は真っ先に逃げていたなんて事になってみろ。俺でも怒る」

「じゃあなに?怒っているのは現地島民だけでなく守備隊もという事?」

ひえいが聞くと

「ひえいさん、まあそうなるわな。逃げ込んだ矢先に周囲を完全に封鎖され孤立状態。救出作戦のあてもない、海軍の艦娘さん達のドラム缶補給が唯一の生命線。それも最近は失敗の連続だ」

「思ったよりも現状は深刻という事かしら」

「そういう事だ、こんごうさん」

岡少尉は

「だが、希望もある。現地の守備隊を今実質的に指揮しているのは以前満州で一緒に戦った顔見知りだ。いきなり撃たれるという事はない」

少尉は続けて

「現地守備隊には陸海軍を代表して聯合艦隊の山本長官命で撤退命令書。現地の島民には南洋庁からの避難指示書がある。それに族長宛てに三笠様の書状も預かってきた」

こんごうは

「あとはきちんと此方の言い分も聞いてもらえるかどうかね」

すると岡少尉は

「そこは“艦娘”である“金剛さん”に期待するな」といいながらこんごうを見た。

すずやも、

「このマーシャル諸島も海洋信仰の厚い地域です。海神の巫女である艦娘の言葉なら族長も耳を傾けてくれると思います」

するとひえいも

「そうそう。せっかくはるながあの衣装も用意してくれたんだし、ここは頑張ってね」

こんごうは ぐっとひえいをみて

「じゃあ、貴方もあの服を着てみれば」

「遠慮しとく。露出が多いもん」とあっさり返したひえいであったが、そう遠くない日に人前で着る事になるとは本人もこの時は思っていなかった。

その後こんごう達は作戦の詳細を打ち合わせし、最後にこんごうが

「今現在もマーシャルを取り巻く状況は変化しています。不測の事態に対応できるように十分な準備をおこたりなきよう。明日マルロクマルマル時に抜錨、マジュロ島へ向います」

そう閉めたあと会議は解散となった。

 

士官室を退席するひえいやあかし

残されたすずやと岡少尉

「さてと」とこんごうは姿勢を直し椅子へ座り直すと岡少尉へ向い

「先程も話したけど本艦は機密の塊です。待機中は指定された待機室以外 不用意に出て回らないように」

「了解した」

こんごうは副長へ向い

「彼の待機室は?」

「はい、外来士官用の二人部屋をご用意しております。先任伍長以下の要員が交代で対応します」

「俺一人に二人部屋とはいえ個室とはえらく大袈裟だな。俺なら船倉に寝袋でも構わんぞ」

「少尉、そういう訳にもいかないの。この艦に乗ったかぎり目的地に着くまで貴方の安全を優先して確保する必要があるの。既にここからマジュロ島までの海域はほぼ此方の手中に収めているとはいえ油断できないわ。敵と遭遇した時に貴方の安全を確保する為の処置よ」

こんごうは

「それと携行して来た武器については、規則で艦内での所持はできないわ。作戦開始前に返却するけど、いい?」

「規則なら仕方ない。拳銃だけは事前に一度点検しておきたいのだが」

「副長?」

こんごうが副長を見ると副長は

「はい、武器庫員と調整して時間を設けます」

こんごうは再び岡少尉を見ると

「食事はここで私達と摂ってもらいます。その際詳細について再び検討します」

「了解した。ではその時に」

岡少尉はそう言うと席を立ち副長に案内され待機室へと向かった。

部屋を出る少尉の背中を見送り、再びいずもより送られてきた岡少尉のプロフィールに目を通した。

ある項目を見て表情を厳しくした。

こんごうは

「ふ~ん……そう言う事なら今後手加減はいらないという事かしら」

その声を聴いたすずやは体の底から震えた

「艦長、なにを?」そう思うのであった。

 

 

その後こんごうは事務作業の為自室へ戻り、すずやは艦橋へ行き、翌朝の出港へ向け準備作業の指揮を執っていた。

既にあかしからの燃料と食料などの補給を終え、ラインは切り離されて、各艦は単独で停泊していた。

副長や航海長と言葉を交わしながら、作業の進捗状況を確認するすずや

その姿だけみれば立派な艦長である。

手元の書類に目を通している時、すずやのタブレットの呼び出し音が鳴った。

ポケットから小型タブレットを取り出し、画面を見るとひえいからである。

音声専用の表示がタブレットの画面に出ていた。

“あれ? 連絡なら艦隊間通信の艦娘C4Iがあるのに?”と思いながらタブレットを操作して耳元へタブレットをあてた。

「はい、すずやです」

「すずや?ひえいよ!」

すずやは

「はい、先程はお疲れ様でした」

するとひえいは電話越しに

「近くにこんごうは居る?」

「いえ……艦長ならお部屋ですが。お繋ぎしますか?」

ひえいは慌てて

「いいの。すずやに話があるから」

「えっ?すずやにですか?」

「そうそう」とひえいは答えた

すずやは操舵艦橋室内で指揮を執っていた副長へ向い

「副長、少し席を外しますけどいいですか?」

すると副長はニコニコしながら

「ひえい艦長ですか? そろそろだとおもいましたよ。 暫くは大丈夫です」

それを聞くとすずやはタブレットを耳元にあてたまま艦橋横の見張り所へ出た。

通常の停泊中であり、見張り員もなく閑散とする見張り所

「大丈夫です」

すずやがタブレットを越しにそう答えると

「こんごうの様子は?」

 

「えっ、艦長ですか?」

「そう」

「いつもと変わりありませんけど」

すずやはそう答えるとひえいはいきなり

「じゃあ、私達が帰ったあとにいきなり少尉さんを殴るとかなかった訳ね」

「え〜、そういう雰囲気じゃなかったです」すずやがそう答えた。

「こんごうはちゃんと少尉さんと会話が出来ていたわけね」

「はい」

すずやはそう言うと

「あの……ひえい艦長何か問題でもあったのですか?」

ひえいは少し笑いながら

「いや、そんな事はないけどこんごうが幾ら任務とはいえ男性と普通に会話できている事にちょっと驚いただけ」

「えっ!?」すずやが驚くと

「すずや……忘れた?こんごうって男の人苦手なのよ」

「以前それは聞きましたけど。司令とか泊地提督とかとお話されるときは普通ですけど?」

「すずや、それはね。司令はまあ上司だし、泊地提督と会う時は必ず由良さん達がいっしょでしょ」

「まあ、そうですけど」

ひえいは

「仕事の上で男の人と話すときはそうでもないけど、個人的に会うとなると会話にならない事が多いのよ」

「そうなんですか? ひえい艦長。そんな感じ全然うけませんけど?」

「ふふふ……すずや、甘いな。例の海水浴の一件忘れた?」

すずやは、海水浴場での一件を思い出した。

ひえいは

「いい?普段冷静なこんごうがあそこまで怒るってことは何かあったとは思わない?」

「何かですか」

「そう」ひえいの意地悪い声がすずやの耳元で響く

「こんごうがあれだけ警戒するって事は滅多にない。それだけの事があったってことよ」

「う〜ん」唸るすずや

 

「まあ、現地まで30時間もあるわけだし、上陸後は二、三日は二人で行動するわけだからね。ここは親睦を深めてもらいましょう」

「大丈夫ですか?」すずやの不安げな声に、ひえいは

「という訳ですずや。フォローお願い。じゃ~ね~」

ひえいはそう言うとさっさと音声通信を切った。

「ええええ!」

タブレットを耳元へかざしたまま、すずやの絶望的な声が見張り所に響いた。

 

こんごう達の補給と再出撃準備が整った同日夕刻

岡少尉は待機室の2段ベッドの中でじっと休んでいた。

時折聞こえる機械音以外、静かな艦内だ。

目を閉じ体を横たえながらここまでの事を思い浮かべていた。

“トラックからポンペイ島、そしてこのクサイ島まで来たが今の所奴らの術者がいたのはポンペイ島だけだ。流石にトラックは霊力的な保護があるからそう易々とは侵入できまい。おまけに三笠様以下の艦娘さん達もいる。迂闊に近づけなかったとみるべきだな”

一呼吸おき

“このクサイ島は敵の前線に近いが戦略的な価値がないと見たのか、またはいつでも制圧できるとみているのか、敵の術者の影はない”

“本土の東條閣下より陛下の御意向としてこの地域内の敵術者の掃討がご下命された。本土の霞部隊や本家の連中も此方へ入りつつある。敵の間者の掃討も間もなくだな”

 

その時、ドアをノックする音が室内に響き、ドア越しに

「岡少尉殿、当番の水兵妖精です。夕食のお時間になりましたのでご案内いたします」

岡少尉はベッドから起き上がりながら

「済まない、今行く」と答え。身なりを整え、ドアを開けた。

ドアの前には青い艦内服を着た1士の妖精隊員が待っていた。

妖精隊員は岡少尉を見ると姿勢を正して

「では、ご案内いたします」といい、岡少尉の前を歩きだした。

案内役の妖精隊員の後を歩きながらついてゆく岡少尉

岡少尉は歩きながら妖精隊員に

「今まで任務で色々な艦艇に乗ったが、この艦の通路は広くて明るいな」と声をかけた

すると、妖精隊員は

「はい。本艦は長期の作戦遂行が可能な様に艦内の居住性については設計当初より考慮されました」

「海軍の艦と比較するのもなんだが、向こうの艦はこう居心地というか長期に暮らすというには不向きだな」

妖精隊員は

「まあ、艦の運用思想の違いでしょうか。日本海軍の軍艦などは鎮守府などの母港を中心に必要な時だけ動く艦です。本艦は防衛・警備行動が主たる任務ですので、領海内を長期に展開する事ができる様に設計されています」

岡少尉は

「同じ艦でも時代が変われば変わるものだな」

 

案内役の1士は士官室の前までくると、軽くドアをノックし

「1士です。岡少尉をお連れいたしました」としっかりとした口調で申告するとドアを開き、岡少尉を案内した。

そこにはこんごう、すずや、副長以下の幹部士官妖精達が揃い着席していた。

1士妖精はそのまま上座に座るこんごうの対面に岡少尉を案内した。

こんごうの対面に立つ岡少尉。

それを見たこんごうは

「どうぞ」と対面の席を勧めた。

すこしおどおどしながら、席につく岡少尉。

「いいのか? こんな幹部の席に俺がいて?」

少尉は対面のこんごうへそう話しかけた。

「ええ、作戦の打ち合わせも兼ねてあるわ」

こんごうはそういうと

「まずは、腹ごしらえからしましょう」

給仕員が直ぐに各員の前に綺麗に盛られた野菜サラダと福神漬けの小皿を並べた。

そして真っ白いお皿に白米のご飯、そして香ばしい香辛料が香るカレーが盛られた皿を並べていく。

皆の前にカレーが並んだ。

それを見た岡少尉は

「今日は土曜日か?確か金曜だと思ったが」

するとこんごうの横に座るすずやも

「やっぱりそう思いますよね」

こんごうはニコニコしながら

「そうね……海軍さんでは土曜の昼がカレーだけど、自衛隊は週休二日制。非戦闘時は土日は課業がお休み。だから金曜が勤務最終日という事で金曜の昼がカレーなの」

そういうと続けて

「本当ならお昼のメニューだけど、明日の朝の出撃に向け準備の関係で夕食になったの」

こんごうはそう言いながらスプーンを取ると

「さあ、冷めないうちにいただきましょう!」

一斉に

「頂きます!!」と声を出した。

最初にカレーを口に運んだのはすずやであった

「う~ん! やっぱり護衛艦こんごうのカレー、美味しいです」

それを聞いた補給科長は

「ありがとうございます。後で給食員へ伝えておきます」

こんごうもカレーを食べながら

「重巡鈴谷さんのカレーも今度食べて見たいわね」

「はい……その時は護衛艦すずやですけど」

こんごうは目の前に座る岡少尉を見ながら

「どうかしら?」と声をかけた。

黙々と食べる岡少尉は一言

「旨い」というと

「こういう部分だけは海軍にあこがれるな」

「そお?」とこんごうが聞くと、岡少尉は

「まあ、本土やこの南方方面はまだいい。問題は支那大陸だ。満州から先、大陸中央部へ出た連中は米1俵運ぶにも一苦労だ。あそこまで補給線が伸びて一体どうするつもりなのか心底思うよ」

岡少尉は

「まっ、しっかり食べれる内は食べておこう」

黙々と食べる少尉に、

「まだお替りもあるから遠慮しないで」

「そうさせてもらうよ」と言い切らない内に岡少尉はカレーを平らげた。

それを見た給仕員が少尉の皿に再びカレーを盛った。

「おう、有難い」

こんごう達も雑談をしながら食事は進み、食後のお茶としてコーヒーが出た。

カップに注がれたコーヒーを見ながら岡少尉は

「意外だな。金剛と言えば“英国仕込みの紅茶”という感じだが」

するとこんごうはコーヒーカップに手を掛けながら

「私も基本はコーヒーよりも紅茶がいいわ。でも今は勤務中ですから組織に合せるのが筋です」

すると岡少尉は

「意外と固いな。この艦は君の艦だろ?少しは自由にできるのでは?」

するとこんごうは急に表情を厳しくして

「ええ、確かにこの艦の艦長は私でこの艦の艦魂を宿しているのも私。この艦は私自身といっても過言じゃないわ。でもこの艦は私が作った訳じゃない。国民の血税を積み上げて作った艦なの。私のおもちゃじゃないわ」

岡少尉は

「すまん、少し言い過ぎた。普段から戦艦金剛さん達を見慣れていると、ついな」

こんごうは何か言いたそうであったが、ぐっとこらえて

「では、今後の行動について打ち合わせを始めます」

その声と同時に給仕担当員は士官室の外へ下がり、士官室には幹部妖精にすずや、こんごう、そして案内人である岡少尉だけとなった。

既に各員の手元には資料が配られていた。

こんごうは

「既に現在までの周辺海域の現状については各員把握していると思うけど」といい

「では……すずやさん。この状況をどうみますか?」

急に話を振られて

「えっ」と慌てたが、すずやは深く深呼吸をして

「日本海軍と深海棲艦。共に互角、天秤の針が微妙に左右に揺れる状況だと思います」

「理由は?」こんごうが鋭く聞くと

「はい……現状まで日本海軍の情報ではパラオ艦隊が敵カ級潜水艦を数隻撃沈するも、旗艦瑞鳳は被弾。追撃するヌ級艦隊をようやく振り切ったという事です」

頷くこんごう

「瑞鳳は全力出撃を行いヌ級艦隊に打撃を与えますが、損傷激しく中間海域を離脱する結果です。おまけに仮設基地防衛にあたっていたリ級艦隊の追撃を受けています。表向きには中間海域では日本海軍は押された形です」

こんこうはニコッとしながら

「では、裏では?」

「完全に戦場を制圧しています。まずパラオ艦隊の戦果ですが、カ級潜水艦10隻、ヌ級軽空母1隻、ヘ級軽巡1隻を撃沈しています。瑞鳳へのヌ級艦載機群の攻撃もほぼ完全に防いでおり、敵仮設基地も、瑞鳳、鳳翔およびトラック泊地基地航空隊により完全に破壊されました。また敵が目論んだと思われるトラック泊地閉塞作戦も敵B-25を全機撃墜し、失敗させました」

こんごうは、

「敵は現状をどう判断するかしら?」

「はい、非常に複雑な筈です。自軍の損害報告と日本軍の情報が一致しない状況です。我が方と違い広域の情報収集機能を有していないので、現場情報だけでは判断がつきかねていると思います」

こんごうは、すずやの答えを聞き

「ここ数日中間海域を中心とした戦闘により中間海域付近は混乱しています。本日深夜、三笠以下の水雷戦隊並びに金剛お姉さま達がこの海域の最大戦力であるリ級艦隊へ夜戦を仕掛けます。既にいずものホークアイ並びにリーパー等により敵艦隊の位置は把握されているので、三笠様達は有利に事を運ぶでしょう」

こんごうは続けて

「私達3隻は明朝この停泊地を出発し、およそ30時間 900km近い距離を航行し、敵支配地域奥にあるマジュロ島の残留市民及び日本陸海軍の1000名を救出します」

こんごうは士官室前方の大型モニターを起動すると自分のタブレットから作戦計画書を呼び出し、概要を説明しはじめた。

 

「まず、マジュロ島の沖100kmの位置まで進出します。この地点を待機地点として設定します。航海長」

「はい……指定された地点ですが日本海軍より提供された海図によると、水深も十分ありますので待機できると思います」

こんごうは

「この地点にて私と現地案内人の日本陸軍の岡少尉は深夜本艦から離れます。ロクマルを使いこの30km地点まで進出し、それから先はボートで移動します。飛行科長、問題は?」

「はい、特にありません。ゾディアックの運搬も問題なしです。唯一あるとすれば岡少尉殿の降下ぐらいです」

「方法は?」

「ウインチによるホイスト降下が確実だとおもいます。懸垂下降、ファストロープは未経験には危険です。間違っても艦長みたいに飛び降りるなんて論外です」

「飛び降りる?」岡少尉が聞くと、

「ええ、高さ100m程の所から、ロープやパラシュートなどを使わずに生身のまま飛び降りて、無傷で着地しています。普通の人間なら大けがですよ」と呆れ顔で飛行科長である班長が答えた。

「ほう~、そんな芸当ができるのか?」岡少尉は、こんごうを見た。

こんごうは少し顔を赤くして少尉を見ながら言った。

「非常時だけよ。降下中に霊力を集中させて接地の間際に下方に展開するの。集約された霊力で衝撃を吸収する方法よ」

「へえ~、すずやさんも出来るのか?」とすずやを見たが、すずやは思いっきり顔を横へ振り

「無理です! 絶対無理です! そんな芸当ができるのはこんごう艦長だけです」

岡少尉は

「魔女の末裔と呼ばれるだけはあるな」

その言葉を聞いたこんごうは

「まあ、よくご存知で」

「それなりにな」岡少尉は軽く受け流した。

少しただならぬ雰囲気が流れたが、こんごうは前方のモニタ―を指し示しながら話を続けた。

「この地点から先はボートで移動します」

岡少尉は

「移動時間は?」

「約1時間半って所かしら」

こんごうの返答に岡少尉は

「きついな」

「なにが?」こんごうがそう聞くと

「いやちょっと揺れに弱くてな」岡少尉が歯切れ悪く答えた。

「酔い止めの薬を用意させましょうか?」副長がそう聞くと、岡少尉は

「ご厚意は有難いが今回は遠慮しておく。多少見っともない姿をさらすかもしれんが我慢するよ」

「無理せずに飲んで行けば?」こんごうが言うと

「いや、作戦中だ。薬の副作用で集中力が途切れる事の方が怖い」

「なら仕方ないわね」とこんごうが答えた。

続けて

「島への上陸予定地点はここローラ地区の南の海岸線よ。少尉この辺りの地形は?」

岡少尉は、

「なだらかな珊瑚礁の浅瀬が続く。海岸線の近くはマングローブ、その先はヤシの森だ。森の中に島を一周する小さな道があってその道にそって北上すればローラ地区だ。まあ、ずっと歩けば島を一周できる」

「問題なさそうね。深夜に島に上陸。まず現地の日本陸軍の残留部隊と接触します」

すると岡少尉は厳しい表情で

「仮定の話だが、もし手遅れだった場合は?」

「手遅れ?」

「こんごう艦長。もしマジュロに既に敵が上陸していた場合、もしくは敵勢力の一部支配を受けていた時は?」

こんごうは、

「状況にもよるわ……敵深海棲艦が上陸し、本来救助するべき民間人や日本軍が殲滅されていると判断した場合は作戦を中止し撤退します。もし一部勢力に上陸されていて支配されているようなら、あかしで待機中の陸自の陸戦隊を使い敵勢力を排除後、住民を移送します」

岡少尉は

「その際に問題がある。避難民の中に“人に憑依した悪霊”がいる可能性がある」

ざわめく室内

こんごうは

「悪霊に憑依された人と一般人の見分け方は?」

「一般の人間には難しい、いやほぼ不可能だろうな。俺や君の様な霊力を感知できる一種の能力者なら見た瞬間に分かるものさ」

岡少尉はそういうとすずやを見て

「すずやさんも感触的には分かると思うが」

すずやの表情が少し曇った。

岡少尉は、

「いずもさんからその時の記録映像をみせてもらったが、艦娘に憑りつこうなんて気が知れんよ。多分あの悪霊は鈴谷さんの意識を取り込んで自ら精神を崩壊させようとした。“鬼化”現象を起こそうとした可能性がある」

「鬼化現象?」

「ああ……鬼化とは本来鬼ではない、人や動物が鬼、即ち憑依体と具現化する現象だ。悪霊や死霊、もののけ等に憑依され精神崩壊を起こし、鬼として覚醒する」

少尉は続けて

「憑依される原因は色々とある。人が持つ怨みとか辛み、嫉妬といった負の面がそれらの者達を呼び寄せると言われている」

こんごうは、少尉をみて

「へえ、詳しいのね。軍人なのに」

岡少尉は

「まあな、ちょっとした趣味だ」と話を誤魔化した。

 

少尉は

「上陸後、最初に接触する者達に注意すべきだ。もし彼らが憑依されていなければ島全体が占領されているとは考えにくい」

「では族長たちの説得と合わせてその辺りも面通しする必要があるという事ね?」

「そういう事だ、こんごう艦長。こちらの安全を確保してからでないと。不用意に味方を呼び寄せると被害がでるぞ」

「あの……現地の陸軍さんには連絡は?」とすずやが聞くと、岡少尉は、

「いや、行っていない。不用意な通信は敵に探知される。ただ本土の馬鹿野郎達がマジュロ奪還と公言しているから何らかの形で情報は行っているとは思う。そして敵も警戒している筈だ」

こんごうが

「本土の大本営が発表したのは確か台湾の部隊が上陸作戦を敢行する内容だった思うけど」

「艦長、そうだ。台湾の山下中将閣下以下1000名が聯合艦隊の護衛の元、マジュロ奪還へ動く。まあ表の作戦だな。俺達は裏の作戦。表が動き出す前に全てを終わらせておく必要がある」

こんごうはモニタ―の画面を切り替え

「島民の避難確定後、先遣隊を乗せたロクマルを呼び寄せます。先遣隊の発艦と同じく皆もマジュロ沖まで進出して」

そう言うとマジュロ島の北西部をポインターで示した。

「私が離艦している時は本艦の指揮はすずやが、艦隊の指揮はひえいが執ります」

「はい」一斉に幹部達が返事をした。

 

岡少尉が

「こんごう艦長、計画書を見たが1時間以内で1000名を艦まで輸送するとあるが可能なのか?」

「問題ないわ。問題があるとすれば当日如何に素早く島民を集結させることができるかが問題よ。その為にも現地で絶対的な権力を持つ族長の協力は不可欠なの」

こんごうは、

「住民と残留部隊を収容後、マジュロ島には偽装工作の為陸自の特殊作戦群20名が残り、通信欺瞞と灯火欺瞞を行う事になっているわ」

「その部隊の脱出はどうなる?陸軍部隊が上陸する際に戦闘に巻き込まれる恐れがあるが」

「そこは考慮しているわ。陸軍部隊に同行する聯合艦隊の護衛部隊から動向を連絡してもらい、戦闘が始まる前に回収する予定よ。それに周辺海域にはすでに此方の電探搭載機を常時貼り付けてあるから深海棲艦側の動きも分かる」

すると岡少尉は

「もしもの事もある。俺も残ろう」

「えっ?でも……」こんごうは慌てたが、

「まあ、元々その為の現地案内人だ。いざという時も軍人だ。気に病む事はない」

こんごうは暫し考えたが

「分かりました。その件については後ほど陸自部隊の隊長と協議します」

頷く岡少尉

 

こんごうは砲雷長を見て

「今夜、日本海軍の三笠艦隊と敵リ級艦隊の交戦が予想されます。情報収集は問題ないわね」

「はい、艦長。すでに戦闘予定海域にはいずもエクセル隊、及びリーパーが2機張り付いております。直掩にF-35が2機、なおその内の1機は対艦仕様です」

「もしもの時は司令の号令で加勢ができる状態という事ね」

「はい艦長」

「海戦時は私もCICへ入ります」

「はい」砲術長がそう返事をした時、

岡少尉が、

「こんごう艦長、もしよければ俺も観戦できるか?」

「えっ?!貴方が? 陸軍でしょう」こんごうが聞くと岡少尉は

「まあ、陸の俺が海軍の海戦を見てもさしたる評価もできんが、君達の働きには多いに興味がある」

そう言うと姿勢を正して

「泊地提督や自衛隊司令から、君達の能力については大まかな説明を受けた。ぜひこの機会に最新の電探、情報戦というのを見てみたい。いや最新というよりは近未来戦闘というべきかな」

こんごうは鋭い眼光で

「でも一将校、それも最下級の少尉の貴方が見た所でどうにもならないでしょう?」

岡少尉は

「まあ確かに……一介の将校に最新の技術を見せた所でこの深海棲艦との戦局が激変する訳じゃない、ただ極々少数だが陸軍内部にも君達の事を知っている方々はいる」

「陸軍に自衛隊の事が?」

こんごうがそう言うと岡少尉は

「安心しろ、ほんの一部にだ。本土側では完全に君達の情報は管理されている。俺が案内人として派遣されて来たのは陸軍内部の“自衛隊容認派”の方々が自衛隊の実力を計る為に俺を派遣したという思惑もある」

「“自衛隊容認派”って初めて聞くわね。容認ということは逆もいるという事?」

「まあな。参謀本部内の一部勢力“新統帥派”の中に自衛隊戦力を軍へ吸収すべきだという輩がいる。例のきりしまさんに殴られた奴もその一派の息がかかったやつだ」

「ああ、彼ね」とこんごうはきりしまに殴られて失神した陸軍参謀本部の将校を思い出した。

「海軍と陸軍って仲が悪いのかと思っていたけど、違うの?」こんごうがそう問いただすと

「まあ、確かに陸海軍の本部同士は方向性の問題で意見の相違はある。しかし陸軍全てが海軍を嫌っている訳じゃない。その逆もそうだ」

「まあ、確かにそうです」すずやも岡少尉の見解に同調し

「昨年の秋以降、いざ日米開戦かと世間が騒いだ時も陸軍の中に“開戦慎重派”の方は多く、海軍の意見に賛同される方も多かったと聞きます」

「陸軍内部にも英米留学組は多い。三国同盟の危険性も説いて来たがその声は少数だ」

こんごうは

「ねえ、さっき“方々”っていたけど、その上の方とは陸軍内部だけ?」

少尉は

「きつい所を突くな……事情を知る枢密院の顧問官の方からも後日報告を依頼されている。俺はマーシャルでの戦闘が終わり次第、東京へ戻り事の次第を報告する義務があるのでな」

岡少尉はこんごうを睨み

“それ以上は聞くな”と語った。

 

その眼を見たこんごうは内心

“枢密院という事はその情報は取りまとめられて宮内省を通じて上へ渡るという事。またえらい荷物を引き受けたわ”

岡少尉を見ながら

「事情は分かりました。本艦の最深部をお見せできるかどうか自分の判断だけで即答できかねます。自衛隊司令の許可がでれば観戦できるという事でよろしいですか?」

すると岡少尉は

「了解した」とあっさりと引いた。

“どうせ司令には既に要請してあるでしょう? このぉ!!”とこんごうは思いながらも本題に戻り

「さて話がだいぶ飛んでしまったけど、島民を収容後はあかしを護衛して、このクサイ島まで全力退避します」

航海長が

「艦長、作戦計画書にはそこまでしか記載がありませんがその後は?ここで避難民支援ですか?」

「航海長、その後についてはまだ未決定の部分です。幾つかの状態が考えられるわ。一つは避難民の支援。ただこれについてはポンペイ島経由で海軍の方から要員がくる事になっているから私達の出番は少ないわ。もう一つが敵後方へ回り込んで後方遮断任務。自衛隊の索敵能力を生かして敵後方、具体的にはマロエラップからビキニ方面の索敵を強化して圧力をかけ、敵本体をビキニ諸島南部海域へ押し出すというものよ」

岡少尉は

「えらく危険じゃないか?」

「まあ発見されればマロエラップから航空機でボコボコにやられるでしょうけど、はたして私達を見つける事はできるかしら?」とこんごうは意味ありげな笑みを浮かべた。

 

こんごうは居並ぶ幹部を見て

「他に何か質問は?」と声をかけた。

副長が幹部達を見たが特に声も上がらなかったので代表して

「特にありません」

こんごうはそれを聞くと

「特に問題が発生しなければ予定通り明日マルロクマルマル時にこの停泊地を出てマジュロ島へ向います。各部署準備怠りなきよう」

「はい、艦長」一斉に幹部達が返事をした。

こんごうは岡少尉を見て

「岡少尉、よろしくお願いいたします」

「こちらこそお手柔らかに」

 

それを見たすずやは

“はあ……ある意味救助作戦よりそっちが心配です”と思うのであった。

 

それから数時間後の深夜

こんごう艦内は夜間当直を除き静まり返った。

殆どの隊員妖精達は明日の出港に備え、就寝している。

しかし艦の中枢部であるCICは不夜城と化していた。

時刻は午前1時半

CICの艦長席に座るこんごうはじっと正面の戦況モニターを睨んでいた。

そのこんごうの横、オブザーバー席には本来であればすずやが座っている筈であったが今は岡少尉が座っていた。

その横に、すずやが自分で運んで来たパイプ椅子を出して座っている。

「すずやさん、済まんな。俺がここに座って」岡少尉はパイプ椅子へ座るすずやに向いそう声を掛けたが、すずやは

「いえ、構いません。少尉さんはいわばお客様ですので」

こんごうは

「すずや補佐、少尉さんへ状況を説明してあげて」

するとすずやは

「えっ?艦長、すずやがですか?」

「そうよ、これも状況分析力の教練です。自分で理解した情報をどうやって他の人へ正確に伝えるか相手に分かる様に説明しなさい」

「はい! 頑張ります」

するとこんごうは岡少尉を見て

「分からない所はビシバシすずやさんに聞いてください」

岡少尉はすずやを見て

「厳しい教官だな」

「はい。でもすずやの命の恩人でもあります。こんごう艦長の一言一句はこんごう艦長の次元を生き抜いた艦娘さん達の教えです。無駄にはできません」

岡少尉は

「今のすずやさんは以前聞いた重巡鈴谷さんの評判とはだいぶ違うな。まるで別人のようだぞ」

「岡少尉さん、鈴谷の評判ってどんな感じでした?」

少し言葉を選びながら岡少尉は

「高等女学校の生徒さんといったところか。好奇心旺盛、だがまだその先が見えていないといった感じだな」

すずやは少し考え

「確かにそう言われるとそうでした。“皆と仲良くしたい、気に入られたい”という軽い気持ちがあり、その部分を例の悪霊に突かれました」

岡少尉はこんごうへ向い

「実はあの件について本土のある所から問い合わせがあった。“高位の魔法師が死霊を次元の狭間へ押し込んだというのは本当か?”というものだ」

「えっ?」 驚くこんごう。そして

「なんで貴方がそれを?!」

岡少尉は

「あの時の事はいずもさんから直接説明を受けた。俺自身も君の能力には非常に興味がある」

こんごうは横眼で岡少尉をみて

「残念ですがあの時の事はあまり記憶にないの。私もギリギリだったという事よ」

「まあ、思い出したらでいいからあとで話してくれ」

「そうね」こんごうは軽く流した。

岡少尉はすずやへ向い、二言三言話しながら状況の説明を受けていた。

こんごうの横に立つ砲雷長がモニターを見ながら

「状況的には戦艦金剛艦長達は最良の位置へついたという事でしょうか?」

「そうね……この位置なら敵重巡艦隊の頭を押さえられる。お姉さまのFCS-3なら既に敵を捉えて諸元計算を終わらせている筈よ。敵の重巡の射程外から35.6cm砲弾を浴びせる事ができるわ砲雷長」

「パラオでの改修の成果を発揮できます」

「まあ、私達ほど精度がある訳ではないから数が勝負という点は否めないけど、これも次回以降の課題ね」

「例の新型砲弾が実用化できれば初弾必中ですか」と砲術長がいうと

「そうね。弾着観測機とのセットで運用できる事を前提にしているけど、あかしによれば色々とバリエーションを考えているみたいね」

砲術長は

「この時代ロケット技術が未発達ですから確実に遠距離攻撃を行う為の艦砲と砲弾の誘導技術の融合。自分達の時代ではなかった事です」

こんごうは

「だいぶあかしは頭を捻ったみたいよ。確かに対艦ミサイルを積むのが一番手っ取り早いけど、それでは混戦で味方撃ちしかねない。改装するだけでも大変だし、結果今の兵器形態を維持しつつ、精度を上げてゆく。そういう方向に落ちついたみたいね」

「それが正解です。由良さん達は順応性が高く、自分達の兵器についても理解が早かったですがそれはあくまで自分達が側で指導できた為です。一般の艦娘さん達には厳しいと考えるべきです」

砲術長は続けて、

「自分達の使用している兵装の運用能力を変える事なく命中精度をあげて行く。それが今現在できる最善の策であると自分は考えます」

「私もそう思うわ。この時代けっして日本海軍の戦力が足らない訳じゃないの。使い方が問題なの」こんごうはそう言うと

「このマーシャルでの戦いで海軍の目が覚める事を願うばかりだわ」

「はい」砲雷長は力強く答えた。

こんごう達がそう話しているうちに敵リ級艦隊へ向け戦艦金剛と榛名が砲撃を開始した。

「はじまりました」砲雷長がそう言うと

「これで敵の重巡艦隊は完全に行く手を遮られた形です」

こんごうは、

「三笠様達も既に回頭して敵艦隊の後方へ付いた。お姉さま達が敵の注意を引きつけているうちに切り込む事ができるわ」

CICの前方の大型モニターに三笠、金剛艦隊と、敵リ級艦隊の情報が表示されていく。

「砲雷撃、リーパーの映像を拾える?」

「はい、夜間の暗視映像ですが」

「構わないわ。サブモニターに表示して」

右横の大型サブモニターに敵リ級艦隊の上空で偵察飛行をしているMQ-9リーパーが捉えた敵リ級艦隊の映像が表示された。

既に敵リ級2隻の周囲に複数の水柱が立っていた。

「派手にやっていますね」

砲雷長がいうと

「砲雷長、初期砲撃で挟叉が出ているという事はFCS-3の射撃計算が正確だということかしら」

「はい艦長。まあこの時代の主砲の精度を考慮すればよく精度が出ているというべきです。あとは弾数が勝負です」

「そうなるとちょっと勿体ないわね。FCS-3の能力の半分も活かせていないわ」

砲雷長は

「まあ、戦艦金剛艦長の考えではまずはレーダー技術とそれを使った射撃指揮装置の運用に慣れるという事でしたから第一段階は卒業という事でしょう。今後は弾着精度を上げていく。ゆくゆくは誘導弾の搭載といった所でしょうか」

するとこんごうは、

「あれだけの排水量があればVLSは何セル積めるかしら」

「後部砲塔を廃止して艦尾をトランサム・スタンに改修して容積を稼げば本艦並みにはなるのではないかと」

こんごうは

「なんとなくお母さんと同じ様な感じになりそうね」

そんな他愛もない話をしながら戦況を見ていた。

既に敵リ艦隊は完全に金剛・榛名に頭を押さえられ、後方より急接近する三笠艦隊に押しこまれて右往左往しはじめた。

「砲雷長、完全に追い込んだわね」

「ですな。もう敵リ級艦隊は逃げ場がありません」

モニターを見ながらこんごう達が話していると、急に岡少尉は

「こんごう艦長、質問してもいいか?」と話しかけて来た。

こんごうは右横に座る岡少尉へ向き

「なに?」

「今すずやさんに色々と説明してもらった。おおよそ1000km先の戦闘をこの場で観戦できる仕組みだが、これは海軍だけの仕組みなのか?」

「どういう意味?」こんごうは、質問の意図を計った

「いや、この情報伝達の仕組みは電探や各種の通信技術を総合的に運用して成り立っている事は理解できた。この仕組みの陸軍版は無いのかと聞いているのだが」

すると、こんごうは少し考え、

「艦娘C4Iの陸上版ねえ~」

こんごうは、

「このシステム、艦娘C4Iシステムというけど基本は陸海空の各自衛隊のシステム

機構を統合した物なの。だから海専用とかいう訳ではなく、陸海空の敷居がない仕組みという感じかしら」

岡少尉は少し考え

「じゃあなんだ。陸戦でもこの情報を共有できるということか!」

「ええ、できるわ」とこんごうがいうと横眼で岡少尉を睨んで

「ルソンの件、知っているわね」

岡少尉は笑みを浮かべながら

「まあな。東京で陸軍省の主に呼ばれて意見を聞かれた。最初聞いた時は無謀な作戦だと思ったがパラオ泊地の先輩が“大丈夫”と言ったと聞いて気が変わった。先輩は確信がない事はしない主義だ。由良さんが止めなかったという事も大きい」

こんごうは

「あの時はこの艦を前線指揮所、後方のいずもを総体指揮所として陸戦隊を運用したわ」

岡少尉は

「それが80年という時の重みか」

「ええ。私達は自衛隊という大きな組織の中の海上部隊という位置を占めているわ。海軍ではなく海上自衛組織、国家防衛の3本柱の一つという事よ」

岡少尉は、静かに、

「それが310万という数字の意味か」

こんごうは表情を鋭くして

「そうよ。その数字は私達の旭日旗が今現在、そして未来永劫ずっと背負って行く。あの旗の重みでもあるわ」

少尉は静かに

「分かった。それを聞いただけでも意味はある」

こんごうと少尉がそう話している内に戦況は進み

「敵リ級2番艦に命中弾! 1番艦も至近弾多数で損害が出ています」砲雷長の報告を聞きこんごう達の表情はより厳しさを増した。

「よし、完全に頭を抑え込んだわ」

岡少尉は横に座るすずやに

「どういう状況なのかな?」

すずやは、

「リ級艦隊は先頭を押さえこまれました。要は暴れる犬の首根っこを押さえたのと同じです。これで艦隊としての指揮命令系統が完全に混乱しています。その証拠に後続のヘ級以下は戦列を乱しつつあります」

すずやは続けて

「今現在敵が認識している相手は戦艦金剛さん達だけです。完全に敵の射程外から一方的に指揮官を狙い撃ちされているとすれば後続は慌てます」

その証拠に戦況モニターには戦列を乱しつつある後続のヘ級達の姿が映し出された。

そこへすずやは

「そろそろ始まりますよ」といい、戦術モニターに映る三笠達水雷戦隊を指差した。

そこには急速に後方から接近する三笠以下の水雷戦隊の姿があった。

進路を小刻みに修正しながら同行進路へと入る三笠達。

 

上空で監視するMQ-9リーパーは敵へ級以下の艦隊へ急接近する三笠以下の水雷戦隊を捉えた。

「やる気満々って感じね」

そこには闇夜の中、海面を切り裂きながら進む戦艦三笠を先頭に単縦陣を組み、敵艦隊へ切り込む五十鈴達の姿があった。

すずやは目を潤ませながら

「戦艦三笠の勇姿が見られるなんて! 砲雷長、この映像記録してる?」

「はい、すずや補佐。録画していますが」

するとすずやは、

「あとでコピー下さい! 今度最上姉さん達にみせなきゃ!」

興奮気味のすずやへこんごうは、

「護衛艦すずやの運用がはじまれば同じ艦娘C4Iを搭載した戦艦三笠との共同作戦もありえるわよ」

「本当ですか!?」すずやは身を乗り出して聞いた

「ええ、三笠様の指揮する水雷戦隊。そして護衛艦すずやの搭載するMCH-101をはじめとする各種の航空機を使った哨戒戦」

こんごうは、すずやを見ながら

「ねえ、なぜうちの司令が護衛艦すずやに重巡鈴谷の面影を残すことにこだわったか、分かる?」

「ええっと。それは日本海軍との共同作戦の為です」

「そういう事よ。私達の艦が三笠様について回れば目立ちすぎるわ。でも重巡鈴谷なら問題ない。いえ、航巡鈴谷といった所かしら」

「はい……その時はすずや、頑張ります!!」

元気なすずやの声がCICに響いた。

戦況は動き、敵へ級達に急接近した三笠以下の水雷戦隊は砲撃と雷撃を加え、ほぼ一方的な流れとなりつつあった。

リーパーの捉えた映像には次々と被弾し、炎上する2隻のリ級を始め雷撃を受け航行不能となるヘ級以下の艦艇を捉えていた。

「終わったようね」こんごうがそう言うと横に立つ砲雷長は

「はい。戦艦金剛さん達も戦域を離脱し、三笠様以下の艦も転針し離れつつあります」

「三笠様達の損害は涼風さんだけのようね」

「はい、艦長。リーパー映像情報では後部砲塔付近に駆逐艦の艦砲が命中したようですが、火も収まっていますので小破といった所ですか」

砲雷長は続けて

「敵はリ級2隻にヘ級が1隻イ級駆逐艦が2隻航行不能です。残存艦もかなりの被害が出ているようです」

こんごうは少し考え

「引き時ね」

すると岡少尉が

「素人考えで悪いが……もうひと押しすれば全て撃沈できないか?なぜ数隻見逃す?」

するとこんごうは

「じゃ、その答えはすずやさん」

「えっ」話を振られて慌てるすずや。

少し首を傾げながら

「ええっと……まず既にこのリ級艦隊は戦闘艦隊として能力を喪失しています。残存艦も退避経路をとり、三笠様達から離れようとしている所を見てもそれは明白です。この段階で三笠様達は戦術的勝利を得ています。また下手にちりじりになった敵艦を追うために艦隊を分散させ、深追いをすれば敵潜水艦等の待ち伏せを受ける事も考慮されます。ここは目的を達成したと判断し、撤収するのが得策です」

「目的?」と岡少尉が聞き直すとすずやは

「はい、少尉さん。今回の対リ級艦隊戦は中間海域での制海権確保を目的としています。敵勢力として中間海域に残った最大勢力であるリ級艦隊を排除できれば事実上この海域は我が方の勢力下におく事ができます」

「要は相手を蹴散らすだけで良かったという事か?」

「はい。例の仮設航空基地も殲滅しています。此方も表向きは瑞鳳さんが被弾して撤退中という情報を流していますので深海棲艦側からすれば痛み分けと思うでしょう。でも此方は既に海域全体をレーダー監視下に置いていますのでほぼ敵の動きを押さえています」

岡少尉は、

「下手に突いてマジュロ島の人質に被害が出ないようにする為の考慮か」

「はい。相手の動きを見ながら柔軟に動く為です」

すずやはそう答えた

「はい、合格です」

こんごうは満面の笑みですずやを褒めた。

「へへ、褒められました」

笑顔のすずや

「深追いし殲滅するというのも手ですが、相手が逃げたということは場合によっては向こうがいざという時の為に後方に陣を構えているという事も考えられます。多分リ級達にとってあの中間基地がそのいざという時の為だったのかもしれません。しかしこちらはそれを先に潰し、リ級達の退路を断っています。既に仕掛けた時には見えていた筈です」

岡少尉は

「判断力の悪い奴の結末という訳だな」

「そうね」こんごうはそう言うとすずやへ向い

「もしすずやさんならどう行動した?」

すずやは眉間にしわ寄せ

「う~ん……難しい質問です。そもそも相手の意図が分かりません。瑞鳳さん達を追っていたのか、それとも三笠様達を狙ったのか?」

「いい所に気がついたわね。このリ級達、多分両方を狙ったはずだわ」

「えっ」驚くすずや

「いい?瑞鳳さんが被弾したという偽情報に乗ってこの海域へ出てきた。そして救援部隊に三笠様がいるとしれば目の色も変わるわ」

「では、一石二鳥を狙ったという訳ですか! こんごう艦長」

こんごうは、

「今までの動きを見る限りそうね。早期に瑞鳳さんを捉えて沈めて救援に来た三笠様達を捉える。まあ欲張り過ぎたという事ね。相手の戦力がわからない内に猛進するのは愚の骨頂だわ」

すずやは

「肝に銘じておきます」と真顔で答えた。

 

こんごうは戦況が落ちついた頃を見計らい、艦長席のモニタ―を操作して戦艦金剛へ艦娘C4Iを接続した。

ここから800km近く離れた海域を航行中の戦艦金剛の艦長席のモニタ―を呼び出すと、直ぐにモニタ―に、艦娘金剛が映し出された。

戦艦金剛の艦橋は夜間照明の赤いライトに照らされていたが、それでもモニタ―に映る金剛の表情は、嬉しそうであった。

「Hi、こんごうちゃん!」

艦娘金剛の声がモニター越しに響いた。

「金剛お姉さま、お疲れ様でした。敵リ級への砲撃、見事でした」

「アリガトウネ! 予想以上に上手くいきました」

金剛の明るい声が響く

「でも、命中弾が少なかったネ。もう少し砲撃の精度をレベルアップしないとダメね」

金剛はそういいながら悔しそうな表情をしたが

「お姉さま、初弾で挟叉が出ています。この時代の主砲の精度なら上出来というべきです。ね?すずやさん」とこんごうはすずやを見た。

「はい、その通りですよ。金剛さん! もし昔の私なら初弾挟叉が出たらお祝いしていますよ」とニコニコしながら答えた。

「すずやもありがとうネ」と笑顔で答える金剛。

そして、少し含みのある笑みを見せ、こんごうの横に座る岡少尉へ

「Hi! 岡少尉! お久しぶり!!」右手をひらひらと振りながら気さくに挨拶してきた。

岡少尉は直ぐに席を立ち、直立不動の姿勢でキリッと一礼し

「はっ、金剛大佐もご健勝の御様子。パラオでは大変お世話になりました」

すると金剛は、

「あの時はsorryネ。もう少し私と中佐が早く着いていれば少尉も怪我をする事は無かったのに」

すると岡少尉は

「あれは不可抗力です。自分達の事前の情報収集が不備であったと反省しています」

こんごうは岡少尉と金剛の話がひと段落ついた所で

「お姉さま達はこれからポンペイ島ですか」

「そうデス! 榛名と三笠様達とポンペイ島でパラオ艦隊と合流して、次の作戦に備えます。これからが本番デス。その為にもこんごうちゃん達の作戦は重要デス」

「お任せください……このこんごう、マジュロ島の住民と守備隊の血を一滴も流さず綺麗に撤収してご覧に入れてみせます」

すると金剛は少尉をみて

「岡少尉も色々と大変でしょうけど頑張ってネ」含みのある笑みを浮かべた。

「ありがとうございます……微力ながら尽力いたします」

岡少尉はごく真っ当に答えた。

ただその会話を聞いていたすずやは

“金剛さんもですか!”

その金剛はすずやを見ながら

「すずやちゃん! フォロー宜しくお願いしま~ス!」

「ええええ!」

すずやの声がCICに響く中、金剛との通信が切れた。

 

三笠達の戦況が落ち着いた事を確かめ、こんごうは席を離れた。

すずやは砲雷長と明日の打ち合わせで少しCICへ残る為、必然的にこんごうが岡少尉を、待機室へと案内する事になった。

二人揃ってCICを出て廊下に出た時こんごうが

「ねえ、時間取れる?」と岡少尉へ声をかけた。

少尉は腕時計を見た。午前3時を回っていた。

「俺は構わんが……いいのか?こんな深夜に」

「直ぐに終わるわ」こんごうはそう言うと通路を歩き、船体の後部区画を目指した。

コンコンと二人の歩く足音だけが通路に響いていた。

暫く歩くと“航空機格納庫”と小さいプレートの掛かるドアの前まできた。

こんごうは静かにその大き目の防水ドアを開けた。

護衛艦こんごうの後部甲板にある航空機格納庫は静まり返っていたが何故か格納庫内の電灯がついていた。

こんごうが格納庫内に一歩踏み込んだ瞬間

「誰だ! こんな夜更けに!!!」

誰何する声が格納庫に響く。

「整備班長、私よ、こんごうよ」

声の主は慌てて

「艦長、失礼しました」

よく見ると格納庫内にある2機のヘリの右側に格納されていたMCH―101のローターヘッド回りに数人の整備士妖精達がよじ登っていた。

「ホワイトロック、お疲れ様です。こんな夜更けまで整備ですか?」

こんごうが気さくに声をかけると整備班長は

「はい、本日早朝に抜錨との事です。一旦洋上航行が始まると細かい所を見逃す恐れがありますので」

こんごうは

「すずやさんのMCH、マリーンの調子は?」

「まずまずといった所でしょうか。こいつはローターの折り畳み機構を追加した機体ですから、今の内に見ておこうとおもいまして」

班長はそうこたえると、こんごうの後にいる岡少尉をみて

「そちらの御仁が今回のお客さんですか?」

「ええ、日本陸軍の岡少尉よ」こんごうがそう紹介すると、岡少尉は

「パラオ駐留日本陸軍の岡少尉です、お世話になります」と姿勢を正し一礼した。

整備班長はMCHの上から

「高い所から失礼します、岡少尉殿。護衛艦こんごうの航空機整備を預かっております整備班長です」

班長達は一斉に敬礼した。

素早く答礼する岡少尉。

こんごうは整備班長へ

「後ろ、空いてる?」

そういいながら、後部のヘリ甲板を指差した。

「はい、今は誰もおりません」

「少し使うわね」

整備班長は

「外灯を付けましょうか?」

「いらないわ。直ぐに終わるから」こんごうはそうこたえると格納庫の後部のハッチへと歩き出した。

無言で続く岡少尉

こんごうはハッチを開け、外へと出た。

それをMCHの上から見ていた整備班長は一言

「ああいう趣味は親子だな」

「なんです?班長」横にいた整備士妖精が聞くと

「いや、男の趣味は先代と似ている。そう思っただけだ」

「へ~」と整備士妖精が何気に返事をすると

整備班長は軽く整備士妖精の頭を叩き

「さあ、野郎ども。時間がない、気を抜くな!」

「はい!」

整備士妖精達は再びMCH-101の整備に取り掛かった。

 

 

深夜3時、夜風が流れる護衛艦こんごうの後部ヘリ甲板。

周囲は暗いが、最小限の灯火が灯っていた。

こんごうと岡少尉は揃ってヘリ甲板の真ん中まで歩いてきた。

岡少尉はふと前方の艦橋方向を見上げると、航海燈が灯っていて薄っすらと護衛艦こんごうの前方艦橋のシルエットを映し出していた。

「美しい艦だな」

灯火と微かな月明かりに照らされる艦体を見上げながら岡少尉はそう呟いた。

「お褒めの言葉としてうけとっておくわ」こんごうはブラウンの長い髪を揺らしながら振り向きそう答えた。

岡少尉は、

「もしこの艦の印象を一言で言えと言われれば“名工が打った日本刀”と答えるな」

「へえ~、どういう意味かしら」

岡少尉は、

「ある方から“君達の印象”は?と聞かれた。俺は名工がその全ての技をもって仕上げた日本刀であると答えた」

岡少尉は、続けて

「俺も今まで色々な艦娘さん達と接触をもってきた。その中でも君達、逸材だ。三笠様や大巫女様と並び、日本、いや世界の艦娘達の頂点に立てると思う」

「あら、そう」

こんごうは少し首を傾げながら答えた。

岡少尉は落ち着いた声で

「名は体を表す。こんごうとは金剛石、ダイヤモンド。現存する最も堅い鉱石であり、その名を冠する者は強い意志を持ち、邪神を打ち払う金剛力士に代表される仏身でもある」

岡少尉は前方にそびえたつ艦橋やマストを見上げ

「君達の艦には無駄がない、洗練された気の流れを感じる。他の艦もそうだ。個々の艦に強い力を感じる」

こんごうは目を鋭くしながら

「中々私達の事を調べ上げているみたいね」

岡少尉は、平然と

「済まんな……商売柄そういう事は手抜きできん。俺達の一言一句が主の眼であり、耳だからな」

こんごうは、鋭く

「貴方の主って日本の最高権力者ね?日本陸軍秘匿部隊霞隊総隊長、岡少尉」

岡少尉は少し考え

「先輩からか」

「まあ、その辺りはネ。此方の情報ばかり駄々洩れでは割が合わないわ」

こんごうはそう答えた。

そして

「うちの副司令から貴方の身上書を貰ったけど、陰陽道の本家、土御門家の人らしいわね」

岡少尉はその名前を聞いた瞬間、一瞬険しい表情をしたが

「まあな。俺は出来が悪くて分家へ飛ばされた“はずれ者”だ」

「あら、そうなの?」とこんごうが聞くと

「見ての通りさ。名家の一員とはいえ、今は陸軍のいち兵隊さんだ」と少尉はおどけて答えた。

「その“いち兵隊さん”が陛下に拝謁できると聞かされたら少し考えるけど」

「それはあくまで裏の顔だ」岡少尉は平然と答えた。

こんごうはそれを聞いたのと同時に岡少尉から少しずつ離れ始めた。

コツコツと静かにヘリ甲板を歩くこんごう。

その足音が闇夜に、波の音に混ざりながら響いた。

 

10mほど岡少尉から離れるとこんごうは振り向き

「前から疑問だったの……あの時貴方殆ど怪我しなかった事」

「あの時?」少尉は少し考えた。

「あの時よ!! 浜辺で初めてあった時!!」

こんごうは少し顔を赤くしながら答えた。

「ああ……でもあの時の事を忘れろといったのは君だぞ?」

「ぐっ!!」こんごうは顔を更に赤くしながら

「いいのよ! 他の人に喋らなければ!! そのまま墓場までもっていって頂戴!!」

岡少尉は怪訝な顔をしながら

「前から聞こうと思っていたが、何故そこまであの時の事にこだわる?」

「いいの! 貴方には関係ない事よ! こちらの都合デス!!」

と言い切ると突然左手を前にかざした。

左手のブレスレットが青白く光った。

差し出され左手の手のひらに小さな球体が現れた。

こんごうは器用にその球体を右手に取った。

「当たれば痛いわよ? 8千トン級の艦娘の霊力球、この時代なら3万トン級かしら!」

岡少尉は表情一つ変えず一言

「いいね……こう言う直球勝負な所は」

そう言うと素早い動作で胸元のポケットから護符を一枚取り出した。

右手に護符を持ち、そっと構えた。

それを見たこんごうは

「行くわヨ!」

サッと右手の手のひらに収束させた霊力球を岡少尉めがけて渾身の力を込めて投げ込んだ!

闇夜の中、青白い光を放ちながら霊力球は真っ直ぐに岡少尉へ向ってゆく。

 

少尉はそれを見て慌てる事なく静かに……そして確実に

「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前」と九字を詠唱した。

その瞬間、少尉の持つ護符が光り輝いた。

少尉はこんごうの放った霊力球目がけて護符を流れるような動作で投げ出した。

少尉めがけて進むこんごうの霊力球。

それを受け止めようとする少尉の護符。

 

十数mの距離で対峙する二人の中間で霊力球と護符がぶつかり合った。

凄まじい閃光が闇夜を照らした。

霊力と護符の神力がぶつかり、一種の壁を作った。

「ふっ、流石ね」

こんごうは声色一つ変えずにそう言ったが表情は厳しかった。

「君こそ」

少尉も表情一つ変えない。

こんごうは差し出した右手に精神を集中した。

青白い光を増すこんごうの霊力球。

「ふん」

それを見た岡少尉も精神を集中する。

 

ヘリ甲板上で激しくぶつかるこんごうと岡少尉の霊力。

 

不意にこんごうが

「この辺にする?」と岡少尉へ声をかけた

「そうだな……これ以上は周りに迷惑がかかる」

その言葉を聞いた瞬間、こんごうは霊力球を消滅させた。

同時に岡少尉も防壁を霧散させた。

 

「防衛型なのね」

こんごうがそう言うと岡少尉は

「君とは逆でね。攻めるのは苦手だ。守るか隠れるかだな」

こんごうはむっとしながら

「貴方の実力は分かったわ。マジュロでも問題ないようね」

岡少尉は

「もしかして……それを計る為にこんな事を?」

「そうよ」こんごうがそう答えると

岡少尉は少し呆れ顔で言った。

「いいのか?周りに居る皆が見ているぞ」

「えっ!」

こんごうは慌てて周囲を見回した。

しかしそこは闇夜に包まれた世界であった。

こんごうはそっと横に停泊する護衛艦ひえいの艦橋を見た。

優れた艦娘こんごうの視力が捉えたのは双眼鏡越しに此方を見ているひえいの姿であった。

彼女は即座に概念伝達を使い

「ひえい、何覗いてるの?!」

するとひえいも概念伝達を使って

「いや、すずやが、“こんごうさんと少尉さんが夜の逢引きに行ったって」

「えええ! ひえいさん! ここでばらしますか!!」

すずやの声がこんごうの脳裏に響いた。

ひえいは

「中々面白いデートだったみたいね。今度感想を聞かせてもらおうかしら」

「何が面白いですって!!」

こんごうがそう言うと

「少尉、そう言う事だった訳」そういうとひえいは

「三笠様も、良い人送ってくるじゃない」

「なにがいいひとよ!」こんごうはむっとしながら答えた。

ひえいは

「でもいい物見たわね。西洋の白魔女対日本が誇る陰陽師の対決か〜!」

「えっ」こんごうは慌てた。

ひえいはすかさず

「すずや、録画してる?」

「あっ、はい。ちゃんとしてます。いまそのデータを皆で共有してます」

こんごうは顔を赤くしながら

「ちょっと!」

ひえいは、

「まあ、そう言う事だから、こんごう。宜しく!」とひえいが言い切ると

「さて出撃まで数時間、もうひと眠りしよっと」と言ってこんごうにお構いなしにひえいは艦内へ下がった。

「ひえい!!」

岡少尉は

「中々君も大変そうだな」と声を掛けた。

「聞こえていたの?概念伝達を」

すると岡少尉は

「まああれだけの霊力を使って話せばそれなりの術者なら聞こえるものさ」

「油断ならないわね」

岡少尉は、

「この手の事が艦娘の独壇場という訳じゃない。この世には表に出ない事もある」

「気を付けておくわ」

岡少尉は右手を差し出し

「まあ、マジュロでは難しい事もあるとは思うが、そこは宜しく」

こんごうは、

「こちらこそ」というと、こんごうも岡少尉の右手をとりそっと握手を交わした。

岡少尉は誰にも聞こえないように

「それに見合うだけの機密を見せてもらったからな。ここは頑張らせてもらうよ」

そう言うとこんごうの胸元をほんの僅かに見た。

「くっ!」

顔を真っ赤にするこんごう。

出港まであと数時間であった。

 

 

その頃、遥か遠方の都市スイス ジュネーブ

現地はようやく夜の闇が街を包み始めていた。

そんなジュネーブの老舗のホテルのロビー

その一角にある喫茶店の店内で一人の東洋人の男性がテーブル席に着き、現地の新聞を読みふけっていた。

時折テーブルにある珈琲へ手を伸ばしながら、新聞を読み込む東洋人の男性。

その時喫茶店の入口に一人の長身の男性が立った。

直ぐにウエイターの男性が近づき男性へ向い

「お一人ですか?」と声を掛けた。

するとその男性は

「いや、そこの日本人に用がある」と声を掛けた。

「では」とウエイターの男性はいうとその長身の男を東洋人の男性の席まで案内し

「お連れ様をご案内いたしました」と声を掛けた。

その日本人の男性は読みかけの新聞から目を離し、長身の男性を見て

「おっ、早かったな」

するとその長身の男性は

「まあな」と言いながら椅子を引き席へ着いた。

ウエイターの男性がメニューを出そうとしたが、男性は軽く右手で制止してポケットから数枚の紙幣を出して

「コーヒーを」といい、ウエイターへ渡した。

どう見てもコーヒー代より多い紙幣だ。

そのドル紙幣を受け取ったウエイターの男性は静かに

「かしこまりました」というと静かに入口に向かい、入口の前にある看板をひっくり返した。

そこには”closed”と書かれていた。

 

日本人の男性は

「手慣れてるな」というと

長身の男性は

「まあな。ここは時折使っている」そう言うと

「君こそこんな時間に大丈夫だったのかい?日本海軍駐在武官とはいえ、監視があるだろうに」

すると日本人の男性は

「俺の様なぺいぺいの下っ端にまで監視を付けるほど米国も暇じゃないさ。それを言うならこんな所で仮想敵国の武官と接触を持つ君の方が問題だな。豪州大使館付海軍武官殿」

するとオーストラリア海軍武官は

「海軍武官同士、情報交換をしたと言えば、納得するしかないさ。一応仮想敵国だが、交戦中じゃない」

すると日本海軍の武官は

「それを言われると頭がいたい。正直いって俺達は本気で米英豪と戦争するつもりで仕掛けたが、ものの見事に肩透かしを食らった形だ」

日本海軍の武官は読みかけの新聞を折り、静かにテーブルへ置きながら答えた。

そして横に置いてあった鞄の中から分厚い束を取り出し、オーストラリア海軍の武官へ手渡した。

「手持ちの“週刊青葉新聞”だ。最新号とはいかんが、手に入る分は揃えてある」

オーストラリア海軍武官は、

「済まんな。フリートガールの情報はこの新聞が一番信用度が高い」

すると日本海軍の武官は

「そう思うならここのコーヒー代はオーストラリア海軍の公費で頼むぞ」とにこやかに答えた。

日本海軍の武官は表情を厳しくし

「それで米国の監視の中、俺を呼び出したのは何だ?新聞を受け取る為じゃないだろう」

その横でウエイターの男性が静かに近寄り、そっとオーストラリア海軍武官の前にコーヒーを置くと静かにカウンターの内側に下がった。

それを確かめるとオーストラリア海軍武官は

「君はもうすぐ日本へ帰国予定だったな」

「ああ……今週中に荷物をまとめて来週にも本国へ帰る」

するとオーストラリア海軍武官は

「帰国後に日本海軍の大臣、もしくは横須賀鎮守府の関係者と面会予定は?」

日本海軍の武官は表情を厳しくしながら

「無い事はない。まだ帰国後の予定は決まっていないが、此方が希望すれば内容によっては面会できるかと思うが」

すると、オーストラリア海軍武官は、上着の内ポケットから2枚の封筒を取り出した。

まず一枚を日本海軍の武官へ渡した。

「これは?」

その封筒の表には何もないが裏にはオーストラリア海軍の封緘が刻印されていた。

封筒を受け取りまじまじと見る。

オーストラリア海軍の武官は

「オーストラリア海軍の政務次官から日本の海軍大臣へ宛てた親書だ。まあ内容は御礼状といった所か」

「礼状?」日本海軍の武官が聞くと。

「じつは一か月半ほど前の事だが、満州での治安の不安定さを苦慮した在満州国大使が民間人200名の本国への帰還を実行した」

オーストラリア海軍武官は続けて

「陸路、及び海路を検討したが陸路は寸断されているし女子供には難しい。仕方なく本国から貨客船を3隻派遣して収容・撤退という手筈をとった」

「それで?」日本海軍の武官が話を急かすと

「まあ本国から迎えの船はなんとか満州までたどり着き帰還予定者を収容した。だがそこで問題が発生した。護衛を依頼していた米軍の海軍の艦艇が来ていなかった」

日本海軍の武官は、

「あの地域を管轄する米海軍はスービックのニミッツ提督、秘書は確かサラトガさんだ。理由もなくオーストラリア海軍の依頼を無視するとは思えんが」

「ああ……理由は至極簡単で在豪米軍を預かるハルゼー提督がニミッツ提督への連絡を怠ったという事だ。帰還船3隻は避難民を乗せたまま護衛なしで黄海を進むことになった」

日本海軍の武官は少し声を上げ

「おい、正気か! あのあたりは済州島にいる深海棲艦の縄張りだぞ。潜水艦にでも見つかればいいカモだ!」

「俺もそうおもうが船団長は何とか黄海から東シナ海を抜けて台湾へ逃げ込もうと思ったらしい。船団が黄海を進んでいる時、たまたま近くを航行していた日本の重巡と遭遇したそうだ」

オーストラリア海軍の武官はそう言うと、ポケットから手帳を取り出し

「妙高タイプの重巡の4番艦、そう確か名前は……」

「羽黒だ!」日本海軍の武官が答えた。

「そう、そのフリートガールが指揮する重巡と駆逐艦が黄海の出口まで案内してくれたそうだ」

日本海軍の武官は口元に笑みを浮かべて

「羽黒ちゃんならそういう事は黙っていてもちゃんとやる。海の上で困っている人を見捨てるような真似はせんよ。それが例え仮想敵国の船であっても。民間人がいるなら尚更だ」

オーストラリア海軍の武官は

「その羽黒さん達の先導で帰還船団は無事黄海を抜け東シナ海へ入り、台湾へ着いた。本来ならそこでも米海軍の護衛の駆逐艦が待機している筈だったが、これも先程と同じくハルゼー提督側のミスで合流できなかった」

「米海軍は一体何をやっている! ジュネーブじゃ威勢のいい事をいっているが全然ダメじゃないか!!」

「まあな」オーストラリア海軍の武官も呆れ顔で答えた。

続けて、

「結局台湾で数日過ごしたが一向に姿を表さない米海軍に見切りをつけて帰還船団は一路南下した。パラオ近海では深海棲艦の潜水艦の襲撃も危惧されたが、ここではなんと近海にいた日本海軍の戦艦金剛、パラオ泊地の長良型、睦月型 そして空母鳳翔まで出てきて船団を護衛して安全海域まで誘導してもらったそうだ」

「へえ……金剛さんがね」と日本海軍の武官は驚いた。

オーストラリア海軍の武官は

「結局船団はその後無事アラフラ海を抜け、ダーウィンへ入港できた」

「良かったじゃないか」と日本海軍の武官は言うと

「ああ。ただその後ちょっとした問題が起こった」

「問題?」

オーストラリア海軍の武官は声を潜めて

「今回、日本海軍が2回も船団を護衛してくれた事が新聞報道で国民にばれた。それに引きかえ、米海軍は我々の依頼を断った。“俺達の本当の敵は日本なのか? それとも深海棲艦なのか?” 米軍は我々を守ると言ったはずなのに何もしてくれていない。が、日本海軍、特にフリートガールは海の上では淑女で弱者を助ける女神だ!という世論が広がっている」

日本海軍の武官は

「それはまあ米国にとっては面白くない話だな」

「そういう事だ。政府としては表向きは“日本は仮想敵国だ”といいつつ、こう言う形で助力してもらっている。本音を言えば今の脅威は日本より深海棲艦だ」

オーストラリア海軍の武官は困り顔で答えた。

続けて、

「しかし政府としては今はアメリカの顔色を見ている状態だ。表だって動けば横槍が入りかねん」

「それで、これか?」と日本海軍の武官が先程の封筒を手に取った。

「まあ、そういう事だ。今回の助力について海軍として日本海軍に礼をいう。本来なら国防大臣からの親書が一番いいが、そうなると政府が頭を下げたという事で外野がうるさい」

日本海軍の武官は

「そういう事ならうちの米内海軍大臣に話を繋いでおく。まああまり気にするな。艦娘さん達も正式命令でやった訳じゃない、人道的な支援だと思えばいい」

「助かる」

オーストラリア海軍の武官はそういうともう一通の封筒を日本の武官へ手渡した。

封筒の表紙には幼い字で

“親愛なる日本のフリートガールの皆さまへ”と英文で記載されていた。

「これは?」

日本海軍の武官が訊くと

「帰還船団に乗っていた少女が書いた日本のフリートガールへのファンレターだ」

「ファンレター?」

そう日本海軍の武官が聞くとオーストラリア海軍の武官は

「帰還船団に乗っていた少女が日本海軍のフリートガールを見て感動して感謝の気持ちをしたためたらしい。外務省経由で此方にきた。相手はまだ子供だ、適当に艦娘さん達へ渡してくれ」

すると、日本海軍の武官は表情を厳しくして

「それはできんな」

そして、

「君達は、艦娘の本質を理解していない」

「本質?」とオーストラリア海軍の武官が聞くと

「艦娘とは船の魂を宿した選ばれし女性、海神の巫女だ。弱気を助け強きをくじく。彼女達にとってお偉いさんの儀礼まみれの礼状より少女の素直な感謝の言葉の方が数百倍意味がある。そして彼女達の主はその意味を知るお方だ」

「おいおい」とオーストラリア海軍の武官がいうと日本海軍の武官は少女の手紙をとり

「この少女の書面を正式に貴国からの礼状として皇室へ献上する。陛下のお言葉を賜り、艦娘さん達への慰労のお言葉を賜る事とする手続きをとる」

「おいおい……いくら何でも大袈裟じゃないか!高々子供の手紙だぞ?」とオーストラリアの武官は慌てたが

「“ミカド”は君達が想像している以上に聡明なお方だ。民の心をしっかりと理解されている」

日本海軍の武官はそう言うと

「オーストラリア国民の声を無視する事はない」

「では」オーストラリア海軍の武官は身を乗り出した。

「ああ。日本国民がそれを支持し、政府が要望すれば君達が望む結果になると思う」

オーストラリア海軍の武官は

「では……艦娘艦隊の派遣を検討してくれるという事か?」

日本海軍の武官は言葉を選びながら

「ここでの即答は出来ないが貴国の状況は理解している。こちらはまずマーシャルを押さえる事を優先したい」

オーストラリア海軍の武官は、

「それは俺達も同じだ。日本がマーシャルを奪還できるかどうかで対深海棲艦の対応は大きく変わる。マーシャルが日本の勢力下に戻ればオーストラリアは米国とのルートを確保できる。補給も通商も回復する」

オーストラリア海軍の武官は続けて

「君達のいうところのマ号作戦については我が国も非常に関心をもっている。正直言えば海軍力があれば加勢に行きたいくらいだ」

日本海軍の武官は

「まあそこは大丈夫だ。なにせ此方は勝負師の山本長官にあの三笠様もついている。歴戦の長門・最新鋭の大和。更には赤城を始め多彩な航空戦隊を有している。負け越す事はない」

日本海軍の武官は続けた。

「今回の作戦は色々とあって世界中の注目の的だ。長官も慎重にならざるを得んよ」

オーストラリア海軍の武官は落ち着きを取り戻し

「君は本国へ帰るが……今後このルートの維持は?」と聞くと

「大丈夫だ、問題ない。俺の帰国は一時的なもので直ぐ戻る。留守の間は日本大使館の書記官が対応してくれる」

日本海軍の武官は腕時計を見て

「そろそろ時間だ」と言うと席を立った。

「済まんな。宜しく頼む」オーストラリア海軍の武官はそう告げて彼を見送った。

店の外に出た日本海軍の武官は周囲を軽く見回し

「こんな下っ端まで監視を付けるとは……アメリカさんは相当オーストラリアの離反が怖いと見えるな」といいながら

「潮目が変わりつつあるな。伸るか反るか、難しい所だ」

そう言いながら宿舎へと急いだ。

 

こんごう達を取り巻く環境は少しずつ変化を見せ始めていた。

 





こんにちは、スカルルーキーです

第59話をお送りいたします。


え〜
今回、投稿が遅れまして大変 申し訳ございません
執筆作業が遅れ気味で、当初の予定の半分も書けませんでした( ノД`)シクシク…

今月は、台風に豪雨、そして猛暑と、もう”堪忍してください”という感じではありますが、8月は台風オンパレードになりそうな気配が、

テレビでは、”異常気象”の一言で片づけておりますが、自分としては、”地球という壮大な歴史では、ほんの一瞬の変化にしか過ぎない”と思っております。
多分、この気象。
江戸時代なら、大飢饉ものですよ!!

毎日 農作業しながら、持参した水筒の有難さを実感しております

次回 「LCAC一号艇 発進!」です!!
では


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