分岐点 こんごうの物語   作:スカルルーキー

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遠くで鳥のさえずる声が聞こえる
明るい ガーデンテラス テーブルセットの上には ティーセット

「ああ おまえか」と彼女はいった
黒いロングのドレスをまとう 長身の女性

「無事についたのだな」
「まあ 頑張ることだ 私のようにめんどくさがらすに」
そう言うと 意識がうっすらと消えていった


2.接触

翌朝、総員起こしの前に目が覚めた。

うすぼんやりとする意識のなか、否応にも潜水待機状態の艦をみて現実に引き戻される。

 

「う~ん、誰と話してたのかな?」と寝ぼけながら、

 

「ああ。起きたら夢だってのは、やっぱり無しか〜」

 

こんごうは何故か寝相が悪い。今でこそベッドの中で収まっているが、士官学校時代は2段ベッドから落ちるわ、はみ出るわで、同室の ひえいを悩ませた。

いまもその影響か着ている服はぐちゃぐちゃである。まあ男性諸氏が見ればそれはそれで…。

 

艦長特権で私室の隣に設置したシャワー室に入り、身支度と髪を整え、珈琲を入れてようやく意識が戻る。

艦内総員起こしがかかり、やや慌ただしくなる艦内。当直引継ぎなどが行われ一日の課業が始まる。艦橋に行く前にCICに顔を出した。

 

「おはよう、砲雷長。何か問題は?」

 

「おはようございます、艦長。今のところ問題がないのが問題ですね」

とまあ朝からわけのわからない事をいう砲雷長であるが、腕は確かなので信頼できる。

 

「レーダーが使えないからソナーが頼りです。ソナー妖精、頑張ってください」

「はい艦長。クジラの寝言一つ聞き漏らしません」

“じゃ”とひらひらと手を振りながらCICを出る。

後から、

「ソナーだけずるいぞ」とか「今度、曳航ソナーに括り付けて引きずってやる~」とか色々聞こえますが、まあ緊張ばかりでは士気にも影響しますしここはね…。

 

艦橋に入る前に入口で妖精隊員さんが、

 

「艦長、艦橋入室します」と元気に号令し、敬礼している。

 

「おはよう~」と言いながら、ポンポンと頭を撫でてあげる。

 

「!!」

 

その昔は「地獄榛名に鬼金剛、羅刹霧島、夜叉比叡、乗るな山城鬼より怖い」などの言葉があったそうであるが、今や妖精さんは大切な乗員。

彼らは私より経験豊かなプロフェッショナルなのです。

 

「おはようございます、艦長」

 

「副長、おはよう」と言いながら艦長席に座り、副長の差し出すレポートに目を通す。

 

当直からの引き継ぎ書である。確認してサインする。

 

定時である。艦隊のミーティングが始まる。

艦隊コミュニケーションシステムの画面を起動すると、旗艦 いずもを中心に各艦の艦長が映し出される。

 

「おはよう、諸君」

 

「「「「おはようございます、司令」」」」

 

「きりしま、怪我は大丈夫か?」とやや笑いを堪えながら司令が問いただした。

 

額に大き目のシップを張った きりしまは、

「はあ、何とか」と如何にもばつが悪そうである。

 

「さて諸君。昨日からの状況を鑑みても分かると思うが、艦隊は現在どことも通信が出来ない。正確に言えば通信相手が居ないという方が正しい」

「いずもの司令部で色々と状況を整理しているが、受信電波などからほぼ1942年当時、約80年も前にタイムスリップしたと考えられる」

意外とあっさり司令は言う。

 

「状況確認の為、午前中にパラオ、出来ればチューク諸島、当時のトラック泊地まで偵察機を飛ばしたい。但しGPSが使えない為無人機は使えないので、E-2Jあたりを飛ばす」

 

こんごうは司令に対し、

「司令!仮に1942年だとして我々がとるべき行動は如何致します?」

 

「今のところは息を潜めて隠れていよう。下手に動いて、国籍不明艦隊として攻撃されてはたまらん。昨晩 いずもと話したが、この世界が我々と同じ次元であるとは限らん」

 

「時代では無く、次元ですか?」

 

すると いずもが、

「そうです、こんごうさん」

「似て非なる全く異なる歩みを進む時代かもしれません」

 

「そうだ、こんごう。この時代の日本は我々の日本ではない」

 

「他に質問は?」と いずもが聞くが、特にない。

彼女がこう話すときは逆に聞きづらい。なにせ学校の先生のノリである。

 

「では、警戒待機のまま」と言いかけた時、

 

いずもの統合CICより呼び出しがかかる。

 

「統合CICより報告。はるなソナーが本艦隊10時の方向、深度およそ50m、距離10kmに微弱なエコーを感知。現在音響ライブラリーを検索中です」

 

「同じく監視ブイレーダーより報告します。本艦隊から30km、速力12ノットで本艦隊を追従する水上艦を探知。大型の艦船と思われます」

 

いずも「挟撃されてるの?」

 

CIC「今のところ2つのエコーには関連性はありませんが、水上艦はこちらに近づいています」

 

「いずも、こちらが探知されている可能性は?」

 

「はい司令、今のところ大丈夫です」

 

「統合CIC。水中艦をアンノウンアルファ、水上艦をブラボーとして監視」

 

「アンノウンアルファ、移動開始しました。ゆっくりですが近づいてきます」

 

「警戒態勢を維持したまま待機。いつでも動けるようにしておいてくれ」

 

「「「「「はい、司令!」」」」」

 

 

 

 

こんごうはモニターを偽装監視ブイに切り替え、最大望遠にセットし後方の水上艦に向けた。

朝日をゆっくりと浴びながら徐々に大きくなる艦影を見て絶句した。

「うそ、あれは…」

 

海上を進む鋼鉄の城。独特の砲塔配置、艦橋、マスト。

「戦艦 金剛!!お祖母様の船舶艤装。うそ、なんで動いてるの?1944年11月に台湾沖に沈んだのよ。深海凄艦の雷撃をうけて!お祖母様達を助けて艤装だけ沈んだはずなのに?どうなっているの?」

 

やや興奮気味の こんごうを諭すように、

「艦長、落ち着いてください。待機中です」

 

「副長、ごめん。つい興奮して」

 

「こんごう、落ち着いたか?」

 

「司令、失礼しました」

 

「こんごう、あの艦影は間違いなく“金剛”なのか?」

 

「はい、間違いありません。たぶん第二次改装後です」

 

「後方は 長門型か。その後ろは 大和型だな。いずも?」

 

「長門型は 長門ですね。大和型はちょっと 武蔵と区別が付きにくいですね」

 

「司令、たぶん後方は 大和さんです」

 

「こんごう、なぜ?」

 

「長門さんはこの時期、次期総旗艦としての大和さんを指導していましたから」

 

「う〜ん。金剛、長門に 大和か。軽巡や駆逐艦が見当たらんな」

 

「駆逐艦無しでこんな所を行くなんて自殺行為です。雷撃されたら反撃もできません。この時代の戦艦のソナーは性能が悪い上に、対潜装備を殆どもっていません」

やや焦り気味の こんごうがまくし立てるように話す。

 

いずもCICから続報が、

「アンノウンアルファ 音響解析 潜水カ級 深海棲艦です」

 

素早くいずもが、

「アンノウンアルファをエネミーアルファへ変更。対潜警戒へ」

 

「司令、撃沈しましょう!間違いなくカ級の狙いは 金剛以下の水上艦です。今なら間に合います!」こんごうは強く意見具申した。しかし、

 

「こんごう、残念ながら今それは出来ない」

 

「なぜです!司令」

 

「さっきも説明したはずだ。今の日本は俺たちの日本ではない」

 

「こんごうさん。確かに水上艦の 金剛は貴方のお祖母様かもしれません。しかしこの時代、戦争をしているのは私たち“自衛隊”ではなく日本海軍です」

いずもが厳しい口調で制した。

 

「我々から先制攻撃を仕掛けることはできん。あくまで自衛か、邦人救助が前提だ」

 

カ級を監視する はるなCICから急報が、

「エネミーアルファ、転蛇します。注水音並びに機械音確認、雷撃準備だと思われます」

 

こんごうは艦長席のひじ掛けを握りしめていた。

カ級は間違いなくお祖母様達を雷撃しようしている。でも自分にはそれを止める事が出来ない。ただじっと見ているだけである。

 

不意に、

「こんごう、大丈夫?」

 

「はるな?」

 

「この時代の潜水艦の魚雷は無誘導方式だから真っ直ぐしか走らないの。だから雷撃しても中々当たらないの」多分、私を安心させたかったのだろう。

 

「はるな。ああ、お祖母様の強運を祈ろう」

しかし自分の祖母は、その中々当たらないはずの魚雷を2本も被弾して沈んだ。

頭の中で焦燥感だけが渦巻いていた。

 

しかしその時、絶望的な報告が いずもCICから届いた。

「エネミーアルファ 高速推進音 6!」

「目標 水上艦 1番艦と交差経路です」

 

艦長席に据え付けのCICに連動している戦術ディスプレイに、カ級から発射された魚雷の推定航跡が表示される。金剛に真っ直ぐに向かっている!

 

「お祖母様! 避けて!」と こんごうは叫んだ。

 

 

 

 




こんにちは スカルルーキーです
なかなか 思った風景を 文章にするのは難しいです はい

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