分岐点 こんごうの物語   作:スカルルーキー

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南の楽園の平穏な日々は終わりを告げ、次の戦いの鐘が鳴り響く





35 弾丸1

パラオ泊地に朝日が昇る

朝焼けに照らされながら、護衛艦こんごうの一日がスタートした。

早朝の甲板上では、すずやが朝のトレーニングの為、準備運動をしていた。

「遅いな〜、こんごう艦長」と呟いた。

普段なら既に準備運動をしているこんごうの姿が見えない。

そう思いながら、屈伸運動をしていると、ようやくこんごうの姿が見えた

 

「あっ、こんごう艦長! おはようございます」と元気に挨拶したが、

「ふぁ、おはよう すずやさん」と、未だ眠気から覚めないこんごう

「こんごう艦長、どうされたのですか?」

寝ぼけまなこで、こんごうは

「ごめん、調べ物してたら、夜更かししちゃって」

「は、はあ?」とすずや

すずやにしてみれば、昨日の男性恐怖症の件といい、今まで完全無欠の艦娘という印象のこんごうであったが、意外な一面を見て急に親近感を感じた。

「夜なら、すずやも得意ですよ」

こんごうは、ゆっくり体を動かしながら、

「さあ、今日も一日頑張りましょう」

「はい、こんごう艦長」

元気に二人で 後部甲板を走り始めた、

 

甲板をランニングしながら、こんごうは

「さて、どうやってあの男を探し出すか?」と呟いていた

 

ランニングを終え、総員起こしが掛かり、護衛艦こんごうの艦内は慌ただしさを増す。

こんごう達も自室へ戻り、身の回りの清掃を行う、出たごみは担当の二士が回収に来る。

すずやも現在使っている艦娘士官室の掃除を行う。熊野が書いた「整理整頓」という標語が張ってある机やベッドを綺麗にして、身支度を整える。

 

その後、士官室で副長達と朝食を済ませ、8時丁度に国旗掲揚を行う。続いて各科のミーティング、そして引継ぎ書類の確認などを淡々とこなしていく。

こんごうは艦長公室で、すずやと昨日の補給品の確認作業を行っていた。

「これだけの補給物資を半日で補給ですか?」

そこには使用した127mmの砲弾、SM-2、そして90式対艦誘導弾、燃料、食料などの物資リストが並んでいた。

 

「ええ、そうよ、SM-2や90式対艦ミサイルはあかしの作業船がロボットアームで補給してくれるわ、その他の物資はあかしからオスプレイで輸送よ、燃料は作業船から圧送ポンプで送るから1時間もあれば補給できるわ」

 

「鈴谷なら間違いなく3日はかかりますよ!」

 

「そうね、現行艦ならそうなるわね、私達の艦はその辺りも改良されているわ、90式対艦ミサイルもユニット構造を採用しているから、発射機ごと交換すれば短時間で交換できるし、整備作業はあかしの艦内で行うから、短縮できるわよ」

 

こんごうは、リストを捲りながら、確認し、承認のサインをしていく

確認作業が一通り終わり、リストをすずやへ渡した時、手元のタブレットが鳴った

画面を起動すると、いずもだ。

「こんごう、いま大丈夫?」

「はい、おはようございます 副司令」と朝の挨拶をした。

「おはよう、もし時間があったら今から泊地司令部まで来れる?」

「はい? 何か御用で」

「いえ 午後の訓練打ち合わせよ」といずもが言うと、

「はい、丁度 内示の件で確認したい事もありますので、伺います」

こんごうは、そう言うと通話を切り、机の引き出しから出した書類を鞄に詰めると、

「泊地司令部へ行ってくるわ、すずやさんは午後の訓練の準備をして、武器庫へ行って火器の取り扱い説明を受けておいて」

すると、すずやは

「はい、こんごう艦長」といい、

「書類を確認後、武器庫で科員より携行火器の説明をうけます」と復唱し、艦内電話をとり、甲板員を呼び、

「こんごう艦長が出ます! 内火艇の用意を!」と手早く告げた。

鞄と制帽を持ち、

「じゃ、いってくるわ、もしお昼までに帰らないときは、副長達とお昼をお願い」

「はい、こんごう艦長」と元気に返事をするすずや

 

昨日から、舷梯が降ろされており、舷門も設置されていた。

衛士の海士に敬礼しながら、舷梯を降りると、既に内火艇のエンジンがかかっており、甲板員が待機していた。

こんごうが乗り込むと直ぐに船外へ出て、

「お気を付けて、艦長!」と声を掛けてきた。

「ありがとう、じゃ行ってくるわ」と言いながら 一路泊地司令部を目指した。

 

内火艇を操船しながら、

「こう毎回 内火艇を出すのも大変だし、フィールド展開して歩いて行くのもきついし、ポンツーンでいいから、簡易桟橋が欲しいわね」と思いながら舵を切った

 

泊地の桟橋にくると、睦月達が自分の艦の整備、補給作業を行っていた。

皐月の横には、給油船が横付けされ、太いホースが数本繋がれている。

桟橋には、泊地内部から電源用のケーブルが引き込まれ各艦へ電源を供給していた

あかしの改修の第1弾 艦内電源の交流化のお蔭で、停泊中も電源が安定しており、艦内作業もはかどっている

睦月が、桟橋を歩くこんごうに

「およ、こんごうさん、おはようございます!!」と甲板上から声を掛けてきた

「おはよう、睦月さん!」とこんごうも手を振り挨拶した。

睦月の外側には大型のタイヤを使った防舷材を挟んで皐月が目刺し係留され給油作業中だ。

後方には、陽炎、長波が目刺し係留されており、同型艦のない、秋月は単艦で係留されている。

秋月だけはボイラーに火が入っているようで、少し黒煙を上げていた

甲板上で秋月が 整備作業の指揮を執っていた。

こちらに気がついたようで、

「おはようございます こんごうさん!」といい、ピシッとした敬礼で挨拶してきた

此方も、答礼しながら、

「おはよう、秋月さん」

すると、秋月は此方へ近寄り、

「あの、きりしまさんは艦の方ですか?」

「うん、そうよ」

「実は、今回の防空戦の検討をしたいと思いまして」

こんごうは少し考えて、

「今日は、お昼から泊地の皆と訓練だから、その後なら時間があるかもしれないわね」

「はい、ありがとうございました」と一礼して 艦内へ消えた

こんごうは、鞄を持ちながら、泊地司令部へと入った。

司令部の一階を抜ける、奥の席に鳳翔さんが事務処理をしているのが見えた、会釈しながら階段を上がり、2階の簡易指揮所の前へ来た。

ドアをノックし、

「こんごう 参りました」と申告すると、中からドアが開き、

「おはようございます こんごうさん」と由良さんが笑顔で出迎えてくれた

夏服用の制帽を取り、

「こんごう、入ります!」といい、室内に入った

室内は指揮所仕様から、今は会議室仕様となり、中央に大型のテーブルがある、壁面の液晶ディスプレイには、白いカバーが掛けられて、黒板で目隠しされていた。

テーブルには、泊地提督、一つ空き、自衛隊司令、そしていずもが座っていた。

対面の椅子には 帝国陸軍の夏用の防暑衣を来た男性が背中を向けて座っていた。

テーブルの上には略帽が置いてある

「陸軍?」と思ったが、まずは挨拶だ

「おはようございます、こんごう 参りました」と泊地提督達へ一礼した。

 

「おはよう、こんごうさん、実は来てもらったのは、こいつが貴方に用があるそうだ」と

泊地提督は前方の男性を指さした

ゆっくりと立ち上がり、振り向く男性

その男性の顔を見た瞬間、こんごうの目がつりあがった

 

「あっ、のぞき魔!」とつい叫んだ

 

そこには、昨日 海岸でこんごう達を監視していた「少尉」が立っていた。

「昨日は大変失礼した」と深々と一礼した

こんごうは、ゆっくりとテーブルの上に鞄と帽子を置き、

「何の御用ですか!!」ときつい目つきで聞き返した

 

それには、泊地提督が、

「実は昨日の件で こいつがどうしても謝りたいという事でな」

それを聞いたこんごうは、より一層目つきを厳しくして、

「謝る!?」 きっ!と少尉を睨みつけた。

すると少尉は、

「こんごうさん達には大変申し訳ないとは思うが、此方も上司からの指示でどうしても皆さんを監視する必要があった。今日は昨日の件のお詫びと今後の事について話に来た」

少尉は緊張しながらそう答えた。

 

こんごうは少し身構えたが、急に笑顔になり、そして

「ええ、分かりました。では少し彼をお借りします」と言うと、いきなり彼の襟元を掴み部屋の端へ連れ出した。

 

そっと小さな声で、

「まさか昨日の林の中での事、話してないでしょうね」

すると少尉は、

「なんの話だ!」と切り返した

「へ~、とぼけるわけ」

「忘れろと言ったのは君だぞ!」と少尉は厳しく返したが、

「じゃ、覚えているわけね」

そう言われ無言の少尉。

こんごうは少し離れ、

「まあいいわ、探す手間が省けて」そう言うと、いきなり少尉へ向け左手をかざした。

一気に霊力を高め、力強く

「フィールド展開!」と声に出した。

こんごうの左腕のブレスレットが煌めき、前方で集積すると、空間にいくつもの文様を浮かび上がらせた。

ただいつものクラインフィールドではなく、文様が魔法陣の様な文様を浮かべていた。

それを見た少尉は、

「おっ、まっ、ちょっと!」と声を詰まらせた。

いずもが瞬間的に席を立ち!

「こんごう! 何やってるの!」と怒鳴った。

すると こんごうは、

「大丈夫です!少しこの男の記憶の一部を改ざんするだけです。多分痛くありません!」

すると少尉は、

「多分だ~!?」と こんごうを睨んだが、

「覚悟はいい!」迫る こんごう。

 

そんな二人を冷静に見ていた自衛隊司令は、

「いずも、頼む」とだけ呟いた

それを聞いたいずもは、テーブルの上にあった書類を丸め、一気にこんごうの後へ立つと こんごうの後頭部へ必殺の一撃を加えた。

“ぱこ~ん”と会心の一撃がこんごうに着弾した

「痛た!」とこんごうが言うと、急速にフィールドが霧散して行く

「副司令!」と振り返るこんごう

すると、いずもは、

「ちょっと 来なさい! こんごう!」といい こんごうを廊下へ連れ出した

 

廊下にでると、いずもは厳しい目つきで、こんごうを睨んだ

その眼は、完全に“怒っている”だ!

 

姿勢を正すこんごう

いずもは、腕を組んで、

「いったい どういうつもり!」

すると、こんごうは、

「はい、副司令 あの男の記憶の一部を消去して改ざんするつもりでした」としっかりと答えた。

「記憶を消去、改ざん?」といずもが問いただすと、こんごうは

「はい、昨日 その、・・・」と言いかけ、そして、

「あまり見られたくない物を見られてしまいましたので」と意を決して答えた

「見られたくない物?」

「そうです、副司令」と答えるこんごう

 

段々と、こんごうが赤面する様子を見ながら いずもは、小さな声で

「裸でも見られた?」と聞いたが、こんごうは赤面するばかりで答えがない

いずもは、深くため息をして、

「やっぱりあの海岸は何かあるのよ」と呟き、

「まあ、どういう状況だったかは、聞かないであげる」

「はい」

「でも、こんごう、それだけで、記憶を改ざんする魔術を使うのは考えものだわ!」と厳しい視線を投げかけた

「しかし、忘れろといっても容易くは!」とこんごうが反論したが、

「いい、こんごう 貴方の家系が他の艦娘と違い、あの血を引いている事は聞いています、しかし、その力を人に向けるとはどういう事ですか!」といい、続けて

「良い事、魔術 即ち事象の改ざんができるとはいえ、それを人につかえばどういう結果になるか、分かっている? もし術式に失敗すればあなた、彼を一生見ないといけないわよ!」

「そっ、それは」と答えに詰まるこんごう

「もう少し冷静になりなさい」と諭すいずも

「申し訳ございません」

 

「こんごう、貴方が私生活では女性ばかりで暮らしてきて、異性に対する接し方に戸惑いがあるのは分かるけど、このままだと一生独身のままよ」

「そっ、それは」

いずもは優しく、

「少尉さん、いい男じゃない。少しお話したけど誠実そうだし。まあ、これも縁ね」

そう言うと、

「お付き合いしてみる?」と聞いたが こんごうは、

「結構です!!」と即答した。

 

いずもは、少し優しく、

「一期一会とは言わないけど、チャンスは活かしなさい」

そう言うといずもは、再び指揮所のドアを開けた。

 

入室するいずもに続き、しょげたこんごうが入室し、泊地提督らへ、

「大変見苦しい所をお見せいたしました、申し訳ございません」と深々と一礼した

再び席から立つ少尉

「改めて、日本帝国陸軍、在パラオ歩兵中隊所属第1偵察小隊を預かっている 岡少尉です」

と挨拶し、

「よろしく、護衛艦こんごう艦長」と右手を差し出してきた。

一瞬、きっと睨むこんごうであったが、背後でこちらをじっと睨んでいるいずもに気落とされた。

「よろしく少尉さん」といい ひきつりながら笑顔を作り、握手した。

 

男性特有の大きな手、腕からも分かるが相当に鍛えているのだろう。しっかりとした体躯が分かる。腕には銃創もあった。

 

握手を終わり席に着こうとした所、いずもが、

「こんごう、少尉さんに紅茶を出してあげて」

「はい」と言いながら、指揮所に付属のティーセットを使い紅茶を入れる こんごう。

紅茶をとりわけ、由良が泊地提督や自衛隊司令へ配膳した。

少尉には こんごうが差し出した。

それを受け取り、一言

「また戦艦 金剛さん直伝の紅茶を楽しめるとは、うれしいですね」そして、

「戦艦 金剛さんのお孫さん」と付け加えた。

はっとして司令の顔を見る こんごう。

司令は、

「安心しろ、我々の情報はすでに彼には話してある。問題ない」

いずもが、

「少尉さんの身元は、泊地提督や 由良さんが保障してくれています」

 

すると こんごうは、

「全てを知っていたの!?」と少尉を睨んだ。

「いや、本格的に知ったのは今さっきだよ」と平然と答えながら こんごうの紅茶を楽しんでいた。

少尉はテーブルの上にカップを置くと、持参した鞄の中から、

「収集した情報はここに」といい、数枚の紙を提督へ渡した。

それを一読した提督は自衛隊司令へそれを渡した。

 

そこには、泊地内部に展開した自衛隊の規模、各艦の特徴、そして司令やいずも、こんごう達の容姿、推定される身長、体重などが書かれていた。

ちなみにこんごうだけは、胸部装甲の厚みがあった。

驚いたことに 何処で手に入れたのかこんごうの写真もあった。

「写真はどこで?」と司令が聞くと

「怒らんでください、皐月さんを釣りました」

すると、提督は

「ほう、皐月か?」

「はい、うちの情報とビール1本で」

「すみません、後で厳重注意しておきます」と由良が答えたが、それには少尉が、

「いえ、皐月さんには非はありませんよ、多分 宇垣さんあたりから陸の情報を集めろといわれたのでしょう、まあそれだけでは勿体ないから特務艦隊で一番の美人さんの写真をくれたら教えてあげるといったら彼女の写真がきましたよ」と笑いながら答えた。

 

提督は、写真だけを少尉へ返し、

「それで皐月には何を話したんだい?」

「先輩、東京でのお土産話ですよ」

泊地提督は、少尉へ向け、

「まずは、特務艦隊、自衛隊の情報収集についてだが、何処から依頼があった?」

「自分に直接命令したのは、中隊長ですが、中隊長には参謀本部から打診があったようです」

「打診?」

「ええ、先輩 正式な命令系統ではなく、参謀本部から連絡員が来て、うちの中隊長へ指示したそうです、“内々にパラオ泊地の動向を探れ”と」

泊地提督は、

「陸の参謀本部はなんで パラオを探るんだ?」

「これは、参謀本部へ顔を出した時に聞いた話ですが、参謀本部内でマーシャル諸島への作戦参加を画策していて海軍の情報を集めているという噂を聞きましたよ」

「マーシャル諸島の作戦への参画?」

少尉は声を潜め、

「以前、大巫女様が大本営会議で陸軍大臣を頭ごなしにしかりつけたという事は、しっていますよね」

「ああ、概要は聞いているが」

「その反動で、参謀本部の若手将校が軍令部に対して落とし前をつけろ!と詰めかけたそうです」

「本当か!」

「ええ、先輩、抗議に行った当事者が自慢げに話すのを聞きました」

「それで?」

「軍令部の作戦課長あたりが、参謀本部に“マジュロ奪還の一番乗りをさせるからそれで”という事で方が付いたようです」

少尉は続けて、

「主にトラックやここの情報を集めているのは 参謀本部付きの中将です」

由良がそっと提督に、

「ルソン北部の司令の叔父にあたる方です」と告げた

提督は自衛隊司令を見て

「これで 繋がったか?」

自衛隊司令は

「ええ 陸を使ってここやトラックの情報を集めて、そしてその中将を経由してルソン、そして最後は」

提督は

「道理で此方が気がつかないはずだ、身内が知らない内に間諜か?」

自衛隊司令は、

「多分 その陸の中将は自分が利用されている事に気がついているはずです、本人としてはルソンを上手く使っているつもりでしょうが、実体は使われていると考えるべきでしょう」

提督は、

「狸と狐の化かしあいか?」といい、続けて

「この話は親父さんへ回していいのか? 少尉」

「構いません、多分大方は掴んでいるとは思いますが」

提督は、少尉に

「少尉、自衛隊に関する情報だが、これと置き換えてくれ」といい、数枚の書類を渡した

内容を一読する少尉

「大分、過小評価ですね」

「ああ、済まんできる限り、隠ぺいしたい、中隊長へは?」

「先輩 こちらから、当たり障りのないように言っておきますよ、あの中隊長は駆逐艦と戦艦の区別もつかん方ですから」

 

提督は、

「それで 参謀本部の雰囲気は?」

「最悪ですよ、先輩 先程の件もそうですが、参謀本部の若手将校の中に“お上の御心を惑わしているのは、海軍神社の大巫女と三笠だ!”という風潮が蔓延し始めています」

「ほう」

「過激な者は、南進政策を支持する皇室の方を立てて、事を起こすべきとの声もあります」

「なっ、クーデターか!」

「ええ、515や226も真っ青ですよ」

「そこまでなのかい?」

「まあ、冷静に考えればそんな事はないとすぐに分かるはずですが、あの手の輩は直ぐに血が上りやすいですから」と少尉は続けて、

「それを煽っているのが、先程の中将派ですよ。南進政策を進め、大東亜共栄圏を樹立し、我が国に繁栄と栄光をというスローガンを立て活動しています」

「本当か!」と身を乗り出す提督。

「ええ、先輩。自分も東京へ帰った際に誘われて勉強会に参加してみましたが、ナチス党の宣伝文句を聞いているようでしたよ」

少尉は続けて、

「我が軍は南進して、オーストラリアを占領して、アフリカを制したドイツと手を組み、インドを制圧してアジアの君主となるべきであるという論調ですよ」

「危険だな」

「はい、今のところ陸軍大臣と参謀総長が抑え込んでいますが、不満が溜まれば」

「それで、ガス抜きの為にマーシャル諸島一番乗りか?」

「まっ、そんな所でしょうね。先輩」と少尉は話を括った。

 

 

すると こんごうが、

「あのよろしいですか?泊地提督」

「何だい?こんごうさん」

こんごうは横に座る少尉を睨みつけ、

「先程から、泊地提督の事を“先輩”と呼んでいますが」

「ああ、説明していなかったね。この岡少尉は俺と同じ広島の出身でね、同じ町内だ。まあご近所という事だ」

少尉は、

「先輩には子供の頃から大変お世話になりましたよ」

提督は、

「お前も陸なんぞに入らんで、うちへ来れば、今頃何処かの泊地の司令あたりになっていたのにな」

「先輩、それは言わんでください」

いずもが、

「少尉さん、なぜ陸軍へ」

それには泊地提督が、

「こいつ物凄い船酔い体質でな、海軍の身体検査が通らなかったんだ」

「先輩、それは」といい、少尉が慌てた。

「まあ、いいじゃないか。こんごうさん達の泳ぐ姿、見たんだろ」

「それは」といい横のこんごうをチラッとみる少尉であったが、こんごうは平静を装っていた。

少尉は、

「まあ、それも理由なんですが、海軍は入隊基準が厳しい。士官候補生になるのも大変です。自分としては早く士官になりたかったので手っ取り早く陸へ志願したまでですよ」と笑いながら答えたが、提督が、

「少尉の家はね、家族が多い。弟や妹がまだ大勢いる。早く士官になって両親に仕送りしたかったそうだ」

いずもが、

「そうなんですか、ご立派ですね」

「まあ、それ位しか両親に恩返しできませんから」

少尉は提督へ向き直って、

「そういえば先輩、ちゃんとおじさん達に手紙は書いていますか?」

「おっ、なんだ!?」

「先輩の実家 大変な事になっていますよ!」

「大変な事?」

「先輩、自分東京へ帰ったついでに、休暇を貰って広島の実家に行ったのですけどね。先輩の近況報告をと思いおじさん達を尋ねたところ、おばさんに“うちの馬鹿息子は艦娘さんと結婚するって葉書がきたけど本当かい!”って」

それを聞いた 由良が、

「あのどういうことですか、少尉さん」

「いえね。先輩、葉書に“艦娘 由良と結婚する、式はこちらで済ませる、落ち着いたら帰る”とだけ書いて送り付けたそうですよ。後日呉の秘書艦の方が気を利かせて、週刊 青葉の 由良さんの結婚披露宴の記事を実家に届けてもらって初めて、山本長官や 三笠様、そしてパラオの長達が出る壮大な式だった事を知って近所中で大騒ぎになったそうです」

「おっ、そうだな」と答えに詰まる提督。

「おばさんから、由良さんはどんな方なんだいとか、妹さんからあの馬鹿兄貴にはもったいないとか、色々と言われていますよ」

それを聞いた由良は突然、

「提督さん、後でお話があります!」といい、提督を睨んだ。

「はい?なんの事ですか?由良さん」と声が裏返る泊地提督。

少尉は、

「お二人とも、帰省した時は覚悟した方がいいですよ」

「覚悟?」と 由良が聞くと、

「ええ。艦娘と言えば、海神の使い。そんな方を先輩が嫁に貰ったっていう話が町内、いえ市内全域に広まっていますからね。帰ったら2、3日は宴会覚悟してください」

由良が、

「そんな大袈裟な」

「いえ、皆嬉しいんですよ。先輩は町内でも出世頭です。パラオ泊地の建設、運営を任された若き提督。そして憧れの艦娘との結婚。町内みんなでお祝いしたいんですよ」

提督は、

「勘弁してくれ」と呟いた。

 

少尉は腕時計を見て

「そろそろ時間ですので、これで」

「ああ、済まないが自衛隊の情報と防空戦の件 頼むぞ」

「はい」

少尉はそう言うと席を立ち、

「では、失礼いたします」と一礼し、横に座るこんごうへ向い、

「紅茶 ご馳走様でした」と一礼した。

「えっ、はい」と急に挨拶され慌てるこんごう

 

いずもが、

「こんごう、玄関まで、お見送りを」

「えっ 私がですか!」

「そうよ、他に誰がいるの」

ぐっと少尉を睨んだが、上司の指示だ

「はっ、分かりました」と渋々顔で答えた。

少尉は、略帽と、鞄を持ちドアへ向った、それを追うこんごう

 

自衛隊司令が、そっといずもに

「いずも、こんごうの奴 大丈夫か?」

 

「まあ、大丈夫でしょう そこは時と場所を選ぶ子ですから」

そう言いながら、二人の背中を見送った

 

少尉とこんごうは廊下を歩き、階段を下りた。

不意にこんごうの前を歩く少尉が振り返り、

「こんごうさん、忘れろというのはかなり難しい、だが決して他言はしない、この事は墓場まで俺が持っていく それで勘弁してもらいたい」

こんごうは、少尉を睨み

「ええ、いいわ、貴方が約束を守れば何もしない」

「なら、契約完了だな」といい

不意に、じっとこんごうの胸を見て 一言

 

「君、着痩せする方だな」

 

「なっ!」といい、制服の胸の部分を隠すこんごう

「でも、水着姿より、制服の方が似合う」と言うと、またコツコツと階段を降り始めた。

 

「ちょ!待ちなさい!」と不意打ちを食らいドギマギしている内に少尉は階段を降り、1階の事務室前を通った。

奥の 鳳翔へ、

「鳳翔さん!帰ります!」と言うと、

「あら、少尉さん。お疲れ様です」と返事が来た。

地元民の事務員たちも、

「少尉、お疲れ様です」と声を掛けた。

「おう、皆」と元気に挨拶した。

玄関まで来ると、少尉は脇に置いてある自転車へ向い、荷台へ鞄を括りつけた。

「車じゃないの?」と こんごうが聞くと、

「中佐待遇の君たちと違って、士官最下位の少尉なんぞに車があるわけないだろう」

少尉は自転車にまたがると、

「では」と こんごうへ向い敬礼し、そしてゆっくりと自転車をこいで走りだした。

 

その背中を見ながら

「変な人」と呟くこんごうであった。

 

こんごうは指揮所へ戻り、席へ着いた。

すると泊地提督が、

「すまんな、こんごうさん。悪い奴ではないのだが、少し不器用な奴でね」

「不器用?」

「ああ、こう実直な所があってな、正道を通す生き方をする奴だ」

提督は続けて、

「奴は本来なら大尉になっていてもおかしくない。実は奴は懲罰でこのパラオへ配属になった」

「懲罰?」と こんごうが聞き返した。

「以前、奴は満州の関東軍に所属していた。隊内の成績は優秀、勿論士官学校の成績も良かった。将来を有望視された。しかし、ある日所属していた小隊が抗日運動をしたと目される集落を偵察活動中に事件があってな」

「事件とは?」

提督は静かに、

「軍人としては非常に恥ずべき行為だが、その小隊の隊長がな、集落の男性を捕まえて抗日組織との係りを尋問したが、その男性が口を割らないことに業を煮やし遂に暴行を始めた。その尋問は段々と激しさを増してな。遂に男性の家族、女性にまで手を出し始めた」

「なっ!」と息を詰まらせる こんごう。

「最初は静観していたらしいがな、女性にまで手をあげだしてこれではと思ったらしい。止めに入ったが逆に上官に意見するとはという事で叱咤された。それでも奴は上官を止めようとしたが、ついに上官が女性に・・そのだな」と声を途切れさせた。

こんごうは表情を厳しくして、

「性的暴行を加えようとしたのですね!」

「ああ。少尉もそこまで来ると、我慢ならなかったのだろう。その上官を殴って女性を助けた」

黙って聞く こんごう。

「非はどちらにあるかは明白だが、作戦行動中に上官を殴ったという事で処分の対象となってな。暫く内地で謹慎の後、口封じ目的でこの僻地パラオへ飛ばされたという事だ」

「では、少尉の無実は?」

「ああ、当時の小隊の連中がかなり上に掛け合ったらしいが、黙殺された。殴った相手は陸でも有力者の家系だった」

提督は続けて、

「上官の暴行事件をもみ消し、少尉を遠方に飛ばす事でこの事件の収束を図ったという事だ」

こんごうは席を立ち、

「そんな!その上官に非がある事は明白じゃないですか!」

「こんごう、落ち着け」と自衛隊司令が窘めた。

着席する こんごう。

「まあ、俺がその噂を聞いて、陸の知り合いに頼んでこのパラオへ送ってもらった。まかり間違ってまた関東軍なんぞに配属されたら、今度は背後から撃たれかねん」

提督は深い息をして、

「こんごうさん、そんな実直な男だ。許してやってくれ」と提督は頭を下げた。

「泊地提督、頭を上げて下さい。もう気にしていませんから」

直る提督が表情を緩め、

「それでだ こんごうさん。奴の事どう思う?」

「へっ?」

「いや、男性としてどう思う?」

それを聞いた 由良が、

「提督さん、いきなり過ぎです!」

「由良、じゃ、なんて聞くんだ?」

「もう少し時間と場所を選びなさいって戦艦 金剛さんに言われますよ」

「うう、それはだな」

そんな会話を聞いた こんごうが、

「何の話でしょうか?」

由良が、

「いえね、陽炎ちゃん達が“少尉と こんごうさん、いい感じでしたよ”って」

いずもも、

「私も ひえいから、“あの こんごうが男性と話しています!”って報告うけたわよ」

それを聞いた こんごうは、

「皆さん現状認識がおかしいのでは?」と返した。

そんな会話をしていたが自衛隊司令が、

「まあ、その件はそれ位で。こんごう例の件についてだ」

 

こんごうは、姿勢を正して

「はい。先日内示を頂きました、ルソン北部警備所にいる駆逐艦 曙の保護並びに、深海凄艦の悪霊妖精の排除の件ですが」といい、持参した鞄から数枚の書類を取り出し、提督達へ配り始めた。

それを受け取る提督達。

こんごうは書類を見ながら、

「では、まず作戦の目的ですが、駆逐艦 曙さんの保護、並びにルソン北部警備所へ展開した敵深海棲艦悪霊妖精部隊の排除でよろしいでしょうか?」

すると提督は、

「ああ、その通りだ」

自衛隊司令も了解の意味で頷いた。

「一つ確認させて頂きたい事があります」

「何だね、こんごうさん」

「はい、泊地提督。敵深海棲艦の悪霊妖精については、捕虜として確保する必要がありますか?」

提督は静かに、

「それはない、殲滅で構わない。これは宇垣参謀長にも確認している」

「生死は問わないという事ですね」

「そうだ」

こんこうはそれを聞くと、

「では、概要書を」といい、配った概要書を捲った。

そこには、ルソン北部警備所付近の衛星写真、勿論こんごう達の世界で撮影されたもので警備所は映っていない、地形確認用だ、すずやから聞き取りした警備所の内部構造物の配置、艦艇配置、対空機銃などの防御兵器の配置状況などか記載された地図があった

「すずやさんからの聞き取り調査で、現在までに確認が取れた警備所内部の状況です」

それを聞いた由良が、

「今朝、ルソン中部の妙高さんから似た情報が届いています」といい、1枚の図面をテーブルの上に置いた

見比べるこんごう

「殆ど差がありませんね」といい話を続けた。

「現在 警備所には駆逐艦曙と小型の輸送船が1隻、湾内警備用の小型艦艇が1隻のみです、小型艦艇には、7.7mm機銃がありますが、その他の兵装は確認されていません、輸送船は非武装です」

「艦艇の攻撃力は曙頼みか?」と提督が言うと、

「はい、すずやさんに聞いた所、警備所自体は沿岸部の警備活動が主な任務で、すずやさん達は対潜警戒を担当していたそうです」

自衛隊司令が、

「内部の人員は?」

「すずやさんが、最後に出撃した際は、30名ほどだそうです、輸送船には20名ほどですので、総数で50名前後かと」

「えらく、こじんまりした所だな」と司令が言うと、

由良が、

「ええ、元々警備艦艇が停泊できるだけの場所を確保しただけですから、まああまり大きくして米軍を刺激したくないという政治的な配慮もあって、駐屯地としてはこじんまりしています、まあ何時でも撤収できる事が条件でもありましたからね」

自衛隊司令が

「で、具体的にはどうする?」

「では、次のページを」とこんごうが言うと、皆ページを捲った

「まず、使用する部隊は、陸上自衛隊特殊作戦群1個小隊、三分隊で侵入します、

まず二個分隊が夜間空挺降下し、上陸地点を確保、その後随行員を護衛した一分隊が海上から侵入、そのまま曙さんを確保、警備所を離脱させます、離脱確認後、殲滅戦を開始します」

「空挺降下はどうするの?」

「はい、いずも副司令 高高度降下低高度開傘 HALOでいきます」

「機体は何を?」

「MV-22を私の艦で」

由良が、

「高高度降下低高度開傘という事は 落下傘降下ですか?」

「はい、高度7千メートルの高高度から降下して、地上500m未満で開傘します」

泊地提督が、

「そんな低高度で開傘して大丈夫なのかい? おまけに夜間だが」

「はい、皆そのための訓練を受けた隊員ばかりですので」

自衛隊司令が

「分隊指揮は誰が執る?」

「はい、一,二分隊は私が、三分隊はひえいが」

すると由良が

「えっ、こんごうさんも降下するのですか?」

「ええ、勿論ですよ、分隊指揮官ですから」

いずもが、

「こんごうとひえいは、士官候補生時代に陸上自衛隊のレンジャー訓練、まあ特殊作戦員としての訓練を受けて、厳しい試験に合格しています、問題ありません」

司令は

「随行員はこの2名でいいのか?」

「はい、曙さんと面識があり、海上侵入する為に泳ぎが得意な事、それと」

「それと?」

「度胸がある事ですね」

自衛隊司令は、

「こんごうが言うなら、問題あるまい」と言いながら泊地提督へ

「彼女をお借りしますが、よろしいですか?」

すると泊地提督は、

「本当なら、嫌だと言いたい所だが、かつての同僚の曙を助けに行くと聞けば、黙っていても自分から志願するだろう、安全は確保してくれるのかい?」

こんごうは、

「はい、ひえいをつけます」

「なら、宜しく頼む」と泊地提督は了承した。

 

自衛隊司令は、

「うちの特別警備隊はどうする?」

「それも検討しましたが、HALOがある事、特戦との連携で問題が生じた場合を想定して除外しました、ただ不測の事態に対応する為 ひえい艦内で待機させます」

こんごうは続けて、

「保護した駆逐艦曙さんは如何いたしますか?」

それには、泊地提督が、

「ルソンの妙高さんが暫く面倒をみてくれるそうだ、その辺りの筋書きも既に大淀さんから届いている」

「では、妙高さんとの接触に関する部分の調整を 由良さんにお願いします」

「はい、こんごうさん」

 

自衛隊司令は、じっとこんごうの提示した作戦概要書を読み進めていたが、

「泊地提督、何かご質問は?」

「いや、今回の作戦は自衛隊へ一任されている、此方は随行員の安全確保ができれば意見はない」

自衛隊司令は、

「では、こんごうを前線指揮官に任命する、いずもはバックアップだ、現時刻をもって作戦準備を開始せよ」

「はい、司令」と返事をするこんごう

「なお、作戦開始日時は連合艦隊司令部と調整し、通達する、通達後48時間以内に実施する」

「はい」

「質問は?」といずもが問うと

「いえ、今の所はありません」

司令は

「では、以上だ」と告げた

鞄と夏用制帽を持ち、席を立つこんごう

「では、失礼します」と一礼した

退室しようとするこんごうに、いずもは

「午後の訓練は予定通りよ、泊地の皆さんも一緒だから、安全確保に注意してね」

「はい、はるなときりしまは通常訓練です、すずやさんは初めてですので、最初は私が付きます、私とひえいはその後で、特戦と」

すると、司令が、

「俺と、提督も後で見にいく」

「はい」

 

再び一礼し、退出するこんごう

こんごうが退出した後、自衛隊司令は、

「では 俺達も戻ろうか?」

「はい、司令」と席を立つ、司令といずも

「おっ、もう戻るのか?」と泊地提督

するといずもが、

「提督さん、由良さんが色々とお話したいそうですよ」と由良を見た。

目が光る由良

「提督さん!」と厳しい視線を提督に投げかける由良

 

その声を聞きながら、会議室のドアを閉じる司令といずも

そっといずもが、

「提督、大丈夫でしょうか?」

「大丈夫じゃないかな」

「でも由良さん だいぶ怒っていますね」

「ああなると、止まらん」と司令はつぶやいた

 

静かに階段を下りる二人、背後には由良の声が響いていた

 

 

トラック泊地 戦艦 大和 士官会議室

この日 大和士官室では、マーシャル諸島開放作戦の検討会が開催されていた。

山本連合艦隊司令長官、宇垣参謀長、黒島作戦参謀、一航戦の南雲司令、二航戦山口司令、五航戦の原司令などそうそうたる幹部が並び、長官付秘書艦 三笠 艦娘総旗艦 大和、副官 長門、航空戦隊旗艦 赤城、参謀長秘書艦 大淀、第三戦隊 金剛などが並び、会議の雰囲気を盛り上げていたが、場違いな二人が末席に座っていた。

海軍軍令部作戦一課の連絡将校と陸軍参謀本部の連絡将校であった。

 

大淀が会議の資料を配る

黒島作戦参謀が前方の黒板の前に立ち、

「では、これよりマーシャル諸島開放作戦の検討会を行います」と言いながら、会議が始まった

山本、そして三笠が当たり障りのない軽い挨拶をした後、黒島が、

「では、軍令部より、下命されました概要に基づき策定いたしました、作戦概要をご説明します」といい、前方に掲げられたマーシャル諸島の海図の前に立った

「本作戦の最大の目的は マーシャル諸島周辺海域の制海権の確保を第一と致します」

続けて、

「現在 マーシャル諸島には敵 深海棲艦のミッドウェイ群体の分遣隊が駐留しており、現在までに、戦艦ル級のflagship並びelite級、重巡を中心に構成された打撃艦隊、またヲ級空母群6隻を確認しております、付属の軽巡、駆逐艦、小型雷撃艇なども多数確認されております」

「やはり、分厚い防御か」と山本がつぶやくと、

「我々が、再度ハワイ方面に出る為には、ぶつかるしかあるまい」と三笠が受けた

「では、続けます、諸島部の要塞化が此方の予想を上回る進度で進んでおり、数か所に地上電探基地、また東端のタロア島の旧マロエラップ基地を深海棲艦が拡張し、陸上機を運用できる滑走路を整備したものと推察されます。今のところ大型のB-17などは確認されておりませんが、最新鋭のB-24、25やA-20あたりがいると厄介です」

宇垣が

「こちらが掴んだ情報によると P-38やP-40といった陸上機の飛行を確認している、数は少ないが厄介だ」

黒島が、表情を厳しくしながら、

「これが最大の難点ですが、マジュロには現在1,000名近い民間人が取り残されています。敵深海棲艦はマジュロ近海へ重巡艦隊を常駐させ、我々に動きがあればこの島ごと砲撃し殲滅すると公言しており、容易に近づく事ができません。過去数回、駆逐艦艇によるドラム缶輸送を実施しましたが、敵艦艇の電探網に捕捉され接岸できずにいます」

黒島は続けて、

「前回の会議でお話した通り、このマジュロの人質解放については別動隊を編成し対応したいと思います」

すると末席に座る軍令部参謀が、

「黒島参謀、その別動隊とはなんだ!我々は聞いていないぞ!」

同じく陸軍の参謀本部の連絡将校が、

「マジュロ奪還は、我が陸軍の歩兵師団が行う事になっていたはずだが!」と大きな声で叫んだ。

それに黒島は、

「はい、確かにマジュロ奪還は陸軍の師団が行うとの通知を受けておりますが、それはあくまで海域の制海権確保の後に上陸作戦を行うという事で、我々の人質解放作戦は全ての作戦の前に行い、人質の安全が確保される事が第一条件です」

陸軍の連絡将校は、

「それでは我々はマーシャルに一番乗り出来ないではないか!」

「はい。陸軍の上陸作戦は、マジュロの人質救出の後、我が海軍が制海権を確保、その後になります!」

すると連絡将校は声を荒げ!

「話が違うぞ!軍令部では、我が陸軍師団の上陸を海軍が擁護する事が確約されたはずだ!」

山本が、

「まあ、落ち着きたまえ」といい、陸軍の将校を見て、

「では、君に聞くが、陸さんは敵の重巡艦隊が待ち構えている中強襲上陸をして、マジュロの人質を犠牲にしろという事かな?」と静かに聞いた。

連絡将校は、

「そこを何とかするのが連合艦隊ではないのですか!」と大きな声で返した。

山本は、

「ああ、何とかするよ、まず人質の安全確保が第一だ、次に海域の制海権の確保、それからようやく上陸作戦だ」

「それでは、我々は面目丸潰れではないか!軍令部参謀!」と横に座る軍令部の連絡将校を睨んだ!

海軍軍令部の参謀は、

「長官、ここは海軍の沽券にかかわる。陸軍を擁護してマジュロに一番乗りさせて貰いたい」

それを聞いた宇垣は、

「なあ、軍令部参謀。確認したいのだが、お前達は人質の命が一番なのか、海軍の沽券が一番なのか!」と問い詰めた。

 

「そっ、それは勿論、人質の命です。しかし!」

「しかし、なんだあ!」と鋭い視線で軍令部参謀を睨み返す宇垣。

陸軍参謀が、

「では、ここにいる 大和や 長門さんは単なる飾りですか。国民が知ったら、いえお上がお知りになれば、なんと落胆されるでしょうね。皇国の象徴ともいえるこの 大和が単なる鉄の塊だったと言えば」

「貴様!大和や 長門を愚弄するとは!」と宇垣が立ちあろうとしたが、

それを 三笠が制し静かに 大和へ、

「大和。そなた、命令あれば敵重巡艦隊を蹴散らす事はできるか?」

大和は静かに、

「はい。私の40cm砲をもって、敵深海棲艦の重巡艦隊を蹴散らし、海域の制海権を確保してご覧にいれます。勿論 長門さんも同じ答えであります」と静かに自信に満ちた答えを返した。

陸軍参謀は、

「では、大和、長門をもってマジュロの重巡艦隊を蹴散らし、我が陸軍を上陸させていただけるのですな」

大和は落ち着き払い、

「ええ。しかし、そこにはおびただしい人質の骸が折り重なり、血の海となっている浜辺にですが」

「くっ!」と表情を厳しくする陸軍参謀。

 

山本は、

「なあ、陸さんよ。君たちはマジュロの人質の安全確保の算段はどうするつもりなんだい。一番乗りすると豪語する位だ、何か策があるのか。あるならここで提示してもらいたいが」

すると陸軍参謀は、

「強襲上陸です。大和、長門などの艦艇で重巡艦隊を蹴散らし、我が歩兵師団で敵前上陸を行い橋頭堡を確保し、マジュロ島を奪還する!」と声をあらげた。

山本は、

「じゃ、上陸作戦中は、人質の民間人は砲火に晒されているという訳かい?」

陸軍参謀は、

「人質とは言え我が皇国の国民。陛下の御為、その命投げ出す覚悟でありましょう!」

宇垣は、

「それが陸の本音か!!」と睨んだ。

陸軍参謀は、

「この事は既に海軍軍令部と調整しており、決定しております」

「ほう、では大本営決定事項という事かな」と山本が問いただした。

「その通りです、山本長官」と軍令部参謀が答えた。

「統帥権か!」と宇垣が睨んだ!

ニヤリと笑う陸軍参謀。

静かにじっと腕を組んで瞑目していた 三笠が目を開き、

「陸軍参謀、いま統帥権をもってこの陸軍の作戦を擁護せよといったが、間違いないか」

「その通りであります」と陸軍参謀は自信ありげに大声で答えた。

 

「では、大本営が統帥権を使うという事は、このマジュロの開放作戦は陛下の御裁可を受けたと思ってよいのだな」

「はい、その通りです」と答える陸軍参謀。

三笠は静かに言葉を選びながら、重く、

「陛下は」

「はい?」

「陛下は、マジュロの人質の犠牲の元、陸海軍の権威が守られる事をなんと言われた?」

「そっ、それは」

「何と申されたのだ!」と詰め寄る 三笠。

陸軍参謀は答えに詰まったが、

「その様な些細な事をお上に申し上げる事も御座いません。既に上陸作戦につきましては陸軍参謀長より陛下にご説明差し上げております」

「些細な事だ!」と宇垣が唸ったが、

三笠は、

「なら、儂が今から大艇に乗って帝都へ向い、陛下に拝謁いたし、ご意見賜っても問題ないということじゃな」

それには陸軍参謀も、

「そっ、それは既に決定事項を」

三笠は、

「儂と姉上の大巫女はいつ如何なる時でも陛下に謁見し、ご意見を賜る事ができるはず。これは明治天皇陛下より、我が艦娘艦隊の指揮官たる儂と姉上に授かり大権の一つじゃが」

 

三笠は続けて、

「マーシャル諸島開放作戦の御裁可を受けたという事は、マジュロの人質の件も陛下へご報告され、お言葉を賜ったはず。陛下はなんと言われた!」

「ぐっ!」と答えに詰まる陸軍参謀。

「三笠、その辺で」と山本が宥め、

「軍令部参謀。連合艦隊としては、マジュロの人質の安全確保が大前提だ。それが出来ないようならこの作戦は中止する。参謀総長へ陸軍の強襲上陸は一考して頂きたいと伝えてくれ」

「しかし」と言いかけたが山本に睨まれ、そこで答えが詰まった。

陸軍参謀は、

「先程、別動隊をもってマジュロの人質の安全確保を行うという事でしたが、具体的にはどの艦隊をお使いになるのですか」

それには宇垣が、

「秘密だ」

「宇垣参謀長、今なんと?」

「陸軍参謀、それは機密事項だ。部外者の君に話は出来ない」

「部外者ですか!この自分が」

「ああ、そうだ」

すると軍令部参謀が、

「では、同じ海軍の自分にはお話して頂けるのですか」

「いや、君にも話せんな」とそっけなく宇垣が答えた。

「なぜです、軍令部を代表して参加している自分になぜ話せないのですか!」

 

宇垣が先般の新聞記事を軍令部参謀の前に投げ出した!

「軍令部参謀! なんだこの記事は!」と怒鳴りつけた。

それを取る軍令部参謀。

「これは戦意高揚の為、軍令部から新聞社へ情報提供したものです。いやこれ以降、新聞各社が“いつ作戦があるのだ!”とか“ぜひ従軍取材を”とまあ大変です」と笑いながら答えた。

それを聞いた宇垣が遂に、

「貴様、ふざけるのも大概にしろよ!軍令部は何をしでかしたか分かっているのか!」

といい、席を立った。

「宇垣よ、落ち着け」と 三笠が着席を促した。

山本が代表して、

「軍令部参謀、聞きたいがこの記事は誰が書かせた?」

「はい、軍令部総長のご紹介で、うちの若手参謀が取材を受けましたが」

「その若手というのは作戦一課の人間かい?」

「はい、長官。作戦一課の者です」

「では、連合艦隊が軍令部へ提示した今作戦の概要書を見る立場の人間だったという事かい?」

「はい、既に軍令部作戦一課内で自分を含め大勢の参謀が作戦概要書に目を通しております」

山本は、

「そして、その参謀は軽率にも今作戦の概要をその新聞記者へ詳細に洩らした。そしてそれが記事になり、全国民に知れたという事だな」

「はい。全国民、このマーシャル諸島開放作戦を期待しております」と自慢げに答えたが、

山本はじっと静かに考え、そして、

「期待しているのは国民だけでなく、第三国経由でこの作戦の情報を入手した敵深海棲艦もだよ」

黒島作戦参謀が前へ出て指揮棒を持ちながら地図を指し、

「この新聞記事が本土で発行されて以降、急速にマーシャル諸島方面の敵深海棲艦の動きが活発化しており、このトラックとの中間海域では敵カ級潜水艦の活動が活発化。ここ数日は哨戒活動も活発化しており、我が方の潜水艦が容易にマーシャル諸島へ近づけない状態となりました。また周辺海域での敵戦艦群の活動も活発化しており、先日はミッドウェイ方面から敵陸上師団を乗せた輸送船団が南下しましたが、これは周囲を警戒しておりました 三笠様指揮の駆逐艦隊が殲滅いたしました。この様に急速に敵は防備を強めております」

 

山本は、

「いいかね軍令部参謀。君たちの不用意な情報公開で、敵深海棲艦の警戒心を助長した。これでは、当初計画していた航空戦隊を用いた奇襲作戦は出来ない」

慌てる軍令部参謀。

「そっ、それは軍令部の責任では」と言いかけたが、

黒島は表情厳しく、

「我々は作戦を一から全て立て直す事になりました。前回軍令部へ提出した概要書は全く意味を成しません。我々のここ数週間の作戦準備がこの記事一つで水の泡となりました」

山本は、

「今後、この作戦に関して軍令部側への情報提示は最少に控える。もう真珠湾攻撃失敗の再現は御免だ。この件に関しては正式に軍令部総長に対して抗議文を送付している。作戦一課を含め、情報漏洩した参謀についてもなにがしかの通達があるだろう」

宇垣が、

「軍令部参謀、そう言う事だ!」と睨みつけた。

萎縮する軍令部参謀。

宇垣が、

「我々はこれから作戦の詳細について話す。軍令部参謀と陸軍参謀は席を外して貰いたい!」

「なんですと!我々に席をはずせと!」と陸軍参謀が驚いたが、

「そうだ!」と宇垣が凄んだ。

宇垣の横でそっと 三笠が睨んだ。無言の圧力が室内を覆う。

「くっ!」と言いながら、鞄と軍刀を持ち席を立つ二人の参謀。

一礼して退室した。

 

山本の対面に座る南雲司令が、

「よろしかったのですか?」

すると南雲の横に座る山口司令が、

「南雲さん、構わんでしょう。奴等には少々きつく言わんと、頭の回転が悪いようですから」

室内に笑いが漏れた。

 

黒島参謀が、

「では、会議の本題へ移ります。前回の検討会ではご提示できませんでしたが、これが現在までに確認されているマーシャル諸島の敵深海棲艦の編成です」

 

新しい概要書には深海棲艦マーシャル諸島分遣隊の概要が記載されていた。

そこには戦艦ル級のflagship並びにelite級、重巡を中心に構成された打撃艦隊、またヲ級空母群6隻の構成が記載されていた。

 

黒島は話を続け、

「先程もお話いたしましたが、当初のマロエラップ基地、並びに周辺基地に対して航空攻撃を仕掛け、敵空母群を正面海域へ誘い出し航空攻撃を行い殲滅、その後艦隊決戦という筋書きは使えなくなりました」

黒島は話を続け、

「そこで、深海棲艦が飛びつきたくなるような餌を眼前に置く事にします」

南雲が、

「飛びつきたくなる餌?」

「はい、大和を中心とした打撃艦隊です」

宇垣は、

「大和、お前魚を釣る餌だってよ。高い餌だな」

すると 三笠は、

「鮎の友釣りじゃの、縄張りに入って来た強敵を追い出す為に出て来た所を」

「はい、三笠様。後方で待機している 赤城を中心とした空母機動部隊で叩きます」

続けて黒島は、

「問題は、敵深海棲艦の本拠地がいまだにはっきりしません。以前はマジュロ環礁にいたのですが、どうやら北のマロエラップ方面へ移動したようです。マロエラップ基地は急速に拡充されております。マジュロ奪還後、速やかにこのマロエラップを叩かないとマジュロの人質が危険にさらされます」

黒島は、

「まず、大和を中心としたマロエラップ攻撃隊と称した部隊をマロエラップへ接近させます。敵深海棲艦がこの餌につられて出てくれば、反転して敵航空勢力圏外まで後退し、航空攻撃で先制し艦隊戦を挑みます。その後、がら空きとなったマロエラップへ 金剛以下第三戦隊で強行突入し、艦砲射撃をもってマロエラップの飛行場、周辺施設を破壊、マジュロの人質の安全確保を図ります。

なお敵空母群については南雲司令、山口司令に対応をお願いしたいと思っております」

「了解した」と答える南雲。

金剛が、

「私達の出番ネ、第三戦隊の実力見せてあげるネ!!」と元気に答えた。

 

赤城が手を上げた。

「赤城さん」と黒島がいうと、

「この情報では敵深海棲艦の空母群は六隻、ヲ級eliteもいるとの事です。此方は私、加賀さん、蒼龍さん、飛龍さんの四隻ですが」

それには山本が、

「済まん 赤城。当初は五航戦の 翔鶴、瑞鶴も参加させる予定だったんだが、米軍がラバウルを急襲したとの情報が入った。ソロモン方面の活動が活発化する事が予想されるので五航戦には其方へ回ってもらう」

「ほう、我々はソロモンですか!」と体格のいい原少将が言うと、

「ニューアイルランド島を哨戒圏内に収める地点まで出てくれ。ただし米海軍が既に南下している、あくまで警戒の為だ。不要な戦闘とならんよう留意してくれ」

すると原少将は、

「長官、まあ 翔鶴はいいとして、瑞鶴なんぞ サラトガあたりを見たら食ってかかりそうで」と笑いながら答えたが、

三笠が、

「まあ、保険じゃよ。それに 加賀と 瑞鶴を一緒にするとどうもうるさくて敵わん」

再び笑いが漏れる室内。

三笠は続けて、

「赤城よ、安心せい。パラオから 瑞鳳が応援に来る事になっておる」

「瑞鳳さんですか」

宇垣が、

「ああ。軽空母で艦載機数こそ少ないが、鳳翔に鍛え上げられている。練度も問題ないと 鳳翔から連絡があった」

「あの、鳳翔さんは?」

三笠が、

「赤城、鳳翔の艦は間もなく改修工事に入る。今回の作戦には参加できん」

「そうですか」と残念そうな 赤城。

山本がそっと 三笠へ、

「いいのか?鳳翔本人が来ると言わなくて」

「鳳翔は いずも殿の艦に乗る。ここで名前を出す訳に行かん」

 

南雲が山本へ向い、

「長官、よろしいでしょうか?」

「何だい南雲君」

「そのパラオですが、先日深海棲艦のヲ級空母3隻やル級戦艦を含む大規模艦隊がマーシャル方面からこのトラックの哨戒圏を避けて西進し、パラオを目指したとの話があります。もしその話が本当なら、今回のマーシャル諸島での敵勢力の見積は大袈裟ではないのですか?」

ざわめく室内。

山本は落ち着き払い、

「南雲君、その話は何処から」

少し考え、意を決して、

南雲は、

「先程の陸の参謀から」

 

宇垣が口元に笑みを浮かべた。

“引っかかったか!”

 

山本は、

「我々にはその様な報告などきてはいないよ。もし事実なら一大事だ」

「はあ」と答える南雲。

宇垣が、

「大淀、パラオからの定時報告は何と言っている?」

大淀は壁際の席から起立し、

「はい。本日午前中に受信分には、“周辺海域並びに泊地機能に異常なし、定時哨戒業務を継続中”と入電しております」

山本が、

「南雲君、そういう事だ。デマだな」

「デマですか?」

南雲の後に座る若手の参謀が手を上げ、

「長官。パラオ襲撃の件は、かなり確実な情報であるのではないでしょうか?わざわざ陸の参謀が此方へ知らせてくる位ですが?」

宇垣が、

「お前は、陸の参謀の話と身内のパラオの提督の話と、どちらが信用できると思っているんだ!」

「そっ、それは勿論、パラオです」

宇垣が、

「大体、なんで海の事を陸が知っている。軍令部の参謀が言ってくるならまだ合点もいくがな!」

黙る若手参謀。

別の参謀が、

「もし、陸の参謀のそのパラオ襲撃の話が本当であった場合、この敵空母6隻という見積もりは大袈裟で、敵空母の残数は3隻です。ここは一気にマジュロへ攻め入り制海権を確保するべきではないでしょうか?」

山本は、

「君は敵空母は3隻しかいないというのかい?」

「はい、長官」

山本は、

「では、なぜ3隻しかいないと言い切れるのかい?」

「そっ、それは、先程の参謀本部の将校の情報が正しいと思うからであります」

「ほう、なぜ?」

「えっ」と狼狽える若手参謀。

「陸の参謀の情報が正しいと言える根拠は何だと聞いているのだが?」

若手参謀は、

「それは、大本営参謀本部の情報です。確実であると思いますが」

山本は、

「では、その大本営参謀本部はどうやってそのパラオの事を知ったのだい?本土から比べればすぐ隣の我々も知らない情報を」

「そっ、それは」

山本は、

「いいか諸君、上部機関から与えられた情報を鵜呑みにすると、とんでもない事になる。既に我々は真珠湾攻撃でそれを知っている。いいか、この眼と体で集めた情報こそ一番信用できるものだ」

そう言いながら、

「空母が3隻しかいないと決めつけるのは、不用心極まりない」と語尾を強めた。

宇垣が、

「今回の作戦資料の敵深海棲艦の勢力については、ここ1ヶ月の潜入調査の結果だ。この潜入調査には、マーシャル諸島の島民が多く志願してくれ、案内人をかってくれた。

中には偵察中に発見され戦闘に巻き込まれ帰らぬ者となった島民もいる。皆、人質となった家族を助けたい一心で協力してくれている。そんな危険を冒して集めた情報だ」

横に座る 三笠が、

「良いか!ここで我が連合艦隊がその島民達の思いを裏切るような事があれば、我が連合艦隊の存在価値のその物が失われると思え」と厳しく言った。

一同、厳しい表情で頷く。

その後黒島は作戦の概要を説明し、最後に、

「数日中に各戦隊の参加予定戦力の見積もりを送ります。次回はその見積もりを元に図上演習を実施したいと考えております」と締めくくった。

 

会議は終了し、順次席を立つ各戦隊の指揮官。

南雲の隣に立つ 赤城が、出口で見送る 大和に寄り当たり障りのない挨拶をしたが、南雲達が通路へ出た瞬間、大和の右手に小さな紙切れを渡した。

そっとそれを受け取る大和。

目くばせしながら合図する 赤城。

一礼して、南雲達の後を追った。

 

会議室には山本、宇垣、黒島、

三笠、長門、金剛、大淀、そして 大和が戻ってきた。

 

席へ着き先程の紙切れを見た 大和は、それを宇垣へ渡した。

「赤城さんからです」

宇垣はそれを見ると、

「ふん、小細工などしよって」

それを聞いた山本が、

「どうした宇垣?」

「いえ、赤城から先程の軍令部参謀が今夜、南雲君をパインに呼び出したそうです」

「ほう、接待かい?」

「余りいい気はしませんね。多分我々を無視して、軍令部の意向に従えと迫るつもりでしょう」

「どうするのじゃ?」と 三笠が聞いたが、

山本が、

「無理に引き留めるわけにも行かんだろう。彼としては軍令部総長の名前を出されれば、従わざるを得ない。自由に行動させておこう」

宇垣は、

「まあ、一応探りは入れておきます。大淀手配を」

「はい」と返事をする 大淀。

 

山本は

「さて、マーシャルの作戦についてだが、問題はやはり距離か?」

黒島が

「はい、マロエラップとマジュロの距離が約200km、艦艇はいいとしても、航空機では1時間以内に攻撃されてしまいます、人質の安全確保と同時にマロエラップの基地の無効化、もしくは一時的な無効化を図らないといけません」

金剛が、

「私達が人質の安全確保と同時に突入すればいいのでは?」

それには長門が、

「金剛、幾らお前達が高速といえども海上から近寄れば直ぐにばれるぞ」

黒島が、

「一度、その自衛隊司令と詰めの協議をする必要があります。その辺りの話を詰めないと、今後の戦闘を想定できません」

山本が、

「分かった。近日中に会議が持てるように手配しよう」

 

山本は、姿勢を直し

「さて、マーシャルの前に片付けないといけないのが、ルソンだな」

 

宇垣は

「長官、やつら引っかかりましたな」

「ああ、パラオの件を知るのは、我々と当事者のパラオだけだ、そして」

「深海棲艦」と宇垣が答え、続けて

「長官、ルソン北の司令が探りを入れて来ています、多分親戚の陸軍中将を通じて色々と調べているでしょう」

「奴ら 出撃した事は分かっていても、戦果が分からない、おまけに艦隊は行方不明」

「はい、ルソンの電波状況を探っている間宮から、ここ数日電波情報が多くなったと報告が来ています」

三笠が

「今朝、いずも殿経由で作戦概要書が届いた、金剛、皆へ配っておくれ」

「Yes! マム」といい、数枚のプリントされた紙を配った

それは、数時間前にこんごうがパラオでいずもへ提出した作戦概要書であった

 

それを読み進む山本達

山本は、

「凄いな、高度7,000mから夜間落下傘降下、20名の兵員で警備所を制圧か」

宇垣が、

「しかし、いくら 鈴谷がいるとはいえ、事前の情報収集の質が違いますな。建物の内部構造やドアの開閉方向まで書いてある」

三笠が、

「この陸戦隊の指揮官は こんごう殿になっておる。こんごう殿も飛び降りるのかの?」

「こんごうちゃんに後でメールで聞いてみます」と 金剛が答えた。

長門が、

「という事は、金剛の孫が陸戦隊を指揮するのか?艦娘だぞ?」

「長門、問題なかろう。以前自衛隊司令から聞いたが、こんごう君と ひえい君は陸戦隊の特殊隊員の訓練を受けているそうだ。生身でもお前達より強いかもな」と山本が言った。

長門は、

「長官、どんな大女なんですか?」と聞いてきたが、金剛が、

「長門、写真見ますか?」と自身のタブレットを操作して写真を表示した。

そこには、いつもの巫女の戦闘装束を着た 金剛と白い制服を着た 金剛そっくりな女性がいた。

「この制服を着た子がお前の孫娘か?」といい覗き込む 長門と 大和、遠巻きに 大淀も見ている。

大和が、

「本当に 金剛さんそっくりですね」と言うと、後から 三笠が、

「お主達、その写真よく見てみよ」

そう言われ、じっと写真を見る 長門に 大和。

「あれ、この 金剛さん少し背が高いですね」と 大和が言うと、

「そう言えば、顔つきもこっちの 金剛の方がいい女だ」と 長門がいったが、

それを聞いた 金剛は、

「長門、それは酷いデス!」

三笠が、

「その制服を着ておるのが戦艦 金剛、巫女服が護衛艦 こんごう殿じゃ。儂も危うく騙される所であった」といい、横に座る 金剛の頭を叩いた。

「えええ!」といい、再び写真を見る三人。

 

「入れ替わっても殆ど区別がつきませんよ!」と 大和が驚いた。

「こんな綺麗な艦娘が陸戦隊の指揮官など、想像つかん」と 長門が唸った。

すると 金剛が、

「こんごうちゃんを口説く男性は命がけデス!」

 

三笠達がそんな会話をしている内に 山本や宇垣、黒島は作戦概要書を読み切っていた。

山本が

「宇垣、どう思う?」

「特に問題はありません、概要の段階でここまで出来ていれば、詳細計画はもっと詰めてあるはずです、それに我々はこの作戦を一任しました」

「黒島参謀は?」

「自分もありません、でもこの作戦書凄いですね、ぜひこの作戦概要書を書いた方を我が連合艦隊の高級参謀として迎えたいですよ」

それを聞いた三笠が

「黒島もそう思うか!」

「三笠様?」

「これは、護衛艦こんごう殿が作成した物じゃ」といい、続けて

「儂は護衛艦 こんごう殿を専属の秘書艦にと思っておったのじゃが、イソロクや 陽炎がパラオから出さんと言ってな」

すると山本が、

「こんごう君は自衛隊艦隊の要だぞ、うちがどうこうできる訳ないだろう」

「で、なんで 陽炎が?」と宇垣が聞くと、

「あ奴は、こんごう殿を二水戦の教導に迎えたいと画策しておる」

「神通の後釜ですか」

「そうじゃ。こんごう殿は水雷戦隊の教導では役不足じゃ、この連合艦隊を任せてもよい位じゃ」

「そのような立派な方なら、ぜひお会いしてみたいですね」と 大和が言うと、

「マーシャルは共同作戦になる可能性がある。多分その時に会えるとおもうぞ」と宇垣が答えた。

 

山本が、

「宇垣、黒島。問題無ければこの作戦に、非公認だが“承認”を出す」

「異存ありません」と宇垣が代表して答えた。

「三笠は?」

「異存など有る訳なかろう。元々我等にはそれ以外の選択肢がない」

宇垣が、

「大淀、ルソンの 妙高にパラオの 由良と連携して事に当たる様に指示してくれ。電文は使えん、大艇を飛ばして構わん」

「はい、既に 由良さんの方で 妙高さんと調整に入りましたのでご安心を」と報告してきた。

 

三笠は、

「さあ、賽は投げられた」といい、腕を組みながら静かに瞑目した。

 

トラックの昼下がり、時間は確かな足音を立て進んでいた。

 

 




こんにちは スカルルーキーです

分岐点 第35話です

ルソン強襲作戦発動しました、無事曙は確保できるのか?
同時に進むマーシャル諸島開放作戦、不穏な動きを見せる統帥部

さて次回はファストロープです


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