分岐点 こんごうの物語   作:スカルルーキー

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今回のお話は
haruGamesJP様の「艦これの世界に迷い込んだ自衛隊」がもし、パラオへ入港してきたらという、番外編でございます。
本篇にはない設定がございますので、そこは違うぞとか突っ込みは無しでお願いします



番外編1 増援部隊艦隊が来ちゃった ぽい?

 

パラオ駐留自衛隊艦隊 司令の由良は新設された真新しい自衛隊司令部の2階、艦隊司令公室の机の前でじっと天井を眺め、ぼーとしていた。

 

パコン!

 

室内に乾いた音がした、

「痛って、なにしやがるいずも!」

 

そこには、書類の束を筒状にまとめ、手のひらでポンポンと叩き、ぐっとこちらを睨むいずもの姿が、

「甲羅干ししてる亀じゃないですから、ぼーとしないで、目の前の現実と戦ってください!」

 

司令官席の前には、高さ数センチにも及ぶ書類の束が並べられていた、そして今まさにその書類の束にいずもが持参した書類が積み重ねられた。

司令の仕事は、太平洋地域から深海棲艦強硬派を排除し、穏健派を擁護、そして和平への道のりを築く事であるが、それは表の仕事で、中では艦隊運用に関わる、重要な決済事項の承認という大事な仕事があるのだ。

種々の業務は、各艦の補給科や陸上では同行している陸自隊員妖精が会計業務などを分担してくれているが、今のところこのパラオ泊地内部での自衛隊最高責任者として、最終的な承認事項は司令が決済する必要がある。

秘書艦である、いずもがそれらの書類を分類、整理して重要案件のみを司令へ回す。

司令は、それら案件を確認しながら、承認の覧へ捺印していくのである。

 

司令は、諦め積み上げられた書類を拾い、確認する作業へ入ったが、数枚目の案件で、手が止まった。

「いずも、このあかしの開発稟議書はなんだ?」

 

「あっ、それですか? 勿論却下してください」とあっさりと返事を返した。

「それはいいんだが、この“艦霊力を使用した、超重力砲の開発について”ってなんだ?」

そう言いながら、パラパラと稟議書を捲った、勿論そこには“不可”の印鑑がすでに押されて、いずものサインがしてあった。

 

いずもは、秘書官席から立ち、司令の前までくると、

「私達がこちらの次元へ飛ばされた時に、観測した次元波動と、艦娘の艦霊力をとの因果関係を検証して、一定の関連性を見つけたので、その理論を応用した磁場重力砲を開発したいというやつです」

 

司令は驚きながら、

「もしかして、ア○ペジオに出てくるやつか?」

 

「本人のイメージCGを見せてもらいましたけど、殆どそれでしたね」と呆れ顔で答えた。

「でもよ、本当にこんなもの開発できるの?」

「まあ、本人の趣味の範囲を超えています、それにね」

「それに?」

「稟議書にも書いていますけど、このシステム、莫大な艦霊力を消費すると見積がされています、現在我が艦隊でこれだけの艦霊力を持つのはこんごうだけですよ」

 

「それで?」と司令が聞くと、

「このシステムを開発するにはこんごうの協力が不可欠ですけど、当のこんごうは、

“あのアニメは好きだけど、あの艦みたいに船が真っ二つに裂けて砲を打つなんて御免です、第一 あの女と同じというのが気に要りません、私は彼女ほどめんどくさがり屋ではないです!”…という事で、却下となりました」

すると司令は

「まあ、名前の読みは同じだが、性格は正反対だしな」といい、稟議書を「保留」と書かれた書類棚へ投げ込んだ。

 

「えっ、保留ですか?」と聞くいずも

 

「ああ、まあ研究課題としては面白いじゃないか?」

 

「研究課題ですか!」

「そうだ、あの艦隊の件もある、ゲートを含む次元現象と艦娘の関係については我々全く知識がない」

そう言うと、いずもやこんごうが停泊する パラオ泊地外周部を見た。

いつもと変わらず、今は6隻の護衛艦が停泊している。

 

いずももそっと外を見て、

「彼女達、無事目的地へつけるでしょうか?」

すると司令は

「戦力だけでいけば、うちの艦隊の倍はあるぞ、あれでダメならこの次元では生きては受けんよ」

そう言うと、自分も外を見た

数日前、そこには17隻の護衛艦がひしめき合っていた。

 

 

 

事の発端は、トラックへ遠洋航海訓練に来ていた 重巡愛宕が、トラックとこのパラオの中間点で正体不明の大規模艦隊を発見したという通信から始まる。

それを傍受した泊地内部は

「深海棲艦の侵攻部隊か?」と一時大騒ぎとなった。

いずも、こんごうが緊急抜錨し、いずもはE-2Jを飛ばし、情報の収集を始めたが、

その直後 いずもCICそしてデータリンクを行っていた全ての艦艇からどよめきが起こった。

 

いずもはCICへ、

「じゃ、その不明艦隊とリンクシステムが繋がっているの?」

通信情報管理士官が、

「はい、リンク16並びリンク60が接続されています」

いずもは自身でも、艦橋の艦長席に座り、戦術ディスプレイをみた。

そこには、

11隻の自衛艦、1隻の不明艦の情報が表示されている

「不明艦は 重巡の愛宕さんね」

画面を切り替え、リンクシステムで繋がる艦艇名を表示させ絶句した

「なっ、なにこれ!」

そこには

 

DDG-200 あたご

DDG-201 あしがら

DD-115 あきづき

DD-116 てるづき

SS-501 そうりゅう

SS-502 うんりゅう

SS-503 はくりゅう

SS-504 けんりゅう

 

そして、しなの

さらには

「かが! あかしですって!」と画面を覗きこんだ、

 

しかし、その画面上に表示される固有識別番号は あかしとは違う別の番号、それも新しい艦に付加される番号が表示された。

 

「何? この艦隊」そういった時、コミュニケーションシステムが開きそこには

こんごうが映っていた。

「副司令、これは?」と向こうも困惑気味である。

 

「私もよく解らないけど、とにかくリンクシステムが通じるという事は、1隻を除いて、11隻は自衛艦もしくはそれに類する艦ね」

 

「しかし、副司令、IFFコードのデータでは、数隻未登録コードがあります」

いずもは、暫し考え、

「もしかして、私達よりも後に建造された艦、または、」

 

「または?」と息を呑むこんごう

「我々がいた次元とは違う、別の次元から飛ばされてきた艦隊」

いずもは、

「まあ、この距離で攻撃してこないという事は、深海棲艦でも米軍でもないでしょう、私が接触してみます」といい、先方のリンクシステムの仕様を確認した

原型はリンク16の様だ、こちらの仕様で拡充した艦隊コミニュケーションシステムや戦術ディスプレイなどの運用機能も認められる。

 

いずもは 思い切って相手艦隊の旗艦と思わる、「SINANO」と表示された艦へシステムをつないだ

艦隊コミニュケーションシステムが起動し、先方のCICと思われる場所が映し出された。

そこに写る一人の男性と女性、女性は間違いなく艦娘だ。

いずもは、静かに艦長席から立ちあがり、意を決して

「こちらは、海上自衛隊佐世保基地所属、第2護衛隊群第1艦隊 旗艦いずもです、貴艦隊の所属と艦名を」と言うと

 

通信先の男性、階級章から海将補である事が分かる

「こちらは、海上自衛隊横須賀基地所属、第一空母護衛艦隊 司令の佐藤だ」

横に立つ女性士官が

「艦隊旗艦しなのです」

 

いずもは

「空母護衛艦隊?」

 

「はい、いずも先輩、自分達は先輩達がこの世界へ左遷、いえ飛ばされたあとに編成された、打撃空母艦隊です」としなのと名乗る艦娘が言った。

 

いずもは、顔では平然としていたが、メガネの奥底では、

“色々と突っ込みたい所はあるけど、その前にこの子、左遷っていったわよね、

ええ!どうせ私達はあの横須賀のくそ婆と三笠様に騙されて次元の違う、80年もの過去へすっ飛ばされた挙句に、過去の清算を押し付けられた左遷組ですよ!“

“それに、横須賀じゃ、ミサイル艇の子達に、図体のでかいお局さまとか、係留場所を独占する係留女王とか…!”とぶつぶつとと訴えていた。

いずもから、急激に不機嫌オーラが出て、いずもの横に立つ副長が一歩下がった。

ディスプレイ画面の端で こんごうは

いずもとしなので交わされた会話を聞いて、「ああ、いきなりですか?」と囁いた。

 

いずもは、気を取り直して

「私達の事を知っているという事は、同じ次元から来たという事ですか?」

すると、佐藤と名乗った司令は、

「そこは、はっきりしませんね、詳しい事は後ほどお話したいと思いますが」

いずもは、質問を続け

「それで、貴方の今後は?」

 

「現在 自分達は重巡愛宕さんの誘導のもと、パラオ泊地を目指しております、すみませんが、同じ組織という事で、日本海軍パラオ泊地提督とのコンタクトをお願いしたい」

 

「入港がご希望という事ですね?」

 

「はい、パラオ泊地の湾内が狭い事はしっておりますので、外周部へ一時、漂泊させて頂きたい」

 

「了解したしました、佐藤司令、こちらからはE-2Jを上げています、周囲には深海棲艦の潜水艦がいる事も想定されていますので、ご留意ください」

 

すると、

「対潜担当が既に動いています」といい画面を切り替えた

 

そこには、先輩格であるかがさんの姿が、

「こんにちは、いずもさん、お久しぶりね」と敬礼しながら、挨拶してきた

 

そして、コミニュケーションシステムに写る佐藤司令へ

「では、こちらの誘導に従いパラオへ変針してください、間もなく合流します」

 

いずもは、回線を秘匿暗号回線に切り替え、パラオ泊地に新設された海上自衛隊パラオ基地司令部へ繋いだ。

コミュニケーションシステムに映る由良司令

「司令、状況については確認して頂きましたか?」

画面の向こうでは、司令と当直のきりしまが映っていた。

「リンクシステム並びIFFデータ照合しました、友軍艦艇のコードが11、未確認1です」ときりしまが由良司令に報告していた、続けて戦術士官がディスプレイ画面を見ながら、

「友軍艦艇、コード判定でました、空母1、DDH1、イージス艦2 DD2、潜水艦4、支援艦1です」

「ほう、中々豪華な艦隊だな、しかし空母っていうのはどういう事だ?」

すると戦術士官は

「それが、国籍コードは海自なんですが、艦種は空母でデータが送信されています」

と困惑気味であった

「それと、DD及びSS以外はすべて新規コードです、我々以降に新造された艦であると思います」

きりしまは、DDコードに懐かしいコードがある事に気がついた。

司令は困惑気味に

「参ったな、増援部隊かな?」

「そう判断するのは早計なのでは?」

「いずも、どうしてそう思う?」

「増援を送ってくる理由が分かりません、もしかしたら事故という事も考えられます」

 

「まあ、ここで議論しても始まらんし、済まんが回線をその司令へ繋いでくれ」

 

いずもは、再びしなのを呼び出し、パラオ自衛隊指揮所とつないだ

画面に映し出された佐藤司令としなのをみて

「初めまして、佐世保基地所属第2護衛隊群 第1艦隊司令です」

すると、佐藤は

「横須賀基地所属、第一空母護衛艦 司令の佐藤だ、こいつは旗艦のしなのだ、宜しく」と横に立つ艦娘を紹介してきた

 

佐藤司令は暫し、由良司令をみて

「海自内部の資料にあったが、数例しかいない男性の艦娘か、確か長良型4番艦由良の息子だったな」

由良司令はすこしムッとして、

「ええ、そうですよ、よくご存知ですね」

「ああ、艦娘運用課で資料を見せてもらった」

「ほう、しかし、この事は泊地内部では秘密ですから、ご配慮願いたい」

「了解した」

別画面のいずもが

「司令、良かったのですか?」

「仕方ないさ、幕僚監部内部の人間ならだれでも知っている事だ」

 

由良司令は気を取り直して、

「パラオ入港がご希望との事ですが?」

「ああ、こちらの世界へ来てまだ間がない、状況整理を含めて一時入港を希望する」

「はい、了解しました、自衛隊係留地への入港であれば問題ないと思いますので、こちらのいずもの指揮へ入って頂き、建制順に投錨してください、泊地内部の日本海軍にはこちらから事情説明を行います」

すると、佐藤司令は、

「済まないが手配の程 お願いする」

 

 

由良司令は、その足で自衛隊敷地から車で移動し、日本海軍パラオ泊地司令部へ向った。

すでに、泊地提督と由良、そして鳳翔が提督室で待機していた。

提督は入室した自衛隊司令を、応接ソファーへ案内した。

鳳翔が二人へお茶を出した。

 

「自衛隊司令、それで不明艦隊とは一体なんですか?」と泊地提督がいきなり切り出した

「手短にいえば、我々と同じ海上自衛隊の艦隊です」

「えっ! なんですって!」と一同驚きを隠せない

 

「どういう事ですか?」と提督が再度聞いてきたが、

「援軍と考えたい所ですが、こちらには思い当たる節がない、元々我々は自分達の次元の大巫女と三笠様の意向で此方へ飛ばされてきました。」由良司令は続けて、

「しかし 今のところその自衛隊艦隊が追加派遣される要素が見当たらないのです」

「では 援軍ではないと?」

「そう言うわけでもなくて、少し話が混乱するかもしれませんが、その艦隊、司令が佐藤と言うので仮に佐藤艦隊としますが、自分達が元いた次元から来たとは限りません、全く別の次元から別の意思によって飛ばされた可能性、もしかしたら事故で飛ばされた可能性も否定できないのです」

「では?」

「ええ、我々の事を知っていても元は同じとは限らないという事です」

泊地提督は暫し、考え

「いずもさんから電文で、入港と一時休養が希望という事ですが」

「はい、艦隊の規模が大きいので、自衛隊係留地区へ漂泊してもらう方向で調整しています、一応パラオ泊地への入港という事で承諾をお願いしたいのですが?」

提督は、艦娘由良をみたが、特に大きな反応は示さず、鳳翔も同じであった

「問題ないみたいですので、許可致します」

「ありがとうございます」と一礼し、ポケットからタブレットを取り出すと、いずもへ入港許可のメールを送信した。

 

送信後、泊地提督が

「自衛隊司令、実はその艦隊の件で少し問題があるのだが」

「ええ、分かっています補給の件ですね」

「済まない、現在の補給量では、いずもさん達を養うので精一杯で、これ以上艦隊が増える事は避けたい、本当なら喉から手がでるほど欲しいのだが」

すると鳳翔が

「済みません、私がもっとしっかりしていれば、補給も十分に管理できるのですが」

すると由良司令は、

「まあ、仕方ありませんよ、表向きにはここには自分達のような大型艦隊は存在しない事になっています、必要以上の補給は受けられないのは仕方ない事です」

 

「それで、その佐藤艦隊はどうするつもりだ?」

「提督、今のところまだ何も聞いていませんが、こちらで駐留出来ない以上、何処か安全な泊地を探し、隠ぺいする必要があります」

「まあ、先方の都合もあります、まずは入港して頂き、状態を確認しましょう、少なくとも敵ではないようです」

泊地提督は、

「あとどれくらいで入港できる?」

「今日の午後には入港できると思います」

「では、済まないが、自衛隊の方で対応お願いできるかな」

「ええ、同じ組織ですので当方で対応させて頂きます」と答える由良司令

 

泊地提督は、由良を見て、

「済まんが由良 連合艦隊司令部へ事の顛末を報告してくれ」

「はい、提督さん」といい、由良は秘書艦席へ着き、報告書を記入し始めた

鳳翔が、

「あの提督、その新しい艦隊ですが、歓迎会とは行きませんが、何かいたしますか?」

「そうだな、急な事だし、出来る範囲でかまわんよ」

「では、艦娘寮で簡単な夕食会というのはいかがでしょうか?」

「済まんが、任せていいかな」

「はい、提督」

すると、由良司令が、

「こちらからも、はるなを応援で出しましょう、今日は非番のはずですし」

鳳翔が

「ひえいさんは?」と聞いて来たが、

「彼奴は、カレーは旨いですけど、それ以外は少し難ありでしてね」

「そっ、そうですか?」と驚く鳳翔

「まあ、食べれるですけど、旨いか不味いかの両極端なんですよ」

「やはり、比叡さんですね」と笑いながら答えた

 

泊地提督は、

「では、そう言う事で対応をお願いする」

「はい、了解しました」と由良司令は返答し、席を立った

 

退室した自衛隊司令を窓辺から見ながら

「世の中、何が起きるかわからん」と呟く泊地提督であった

 

 

その日の午後、いずもを先頭にこんごう、重巡愛宕、そして海自佐藤艦隊がパラオへ入港してきた。

佐藤艦隊は、先に投錨していたきりしまの横へ、次々と投錨して漂泊していく

佐藤司令が、いずもの案内でしなのを連れ、自衛隊パラオ司令部へ挨拶に来た

 

真新しい司令部の2階、司令官公室の中へ案内された佐藤司令達

この次元では、先任にあたる由良司令が

「まあ、なんというかようこそ」と挨拶してきた。

「こちらこそ、あの行方不明になった艦隊とここでお会いできるとは思いませんでしたよ」

席を薦めて、着席する

「まあ、しかしそちらの艦隊、正規の攻撃型空母に発展型スーパーイージス艦など、規模で行けば当艦隊の数倍近い攻撃力ですね、よく海自がそれだけの戦力を保有できたものだ」

すると佐藤司令は、

「あなた方が行方不明になって以降、憲法の一部改訂および自衛隊法の改定が行われ、自衛隊そのものの政治的位置も変わりました、特に米軍の大幅縮小に伴うアジア太平洋地域の海洋覇権を争う緊張感は一気に高まりましたからね」

すると由良司令は

「では、日本周辺海域における海上抑止力強化の為、あのような正規空母を建造したと?」

「ええ、まあいずもさんの建造で、前例があったからこそ、国会も国民も受け入れたという事です」

「防衛省は、かなりゴリ押ししましね」とだけ由良が聞くと

「ええ」とだけ佐藤は答えた

由良はじっとして

「危うい時代になったな」とだけ呟いた

そして話を切り替え

「さて、こちらに来てしまいましたからね、今のところ帰る方法が見つからない以上、

どの様にするかお考えですか? 佐藤司令」と由良司令が問いただしたが、

 

「正直なところ、どのようにするか見当もつきませんよ」

すると由良は

「本来なら、このパラオでご一緒できれば一番いいのですが、ご覧の通りこのパラオは湾も小さい、もっとも問題なのが補給の細さでね、元々いるパラオ泊地艦隊と我々の艦隊の補給を保つので精一杯の所です」

 

「では、駐留はできないと」

「まあ、手短にいえば」と由良は答えた

 

佐藤司令は、意外な答えに驚きながら、

「我々に出ていけと?」

「そこまでは申しません、しかし当この泊地では運用できる艦隊に限界があります、佐藤司令、一つ注意して頂きたい、“この世界は我々の知る世界ではない”という事です」

「どういう事だ?」

「そのままですよ、このパラオ泊地は今、戦闘地域の真っ只中です、ここ数日は深海棲艦の夜間偵察が頻発する戦闘地域です」

「それは、理解している、すでに我々も重巡愛宕を保護する為に戦闘を行っている」

「では、お聞きします、貴方は何のために戦うのですか?」と由良司令は聞いた

「当たり前の事を聞くな、“国民の生命と安全を守るためだ!”」

すると、由良司令は、静かにこう語った

「しかし、いまこの世界にいる日本人は、あなた方の知る日本人ではありません、はっきり言えば、赤の他人と言える存在です、無視する事もできる」

「そっ、それは」

「ここは戦場です、戦う意味を持たない兵士は危険です」そう言うとぐっと佐藤を睨んだ

「貴方達が戦う意味は?」と問いただした

しばし、黙る佐藤

由良司令は、ゆっくりと席を立ち、そっと外を見た。

そこには、先程投錨した“しなの”をはじめ、11隻の艦隊が波間に揺れていた

そして、

「貴方は、しなのさんをはじめ、あの艦隊すべての艦娘、妖精隊員に戦地に赴き、赤の他人ともいえる今の日本の為に死んで来いといえますか?」

「それは」

由良司令は振り返ると、

「我々 第2護衛隊群第1艦隊には使命があります、この海の安泰と平和を守るため、深海棲艦との講和の条件を揃え、戦死者310万人、いえ太平洋地域ではその数倍にも及んだあの悲惨な戦闘を回避させるという使命を帯びてこの世界に意図的に投げ込まれました、貴方は 何のためにこの世界に来たのですか?」

暫し黙る佐藤司令

「もし、その問に答えが無く ただ単に場当たり的に戦闘を行えば結果はどうなります?」

すると佐藤司令は

「我々の空母打撃艦隊は東洋屈指と言われた艦隊です、この時代の深海棲艦や米軍に負けるなど!」と答えが

「ええ、多分無敵でしょうね、貴方だけで、米太平洋艦隊を撃滅できるしょうね」

「では」

「ただそれでは、貴方は単なる殺戮集団になってしまう、その存在の意義を疑われる」

「存在の意義」

由良司令は、

「強い力は、より強い力を引き寄せます、まるで磁石のようにね、そこで目的も持たず、漠然と戦闘が繰り返されれば、どうなります?」

沈黙する佐藤司令

「我々は、連合艦隊司令山本長官、三笠大将の下、すでに作戦実行段階に来ております、ここパラオは後少しで、血で血を洗う戦場になります、この状況下の中、あなた方をここに留め置く事は危険です」

「では、我々にどうしろと?」

すると由良司令は

「いずも、現状は?」

「はい、既にパラオ泊地司令部および重巡愛宕より連合艦隊司令部へ佐藤艦隊の件は報告されています、先程 三笠大将からも確認のメールを頂きました、当面 安全な停泊地を連合艦隊司令部で検討しております、連絡調整役として、愛宕さんが皆さんに同行するとの事です」

佐藤司令は

「体制が整うまで、後方に居ろと?」

 

「まあ、手短に言えば」

 

「しかし、それでは」と言いかけたが、

 

「佐藤司令、貴方は人だ、人生80年、しかしそこのしなのさんや他の艦娘さんは艦霊の続く限り、実体化し続ける100年単位でね、貴方はこの子達の未来を考えなけれらばならない、違いますか?」由良司令は続けて、

「貴方には、その責任があります、我々とは違う」

 

由良司令は

「今後の貴方の停泊地については、連合艦隊が調整中です、一両日中には決定すると思います、まあ暫くそこで体制を整えて備えてください」

「備える?」

「ええ、時代の変革に」

「時代の変革?」

「ええ、この時代は大きく変わります、現在この地域は日本海軍、深海棲艦、米軍が睨みあう地域です、そこに大きな変化が生まれる事になります、貴方はそれを乗り切ってもらいたい」

佐藤司令は暫し考え、

「解りました、後方で体制を整え 乗り切ってみせます」

「期待します」静かに由良司令は答えた

 

夕刻、泊地提督の招きで簡単な夕食会が開かれる事を知らせ、佐藤司令はしなのを連れ、自衛隊司令部を後にした。

窓辺に立ち 退室する佐藤司令達を見ながら、いずもが、

「司令、少しきつかったのでは?」

「仕方ないさ、本当なら諸手をあげて歓迎したい所だが、既に我々は動きだしている、それこそ血で血を洗う戦場に両足からどっぷりと突っ込んでいる状態だ、そこに何も知らない彼らを置くわけにもいかんだろう、それに」

「それに?」

「犠牲になるのは 俺達だけでいい、彼らには生き残ってもらいたい」

いずもは、そっと由良の肩に手をかけ

「そうね、私達だけで十分だわ」

そう言いながら、そっと停泊中の艦隊を見た

由良は、そのいずもの手に答えながら

「ああ、そうだな」と静かに答えた

 

 

夕刻、いずもの案内で佐藤司令達は泊地司令部近くの艦娘寮の食堂へ案内された、そこには、泊地提督、旗艦由良、空母鳳翔、瑞鳳、重巡鈴谷、駆逐艦睦月、皐月、陽炎、秋月、長波そして 第2護衛隊群第1艦隊のメンバーが集まっていた。

既に、事前に状況を説明されていたので、大きな動揺はなく、一部には“またですか?”という雰囲気さえ漂っていた。

艦娘寮の食堂の中央のテーブルには、パラオ沖で取れた大きなマグロの兜煮があった。

その回りには、かつおのたたきやカルパッチョなのが並び、大きなエビや魚の刺身が並んでいる。これらは、話を聞きつけた地元の漁師が持参してくれたものだ。

三笠進水式以降、地元民との交流は加速度的に進でいる。

そして、氷水に冷やされたビール缶が多数

それを見たこんごうは、ひえいに

「ねえひえい、あのビール缶は?」

「あれ、やっぱり酒の無い歓迎会はないでしょう! ストックの一部出してきた」

「一部ねえ?」といいながら、こんごうは、

“今度、ひえいの艦内を副司令と巡検する必要があるかも”とおもった

 

由良司令は、冷えたビール缶を見て、苦笑いをしながら、

「さて皆、本日入港してきた、海上自衛隊横須賀基地所属、第一空母護衛艦隊を紹介する」といい

佐藤司令以下の艦隊のメンバーを紹介した

由良以下の泊地の艦娘は

“一度ある事は二度あるけど、三度目は勘弁してほしい”と率直に思いながら、

泊地提督の

「今日は、ささやかであるが、歓迎会をしたいと思う」と言うと、ひえいや皐月がビールを配り始めた。

 

泊地提督が、

「佐藤司令率いる自衛隊艦隊は、近日中に移動し、後方で体制を整備する事になる、短い期間だが、皆よろしくたのむ」と言いながら、提督の音頭で乾杯となった。

毎度の事であるが、鳳翔の料理に一番に飛びつこうとした睦月達であったが、今回は勝手が違った、鳳翔の料理の前には、そうりゅうをはじめとするSS部隊が立ちはだかったのである。

「むむむ、にゃ」といいながら、距離をとる睦月達

「噂に聞く、鳳翔さんお手製の料理、そう簡単には渡せません」と潜水艦娘のそうりゅうがいう。

食堂の中央で繰り広げられる潜水艦対駆逐艦の攻防戦

こんごうは、

「まさか、海の戦いが陸で拝めるとは思わなかったわ」と呆れていたが、その戦いに

「はい、はい皆さん、量は十分ありますから、仲良く食べましょう」といいながら、

今や対潜航空母艦として恐れられる鳳翔や、はるなが大皿に盛られた、マグロのから揚げや、煮つけを持ってきた。

一斉に群がるSS部隊や駆逐艦の子達

「やっぱり、鳳翔さんにはかなわなかったか」とこんごうが締めくくった

 

きりしまは、一人の艦娘の横へきた

「お久しぶりね、元気にしてた?」そう声を掛けると

「きりしまさん!」と護衛艦あきづきは、きりしまに抱きつき、

「心配しました、だっていきなりみんな消えて、舞鶴のメンバーで捜索隊結成して探しにいっても手掛かりすら見つからず当方にくれて」と目に涙を浮かべ、一気に話した

「ほら、顔を上げなさい」とポケットからハンカチを取り出し、そっとあきづきの涙を拭きとった。

「ごめんなさいね、でも私達は、ほら皆無事よ」そう言いながらこんごう達を指さした。

するとこんごうも駆け寄り、

「元気だった、あきづきさん」とまるで数日前に別れた友人のように話してきた。

「こんごうさん」

するとこんごうの後から

「こんごうさん、この子は?」と声がした

その声の主を見たDD-115 あきづきは

「おばあちゃん?」と声に出してしまった

そこには、駆逐艦秋月がいた

「あの、こんごうさん、この方は?」と戸惑いながら聞いてきた

「紹介するわね、あきづき型護衛艦あきづきさんよ、駆逐艦秋月さんのお孫さんにあたるわね」

「きりしまさん、ではこの子があの写真の子ですか!」

「ええ、そうよ」

護衛艦あきづきと駆逐艦秋月は二人並んでお互いに

「こんにちは」とぎこちなさ挨拶を交わした

きりしまは

「ねっ、二人並んで」といい二人を並ばせると、タブレットを取り出し、数枚写真を撮った

あきづきは

「きりしまさん、それ下さい」といい、自分もタブレットを取り出し、赤外線通信でデータを貰って嬉しそうに

「へへ、おばあちゃんの現役時代の写真ってあまりなかったので、大切にします」

 

こんな会話が 会場のあちこちで聞かれていた

前回の山本、三笠の歓迎会では三笠と酒豪対決をしたひえいであったが、今日はおとなしい、由良司令やいずも達も殆ど酒を口にしていない、ただ睦月と皐月はお構いなく飲んでいたが、ふと

「第2護衛隊群の方たちはあまり飲まないのですね」としなのがいずもに尋ねた、すると

「本当は、もう少しリラックスさせたいところだけど、こんごう以下には準待機を命じてあるの」

「どういう事ですか?」

「いま、このパラオは深海棲艦の良い目標よ、いつ攻撃がはじまってもおかしくない状況だわ」

「そっ、そうなんですか?」

「ええ、今日うちの司令がここから移動するように言ったのはその為よ」

「では、私達も戦闘に」

するといずもは、

「それは、だめよ」

「しかし!」と言いかけいずもに制された

「いい、貴方はまだこの時代の戦闘に不慣れだわ、私達の時代とこの時代 確かに私達の兵器は百発百中よ、でもそれは相手が10や20ならね、でもこの時代、正規空母で100機近い艦載機がウンカのごとく襲ってくるのよ、それも何波にも分かれてね、いくら兵器が優れていても、数が足らない、だから私達は日本海軍と共同作戦を取っているわ、私達の情報収集能力、そして機動力、海軍の耐久力をもって対抗するためにね」

 

「いずも先輩、なぜそこまで」としなのが聞くと

「そうね、それが運命だから、かな」と寂しく答えた

「運命?」

「ええ、由良も私もこんごう達も、巫女様や戦艦金剛さんたちにこの世界へ意図的に送られてきたわ、それはね、この次元、この時代で生き抜く為よ」

「生き抜く?」

「そう、最後まで足掻きながも後世の為に生きて行く、その為の装備と訓練を皆でしてきたわ、でも貴方は違う、だから時間が必要なの、今戦闘に参加しても勝手が違うから最初は良くてもいつか押し込まれる、そうなればもう逃げ道はないわ」と冷静に話した。

そして

「いい、焦ってはだめ、状況をしっかり判断して貴方の司令を補佐するのが秘書艦の務めよ」

しなのは、その言葉に素直に

「はい先輩、心しておきます」

 

3時間ほどして会はお開きとなりこの日は平穏無事に終了した。

 

それから2日後、重巡愛宕に先導され、第一空母護衛艦は、パラオ泊地を後にした。

新しい安住の場所を求めて

 

由良司令といずもは、その艦隊を見送りながら、

「彼女達の海路に 海神の御加護を」と祈っていた

 

パラオの海は その日穏やかに揺れていた。

 




こんにちは、スカルルーキーです
今回は趣向を変えてharuGamesJP様の「艦これの世界に迷い込んだ自衛隊」がもし、パラオへ入港してきたらという、番外編を書いてみました。
コラボ作品は初めてですので、キャラ設定が難しいですね、

さて、次回は本篇へ戻ります、
四方を敵に囲まれたこんごう達、どうするのでしょうか?

では


2016年11月27日 一部登場艦娘を修正致しました。

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