分岐点 こんごうの物語   作:スカルルーキー

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56 マーシャル諸島解放作戦 第一次海戦(4)

“ブーー”

対空戦闘準備のため、緊張感漂う軽空母瑞鳳の艦内に、注意喚起のブザーの音が鳴り響いた。

「戦闘指揮所より通達、我が攻撃隊、敵ヌ級空母群の奇襲に成功! 敵ヌ級、大破炎上、同じく軽巡ヘ級1隻 撃沈! 繰り返す! 敵ヌ級大破炎上! ヘ級撃沈!」

一瞬静まり返る艦内

 

「やっ! やった!!!!」

「おおおおお!!!!」

近くにいた水兵妖精達は、皆肩を叩き合い、歓喜の声を上げた!

 

“ブーーブー!!”

再び注意喚起のブザーが艦内に鳴り響いた。

動きを止め、スピーカーに注目する水兵妖精達。

「対空指揮所より通達。 敵航空機群 右2時方向。距離150kmに接近、会敵予想時刻まで、30分! 繰り返す後30分! 各員持ち場にて待機せよ!!!」

水兵妖精達は、

「ようし! 後はキッチリ守り切るぞ!!!」

「おう!」と声を上げながら、持ち場へ就く水兵妖精達。

格納庫内では、

「可燃物の収納は終わったか!!!」

「はい、班長!!」

整備士妖精達は、各班に分かれ、格納庫内の作業を進めていた。

固定できる物は、全て固定し、火災の発生に備え各所に消火隊が配置についた。

応急修理班は、損傷個所の補修用の木材を所定の位置へ配置していく。

「ようし、これでできる事は全てやった。まあ俺達の出番がない事を祈ろう!」

応急修理妖精はそう言うと、静かに、その時を待った。

 

艦橋では、提督が

「こちらの艦載機の損害は!」

「はい、艦攻隊2機が被弾。帰投困難と判断。安全圏まで離脱後不時着水しました!」

艦橋前方に設置された情報表示用のモニタ―を見ていた 瑞鳳副長が答えた。

「副長、乗員は!」と提督が聞くと、それには

「はい、救助中の信号を受信しています!」

 

「うん」そう静かに答えた。

横の艦長席に座る、瑞鳳は

「提督、ご心配ですか?」

「まあ、心配ではあるが、ここからどうこう言う訳にもいかん。救助中という事は、いずもさんの救助隊がちゃんと救助してくれる。任せるだけだ」

深く、司令官席に座ったまま、じっと腕を組んだ。

瑞鳳は、艦長席に座ったまま、チラチラと舷側方向を見た。

それを見たパラオ泊地提督は

「瑞鳳、対空指揮所が気になるか?」

すると、瑞鳳は

「まあ、確かに気になります」

「例の噴進弾、また撃ちたいとか言わんでくれよ」と提督が聞くと、瑞鳳は、

「今日は我慢します」といい、前を見ながら

「今日の瑞鳳は、旗艦です。この艦長席が瑞鳳の場所です」としっかりと答えた

「うむ」

深く頷くパラオ泊地提督。

正面のモニタ―には、護衛艦きりしまのAN/SPY-1D(V)が捉えた敵戦闘機群の機影が映し出されていた。

「来たな奴ら」泊地提督が重く声に出すと、

「はい」と瑞鳳は声に出した。

提督は瑞鳳に向い静かに、

「怖いか?」と聞くと、瑞鳳は、

少し考え、

「怖いと言えば、怖いですが、それは恐怖というより、これからどんなことが起こるのかっていう興味の方が大きいです」

提督は、その答えを聞き、

「ふふ」と笑みをこぼした。

「提督?」と瑞鳳が聞くと、提督は

「あの頃とは、えらい違いだな」

「あの頃ですか?」

「ああ、初めて秋月と二人、呉からパラオに来た時。お前、羅針盤が壊れて危うくパラオ沖で迷子になりかけたろ、真っ青な顔で半泣き状態で泊地に来た時は、正直大丈夫か?と思ったもんさ」

と、提督はしみじみと答えた。

「提督!」と瑞鳳は顔を真っ赤にした。

艦橋内に少し笑い声が響いた。

提督は、

「さあ しっかり守り切ろう!」と声を上げた。

「はい!」

強く頷く瑞鳳

 

そして、その瑞鳳の右舷を航行する駆逐艦長波では、対空戦闘へ向け準備が着々と進んでいた。

長波は、艦橋の艦長席に、どっかりと腰を据えて、艦橋前方の戦況表示モニタ―を睨んでいた。

「副長、あと30分で会敵です、各員最終確認!」

「はい、各班準備できております!」と副長は即答えた。

航海長へ向い

「応急修理班、救護班 待機出来てる?」

「はい、各員持ち場についております」

此方も既に待機済みだ。

長波は、同じく艦橋にいた砲術長へ向い、

「秋月さんから、迎撃指示あり次第、主砲の対空射撃を開始だ! 砲手に伝達確認して!」

「はい、艦内無線。各砲班長とも問題なしです」

それを聞いた長波は

「よし! これで何時でも来い!」とぐっと拳を握った。

緊張漂う長波とは逆に、陽炎の艦橋では、

「意外とまちますな。艦長」と陽炎副長が、のんびりとした声で言うと、

「そうね、まっいいんじゃない。いつもなら、いきなり“敵機来襲”とかいって対空戦闘ラッパ鳴らす暇なく射撃開始だもんね」と此方ものんびりと答えた。

既に、各所の準備は整い、機銃手や砲手も部署につき、皆やや手持ち無沙汰であった。

副長が、

「まあ、対空戦闘と言えば、いきなり始まって嵐の如く過ぎ去るというのが何時もの事ですが、こう敵の動きが分かるというのは、なんとも言い難い物です」

そう言うと、艦長席のモニタ―を指さした。

すると陽炎は、

「まあ、焦っても仕方ない。黙っていても向こうはやってくる訳だし、ここはゆったり構えましょう」

「そうですな」と副長は答え、そして

「鳳翔さん達。どの程度抑えてくれるでしょうか? 艦長」

すると陽炎は、じっとモニタ―を見ながら

「いずもさんの偵察機の情報だと、戦闘機が12機、艦爆、艦攻が9機ずつの合計30機。まあ戦闘機隊は鳳翔さん達が押さえてくれるけど、艦爆、艦攻はこっちでなんとかするしかないわね」

副長は、

「18機ですか、一度にかかって来られると、厄介です」

そう言いながら、

「秋月がいますので、総崩れになる事はないと思います。瑞鳳さんの対空能力は今回の改修で飛躍的に向上しましたが、我が艦と長波は対潜強化を重視しましたから、対空値に少し問題があります」

陽炎は渋い顔になり、

「そうね。主砲の50口径12.7cm連装砲は、元は対艦戦闘用の平射砲だし、幾ら散弾砲弾があるとはいえ、秋月の長10cm砲の様な両用砲には敵わない」

そして、

「対空機銃の25mm機銃、まあ確かに威力はあるけど、装弾数が15発ってのはいただけないわね。おまけに重いし」

副長は、

「やはり我が艦も、秋月の様な自動追尾の多銃身型対空機関砲を搭載しますか? 艦長」

「うん? CIWS?」

陽炎は、

「まあ、確かに欲しいけど、どこに置くかが問題なのよね」

「設置場所ですか?」と副長が聞くと

「やっぱりあの写真の雪風みたいに、第2主砲降ろして、改修するしかないかな」

「となると、また改修となりますな」

「仕方ないわ」と陽炎はキッパリというと、

「これからは対空と対潜に主眼を置かないと、時代に乗り遅れるわ、副長」

「はい」としっかりと答える副長

「この戦い、しっかり生き残って、明日につなげる」そいうと、

「必ず生き残って、イージスシステムを搭載して、護衛艦を目指すの!」

陽炎はそう強く言葉に出した。

 

 

そのパラオ艦隊の前方50km程の空域を飛行するのは、20機の零戦の編隊。

鳳翔戦闘機中隊である。

元々の鳳翔戦闘機中隊12機にパラオ基地所属の6機そして予備機2機

その予備機の内1機が、この戦闘機中隊を指揮する艦娘鳳翔の愛機である。

鳳翔は、第一小隊を従え、左単横陣(左アブレスト隊形)で飛行していた。

いずもを発艦後 およそ1時間

既に無線で、攻撃隊が敵ヌ級を捉え、撃破している事は承知していた。

「あとは、しっかり皆を守り切る事ですね」

鳳翔は、零戦の操縦席でそう呟いた。

上空で、警戒監視を行ういずも艦載機E-2Jの誘導に従い、先程からこの空域で待機飛行に入っていた。

飛行高度は3000m

此方は、雲間に入り、時折僚機が雲に隠れる事があるが、そこは慣れたもの。

空中でぶつかる様な輩は居ない。

一般の人には分かりづらいが、雲中を飛ぶという事は、非常に危険な事である。

雲の中を長時間飛ぶと、真っ白い霧の様な中、上下の感覚が麻痺する。

飛行士は飛行中、機体が水平であるかどうかを判断するのに、水平線を多用する。

確かに計器の水平儀を使う事もあるが、編隊飛行時などは、絶えず編隊長機との間隔を保つ必要があるので、隊長機を注視して計器は余り見ない。

水平線の見え方で自分の機体の水平を確認するのだ。

しかし雲中では、その水平線が見えない。

視覚による水平の判断ができなくなった時、一番恐れるのが、“空間識失調”だ。

これは、自分が地面に対してどの方向を向いているのか分からくなる状態である。

こうなると、本来は「計器を信じて飛ぶ」というのが一番であるが、これが実は勇気がいる。

大概、「計器は正しいのか?」という葛藤と戦う羽目になる。

そこで、葛藤に負け、体感だけで飛ぶと、しらぬ間に背面状態になり、雲を抜けた瞬間、そこが海面だったという事もある。

鳳翔は、雲間に入る瞬間、水平儀をしっかりと確認し、機首方位と水平を保った

僚機も、それに従う。

「鳳翔アルファー1、いずもエクセル13」

いずも艦載機であるE-2Jが鳳翔を呼び出した。

「鳳翔アルファー1!」 切れのある声で鳳翔が無線で答えると、

「進路050へ、高度そのまま。敵機変わりなし!」

「鳳翔アルファー1 了解!」

そう答えると、鳳翔はほんの僅か進路を右へずらした。

小隊もそれに従い、進路を変更する

「これで、相手のほぼ正面を捉えましたね」

鳳翔は、脳裏に描いた相手の位置を目算した。

「鳳翔戦闘機中隊各機、いずもエクセル13。 敵航空機集団、12時方向、高度2000 距離およそ100km」

「鳳翔アルファー1 了解」と鳳翔が代表して答え、つづけて、

「鳳翔アルファー1より、戦闘機隊各機へ。接敵まで後10分 各小隊戦闘隊形へ」

「鳳翔1小隊了解!」

「同じく2小隊了解!」

「パラオ、1小隊了解です」

各小隊の小隊長が、返答してきた。

 

鳳翔率いる第1小隊は、2機づつの編隊に徐々に隊形を整えていく。

鳳翔機の右後方に、鳳翔の僚機である第1小隊の13番機が付いた。

「お艦! 位置に付きました」

13番機の飛行士妖精が無線で叫んだ

鳳翔は了解の意味で、軽く主翼を振る

「さあ、一気に切り崩します!」

鳳翔はそう言うと、ぐっと操縦桿を握り込んだ。

機内には、愛機の栄エンジンの軽やかな波動が木霊していた。

 

 

その後方およそ1000km

トラック泊地では、午前8時を回り、戦艦大和艦内は通常の課業時間となり、水兵妖精は、日々の課業へと就く中、ここ幹部士官室内は、驚きの声が木霊していた。

「敵ヌ級並びに軽巡ヘ級、撃沈です」

艦娘由良の落ち着いた声が響く

「おおお!」と赤城達

前方のモニタ―には、敵艦隊上空で監視飛行を続ける、MQ-9リーパーからの映像が表示されていた。

そこには、艦首部分を僅かに海面上に突き出し、ほぼ沈没状態の軽巡ヘ級。

そして完全に転覆し、赤い船底をさらすヌ級軽空母の姿があった。

周囲には、無数のカッター。そして救命胴衣を着た水兵妖精達

無傷で残った4隻の駆逐艦が、その周辺に留まり脱出してきた者や負傷者を収容している姿が見て取れた。

南雲航空戦隊司令は、大和の差し出したコーヒーカップを受け取りながら、

「まずは 此方が先手を取りましたな」と対面に座る山本聯合艦隊長官へ向い、声を掛けた。

山本は、

「まあ。緒戦としては上出来だな。此方の被害は艦攻が2機」

横に座る宇垣は、

「由良、乗員の救助は?」

「はい、既に攻撃隊に同行したいずもさんの艦載機が、救助作業にあたっています」

そう言うと、モニターの画面を切り替えた。

そこには、空中でホバリングしながら、水面に不時着水した九七艦攻から乗員妖精達を吊り上げているMV-22Bオスプレイの映像が映し出された。

「おい、あれは!」と驚く山口第二航空戦隊司令

「見て! 多聞丸! あの機体空中に止まってる!!!」

「おう。由良あれは何だ!」と山口が、驚きながら聞くと

由良は山口や飛龍の反応を見て、ニコニコしながら

“私も初めてF-35を見た時は、驚いたけど、あんな感じだったのかしら?”と思いながら

「あれは、自衛隊のいずもさんの艦載機で、MV-22オスプレイといいます。諸元はこれです」と言うと、モニターにMV-22の諸元データを表示した。

「なんだ! これは」

山口は、そこに表示された数字を見て驚嘆した。

最高速度 565km/h

航続距離 1200km

実用上昇限界高度 7500m

積載貨物重量 9トン

そこに並ぶ数字は、山口や飛龍にとって目まいを生じる数字ばかりであった。

由良は、

「このオスプレイですが、普段は輸送機として使用していますが、この機体にも電探を装備していますので、今回の様な作戦では誘導警戒機兼救助用機として使用する事のできる多目的航空機です」

そう言うと、パソコンを操作して画面を戻し、先程の飛行士妖精達を救助するMV-22の画面を表示した。

「この機体の最大の特徴は、この様に空中で止まる事ができます。これにより、この様な救難活動も行えます」

すると山口は、

「いや、この数字だけ見れば零戦より速くて、航続距離もそこそこあるぞ! 戦闘はできるのか?」

「はい、まあ零戦の様な空中戦は無理ですが、機銃による地上制圧作戦が可能です」由良はそう答えた。

山口は頭を抱え、横に座る南雲へ

「南雲司令。80年、80年で航空機はここまで進化するのですか!」

すると、南雲は、静かにテーブル上のコーヒーを一口飲むと、

「まあ、俺も最初 自衛隊の司令から説明を聞いた時は、信じられない気持ちはあった。だがな、山口。以前赤城も言ったが、80年だぞ。俺や山本長官が兵学校にいた頃、今の航空機を想像できたか?」

唸る山口

「それにな、俺の様に歳を食うと、余程な事でも驚かん。自衛隊の事もそうだ。現実として由良を見てみろ、そして三笠様の艦。先日の秋月達の艦。どの艦も電探を装備していた。三笠様の艦に至っては、最新の主砲に魚雷装置。原理の全く違う機関。もうそれだけあれば何が出ても驚かんよ」

南雲はそう答えた。そして、

「話は戻りますが、瑞鳳、初戦を飾りましたな、長官」

「ああ、相手が同格の軽空母だったという事もあるが、完全に相手の不意を突いた形だったしな」

南雲は、赤城へ

「赤城、この瑞鳳の攻撃をどう見る?」

すると赤城は、戦闘の推移をメモした紙を見ながら、

「勝因は、色々とありますが、一番大きいのは、事前に敵の陣立てがしっかり把握できていた事です。敵ヌ級の階級や随行艦の種別がはっきりしていた事。それに数少ない瑞鳳さん、鳳翔さんの攻撃隊をヌ級一点攻撃に集中させた事」

「やはり、そこか」と南雲が聞くと、

「はい。どうかすると、ヌ級に雷撃が命中した段階で、艦爆隊が他の艦へ攻撃目標を変更してしまえば、ヌ級はそのまま大破となり、後に曳航され修理される危険がありました」

赤城は続けて

「パラオ泊地提督は、攻撃隊に対してヌ級を徹底的に叩くように厳命していましたし、何故ヌ級を叩くのか、各飛行士妖精達も十分理解していたからこそ、他の艦に目もくれなかったという事です」

すると、飛龍は、

「え〜、でも赤城さん。ヌ級を叩いて大破させたなら、他の艦を狙って戦果を挙げた方がいいのではないですか?」

「飛龍さん、それも一案ですけど中途半端な攻撃は、ダメです。きちんと攻撃の目的をはっきりさせておかないと。今回のヌ級への攻撃はヌ級を撃破して制空権を確保する事、そして背後に控える重巡艦隊をおびき出す事です」

赤城はそう答え、

「同じ失敗を二度繰り返す事はできません」としっかりと答えた。

その答えを聞き頷く山本に南雲

「同じ失敗?」意味が分からず怪訝な顔をする飛龍

 

南雲は、内心

“そう 赤城の日記に記録されていたが向こうの世界の俺達は、真珠湾攻撃で米空母の捕捉に失敗するばかりか、湾内施設の攻撃が中途半端に終わった。ミッドウェイ海戦では、空母部隊の殲滅を目標に掲げながら、島の占領攻撃を優先した。全て当初から俺自身が目的をしっかりと理解していなかった事が原因だ。それは何のために行うのか! 今求められるものは、それだ”と強く思った。

 

赤城はメモを見ながら続けて、

「特にいずもさん達の艦載機の広域電探情報は有効です。十分な索敵とそれに適応した先制攻撃。これが勝因です」

そして、

「無論、鳳翔さんの艦爆隊や瑞鳳さんの艦攻隊、掩護の零戦隊も練度が高く、任務を的確にこなしています。特に瑞鳳さんの艦攻隊は特筆です!」といい、艦攻隊を褒め称えた。

すると、山口は

「ほう、辛口の赤城が褒めるとは、瑞鳳も成長したという事か?」

「はい、山口司令。高度10m前後の超低空を飛ぶ飛行技術。特筆です」と言うと、由良を見て

「由良さん。少しお聞きしたいのですが、あの航空魚雷。改造されていませんか?」

すると、由良は、

「赤城さん、なぜ?」と聞くと

「本来、九一航空魚雷は空中投下姿勢を安定させる為、高度30m前後で投弾するように教練していますが、瑞鳳さん達はその半分以下の高度で投弾しました。それに投弾後の進路と着弾した時の進路が少し違うような」

由良は、パソコンを操作しながら

「流石、赤城さん。よく見ていますね」というと、瑞鳳達が装備した九一式航空魚雷の図面を呼び出した。

「これは、現在パラオ工廠と自衛隊で、改修試験中の九一式航空魚雷の簡易図面です」

前方のモニタ―に表示された図面をじっと見る赤城達

「あの。弾頭部分が大きく改修されているようですが?」

「はい、赤城さん。この航空魚雷は、九一航空魚雷を基本部品として弾頭部分に音響探知装置を組み込んだ、探知式航空魚雷です」

「たっ! 探知式!!」

赤城や飛龍が声を上げた。

由良は、指揮棒を取り図面の弾頭部分を指し

「現行の九一航空魚雷の弾頭部分に、この様に集音用のハイドロフォン機能を組み込み、着水後、一定距離を走行した後、一番近い音源へ向い、進路を左右10度ずつ修正する機能を組み込みました」

すると山口は

「由良。するとなんだ、敵艦の近くに放り込めば、スクリュー音とか機関の音に反応して、その音源に突っ込むという事か!」

「まあ、簡単にいうとそう言う事です」

と由良は答え、続けて

「姿勢安定についても、使用するジャイロを電子式ジャイロに変更してありますので、今までより短時間で姿勢を安定させる事が出来ます」

赤城や飛龍は、身を乗り出して

「由良さん! その航空魚雷、手に入りますか!」

余りの勢いにたじろぐ由良、おずおずと

「あの、実は」と言葉を濁し、そして

「この魚雷、まだ試作品で量産できていないです」

「えええ!」

その言葉を聞いて驚く赤城に飛龍

「すみません、何とか瑞鳳ちゃんの艦攻隊の分は間に合わせたのですけど、パラオの工廠はいま全稼働しても、全然作業が追い付かない状態で」

「もったいない!」と飛龍が、残念そうに言うと、由良は

「それに、自衛隊のあかしさんの話だと、もう少し航空魚雷その物に手を加えるか、別の手法をもってあたらないと、艦攻隊の損害を抑える事はできないのではという意見です」

「別の方法とは? 由良」

「はい、南雲司令。まだ計画の段階ですが、九一航空魚雷の長射程化を検討しているとの事です」

「射程を伸ばすのか」

「はい、現在の九一航空魚雷は射程2000mで、確実を期すために目標の1500m手前で投弾するようになっていますが、これでは敵の40mm、そして20mm機銃の有効範囲内です。必然的に被弾率は上がります。ですので、この機銃群の有効圏外から投弾するようにできないか研究しています」

由良はそう答えた。

南雲は、

「赤城、どう思う?」

「はい。私も同感です。今回の瑞鳳さんの攻撃では、9機中2機が被弾しました。通常よりも被弾率が低いとは言え、2割です。どうしても機銃群にさらされる艦攻や艦爆隊は損害率が高くなる傾向があります。まして乗員数も多く、機体の損害より熟練搭乗員の損失の方が、戦力的には問題です」

「やはり、人的損害を如何に最小限に抑えるかが問題だな」と山本は頭の後に手を組み、背を伸ばしながら答えた。

「はい、長官。航空機や船舶は資源の問題さえ確保できれば補充はできますが、熟練妖精兵は、育成するだけで多大な時間と資源を消費します。それ自体が貴重な海軍の財産と言えるものです」

そう赤城は答えた。

山本は、

「戦争とは、経営学だよ」と静かに語った。

「経営学ですか?」と山口が聞くと、

山本は、

「国際連盟という華々しい商店街の中で、日本という貧乏商店を破綻させる事なく経営するという事は、非常に難しい。周囲の華々しさに合せて、気前よく安売りすれば、此方の財力はあっという間に底をつく。かと言ってよその商店の客を奪えば、周囲がごたつく。我々日本が世界に投資できる資源は何だと思うね? 山口君」

「資源ですか?」と山口が聞くと

「そう、資源だ」

「う~ん」と唸る山口

山口は思いを巡らせた。

石油は殆どない、鉱物資源もだ。

昔は繊維があったが、今では外国製に押され気味だ。

「山口、人だ」

対面に座る宇垣が答えた

「参謀長。人ですか?」

山本は静かに、

「正確には、人が持つ知識だ。我々日本が持つ知識をアジア各地へひろげ、ヨーロッパ大陸、北米大陸と並ぶ地域を育てる事こそ、日本が唯一世界にその存在意義を主張できる我々の商品だよ」

南雲も深く頷いた。

山本は、ぐっと山口を見て

「山口君、君もその一人だ」

「自分もですか? 長官」

「そうだ、君という軍人を育て上げるのに、一体どれほどの税金を使ったか、そしてどれほどの時間を費やしたか。それだけ貴重な我が国の財産だ」

山本はしっかりと山口を見て、

「君の命は、陛下、そして国民にとって貴重な財産だ。無駄にするな」

「はい、肝に銘じます」と山口は静かに、答えた。

「山本長官」南雲は、そっと山本を見た。

山本は、ただ頷くだけであった。

南雲は知っていた。

彼方の世界の山口の壮絶な最後を。

南雲はそっと

“自分より、後進が先に逝くのは辛い。死ではなく生きる事に、意義を見いだして欲しい”

と心の奥底で思った。

パソコンを操作する由良の声が、士官室内に響いた

「間もなく、鳳翔戦闘機中隊。敵航空機群と接敵します!」

緊張の度合いが増して行く。

「鳳翔さん!」

赤城、飛龍は祈るような気持ちで、ぐっと前方のモニタ―を睨んだ。

 

 

「鳳翔アルファー1 いずもエクセル13。エネミーアルファ 機数12機。同ブラボー9機、デルタ9機。 各編隊高度差500 2時方向 20km!」

「エクセル13、一番上はエネミーアルファですか?」

「はい、鳳翔アルファ-1。 高度2000で飛行中」

「鳳翔アルファー1、了解」

鳳翔はそう言うと、ヘッドセットのマイクへ向い

「鳳翔戦闘機隊、各機へ。敵戦闘機12機 高度2000、右手2時方向 距離20km!」

「1小隊了解!」

「2小隊、了解です」

「パラオ1小隊 りょう〜かい!」小隊の小隊長から返答があった。

20kmと言えば、地上では、かなりの距離があるが、時速300kmではあっという間だ。

鳳翔は、戦闘準備を整える。

まず、燃料コックを増槽から、機内配管へと切り替える。

これで、いつでも増槽タンクを切り離せる。

次に、OPL照準器の電源を入れ、レティクルが表示さる事を確かめた。

各機銃の装填レバーを引き、初弾を装填、スロットルに付属する機銃切り替えノブをセットして、そして前方に障害物がない事を確かめると、一瞬だけ、発射レバーを握り、数発試し撃ちをした。

軽い振動と共に、数発の機銃弾が前方に飛び出していく。

周囲の各機体も試し撃ちを始めた。

確実に4丁ある機銃が作動する事を確めると、鳳翔はスロットレバーの近くにある混合気自動調整レバーをオートにセットした。

これを忘れると、戦闘機動中、エンジンが高度差に耐えられず息継ぎをする。

そして、プロペラピッチレバーを巡航から自動へと変える。

これで、どんなに機体を振り回しても、エンジンがだれる事はない。

ここまでは、いつもの訓練通りだ。

もう一度、操縦席内を見回して、おかしな所がないか確かめた。

ざっと視線が一周機内を回った後、直ぐ機首2時方向の下方を見た。

眼下には、雲が広がり、時折切れ間からキラキラと輝く海面が見える。

此方は、高度3200m前後を飛んでいる。

敵機はこの雲の下をほぼ正面方向から進んでくる計算だ。

「ホークアイの誘導が無ければ、この雲間に敵機を見逃していたかもしれませんね」

鳳翔は、そう言いながら雲間に目を凝らした。

「鳳翔隊。敵編隊。進路変わらず 距離10km!」

遥か後方の上空で監視飛行をするE-2Jより敵位置の情報が入る。

10km普段なら、もう目の前だが、厚い雲間に遮られて未だに敵編隊を補足できない。

鳳翔は、返事をする間を惜しんで、ジッパーコマンドを返した。

じっと、右下方の雲間を睨んだ。

一瞬、雲が切れた

その時。海面上にキラッと光る点を複数見つけた!

「発見です!」

そう言うと、直ぐに増槽の投下レバーを引く。

翼面下部に装備された増槽タンクが、切り離され、クルクルと回りながら落下していく。

それが、“敵機発見の合図”だ!

各機一斉に、増槽を切り離す

次々と落下していく増槽タンク

鳳翔は、無線で

「鳳翔戦闘機中隊。敵編隊、間もなく直下通過! 攻撃目標は、敵戦闘機群のみ、艦爆、艦攻には目もくれるな!」

一斉に主翼を振って、答える各零戦!

鳳翔は、眼下の雲間から時折見える敵機の機影を目で追い

「気づいていません、好機です!」

そう言うと、

無線に向い

「全機突入! 蹴散らしなさい!!」

「おう!!」

各機、一斉にスロットレバーを押しこみ機体を加速させた。

鳳翔は、機体に行き足が付いた事を確かめると、ちらりとバックミラー越しに左後方を見た。

そこには、ピタリと僚機である13番機が付いていた。

それを確かめると、右に操縦桿を鋭く切り込み、機体を半回転させ、背面状態へ入った瞬間、操縦桿を引き、機体を一気に引き起こす。

反転降下(スピリットS)をしながら、下方をすれ違った敵機に上空から襲いかかった。

雲中に突入したが、一気にその雲を抜けた瞬間、鳳翔達の眼前に、悠々と編隊を組み進む、敵戦闘機群が見えた。

「貰いました!」

鳳翔は、そう叫んだ!

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

ヌ級戦闘機中隊の1番機

F4Fワイルドキャットの操縦席で、戦闘機隊の隊長は、眼下を飛行するSBD ドーントレス9機と、同じくTBD デヴァステイターへと視線を向けていた。

地上目標物の無い海上では、絶えず自分の位置を確かめる必要がある。

戦闘機の様な単座の機体では、操縦しながら航法を行うのは、非常に熟練を要する。

発艦前に、いくら飛行計画を立てておいても、その日の気象条件で経路は大きくずれる。

本来なら、航法用の計算盤を使い、海上の波の向きなどから風向きや風力を推測して、修正して飛行する必要がある。

母艦の近くまでくれば、後は誘導電波を拾えば、母艦へと帰還できるが、今回は洋上を移動する敵空母の攻撃だ。

此方の偵察艦の最新の位置情報から、未来位置を推測して、そこへ飛ぶ。

ただこれらの作業は、非常に複雑だ。

今回の様に 雷撃隊が同行するなら、彼らに案内させた方が楽である。

その分、此方は上空警戒をすればいい。

隊長は左右に首を振り、下方を見た。

「まだ、敵空母まで60kmはある」

そう呟いた。

その証拠に、艦攻、艦爆隊も攻撃隊形ではなく分隊毎のデルタ隊形を取っていた。

「攻撃隊形は、敵艦隊を発見してからか」

そう言うと、

「まあ、日本軍はまともなレーダーを持たない。おまけに敵は我々の艦隊を発見していないという事は、防備が甘いはずだ、奇襲できる」

そう確信していた。

上空には、多少厚い雲がかかっているが、此方が飛ぶ高度には、さほど雲もない。

その時、突然 耳元のヘッドホンから雑音が流れだした。

ザァーザァー

砂嵐の様な音が続く

「ん、故障か? こんな時に」

戦闘機隊隊長は、無線機の感度調整のノブを回したが、状態は改善されず、仕方なく他のチャンネルを選んでみたが、状態は変わらずであった。

「ちぃ! こんな時に」

そう思いながら、右後方を飛ぶ2番機を見た。

すると、2番機の飛行士が此方を見ながら、耳元を指さし、“ダメだ!”と合図してきた。

「なんだ! 彼奴も故障か?」

そう思いながら、

「これでは、攻撃隊との連絡・・・」そこまで言った瞬間、突然、機体に凄まじい振動が走った!

「なっ!」そう思った瞬間、彼の意識はそこで途切れた。

 

鳳翔達はほぼ敵の頭上から一気に襲いかかった!

機銃選択のスライドボタンを20mm機銃へとセットしながら、OPL照準器に敵戦闘機群の先頭機を捉えた。

ほぼ背面状態から、機体を引き起こし敵機後上方を30度近い角度で突っ込む!

 

巧みに操縦桿を動かし、一気に敵機の背後を奪う。

照準器一杯に機影が映った瞬間、発射レバーを握った!

独特の発射音を響かせながら鳳翔機の両翼から20mm機銃弾が、敵戦闘機隊の先頭機へと降り注いだ!

敵機の胴体、そして、主翼に次々と命中する20mm機銃弾!

数秒、ほんの数秒鳳翔は、発射レバーを引いた。

20mm機銃は、威力があるが、携行弾数が少ない。

無駄弾を撃つわけには行かないのだ。

だが、F4Fにはそれで十分であった。

機体の上面に被弾した敵機は、いきなりぐらつくと急速に機首を下げ、黒煙を引きながら、急降下を始めた。

そしてエンジン部分から、炎をまき散らし更に激しい黒煙を引き、海面へと一直線に降下を始めた。

鳳翔は、急降下で得た速力を利用して、敵編隊をすり抜けると、ゆっくりと操縦桿を引き、降下で得た速力を使い、今度は上昇へと転じた。

操縦桿を引きながら、左へ機体を捻り込んだ。

バレルロールと呼ばれる機動をとった。

クルクルと天地が入れ替わる機内で、鳳翔は

「まずは、1機!」

そう言いながら、体にかかる荷重に耐え、周囲を見回した。

何時もの黒い筋が海面へ向い落ちていくのが分かる。

その黒煙の先には、無残な姿をさらすF4Fがあった。

鳳翔は、ちらりとミラーを見た。

そこには、左後方にピタリとつく僚機の姿。

上昇しながら、再び背面状態へと入る。

この頃になると、敵戦闘機編隊はようやく自分達が、奇襲を受けたという事を認識したようで、各機バラバラになり始めた。

「うっ」

体にかかる荷重に耐えながら鳳翔は、バレルロールの頂点から再び敵機へと機首を向けた。

眼下に、不意をつかれ、右往左往する敵F4Fが見えた。

再び操縦桿を引き、敵機へと機首を向ける。

OPL照準器に敵機を捉え、

「恨みはありませんが、散って下さい!」

そう言いながら、機銃の発射レバーを引いた!

 

「鳳翔戦闘機中隊!! 接敵!!」

瑞鳳艦橋内に、レーダー監視員の声が響いた。

艦橋前方の戦況表示モニタ―に、レーダー解析画面が表示される。

「はじまったか!」

パラオ泊地提督は、司令官席から立ちあがると、艦橋前方へ立ち右手上空を双眼鏡越しに見上げた。

そこには、いくつも黒い筋が見える。

通信員が、鳳翔戦闘機中隊の隊内無線を艦橋に流した。

「1小隊! 右下方に逃げた3機を追いなさい!!」

「2小隊は、正面低空へ逃げ込んだ部隊を!!」

「残りは上空で支援!」

鳳翔の声が艦橋に響く

各小隊の隊長はジッパーコマンドを使い返答してきた。

提督は、戦況モニターを睨んだ。

そこには、複数の光点があちらこちらに複雑に動き、上空での乱戦模様を伺わせていた。

「押しているな!」提督はそう言うと、横に立つ瑞鳳は

「はい、此方は完全に背後をとりました。彼らに退路はありません!」

だが、その混戦の空から抜けて、此方へ向う二つの光点の群れ

「来たな」と提督がモニタ―を睨んだ。

表示には、9機の編隊が二つ

両方の編隊とも、此方を認識したようで、真っ直ぐ此方を目指してくる。

B群と名付けられた編隊は、急速に高度を落としながら、此方の2時方向から進んでくる。

同じくC群と呼称する編隊はほぼ高度を変えず此方へ向かってきた。

「B群が、艦攻、C群が艦爆隊か!」

泊地提督は、敵機が来ると思われる方向を、双眼鏡でみた。

微かに、黒い点が見えた。

「あれか!」

瑞鳳は、後方に控える水兵妖精に向い

「艦内通達。敵機接近 右舷距離40km。接敵まで15分!」

水兵妖精は、艦内放送で状況を通達した。

ヘッドセットをつけた砲術長が、

「対空戦闘指揮所より、各銃座試射行います!」

左右の舷側の25mm対空機関砲が、一斉に試射を開始した。

運航表示モニタ―を見ていた航海長が、

「対空指揮艦秋月より変針指示! 左転舵20度!」

「とりか〜じ、20」

「とりか〜じ~」航海長の指示の元 操舵手が舵を左へと切った

提督は群司令官席へ着くと、座席に付属するモニタ―に映る秋月へ

「右で行くか?」

するとモニタ―越しに秋月は、

「はい、右対空戦闘でいきます」

それを聞いた、瑞鳳は砲術長へ

「右対空戦闘!」と号令を掛けた。

緊張増す瑞鳳艦内

そして、その前方を航行する対空戦闘指揮艦である防空駆逐艦 秋月の艦橋では

「陽炎さん、長波さんは敵B群に対して1万5千で対空砲撃開始してください!」

秋月は、モニターに映る陽炎と長波へ指示を出した。

「分かったわ」陽炎がそう答えると、長波は

「C群はどうしますか?」

秋月は

「C群は、此方で対応します」

「はい!」と元気に返事をする長波

「各艦単独射撃で、砲撃開始は、各艦任意でお願いします」

「了解よ」陽炎が明るく答えた。

秋月は、内心

“やっぱり経験の差かな、こんな時でも落ち着いてるな、陽炎さん”

「では、よろしくお願いいたします」そう秋月は答えると、艦橋後方で待機する要員へ向って

「OPS-28の情報、FCS-2への転送確認!」

「はい、艦長。情報転送確認済みです。本艦のFCS、敵C群を補足、諸元各砲へ諸元伝達開始します」

秋月艦橋の後方に新たに設置された簡易CICで、戦闘情報処理を担当する士官妖精が返事をした。

既に右対空戦闘に対応する為、4基の長10cm連装砲は、旋回を終えていた。

FCS-2が捉えた敵艦爆隊へ向け仰角を調整しはじめた。

陽炎や長波でも、同じく指定された目標に向い、FCS-2を使った射撃照準を開始した。

「1番砲塔、準備よし!」

「2番 よし!」

次々と砲塔の射撃準備が整う。

「間もなくC群 距離2万! 高度1000m、緩やかに降下中」

秋月は鋭く、

「本艦は 1万9千で射撃開始します!」

艦橋内に緊張が走る

秋月は、艦長席から、迫りくる敵艦爆隊を双眼鏡で睨んだ。

ここまで来れば、既に相手は認識できる

「ドーントレス だ! 気を抜くな!!」

「はい!」

艦橋内部から一斉に返事があった。

静かに時が流れようとしていた。

海戦前の緊張感漂う艦内、異様な静けさが艦内を包んだ。

 

「C群 9機! 間もなく1万9千!!」

レーダー監視員が、レーダースコープを見ながら叫んだ!

秋月は、艦長席にしっかりと座り、呼吸を整え、凛として、

「右対空戦闘! 主砲撃ち方始め!!!」

直ぐに砲術長が、

「右対空戦闘! 主砲撃ち方始め!!!」と復唱しながらインカムを通じて4基ある長10cm砲の各砲座へ射撃開始を通達した。

 

「一番右! 諸元よし!」

「左よし!」

艦首の一番砲塔内部では、艦橋からの指示に従い砲塔旋回角、砲迎角を設定した。

FCS-2で測距した敵位置は、艦橋後方の戦闘指揮所内にある処理装置で、瞬時に長10cm砲に合わせた砲角、仰角が算出される。

事前に散布界を設定しておけば、それに合わせた諸元を計算し、各砲塔に設置された小型モニターに艦内Wi-Fiを使い自動転送される。

後はいつも通りに砲撃を行う。

ここから先は、砲手の腕の見せ所だ。

素早い諸元設定と装填、発射。そして再装填

防空駆逐艦秋月 一番砲塔。

秋月の中でも選りすぐりの砲手、そしてそれを束ねる班長。

毎分15発の発射を可能にするのは、彼らの団結力だ!

そしてその能力を補佐する最新のFCS-2、そして必殺の近接信管付き対空散弾砲弾

「主砲! 撃ち方始め!!!」砲塔内部に、スピーカー越しに砲術長の声が響いた!

「いくぞ!!!」第1砲塔班長が気合を込めて叫んだ!

「おううう!!」一斉に返答する砲手妖精達!

その瞬間、火を噴く 秋月の第一砲塔

必殺の散弾砲弾が、敵SBDドーントレスへ放たれた!!!

 

その敵ドーントレス隊は、ようやく零戦の襲撃の混乱状態から抜け出しつつあった。

友軍潜水艦が追尾している敵軽空母の会敵予想地点手前80km程の距離を飛行して

いた時、いきなり雲中から零戦の編隊の奇襲を受けた。

「敵機は、発艦していないはずじゃないのか!」

ドーントレス隊の1番機の隊長はそう叫びながら、機体を増速させた。

発艦前のブリーフィングでは、此方は友軍潜水艦からの情報で、敵位置を掴んでいるが、向こうは此方に接敵した形跡がなく、おまけに友軍潜水艦の攻撃で、被弾し、速力が落ちているという事であった.

要は、奇襲できるという事だったが、いざここへ来て見ると、いきなりジークの編隊に雲間から襲撃された。

おまけに、先程から無線が雑音だらけで使えない!

周囲を見回すと、どうやら敵戦闘機群は、此方の戦闘機隊と格闘戦へ入ったようで、追尾する機体は無い。

「今の内に」そう思いながら、前方を凝視すると、水平線の手前に、数本の黒煙を見た。

「あれが、敵空母艦隊か!」

前方左手を進む、敵空母艦隊を視認した。

無線が使えないので、主翼を振って編隊に“敵艦隊発見”を知らせる。

後続の各機から、了解と此方も主翼を振って答えて来た。

「敵まで、大体20kmか? このまま高度を調整しながら」と言いかけた時、いきなり周囲に対空砲火を浴びた!

進行方向前方に、対空砲弾の炸裂を見た。

「なっ!」と思った瞬間、機体に凄まじい振動を感じた!

振動と共に、コクピットの中に何か飛び込んで来た。

「うっ!」と呻く

後方の機銃員も

「ごわ!」と声にならない声を上げた

「なっ、何が!」そうドーントレス隊の隊長が思った瞬間、機内に火の手が回り、一瞬で機体が爆散した!

次々とドーントレス隊を襲う、秋月の対空散弾砲弾!

大空にその黒煙の花を咲かせた。

その花の周囲では、敵ドーントレスが次々と被弾していく。

先頭を飛んでいたドーントレス隊の隊長機は、ほぼ直近で散弾砲弾が炸裂した。

機体上面に降り注いだ散弾は、コクピットを直撃。そして、主翼に無数の穴を開け、航空燃料に引火。爆散したのだ。

ドーントレス隊の隊長が率いていた、残りの2機も秋月の放った散弾砲弾の弾幕の中へ突っ込み、立て続けに被弾した。

ある機体は、右主翼が引きちぎられ、まるで独楽の様に錐もみしながら海面へ落下し、もう一機も、機首部分から炎を上げながら、急降下し、そのまま海面に突き刺さった。

後方を飛行していた残りの6機は、秋月の8門の長10cm砲の集中砲火を受けながらも、闘志衰える事なく、瑞鳳を目指していた。

 

「うっ、弾幕、弾幕が薄い・・・か?」

艦橋で、遠方に炸裂する対空散弾砲弾の黒煙を見ながら、秋月は唸った。

4基8門の長10cm砲が放つ、散弾砲弾の弾幕は決して、薄いと表現できるものではなく、この時代の艦砲の対空弾幕としては、十分に機能していた。

しかし、秋月の理想は、きりしまの放つオート・メラーラ 127 mm速射砲の弾幕だ!

艦橋後方の戦闘指揮所内のレーダー員が

「標的番号 2001から2003 反応消失。残り6機 依然瑞鳳を目指しています!」

秋月は、艦長席のモニタ―を見た。

残りの6機は先頭の3機が瞬時に撃墜された事を知り、固まっていては不利と判断したようで、3機づつに分かれ左右へ進路を展開しはじめた。

秋月は瞬時に考えた。

「二兎を追う者は一兎をも得ず! 標的番号2004の群に集中弾幕!」

秋月は自分に近い3機へ集中的に弾幕形成を命じた!

「逃がしはしません!」

秋月はぐっと上空を見上げた。

 

その頃、陽炎の艦橋では、

「間もなくC群敵雷撃隊。距離1万6千」

レーダー員の声が艦橋に響いた。

「さてと」

陽炎は、艦長席に座り直すと、

「砲撃諸元、最終確認!」

「はい、FCS情報各砲塔への伝達確認済みです」

艦橋後方の戦闘指揮所内の担当士官が答えた。

砲術長が、

「各主砲。準備できております」と静かに答えた。

じっと艦橋前方の戦術モニターを睨む艦橋要員達。

敵雷撃隊は 3機ずつの編隊に分かれ、高度500m前後を降下しながら此方へ向って来ていた。

陽炎の艦橋上部に設置されたFCS-2は、その敵編隊を捉え、瞬時に戦術処理装置へと情報を伝達。主砲の方位、迎角を計算し各砲へ伝達する。

今までの射撃方位盤での計算に比べるまでもなく、あっという間に諸元計算が終わる。

ただ、陽炎や長波の12.7cm砲は平射砲であるので、秋月の長10cm砲とは違い 最大迎角に制限があるなど対空戦闘には不向きであった。

そこで、陽炎達はあかしとFCSの解析ソフトを改良し、捕捉目標の未来位置を予測し、そこへ6門の主砲を使って弾幕を形成するという偏差射撃ができる様にした。

また艦娘C4Iを使い同じシステムを搭載する長波と共同で、目標の選定、攻撃ができるようにしてある。

「距離1万5千です」

レーダー員が再び声を上げた。

 

陽炎は、落ち着いて、

「右対空戦闘 戦闘指揮所指示の目標 主砲撃ち方始め!」

砲術長は、インカムで

「主砲、撃ち方始め!」と気合を入れて下命した。

3基6門ある主砲が、待ってましたとばかりに斉射で、対空射撃を開始した。

ほぼ同時に、瑞鳳を挟んで反対側に位置する長波でも、対空射撃がはじまった。

次々と打ちあがる散弾砲弾

陽炎は、艦橋で、

「弾幕よ! 弾幕!!」と拳を振りあげていた。

 

 

敵雷撃機TBD デヴァステイター隊は、当初の零戦の襲撃を切り抜けた。

一番機の隊長は、周囲を見回し自分の部隊に脱落機が出ていない事を確かめると、高度を徐々に下げ始めた。

「どうなっている! これは悪夢か!!」

次々と撃墜されていくF4Fを見たTBD雷撃隊の隊長は叫んだ

「クソ 日本軍!!」と悪態をついたその時、前方に、敵空母を視認した。

「よし! このままの進路を取れば敵の真横に出る!」

雷撃隊の隊長は、そう思った瞬間、機体に振動を感じた

そして、直前に黒煙の花が咲いた!

「うお!!!」

そう叫んだ瞬間、体に無数の痛みを感じたが、彼はそれが何か認識する事は無かった。

陽炎の放った対空散弾砲弾は、見事に敵雷撃隊の進路上で炸裂した。

初弾斉射で敵雷撃隊の先頭機を捉えて、爆散させた!

後続の機体にも、陽炎と長波の放つ対空散弾砲弾が襲いかかる!

 

 

「よし、敵戦闘機群は押さえた!」

瑞鳳の艦橋で、パラオ泊地提督は、戦況表示モニタ―を見ながら唸った。

艦隊から60kmの第1次防空線で、見事鳳翔隊は敵戦闘機群を足止めし、確実に撃破していた。

残り僅かの敵戦闘機に、無傷の鳳翔隊が襲いかかる。

早晩、結果は明らかだ。

提督は、視線を秋月が担当する敵艦爆隊へ向けた

こちらは初弾で3機を撃墜したが、その後二手にわかれた。

秋月は、自分へ近づく3機へ砲撃を集中させていた。

そして残り3機は、真っ直ぐ此方へ向って来ている。

「引っかかったな」と提督は不敵な笑みを浮かべた。

秋月は、敵艦爆隊へ、陽炎と長波は敵雷撃隊への砲撃を行っているが、瑞鳳の右舷正面は、未だ砲火がない、いわば空白地帯だ。

敵機から見れば、絶好の射点に砲火が一切ない。

「敵ドーントレス機3機 2時方向!! 距離5000を切ります!」

レーダー員が叫んだ!

瑞鳳は、すかさず

「右舷対空機銃群、射撃開始!」

砲術長が、

「右舷対空機銃 射撃開始!!」

インカムへ向い、鋭く命じた。

右舷に設置された25mm連装機銃が、唸りを上げて射撃を開始した。

レーダー員が

「秋月! 更に1機撃墜! 残り2機此方へ変針しました!」

「艦爆が5機か!」

パラオ泊地提督は、唸った

上空で、対空砲の弾幕を受け、編隊を解きバラバラになりながらも進むドーントレス隊

秋月の長10cm砲は、逃げた2機を追い上空へ向け砲撃を継続していた。

ドーントレス隊は、隊長はじめ僚機が次々と撃墜されるのを見て、此方の対空砲撃が濃密な事を悟り、各機バラバラに瑞鳳へと向かってきた。

「秋月! 標的番号2005、2006へ向け機銃掃射開始します!」

秋月の後部高射装置を撤去し、新設されたCIWSが唸りを上げて、逃げたドーントレス2機を追った!

 

秋月の右舷2000mまで迫ったドーントレス隊の2機

「くそ! なんだ! どうなっている!!!」

ドーントレス5番機を操縦する機長は操縦席で怒鳴った。

先行するドーントレス隊の隊長の分隊は、敵艦砲の対空砲火の中に突っ込んだ瞬間、次々と被弾、爆散していった。

「何が起こっている!!」

5番機の機長は自分の目の前の光景が信じられないでいた。

「日本軍の砲弾は、時限信管だ! まぐれ当りでもないかぎり直近で炸裂する事など!」

と唸った

敵の対空砲火を避ける為、進路を少し右手にずらした。

此方へ向け、ひっきりなしに対空砲を打ち上げてくる先頭の軽巡らしき姿が見えた。

「攻撃目標は、空母だ。仕方ないあの軽巡の上をすり抜けて、空母直上へでよう」

そう言いながら、僚機を率いて、軽巡(秋月)へ近づく進路を取った

しかし、その直後再び艦砲の対空砲火を受けた。

「7番機、被弾! 離脱します!」

機銃員が叫ぶ。

左後方を振り返ると、7番機が黒煙を引きながら、急速に降下していくのが見えた。

「なに!!!」

そう叫んだ。

しかし、その時、機体に無数の振動を感じた

「なっ!」

右手下方から、猛烈な対空機関銃弾の雨を受けた!

“ガン、ゴン”と次々と機体に命中する機銃弾

コクピットの中にまで、機銃弾が飛び込んで来た

「ごっ」

声にならない悲鳴を上げる5番機機長

直後、航空燃料に引火しその瞬間に、左主翼が二つに折れ、炎をまき散らしながら、空中に四散した。

後方の別の機体も、襲い来る20mm機銃弾をもろに受け、機体を粉々に四散させていた

秋月の放つCIWSの20mm弾は、接近して来たドーントレスを的確に捉えた。

ドーントレスへ、濃密な対空射撃を行い、あっという間に四散させたのだ!

 

「秋月! 2機撃墜。本艦右舷3機なおも接近中です」

砲術長が、インカムを手で押さえながら、パラオ泊地提督に向け報告すると、それを聞いた瑞鳳は、

「携SAM隊、VADS隊。射撃開始!」と凛と命じた

砲術長は、艦橋前方の戦術モニターを見て、

「携SAM隊、一番後ろの機体を狙え! VADSは先行する2機だ! 25mm群は上を押さえろ!」

インカムを通じて班へ指示を出した!

 

瑞鳳の右舷後方。元40口径12.7cm高角砲があった銃座では、携SAMを上空へ向け構えた水兵妖精と、その横にインカムを装備した班長が立っていた。

「後ろの機体だ! そう少し遅れているやつだ!」

携SAM隊の班長がそういうと、携SAMを構えた水兵妖精は、発射機左に据え付けられた照準器である映像表示装置を覗きながら

「赤外線映像、捉えました! 行けます!」

目標は此方へ向ってくるドーントレス3機の最後尾の機体。

やや混乱しているのか、他の2機から遅れて飛んでいた。

「距離2000、行けるな」

「はい、班長!」

班長は、周囲を見回し、

「後方、安全確認よし」と大声で言うと、首から掛けた笛を銜えて、思いっきり鳴らした

周囲に、注意喚起の笛の音が鳴り響く!

回りにいた他の水兵妖精達が、銃座から離れ、遮蔽壁に避難した。

班長は再度、周囲を見回し、

「発射よう~い」と班長が声を掛けた。

射手の水兵妖精は、携SAMの弾頭シーカーが標的を捉え、ロックオンした事を告げる電子音を確認すると、

「用意!」と声を返した。

「てぇええ!!」

その瞬間、発射機を構える水兵妖精は、発射トリガーを引いた。

軽い反動と共に、発射用ロケットモーターが点火されミサイル本体が、発射機から撃ちだされた、

少し飛翔したミサイルは推進用ロケットモーターに点火

白煙を引きながら一気に加速し、ドーントレスへと向かった。

「当たれ!!」

携SAM隊の班長が祈るように声にだした。

真っ直ぐ、白煙を引き猛進する91式携帯地対空誘導弾

弾頭部分の赤外線センサーが、しっかりと此方へ向ってくるドーントレス機を捉えた。

白煙と、ドーントレス機が交差した瞬間 ドーントレスの周囲に赤い閃光と黒煙が巻き上がった。

“ドン”

少し遅れて爆発する衝撃音が周囲に響く

「おっ!」

息を飲む携SAM隊

黒煙の隙間から、バラバラになった破片や折れた主翼らしきものが海面へ向け真っ直ぐに落ちていくのが見て取れる

「当たった!!」

「やれば 出来るじゃん!!」歓喜に湧く 携SAM隊

携SAM隊は、残りの機体へ向け、再び射撃準備に入った。

少し離れた右舷VADS隊は、既に残りの2機に対して射撃準備を開始していた。

VADSの光学照準器を覗く射手妖精

「先頭の機体を捉えました!」

照準器内に此方へ向う、敵機を捉えた。

敵機までの距離は2000mを切った。

VADS内で、射手妖精の後方に座る班長は、周囲を確認し、

「射撃開始!!」と大声で怒鳴った

射手妖精は、静かに射撃を開始した。

“ブゥゥゥ!”独特の発射音を立てて唸るVADS!!

数秒間、射撃をしたと思うと、射撃を止め、砲身位置を修正し再び射撃を開始するVADS

赤く光るVADSの20mm弾が敵ドーントレスへ向け降り注いだ

 

残り2機となったドーントレス隊は、依然瑞鳳を目指していた。

先頭のドーントレスを操縦する飛行士は、今までとは違う日本軍の対空砲火に驚愕していた。

「何だ! 何が起こっている!!!」

周囲には、濃密な艦砲対空砲、機銃掃射

つい先程には、見たこともないロケット弾で最後尾の機体が爆散した。

突入する為に高度500m前後を飛んでいたが、機体のあちこちに小さい被弾があり、機体の水平を維持するのがやっとだ。

「爆弾を捨てるか?」と一瞬脳裏に浮かんだ。

しかし、ヌ級空母を発艦する前に艦長であるヌ級司令から、敵空母殲滅を厳命されている。

後部席の機銃員に

「おい、デヴァステイター隊は来ているか!」と大声で声を掛けたが返事がなかった。

振り返ると、後席の機銃員はぐったりと機銃にもたれ掛かっていた。

頭の周囲に鮮血が見えた。

「くそ!!」

悪態をつきながら、

「ここまで来たら!」といい、前方の敵軽空母を見た。

一瞬だが、敵艦の艦砲に隙ができた。

咄嗟に機体を急降下させようとした時、正面下方から、赤い銃弾が束になって襲ってきた。

「ごっ!」

無数の銃弾が、機体を貫いた

「な、何・・・」と声を出そうとしたが、彼の意識は声にならなかった。

瑞鳳のVADSの放った20mm弾は、進んでくる2機のドーントレスへ向け猛烈な射撃を繰りかえした。

20mm弾の直撃を受けた2機のドーントレスは、ほぼその場で爆散して、空中で粉々に砕け散った。

 

「敵ドーントレス9機! 全機撃墜!」

防空駆逐艦秋月の艦橋にレーダー員の声が響いた。

しかし、秋月は表情を緩めず戦況モニターを睨み

「陽炎さん達、少し押されています!」

「FCS B群敵艦攻隊の後続部隊に照準。陽炎さんを掩護!!」

と矢継ぎ早に指示をした。

TBD機9機は、鳳翔達零戦の襲撃から逃れる為、低空へと降下した所を陽炎と長波による艦砲射撃を受けた。

初回の攻撃で、2機が対空散弾砲弾の餌食となり、今しがたまた1機が爆散した。

しかし、相手は固まっていては不利と悟り、編隊を解きはじめた。

こうなると、追従性の悪い陽炎達の12.7cm連装砲では分が悪い。

秋月は、モニターを見ながら、インカムで陽炎と長波を呼び出した。

「陽炎さん、長波さん! 主砲の散布界を少し広げてください」

直ぐに陽炎は

「分かったわ、投網にかけるのね!」

「了解です!」長波も直ぐに返事をした。

陽炎達は、射撃指揮装置への変数入力を修正し、主砲の散布界を広げた。

「修正急いで!」陽炎が言うと、砲術長は、

「はい、既に諸元修正完了です。間もなく砲撃再開です!」

「いい、無理に狙って撃墜しなくていい。奴らを瑞鳳さんの前に引き込めば勝ちよ!」

そう言いながら、陽炎はモニターのある一点を睨んだ。

 

瑞鳳の艦橋では、

「敵雷撃隊 残り6機当艦右手より接近中! 距離7km!」

艦橋にレーダー員の報告が上がる

提督は、椅子から立ちあがると艦橋右舷に立ち、敵雷撃隊の飛来方向を見た。

「あれか!」

陽炎達の砲撃を躱す為、バラバラになりながらも、此方へ向ってくる敵雷撃隊が見えた

「25mm機銃群は敵の頭上を押さえなさい! 逃がさないで!」

瑞鳳の声が艦橋に響く。

右舷25mm機銃群が一斉に向ってくる敵機への射撃を開始した。

「携SAM隊、VADS隊。準備は!」と瑞鳳が聞くと、インカムを被った砲術長は、

「はい、待機済みです」

艦橋で、次々と指示を出す瑞鳳を見ながら、提督は視線を外の敵雷撃隊へと向けた。

陽炎達の艦砲。瑞鳳の25mm機銃群の射撃を避ける為に海面すれすれまで降下し、右往左往しながら、此方へ向ってくる。

「そのまま来い。此方の側面に来た時が勝負だ」

完全に行き場を失なったTBD デヴァステイター隊

海面を這いずりながら、瑞鳳の右舷5kmまで来た。

「携SAM、射程にはいりました!」

瑞鳳砲術長が報告すると、瑞鳳は

「携SAM攻撃はじめ!」

 

既に右舷後方の携SAM隊では、照準作業が終了していた。

俯角を取らず、ほぼ水平に携SAMを構える射手妖精

此方へ向ってくるTBDの編隊の一番近い機体に照準を合わせた。

「先頭の機体に照準あわせました!」

映像処理装置を通じて、赤外線シーカーが、標的のTBDを捉え、ロックオンした。

耳元に確認の電子音が鳴った。

班長の発射の号令と同時に、射手妖精は発射トリガーを引いた。

“パシュー”と小気味よい音を立て、撃ちだされたミサイルは、白い白煙を引きながら一気に、TBDの1機に猛進していった。

「行け!!」

一斉に声に出して、海面すれすれを飛翔するミサイルを見つめる携SAM隊の水兵妖精達

 

ぐっと息を飲んだ瞬間

ミサイルとTBDが交差した。

“ドン”という爆発音と共に爆散するTBD

「撃墜!!」班長の声が銃座に響いた

 

そして、その前方のVADS隊でも、VADS隊班長が

「間もなく射程に入る! 後続機へ照準を合わせろ!」

VADSの砲身の後方に座る射手妖精が、照準器を覗き、後続機へと照準を合わせた。

射手の左手にある球体がその動きに合せて動く。

球体の中には、赤外線カメラが装備されており、目標を赤外線イメージとして捉える。

また、左手にある小型射撃レーダーが距離を判定し、付属の射撃指揮装置と連動して、目標を補足する。

射手は、射撃ボタンを押すだけでいい。

射撃開始のタイミングと射撃間隔は、搭載された火器管制装置が自動で計算する。

「準備よし!」

気合を込めて射手妖精が答えた。

射手妖精の後に陣取る班長は、ぐっと敵機を睨み

「射撃開始!!」

静かに射手妖精は、発射トリガーを引いた。

“ブゥゥゥ”という音と共に20mm機銃弾が立て続けに敵機に向け発射される。

それと同時に“ガラガラ”という小気味よい音を立てながら排莢口から、空薬莢と連結用リングが排出される。

20mm機銃弾が赤い航跡を描きながら、敵機に向っていく。

機銃弾が敵TBD隊へ届いた瞬間、数機のTBDから黒煙が上がり、閃光が走った。

先頭の機体は、無数の銃弾を受け、主翼がバラバラになりながら海面に突き刺さった。

直ぐ後方にいた別の機体は、操縦席に多数の銃弾を受け、機首部分が吹き飛び、大きく右へ傾いた瞬間、主翼が海面にあたり、そのままつんのめりながら海面に叩きつけられた。

右後方にいた機体は、尾翼部分に集中して被弾、昇降舵が風圧で引きちぎれると、あっという間に海面に機首から突っ込んだ!

30秒もかからない内に 3機を撃破したVADS隊

 

少し遅れていた2機を率いていたTBD隊の分隊長は、操縦席で、

「ここは地獄か!」と叫んだ

今までに経験した事の無い戦闘だ!

「日本軍は、いつからこんな対空射撃ができるようになった!」

そう叫びながら、

「このままでは!」と周囲を見回した。

“あの空母に近づくのは危険だ、既に7機も撃墜されている!”

ふと視線に、空母の後方。少し離れた所にいる重巡らしき艦影が見えた。

他の艦と違い対空砲火を上げてなく、沈黙したままである。

よし、このまま進路を左へ修正して、駆逐艦を楯にしながらあの重巡を!

そう算段し、操縦桿をほんの僅か左へ切った。

 

秋月は、戦況モニターを見ながら最後の2機の進路が左へずれていくのを見た。

「?」と少し考えた

「目標を変えた? 長波を狙っているの?」

そう考えたが、

“いやこの位置だと 長波は狙えない。近すぎる”そう算段した。

進路の先には、 護衛艦きりしまがいた。

「奴ら、きりしまさんを!!」

そう思った瞬間、秋月は、笑みを浮かべ

「終わったわ」と呟く。

 

 

護衛艦きりしまのCICで、戦況モニターを見ていた艦娘きりしま

秋月を始め、瑞鳳達が確実に敵機を撃墜していくのを見て、

「まずまずね」と声をもらした。

航空要撃管制による鳳翔隊の要撃は成功し、敵戦闘機隊は艦隊から遥か前方で食いとめる事ができた。

これにより、各艦は対空射撃を敵攻撃隊へ集中させる事ができた。

秋月を中心とした3隻の駆逐艦の対空砲火で半数以上の敵機を撃墜。対空機銃を改装した瑞鳳さんも予想以上の成果を上げている。

そして、最後の2機の雷撃機は、瑞鳳さん達の砲火が厳しいと悟り、未だ動きのない自分の方へ向ってきている。

「逃げればいいものを」きりしまはそう呟いた。

2機のTBDは、長波の影に隠れる様に此方へ向ってくる。

しかし、その思惑に気が付いたきりしま副長の指示により、艦は面舵を切り、射線から長波を躱す進路を取っていた。

きりしまは、眼鏡をかけ直すと、凛として

「左対空戦闘」と命じた。

即座に、管制卓に座る砲雷長が

「左対空戦闘、CICの指示の目標! トラックナンバー 2007、09。主砲撃ち方始め!」と即座に命じた。

主砲発射担当員が、

「弾種 対空弾。射線障害物なし!」そう言いながら主砲制御パネルのモニタ―を再度確認し、おもむろに発射トリガーをラックから取り出すと、

「撃ち方始め!」と気合の入った号令と共に、トリガーを引いた!

“ダン、ダン”

小気味いい音と共に、次々と発射されるきりしまの127mm砲

主砲の前面から、空薬莢が甲板上に次々と自動排莢されていく。

 

低空をきりしまへと向かっていた2機のTBDは、長波の対空機銃の掃射を躱し、機首をきりしまへと向けた瞬間、周囲に猛烈な砲火を浴びた。

「ごあ!!」

先頭の機体の操縦桿を握る飛行士は、何か起きたのか理解できない。

機体を襲う凄まじい振動と衝撃

あっという間に、機体は、砲弾の調整破片で粉々に切り刻まれ、そのまま海面へと突っ込んだ。

後続機も、ほぼ直撃弾を受け爆散した

 

きりしまの砲撃は、僅か10秒もなく終わり、その煙幕が晴れた時、周囲に飛ぶ機体は全て消えていた。

不意に、艦隊に静寂が訪れた。

 

静寂包む瑞鳳の艦橋で、提督は一言

「終わったな」と呟いた。

瑞鳳は、提督の横に立ち、

「いずもさんの警戒機からの情報では、周囲300km圏内に敵性航空機を認めず。制空権確保しました!」

「うむ」と頷く泊地提督

そして、静かに

「パーフェクトだ、瑞鳳」

「はい、感謝の極みです」とほほ笑んだ。

 

提督は、

「引き続き対空警戒指揮を秋月に、艦隊指揮は瑞鳳へ」

「はい」と瑞鳳が返事をした。

提督は

「では、次の段階へ移ろう。艦隊は進路西へ。三笠艦隊と合流してポンペイ島へ一時撤退する」

「はい」と瑞鳳は返事をすると、航海長へ向い

「三笠艦隊との合流地点算出。進路指示!」

すると航海長は、

「はい、既に三笠より誘導波受信しています。進路算出間もなく」と答えた

後方のチャートデスクでは、航海士妖精が、戦艦三笠の発信したタカンデータをもとに進路を弾き出していた。

進路転進指示を出す航海長

 

それを聞きながら提督は、

「攻撃隊は、予定通り、一旦後方のいずもさんへ着艦。我々は偽装工作へはいる」

「はい」と瑞鳳は言うと、

「副長、偽装煙準備!」

「はい、艦長。準備できています!」と副長が答えた

「では、偽装煙。作動!」

瑞鳳が命じると、副長はインカムを通じて機関室へ号令を発した。

数分後、瑞鳳の右舷後方から、物凄い勢いで黒煙が立ち昇った。

艦橋横からそれをみたパラオ泊地提督は、

「おお、派手に燃えているな」と呑気に言い放った

「提督! 瑞鳳は燃えていません!」

ムッとしながら瑞鳳が答えると、提督が、

「まあ、あれだけ派手に煙を出せば、遠くからみれば被弾した様に見えるな」

「提督、でもこんな単純な手に引っ掛かりますか?」と瑞鳳が聞くと、

「さあな」と提督も半信半疑で答えた、そして

「救助要請の電文は?」

「はい、先程。D暗号で送信しました」

「さて、上手く引っかかってくれよ」泊地提督はそう呟いた。

 

瑞鳳の右舷後方から立ち昇る大量の黒煙は、今回の作戦に合せて作られた偽装煙発生装置から排出された不完全燃焼の重油燃焼煙である。

よく駆逐艦等で黒煙を出して煙幕として使うものを、単独で使用できる様にした物だ。

遠くから見ると、まるで瑞鳳の右舷に被弾して、燃えているように見える。

ちなみに夜間は、ご丁寧に黒煙に赤や黄色のライトを当てて炎を演出できる。

 

 

そして、この艤装煙を最初に目撃したのが、瑞鳳達の後30kmまで迫っていたカ610号であった。

電波妨害圏域を抜ける為一旦、瑞鳳達と距離をとったが結局状況は変わらず、再びパラオ艦隊へと近づいていたのだ。

カ610号が、有視界でパラオ艦隊を視認した時。最後のTBD機が、護衛艦きりしまによって撃墜された。

例の大型望遠鏡で、パラオ艦隊を監視するカ級艦長

「間に合わなかったか?」

空中にたなびくいくつもの薄い黒煙を見ながら、カ級は呟いた。

「どうやら、攻撃は終わったようです」副長が双眼鏡を覗きながら声を掛けた。

「ええ、友軍機の姿が見えない。かなり悪い結果かも?」

カ級艦長はそう答えながら、再び大型双眼鏡を覗き込んだ。

水平線上に、複数の艦艇らしき艦影が見て取れる。

艦艇の数が、以前と変わりない事を確かめると、

「攻撃は失敗だったみたい」と落胆した声を出したが、ふと敵艦隊の中央の艦影、空母とおぼしき艦影から大きな黒煙が上がっているのが見て取れた。

「副長! 中央の空母らしき艦から黒煙が上がっている!」

「はい、艦長。こちらでも確認しました! 被害が出ているようです!」

「もしかして、被害が出てるの?」カ級はそう言うと、

「あの黒煙の量からして、艦内で火災が発生しているのではないでしょうか?」

「副長。直ぐに現在地と敵空母から黒煙が上がっているとヌ級とマーシャルの司令部へ打電して」

「はい!」そう返事をした副長は、急ぎ艦内へ降りた。

カ級は、司令塔の上から、

「通信の状態はどう?」と艦内へ声をかけると、下から副長が、

「はい、大丈夫です!」と大きな声で返事があった。

「急ぎ電文を打電して」

「はい」副長は、再び艦内へと消えた。

 

その後、敵空母艦艦隊は、ゆっくりと西へ転針していく。

被弾したと思われる空母に合せ、速力が出ないのか、10ノット前後の非常にゆっくりとした動きだ。

電文の打電を終えた副長が、再び司令塔へ上がってきた。

「ヌ級司令から返信は?」カ級が大型望遠鏡を覗きながら聞くと、

「いえ、まだ。一応発信はしておりますので、その内」

彼女達は知らなかった。

その時既に、ヌ級軽空母は撃沈されていた事を。

副長は、双眼鏡を覗きながら

「敵空母は被弾しているようですが、接近して雷撃しますか?」

カ級は少し考えた。

「魅力的な提案だけど、あの艦隊の対潜能力は尋常ではないわ。いくら僚艦が被弾しているとはいえ、警戒網はきつい。不用意に接近するのは、やめておきましょう」

カ級は、続けて

「副長。そろそろ、交戦のあった場所よ。友軍の負傷者がいないか、水面警戒を厳として!」

「はい」

副長は、見張り員に水面監視を強化するように号令を出すと、艦内からも応援を呼び、監視を強化した。

周囲を隈なく見回した。

「艦長! 右前方に浮遊物!」

甲板前方で見張りをしていた見張り員が叫んだ!

急いで、大型望遠鏡で覗くと、航空機の尾翼の様だ。

尾翼だけが、波間に揺られ、見え隠れしていた。

「操縦者の姿はないわ」

カ級は、静かに声に出した。

「念の為、近づきます」と副長が言うと、細かく進路を修正した。

浮遊物に近づくと、それがF4Fの尾翼である事が分かった。

「やはり誰も居ないようね」

「はい、艦長。完全に破壊されています」副長も落胆しながら答えた。

「この分だと、此方の部隊はかなり被害が出たかもしれないわ」

「どうしてですか?」と副長

「本来、上空で掩護する戦闘機隊まで被害がでているという事は、空中戦でかなり押されたという事だわ。支援なしに艦爆、艦攻隊が敵空母まで無傷で辿りつけるかどうか、怪しいものよ」

カ級は、海面をただよう尾翼の破片を見ながらそう答えた。

その時、

「10時方向! 航空機です!!!」

左方向を監視していた見張り員が叫んだ!

「えっ! 敵機!」

カ級達は慌てて双眼鏡を覗いた。

数名の水兵妖精が、艦首にあるエリコン 20 mm 機関砲に取りついた。

本来ならいつでも潜航できるように、弾帯などを取り外してあるが、急いで射撃準備を開始した。

艦内外で慌てて、対空戦闘準備を始めようとしていた。

周囲で怒号が飛ぶなか、カ級はその航空機とおぼしき影を大型双眼鏡でじっと見た。

「まずい。ゼロだわ!!」

「艦長、潜りますか!」副長が咄嗟に答えた。

しかし、既に相手までの距離がない。

下手に潜ってしまって、駆逐艦を呼び寄せられて追いかけ回される方が厄介だ。

全力で浮上航行して、この海域から離脱する方が、助かる確率が高いか?

これは、どちらにせよ既に賭けの範疇だ。

「相手が1機なら、何とかなるか!」カ級は、打ってでる方を選んだ。

「対空戦闘ですね!」副長が大声で言うと、既に艦首と艦尾にある20mm機関銃では水兵妖精達が、左方向に機銃を旋回させ、敵機の襲撃に備えた。

カ級は、ポツリと

「私の悪運もここまでかしら」と呟いた。

もし、敵機の接近を許して、機銃掃射されれば、船体の被弾は免れない。

潜水艦は、少しでも被弾すればその最大の武器である潜水の機能に制約がでる。

一瞬脳裏に、

“潜航すべきだったか”と疑念が浮かぶ

“いやダメだ、あの距離では、潜航して安全深度まで潜る間がない”

疑念を振り払いながら、再び大型双眼鏡で、迫ってくる敵戦闘機を見た。

「ん?」急にカ級艦長から声が漏れた。

「どうしました?」

「あの敵機、車輪を降ろしている。それに主翼を振っている」

「なんですと!」副長が驚いた。

車輪を降ろし、主翼を振るという事は、敵対行為をしないという合図である。

「艦長! 撃ちますか!!!」

艦首の機銃員が、そろそろ敵機が射程に入るのを見て声を上げた。

カ級は慌てて、司令塔から身を乗り出し、

「撃つな!!!」と大声で叫んだ。

副長も、手元のメガホンを取り

「そのまま待機!!」と叫んだ。

緊張するカ級達

敵零戦は、ゆっくりと車輪とフラップを下げたまま、此方へと近づいて来た。

既に距離は5km程だ。目視で十分確認できる。

「いったい何をする気?」

注意深くその敵機を見たが、此方も撃つ気がないと知ると、急に車輪を上げ、ゆっくりと左旋回しながら、またもと来た方向へ戻っていく。

「何?」と皆で顔を合わせたが、その敵機は少し離れると、ある場所の上をクルクルと旋回し始めた。

「何かあるの?」

そう思いながら、大型双眼鏡でその敵機のいる場所を見た。

敵機が旋回する真下の海面を見た瞬間

「海面に浮遊物!!!」

「何処です!」副長が聞くと、カ級は左手正面を指さした。

指し示す方向を見た副長や水兵妖精達

「影! 人影がみえます!」副長が叫んだ!

「進路修正!」カ級が指示を出し、艦はゆっくりとその人影らしき浮遊物へと近づいていく。

双眼鏡で再び見ると、どうやら主翼らしき大き目の金属板に人影がしがみついていた。

「友軍兵です!」副長が叫んだ。

「救助作業急いで!」

艦内から組立式のボートが取り出され、甲板上で救助作業の準備がはじまった。

ふと、上空を見上げると先程まで上空で旋回していた零戦が高度を取り、西へと機首を向けた。

「助けてくれたという事?」

カ級はそう言うと、副長が

「まあ、現状からみればそういう事でしょう」

救助準備が進むなか、司令塔に通信員が上がってきた。

「艦長。あの」と困惑した様子であった。

「どうした?」

「それが、日本海軍とおぼしき通信なのですが、本艦宛てにです」

そう言いながら、一枚の電文を手渡した。

「えっ!」

そこには、英文で

“宛 深海凄艦カ級潜水艦

発 日本海軍パラオ泊地司令

救助者捜索の為の貴艦の行動について、日本海軍は24時間の攻撃猶予を与える。速やかに当海域内の友軍兵士を救助し、海域を離脱せよ。なお敵対行為等を取る場合は、全力で貴艦を撃沈する。”

とあった。

 

電文を読み終え、副長へ電文を渡すカ級

通信士は、カ級を見ながら

「英文モールス信号で、3回受信しました。内容間違いありません」

 

カ級は、副長を見ながら

「どう思う?」と聞いた

「要は、24時間やるから、救助者を探してとっととここから去れという事ですか」

「まあ、そうね」とカ級がいうと、

「艦長、意図が読めません」

カ級は少し考え、

「一つだけはっきりしているのは、私達は敵に見つかっているという事。そしてこの付近にはまだ救助すべき友軍兵がいるという事だ」

そう言うと、

「副長、敵空母群の追跡を中止。友軍兵の捜索、救助を優先」

「はい、艦長」

副長は矢継ぎ早に指示を出した。

既に艦は停止し、ボートが降ろされ、海面に浮かぶ友軍の飛行士らしき姿の方へ進み始めた。

 

「あの~、艦長。返信は?」

通信士が、恐る恐る聞くと、

「う~ん」とカ級は悩み、

「いいわ。いらない」と答えた。

「はい」と返事をして、艦内に消える通信士

カ級は、司令塔の上で、

「あの艦隊には、いつかまた会いそうな気がする」

去りゆく、敵空母群を見ながらそう呟いた。

 

 

 




こんにちは スカルルーキーです
分岐点 こんごうの物語 第56話をお届けします

いや、投稿遅れ気味で申し訳ございません。

さて、今回VADS君大活躍ですが、よく航空祭とか陸自さんの基地公開日などで空砲射撃を見る機会がありますが、ガラガラとはじき出される空薬莢
実演が終わったあと、隊員さん達が空薬莢を集めて、箱に入れながらきちんと数を数えている姿を見て、”ああ大変だ”と思うですよね。
まあ日本らしいというか、

次回は、「戦艦三笠 出撃」です

では

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