分岐点 こんごうの物語   作:スカルルーキー

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その女性は厳しい目で語った

「その弾丸1発は貴方を守り、貴方が守るべき人を守るの」

それを聞いた少女は、意識を新たにした




36 弾丸2

パラオ泊地、午後1時半

 

泊地司令部などがある区画を通り過ぎ、艦娘寮や提督と由良の家を過ぎて、その先の区画に泊地艦娘達が集合していた。

その区画には、鳳翔や瑞鳳が使う弓道場、そしてその横には射撃訓練場や運動場がある。

泊地艦娘達はその射撃訓練場に皆整列していた。

今日は、月に一度の拳銃射撃訓練の日だ。

射撃訓練場は2つあり、一つは、拳銃射撃などで使う30mの射撃場。

射撃レーンが4つあり、20m先に的が置いてある。

その横は小銃などの射撃場で長さは200m、終点には土嚢が積み上げてありその前に的が複数並んでいた。

 

瑞鳳、睦月、皐月、陽炎、長波、そして秋月が整列して列外に由良と鳳翔がいた。

瑞鳳が「気をつけ!」と号令を掛けて、

皆姿勢を正すと、

「敬礼!」といい、一斉に由良と鳳翔へ敬礼した。

由良と鳳翔は短く答礼し、

「直ってください」といい、皆挙手を下した。

「休め!」と瑞鳳が号令を掛け、皆姿勢をラクにした。

由良が、

「はい、皆さん今日は、月に一度の拳銃射撃訓練です」と言いながら、

「今日は、実弾射撃です。私と鳳翔さんが監督します。まず点検状態を確認しますね」といい、横のテーブルに鳳翔と並んで座った。

由良は

「では、瑞鳳さん」というと瑞鳳は、左手に持った革製のホルスターの中から1丁の拳銃を取り出し由良へ渡した。

それを受け取る由良、じっと拳銃を見る。

それはFNブローニングM1910。

ベルギーのFN社が製造した、小型、軽量の自動式拳銃で32口径 装弾数は7発。

護身用の拳銃としては人気のある銃であるが、なにせ輸入品だ。

お値段が高いうえ、陸海軍の将校の中でも人気の拳銃で、中々手に入れる事ができない。

瑞鳳のブローニング拳銃はまだ新しく傷一つ付いていなかった。

それもその筈だ、この泊地に来てから提督から支給されたのだ。

なんと、パラオ泊地の提督は配属された艦娘達全員に必ずこのFNブローニング拳銃を与えていた。

艦娘の拳銃所持については決まりがない、というより想定していなかった。

そもそも将校の軍刀や、拳銃などの個人用携行武器については、全て自前だ。それは艦娘とて同じ、個人で金を出して買う者など殆どいない。

しかし、ここは後方基地といえ戦地だ。以前深海棲艦の打撃艦隊が現れた事もあり、提督は護身用にブローニング拳銃を艦娘全員に所持させていた。

無論、経費として計上すると規定外装備という事で後々面倒なので、提督の給金から出され、普段は各艦の艦長室に保管されている。

 

由良は手際よく、まずマガジンを抜き、スライドを引いて、スライドロックを掛け、内部を確認。一旦スライドロックを外して、スライドを戻し、マズルキャプを回し、テンションスプリングを抜き、ゆっくりとスライドを外した。

バレルやスライドに傷やヒビがないかを確認した後、再度組立、空の弾倉を入れて一度空撃ちをし、確実に動作する事を確かめ、銃を瑞鳳に返した。

横では鳳翔が睦月のブローニングを点検している。

「はい、合格です」と由良が言うと、

「はい!」と言いながら銃を受け取り後方へ下がる瑞鳳。

次は陽炎だ。

同じ要領で、分解、点検する。

陽炎のブローニングは所々に傷やハゲがあった。

既に数回とは言わず使われており、実際周辺諸島の偵察などでは自ら腰に装備している。

綺麗に磨き込まれ、埃一つない。

「はい、陽炎ちゃん合格です」といいブローニングを返した。

「次、長波ちゃん」

長波はホルスターからブローニングを抜き取り由良へ渡したが、それを受け取った由良は急に、

「長波ちゃん、弾装填したままなの?」と慌てて聞いた。

「えっ!」と慌てる長波。

なんと長波は、実弾をチャンバー内に装填して、セイフティーを掛けていた。

「あっ、直ぐに撃てるようにと思って」と答える長波。

由良は、トリガーに触らない様に注意しながらマガジンを抜き、そしてスライドを慎重に引いた。

テーブルの上にコロンという音を立てて、32ACP弾がテーブルの上に落ちた。

「長波ちゃん、いくら安全装置があるからって、弾を装填したまま携行するのは良くないわよ。暴発の危険性もあるから次回からは注意してね」

「申し訳ありません、以後気をつけます」と言いながら長波は頭を下げた。

銃その物は新品なので、問題はなかった。

 

横の鳳翔を見て、

「鳳翔さん、そちらは?」

「はい、皆さん問題ありません」

すると由良は、

「では最初に、瑞鳳さんと睦月ちゃんから始めます」

由良に言われ、射撃位置へ立つ瑞鳳と睦月。

その後ろへ由良と鳳翔が監視役として立った。

「はい、安全確認して、弾倉を装填してください」と由良が声を掛けると、

瑞鳳は右手にブローニングを持ち、標的までの間に障害物がない事を確かめると、弾倉を装填した。

カチッと音がするまでしっかりと押し込む。

「はい、スライドを引いて装弾してください」と由良に言われて、瑞鳳はゆっくりとスライドを引いた。

カチャンという小気味いい音がして、32ACP弾が装填された。

由良は再度周囲の安全を確認したあと、

「はい、では射撃開始してください」と号令を掛けた。

瑞鳳は、両手でしっかりとブローニングを構える。小さな手に小さいブローニング拳銃が可愛く映った。しかし小型とは32ACP弾だ、当たればそれなりに威力がある。

しっかりとグリップを握る。

ブローニング拳銃には3重の安全装置がある。まずマニュアルセイフティ。次にマガジンセイフティ、これは弾倉が装填されていないと引き金が引けない、不意に弾が残っていた場合の暴発予防だ。

そしてグリップセイフティ、しっかりとグリップを握らないとトリガーが引けない。

ゆっくりと、慎重に照星と照門を合せ20m先の標的を狙った。

ブローニング拳銃は携行武器としては小型の部類だ。極力引っかかりのないように、角もしっかりと曲面仕上げされていて、レバー類も小型で女性でも使いやすい。

ただ、小型過ぎてこの照準がやりにくいのが難点である。

 

瑞鳳は、慎重にトリガーを弾いた!

 

タン!という、やや強めの反動と共に、空薬莢が右方向へ弾き飛ばされた。

的の後方に砂煙が上がる。

 

「当たった!」

的に小さな穴が開くのが見えた。

“やったー”と飛び跳ねたい所であるが、あと6発残っている。

また照準を合わせ、ゆっくりとトリガーを弾いた。

タン!!と音がして、反動が小さな手を襲う!

今度は的から右へ1m位離れた所で砂煙が上がった!

 

「あれ?」

 

同じ様に撃ったのに?

再び照準を合わせてトリガーを弾く。

タン!と小気味いい音を立て、ブローニング拳銃が跳ね上がる。

しかし、またもや右へ1m程離れた所で着弾の砂煙が上がる。

「あれ、なんで?」

 

すると睦月を指導していた鳳翔が、そっと瑞鳳へ

「瑞鳳ちゃん、深呼吸してご覧なさい」

「はい」といい、一旦拳銃を降ろし深呼吸する。

再び拳銃を構えようとした時、鳳翔が、

「瑞鳳ちゃん、想像しなさい。弓を射る時と同じように」

「えっ」

「構えた銃から弾丸が出て、そして空気中を突き進んで、的へ吸い込まれる瞬間を想像してご覧なさい」

「はい、鳳翔さん」

ゆっくりと腕を持ち上げ、しっかりとグリップを持ち、目前の的に照準合わせ、想像した。

“的に吸い込まれる矢を!”

指が無意識にトリガーを弾いた。

タン!と音を立て、ブローニング拳銃が跳ね上がる。しっかりとそれを押さえる。

無意識のうちに再びトリガーを弾く。

タン! タン! タンと小気味よい音が射撃場に響いた。

再びトリガーを弾いたが、カチという音がしただけだった。

「あれ?」と気がつくと残り4発を撃ち終わっていた。

ふと的を見ると、穴が増えている!

 

「当たってる!」

 

横に立つ由良が双眼鏡で的を確認して、

「はい、瑞鳳さんは5発命中ですね。前回より成績が上がっていますよ」

「やったー」と少し飛び跳ねた!

「はい、では次は陽炎ちゃん」と由良は陽炎を呼んだ。

由良に呼ばれ、瑞鳳と入れ替わる陽炎。

既に腰にベルトでホルスターを提げていた。

「瑞鳳さんの使った横の的をつかってね」と言われ、

「はい」と答え、射撃位置に着いた。

足を少し開いて構え、ホルスターのホックを外した。

「では、初めてください」と由良が言うと、

 

陽炎は呼吸を整え、少し身構えて、

「陽炎 行きます!」といい、

ホルスターからブローニングを引き抜いた!

素早く左手でスライドを引き初弾装填、両手で構え、少し腰を落とした。

流れるような動作で、ブローニングを構える陽炎。

次の瞬間、

 

タン! タン!と短い時間に2発発射した。

跳ね上がるブローニングのリコイルを上手く受け流しコントロールする。

的の後方に2つ砂煙が上がる。

 

ダブルタップ射撃

同一の標的に対して、短時間に2発発射して、確実に行動不能にする射撃方である。

9mm弾や32ACP弾など小口径銃でよく使われる射撃方だ。45口径などの反動の大きい拳銃では1発の殺傷能力が高い為にあまり使われないが、小口径の場合は有効な射撃方である。しかし、反動のコントールが難しくかなりの訓練を必要とする。

姿勢、呼吸、そして狙いとトリガーコントロールが重要なポイントだ。

 

陽炎はそれを見事に実践してみせている。

 

タン、タン!と小気味いい音が響く。それに合わせ的の後方に着弾した際の砂煙が上がる。

タン! タン!

最後は、

タン、タン、タン!とトリプルタップをしてみせた。

カチンと空撃ちを一回して、ハンマーを落として、姿勢を崩してスライドを引いて残弾が残っていない事を確かめ、マニュアルセイフティを掛けた。

 

由良が双眼鏡で的を確認すると、

「お見事です、全弾命中です」といい、

「よく訓練していますね」と付け加えた。

「ありがとうございます」と一礼して返す陽炎。

ブローニングをホルスターへ戻し、射撃位置を離れた。

 

次は長波であるが、彼女、殆ど拳銃射撃訓練をした事がない。

ここパラオでも今日が初めてである。

そもそも、呉の艦娘訓練学校で数回九四式拳銃を使い訓練しただけで、ど素人である。

「長波様! さーいくぜ!」と気合を入れて臨んだが!

 

結果は聞かないであげてほしい。

 

しょげながら下がる長波に、

「長波、まあ最初から当たる人なんていないから、大丈夫よ」と陽炎が慰めたが、

「ううう」と涙目である。

 

そんな皆の後で車の止まる音がした。

振り返ると自衛隊の高機動車が2台止まっていた。

車から降りてきたのは、泊地提督と自衛隊司令、そして いずもや こんごう達であった。

「おっ、やってるやってる!」と言いながら ひえいが運転席ドアを開けて降りてきた。

助手席から こんごう、後部から はるなに きりしま、すずやである。後方の車両からは泊地提督達が降りてきた。

いずも達はいつもの青い艦内士官服であったが、こんごうと ひえいだけは陸自の迷彩服3型を着ていた。

こんごうは、いつもは長く伸ばしているブラウンの髪を綺麗に束ねて、野戦用丸天帽子を被っていた。

 

丁度、由良と鳳翔が射撃訓練を始めようと構えていた所である。

由良の銃を見て ひえいが、

「由良さん、それモーゼルC96ですか!」

「ええ、そうですよ。7.63mmモーゼル弾の方です」と自分の拳銃を見せた。

それをキラキラした目で見る ひえい。

「あっ、後で撃たせてください。モーゼルなんてめったに撃てない」と興奮していた。

泊地提督が近寄り、

「ひえいさんは拳銃に詳しいのかい」

「はい」と答える ひえい。

すると提督は、

「由良のモーゼルはね、ドイツから取り寄せた純正品だよ」

「本当ですか!」という ひえい。

じっと由良のC96を見る ひえい。

由良が、

「後で撃ってみますか?」

「おっ、お願いします!」と由良を拝んだ。

そんな ひえいを見ながら いずもが、

「ひえい、邪魔しちゃだめよ」

「はい、副司令」といい、後方へ下がった。

 

C96を構える由良。

隣では、ブローニングを構える鳳翔。

 

二人揃って射撃が始まった。

次々と的に穴が開いていく。

「ひえ~すご!いい腕」と驚く ひえい。

 

「ひえい、ちょっと手伝ってよ!!」と こんごうに言われ振り返ると、

みんなでテーブルを広げていた。昨日海岸で使ったピクニックテーブルだ。

慌てて駆け寄る ひえい。

「ごめ~ん」と言いながら、自分も準備に入った。

はるなと きりしま、そして すずやは、海自で使用するタクティカルベルトに革製ホルスターをつけるとそれを腰へ装着した。

こんごうは愛用のブラックホーク社のSERPA(セルパ)のレッグホルスタータイプを装着し、ひえいはサファリランド製ホルスターを装着した。

各自、高機動車の後部からハンドガンケースを取り出してテーブルの上に置く。

ケースの中にはスライドに桜に錨の刻印の入った9mm拳銃が収められている。

既に各艦の砲術科の武器庫担当科員が点検を行っているので、直ぐに使える状態である。

こんごうが弾薬ケースを持ち出しそれを開くと、9mm用のマガジンと紙製箱に収められた9mm弾が納められていた。

こんごうがそれを皆に配る。マガジンは一人2個。

それを受け取った ひえい達が手際よく弾を装填していく。

すずやも装填するが、中々うまくいかない。

「意外にかた~い!」といい、四苦八苦していた。

横で見ていた こんごうであるが、

「すずやさん、弾頭の部分を無理に押し込んじゃだめよ!」と注意を促した。

「えっ!」

こんごうは すずやの手からマガジンを取ると、

「こう、リムケースの部分を押しながらゆっくりと押し込んで行くの。弾頭の部分はさわっちゃだめよ、意外に柔らかいから直ぐに変形するわ」そう言いながら、

「いい、すずやさん。その弾丸1発は貴方を守り、貴方が守るべき人を守るの、大切にしなさい」と続けて語った。

「はい、こんごうさん」すずやはそう返事をすると、表情をきびしくした。

 

射撃訓練を終えた由良達が、泊地提督達の元へ寄って来た。

「提督さん、先に訓練を開始しています」と由良が報告した。

「ああ、少し見たが、いい結果のようだね」

「はい、長波ちゃんは初めての射撃訓練ですから仕方ありませんが、他の方は問題ありません。特に今回は、瑞鳳さんと秋月ちゃんの成績がいいです」

由良から一回目の射撃成績表を受け取る泊地提督。

「ほう、瑞鳳、前回とはえらい差だな」

瑞鳳は前回の訓練では殆ど当たらなかった。

「はい、鳳翔さんに助言してもらったら、当たるようになりました」

「その調子で頑張ってくれ」と提督は瑞鳳の頭を撫でた。

「秋月は流石に、この手の呑み込みは早いな」

「はい、提督。この銃の癖も掴みました。秋月、大丈夫です」と胸を張った。

成績表を見て、

「長波は、まあお約束だな」というと、

「うう、提督!」と涙目の長波。

「どうした長波?」

「散弾拳銃とかないですか?」

「はあ?」と周囲の由良達が一斉に皆で返事をした。

「だって、主砲も散弾なら当たりました。拳銃も散弾なら当たります!」

それを聞いていた ひえいが、

「ぶぶ~!だめです」と答えた。

「ええ!なんで!!」と長波が言うと、

ひえいは

「確かに拳銃用ショットシェル、散弾は存在するけど、殆どが威力が小さくて、射程も短い。主に農園なんかでうろつく毒蛇退治で使う程度で、対人用にはあまり向かないわよ」

「ううう」という長波。

「まあ、これは慣れだから、じっくり時間をみて訓練しよ」と陽炎が慰めた。

 

いずもが 由良へ、

「すみません、皆で押しかけて」と言うと、

「いえ、私達も給弾とかがありますから。それに自衛隊の皆さんの射撃訓練を見学できる良い機会です」

いずもは振り返り、

「こんごう、準備は?」

「はい、整いました。最初に はるな、きりしま、すずやで訓練を行います」

いずもは、

「では、はるなは私が、きりしまは ひえい、すずやさんは こんごうがサポートを」

「はい!」そう言うと、

「じゃ、3人とも射撃位置へついて」

はるな達はそれぞれ射撃レーンに並び、ポケットから防護用のメガネを取りだし装着した。きりしまはいつものメガネをはずし、特製のシューティンググラスをかけ、耳を保護する為イヤーマフを装着した。

 

後にはそれぞれ いずも、ひえい、こんごうが並び、安全確認を行う。

いずもが、

「位置について!」と号令すると、一斉に腰のホルスターから9mm拳銃を抜いた。

すずやは前方の安全確認を行うと、右手をホルスターにはわせカバーを開き、そっとグリップを握り9mm拳銃を抜いた。

 

“重い”というのが第一印象だった。

 

こんごう艦内で、武器庫担当妖精から9mm拳銃の使用方法について説明を受けた。

最初は、おもちゃの9mm拳銃で使い方の練習をした。弾倉にガスを入れて、小さな白くて丸い弾を込めて、撃ってみた。

本物の様にスライドが動いて小さな弾が出た事に驚いたが、担当員から構え方や、レバー類の操作を教えてもらった。

1時間程度、みっちりと室内で10m先の的へ向けて弾を撃った。

その後 こんごう艦長が帰って来てから、本物の9mm拳銃を使った模擬射撃“空撃ち”をしながら、射撃姿勢と呼吸法、引き金の引き方を訓練して来た。

右手に9mm拳銃を持ち、こんごう艦長から弾倉を受け取る。

それをグリップへ差し込み、カチッと音がするまで押し込んだ。

後の こんごう艦長を見て、

「装填しました」

「じゃ、チャンバーへ装弾して」

そう言われ、銃口を下へ向けスライドを引いて、静かに離す。

“カチャン!”という小気味よい音がした。

「はい、構えて」と言われ、慎重に腕を伸ばして 9mm拳銃を構えた。

呼吸を整え、20m先の的をじっと見る、

フロントサイトとリヤサイトを慎重に合わせて、的を狙った。

「射撃開始!」という こんごう艦長の声で、静かにトリガーを絞った。

 

タン! という音と同時に襲ってくる反動、

“うっ、思ったより大きい!”

暴れる9mm拳銃を手首で抑え込んだ!

 

的の後方で砂煙が上がる。

「当たった!」と思わず声がでた。

「すずやさん、気を抜かないで!」と後方から こんごう艦長の叱咤が飛ぶ!

「はい、こんごう艦長!」

再び狙いを定め、射撃を続けた。

 

隣のレーンでは はるな、きりしまが射撃をしていたが、こちらは慣れたものだ。

はるなの拳銃射撃はしっかり狙うタイプ、由良の“よ〜く狙って!”という感じで、確実に当てて行く。対照的なのが きりしま。

素早く構えると、タン、タンと一定ペースで射撃をする、127mm砲の射撃のような感じだ。だが決して粗雑に撃っている訳ではなく、リコイルコントロールが上手く動作に無駄がないのだ。

バシ、バシと的に当たるのを見ながら泊地提督は、

「皆さん上手だね、司令」

「ありがとうございます。はるなも きりしまもまあ、訓練成績はいい方ですから」

「しかし、あの大型の拳銃をよく使いこなしているね」

「あの9mm拳銃、見た目は大きいですが、米軍のM1911より300gも軽い仕様です。グリップも細く、日本人でも十分扱いやすいようになっています」

「国産かい?」と提督が聞くと、

「残念ながら、開発はドイツです。日本で改良生産しています」

「やはり、その手の兵器はドイツが最先端か」

「携行火器については、戦後もH&K社など有名なメーカーが多く残りました。ヨーロッパの銃器文化のせいですね」

提督は双眼鏡を覗きながら、

「すずや君は意外によく当たっているね」

「はい、こんごうが指導していますし、元々理解力、応用力が高い艦娘です」

「はは、自衛隊に任せないで、うちの艦隊に貰えば良かったかな?」と提督は笑いながら答えた。

「重巡の配備をご希望ですか?」と司令が聞くと、

「ああ、もし自衛隊が来なければ、重巡を1隻なんとかしてくれと打診していた」といい、続けて、

「妙高型か高雄型を1隻なんとかしてくれと言ったが、皆人気があってな。高雄は横須賀が離さない、摩耶、鳥海はトラック、妙高はルソン、那智は幌筵、足柄は呉、羽黒は対馬と、要所を守る要だ」

「そんな時に自分達が現れた」

「ああ、正直嬉しかった。期待と不安が錯綜したよ。長官や 三笠様が来て、君たちと共闘できると知ったとき嬉しかった。これで少し 由良にも楽をさせてやれると」

提督は、テーブルに集まり自衛隊の射撃訓練を見学している 由良を見た。

「本当に感謝しているよ、司令」

「はい」と短く返事をする司令。

「しかし、こうなると少し欲もでてくる。重巡は無理でも増援の駆逐艦はぜひ欲しい」

「駆逐艦ですか?」

「ああ、これから戦域は少しずつ拡大する。今まで以上に後方支援基地としてのパラオの機能も強化したい。特に輸送船団護衛は死活問題だ」

「はい、自分達の次元でも補給路の細さが最後まで問題となりました」

提督は、

「軍令部や連合艦隊司令部に駆逐艦増援の話はしているんだが、俺は軍令部での受けが悪くてね、なかなかいい返事がない」

提督は 由良の横にあつまる 睦月達を見て、

「吹雪達特型や 陽炎型、最新鋭の 夕雲型などは前線に近い所に集めている。ここも無理を言って 陽炎と 秋月を貰った。長波はなし崩し的にうちに引き込んだ。睦月型でもいい、もう1隻欲しいところだ」

「すると、三日月さんや 望月さん、弥生さんあたりですか?」と司令が聞くと、

「本音を言えばそうだが、彼女達は人気があってな、引く手数多だ」

提督は、

「それよりも前の艦もあるが、艦娘はいいとして能力的にどうなのか、疑問も残る」

「確かに 睦月さん達の前の艦では、外洋航行や長期作戦は厳しいですね」

「まあ、いざとなれば有人の海防艦でも構わんと思っているよ」

提督はそう言いながら、射撃を続ける すずや達を見た。

 

射撃場では すずや達がマガジン2本分の射撃を終え、後へ下がった。

いずもが、

「はい、皆さん、問題はないようですね」

「はい、副司令」と代表して はるなが答えた。

皆で後方のテーブルまで戻って来た。

そこでは泊地の皆が待っていた。

「皆凄いですね、バンバン当たってましたよ!」と瑞鳳が言うと、

「僕もその銃欲しい」と 皐月がさりげなく言ったが、

陽炎が、

「あんたのカメラとどっちが高いかしら?」

「もちろん、僕のカメラ!」と自慢げに答えたが、陽炎が、

「どうせ、宇垣参謀長から貰ったんでしょう。“これで好きな物でも撮れ”って」

「なんで知ってるの!陽炎!」

「やっぱりね」とにんまりとする 陽炎。

「あっ」という 皐月。

 

いずもが、

「ありがとう、瑞鳳さん」

「しかし、皆さんお上手ですね」と鳳翔が言うと、

「こんごう達は、士官候補生時代から射撃訓練は必須科目です。自衛官としては基本です」と いずもが答えた。

「ねえ、こんごうさんと ひえいさんはしないのかにゃ」と 睦月が聞いて来た。

「彼女達は彼方で訓練しますよ」といい、横の小銃射撃場を指さした。

そこには別のテーブルが広げてあり、こんごうと ひえいが装備品の点検と給弾作業をしていた。

皆で移動して近くに寄った。

小銃射撃場は長さ200mはあるが、午前中に自衛隊の人が来て何かして行った。

よく見ると、射撃場の中に複数の大きな板が立ててあり、壁のようになっていた。

「あの板、なんだろう?」と 陽炎はいったが、

「なんでしょう?」と 秋月達も不思議がった。

こんごうと ひえいが準備をしているテーブルへ近づいてテーブルの上を見て驚いた!

そこには、2丁の見た事のない小銃のようなものがあった。

こんごうと ひえいは、たぶんその小銃用の弾倉の様な物に弾を込めていた。

テーブルの上には無数の弾倉と実弾が並んでいた。

由良が、

「こんごうさん、この小銃見た事がありませんね」と声を掛けた。

「ええ、2020年に正式に採用された20式自動小銃です」

「フタマル式自動小銃?」

「ええ、自衛隊の最新鋭小銃です」

「昨日、見た小銃と違いますね」

「いずも艦内で見たやつですね。あれは89式と言って1989年に採用されたもので、これはその後継銃です」

陽炎が、

「38式歩兵銃より銃身が短い」

「ええ、14インチです」と こんごうが答えた。

 

20式自動小銃、別名和製SCAR(スカー)

自衛隊が旧式化した89式に替わり開発したものだ。FNハースタルのSCARを意識して作られた自動小銃だ。NATO規格の弾薬5.56mm×45弾を使用し、レシーバー部分には4面のピカティニーレールを装備。

アルミと樹脂を使用したフレーム構造で見た目より軽く、基本装備だけで3㎏と軽量だ。特徴的なのは、どう見てもSCRAと同じにしか見えないストック部分というか、この部分はFN社の技術提供を受けている。グリップはマグプルタイプで細身で こんごう達の様な女性でもしっかりと握る事ができる。

マガジンも30発入りのSTANAG仕様のスケルトンマグプルタイプだ。

折り畳み式のフロント、リヤサイト、こんごうと ひえいは固定サイトは使わずにホロサイトを装備していた。

ちなみにこのホロサイトは制式装備品ではなく、こんごうと ひえいがグアムに行った際に購入した私物である。

 

マガジンに弾を詰め終えた二人はマガジンポーチを腰へ装備し、防弾ベストを着こんだ。

頭に陸自仕様の88式鉄帽2型を被り4点式あご紐でしっかりと固定した。

こんごうのテッパチの右側には小型CCDが装備され、二人ともインカムを装着している。

こんごうは20式小銃をライフルケースから取ると、先端のハイダーを取り外し、サプレッサーを装備した。ひえいも同じだ。

このサプレッサーは消音というより、銃口よりでる発射炎を抑制するのが目的である。

 

こんごうの20式にはレールカバーが装着され、ひえいはフォアグリップを装備していた。

その後、マグプルのワンポイントマルチミションスリングを装着し、準備を整えた。

防護用のゴーグルをかけ、20式小銃を抱え、射撃位置へつく二人。

マガジンを装填し、コッキングレバーを操作して、初弾を装弾した。

こんごうは周囲の安全を確認した後、

「射撃準備よし!」といいながら、小銃を再び確認した。

横の ひえいも、

「同じく準備よし!」と声に出した。

 

いずもが二人の後方に立つ。その後ろには 由良を始め泊地の艦娘達、はるな達は司令と一緒に少し離れた所から見ていた。

いずもは周囲の安全を再び確認し、

「射撃はじめ!」と号令しながら、右手に持つストップウォッチを押した。

 

こんごうは腰を少し落とし素早く小銃を構え、右手の親指で“ア、タ、レ”と書かれたセレクターレバーを回し、“タ”へレバーをセットした。

ちなみに、アは安全、タは単発、レは連射である。

89式にはこのほか3点バースト射撃機能があったが、実用性がないという事で20式では廃止された。

 

ホロサイトを覗き込み、レティクルを200m先の標的に合せ、2回トリガーを引く、

タン! タン!と続けざまに発射される5.56mm弾、右方向に排莢され空中を舞う空薬莢!

 

こんごうはインカムで、

「ひえい、出るわよ!」

「了解、カバー!」

こんごうは数歩前に出ながら、タン!タン!と射撃を続けた。こんごうが動いている間、後方の ひえいは膝撃ちで掩護射撃を行っている。浅くつま先立ちで直ぐに動ける様に構えている。

200m先の標的の後方に複数の砂煙が上がった!

こんごうは射撃を続けながら、標的との間に設置された複数の障壁の一番手前まで来た。素早く壁に身を隠し、再び小銃を構えた。

即座に ひえいが、

「こんごう、出るよ!」といい、ひえいが立ちあがり前へ進む。

「了解!」

その間にも こんごうは標的に向け、正確な射撃を繰りかえす。ひえいは腰をかがめながら、こんごうと同じように歩行射撃をしながら別の障壁へたどり着き、再び膝撃ち姿勢で的を撃ち続けた。

再び こんごうが、

「30m進む!」と叫んだ。

「了解、カバーする!」と答える ひえい。

こんごうは再び障壁から飛び出しながら、歩行射撃で的を撃つ。

その後方で ひえいが牽制射撃を行う。

こんごうが30m先の障壁へ辿りついた瞬間、

「リロード!」と言いながら、20式のマガジンリリースボタンを押して空のマガジンを落とし、左腰に装着したマガジンポーチから新しいマガジンを抜き素早く装填、ボルトリリースボタンを押して初弾を装弾した。

その間も ひえいは断続的に射撃を行って こんごうのリロードをサポートする!

こんごうが射撃を再開したのを見て、

「こんごう! 前にでるよ!」

「カバー!」と返事をする こんごう。

ひえいは持前の俊足を生かして、小走りに走りながら こんごうの横をすり抜け、前方の障壁へ辿り着くと、

「リロード!」と叫び、空のマガジンを捨て新しいマガジンを装填した。

 

そんな二人の射撃を後方で見ていた泊地の艦娘達は呆気にとられた。

「すご!なんであんな事ができるの!」と声に出す 陽炎。

「そうですよね、それにきちんと当ててますよ!」と 秋月が答えた。

それを聞いた長波が、

「秋月さん、どのあたりが凄いんですか?」

「だって歩きながら撃ってますよ!」

「えっ、撃つだけなら簡単じゃないですか!」と長波は言った。

「あんたは、全弾外してよく言えるわね」と 陽炎に言われ、

「いい、長波。揺れる艦の砲を目標に照準する事の難しさは知っているわよね」

「はい」

「あの二人は動きながら小銃の照準をきちんと決めて、そしてほとんど当てている。私達みたいにじっとして狙って撃っているわけじゃないわ」

「そう言われれば」と答える 長波。

「いい、それに小銃は4kg近くあるわ。それをぶれずに、しっかり保持して走りながら撃つなんて。それも全弾当てているわよ」と 陽炎が驚いた。

陽炎は腕を組んで、

「う〜ん、これは こんごうさんを口説く少尉も命がけだわ」と呟いた。

 

後方のテーブルでは泊地提督と自衛隊司令がノートパソコンを眺めていた。

そこには こんごうのテッパチに装備されたCCDカメラの映像が流れていた。

こんごうと ひえいの会話も聞こえる。

「いや、これはまさに戦場にいる感触だね」

「提督、これはまだ訓練で、相手は反撃してきません。次の訓練はもっと厳しい訓練です」

そう言うと隣の敷地、運動場に立つ小さなプレハブ小屋を見た。

 

「しかし、今回は訓練だが前線の情報がこうも鮮明に分かると、指揮官としてはありがたいな」

「はい提督、指揮官は瞬時に前線の状況を判断する事ができます。そして自分の判断が間違った場合」

「場合?」

「彼女達が戦死する瞬間を垣間見る事になります」と静かに自衛隊司令は語った。

泊地提督は、

「厳しい現実だな」と こんごう達を見ながら言った。

 

そんな話をしている内に こんごう達は、標的まで30mまで接近していた。これから先、障壁はない。

最後の障壁の後へ隠れる こんごうと ひえい。

「ひえい、制圧射撃。一気に攻める」

「了解」

こんごうは呼吸を整え、

「GO!」というと障壁から前へ躍り出た。セレクターレバーを“タ”から“レ”へ替え、短くトリガーを引いた。

タタタ!と独特の連射音を響かせ、空薬莢が宙を舞った。横では ひえいも前へ飛び出て、連射を加えながら、前方へ駆け寄る。

標的に次々と弾が命中する。既にいつくかの標的は穴だけにされ砕け散っていた。

目標まで20m。

こんごうの持つ20式小銃が最後の銃弾を打ち切って“カチャン”という音と共にボルトストップがかかる。即座に こんごうは右手首を捻りボルトが後退している事を確かめると、そのまま小銃を降ろし、左手で背中へ回した。それと同時に右手はレッグホルスターにはわせ、9mm拳銃をホルスターから抜き切った。両手でしっかりとホールドしながら、確実に標的へ向け、タン! タン!と拳銃射撃を開始した。

その間も足の歩みは止めずしっかりと距離を詰めていく、ひえいも拳銃射撃に切り替えた。

標的まで10m!直ぐ目の前に標的がある。

こんごうは射撃を続ける。人型標的の中心、そして頭部と射撃を続けた。突然、スライドが後退して止まった。残弾を打ち切った。

グリップ底部のマガジンキャッチを操作して、空のマガジンを引き抜き、素早く腰のポーチから次のマガジンを抜き、差し込むと同時に左右を見て、周囲を確認した。

このリロードの瞬間が一番無防備なのだ。周囲を確認する習慣をつけておかないと、周囲から攻撃されかねない。

スライドを少し引き初弾を装弾、再び構え射撃を再開した。

 

タン!と最後の一発を発射した。

周囲を確認する。

「状況報告!」と こんごうが言うと ひえいが

「クリアー!」と返した。

ひえいも射撃を終了し、9mmを構えたまま待機していた。

 

いずもは、

「状況終了!」と声に出した。

 

姿勢を崩し、9mm拳銃をホルスターへ戻す こんごうと ひえい。20式の安全装置をかけ、マガジンを抜く。

「いや~ 撃ったね!」と ひえい。

「ちょっと撃ち過ぎたかしら?」と こんごう。

そう思うのも仕方ない。前方の標的は全て穴だらけで、殆ど原型を留めていない。

「いいんじゃない、撃たなきゃ腕が鈍るわよ!」と ひえいが返し、続けて

「空薬莢拾わなくていいってのも、ありがたいね」

「それは、ほんとそう思うわ」と こんごうも頷いた。

 

自衛隊は空砲、実砲共に厳重に数量を管理している。例え1発の訓練用空砲でも演習場で紛失しようものなら、師団全員で広い演習場を隈なく捜索する事になる。

過去には、実弾が紛失した事もあった。これは配布した弾数と返却された薬莢の数が合わない事から発覚し、師団全員で探したが遂に発見できなかった。

これほど厳しい管理をしていても、紛失や帳簿の記載ミスなどで弾薬数量が合わない事はあるが、何とか今まで、犯罪に転用される事は防いできた。

空薬莢も全て回収する。64式、89式、そして20式小銃も通常訓練では薬莢受けを装置して空薬莢を回収する。他国の軍隊では考えられない行為であるが、創隊直後の貧乏時代から薬莢を回収して再利用してきた。

ただ、例外もある。

海外での演習の場合は、持ち出した弾は全て現地で使い切る為、空薬莢は回収しない。

正確に言えば、後で現地の専門の民間業者が産廃として回収するのだ。

 

笑顔で はるな達の所へ戻る こんごう。

「すご~い、こんごうさん、ひえいさん!」と 瑞鳳が声を上げた。

「ほんと、あんな射撃初めてみました」と秋月。

「ありがとう、でもまだこれは序の口かな」

「えっ!」と驚く泊地の艦娘達。

 

「次はあれを使うわ」といい、隣の運動場に設置されたプレハブ小屋を見た。

小屋の周囲には小さな別の小屋や障害物が置かれていた。

「?」と状況が飲み込めない泊地の艦娘達。

 

「ふふ、後のお楽しみネ」と意味深な笑みを浮かべる こんごう。

こんごうと ひえいは泊地提督と自衛隊司令、そして いずもの前に来ると、

「射撃訓練、第一段階終了しました」と申告した。

いずもは手元のストップウォッチを見ながら、

「はい、時間的には問題ありませんね。お互いの連携も取れています。では次の訓練に移りなさい、こんごう」

「はい、副司令」と敬礼して、再び装備品をまとめて はるなへ

「はるな、きりしま。私と ひえいは次の訓練の為に移動するから あとよろしく」

「は~い、こんごう」と はるなは返事をした。

「すずやさん、いずも副司令と訓練を続けて」

「はい、こんごう艦長」と返事をする すずや。それを聞いた こんごう達は高機動車で別の場所へ移動した。

その後、由良達泊地艦娘と残った はるな達は各々射撃訓練を続け、1時間ほどで訓練を終了した。片付けをする由良達とは別に泊地提督と自衛隊司令は横の運動場の隅へ移動してきた。

 

運動場のほぼ中央に平屋のプレハブ。

その周囲には複数の木箱や障壁、少し離れたところに小さな小屋があった。

いずもは すずやを連れてその小さめの小屋へ近づいた。

小屋の外には小さめのテーブルとイス、小屋の中には人型の標的が一つ、テーブルの所にも一つ。

「ずずやさん、歩哨所はこんな感じ?」と いずもに聞かれ すずやは、

「はい、窓の向きもこれでいいです。此方が正面です」と正面方向を指差した。

「歩哨は中に一人と、外に一人ね」

「はい、夜間はいつも二人でした」

 

そういうと、次はプレハブ小屋へ向かった。

周りを一周する。

「窓の方向は間違いない?」と いずもが聞くと、

「はい、方向はいいです。もう少し大きい感じがしました」と すずやが答えた。

ドアを開け室内に入る。少し狭い廊下を通り、一番奥の部屋の前に来た。

「ここね?」

「はい、ここが司令官室です」

べニア板で出来たドアを開ける いずも。

「ドアの開閉方向やノブの位置はこれでいいの?」

「はい、この位置です」と すずやは答えながら室内に入った。

 

正面には小さなソファーに執務机、その机の左右には複数の人型の標的。

すずやはその一つの標的の前まで行き、ポケットからネームペンを取り出すとその人型標的の顔の部分に、

“クソ司令!!”と書き込んだ!

 

「もう直ぐ時間よ」と いずもが告げると、

「くたばれ! このクソ司令!」と標的を足蹴りして、部屋を去った。

 

プレハブ小屋から出てきた いずもと すずやは泊地提督と自衛隊司令が待つ運動場の端に向かった。既に片付け作業の終わった 由良達や はるな達が一緒に待機していた。

椅子に座り待機する泊地提督と司令の前までくると いずもは、

「司令、確認作業終了しました」

すると司令は、

「では、状況を開始してくれ」

「はい、司令」と返事をすると、右耳に装着している小型インカムを操作して、

「アルファリーダー!こちら いずも。状況開始!」

すると こんごうの声で、

「アルファリーダーラジャー!」と短く返事があった。

 

司令は、

「最初の標的は?」と聞くと、

「まず、歩哨を無効化します」と いずもが答えた。

 

その答えと同時に、タン!と短い銃声がして、歩哨小屋の中の標的の頭部に1発命中した。

続けてもう一度乾いた音で、タン!と小さな銃声がした。多分鳥のさえずりでもあれば聞き漏らすほど小さい、少し音が木霊していた。

最初に撃たれた標的の近くにある別の標的の頭部が粉々に打ち砕かれた。

 

「何処から撃っている?」と泊地提督が聞くと、

司令は振り返り、

「あの400m程先の丘の上からですよ」といい指さした。

「おっ! あんな遠くからかい!」といい、手元にある双眼鏡で丘の上を見たが、全く兵士の姿が確認できない。

提督は横に座る由良へ双眼鏡を渡し、

「分かるか?」と聞いた。

由良は双眼鏡を受け取り、そっと司令が指さした方を見た。

精神を集中して、艦娘特有の視覚を駆使した。

「あの大きな木の下に小さな“気”を感じます。でも殆ど分かりません、言われて初めて分かる程度です」

それを聞いた いずもが、

「ダメですね、艦霊力が漏れているようでは!」といい、手に持ったボードにメモを取った。そして、

「映像出しますね」といい、パソコンを操作して画像を呼び出した。

そこには監視用の小型ドローンが撮影した、丘の上の大きな木が映っていた。泊地提督は、

「どこにいるのだい?」というと いずもは、

「ここです」と木の根元を指さした。

一見すると、少し茂った樹木が見える。しかし次の瞬間、樹木がほんの僅か動いた。

動いた部分を拡大すると、そこにはギリースーツを着こんだ ひえいと、監視要員の陸自隊員妖精がいた。

普段から少し日焼けした健康優良児な ひえいであるが、今は顔と言わず露出している部分の肌はドーランで迷彩されていた。

ひえいはじっとしながら、愛用のM40A5狙撃銃を伏せ撃ち状態で構えていた。

このM40A5H(ひえい)モデルは、ひえいの為に米国海兵隊にオーダーして製作されたモデルで、ストック形状やショルダーパットの形状も ひえいの体形に合わせて調整されたカスタムモデルである。

 

それを見た泊地提督は、

「ひえいさんかい?」

いずもが、

「はい、長距離射撃なら ひえいの右に出る者はいません。今日は400mですが、最長では1000mでも射撃可能です」

「1km!」と驚く泊地提督。

そう話している内に、パタパタと独特な音が聞こえてきた。

提督の後で見ていた 瑞鳳が、

「あっ!オスプレイちゃんの音だ!」と叫んだ!

 

丘の後方から、地形に沿って超低空飛行をしながらオスプレイが急速に接近してきた。

地形を巧みに使い、まるで這うように進む姿から「匍匐飛行」とも呼ばれる。米軍ではNap-of-the-Earthと呼ぶ飛行法だ!

 

オスプレイは、此方へ近づくと固定翼モードからヘリコプターモードへとチルトローターを可動させ、急速に減速した。泊地提督の頭上を越え、運動場の端に高度20mの高さにホバリングした。既に後部貨物室のカーゴドアが開放されている。ホバリングに入った瞬間、カーゴドアから太目のロープが2本地面へ向け降ろされた。ロープが地面に付いた途端に一人がロープを伝い、滑り下りて来た!

まるでスルスルと降りていく、よく見ると こんごうだ!

束ねた長い髪が風に舞っている!

直ぐ横のロープからも別の隊員妖精が降りて来た!

 

泊地提督は、

「速い!」と唸った!

まだオスプレイが現れて30秒も経ってない内に既に兵員の降下が始まっていた。

 

こんごう達は、ファストロープ降下という方法で降下を行っていた。

通常ヘリコプターからの降下は、リペリングという方法で降下を行う。

カラビナなどの降下器を使い、細いロープを使い安全、確実に降下する方法だ。比較的降下までの時間がある場合に用いる。しかし戦場などで長時間ホバリングできない場合はファストロープという方法を用いる。これはまさに体力勝負というべき降下方だ。組んだ足の摩擦力と腕の腕力だけでロープを滑って降下する。丈夫な手袋をしていないとあっという間に手の皮がむけてしまう。自分の体重と装備の重量が足と腕にもろにかかる。無論危険も多く、一歩間違えればそのまま落下し兼ねない。

しかし、降下器などを使わない為、接地後すぐに戦闘状態に入れる利点もある。

 

オスプレイのサイドドアには、M134 通称ミニガンが装着され周囲を警戒していた。

 

最初に降下した こんごうは、後続の隊員妖精と直ぐに20式小銃を構え周囲を警戒した。

次々と降下する隊員妖精、20名近い要員が降下するのに3分もかからない。

皆腰を屈め、円陣を組みながら20式小銃を構えた。

全員が降下すると、オスプレイはロープを垂らしたまま急速に運動場から離れて行く。

降下した隊員妖精は2つに別れ動き始めた。

こんごう率いる部隊はそのままプレハブ小屋へ向う。

もう一つの部隊は、先程 ひえいが狙撃した歩哨小屋を中心に警戒配置へ就いた。

全員小銃を構え、小走りに走りながら進む。先頭を行く こんごうが遮蔽物に隠れると、他の隊員も続く。その間も小銃を構え、警戒に隙がない。いつ敵が襲ってきても問題ないように、全周を警戒している。最後の隊員が障壁まで辿り着くと、前方の隊員の肩を軽く叩く。順次前方の隊員の肩を叩いて、最後へ こんごうまでつなげる。ここまで一言も発していない。

 

それを見ていた提督は、

「オスプレイの音は仕方ないとしても、静かなものだな」というと、

「はい、基本は静音侵攻です。静かに敵深く侵入し、目標を定め、一気呵成に攻めます」

と司令が答えた。

横で見ていた長波が、

「“突撃!”とか言わないですか?」と聞いてきた。

「長波さん。この手の作戦では、相手に気がつかれてはダメなんです。静かに舞い込み、侵入する。相手が気が付いた時は、既に目の前に こんごう達がいる状態です」と いずもが説明した。

「これなら20名で50名を制圧する事もできるな」と泊地提督が言うと、

「この作戦の要点は、如何に相手に気がつかれずに警備所内へ侵入できるかです。相手に反撃の機会を与えない事、それが最も重要な要点です」

「それで本番は落下傘降下なのかい?」

「はい。当日は夜間に遠方から落下傘降下、滑空しながらこの警備所へ侵入します」

 

こんごうはハンドサインで合図し小隊を分離させ、一部を障壁へ残し警戒させた。

いずもはパソコンの画面をこんごうが装備するCCDカメラへ切り替えた。

画面を見る泊地提督、そしてその後ろで鈴なりとなり食い入るように見ている 睦月達。

「およ!小屋に着いた!」と 睦月が声に出した。

こんごうは壁面に沿うような形で、プレハブ小屋へたどり着いた。

こんごうの後には、こんごうと同じ迷彩色の戦闘服に身を固めた隊員妖精が続く。

こんごうがハンドサインで何かを指示した。

すると数名の隊員妖精が こんごうの横にある入口のドアを挟み反対側へ向かう。

 

一人の隊員妖精が こんごうの横からドアの斜め前へ出た。

こんごうが頷くと手に持ったレミントンM870散弾銃を構えた!

 

そしてドアのノブへ向け、散弾を数発を撃ち込む!

粉々に砕け散るドアノブ。次の瞬間 こんごうは勢い良くドアを足蹴りした!

こんごうの反対側で待機していた隊員妖精が中へ飛び込む。続いて こんごう達も即座に飛び込んだ。

 

いずもはパソコンの映像をプレハブ小屋の内部映像へ切り替えた。

廊下を小走りに走る こんごう達。二人一組となり、次々と部屋へ突入する。

各部屋の中には複数の人型の標的が置いてあり、突入した隊員妖精達は、その標的に向い20式小銃を発射して制圧していく。

こんごうと数名の陸自隊員妖精は一番奥の部屋の前まで進む。

 

こんごうがハンドサインで何かを告げる。

少し後ろへ下がる隊員。

先程のM870を持った隊員妖精が前へ来て、こんごうに合図するのと同時に、ドアノブを散弾で吹き飛ばした。それを合図に こんごうがドアへ体当たりして一気に中へ突入した!

室内に入るとこんごうは、即座に20式を構え、複数ある標的へ射撃を行う!

特に すずやが書いた“クソ司令”と書かれた標的には念入りに撃ちこんだ!

 

射撃が終わり、一瞬静寂が訪れた。

「状況報告!」と こんごうが言うと、

 

「クリアー!」と一番身近な隊員妖精が答えた。そして次々と、

「クリアー!」と返事がくる。

別の部屋へ突入した隊員妖精達からもインカムを通じて、「クリアー!」と返事が来た。

 

こんごうは、

「ひえい、そっちは!」

「周囲、脅威目標なし。クリアー」と報告してきた。

こんごうは落ち着いて、

「制圧完了!」と宣言した。

 

いずもは、

「はい、こんごう。状況終了。全員、外へ出て集合しなさい。ひえいも撤収していいわ」

「はい、副司令」と返事をする こんごう。

しかし ひえいは、

「ちょっと、誰か迎えに来てよ!」とブツブツと話していた。

 

結局 きりしまが高機動車を運転して ひえい達を迎えに走った。

 

プレハブ小屋の前へ整列する こんごうと特殊作戦群の陸自隊員妖精。

遅れてギリースーツを着た ひえいと監視員が並んだ。

 

司令と いずもが前へ出る。

「気をつけ!」と こんごうが号令し、

「敬礼!」と言うと一斉に敬礼した。

答礼する自衛隊司令と いずも。

「皆、ご苦労だった。初回の訓練とはいえ、動きもいい。作戦開始まであまり時間が無いが、宜しく頼む」と司令は手短に挨拶した。

「はい、皆さんお疲れ様でした」と いずもが話を続けた。

「今回は初回という事で一般的な突入訓練でしたが、大きな問題もなく良かったです。実際の作戦は夜間になりますので、この後、夜間作戦の訓練を実施します」といい、

「ひえい。遠距離射撃の際、あまり殺気立つと艦霊力が漏れているわよ」

「えっ!本当ですか!」と驚く ひえい。

「さっきの射撃の後、由良さんに発見されています」

「注意します」と返す ひえい。

 

自衛隊司令は

「こんごう。先程、連合艦隊司令長官より、作戦に関しての承諾を得た」

「はい、司令」

「48時間以内に行動を開始する」

「了解致しました」

「詳細については いずもが詰める。こんごう、ひえい、並びに特戦のメンバーは訓練を続行してくれ」

「はい」と返事をする こんごう。

 

司令と いずもは こんごう達と別れながら、

「本番はこれからだ」というと、

「はい、司令。早急に作戦準備に入ります」と いずもが返した。

 

運命の歯車は、その動きを速めていた。

 

 

 

トラック泊地 夕刻

夏島にある料亭、その奥の一室で軍令部連絡将校と参謀本部連絡将校は席を囲み、一人の芸子の踊りを見ていた。

芸子さんは踊りを終えると、二人の元へ行き、

「お一つどうぞ」と杯を差し出した。

それを受け取る参謀本部将校。

芸子さんは慣れた手つきでお酌をしながら、次は軍令部将校へお酌をした。

芸子さんは、

「トラックに陸軍さんとは、珍しいですね」と聞くと、

「なに、次の作戦の打ち合わせだ」と言いながら酒を煽った。

すると芸子さんは、

「聞いていますよ、近くの島を攻略するそうですね」と笑顔で話しかけ、再び陸軍の将校へお酌をした。

陸軍将校はそれを受けながら、

「マジュロという島だ」

「マーシャルの首都ですね」と芸子が答えた。そして、

「でも、あそこにはとても大きな戦艦がいると聞きましたよ」と答えた。

海軍将校が、

「君、よく知っているね」といいながら酒を煽ると、

「これでも海軍料亭の芸子ですから」とにこやかに答えた。

海軍将校へお酌をしながら芸子さんは、

「確か、何人か島に残ったままになっているとお聞きしましたよ、海軍さんもそれで手が出せないと」

すると陸軍将校は、

「ふん、長官も 三笠の尻にひかれて情けない」といい酒を煽った。

「まあ、歴代の長官は皆、三笠と大巫女が陛下へ推挙して決まります。頭が上がらんのでしょう」と軍令部将校が答えると。

「情けない、だからあんな弱腰になる」といい、参謀本部将校は再び酒を口に含んだ。

「マジュロの深海棲艦など南雲艦隊で蹴散らし、我々が強襲上陸すれば話が早い話。それをいちいち“拝謁権”など持ち出しよって、あの女狐!」と語尾を荒げたが、芸子さんにどうぞとお酌をされ、

「おう」といい、それを受けた。

「陸軍さんは威勢がよろしいですね」というと、

「我々が敵前上陸すれば、深海棲艦の部隊など蹴散らしてくれる」

芸子さんは、

「では、南雲さんがお手伝いをされるのですか?」とさりげなく聞いた。

「そうだ。赤城、加賀で深海棲艦の艦艇を撃破して上陸部隊を掩護する。あっという間に片付くぞ」といい、上機嫌で陸軍参謀は答えた。

陸軍参謀は芸子さんの手を取り、

「お前、珍しい髪の色だな」というと、そのやや銀髪かかった髪を持つ芸子さんは、

「これは地毛よ。ここには艦娘さんも時々来ますから、私の様な子が呼ばれる事が多いですよ」と笑顔で答えた。

 

海軍将校が酒を飲み終えたのを見た芸子さんが再び海軍将校へお酌した時、外から

「お連れ様が御着きになりました」との声が聞こえ、そっと障子が開いた。

そこには正座してお辞儀をする女将と、その後ろには南雲中将がいた。

南雲を見た陸軍将校と海軍将校は、

「南雲司令、さっどうぞ」といい、南雲を上座へ招いた。

南雲は芸子を一瞬見たが、次に、

「女将、これから少し込み入った話をする。後はこちらでするから、彼女も下げておくれ」と優しく言った。

「はい、南雲様」と女将は一礼すると、これを聞いた芸子さんも、

正座をして深々と一礼し、女将の後をついて席を離れた。

 

障子が閉まり人の気配が消えた。

上座に座る南雲へ、

「無粋な男の酌で申し訳ない」といい陸軍将校が南雲へ酒を注いだ。

「では」といい、3人で挨拶がてら酒を口へ運んだ。

陸軍将校は、

「流石、海軍の主要基地ですな。こんな立派な料亭があるとは」

南雲は、

「いや、これは四艦隊の井上がトラックはあまりに僻地過ぎていかんと言って、横須賀の女将に無理にお願いして来てもらったものだ。ここの従業員や芸子さん達の安全は我々海軍が保障する」

陸軍将校は、

「綺麗どころもいますし、ほんとにうらやましい。台湾にも欲しいですな」

南雲はそれには答えず、

「軍令部参謀、用件を伺おう」と切り出した。

 

軍令部参謀は鞄から一通の手紙を出し、それを南雲へ渡した。

「軍令部総長からです」

手紙を受け取り、一読する南雲司令。

軍令部参謀は、

「南雲司令、我々軍令部は陸軍師団を無事マジュロへ送り届ける事を約束しています。もしそれが出来ない時は軍令部総長の顔をつぶす事になりかねません」

それを聞いた南雲は、

「この手紙にある様に陸軍師団をマジュロに送り届けたとしよう。人質解放はどうする?」

それには陸軍参謀が、

「マジュロには深海棲艦の陸上部隊はいない、海上封鎖されているだけだ。浜につければ後は一気に上陸するだけ」と答えた。

南雲は、

「それでは沖合の重巡艦隊に砲撃されて、人質はひとたまりもないぞ!」と声を上げた。

しかし陸軍参謀は、

「そこまでは我々も責任が負えないな。そもそもマジュロは戦地だ。民間人が戦闘に巻き込まれる事もありうる」そう言うと、

「まあ、頭を低くして近くの山にでも逃げるだろう」といい、酒を飲んだ。

 

それを聞いた南雲は頭を抱えそうになった!

〝こいつ等、作戦地域の地形も理解してないのか! マジュロはラグーンだぞ! 身を隠す所なんてほとんどない!“

険しくなる南雲の表情。

それを見た軍令部参謀は、

「南雲さん。ここはひとつ総長の顔を立てるという事で、赤城と 加賀で陸軍師団を擁護してもらえませんか?」

南雲は、

「無茶を言うな!どうやって擁護するんだ!俺達は後方で敵の動きを待つんだぞ」と言ったが、それには海軍参謀が、

「なに、作戦中は無線封鎖状態です。空母艦隊が少しの間行方不明になっても問題ありませんよ。それにマジュロを奪還出来れば国民や陛下もご納得されます」

南雲は海軍参謀を睨み、

「もしそんな事をすれば、長官は許しても、三笠様が黙ってないぞ!三笠様が行くなと言えば 赤城も 加賀も動かん。それ位お前にもわかるだろう」

「直接指揮権ですか」と海軍参謀が答えた。

「そうだ。赤城達艦娘艦隊の指揮権は本来、艦娘の長である大巫女様と 三笠様が持つ。我々連合艦隊はその指揮権を一時的に預かっているに過ぎん!」

 

それを聞いた陸軍参謀は、

「情けないですな、たかが小娘に振り回されるとは」と言った。

「貴様!」と南雲が陸軍参謀を睨んだが、

「まま、南雲さん」と海軍参謀が宥めた。

陸軍参謀は、

「その大巫女と 三笠の権威もいつまでも続くとは限りませんよ」

「どういうことだ!」と南雲が聞いた。

それには陸軍参謀は不気味な笑いを浮かべ、

「今の 三笠達の権威は明治天皇が与えた大権が元ですが、その大権さえなければただの娘。三笠などは旧式の軍艦で、大巫女の船も呉で訓練艦、殆ど脅威にもならんでしょう。その大権さえ廃止すればよい事」

「そんな事が可能なのか?」と南雲が聞いた。

「なに、陛下にウンと言わせる環境さえ作ればよいのです」と陸軍参謀は答えた。

 

南雲は、

「貴様ら本気か!」と言ったが、それには二人は目に笑いを浮かべながら無言で答えた。

南雲は内心、

“こいつら、どうかしているぞ!”と思った。

 

その話をじっと隣室で聞き耳を立てる人影。

先程の芸子さんだ。南雲達の話が雑談になった事を確かめると、気配を消しながら奥の控え室へ向った。

控え室に入り、着物を女性従業員に手伝ってもらいながら脱いでいつもの服へ着替え、お化粧を落とし、髪をほどいていつもの髪型に整え、そして

「やっぱりこっちの方がいいわ!」といい、女将さんに挨拶して裏口へ向った。

 

裏口から出ると一台の車が止まっていた。

黙って助手席へ滑り込みドアを閉めた瞬間、その芸子は思いっきり、

「大淀さん!なんで私がこんな真似しなきゃいけないの!」とハンドルを握る 大淀を睨んだ!

その答えは 大淀からではなく後の席から、

「それはだな、叢雲。お前が一番踊りが上手かったからだな」

それを聞いた 叢雲は後を振り返り、

「参謀長!それなら 大和さんとか榛 名さんとか得意そうじゃないですか!」

すると宇垣は、

「お前。大和も 榛名もそりゃ踊りを踊ればうまいだろうけど、二人とも戦艦だぞ、面が割れているからな」

それを聞いた 叢雲は、

「どうせ私は、その他雑多な補助艦艇!特型駆逐艦ですよ」とむくれたが、車を走らせながら 大淀が、

「それで?」と話を切り出した。

叢雲は、

「はい。軍令部と参謀本部は南雲さんを総長の名前を使って抱き込み、陸軍師団をマジュロへ進出させ、強襲上陸を目論んでいます」

宇垣が、

「南雲は承諾したのか?」

「いえ参謀長、返事は濁しています。三笠様の大権がある限り自分の一存では艦隊は動かせないと抵抗しています」

「だろうな」と頷く宇垣。

叢雲は続けて、

「ただ、陸の参謀は 三笠様の大権も長くは続かないと話していました」

「どういう事だ?」

「詳しい話は避けていましたが、三笠様も明治天皇陛下から授かった大権がなければただの娘と」

それを聞いた宇垣は、

「どう思う 大淀?」

「それは甘いですね」とあっさりと答えた。

叢雲は、

「軍令部側は、総長からの内示で何とか南雲さんを従わせようとしています」

宇垣は、

「大体こちらの思った通りか」といい、

「叢雲、この事は口外するな」と念を押した。

 

そう話している内に車はトラック泊地、連合艦隊艦娘寮の前まで来た。

降りようとする 叢雲へ 大淀が、

「叢雲さん、これを」といい 白い封筒を渡した。

それを受け取り中身を見る 叢雲。

「えっ、これは?」

「お座敷に上がったでしょう?女将さんからお座敷代だそうです」

「でも、これは参謀長の機密費になるのでは?」

すると宇垣は、

「叢雲、今日のお前は“叢雲”ではなく、たんなる一人の芸子さんだ。有難く貰っとけ」

「いいのですか?」と不思議がる 叢雲。

「いいじゃないか、たまには副長達にもうまいもん食わせてやれ」

「あっ、ありがとうございます!」と嬉しそうに話す 叢雲。

大淀が、

「女将さんから“艦娘を引退したら、いつでもうちの店に”ですって」

すると宇垣も、

「叢雲、良かったな。再就職先が決まって」と笑いながら話したが、

「私はまだ、引退する気はありません!」といい、車を降りて小走りに走り去った。

向うは寮の隣にある酒保だ。

嬉しそうに走る 叢雲を見ながら 大淀は、

「機密費からでよろしいですか?」と聞いたが宇垣は、

「いや、俺の給金から引いといてくれ」と答えた。

 

 

そんな会話がされていた直ぐ近くの湾内に停泊している一隻の空母。

その士官室で一人寂しく夕食を摂る一人の艦娘。

お茶碗を持ちながら、深いため息をついた。

テーブルの上の魚の煮つけには殆ど手がついていない。

「おっ、どうした 赤城。司令と一緒にパインじゃないのか?」と言われ振り返ると、そこには草鹿参謀長と源田航空参謀が立っていた。

「お二人とも今から夕食ですか?」

「ああ、南雲司令から渡された今度の作戦の概要書を検討していた」と草鹿が答えると、

二人して 赤城の対面に座った。

直ぐに給仕担当の兵員妖精が、草鹿達の食事を運んできた。

「遅れてすまないね」と源田が兵を労った。

「赤城、それで足りるか?」と 赤城のお茶碗を見た草鹿が言うと、

「参謀長、私はこれで十分です」

小ぶりのお茶碗に少しご飯が盛ってあった。

「確かに私の艦は大食いですけど、艦娘 赤城はこれで十分ですよ!」

少しむくれて話す 赤城。

「ようやく笑ったな」と草鹿に言われ、

「で、長官は一人で行ったのか軍令部の接待」

「はい、私もお伴しましょうかって言ったのですが、“一人でいい”と言われて」

草鹿はお茶碗を持ち少し考え、

「多分、共犯者を作りたくなかったんだな」

「共犯者ですか?」と 赤城が聞くと、

「ああ、多分軍令部、参謀本部の奴ら南雲司令を抱き込んで、マジュロへ強襲上陸するつもりだろう」

すると源田が、

「それは今日の会議で山本長官が反対されたと聞きましたが」

「ああ、俺もいたがかなりきつく反対された」

「では、なぜ南雲司令へ?」

「源田、南雲司令は義理堅い方だ。総長あたりの名が出てくれば従うと思うな。もしそうなったときに俺達まで巻き込みたくなかったんだろう」

 

草鹿はご飯を口へ含むと、むしゃむしゃと嚙みながら、

「まあ、俺としては、南雲司令の判断に従うだけだ」といい、赤城を見た。

赤城は、

「私も司令に従います」と短く答えた。

源田はその会話を聞きながら、

「司令には厳しい判断ですね」

「ああ」と短く返事をする草鹿。

今はそれだけで十分であった。

 

静かにトラックの夜は更けて行った、

 

しかしここパラオでは、闇夜の中訓練は激しさを増していた。

 

既に日は沈み、周囲には暗闇の静けさだけが漂う運動場。

そこには はるなと きりしま、そして すずやが運動場の外に駐車した高機動車の影で待機していた。

真っ暗な中、すずや達は暗視装置を使い、周囲の安全確認を行っていた。

頭上を見上げる すずや。

「来ました!」

はるな達も頭上を見上げると複数の影が空を舞っていた。

少しパタパタという音が聞こえる位で殆ど音がしない。

はるなは、

「はじまるわよ、すずやさんは周囲の安全確認をして、きりしまは記録ね」

「はい、はるなさん」といい、暗視装置で再び周囲を確認する すずや。

その瞬間、パンと少し乾いた音がした。一呼吸おいてもう一度、パンと音がする!

すずやが歩哨小屋を見ると、人型の標的の頭部に銃弾が命中しているのが分かる。

 

パタパタと小さな音がして、影が舞い降りてきた。

暗視装置でそれを見る すずや。

装備の所々にケミカルライトの発光体がついているのか、それが少しだけ光を出しているのが分かるが、それ以外には真っ暗で何も見えない。暗視装置でようやくその影が こんごう達である事が分かる。

着地した こんごうは素早くラムエアーパラシュートを切り離すと、折り畳み式の銃床を展開し、小銃を構えた。

ヘルメットにはGPNVG-18型暗視装置を装備している。

四眼式の暗視装置で、パッと見た感じまるで昆虫の目のような感触を受ける。

本来自衛隊はⅤ8を装備しているが、Ⅴ8は視野が狭い。Navy SEALsなどに倣いGPNVG-18を特戦では使用していた。

最新機種はフルフェイスマスクタイプで、ほぼ全周を見る事ができる物も開発されていたが、特戦では少し古いGPNVG-18暗視装置を使っていた。

 

全員が着地し、一斉に闇夜の中を動き障壁へと向かう。昼間と同じように躊躇なく行動する こんごう達。

着地して数分も経たない内にプレハブの中からくぐもった銃声がした。

そこでようやく こんごうの声が無線から響く。

「状況終了、各班集合!」

 

ぞろぞろとプレハブの中から隊員妖精達が出てくる。

全員、ドーランで顔を迷彩し、表情がよく解らない。唯一 こんごうだけが素顔であった。

 

こんごうは無線で、

「ひえい、訓練終了よ。引き上げて」

「了解!終わった~!」と安堵の声を上げ、

「きりしま、迎えに来て!」と声に出したが、

既に きりしまは高機動車で出た後だった。

「ひえい、そっちに きりしまが向ったわ。ライトで合図して」

「は~い」と間の抜けた声が聞こえる。

 

はるなが野外用の大型ライトを点灯すると、高機動車の回りが明るくなり、ようやく周囲が見渡せる状況になった。

後方で待機していた3トン半トラックが動き出し、複数の陸自隊員妖精が先程降下の際に使用したラムエアーパラシュートを回収している。

装備を抱えた特戦隊員妖精と こんごうは、はるな達の前のテーブルの前に集まった。

テーブルまで来ると皆、小銃からマガジンを抜き、コッキングレバーを引いて残弾を抜き取った。

こんごうは、

「皆、そのままで聞いて。今日の訓練はこれで終了します」

「はい、こんごう小隊長」と一分隊の分隊長が代表して返答した。

「明日は、マルキュウマルマルから、一分隊は私と再度突入訓練。二分隊は いずも副司令の監督の元、桟橋に係留中の貨物船を使った制圧訓練。三分隊は ひえいの指揮で駆逐艦を使った防衛訓練を行います。何か質問は?」

一分隊長が周囲を見回したが、

「特にありません」と答えた。

こんごうは、

「では、各員装備を確認して、分隊毎に解散!お疲れ様」というと、

「お疲れ様でした!」と全員が返事をした。

 

すると暗闇の中、誰かが歩いてくるのが見えた。

「誰?」と こんごうがハンドライトを向けると、大きな重箱を持った 鳳翔とヤカンを抱えた 瑞鳳、そしてランタンで足元を照らす 陽炎であった。

「鳳翔さん!」と こんごうが言うと、

「皆さん、お疲れ様です。提督さんから差し入れです」といいお重を差し出した。

「えっ」と驚く こんごう。

「皆さんが特殊任務の為訓練していることは、先程提督と 由良さんからご説明頂きました。私達は何もできませが、せめてこの位はさせてください」といいテーブルへお重を置き、包みを開き蓋を開けた。

そこには大き目のおにぎりや玉子焼き、鶏肉の炒め物などが詰まっていた。

「よろしいのですか?」と こんごうが聞くと、

「はい、夜も遅いですから」と言われ こんごうは時計を見た。

既に夜の9時を回っていた。

時計を見た瞬間お腹が鳴った。

「では、遠慮なく頂きます」といい、

「皆、頂きましょう」と言うと、

「はい、こんごう隊長」と一斉に返事をしてテーブルに集まった。

はるなや すずやが、陽炎が持ってきたお箸やお皿を配り、受け取った者から重箱のおにぎりやおかずを取り分けて行った。

こんごうもおにぎりを一つ手に取った。

手は訓練の際に埃まみれであったが、それを気にしては特戦隊員は務まらない。

ゆっくりと口へ含む、しっかりと握ってある。しかし固くなく、お米の柔らかさが残る絶妙な握り加減。多分 鳳翔さんが一つ一つ丁寧に握ってくれたものだ。

「うん、美味しい」心からそう思った。

人は究極の状態を体験すると、素朴な味に感動するものである。こんごう達特戦の隊員は幾度もそれを体験してきた。

背後で高機動車が止まる音がした。ドアが開いた瞬間、

「あっ、ずるい。こんごう!私の分は!?」と ひえいの声がしたが、その ひえいの姿を見た 瑞鳳は大声で、

「きゃー!なまはげ!」と叫んだ。

 

「へっ」と間の抜けた ひえいの返事が響く。

瑞鳳がそう言うのも仕方ない。

スナイパー用の迷彩ギリースーツを着こみ、顔はドーランで迷彩色に塗装?されて大型ライフルを持つ姿は、まさに“なまはげ”である。

「瑞鳳さん、ひどい」と言いながら近寄る ひえい。

周囲から笑いが漏れた。

そんな緊張の緩む雰囲気の中、陽炎が こんごうに近付き、

「こんごうさん、いい?」と声を掛けて来た。

「はい、陽炎教官」と答えると、

「提督から聞いたわ、ルソンに行くのね」

「はい、深海棲艦の悪霊妖精に占領された警備所を奇襲します」

陽炎は意を決して、

「私も連れて行って」

「何故です」と こんごうは静かに聞いた。

「あそこには親友がいるの、曙よ。横須賀時代、一緒に14駆逐隊を編成していたわ」

「危険ですよ、敵が支配する地域へ強襲です」

「ええ、でもあなたが行くなら、私も行く!親友を助けたいじゃ理由にならない?」と腰に手を当て聞いてきた。

こんごうはその姿を見て、

“この方は今も、そして未来も変わりなく、親友を大切する方ですね”と思い、ポケットから一枚の紙を出し、それを 陽炎へ見せた。

 

そこには強襲部隊の編制が書かれていたが、最後の覧に、

“随行員 すずや、陽炎”と記載されていた。

 

不意に 陽炎は後ろから抱きつかれた、振り返ると すずやであった。

「陽炎、二人で、いや皆で 曙を助けに行こう!」

「はい、すずやさん」と 陽炎は返事をし、

そして静かに、

「曙!待ってて!今助けに行くから!」と囁いた!

 

頭上には月が綺麗に輝いていた。

 

 

そんなパラオからおよそ1,800km。

アパリ近郷の小さな港町の一角に日本帝国海軍 ルソン北部警備所はあった。

既に陽は落ちて暗闇の中、桟橋を歩く一人の少女。

長い髪をピンク色の大きな花飾りでまとめ、アクセントに鈴をつけている。少し歩く度にその鈴が小さく鳴っていた。

トボトボと歩く先には平屋の建物。入口には、

「日本帝国海軍、ルソン駐留 北部警備所」と綺麗な字で書かれていた。

それを見た艦娘 曙は、

「ああ、これ書いたの堀司令だったわ」と呟いた。

警備所建設当初、何にもない所へ皆で警備所を作っていった。

最後に掛けたのがこの看板だった。

 

ドアを開け警備所の中へ入る。静かな廊下の一番奥の部屋、警備所司令官室を目指す。ふと、

「この廊下、こんなに長かったかな」と思った。

堀司令がいた頃はここも明るくいつも笑いの絶えない所だったのに、彼奴が来てから 鈴谷さんがおかしくなっていった。遂に出撃して帰って来なかった。

全部、彼奴が来てからだ!

ぎっと一番奥の部屋を睨んだ!

 

ドアの前まで来ると、そのドアを静かにノックする。

「入れ!」と返事が来た。

 

ドアを開け静かに室内に入ると、薄暗い部屋の中に男が二人、ここの司令と副官だ!

司令と呼ばれる男は執務机に座り、此方を見ていた。痩せこけた頬に生気の無い目がぎらついていた。

「今日の哨戒任務の報告書よ」といい、数枚の紙を机に投げ出した。

「ご苦労でした」と男性の副官が 曙に近寄ろうとしたが、

「この!近寄るな!」と睨みつけた。そして目前の警備所司令を睨み、

「このクソ司令、一応命令だから従ってやる。でも近寄るな!」と睨みつけた。そして、

「あんたが、あんたが 鈴谷さんを虐めなければ!」と言いながら拳を握った。

すると警備所司令は、

「ほう、俺が何をした」

すると 曙は、

「あんたが 鈴谷さんに無理な出撃を強要したんじゃない、あんな連日の戦闘なんて!!」と司令を指さした!

「だったら、お前が行けば良かったじゃないか」と言われ 曙は、

「うっ」と詰まった。しかし、

「トラックやルソン中央からの指示書もない、単に親戚から聞いた話だけで出撃させるなんて異常だわ。私達はあんたの私兵じゃないのよ!」

「でも 鈴谷は俺の指示に従って出撃し、戦死した。それだけだ」

それを聞いた 曙は遂に、

「だっ!誰が 鈴谷さんが戦死したって確認したのよ!!行方不明なだけじゃない、もしかしたらどこかの無人島で座礁してるかもしれないじゃないの!」

「ふん、そんな都合のいい話があるか。いいか 鈴谷はこの警備所から勝手に居なくなった、敵前逃亡だ。今頃、連合艦隊に捕まって解体されているかもな」

「あんた、それでも司令官なの!!」

「そうだ」と警備所司令は冷たく言い放った。

「最低!くたばれクソ司令!」といい、ドアを蹴り外へ出る 曙。

 

退室した 曙が廊下へ出るのを確かめ、ドアを閉める副官。

「困った奴です」

「もうひと押しか」と警備所司令が聞くと、

「はい、司令。だいぶ精神的に弱ってきています。その証拠に我々の存在に違和感をもたなくなりつつあります。自我が崩壊さえすれば精神を乗っ取る事も可能かと」

すると警備所司令は、

「鈴谷の時は、最後まで妹の存在が邪魔して精神崩壊を起こせないまま逃走したが、曙は頼る奴もいない。乗っ取るのには好都合だ」

すると副官は、

「そろそろ潮時ですか」

「ああ、東京への仕掛けは出来上がった、ここも飽きたしな。それにそろそろこの体も限界だな」といい自分の体を見た。

「まあ、次の獲物を探しますか」

「ああ、いい獲物がいればまた魂を食い乗っ取るか」といい、不気味な笑いを浮かべた。

 

 

トボトボと来た道を再び帰る 曙。桟橋に自分の艦が見える。今、唯一心が落ち着く場所だ。

てくてくと歩きながら不意に頭上の月を見上げて、

「鈴谷さん」と呟いた。

鈴谷さんや堀司令と過ごした時間が脳裏に思い浮びあがる。

「何で!何でこんな事になったの!」と叫び、そのまま崩れ落ちて、

「鈴谷さん、堀司令!」と叫んだ。そして、

「もう、こんな生活 いや!」といい、顔を上げた。

知らない内に、目に涙をためていた。

 

 

“今助けに行くから!”

 

 

ふと、東の空を見上げた。誰かに呼ばれた気がした!

「東か」といい、じっと東の空を見上げて、

「パラオ、陽炎」と呟きながら 曙は、

「陽炎、私どうしたらいいの!」といい、再び立ち上がり、またトボトボと歩きだした。

 

その寂しげな姿を、天空の月が明るく照らし、静かに聞こえる波の音だけが周囲に響いていた。

 

 




こんにちは
スカルルーキーです

分岐点 こんごうの物語 第36話をお届けします

まずは御礼から
毎回、皆様から誤字報告はじめ、感想を頂き、厚く御礼申し上げます
Z11様からは 各話の誤字報告を頂き、ここで御礼申し上げます

毎回 皆様の感想を励みに執筆活動しておりますが、こんな稚拙なSSでも読んで頂き、有難い限りです。

さて 今回の作品を書くにあたってショッキングな出来事が!
こんごう達の訓練シーンを書くにあたり、中々イメージが湧かないので、久しぶりに
マルイのスタンダードのM4を持ち出して、マガジン4本を準備して、いざ訓練だ!と言いながら、撃ちまくりましたが、最後のマガジンを装填した時、M4がうんともすんとも言わなくなりました!
「えっ!」と言って 色々調べましたが、どうやらメカボックスがご臨終したようです( ノД`)シクシク…

うう! と唸りながら、
ここは修理か! それとも清水の舞台から飛び降りる気で新調か!

結果、新調しました。
もう財布は、すっからかんです!

何を新調したかって!
マルイM4の次世代 レイシーライフルです
ダニエルディフェンス公認 ハンドガードがごついよ~!

ハリスのバイポット装備で、気分はマークスマンです
ちなみにサブウエポンはP226E2です

次回は、
「でも 今は曙です」です

では


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