分岐点 こんごうの物語   作:スカルルーキー

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南の楽園へ迫る、空の脅威

それを迎え撃つ、海神の巫女達




31 パラオ防空戦4 「敵機来襲!!」

パラオ泊地へ向け、編隊を組み進空する深海棲艦艦載機群

総数82機

30機のF4Fワイルドキャット

40機のSBDドーントレス

そしてやや遅れて、

TBDデバステーターが12機

 

F4Fはやや高い位置を取り、周囲を警戒しながら、飛行していた。

中央は、ドーントレス艦爆機、4機ずつの編隊を組み、左右に展開し飛行している。

その後方、やや下がった所を飛行するデバステーター雷撃機、此方も4機編隊を組みながら、飛行を続けていた。

戦闘機隊の隊長は、周囲を警戒する為、キョロキョロと回りを見まわしている。

高度は3500m、前後を維持 下方には、雲が所々に散らばっていて、地上からの視界を遮っていた。

「奇襲するには、うってつけの天気だ」

そう思いながら、時折、機体をロールさせ、翼下を飛行する編隊を確認した。

事前に収集した情報によると、パラオの制空戦闘機は 空母鳳翔の零戦(ジーク)が8機、瑞鳳のジークが21機だ、数では同数だ。

ただ、気になる情報がある、新型の空母2隻が配備されたというものだ。

「中身が分からんというのは、辛い」と思いながら、

「まあ、ラバウルのB-17が滑走路を破壊し、湾内に艦艇群を閉じ込めていれば問題ない」と呟いたが、その肝心のB-17部隊と連絡が取れず、発艦が予定より遅れた。

「まあ,連絡がつかんのはいつもの事だ、気にしても仕方ない」

「どうせ、また獲物の取り合いとか、上で揉めたか?」と考えながら、パラオの北300kmまで接近した。

 

前方、眼下には40機のドーントレス、そしてその左後方には、デバステーターが12機

「まあまあの機数だ、これで艦艇群を仕留めれば、あとは第2次攻撃隊で仕上げだ」

そう思いながら、機体を揺らした。

 

その遥か上空、1万5千mの上空で、警戒監視中のE-2J“エクセル06”

レーダー員はじっとその状態をモニターに見ていた。

前衛艦隊を監視している同僚の機体の後方で、泊地防空体制強化の為待機していたエクセル06は、自機の管制エリアに敵戦闘集団が侵入して来た事で警戒レベルを上げていた。

既に、艦艇群を監視しているエクセル04からの情報で、此方へ向う集団の内容は把握していた。

レーダー員は、

「機長、そろそろぶつけます!」

「了解した、機体進路はこのままでいいな!」

「はい、お願いします」といい、デジタル通信で いずもCICを呼び、艦隊要撃管制士官へ、

「エクセル06、要撃開始します!」

「了解した、此方からスカル11フライトを向かわせる!」

「エクセル06!」

 

レーダー員は急速に空域に接近する6機のF-35Jを確認した。

いずもからのF-35Jだ!

「よし、ぶつけるぞ」といい、レーダーモニターにタッチペンを当てながら、6機のF-35Jに要撃目標振り分け作業を開始した。

“ぶつける” 物騒な言葉であるが、要撃管制とは正に“ぶつける”である。

通常の航空管制はぶつけないための管制で、空中で航空機が接触しないように細心の注意を払って行う。

こんな広い空でぶつかる事など有りあえるのか?

その答えは“ある”である。飛行機は飛べば必ず着陸する必要がある。その為に出発地点と到着地点、そしてその間の空路は民間、軍用機でひしめき合っている。

空は、思ったほど広くない。雫石衝突事故がそうだ。

 

要撃管制の場合、空中を進む目標に対して最短コースで誘導する場合もあれば、予め進路を予想してそれ以上侵入させないようにするときもある。その都度状況を判断し、誘導する必要がある。

今回は、完全な迎撃管制だ!

事前に いずもCICから、

“敵戦闘機集団に対し、F-35Jで攻撃を行い、爆撃隊から引き離す”という指示をデジタル通信で受けていた。

タッチペンを使いながら、6機の要撃機に攻撃対象目標を設定する。

F-35JのAIM-120C(アムラーム)はウエポンベイに4発だ。翼下にはAIM-9X(サイドワインダー)が2発。

「初回のアムラームで24機は落としたいな」と思いながら、目標を選別した。

戦闘機群は高度3,500から4,000m、雲間を通り進空している。

大きく分けて10機ずつの3つの集団に別れていた。

 

いずもを発艦する際に受けたブリーフィングでは、パラオ北300kmのこの空域で 第1次迎撃戦を行う、まず敵戦闘機隊をF-35Jで迎撃し、パラオ200km圏域で鳳翔、瑞鳳の零戦隊が第2次迎撃を行う、そして、最終防衛線は 泊地沖合のパラオ艦隊ときりしま達だ

「きりしまさんまで、残るかな?」と思いつつ、レーダー画面を見る。

そこには、82機の深海棲艦の艦載機、

いずもより、戦闘空域へ急即に接近するF-35J、6機

そして 10分程まえに待機エリアに鳳翔隊6機、瑞鳳隊12機の零戦隊が、到着、

待機していた。

 

「振り分け処理完了」といいながら、いずもCICへ

「いずもCIC、エクセル06 要撃準備完了」と送信すると、

「要撃開始、許可」とデジタル通信で、返答がきた。

「さて、始めるか」そういうと、

F-35Jへ、デジタル文字通信を使い

「エネミーブラボー群を攻撃せよ」と送信

「SCULL 11, wilco.」と音声で返答があった

レーダー員は、

「さて 上手く引き剥がせるかが問題だな」といい、標的となる戦闘機隊のエコーを見た。

 

 

パラオ北部上空200km地点

いずもを発艦した対空仕様のF-35J、6機は攻撃開始地点へ向け進空していた。

レーダー画面には、鳳翔、瑞鳳の零戦隊18機が真下の空域を周回飛行して待機しているのが分かる、此方は後50kmほど進空して迎撃する。

いずもを発艦する前のブリーフィングは、コミュニケーションシステムを使い、鳳翔、瑞鳳の航空隊も交え、いずも副司令から説明があった。

いずもは、F-35J、6機を指揮する第6飛行隊隊長へ

「第六飛行隊の目標は 敵戦闘機集団に絞ります、艦爆、艦攻部隊には目もくれなくてよろしい」と指示した

飛行隊長は、

「いずも副司令、その理由は?」と問いただすと、

「今回は、泊地航空隊も戦闘に参加します」

そう言うと、いずもは進空してくる深海棲艦の艦載機群のレーダー解析映像を前方のモニターに表示した

「今回の敵深海棲艦の艦載機で一番の問題になるのが、この戦闘機集団です、リーパーからの情報ではF4Fのコピー機ですが、機数が30機と多い、泊地航空隊だけでは、防ぎ切れないでしょう」いずもは、画面を指差し、

「まず、戦闘空域は、ここパラオの北300kmの海上、F-35Jでこの戦闘機集団に対し攻撃を行います、空対空ミサイルで削り落としなさい」

「では、艦爆、艦攻部隊については?」

「隊長、それは俺たちの獲物だな」と鳳翔零戦隊の隊長が切り出した。

「そうね、艦爆、艦攻部隊は鳳翔、瑞鳳さんの部隊へお任せします」

すると、第6飛行隊の隊長は

「副司令。あと6機F-35を出せば全機撃破も可能ですが?」

「そうしたい所だけど、アムラームの残弾の件もあるし、今後の空母群への攻撃も控えているわ。無理はできないのよ。それにね」そう言うと、モニターに映る 鳳翔隊の隊長は、

「隊長、まあ俺達にも少しは仕事させてくれ。それに新しい編成にも慣れておきたい」

「まあ、それなら」といい隊長は理解を示した。

 

話は数日前に遡る

鳳翔零戦隊はいずもの第6飛行隊を相手に模擬空中戦を挑む事になった。

鳳翔隊は3機の零戦、1番機は隊長が務め、後の2機も手練れを連れて来た。

対する第6飛行隊は F-35Jではなく、あかしの作ったF4Fもどき2機を いずものドローン管制室から無線操縦する。

3対2 おまけに相手は元一航戦の隊長、こちらは運動性を多少改善しているとはいえ、F4Fのコピー機 普段なら勝ち目などない。

 

零戦とF4Fはほぼ同高度の2000mで、ヘッドオン状態、即ち真正面からぶつかり合う状態で模擬戦が開始された。

すれ違った両編隊はお互い後を取ろうと右へ急旋回し、格闘戦状態へと突入した。

「鋭いな」と言いながら、鳳翔隊の隊長は僚機を従え、急旋回を繰り返し、F4Fもどきの後へ付きかけた、そっと光学照準器にF4Fもどきを捉える。

スロットルに付属した、20mm機銃の発射レバーを握ろうとした瞬間、目の前の2機のF4Fは、左右に別れ飛び去ろうとした。

1機は右にロールをうち、急上昇、もう1機は左へロールし背面のまま、急降下した。

 

「ちぃ!」と思いながら、右に上昇した機体を追う、上昇力ならF4Fには負けない

少し機体をバンクさせて、僚機に“ついて来い”と合図する!

3機の零戦は緩やかに上昇するF4Fを追いかけ始めた。

右に急旋回上昇したF4Fはその後、機体を右にロールさせながら大きならせん状の横転、バレルロールをして、零戦隊の射線を躱し続けていた。

じりじりと距離を詰める零戦隊、“あと少しで追いつく”隊長がそう思った瞬間

「鳳翔3番機、撃墜!」と無線が入る!

“えっ”と思い後を振り向くと、なんと先程急降下して、視界から消えたもう1機のF4Fが、こちらの死角から接近し真後ろについていた。

「くそ! 前の機体は囮か!」

そう思った瞬間、前方の機体は、バレルロールの頂点から機首を下げ一気に急降下した。

こちらは、追随できない、あっという間に立場が入れ替わる、

「まずい!」と思い、いつもの癖で ハンドサインを送り編隊を解こうとするが、上手くいかない、僚機からこちらが見えないのだ!

そうするうちに、囮役の機体も合流し、完全に追いかけられる状態である、機体を左右に振り、なんとか振り切ろうとするが、相手のF4Fが連携しているのか、1機を振り払っても、後続の機体がまた食いつく、そして振り払った機体が後に着く、それを繰り返していたが、ついに、

「鳳翔2番機、撃墜!」と無線が入った。

完全に後を取られた2番機は、撃墜判定をされたようだ、渋々戦列を離れる2番機

こうなると圧倒的に不利だ、2機のF4Fに追い回される。

射線を躱そうと、ロールを繰り返し軸線をずらす、真っ直ぐ飛べば間違いなく見越し射撃される、時折ロールのレートを変え、ラダーを踏み込みクイックリールを入れて回り込もうとするが、そうすると、後の擁護機が切り込んでくる!

 

「くそ、きりがない」といいながら、バックミラーをみると、もうすぐそこまでF4Fが迫っていた。

「だめか!」と思った瞬間

「ノックイットオフ! 戦闘中止!」といずも副司令の声がした。

「はい、そこまでです」と鳳翔の声もする。

機体を水平に戻す、直ぐ右横に先程まで空戦をしていたF4Fもどきが2機並んだ

上空で待機していた2、3番機も降下して左横へ並ぶ。

すぐ右横を飛ぶF4Fを見て、

「こいつと飛ぶなんて、考えてもみなかったな」と思いながら、ふと手元を見ると、

びっしょりと汗をかき、手は小刻みに震えていた

「あと、少し長引いたらおれも撃墜されていたな」と思いながら、パラオ航空基地へ戻った。

パラオ航空基地で待機していると、ロクマルが飛来しいずも副司令、鳳翔艦長、そして第6飛行隊の二人のパイロット妖精が降りて来た。

そして、今回模擬戦に参加した3名の零戦パイロット、瑞鳳艦長を交え、管理棟の隊員控え室で反省会となった。

作戦説明で使われる黒板の前には、自衛隊の隊員さんがあらかじめ大型のディスプレイを用意してくれていた。

まず、F4Fの操縦席で撮影された映像を投影し見ていたが、敵機役の第六飛行隊の隊員たちが、お互いに間合いを図りながら戦っていることに驚いた。

「隊長の指示が細かいな」

まず、囮役の隊長が不利を承知で、俺たちの前へ出た、その間に僚機を駆る飛行班長が急降下した運動エネルギーを使い、俺たちの後方へ回り込んできた。

俺達は、前と後ろを挟み込まれ 行き場のない状態となり、各個撃破されたわけだ。

「完敗だな」と思った。

 

いずもは大型モニターの前に立ち、

「今うちの第六飛行隊がやったのは、サッチウエーブ戦法と呼ばれる、現在米軍が研究中の空戦手法です」

「サッチウィーブ?」

「そうです」といい、一枚の図形を表示した。そこに8の字を書いたような図形があった。

「これがその戦法の概略図です。この戦法は2機が1つの分隊となり行動します。まず1機の機体が囮役となり敵の前方に出ます。敵機が食いついた瞬間に左方向へ逃げます。当然敵機も追いかけ左方向へ、次の瞬間2番機は反対の右方向へ行き距離を取ります」

「逃げるのか?」

「いえ、鳳翔隊長。逃げるのではなく間合いを取るという事ですね」

「間合い?」

「2機は射撃可能な十分な間合いを取った後、一気に反対側に切り返し距離を縮め、追従する敵機の後を取り攻撃します」

「いずも副司令。それだと囮役と攻撃役が十分な連携を取らないと、囮役は追いかけまわされるぞ」

「ええ隊長さん、そうですね。ですから2機は無線を使いタイミング、息を合わせている訳です」

「無線で!」

「そうですね。いま零戦に搭載されている無線は精度が悪く、殆ど使い物にならないと聞きました」

「ああ、乗せるだけ邪魔な機械とも言える。状態が良ければ遠くまで聞こえるいい無線なんだが、故障や雑音が多くてかなわん」

「このサッチウエーブ戦法は、無線を使いお互いを擁護し合う事で相手を撃墜するという方法です」

「じゃ、分隊の編成も2機編成なのか?」

「はい。基本を二機とする分隊、二個分隊で一個小隊です」

すると鳳翔が、

「零戦隊隊長。私が いずもさんと検討した結果、我が航空隊もこのサッチウエーブ戦法を研究してみようと思います!」

「かっ、艦長!米国の戦法ですよ!」と 鳳翔隊隊長が慌てた。同席した者、そして騒ぎを聞きつけ周囲で見ていた妖精飛行士も驚いた。

「優れている物は積極的に取り入れ、習得改善する。これは空母 鳳翔の基本です!」

と 鳳翔は厳しく言った。

すると第六飛行隊隊長も、

「その意見には、自分も賛成です」

「いずもの旦那達もか!」と驚く 鳳翔隊長。

「よろしいですか、副司令?」と言いながら、席を立つ第六飛行隊隊長妖精。

全員が見える位置までくると、

「あえて、先達である 鳳翔隊の皆様にご意見させていただきます。このサッチウエーブ戦法は、空戦の基本中の基本。80年後の我々も重要視する戦法です」

「80年後もか!」と唸る 鳳翔隊長。

「はい。その一つの答えが、我々の装備するF-35Jに現れています」

「あの機体に?」

「ええ。すでにご存知の通り、あの機体は音速を超える飛行速度、遥か80km先の航空機を撃破できる誘導兵器、そして垂直離着陸機能など最新鋭の機体ですが、一つだけ昔と変わらないものがあります」

「なんだ?」と鳳翔隊長が聞くと、

「機銃ですよ」

「機銃だと?」

「ええ。あれだけ誘導兵器が発達した80年後の機体でも、結局機銃を取り外しての空戦はあり得ないという事です」

飛行隊隊長は続けて、

「どんなに優秀な誘導兵器でも欠点はあります。最大の欠点は相手が見えないという事です」

「どういうことだ?」と不思議がる 鳳翔隊隊長。

「確かに自分達の搭載している機上電探は、遥か80km先の航空機を探知できます。しかしそれは、そこに“相手”がいるというのが分かるだけで、敵味方の識別、もっと詳しく言えば深海棲艦の艦載機か米軍機かの区別はできません」

暫し聞き入る 鳳翔零戦隊。

「もし、不明機がいるというだけで攻撃をしかけ、それが米軍機であった場合どうなりますか?それこそ米軍との全面戦闘の引き金になりかねないです」

「では?」

「ええ。ですから必ず誰かが、接近して目視で確認できないと攻撃できない。接近する限り、格闘戦もある。そうなれば機関砲は有利な武器です。誘導兵器は数がない。撃ち尽くせば、機関砲を持たない戦闘機は単なる鴨です」

 

「あんなに優秀な機体なのに?」と鳳翔隊隊長が、疑問符を投げかけるが、

「近接戦闘を疎かにすれば消耗戦を戦い抜けない事は、既に我々の次元では実証済みです」

第六飛行隊隊長は、少し話題を変え、

「零戦の欠点はなんですか?」と質問してみた。

「細かい事を言えば色々ある、馬力も不足気味だ、防弾も欲しい、なにより20mmの弾数が少ない、ただ致命傷となる欠点といえば、急降下時の速度制限ぐらいか」

すると第六飛行隊隊長は、

「この時代では、大変優秀な機体です、しかし、その優秀な機体 それ自体が欠点であるとはおもいませんか?」

「どういう意味だ!」と鳳翔隊長は怒鳴った!

第6飛行隊隊長は、落ち着き、

「優秀過ぎたという事です、既にその傾向が出ています、後継機の開発は遅れていませんか? 十七試艦上戦闘機、のちに烈風と呼ばれる機体ですが、1940年に内示されておきながら、未だに形にならない、これは海軍内部に“零戦でまだやれる”という慢心の現れでは?」

「そっ、それは」と答えに困る鳳翔隊長

「やはり、そうなるのですね」と鳳翔

「艦長!」

鳳翔は、急に、顔を真っ赤にしながら、

「以前から、零戦の後続機開発について、赤城さん達と連名で、意見具申書を連合艦隊司令部を通じて、出してきましたが、軍令部からの返事は毎回 “教練を持って対応せよ!”の一点張りです、彼らは気力で新型グラマンが落とせるとでも思っているのですか!!」と珍しく声を荒げた、余程悔しい思いをしたに違いない。

「鳳翔さん!」と慌てる瑞鳳

「ごめんなさい、少しはしたないですね」といい、落ち着きを取り戻す。

「いずも副司令、その新型グラマンってのは、そんなに強いのかい?」と鳳翔隊隊長が言うと、

いずもは、自身のタブレットからデータを取り出し、

「これが、F6Fヘルキャット、米海軍の次期主力戦闘機です」と写真を投影し紹介した。

それを見た鳳翔隊隊長は、

「F4Fを大型化した感じだな」と率直に感想を言う。

第六飛行隊隊長は、

「見た目の進化はないですが、性能的には一回り上です、強力な2000馬力級エンジンを装備し、ブローニングM2機関銃6丁、強靭な防弾装置 F4Fを上回る運動性、現在の零戦では厳しいです」

いずもは、

「この新型機は近いうちに第3国経由で深海凄艦へ転売され、実戦配備されると予想されます」

鳳翔隊隊長は、腕を組み、じっとその写真を睨んだ、暫し沈黙が部屋を覆う

「やはり、じり貧で追い込まれるか」と呟く鳳翔隊隊長、そう言うと、

「どうすればいい?」といずもへ向い問いかけた

するといずもは、

「まず、相手を知る事を学んで貰います」

「相手を知る?」

「はい、先程説明した、サッチウエーブ戦法の習得は勿論ですが、このF6Fの動きを学んで貰います」

「そんな事ができるのか?」

「ええ、今回の模擬戦で使ったF4Fもどきは このF6Fの動きを模倣できます、この機体を使い、F6Fへの対抗手法を習得していただきます」

「学べという事か」

「はい、そしてそれを他の部隊へ伝授して頂きます」

「他の部隊へか?」

「はい まずは瑞鳳さんの隊、そして赤城さん達へ伝え、いずれは海軍の航空隊すべてに対処法を教導して頂きます」

「戦闘教導か」

第六飛行隊隊長は

「そうです、自分達の時代ではアグレッサー部隊といい、敵戦闘機部隊を模倣し、味方部隊の敵機役をやる専門の部隊です、全員教官資格を有する隊員で構成し、仮想敵国の航空戦術を研究、味方部隊へ広める役割を担います」

鳳翔隊隊長は

「俺たちにそれが出来ると?」

「ええ、先輩方なら問題ありません、日本帝国海軍航空隊の基礎を築いた皆さんです、自分は出来ると確信しております」と第六飛行隊隊長は答えた。

すると鳳翔隊隊長は、

「艦長」と鳳翔をみた、

鳳翔は力強く頷き、

「我が艦の座右の銘! やるときはやるのです、鳳翔隊の名に恥じぬよう精進しましょう!」

すると、鳳翔隊は一斉に起立し、

「はい、艦長 ご期待にそえるよう精進いたします」といい 皆で一礼した。

 

日本海軍航空隊初の戦術研究隊の発足であった

 

その後鳳翔隊は 無線機を最新の物へ替え、各分隊を2機編成へ変更し、各分隊長は実力者を配置、2分隊で1小隊編成として、各分隊がお互いを擁護しあいながら、空戦を行うサッチウエーブ戦法の研究に取りかかった。

今回の出撃は、その編成改変後 初の実戦でもある。

 

 

パラオの北250㎞付近を飛行する F-35J 6機

先頭を飛ぶ コールサイン“スカル11”を駆る飛行隊隊長は、先程エクセル06より通知された、攻撃開始指示を受け、攻撃目標の選別をスロットルに付属したHOTASを操作して、アムラームの照準をロックした。今回は6機で24発発射する、全弾命中したとしても6機はあぶれる、その残りはサイドワインダーで仕留める。

各機の状態をモニターしているサブディスプレイを確認し、

「よし、準備できたな」

操縦桿に付属するプレストークスイッチを押し、

「All pilots, attack ready... now! SCULL 1-1, Fox1. 」と告げ、

操縦桿の発射ボタンを押し込んだ!

ウエポンベイが開き、一定間隔でアムラームが放り出される。

よく落下させると思われているが、実際は放り出すと言った方が正解だ。ミサイルを固定してあるラックから離しただけでは、ミサイルはラックから分離せず気流によって押し込まれた状態となる。最悪、分離したミサイルが機体に吸い寄せられ接触するという事故も起こりかねない。

これを防止する為に、投下する際はプラスGを掛けるか、機械的に放り出す必要がある。

F-35Jはどのような姿勢でもミサイルを投下できるように、機械的に放り出す方法を採用した。

 

機体から 投げ出されたアムラームは数メートル落下したあと、ロケットモーターに点火、白煙を吐き一気に獲物に向かい 飛翔を開始した。

次々と白煙を吐き進空するアムラーム

「1-2, Fox1.」と無線が入る、横を飛行する2番機も攻撃を開始した!

瞬く間に4発のアムラームが後を追う!

 

他の分隊も各個に攻撃を開始

青い空に24本の白い矢が解き放たれた!

 

「さて、先輩達の花道 俺たちが開くか!」といい、

「Next firing, Fox2 ready! 」といい次の攻撃の準備に入る。

モニタ―上には、敵機へ向け急接近するアムラームが映っていた。

 

 

パラオ泊地を目指す深海棲艦の艦載機群

少し上空を警戒飛行するF4F戦闘機部隊の隊長は、周囲を警戒していたが、

一瞬、前方遥か彼方で何かが光った気がした!

「うん?」と唸った!

とっさに無線で、

「前方警戒!」と叫ぶ!

勘だ、何かいる、そう感じる!

じっと前方の空域を睨んだ。

“何か来る!”そう感じた瞬間、咄嗟にスロットルを押し込み、機首を持ち上げ上昇しようとした瞬間、一瞬熱を感じ、物凄い圧力を感じたがそこで意識が途切れた。

 

戦闘機集団の先頭を飛んでいた隊長機は、一瞬 上昇しかけたが、腹を見せた瞬間、その胴体下部へアムラームが直撃した、戦闘機隊長は痛みを感じる間もなく、空中にその四肢を爆散させた。

隊長機への着弾の直後、次々と近隣の機体へ着弾するアムラーム

状態が呑み込めず、呆然と僚機が爆散したのを見るが、次の瞬間 自分も炎に包まれ爆散する、次々と、青い空に黒い花を咲かせ 撃墜されるF4F。

24個の黒い花が、空中に咲き乱れるまで、ほんの数分

残った残存する戦闘機、少し下方を飛行するドーントレスやデバステーターは 最初、状況が理解できず、漠然と飛んでいたが、爆散した機体を見て、慌てて散開し始めた!

 

急速に速度を緩めた、F-35J部隊は、各小隊事に分散した。

「ポン、ついて来い、マイトは右だ! アルペンは左を!」

「12!」

「13!」

「15!」と僚機と小隊から無線が入る

残りは6機のF4Fだ、艦爆、艦攻部隊の上空を分散して飛んでいるが、また再集結しようと、もがき始めた所へ、上空から襲いかかった。

 

此方に気がついた数機が、雲間に逃げ込むが、機首下のEOTS(電子・光学式照準システム)の赤外線センサーは、はっきりとF4Fを捉えていた。

「悪くおもわんでくれ」と思い、

スロットルに付属する選択ボタンを押し込む、即座に機首下の赤外線センサーが F4Fをロックする。

ヘルメット内に、サイドワインダーの弾頭シーカーの反応音が響いた。

機首下のEOTSで捉えた赤外線映像をサイドワインダーの弾頭シーカーが認識した。

「11, Fox2!!」と無線でいうのと同時に 操縦桿の発射ボタンを押し込む

右翼下のランチャーから、1発のサイドワインダーが発射された。

白煙を吐きながら、10mほど進んだサイドワインダーは急激に右に方向を替え、雲間へ突っ込んでいく、雲間に消えたサイドワインダーを目で追う。

30秒も経たない内に雲の中で閃光が走った、1機撃破だ

「Target kill, splash one!」

 

レーダー画面とE-2Jからのデータを見ると、どうやら戦闘機群は不利を悟ったのか雲中へ逃げ込んだようだ。これが零戦相手なら正しい判断だ。しかし、

「俺達には、無駄だな」

既に僚機が攻撃態勢に入っていた。

やや前方に出ると、

「1-2, Fox2!」とコールがあり、此方も右翼下のサイドワインダーが雲中向けて放たれた!

2番機の放ったサイドワインダーは、真っ直ぐ雲間へ進み、眼下にチラッと見えたF4Fへ真っ直ぐ突っ込んでいく。雲間に消えたサイドワインダー、直後雲の中から閃光が起こる。

「1-2, enemy shot down!」とコールが来る。

レーダーモニターを見ると、次々と脅威目標が撃墜されていくのが分かる。

フレアを持たないこの時代の航空機だ。IIR(赤外線画像誘導)装置付きのAIM-9Xの敵ではなかった。

 

「SCULL 1-1flight, EXCEL 06. All target shot down!」

上空で監視しているE-2Jから無線が入る

「Break break, スカル11 残りは零戦隊が叩く、上空でホールドしろ」とE-2Jから指示が出た。

「1-1 roger.」といい、

「1-1flight, join up.」といい空中集合をかける

1万2千付近まで上昇して、周囲を見回した

右アブレスト隊形で集合した僚機が見える。

 

30機の戦闘機を撃墜したとは思えないほど、静かな時間が流れていた。

 

 

高度4000mで周回待機していた鳳翔隊、隊長は事前に通知された無線周波数で、スカル隊が、F4F戦闘機を撃墜する様子を無線傍受していた。

「30機 全機撃墜か! 80年後の戦闘とは、凄まじい」と驚きつつ、

「さて 俺達の番だ」といい

「隊長より、全機 突入体形作れ!」と無線で叫んだ

即座に各分隊、2機編成で編隊を組んだ

瑞鳳隊も、従来の3機編成で編隊を組む。

 

「鳳翔1番 エクセル06 進路240 間もなく敵艦爆部隊の真上だ!」

「鳳翔1番了解!」といい 少し進路を右に切り、磁方位240へ進路を取る

無線で、

「皆 よく聞け、今回は深追いするな! 艦爆を二分するのが目的だ、一撃離脱でいくぞ!」

「瑞鳳隊 了解!」と瑞鳳零戦隊の隊長から返事がきた。

 

進路変更し、雲上を進む、刻々と時間が過ぎる、突然、

「零戦隊、降下開始! 突入!」とE-2Jから無線が入る!

 

「全機突入!」と無線で叫び 機体を右に捻り込み 一旦背面状態になる、操縦桿をそっと引き起こし、機首を下げ、急降下姿勢にはいる、スプリットSと呼ばれる機動を取った。

チラッとミラーを見る、2番機がしっかりついてきている事を確かめた!

背面の状態で雲中に入る、姿勢指示器をしっかりと確かめ、機体を保つ。

高度計がクルクルと回り、高度が落ちる、体にかかる体重の何倍もの加速度に耐え、操縦桿を支える。

雲中を突き抜けた瞬間、目の前に、

「いた、ドーントレス!」

眼下には 複数のドーントレスの編隊がいた。

咄嗟に7.7mm機銃の発射ボタンを押し、ほぼ真上から襲いかかった!

慌てたドーントレスの小隊4機は、2機ずつの分隊に別れた!

「しめた!」

そのまま、降下し、ドーントレスの真横を突っ切り、降下する。

降下した際の速度を利用して、ラダーを切り、エルロン、エレベーターを使い バレルロールをしながら、分散したドーントレスの分隊の後へ 食らいついた!

2番機はそのまま降下し、左へ捻り込んだ!

 

分散したドーントレス2機の後部機銃から、射撃が始まった!

バレルロールをしながら、散発的に7.7mmで牽制する。

こちらの牽制射撃に応戦するように、2機のドーントレスの後部機銃も火を噴く!

完全にこちらへ、注意が向いた瞬間!

「2番 行きます!」と無線が入る!

降下しながら 左へ捻り込んだ2番機は、一旦距離をとり、1番機が追跡するドーントレスのほぼ、左横から接近、20mm機銃で、ドートレス隊を襲った!

こちらに注意が向いていたせいで、回避が遅れ、真横から次々と必殺の20mm機銃が命中する2機のドーントレス。

あっという間に、黒煙を吐きながら、2機とも姿勢を崩し、真っ逆さまに降下した。

1機はきりもみに入り、1機はゆっくりと旋回降下していたが、いきなり爆散した

黒煙を引きながら降下していく敵機を見て、

「この戦法、研究の余地はまだまだあるな」と思いながら、周囲をみまわすと、あちらこちらで黒煙が立ち昇るのが分かる。

 

「零戦隊、こちらエクセル06、脅威目標の半数を撃破した!高度4000まで上昇して、戦域を離脱せよ」

「零戦隊、了解」と返事をして、周りを見ると、次々と戦域を離脱し、上昇に転ずる零戦が見える、数を慎重に数える。

「よし、全機いるな」と安堵した。

空中集合を掛けながら 瑞鳳隊も無事な事を確かめ、

「残りは、由良達が片付けるか」そう呟きながら僚機をまとめ、上空から降下して来たF-35J、6機と合流して、待機飛行へ入った。

 

 

深海棲艦のドーントレス隊の隊長はパニック状態だった。

先頭を飛んでいたが、急に戦闘機隊が何者に襲われたと思った所に雲間からジーク(零戦)が現れ、あっという間に戦隊を二分されてしまった!

慌てて分断された集団をまとめたが、状況が呑み込めない!

 

「ジークは、何処へ消えた!」

後席の機銃員は、

「見当たりません、撤退したようです!」

「撤退しただと!」

「はい、追撃してきていません!」

 

周囲を見回したが、先程襲ってきたジークの姿が見えなくなっていた。

「何機残った!?」

「はい、TBDは全機います! うちは半数が落ちました!」

 

「くそ! 戦闘機隊は何をしている!」と周囲を見るが、襲撃を受ける前にいたF4Fの姿が1機もない!

無線で呼び出そうとするが、急に無線が雑音だらけで全然使い物にならない。

周波数を替え色々と試すが、まるで砂嵐のような音だけが響く。

「こんな時に故障か! 整備はなにをしているんだ!」と怒鳴りながら横を向くと、

2番機が近づいてきた。

風防越しに、操縦士妖精がジェスチャーで無線が使えないと言っている。

「2番機も無線が故障だと!」

 

周りに残存した機体が集まってきたが、皆 状況が吞み込めないようだ。

襲撃を食らったせいで時間を食ったが、パラオまで200㎞ほどの距離だ

「あと30分 持ちこたえればパラオだ!」

「隊長、パラオへ向うのですか!」と後席員が伝声管越しに叫んだが、隊長は、

「仕方ない、このまま帰るわけにもいかん、奇襲はなくなった、強襲だ!」

「しかし、我々は発見されています!」

「それが、どうした!」

「隊長!」と後席員が叫ぶが、ドーントレス隊の隊長は、

「先行するB-17部隊の爆撃が不十分で、奴らの警戒心を招いたのだ! ラバウルの奴らしくじったな」と叫び声を上げた、そして、

「どちらにしても、パラオは混乱しているはずだ、爆弾抱えたまま帰る訳にもいかん、どうせ落とすなら、小娘たちの頭の上だ!」と怒鳴り返した。

周囲を見回す、

「何とか、うちの隊は20機はいるな、これで泊地の基地を叩けばいい、我が空母艦隊には、まだ70機近い艦爆機が残っている、艦攻もだ!」

「しかし、隊長、奴らが母艦を攻撃すれば、帰れなくなりますよ!」

「うるさい! そんな心配する前にちゃんと目的地に向かっているか確かめろ!」

自分も予め作成したフライトプランのチャートを見た。

「そろそろ、島影が見えてくる頃だ」

前方にじっと目を凝らした。

ポツ、ポツと影らしいものが水平線上に見えてきた。

チャートを確かめる。

「あれが パラオ諸島、小娘達の島」と前方を睨んだ!

 

 

パラオ首都、コロール上空

パラオ諸島のコロール島にある、パラオ自治政府の首都、パラオで2番目に大きな島である、最大の島であるバベルダオブ島ではなく、なぜかここの島に首都ができた。

豊かな港を支える入江、点在する無人島、このコロールの街には多くの日本人、そして現地島民が暮らすパラオ諸島最大の街でもある。

ミクロネシアを管理する南洋庁の本庁もここにある、日本風の家屋や建物が多くあり、本土の地方都市のような様相をなしている、いわば“もう一つの日本”であった。

いま、その上空には、数多くの日本海軍機が、周回待機していた。

 

零式観測機、通称 水観を操縦する軽巡由良所属の水観妖精は、周囲を見回した。

眼下には、編隊を組み、警戒飛行をする鳳翔の99艦爆隊や待機飛行をする瑞鳳の97艦攻が飛んでいた。また少し離れた所には、泊地から飛来した二式大艇改も飛んでいる。

水観妖精は、左右を見た、そこにはまだ真新しい2機の二式水上戦闘機が飛んでいた。

後席員が、

「機長、あの新人二人どうですか?」と聞いてきた

「あん? 水戦の二人か? 先日配属されたばかりだ、一応俺が預かる事になっているが、まあこれからだな」といい、ふらつきながらも水観の回りを飛ぶ、2機の水戦を見た。

「乗りたいですか? 水戦」と後席員に言われ、

少し間をおいて

「そりゃあ 乗りたいさ、零戦と同等の装備、20mm機銃は魅力的だが、ありゃ単座だ」

「ですよね」といい後席員は笑ったが、

「由良、気になりますね」

「ああ、俺達は由良に恩がある、本来ならカタパルトの試験が上手く行かず、撤去されるはずだったが、由良が水偵では戦闘力不足だと意見具申してくれたおかげで、俺達は何とか由良に残れた」

「ええ、あの時はそのまま解体かと思いましたよ」

後席員は、

「由良、大丈夫ですよね」と再び聞いた、

「偉く心配するな、どうした?」

「だって機長、30機近い艦爆、艦攻部隊が泊地へ向っているそうですよ」

「まあ、問題なかろう、提督や睦月達もいる、それに」

「それに?」

「自衛隊司令もいる、問題ない」

すると、後席員は

「自衛隊司令って、いずもさんといつもの一緒にいる、頼り無さそうなあの方ですか?」

すると水観妖精は、

「そうだ、彼がいるなら由良は大丈夫だ」

「機長、えらい自信ですね」

水観妖精は後を見て、

「まだお前にはわからんか、まあそんなもんだよな」といい 前方を見た。

 

眼下に広がるコロールの街の殆どの人が避難しているが、まだぽつぽつと人がいる

よく見ると、南洋庁の職員が街に出て最後まで避難を呼びかけているようだ。

時折、此方へ手を振っている、それに答えるように翼を振った

「彼らの希望の翼になれればいいが」と呟きながら、水観妖精は周回警戒飛行を続けた

 

 

パラオの北部海域150km

護衛艦いずもは、単艦でここまで進出していた、CICで対空モニターを凝視するいずも

そこには、F-35、鳳翔、瑞鳳の零戦隊により数を減らし、32機となった深海棲艦の艦載機群が映し出されていた。

「電子戦士官、通信妨害は?」といずもは担当士官を呼んだ。

「はい、いまの所順調です」

「そのまま続けて、完全に孤立させなさい」

「はい、副司令」とインカム越しに返事が帰ってきた。

 

いずもは、深海棲艦の艦載機群への攻撃開始と同時に、深海棲艦の使用する周波数帯域へジャミングを仕掛けた、レーダー波に対するECMよりは初歩的な物であるが、上空で監視活動を行うE-2Jを経由してスポット的に敵艦載機群の耳を奪ったのだ。

これで、彼らは本隊と連絡が取れない、本隊では侵攻部隊の動向が分からず混乱をきたす

「これで、第2次攻撃まで時間稼ぎができるわね」と思いながら、対空モニターを見た

既に、深海棲艦の艦載機群は、単艦で航行するいずもには気がつかず、そのまま空域から抜け、一路パラオを目指していた。

“多分、攻撃された事で余裕がなくなったのかしら、もうパラオしか見えていないようね”と思いながら、きりしまを呼び出した

「きりしま、情報は見ている?」

「はい、副司令」

「私はこのまま北進してF-35、零戦隊の回収を行います。残りの深海棲艦の艦載機群のお相手お願いね」

「はい、承りました」と きりしまは返事をしながら、

「あの、よろしいのですか?残りの防空戦、由良さん達主体で行うという事ですが?」

「司令の指示よ。レーダー情報はこちらから提供、迎撃指示は 秋月さん、防空主体は 由良さん達泊地艦隊と泊地防空隊で行うという事よ」

「しかし、私と“はるな”がいます。スタンダードで迎え撃てば瞬殺ですが?」

すると いずもは、

「司令と泊地提督の間で協議した結果よ。由良さん達の経験値のレベリングね」

「しかし、危険が伴いますが」

「まあ、多少の損傷は覚悟の上でしょう。最初から上手くいくとも思えないし。ここで問題点を洗い出しておきたいという事でしょうね」

そして いずもは少し声を小さくして、

「実はもう一つ。コロールの街に陸軍の部隊が少数いるのよ。表向きは南洋庁と陸軍の調整役ってことで駐留しているみたいだけど、先日からコソコソ嗅ぎまわっているから留意してほしいと泊地提督から助言があったわ」

「陸軍ですか?」

「ええ、泊地内部の事は海軍管轄だからと言って門前払いしているけど、戦闘を理由に内部を嗅ぎまわっても困るしね。余り目立たないようにという事ね」

すると きりしまは、

「しかし、既に十分目立っていると思いますが」

「まあ、そこは突っ込まないで」

「解りました。危険と判断した場合にのみ、対応します」

すると いずもはコミニュケーションシステムに映る はるなと あかしに、

「そう言うことだから、派手に暴れない様にね」

「はい、副司令」と二人から返事がきた。

 

パラオ泊地に迫る32機の深海棲艦の艦載機群

きりしまCICでは、指揮を引き継いだきりしまが、艦長席に座り、じっと前方の大型モニターを睨んでいた

「ほぼ泊地正面から来るみたいね。好都合だわ」

特徴的なメガネを右手の中指でかけ直すと、

「秋月さん、準備はいい?」と 秋月を呼び出した。

モニターに秋月が映り、

「はい、きりしまさん、秋月準備できました、泊地艦隊も防空複縦陣隊形で、待機しています」

モニター上には、泊地外周部の洋上に複縦陣で航行する由良以下の泊地艦隊が映っていた

こちらは、きりしまを先頭に、鳳翔、瑞鳳、あかし、そして殿ははるなの単縦陣で同じく外周部を機関原速で航行していた。当初は自衛隊艦隊の停泊地で待機していたが、じっとしていては、的になるだけという事で、12ノットでゆっくりと巡行する事になった。

 

きりしまは、由良達の艦隊の射線の邪魔にならないようにやや大回りをしながら、パラオ泊地の外周部を巡行しながら、迫りくる深海棲艦艦載機群の動きを見定めた

 

「どうやら、3群に別れたみたいね」といい、対空モニターの精度を上げた。

「対空目標、3群に分離、以降アルファ、ブラボー、チャーリーと呼称します!」と対空士官から報告が上がる。

「各艦へ、目標情報の伝達開始」と きりしまが言うと、

担当士官がコンソールを操作し、レーダー情報を 由良以下の泊地艦隊へ送信し始めた。

これで各艦の表示用モニターに、各艦から標的の方位、距離、高度などの射撃管制に必要な情報が伝達される。各艦ではそれをもとに担当目標毎の射撃計算を行い、砲軸角の算出を行う。

きりしまがその気になれば砲軸角の算出もできない事もないが、各艦の砲の仕様がまちまちで、癖がある。その為、計算に必要な情報をリアルタイムで送る事で精度を上げる事になった。

勿論今までの高射装置や測距儀も併用して精度を上げる。

 

「アルファ、ブラボー群、高度上げます! 現在2500m、チャーリー群高度600mまで降下、現在も降下中です、現在距離 100km」

対空監視士官はレーダー情報を報告する。

もちろんきりしまの座る艦長席のモニターにも同じ情報が表示されていた。

きりしまは、

「秋月さん、アルファの10機とブラボーの10機は艦爆隊ドーントレス隊です、

チャーリーの12機は雷撃隊のデバステーターよ、ドーントレス隊に気を取られすぎないで!」

「はい、きりしまさん!」と秋月の返事が来る

 

モニターには、先行気味にアルファ群の10機が進空していた、その後ろにもう10機のドーントレス隊、やや遅れて雷撃隊のデバステーター隊が続いていた。

 

「目標群 80㎞まで接近!」 対空士官が報告する。

 

きりしまの対空監視士官は、目標の選別に入る。

「アルファ、トラックラックナンバー2001から2010 担当秋月、由良!

ブラボー、トラックナンバー 4001から4010 睦月、皐月

チャーリー、トラックナンバー 6001から6012 陽炎、長波!」

 

秋月から

「秋月、データ受信完了、各艦いいですか!」と各艦へ声掛けしている

「由良、いいわよ」と由良から返事があった

睦月以下の各艦からも次付きと返事が上がる。

 

きりしまは、画面を切り替え、

「鳳翔さん、瑞鳳さん、回避運動は自由にして頂いて構いません」すると、鳳翔が

「きりしまさん、あの、うちの砲術妖精が・・・」と横を見ると、何故か日の丸印の鉢巻をした砲術妖精が、きりしまに向かい、

「きりしま艦長! 俺達の攻撃目標は?」

「はっ? 貴方達も対空砲撃するの?」と呆れて聞き直した。

「当たり前です、せっかくあかしさんに、散弾砲弾作ってもらったのです! ここで使わないといつ使うのですか! 今でしょう!」

きりしまは、少し考え、

「統制射撃ができませんので、自由射撃を許可します、向かってくる敵機は片っ端から落として構いません!」

「きりしま艦長、ありがとうございます!」といい、喜びながら砲座へ向う砲術妖精

モニターを見ていた秋月は、

「きりしまさん、いいんですか?」

「うん?いいんじゃない?こうきっちりするのもいいけど、意外性も必要よ」

「はあ」といい、不思議がる 秋月。

 

きりしまは、モニターを見ると、瑞鳳の姿が見えない、モニターに映る瑞鳳副長に、

「瑞鳳副長、艦長は?」と聞くと、

「はい、きりしま艦長、あのさっき“対空機銃妖精が面白いものを持ってたから見てくる”とかいって出て行きましたが」

きりしまは呆れて、

「はあ? この忙しい時に操艦任せてどこいくのよ」

すると、副長は

「まあ、毎度の事ですから」といい 慣れた様子で操艦を指揮していた

きりしまは、別モニターに映るあかしを見るが、何故か視線が泳ぐあかし

“また、なにかやったな!”と思いつつも、“まあいっか”と思い視線を対空モニターに移した。

「目標群 50km圏域に入りました!」 対空士官が再度報告する。

「秋月さん、間もなく砲撃開始です、タイミング任せますので 宜しく」ときりしまが言うと、

「はい、この秋月 ご期待に応えてみせます!」

秋月は、席に座り直すと、

「各艦、最終確認、砲撃開始まであと5分!」

各艦は12ノットの速度で航行しながら、割り当てられた目標群へ向け、砲軸角を調整している。

今回は 相対距離1万5千で射撃開始、統制射撃を行い一斉に弾幕形成で敵機を囲い込む、

割り当てられた目標群の前方に素早く、正確に、数多くの砲弾を浴びせ掛ける。

 

「目標、アルファ群並びにブラボー群 2,300mまで降下。チャーリー群 高度200mまで降下。 現在 距離30㎞」そう報告した瞬間、対空士官が、

「ブラボー群、やや東へ転進。泊地後方の航空基地を目指している模様!」

きりしまは即座に未来予想進路をモニター上に移し、担当の 睦月、皐月の射線がカバーできる事を確かめた。

 

艦橋見張り員が、

「目標視認! 方位020!」と報告してきた

船外監視カメラが、ゴマ粒のような深海棲艦の艦載機群を捉えた

 

「秋月です、目標視認しました!」と秋月も報告してきた

「では、皆さん 始めましょう」ときりしまが切り出すと、秋月は

「対空指揮艦より、全艦へ、1万5千になり次第、各艦 担当目標へ向け射撃開始してください!」

 

「了解!」と各艦から返事がくる

ぽつぽつとゴマ粒のような染みが段々とハッキリと飛行機の形に見えてきた

秋月は艦橋から双眼鏡を片手に、右舷方向から接近する深海棲艦の艦載機群を見て、

「さあ、来なさい。新装パラオ艦隊の対空砲火、味わうといいわ」と目標を睨んだ。

 

深海棲艦のSBDドーントレス隊の隊長は パラオの手前50㎞で、飛行隊を予定通り二分し少し高度を取った。

雷撃隊は予定通り、低高度へ降りて行く

前方の島を見た、以前写真で見た島影だ、

「間違いないパラオ諸島だ」と思い、

「あの入江の奥に、日本海軍の後方支援基地がある、あそこを叩けば、トラックは干上がる!」と意気込んだが、何か様子がおかしい、目を凝らし前方を睨む。

本来なら、先行するB-17部隊が、大量の自由落下爆弾をまき散らし、泊地のあちこちで黒煙が上がっているはずだが、見る限り平穏だ、泊地の外周部の洋上を見て、表情を強張らせた。

「艦艇が外へ出ている! 閉塞作戦が失敗したか!!!」

彼はここで初めて、B-17部隊の爆撃が効果を出していない事を確信した。

「まずい、泊地は警戒態勢だ!」と思ったが、ここまで来て引き返すわけにもいかない

「行くしかない」そう思いながら、各機へハンドサインで“攻撃隊形作れ”を合図した

4機のドーントレス隊はフィンガーチップ隊形と呼ばれる変則的な隊形にからアブレスト隊形と呼ばれる横方向に並ぶ隊形に編隊を組みかえた。

「何かがおかしい!」

隊長は、今までに味わった事のない、焦燥感を抱きながら、操縦桿を握った。

 

 

秋月の艦橋は、今静まり返っていた、すべての準備は整いつつある、聞こえるはずもないのだが、時計が時を刻む音が聞こえそうだ。

「敵 艦載機群、距離 2万をきりました!」と艦橋後方で、きりしまから送信されてくるレーダー情報を監視する、システム監視員妖精が叫んだ。

「間もなく砲戦開始、各員の奮闘を期待します!」と秋月が艦内放送を掛けた

「おう!!!」と各所から、声が上がる。

コミニュケーションシステムを見ると、各艦でも同じように艦娘達が、発破を掛けていた。

 

秋月は、艦長席へ座り、ぐっと迫りくる艦載機群を睨んでいた。すると 横に立つ副長が、

「艦長」

「なに? 副長」

副長は、落ち着き払い、

「大丈夫です、やれますよ、深呼吸してください」

余程、自分が緊張しているように見えたらしい。

「そっ、そうね」といい、手を組んで背伸びをしながら呼吸を整えた

ふと、モニターに映る皆を見ると

由良さんは落ち着き、副長さんたちへ最終の確認をしている。

睦月さんや皐月さんは、流石経験豊富なのか、慌てる事なく対応し、

陽炎さんも、同じく腕を組んで、じっと別方向を見ていた、多分艦載機群を睨んでいるに違いない。

そして、問題児だった長波を見て、一瞬吹き出しそうになった。

なんと彼女は艦長席の上で胡坐をかいて、艦長席のひじ掛けに手をのせ、右手で頬杖をついていた。

ただ、視線はしっかりと敵艦載機群を鋭く睨んでいた。

 

「ねえ、副長」

「はい、秋月艦長」

「長波さんのああいう肝の座った所ってどう?」

それを聞いた副長は、

「まあ、陽炎さんたちや夕雲さん達は、雷撃殲滅戦を想定していますから、あれ位肝が据わっていないと出来んでしょう」

「そう言えば きりしまさん達が、彼女は大成するって言っていたけど、あの姿をみると納得するわね」

そんな会話をしていたが、モニター越しに 陽炎が「長波!」と呼び出した。

急に呼び出された長波は、慌てながらも

「はい、陽炎教官」と答えたが、陽炎は一言、

「見えてるわよ、下着」と呟いた。

 

「へっ?」と変な声を出しながら、下を見る 長波。

胡坐をかいていたせいで、スカートがまくれあがり、健康的な太ももが露わになっていた。

秋月がモニターを見ると、由良を始め艦隊の全員、きりしま達も必死に笑いを堪えていた。

新しい 長波の伝説のページが刻まれた瞬間であった。

 

「深海棲艦艦載機群、距離 1万6千!!!」と大きな声で監視員が報告して来た

秋月は、呼吸を整え、一言

「各艦! 砲撃開始して下さい」

「右舷、砲撃戦! はじめ!!」

と副長が号令すると同時に、一斉に秋月の長10cm砲が火を噴いた

秋月の砲術長は、

「撃て、撃て!!! この秋月の長10cm砲 連合艦隊最速を誇る連射速度、しかと見るがいい!!」といい 部下の砲術妖精に発破をかけていた。

毎分15発の発射が可能な長10cm砲、しかしいくら可能とは言え、半自動装填機構の為、砲術妖精の練度は大変重要な要素である、日々の猛訓練はこの時の為にある!

4基8門ある長10cm砲が唸る!!

 

旗艦由良でも、由良が

「砲撃戦、始めます! 各砲、よく狙って……てーぇ!」

副長が、

「諸元的には、秋月にも負けん、旗艦由良の良いところを見せるぞ!」といい、指揮をとる。

前後及び右舷の14cm単装砲が敵艦載機群へ砲撃を開始した。

こちらは人力で給弾する、砲弾、薬嚢の装填、すべて人力だ、しかし、日頃の猛訓練の成果、こちらも決して負けてはいない、単装砲の利点、装填の速さを生かし、次々と、対空砲弾を打ち上げた!

由良の砲術妖精達は、

「おら、おら! 何時ぞやのお礼だ! 受け取れ! どんとこい野郎!」と叫び、対空砲弾を撃ちこんだ!

 

睦月は、艦橋で

「みんな、準備はいいかにゃ~ん♪」

「はい、艦長!!」と睦月の砲術妖精兵員が大声で返事を返した!

睦月は、ぐっと敵機を睨み!

「てぇえええ~い!!」と渾身の力を振り絞り 号令した

直後、睦月の12cm単装砲が 吠えた!

 

皐月も日頃の訓練の成果を見せようと、必死に対空砲弾を撃ちこむ

陽炎、長波も同じだ!

 

1万5千m先に 突然ぽつぽつと黒い花が咲き始めた。その花へ群がるように見える深海棲艦の艦載機群。

 

 

 

深海棲艦のSBDドーントレス隊の隊長は ここまで要撃機の攻撃を受けないことに、警戒感をました。

「おかしい、さっきの攻撃だけとは?」と思いながら前方を見た

泊地の艦艇が湾内から出て、こちらを迎撃しようとしているのが分かる。

入り江の外側に数隻の艦艇の黒煙が見える、全艦戦闘態勢だ。

それを見たドーントレス隊の隊長妖精は悟った。

「はは、完全に待ち伏せされたな。B-17は連絡が取れないんじゃない、撃墜された!!」

 

そう思った瞬間、突然前方で爆炎が上がった!

機体に物凄い衝撃が無数に襲う。瞬間、風防に無数の破片が突き刺さる!

ガン、ガンという音を立て、金属を引き裂く音が聞こえた!

「ぐわっ!!」と体に痛みが走る。機体が急に小刻みに震える。

「なっ、なんだ?」と思い、手元を見る。

そこには、無数の鮮血と原型を留めない手首。

腕が動かない。声を振り絞り後席員に声をかける。

「だっ、大丈夫か?」

しかし、後席からの返事はない。

ようやく自分がやられたという事に気が付いた。

操縦席に黒煙が舞い込んできた。エンジンが火を噴いている。

薄れゆく意識の中で、

「次も、空を飛べるといいな」と思いながら意識が消えた。

 

隊長のドーントレスは、黒煙を吐きながら、ゆっくりと降下し、右にきりもみに入りながら、海面へ真っ逆さまに吸い込まれた。

泊地へ侵入しようとしていたドーントレス隊は、由良、秋月、睦月、皐月の集中砲火を受け、次々と黒煙を吐きながら叩き落とされていった。

ある機体は、直撃弾を受け爆散、ある機体は散弾が燃料タンクを直撃し瞬時に爆散した。

秋月は 次々とレーダー情報画面から消えるドーントレス隊を見ながらも、一喜一憂する事無く、冷静に、

「睦月さん、皐月さん 右2修正 上げ1修正」と砲撃位置の修正を行った

「由良さん、そのままの諸元で続けてください、あと3機です!」

秋月、由良組は、ほぼドーントレス隊を駆逐しつつあった。

睦月、皐月組も同じく側面から飛行場へ向うドーントレス隊を襲い、あと数機を残すのみだ、

 

陽炎、長波組も低空で進入するTBD雷撃隊へ砲撃を開始していたが、陽炎達が砲撃を開始した直後、なんと雷撃隊は3つに隊を分離した。

分離のタイミングと砲撃のタイミングが丁度あい、上手く砲撃が出来ないでいた

分離した1隊は真っ直ぐ陽炎達へ向いもう1隊はその奥に待機していた鳳翔達へ、

そしてもう1隊は迂回しながら泊地内部へ向った

 

モニター画面を見ながら秋月は、

「何!」と言いながら、

「陽炎さん、長波さん! そのまま正面の雷撃隊を叩いて!」

「秋月! でも泊地に侵入される!」と 陽炎が叫んだが、

「大丈夫、泊地内部には、艦艇はいない!」と答えた。

 

高度20mほどまで降下した雷撃隊の1波の4機は 必死に陽炎、長波の砲火を潜り抜けたが、2000m程手前で全機撃墜された。

なかなかしぶとい雷撃隊に、陽炎は、

「しつこい男は嫌いよ」と言い放った。

陽炎、長波の砲火をくぐり抜けた雷撃隊の最後の小隊4機は、追従する長波の対空機銃を躱しながら、後方で待機するきりしま、鳳翔、瑞鳳達へ向った。

 

きりしまは、落ち着き、

「右舷対空戦闘! 主砲、CIWS対応」といい、きりしまの主砲が砲撃を始めようとした時、最初に砲弾を雷撃隊に浴びせたのは、鳳翔の右舷14cm砲であった。

鳳翔の右舷14cm砲の砲座

そこには、真新しい砲弾を抱えた砲術妖精を従えた、鳳翔自身がしっかりと襷をかけ、手に指揮棒をもち仁王立ちで待ち構えていた。

鳳翔は、指揮棒を向ってくる雷撃隊へ向け、

「右舷、砲戦! 撃ち方はじめ!」と叫ぶ!

右舷前後にある2門の14cm砲が火を噴いた!

「撃て、撃て!!! 鳳翔砲術妖精の意地の見せどころだ!!」と動きまわる砲術妖精

その横で、指揮を執る鳳翔

 

その姿を見た、きりしまは

「砲雷長、主砲、CIWS 発砲待て!」

「えっ 艦長!」と慌てるきりしま砲雷長

「大丈夫、あの4機は落ちるわ」

きりしまは、メガネを直しながら、冷静に語った

 

次々と低空を飛行する雷撃隊の前方に対空砲弾が炸裂した。

1機、また1機と黒煙を吐きだし、海面に激突した。

あっという間に3機が撃墜された、最後の1機はいたたまれないのか、進路を替え、離脱し始めたが、

その時、瑞鳳の甲板上から一筋の白煙が、離脱する雷撃機へ向け突き進んで行った!

その白煙と雷撃機が交わった瞬間、雷撃機は爆散した!

 

空母瑞鳳の甲板上には携SAMの発射機を担いだ、瑞鳳がいた。

 

「やった!!! 撃墜!!!」と言い、甲板上で飛び跳ねながらはしゃぐ 瑞鳳。

その横で、機銃妖精が、

「艦長! それ俺達が貰ってきたんですよ!」というと、それにはお構いなく瑞鳳は

「これ、か、い、か、ん!」と言いながら、機銃妖精へ振り返り、

「ねえ、これまだある?」

「艦長?」

「ふふ、これいいわ」と不気味な笑みを浮かべていた。

 

きりしまは、その姿を監視モニターで見ながら、

「ここの空母娘はどうなっているの?」と頭を抱えた。

 

そうしているうちに、迂回した最後の雷撃機隊の4機は低空で泊地内部へ侵入

散発的に泊地の内部から対空機銃が上がってくる、高度を抑えて侵入したが、

湾内には殆ど艦艇がいない!

「くそ、湾内には艦艇がいない!!」雷撃機の小隊長は怒鳴ったが、よく見ると湾の一番奥に1隻の艦艇の姿が見えた。

「重巡だ、修理中か! あれでいい、頂く!」といい、その艦影めがけ進路を取った。

 

雷撃機4機は、工廠前の岸壁に接岸されている大破状態の 鈴谷へ向い突き進んで来た。

鈴谷の船体は現在浮きドックに乗せられて、砲塔や高角砲などの兵装が全て撤去されている。

このままでは、浮きドックごと、いい的になる筈であったが。突如 工廠前の岸壁から、

凄まじい対空砲火が、雷撃隊へ浴びせられた。

 

「撃て! この鈴谷には近づけさせるな!!」

鈴谷副長は、射撃指揮棒を持ち、鈴谷から降ろした25mm連装機銃4基が並ぶ戦列の前に立ち、叫んだ!

岸壁には、鈴谷の乗組員妖精が、土嚢を積み上げた対空機銃砲座を作り、待ち構えていた。

 

「いいか!艦長は、今!こんごうさん達と頑張っている、留守を預かるこの俺達で鈴谷を守る!」

「おう!!」と声を上げ、進んでくる雷撃隊へ向け、猛烈な機銃を浴びせた。

 

「打ち払え!!!」と叫び指揮棒を振るう鈴谷副長!

必死に射撃ペダルを踏む機銃妖精、弾倉を次々と交換する機銃妖精。

「うおおおおお!!!」と叫びながら発射ペダルを踏む!

低空を雷撃の為侵入していた雷撃隊は、複数の銃撃を集中的に浴び、遂に1機、火を噴いた。そしてもう1機、黒煙を吐き出した。

「手を緩めるな!!」と鈴谷副長が、叱咤した

 

「弾、弾もってこい!」と叫ぶ機銃妖精!!

後方に待機していた妖精兵員が木箱を必死に運ぶ。

対空機銃としては、25mm連装機銃は、旋回性能や発射速度、照準方法などに、問題を抱えていたが、丈夫で扱いやすい機銃として日本海軍に幅広く採用されていた、日本の対空機銃の顔である。

その25mm連装機銃が4機 岸壁から鈴谷へ向う雷撃隊4機に集中砲火を浴びせた。

火を噴いた先頭の機体は、そのまま海面に突っ込み、黒煙を吐きながらもう1機もバランスを崩し、遂に海面へ落ちた。

「あと一息だ! 手を緩めるな!!!」と副長が叫ぶ!

 

後少しで雷撃点という所で、残りの2機は、一旦右方向へ進路を変えた。もう一度やり直すつもりだ、

機銃群もその動きに追従しようとするが、高速で旋回する雷撃機について行けない!!

「くそ!!!」と機銃妖精が叫ぶ!

 

腹を見せながら低空を急旋回する雷撃機

突然 「ブウウウウッ」と独特の音を立て、凄まじい銃弾が、低空を飛び去ろうとする雷撃機2機へ浴びせられた。

鈴谷副長が、振り向くと、後方で待機していた、陸自隊員妖精が操作するVADSが火を噴いた。

短く、2秒ほど射撃をしたと思うとすぐにやめ、照準を修正し、短い射撃を繰り返す。

しかし、その周りには、ガラガラと大量の薬莢が吐き出される。

昼間でもはっきりと20mm弾の航跡が分かる。

 

次の瞬間、逃走した2機の雷撃機は、空中で粉々になった。

まさにそう表現するのが一番分かりやすい。

最初の1機は主翼を叩き折られ、いくつも部品をまき散らしながら、そのまま海面へ突っ込んだ、もう1機も不用意に見せた胴体下部へ集中砲火を浴び、胴体下部へ吊り下げていた魚雷が誘爆、正に粉々に砕け散った!

 

墜落した機体を見ながら、鈴谷副長は、隊員妖精へ、感謝を込めて敬礼した。

それを受け、VADSを指揮する小隊長が、不動の姿勢で答礼した。

VADSの要員も皆答礼してくれている。

 

鈴谷副長は、

「すずや艦長は今、あんな立派な方々の元で研修されている、自分達もしっかりとせねば!」と心に思った

 

秋月は、慎重にきりしまから送られてくるレーダー情報を見ている。

次々と画面から反応が消える。最後に湾内に侵入した4機は、鈴谷さんの副長と自衛隊の部隊が仕留めてくれた。

 

画面上に、対空脅威目標がない事を再度確かめ、

「各艦へ通達! 対空脅威目標を全機撃破しました! 再度全周警戒を実施して下さい!」

 

各艦の見張り員妖精が一斉に、周囲を警戒する。

どの艦からも異常の報告がない。

 

秋月は、姿勢を正し、モニターに映る由良へ

「対空指揮艦 秋月より、旗艦由良へ 対空脅威目標 全機撃破しました、周囲に脅威目標はありません」と報告した

由良は、笑顔で、

「はい、秋月ちゃん、お疲れさま 艦隊指揮を引き継ぎます」と言いながら、

「各艦、損害報告!」と続けた

 

「およ、睦月は大丈夫!」

「皐月、僕も異常なし!」

「陽炎、完了よ!」

「長波! 大丈夫です!」

 

鳳翔は、ゆっくりと一礼して、

「鳳翔 問題ありません」

その姿をみた由良は

“やっぱりこの方は一枚上手です”と思った

画面を移し、瑞鳳は

「瑞鳳やりました! 撃破です!!!」と未だに興奮冷めやらぬようだ。

 

由良は最後に自衛隊艦隊の指揮を執ったきりしまへ

「きりしまさん、其方は?」

きりしまは、メガネを掛け直して 一言

「被害ありません」

 

深海棲艦の艦載機32機は遂に1発の爆弾、魚雷、機銃も撃つことなく全機撃墜された。

 

由良は 艦長席のモニターを切り替え 泊地司令部の簡易指揮所の提督を呼び出し

画面に映る泊地提督へ

「提督さん、対空脅威目標 全機撃破しました、此方の損害はありません」

それを聞いた提督は、

「由良、パーフェクトだ!」

 

「はっ、はい」と慌てて返事をする由良であったが、急にモニターにあかしが映り、

「由良さん、そういう時は“感謝の極みです”って答えるんや!」と突っ込んだ。

それを聞いた きりしまが、

「あかし、そう言う“アニメネタ”は こんごうと二人の時だけにしなさい」

「は〜い!」

状況が呑み込めずきょとんとする 由良。

 

泊地提督は、由良へ

「由良、艦隊をまとめろ、第2段階の敵深海棲艦の侵攻部隊迎撃戦へ移行する!」

 

由良は

「はい、提督さん!」と返事をし、

「パラオ泊地艦隊、これより深海棲艦 侵攻部隊迎撃戦へ移行します!」と返事し

「各艦、集結!」と指示を出した

泊地後方で待機していた、鳳翔、瑞鳳も ゆっくりときりしま達から離れ、由良達へ合流する進路を取った。

 

きりしまは、簡易指揮所で待機している自衛隊司令へ、

「司令、泊地防空戦終了しました」と静かに報告した。

司令は、椅子に掛けたまま、

「きりしま、よくやった」と答え、

きりしまは、

「はい、司令」と静かに答えた

司令は、

「さて、きりしまはそのまま由良さん達と深海棲艦の主力艦隊迎撃戦へ移行してくれ、はるな、あかしは泊地の警戒だ」

 

それを聞いたきりしまは、

「はい、きりしま 艦隊迎撃戦へ移行します」

そう言うと、留守役のはるなへ

「はるな、じゃ行ってくる」

するとはるなは

「きりしま」と声を掛けた

「なに?」

「反省会のお茶請けのお菓子は何がいい?」と聞いてきた

きりしまは、少し考え、

「じゃ、スコーン」

「うん、用意しておく、こんごう達に宜しくね!」

 

きりしまは 笑顔で

「まかせなさい」といい、由良達の後を追った

 

 

同じ頃 パラオ泊地北部海域 400kmを進む敵前衛艦隊

その上空には 動向を監視するE-2J“エクセル04”

エクセル04は、直近の前衛艦隊と空母艦隊、後方の戦艦ル級を中心とした打撃、上陸部隊を監視していた。

高度1万5千を飛行するエクセル04の下、7,000mの空域にはMQ-9リーパーが控え、

前衛艦隊と空母艦隊を映像監視している。

 

リーパーからの監視映像で前衛艦隊の布陣は、リ級重巡1、ホ級軽巡2、ロ級駆逐艦2、イ級駆逐艦2隻の計7隻と分かっている。

戦術士官は、リーパーの情報をいずも、そして前衛艦隊迎撃へ向うこんごうに、送信していた。

士官は、映像を見ながら、

「指揮艦はリ級か、レーダー装備艦だな。後のホ級は対潜強化型だな、イ級2隻で潜水艦対策か。残りのロ級は」といい、画像を拡大した。

「高いマストにレーダーアンテナ、こいつら2隻がピケット艦か」

大型レーダーアンテナを装備した、特徴的なロ級のマストが映った。

「リ級重巡は、装甲が固い、前回の戦闘でも結構手間取ったと聞くが、こんごう艦長はどの手でくるか、お手並み拝見といこう」そう言いながら、レーダー画面を睨んだ

こんごう達との相対距離は200kmを切っていた。

 

 

トラック泊地 戦艦 三笠 士官室

宇垣、大和、そして 長門はモニターに表示された 由良からの報告メールを見て絶句した。

「82機の艦載機を全機撃墜、当方損害なし! これが本当なら物凄い戦果だぞ」と宇垣が唸った。

金剛は きりしまから別のメールを貰っていた。

「三笠様、きりしまちゃんから報告デ〜ス! まず戦闘機群は いずも航空隊6機が30機すべて撃墜。艦爆隊の半数20機は、鳳翔と 瑞鳳の零戦隊18機で撃墜デス!」

と 金剛は上機嫌で報告した。

「ほう、鳳翔達も頑張ったな」と山本。

「残りの艦爆、艦攻隊は、泊地艦隊 由良以下の艦隊群で迎撃し、全機撃破デス。きりしまちゃんたちは1発も撃たなかったそうデス」

「おっ、自衛隊は撃たなかったのか?」と山本が聞いたが、

「撃たなかったのではないな、撃つ必要がなかったという訳じゃな」

「Yes!」と元気に答える 金剛。

 

「どういう事です 三笠様!」と 長門が聞いてきた。

すると 三笠は、

「由良達が新しく装備した、接近信管付調整破片弾の威力は凄まじいからの。この 三笠にも装備しておるが、今までの対空砲火の常識を覆す代物じゃ」

「どの様な物なのですか?」と 大和が聞いてきた。

すると金剛が、

「大和、これデス!」と 由良達が装備した接近信管付調整破片弾の断面図をモニターに表示した。

 

「榴散弾に似ているな」と宇垣が言うと、

「まあ、原理は同じものじゃよ」と 三笠が答えながら前に出て、

「これが、由良達パラオ艦隊が装備した接近信管付調整破片弾、別名散弾砲弾という。

弾頭部分におよそ1,000個近い硬質球が入っており、これが敵艦載機群の前方で炸裂、爆発の運動エネルギーを使い、無数の硬質球が敵機を襲う。

そしてこの砲弾の肝となるのがこの接近信管、別名VT信管というそうじゃ」

「VT信管?」

「難しい原理はさておき、簡単に言えばこの信管は発射後、この信管の先頭部分から微弱な電波を発し、敵機に近付いた際、自動的に信管が作動する」

それを聞いた 長門が、

「ちょっと待って下さい。では測距後の諸元計算を元にした信管作動時間の設定が要らないという事ですか!」

すると 三笠は、

「その通りじゃよ、長門。要は正確に砲弾を敵艦載機群の前方へ投弾するだけでよい。そうすれば間違いなく起爆する。由良達の様な旧式の砲とて連射速度さえ確保できれば、有効的な弾幕形成が可能じゃ。これなら遠距離でも正確に砲撃できるじゃろ」

すると 大和は、

「あの、三笠様。パラオの方にお願いして私や 長門さんの砲用の信管も製作できないでしょうか?」

「大和、46cm砲用にか?」と山本が問いただした。

「はい、主砲、副砲の零式通常弾、三式弾では 遠距離対空砲撃の際、精度不足の為効果が薄い事が分かっています、しかしその信管を使えば、確実に敵前面で起爆 そうなれば零式通常弾、三式弾ともに今まで以上の効果を期待できます、これなら今すぐにでも対応できます!」強く力説した

すると三笠は、ニコリと笑い、

「安心せい大和、既にあかし殿が各砲用の図面を書いておるとの事じゃ、マーシャル群島作戦には間に合わんかもしれんが、時期がくれば装備できるぞ」

大和は

「ありがとうございます!」と嬉しそうに返事をしたが、

「大和 礼は儂ではなくパラオの自衛隊艦隊の皆へ 言うのじゃぞ」

「はい」

 

山本は 戦況モニターを見ながら、

「三笠、このモニター表示では、8機雷撃機が、初期対空砲火をくぐり抜けているな」

「そうじゃの、まだ詳しい状況が分からぬが、半分は鳳翔と瑞鳳が落としておるの」

すると長門は、

「鳳翔と瑞鳳ですか? 対空機銃位しかまともな対空兵器は無かったはずですけど」

すると、金剛が

「きりしまちゃんから、こんな写真が来てマス!」と2枚の写真を投影した。

そこには、右舷側舷で、指揮棒を振るい指揮を執る鳳翔の姿、もう1枚は、甲板上で携SAMの発射機を担いだ瑞鳳の写真であった。

それを見た三笠は、

「鳳翔は、何をしているのじゃ」と聞くと

「多分 砲撃指揮ですね、あの方意外と武闘派ですから」と末席の大淀が答えた

「まったく」と呆れる三笠であるが、当の本人も露天艦橋で砲撃指揮を執る武闘派筆頭である事は周知の事実である。

「瑞鳳が担いでいる、丸太の様なものはなんだ?」と宇垣が聞くと、

金剛は、

「これデスネ」と携SAMのデータを表示した。

「携行式防空ミサイル?」と不思議がる大和達

「大和、これは小型の噴進弾に誘導装置を付けた物ですね、小型軽量なので、瑞鳳でも使えマス!」

 

その姿を見た宇垣は

「瑞鳳も、だいぶ様になってきたな」呟いた。

 

山本は、末席にいる大淀へ

「大淀、すまんがパラオの提督へ、防空戦の詳報を早い段階でまとめておいてくれと伝えてくれ、それとこの件に関しては」

すると大淀は

「はい、既に関係各所に箝口令を引いております、パラオは今日も平常運転です」

 

すると三笠が

「これが、パラオの平常運転なら、大変な事じゃな」と笑いながら話した

 

暫し間を置き、

「由良達が動き出したな」と言いながら、三笠はモニターを見た。

そこには、湾の外周部の洋上で、艦隊を再集結させるパラオ泊地艦隊と、殿でそれに追従するきりしまのブリップが映っていた

 

「では、攻勢へ転じるか?」

「ああ、イソロク、既にこんごう殿達は1時間以内に前衛艦隊を攻撃圏内に納める、それを皮切りに一気に攻勢に転じるつもりじゃな」

山本は腕を組みながら、じっとモニターを睨んだ そこにはパラオへ向け進軍する3つの艦艇群、それを迎え撃つ、こんごう、ひえい組、先行するいずも、そして艦隊を編成し北へ向う由良以下のパラオ艦隊のブリップがあった。

 

「本来なら、圧倒的に不利な状況じゃが、どう戦う由良司令」と三笠は小さく呟いた。

 

そんな三笠達の直ぐ近くに投錨している複数の大型空母

その空母群を取りまとめる第一航空戦隊、別名一航戦 旗艦赤城艦橋横の見張り所でその男は、双眼鏡を片手に 戦艦三笠を眺めていた。

不意に後から、声を掛けられた、

「草鹿参謀長、どうなされました?」

振り返ると、そこには艦娘赤城と、航空参謀の源田が立っていた

「いや、今日は 三笠の動きが激しいなと思ってな」といい、再び 三笠の船体を双眼鏡でみた。

時折、地上司令部からの連絡員らしい兵員妖精が作業艇に乗り行き来きしているのが分かる。

赤城が、

「早朝から、大和総旗艦や副旗艦の長門さん、三笠様の秘書艦の金剛さんも呼び出されているみたいですし」

「そうだな、大淀や青葉まで呼び出されているしな」

「えっ! 青葉さんまでですか!」

「ああ、青葉は表向きは“普通”の重巡だが、裏の家業は参謀長付の情報収集艦だ」

すると、赤城は少し笑い、

「今や、裏のお仕事が本業化してますけど」

草鹿は、

「俺達や二航戦、五航戦、主な戦艦群、そして駆逐艦主力の二水戦に禁足令を出して待機させている所をみると、どこかで動きがあったか?」

源田は草鹿の横に立ち、

「パラオですかね、先日 西進する艦艇群を目撃したとイク達から報告があったという“噂”を聞きました」

「“噂”か?」

「ええ、真偽を確かめようと大淀に確認したのですが、“公式”にはその様な報告はありません!って素っ気なく言われました」

すると草鹿は、

「“公式”にはだろ?」

「そう言うと思って、帰投したイクを今朝見つけたので、捕まえて聞き出しましたよ」

「源田、何で釣った?」、

「参謀長、サイダーですけど」

「良かったな、ここで間宮羊羹なんぞ出したら、此れから情報の価格がウナギ登りになるぞ」

源田は笑いながら、

「おっ、そこは気が付きませんでした、さて“噂”ですか、肯定はしませんが、否定もしませんでしたよ、という事は」

「やはり、パラオか! しかしこのトラックをすっ飛ばしてパラオ侵攻とは、奴らも思い切ったな」

源田は、

「まあ、確かにパラオを抑えられると、こちらは完全に孤立しますからね、盲点でもあった事は事実です」

「それで、パラオは?」

それには、源田も、

「司令部で、色々と聞きましたが、特に動きがありません、と言うか綺麗過ぎる位に何も言って来ていないという感じです」

「あの」と言いながら 赤城が、

「実はその噂を私も聞いたので、大淀さんへ“私と 加賀さんで 鳳翔さんの援護に”と申し出たのですが」

「必要ないと言われたか?」

「はい、草鹿参謀長、“パラオはいつもと同じで、切迫した状況ではありません”という事でした」

草鹿は腕を組みながら、

「まっ、いいじゃねえか。長官も、三笠様も問題ないと言うなら」

「しかし!」と赤城が答えたが、

草鹿は、

「赤城、長官達にそう言わせる何かがパラオにはあるという事だ、あの“特務艦隊”の実力を計る良い機会だろう」そう言いながら、

「俺達はもうすぐマーシャル群島海域開放作戦がある、今の内にやるべき事をやろう、パラオが時間を稼いでくれている内にな」

「はい、草鹿参謀長」

草鹿は、

「そういえば、赤城、南雲司令と一緒じゃなかったか?」

すると赤城は困惑した表情で、

「実は、先程 軍令部の連絡将校さんがお見えになりました、私も秘書艦として同席したのですが、連絡将校さんが南雲司令とお二人だけで話したいといわれ」

「人払いされたか?」

「はい」

「まったく、軍令部の奴らは」と呆れながら草鹿参謀長は、

「源田、なんだと思う?」

「多分、マーシャル群島の件でしょう、陸さんからかなり圧力があったと、宇垣参謀長や黒島作戦参謀がぼやいていましたよ」

「なんで、陸がマーシャルの件で横やりを入れるんだ?」

「マジュロですよ、マーシャル群島の海域開放の際には、マジュロに一番乗りさせろと言っているらしいです」

「は〜あ! 一番初めに逃げ出しておいて、一番初めに帰るだと!」と草鹿参謀長は呆れた。

「まあ、陸さんも現地邦人を置いてけぼりにした手前、なんとしても名誉挽回したいんでしょうが、無謀ですよ。周囲には重巡艦隊が複数取り囲んで、手厚い防御です。島自体は無傷ですが近づくだけで大変な状態です」

「だろうな、事実上の人質だ、奴らがこの人質を楯にトラックに攻めてこんだけ、まだましだ」

草鹿は表情を厳しくして、

「うちの司令になんと言っているんだ」

「はあ、多分 陸の上陸部隊を上空から擁護しろという内容でしょう」

それを聞いた草鹿は、

「ふざけるのも大概にしろよな。マーシャルには今確認されているだけで、ヲ級やヌ級のeliteが4隻近くいる。それだけならこちらの 赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴で十分対応できた。しかし、最近ヲ級の新造艦が3隻も配属されたという情報がある。それに奥地のマロエラップには飛行場姫の基地があり、陸上機の運用が始まっているとの情報もあるんだぞ。そんなところへのこのこ行って、陸亀の上陸支援なんかしてみろ、いい鴨だぞ」

草鹿は、

「なあ、源田、元々そういう話はうちの司令じゃなくて、宇垣さんや黒島君にするのが筋だろう」

「はあ、自分もそう思うのですが、多分 けちょんけちょんに断られたんじゃないですか?」

「それで、うちの司令のところへ泣きついて来たという訳か!」

源田は少し困惑しながら、

「うちの司令、そう言う所は義理堅いですから」

草鹿は、

「まあな、あの方は航空戦には不慣れだが、艦隊司令としては優秀だ、それに司令の努力でこの一航戦を始め各航空戦隊の建制化もようやく進んだ、我々も第7駆逐隊の一部と最新鋭の照月達を迎え、ようやく艦隊らしくなった所だ、統帥部内部の権力争いに巻き込まれるのは御免だ」

草鹿は続けて、

「航空戦は 俺達にも未知の部分が多い、司令が不慣れなのは俺達が補佐する、それが参謀の仕事だ」

「はい、草鹿参謀長!」と源田は返事をした。

草鹿は、見張り所から、海面を見ながら

「しかし、パラオは大丈夫なのかね」と呟いたが、それには赤城が答えた

「参謀長、最近 西の海域、そうパラオの海から感じます」

「“感じる”?」

「はい、強い意志を」そう赤城は静かに答えた

続けて、

「真っ直ぐ、強く、そして優しい意思を感じます」そう言いながら、パラオのある西の空を見た。

草鹿も、源田もその赤城にならい、西の空を見渡した、ここから遥か2300km先、たった2300km先では、二つの意思が戦いを挑もうとしている。

 

新生パラオ艦隊、そして自衛隊艦隊の海の戦いは今 はじまろうとしていた

 

トラックでは静かに波の音だけが聞こえていた。

 

 

 




こんにちは スカルルーキーです
分岐点 こんごうの物語を読んで頂きありがとうございます。

今回、ふと思ったのですが、こんごうさんのシーンがありませんでした( ノД`)シクシク…
ヒロインのシーンの無い物語なんて、

次回はきっといっぱい活躍できるといいな〜

では 次回は「90式 撃て!」です

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