分岐点 こんごうの物語   作:スカルルーキー

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戦いは、ひとまず幕を閉じた。
安息とは 次の戦いまでの束の間の安らぎ
その安らぎの中、それぞれの思いが交差するパラオの海




34 安息、そして

 

朝日を受けながら、由良以下のパラオ泊地艦隊と こんごう達自衛隊艦隊は一路、パラオを目指し進んでいた。

数時間前に、待機していた 鳳翔達空母部隊と合流し艦隊を再編した。

先頭は防空駆逐艦 秋月。

次艦は旗艦 由良。

そして 鳳翔、瑞鳳と続く。その後ろを きりしまが殿としてカバーしている。

由良の右舷には 睦月、皐月、ひえい。

左舷には 陽炎、長波、そして こんごう。

 

鳳翔、瑞鳳を中心に防空、対潜輪形陣を組み、パラオの海原に幾重にも航跡を重ねて進む。

上空には 瑞鳳の零戦隊3機が直掩に飛び、周囲にははこんごう達のロクマルが交代で対潜警戒を行っていた。勿論鳳翔を中継艦として利用していた。

夜明けまで こんごうは艦橋で指揮を執っていたが、交代で休憩していた すずやに指揮を代わり、今は自室で深い眠りについていた。

指揮を任された すずやは、

「任せてください、すずやこれでも艦長です!」と張り切って艦長席に座り、その感触を堪能していた。

 

薄明るい艦長私室で寝入る こんごう。

しかし薄っすらと左腕のブレスレットが反応していた。

 

 

聞き覚えのある、鳥のさえずる声がした。

綺麗に整えられたガーデンテラスに白い円形のテーブルセット。

そして、彼女は何時ものようにティーセットを前に私を待っていた。

「コンゴウ!」

「久しぶりだな」といい彼女は私を見た。

「立ってないで掛けたらどうだ」とぶっきらぼうに椅子を勧められた。

無言で椅子に掛ける。

手慣れた手つきで紅茶を入れ、差し出してくれた。

「あっ、ありがとう」と言いながらそれを受け取った。

すると彼女は、

「まあ、今回はおとなしかったな」と一言いった。

「大人しい?」

「ああ、お前の本来の力はあの程度ではない。私と遜色ない力がある」

少し考えて、

「そう言われてもね、そもそもあなたの力を私は知らないわ」

彼女は右手をかざし投影ディスプレイを起動させた。

「あまり参考になる物はないが」というと、一つの映像を呼び出し再生した。

そこには無数の第二次大戦中の軍艦が、現代の戦闘艦をまるで紙屑をつぶすように突き破りながら進む姿が映し出された。

「なっ、なにこれ あれはニミッツ級の空母じゃない!」

そこには、コンゴウに船体を真っ二つに切り裂かれた米海軍の原子力空母の姿が。

そうかと思えばレーザー兵器で船体を撃ち抜かれ炎上するインディペンデンス級LCS。

 

「ちょ、どういうこと!?」と席を立った。

すると彼女は、

「前にも言ったはずだ。我々の次元では我々と人類は敵対していた」

以前そんな話をした事を思い出した。

「それが今では人類の味方?」

彼女は、

「それは違うな。私は誰の味方でもなく、敵でもない」

「なら、貴方は何?」

彼女は紅茶を飲みながら暫し考え、

「言えば“次元の傍観者”か」

「傍観者?」

「そう、色々な次元の私を見る単なる傍観者と言ったところか」

こんごうは、

「そう言えば、すずやさんを励ましてくれたそうじゃない。お礼を言ってなかったわね」

彼女は、

「単に鬱陶しいだけだったからだ。ここまで来て泣かれては私が困る」そう言うと、

「彼女の魂は弱かった」

「弱かった?」

「ああ、本来ならここへ来る力はない。しかしお前の魂、コアユニットに触れ、その力を増幅させつつある。今の彼女は以前とは別人のように輝いている」

「あなたでも、そんな言葉がでるのね」

「ああ、これでも“輝ける石”の伝承者だ」

「“輝ける石”?」

すると彼女は私の横へそっと来て右指で私の胸を指し、

「お前のコアユニットは他の者とは次元が違う。そう...」と言いかけたところで意識が戻った。

 

 

「ううう、・・・」と言いながら頭を押さえた。

まるで二日酔いの朝の様な感触だ。よく似た感触を以前にも体験した事を思い出した。

「いつだっけ?」と言いながら、起き上がりベットサイドの時計を見て目が覚めた!

「うっ!噓!もうお昼近くじゃない!」慌てて立ち上がったが、自分の姿を見て愕然とした。

ほんの1、2時間仮眠するつもりだったから艦内服のままベッドに潜り込んだはずなのに、なぜか艦内服が脱ぎ散らかれ、上はシャツだけ、下は・・・と、とても言えない状態だった。

「ううう、やっちゃった」と言いながら落ち着いて服を集め、ついでに着替え、据え付けの洗面台で顔を洗ってきちんと身支度して鏡で顔を見て、

「うん、よし!」と言って艦橋へ向った。

 

艦橋へ入ると、既に副長や航海長が待機していた。

艦長席に座るすずやへ

「ごめん、寝過ごした」と手を合わせて謝ると、

「いえ、大丈夫です」といいながらすずやは、席を立ちこんごうへ席を譲った

こんごうは、艦長席へ座ると、

「操艦指揮 こんごう艦長へ替わります」とすずやが申告した。

「はい、指揮替わります、お疲れさま」そして、

「どうだった、久しぶりの艦長席は?」と聞いた。

するとすずやは、

「すずや その席の重さを感じました」

「重さ?」

「はい、今まで艦長の仕事は艦娘として決められた事だけやっていれば良かったですけど、これからは、護衛艦すずや艦長として、自分でしっかり考えないといけないと」

それを聞いたこんごうは、

「じゃ、次は戦闘指揮を執ってみる?」

「はい! 機会があれば!」

「積極性があってよろしい」とすずやの頭を撫でた。

「へへ、ほめられちゃった」と嬉しそうなすずや

横へ副長が来て

「間もなく、パラオ泊地が有視界範囲です」

そう言われ、モニターを確認した。

レーダー画面には、既に大きくパラオの島影が映っていた。

「隊列 単縦陣へ組み換えたの?」

それにはすずやが、

「はい、由良さんから “既にパラオの哨戒圏に入った”との事で対潜警戒が必要ない状態です、それに“お迎え”があるそうです」

「お迎え?」

「はい、前方を見てください」とすずやは前方の海域を指差した。

愛用の双眼鏡で泊地の前方海域となる付近を見た。

そこには大小様々な船舶が停泊している。総数は軽く30隻以上はいるだろうか!

大は貨物船から、小は漁船、手漕ぎのボートの様な物まであった。

「凄いわね」

「はい。由良さんからの連絡では、泊地近隣の集落の方や近海を航行中の船舶の方が寄ってくれたようです」

すると すずやは、

「こんごう艦長、岬の方みてください!あんなに人が!」

そこには、出撃の際を上回る大勢の人達が集まっていた。

泊地へゆっくりと進む 由良以下の泊地艦隊と自衛隊艦隊。

無数の艦艇が出迎えの為の汽笛を鳴らし、多くの船員たちが手を振っている。

中には発光信号で、

“オカエリナサイ”と送ってくれる船もいた。

将旗を揚げる 由良が返礼の信号を送る。

 

こんごうは

「手が空いている者は、甲板で答礼を」と言うと、副長が、

「はい、既に皆整列しております」

こんごうは、席を立ち、

「私達も行きましょう」といい、艦橋横の見張り所へ出た。

左舷見張り所へ出たこんごうとすずや

こんごうの長いブラウンの髪が潮風にたなびいていた。

その姿を見てすずやは、

“やっぱりこんごう艦長って綺麗、絶対あの服似合うと思うけど”と思いながら、こんごうを見つめた。

 

こんごうは、インカムで、

「副長、入港準備!」

「はい、艦長」と言うと、直ぐに

「機関 両舷前進半速!」と指示を出し、

「入港用意!」と号令すると、艦内に入港用意の号令ラッパが鳴り響く

一斉に甲板員が動き出し、投錨準備へ入った。

こんごうは、インカムを操作して、

「由良さん、こんごうです」インカム越しに

「はい、こんごうさん」と返事が来た

「間もなく艦隊から分離します」と告げた、すると由良は

「私達はこのまま湾内へ入港します、本当にお疲れ様でした」モニターはないが、多分由良さんの事だ、深々とお辞儀をしているはずだ。

「いえ、大丈夫ですよ、後ほど司令部で」といい、インカムを切り替えた。

「ひえい、きりしま 聞こえる?」

すると ひえいが

「おっ! 起きてた?」と聞いて来た、

「ん? なんで寝てたの知ってるの?」

「だってさっきすずやが、“こんごう艦長起こしに行ったら、半裸状態でベッド上でのたうってます!!”とか言って真っ赤な顔で相談してきたから」

慌ててすずやを見ると真っ赤に顔を染めていた。

「でっ、なんて答えたのよ!」

「あっ、それこんごうの癖だから暫くすれば自分で起きるから放置しなさいって言ってやった」

こんごうは、赤くなりながら、

「もうちょっとひえい!」

すると殿のきりしまが、

「ねえ、二人ともそろそろ入港なんだけど」

「ごめ~ん」とこんごうが言いながら、

「各艦、入港準備、既にあかしと、はるなが投錨しているからその横に並ぶわよ」

「了解!」とひえいときりしまが、答えた。

 

ゆっくりと泊地入口付近に差し掛かった

岬には多くの人が並び、手を振っている。何処から出したのか小さな日章旗や旭日旗を振っている人もいた。

前方の 由良達には近くの集落の漁船の船団が並走して歓迎している。

先頭はあの少女の乗る船だ!

皐月は見張り所へ出て、

「ボク、帰ってきたよ〜!!」と大きな声で両手を振っていた。

 

少女も満面の笑みで、叔父に肩車されながら手を振っていた。

そんな姿を見ながらすずやは、

「こんごう艦長 すずや達 “守った”のですね」

「ええ、そうよ 私達はあの少女の笑顔を守ったの、これが自衛隊という組織よ、普段は日陰の存在、決してその行いが報われる事はないかもしれない、けどこの瞬間の為だけに我々が存在するといってもいいわ」

するとすずやは、こんごうへ向い、

「すずや 時々分からなくなる事がありました、何のために戦うのか、確かに深海棲艦は憎いです、でもそれだけなのかって」そして、

「でも、今分かった気がします、すずやが戦う理由は、あの人たちの笑顔を守る為なのですね」

するとこんごうは、すずやの目をじっと見て、

「人それぞれに、そして艦娘それぞれに守る物は違うけど、想いはひとつなの」

「はい、今なら分かります」

こんごうは、

「なら、今回の作戦の目的の一つは成功ね」

「えっ!」

「司令が、私にすずやさんを預けた理由は、すずやさん自身で守るべきものを見つけ出す事よ」

「すずや自身ですか?」

「そう、それが自己改革の一歩なの、自らの存在価値、そして意義をきちんと見いだす」

こんごうは続けて、

「自分は何のために存在するのか、これが理解出来なければ私達は単なる“兵器”に成り下がってしまう、艦娘は兵器ではないわ」

強く頷くすずや

そしてじっと岬の人達を見た。

 

しかし、その群衆の中に、一人の男性が双眼鏡でじっとこちらを見ている事に気がつかなかった。

「戦艦金剛によく似た女性と重巡鈴谷か」そして、

「あれが、“光の巫女”」といい、

その男性はそう呟き、周囲に気づかれないようその場を離れた

 

 

泊地湾内手前で 由良は艦隊を解き、自衛隊艦隊は分離、泊地外周部の停泊地へ入港した。

既に あかし、はるなが投錨しており、こんごう達はその横へ順次投錨する。

副長、航海長の指示の元、入港、投錨作業が続く。

艦首、艦尾のサイドスラスターが起動し、その場で局地旋回し停泊位置を定め、

「錨打て!!」の号令と共に、艦首左の錨が海面へ落下する。

こんごうは双眼鏡で ひえい、きりしまの投錨作業を確認していた。

ふと横の すずやをみると、泊地最深部にある工廠の方をしきりに見ているが、ここからでは影になってよく見えない。

キョロキョロする すずやに こんごうは、

「気になる?」

「いっ、いえ、こんごう艦長」と遠慮がちに言ったが、

「無理しないの。後でいきましょうか」と言うと、

「えっ!でもまだ」

すると こんごうは、

「どうせ司令部へ入港報告しなきゃいけないし、上陸するならね」

すずやは嬉しそうに、

「お願いします」

 

その後 こんごう、ひえい、きりしまは無事停泊地へ入港を済ませた。

こんごうは、

「副長、司令部へ報告に行ってきます。補給作業の指揮お願いしていい?」

「了解致しました、お気を付けて」と言いながら、艦内電話で甲板員を呼び、

「艦長が出られる、内火艇降ろし方用意!」と伝えた。

 

こんごうとすずやは揃って左舷中央部の区画へ向う、舷梯などか格納されている区画へ向うと、既に側面の大型ハッチが開放されて、内火艇の降下作業が始まっていた。

足踏み台を使い、艦内で内火艇にすずやと乗り込むと、

「艦長! 降ろします!」と作業員が叫んだ。

「お願い!」と返事をすると、内火艇を吊り下げたダビット装置がスライドし内火艇は船外へ出た

「すずやさん、揺れるから掴ってて」といいながら、合図を送ると、内火艇はゆっくりと降下、静かに海面に着水した。

こんごうは手慣れた手つきで吊り下げワイヤーを外すと、内火艇の操舵席へ行き

「出るわよ!」と頭上の作業員に手を振った。

「艦長! お気を付けて!」と甲板作業員たちが手を振り返してきた。

おもむろにエンジンを始動し、こんごうの船体から離れる

すずやは、

「こんごう艦長が操船するのですか!」と聞いてきた。

「ん、そうよ」と言いながら、舵輪を回し、船体の旋回を止め、一路、泊地司令部を目指した

「上手いですね、流石です」と言いながらすずやが横に立った。

「この手の船は子供の頃から扱っているから得意なの」

「子供の頃から」

「ええ、12歳の頃には佐世保の海をヨットで走っていたわ」

「そんなに小さい頃から」

「まあ、これでも戦艦金剛の孫ですからね、みっちり仕込まれたわ」

すずやは、

「やはり、時代は流れても鬼金剛ですか」

「いえ、こんごう違いよ、お母さんに仕込まれたの」

「えっ、艦長のお母様?」

「そう、当時は海上自衛隊 DDG-173護衛艦こんごうの艦長 戦艦金剛の娘よ」

こんごうは、そう言いながら、

「学校が休みの時なんか、一日中 ヨットで佐世保湾を行ったり来たりよ、もう目をつぶっても操船できるくらいになったわ」

そして、

「私だけじゃないわ、ひえいもはるなもきりしまも 皆それぞれの家庭で厳しい訓練を積んできたわ、艦娘の子としてね」

「あの頃の積み重ねが今の私達なの」そう言いながら舵輪を切った。

内火艇は、静かに司令部前の桟橋へ着いた、すずやが桟橋へ飛びつき、もやい綱で桟橋のクリートへ係留した。

 

こんごうはすずやを伴い、泊地司令部へと向かう

昨日まであった司令部入口の防空用土嚢はすっかり片付けられ、その痕跡すらない、窓の飛散防止の紙帯も剥がされ綺麗になっていた。

まるで“空襲など無かった”かのように。

1階の事務所に入った瞬間、地元島民職員や基地職員が一斉に起立してこちらを向いた。

一瞬、その動きに驚いた。

年配の古株の職員の老人が前へ出てきて、

「おかえりなさい。こんごう艦長、すずや艦長!」といい深々と一礼した。

それに倣い他の職員も一礼する。

「只今、皆さん」と明るく返事をすると、

「こんごう艦長始め皆さんのお力で、このパラオは戦場にならずに済みました。パラオは守られたのです。ありがとうございます」と再び一礼した。

すると こんごうは姿勢を正し、

「私達はただ海上自衛官として、そして海神の巫女、艦娘としてやるべき事を行っただけです。皆さんが無事ならそれが一番です」

そう言うと、

「由良さん達は?」

「はい、既に2階の簡易指揮所へ」と古株の職員が答えた。

「ありがとう」といい、その場を後にした。

それに続く すずや。

2階に続く階段を上がると、珍しく歩哨が立っていた。

腰に9mm拳銃を提げている。

胸のポケットにIDカードを差し、

「護衛艦 こんごう艦長、ならび艦長見習い すずや、泊地提督並びに自衛隊司令へ報告に参りました」と申告した。

「お待ちしておりました、こんごう艦長。どうぞ」と中へ通された。

元泊地司令部会議室、今は簡易作戦指令室に入室した。

壁面の戦術モニターの前に泊地提督と自衛隊司令、そして少し離れた所に 由良さんと 鳳翔さんが座っていた。

こんごうと すずやは司令達の前に来ると、

「報告いたします。第2護衛群第1艦隊、護衛艦 こんごう、ひえい、きりしま。只今帰還いたしました」

すると自衛隊司令は、

「うん、ご苦労だった。戦果についてはこちらでも確認している。戦闘詳報については後日で構わん」

「はい、司令」

すると横に座る泊地提督が起立して、

「こんごうさん、自衛隊の皆さんにはなんとお礼をしていいか。皆さんのおかげで泊地艦隊並びにパラオは損害が殆どなく、戦果多大。これ程までのパーフェクトゲームは日本海海戦以来と言えるでしょう」

こんごうは、

「お褒めの言葉、ありがとうございます。この戦果は私達だけでなく、由良さん始め泊地の皆さんの日頃の鍛錬の成果です」

泊地提督は、

「すずや君も頑張ったな」と言うと、

「はい、提督。すずや頑張りました」

自衛隊司令は、

「すずや君の副長達も自衛隊守備隊と合わせて4機撃墜している。立派な戦果だ」

「はい、後で行って褒めてあげます」と笑顔いっぱいで語った。

自衛隊司令は、

「全体の反省会は、明日マルキュウマルマルよりここで行う。ひえい達に通知しておいてくれ」

「はい」

「それと弾薬、燃料の補給をしておいてくれ。次の作戦もある」

「はい、それは既に手配しております」

「明日の午後は全休だ。それも合せて伝えておいてくれ」

「えっ、泊地の警戒は?」

「ああ、対空警戒ならE-2J部隊がカバーする。対潜は2式大艇改が周回飛行をしているので、問題あるまい」

「あの、いずも副司令の帰還は?」

「ああ、ヒトゴウマルマルには帰還するが、泊地には入らず沖合待機だ。いずも自身は後でロクマルで来る」

「了解致しました」と こんごうは一礼した。

司令は、

「今日はゆっくり休め」

「はい」といい、由良達と挨拶を交わしたあと、すずやを連れて司令部を後にした。

向ったのは最深部にある泊地工廠だ。

こんごうと すずやが歩いてくる姿を見つけた 鈴谷の乗員妖精達は、一斉に重巡 鈴谷が係留されている桟橋前に整列し始めた。

すずやが前に来るまでには全乗員が整列し、こんごうと すずやを迎えた。

何処から出してきたのか、弾薬箱のお立ち台が前に置かれていた。

 

きりっと整列した乗員妖精達を前に、静かに前に進む、すずや

その姿を後から見るこんごう

全員の前へ進み出て、お立ち台の上に上がる

すずやが、姿勢を正した瞬間、鈴谷副長が、

「気をつけ! 護衛艦 すずや艦長に敬礼!」と大きな声で号令した。

一斉に敬礼するすずや乗員妖精達

すずやは、ぐっと副長、そして航海長、砲術長、機関長など各科の長、先任伍長を筆頭にずらりと並ぶ各員を一人一人見ながら、答礼した。

皆以前よりも顔色がいい、“ほぉー 強くなってるじゃん”と思いながら、

「皆、楽にして」と言うと、副長が、

「直れ!!」と号令する、一斉に挙手を降ろし、姿勢を正す

すずやは、その通る声で、

「皆、すずや帰ってきました」と言うと、皆

「お帰りなさい、艦長!」と一斉に返事をした。

すずやは、

「皆、今回の泊地防空戦、皆のお蔭で我が方の大勝利です。特に泊地提督並びに自衛隊司令から、“副長以下の兵員一丸となって戦い、自衛隊守備隊と協力して4機撃墜。素晴らしい戦果である”とお褒めの言葉を頂きました!」

一斉に乗員妖精達の顔が緩んだ。

次の瞬間 すずやは深々と頭を下げ、

「皆、鈴谷を守ってくれてありがとう」としっかりとした声で話した。

驚いた副長が、

「艦長!頭を上げてください」

すずやはゆっくりと頭を上げ特徴的な髪を直すと、

「皆聞いて。すずやは今、こんごう艦長の元で勉強しています。今回の戦闘でも色々と学びました。一番学んだことは、私達“護衛艦 すずや”が守るべきものです!」

そして力強く乗員妖精達を見ながら、

「私達、護衛艦 すずやが守るべきもの、それは“人々の笑顔!”。このパラオの人達だけじゃない、海に住む全ての人達の笑顔。人種や言葉、習慣の違いはあるけけど、それがなに?

人の笑顔、心の底から笑える笑顔には関係ない!私達はその笑顔を守るために戦います!この すずやの艦霊尽きるその日まで!」

そして すずやは、

「皆、ついてきてくれる?」

と聞いた。

 

暫しの沈黙の後、副長が前に出て一言

「我ら乗員妖精 召喚主であるすずや艦長の元、その魂尽きるまでお伴いたします」と一礼した。

整列した乗員妖精達も、

「艦長! ついて行きます!」

「今更、みずくさいですよ、艦長!」と大きな声が上がった

 

すると列の後から大きな声で、

「すずやさん、よう言った! その言葉をまっとたんや!」

振り返るとそこには、作業服姿のあかしと工廠妖精達が立っていた

あかしはすずやの横へ来ると、

「すずやさん、よう言った! これこそ自衛艦娘!」

「船の事は心配せんでいい、私らがピカピカの最新艦に仕上げてみせるから!」

「あかしさん!」

こんごうも横へ来て、

「よく言ったわ、船の事はあかしに任せて、まだまだ勉強する事は色々とあるわよ」

「はい! こんごう艦長!」とすずやは元気に返事をした。

すると、こんごうの元へ乗員妖精達が集まり、代表して副長が、

「こんごう艦長、すずや艦長の事よろしくお願いいたします」

「お願いします!!」と皆で一斉に頭を下げた

こんごうは、

「安心して、あかしの作る新しいすずやに負けない艦長に育ててみせるから」

「はい」と返事をする一同

 

こんごうとすずやは、あかしに案内されて重巡鈴谷の艦内へ入った

既に艦内の装備品の殆どが撤去され、がらんとした艦内。

艦橋に入り、操舵室へ向う。

操舵艦橋の後方にある艦内神社。

すずやはその前に立つと二礼二拍一礼し、神棚の上に収めてある小さい木箱を取った。

すずや以外の者には触る事が許されない、その手の平に乗るほど小さい木箱。

上には金色の菊花紋章がくっきりと刻まれている。

そっと蓋を開けると、丁重に収められた石。

 

“艦霊石”

 

「ごめん、鈴谷。こんな姿にして、ごめんなさい」と言いながら、

すずやはポロポロと泣き出した。

頬を伝わる涙が一つ、手に持つ艦霊石に落ちた。

その瞬間石は微かに光を放ち、そっとすずやの体を包んだ。

目を閉じて、心の声を聞く。以前よりもはっきりと、そして強く 重巡 鈴谷の声が聞こえる。

“すずや、私は大丈夫。今はお休みしていますが、新しい力をきっと授かり、また貴方と海原を走る日を楽しみにしています”

 

「鈴谷!」

 

“貴方の後にいる方は、光の巫女、選ばれし方。その方の教えをしっかりと学んで、共に明日の笑顔の為、進みましょう!”

優しく、力強く私を包む光。

すずやの体を包んでいた光の渦は、静かに、艦霊石へ収束していった。

 

そっと目を開けそして、

「うん。すずや、頑張る」とぐっと力を込めた。

 

こんごうは、そっとすずやの横へ立ち、

「声が聞こえた?」

「はい、こんごうさん、以前よりもはっきりと」

するとあかしが、

「艦霊石の声が聞こえるのは、艦霊力が上がっている証拠、これはいけるかも!」

すずやは

「いけるかもって?」

あかしは、

「実はね、すずやさんの改修案、4つあるの」

「ええ! 4つ!」と目を白黒させるすずや

あかしは肩に掛けた大型タブレットを起動すると、

「まず 1案がたかなみ型をベースにしたタイプ 一番オーソドックスなタイプ」

といい 護衛艦たかなみ型の仕様を表示した

「高波ちゃんですか!」

するとこんごうは

「駆逐艦高波さんのお子さんですね」

「ええ!!!」と写真を見た。

そこには、護衛艦たかなみ艦長の写真も出ている

「高波ちゃんそっくり!」

あかしは

「まあ、たかなみ型は海上自衛隊で、一番汎用性の高い艦です」

こんごうも

「まあ、オールマイティ、性能的には劣るけど、使い勝手のいい船よね」

あかしは続けて

「2案が あきづき型 艦隊防空仕様の艦」

そういうと、護衛艦あきづき型の資料を表示し、そして

「ここで建造した 戦艦三笠はこのあきづき型を基本に設計した、防空重視タイプの艦です」

するとすずやは、

「三笠様の写真みましたけど、あの三笠が最新鋭艦になってるなんて、信じられない!!」

こんごうも、

「ある意味、大和さんなんか目じゃないかもね」

「それ分かります、今頃トラックにいる扶桑さん達が怯える姿が目に浮かびます」とすずやが続けた。

「そして3案が、あさひ型」

「あさひ型!!」とすずやが、素っ頓狂な声をあげた

「あさひってもしかして!」

こんごうが、

「ええ、敷島型2番艦 朝日様のお孫さんに当たる方ね」

「ううっ」と唸るすずや

「まあ、こちらの護衛艦あさひは優秀です、特徴はなんといっても対潜強化型、対空値はあきづき型に少し劣るけど、対潜値ははるなさん並みにあるわよ」

あかしは続けて

「最後は、これが一番のお勧めかな、ミニこんごう型!」

「ミニこんごう型!!」とすずやだけでなく、こんごうも驚いた

「あかし、そんな船聞いた事ないわよ」とこんごうが言うと、

「そうでしょう、多分はじめてですもん、別名すずや型」

「すずや型!」

「そうです、すずやさん、こんごうさんの特徴である、対艦、対潜、対空にバランスの取れた艦、そのスペックダウン型 汎用性に優れ残存性能に優れた艦、それがすずや型です」

 

「こんごうさんと同じ艦」と唸るすずや

するとあかしは

「正確にいうと、小さいこんごうさんって感じかな」

こんごうは

「どんな感じになるの?」

「う〜ん、まだ構想段階なんだけど」といいながらあかしは、タブレットに完成予想図を出した。

「司令から、極力重巡鈴谷の面影を残すようにって言われているからこんな感じかな」

そこには、前方甲板に単装砲、艦橋前方にはVLS、そしてCIWS、現状の艦橋、その後部にはSPY-1レーダーを2面に配した構造物そして特徴的な集合煙突 その後部には同じくSPY-1レーダーを2面に配した構造物 そしてその後ろは大きく変貌し、大型の格納庫に、ヘリコプター発着場を装備していた

 

それを見たこんごうは、

「なにか、和洋折衷の艦ね」と率直な感想を言った。

「こんごうさん、私は料理ですか?」

「まあ、あかしにかかれば、まな板の上の鯉ね」

「そんな〜!」という すずやを横に、

あかしは、

「レーダーは こんごうさん達のSPY-1DのスペックダウンのFタイプ準拠。主砲はMk 45 5インチ砲Mod 4、VLS32セル搭載。エンジンはCOGLAGを採用する方向で検討してます」

にこやかに話す あかしを横にこんごうは、

「船体は今のまま?」

「一応、ナノマテリアルによる各部の補強、修正をするから問題ありません」

「ふふ、なにか凄い艦になりそうね」

すると あかしは、

「いや〜、船体がしっかりとしてるから、いじりがいがあるわ~!」と嬉しそうに話した。

すずやは、

「お手柔らかにお願いします」というのが精一杯であった。

 

その頃、トラック泊地の戦艦三笠の艦内では、

「三笠様! いずもからレポート来てマス!」と機嫌のよい金剛の声が響いた。

昨晩から缶詰状態の三笠士官室では、山本や宇垣、黒島に、艦娘大和、長門、金剛、秘書艦総括の大淀、そして情報収集役の青葉が詰めていた。

三笠は、

「金剛、画面へ表示してくれ」と金剛に指示すると、金剛はタブレットを操作し、いずもからのメールを画面へ表示した。

「ラバウル爆撃成功。滑走路並びに格納庫、司令部とおぼしき施設、電探施設に、駐機中の戦闘機、残存のB-17を破壊か」

と山本がメールを読み上げた。

宇垣は、

「凄いですな。これだけの施設や機材の爆撃をたった6機の戦闘機で行うとは。それも確実に爆撃している」

付属してきた爆撃判定写真を見ながら唸った。

三笠は、

「精密爆撃というらしい。いずも殿はもっと精度を上げる方法があると言っておったな。爆撃誤差は数mということじゃ」

「数メートル!」と驚く黒島。

「彼女がその気になれば、この部屋だけを爆撃して要人を爆殺する事もできるということじゃ」と笑いながら答えた。

黒島は、

「マロエラップの深海棲艦の飛行場もお願いしたいですよ」

山本は、

「スービックの御大将は動いたのか?」

「はい長官、ルソン駐留の 妙高さんから電文を頂きました、“山動く”です。別文で、

“Eが向う”を受信しました」と 大淀が報告した。

三笠は、

「どうやらニミッツ殿は、マッカーサー殿の説得に成功したようじゃの。Eはサラトガ殿か?」

「はい、三笠様。サラトガさんが機動艦隊を編成し、南下したとの事です」

「例の民間人はどうなった?」

「長官、それはコレネ!」といい、金剛は別のメールと写真を写した。

メールには難民キャンプに支援物資を空中投下した事、そしてオスプレイから撮影された、支援物資を回収するオーストラリア兵の姿が映しだされた写真が添付されていた。

山本は、

「支援物資の量は?」

金剛が、

「いずもからのレポートでは、食料、医薬品を中心に1トンを空中から投下したそうデス!」

「それだけあれば、暫く持つな」

「Yes、長官!」

三笠は、

「これでトラックに突き付けられた槍は、叩き落としたな」

「しかし、米軍にラバウルを取られるのは少し勿体ないですな」

それを聞いた山本は、

「宇垣、仕方あるまい。我々が占領すれば国際問題になりかねない。今まで我々がラバウルを爆撃できなかったのはオーストラリアや米国と国際紛争を避けるためだ。今回は自衛隊という存在しない部隊があったからこそ可能となったわけだ」続けて、

「いずも君にはでかい借りができたな」

すると 三笠は、

「儂が生きておるうちに倍返しせねばな」

 

山本は、

「さて、お次はルソンの北部警備所か」

「奴は必ずパラオの被害を確認するはず。大淀手配は?」

「はい、三笠様。パラオ関連の情報は全て“異常なし”で統一してあります。南洋庁関連も、先日の空襲は抜き打ちの大規模訓練という事で南洋庁長官に手配済みとの事です。ただ在パラオ陸軍に動きがあります。独自に情報を集めているそうです」

「陸軍か、厄介だな」と宇垣が言うと、

意外にも 三笠は、

「パラオの陸軍なら問題あるまい」といい山本を見た。

「泊地提督もいる事だ。そこは任せておこう」

 

山本は

「曙の所在は?」と大淀に尋ねた

「はい、ルソン中部警備所で船体補修と休養という事で留め置いておりましたが、北部警備所へ、先日帰還しました。現在は定時に哨戒活動をしているそうです」

三笠は

「曙自身の様子はどうじゃ、大淀」

「はい、妙高さんからの報告書では、身体的な虐待などの兆候はないとの事ですが、精神的な疲労が大きいようです、とくに鈴谷さんが行方不明になったのは自分のせいではと思い込んでいるようです」

「まずいの、それは」

「まずいとは?」

「イソロク、精神的に追い込み、そこにつけ込む、鈴谷の場合と同じじゃ、鈴谷の時は熊野という支えがあったゆえ、精神崩壊せずに済んだが、曙はそのような者が居らぬ、孤独を好む傾向が強い子じゃからな」

「時間が余りないという事か?」

「そう言うことじゃな」

三笠は暫し考えながら、

「今日の夕方にも いずも殿も帰還する。とにかく対応は自衛隊に一任したのじゃ、任せるしかあるまい」

宇垣が、

「大淀。その情報、整理してパラオへ至急送れ。青葉は監視を強化だ」

「はい、参謀長」と二人は返事をした。

 

三笠は

「大淀、2水戦の神通、不知火、黒潮、天津風、時津風に出撃準備命令! 明日マルロクマルマルに出撃する」

「おいおい、三笠まさか?」

「イソロク、あの輸送船団 そのまま黙って帰すわけにはいかん、ここで叩かなければマジュロ奪還作戦で支障になるやもしれん」

すると、金剛が

「三笠様、ずるいデス、あの船団は私達第3戦隊で撃破するつもりデス!」

すると三笠は、

「たかだか輸送船団ごときに戦艦はいらぬわ」と言うと、

「三笠は戦艦では?」と大和が突っ込んだ。

 

暫しの沈黙の後、

「金剛、ここは2水戦へ譲ってやれ、不知火達の教練にもなる」

「うう、参謀長まで、」といじける金剛

それには、黒島が、

「金剛さん達には マロエラップを叩く時に先陣を切ってもらいたいですね」

「じゃ、それで手を打ちます」と納得する金剛

宇垣は

「さあ、俺達はマーシャル解放作戦に専念するか、黒島」

「はい、参謀長」

 

山本が

「宇垣、パラオに出て来た奴ら、どの程度だと見る?」

「規模ですか? そうですねマーシャルの戦力の3割程度ではないかと思います、数はありましたが、皆無印ばかりで、新造艦も多いです、本来はパラオを使って経験値を上げようとしたのではないでしょうか?」

「すると、まだマーシャルには」

「ええ、長官。ル級のflagshipやeliteが残っています。空母ヲ級eliteもいるのではないかと思い、現地島民を中心に潜入部隊を編成しましたが、確認が取れていません」

 

三笠が、

「儂と、駆逐艦で探りを入れるしかなかろう」と鋭く山本を見た

「敵の本陣はいったいどこにあるんだ」と山本はテーブルの上の海図を睨んだ

 

トラックの昼下がり、ゆっくりと時間が過ぎていった。

 

 

こんごうとすずやは、司令部で帰還報告の後、護衛艦こんごうへ戻り、艦内業務をこなしながら、午後3時前に隣に停泊するはるなへ向った。

連絡用の内火艇を使い、護衛艦はるなへ接舷した、今回はすずやが操船していたが、意外にもうまい操船である。

「へ~、すずやさん上手ね」

するとすずやは、

「すずやも子供の頃から、扱ってましたから」

はるなへ接舷し、舷梯を登る、甲板上には小さな舷門が設置され、士長妖精が警備についていた。

はるな副長が出迎えてくれた。

「お疲れ様です、こんごう総括!」と敬礼して迎えてくれた。

「副長も、留守の間、お疲れ様です」答礼しながら答え、

「はるな達は?」

「はい、既に士官室にお揃いです」

副長の案内で艦内に入る、即座に

「艦内通達! こんごうイージス艦隊総括並びに護衛艦すずや艦長 来艦!」と艦内放送が入った。通路ですれ違う隊員妖精は、こんごう達を見ると、直ぐに通路を開け、直立不動の体制で敬礼する、答礼しながら前へ進む

「こんごう艦長、何か緊張しますね」とすずやがいうと、

「まあ、はるなはこういう事はしっかりしてるからね」と答えながら士官室の前まで来た

副長がドアをノックすると中から

「どうぞ」と優しいはるなの声が聞こえた。

「こんごう総括、並びにすずや艦長をお連れいたしました」とはるな副長が報告しながら入室した。

そこには、ひえい、はるな、きりしまが既に着席していた。

「ごめん、待った?」とこんごうが聞くと、

ひえいが、

「いや、皆いま揃った所」と返事をした。

「こんごう、お疲れ」とはるな

「お疲れ様です」ときりしまが、挨拶してきた

「二人とも、留守の間 ありがとう」と言いながら席へついた

横にはすずやが座る

きりしまが、ニコニコしながら

「どう、すずやさん こんごうの戦いぶり?」

するとすずやは、興奮気味に、

「凄かったですよ! あんなの初めて見ました! まさに”光の巫女“です」

するとこんごうは、

「もお、そんな事ないわよ、それに私は探照灯つけただけだしね」

「それで、集中砲火を受けても、あの光の障壁でびくともしないなんて凄すぎです!」

はるなが、

「まあ、こんごうならそれ位はなんともないわね、なにせ試験で 127mm撃ちこんでも、問題なし、90式対艦ミサイルでも傷一つ、つかなかったしね」

「本当ですか!!」と驚くすずや

「本当よ、前に光の障壁、私達がいうクラインフィールドの強度試験をした事があるの、ひえいの撃つ127mm砲の弾と90式対艦ミサイルを防いだわ」

きりしまが、

「私の計算だと、大和さんの91式徹甲弾もはじき返す強度があるわ、ある意味アイオワクラスも真っ青の性能よ」

するとすずやが

「アイオワ級っていま米国で建造中の最新鋭艦ですよね」

すると、こんごうは、

「そうね、多分今年中には進水してくるでしょう」そう言うと、

「さて、おしゃべりはこれ位にして、反省会して、お茶にしましょう」

といい、反省会を初めた。

反省会では、作戦内容の確認や問題点などを話し合い、20分程で終了した

そして、こんごうは、

「皆、明日はマルキュウマルマルに泊地司令部に集合、今回の作戦の総括と、今後の動向についての会議があります、午後は休暇だそうよ」

「ほ、本当! こんごう」とひえいが席を立った

「ええ、司令から先程通達があったわ、全艦明日の午後は休暇よ、F作業してもいいですって」

「へへ、やったね! うちの艦が今停泊してる所 丁度いい岩礁があるの」といい嬉しそうなひえい

するときりしまは、

「ひえいは、釣るより食べる方がお得意でしょう」

「うちの乗員はみな太公望ですからね~」と胸をはった。

一人意味が分からずキョロキョロするすずやが

「こんごう艦長、あのF作業ってなんですか?」

「うん?長期の航海とかで余暇が少ない時に、課業の一環で皆で釣りをしてもいいって事」

「本当ですか!!」

「ええ、構わないわよ」

すると ひえいが、

「航海中は、訓練の一環で曳航ソナーを流して魚を追う事もあるわよ」

「えっ!」と驚く すずや。

こんごうは笑いながら、

「本当はね、魚の群れと、潜水艦を識別する訓練の一環なんだけど、F作業の時は目標が潜水艦から秋刀魚の群れに代わるのよ」

「アハハ」とひきつる すずや。

 

そんな皆の会話を聞きながらはるなが別室からワゴンを引いてきた。

室内に甘い香りが漂う

「お茶にしませんか?」といい、テーブルの上に 各種のスコーンの乗ったトレーを置いた。

「きりしまのリクエストで 今日はスコーンを焼いてみました」

「おっ、美味そう!!」とひえいが乗り出した

「さすが、はるなね」と言いながら、こんごうが人数分の紅茶を入れはじめた。

 

はるなが、ケーキサーバーを使い、スコーンをとりわけ始めた。

「えっと、これがバターで、これがレーズン、それはチョコチップよ」と言いながら、すずやの前に数種類のスコーンを並べた小皿を置いた

じっとスコーンを見るすずや

「ん? すずやさんどうしたの?」とはるなが聞いた

「いえ、熊野に食べさせたら、どんなに喜ぶかなって」

「熊野さん?」

「はい、呉の艦娘の訓練学校時代は、よくみんなで蒸しパンとか焼いてましたけど、ここ数年は、補給路が細くなってこういう甘い物が不足気味で、ルソンにいた頃は時々 堀司令が内地から差し入れ貰ったって、干し芋みんなででかじってました」

すると、急にぽろぽろと泣き出して、

「曙 大丈夫でしょうか! あのクソ司令 手を出してないか心配です!」

そっと、すずやの横へ立ち優しく頭を抱えるはるな

「大丈夫よ、元気出しなさい」

「はい、はるなさん」と顔を上げるすずや

こんごうは、すずやへ向い、

「なら、曙さんへのお土産は、すずやがお菓子焼いてもっていく?」

「こんごう艦長?」

きりしまが、

「こんごう、それどういう意味?」

こんごうは、静かに、紅茶を飲みながら、

「さっき副司令から内示があった、ひえいやるわよ」

「へ~、どこの部隊を使うの? こんごう」

「陸のSを、私とあなたで」

すずやは、

「何の話でしょうか?」と涙を拭きながら こんごうへ問いただした。

「ねえ、すずやさん。以前熊野さんと喧嘩した時に、あのクソ司令に一発返さないと気が済まないって言ったわよね」

「はい」

「じゃ、近いうちに行きましょうか?」

「えっ!」

すると はるなは、

「じゃ、すずやさんはそれまでにお菓子作り特訓ね」と笑顔で すずやを見た。

 

はるなは席に着きながら、

「こんごう。話変わるけど明日の午後の休暇、皆で泳ぎに行かない?」

「泳ぐ?」

「うん。さっきね、泊地司令部の 由良さんと あかしにスコーンの差し入れに行ったの。そしたら 睦月さん達が、“明日の午後から、近くの集落の子達と岬の反対側の浜辺で泳ぐ約束してますから、皆さんもどうですか?”って」

こんごうは、

「どうする?皆」

ひえいはスコーンを頬張りながら、

「いいんじゃない、せっかくパラオまで来たんだし。少し沖にでればマンタとかジンベイザメとか見られるらしいわよ」

きりしまも、

「少しは陽を浴びないと、CICに籠ってばかりじゃカビ臭くなりそうだしね」

こんごうは、

「じゃ、決まりね。明日の全体会議の後の半休は、皆で泳ぐ!!」

「やり〜!」と騒ぐ ひえい。

すると はるなが、

「ねえ、こんごう。これ出してもいい?」とバイクのハンドルを握る仕草をした。

「いいけど、ちゃんと整備しといてね」

 

しかし、すずやが、

「あのすずやは 副長さん達と釣りしてます」と言った。

「どうしたの?」

「だってこんごう艦長、すずや水着もってません、裸で泳ぐ訳にはいきません」

すると横に座るはるなが

「なら このはるなお姉さんに任せなさい、可愛い水着選んであげる」

「へっ?」と驚くすずや

ひえいが、

「今回の餌食はすずやで決まり!」とびしっと指を指した

「いや〜、助かったわ、はるなの見立て、センスはいいんだけど少しきわどいのよね」とこんごう

「私の計算では、すずやさんの胸部装甲は戦艦クラス、これは期待できます」とメガネを直すきりしま。

 

「あははは」とひきつるすずやの声がはるな艦内に響いた。

 

 

護衛艦いずもは、沖合で待機状態となり、艦娘いずもは、連絡用のロクマルで泊地司令部へ来た。

司令部2階の簡易指揮所へ入るために、階段を上った

既に歩哨は外され、いつもの泊地司令部の2階だったが、簡易指揮所のある会議室前まで来ると、中が騒がしい

「何かしら?」と思いながらドアを開けた。

最初に目に入ったのは、テーブルの上にあるおびただしい数のスコーン!

室内に甘いケーキの匂いが漂っていた。

「あっ、お帰りなさい!いずもさん、お先に頂いてます!」と言いながら、一心不乱にスコーンを食べる睦月が挨拶した。

他にも皐月や陽炎、長波、そして両手にスコーンを持って満面の笑みで食べる秋月

そして、少し離れて、というよりスコーン争奪戦から避難している泊地提督と自衛隊司令

呆れて見とれる由良と鳳翔、その横でしっかりお皿に盛ったスコーンを食べる瑞鳳の姿があった

いずもは、自衛隊司令の前にくると、

「只今帰還いたしました、戦果については戦況レポートの通りです」と手短に報告した。

「ああ、無事でなによりだ、さっきルソンの妙高さんがトラックに宛てた電文を傍受した、

スービックからサラトガさんが出る、数日中にラバウルに侵攻すると見られる」

「それでは、避難民は?」

「ニューブリテン島の西部にいる米豪合同軍が進軍するとの情報がきている、問題なかろう」と自衛隊司令が答えた。

すぐ横で繰り広げられるスコーン争奪戦を見ながら いずもは、

「はるなの差し入れですか?」

それには泊地提督が、

「すまないね。さっき頂いたんだが、すでにご覧の通りでね」

「済みません、何かみっともなくて」と 由良が遠慮がちに話した。

「まあ、分かりますよ。はるなのお菓子の腕前は一流店並みですから。流石、御召艦の家系ですね」

鳳翔が、

「私は和食料理は得意なんですが、こういう洋菓子は苦手でして。でもとても美味しいですわ」といいながら、スコーンを口に含んだ。

 

自衛隊司令は、

「明日の午前9時にここで全体の総括をする、その後 こんごう達は半休を取らせている」

「はい」と返事をするいずも。

「明日の午後からでいいのか?」と聞く自衛隊司令

「はい、構いません、今日中にオスプレイで私の艦へ移送し 明日の午後 式を行います」

「分かった、それで頼む、泊地からは、提督と由良さんが代表して参加する、此方は俺が出る」

「はい、よろしくお願いいたします」といい、いずもは一礼した

席へ座ると、由良が、

「いずもさん どうぞ」とスコーンを乗せたお皿を差し出した

鳳翔が、

「珈琲でよろしいでしょうか?」といい、カップに入った珈琲を出してくれた

「ありがとうございます」と言いながらそれを受け取った

 

不意に後から、

「いずもさんも、明日泳ぎにいきませんか!」と睦月に声を掛けられた

「泳ぐ?」

「ええ、はるなさん達と明日の午後 岬の裏の浜辺で泳ぐ事になったんです、近くの集落の子供達も一緒ですよ」

しかし、由良が、

「ごめんなさい 睦月ちゃん、明日の午後 私達は公務があるの」

「は〜い」と返事をする睦月

 

睦月の話を聞いたいずもの眉間にしわが寄った

「岬の裏の砂浜、あの林の先・・・」

すると、

「おっ、あそこはいいぞ、綺麗な砂浜で、その沖はサンゴ礁で綺麗なところだ」

と自衛隊司令が答えた。

すると由良が、

「司令官さんは、よくご存知ですね」

一瞬、飲みかけのコーヒーを吹きそうになったいずも

 

司令は、落ち着いて、

「いえ、向こうの次元でも何度か休暇でパラオに来た事がありますから」

「それで、パラオの事にお詳しいのですね」と由良

 

いずもは、

「あそこで泳ぐね... 何もおこらなければいいけど」

そう言いながらぐっと司令を睨んだ、しかし、司令は視線を避けた。

いずもは、

“ぐう、あの時 不覚を取らなければ・・!”と思うのであった。

 

 

こんごうとすずやはその後、護衛艦こんごうへ戻り、午後の課業をこなしながら、夕食、そして、本来なら自由時間となる筈であったが、今日は艦長公室で過ごしていた。

普段、こんごうが使う艦長用の執務机に座り、唸っているのはすずやであった。

目の前には、ノートパソコン、右手の机の上にはスタンドに立てかけたタブレットがあった。

「焦らなくていいからね、まだ時間は十分にあるから」と言いながら そんなすずやを見ているのはこんごうであった。

すずやは今、戦闘詳報を作成していた。

本来なら、参謀クラスの士官が作成するが、こんごうでは艦長自らが記入している。

各種モニターや監視カメラの映像記録があるので、それらをまとめて報告書とする事もできるのだが、こんごうはあくまで詳報という形で自身でまとめた物を好んだ。

ひとつ、ひとつの記憶を掘り起こし、その判断は正しかったのか、他に選択肢は無かったのか、などを反省している。

今回は、すずやの業務訓練の一環として、すずやがこの報告書の作成をしている。

戦闘を“発令員”という形で見ていた すずやがまとめた報告書は、彼女自身の経験の現れでもある。

そこから彼女の経験値を読み解くのだ。

 

記録映像と記憶を元に、艦隊、そして艦の行動を時系列で記録していく すずや。

パソコンのワープロソフトを初めて使った。

ぎこちない手付きでキーを押していく。

 

そんなすずやを見ながら、こんごうは、

「少し休憩しましょう」といい、ソファーへ誘った。

すずやはソファーへ座ると、両手を組んで、背伸びをした

「う〜ん、パソコンって意外に疲れますね」

こんごうは、いつものように紅茶を入れながら、

「便利な道具だけど、不便な時もあるわ」

「えっ、こんなに便利なんですよ」

するとこんごうは、いれた紅茶をすずやへ差し出しながら

「色々な数値や情報をパソコンへ記録して保管できるという事は便利なんだけど、慣れてくると、段々とその数字や情報の意味を忘れてしまうの」

「?」と不思議がるすずや

こんごうは、執務机の上から一冊の日誌を取った

「例えばこれね」といいすずやへ渡した。

「航海日誌ですか?」

しおりを捲ると、そこには昨日の戦闘に関する記載が こんごうの自筆で記載されていた。

前のページには前々日の泊地出港や、すずやの発令員としての仕事ぶりなどが記載されている。

綺麗な文字だ。滑らかに書かれたその文字に、こんごうの人柄を感じた。

「確かに航海日誌用のパソコンソフトもあるわ。艦のデータを自動でダウンロードして、記録して日誌にする事もできる。でもそれではだめなの。自分の頭で考えて、手で書いて、初めて意味をなすわ。記録するだけなら機械でもできる。でも思考するのは人でないと出来ないの」

すると こんごうは すずやをじっと見て、

「いい、覚えておいて。この艦はハイテク、すなわち電子機器の塊なの。色んな処理を瞬時に行えるわ。でも判断するのは私達なの。それは攻撃していい敵なのか?って」

「判断ですか?」

「そう、かの東郷平八郎提督も“正しい判断は一瞬だが、その判断をする為には、何年も準備が必要である”と語っているわ。この戦闘詳報も航海日誌も、自らの判断が正しい判断であったのを振り返る物よ」

こんごうにそう言われ、じっと日誌を見る すずや。

「すずやさんも一度、自分の書いた航海日誌を見直してみてごらんなさい。それは貴方が歩いて来た道。そしてこれから歩く道が見えてくるはずよ」

すずやは静かに、

「はい、こんごう艦長」としっかりと返事をした。

 

紅茶を飲みながら すずやはもじもじして、

「あっ、あの、こんごう艦長?」と話を切り出した。

「ん?何?」

「その、いずも副司令のお話は?」

「そう言えば、そうだったわね」といい、

「少し待ってね」と言ってタブレットを取り司令を呼び出した。

少し待つと司令が電話口に出た。

「夜分失礼します、こんごうです」

「どうした、こんごう?」

「すずや三佐に情報開示許可をお願いします」

「情報開示?」

「はい、司令と いずも副司令についてです」

暫く沈黙があったが、

「許可する。但し、プライベートは守ってくれよ」

「はい、司令」といいタブレットを切った。

こんごうは すずやを見て、

「いい?今から話すことは、個人の情報に関する事です。他言してはいけません。日本海軍でこの事を知るのは、山本長官、三笠様だけで、泊地提督や 由良さんも一部しか知りません。ですから許可があるまで他言無用です」

「はい、こんごう艦長」と緊張しながら返事をするすずや

 

「では、まずいずも副司令についてですけど、先日見た通り、副司令は元深海棲艦 北方棲姫のお子さんに当たる方です」

すずやは、

「でも、全然そんな感じを受けません! 普通の艦娘というか、確かに強力な霊力を感じますけど」

「そうね、殆ど私達と変わらないはずよ、なにせ元は同じ艦の魂が具現化した存在ですからね」

「えっ?」

「私達の次元では、深海棲艦と艦娘の基礎研究が大きく進んで、その根本にある霊体そのものはほぼ同一の物であるという事が分かったの」

「じゃ、こんごう艦長!なにが大きくあそこまで邪悪化するのですか!?」

「それは、霊体が具現化し、人の体に憑依する際に使われる術式の差だと言われているわ、

私たち艦娘は日本古来の神話に基づく術式を用いて憑依するのに対して、深海棲艦は独自に作り上げた術式を使う、そこに差があったという事ね」

「では、契約する海神の差という事ですか?」

「そうね、私達の場合は扶桑の国 高天原に住む海神の神々と契約をしているわよね」

「はい、すずやも大巫女様の元でその儀式をしました」

「深海棲艦の場合、その地域毎の海神と契約をするの、だから北は北方棲姫 南は南方棲鬼のように地域性のある深海棲艦が生まれてくるの」

じっと聞くすずや

「北の海の神は、あまり争いが好きではなかった、大人しい神、北の厳しい自然がそうさせたのかもしれない、いずも副司令はそんな神の巫女一族の末裔なの」

「私達の次元の1943年の夏頃かしら、北の北方深海棲艦の群体の中で内紛が起きたの。穏健派の姫一族と、好戦的な配下の戦艦群との間でね」

「内紛ですか!」

「ええ、実体は軍事クーデターに近いわ。深海棲艦レ級を中心とした北方群体の戦艦群は、穏健派の北方棲姫、いずも副司令のお母様達、穏健派を粛清したの」

「粛清ですか!!」

「ええ、最初は言葉巧みに穏健派の駆逐艦の子達に手柄を立てれば姫のお役に立てるとけしかけ、日本海軍を攻撃させた。殆ど近海警備しかした事のない子達よ。真面な戦闘にならないわ。最後は艦ごと突っ込んで来た子もいたそうよ」

ぐっと聞き入る すずや。

「徐々に家臣の穏健派の子達を失う北方棲姫。それに反比例して勢力を伸ばすレ級達。そしてレ級達は、直接日本軍を攻撃するようになったわ。北方棲姫はレ級に対して、無益な戦いはやめる様に説得するけど、逆に北方群体から追い出されたの」

「ひっ、ひどいです」

「住むべき所を失った北方棲姫と家臣の船団は、一路南下したわ」

「南下?」

「ええ、目的地はトラック諸島」

「トラック泊地ですか!」

「ええ、当時トラックにいた、三笠様に逢いに行こうとしたの」

「なぜです?トラックは日本海軍の基地ですよ!」

すると こんごうは、

「先代の北方棲姫、いずも副司令のおばあさまに当たる方が三笠様と面識があったという事よ」

「もしかして、ウラジオストク合意ですか!」

「ええ、此方にも似た話があるみたいね」

そう言いながらこんごうは話を続けた。

「南下する北方棲姫の船団を黙って行かせるレ級達ではないわ、追撃したの。家臣の重巡たちが反撃したけど、一隻、また一隻と段々と数が少なくなり、そして遂にミッドウェイ方面まできたとき、口裏合わせをしていた南方棲鬼が挟撃してきた」

「酷い!仲間を裏切るんですか!」

「ええ、同じ深海棲艦といえど、契約した神が違えばそれは別の群体 おまけに後で解った事だけど、米国も一枚かんでいたの」

「米国ですか!」

「そう、米国としては、自分に懐かない北方棲姫より、軍事技術で釣る事のできたレ級の方が御しやすいと思ったのでしょう、レ級達に軍事技術と資金を融通したの」

「北方棲姫はその追撃を何とか交わし、たった1隻のリ級重巡に乗って何とかトラックの近海まで来たの、でもそこまでだった」

「そこまで」

「ええ、リ級は度重なる戦闘で瀕死の状態、北方棲姫はまだ幼く自分の船を持てない状態、海上で彷徨っていた所をたまたま通りかかった 戦艦長門様が救助したの」

こんごうは、紅茶を口へ運ぶと、

「幼い北方棲姫を保護した長門さんだったけど、リ級はそのまま息絶えたそうよ」

「では」

「そう、深海棲艦北方群体は幼い姫一人を残し、穏健派は壊滅してしまった」

こんごうは続けて、

「その後レ級たちは、南方群体 今のミッドウェイ方面に吸収されて、より一層日本海軍、特に艦娘艦隊に猛攻を仕掛けてきた。」

「酷いです」

「ええ、1944年後半まで何とか持ちこたえたトラックだったけど、すずやさんも読んだと思うけど、本土も爆撃され始めて、戦局は悪なる一方。そこで 三笠様は 大和、長門さん達を本土防衛の為に引き上げさせたわ。その時幼い北方棲姫は 三笠様と共に 大和へ座乗されて本土を目指したわ。しかし深海棲艦、米軍の追撃を受けたの。特に日本本土周囲には無数の潜水艦がいて、ついに艦隊は捕捉されてしまったの」

「敵潜水艦部隊ですか!」

「ええ、台湾沖で深海棲艦の潜水艦の雷撃を受けて、護衛の戦艦 金剛並びに駆逐艦 浦風が沈没したわ。私のおばあさまは運よく助かったけど、浦風さんは多くの犠牲と共に」

「くっ」と歯を食いしばる すずや。

「紆余曲折の末にようやく日本へたどり着いた 三笠様と北方棲姫は横須賀海軍神社へ保護されたわ」

すると すずやは、

「あの、そんなに戦局が悪くなったのに誰もその、和平工作を言わなかったのですか?」

「いえ、多くの人 冷静に戦局を見ている人たちの多くが和平工作に動いたわ、大巫女様や三笠様、政府要人、軍部の一部の人達、でも中々事は進まなかった」

「なぜです!本土が爆撃されて勝てるはずなどないはすなのに!」と すずやは乗り出した。

 

こんごうは、落ち着いて、

「結論から言えば、だれも戦後を予想出来なかった、自分達の望む戦後になるか確信が持てなかったという所かしら」

「自分達の望む戦後」

「そう。すずやさん、今の日本で皇室の無い日本が想像できる? 軍隊の無い日本が想像できる?」

すずやは少し考え、

「むっ、無理です」とそう言うと、

「もしかして、こんごうさん達の世界では陛下は!!」

「いえ戦後も、皇室は形を変えたけど、きちんと残った。陸海軍は解散したけど、自衛力としての自衛隊が生まれた。そんな世界よ」

 

こんごうは話を続けた

「戦後、海軍は解体されたわ、生き残った艦娘の多くは艤装を解かれ、皆故郷へ帰った、本当ならこれで元艦娘として静かに暮らせるはずだったの、しかしそれを戦勝国がほっておくはずもないわ、一部の艦娘と艦艇は戦勝国へ賠償艦として引き渡されたわ」

「賠償艦ですか!!」

「ええ、有名な所では、雪風さんとか響さんとか」

「そんな」

「でも、まだ彼女達はいい方、長門さんや 酒匂さんの船体はビキニ環礁まで連れてこられて新型爆弾の標的にされた」

「何てこと!艦娘艦は霊的な繋がりがあるんですよ。そんな事をすれば!」

「ええ、暫くの間お二人とも意識がない状態だったけど、治療の結果、回復したわ。でも船体は実験の標的となりビキニ環礁に沈んだの」

 

こんごうは、静かに

「本土に残った艦娘達も、霊的実験の為に戦勝国が連れ去ろうとする事案が発生したわ、

そこで旧海軍の関係者や一部の皇族、そして米海軍のさる方のご尽力で艦娘に仮の戸籍を作り、別の名前を与え、隠ぺいしたの」

「雲隠れですか」

「ええ、そうでもしないと、いつ連れ去られるか分からない状態だったの、海軍神社に身を寄せた北方棲姫も 大巫女様の養女として戸籍を作り、日本人として暮らし始めた、そして1952年サンフランシスコ平和条約を持って日本の国権は復活したわ」

すずやは、

「では、いずも副司令のお母様というのは、此方で言えばアリューシャン列島のダッチハーバーにいる、北方群体の姫、北方棲姫でいずも副司令はそのお子さんという事ですか?」

 

「そうなるわね」と静かに答える こんごう。

すずやは、

「でもなぜ自衛隊に?一応、時代が時代ならお姫様ですよね」

 

「大巫女様の薦めだそうよ」

 

「では、こんごう艦長はなぜ自衛艦娘になったのですか?」

それには、

「う〜ん、それ以外の選択肢が無かったからかな、おばあさまはあの戦艦金剛、お母さんは初代イージス艦娘DDG-173こんごう、ひえいも、はるなも、きりしまも似たり寄ったりでね、周りは皆 自衛艦娘だらけで、まあギリギリ適性もあったしね」

「えっ、こんごう艦長、ギリギリ適性があったって、どういうことですか?」

「ふふ、まあ艦娘士官候補生の試験を受けた時は、今ほど霊力が安定してなくて、検査項目ギリギリで通過したの、その後の士官候補生の過程もギリギリで通過、いつも首の皮一枚で繋がっていたわ」

すずやは、驚きながら、

「前にも聞きましたが全然信じられません!」

「じゃ、今度 ひえい達に聞いてみて、同じ答えよ」と返した。

 

すると、すずやは、もじもじしながら、

「あの、いずも副司令の事は分かりました、その、司令とはどのようなご関係で?」

「なに? 聞きたいの?」

「だって さっき情報開示とか言ってましたよ、何かあるのですか?」と迫るすずや

こんごうは、にこにこしながら、

「そうね、由良司令はいずも副司令の婚約者で、本当なら近いうちにご結婚する予定だったの」

 

暫し、沈黙するすずや、そして

「司令と副司令がご結婚ですか! それであれだけ・・・」と言いかけ

「えっ! こんごう艦長! いま司令の事 由良司令っていいましたよ!」

するとこんごうは、平然と

「そうよ、私たちの司令の名前 由良よ、」

すずやは、

「へえ~、泊地秘書艦の由良さんと同じ名前ですか、偶然とは言え奇遇ですよね」と言ってみたが、

こんごうは

「違うわよ、由良司令は軽巡由良さんのお孫さんに当たる方よ、史上数例しかない男性型の艦娘なの」

「へ~、男性型の艦娘ですかって!司令が艦娘ですって!?」といきなり立ち上がった。

「だって、男性ですよ!そんなの聞いた事ありません。艦霊は女性に憑依すると聞きましたよ!」

 

「基本はそうよ、ただ由良司令のように第3世代ともなると、霊体が安定して男性型の艦娘が生まれる事が稀にあるの、ただ艦娘としての霊力は殆どないから、通常は人として生きていくわ、由良司令も、自衛艦娘ではなく一般の海上自衛隊員として勤務しているわ」

 

すずやはぐっと考え、そして

「じゃ、由良司令といずも副司令のご結婚っていうのは」

こんごうは、じっとすずやを見て、

「そう、艦娘と深海棲艦の講和の象徴でもあったの、本当はこちらへ飛ばされて来なければ、大巫女様の後を継いで海軍神社を任されていたはずだわ」

そして、

「いい、すずやさん。この事は日本海軍では、山本長官と三笠様しか知らない機密事項よ。決して泊地の提督や 由良さんの前で話してはダメよ」

 

「何故です?」

 

「詳しい事は私も知らないけど、司令からの通達で、あくまで司令と副司令の関係はここでは上司と部下という関係、それ以上はないという事ね」

 

「でも、ご婚約までされたのなら。おまけに次元が違うとは言え、由良さんのお孫さんに当たる方ですよ」

 

こんごうは静かに腕を組み深く息をして、

「ねえ、すずやさん。今回の戦闘、どんな思いで司令は いずも副司令に命令を出したと思う?本当なら婚約者として片時も離したくないと思うのが男の人だと思うけど、それをかみ殺して、戦地へ行けと命じるのよ。ある意味非情だと思わない」

 

「そ、それはそうですが」

 

「場合によっては戦死するかもしれない。でも指揮官として部下、いえ一番大切な人に“行ってこい”という司令の気持ちも考えてあげて」

 

黙る すずや。

 

こんごうは続けて、

「由良司令がいつも無口で無愛想なのは、ある意味 いずも副司令に対するけじめなの。婚約者としての自分と、指揮官としての自分、いま優先すべきはどちらなのか考えた末の事なの。だから司令が黙っていろと言われれば、私たちは従うしかないわ」

 

こんごうはそう言うと、静かに瞑目しながらそっと呟いた、

「司令、貴方の心の戦いは何時までつづくのですか?」

 

 

外は静かに波の音だけが聞こえる、静かな夜

泊地提督の公邸

とはいえ、小さな一軒家、小さい庭の回りを生垣が囲ってある平屋の家だ。

泊地提督は 縁側に出て、小さなちゃぶ台の前に胡坐をかいて座っていた。

司令部横の艦娘寮にある風呂に入り、既に浴衣に着替えて、闇夜に浮かぶ満月をじっと見ていた。

いつもより、月が大きく見える。

生垣の隙間から明るく照らされた湾内を見ると、軽巡由良の船体が月明かりに照らされていた。

 

背後で音がした、振り返ると由良が、小さなお盆に 日本酒の入った徳利とお猪口

焼いた小魚に、お新香を持って立っていた

「ていと・・、いえ、あなた お待たせしました」といい横へ座った。

「おっ、由良。おまえ、どうしたその浴衣」

 

水浅葱の大縞柄の生地に、青緑の帯と黄茶の帯留で締めた浴衣で姿であった。

帯留には軍艦色のトンボ玉をあしらってある。

 

「あっ、あの、似合いませんか?」

 

「いっ、いや、凄く綺麗だ」

そう言いながらじっと 由良を見つめる泊地提督。

襟元からみえる由良のうなじが、何とも言えない色香を出していた。

 

「もう、そんなに見られると少し恥ずかしいです、あなた」と言いながら、顔を赤くし、

ちゃぶ台に置いたお盆からお猪口を取ると、提督へそっと渡し、徳利の日本酒を静かに注いだ。

「いずもさんが、あなたと二人でいる時ぐらい、ゆっくりしては、と用意してくれました」

 

提督は、注がれたお酒をゆっくりと味わいながら、

「いずもさんには、色々とお世話になったな、でもよくそんな浴衣を持っていたな」

 

「ええ、なんでもお知り合いの女性の方から譲って頂いたそうですけど、これ私にピッタリの大きさなんです、柄も私好みの落ち着いた柄で、気に入りました」

 

すると泊地提督は、お盆に置かれたもう一つのお猪口を由良へ渡し、日本酒を注いだ

「いずもさん達には、公私共にお世話になった、もし彼女達が来なければ、ここパラオで結婚式も出来ないばかりか、深海棲艦の空襲で今頃焼け野原だ」

 

由良も両手でそっとお猪口を持ち、静かに口へ運び、

「はい、あなた いずもさんやこんごうさんがいなければ、私達はどうなっていたか」

 

泊地提督は、

「彼らに報いる為にも、二人して、いや泊地皆で頑張って行こう」と言い、由良を見た

 

「はい、あなた」といい、提督をじっと見る由良

月明かりがそっと二人を照らしていた。

 

 

月明かりに照らされる泊地外周部に浮かぶ5隻の護衛艦

その背後の陸地に、真新しいコンクリート製の建物が数棟

自衛隊の司令部並びに関連施設だ、まだ完成して間がない。

司令部棟は 地上2階、地下1階、地下は作戦指令室となっている。

ようやく司令部をいずもの艦内から地上へ移した司令は、司令部2階にある真新しい自室で、

書類に目を通していた。

ドアをノックする音が室内に響いた。

「入れ!」と返事をしながら、振り向くと、そこにはいずもが立っていた。

由良司令は、

「船へは帰らなかったのか?」

 

「まあね、明日も朝から泊地司令部で会議なら、ここに泊まる方が楽だわ」といい 肩に掛けたタクティカルバッグを床へ下した。

「まだ、仕事?」

 

「いや、単に書類に目通していただけさ」といいながら、小さめのソファーへ腰を下ろす由良司令。

 

いずもは左手に持った二つの缶ビールを由良へ渡した。

「おっ、どうしたこれ?」と聞く由良。

 

「ひえいに貰ったの」と言いながら、制服のシャツのボタンを緩めながら由良の横へ座った。

 

「いいのか?ここ司令部棟だぞ」と言うと、

「この部屋は貴方の私室でしょう。それに既に勤務時間は終わっているわ」と言いながら、

缶ビールを取るとプルタブを開けた。

「なら、遠慮なく」といい、由良もビールを取り蓋を開けた。

 

二人向き合いビールを持ち、

「お疲れ様」と言いながらビールを合わせた。

 

いずもは一気にビールを煽る。

「おいおい、大丈夫か!」と由良は慌てたが、

「あ~、ビールがこんなに美味しかったって思ったの久しぶりだわ」

コンと音を立ててビールの缶を置いた。

 

いずもは、静かに横に座る由良の肩へ身を預けた

「ん、どうした」と由良が静かに聞くと、

「なんでもない、ただ疲れただけ」

由良もビールを飲みながら、

「済まない、もう少し犠牲が少なくなるような作戦があればよかったが」

いずもは、由良の肩に身を預けたまま、

「仕方ないわ、がむしゃらに突き進んでくる彼女達を説き伏せる事は難しいものよ、でもこの戦いで彼女達も分かったはず、ここに手を出せば大やけどをすると」

 

いずもは、じっと自分の白い手を見ながら、

「同胞を撃つことにためらいがないわけじゃない、彼女達には彼女達なりの理由があるわ、でもここで専守防衛を振りかざしても意味はないわ」

 

「ああ、ここで、我々が手を抜いても、相手は全力で向ってくる、ならこちらも全力で戦わなければ、いつかは包囲殲滅されてしまう、出し惜しみはできん」

そう言いながら、由良はビールを飲み干した

「そうね、ここは2025年の世界じゃなく1942年の別世界、そう戦場だわ」

いずも続けて、

「まさかお母様達の歩いて来た茨の道を自分で歩むなんて考えてもみなかったわ」

「ああ、それもパラオだ。これもあのクソ婆が仕組んだことなら、文句の一つでも言ってやりたいところだが、まあいい。一人じゃない。君もいる、こんごう達もいる」

「ええ、泊地の皆やおじい様やおばあ様もいらしゃるわ」

「先は長いな」

「期待してます、旦那様」と いずもはそっと由良をみた。

 

由良は静かに立ち上がり、

「今日は遅い、寝よう。いずも、お前そのベッドを使え。俺はこっちで寝る」といいソファーを指さしながら壁に向かい、制服のカッターシャツを脱ぎ、シャツ姿になった。

カッターをハンガーへ掛けた時、不意に後から いずもが抱き着いた。

「どうした?」と由良が優しく聞いた。

 

暫く返事が無かった。

 

由良の背中に顔を埋めるいずも

小さな声で、

「少し怖かったの、攻撃している時、自分の力がこのまま暴走したらと思うと少し怖かった、私はこんごうほど強くないわ」といい、由良を抱きしめた。

由良はそっと振り返りながら、

「大丈夫だ、俺がいる、そんな事はさせん」

「うん」と頷くいずも、そして

「由良、今日だけでいいから、その・・」と言いかけ

由良は、

「今日だけだぞ」

「うん、明日はちゃんとする」といい頷くいずも

 

そっと由良はいずもの唇にキスをして、静かにベットに組み敷いた。

じっと、いずもを見る由良

「なあ、初めて会った時の事 まだ怒ってるか?」と不意に由良が聞いた

いずもは、

「何急に言うの? もしかして、睦月さん達の話で思い出した」

「ああ、あの時は本当に驚いたよ」

「もう」真っ赤になりながらいずもが答えた。

「綺麗だったよ。本当にこんな綺麗な人がいたんだって、見惚れるぐらい」

「じゃ、今は?」

「ああ、あの頃よりもっと綺麗だ」

「うん」と静かに目を閉じる いずも。

由良は静かに、そっと いずもの首元にキスをした。

 

静かに衣擦れの音と、甘い吐息が室内に流れた。

 

ゆっくりと流れる雲間に、いつもと変わらぬ月が見えていた。そんな静かな夜はそれぞれの思いを闇の中へと溶け込ませていった。

 

 

 

 

翌朝、パラオの水平線に陽が昇る。

朝焼けを見ながら、こんごうと すずやは日課の早朝トレーニングに勤しんでいた。

すずやの体もだいぶ慣れてきたようで、二人で柔軟体操をするが こんごうの動きについてこられるようになっていた。

ふと、泊地外周部の道路を見ると、陽炎達が皆で走っているのが見える。

よく見ると先頭は 睦月。続いて 皐月、陽炎に 長波、そして 秋月。驚いたことに少し離れて運動着を着た 瑞鳳も走っていた。

こちらに気が付いたのか皆手を振っている。

すずやが大きな声で、

「おはっよ〜!!!」と言いながら手を振り返した。

「こんごうさん、皆頑張ってますね」

「ええ、私達も頑張ってトレーニングしましょう」と言いながら、こんごうと すずやは朝のトレーニングを続けた。

その姿だけ見れば普通の生活の姿だ。だが2日前、ここは戦場だった。

そして今もまだ戦場である。

 

こんごうとすずやは、その後総員起こし、艦内清掃、国旗掲揚と黙々と朝の課業を終え、

9時前に泊地司令部2階の簡易指揮所へ向った

すずやは、内火艇を操船して、僚艦へ立ち寄り、ひえい達を便乗させ桟橋へむかった。

 

泊地の簡易指揮所へ入ると、すでに鳳翔を中心に泊地の艦娘が揃っていた。

前方の壁面には大型ディスプレイがあり、現在のパラオ周囲の対空、対水上のレーダー情報を表示している。

別のモニターには、泊地湾内の監視カメラ情報を分割表示していた。

前列には鳳翔、瑞鳳、睦月、皐月

その後ろに陽炎、長波、秋月が座って雑談していた。

こんごう達も朝の挨拶を交わしながらそれに続き着席した、

マルキュウマルマル丁度に、ドアが開いた。

由良を先頭に、泊地提督、いずもそして、自衛隊司令が入室してきた。

即 鳳翔が号令を掛け、一斉に起立する。

提督達が前方へ並ぶと、鳳翔の号令の元、一礼した。

泊地提督が、

「皆、着席してくれ」といい、着席する鳳翔達

提督は続けて、

「皆、今回の泊地防空戦並びに、深海棲艦侵攻部隊迎撃戦、皆の奮闘のおかげで敵部隊を粉砕しただけでなく、当方の被害は微少、死傷者なしという連合艦隊始まって以来の快挙と言っても差し支えない戦果である。よくやった」と満足そうに話した。

「なお、連合艦隊司令山本長官よりお言葉がある」

泊地提督がそう言うと、前方の大型ディスプレイが起動し、画面にトラックにいる山本長官が映し出された。

テレビ会議システムを使いトラックとパラオを結んでいる。

今回は哨戒飛行を行っているE-2Jを経由してのデジタル通信を行った。

 

画面に映る山本、後方には宇垣参謀長

そして、戦艦金剛、大和、長門 秘書艦総括の大淀が映っている、チラチラと青葉らしき姿が見える、どうやら画面を遠くから覗いているようだ。

山本達は、いつもの三笠士官室ではなく、今日は戦艦金剛の士官室にいた

「泊地提督、並びに泊地艦隊の皆、そして自衛隊の諸君 おはよう」

と山本が静かに切り出した

由良が起立と号令を掛けようしたが、山本がそれを止めた

「由良、非公式の会議だ、皆ゆっくりしてくれ」と山本が言うと、

「皆 今回の戦闘 大変ご苦労であった、戦果についてはこちらでもほぼ把握しているが、

俺も軍歴が長いが、これほど一方的な勝利は記憶にない、皆本当によくやった!」

そして視線を自衛隊司令へ向け、

「自衛隊司令、いずも君、そしてこんごう君 ひえい君、はるな君 きりしま君 そしてあかし君、君たちにはなんとお礼を言ってよいいか」

自衛隊司令は姿勢を正し、

「いえ、自分達はただやるべき事を行ったまでです、それは此れからも変わりません」

と静かに答えた。

「いずも君」

「はい、長官」と答えるいずも

「ラバウルの避難民の件だが、米豪合同軍が動いた、サラトガを中心とした機動艦隊が南下している、陸軍も侵攻を開始した、そう遠くない日に救助されるだろう」

「はい」と言いながら一礼するいずも

山本は

「本来なら、三笠が一言いうんだがな、彼奴朝いちばんに駆逐艦引き連れて出かけて行ってな」とあきれ顔で話した。

泊地提督が、

「あのもしかして、侵攻部隊の陸戦兵力ですか?」

「ああ、このまま返せば後々面倒になると言い出してな、神通達と殲滅戦に打ってでたよ」

山本は

「宇垣君からも一言あるそうだ」

すると、山本に代わり、宇垣参謀長が前に出て、

「おう、皆おはよう」と声を掛けた。

「おはようございます!」と駆逐艦の子達が一斉に挨拶をした

「はは、元気があってよろしい」と満足げにいうと、泊地提督を見て

「提督、由良。まだ結婚のお祝いを言ってなかったな、二人ともおめでとう」

「参謀長、身に余るお言葉です」と提督と 由良は一礼して答えた。

「由良」と宇垣は言うと、

「はい、参謀長」

「提督や皆の事よろしく頼むぞ」

「はい」

由良の返事を聞きながら、宇垣は満足そうに笑みを浮かべた。

 

鳳翔はその顔を見ながら

“本当に参謀長は 艦娘一人一人を大切にされる方ですね、まるで我が子のように”

そう内心思った

 

宇垣は視線を動かし、

「自衛隊の諸君、初めまして、連合艦隊司令部参謀長を務める宇垣だ、日頃から泊地の皆がお世話になっているとの事、謹んで御礼申し上げる」と深々と一礼した。

 

それを見た提督達は驚いた。

この宇垣参謀長、普段から実力主義の人物として有名だ。如何に階級が高くても、自分よりも能力が低いと感じた者には決して頭を下げる事がない。ただ冷血漢でもなく、人情味あふれる人物でもある。その参謀長が頭を下げたのだ。それだけで、自衛隊の実力を認めたという証拠である。

 

自衛隊司令は落ち着いた物腰で、

「宇垣参謀長、お言葉有難くお受けいたします、今後も泊地の皆さんと協力してまいります」

宇垣は頭を上げると、

「いずもさんでしたね」

「はい、宇垣参謀長」といずもは一礼した

「由良達の事 よろしくお願いいたします」

「はい、ご期待に沿うよう、努力いたします」

そして、後方に映るこんごうを見て

「こんごう君、白雪達を助けてくれてありがとう、いやそれだけでなく鈴谷の事、よろしく頼む」

こんごうは、

「はい、しっかりと立派な自衛艦娘へと変えてみせます」と答えた

宇垣は

「鈴谷!」と声を掛けた

席から立ちあがるすずや

「はい、参謀長!」

「お前は自衛艦娘となっても、決して連合艦隊の一員であるという誇りを忘れてはならない、いいな!」

「はい、参謀長 心致します」といいぐっと宇垣を見た

 

宇垣はそのすずやを見て

“救助されて、まだそんなに時間が経っていないが、いい眼だ、本物になるかもしれん!”

そう確信した。

 

宇垣は下がり、再び山本が

「余り長くなっても申し訳ない、今回の戦訓を次回へ生かす為、皆の活発な意見を期待する、提督済まんが追って詳細を送ってくれ」

「はい、長官」と

 

「それではな」といい 山本が下がった。

その後ろで、にこにこしながら全く緊張感のない金剛が、手をひらひらと振りながら

「こんごうちゃん 今度メールするネ!」と言うと、その後ろにいた青葉が

「あ! 金剛さんだけずるいです!!」

何やら山本の後で騒ぎだしたが、その瞬間映像が切れた。

 

「はは、お姉さまったら」とこんごうが言うと

横に座るひえいが、

「金剛姉さま、メールの仕方覚えたの?」

「らしいわね」

するとひえいは

「大変よ、あれこれと」

「うう、それを言わないで」

突然、はるなが、

「私も榛名様とメル友になりたいな」と言い出した

「じゃ、こんどトラックに行ったら端末、渡さないとね」

はるなは、

「うちのおばあさま メカ音痴だからガラ携帯の方がいいかな」

突然、きりしまが

「ねえ、肝心な事忘れてない?電波届かないわよ、中継機が飛んでないと」

「そっそうよね」と落胆する はるな。

 

しかし、そっとあかしが、

「ふふ、そこは既に計画済みです」

「何 あかし」とこんごう

「途中の無人島にアンテナを設置する計画があります、既に候補は選びました、近いうちに 無線アンテナを立てて通信ラインを確保します」

「じゃ、トラックとメールできるの?」

「はい、はるなさん 近いうちにですけど」

「やった、おばあさまとお話できる」

 

いずもは、

「はい、そこ静かにして」とこんごう達を制した。

普段なら、ぎっと睨む所であるが、今日はいつもより、目つきが優しい

その眼を見たひえいは

“副司令、何かいいことでも有ったのかな?”

 

泊地司令は、皆の前方へ立つと

「まず会議の前に、通達を一つ。今回の防空戦、並びに侵攻部隊撃撃戦における情報の扱いである。今回の全ての戦闘に関する記録は、時期が来るまで秘匿扱いとして一切の口外を禁止する」

由良が、

「破った人は一ヶ月間寮の掃除当番にします!」と付け加えた。

「およ!何でですか提督!?」

「睦月、ちょっとした仕掛けをしててな。今後予想されるマーシャル方面での戦闘を有利に進める為だ」

「あの、どういう事ですか?」と 瑞鳳が続けると、

 

それにはいずもが、

「心理戦ですよ」

「心理戦?」と駆逐艦隊の艦娘達が首を傾げた

泊地提督は、

「本来なら、これだけの大部隊を当方の損害無しで撃破したとなれば、海軍いや日本全土でお祭り騒ぎになる所だ。軍令部だけでなく統帥部自体も宣伝材料として使うだろう。しかし、ここはぐっと我慢してもらいたい。一切こちらから戦果の発表はしない、いや戦闘自体の存在を否定する」

提督は手を後で組みながら、

「既に我々の暗号の一部が深海棲艦に解読されている事は話したと思うが、今頃深海棲艦のマーシャルやミッドウェイの本部はどうしてると思う?睦月?」

「むむむ、必死に味方艦隊の行方を捜しているはずです」

「そうだ。あれだけの大部隊を出しておきながら、ここパラオへ近づいたとたん行方不明だ。そこに損傷した駆逐隊がほうほうの体で帰ってきたとなれば、奴らとて色々と考える。ましてこちらから、戦闘自体を否定する通信ばかりが流れれば尚更だ」

「混乱を生じるという訳ね」

「その通りだ 陽炎。奴らは根本から対トラック戦略、いやこのミクロネシア戦略を見直す必要に迫られる。我々、パラオ艦隊という虚像にな」

「私達は囮という事でしょうか、提督」鳳翔が問いただした。

「まあ、簡単に言えばそうなるな」

「え〜 また囮ですか!」と 長波がぼやいたが、

「長波、そう言うな。これもれっきとした任務だ。さて諸君、既に知っていると思うが、現在連合艦隊司令部では、マーシャル諸島開放作戦を立案中である。すでに第1次の補給物資を先のヒ12輸送船団で運んだばかりであるが、今後も継続して輸送作戦を実施する。当面は輸送船団の護衛が主な任務だ。しかしマーシャル作戦の際は、我パラオ艦隊には2つの大きな任務が課せられている」

 

「二つですか?」

 

「そうだ 鳳翔。一つはマーシャル周辺海域の潜水艦狩りだ。これは先日山本長官より打診された」

「しかし提督、私の艦はこの後改修工事にはいりますが」と 鳳翔が言うと、

「今回は 瑞鳳に対潜空母役を頼む」

「えっ!瑞鳳ですか?」と 瑞鳳は自分を指で指した。

「そうだ。軽空母とはいえ、攻撃力もある。前線へ出すには問題あるまい。鳳翔、済まないがその辺り指導してくれ」

「はい、提督」

「それと、お前も行くぞ」

「私もですか?」と今度は 鳳翔が自分を指でさし、そして、

「でも船が」

 

「私の艦で鳳翔さんの航空隊をお預かりいたします」といずもが言った

「いずもさんの艦ですか?」

「ああ、航空機の搭載能力に余力がある、鳳翔自身も乗れば妖精飛行士も安定する」

「他の方の艦での運用というのはあまり実績がありませんが、いずもさんなら」

泊地提督が、

「さてもう一つの任務は、主に自衛隊の皆さんへお願いする事になるが、マジュロで人質になっている人たちの保護だ」

「マジュロの人質奪還ですか!!」と一斉に声がでた。

「そうだ、マーシャル作戦の最大の難関である人質解放を自衛隊にお願いする事になった」

自衛隊司令が立ち、

「微力ではありますが、全力で対応させていただきます」

そう言うと 長波が、

「陸軍の強襲作戦ではないのですか?」

提督は、

「当初はそれも検討されたらしいが、余りにも犠牲が大きくなる可能性がある」

「犠牲ですか?」

それには 陽炎が、

「私、以前マジュロへ行ったことがあるけど、あそこは礁湖っていって、そうね指輪の様な地形で身を隠せる所が殆どない地形よ。そんなところへ陸軍が強襲上陸してごらんなさい、陸軍だけでなく、人質まで戦火に巻き込まれるわよ」

「そういう事だ、長波」

頷く 長波。

 

「あの質問いいでしょうか?」とすずやが手を上げた

「なんだい、すずや君」と提督が言うと、

「話が戻りますが、もしこのパラオを強敵視したミッドウェイが南下して来たらどうします?ミッドウェイには南方棲鬼級の姫がいると聞きましたが」

それには泊地提督が、

「それは十分可能性がある。もしミッドウェイが南下してくるようなら、パラオ泊地近海まで引きずり込む。その後パラオ艦隊と自衛隊艦隊で受け止めながら、トラック及びサイパンの部隊で鶴翼の陣で後方遮断、包囲殲滅する」

「折り込み済みという事ですか」

それには提督が、

「そう言う事だ」

 

その後 今回の戦闘の反省となったが、特に話題となったのが、泊地での敵航空機迎撃戦とル級艦隊との交戦であった。

 

敵機の防空戦に於いて、陽炎、長波組が急に変針した敵機編隊を追えず泊地内部へ侵入を許した事について、主砲の追従性能では機動性の高い航空機迎撃には限界がある事、また現行の対空機銃についても問題があり、自衛隊の使用したVADSが有効であった事が報告された。

またル級艦隊との夜戦では、戦闘自体は有利に進めたものの、敵艦隊が分散し始めた頃より、各艦の散布幅が広がり有効打が少なくなった事が問題視された。

しかし収穫もあった。長波の対空砲弾による小型艦艇への砲撃は予想以上に効果があり、特に敵対機銃等の鎮圧効果がある事が確認された。

 

泊地提督は、

「各員、数日中に戦闘詳報をまとめてくれ、各自の意見を忌憚なく述べて構わん」といい

「本当なら、祝勝会の一つでもしたい所だが、存在しない戦いだ、今回は見合わせる」

すると、駆逐艦隊から、

「えええ!褒賞もなしですか!?間宮羊羹ぐらいは!」と声があがったが、

「その辺りは今度 三笠様が何かしてくれるそうだ。代わりに今日はこの後は自由時間だ」

睦月は、

「へへ~、皆で泳ぎにいきます!」と言うと、瑞鳳は

「毎日海にいるのに泳ぐの?」と聞いた。

「それとこれは別ですよ。それに今回は集落の子達も一緒です」

鳳翔が、

「小さいですけど、お弁当を用意してますからね」

「はい、ありがとうございます!」と一斉に返事をする駆逐艦隊。

提督が、

「でも、よく水着なんかもってたな?」と聞くと、

「はるなさんからいっぱい可愛いやつを貰いました!」と 睦月が答えた。

こんごうと ひえい、そして きりしまは、

“ここにも はるなの餌食がいたか”と思った。

泊地提督は、

「俺達は用事で夕方まで出かけている。瑞鳳、後を頼むぞ」

「はい、提督。飛行場管理棟で待機してます」

すると 皐月が、

「いいな〜、僕達の寮にも冷房ほしいです!」

 

そんな会話の後 会議は解散となり、睦月達は寮へ戻り、海水浴の準備を始めた

あかしはこんごう達と別れ 工廠へ向う。

こんごう達は一旦艦へ戻り、私服へ着替え、準備をして再び内火艇に乗り泊地の端の桟橋へ向った。

そこから徒歩で10分、岬の反対側 丁度泊地の影になる部分に遠浅の海岸が広がっていた。

小さい林を抜けると、そこは真っ白い、綺麗な砂浜であった。

「おっ、いいとことじゃん」と言いながらひえいが海岸へ出た、

それに続いて 肩に大き目の荷物を担いだこんごう、そしてクーラーバッグを持ったすずやが続いた。

最後にきりしまもやや大きめのバッグを担いでいた。

既に、睦月達が来ており、村の子供達と海岸線を走り回っている。

睦月達は、はるなの選んだカラフルなビキニタイプの水着をまとっていた。

睦月と 皐月は白ベースのオーソドックスなパンツタイプ。陽炎は上下別デザインの水色をベースにした配色。長波は髪の色に合わせてピンクをベースにしていた。

最初にこの水着を見た 陽炎は、

「少し大胆ね」と言ったが 長波を見て、

「あんたはもう少し遠慮しなさい!」と付け加えた。

それもそのはずだ。艦隊型駆逐艦の最終形態と言われた 夕雲型。

船体強度も増している、勿論艦娘の胸部装甲の厚みもである。

夕雲型でも有数の胸部装甲を誇る長波、その厚みをここぞとばかりに披露していた。

「これだけは教官には負けません!」と胸を張った。

「なに!」と 陽炎がいきなり 長波に海水を吹っ掛けると、御返しとばかりに 長波も返した。

するとそれを見た村の子供たちも一斉に水かけ合戦になり、睦月達も加わり、一大海戦へと発展していった。

 

「皆 元気ね」と呆れながらこんごうは、日陰に来ると肩に担いだ荷物を降ろした。

ひえいも肩に担いできたタープを下すと、こんごうと二人で手際よく組立て周囲に目隠しをした。

きりしまは、すずやと二人で、ピクニックテーブルを広げた。

きりしまが、

「いい?」と聞いてきたので、こんごうは

「OK! 準備できたよ」といい中から出て来た。

「じゃ、先に着替えるわね」といい 中に入るきりしまとひえい

ピクニックテーブルの椅子に座るこんごう、前にはすずやが座った

もじもじしながら、すずやが、

「あっ、あの」

「なに? すずやさん」

「こんごう艦長、やっぱり着ないといけませんか? あれ」

「だって、着ないとこのままじゃ泳げないわよ」といい、自分の服を指さした。

こんごうと すずやはいつものトレーニング用の運動着を着ていた。

こんごうは上着を着ずにTシャツ姿だ。シャツの背中には こんごうの艦のシルエットデザインがされている。

左胸には小さな日の丸の国旗とJMSDFと書かれていた。

 

「お待たせ!」といい、ひえいときりしまが出てきた

ビキニスタイルの水着に、腰にパレオを巻いていた。

ひえいは、赤をベースにした配色、きりしまはブルーだ

「よし、着替えるわよ」といい、渋る すずやの手を引いてテントに入った。

 

ガサゴソと服を着替える音が中からする中、ひえいと きりしまは大き目のレジャーシートを木陰へ敷き、クーラーボックスとテーブルを移動させた。

子供達が ひえい達に気が付いたようで、此方へ掛けてくるのが見える。

「ひえい様!!きりしま様!」と手を振りながら元気に走ってくる子供達。

「ふふ。何処でも子供は元気よね、きりしま」

きりしまはいつものメガネではなく、薄いスモークの入ったのサングラスを掛けていた。

「ひえいも子供の頃はあんな感じだったわよ。こんごうと二人で棒を振りまわして遊んでたじゃない」

「そっ、そうだっけ?」

「昔からガキ大将でしたよ。長波ちゃんもビックリする位にね」

そう言っている内に子供達が 睦月達を引き連れてよって来た。

少女達が、

「こんごう様と はるな様は?」

「ん、こんごうは今着替えているから直ぐに来るわよ。はるなも、もうすぐ着くって」

村の子供達にとって艦娘は海の神の使い、いわば現人神に近い存在である。

尊敬の念が強い。おまけに既に こんごうの力を噂で知っている村の子供達にとって、こんごうは既に神の領域である。そんな こんごう達と今日は遊べるとあって朝から大騒ぎであったらしい。

 

「いくわよ、ほら」と声がした。

振り返るとそこには、ブルーのグラデーションの入った水着をまとう こんごうと、胸を隠しながら歩くオレンジのグラデーションの水着姿の すずやの姿があった。腰に同じくグラデーションの入ったパレオを巻いていた。

 

「うわ~!!」と村の少女達から声が上がった。

こんごうのブラウンの髪が、海風にたなびき、その美しい容姿とエキゾチックな姿から、正に海の巫女を想像させた。

子供達が駆け寄り、

「こんごう様 綺麗です!」話しかけてきた。

 

こんごうは満面の笑みで、

「ありがとう」といい、子供達の手を引いて、テーブルまで来た。

ひえいが、

「すずや どうしたの、胸なんか隠して」

真っ赤になりながら、すずやは、

「おっ、思ったより小さいですこれ」といい胸の水着のブラを見た。

「どれ」といい、ひえいがすずやの手をどけると、そこには、重巡としては、高雄クラスと言われるすずやの胸部装甲が!

谷間もクッキリと主張した、立派な装甲である

「おお〜! これは見事だね」とひえい

「やっぱり 私の計算には間違いはありませんでしたね」ときりしまがサングラスを直した。

「ちょ、あんまり見ないでください!」と赤くなるすずや。

こんごうが、笑顔で、

「ふふ、すずやさん ここには成人男性もいないし、そんなに気にしなくてもいいのよ」

すると、ひえいも

「そうそう、こんごうなんてね」

「あれは、反則級ですよね」ときりしま

そう、こんごうは普段さほど目立たないが、実は4人の中で一番胸部装甲が厚い

制服状態では はるなが一番目立つが、脱ぐとこんごうだ。

ひえいは 体質が筋肉質なので、そこまではないが、それでもイージス艦娘である、それなりに、いや十分 厚みがある、きりしまも女性としてみれば十分だ。

ただ すずやは、高校生の様な容姿に強大な装甲が悪目立ちするのだ。よく 熊野から、

「無駄な所がでかい!」と言われている。

 

こんごうにそう言われ、ようやく胸にあてた手をどけるすずや

オレンジのグラデーションのかかった綺麗な水着が胸に栄えて見える

 

すずやが

「はるなさん、遅いですね」

すると、こんごうが、

「来たみたいね」といい、岬の方を指すと、1隻の小型艇が高速で近づいてきているのが分かる。

「はや! 30ノットは出てますよ! あれ」とすずやが驚いた!

すると、ひえいは

「来たな、水上暴走族!」

きりしまも

「でも今日は 大人しいね」

 

そこには、猛スピードで此方へ近づいてくる水上バイク、ハンドルを握るのは、サングラスをかけウエットスーツを着たはるな、その後ろに必死にはるなにしがみつく秋月であった。

はるなの乗る水上バイク、1,000㏄クラスのエンジンを備えた3人乗りのタイプである。

ベースは市販品であるが、れっきとした護衛艦 はるなの装備品である。

市販品とカラーが違い、海上自衛隊の船体色で塗られていて、しっかりと艦尾には白字で“はるなJr”と書かれていた。

 

此方へ近づくと急速に行き足を緩め、ゆっくりとターンをして、減速し砂浜へ乗り上げ、止まった。

「ごめん! 秋月さんの水着手直ししてたら遅くなった」と両手を合わせて謝った

 

一方 秋月は、グレーの縁取りの真っ白いブラ、腰はスカート風の水着をまとっていた。

「凄いですよ、この船、こんなに小さいのに物凄く速いです、まるで海上を滑っているみたいです」と興奮気味であった。

睦月や皐月、そして村の子供達もはるなの乗って来た水上バイクが珍しいのか周囲に集まってきた。

 

「はるなさん! 後で乗せてください!」と睦月が言うと、

「ずるい睦月、僕もお願い!」と皐月も

「はい、皆さん交代でのせてあげます」と笑顔で答えた

「やったー!」とうれしがる子供達

こんごうが、

「小さい子もいるから、ベスト着させて、速度も抑えてね」

「うん、準備してきた」といい、バイクの椅子の下を開けて子供用のライフベストを取り出した。

 

既に、周囲では、水上バイクに乗る順番決めの為 じゃんけん大会が始まっていた。

どうやら一番は村の男の子と女の子が引いたようだ

喜びながら近づく二人にベストを着せ、バイクの後ろへ座らせるとはるなは、

「じゃ、こんごう 一周してくる」といい、バイクのエンジンをかけた。

ひえいが軽く船体を押して、離岸させると、自力でバックしながら少し離れ、そして、軽くエンジンを吹かし ターンをして海岸線に沿って走り出した

 

「何か、意外ですね」

「すずやさん何?」

「いえ、普段 おしとやかという雰囲気が一番似合うはるなさんが、水上を暴走してるなんて、意外です」

こんごうは、笑いながら

「ふふ、船を操船させたら、私達の中では一番うまいわ」

「へ~、意外です」

こんごうは、

「どんな人にも、意外な一面があるものよ」

 

こんごうと、すずやが話していると、少女が

「巫女様、一緒に泳ごう!」と誘ってきた。

「じゃ、残りの皆で泳ぎましょう」といい、腰のパレオをとり少女の手を取って歩き出した、すずやも他の子供達と一緒に海へ向った

 

ひえいは、ビーチボールを取り出し、きりしまとバレーを始めた

するとそれを見た 陽炎と 長波も加わり、ひえい、きりしま組対 陽炎、長波組のビーチバレー対決へと発展していった。

元々運動の得意なひえい。きりしまの上げる正確なトスを容赦なく 陽炎、長波へ叩き込んだ。そうなると 陽炎達も黙っていない。駆逐艦魂に火が付いたのか、執拗に食い下がる。

そんなバレーを見た村の子供達は、

「ひえい様がんばれ!」

「陽炎姉ちゃん、がんばれ!」と応援合戦が始まった。

 

 

 

そんな 楽しい歓声が響く海岸から遥か沖合を航行する 護衛艦いずも

 

 

 

いずもの艦内は今、厳粛な空気が漂っていた。

右舷の大型貨物搬入口が開放され、10mほど下には海面が見える。

 

その貨物室の広い空間、綺麗に整列された15個の棺が並んでいた。

 

棺には、真っ白なカバーが掛けられている。

棺の後方には正装した泊地提督、秘書艦 由良。由良はいつものセーラー服に、大佐の階級章をつけていた。

そしてその横には同じく正装の自衛隊司令、喪章をつけている。

その後方には各幹部や下士官、曹士の代表が喪章をつけ、整列していた。

 

 

静かに波の音だけが響く艦内に、コツコツと足音が響いてきた。

それは真っ白い、染み一つない、純白のワンピース。深海棲艦の北方棲姫の正装を着た いずもであった。

よく見ると、ワンピースには白い刺繍で幾重にも文様が刻まれている。

何時も掛けているメガネはなく、赤い瞳に真っ白な肌、そして雪の様な白い髪。

その白い髪が、風にたなびき揺らめいていた。

ワンピースの胸には、小さな喪章。

左手には黒い小さな本を持っていた。

静かに歩き、並べられた棺の前まで来ると棺に一礼して振り返り、泊地提督達へ一礼した。

 

再び棺へ向うと、列外に居た いずも副長が落ち着いた声で、

「只今より、先のパラオ防空戦で犠牲となった深海棲艦妖精兵員の水葬を執り行います」と告げた。

 

副長は、

「葬送の言葉」というと、いずもは静かに棺の前に立ち、左手に持つ古い本を開いた。

静かにページをめくり、そしてそっと語りかけた。まるで我が子に話かける母親の様に。

 

「ここに眠りし、深海の神に仕えし妖精達の魂が、再び神の元へ彷徨う事なく、歩み進む事を願わん。その魂が、深海の神により安らかに眠る事をここに願い立て祀る」

 

いずもはそう言うと静かに本を閉じ、一つ一つの棺の前で本を両手でかざし祈りをささげた。

その度に、いずもの左腕のブレスレットが静かに煌めき、棺を優しい光で包み込んでいった。

その風景はまるで、幻想的な光景であった。

その光景を見ながら泊地提督は、

“深海棲艦との和平。その道のりを歩く限り、彼女の心の傷は広がるばかりだ。本当に俺達のやろうとしている事は正しいのか?”そう心に思った。

ふと隣にいる由良を見ると、じっと いずもを見ていた。

目に涙を浮かべていた。

「由良?」と声を掛けた。

「はい、提督さん」

提督は、そっとハンカチを差し出した。

「どうした?」

「いえ、いずもさんのあの姿を見ていたら、私達のしたことは本当に正しかったのかなって」

 

その問に答えたのは自衛隊司令だった。

「それは、自分達には解らない事です、永遠に。ただ一つ言える事は、本気で殴らなけば痛みは解りません」

自衛隊司令は、祈りを捧げる いずもをじっと見ていた。

 

泊地提督は、

「やはり、君は強い漢だ」と呟いた。

 

祈りを捧げ終わると いずもは、そっと自衛隊司令の横へ立った。

何時も彼女が立つその場所に。

 

後方で待機していた隊員妖精が整列しながら行進し、各棺の横に並ぶ。副長の号令一下、一斉に機敏な動作で棺に掛けられた白い布を綺麗に畳む。

本来なら所属する国家の国旗が掛けられているはずだが、深海棲艦には国旗がない。それが制定されたのは戦後、国連平和維持軍海洋部隊として再編された時だ。

畳まれた白い布の一つを持って士官が いずもの前へ立ち、それを両手で いずもへ丁重に渡した。

 

副長は一層大きなハッキリとした声で、

「儀仗隊前へ」と号令した。

後方に待機していた89式小銃を持った海曹1名・海士10名で編成された弔銃隊が前へ進む。

規則正しい足音を立てながら、棺の横へ整列した。

 

副長は、

「戦死した英霊に対し、弔銃発射を行います」

続けて、

「総員、気をつけ!」と号令が掛かる!

泊地提督以下の総員が姿勢を正した。

 

副長が、

「弔銃隊、捧げ~筒」と言うと、弔銃隊の隊員妖精が一斉に小銃を胸の位置で奉げた。

 

「射撃用~意」

機敏な動作で小銃を肩に付けて左前方、約30度の角度で構えた。

 

 

「撃て!」

空砲が艦内に木霊した。

泊地提督、由良、自衛隊司令、そして北方棲姫としての いずもが一斉に敬礼する。

 

射手がボルトを操作して、空薬莢を排出した。

再び副長が、

「撃て!」

パンと空砲の音が艦内に響く。また射手がボルトを引いて薬莢を排出した。

カランと床に落ちる薬莢の音が室内に響いた。

 

「撃て!」パンと再び銃声が響く。

 

提督達が挙手を下した。

 

「直れ」と副長が号令すると、弔銃隊は小銃に安全装置を掛け、一斉に小銃を降ろし整列した。

「回れ右!」と先頭の士官が号令し、

「縦隊、前へ進め」といい、弔銃隊は来た順路を通って後方へ下がった。

 

棺の横に整列した隊員妖精が、静かにそして丁重に棺を抱えた。

最初の棺が、外海へと通じるスロープへ載せられた。

 

そして、静かに隊員妖精の手を離れる棺。

スルスルとスロープを滑り、海へ引き込まれていく。

 

“カン、カン”と鐘の音が艦内に鳴り響いた。

 

そして、また次の棺がスロープへと運ばれていく。

その姿をじっと見つめる、いずも。

 

次々と静かに海中へ吸い込まれていく棺を見ながら いずもは、

「次、生まれてくるときは平和な海になるように、私の命に代えても成し遂げる」と強く誓った。

 

最後の棺が海中へ没したあと、前へ進み出た いずもに副長が、

「これを」と追悼の花輪を渡した。

「これは?」

「はい、族長の長からです。“敵とは言え、勇敢なる戦士への手向けに”との事です」

 

いずもはそっとそれを受け取り、静かにスロープへ置いた。

花輪は いずもの手を離れスルスルとスロープを滑り、海面へ落ちた。

艦橋から、弔意を表す汽笛が鳴り響く。

 

航跡により揺らめく花輪を見送りながら いずもは、

静かに瞑目した。

静かな海の深海に眠る人達の事を思い浮かべながら。

 

 

 

 

いずも艦内で、水葬が行われていた頃、こんごう達は、一旦砂浜へあがり、木陰にシートを敷き、少し遅めの昼食をとっていた。

鳳翔が作ったお弁当は、小さいとはいえ、3段重ねの重箱の立派なものだ、

小さめのおにぎりや鳥の唐揚げ、漬物や野菜の付け合わせなどが並んでいた。

勿論 瑞鳳の玉子焼きもしっかりと入っている。

村の子供達に紙のお皿と割り箸を配り、

「では、いただきます!!!」という 睦月の掛け声で一斉にお箸を伸ばす。

食べ盛りの子供達と駆逐艦級の艦娘達が一斉に重箱に群がった。

「はい、慌てないで。ちゃんと皆の分はあるから」といい、はるな達が取り分けながら、子供達へおにぎりを配る。

笑顔いっぱいでそれを食べる子供達。

すずやの周りにも子供達が集まっていた。

いつの間にか、

「すずやおねえちゃん」と呼ばれていた。

特に小さな女の子には人気で、その元気な声と笑顔で周りを明るくしていた。

 

少し離れ、こんごうは、ピクニックテーブルに付属の椅子に座ると、

「すずやさんも、だいぶ明るくなったし一安心かな」

「まあ、最初の頃にくらべれば明るい顔が目立つようになったし、いいんじゃない」とひえいが返した

 

ひえいは、テーブルの横に置いてあるクーラーボックスを開け、こんごうへ冷えた麦茶のペットボトルを渡し、自分はバドワイザーの缶を取った。

プルタブを開け、喉を鳴らしながら、一気に煽るひえい

「いや〜、美味い」

こんごうが、ペットボトルを開けながら、

「いくら休みだからって、そこそこにね」

「飲むなとは言わないね」

「言うだけ無駄でしょう。在庫も少ないから味わって飲みなさい」

「この時代のビールってどんな味かな?」と言いながら2本目を手に取った。

「それなら 皐月教官に聞いてみれば?」

「なんで、こんごう?」

「なんか色々思い出があるみたいよ」

 

皆の歓声を聞きながらぼ〜と海を眺めていた こんごうであったが、急に表情が厳しくなった。

視線をゆっくりと後方の林の中へ向けた。

「ひえい、そこのバッグとってくれる?」

「ん、これ?」といい、こんごう愛用のタクティカルバッグをテーブルの上に出した。

そっとそれを受け取る こんごう。

ファスナーを開け、中に手を入れ何かを取り出し、それを持って静かに立ち上がった。

それを見た ひえいが慌てながら、

「こんごう!そんな物持ってどうしたの?」

 

「ちょっと、見てくる」といい、スタスタとターフの裏側へ消えていった。

ひえいは2本目のビールを飲みながら、

「何もなきゃいいけど」と こんごうの後姿を見送った。

 

 

 

こんごう達がいる海岸から少し離れた林の中にその男は伏せていた。

愛用の軍用の小型双眼鏡で、少し離れた所にいる艦娘達を覗いていた。

大きな木の根元にうまく隠れ、静かに匍匐前進しながら、ゆっくりと近づいた。

相手は 艦娘達だ、通常の人間よりも勘が鋭い、少しの変化も見逃さない子ばかりだ。

「ここの泊地は、経験値が高い、睦月や皐月もいいが、あの陽炎は要注意だ、長波は新人だが、能力はありそうだな、秋月は対空値は高そうだが、陸戦は未知数か」

そう言いながら、双眼鏡を少し振った、視線の先には、子供達と話すすずやの姿が、

「やはり、最上型3番艦の鈴谷か、確か行方不明という事になっていたが、なぜここに?」

 

そして、再び、

「金剛型 2番艦比叡、3番艦の榛名に4番艦の霧島か、確か第三戦隊はトラックのはずだ、やはり別人か、いやしかし、よく似ている」

そして、

「しかしだ、幾ら命令とは言えなんでこんな所で、艦娘達をのぞかにゃならん、このくそ暑い中、それにしても美味そうだな、皆」

男の視線の先には、皆で美味しそうにお弁当を食べる睦月達や村の子供達が映っていた。

 

「ん? もう一人、金剛さんに似た子がいたはずだが」といい双眼鏡を動かそうとした瞬間、不意に背中に固い感触を感じた。

 

「私ならここよ」と背中から声を掛けられた。

振り返ろうとした時、

「動かないで」と言われ、より一層固い感触を背中に感じる、金属の感触だ。

勘が正しいなら、銃だ!

 

「両手を前に出して」と言われ、双眼鏡を離し、静かにうつ伏せのまま両手を前にだした。

何かが、馬乗りになる感触があった、柔らかい感触だ。

手らしきものがポケットやズボンのあたりをまさぐる感触がする。

上着の後へ隠しておいた、九四式拳銃が見つかり、抜き取られた。

「九四式ね、よくこんなあぶない銃をもってるわね」

すると男は、

「仕方ないだろ、ブローニングが欲しかったけど、あれは高くておれの給料じゃ買えないんだよ!」

「これ自前なの?」と後から聞こえる声に

「そうだよ、悪かったな貧乏くさくて」と返事をした。

 

背中にかかる荷重が消えた。

「いいわ、立って」と言われ、静かに腕を上げたまま立ち上がる。

「こっちを向いて」と言われ、ゆっくりとふりかえると、そこには戦艦金剛に似た女性が立っていた。

「やはり、金剛さんに似てるな」と男は囁いた。

 

男の目の前に立つこんごうの右手には、愛用の9mm拳銃 左手には先程奪った九四式拳銃を持っていた、腰には、タクティカルベルト、パレオの下の右足には同じく愛用のレッグホルスターをつけていた。

 

男を見た第一印象は、精悍という言葉が似合った。

細面の顔つきに適度に日焼けした肌、鋭い眼光、そして落ち着いた言葉使い、手を上げた腕から見える筋肉質な体躯。こんごうはその体躯を見て、

「ただののぞき魔じゃなさそうね」

男は、

「済まんが、質問には答えられん」とだけ言った。

鋭い視線がこんごうを襲う。銃を突きつけられているとはいえ、しっかりと こんごうを見て、うろたえる事もない。じっと こんごうの様子を伺っていた。

 

こんごうは、男に質問を続ける為、ほんの少し前へ出ようとした時、足元の木の根に足が引っかかった!

ビーチサンダルのまま来たのが災いしたのだ!

「えっ!」と言いながら、前のめりになる、

とっさに、男がこんごうを受け止めようと手を下し、抱きかかえようとしたが、その手がこんごうの水着のブラの紐に引っかかった!

そのまま、こんごうは男に抱きかかえられるように、倒れた。

 

「きゃ!」と、声がでた。

 

男は目をつむり、こんごうを受け止めたまでは良かったが、そのまま彼女を抱いたまま

倒れこんだ、地面に叩き付けられながら、痛みに耐える

「大丈夫か!」と声にだすが、中々返事がない、恐る恐る目を開けると、目の前にはこんごうの顔が!

「すっ、済まん! 大丈夫か!」と起き上がろうとすると、右手に何か感触が、

視線を右手に向けると、そこには 水着のブラがめくれ上がり、豊満で綺麗な胸部装甲が露わになっていた、そしてその胸部装甲にしっかりと自分の右手が食い込んでいた!!

 

二人して、固まってしまった。

見ようによっては、こんごうが、露わな姿で、男性を押し倒しているともとれる状態だ!

男はこんごうの豊かな胸部装甲を見ながら、一生懸命に思考を回した。

 

“まずい! 非常にまずいぞ! 相手はあの金剛さんそっくりの艦娘だ! いや、間違いなく、金剛さんの身内だ! ここで誤解を解かないと、鬼金剛の災難が降りかかるぞ!”と思い、そっと視線をこんごうの顔へ向けた。

すると、こんごうは、無言のまま、笑顔でゆっくりと起き上がった。

男の眼前にこんごうの上半身が映る。

視線を躍らせる男とは対象的に、胸部装甲が露わになったこんごうであるが、平然と立ち上がると、静かに右手に持った9mm拳銃をホルスターへ戻し、左手に九四式拳銃を持ったまま、ずれた水着のブラを直し、豊かな胸部装甲を水着で隠し、そして右手を男へ出して、「立って!」と静かに言った。

男は、こんごうの右手を取ると、ゆっくりと起き上がる。

 

「済まん、悪気はなかったんだが」と言うのが精一杯であった。

 

次第にこんごうの背後で 黒い気配が・・・

こんごうの目がより一層、鋭さを増し、一言、

 

「この!!! のぞき魔!!!!」

 

“ぱっし~ん”という 乾いた音が 林の中に響いた!

 

 

 

「ん? 今何か音がしなかった? きりしま?」とひえいが対面に座るきりしまに声を掛けた。

「いえ、聞こえなかったけど」ときりしまは答え、そして

「ひえい、それ3本目じゃないの?」

「細かい事気にしてると、皺が増えるわよ きりしま」

呆れながら、きりしまは、

「あんまり、飲み過ぎると後でこんごうに怒られるわよ」

「大丈夫、大丈夫」といい、すでに3本目が終わり、4本目に手が伸びていた。

すると、少し離れた茂みの中から、誰かが出て来た。

「おっ、こんごうじゃん! 男釣ってきた!」ひえいが言うと、

「おお! 本当だ、珍し!」ときりしまもサングラスを直した。

そこには、両手を頭の後で組み、こんごうに9mm拳銃で小突かれながら歩く男と、後で顔を真っ赤にしながら歩くこんごう

二人を見たひえいが、

「おっ、中々いい男じゃん、さすが我が統括、男の趣味もいいね!」

「ひえい、ふざけてないで、何かあったのかな、あの男性の顔!」

よく見ると、男の左頬には、大きな手形が!

 

「なに? どうしたの?」とはるなも寄ってきた。

「こんごうが男、釣ってきた!」とひえいが言うと、

「釣ってきた?」とこんごう達を見る、はるな

 

男とこんごうは、ひえい達の前まで来た

「こんごう こちらの男の方は?」とはるなが聞くと、

「あっちの茂みで 私達を監視してたの!!」といい 左手に持った九四式拳銃をきりしまに渡し、

「きりしま! 弾倉抜いて」

きりしまはそれを受け取ると、グリップ底部にあるマガジンキャッチを操作して弾倉を抜き、少しスライドを引いて、弾が残っていない事を確かめ、テーブルの上に置いた。

 

こんごうは、落ち着いて、

「さて、貴方の所属と監視している目的は?」と9mm拳銃を突きつけながら、男に質問した。

「それは・・・」と男が答えようとした時、背後から 睦月の声がした。

「およ!少尉さん!」

「おう、睦月さん」と男が答えた。

「あっ、少尉のお兄ちゃんだ!!」と子供達が集まり始めた。

遠目で すずやと 秋月も気がついたようで、此方に向かってきた。

手を後で組んだまま立ち尽くす男の回りに子供達が無邪気にまとわり付きだした。

「少尉のお兄ちゃんも遊びに来たの?」と村の子供たちに聞かれ答えに困る男。

「少尉?」と鋭い視線を向ける こんごう。

すると騒ぎを聞きつけた 陽炎が、

「こんごうさん。何かあったかわからないけど、この人悪い人ではないわ。陸軍の少尉さんよ」

「陸軍の少尉?」

「ええ、コロールに駐留している陸軍の偵察隊の少尉さん。時々無人島の偵察活動で一緒に行動しているわ」

それを聞いた こんごうは、

「偵察隊?」

男は諦めてゆっくりと腕を降ろし、

「済まん、黙っていて」と こんごうに深々と頭を下げた。

こんごうも9mm拳銃をホルスターへ戻すと、テーブルの上の九四式拳銃を取り男へ渡した。

「ここは 睦月さん達に免じて返します」

銃を受け取る男。弾倉はズボンのポケットへ入れ、銃はズボンの後ろへ押し込んだ。

こんごうは鋭い視線で、

「今日は皆で楽しんでいますので、遠慮して下さい!」

すると男は、

「分かった、これで失礼する」といい一礼し、子供達に笑顔で、

「いっぱい遊んで貰っているかい?」

「うん、おねえちゃん達といっぱい遊んでる!」と飛び跳ねた。

「良かったな」といい、子供達の頭を撫でた。

「では」といい、歩き出そうとした男に こんごうが、

「待って!」といい、急に手を取って少し離れたところへ引きずって行った。

 

じっとその行動を見る ひえい達。

 

こんごうは、男に小さな声で、鋭く、

「さっきの事、もし他に話したら!」

「話したら?」

 

するとこんごうは、満面の笑みをたたえながら、

「夜道は気をつけてお歩きになるほうがよろしいですよ」

 

息を呑む男

「ああ、他言しない」

こんごうは続けて、赤くなりながら、

「さっきの事は、全て記憶から消してください!」

しかし男は、

「それは難しいぞ、特にあの感触は!」

それを聞いたこんごうは、

「なら、この場で消してあげてもよろしくてよ」といい 9mm拳銃に手を掛けた!

 

男はじっとこんごうを見て、

「難しいが、忘れる事にする」と短くいい、鋭い視線を投げかけながら、足早にその場を離れた

 

 

そんな二人を遠巻きに見ていたひえい達であるが、急にひそひそと話し始めた。

「ねえ、どう思う」

「ひえい、驚きだわ、あのこんごうが男の方と話しているなんて」

「そうね、はるな 私の記憶の中でもそんな事なかった気がする」

きりしまがそう言うと、横に立つすずやが、

「どういう事ですか?」

「あれ? すずや知らないの、こんごうの男性恐怖症?」

「男性恐怖症!」

「そう、こんごう 仕事では大丈夫だけど、外では男の方とお話出来ない位緊張するの」とはるなが答えた。

「ええええ!」と驚くすずや

きりしまが、

「しかし、あの男性 何者でしょうか? 陸の方ということですが」

「それより、こんごうの眼光にびくともしないなんて驚き!」と言いながら、ひえいは、腕を組んで、

「う〜ん、これは脈ありかな?」と不気味な笑みを浮かべた

それを見たはるな達は

“また、ひえいの悪い癖が!”と思いつつ

“前回 あれだけ大騒動巻き起こしたのに、ひえい こりない奴”と思った。

 

 

 

 

こんごう達がこんなドタバタ劇を演じている頃、護衛艦 いずもは一路、パラオ泊地を目指して帰路へ就いていた。

飛行隊指揮所横の見張り所に、艦内服に着替え、いつものメガネを掛けた いずもが立っていた。

泊地提督と 由良、そして自衛隊司令は司令公室で今後の事を話しており、

いずもは一人見張り所へ来ていた。

横には第六飛行隊の隊長と飛行班長が立っている。

いずもは双眼鏡で上空を見上げ、

「あれね?班長?」といい、上空の小さな点を指さした。

「はい、副司令。間違いありません」

 

そこには1機の零戦がこちらに向って来ていた。

識別帯は 鳳翔航空隊。

本来は予備機であるこの機体の操縦者は今日、いずもへの離着艦訓練を行う為にパラオ基地から飛来した。

その零戦は いずも上空までくると綺麗な周回飛行を行い、最初の着艦訓練であるタッチアンドゴーの訓練を開始した。

左場周旋回をしながら、着陸コースへ乗る零戦。フラップと車輪を降ろし、綺麗な3点姿勢を決めた。

「班長、LSO(着艦信号士官)に早目に指示を出すように伝えて」と いずもが言うと、

「はい」と飛行班長が返事をして、艦内電話を取った。

最終アプローチに入る零戦。高度、速度共に問題なく、斜め甲板へ滑り込んで来た!

甲板上に一旦接地した後、再び、エンジンを吹かし離艦して行く。

即座に足が上がり、フラップが格納される。

 

「どう?」と いずもは横にいる飛行隊隊長へ声を掛けたが、

「問題ありません。流石、一〇式艦上戦闘機から飛ばれているだけはありますね」

再び場周コースへ入る零戦を目で追った。

その後零戦は30分近くタッチアンドゴー訓練を無事こなし、最後の着艦訓練に入った。

「副司令、これでフルストップです!」と飛行班長が言うと、

「わかりました、不測の事態にそなえなさい!」と指示を出す いずも。

右舷上空にはロクマルが待機している。

艦尾で待機するLSOがより一層表情を厳しくしながら、進入してくる零戦を見た。

最終の旋回を行い、着艦コースに入る。車輪が降り、零戦の特徴的な大型のフラップが降りた。

着艦フックが降りているのが確認できる。

しっかりとした3点着陸姿勢に入る零戦。

少し高度が高い。飛行班長が、

「高いぞ!」と叫びながら無線を取ろうした瞬間、その零戦は右にバンクをとり、機首を左に切った!

「おお!あの姿勢からフォワードスリップか!!」そう言いながら、飛行隊長が唸った。

 

フォワードスリップとは、グライダーなど空力的なブレーキを持たない航空機が高度を急激に落とす為わざと機体を傾かせ、その反対方向へ機首を向け進行方向に対し抵抗を増し、急速に高度を処理する方法だ。この方法は進行方向と機首の方向が一致せず機体が横滑りをしている状態であり、高度な操縦テクニックを必要とする。

 

零戦は横滑りしながら、急速に高度を落とし適正高度になった瞬間、姿勢を正常飛行姿勢へ戻し綺麗なフレアーを掛け、艦尾を超え、斜め甲板へ静かに舞い降りた

“キュン、キュン”とタイヤが擦れる音が聞こえそうな気がする。

 

零戦は、見事2番ワイヤーをひっかけ停止した。

即座にワイヤーテンションが緩み、機体は自由を取り戻す、マーシャラーが機体を駐機エリアへ誘導して、停止させた

甲板員が駆け寄り、車輪止めを掛け、別の要員が係留用のタイダウンロープを主翼へ掛け滑り止めをした。

カウルフラップが全開に開かれ、エンジンの冷却運転を開始する零戦

 

それを見た飛行班長は、

「副司令、うちの隊へスカウトしてください!」と真顔で言った。

いずもは、

「ふふ、そうなると大変ね」と言いながら、いずもは、見張り所横の階段を降り、甲板上に駐機した零戦にそっと近寄っていく。

零戦のエンジンが止まり、整備妖精が機体に駆け寄り、主翼上部へ上がり、飛行士が降りるのを手伝う。

整備妖精が 操縦士へ敬礼しているのが分かる。

そして、操縦士はゆっくりと主翼の上の足踏み場を通り、甲板上へ降りてきた、飛行メガネを取り、飛行帽を取る、そこに現れたのは、

 

「お疲れ様です、鳳翔さん」といずもは敬礼して迎えた。

 

そこには、飛行服を着た艦娘鳳翔が立っていた、

首には白いマフラーを巻き、髪が風にたなびいている

「久しぶりに着艦しましたから、緊張しました」と言いながら、いずもへ近づいた。

「しかし、やはり広い甲板ですね、こうやって自分で降りてみると実感します」と言いながら、甲板を見渡す。

「見事な着艦でした、流石 艦娘界 広しといえども、戦闘機操縦資格を持つのは、鳳翔さんだけですから」

鳳翔は少し照れながら、

「下手の横好きですから」

しかし、いずもは

「でもその後は、“好きこそものの上手なれ”といいますよ」と笑顔で話した。

 

いずもは、知っていた。

鳳翔は、凄まじい努力家である事を、赤城をして

「努力という言葉が、服を着て歩くと 鳳翔という名になる」と言わしめた。

 

世界初の本格的空母として、建造が始まった鳳翔

しかし、そもそも航空機自体がよちよち歩きの時代、真面な戦力になるのか、多くの人が疑問に思う中、その艦娘として選ばれた彼女。

最初にしたのは、“飛行機とは何ぞや?”という事で 船舶だけでなく航空機の猛勉強を始めた、あまつさえ地上で勉強するだけでは事足らず、遂に周囲が猛反対するのも聞かず、地上基地で飛行訓練を始めた。

これには、三笠も呆れた。

飛行士妖精達にまじり、飛行訓練をする鳳翔

当時の航空機は完成度が低く、故障や墜落も多発、鳳翔もアブロ式練習機で数度危険な目にあうが、気合と根性で何とか単独飛行資格を得た、その後一〇式艦上戦闘機に始まり、複数の機体を乗りこなし、九六式艦上戦闘機、そして現在は 零式艦上戦闘機二一型を乗機としていた。

彼女の乗機の尾翼には、“総飛行隊長”の識別帯が書かれている。

 

「うちの飛行班長が“ぜひ我が隊へ”と言ってますよ」といずもが言うと、

鳳翔は、駐機場に待機している2機のF-35Jを見ながら、

「流石に私の技量では、大袈裟ではないでしょうか?」

するといずもは

「鳳翔さん 今度、乗ってみますか?」

「えっ、複座型があるのですか?」

「いえ、F-35Jは全機単座型です」

鳳翔といずもは歩きながら、

「では、あの機体の飛行教育はどの様に行うのですか?」

いずもは、見張り所へ通じる階段を登りながら、

「模擬飛行訓練装置、別名リアルフライトシミュレーターを使います」

「模擬飛行訓練装置?」

いずもは、

「この艦内に、疑似的に飛行状態を再現できる装置があります、気象条件や機体の条件を疑似的に再現して、各種の訓練を行う装置ですけど、かなり現実の飛行に近い物、例えば機体の加速度とか、重力とかも再現できます」

それを聞いた、鳳翔は、

「それなら、乗ってみたいですね」といい二人で飛行隊見張り所へ出た。

鳳翔の零戦が、待機中のF-35Jの横へ並ぶ。

いずもは、不意に

「お母様、昔零戦欲しがっていたわね」と呟いた。

 

鳳翔はじっといずもを見て、

「いずもさん、つかぬ事をお聞きしますけど」といい

「いずもさんのお母様はもしかして、」

それを聞くといずもは、大きく息をして、

「やはり、鳳翔さんは騙せませんね」と言いながら、メガネをとり、胸のポケットへ入れた、ゆっくりと瞳を開けると、そこには赤く輝く瞳

髪留めのリングを取る、黒い髪は毛先から白く変わり、そして純白の髪が現れた

 

「深海棲艦 北方群体 北方棲姫」と静かにいう鳳翔

いずもは、霊力を調整しながら、

「そうです、私の母は北方群体の姫 北方棲姫、そして私はその後継者」

鳳翔は、落ち着いて、

「なぜ 今まで黙っていたのですか?」と聞いたが、その答えは後ろから聞こえた。

 

「それは、長官の指示だ!鳳翔」

振り返ると泊地提督と由良、そして自衛隊司令だった。

 

「提督、山本長官のご指示ですか?」

 

「そうだ、いずもさん達がこの世界にあらわれ、長官や三笠様と協議を持った際に既に俺と由良には話があった、しかし深海棲艦との和平への道筋が不透明な状態でいずもさんの正体がばれれば泊地だけでなく、海軍、いや日本が混乱する恐れがあった」

泊地提督は鳳翔の横までくると、

「鳳翔、彼女を信じることは出来んか?」

 

すると鳳翔は

「いえ、いずもさんはその行いで、自らの意思を表しました、信じる事はできます」

 

いずもは、

「私の母は日本へ亡命した深海棲艦です。私は深海棲艦の姫として生まれ、そして艦娘として育ちました」

泊地提督は、

「鳳翔。彼女こそ、深海棲艦との和平の証拠なんだよ」

 

鳳翔は いずもの前へ立ち、

「いずもさん。貴方の歩む道、私もご一緒します」と いずもの手を取った。

 

「はい、鳳翔さん」としっかりとその手を握る いずも。

温かいぬくもりが伝わる優しい手であった。

頭上を見上げればそこには、パラオの海風を受けはためく海上自衛隊旗が輝いていた。

 

 

 

夕刻、いずもは泊地へと入港した。鳳翔は入港前に零戦に乗り、パラオ基地へ帰還していった。

泊地外周部の自衛隊停泊地には、久々に6隻の護衛艦が揃っていた。

 

今夜の護衛艦各艦の夕食は捕れたての魚のオンパレードだ。煮つけに、から揚げ、塩焼きのセット、副長以下の隊員妖精総出で釣ったものである。

ひえいやはるなでは内火艇を出して釣をしていたそうである、はるなの内火艇には海底探査用の小型エコー装置を搭載して、岩礁調査という名目で漁場を探していたそうだ。

 

こんごうもすずやも結局、日暮れ寸前まで海岸で遊び、子供達を村まで送り、夕闇の中帰ってきた。

夕食後入浴し、自由時間となった艦内。

久しぶりに緊張が解ける。すずやは子供達とはしゃぎすぎたのか、早々に睡魔に襲われ、自室で高いびきをかきながら眠りについた。

消灯時間を過ぎて艦内の灯りが次々と消え、夜間照明へ切り替わる頃、煌々と灯りの灯る部屋があった。

こんごうの自室だ。

 

自分の机に向かい、じっと分厚い本を読む こんごう。

その本は古く、所々に擦り傷などが見える重厚な本だ。

 

パラパラとページを捲りながらじっとその本を読んでいた こんごうであったが、あるページで手が止まった。

じっとそのページを読み進め、不意に

「これよ、これだわ」といい、不気味に笑い

「ふふふ、これであの男の記憶の一部を消せるわ!」と呟いた。

 

その本の表紙には、英文でこう記載されていた。

 

 

「英国王立魔法協会監修  英国式魔術術式全集」

 

 

護衛艦 こんごうの艦内に、こんごうの不気味な笑い声が響いた。

 

 

人々の眠りの中、パラオの静かな夜は更けて行くのであった。

 

 

 





こんにちは
スカルルーキーです。

休日編お届けします。
うう、最後に海で泳いだのはいつだろう?

では




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