分岐点 こんごうの物語   作:スカルルーキー

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パラオの海で広げられる索敵戦

「敵艦 見ゆ!」

戦いの序盤戦は始まりつつあった



29 パラオ防空戦2 「敵艦 見ゆ!」

その知らせは、いずも達が帰還し、泊地司令部で上層部による検討会をしている最中に届いた。

泊地提督、由良、自衛隊司令そしていずもは 2階の泊地提督の公室で、ソファーに座り、由良の淹れたお茶を飲みながら、今日の防空訓練及びいずもへの零戦隊着艦訓練の反省会をしていた。

不意に、テーブルに置いたいずものタブレットが鳴り、メール着信の表示。

「失礼します」といい、タブレットを取りながら、メールの内容を確認するいずも。

そして、タブレットを横に座る自衛隊司令へ渡した。

メールを一読する司令

不意に口元に不敵な笑いが漏れる。

それを見た泊地提督は、

「来たか!」と声に出し、身を乗り出す。

「ええ、三笠様からの連絡では、戦艦ル級を含む艦隊が、トラックの哨戒圏をすり抜け、

西進しているとの事です」

「空母は?」

「記載がありません、多分別行動でしょう」

「別行動?」

それにはいずもが答えた、

「この時代の深海棲艦は、艦種毎に行動する事を好む傾向があります、戦艦は戦艦、空母は空母の仲間同士という感じです」

「はは、まるで近所の友達同士といった感じだね」と提督が返すと、

「実際 そういう感じだったそうですよ」といずもが返す。

泊地提督は、

“彼女は、あの北方棲姫の娘、彼女の持つ深海棲艦の知識、今は頼りになる”と内心思いながら、

「問題は何処に集結するかだな、由良地図をくれ」

由良は自分の執務机の上にある、衛星写真を取り出しテーブルへ広げた。

 

いずもが、

「山本長官や三笠様からのお話では、トラックの哨戒圏に巧に穴を作り、その入口で潜水艦を待機させて監視しているそうです」

「ほう、イク達かい、獲物が目前をゾロソロと行くのをじっと見てろってのは、可哀想だな」

「しかし提督さん。イクちゃん達が攻撃してしまっては、ここが囮になっておびき寄せる意味がなくなりますよ」と 由良は笑いながら話したが、

「三笠様が、“今回は哨戒のみ”ときつく厳命しているそうです」

すると由良が、

「言付けを破った時のお仕置きはやっぱりあれですか、いずもさん」

「由良さん、それはあまり考えたくないお仕置きですね」と艦娘二人にしか分からない会話をしながら、泊地提督と自衛隊司令はじっと衛星写真を見て

「どこに集結すると思う? 司令」

「はい、提督 理想はトラックとパラオの中間点、しかしここは グアムに近すぎます」

「するとパラオの北部海域からフィリピンよりの海域が怪しいか」

「目撃地点から、おおよその位置を考えると、今トラックの手前あたりです、

この付近に接近するまで早くて2日、途中で空母群と合流するならもう数日です」

と衛星写真の上を指でなぞっていく。

「う〜ん」と腕を組み、右手であごをさする泊地提督。

「もう少し情報が欲しいな」と提督が言うと、司令が、

「いずも、ホークアイはもう航空基地から使用できるのか?」

するといずもは、

「はい、昨日から運用出来るようになりました、現在601飛行隊から2機派遣して待機しています」

「明日の朝から、交代でこの北部海域を中心に索敵してくれ、こんごうとひえいに待機指示を」

「はい、司令」というと、いずもは再びタブレットを取り、第601飛行隊とこんごう、ひえいに指示書を手早く作成し送信する。

 

「そう言えば、司令 自衛隊のお蔭で、パラオ飛行場は、正式にパラオ航空基地へ格上げになったよ、ありがとう」と提督が言うと、

「はい、陸自の隊員が頑張りました、1500mの簡易コンクリートの滑走路に関連施設、何とか早期警戒機が地上運用できる所まで整いました」

「鳳翔、瑞鳳の航空隊も大変喜んでいます、特に瑞鳳ちゃんは大喜びですよ」

と由良が言うと、

「ほう、瑞鳳が?」

「ええ、提督さん、今までの丸太小屋の管理棟から、冷房付の管理棟になりましたし、小さいですけど、瑞鳳ちゃんの管理主任室までありますから」

 

「冷房付なのか! 由良」と驚く提督

「私も 昨日行きましたけど、快適でしたよ、ここよりいいかもしれませんね」

提督は自衛隊司令を見て、

「済まない、そんな高級な物まで付けてもらって」

 

すると司令は、

「いえ、そんな大げさな物でも。元々は横の管制塔の上にあるレーダーの制御装置を冷やす目的で大型の空調を設置したのですが、施設隊が気を利かせて横の管理棟も繋げただけです」

由良が、

「瑞鳳ちゃんの副長が、“艦長が帰ってきません!”って泣いてましたよ」と笑った。

 

泊地提督は、再び衛星写真を見て、

「マーシャルは餌に食いついたな」

「ええ、あれだけ通商破壊の潜水艦群やル級やリ級を含む軽空母群を叩きましたからね、それにこちらの損害無しとなれば、奴らの注目度も上がります」

いずもが、

「深海棲艦は、より強い群体に対し興味を向ける習性があります、自分よりも強い敵を倒し、自分の所属する群体の中での地位を上げる、昔の戦国時代の武家思想です」

「我々はその強敵と認識されたわけだね」

「ええ、提督、そう見るべきです、これから近海の深海棲艦の注目の的ですよ」

すると提督は、

「人気者はつらいな」と渋い顔で答え、横へ座る由良へ、

「由良、明日の朝、近隣の集落の族長への使者を出してくれ、空襲と戦闘が予想されるので、以前からの打ち合わせ通り、警報が出たら森へ逃げ込むようにと」

「はい、提督さん」

「それと、族長の長と自治政府の首長には俺から話す、車を手配しておいてくれ」

「わかりました」といい、由良はソファーを立ち、執務机の電話を取り、ハンドルを回して、交換手を呼び、車両係を呼びだし、車を手配した。

そんな由良の姿を見ながら提督は、

「司令、マーシャルは食いついたが、ラバウルはどうだろう? ここ数日動きがない」

「はい、多分マーシャルの艦艇群の集結を待っているのではないでしょうか、集結後、

昼間強行偵察、爆撃目標の選定、作戦決行日時の設定という運びではないでしょうか」

すると泊地提督は腕を組み、

「司令、ラバウル、もしくはマーシャルの艦艇群の単独攻撃っていう可能性は?」

「それは十分考慮すべき事態ですが、その場合は 各個撃破で対応します、出来ればこちらは パラオで待ち構えて、攻めて来た所を一網打尽に出来ればいいですけど」

提督が、

「ラバウルの状況が分かれば、作戦も立てやすいのだが」と呟いた時、司令が

「では、少し覗き見しますか?」

 

「覗き見?」と不思議がる泊地提督

司令は、

「いずも、リコン仕様で出せるか?」

「はい、問題ありません、明日は鳳翔さんの艦爆、瑞鳳の艦攻隊の着艦訓練を予定していますので、その際に」

 

「司令、何をする気だね」と泊地提督が聞くと、

「まあ、明日の今頃にははっきりします」と口元に笑みを浮かべた。

 

 

翌日、護衛艦いずもは、睦月、皐月を引き連れ、鳳翔の99艦爆隊、瑞鳳の97艦攻隊の着艦訓練を行うべく、パラオ東部海域を航行していた。

いずもは、今日の訓練の随行艦は睦月と皐月にお願いした。

確かに 陽炎型や新鋭の 夕雲型に比べれば火力も防御力も弱い駆逐艦であるが、燃費がよく使い勝手がいい。古いとはいえ、もっと旧式で勝ち気な駆逐艦娘も頑張っているので負けてはいられない。

まあ お伴にするには手頃な艦である

 

先頭は睦月

「睦月の艦隊、いざ参りますよー!」といい、朝からハイテンションである。

艦橋で、睦月は、

「見張り員、対潜警戒厳としてね、一応いずもさんのロクマルも飛ぶけど、やっぱり目視も大切です」

艦橋横の見張り所から

「は〜い艦長!」と元気な返事が帰ってくる。

 

「にひひ」とご機嫌な睦月

横に立つ副長が、

「艦長、ご機嫌ですな」

「副長、この艦長席、いいよ〜ん、固すぎず、柔らかずぎず、丁度いい感じ、何時間座っても疲れない」

と言いながら真新しい艦長席を堪能する睦月、

もちろん、簡易型のコミニュケーションシステムを搭載し、いずものFCS-3の対空レーダー情報やOPS-28の水上レーダーの情報も流れてきている。

ただ、睦月自体がこの画面の見方をまだ熟知していないので、今回はその訓練もかねていた。

副長が、

「艦長、変針点間違わないでくださいよ」

「およ? 大丈夫、ちゃんと画面にも表示されているし、それにね」と後方をみると、

航海長が天測儀を持って位置を割り出していた。

「これもいいけど、あれも大事よ〜ん」

 

次艦はいずも

今回は 鳳翔と瑞鳳本人達もいずもに乗艦し、自身の部隊の着艦訓練を指揮する。

そして、その後方には、皐月

「トンボ吊りなら、まっかせてよ! いずもさん!」とこちらも元気である。

 

早朝の出港から、数時間が経過した、もうしばらくすると、無線誘導された99艦爆や97艦攻が飛来予定だ、今回はパラオ航空基地からの飛来である、これは99艦爆や97艦攻に初歩的なVOR指示器を装備したので、その航法訓練を兼ねていた。

無論、いずもに搭載されているFCS-3(OPS-50)はパラオ基地を離陸した鳳翔、瑞鳳の攻撃隊をずっと監視し、時より音声誘導を実施している。

 

いずも飛行隊指揮所横の見張り所に立つ、いずもと鳳翔、そして瑞鳳は、いずもの持つタブレットに表示された、レーダー情報を見ながら、雑談をして過ごしていた。

鳳翔は前方を航行する睦月を見ながら、

「いずもさん、睦月ちゃんは、今日は張り切ってますね」

「ええ、最近 駆逐艦の話題は長波さんが独占してましたからね」

すると瑞鳳が、

「昨日の長波ちゃんのあくび事件は 面白かったですね、鳳翔さん」

「私も色々な子を見てきましたけど、彼女の様な肝の座った子は珍しいですね」

いずもは、

「でも、あのおかげで、緊張もある程度ほぐれてよかったです」

瑞鳳が、

「でも、あの後帰って、陽炎さんに“気合いが足らん”とか怒られてましたよ」

「そういう陽炎ちゃんもたまに会議で、お舟をこいでますけどね」と鳳翔が笑いながら話した。

 

甲板上では、先程から動きがあり、上空警戒に発艦するE-2Jが主翼を後方に折りたたんだまま、エンジンを始動し、いま正に発艦位置へ着こうとする真っ最中だった。マーシャラーの誘導でカタパルトレールの手前まで来ると、機体の直ぐ近くに居る緑色のジャケットを着たクルーが、前脚の後部に推進力によって機体が発進しない為のトレイルバーを取り付けた。

次に、前脚のローンチバーを下げる操作を行い、ロックされた事を確認すると、前方に立つ、マーシャラーに合図を送る。機体の周りでは、整備員妖精達が回転するプロペラに注意しつつ機体の最終点検を行っていた。

その動きを見る鳳翔と瑞鳳。

このE-2Jの機付長妖精がサムズアップをマーシャラーへ送りながら他の妖精達と一緒に機体から離れると、マーシャラーが再度誘導を始めた。細かく位置を調整し、カタパルトレールの末端に進入させて機体をレール上に乗せる。それを確認したマーシャラーは″停止″と″展開″を指示する。機体が止まると同時に、後方へ折りたたんでいた主翼が展開した。…するとそこへ、一人の隊員妖精が駆けて来た。彼は、発艦する艦載機の重量を記録し、それをパイロットに最終確認させる役割を行う"ウェイトボード・オペレーター"だ。彼らが射出される機体の重量を確認し、手にしたウェイトボードに設定してICCS(統合カタパルト管制ステーション)に掲げる事で、カタパルトの撃ち出し出力を調整する。同時に機体の後方では、″ジェットブラストディフレクター・オペレーター″が、艦載機が発艦する際に後方に向けて吹き出されるジェット排気を上方へとそらすジェット・ブラスト・ディフレクターを立ち上げていた。手にした黄色のコントロールボックスからJBDを操作する彼らは目立たないがとても重要な役割を担っている。

整備妖精が機体の回りで、最終点検に入る。

不意に鳳翔が、

「いずもさん、あのホークアイという機体は プロペラ機ですが音が少し違いますね」

「ええ、鳳翔さん あのホークアイは確かにプロペラ機ですが、エンジンは小型ジェットエンジン、皆さんには噴進発動機と言った方が理解しやすいでしょうか、小型ジェットエンジンを使い、減速機を介してプロペラを駆動しています」

「でも、いずもさん。それなら最初からF-35みたいに噴進エンジン積めばいいのでは?」と 瑞鳳が聞いてきたが、

「確かに、そういう機体もありますけど、ホークアイの任務は長時間対空して上空監視する事ですので、そういう任務にはプロペラ機が適任なんですよ、ジェットエンジンは小型で高出力なエンジンなんですか、急速な加速や減速に不向きです。おまけに燃料を馬鹿食いするんですよね、でも同じ大きさのレシプロエンジンより数倍の出力を出す事ができる、そこで、小型のジェットエンジンでプロペラをまわす、ターボプロップという方法を考えついたわけです」

「でも、速度は遅いですよね」

「ええ、しかし早期警戒機は速度よりも、滞空時間を重要視します、整備性も良いので、私達の時代でプロペラ機と言えば、この方法が一般的です」

鳳翔はホークアイを見ながら、

「あのプロペラも面白い形ですね」

「8枚のプロペラですよね、見てるだけで目が回りそうですね」といずもも笑いながら答えた。

ホークアイの点検が終了すると、甲板の前方から、小さな物がレールに沿って滑ってきた、ホークアイを打ち出す、カタパルトシャトルだ。

いずもは、日本が独自に開発したリニアカタパルトを採用した。

蒸気カタパルトか、それとも最新のリニアか? 設計陣は最後の最後まで議論したが、

日本お得意のリニア技術を生かす数少ない機会ととらえ、リニア式を採用した。

通常動力艦のいずもにとっては大変厳しい選択であったが、問題なく動作するまで試験を繰り返し、現在に至っている。

すると、先ほど前脚の位置で作業を終えて片膝をついていた緑ジャケットのクルーが少しだけ中腰になる。彼の役職はカタパルトのシャトルと機体を接続する際の責任者である″トップサイド・セイフティ・ペティオフィサー″だ。彼の任務は機体とカタパルトの誤差を僅か1cmにとどめ、接続が正しく行われている事を確認する。全ての行程を終え、機体の下から走り去る事によって発進の準備は完了する。シャトルがホークアイの前輪の前まで来ると停止。TSPは、マーシャラー・パイロットと連携しつつ機体をゆっくりと前進させる。そして、ローンチバーを固定するスプレーダーにくわえ込ませた。

約15秒という早さで作業を終えると、流れるように状態を素早く点検し、サインを出しながら機体から離れる。

マーシャラーがエンジン出力を上げるようハンドサインを出し、発艦準備に入る。

カタパルトクルーがパイロットに″フルパワー″のサインを出し、最後の確認を各飛行隊に所属する航空機の安全管理・検査を担当する下士官である″スコードロン・プレーン・インスペクター″、通称"トラブルシューターズ"が行う。白にチェックの入ったジャージを着込む彼らは"チェッカーズ"とも呼ばれ、彼らがパイロットと共に機体を点検し、機体の後ろで親指を立てて異常なしを告げない限り、機体が空を飛ぶことはない。彼らが親指を立てたと同時に、パイロットがフライトコントロールチェックを終え″準備良し″の敬礼を送る。そして、

安全であることを確認したシューターが、腰を落として片腕を前に出す。 ″射出″の合図だ。

次の瞬間、ICCSのオペレーターが射出ボタンを押し、ホークアイは一気に加速して、甲板から放り出された。

 

この間、僅か数分の出来事である。

これ以外にも既に上空にはCAP(戦闘空中哨戒)の為 F-35、2機が対空装備で待機している。

鳳翔は、

「いずもさんの甲板要員さんは、いつ見ても動きがよろしいですね」

「褒めて頂きありがとうございます、でもまだ訓練不足な所もあります」

そう話していると、前方のサイドエレベーターがせり上がり1機のF-35が出てきた。そのF-35は、いつも見慣れたF-35ではなかった。

 

瑞鳳が、

「鳳翔さん、見て下さい、あのF-35! 何か一杯ぶら下げていますよ!」

「いずもさん、あの主翼の下にあるのは、増槽ですか?」

「ええ、鳳翔さん 428ガロン入りの外部燃料タンクを装備させています」

すると、瑞鳳は唸りながら、

「え〜と 1ガロンは確か3.8Lだから… えっあれ一つで1600Lも入るの?」

「そうなりますね、胴体内部の燃料と合わせて9000L近く入っていますね」といずもが答える。

「9、000L! よくそれだけ積んで飛べますね」と驚く瑞鳳

「余裕ですよ」と笑顔のいずも。

 

鳳翔が、

「あの機体、いつもと違って、胴体の真ん中に何か釣っていますね、タンクではないようですが」

甲板上をトーイングタグに引かれ、エレベーターから駐機エリアへ移動するF-35のセンターハードポイントには、明らかに増槽と形状の異なるタンクの様な物が吊るされていた。

 

するといずもが、

「流石 鳳翔さんですね、あのF-35は 別名リコンライトニング2と言います」

瑞鳳が、

「離婚?」

それを聞いたいずもが、吹き出しそうになりながら、

「瑞鳳さん、発音は同じでも、英語のrecon、偵察という意味です、偵察のリコンとF-35の愛称のライトニング2を合わせて、偵察仕様のF-35をリコンライトニング2と呼んでます」

「いずもさん、いまライトニング2っていいましたよね」と鳳翔が驚きを露わにした。

「ええ、そうです、F-35は皆さんの強敵、P-38を設計したロッキード社が作った機体です、このF-35Jはその機体のライセンス即ち製作権を日本が購入して、皮はF-35、中身はほぼ国産開発という日米共同開発機です」

鳳翔が、

「何かちょっと複雑な心境ですね」と言うと、

「比叡さん見たいな飛行機ですね」と瑞鳳が答えた。

「それ、いいですね」といずもは笑いながら話を続けた。

「あの胴体の下にある増槽のような物は、戦術偵察ポッドといいます」

「戦術偵察ポッド?」といい首をかしげる鳳翔と瑞鳳。

「まあ、簡単に言うと、あの中には、複数のカメラと逆探が組見込まれています」

「カメラと逆探ですか!」と驚く二人。

「ええ、あの機体で 敵の制空権下を高速で偵察させます、カメラは普通の静止画、赤外線映像など複数撮影できますし、後部は戦術電子偵察の機材です、敵の電探波や無線などの情報を受信して記録します、帰投後、それを分析して、電波妨害戦などで使うための資料とします」

 

駐機エリアでは、飛行士妖精がコクピットに座り、エンジン始動の為の準備に入る。

鳳翔は、

「いずもさん、敵の制空権下とおっしゃっていましたが、何処まで行くのですか」

するといずもは、平然と

「ラバウルですね」と答えた。

 

「ラッ、ラバウル!」

「いずもさん、ラバウルは此処からおよそ2300kmはありますよ!」と瑞鳳が驚いたが、

「そうですね、一式陸攻の偵察ならギリギリ、零戦なら片道の距離です」といずもが答えた。

「だって、今までだって幾度もラバウルを偵察しようとしたけど、此処からは距離があるし、トラックなら行けるってなったけど強力な防空体制で、近づいただけで制空戦闘機がわんさか上がってくるから中々偵察出来なかったんですよ」

「瑞鳳さん、あの機体なら問題なく偵察できますよ」と笑顔で答えた。

 

「いずもさん、確かに、F-35なら速度、上昇限界ともに現代の航空機では追いつく事もできないです、でも燃料は大丈夫なのですか? 以前お伺いした時は 約2200kmしか航続距離がないとおききしましたが」

「はい、鳳翔さん 確かに機内燃料タンクだけで2200km、増槽を積んで 4000kmに届くかどうかですので、帰りは彼をお迎えに向けます」といって駐機エリアに並ぶもう1機の航空機を指さした。

「あっ、オスプレイちゃんだ!」と瑞鳳は身を乗り出した。

どうやら、瑞鳳は、先日の陸自の車両運搬で航空基地に飛来したオスプレイが気にいったようで、いずもにオスプレイに関してあれやこれやと聞きまくっていた。

オスプレイは駐機エリアで 後部カーゴドアを開け、中に何やら積んでいる、数本のホースが後部カーゴドアへと延びている。

「お迎えという事は、何処かの島に着陸して、給油するのですか」と鳳翔が聞くと、

「そういう手もありますが、今回は空中給油を行います」

鳳翔と瑞鳳は顔を向き合わせ

「空中?」

「給油?」

いずもは、

「ええ、飛びながら、燃料を補給する作業です」

「飛びながら給油ですか!」と驚く瑞鳳、そして

「可能なんですか、そんな事?」と聞いてきたが、鳳翔は意外に冷静だった。

「実用化できたのですね、空中給油」

「鳳翔さん?」と瑞鳳が聞くと、

「昔ね、まだ航空機の航続距離が短い頃に、なんとか航続距離を伸ばせないか、色々と検討したの、落下式増槽もその一つなんですが、その中に空中給油がありました、しかし、技術的に難しいという事で検討されなくなりましたが、今でも航空技術者の方々は検討していると聞いた事があります」

いずもは、

「実際はこんな感じですよ」といいタブレットに F-35に空中給油するオスプレイの映像を流した。

そこには、オスプレイのカーゴルームから空中に伸ばされた給油ホースを機首に格納された給油パイプを展開して給油を受けるF-35が映し出されていた。

「凄い、本当に空中で給油してる!」と驚く瑞鳳。

「この方式はプローブアンドドローグ式と言って、給油機自体に大幅な改造をする必要がない方式ですね、海軍機などによく使われる方式です」

「今回も、陸自さんのオスプレイに給油機セットを搭載するだけで、輸送機が給油機に早変わりです」

「この方式の欠点は?」と鳳翔が聞いてきた。

「細かい欠点は色々とありますが、最大の欠点は受け取る方、給油される機体の操縦士には高い技量が求められる事です」

「やはりですね」

「どういう事です?鳳翔さん」

「瑞鳳ちゃんもたまには 97艦攻の後に乗るでしょう?」

「ええ、よその泊地に行くときとか、洋上で他の空母へ行くときなんかに」

「その時、隣を飛んでいる機体を見てどう思う?」

瑞鳳は、その時の事を思い出しながら、

「そう言えば、やけにフラフラするなって」

「そう、空中では お互いの相対位置を安定的に固定するのはかなりの技量を必要とするわ、空中でこんな小さいホースの先に給油口を差し込むのは大変な作業です」

するといずもは、

「他にこんな方法もあります」といい こんどは空自のKC46がF-15に給油する映像を見せた。

「すごーい! 飛行機に棒が突き刺さってる!」と表現した瑞鳳。

「これは、予想していませんでしたね」と鳳翔も驚いた。

「これは、フライングブーム方式という方法で、給油用のアームの先端に付いたⅤ字型の羽が空中でアームを自由に上下、左右に動かす事ができます、アームも伸び縮みするので、給油される方は、給油機に近付いて、じっとしているだけでいいという物です、ただ給油機は専用の装置を積む必要がありますので、大型の機体が必要なのと、お尻にあんなでっかい物を付けていますから離陸、着陸が難しいのが難点ですね」

 

そんな会話をしている内に、リコンライトニング2は、発艦位置へつく。

カタパルトシャトルにローンチバーがセットされる、同時に後方ではジェットブラストディフレクターが立ち上がった。

それを見た、鳳翔が、

「いずもさん、いつもの短距離離陸や垂直離陸ではないのですね」

「ええ、流石にあれだけ燃料を積んでいますので、今日は通常発艦です」

 

エンジンの出力が上がり、アフターバーナーが点火され一層轟音を響かせる。

パイロット妖精はクルーに敬礼し、両手を窓枠の手摺に掛け、操縦桿とスロットから手を離した。

最終確認を行ったシューターが腰を落として片腕を前に出した瞬間、

ICCSに待機する3佐がカタパルト起動ボタンを押した。

リコンライトニング2は一気に加速し、甲板上からパラオの海へ飛び出す。

 

少し機体が沈み込んだが、その後は急加速し、左上昇旋回をしながら、一路 ニューブリテン島ラバウル方面へと進空を開始した。

 

上空を飛び去る、リコンライトニング2を見送りながら、いずもは、

「では、きょうの訓練をはじめましょう」といい、見張り所の側面にある艦内電話をとり、

「飛行隊指揮所! 艦長です、これより、鳳翔艦爆隊ならび瑞鳳艦攻隊の着艦訓練を開始します」と告げた。

遠方に鳳翔と瑞鳳の艦載機がようやく見え始めていた。

 

 

 

そんな頃、パラオ航空基地では、昨日いずもへの着艦訓練を行った鳳翔の零戦隊が、昨日の反省から、地上基地での模擬着艦訓練を繰り返していた。

滑走路の端には、移動式光学着陸誘導装置が設置され、その横にはテント。

テントの下には、昨日いずものキャットウォークで潮風に吹かれていた空自妖精隊員がおり、今日は、炎天下のパラオ滑走路で無線機片手に椅子に腰かけていた。

ベテランの隊員妖精はパラオの暖かい気候の中、

「ああ、冷房付のモーボが懐かしいよ〜」と嘆いていた。

築城基地にいる時は、滑走路脇に移動式の着陸指揮所があり、

小さいが、冷暖房付で 風向風速計もあって便利だったな、隊の指揮所からこの滑走路脇のモーボまでは「見敵必殺」そしてなぜか「出前迅速」と書かれたオリーブドラブ色の三輪バイクで移動するのだが、誘導路をぶっ飛ばしていくのは爽快だったな、などと色々と思い出していたが。

因みに隊では、出前するのはMk82のJDAM弾である。

 

「アプローチ、鳳翔1番。request touch and go.」と無線が入る、

管制塔から、

「隊長、変に英語使わななくていいですよ、タッチアンドゴー許可します、進入開始」

すると、

「ちょっと雰囲気だよ、雰囲気!」という鳳翔隊の隊長の声が聞こえてきた。

 

着陸コースに乗る鳳翔1番機

ふと後に気配を感じ振り返りと、瑞鳳隊零戦隊の隊長と数名の若手の飛行士妖精が立っている。

「自衛隊の旦那 邪魔していいかい?」と瑞鳳隊の隊長が訪ねてきた。

「ええ、どうぞ」と横にあるパイプいすを勧める。

「済まない」といいながら、そこに座ると、後方の椅子に若手が座った。

「若い連中に、見せたくてな」といい鳳翔1番機を指さした。

瑞鳳隊の隊長は、若手の飛行士妖精に向かい、

「いいかお前ら、鳳翔隊は今でこそ、後方の予備戦力扱いだが、元一航戦、練度、経験値どれを取っても連合艦隊有数の部隊だ、いわばお手本だ、よく見ておけ」

「はい!隊長!」と一斉に返事がきた。

 

次々と着陸進路をとる鳳翔隊、4番機が進入してきたが、

「鳳翔4番、少し低い!」とLSOの隊員妖精が無線で怒鳴ると、即座に4番は進路を修正して、正規のコースへ戻り、

綺麗な3点姿勢を決めて、目前を通過した。

「お前ら、この姿勢を必ず守れ、これが出来ない奴は戦う以前の問題だ!」

「はい、隊長!」

それから、瑞鳳隊の隊長は、降りてくる機体1機、1機を見て、若手飛行士妖精に解説して聞かせ、そして、

「いいか、頭で覚えるんじゃない、体で覚えろ。着艦するとき、計器に頼りすぎると思わぬうちに速度が落ちすぎる事がある。風防前の見え幅と風を切る音を参考に今何キロで進入しているか判断できるようにしろ」

「はい!」と元気な返事がきた

 

そんな会話を聞きながら、パイロット妖精は、

“ああ、俺も航空学生の頃、T-7で教官にしごかれたな、今思えば懐かしい”などと思いつつ、

「いつの時代も、空を飛ぶ厳しさは変わりないか」と呟いた。

 

 

いずもを発艦したF-35は高度1万2千m付近を飛んでいる。

操縦席に座るパイロット妖精は、

「何もないと静かなもんだな」と呟いた。

普段日本国内を飛ぶときは、地上のレーダーコントロールから、あっちに向かえ、こっちに行けと四六時中誘導される。

あるパイロット妖精は、

「俺たちは“ラジコン”か?」とぼやいた事があるが、この次元ではまだこの高度を飛ぶ航空機はない。機上レーダーもまっさらで、何も映っていない。

時折、雲間からミクロネシアの海と小さな島々が映る。

機首下面に装備されたEOTS(電子光学照準システム)のIR情報と機上デジタルマッピングシステムのおかげでここまで来た。この世界にはまだGPSがない。INSだよりなので、時折現在位置を確認しながらの作業だ。

「そろそろマヌスか」と思い、高度を半分の6000mまで降下させる。

速度M0.8、高度6000をナビゲーションシステムへ入力すると、機体はゆっくりと降下を開始した。

その間に、センターコンソールの兵装システムを確認する、この高度と速度だ、いきなり地上からSAMが飛んでくる事はないと思うが、各種センサー類も確認。

同じく、戦術偵察ポッドのモードをオートに設定、こうしておけばINSで設定した場所の付近から自動で撮影が開始される、コンソールを操作しながら、

「時代の差だな」と呟いた。

「以前乗っていた RF-4Eは全部、手動だったしな、よく“無駄なフィルム使いやがって”って地上班におこられたっけ」

 

そう考えている内にマヌス島を飛び去り、目前にニューブリテン島ラバウルが遠目に見えてきた。

ここにきてようやく機上の警報装置RWRに、地上のレーダー波を感知し始めた。

「遅いお出ましだな」と思いつつも、機上のESM及び、電子偵察ポッドの状態をセンターコンソールで確認する。

今回は偵察だ、あえてECM対応をせずに通過する。

「さあ、ドンドン浴びせてこいよ」と言いながら、レーダー波情報を収集して回る。

「多分、地上じゃ今頃大騒ぎかな、鳥みたいな小さな物体が時速960kmで飛んでるんだ、UFOだな」

段々と強くなるRWR(レーダー警戒装置)の反応を見ながら、

「そろそろか」と右前方下を見ると 大きな陸地が近付いてきた。

そっと右手でサイドステックタイプの操縦桿を握る、

左手をスロットに乗せ、いつでも動かせるように構えた。

ヘルメットに一体化されたヘッドマウントディスプレイシステム(HMDS)が、刻々と変わる位置情報を投影している。

遥か後方に待機するE-2Jとリンク16が接続されている、HMDSに航法データが映し出されていく、

チラッとデジタルマッピングを確認、もうすぐラバウルへ突入だ!

都合のいいことに雲が切れた、いくらカメラの解像度が高いとはいえ、雲はやはりじゃまだ。

陸地に侵入した!

操縦桿に付属するプレストークスイッチを押し、

「SCULL recon、Feet Dry.」と告げ、陸地上空に入ったことを伝える。

リンク16を介した戦術データシステムを通じて、後方で警戒待機する、E-2Jの戦術士官から、デジタル文字通信で、「作戦続行」のサインが送られて来た。

 

「よし、突入だ」

機体中央に吊り下げた、戦術偵察ポッドが正常に稼働している事を確かめ一気に飛びきる、眼下をのんびりと眺める間もなくあっという間に目的地とおぼしき地点を通過し、再び、

海上へ出た、

「対空砲火一つもなしか」と思いながら、

「SCULL recon, Feet Wet. Mission complete RTB.」と無線で告げ、

機体をやや加速させ、一気に1万メートル近くまで登り、帰路の進路を取る。

「さて、上手く撮れてるかは、帰ってからのお楽しみだな」と言いながら、母艦いずもへの帰路に就いた。

 

 

同日 トラック島東海域

 

海面下数メートルの海の中、その艦娘はイライラしていた。

「イクの魚雷が、うずうずしてるの! 撃ちたいのね」といい、潜水艦 イ号19潜水艦の艦長イクはじっと潜望鏡を覗いていた。

 

横に立つ副長は、

「駄目ですよ、手を出したら三笠様のお叱りを受けます、それよりも陣立てはどうなっています?」

イクは潜望鏡を少し左右に振り、

「いい、空母が3、重巡1、軽巡2 駆逐艦が1,2・・・6なの」

それをメモする副長。

イクは潜望鏡から目を話すと、

「潜望鏡下げ、ダウントリム5、深度30まで無音潜航なの」

艦首が少し下がり、惰性で沈下するイ19。

少し、船体が軋む音がする。

深度30m付近で自動懸吊に入った。

副長が、

「追いかけますか?」と聞いたが、

「参謀長からは、そのまま待機って言われてるのね、蓄電池はどれ位もつの?」

「大体10時間程度ですけど、酸素濃度が厳しいですね」と副長が答えると

「大丈夫なの、やり過ごしたら、トラックへ報告するから浮上、皆もう少し我慢なの」

発令所の要員に安堵の笑みがこぼれる。

「通信、電文作成」と副長が命じたが、

「いいの、これはイクが自分で作るの」といい、艦長室へ向う。

艦長室といえば聞こえはいいが、2畳もない小さい部屋で、ドアはなく、カーテンで通路と区切られており、艦内で唯一、個人のベッドがある部屋でもある。

イクは部屋へ入るとカーテンを閉め、小さな机に座った。

机もイクの体に合わせて作られているので、傍目からみると、国民学校高等科の女学生が勉強しているとしか思えない姿である、ちなみに潜航中の艦内は暑い為、いつも水泳着姿なのは突っ込んではいけない。

 

まず元になる電文を作成。

「ワレ、深海棲艦の空母3、重巡1、軽巡2、駆逐艦6を担当海域で発見、西進する」

そして、机の引き出しから文庫本を取り出した。

題名は「吾輩は猫である」あの有名な夏目漱石の処女作である。

頁を開き、なにやらじっと読んでは、電文表に数字を書きこんで行く。

 

イクは文庫本を使った簡単な暗号電文を作成していたのである。

原理は簡単である、例えば「ワレ」、文庫本の中から、ワの文字を探し、何ページ目の何行目の上から何文字目、という感じで電文を作るのである。

仮に10ページ目の5行目の15文字目にワがあれば、「10、5、15」で「ワ」だ、

この方式なら、同じ文字でも、同じ数字が出てくる確率は低い。

これを考えたのは 大淀だ。

読書好きな大淀、艦娘寮の自室には大量の文庫本がある、そして自身の艦にも同じ本が並ぶ、文庫マニアでもある。

当初、宇垣は通常暗号でイク達と連絡を取る方法を考えたが、これでは暗号が解読されている現状では大変危険だ、本来なら暗号のコードブックを刷新する必要があるが、間に合わない、なにかいい方法がないかと思案していた所、大淀がこれを思いついた。

自室で読みかけの文庫本を自分の艦でも、続きが読みたいという事で両方に本を置いていたことがヒントになった。

 

今回は、イクには「吾輩は猫である」を渡し、他の子には別の本を渡している。

それを、大淀が一元で管理しているのである。

これが意外に潜水艦娘達には好評で、毎回新しい文庫本を渡して貰い、潜航中はそれを発令所で読んで時間を潰していた、まさか発令所要員も艦長が読んでいる文庫本が暗号コードブックだとは思いもよらない。

 

イク達は、深海棲艦、空母機動部隊が離れた事を確かめたあと、浮上し、トラックへ報告電文を送信、そして、また即座に潜航して身を潜め、

「ここはまだ、敵の哨戒圏なのね」とぶつぶつ言いながらイクは文庫本を読みふけっていた。

 

 

空母艦隊発見の報は、即座に大淀から三笠へ伝えられた、

そして、戦艦三笠経由でパラオ泊地へと伝えられたのである。

 

夕刻迫る頃、パラオへ帰港したいずもであったが、泊地外周部の自衛隊漂泊地へは入らず、少し沖合で巡回待機する事になった。

地上航空基地と合わせて E-2Jの監視体制を強化する為である。

いずも自身は 鳳翔達とロクマルに搭乗しパラオ泊地の司令部へと反省会の為帰ってきていた、提督に由良と鳳翔、瑞鳳を加えたメンバーで今日の反省をしている最中にその一報は入電した。

いずもは、入電した内容を整理し、簡易指揮所壁面の大型ディスプレイに表示した。

泊地提督は、

「出て来たな」と呟くと、

「ええ」と自衛隊司令もこれを受けた。

「しかし、この小さな泊地を無力化するには、余りにも大袈裟ではないでしょうか」

「鳳翔、確かに我々だけなら、空母の1隻もあれば無力化できる、しかし今は自衛隊もいる、ここ数週間、向こうが被った被害を考えると、これでも少ないくらいだ」と

泊地提督が答えると、

いずもは、

「では、整理させて頂きます」といい、画面を衛星写真に切り替えた。

「現在までに確認されているのは、戦艦ル級、及び重巡、軽巡 駆逐艦複数を含む、戦艦群、空母3、重巡1、軽巡2、駆逐艦6の空母打撃艦隊です」

泊地提督が、

「戦艦群の構成が少し手薄だな、空母群は逆に厚い気がするが」

自衛隊司令が、

「多分、此方の航空勢力が壊滅した時点で、空母群の重巡と軽巡を切離し、戦艦群へ合流させて、艦隊戦へ持ち込むという算段でしょう、ただ先発の戦艦群は数がはっきりしていませんので、今後の偵察活動で動向を注視する必要があります」

司令はいずもへ向い、

「ホークアイの監視網にまだかからないか?」

「今日の所はまだ、早ければ明日の早朝には探知エリアに入るかと思われます」

 

泊地提督が、

「集結地点はやはり、パラオの北部海域か?」

「こちらの海軍泊地艦隊のみ哨戒圏がおよそ300km前後ですから、その外側、安全海域1000km前後で集結し、一気に南下するつもりでしょう、南下開始後およそ12時間以内に攻撃可能圏域にはいります」

 

司令は、

「泊地提督、では予定通りに作戦行動へ移ります」

「司令、宜しく頼む」と手短に泊地提督は答えた。

 

司令は,

「こんごうと ひえいに明日マルハチマルマルに出港し、所定の前衛警戒ラインへ就くように指示をしてくれ」

いずもは、指示書をタブレットで作成し、こんごうとひえいへ送信、事実上の作戦開始である。

 

泊地提督も、

「由良、各艦娘に禁足令を、艦隊出撃準備だ」

「はい、提督さん」といい由良は執務机の上の電話を取り、艦娘寮で待機する睦月達へ、

出撃前の外出禁止と、出港準備体制を整えるように指示を出した。

 

提督は、

「さて、そうなると問題はラバウルの出方だな」

すると、司令は、

「いずも、出来ているか?」

「はい、司令 デジタル処理も完了しています」といい、大型ディスプレイに写真を表示する。

 

「本日、お昼頃に撮影した 深海棲艦、ラバウル航空隊基地です」

その写真を見た提督達は驚いた。

滑走路脇に写る大型の機体 シルエットからB-17だとはっきりわかる。

建物らしき物の横には 深海棲艦の妖精達の姿が映っていた。

「いずもさん、綺麗に取れていますね」と鳳翔が言うと、

「はい、今回は丁度都合よく雲が切れてくれました」

「すご~い! これ色付写真ですよ」と席を離れてモニター画面にくぎ付になる瑞鳳

泊地提督は、

「話には聞いていたが、ここまで鮮明にうつしだされるとは驚きだな」

自衛隊司令は、

「写真解析班の情報を重ねてくれ」というと、

いずもはタブレットを操作して、航空偵察写真の上に、解析班が分析した情報をオーバーラップさせ、説明を始めた。

「では、現状までに判明した事を、まずラバウルの滑走路ですが、簡易コンクリート製で長さが2000m級です」

泊地提督は、

「大分拡張されているな、以前この辺りにいたオーストラリア軍が占領していた当時は1000mもない小さな空港だったはずだ」

「次に、写真を拡大します」といい写真を拡大投影した。

駐機エリアとおぼしき場所に整然とならぶ4発の機体。

「B-17です、確認されている機体数は 34機です」

「さっ、34機!」瑞鳳が驚いた。

「はい、そのうち、可動できると判断されるのは32機です」

泊地提督が、

「根拠は?」

するといずもは、

「この駐機エリアの端の2機は故障機です、機体が損傷しています」といい、その機体の拡大写真を投影した。

確かに、尾翼や主翼の一部に損傷が見てとれる。

「そしてこの2機ですが、窓などの位置から偵察型と思われます」

駐機するB-17の列の一番端に駐機する機体を拡大して見せた。

 

泊地提督が、

「では、飛来するB-17は最大でも32機の公算が大ということか?」

「はい、提督、これだけの機数を揃えてあるのは、本来この機体で トラックを奇襲するつもりだったのでしょう」といずもが答え、続けて

「この別の駐機場にいるのは P-40です 数は40機です」

 

瑞鳳は、

「P-40なら足が短いから、ここまではこれないですね」

「そうだな、これは多分基地防空用の機体だな」といい

「奴ら、このB-17の護衛はどうするつもりだ」

すると自衛隊司令は、

「多分、ラバウルからの直接的な護衛はないとみるべきでしょう、P-40の航続距離圏域外では、高度を上げて進空し、突入直前に高度を下げ、爆撃するという公算でしょう」

「8000m近い高度で来られるとこちらの手持ちの機体では、どうにもならんからな、高みから悠々爆撃か」

「ええ、提督、本来なら考えられない行動ですが、既に数回の夜間偵察でパラオ泊地の海軍施設には電探がない事は分かっています、航空機と、船舶の目視哨戒圏を抜ければ、大丈夫とふんだのでしょう」

笑いながら提督は、

「確かに“海軍施設には電探は無いな”」と話した。

 

 

司令は、

「いずも、次の写真を」といい、偵察写真を切り替えた。

「ラバウル市街です」

 

そこには、小さな街並みが映っていた。

息を呑む、鳳翔が、

「廃墟です」と小さく呟き、

「間に合わなかった!」と由良も絶望的な声を出した。

 

拡大された市街地の路上には、既に息絶えた人とおぼしき影が複数、折り重なるように横たわり、無残な姿をさらしていた。

拡大された写真には、幼子をかばい折り重なる男女の姿が有った。

顔をそむける瑞鳳、しっかりとその姿を見る鳳翔。

「瑞鳳ちゃん、目をそらしてはいけません、しっかりと見ておきなさい、この方達の無念、必ず晴らしてみせます」

「鳳翔さん」といい、ゆっくりと顔を上げる瑞鳳。

 

「オーストラリアと米軍の公式発表では、深海棲艦のラバウル侵攻に際し、多数の市民が取り残されたという事だった、もし可能性があればと期待したのだが」と提督も声を潜めた

いずもが、

「悪霊化した深海棲艦の妖精兵士に、人としての魂を食われてしまったのでしょう」と静かに語った。そして、

「でも、希望もあります」といい、写真を切り替えた。

「これは偵察機がラバウル市街を過ぎ、少し先の森林地帯で撮影した写真です」

そこには、うっそうと茂る原生林が広がっていた

「大きな森林地帯ですね」と由良が言うと、

「何も無いようにみえるが」と泊地提督が言うと、

「はい、このままでは只の森ですが」といい、写真を切り替えた。

そこには、黒っぽい映像に、赤い点が多数写っていた。

「いずもさん、これは?」と鳳翔が聞いた。

「これは、先程の写真と同じ場所を赤外線カメラで撮影したものです」

「赤外線カメラ?」

「はい、人間や動物など一定の体温を持つものは、熱を発生します、その熱、即ち赤外線を感知し映像化するカメラです」

鳳翔が身を乗り出した、

「では、この森には」

「はい、人がいます」とデジタル処理された赤外線映像を拡大した。

ハッキリと人の姿が映し出されている。

由良が、

「深海棲艦の悪霊妖精では?」と質問を投げたが、

「波長解析によれば、人である可能性が高いとの結果です」と いずもが返した。

 

自衛隊司令が、

「多分、退路を断たれて、森の中へ逃げ込んだ市民が多数いると思われます、写真を解析したところ100名近く確認できました」そして、

「我々がラバウルを爆撃した混乱に乗じて、脱出する事もできるかもしれません」

 

泊地提督が自衛隊司令を見て、

「こちらが、救助する事は?」

「それは、厳しい選択です、すぐ背後には、米軍とオーストラリア軍が控えています、陸戦能力を展開するには、条件が悪いですね」

「では?」

「あくまでも、手助けする程度です」

泊地提督は、

「それでも、希望はもてる」

司令は、

「いずも、では決まりだ、ラバウルへの意趣返しの際は、留意してくれ」

「はい」と静かにいずもは返事をしたが、その眼は鋭く光った。

 

 

翌朝、朝からこんごう、ひえいの艦内は騒がしい。

ついに、深海棲艦が動き出した。

こんごう、ひえいは事前にB-17の迎撃の為、南西方面に分散して配置される。

 

午前7時55分、艦尾にあるヘリ発着場に、乗組員が部署別に整列している。

こんごうとすずやも、艦内ミーティングの後、この艦尾ヘリ発着場へと来ていた。

すずやの朝のトレーニングは続いている。元来、朝がめっきりダメな すずやにとっては艦内生活の中で一番厳しいメニューであるが、何とか起きては寝ぼけながらもトレーニングについてきていた。

 

午前8時5秒前に こんごう、ひえい、はるな、きりしま、あかし、そして沖合で待機航行中の いずもの艦内でも、一斉に号令ラッパが鳴り響いた。

こんごう以下の乗務員が一斉に姿勢を正し、

8時、「掲げ!」と号令がかかり、君が代ラッパが流れるなか、艦尾に当直の隊員妖精により自衛艦旗が掲げられる。

こんごう以下の乗員が一斉に敬礼し、自衛艦旗が艦尾に掲げられた。

 

パラオの風を受け、力強くはためく旭日の自衛艦旗

 

副長の、

「直れ!」の号令の元、一斉に直り、姿勢を正して、

「出港に際し、艦長よりお言葉がある」と副長が言うと、こんごうは整列する皆の前へ立つ!

 

副長の横に立つすずやは、こんごうがこれから何を言うのか、興味津々である。

「世紀の大演説ですよ」と副長が小さな声で言った。

「そっ、そうなの?」といい、こんごうを見る。

 

こんごうは、乗員を端から端まで見渡すと、腰に手を当て、力強く、

「皆 私達の実力を見せる時です! 護衛艦こんごう 抜錨!」と大きく右手を前へ振りだした!

 

その瞬間、

「おうう!」と一斉に声があがり、皆、持ち場へ駆け出して行った!

 

あっけにとられるすずやに 副長は、

「ねっ、世紀の大演説でしょう」

 

すぐ横に漂泊するひえいの後部甲板でも、

「皆! 気合いれて行きます!」という声と共に 掛け声があがり、一斉に動き出した。

 

こんごうは、副長やすずやの元へ行き、

「私達も持ち場へいきましょう」と艦橋へ向う。

こんごうは艦橋に入ると艦長席へ着き、各種モニターを起動、確認作業へ入った。

その間にも、甲板上では甲板員が錨の巻き上げ準備に入る。

艦橋付機関科員が、

「主機、起動異常なし」と報告。

航海長も、

「抜錨用意よろし」と号令をかけた。

 

こんごうは、静かに、

「抜錨! 出港」

 

その瞬間後方から、元気に出港を知らせる号令ラッパが鳴り響く。

錨を巻き上げる音が甲板上に響き、甲板員が巻上げられた錨に腐食防止の油をモップを使いながら塗布している。

 

航海長が、

「両舷前進最微速!」というと、機関科員がそれを復唱し、主機出力を調整しながら、そろそろと前進を開始した。

こんごうは席を立ち、艦橋横の見張り所へ出た、そして祖母から譲ってもらった愛用の双眼鏡を構え、周囲を警戒する。

後陣を守る、はるな、きりしまの甲板には、隊員妖精が出て、“帽フレ”で見送ってくれている、答礼していると、横に立つすずやが、

「こんごうさん、あれ見てください!」と岬を指さした。

そこには、大勢の島民の姿があった、皆大きく手を振っている。

 

出港作業中の甲板員などが、手を振りそれに答えた。

こんごうや すずやも答礼しながらその声援に応える。

「初めてです」とすずやがつぶやいた。

「どうしたの?」

「すずや、現地の人に、こんなに多くの現地の人に見送られて出撃するの初めてです、確かに、今まで鎮守府とか警備所とか内部の人に見送られた事はありますけど、地元の方の見送りは初めてです」

 

こんごうは、静かに、すずやに向って振り返り、

「彼ら、現地の方々も、日本本土に暮らす方々も、たとえ言語や習慣が違っても同じ日本国民である事には変わりないわ、そして私達、自衛隊が守るべき方々なの」

「国民の負託に応える時よ」と すずやに静かに語った。

「はい、こんごうさん」とすずやも力強く答えた。

 

 

同時刻 パラオ北部海域

 

昨日深夜、護衛艦 いずもを発艦した第601飛行隊の早期警戒機E-2J「エクセル01」は、高度8,000mでパラオ北部海域の哨戒任務を続けていた。

事前に得た情報では、今日の午前中にも深海棲艦の艦艇群を捕捉する予定であるが、未だ発見に至っていない。

 

操縦席左、機長席に座るパイロット妖精は長時間飛行に備え、やや姿勢を楽にした。

そして、横に座る同僚に、

「どうした? えらく緊張してるな」

「はい、機長。ミーティングでは班長が、“今日の午前中にも接敵の可能性”っていってましたから」

「あくまでも“接敵だ”、ドンパチが始まる訳じゃない、ただ俺たちのドンパチは既にはじまっているがな」といい後部を指さす、

「見つかりますか?」

「多分、釣れる、かなりの数だ、おまけにステルス性は皆無 見つからん方がおかしい」

そう言い、センターコンソールを操作して、

「燃料は大丈夫だな」と呟き、

「給油機とのウエイポイントを確認しておけ」と横の操縦士へ命じた。

 

E-2Jアドバンストホークアイ

元々、航空自衛隊が購入したE-2Dアドバンストホークアイに、艦娘運用艦向けC4Iシステムを追加、また偵察機能を強化する目的で、胴体下に偵察ポッドを搭載できるようにハードポイントを追加し日本独自改修を行った機体である。

機長は、オートパイロットの諸元データを確認しながら、

「この機体も操縦が楽になったもんだ」と呟いた。

以前乗っていたC型は、なんせ古い機体だった。

アビオニクスもそうだが、機体自体も古く座席一つとっても狭かった、

しかし、D型で大幅に改修された、そして日本独自仕様のJ型だ。

とにかく飛ばす方としては、この旅客機並みになった、ゆったりとした座席は有難い、

操縦系統もすべてフライバイワイヤーで、動きもいい、エンジンも大型化してある

早期警戒機は任務の特性上、旋回では気を遣う、急なバンクを取れない、警戒中はラダーを上手く使ったターンをしないと、機体を大きく傾けるとレーダー波が乱れるが、

自動操縦装置の改良で、警戒飛行は数段楽になった。

新規に空中給油機能も加わった、対空時間は大幅に改善されたのはいいが、長い時間飛ぶのにはまいった。

こうなると居住性に優れたE767あたりが欲しくなるのだが、あれは艦隊行動には不向きだ、結局いずもを中心とした艦隊行動では、この機体が一番という事になる。

 

機長は、そんな事を考えながら、眼下の雲間に浮かぶ海面を眺めていたが、

「機長、レーダーコンタクト!」と後方の戦術士官が報告して来た。

「方位と数は」

即座に、

「方位080 数6 距離350km 待ってください! 後方にも複数エコーがあります!」そう報告してきた、戦術士官は、一瞬間をおき、

「これは!」

「どうした!」

「機長、其方のサブモニターへデータ回します!」

E-2JはD型アドバンストホークアイと同系列のシステムを採用しているので、一部機能であるが、戦術データを副操縦側のモニターで見る事ができる。

「なっ、なんて数だ」機長は驚きの声を上げた。

そこには、大小合わせて30近いエコーが映ってる。

 

「いずもCICへ データリンク!」

「既に、C4Iで送信済みです」というと、即座にいずもより、

進路変更の指示が、データリンクを通して通知された。

機長は、慎重に機体を旋回させながら、その不明艦隊へと近づくコースを取る。

上空で待機していたF-35、2機が後方について護衛に入ってきた。

「さて、何がでるかお楽しみだな」と言いながらホークアイの機長が、操縦桿を握りしめた。

 

 

ホークアイからの接敵情報を受けたいずもCICでは、急に動きが慌ただしくなった。

艦隊コミュニケーションシステムを使い、泊地簡易司令部と連絡をとるいずもであったが、

当初予想していた数より艦艇数が多い。

システムに泊地に待機する提督、司令、由良が映る中、

「予想より、数があるな」と司令が切り出すと、

「はい。当初の戦艦群、空母群以外にもう1群。最初の戦艦群は前衛艦隊ですね。今回探知した新しい艦隊が本体です」

 

「内容は分かりますか?」と由良が聞くと、

「はい、レーダー反応から、前衛艦隊は、重巡1、軽巡2、駆逐艦4。次の空母群は、空母が3、重巡1、軽巡2、駆逐艦6」

「そして、本隊ですが、戦艦が2、重巡2、軽巡2、駆逐艦6の合計31隻。その後さらに後方に小型船舶が数隻、これは補給艦ですね」

いずもは続けて、

「これらが、おおよそ50km間隔で3群に別れて西進しています」

泊地提督は、やや呆れ、

「まっ、凄い数だな、こんな小さな泊地をせん滅するには過剰な数だ」と言ったが、

「多分、彼らは、上手くいけばこのパラオ泊地を占領して、トラックを孤立化させたいという思惑があるのでしょう、後方の補給艦には陸戦能力があるかもしれません」と司令が返答し、

「いずも、済まんが、偵察機を出してくれ」

するといずもは、 

「既に準備しています」といい 甲板上に待機する小型機2機を画面に映し出した。

「おっ、使えるのか?」と司令が問いただした、

「はい、問題ありません、GPSはありませんが、既にE-2Jにデータリンクポッドを持たせていますので、電波到達範囲は十分です」

画面を見た由良が、

「可愛い機体ですね、でも窓というか風防が見当たりませんね」というと、

「ええ、あの機体は無人機ですから」

「無人機?」と由良が不思議がると、提督は、

「いや、あかしさんが、艦隊防空訓練で無線誘導の無人機を使ったと聞いたので、予想はしていたが」

いずもは、

「これは MQ-9リーパーという機体の空母運用型です、本来は地上基地から運用される物ですけど、これを空母で運用できるように改修した機体です」

 

泊地にいる司令が、

「この機体の最大の特徴は、長い滞空時間です。通常運用なら24時間近い滞空ができます。高性能電探とカメラを搭載して7,000mの高高度から敵を監視する事ができます」

「24時間!」と提督は驚きの声を出した。

 

いずもが、

「欠点としては、まあ攻撃能力が殆どなく、速度も遅く、防弾装置もありませんから、見つかれば 艦載機のいい鴨なんですけど、誰も乗っていませんから撃墜されても人的被害はありません」

司令は、

「この機体は敵地上空で長時間滞空する事で、その動向を探るのに適しています。海上自衛隊でも、長年対潜哨戒機の補完的役割として運用してきました」

 

そう語っている内にMQ-9 リーパーは発艦位置へついた、

リニアカタパルトのシャトルがリーパーの前輪を掴む。

リニア方式の利点は、このような小型機でも運用できる所だ、出力を調整できるだけでなく、予め設定した出力カーブでゆっくり加速させる事もできる、蒸気式には出来ない芸当だ。

後部のプロペラの回転が上がり、リーパーの独特のプロペラ音が甲板上に響いた。

カタパルトオフィサーの指示により、ゆっくと甲板上から発艦するリーパー。

 

泊地提督は、

「あの1機で我々の索敵機10機分の能力はあるだろう、すでに戦場は自衛隊が支配したといっても過言ではないな」

司令は口元に笑みを浮かべながら、

「昔から、覗き見は得意なんですよね」と呟いて見せた。

 

 

同日 トラック島 三笠艦内

 

三笠は、パラオ泊地のいずもより、

「敵艦隊 見ゆ」と連絡を受け、山本、宇垣、大和、長門を三笠艦内に呼び出した。

旧三笠では艦内士官室に相当する場所に、同じく 三笠士官室がある。

大き目のテーブルにそれに相応しい椅子、皺ひとつなく綺麗なテーブルクロス。

室内の壁面には大型のディスプレイ画面が組み込まれ、いずも経由の戦術データが刻々と表示されていた。

「これが、パラオの状況ですか!」と驚きの声を出す宇垣

壁面に掛けられた液晶ディスプレイを凝視した。

「宇垣よ、そんなに見ては穴があいてしまうぞ」と山本に言われ、慌てて離れた。

「ふむ、これがパラオ本島。この点が護衛艦 いずも。そしてこの点が」と 三笠が言いかけて、

「それは、こんごうちゃんとひえいちゃんデス!」と後方から、ティーセットをもった戦艦金剛の元気な声がした。

金剛は大淀と二人で、お得意の紅茶を皆の前に差し出し、自分も長門の隣へ座る。

三笠は、

「先程、パラオ泊地の自衛隊 副司令のいずも殿から、パラオ北部海域で、深海棲艦の侵攻艦隊とおぼしき艦隊群を発見したと報告があった、場所はここじゃ」といい、新しいブリップを表示した。

「パラオの北部海域、距離にしておよそ800kmの海域に集結しつつある」

「内容は前衛艦隊、重巡1、軽巡2、駆逐艦4。

次の空母群は、空母が3、重巡1、軽巡2、駆逐艦6。

そして本隊、戦艦が2、重巡2、軽巡2、駆逐艦6の合計31隻じゃ」

 

「31隻!」と大和や宇垣が唸った。

「Oh! これは豪勢な艦隊ですね」と金剛は嬉しそうに話したが、

「長官! 直ぐに私か、大和を応援に、足の速い金剛達に駆逐艦を付けて先行させてください」と長門が席を立ってまくし立てたが、

少し剣幕に押されそうになりながら、山本がまあまあと手で制止た、

「三笠、どう思う」と山本が聞くと、

「足らぬ」と三笠が言うと、長門が、

「では、摩耶と鳥海を付けて、水雷戦隊を同行させましょう!」と言いかけたが、

「そうではない、この数では パラオ泊地艦隊並び自衛隊艦隊をせん滅する事は出来まい」

「長官も同じ考えですか?」と宇垣が聞いたが、

「まあな。前回、鳳翔を追撃してきた打撃艦隊を完膚なきまでに叩いた。今回も楽勝とはいかなくても、やり込められる事はなかろう」

「えらく信用してますね」と宇垣が言うと、

「まあな、君もあの艦隊を見れば納得するよ、それに今はパラオ艦隊も以前のパラオ艦隊ではない、最新の電探情報網を持つ連携の取れた艦隊だ」

「長官、こちらから、誰か送りますか?」と宇垣が聞いたが、

「いや、本来なら君か黒島君、一航戦の若いもんを観戦武官として派遣したい所なんだが、此方ときたらマーシャルの対応で手一杯だしな」

「残念です、せっかく見識を広める機会でしたが」と宇垣も残念がった。

不意に大和が、

「三笠様、あの黒板の様な物に光る光点、動いていますね」と不思議そうにディスプレイを指す。

「おお、言っておらんかったな」といいながら、

「これは、今現在 護衛艦いずも殿を中心とした電探網で探知した情報を表示しておる」

「今、現在!」と宇垣が再び驚いた。

「あの、予想地点だとかではなく、2000㎞離れた海域の今の位置ですか!」

「そうじゃ 長門。これは いずも殿の艦載機が探知した電探情報、並びに護衛艦 こんごう殿達の電探情報を いずも艦内で集約して、上空で警戒飛行しておる いずも殿の中継機を通じて儂や 金剛に送信されておる」

「そんな事が可能なのでしょうか?」と大和が聞いたが、

「実際に、目の前にあるじゃろ」と画面を指さした。

 

そして、

「金剛、詳細データを表示してくれ」と山本が言うと、

金剛は自身のタブレット端末を取り出し、画面を操作して、詳細な戦術データを表示した。

そこには先程まで1つの光点で表されていた目標が、個別の光点として表示され、識別番号が添付されており、進行方位、速度などが詳細に表示されていた。

 

それを見た山本が、

「奴ら、パラオ北部海域に集結して、艦隊を再編、侵攻してくるつもりだな」

「凄い、この仕組みがあれば我々は戦場を支配できます!」と興奮気味の宇垣。

「まあ、直接に見る事は出来なくとも、状況は逐次判断できる、これだけでも大違いだ」と山本が答えた。

三笠も、

「既に、パラオの提督と自衛隊司令が、策を練っておる、心配なかろう」

そして、

「儂らが、劣勢であった日本海海戦をパーフェクトゲームと言わしめるまで快勝できたのは、数ヶ月に及ぶバルチック艦隊の動向調査の結果じゃ。当時の日英同盟に基づき黒海を出たバルチック艦隊を英国は追跡し、その情報を我々に流してくれた。アジアに入れば各国の武官や商社の駐在員がその動向を探った。我々は情報戦で彼らの上を行ったのじゃ。近年、この情報を軽視する向きがあり、戒める必要がある」

宇垣はその三笠の言葉を噛みしめた。

「あの 三笠様。先程から話の出ている、この いずもという艦はどのような艦なのですか?空母のようですが、先程から護衛艦と呼んでいるようですが?」と 大和が聞いてきた。

すると 三笠は、

「金剛、自衛艦娘便覧があったの。いずも殿を表示してくれんか」

「はい」と 金剛が返事をして、自身のタブレットから いずものデータを取り出し、大型ディスプレイに表示させた。

「これが護衛艦 いずもデ〜ス」

そこには いずもの3Dデータと諸元が映し出された。

全長320m、全幅75m、速力30ノット、総排水量基準:8万t級と記載されている。

 

「8万トン級! 三笠様 私よりおおきいじゃないですか!」と驚く大和。

「そうじゃの、現在 建造途中の信濃をはるかに超える艦じゃ まさに大船じゃったぞ」

「艦載機はどの程度」と宇垣が聞くと、

「戦闘爆撃機が22機、特殊対潜機が12機、早期警戒機が6機 その他もろもろで60機程度じゃったかの、まあ儂は、飛行機はようわからん」と言い山本をみたが、

「いや。実はおれも艦内を色々と見せてもらったが、その時はまだほんの一部しか稼働してなくてな。面白い機体も一杯あったな」と思い出しながらニヤニヤとしていた。

 

「意外と少ないですな」と宇垣が言うと、

「まあ、零戦なら120機は余裕で搭載できる、露天係留すれば150機は搭載できるかもしれん」

「えっ、それじゃあの船1隻で赤城3隻分の能力があると」

「それにの宇垣、先程 三笠が言ったろ“戦闘爆撃機”と」

「戦闘爆撃機?」

「正式には、マルチロールファイターというそうだが、基本形態の制空戦闘機の能力に 爆撃機としての機能、そして偵察機としての能力を付加した航空機だ」

「その様な機体が!」

「ああ、ある あそこにはな」と言い、いずもを指さした。

宇垣が、

「源田が聞いたら、今直ぐ一航戦を辞めて、パラオに行くと騒ぐだろうな」

それを聞いた、大淀が、

「あの~、既に源田参謀から“パラオ視察の申請書”が」といい一枚の紙をひらひらとかざした、そして、

「源田参謀だけでなく、若手の方から次々と出ております、一応 今はダメという事で押し切っていますが、いつまでもつか」

「ほほ、パラオは人気者じゃの」と三笠は笑ったが、それを処理する大淀は疲れた顔である。

 

「三笠、ラバウルの情報は来ているのか?」と山本が聞くと、

「ああ、先程届いた。金剛写真を」

「はい」と金剛が返事をして、再び写真を切り替えた。

 

そこには、深海棲艦ラバウル基地の航空写真が画面いっぱいに表示された。

「金剛、詳細はあるか」

「はい、長官、オーバーラップさせます」といいタブレットを操作したて偵察写真にいずも情報班の解析結果をオーバーラップさせた。

山本は席を立ち、じっと写真を見る。

「う〜ん、B-17がおおよそ30機はあるな」

「長官、この写真は?」と長門が問いただした。

それには三笠が答えた、

「これは、昨日 いずも殿の艦載機が、ラバウルを強行偵察した際に撮影した写真じゃ」

「さっ、昨日ですか!」と長門が驚いた。

この時代、航空写真偵察をしても、現像、分析に数日かかる事などよくある話だった。

「三笠様、パラオからラバウルまで、片道2300㎞はあります、このような長距離偵察が可能なのですか?」

「大和、可能だからこそ、ここにその証拠があるではないか」

そう言われてしまうと返事に困る大和であった。

 

山本は、

「金剛 対空機銃等の情報は?」

「はい長官、高射砲群が3カ所ネ、近距離対空機銃が6ヶ所あると報告してマス、それに、近くに電探基地があるそうです」

「やはりな、今まで数回このラバウルを陸攻で偵察したが、昼夜を問わず直ぐ発見され迎撃される、近づけないわけだ」

 

金剛は、

「長官、もう一つ Badな報告ね」

「なんだ!」と振り返る山本

三笠が、

「それなら儂の所にも来ておる、悪いというか」といい 写真を切り替えた。

そこには、廃墟と化したラバウル市街の写真が広がっていた。

道路の所々に散乱する屍

「惨いの」と三笠が一言。

「やはり、やられたか」と山本も声を落としたが、

「イソロク、希望はあるぞ、いずも殿の報告では、近隣の森林地帯に100名前後の人らしき姿を確認したそうじゃ もし避難民ならまだ希望もある」

 

「本当か!」

「ああ、間違いなく、“人”だそうだ」

宇垣が、

「何とかしてやりたいがな」と声にだした

 

「どうにもならんのですか! 長官!」と長門が叫んだが、

「自衛隊司令はなんと?」と山本が言うと、

「確かにラバウルへの意趣返しは画策しているが、陸戦能力の展開は難しいとのことだ、

爆撃の混乱に乗じて後方へ退避してもらうのが精一杯だそうだ」

 

「そうだな。救助の陸戦部隊を出して、背後の米軍、オーストラリア軍と鉢合せになってはたまらん」と山本が言うと、

「せめて、上手く脱出できる事を祈るしかないか」と宇垣も同意したが

「せっかくなら、その米軍に保護していただいては?」と大和が切り出した

「米軍か?」と山本が聞き直した。

 

宇垣を見て、

「米軍は何処まで来てる?」

すると宇垣は、

「米豪合同軍が、ラバウルの手前100km付近まで来ていますが、防御が固く突破できないと情報を得ています」

 

山本は席へ着き、瞑目しながら腕を組み暫し考えていた。

「もし、自衛隊のラバウル爆撃の混乱に乗じて米軍が動けば、市民の救出だけでなく、ラバウル基地そのものの奪還を画策するぞ」

「しかし、イソロク ラバウルを無力せねば我々は喉元に剣を当てられた状態である事には間違いないのじゃ、そもそもこの30機近いB-17はパラオではなくここ トラックを襲う目的で集結させたはずじゃぞ」

「う〜」と唸る山本、そして、

「第一、 俺たちのいう事を米軍が信じるか、そして情報が漏れないかだ」

「話の分かる者に話さなければならんという事か?」

「そうだ三笠、下手に公式ルートで話せば間違いなく情報が洩れる」

暫し、悩む二人に、

「あの~、意見具申よろしいでしょうか」と大淀の横で恐る恐る手を上げた一人の艦娘。

「青葉、なんじゃ」

「口が堅くて、信用できる米海軍の重鎮、フィリピンのあの方はどうでしょうか」

三笠は考え、

「あ奴か、米国の東郷の弟子」

「あの御仁なら間違いは無い。青葉!伝手はあるのか?」と山本に聞かれ、

「はい、時折“週刊青葉が欲しい”とルソン中部警備所に来ているそうですから、警備所秘書艦が面識があります」

「おいおい、大丈夫か! 週刊青葉は艦娘向けだぞ、ある意味我が海軍の極秘情報満載だぞ」と宇垣が怒ったが、

「参謀長、此方も米国の艦娘情報貰っていますから、バーター取引です、最近では、前回の三笠様の記事が良かったと言っていたそうですよ」

 

すると山本は、

「相変わらず三笠には ご執心だな」と横の三笠を見たが、

「儂は、妻帯者には興味はない」とあっさりと話題を蹴飛ばした。

そして、

「では、中部警備所の秘書艦を通じて、情報を流そう」

山本が、

「どうやって、接触する?」

すると三笠は、

「簡単じゃよ、儂から伝言があると言えば あ奴は喜んで逢うぞ」

 

三笠は金剛に向かい、

「金剛、その旨 いずも殿へ送信せい」

「Yes、マム」と元気に答える金剛であった。

 

 

パラオ泊地 司令部

 

泊地司令部2階の簡易指揮所には、普段の倍の要員が詰めて、情報の整理、伝達作業を行っていた。

早朝、こんごう、ひえいが出港し、いずもも海上待機。

湾内には、由良以下の泊地艦隊、外周部では はるな、きりしま、あかしが待機で控えていた。

泊地艦隊の各艦は缶に火が入っており、いつでも出港できる状態である。

巧みにカモフラージュされた対空陣地には、VADSはじめ各種の対空兵器が控え、既に稼働状態にはいっていた。

勿論、陸自の防空部隊も飛行場を中心に展開し、射撃指揮車両の対空レーダーが稼働しており、泊地全体の防空体制を強化していた。

鳳翔、瑞鳳の各航空隊も出撃準備に入っており命があり次第、離陸できる状態を保っており、泊地全体の士気も上がっていた。

そんな中、一人落ち着いて指揮所で椅子に深く腰掛け、戦術ディスプレイに映し出される情報を見るひとりの男性、自衛隊司令である。

泊地提督は、

「君はいつも落ち着いているが、何か秘訣でもあるのかい?」と聞かれ、

「いえ、子供の頃 祖父から“男はここぞと思う時だけ動け”と教わりましたから」

「ほう」という泊地提督

「祖父は元来こまめに動く方でしたが、祖母に“少しは落ち着いたらいかがですか”と言われて。それ以来、物事を腰を据えて見るという事に徹したそうです」

すると提督は、

「はは、おれも由良から、“少し落ち着いては”とよく言われるよ、心しているが中々難しいものだよ」

司令は、

「もう由良さんとは長いのですか?」

「ああ、最初に逢ってから十数年近くなるかな。俺がまだ江田島で威勢の良い頃からの付き合いだ。このパラオに泊地、いや当初は補給拠点を建設する事になってな、俺が選ばれた。しかし、当時この海域は深海棲艦の前衛艦隊がいて混戦状態だった。そんなど真ん中に補給拠点を作るなんて無謀な作戦だったよ」

提督は窓辺に立ち、

「横須賀の海軍神社で、同行する秘書艦を選ぶときに、候補は数人いたが彼女以外は考えていなかった。彼女も快く引き受けてくれて、正直嬉しかった」

とやや照れながら話していた、そして、

「由良と睦月、皐月を引き連れてサイパンから南下したとたんに深海棲艦の艦隊に捕まってね、何とかここまでたどり着いた、でも来てびっくりしたよ、何もないんだ、本当にゼロからのスタートだったよ」と笑いなら話した。

「沖合に 由良を停泊させて、まず現地の代表と交渉して用地を買収して宿舎を作ってとかしたらあっという間に数年過ぎていたな。鳳翔が来てようやく泊地らしくなったころ、この正面海域に深海棲艦の主力艦隊が現れてね。本土から中佐率いる 金剛と 赤城が来てくれて、何とか乗り切った」

「今回は 君達もいる、乗り切ってみせる」とじっと窓の外を睨んだ。

「ええ」と静かに司令も答えた。

その時、

「レーダーコンタクト! 方位160 高度8000 距離600、機数1」と対空監視員が叫んだ!

「こちらへ向っているのか!」と自衛隊司令が聞くと、

「はい、前回と同じコースを辿っています」

司令は、

「よし、かかったな」といい、

「自衛隊旗下の防空部隊に下命、対空戦闘準備、警戒態勢にて待機、手を出すなよ」

そして、泊地提督をみて、

「では、お願い致します」というと、

提督はデスクの飛行場との直通回線電話を取り、暫し待つと、

「瑞鳳か、情報は来ているな! 昼間強行偵察だ、打ち合わせ通り、上手くやれ」

「はい、提督」と瑞鳳の元気な返事が来た。

 

「いずもCICより報告、CAP2機、アンノウンへ向い進空開始しました、接敵まで30分です」

司令はモニターを通じいずもを呼び出し、

「いずも、済まんが」というと、

「はい、わかっています、監視を継続します」とだけ返事が来た。

司令は、椅子にもたれかかり、

内心 つぶやいた。

“守ってみせる、ここは俺と彼女にとっても特別な場所だ”

 

 

護衛艦こんごう 艦橋

 

護衛艦こんごうは、パラオの南西 およそ300㎞の海域へ向っていた。

深海棲艦 B-17部隊を迎撃する目的だ。

既にひえいも分離し、南に50㎞ほど離れた海域を単独で航行している。

対潜哨戒の為 ロクマルが発艦し、艦橋右横を飛び抜けて行く。

 

こんごうは艦長席に座り、戦術モニターを見ていた。

後方の副官席には すずやが座っている。

現在彼女は 艦長見習い士官として、こんごう付の発令要員として詰めていた。

 

経済巡航速度で進む、護衛艦こんごう。

副官席に座るすずやが、

「こんごう艦長、もう少し急がなくていいのですか?」と聞くと、

「気になる?」

「はい」と素直に答えるすずや。

こんごうは、モニターをスライドさせて、

「この速度なら十分、作戦予定時刻までには海域へ入れる、それに既に迎撃準備はできているわ」

「しかし、先程、単機 空域へ侵入してきていると報告がありました」

「ええ、大規模爆撃に向けた昼間強行偵察ね、護衛機も付けないとは、大分なめられてるかな」と呆れていた。

 

「こんごう艦長、撃墜しないのですか?」とすずやが聞くと、こんごうは

「ええ、そのまま偵察させる予定よ」

「あの、もし爆弾積んでいたらどうするのですか?」

こんごうは振り返り、

「大丈夫よ。すぐ後方に既に いずも艦載機が着けているわ。動きがあれば即、撃墜するわ」

こんごうは 対空モニターを見ながら、

「もうすぐこちらの監視網から抜けるわね」というと、副長が

「あとは、きりしまの担当となります」と告げた。

「よし、対空用具収め、警戒配置へ」というと、すずやは自身の右耳に掛けたインカムを操作し、

「艦内通達、対空用具収め、警戒配置へ」とすずやの通る声で艦内放送をかけた。

艦橋内部に安堵の声を漏れる。

 

こんごうは、副長を見て、

「副長、少し時間は取れるかしら?」

「ええ、今のところ問題ありませんが、いかがしました」

「だいぶ、状況が見えて来たわ、今の内に打合せをしましょう」

「はい」

こんごうは、すずやへ、

「30分後に幹部士官並びに先任伍長は 士官室へ集合」

「はい、こんごう艦長!」と元気に返事をして、再びインカムを操作して艦内放送を流し、各所へ確認作業を行うすずやを見ながら、

「副長、彼女どう?」とそっと聞いた。

「優秀ですね、各種機材の取り扱いも短時間で覚えています、熊野さんのいっていた“だらしない”印象とは違います」

「成長したという事かしら?」

「まあ、多少」と言うと、機材を睨み唸りながら悩むすずやをそっと見た。

その姿を見ながらにこやかに笑うこんごうであった。

 

 

 

25分後 幹部は全員士官室へ集合した。

すずやが確認を行い、

「艦長、幹部士官、先任伍長集合しました」と報告する。

こんごうは、

「じゃ、着席して」と言うと一斉に着席し、そして、

「出港後、8時間が経過しています、先程昼間強行偵察機が上空を通過しました、敵は、その情報を元に最終的な爆撃目標を選定すると考えられます」

こんごうは、戦術モニターを起動し、現在の戦況を表示した。

「さて、ラバウルのB-17は32機いる事が昨日の偵察で確認されました、当艦とひえいの任務は、侵攻してくるこのB-17部隊の半数を撃滅する事です」

するとすずやは、

「B-17を16機も撃墜するのですか!」と驚いたが、

こんごうは、

「砲雷長」というと、

「問題ないですね、問題があるとすれば、奴らの進路がこちらの射程に入っているか位です」

「それが、最大の問題ね」といい、

「今回の待機海域は、司令の勘らしいけど、今まで外れた事が無いから 今回も外れない事を祈るわね」

するとすずやが、

「あの、もし司令の勘が外れた時は?」と聞いてきたが、それにはこんごうが

「ひえいが迎撃、それでだめならいずも艦載機、さいごはきりしまで〆よ」

すると砲雷長が、

「きりしまさんまで、残ってますか?」

「出来れば、私とひえいで半分は落としたいわね、きりしまには、この空母群の艦載機があるし」

そう言うと戦術モニターに映る艦艇群を指した。

「さてB-17については、前回の打ち合わせ通りとします、質問は」

特に反応がなかった。

「さて、問題はこの艦艇群よね」といい椅子に掛け直して、

「あの、何が問題なのでしょうか?」とすずやが聞くと、

「動きが見えない所よね」

「動きが見えない?」

「そう、現在 パラオ北部海域へ集結しつつあるのはわかるわ、そのまま南下するのかというのが分からない」

「どういう意味ですか?」とすずやが聞いた。

 

「集結に際して、艦隊を3に分割してきているわ、前衛艦隊、空母機動艦隊、戦艦を中心とした打撃艦隊、この集結予想地点からパラオまで 20ノットでほぼ一日、問題はまとまって侵攻してくるのか、それとも分散するのかね」

こんごうは、幹部士官へ、

「皆はどう思う?」と問いただした。

副長が、

「敵の目的がハッキリしないと分かりかねますな」と答えた。

「目的?」とすずやが聞くと副長は、

「ええ、単に泊地の機能停止だけならB-17と空母艦載機の航空攻撃で事が足ります、

戦艦群は後方で待機すればいい。しかしパラオ諸島の占領が目的なら、艦砲で飛行場や泊地の施設を完膚なきまでに破壊する必要があります」

するとこんごうは、

「答えはこれね」といい別の画面を開いた。

そこには、MQ-9が撮影した複数の船団が映っていた、甲板上に上陸用舟艇等が見て取れる。

砲雷長が、

「上陸師団ですか?」

「ええ、船団の大きさから、1個師団以上と推測されているわね」

航海長は、

「パラオは魚が旨いから、寄ってきましたね」

こんごうは、皆を見て、

「敵の主目的がハッキリしてきたわね、パラオ諸島の占領よ」

「パラオの占領!」とすずやが驚いたが、

「まあ、想定内ですね」と副長が言った。

 

「という事は、戦艦群も前進してくるわね」

するとこんごうは、

「いい、重爆撃機を迎撃した後は、この艦隊の迎撃へひえいと向います、素早い行動が必要になりますので、各員留意するように」

「はい、艦長」

「では、解散」といい各員持ち場へ戻る。

席を立つ幹部の後で、すずやが、

「こんごう艦長、30隻近い艦隊、どう相手をするのですか?」と聞いたが、

「まあ、戦力的にこちらの数倍よね。相手にル級を含む戦艦群、正規空母が3隻、多数の補助艦艇。まあ普通なら勝てないよねえ~」と言いながら、

「いい、いきなり30隻と戦う訳ではないわ、各艦艇には能力の差があって戦艦は空母群にはついて行けない、となると後詰めになる、艦隊が分断された時が付け入るスキよ」

「艦隊を分断」

「ええ、空母群としては、B-17の爆撃に合せて艦載機を進出させるはずよ、その為に急速にパラオへ近づく必要があるわ、戦艦群はその後でも間に合う」

すずやは少し考え、

「でも、此方の艦隊が泊地から進出すれば、少なくとも空母群は叩けます」

「そう、だから多分 B-17の数機に空中敷設型の機雷を搭載して、艦隊を泊地内部へ閉じ込める作戦を立ているはずね」

「湾内封鎖ですか!」

「まあ、それも想定の内、提督や司令の頭の中では、すでに戦局が見えているわ」

「ええ、本当ですか!?」

「まあ、あの二人ならね」といい、副長と3人で艦橋を目指した。

 

 

パラオ航空基地 飛行員待機室

飛行場の管理棟1階にある、飛行員待機室にある、モニターには、横の管制塔に設置されたドップラーレーダーで捉えられた偵察機の情報が映し出されていた。

「あと50kmくらいか」とモニターを見た鳳翔零戦隊隊長がつぶやいた。

既に、泊地並びに近隣の集落には対空警戒警報が出され、一般人は退避した後であるが、航空基地内部は平然とそのお客の襲来を待っていた。

室内でウロウロとする一人の飛行士妖精。

「瑞鳳の旦那、落ち着きな」と鳳翔零戦隊隊長が言うと、

「わかっとりますが、敵機が来ていると知っていてじっと待てとは、辛いものが」

すると背後から、

「それでも、まだダメです」と言われ振り返ると瑞鳳が立っていた。

周囲の飛行士が席から立ち上がり敬礼する。

「提督からの指示で、今回も気がついていないフリをします」

「しかし、昼間で見えているのに気がついていないフリとは」と瑞鳳隊の隊長が返したが、

「いい?元々このパラオにはまともな電探はないわ。戦艦 金剛さんがいた時は21号電探があったけど、それでも精々いるのが分かる程度だったの。今は自衛隊さんのおかげで高性能電探があるけど、それは秘密なの」

「しかし」と瑞鳳隊の隊長が言うと、

「でも、今日は目視圏に入ったら迎撃していいって提督が言っていたわ」

「ほっ、本当ですか!」と喜ぶ瑞鳳隊の隊長。

すると鳳翔零戦隊の隊長は、

「なあ、瑞鳳の旦那。目視圏と言えば30kmぐらいだぞ。そこからエンジンを始動して

離陸するまでに何分かかる?そして高度6,000まで上がるのは?到底追いつかないぞ」

「いえ、それでもじっとしているよりはましですよ」

それを聞いた鳳翔隊隊長は、

「元気なやっちゃな」と半ば諦めた。

瑞鳳はそっと、

「ねえ、鳳翔隊長。追いつくと思う?」

「無理ですね。零戦21型では6,000まで上がるのに、8分近くかかります。エンジン始動から離陸まで10分。その間に敵機は悠々上空を通過ですよ」

「う〜、やっぱり無理か」と考える瑞鳳。

「まあ、可能性があるとすると、事前に探知して、上空で待ち構える位しか方法がありませんよ」

「目視監視には限界があるし、やっぱり電探監視しかないか。瑞鳳の船も あかしさんに頼んで、電探つけて貰おうっと」

その時、

「敵機発見! 方位東南東!」という声が聞こえた!

管制塔後方にある見張り櫓にいた監視員の声だ。同時に空襲を知らせる手動のサイレンがようやく鳴り始めた。

しかし、すでに泊地の電探では探知済みなので別に驚きもしない。瑞鳳隊隊長は、

「よし、瑞鳳零戦隊。いくぞ!」と愛機へ駆け出したが、鳳翔隊隊長は、

「鳳翔隊はそのまま待機」

「あら、行かないの?」と瑞鳳が聞いたが、

「無駄な努力はしない性分なんで」とあっさりと返した。

瑞鳳が持つ無線機が鳴る。マイクを持ち、

「瑞鳳よ、どうしたの?」と聞くと、

「こちら第一高射砲隊、隊長です。射撃開始してもよろしいですか?」

「はい。今回は追い払うだけでいいからね、落としちゃだめよ」

「難しい注文ですね」と無線の相手は言ったが、

「自衛隊さんの電探情報は来てる?」

すると高射砲隊隊長妖精は、

「はい、陸上自衛隊さんの射撃指揮車から有線でいただいています」

「それじゃ、打ち合わせ通り10発撃ったら、即移動ね」

「はい、瑞鳳さん」

と言うと無線が切れた。それと同時に飛行場の端にある対空砲陣地より、対空砲火が上がり始めた。

ドン、ドンと空中に黒い点が所々できる。

駐機場では、瑞鳳の零戦隊がようやくエンジン始動を終え、滑走路に並びだした。

瑞鳳は無線機のチャンネルを切り替え、

「隊長、瑞鳳よ、上がるのはいいけど、既に対空陣地が射撃を始めたわ、泊地外周部で待機して、もし偵察機が市街地へ向うようなら阻止しなさい、撃墜しなくていいからね」

「瑞鳳1番、了解! 野郎どもいくぞ!」と次々と要撃の為離陸を開始した瑞鳳零戦隊。

それを管理棟の窓から見送る鳳翔隊長。

「元気のいい奴だな」とそれを見送った。

 

 

九九式八糎高射砲を装備する飛行場高射砲隊は、2隊に別れ、飛行場周辺部に配置されていた。

第1高射砲隊では、

「仰角合わせ、急げ!」と隊長の声が響いている。

陸自の移動式射撃指揮車からの方位、距離、高度の電探情報を元に、変化する射撃諸元に合せて砲身を移動していた。

敵機は悠々と高高度を飛んでいるので、この距離では当たらない事は百も承知であるが、こんな機会は滅多にない。

砲撃精度を上げるためには、実際撃ってみるのが一番である。

装填手が尾栓を閉め、

「準備よし」と大声で叫ぶ!

その次の瞬間、ドンという音と共に砲身が揺れた。

爆炎が周りを覆う。

「隊長! 今ので10発目です!」

 

「撃ち方止め! 第1高射隊 第3陣地に移動する!」と大声で叫んだ!

一斉に移動の準備が始まる。

後方から陸自の3トン半トラックがバックで近づいてきた。

「宜しくお願い致します」といい、陸自隊員妖精と協力して高射砲移動準備に入る。

少し離れた所にある第2陣地から、別の隊が高射砲を打ち始めた。

トラックの荷台に乗りながら横に座った兵員妖精が、

「隊長、なんで移動するのですか?」

「ああ、ここは既に今の偵察で位置が露呈した。この後オトリを置いて誤魔化す」

「なぜ、そんな面倒な事を?」

「飛行場周辺は奴らにとって最重要攻撃目標だ。一番最初に狙われる。こまめに位置を変えておかんと、頭上に爆弾がくるぞ」

「それは勘弁してほしいですね」

そう言いながら、トラックの荷台に揺られて陣地を後にした。

 

泊地司令部 簡易指揮所

泊地提督と自衛隊司令は 簡易指揮所にずっと詰めていた。

実は 既に自衛隊敷地内には 2階建て、地下1階の自衛隊司令部が完成していたが、

肝心の地下司令部はまだ機能していない、機材の設置が間に合わなかった。

今回は、この簡易指揮所の機能を強化する事で対応する事になったのだ。

 

窓辺から、上空を過ぎるB-17を見る泊地提督。

黒い機体の影が見える、まるで手が届くのではと錯覚しそうだ。

提督は、

「まるで我が庭を飛んでいる感じだね」と呟くと、

「まあ、そうですね 6000m近い高度を飛んでいます、零戦と言えども上がるのに熟練搭乗員で6分、並みの搭乗員なら8分近くかかりますから、たとえ上がったとしても、高高度飛行になれば、向こうが上ですから、近づいた段階で勝ったと思っているでしょうね」と司令が返した。

 

レーダーコンソールを操作する戦術士官妖精が、

「エネミー、進路240へ 高度6000から上昇中、速度変わらず!」と報告してきた。

「迎撃は!?」と泊地提督が聞くと、

「瑞鳳零戦隊が上がりましたが、現在高度4000です、間に合いません」

「やはり、だめか」といい、

「戻すか」と諦めた声で言った、それを聞いた自衛隊司令が、

「航空管制士官、瑞鳳隊を呼び戻せ」と命じた

「はい、司令」とコンソールに向かう航空管制士官が答え、命令を伝えている。

無線越しに“もう少し追わせてください!”という声が聞こえるが、士官は、

「敵機は、既に高度7000近いぞ、今からでは間に合わん、戻れ」と伝えていた。

渋々了解する声が聞こえる。

 

泊地提督は、

「今は自衛隊がいるが、今後の事を考えると、高高度迎撃の出来る要撃機が欲しい」

確かに、本土では乙戦や丙戦も開発中だが間に合うか? などと考えていたが、急に自衛隊司令が、

「迎撃機ですか?」

「ああ、泊地の飛行士妖精でも運用のできる高高度迎撃機が必要になる」

「では、戦局が落ち着いたら、考えましょう」

「何か いい案でも?」と提督が聞くと、

「自分達の持つ資料を本土に送ります」

「そっ、それは!」と泊地提督が声に出したが、

「間もなく、高射砲有効範囲から出ます!」と地上統制士官の声にかき消された。

 

「高射砲撃ち方止め、各隊警戒配置へ」と自衛隊司令が命じた。

命令は、簡易指揮所から泊地各所へ分散配置された陸自指揮車へと伝えられる。

即座に高射砲の音が止んだ。

「さて、どう動くかだな」と泊地提督がいうと、

「復路に約5時間程度ですから、着陸は夕刻ですね、それから現像して分析、今晩中に目標選定、明日の早朝離陸し、ここにはお昼前位ですか」

「自衛隊司令、そこまで早いかな」

「ええ、事前情報で粗方の目標選定は終わっているはずです、固定目標の最終確認程度で事が足りるはずです」

 

「狙いは、やはり滑走路と燃料タンクか!」と泊地提督が鋭い目で見たが

「ええ、拡充された航空基地は脅威です、ここパラオはトラックの後陣です、後方に脅威となる航空基地があるのは好ましくありません、それに大型のタンクはパラオだけでなく、ミクロネシア全域で活動する海軍にとっては貴重な油です、それを無力化できれば御の字です、ただ、疑問もあります」

「疑問?」

「これです」といい MQ-9が捉えたパラオ北部海域に集結する深海棲艦艦隊の後方の上陸部隊を画面に映した。

「この艦艇群には複数の上陸部隊が乗っています、もしパラオの占領が目的なら重油タンクは無傷で手に入れたいはずです」

「では?」

「タンクの破壊は、上陸が困難と判断された段階で行われると思います」司令は、

「最初の航空爆撃では、滑走路の破壊、港湾施設の機能停止、湾の封鎖が目的ではと推察されます」

「湾内に由良達を閉じ込める気か!」

「ええ、湾の入り口を機雷で封鎖すれば、艦艇は狭い湾内で動きが取れません、2波、3波目の爆撃で撃沈する事もできます」

提督は少し考え、

「実は、由良はB-17が苦手でね、前に一度、哨戒中にB-17とドーントレスから爆撃された事があってね、B-17とドーントレスは苦手なんだ」

「今回は大丈夫でしょう、それに頼れる秋月達、仲間もいます」

「司令、ありがとう」と泊地提督は静かに答えた。

 

夕刻、泊地司令部はいまだに大勢の人員でごった返していた

司令部要員は、明日から予想される戦闘に向け、各所への準備作業に大忙しであった。

鳳翔配下の主計局員は、補給物資の確認作業に追われ、瑞鳳の航空基地の要員も出入りが激しくなった。

また地元民の職員も大勢残って作業をしている。

提督は、

「明日は大規模戦闘が予想される、皆帰宅し、家族の元にいなさい」と指示したが、

殆どの現地職員は残ったままだった。

古株の現地職員が、提督に、

「大丈夫です、きっと由良さんや光の巫女様達が守ってくれます、彼女達にしっかり戦ってもらうためにもここは自分達がやります」と仕事を続けた。

彼らにとっても、この戦いに敗れる事があれば、それはパラオが深海棲艦に占領される事を意味する、彼らも必死なのだ。

爆撃に備え、司令部入口にも土嚢が積み上げられていた、ガラスには飛散防止の為、紙の帯をノリで貼り付け補強している。

 

提督はそれらを見ながら、

「この準備が全て無駄になればいいが」と思い、静かに、2階の簡易指揮所へ上がって行く。

 

ドアを開けると、既に泊地内待機中のすべての海軍艦娘、はるな、きりしま、あかしが揃っていた。

正面の画面には 海上待機中のいずも

既にパラオ南西へ進出したこんごうとすずや、ひえいが映っていた。

前方の席には自衛隊司令がすでに着席している、横には由良が座っていた。

 

泊地提督は、並ぶ二人を見て、

“?”と一瞬思った

“似てる、雰囲気が”と思ったがその瞬間 由良の、

「起立!」という号令で 鳳翔達が一斉に起立したのを受け、思考を止めた。

皆の前方へ立つと、

「礼!」と再び由良が号令を掛け、一斉に礼をする。

泊地提督が答礼すると、

「直れ!」と由良が節度ある声で号令をかけると一斉に直った。

「まあ、掛けてくれ」といい、皆着席した。

提督は、

「さて、本日 当初から予見されていた深海棲艦ラバウル航空隊の昼間強行偵察があった、

表向きは奇襲された形をとったが、実体は洋上で待機中のこんごうさん始め、いずもさんの艦載機に後を付けられているとは全く気付いていないようだ」

普段なら、ここで冗談の一つでも出てくるが、今日は皆真剣だ、提督は、

「奴らは、既に夜間偵察、今日の強行偵察を含め、真面目な迎撃を受けなかった事で油断している、パラオには探知、迎撃能力がないと、しかし我々は自衛隊の協力の元、きちんと準備してきた。また北部海域に集結中の戦艦を含む艦艇群も既にいずもさんの早期警戒機の監視下で丸裸状態だ。確かにこちらは数では劣勢だ、しかし我々には戦場を把握する能力がある、素早く動き、相手に付け入る隙を与える間もなく迎撃する、いいな」

「はい!! 提督」と駆逐艦の子達が元気に返事をした。

提督が席へ着くと自衛隊司令が立ち、一言、

「いずも、オペレーションGoだ。後は頼んだ」とだけいい、席へ戻る。

「はい、司令。ご期待に応えてみせます」と静かに答えたが、目が一瞬鋭く赤く光ったのを 鳳翔は見逃さなかった。

「やはりですね」と小さく呟いた。

 

由良が立ち上がり、

「では、通達します。明朝マルゴマルマル時をもって、迎撃戦へ移行します。各艦はマルゴマルマルには沖合の集結地点にて漂泊、対空戦闘準備に入ってください。対空戦闘指揮艦に 秋月ちゃんを指名します」

すると 秋月は起立して、

「拝命いたします。秋月にお任せください!」

「では皆さん、今日はしっかり休養して、明日に備えてください」

「はい、旗艦!」と返事をする艦娘達。

画面に映る いずもが、

「きりしま、秋月さんの補佐を。はるなと あかしは外周部で迎撃を」と言うと、

「あかし、ちゃんとSeaRAM当てなさいよ」と付け加えた。

「えっ!撃っていいですか?」と驚く あかし。

「許可します。但し前回の演習みたいに、一斉に全弾打ち尽くすとか無駄な事はしないでね」と釘をさした。

「やった。SeaRAM、SeaRAM」といい、喜ぶ あかし。

それを見た 秋月が横に座る きりしまに、

「あかしさん、なにか嬉しそうですね」

「まあね。前回、日本海で演習したとき、1機の標的機に何を血迷ったか11発ものミサイルをぶち込んだのよ」

「11発!」

「あの子たまにそういう所が抜けてるのよね」とあきれ顔の きりしまであった。

いずもは、

「こんごう、ひえいは当初の計画通りB-17を洋上で迎撃。その後、泊地艦隊と合流して南下する敵艦艇群の迎撃戦へ」

「はい、副司令」と こんごう、ひえいが返事をした。

こんごうの後方にいる すずやに、

「すずやさん、自衛艦娘として初めての本格な戦闘です。よく こんごうの動きを見て勉強してください」と いずもが言うと、

「はい、副司令」と元気に返事をした。

 

自衛隊司令は静かに、

「明日は歴史が動くな」と呟いた。

 

 

 

翌朝、パラオの水平線が薄っすらと輝きだした。

朝日が昇る。

 

泊地内部に係留されていた 由良以下の艦艇は準備の出来た艦より順次抜錨し、湾外を目指した。

先頭は旗艦 由良。

「両舷前進半速! 長良型軽巡 由良、出撃します!」 由良は艦橋で新しい艦長席に座り、凛と命じた。

機関員がテレグラフを操作し、機関クラッチが接続され、ゆっくりと船体が加速していく、

舳先が海原を切り裂いていく。

次に進むのは 睦月。

睦月も艦橋に立ち、

「みんな、出撃準備はいいかにゃ~ん」といつもの調子で聞いていたが、

「はい、艦長!」と艦橋にいた全員が返事をした。

「睦月、いざ参りますよー!」

「おう!」と皆で返事をし、船速を増した。

 

そして姉妹艦の 皐月。

皐月は艦橋横の小さな見張り所で、出航の指揮を執っていた。

ふと、湾の出口の岬に大勢の島の人達が見送ってくれているのを発見した。

双眼鏡で見ると岬は人でいっぱいだ!

 

「皆、ちゃんと避難してくれるかな」と思いながら目を移すと、

そこには仲良くしているあの少女の姿があった。

親代わりの叔父に肩車され、大きく両手を振っている。

聞こえないとは分かっているけど、

「ボク、ガンバル!」と大きな声で叫んだ。

 

次に 鳳翔、そして 瑞鳳。

本来なら湾内で待機の予定であったが、湾の入り口が機雷で封鎖される事が予想されるので外周部へ出た。護衛に はるな、あかしが就く。

鳳翔は甲板上で岬に見送りに出た人々に一礼し、振り返ると、

甲板上に集合した乗組員に対し、

「皆さん。これは演習ではなく、実戦です」

「はい! 艦長」

「鳳翔、やるときはやるのです」

「はい! 艦長!!」甲板いっぱいに乗員の声が響く!

 

瑞鳳も甲板に乗員を集め、

皆を見ながら、

「航空母艦 瑞鳳。推して参ります! 今までの訓練の成果! 見せる時がきました!」

「おう!」

「各員の奮闘を期待します!」と大きな声で叫んだ。

 

その後ろは 陽炎、長波が続く。

陽炎は艦隊コミニュケーションシステムに映る 長波に、

「長波?」と呼びかけた。

「はい、教官!」と 長波が元気に返事をして来た。

「震えてない?」

「はい?」と不思議がる 長波。

「ならば、大丈夫ね」といい、自分も前を見た。

横に立つ副長が、

「あれだけの修羅場をくぐりましたから、もう大丈夫なのでは?」

「そう思う?」

「ええ、夕雲型では頭一つ抜けた感じですね」と副長が答えると、

「でも、まだ“お姉ちゃん”と呼ばせるわけにはいかないわね」

「艦長も意地悪ですな」と副長が言うと、

「彼女には、最高の駆逐艦娘になってもらいます」と厳しく前を見た。

 

そして最後は対空指揮艦の 秋月、殿はきりしまである。

秋月は艦橋で艦長席に座り、モニターを見ながら、

「艦隊、いえこのパラオの人達をお守りします! 皆いいわね!?」

「はい! 艦長!」と乗員の元気な返事が戻ってきた。

 

パラオの海が赤く朝焼けで色づいている。

その朝焼けを受けながら、各艦の艦尾にたなびく海軍旗。

 

パラオの戦いは今、始まろうとしていた。

 

 




こんにちは スカルルーキーです

分岐点 こんごうの物語を読んで頂きありがとうございます。
寒くなってまいりました、寒いの嫌いです。
執筆中は BGMに第四次艦隊フィルハーモニー交響楽団を聴きながら書いています

次回は B-17殲滅戦です(たぶん)
では



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