分岐点 こんごうの物語   作:スカルルーキー

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迫りくる、空の脅威を打ち払った 海神の巫女達
しかし、新たな脅威が彼女に立ちはだかる。



戦闘描写に一部残酷な描写があります。
ご理解の上お読みください。





32 パラオ防空戦5 「対艦ミサイル」

こんごうとひえいは、敵前衛艦隊の東150km程まで接近していた。

ここまで第1戦速を保ち、急速に距離を縮めていた!

 

後1時間で、対艦ミサイルの射程圏内に敵前衛艦隊を捉える事が出来る。

こんごうは、すずやと艦橋にて敵前衛艦隊上空で、哨戒活動を行うE-2Jから送られてきた、リーパーの映像を見ていた。

「う〜ん、前衛艦隊の布陣は、リ級重巡1、ホ級軽巡2、ロ級駆逐艦2、イ級駆逐艦2隻か、やっぱりリ級とホ級は90式改で叩くか?」

「艦長、対艦ミサイルというのを使うのですか?」と すずやが聞いてきた。

「そうね、前回これとよく似た布陣の艦隊と交戦した事があるけど、あの時、結構リ級を叩くのに時間がかかったの」

すると、モニター越しにひえいが、

「え〜! 接近戦で砲戦じゃないの!」と抗議の声を上げた。

「ひえい、砲戦したいのは解るけど、それはその後ろの大物まで取っておきましょう」といい 画面をスクロールさせ、ル級を中心とした12隻の敵本隊を映し出した。

「やっぱり、“力”はこの2隻を沈める時までとっておきたいの」といいル級2隻を指した。

「それなら、仕方ないか」と納得するひえい、そして

「で、どうする?」

「もう少し、距離を縮めて、100㎞圏域まで来たら、90式4発で攻撃しましょう、重巡に2発、軽巡に1発撃ちこんで行動不能にします、もしそこで駆逐隊が転進すれば追撃し、ロ級を中心に叩くわ、あれは間違いなくピケット艦よ」

「それなら、いっそ軽巡よりもロ級を叩いたら?」とひえい

「う〜ん」といい悩むこんごう

「こんごう艦長、どうされました?」と聞くすずや

「いえ、ここで軽巡を先に叩くべきか、それともロ級駆逐艦か、判断に迷うわ」

「えっ、軽巡じゃないですか?」

「すすやさん。この敵前衛艦隊が普通の艦隊なら間違いなく火力の大きい順に重巡、軽巡の順に叩いていくわ。でもこの艦隊の最大の脅威は重巡でも軽巡でもなく、このロ級よ」

「はっ、駆逐艦が最大の脅威?」と驚く すずや。

「そうよ、ねえこの前衛艦隊の目的はなに?」

すずやは、少し考え、

「後方にいる空母群の為の前衛哨戒です」と答えた。

「その通りね、では何を哨戒しているのかしら?」

すずやは、編成を見て、

「このホ級とイ級は、対潜強化型のようですから、潜水艦ですね、リ級は水上レーダー搭載型ですから水上艦です、ロ級は高いマストの上の大型レーダーから対空警戒艦です」

すると、こんごうは、

「よく短時間で勉強しましたね、合格です」

「へへ、鈴谷褒められて伸びるタイプなんです!」と嬉しそうに言うと、

「じゃ 次の質問、我々にとって脅威度の高いのはどれ?」

「脅威度?」

「そう、最優先攻撃目標は?」

そう言われ、すずやは悩んだ、今までは“見つけた敵はすべて撃沈せよ”と言われていたのだ、優先順位など考えてもみなかった。

「うう、じゃ、大きい順」と答えてみた。

「ぶぶ~!」とひえいが答えた

「え〜、間違いなんですか!」

こんごうは、

「艦隊戦なら、火力の大きい順で構わないわ、でもこの戦いは違うの」

「どういう意味です?」と すずやが聞くと、

「この前衛艦隊の目的はなに?」

すずやは考え、

「空母機動部隊の脅威となる物の早期発見です」

「はい、正解です」とこんごうは言うと、

「現在、この海域には友軍の潜水艦部隊はいない。となるとホ級とイ級の我が方に対する脅威度は低い。リ級は敵前衛艦隊の旗艦である可能性があるので、確実に仕留めたい。一方でロ級の対空レーダーは、次の戦いの脅威となる可能性がある」

「次の戦い?」

「すずやさん、今回の作戦の概要書には目を通しているわよね?」

「はい、いずも副司令から頂いた書類には、目を通しました」

「予想される、空母群に対しては、航空攻撃をもって対応という事だったわよね」

「はい」

「この前衛艦隊の後方の空母群には、いずも、鳳翔、瑞鳳の各航空隊が波状攻撃を仕掛ける事になっているわ」

「波状攻撃ですか!」

「ええ、いずも艦載機で空母3隻を行動不能にする、残りの艦艇群については、鳳翔さん達の艦載機群で叩くという算段よ」

こんごうは、続けて

「私達が、この前衛艦隊を叩くのは、鳳翔さん達の航空隊の攻撃を補佐する要素が強いの、いずも艦載機 F-35Jはこの時代のレーダーには殆ど映らない、でも鳳翔さん達の艦載機はそうは行かないわ、このピケット艦隊を叩いて、航空攻撃の回廊を開くのが目的、そうなれば、脅威度の低いホ級は後でもいいかなってね」

こんごうは、少し悩み、

「相談してみましょう」といい、上空で監視中のE-2J経由でいずもを呼び出した。

コミュニケーションシステムの画面に映るいずもへ、

「副司令、お忙しいところよろしいでしょうか?」

「いいわよ、いま一息ついた所」

いずもの甲板上では、先に着艦した、鳳翔、瑞鳳の零戦隊の収容作業、そして今しがた着艦したF-35Jが収容されようとしていた。

格納庫内では、零戦とF-35Jが肩を並べて固定係留されている。

「副司令、現在接近中の敵前衛艦隊の件ですが、最重要攻撃目標の選定についてご相談したいのですが?」

すると、いずもは、

「ふふ、ホ級軽巡かロ級駆逐艦か、悩んだ?」

「はい、今後の事を考えると先にロ級ですが、ホ級を残すと後々面倒かと」

「じゃ、90式、後2発追加して、計6発で完全に行動不能にしなさい」

「よっ、よろしいのですか?」と慌てるこんごう

「ええ、それでも其方には各艦5発は残るわ、幸い90式改は在庫がまだあるから、大丈夫よ」

「はい、了解しました、イ級については如何いたしますか?」

すると、いずもは

「もし、停止して友軍救助の動きを見せれば、攻撃せず見逃してあげなさい、しかし 救助者を見捨てていくようなら、救いようがありません」

「はい、その場合は接近して砲撃戦で仕留めます」といい、

「あと30分で 攻撃圏内に入ります、ゼロアワーは、リンクシステムにてお知らせします」

「了解したわ、此方も空母群への第1攻撃隊は15分後に発艦開始よ」

いずもは、そう言うと、

「今回の前衛艦隊並びに空母群への攻撃は、時間を合わせて行います」といい、続けて、

「今の所、作戦行動概要書の通りよ、こんごう達は敵前衛艦隊を90式で攻撃後、速やかに、泊地艦隊と合流、後方に展開するル級を中心とした打撃艦隊の要撃に、私と鳳翔さん達は、空母群への攻撃を行います、こんごう達がピケット艦隊を撃破後 開いた回廊を通り、空対艦ミサイルで攻撃、残った艦艇は鳳翔、瑞鳳隊で止めを刺します」

「はい、了解致しました」とこんごう、ひえいが答えた。

 

するとこんごうは、

「ひえい、準備に入るわよ、其方は2発でいいわよ、重巡お願い、雑魚はこっちで片づけておく」

「へへ、ありがと!」とうれしそうなひえい

すると すずやが

「4隻も相手をするのですか?」

「ええ、今回はE-2Jも居るから、中間誘導の精度も上がるし、リーパーもあるから、終端誘導の精度も上げられるわ」

こんごうは、少し声を押さえ、

「ひえい 砲戦は得意なんだけど、誘導兵器の精度がいまいちなのよ、相手が単艦なら問題ないのだけど、複数艦になるとたまに間違うの」

「間違う?」とすずや

「撃たなくていい艦に向けて撃ったり、ひどい時なんか 訓練支援にきてくれた、かしまさんを危うく誤射しそうになったりしたのよ」

すずやは驚きながら、

「ひえいさんって、もしかして“ドジっ子”なんですか?」

すると、こんごうは、

「子供のころから、元気だけはいい子だけどね」

そんな二人の会話が聞こえていないのか、ひえいは不思議そうな顔をして、

「何? 二人で内緒話してるの?」

すると すずやは慌てて、

「なんでも、ありません!」と答えたが、

しかし、こんごうは笑いながら、

「いや、ひえいはドジっ子かっていう話!」

すると すずやは、

「ひど〜い! こんごうさん!」と慌てたが、

ひえいは、腰に両手をあてがい、

「ふふふ、そんなドジっ子 ひえいさんでも、努力しだいで、こんな立派な艦の艦長様だ!」と胸を張った、そして

「すずやも頑張りなさい!こんごうは厳しいけど、こんごうならきっと貴方を一人前にしてくれるわ」と優しく話した。

 

すずやは、

“すずや、励まされたのかな?”と思いつつ、

「はい、ひえいさん」と元気に答えた。

 

こんごうは、にこやかな笑顔でそんなすずやを見ていたが、副長の一言で気持ちを切り替えた。

「艦長、あと15分で攻撃可能範囲です!」

すると、こんごうは、

「ひえい、E-2Jとリーパーのデータは受信できている?」

「うん! ちゃんと出来ている」

「よし、じゃ準備はじめるわよ!」

「OK!」といい ひえいも自艦の艦長席に座り直した。

こんごうは、自席のモニターを操作して、

「CIC! 艦長よ、砲雷長は?」

即座に、モニターに砲雷長が現れ、

「はい艦長! お呼びですか!」

するとこんごうは、

「敵前衛艦隊に 90式改4発を使い遠距離攻撃を行います、当艦の目標はホ級軽巡2隻、ロ級駆逐艦2隻です! E-2J、リーパーからの情報を確認しなさい!」

すると、砲雷長は、

「はい、既にE-2Jとのリンク完了しております、中間誘導も問題ありません、リーパーからの終端目標のアップデートも問題なしです」

「対艦ミサイル発射管制士官、諸元確認怠りなきよう!」

「はい! 艦長」と発射管制士官がインカム越しに返事をしてきた。

 

すずやは、こんごうの指示を聞きながら、

「こんごうさん、質問いいですか?」

「ん、何?」とすずやを見るこんごう

「あの、自衛隊の方々って、こう密に連絡を取り合っていますが、作戦計画書があるのに、そこまでする必要があるのですか?」

こんごうは、少し考え、

「そうね、日本海軍にいた、すずやさんなら、そう思うのは当たり前よね」

「はい、だっていつも司令部で紙切れ1枚渡されて“行ってこい”ですよ」

すると、こんごうは、戦術モニターを拡大、ついさっきまで戦場だったパラオ周辺海域を映した。

「いい、すずやさん、これを見て、これは先程まで戦闘のあったパラオ周辺海域の戦闘詳細データよ」

すずやは、

「はい、すずやの副長達も頑張って2機を撃墜しました、帰ったら褒めてあげないと!」

こんごうは、笑顔で、

「確かに作戦計画書があって、その通りに事が進むなら問題ないわ。でも今回の防空戦だけでも戦場が3カ所にまたがっているわ。最初のB-17迎撃戦、ヲ級艦載機洋上迎撃戦、そして泊地正面海域での迎撃戦。これらの戦闘が有機的に連動して防空戦を構築しているの。だからどこで、何が、どう起きたのかは重要な要素よ」

「どこで、何が、どう起きたのか?」

「そう、だから私達は艦隊コミュニケーションシステムやリンク16、そしてそれを統合管理する艦娘専用C4Iシステムなどの複数のシステムを使って情報をやり取りするの」

「あっ、もしかして れん、そう、ほうっていう奴ですか?」とすずやが聞いた。

「連装砲?」とこんごう

「はい、連絡、相談、報告の頭文字を取って“れんそうほう”です」

すると、こんごうは、

「その言い方、まさに日本海軍ね」と笑顔で答えた。

するとすずやが、

「ルソン北部警備所、前任の爺ちゃん司令が、“連装砲は、組織の基本”とかいってすずやや曙によく話してくれました、あの頃は哨戒任務一つでも、ちゃんと説明があって、良かったです、もう一度、堀司令に逢いたいです」とすずやが言った。

「堀司令?」とこんごうは少し考え、自身のタブレットから、1枚の写真を呼び出した。

「ねえ、すずやさん、さっきの“堀司令”って、この人?」といい写真を見せたところ、

「えっ、そうですよ、厳しいけど、優しい方でしたよ」と笑顔で返事をしたが、こんごうは顔をひきつらせた。

そして、

「ねえ、以前話していた、この堀司令に時々会いに来ていた、米軍の高官の方ってこの人?」といい、ある人物の名前を検索して表示した。

それを見たすずやは、

「ええ、この方ですよ、お菓子とか色々頂きました!」と嬉しそうに答え、そして、

「そう言えば、最後にお逢いした時は、お迎えに女性の方が来てましたよ、“サラさん”って呼んでましたよ」とすずやは明るく答えた。

 

こんごうは 一瞬めまいを覚えた、とんでもない事を聞いた気がした。

“ルソン北部警備所の前司令は間違いない堀中将、あの艦隊派を抑え込んだ人物!

そして、その中将を訪問していたこの高官! 米海軍の太平洋艦隊司令長官じゃないの!

SARAってもしかして!”

こんごうは、

“山本長官や三笠様は特にこの事はおっしゃっていなかったけど、日本海軍の要人と米海軍の要人が秘密裏に会合していたという事?”

“もしかして、これは米軍と当たりが出来ているという事かしら?”

 

そんな考えが頭をよぎったが、

「艦長、間もなく90式攻撃可能圏内です!」と副長の声が艦橋に響いた。

 

こんごうは、姿勢を正して、

「よし! はじめるか!」と気合を入れて、

コミュニケーションシステムに映るひえいへ、

「ひえい、始めるわよ! いい?」

ひえいも、自身の艦長席へ付き、

「OK! いつでもいいわよ、タイミング合わせる! 気合いれて行きます!」と返事をしてきた。

 

続いて、別モニターに映るいずもへ、

「副司令、こんごうです、間もなく90式攻撃可能圏内へ突入します」

いずもは、

「もうすぐ、後方から、鳳翔さんの99艦爆、瑞鳳さんの97艦攻隊も戦域に入ります、私のF-35Jも間もなく発艦します、時刻規正よろしい?」

「はい、副司令!」といい、モニター上の作戦用の時計の表示を14時にセットした」

いずもは、

「現在時刻 ヒトヨンマルマル 3、2、1 今!」

こんごう、ひえいが一斉に時刻を合わせた。

「只今より、前衛艦隊に対し攻撃を開始します!」とこんごうが言うと、

「許可します」と静かにいずもが答えた。

 

こんごうは、

「合戦準備 対水上戦闘 90式改 攻撃用意」と発令員のすずやへ命じた!

 

すずやは、インカムを操作しその通る声で、

「合戦準備! 対水上戦闘 対艦ミサイル90式改 攻撃よう~い!」と艦内放送をかけた。

 

CICに待機する砲雷長は、管制席に座りインカム越しに、

「水上戦闘 警報発令!」というと、クリアーカバーの付いたボタンを操作する、艦内に一斉に電子音が鳴り響き、艦内隔壁が閉鎖される。

各部署から「戦闘配置完了」の報告が次々と こんごうのモニターに表示された。

航海長が、

「戦闘旗 掲揚!」と号令すると、隊員妖精が、自衛隊旗をステルスマストへ掲揚した!

潮風を受け、はためく自衛隊旗!

副長が、

「船速 第3戦速!」と号令!

加速するこんごう、追従するひえい

単縦陣で進む2隻の航跡が 南の海を切り裂いていく!

「進路、ヨーソロー!」と副長が指示した。

 

同じくCICでは 砲雷長が、

「対水上戦闘! 目標 E-2Jエクセル04指示の目標 トラックナンバー 1002から1005 90式改4発! 諸元入力!」

既に、こんごうのSPY-1レーダーも目標を探知していたが、今回は中間誘導の精度向上の為、E-2Jからの探知情報を使う。

 

対艦ミサイル管制士官が、

「90式改、アルファからデルタ モード シースキマー、発射諸元入力完了」

砲雷長は続けて、

「射線方向、安全確認!」

対空監視要員が、

「射線方向、障害物なし」

 

砲雷長は、インカムで、

「艦長、90式攻撃準備よし!」と手短に報告した。

こんごうは、コミュニケーションシステムでひえいの準備状態を確認、こちらも2発 重巡へ向け、諸元を設定し発射待機状態になった。

 

こんごうは、手元のモニターですべての準備ができた事を確かめ、同時に、E-2Jからの「発射許可」の合図を待った。

 

その時、モニター画面に 上空で監視活動中のE-2Jから、

「攻撃開始」とデジタル文字通信が入った!

 

こんごうは、静かに、そして力強く! 声に出した!

「90式改! 攻撃始め!」

 

即座にすずやが復唱しながら、インカムでCICへ下命した!

「90式改 攻撃始め!!」

 

CICでは、砲雷長が、管制席につき、各モニターを確認していた。

インカム越しに すずやの声で、

「90式改 攻撃始め!!」と響いた!

 

砲雷長は、

「攻撃士官、90式改 4発 サルボー!」と命じる。

 

艦内に発射警報のベルがけたたましく響いた

攻撃士官は、再度各種のモニターにエラーが出ていない事を確かめ、

「90式改 4発 サルボー!」と復唱し、発射管制卓の発射ボタンを押した

予めセットしてあった4発の90式艦対艦誘導弾改が、轟音を立て、一定間隔で発射された。

 

こんごう達スーパーイージス艦は、本来90式改より新しい17式艦対艦誘導弾が採用される予定であった。実際に はるなと きりしまには17式が搭載されている。しかし先行して就航した こんごう、ひえいには一つ古い90式改が搭載されていた。

大きな問題があった訳ではなく、単純に予算と内部のシステムの開発が間に合わなったというだけである、おまけに今回 本来予定されていたオーストラリアでの演習で、古くなった90式改の撃ち収めとばかりに、かなりの本数を補充用として持たされていた。

当初 こんごうが、

「こんなに要りません」と補給部に言ったが、

「艦娘運用課長から、“あの子はよく外すから、多目に持たせて”と言われています」という返事だった。

当初は“なんて母なの”って思ったが、こんな事なら感謝の言葉も言えば良かったと考えていた。

ただ、こんごう就航当初の90式改の搭載がすんなりと行った訳ではなく、試行錯誤する羽目となった。

こんごう達は他の艦と違い、潜水待機という機能がある、その為に対艦ミサイルの発射キャニスターを完全に防水する必要があった。

キャニスター自体に防水機能はあるが、そのまま艦外に露出させておくと潜水時に回りから物凄い音が出る事が判明、何かいい方法はないかと考えだされたのが、キャニスターの周囲をフェアリングと呼ばれる覆いで囲う方法である、こうすればステルス性も向上するという事で、採用された、普段は前後の排気煙突の間にある空間に覆いで囲まれているが、発射時はこの覆いが自動的に開放されキャニスターが露出する仕組みだ

就航時この機能は公開されておらず、一部のマニアから対艦ミサイルのキャニスターが見当たらないという事で、ついに海自はVLS方式の17式を開発したのでは?と憶測を呼んだ。マニアの間では対艦ミサイルをVLS化する事への賛否が話題となり、同じ頃 こんごうの就航初期の不具合多発と相まって、「欠陥船」という烙印を押されてしまった。

そんなごたごたの末に ようやく搭載された対艦ミサイルであった。

 

発射後、90式改は打ち上げ用ロケットモーターを切離し、ターボジェットエンジンを起動、海面すれすれを飛ぶシースキマーモードへと移行していった。

 

 

対艦ミサイル発射管制士官は

「90式、アルファ―、ブラボー、チャーリー、デルタ 全弾 正常慣性飛行へ移行、E-2Jからの中間誘導問題ありません!」

攻撃士官が続けて、

「弾着まで 5分切ります!」

 

こんごうは、艦橋で、その状況を確認していた。

すずやは、艦橋横の見張り所へ発射の瞬間を見に行ってまだ帰ってこない、こんごうがみると、どうやら見張り所にある高倍率の双眼鏡で海面すれすれを飛行する90式改を追っていた。

やや、興奮気味に艦橋に戻ってきたすずやは、

「あれが、90式改ですか! すごいですね、結構大きな音がしました」

「ふふ、初期の打ち出しはロケットモーターだから、音が大きいわね、でも飛行中はターボジェットだから、静かな物よ」

 

こんごうは、艦長席に付属するモニタを見ながら、そう答えた。

画面上では、僚艦のひえいから発射された90式改と合わせ6発の90式改が、シースキマーモードで およそ80km先の敵艦隊を目指している、中間飛行は慣性航法を使うが、上空を監視するE-2Jからのデータも受信しながら飛行するので、経路精度が向上する。

 

CICの攻撃士官は、90式改から送られてくる、経路情報を見ながら、

「90式 全弾、正常飛行中」と報告を上げた。

 

すずやもこんごうの横の予備席へ座り、飛翔する90式改のモニタ画面を見た

「なにか、こう実感湧きませんね、いま敵に向けて攻撃している実感が湧きません」

こんごうは

「そうね、でもこれが80年後の戦闘の姿かしら、相手の姿が見えない所から攻撃する、

できるだけ早く、そして相手の攻撃もできるだけ遠くで撃破するというのが原則よ」

すると、すずやは

「でもあれだけ低く、速く飛べば相手にも見つかりにくいのでは?」

「確かにね。海面数メートルを飛行する対艦ミサイルは、私のレーダーでも発見できない事があるわ。精々30km先でようやく発見できるかどうかね」

「30km先って、着弾まで1分もないじゃないですか!」

「そう。だからできるだけ発射後の対艦ミサイルじゃなくて、発射母機の艦艇や航空機を事前に叩くのが一番効果的よ。ただこちらは諸般の事情で中々先制攻撃ができないから辛いところね」

こんごうは続けて、

「だから、私達は必ず船団を組んで 連携して防御するの、単艦では対応が難しくても、複数の艦艇で広域レーダー探知網を構築して、防空指揮艦の指示のもと対艦ミサイルの迎撃戦を行うの、きりしまはその為に特化した訓練を受けているわ」

「きりしまさんって 頭良さそうですね」とすずやが言うと、

「う〜ん、成績よりも反応速度とか、計算速度とかがいいのかな、私達4人の中では一番テキパキしているわよ」

「そっ、そうなんですか?」

そう言いながら二人は、90式の航跡が映るモニタを凝視した。

 

発射後、2分が経過

既に目標まで50kmを切っていた。

「敵の陣形には 変化はなしね」といい、E-2Jやリーパーから送られてくる情報を見ながら答えた。

敵の前衛艦隊は、重巡を先頭に単縦陣で航行している、ほぼその側面からミサイル群が襲う形となりそうだ。

CICの攻撃士官が、

「間もなく リーパーの終端誘導に入ります!」と報告を上げてきた。

すずやが、 

「あの、終端誘導っていいましたけど、最終目標を選択できるのですか?」

「ええ、できるわよ 昔の90式はその能力が劣っていて、同一目標に複数命中する可能性があったけど、次級の17式ではその終端誘導の能力が強化されたわ、そしてその17式で開発した終端誘導技術を旧式の90式へ移植して寿命延長を図ったのが、今回使った90式改よ、採用年度は古いけど、中身は最新というやつね」

こんごうは続けて、

「今回は、上空で監視中のE-2Jとリーパーが 道案内してくれるから精度も各段にあがるわ、これで当たらないなら製造会社にクレームの一つでも言いたいわ」

すると すずやは、

「その会社さんって?」

こんごうは、はっとして、

「そう言えば、まだ生まれてないわね。まあ元は零戦と同じメーカーだから、そっちに言うか?」と笑って答えた。

 

攻撃士官が、

「弾着まで 1分! 終端誘導に入ります」

 

既に、MQ-9リーパーは、身を隠すために入っていた雲を抜け、高度を落とし、目標となる前衛艦隊の上空で待機していた、リ級やロ級の電探に小さく捉えられている可能性もあるが、艦載機がいないうえに 既にE-2Jにより、通信とレーダーに広域ジャミングを掛けられているので、目視される以外、探知される恐れがない。

いずもが運用するMQ―9リーパーは偵察任務以外にも90式改や17式などの終端誘導が可能になるよう広域監視センサーを翼の下に吊り下げる事ができた。

今回もこのセンサーを2機とも搭載している。

 

こんごうは、艦長席のモニター画面にE-2Jから転送されてくるリーパーの監視カメラ映像を映し出した。

そこには、いくつもの航跡を引きながら、単縦陣で航行する深海棲艦の前衛艦隊が映し出された。

息を呑むすずや

「99艦爆で攻撃する時って こんな感じなんですか?」

「う〜ん、それは解らないけど、もうすぐ着弾よ」というと、

 

CIC攻撃士官より、

「弾着 10秒前!」

モニタに敵艦隊に迫る 90式改のブリップが映る、ここまで敵に反撃らしい行動はない、

当たり前だ、捕捉すら出来ない小型のミサイル、音速の速度、この時代の兵器では対抗手段はない!

 

「5秒前! 4、3、2、1 弾着!」と声が出た。

低空すれすれを飛行した 2機の90式改は、目標手前でポップアップする事なく、そのまま目標へ突っ込んだ!

次の瞬間、重巡の艦橋付近と、煙突付近で閃光があがり、一気に火の玉が上った!

閃光の次は、起爆により発生した衝撃波が、幾重にも、まるで静かな水面に小石を投げ込んだように発生した!

高性能炸薬260kgの榴弾が艦橋直下と煙突で炸裂したのだ、艦橋は一気に火に包まれ、煙突が、爆風で吹き飛ぶ!

軽巡、そして対空警戒駆逐艦にも各1発ずつの90式改が着弾した、

全て、艦橋付近へ着弾したようだ、目標構造物の一番レーダー反射の大きいところへ着弾する。

各艦に一斉に火柱が上がり、凄まじい衝撃波と黒煙が周囲を覆った。

 

CICの攻撃士官は、

「当艦及びひえい発射の90式改 全弾の弾着を確認! 戦果確認中!」

 

重巡では、次々と爆発が起こりだした、前部主砲の弾薬庫付近へ延焼したようだ

リ級重巡を含め、攻撃を受けた艦がいきなり迷走し始めた、艦の操艦機能が麻痺している!

こうなるともうすでに、戦闘艦としての機能は無くなったとみていい。

状況が吞み込めないのか、殿を航行していた、イ級駆逐艦の対空機銃が空めがけて機銃を撃ち始めた、どうやら乗員妖精達がパニックを起こしているようである。

もう1隻のイ級も 反応するように機銃を撃つが、直ぐに止んだ。

 

リーパーはその間もずっと高度3000m付近を静かに飛行し、炎上するリ級達を監視し続けていた。

突然、大きな火球が艦隊の中央から起こった!

2隻いるロ級駆逐艦のうち1隻が大爆発を起こし、そのまま黒煙に包まれたかと思うと船体中央部から二つに折れ、沈み始めた!

もう1隻のロ級駆逐艦も大きく船体を右に傾斜させ、赤い船底色が見え始めていた。

ホ級軽巡2隻も、艦橋付近へ着弾したようで、艦橋は完全に吹き飛び、各所で火災が発生し始めた、こうなるともう航行できない。

その時、ひときわ大きな火球が敵艦隊の前方から起こった!

ついに リ級重巡の前部砲塔下の弾薬庫に引火したようで、リ級は火球が収まると、艦首から、ゆっくりと沈み始めていた。

 

CICの攻撃士官は

「リ級およびロ級、3隻を撃沈、ホ級軽巡、撃破です、残存イ級損害なし」と報告してきた。

こんごうは、じっとリーパーからの映像を見ていたが、イ級2隻はどうやら、行き足を止め、海面へ投げ出された乗員を救助する為に、カッターを降ろし始めた。

炎上する各艦の回りには、艦を放棄し海面へ飛び降りた兵員妖精や負傷した兵員妖精達が浮遊物につかまり、救助を待っているようである。

 

「こんごう艦長、イ級はどうしますか?」とすずやが聞いてきたが、

「このまま攻撃せずに、救助させてあげなさい、あれだけの数を収容すれば、もう侵攻は無理よ、後方へ撤退するでしょう」といい、艦隊コミュニケーションシステムでいずもを呼びだした。

画面に映るいずもへ、

「報告します、こんごう並びにひえい、敵前衛艦隊に対し90式にて攻撃、リ級を含む3隻撃沈、2隻を航行不能としました、なおイ級2隻は負傷者救助中と判断し、攻撃をしておりません」

いずもは、静かに、

「こちらでも状況は確認しました。目的は達したと判断します。イ級はそのままE-2Jで監視を続行しますから、こんごう、ひえいは速やかに泊地艦隊と合流し、敵主力艦隊との艦隊戦へ移行しなさい!」

こういう時のいずもは、少し冷たい。

感情が高ぶる事もなければ、はしゃぐ事もない、ただそれは自身の性と戦っているからである、本当なら“よくやった”の一言でもかけたいが、彼女の同胞を撃つ事への罪悪感がそうさせているのである。

こんごう達もそれは、十分理解している、だからそこは言わない。

いずものそんな顔を見ながら、こんごうは、内心

“いずも副司令 貴方の心の戦いは何時まで続くのですか?”と問いかけた。

 

こんごうは、

「はい、副司令!」と答えながら席に着き、

「ひえい、対水上戦闘終了、泊地艦隊と合流するわよ」

「了解!」そう言うと、ひえいは、

「ねえ! ちゃんと当たったでしょう!」とすずやを見た。

「そうね、合格点を差し上げよう」とこんごうが返した。

「ふふ! ドジっ子ひえいちゃんでも、やればこんなもんよ!」と腰に手を当て威張ってみせたが、こんごうは、

「じゃ 次は4艦同時弾着 よろしく!」

「えっ、うそ!」と目を白黒させるひえいをよそに、

「対水上戦闘 用具収め、警戒配置へ」

すずやはインカムで

「CIC 艦橋 対水上戦闘用具収め! 警戒配置へ」と下命し、さらに艦内放送をかけ

警戒配置へ移行させた。

副長が、

「船速 第1戦速!」と命じ、艦がゆっくりと減速する。

こんごうは、

「航海長、泊地艦隊と合流点算出、進路指示」

「はい、艦長」と航海長が返答し、後方のチャートデスクで計算を始めた

 

艦内の張りつめた空気が一瞬溶け、また次の戦闘の為の準備を始めた

砲雷科の甲板員が、発射後の90式改のキャニスター回りの点検を始めた、また次は砲撃戦になる可能性もある、主砲回りも点検作業を開始していた。

 

こんごうは、艦橋の席についたまま

「さあ、次は由良さん達と夜戦よ」といい、自身の気を引き締め直していた。

 

 

パラオ諸島 北部海域400km地点

深海棲艦マーシャル分遣隊空母ヲ級指揮官は、この1時間同じ質問を繰り返していた。

「第1次攻撃隊とは、連絡は取れたの!!!」 ヲ級指揮官の怒鳴り声が、艦橋の司令官席から発せられたが、副官の悪霊妖精の答えは毎回同じ、

「いえ、未だに連絡がありません!」という物であった。

数時間前に発艦した戦闘機、艦爆、艦攻部隊82機との交信が突如途絶えた。

無線機の故障かと思い、個別に呼び出すが全く応答がない、つい先ほど哨戒任務についていた前衛艦隊とも連絡が取れなくなった。

艦隊間連絡で使う周波数帯域にノイズが入り、僚艦とも通信出来ない状態である。

 

「いったい、どうなっているの!!」とイライラとするばかりである。

早朝実施されたはずのB-17による、敵泊地の滑走路及び、湾内封鎖作戦は、B-17部隊との連絡途絶で成果不明、発艦した戦闘機を含む攻撃隊も無線機の不調かこれもまた戦果不明、そして前方80kmを哨戒航行していたリ級を中心にした艦隊も、先程から無線に出なくなった。

ヲ級指揮官は、冷静さを欠きつつあった、本当なら既に第1次攻撃隊が帰還し、その報告を待って第2次攻撃隊の編成を検討するハズであったが、肝心の第1次攻撃隊が帰って来ないのだ! 全機無事に帰る事など最初から期待などしていないが、4割以内の損害なら上出来と考えていただけに、未だに帰還機“0”というのは納得できない!

途中で進路を変更したりすれば、迷子になる事もあるが、今回は潜水艦対策で前衛艦隊に対潜強化したホ級、イ級を配備してあるので之字運動も最低限だ、とにかくパラオへ急ぐ!

 

ヲ級にはパラオへ急ぐ目的があった。

鳳翔だ!

世界初の空母艦娘「鳳翔」

世界中の空母艦娘の祖であり、空母というジャンルを確立した艦娘

その名は 深海棲艦の中でも、有名であり、撃沈したい艦娘ベスト3に入る。

下手をすると、金剛や長門より先に名が上がる事すらある。

現在の1位は大和と武蔵、2位は意外に明石と長門 3位が鳳翔に赤城である

なぜ明石が2位なのか?

理由は、深海棲艦から見れば、連合艦隊の船を中破まで追い込み戦線から離脱させたと思いきや、明石の工廠能力で早期に戦線に復活してくるのである、明石さえいなければ!という恨み辛みがこの堂々たる2位の理由である。

ちなみに4位は間宮である、あの艦娘の元気の補給源さえ絶てば、連合艦隊艦娘は戦意喪失するに違いないという理由である。

 

鳳翔は、今でこそ艦も古く、艦載機も少ないという事で、後方戦力としてパラオに留め置かれているが、彼女こそ連合艦隊の空母艦娘の長であり、世界中の空母艦娘の目標である事には変わりない。

深海棲艦 空母組にとって赤城や加賀の小娘などよりまずは“鳳翔を打ち倒す!”これが出世する一番の早道であった。

その鳳翔が、パラオにいる!

ヲ級指揮官は内心喜んだ、こんな機会は滅多にない、他の空母や戦艦に先を越される前に鳳翔を沈める!

その焦りが、今冷静さを欠く最大の原因であった。

 

副官を務める悪霊妖精が、

「ヲ級指揮官 ル級艦隊司令とご相談なさいますか?」と恐る恐る聞いたが、

ヲ級は、目を吊り上げ!

「相談するもなにも! 無線が使えないんじゃどうしようもないでしょ! 故障の原因は何!!」と怒鳴り返した。

すると副官は、

「原因は不明です、機材の故障ではなく艦隊全域に無線妨害並びにレーダー波の妨害を受けていると考えられます」

するとヲ級は、

「日本海軍の仕業?」

「確証はありませんが、状況を考えれば」と副官が答えた。

ヲ級は、

「ふん! まともなレーダー一つ持たない日本海軍が、大規模無線妨害、レーダー妨害なんて出来っこないわ! 米軍は?」

「近隣の海域にはいないはずです、フィリピンやパプアニューギニアからは出ていないはずです」と副官が返答すると、ヲ級指揮官は、

「米軍でないとしたら、誰なの! 日本海軍! あり得ない、今まで気力と根性だけで、船を動かして来た奴らがこんな高等な電波戦ができるなんて聞いた事がないわ! いい私達が攻めているのは、横須賀でも佐世保でも ましてトラックでもない、南の小さな泊地よ! そこになんでこんな高等な事が出来る日本海軍がいるのよ! あり得ないわ!」

 

「しかし!」と副官が反論しかけたが、

「第2次攻撃隊は!」とヲ級が話を切り替えた。

すると副官は、

「2番艦、3番艦を中心に 第1次攻撃隊と同じ編成を組んでおります、但しTBDデバステーターについては、雷装か爆装かを第1次攻撃隊の戦果で決定する事になっていましたから、現在3番艦の艦内で待機しています」

「爆装にしなさい! どうせ狭い湾内に閉じ込められているなら、雷撃は効果が期待できない!」

「はい、では爆装で」といい、別の士官へ発光信号で爆装準備を3番艦へ送信させた。

「どのくらいで発艦できる!」

「はい、1時間以内に」

「各艦に第2次攻撃隊 発艦準備開始を下命、もし第1次攻撃隊が帰還してきたら、この艦へ収容、入り切れないときは、機体の破棄!」

「わかりました、ヲ級指揮官」といい下がった。

ヲ級は艦橋から、

「ふん、これでパラオもおしまい、後はゆっくりと鳳翔を仕留めれば、私の地位は安泰だわ!」といい笑みを浮かべていた。

 

 

ヲ級達が、第2次攻撃隊を準備している頃、いずもはヲ級空母群から南200㎞付近を航行していた、つい10分程前に上空を、泊地航空基地で補給を済ませ、ロクマルに誘導された鳳翔の99艦爆隊6機、瑞鳳の97艦攻隊9機が通過していた。

そして今、その艦爆、艦攻部隊を護衛する為にいずもへ一時着艦していた、鳳翔隊6機、瑞鳳隊12機の零戦隊は燃料、弾薬の補給、腹ごしらえを終え、順次発艦を開始していた。

度重なる訓練のお蔭で、いずも甲板上での零戦の運用も問題なく行えるようになった。

飛行士妖精達には、いずもの甲板は好評で、とにかく広い、18機もの零戦が並んでも十分 発艦距離が取れる。

鳳翔零戦隊の隊長は、前回のいずもへの着艦訓練後の反省会で、

「あまりいずもさんで訓練すると、こんどは“お艦”に降りれなくなります」と冗談交じりに言ったが、それを聞いた鳳翔は、

「どうせ私は、狭い、遅い、古いですよ!」とむくれてしまい、いずもと 瑞鳳で宥めるのに大変であった。

そんな失態を演じた鳳翔零戦隊は、今回はアングルドデッキの後方に整列していた。

艦橋前には瑞鳳の零戦隊が整列し、発艦を開始している。

鳳翔零戦隊の隊長は、

「斜め甲板から離陸か、まあ横風離陸見たいなもんだな」と思いながら、甲板誘導員の指示を見ながら発艦位置へついた。

ブレーキを踏み、周囲を再び確認する、すべて異常なし、

右前方の艦橋前では、瑞鳳の零戦が次々と発艦している。

発艦士官が、大きく腕を前へ出した! “発艦始めだ!!”

ブレーキを解除して、スロットルを開く、いきなり全開にすると、プロペラの反動トルクであらぬ方向を向きかねない、確実に素早くエンジンの回転を上げる、機体がスルスルと加速した、ラダーを小刻みに踏み込み、機首方位を保つ!

尾翼が浮き上がり、さらに機体が加速、斜め甲板を使い切る前に、機体はふわりと浮き上がった、加速した事を確かめ、車輪を格納する。

チラッとバックミラーをみると、後方に2番機が飛び立つのが分かる

「この調子なら18機離陸するのに10分は掛からん、2機同時離陸できるとは、流石超弩級空母だな」と呟きながら、一路先行する艦爆隊を追った。

無線を通じ、いずもの管制室から、各機へ進路指示が来る。

眼を凝らすと、前方に99艦爆隊が見えてきた

「さて、俺達の出番はあるかな?」と思いながら、僚機が集合するのを待った

 

 

いずもは、CICから艦橋横の見張り所へ来ていた。

鳳翔、瑞鳳の零戦隊の発艦を見届けるためだ。

見張所据え付けの防水型のモニターに鳳翔と瑞鳳が映っている。

艦は今 30ノット越えの速度で北を目指していた。

いずもの公開されているデータでは速力は30ノット、それは“30ノットは出ます”というだけで、本当はその速力をかなり上回る。

 

潮風に揺れる髪を押さえ、整えながら、見張り所で発艦を見守る。

甲板前方では、瑞鳳の零戦隊が次々と発艦、後方のアングルドデッキ上では鳳翔の零戦隊が発艦していた。

その様子は、監視カメラを通じ、鳳翔や瑞鳳へ送信されている。

「すご~い! 2機同時発艦してる!」と瑞鳳が驚きの声をだした。

「流石超弩級空母ですね、いずもさん。艦爆や艦攻もこの様な運用ができるのですか?」

と鳳翔が聞いてきた。

 

「はい、問題はありませんが、安全上の事を考えれば、艦攻、艦爆隊は機体重量が重いですから、前方甲板での運用がいいかもしれません、この辺りはまだ研究課題ですね」

 

すると、瑞鳳がとんでもないことを言い出した。

「ねえ、鳳翔さん! いま横須賀で建造途中の大和型3番艦、空母型に成るって聞きましたけど」

「ええ、すでに船体の一部が形になりつつあるという事ですよ、あと2年以内に完成するそうですけど」

すると瑞鳳は、

「艦政本部へ意見具申して、その3番艦、斜め甲板装備にしてもらう訳にはいかないのですか?」

「瑞鳳ちゃん?」と鳳翔が言うと、

「だって、いずもさんの斜め甲板 こんなに便利なんですよ、艦政本部も鳳翔さんのお話なら真面目に聞くとおもいますけど」

鳳翔は少し考え、

「そうね、帰って提督さんに相談しましょう、いずもさんの技術を取り入れて、次世代型空母となりえるかどうか、ただ問題もあります」

「問題ですか?鳳翔さん」

「肝心の艦娘候補が未定です。大和さん級の艦娘は、国内でも早々見つからない。大和さんや 武蔵さんも大巫女様が日本中を回ってやっと探し出したのです。あれだけの船を動かすだけでも、かなりの霊力。そして100機近い航空機を運用する能力が必要です。そのような子がそうそう簡単に見つかるとも思えません」

「そっ、そうですよね」と頷く瑞鳳。

 

最後の零戦が今発艦した、発艦後の零戦は本来なら空母上空で空中集合の後、目的地に向かうが、既に、艦爆、艦攻隊が先行しているので、各機それを追う形だ、いずもの航空管制室で各機を待機エリアまで無線誘導する。

勿論 ロクマルがついているので迷子になる事もない。

今回は、敵空母群の手前60km程の位置に待機エリアを設定し、各機突入タイミングを図る

 

いずもは、二人へ

「では、こちらも艦載機を発艦させます」といい、

いずもは、艦内電話をとり、

「フライトコマンダー、いずもです、速やかに空母攻撃隊を発艦させなさい」と指示をした。

「はい、第六飛行隊6機 直ちに発艦します」と返事があった。

駐機エリアには、すでに6機のF-35Jが対艦攻撃仕様で待機していた。

主翼下には2発の93式空対艦誘導弾改(ASM-2改)、サイドワインダーが2発、ウエポンベイ内にはアムラームが2発搭載され、センターハードポイントには増槽が追加されていた。

合計12発の空対艦ミサイルが空母3隻を含む艦隊に襲いかかるのだ!

 

F-35JへのASM-2の搭載は難航を極めた。

当初航空自衛隊が導入したF-35Aは 旧式化したF-4EJの代替機としての採用であり、支援戦闘機としての色合いが強かった。空自サイドとしては、不足気味のF-2を補う上でも ぜひASM-2は4発搭載してほしいと要望したが、開発メーカーの答えは

“NO”であった。

F-35は元々ハープーンを2発を翼下に搭載する事を想定している、FCS(火器管制装置)もそれに対応したものだ、ASM-2はハープーン互換とはいえ、元々のFCSの能力不足で搭載弾数を増加できない、おまけに4発搭載すると主翼の強度が不足するのでは?という問題もある、その解決策として、日本向けのF-35Aでは主翼を再設計しては、という意見まででたが、結局 無理矢理積んでも、莫大な開発コストを生じた「F-2の二の舞だ」という事で2発に収まった。

次の問題はFCSの開発だった、ASM-2の制御ソースコードを米国へ渡し、FCSへ組み込む必要があった、

ここで大問題が生じた、渡したソースコードを格納したFCSユニットを国内で整備できないのだ、試験で不具合が出る度、米国へ送り、改良、また試験、を繰り返す日々である。

案の定、開発スケジュールは大幅に遅れたが、ここで焦ってもしかたないと内局組は腹をくくった。

マスコミの批判を浴びながらも、なんとか実戦配備へこぎつけたF-35A

防衛省は、いずも就航に合わせ、F-35の日本版改修機の開発を始めた。

B型のSTOL機能とC型の艦載機能力、A型の空戦能力をもつ複合機の開発を進めた。

すでに、機密部分の少なくなったF-35Aをベースに開発が進み、皮はF-35で中身はまるきり違う、まるで近代化改修を繰り返して、初期の機体と別物になってしまったF-15Jの様である。

ある整備妖精は

「これぞ、わが社自慢の機体です」と胸を張った!

F-35Jは、まさに「アメリカ生まれの日本育ち」、金剛真っ青な機体である。

 

 

いずもは、コミュニケーションシステムを使い、鳳翔、瑞鳳へ

「では、今回の空母迎撃戦について説明します、既にこんごう、ひえいにより、敵前衛艦隊は壊滅状態であり、空母艦隊の哨戒圏は形骸化しています、それと同時に空母群、並びに後方の打撃艦隊に対し、電波妨害戦を開始しています、無線、電探が使用できない状態です」

すると瑞鳳が

「あの、質問いいですか?」

「はい、瑞鳳さん」

「電波妨害って、此方の無線も妨害されるのでは?」

「いい質問ですね。本来なら強力な電波を幅広い周波数に流しますので此方の無線も妨害されますが、私達の電波妨害装置は、特定の周波数だけを妨害する事ができます。それに管制室で不規則に使用する周波数を変更していますので、問題ありませんよ」

すると鳳翔が、

「瑞鳳ちゃん、自衛隊さんの電波戦は私達の想像以上の能力がありますから、心配しなくても大丈夫ですよ」

「そっ、そうですよね、それにしてもこんごうさん、ひえいさんで前衛艦隊壊滅状態って凄いですよ!」と興奮気味である。

いずもは、冷静に

「今回は、救助の為に駆逐艦2隻を残しましたが、まあ二人ならあの程度は問題ないですね」とあっさりと言った、そして

「なにせ“金剛力士”ですから」と笑顔で話したが、瑞鳳は、内心

“う〜ん、今度からこんごうさんには優しくしよう”と顔をひきつらせた。

 

いずもは話を続け、

「敵空母群は、E-2J並びに無人偵察機の情報によると、このように空母3隻を中心にした、輪形陣を形成しています」と報告した。

分割された画面に E-2Jやリーパーからの映像が映し出された。

そこには空母3隻を取り囲むように、先頭をリ級重巡、空母の左右をホ級軽巡、そしてその外周部には6隻のイ級駆逐艦が取り囲んでいた。

鳳翔は、

「分厚い陣形ですね」

「ええ、対空陣形としてはお手本のような陣形です」といずもが答え、続けて、

「現在、前衛艦隊が撃滅した状態では敵空母艦隊には、電探による警戒網がありません、ですから航空管制による迎撃が出来ない状態です、この状態の中、まず私の艦載機F-35Jによる対艦ミサイル攻撃で、空母、重巡、軽巡を中心に攻撃を行い、戦闘能力を奪い取ります」

いずもは、モニターに攻撃目標となる、空母3、重巡1、軽巡2をマークした、

「私達の使う93式対艦ミサイル改は高度10mを音の速さに匹敵する時速1000km近い速度で、200kgの高性能炸薬の入った榴弾が船体内部で炸裂します、1発で撃沈できなくても、行動不能にする事はできます、最後の止めを鳳翔、瑞鳳さんの艦載機群で行ってください!」

すると瑞鳳が、

「第1次攻撃隊で、撃沈できない時は? 其方に着くまで暫くかかりますが」

すると、いずもは、

「勿論、反復攻撃をします、私の艦に250kg航空爆弾と、九一式魚雷を積んでいますので、鳳翔さん、瑞鳳さんが合流できるまで私の方で補給を行います」

いずもは、

「日没まで、5時間程度あります、この距離なら2回は反復攻撃が可能です、徹底的に叩く機会です」

「それまでには、私達も合流できます」と鳳翔が言うと、

「ええ、私達空母群は、この位置で周回航行を行い、夜を過ごして、夜明けと同時に敵の打撃艦隊を叩きます、夜のうちは、由良さん達泊地艦隊とこんごう、ひえいが夜戦を仕掛けます」

すると鳳翔は、笑顔で、

「明日の朝日をどれだけの敵艦が拝めるでしょうね」と言うと、

「それは、やってのお楽しみという事で」といずもも笑顔で返した。

 

それを聞きながら瑞鳳は、

“何か 怖い会話をしてるこの二人、元々 鳳翔さんが怖い事は分かっていたけど、今度からは、いずもさんも怒らせないようにしよう”と誓う瑞鳳であった

 

既に甲板上の駐機エリアには6機のF-35Jがエンジンを始動し待機していた。

衝突防止の為のアンチコリジョンライトを点滅している。発艦準備完了のサインだ!

ライトは、発艦後、速やかに消す、本来なら、飛行中はずっと点灯しなければならないが、戦時の場合は、敵に発見されるのを防ぐために航空灯火を消して飛ぶ。

1番機、2番機が前方カタパルトへ誘導されて、セットされた。

左舷には、既にロクマルが上空待機しており、不測の事態に備えていた。

 

いずもの手元にある艦内電話が鳴った

「副司令、空母攻撃隊 発艦準備整いました」と飛行隊司令妖精からの報告を受け、いずもは、

「発艦始め!」と短く返答した。

「はい」という返事と共に、甲板上に轟音が鳴り響く!

 

いずもの眼下、93式対艦ミサイル改を抱えた2機のF-35Jが発艦して行く、

発艦した機体は、上昇しながら一旦左へ旋回し、いずも上空で僚機の集合を待つ、

いずもは、鳳翔と瑞鳳に向かい、

「20分後には攻撃開始です」と静かに告げた。

強く頷く、鳳翔に瑞鳳

 

その頃、空母ヲ級指揮官は苛立ちを副官へぶちまけていた!

「結局 第1次攻撃隊はどうなっているの、なぜ1機も帰ってこないわけ!」

対する副官も、困惑しながら

「指揮官、後1時間以内に帰還してこなければ、最悪全機撃墜されたと考えるべきです」

「そっ、そんな馬鹿な事があるわけないでしょう! 82機の攻撃隊が全機損失! あり得ないわ! もう一度レーダーと誘導電波を確認しなさい!」

「はっ!」と返事をしてみたが、既に数度に渡り確認している、各艦の水上、対空レーダーは真っ白で全く機能していない、各種電波も妨害されているのか雑音だらけで使い物にならない、完全に孤立したと言える。

副官の悪霊妖精は焦りだした。

“おかしい、今までの日本海軍と感触が違う、我々は有利に事を進めているはずではないのか?”と疑心暗鬼に陥った。

ヲ級指揮官は唸りながら、

「30分後に 第2次攻撃隊を発艦させなさい! いくら第1次攻撃隊とB-17部隊に損害が出ていても、パラオが無事な訳はないわ! ここで一気にたたみ込んで、日没までに徹底的に叩いてやるの! 明日の朝、ル級達がパラオへ来た時にはきれいさっぱり何もない状態にしてやるのよ!」と捲し立てた。

副官の悪霊妖精は慌てて、

「はい、各艦艦載機準備できております! 30分後に発艦開始します!」

ヲ級指揮官は笑みを浮かべ、

「見てなさいパラオの小娘ども、その頭上へ爆弾の雨を降らせてあげる」と笑いを上げた

ヲ級の笑い声が 艦橋に響いていた。

ヲ級1番艦では、残りのF4Fが所せましと並べられ始めていた、

2番艦、3番艦のヲ級も同じくF4Fやドーントレスやデバステーターが甲板上へ並べられていく。

それを艦橋からみたヲ級指揮官は

「これだけの艦載機、全機損失などあり得ない」と叫んだ!

 

そのヲ級の動きを最初に感知したのは、ヲ級空母群の上空7,000mを飛行するMQ-9リーパーの監視カメラであった。

その映像は後方で待機するE-2Jエクセル04へ送信され、そして いずもCICへ送られた。

手持ちのタブレットでそれを見た いずもは、

「しめた、あと30分は発艦出来ない!」

映像には、船体中央のエレベーターで1機づつ甲板上へ上げられる艦載機が見える。妖精兵員が機体を押して、整列させているのが見える。

「やるなら、今よ!」そう思いながら、CICへ向った。

 

既に 鳳翔、瑞鳳の零戦、艦攻、艦爆隊は集合地点を離れ、隊列を整えながら、敵空母群へ向っている。

F-35Jも10分で攻撃開始地点に到着する。

いずもはCICへ入るなり、

「状況は!?」と問いただした。

砲雷長は、

「スカル隊、間もなく攻撃開始地点です。鳳翔、瑞鳳隊、50km地点まで進空しました」

いずもは、

「F-35部隊へ、攻撃可能圏内に入り次第直ちに攻撃!続いて 鳳翔、瑞鳳隊も突入させて、零戦隊は敵直掩機を掃討しなさい!」と矢継ぎ早に命じた。

一斉に各オペレーターが担当機へ指示を出す。

「この好機、逃さないわよ」と いずもは戦術モニターを睨んだ。

 

いずもを発艦したF-35J、6機を指揮する飛行班長は、レーダーモニターで状況を確認した。既に僚機は小隊毎に集合を終え、一定間隔を開け作戦空域へ侵攻していた。

モニタ―上には、上空を先行して飛行する 鳳翔、瑞鳳の攻撃隊、それを掩護する零戦隊。

そして誘導、戦闘救助の為に随伴するSH-60Kが映っていた。

 

高度300m、速度M0.8で飛行する6機のF-35J。

敵空母群の手前100kmまで迫っていた。

飛行班長は、

「ふう、普段ならもっと低く飛ぶが、相手のレーダーがOUTってのがいいよな」と呟いた。そして、

「向こうからの対抗手段がないというのが一番有難い」

もし相手がイージス艦なら、今頃SM-2の手荒い歓迎を受けている頃で、ECMフル稼働で回避運動真っ最中のはずである。

「まっ、いつまでもこう有利な戦いが続くわけもない。奴らは物量戦が得意だ。楯となる艦艇が増えれば、早々近づけん」といいながら、

班長は無線のボタンを押し、

「オールメンバー 01 間もなくアタックポイント マスターアーム チェック!」と告げると、

「02 マスターアームシム レッド ASM-2 レディ!」と返事がきた。

各小隊も確認が終了した。

 

「スカル01 エクセル04 ブレイク!」と上空を飛ぶE-2Jから連絡が入る。

「間もなく攻撃開始地点、各機93式改のモードを確認せよ!」

そう言われ、93式対艦ミサイル改の発射モードを確認した。

“目標再検索モード”である事を確かめた。

「01 チェック!」と返事をすると、すかさず右後方を飛行する2番機から

「02!」と返事がある。

今回はE-2Jの中間誘導、そして終端誘導にはリーパーの情報と93式の赤外線イメージ誘導をE-2Jで修正補正する。

 

コクピット内に酸素マスクからの呼吸音が響く。

戦闘機の酸素マスクは独特の呼吸音がする。時々その音を思いだし、“ああ、生きている”と実感するときがある。

眼で再び、メインモニターに映る兵装モードを確認していく。時間だけが刻々と過ぎていく。眼下には青い海が広がる。そこだけ切り取ればまさに平和な海だ。

しかし、現実は違う。ここは“戦場”だ。

 

ヘルメット内のヘッドマウントディスプレイシステム(HMDS)にE-2Jからの指示が表示された。

“攻撃開始せよ!”

スロットルに付属するジョイステックを操作し、

HMDSに映る“了解”の文字をクリックして、返信する。

飛行班長は、

「まるで、ゲームだな」と思いながら、

「エース○○バットみたいに、ミサイルもガンも打ち放題なら楽な任務なんだが」と呟き、

無線で、

「スカル01フライト ASM-2 アタック NOW!」と叫んだ!

操縦桿のミサイル発射ボタンを押し込む!

既に発射弾数、E-2Jを経由して目標選別を行っているので、あとは火器管制システムが自動で投弾してくれる。

まず、右翼NO9ステイションのパイロンに吊るされた93式対艦ミサイル改がランチャーから切り離された。

93式対艦ミサイル改は少し落下した後、カートリッジスタータが爆発し、その圧力で内部のTJM2ターボジェットエンジンが起動、即座に加速して行く。次は左翼下のNO3テイションに吊るされた93式が落下し、エンジンが起動、加速していく!

右後方を飛行する2番機も2発の93式を発射した。

あっという間に視界から消えていく!

「さあ、あとの御守りはホークアイに任せて帰るか」と呟き、

モニタ―を見た。全機無事発射を完了したようだ。

 

6機12発の93式対艦ミサイル改が敵空母群へ向う。

空母をはじめ重巡、軽巡に2発ずつだ!

 

「オールメンバー スカル01 ジョインナップ!」と指示すると、

「02」と僚機から返事があった。直ぐに他の小隊からも返事があり順次右アブレスト隊形に集合した。

大きく左旋回しながら、

「いずもコンバットコントール スカル01フライト ミッションコンプリート RTB」と いずもの戦闘指揮所へ報告すると、

「スカル01 いずもコンバットコントール ラジャー」と返事が返る。

続いて、

「スカル01 いずもサクラ!」と飛行隊指揮所から呼び出された。

「01」と返事をすると飛行隊長から、

「ターキー、コーヒー入れて待ってるからな」

少し安堵しながら、

「砂糖は入れないでくれよ」と返した。

「りょう〜かい」と隊長から返事がある。

「さて、鳳翔、瑞鳳の旦那たちの腕前、拝見しましょう」といいながら いずもへの帰路へ就いた。

 

 

ヲ級指揮官は艦橋で、眼下の飛行甲板に並ぶF4F戦闘機を見ながら、

「ふふふ、これだけあればパラオの小娘どもも終わりだわ」と笑い声を上げた!

後方の2番艦、3番艦の甲板上にもドーントレスやデバステーターが並び、今からエンジン暖気運転を開始しようとしている。

上空にF4F、12機が直掩機として周回飛行をしているのが見える。

「もうすぐパラオも終わりだわ」といい指揮官席へ座り、副官の悪霊妖精へ、

「それで、連絡は付いたの?」と問いただした。

「はい、実は今のところどことも連絡が出来ておりません。B-17爆撃隊、第1次攻撃隊、前方の前衛艦隊、後方のル級本隊との無線が通じません」

するとヲ級は、

「どういうこと?」

すると副官は、

「言葉の通りです。どことも無線が通じません。完全に孤立しました!」と言うと、

「孤立した?」

「はい。各種周波数で呼び出していますが、雑音ばかりで全く通信できません。外部の情報が全く分かりません。ヲ級指揮官、ここは慎重に行くべきなのでは?」

「攻撃を待てというの?」

「はい、今までの日本海軍とは感触が違います! パラオへ近づいた友軍はすべて音信不通です! ここは慎重にすべきです!」

ヲ級は、

「臆病風に吹かれた? たかが無線連絡が出来ないぐらいなに? 仮に各隊と連絡がつかなくても、パラオにはそれなりの被害が出ている“はず”だわ! 今叩かなくてどうするの!」と副官を怒鳴りつけた。

「つべこべ言わず、攻撃隊発艦準備急がせなさい。日没までに2回は反復攻撃したいわ!」といい、眼下の甲板を再び見た。既にF4F隊の数機がエンジンを起動し、暖気運転に入っている。

ヲ級指揮官はそう言いながら指揮官席へ座り、ふと反対の右舷方向を見ると、海面すれすれを何かがこちらへ向うのが見えた。

“海鳥?”と思った次の瞬間、それが人工の物体、砲弾の様な物である事に気がついた!

 

“えっ”と思った瞬間!

 

その物体は物凄いスピードで艦橋前方、右舷にある防水シャッター区画へ消えた。それから数秒、いや正確に言えば2~3秒後だろうか、船体が大きく振動した!

「なっ! なに!!!」と言いながら必死に衝撃に耐えるため、指揮官席のひじ掛けにしがみつく!!

 

最初の衝撃で船体が左へ傾き、そして襲って来た凄まじい振動で艦橋内部の妖精達はすべて壁面や床面に叩きつけられた。凄まじい振動は艦橋の防弾仕様の窓ガラスを全て叩き割り粉々になり、破片を室内へまき散らした。

「うっうう、おおお」とどこからか呻き声が聞こえた。見張り所にいた数名の兵員妖精は衝撃で艦橋から投げ出され、数m下の甲板へ落下したのが見えた。

 

そして再び、凄まじい衝撃が船体を襲った。何かがもう一度ぶつかった!

「何だ!」と声に出そうとするが、震えて声が出ない。

ゆっくりと船体傾斜が戻りかけた瞬間、左手の飛行甲板から轟音が響き渡った!

眼をそっと其方へ向けた瞬間、目前に物凄い火球が現れ、それはまるでスローモーションのように広がり、そして艦橋を飲み込んだ!

 

ヲ級指揮官の意識もそこで潰えた。

 

ヲ級1番艦の右側舷へ着弾した93式対艦ミサイル改は、たまたま艦内で艦載機給油作業の為開放されていた艦橋前方下部の防水シャッター区画から艦内へ突入し、艦内で給油作業をしていたF4Fの側面にぶつかり起爆した。

遅延信管なので、ぶつかったF4Fは真っ二つにひしゃげ、周りの艦載機を巻き込みながら四方へ散らばり、周囲にいた整備妖精達をなぎ倒し、そしてほぼ船体の中央で爆発した93式対艦ミサイル改は爆発エネルギーを周囲へまき散らした。

給油中という事もあり、その航空燃料にも瞬時に引火、爆発力を増大ざせた!

爆発エネルギーは即座に一番弱い甲板上へ流れこみ、前方飛行甲板を粉々に吹き飛ばし、そして爆発エネルギーは格納庫内へ雪崩こんだ!

折しも給油作業や、次の攻撃へ向けて航空魚雷や自由落下爆弾などが準備されていた事も加わり、格納庫内で次々と誘爆を起こし始めた!

 

誘爆のエネルギーは上部構造物の艦橋下部から艦橋内の通路を伝わり、艦橋内を焼き尽くす。

「ぐあぁぁあああ!」と声にならない声を上げながら、火だるまとなった兵員妖精達が海面めがけて飛び込むが、そこは十数mある高さだ。たとえ飛び込だとしても助かる見込みはほとんどない。

艦はゆっくりと傾斜を戻していくが、やや左に傾きようやく止まった。しかし 悪夢はこれからであった。

甲板で発艦作業に入っていたF4Fへ火の手が回り、一斉に誘爆し始めた!

既にエンジンを起動していた為、係留索を外していた事も災いし、最初の爆発と傾斜で大きく左へ流れた甲板上の艦載機は次々とぶつかりあい、回転するプロペラで隣接する機体や整備員をなぎ倒しながら滑り、前方甲板で起きた大爆発の炎に包まれ、漏れたガソリンに引火、一気に甲板上を地獄絵図へと変えていった。

 

ヲ級2番艦を狙った93式対艦ミサイル改2発は、同じく船体右、艦橋直下に着弾した。

これは偶然ではなく、93式は赤外線映像イメージ誘導により着弾点を指定できる。今回は艦の指揮命令系統を麻痺させるために、あえて飛行甲板ではなく艦橋部分に着弾するようにセットしてある。

2番艦の内部で起爆した93式の弾頭エネルギーは艦橋部分を完全に吹き飛ばし、艦内に火災を発生させた。此方も上甲板が完全にめくれ上がり、発艦作業中のドーントレス隊をなぎ倒し、勢い余った機体が海中へ数機落下。そして辛うじて残った機体も甲板下、格納庫内で起こる爆発により、次々と誘爆を始め、甲板上を火の海とした。

必死に消火作業に入るダメコン要員であったが、時すでに遅しで自分達も炎に巻かれる事になる。

 

少し後方を航行していたヲ級3番艦は 右舷艦橋後方へ2発着弾した、着弾した弾頭はそのまま運動エネルギーを使い、船体装甲を撃ち抜き、船内へ侵入、船体中央のエレベーター区画付近で起爆した

爆発エネルギーと、高温の弾頭破片は、エレベーター区画に隣接する格納庫内の艦載機を次々と襲った、密閉された格納庫内で一気に爆発した艦載機、数機は周囲を一気に焼き払い、そのまま上部構造物の飛行甲板を吹き飛ばした、

飛行甲板上では、発艦準備をしていた残りのドーントレスやデバステーターが着弾の衝撃でぶつかり合い、機体を歪な形に変形させていたがそこに格納庫内で起きた爆発の衝撃が襲う!

吹き飛ばされ宙高く舞い上がるドーントレスやデバステーター!

そして、甲板に伏せ、衝撃に耐えていた兵員たちは飛行甲板ごとは吹き飛ばされ、海面へ叩きつけられた。

 

残る6発の93式対艦ミサイル改は、重巡に2発、軽巡2隻にも2発ずつ着弾、それぞれに甚大な被害を与えた。

つい10分前まで、威風堂々と輪形陣を組み海原を進んでいたヲ級空母機動艦隊は、12発の93式対艦ミサイル改で事実上壊滅状態へと追い込まれた!

1番艦は既に左へ大きく傾斜を始め、甲板上にあったF4Fは全て海中へ投げ出され、艦内で発生した火災は延焼を繰り返している。2番艦や3番艦も状況的にはほぼ同じだ。

特に3番艦は上部飛行甲板が吹き飛び、内部の構造がむき出しの状態となり、辛うじて浮いている状態だ!

輪形陣は崩れ、空母3隻は迷走を始め、リ級重巡は何とか進路を保っているが艦橋が破壊され、火災が発生しているのか速力が落ち始めていた。

ホ級軽巡のうちヲ級左後方を航行していた1隻は、艦橋部分が完全に破壊され、機関部も損傷し蛇行し始めた。操舵系がやられたようだ。そしてもう1隻のホ級は、前部砲塔付近へ着弾したため砲塔が吹き飛び、前部火薬庫に引火!爆発を繰り返し、行き足を急速に止めつつある。

 

救助の為、輪形陣の外周に居たイ級駆逐艦が空母や重巡へ近づこうとするが、船体が迷走しているのでむやみに近づけない。

 

そんな状況を上空7,000mで飛行するリーパーは監視していた。

雲中を飛びながら、赤外線カメラを使い確実に被害状況を把握し、E-2J経由で いずもへ送信している。

 

いずもは、リーパーから送信されてくる映像を見ながら、

「攻撃士官! 鳳翔、瑞鳳隊を突入させなさい! 目標は、ヲ級、リ級、ホ級の6隻です!」と鋭く命じた。

航空攻撃士官は、

「はい、副司令」と返事をすると、即座に上空を飛ぶE-2Jへ泊地航空隊攻撃開始を送信した。

既に空母群から30kmまで進空していた 鳳翔零戦隊以下の泊地航空隊は、前方で上がる複数の黒煙を確認していた。

鳳翔零戦隊は 瑞鳳零戦隊を従え18機で、艦爆、艦攻を護衛していた。

「いや、派手にやったな いずもの旦那達」と呟いた。

高度2,000mで進空する。

「泊地航空隊 いずもエクセル04 各隊攻撃開始せよ!」と無線が入った!

続いて、

「鳳翔、瑞鳳零戦隊 方位330 高度2,300 距離25km 敵直掩機 機数12」と無線で告げてきた。

言われた方角をじっと凝視する、

「いた! 右前方!」

即座に無線のボタンを押し、

「鳳翔零戦1番より、各機! 右2時 やや上方! 敵直掩機!」と告げ、

「瑞鳳零戦隊、1小隊、2小隊! 我に続け! 残りは掩護継続!」

「瑞鳳零戦隊了解!」と 瑞鳳零戦隊隊長から返事がある。

各小隊毎に編隊を組み、

「いずもさんまで近い、この距離ならいらんだろう」と、まず増槽を切り離した。

クルクルと回転しながら落下する木製の増槽。

数回バンクして僚機へ“ついて来い”と合図すると、僚機も羽を振り“了解”と返事をしてきた。

無線を使いたい所であるが、むやみに使えば混信する。連携が取れるならハンドサインも併用する。

一気に加速する零戦21型。確かに既に米国の最新機に比べれば劣勢だ。だがまだこれで頑張らねばならない。非力さを補う技量と戦術が必要だ!

敵のF4Fも此方に気がついたようだ。増槽を落とすのが見える。

距離が詰まる。相手も12機、此方も12機。数なら同数。ならば腕の勝負だ!

やや下から突き上げる様に敵機に迫った!

迫る敵機!

「ここは我慢だ!」

ほぼ真正面からぶつかる形となった。

「まだまだ!」といい、ぐっと照準器を睨む。ゴマ粒のように見えていたF4Fが段々と形になり、はっきりと見える。ぐっとスロットに付属する7.7mm機銃の発射ボタンに指を掛けた。

「まだ、まだ!」と耐える。

チラッと視線を右横へ移すと2番機も構えている。

ぐんぐん迫るF4F。照準器一杯に相手機が映った瞬間、

「ここだ!」と叫び、牽制の7.7mm機銃を放つ!

真っ直ぐ相手機へ伸びる7.7mm機銃弾の航跡!

その瞬間、一気に右手に旋回し機銃を交わす2機のF4F。

此方も切り込み後方へつけようとする。

「うっ」と唸る、体重の数倍の加速度がかかる。右へ切り込みながら右前方を降下しながら逃げようとするF4Fを追う。不意にF4Fが二手に別れた。

「その手は食わん!」と唸り、

「2番 追え!」と手短に無線で叫んだ!

「りょうかーい!」と旋回の加速度に耐えながら2番機が答える!

2番機は器用に右にハーフロールをうつと、そのまま視界から消えた。

「数が同数なら、各個撃破だ!」といい、じりじりと旋回半径を詰める。

ここが勝負だ、根負けしたらアッという間に後ろへ付かれる。

「くっ!」といいながら、操縦桿を支える!

幾ら運動性のいい零戦でも、高荷重で急旋回を繰り返せば、舵にかかる重さは半端ではない。本当なら、両手で操縦桿を支えたい。しかし、スロットルに付く射撃レバーから手を離すわけにいかない。勝負は一瞬だ!

カタカタと機体が音を立て始めた。多分、主翼も少し歪んで外板が波打っているかもしれん!

「もう少し辛抱してくれ!」と愛機を宥めながら、右への急旋回を繰り返した。

一瞬、F4Fがふらついた!

「いまだ!」といい、20mm機銃の発射レバーを握った!

ガリガリと独特の音を立て、20mm機銃が撃ちだされた。目前を飛ぶF4Fの左主翼へ集中的に命中した20mm機銃弾。小さく部品をまき散らしながら、右へ逃げるF4F!

そして、遂にF4Fの左主翼が荷重に耐えられなくなり、ぽっきりと折れた!

急激に左へ横転し、そのまま螺旋上に急降下するF4F。

ゆっくりと右ロールをうち、背面になりながら落下する敵機を見た。

機体を正面に戻し、周囲を確認する。

空のあちこちに黒い筋が見える。全て海面へ向い落ちていた。

空域を2周した所で、僚機が集まりだした。

「点呼!」と叫ぶと、

「鳳翔2番」「3番」「4番います!」「5番です!」「6番異常なし」

どうやら全機無事だ!

続いて、瑞鳳隊も点呼を初めた。

こちらも6機無事だ。

「零戦隊各機 いずもエクセル04 対空脅威目標は全機撃墜された。高度2,000で待機せよ」

 

「泊地零戦隊了解」そして続けて、

「各機。中隊毎に集合せよ」と命じた。

即座に右に2番機、そしてその後方に3番機と集まりだした。

集合する僚機を見ながら、

「数が同数なら後れを取らん。しかしいくらF4Fといえども数で押されると厳しくなるな」と 鳳翔零戦隊隊長はつぶやいた。

 

瑞鳳の97艦攻9機は3機づつの3小隊に別れ、各々重巡、軽巡を目指し50mまで高度を落としていた。

上空で管制している いずもエクセル04からの情報により、ヲ級1番と3番はほぼ撃沈状態であるので、鳳翔隊の99艦爆6機はヲ級2番に止めを、そして我々はリ級とホ級が標的だ!

 

航空雷撃を確実に行うためには、出来るだけ雷撃位置を敵艦に近付けるほうが、命中率が向上する。また舷側に向かって撃つのは基本だ。しかし敵もそう馬鹿ではない。そんな雷撃機を迎撃する為、左右舷側に対空機銃を集中的に配備している。既にリ級やホ級は甚大な被害が出ているようで行き足を止めつつ、ゆっくりと航行していた。

瑞鳳97艦攻隊第1小隊小隊長で、編隊の取りまとめ役である艦攻隊隊長妖精は、目標のリ級を見定めた。

目標まで10kmを切った。

散発的に敵の駆逐艦や生き残った対空機銃が射撃を加えてくるが、此方の動きについてこれていない。

「瑞鳳攻撃隊、各隊攻撃態勢!」と無線で手短に伝える。

右後方を飛行する2番機、3番機が軽くバンクして答えた。

左を見ると第2、第3小隊も隊をそれぞれの目標へ向け、旋回を始めた!

やや対空砲火が正確になり、操縦士妖精が、

「隊長、砲火キビシイです。降ります!」

「おう! 日頃の訓練の成果、見せてやれ! こんな対空砲火!きりしまさんのCIWSに比べれば屁みたいなもんだ!」

すると後席の機銃員が、

「隊長、それは比べる次元が違いすぎますよ。きりしまさん1艦で、対空駆逐艦10隻分はありますよ!」

操縦士妖精はぐっと高度を下げた。もう10mもないかもしれん!

プロペラが海面を叩きそうだ!

「いかんな、少し砲火が正確になりだした」

リ級の右側舷へ向け一気に距離を詰めてきたが、1隻の駆逐艦がこちらの動きに気付いたのか、リ級の楯になろうと、右側舷前方へ出てきた。

「まずい、駆逐艦が出てきたか!」と思ったその時、頭上を何かがよぎった!

“ん?”と思い見ると、零戦3機だ!識別帯からうちの零戦隊だ!

「艦攻隊! 俺達が牽制する! その間に射点につけ!」と零戦隊から無線が入った。

「すまん!」と返し、

「操縦士、今のうちに一気に詰めろ!」

「はい、隊長!」

97艦攻はさらに低空を加速して行った。

やや前方を飛行する零戦隊。

「いいか! 艦攻隊が射線に着くまで、駆逐艦の砲火をひきつけるぞ!」

瑞鳳零戦第3小隊を預かる7番機が叫ぶ!

「第3小隊 我に続け!!」と言いながら、リ級の前に立ちふさがるイ級駆逐艦めがけて突進した!

低空まで降りた 瑞鳳零戦第3小隊は、艦攻隊の前に出た。

目前にはイ級駆逐艦が見える。そしてその背後には大破寸前で延焼しているリ級だ!

「お前がリ級の楯なら、こっちは艦攻隊の楯! とっておきの20mm食らえ!」とスロットルについた20mm機銃の発射レバーを握った!

ダッダッダッと独特の音を立てながら、20mm機銃弾が両翼から放たれる。2機の僚機も一斉に射撃を開始した。

応戦してくるイ級の対空機銃!どうやら主砲は間に合わないのか沈黙したままだ!

「よし、このままひきつけるぞ!」

イ級の船体めがけ20mmを撃ち尽くすと直ぐに、7.7mm機銃に切りかえ、再びスロットルについた発射ボタンを押した!

機首に装備された7.7mmが唸る!

「右にひねる!」といい、機体を右に旋回させた。追従する8番、9番機!

イ級の艦橋横を一気に飛び去る。それを追うイ級の対空機銃。

さっと艦攻部隊を見ると、今まさに投弾しようとしていた。

 

「進路そのまま! ヨーソロー」と艦攻隊隊長が言うと、前席の操縦士妖精は、

「はい! 隊長!」といい、進路を固定した。

投下用照準器には、イ級、そして炎上するリ級が映る。

この位置なら、どちらかに必ず当たる!

上空で零戦第3小隊が援護してくれている。今のうちだ!

隊長はぐっと照準器を睨み、

「よう-い!」と声を出し、そして

「てっ!」と投下索を引いた!

 

機体下部の91式魚雷が切り離されて、水しぶきを上げながら海面へ突入!

僚機も次々と魚雷を投下する。

魚雷を投下した97艦攻は一瞬機体が浮き上がったが、即座に操縦士妖精が抑え込んだ!ここで頭を上げれば対空砲火の餌食だ!

ぐっと低空を保ったまま、リ級の艦首方向へ飛び抜けた!

もう手が届くのではないかと思えるほど近い。リ級の甲板を見ると、あちらこちらで火の手が上がっている。倒れている兵員妖精達も見えた!

リ級の横を飛び抜けた瞬間、

「後続はどうした!」

「はい、ついてきてます!」と後席機銃員が叫んだが、

「あっ!」と声がする!

「3番被弾してます!」と後席員が叫ぶ!

振り返り確かめると、3番機から少し白煙が出ていた!

その瞬間、後方で3本の大きな水柱が立った!

「戦果は!」

すると後方機銃員は、

「はい、1線 イ級へ、残りリ級の中央へあたりました!全弾命中です!!!」

「よーし!」と言いながら無線で、

「瑞鳳3番! 大丈夫か!」

すると元気な声で、

「はい、隊長。問題ありません! 左主翼へ破片を食らいました!」

「いずもさんまでもつか?」

「はい、火災も起きていませんからいけます!」

「よし。そのまま全機、低空離脱する!」

そう言うと97艦攻部隊は低空を這うように、一気に空母群から離れて行った。

上空には既に99艦爆隊が集合を終え、いずものロクマルに誘導され帰路へ就いていた。

それを追うように 瑞鳳の97艦攻隊が後を追う。

 

 

いずもはじっと戦術モニターを見ながら、99艦爆、97艦攻部隊が空母群から離れて行く状況を確認していた。

「攻撃士官,戦果確認急いで!」

「はい、副司令!」と攻撃担当士官から返事が来た。

上空で待機するMQ-9リーパーからの情報を精査し、戦果判定を行う。

「報告します!ヲ級空母3隻撃沈、リ級1隻、ホ級2隻並び、イ級1隻撃破です!

残存艦艇、イ級5隻です!」

いずもはリーパーからの映像を注意深く観察した。

残存したイ級は各艦停船し、ヲ級を含めた損傷艦の生存者捜索、救助を開始した。

「まだ救いようはあるようね」と いずもは言うと、艦隊コミュニケーションシステムを使い泊地司令部、鳳翔、瑞鳳を呼び出した。

分割表示された画面に泊地司令部で待機する泊地提督、自衛隊司令、鳳翔に 瑞鳳が映し出された。

いずもは一礼すると、

「報告します。空母機動艦隊に対する攻撃を行い、ヲ級3隻撃沈、リ級、ホ級2隻、イ級1隻を撃破いたしました」

すると泊地提督が、

「凄いですね、いずもさん!先程の こんごうさん達の戦闘も見せていただきましたが、圧勝ですな」

続いて自衛隊司令が、

「残存したイ級5隻はどうする?」

いずもは、

「はい。負傷者を救助しておりますので、暫く攻撃は差し控えようかと思います。救助後再度パラオへ侵攻するようなら、仕方ありません再攻撃いたします」

「撤退するなら、見逃すか?」

「できれば」と、俯きながら答える いずも。

画面の内部で相談する泊地提督と自衛隊司令。

「了解した。撤退を確認するまで、ホークアイの監視を付けてくれ」

「はっ、ありがとうございます!」

鳳翔が、

「追加攻撃は“なし”ですか?」

「はい、既に空母機動艦隊としての能力を消失したと考えます。ここで艦載機を収容して周回航行し、明日夜明け後の打撃艦隊戦へ備えたいと思います」と いずもが説明した。

「解りました。私と 瑞鳳ちゃん達も間もなく目視圏内に入ります」と鳳翔が話を締め括った。

既に 鳳翔、瑞鳳、そして護衛の 秋月、きりしまの4隻は いずもの後方30kmまで迫っていた。

由良達はパラオへ侵攻中の敵打撃艦隊を夜間迎撃する為に、高速で北へ向っていた。日没前に こんごう達も合流し、夜戦を仕掛ける予定だ。

 

「鳳翔さん、瑞鳳さん。皆さんの艦載機を直接其方へ誘導します。収容お願いできますか?」

「はい、いずもさん」と 鳳翔が答えると、

「瑞鳳の航空隊も頑張ったみたいですから、晩御飯はご馳走しないと!」と嬉しそうに答える 瑞鳳。

「瑞鳳ちゃん、まだ戦闘中ですよ」と 鳳翔が注意したが、

「ご馳走っていっても塩おにぎりと卵焼きですよ」と笑いながら答えた。

いずもは、

「瑞鳳さんの卵焼きはホテル並みですから。美味しいそうですね」

すると 瑞鳳は、

「いずもさんも、今度たべりゅ?」と遠慮しながら聞いた。先程の“怒らせてはいけない二人”だからかもしれない。

「泊地に戻ったら、ご馳走してくださいね」

「やった!瑞鳳頑張りゅ!」とガッツポーズをしてみせたが、頑張るのは戦闘ではないのか?と いずもCICの全員が思った。

 

いずもは話題を変え、

「きりしま!」と手短に呼んだ。

画面が切り替わり、きりしまが映った。

「はい、司令!」

「鳳翔、瑞鳳艦載機を誘導します。タカン、照射しなさい。ロクマルで受信し誘導します」

「はい、副司令。航空誘導管制開始します」

きりしまは、自身のCICへ帰還する 鳳翔、瑞鳳隊を誘導する為に航法誘導電波を出すように指示をした。

これをロクマルと 鳳翔、瑞鳳隊が装備したVOR受信機で受信すれば、間違いなく母艦へ帰還できる。

 

各母艦へ帰還する攻撃隊をモニターで見ながら、その東側を単縦陣で進む艦隊。

由良以下、睦月、皐月、陽炎、長波である。およそ18ノットで北へ進む。そして東南側から急速に 由良達へ接近する2隻の艦艇。

こんごうと ひえいだ。この距離なら2時間以内、日没前に合流できる。

いずもは指揮官席に掛け直し、戦術モニターをぐっと睨み、思考を巡らせた。

「ル級2隻にいつ航空攻撃を仕掛けるかがポイントよね」といい、

「パラオには絶対行かせない。あそこは私と彼の大切な場所よ」そう呟き、画面に映る敵打撃艦隊を睨んだ。

 

 

 

トラック泊地 戦艦 三笠 士官会議室

 

「すごい。たった一撃でヲ級3隻を撃沈、随伴巡洋艦も全滅状態。一方的な戦いだ!」

宇垣参謀長は唸った。

 

三笠はテーブルの上にある 金剛がいれた紅茶を飲みながら、戦局を整理していた。

士官室にある大型ディスプレイ画面に、こんごう達の前衛艦隊迎撃戦から、いずもの空母機動艦隊戦までを時系列で表示していた。

「流石は、自衛隊艦隊だな。前衛艦隊、空母機動艦隊をここまで叩くとは」と山本も呆れ気味だ。

「長門、もし連合艦隊ならどうする?」と 三笠が聞いて来た。

長門は暫し考え、

「もし、同程度の艦隊がこのトラックを襲撃したとすれば、まず最初のB-17の空襲で、泊地内の3カ所の飛行場が破壊されていたと思います。完全に奇襲を受けたとするならば、それで 赤城達の航空隊は身動きが取れません。次にヲ級の艦載機ですが、これは何とか 摩耶達が防ぎきるとおもいますが、もしB-17の襲撃時に機雷を敷設されると厄介です」

長門は続けて、

「今回のヲ級空母群ですが、赤城、加賀、蒼龍、飛龍がいれば、対応できたと思います。ただ問題なのは、あの前衛艦隊です。最新の電探、こちらの動きがばれているのではアウトレンジ攻撃も役に立たないでしょう」

 

山本が、

「かなりの被害が出る事は必至だな。何とか押しとどめる事ができる程度か?」

すると宇垣が、

「我々は攻める事は得意でも、守る事は苦手ですから、こうは上手くできんでしょう」

 

すると 三笠は、

「まあ、この結果は偶然そうなった訳ではなく、自衛隊司令がこの戦果になる様に仕掛けたという事じゃ」

「仕掛けた?」と宇垣が聞くと、

三笠は手に持ったカップをソーサーへ戻し、

「カ級達が群狼作戦を仕掛けてきた時から、それを叩き潰し、マーシャル群島の本隊をおびき寄せるのが奴の作戦じゃったということ。まあ餌に食いついたのが、ラバウルとマーシャルの新人部隊というのが誤算だったようだが」

宇垣は驚きながら、

「最初から、こうなるように仕組んだという訳ですか?」

「そう言うことだよ、宇垣。あの司令は曲者だよ」と笑いながら山本が答えた。

 

じっと戦況を見つめる 大和。

「どうした、大和」と宇垣参謀長が声を掛けると、

「長官、この自衛隊の持つ情報収集能力を早急に我が連合艦隊へ導入できないのですか?」

すると山本が、

「導入したいのはやまやまなんだが、なにせ80年近い技術格差だ。いや正確に言えば意識格差というべきかな」

「意識格差?」

山本は、

「ああ、そうだ意識格差というべきものだ。確かに自衛隊には優秀な電探、偵察機、そして戦闘艦などがある。これらの物が集める情報は莫大な量だ。その中から作戦に必要な情報を分類整理、検討し、実行する。この能力が各段に我々とは違う。自衛隊司令もそうだが、前線指揮を執る いずも君、重巡艦隊を指揮する こんごう君も指揮官としては非常に優秀だ。艦娘自体の質が大きく違うという事だ」

「艦娘自体の質ですか?長官」と 大和が聞いた。

「大和、現在の連合艦隊の艦娘は、どちらかと言えば個艦戦闘が得意な子が多い。しかし自衛隊は違う。情報を集め整理し、分析し、周知し、点ではなく面として戦う。そして各戦隊指揮官がそれを十分理解している。ここが80年という意識格差だと思う」

大和はぐっと考え、

「点ではなく面で戦う」

「そういう事だ、大和。そういう観点で今までの戦局を見れば、見えてくるものもあろう」と 三笠が続けて、

「我々は装備だけでなく、この意識改革が最優先課題じゃ。個ではなく面でどう戦うのか、そなたも総旗艦なら思考してみることじゃな」

宇垣が、

「各艦が有機的に機能して、単艦の能力が低くても面制圧で抑え込むという訳ですか」

「まあ、そんな所かな」と山本が答え、

「奇襲と力押しでは、今後の戦局は危ないという事だ」と続けた。

三笠が、

「大和の主砲がどうのこうの、零戦の数がどうこうのと言い争っている内は、その様な戦いは出来ん。二人ともそこは頼むぞ」といい山本と宇垣を見た。

「はは、これは痛い所を突かれましたな」と宇垣が頭を撫でた。

 

 

末席に座る 大淀が、

「長官、そろそろお時間ですが」と話を打ち消した。

皆で時計を見ると、午後4時前だ。

「おお、そんな時間か」と 三笠が慌て、

「では、此方はこちらの戦いを始めるとするか?」といい席を立った。

山本以下 三笠達は、全員で隣に停泊する戦艦 大和の士官会議室へ移動した。

金剛、青葉はそのまま 三笠艦内に残り情報収集を行っている。

これから 大和艦内では「マーシャル群島海域開放作戦」の打ち合わせ会議が行われる。

山本達が 大和会議室に入ると、既に各戦隊の指揮官や主要参謀が揃っていた。

艦娘は空母機動艦隊総括の 赤城が追加で参加する。

山本と 三笠が席へ着くと皆で一礼し、

「まあ、掛けてくれ」と山本がいい皆一斉に着席した。

重苦しい雰囲気が室内に漂う。山本や宇垣だけでなく、黒島作戦参謀や連合艦隊司令部の主要参謀、航空戦隊司令南雲、参謀の草鹿、航空参謀源田、二航戦の山口などそうそうたるメンバーが並ぶ。

三笠はぐっと意識を高め各指揮官を見渡したが、末席に近い場所に空席を見つけた。

本来なら 金剛以下の第三戦隊指揮官が座る場所だ。

“やはり、あの場所にはあの漢が一番似合う!”

 

山本が、

「黒島君、始めてくれ」と言うと、黒島作戦参謀は起立し、

「では、軍令部より下命されましたマーシャル群島海域開放作戦(概案)についてご説明します!」といい、手元の資料を開き説明を始めた。

各参謀も事前に配布された資料を開く。

室内に黒島参謀の声と資料を捲る音だけが響いた。

まず黒島は現状の報告、敵深海棲艦の戦力を報告したあと、続けて、

「本作戦の主たる目的は、敵深海棲艦の主力艦隊並びに空母機動艦隊を諸島群より引き剥がし、我が空母機動艦隊を持って殲滅し、海域の安全を確保する事が第一目標です」

と告げた。

すると席中央より手が挙がった。

南雲航空戦隊司令だ!

「長官、マジュロの奪還は如何なさるおつもりですか?」と切り込んで来た。

すると山本は、

「マジュロには現在1,000名近い軍属、民間人、そして少数の守備隊員が残っている。これらを事実上人質に取られている状況では、大軍で押しかけるわけにもいかんだろう」といい、黒島作戦参謀が、

「南雲司令、マジュロの件につきましては、本作戦とは切り離し、別動隊を編成し対応いたしたいと考えております」

「別働隊だと!」と黒島を睨んだ南雲。

「はい、南雲司令。我々は侵攻作戦や撤退作戦などの軍人を相手にした作戦は得意ですが、民間人を救出するという繊細な作戦には経験がありません。未知の部分が多すぎます。よって今回はマーシャル群島海域開放作戦と切離し、個別に検討していくべきだと本職は考えます」

「では、マジュロを見捨てるのか!」と南雲は凄んだが、

「落ち着かんか!南雲」と 三笠が制した。

「はっ、申し訳ございません」と一旦引く南雲。

三笠は、

「黒島は、“見捨てる”とは一言も言っておらん。別動隊を持って対応すると言っておる」

「三笠様、その別働隊とは?」と参謀の一人が聞いてきたが、

それには、

「秘密じゃ」とそっけなく答えた。

「秘密ですか!」と南雲が。

 

その答えは黒島作戦参謀から、

「はい、南雲司令。正直に言えば我々連合艦隊司令部とは切り離された別部隊を編成し、独自に行動させます。その別動隊をもってマジュロの人質解放を確認した後、我が連合艦隊の“マーシャル群島海域開放作戦”を実施します。もし人質解放作戦が失敗した場合は、一旦マーシャル群島海域開放作戦を中止し、再び立案をやり直します」

「それでは、此方はその別動隊の結果が出るまで動けないということか!」と南雲が聞いた。

「その通りだ、南雲」と宇垣が答えた。

「参謀長!」と南雲が言うと、宇垣が、

「いいか、人質の安全確保なく敵部隊に攻撃する事は出来ない。これは前提条件だ!」

すると席の後方にいた若手参謀が、

「それでは我々は身動きができません!人質とて“日本国民!”座して死を選ぶより、戦火をくぐり抜けるほうが!」と言いかけたが、

「馬鹿者!!!」と 三笠がその声を遮った!

「今の言葉!人質を楯にして深海棲艦へ攻め込めと解釈できるぞ!」とその参謀を睨んだ。

「いっ、いえ決して」と慌てて若手参謀は言葉を濁した。

「いいか、人質救出作戦は非常に繊細な作戦だ。今までの“奇襲と力押し”では間違いなく失敗し多数の被害がでる。奴らは我々が救助、奪還に来ると思っている。必ず罠を仕掛けている。救助部隊はこの罠をくぐり抜け、島にたどり着き、民間人を保護する必要がある。それだけではなく、此方の援軍がくるまでに橋頭堡を築き死守する必要がある。その様な部隊を連合艦隊は持たない。なら出来る所へ任せる」

と山本が答えると南雲が、

「陸軍の師団は使わないのですか?」

「陸軍師団?」と山本が問い直した。

「はい、軍令部より台湾に待機中の陸軍1個師団をマーシャル群島海域開放作戦に参加させたいので、上陸作戦の支援をと打診されております」

「その話は長官が留守の間に俺の所にも来たが、一喝したよ」と宇垣が答え、

「海域の安全も確保できんうちに、鈍亀ぞろぞろ砂浜を歩いてみろ。海上から重巡の砲弾のいい的だぞ。おまけにマジュロはラグーン、礁湖だぞ。身を隠す所もない。そんな所に1個師団も入れてみろ、それこそ鴨撃ち状態だ!」

山本が、

「その話は聞いたが、連合艦隊司令部としては賛同できないな。陸の展開はあくまで“海域の安全確保の後”だ」

「しかし、長官!」と南雲が食い下がるが、

「南雲君。君の言いたい事は分かるが、ここは堪えてくれ」と山本が制した。

南雲の隣に座る、恰幅のいい強面の男が手を挙げた。

「よろしいですか、長官!」

「なんだい、山口君」

「先程、別動隊については隠密行動とすると言いましたが、我々幹部にも情報が出せないとは解せませんが?」

「済まない、救出作戦は繊細な作戦だ。少しでも情報漏洩があれば問題になる」

後方でざわめく声が聞こえた。

「情報漏洩ですか」と山口が聞くと、その返事は宇垣から出た。

「これだよ」といい1冊の新聞をテーブルに投げ出す。

手に取る山口。

そこには、

“連合艦隊司令部 マーシャル群島海域開放作戦決行か!”

“マジュロの人質救出作戦はなるか!”

“敵深海棲艦機動部隊を打ち砕く 我が連合艦隊の活躍なるか!”などと勇ましい文面が並んでいた。

 

「この新聞は、今朝横須賀鎮守府から二式大艇で届いた。二日ほど前の新聞だ!内容はいま皆が見ている作戦概要書とほぼ同じだ!」

「どういう事です!」と山口が聞いたが、

「新聞屋の記事にしては詳しすぎる。誰かがこの概要書の中身を漏らしたと考えていい」

新聞を手に取る南雲が、

「長官、我々も今日初めてこの概要書を手にしましたが、どういう事ですか!」

すると山本が、

「この作戦概要書は1週間前に空輸し、軍令部作戦1課へ提出している。それ以外は外部へ出していない」

宇垣が、

「多分、軍令部か、噂を聞きつけた参謀本部経由で情報が漏れた。いいか既に我々が行動を起こす事は、これで深海棲艦側へ筒抜けとなった。奇襲はあり得ない」

そう言うと、

「人質救出作戦は細心の注意がいる。こんな事では情報開示はできん!」

山本が、

「いいか、今後作戦行動に関する情報の扱いは細心の注意を払ってくれ。1,000名の民間人の命に関わる!」

頷く参謀達。

宇垣は続けて、

「噂を聞きつけた新聞記者が、このトラックへの渡航申請を相次いでしていると横須賀から連絡があった。今後、取材等があるかもしれんが、言動には十分気をつけてくれ」と話を括った。

 

その後会議は30分ほどで終了し、各参謀が退室しようとした時、山本が南雲を呼び止めた。

三笠は 大和達を連れ再び戦艦 三笠へ戻り、大和会議室には山本と南雲だけが残る。

山本の前にテーブルを挟んで座る南雲。

 

「長官、何でしょうか?」と南雲が切り出した。

「いや、さっきの件だが、軍令部が君の所へごり押ししてきているのは承知している。俺や宇垣ではかなわん、まして 三笠は論外だろう。君なら話になるとね」

南雲は少し悩み、

「はあ、正直困っております」

「義理堅い君の事だ。今の職に推してくれた総長あたりの名前を出されれば、嫌ともいえんしな」

「はい、中々つらい所ではあります」と素直に話す南雲。

山本は南雲の目をじっと見て、

「南雲君、辛い立場は解る。もし俺が君の立場なら同じようにしただろう。しかし今回は民間人の生命がかかっている。いよいよ慎重に事を運ぶ必要がある、そこは理解してくれ。たとえ軍令部が統帥権を持ち出しても、ここは堪えてくれ」

すると南雲は、

「しかし、統帥権を持ち出されれば、我々現場は拒否できません」

「その時は、三笠に伝家の宝刀を抜いてもらう」

「でっ、ですがそうなれば長官が 三笠様へ頭を下げる事になります。指揮権が逆転しかねません!」

山本は、

「それでも、1,000名の民間人の命と比べれば安いものだ」

南雲はぐっと山本を見て、

「長官!そこまで」

「ああ、俺はパラオでだいぶ勉強させてもらったよ。俺達軍人が守るべきものは何か?と」山本はそう言いながら腕を組んだ。そして、

「君も一度ゆっくりと考えてみる事だ。俺達帝国海軍軍人の守るべきものとは何かという事を」そう静かに語った。

山本はパラオを出立する日見たあの映像を脳裏に思い浮かべた。

沈黙が二人の間を流れた。傾く日差しが小さな窓から室内を照らしていた。

 

 

 

そんなトラックから遥か3,500㎞離れた、アメリカ合衆国フィリピン自治領スービック湾に面するアジア最大の米海軍基地、スービック海軍基地。

ここの主であるその人物。海軍軍人らしく引き締まった体躯、精悍な顔立ち。しかし非常に表情の柔らかい印象を受けるその人物は、自身の執務机に座り、一冊の“週刊青葉”と書かれた日本語新聞とその英文訳を読んでいた。

 

コーヒーを口へ運びながら、新聞の英訳文を読み、掲載写真を見ている。

時折、口元が緩むのが分かる。

コンコンとドアを叩く音がした。

「入れ!」と返事をすると、一人の女性が入ってきた。

「司令長官、お客様がお見えです」

司令長官と呼ばれた男性は、

「客?」

茶色い髪を独特の髪飾りでポニーテールにし、白い海軍軍服をあしらった服装を着た女性は、

「はい、日本海軍ルソン中部警備所秘書艦のミス 妙高がお見えです」

「おっ、妙高さんか?」と嬉しそうに話す男性。

「長官、そんなに嬉しそうにしてると、奥様に言付けますよ」と女性に言われ、

「サラ、我が家は結婚以来、夫婦喧嘩をした事がない位安泰なんだ。爆雷を投げ込むような事は言わんでくれ!」

「はい、はい」と呆れながら一旦外へ出て、妙高をつれ再び入室してきた。

男性は席を立ち、妙高の前まで来ると右手を出し、

「ご無沙汰しているね、妙高さん。中部警備所提督は元気かい?」

「はい。こちらこそご無沙汰しております、チェスター・ニミッツ米海軍司令長官」と握手をしながら挨拶した。

そして横に立つ女性に、

「サラトガさんもお元気そうで」

「うん、妙高。コーヒーでいい?」とポットを持ち上げ、気さくに話した。

このスービック基地から少し離れたマニラ湾の一角に、日本海軍ルソン中部警備所兼補給処がある。近隣の公海の安全確保の為フィリピン自治政府より借用したのだ。

彼女達はお互いの連絡業務の為、頻繁に行き来していたのですでに顔なじみだ。

ミニッツは 妙高にソファーを薦め、二人で対峙するように座り、サラトガがコーヒーカップを差し出し、ニミッツの横へ掛けた。

「今日はいきなりどうしたのだい?」とニミッツが切り出すと、

「はい、お届け物をお持ちしました」

「届けもの?」

「はい」といい、持参した鞄から1通の手紙を取り出し、ニミッツへ渡した。

手紙の表には、

「米海軍太平洋艦隊司令長官チェスター・ニミッツ殿」と書かれていた。

裏を見るが差出人の名前がない。

「これは?」とニミッツが聞くと、

「本日、パラオ泊地の連絡将校がトラックからという事で持参して参りました」

「トラックから?」

「はい、ニミッツ司令長官宛てに、連合艦隊司令長官付筆頭秘書艦 三笠大将からの私信です」

ニミッツは慌てて、

「なに!ミス 三笠からか!」と封筒を再び見た!

「サラ、ペーパーナイフを!」といい、サラトガを急かした。

その姿に呆れながら、サラトガは自分の執務机からナイフを取りニミッツへ渡した。

慎重に封を切るニミッツ。

その姿を見ながらコーヒーを楽しむ 妙高。

中には真っ白の便箋に三笠の直筆の英文で、用件が書かれていた。

 

この手紙は実は 三笠が直接書いたものではない。正確に言えば、トラックで 三笠が書いた英文の手紙を戦艦 三笠に設置されたスキャナーで読み取り、それを いずもへデジタル送信し、いずも艦内で印刷、泊地司令部付きの連絡将校が2式大艇でルソンへ運んで来たものだ。

最初、嬉しそうにその文章を読んでいたニミッツであるが、次第に表情が険しくなった。

手紙を読み終えたニミッツは、

「これは本当か?」と 妙高へ聞いた。

「どういう意味でしょうか?」と 妙高が返し、続けて、

「私はただトラックから、“手紙を本日中にニミッツ司令長官へ直接渡すように”と指示されただけですので、内容までは」

サラトガはニミッツのただならぬ気配に、

「如何なされました?」

するとニミッツは、

「ミス 三笠は、48時間以内に深海棲艦ラバウル航空基地が空爆されると言ってきている」

「はあ!?空爆!」と慌てるサラトガ、妙高も飲みかけたコーヒーを吹き出しそうになった!

「妙高!どういう事!?」とサラトガが迫ると

「私だって聞いてませんよ、軍事作戦があるなんて!」

ニミッツは続けて、

「それだけじゃない」といい、手紙に付属した1枚の写真をテーブルに置いた。

「ラバウルの西、30kmほど行った森林地帯に100名近い民間人らしき人影を確認したそうだ。保護を要請してきている」

写真をとる 妙高。

「ミス 妙高、本当に何も聞いていないのだね」とニミッツが言うと、

「はい、ルソンの警備所には一切連絡がありません」

ニミッツは腕を組んでじっと 三笠の手紙を睨んだが、

「サラ、マッカーサーは今どこだ?」

チラッと 妙高をみたが、妙高は知らん顔で、

「聞いてませんよ」と言った。

「クラークです。増設されたB-17部隊の視察のはずですが」

「直ぐに捕まえろ!」

「会いますかね」とサラトガが呆れながら聞いたが、

「断ってきたら、クリスマスパーティーの時のポーカーのつけを払えと俺が言っていると伝えろ!」

「Yes、sir」と素早く返事をしたサラトガは、自分の執務机の上の電話を取り交換手を呼び出した。

 

それを見た 妙高は、

「では、私はこれで」といい席を立ちかけたが、

「ミス 妙高、少し聞いてもいいかい?」

「はい、なんでしょう?」

ニミッツは小さな声で、

「ミス 鈴谷は?」

すると 妙高は表情を厳しくして、

「ご存知でしたか」

「ああ、一応。申し訳ないが、3ヶ所ある日本海軍の警備所は監視させてもらっている。重巡 鈴谷が見えない事は確認しているが、あそこの警備所は異常だ。前任の堀中将の頃は俺も何回か足を運んだが、今の司令官は全く外部との連絡を絶っているそうじゃないか」

妙高は声を潜め、

「まあ、ばれているなら仕方ありません。現在行方不明です。船体損傷が激しいままトラック方面へ向ったとの目撃情報もありますが、足取りが消えました」

「まさか撃沈されたわけではあるまい」

「それを含め、捜索していますが、少なくともルソン近海にはいないと思われます」

ニミッツは、

「こちらでも見つけ次第、君へ連絡するように手配しておくよ」

「お心遣いありがとうございます」と 妙高は一礼した。

 

「ところでミス 妙高。そのだ、新造された戦艦 三笠はいまトラックかな」と遠慮がちに聞いてきた。

妙高は、キタ~!と思いながら、

「ニミッツ長官。米軍とは友好的関係ですが、戦闘艦の配置状況は極秘ですよ」

「まあ、そこをだな」といい、

「仕方ありませんね、今度うちの子達にクッキー差し入れてくださいね」と言うと、

「トラックです。水雷戦隊の総合指揮艦として前線へでます!」

ニミッツは驚きながら、

「何だと、第一線へでるのか!」

「はい、長官。三笠様がご自分の船を持って、トラック泊地でじっとしているとおもいますか?今頃第二水雷戦隊あたりはしごかれて泣いてますよ」

するとニミッツは嬉しそうに、

「あの戦艦 三笠の勇姿をもう一度見られるとは」と感慨深げに語り、

「ぜひ、ルソンへおいでの際はお立ち寄りくださいと伝えてくれ」と付け加えた。

 

ニミッツは壁に掛けた海図を見ながら、

「トラックか、一度行って見たいもんだ」と呟いた。

 

 

新しい時代への歯車は、周りを巻き込みながら、少しづつ回り始めていた。

静かに、そして確実に。

その先にある未来とは、まだ誰も見た事のない世界である。

 

 




こんにちは スカルルーキーです
分岐点 こんごうの物語を読んで頂き、ありがとうございます。

さて、93式対艦ミサイルでヨークタウンが撃沈できるのか?
「みらい」でトマホークでワスプを撃沈するシーンがあるのですけど、どうなんでしょうね?

(すみません、最初ハープーンとトマホークを勘違いしておりました、ワスプはトマホークで撃沈されたですよね・・)


さて、次回は「砲雷撃よう~い」です、

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