分岐点 こんごうの物語   作:スカルルーキー

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宣誓それは、自分の誠意を示すための誓いの言葉

自らの思いを言霊に託し、明日を見つめる一人の少女





27.宣誓

 

パラオ泊地 艦娘治療施設

 

三笠は、鈴谷が目を覚ましたとこんごうから連絡を受け、泊地提督達と艦娘寮の近くにある泊地の艦娘治療施設へ入った。

前回ここへ来た時は、戦艦金剛が雷撃されその見舞いで来たが、当の金剛は予想外の悪戯で、出迎えてくれたが、今回は何もなくすんなりと、

 

 

・・・は行かなかった。

 

 

鈴谷と熊野がいる病室の前までくると、何か騒がしい

泊地提督に付き添う由良が、

「なんでしょうか?中が騒がしいですね、まさか悪霊が復活したのでは!」と一瞬身構え

愛用する将校用のC96を構えようとしたが、

「それなら、この施設ごと既に吹き飛んでおるわい」と三笠がこたえながら、ドアを開けた

 

そこには、病衣を着た鈴谷と、制服の上着を脱いだ熊野が、睨み合っていた。

睨みあう二人の横で、どう対処しようか悩んでいるこんごうの姿があった

「こんごう殿、どうした?」と三笠が聞いたが、その答えはこんごうからではなく、

「聞いてください三笠様! 熊野が鈴谷にすぐにトラックに来いって!!」と鈴谷が言うと、

「その通りですわ、鈴谷はひとりにしておくと、すぐくだらない殿方に騙されてしまいます、最上姉さま達とトラックで過ごすのが一番ですわ」と熊野が返した

すると、鈴谷は

「冗談じゃない、ルソンのあのクソ司令に一発返さないと気がすまない! それに曙もまだいるのよ、船体修理できたら、ルソンへ帰る!」

「なんですって!悪霊の巣へ帰るのですか!気がしれません、意識覚醒して少しは殿方に免疫ができたと思いましたが、まだわからないのですか?」

「解らないのは貴方、熊野よ! 騙された鈴谷の身にもなって!このまま泣き寝入りは御免だわ!」と激しく抗議した

こんな会話が、先程から延々と繰り返されていたのだ。

こんごうの横へいずもが来ると

「凄まじい姉妹喧嘩ね」

「はあ、どう収拾するか分からなくて、何か言うと事態が悪化するかもと思い、状況を静観するしか」

「賢明な判断だわ、流石イージス艦総括ね」

「副司令、それ褒めてないですよ」

 

不意に

「いい加減にせぬか、お主達は!!!」と三笠が一喝した。

そして、

「鈴谷!熊野! そこへなおれ!」といい床を指した。

「はっ! はいぃぃ!」と慌てて、三笠の正面の床へ正座して座る鈴谷に熊野

 

「よいか!鈴谷、ルソンへ帰還は許可出来ん、そちはしばしこのパラオで謹慎しておれ!」

「えぇぇ!謹慎ですか、鈴谷何も悪い事して...」と言いかけて言葉が止まった

「悪い事してます」といい、うなだれた。

「鈴谷、そちは不注意で、陛下より賜りし貴重な重巡鈴谷をあのような無残な姿にした落ち度どう説明するのじゃ!」といい窓辺から見える重巡鈴谷を指さした。

そして、

「今、お主は、敵前逃亡の容疑が掛けられておる、ルソンへ帰れば捕まり、軍法会議にかけられ最悪、解体、お主自身も死刑となる事もありうる!」

「解体、死刑!」とその言葉を聞き、表情が青くなる鈴谷

「そうじゃ、そもそもその軍法会議とてまともに開かれるか怪しい!」と厳しく言った。

「ほら鈴谷、やはりわたくしとトラックへ行くのが一番ですわ」と熊野は言ったが、

「熊野!それはもっと最悪の事態じゃ、よいか先程も言ったがすでに連合艦隊司令部へ鈴谷逃走の一報が入っておる、という事はそこへ、鈴谷を連れて帰ってみよ!即座に逮捕され、営倉入りは免れん、軍法会議となると必ずルソンのあ奴は鈴谷を抹殺するために、参謀本部を通じて圧力をかけてくるぞ!」

三笠は一呼吸おき、

「よいかそうなれば、いくら儂やイソロクが動いたところでどうにもならん」

 

三笠は鈴谷を見て

「以上の事を鑑みて、鈴谷、お主はパラオで謹慎しておれ、身柄は暫く自衛隊艦隊へあずける、よいな」

「えええ! どうしてです!?」と鈴谷と熊野は一斉に聞いてきたが、

「当たり前じゃ、よいかパラオ泊地は海軍、連合艦隊の組織じゃぞ、そこへ鈴谷がいるとなればどうなる! 泊地提督並びに由良以下の者に逃亡ほう助の容疑がかけられるぞ」

「うっ」と答えに詰まる鈴谷

「以上のことから、鈴谷さんは暫く、我々自衛隊でお預かりします、我々は連合艦隊とは別組織、指揮権も違いますからね、泊地提督にご迷惑をかけないためにも必要な措置です」と自衛隊司令が言った

「鈴谷よ、暫くそなたは“自衛艦娘すずや”として行動せい」

「はあ? 自衛艦娘ですか!」と鈴谷が抗議したが、

三笠は鋭い眼で睨み

「よいな!」と念押しした

「はい」とその気迫に押されて、返事をする鈴谷

「熊野、この事は内密にせよ」と改めて熊野をみた

「はい、三笠様」と熊野も渋々了承した

 

熊野は

「三笠様、質問してよろしいでしょうか、先程から話の出ている自衛隊とは、海軍連合艦隊の組織ではないのですか? それに戦艦金剛や榛名さん、先程は霧島さんそっくりな方がいましたが」

「あっ、それ鈴谷も聞きたい!」二人して身を乗り出した

 

三笠達は、お互いに顔を見て

「そう言えば、肝心な事を話しておらんかったの、ここに居る海上自衛隊の皆は、我々とは違う世界、簡単に言えば“異世界”から来た未来の艦隊じゃ」

「はあ! 異世界から来た未来の艦隊!」二人して、驚きの声を上げる

 

「そうじゃ、のう二人とも昨日みたいずも殿の艦、鈴谷はこんごう殿の艦もみておろう、現代の工業力では到底建造どころか、形にする事もままならん物ばかりであったろう」

すると鈴谷は

「では、なぜこんごうさんとかそこのはるなさんから、戦艦金剛型の艦霊を感じるのですか!」

「彼女達は、別世界の戦艦金剛達の孫じゃからの。次元が違えど金剛型の艦霊を引き継ぐ者達じゃ」

「鈴谷、頭悪いから混乱してきた」と鈴谷は頭を抱えた。

「鈴谷は解らないのですか? 要は戦艦金剛さんの御親戚でいいのですね」

と熊野は解釈したが、三笠はこれ以上説明しても、混乱するばかりと判断して、

「まあよい、自衛隊は日本国の組織で我が海軍と友好関係がある組織である、このこんごう殿はじめ、4隻の金剛型の艦霊をもつ艦娘と旗艦いずも殿、工作艦あかし殿、そしてそれを束ねる艦隊司令からなる艦隊じゃ、いまは訳あってこのパラオで連合艦隊の特務艦隊として活動しておる、これは最高機密じゃ、よいな」

 

 

そう言うと、ドアがノックされた。

由良が返事をすると、髭の軍医とはるなが入ってきた。

「はは、鈴谷さんと熊野さんの元気なお声が聞こえましたのでね、まあ三笠様は予定外ですが」と笑いながら軍医が進んできた。

耳に聴診器をあて、

「一応、診察しましょう、よろしいですかな?」と鈴谷に声を掛けた、すると鈴谷は 病衣を脱ごうとしたが、

即座に提督と司令の前に 由良といずもが立ちはだかった

「どうした?いずも」と司令が聞くと

「ほんと 貴方ってこういう所は気が利かない人ね、いい鈴谷さんは艦娘とはいえ 女性です!」といってぐっと睨まれた

「おっ、おう」と気迫に押されながら

「じゃ、おれと泊地提督は泊地提督公室で待ってるから」といい、部屋を出たというか、気迫で追い出された

提督と二人、廊下を歩きながら、提督が

「女の園にいると、男は肩身が狭いね」と笑いながら話かけてきたが、

「まあ、それも楽しみの一つと思えばいいのでは」と返事をしながら、お互いの気苦労を労い、司令部へ向かっていった。

 

 

泊地司令部へ戻り、階段を上がり提督室へ入ると、直ぐに鳳翔が上がってきた。

情けない男二人の顔を見て

「あのお二人とも、どうしたのですか?」と聞かれ、提督が事の顛末を言うと、鳳翔は

ケラケラと笑い、

「まあ、それは災難でしたわね」と言いながら ソファーに座る提督と自衛隊司令に茶を差し出した。

「緑茶か、久しぶりに飲む気がするな」と提督が言うと、鳳翔が

「ええ、補給路が安定化して、お茶やお菓子といった趣向品も少しずつですが入荷しています、本当に自衛隊の皆さんのお蔭です」

 

「まあ、自分はさほど、大した事はしていませんよ、自分よりいずも達を労ってやってください」と自衛隊司令が答えた

 

泊地提督は

「自衛隊司令、鈴谷の件ご無理を言って申し訳ない」と切り出した。

「まあ、仕方ありません、本来ならすぐにでもルソンを押さえたい所ですが、暫く泳がせる予定ですし」

「ああ、宇垣参謀長の指示で、情報漏洩の経路を確かめるそうだ」

「問題は取り残された駆逐艦 曙ですね」

「宇垣参謀長の手配で、今ルソンの中部警備所で機関整備という名目で留め置いているそうだが、そう長くは誤魔化せん、いつ奪還作戦を決行するかだ」

すると、泊地提督は、鳳翔を見て

「鳳翔、すまんヒトゴウマルマルに艦娘全員を簡易指揮所へ集めてくれ、鈴谷の件を通達する」すると、鳳翔は

「はい、提督 準備いたします」といい退室した

 

鳳翔が退室するのを確かめると、声を潜め、

「すまんが宇垣参謀長から、自衛隊司令宛てに相談がある」

「相談ですか?」

「ああ、汚れ役をかって欲しいとの事なんだが」と遠慮がちに言った。

 

すると司令は予想していたのか、あっさりと

「ええ、構いませんよ」

「ほっ、本当か!」と驚く泊地提督、続けて

「強襲作戦になるぞ」と言ったが

「まあ、なんとかなるでしょう、うちにはそういうのが得意な連中が同乗してますし」

「本当にすまない、海軍内部の問題とはいえ、ルソン島の海軍は米軍に監視されている、下手に動かせない、我々パラオが行こうにも陸戦隊がない、陸を動かせば間違いなく参謀本部から情報が洩れる、いやそれ以前に同じ海軍の組織を急襲するなど公になれば大問題だ」

すると自衛隊司令は

「まあ、存在しない組織であれば、どんなに暴れようが、海軍は知らぬ存ぜぬで言い通せますからね」

「では、引き受けてもらえるのか?」

「はい、それでいつ頃?」

泊地提督は

「長官や宇垣のおやじさんからの手紙では、ここが襲われた後、マーシャル作戦開始前という事だ、詳細については自衛隊に一任したいとの事」

「すべてお任せですか?」

「ああ。現用の暗号電文が全て相手に筒抜けという事を考慮して、単独行動でお願いしたいとの事だ」

「パラオ艦隊はどの程度、協力を?」

すると提督は

「直接戦闘に加わる事はできん、偽装作戦程度なら」

「解りました、ご期待に沿えるように立案します」

 

泊地提督はお茶をすすりながら、

「そろそろ頃合いだと思うのだか、いつ頃来ると思う?」

「既に、3回の夜間偵察を受けています、空爆コースの選定は終わったとみるべきでしょう、北回り、南回りどちらでも爆撃できる、空爆前には多分泊地の戦力確認の為に 昼間強行偵察にくるはずです、その後24時間以内にあると思います」

「問題は、相手の戦力だな」と泊地提督は言った

「ええ、B-17の爆撃だけでは泊地機能を停止させる事はできません。必ず戦爆混成部隊でくるはずです、近海へ空母群がくるはずです」

 

「となると、護衛の戦艦群もくるか?」と泊地提督は聞き返すと、自衛隊司令は

「ええ、上手くいけば、重爆撃機で泊地機能を停止、艦爆、艦攻部隊で湾内の船舶を攻撃して、戦艦の艦砲射撃で滑走路を含む泊地機能を完全破壊といった所ですね、湾内の艦艇が逃げられれないように、機雷を敷設する事も考えられます」

「問題は その艦艇群がどこから来るかだな」

「提督、ミッドウェーは遠い、ラバウルにはそこまでの部隊がない、多分マーシャル群島の機動部隊がトラックを回避して突入してくると思います」

「そして我々を壊滅させた後、マーシャルの本隊と同調してトラックを挟撃か?」

「ええ、ここで奴らの空母機動部隊を削る事ができれば、マーシャル方面の作戦開始まで時間を稼げます」

 

泊地提督は、ソファーに深々と背を預け、頭の後で手を組みながら、じっと天井を見上げ、

「益々、次の一戦が要になりそうだな」と呟いた

「我々も、全力であたりますよ」と自衛隊司令はそれに応じた。

 

「まあそれにしても、トラックから応援がないというのは、寂しい限りだね」

「仕方ありませんよ提督、深海棲艦をおびき寄せ、殲滅するのが今回の作戦の骨子ですから、ここで我々が待ち構えている事が察知されては、獲物が巣から出て来ませんからね」

「ああ、金剛返したの、失敗だったかな?」と呟く提督

「その分、うちのこんごうが頑張るでしょう、今回はいずもも出します」

「いずもさんの力、拝見してみたいもんだね」と泊地提督が言うと、

「まあ、期待してください」とだけ答えた。

 

 

艦娘治療施設では、髭軍医の診察も終わり、三笠と軍医が何やら話していたが、軍医が鈴谷に近付き、

「鈴谷君、結果から先に言おう、退院してよろしい」

「やったね!」と喜ぶ鈴谷であったが、三笠が

「但し、暫く謹慎じゃぞ」と念を押した。

「奇跡的に身体の負傷はなし。霊体も完全に補修されている。鈴谷君、いずもさんやこんごうさんに感謝する事ですな。彼女達がいなければ、我々の力だけでは到底間に合わなかった。こんごうさんが現場で霊体を深層意識下へ隔離してくれた事で、貴方は悪霊の浸食をうける事が無かった。その後もここまでずっと結界を張って付き添ってくれていた」

そう軍医は言い、後方へ下がった

鈴谷は、いずもやこんごうの前までくると

「今回は鈴谷を助けてくれてありがとうございました」と感謝の気持ちを表した。

横にいる熊野も

「本当にありがとうございました」と二人揃って深々とお辞儀をしてきた。

 

するといずもは、

「まあ、そんなに畏まらなくても。私達はやるべきことをしただけですから」

「しかし」と鈴谷が言うと、三笠が、

「鈴谷よ、そう思うならそちが自衛艦娘として、いずも殿達に行いで恩返しすればよい」

「行いで?」

「そうじゃ、まずはあの艦を修理し、きちんと任務に復帰する、それが第一目標じゃな」

そう言いながら 窓辺に見える重巡鈴谷を指さした

「三笠様、副長達は?」と鈴谷は不安げに聞いてきたが、

「皆元気でおる、今自衛隊のあかし殿とお主の艦の修理計画を策定しておる、後で行くがよい」それを聞いた鈴谷は元気に

「はい、三笠様」といい、部屋を出ようとしたが、自分が病衣である事に気づき、

「ねえ熊野、鈴谷の服は?」

「?」と首をかしげる熊野

するといずもが、

「ごめんなさいね、実は鈴谷さんを私の艦へ収容した時、一刻を争う状況だったから、うちの衛生科員が鈴谷さんの服、ハサミで切って服を脱がせたの」

「えええ!鈴谷の服、切られたんですか!」

すると軍医が、

「仕方ないですね。元々収容された時には体中が煤と埃まみれ。戦闘の影響かあちこち破れて、見られたものではありませんでしたよ」

「どうしよう、服」と困り果てる鈴谷、横にいる熊野に

「着替えある?」と聞くと

「ありますけど、鈴谷、私の服小さいですわよ」

「え〜、同じ服じゃん!」

「ええ、仕様は同じですけど」と鈴谷の胸をみて

「鈴谷、無駄な所がでかいですから」

「無駄って言うな! 熊野の装甲が薄いだけじゃん!」と言い返した。

「なんですって!」とあらぬ方向へ話が行き出した。

その会話を聞いた由良は、

“ああ、同じ会話を数週間前にここでしたわね”と思い出し笑いを浮かべた。

 

「二人ともいい加減にせぬか!」と三笠が目で制した

 

困り果てる鈴谷をみて、いずもが

「はるな、用意は?」と言うと

 

「はい、副司令。ここに」と大き目の紙袋を差し出した。いずもはそれを受け取り、鈴谷へ渡した。

「いずもさん、これは?」

「新しい鈴谷さんは、自衛艦娘ですからね、それに相応しい服をお持ちしましたよ」と言われ、鈴谷は紙袋の中をみた。

「これ着るんですか?」と驚く鈴谷

そんな鈴谷の驚きを解せず、いずもは

「はるな、お願い」といい、

「では、皆さん、司令部で待ちましょう」といい三笠を連れ皆退室した。

その後、部屋の中では、鈴谷の悲鳴にも似た声だけが響いた。

 

 

 

15:00 泊地司令部2階簡易指揮所

元々会議室であったこの場所は、いまや海軍パラオ泊地の全機能をコントロールする中枢として機能していた。

黒板のあった場所には複数のモニターが並び、湾の内外に停泊する各艦艇の情報、パラオ諸島をカバーする対空レーダー情報が表示されていた。

研修を受けた司令部兵員妖精が、各モニターを操作し、情報管理を行っていた。

間もなく、自衛隊の借用地にもこの数倍の機能を有する地下司令部が完成する予定だ。

いつもある会議用のテーブルは片付けられて、椅子が綺麗に並べられている。

その椅子には、泊地にいるすべての艦娘が着席していた。

勿論、こんごう達も同席している。

熊野も先に鳳翔に案内され、前列に着席していた。

キョロキョロとモニター画面を不思議そうに覗き込んでいた。

 

後方で、睦月や皐月が“何があるの?”とひそひそと声を殺して話していたが、

静かにドアが開き、由良を先頭に泊地首脳陣が入室してきた。

鳳翔の号令の下、一斉に起立し、提督はじめ三笠達が並ぶのを待つ。ピタっと睦月達のおしゃべりも終った。

 

それを見た熊野は

“この泊地の統制のとれた行動はなに? トラックだと皆おしゃべりして話も聞こえないのに?”

 

泊地提督が、

「皆、掛けてくれ」と言うと、鳳翔の

「着席!」との号令の下、一斉に着席した。慌てて熊野も従う。

 

泊地提督が前方へ立ち、

「皆、数日前のヒ12油槽船団護衛、並びにその後の重巡鈴谷救助活動について、連合艦隊を代表して、三笠大将よりお言葉がある」といい、檀上を三笠に譲った。

三笠は席を立つと、ゆっくりと皆の前にたち

「先日のヒ12油槽船団護衛について、船団は無事、トラックへの入港を果たし、現在荷役作業に入っておる。鳳翔、陽炎、長波、こんごう殿、御礼申し上げる」

鳳翔や陽炎、長波そしてこんごうが応じる様に一礼した。

「特にこんごう殿、阿武隈より、初雪、深雪達の楯となってくれた事、感謝いたしますとの事、それに中佐からも、お礼をと言葉を預かっておる」

こんごうは一瞬

「おっ! おじい...」と言いかけて、

「中佐からですか?」

 

「そうじゃ、あのパラオの虎と呼ばれ、金剛と“向かう所敵なし”と呼ばれた漢が、礼をいうなど、初めてじゃ」

それには、同期の泊地提督も驚いた

「へえ~、あの唐変木も少しは人が出来てきましたかね」

 

三笠は続けて、

「また鈴谷救助に関して、パラオ艦隊並びに自衛隊艦隊に対し、連合艦隊を代表して御礼申し上げる」といい、深々と一礼した。

すると、熊野も席を立ち、振り返り、

「最上型重巡を代表いたしまして、皆様、ありがとうございました」と熊野も一礼した

 

「さて、その鈴谷じゃが、皆もしっておると思うが敵前逃亡の嫌疑が掛けられておる、しかし、それは冤罪である事も既に説明されておると思うが、このまま鈴谷救助が表にでれば、軍法会議となり、極刑が言い渡される事もありうる」

静まり返る室内

「よって、暫く鈴谷とその船体をこのパラオに隠ぺいする」

すると、鳳翔が

「三笠様、具体的にはどのように?」

 

三笠はニヤリと笑い

「簡単なことじゃよ、入れ」と声を掛けた

 

静かにドアが開き、はるなそして

海上自衛隊の幹部常装第三種夏服の白い制服を着た、鈴谷が続いた

「おおっ!」と駆逐艦の子達から声があがる

真っ白い制服を着て、薄緑の髪を後ろで束ね、少しお化粧をしているのか大人びて見える。

皆の注目を浴び、

「やだ…マジ恥ずかしい…」とやや顔を赤くしながら、はるなの先導で前方に立つ鈴谷

 

すると、三笠は

「日本海軍艦娘鈴谷は、暫く行方不明とし、この鈴谷は 海上自衛隊所属 自衛艦娘すずやとして、暫くこのパラオで自衛隊の管理下へ置くこととする」

 

すると瑞鳳が、

「鈴谷さん、転属ですか?」

三笠は

「まあ、出向じゃな」といい、

「では、自衛隊司令よろしく頼む」

 

すると司令は、

「始めようか」といずもを見た。

 

こんごうが席を立ち、横へ来ると

「只今より、自衛艦娘入隊式を行います」と厳粛に言った。

 

「司令官、登壇」

自衛隊司令は、ゆっくりと席を立ち、鈴谷の前に立った

 

「海上自衛隊 自衛艦娘任命」とこんごうが言うと、

司令は、

「日本国、海上自衛隊佐世保基地所属、第2護衛隊群第1艦隊司令の命により、ここに艦娘すずやを、自衛艦娘として、任命する」と告げた

 

鈴谷は一礼し

「拝命いたします」

 

こんごうは続けて、

「自衛官 宣誓」と告げた

 

黒いトレーを持ったはるなが、すずやの横に立つと、トレーを差し出した、そこには1枚の紙があった。

その紙を両手で持ち、両手を真っ直ぐ前方に突き出し紙を掲げ、すずやは、しっかりとした口調で、

 

「宣誓!」

「私は、わが国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、日本国憲法及び法令を遵守し、

一致団結、厳正な規律を保持し、常に徳操を養い、人格を尊重し、心身をきたえ、

技能をみがき、政治的活動に関与せず、強い責任感をもつて専心職務の遂行にあたり、

事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、もって国民の負託にこたえることを誓います」

 

すずやは、一呼吸置き、

「自衛艦娘 すずや」

と力強く宣誓した。

 

すずやは、トレーに宣誓書を置くと、そこに今日の日付と“自衛艦娘 すずや”と署名した。

 

席に着くひえい達から拍手が起こった、それにつられ、皆拍手をする。

拍手が鳴りやんだ所で、こんごうが、

「幹部自衛官任命、並びに艦長任命」と告げた

 

再び、自衛隊司令がすずやの前に立つと

「日本国、海上自衛隊佐世保基地所属、第2護衛隊群第1艦隊司令の命により、ここに自衛艦娘すずやを幹部自衛艦娘として、並びに護衛艦すずや艦長に任命し、艦娘特例法並びに自衛隊法に基づき、3佐の階級を与える」と告げた。

 

すずやは、再び、

「拝命いたします」と答えた。

こんごうは続けて、

「幹部自衛官 宣誓」と告げた

すずやは、再び、はるなから宣誓書を受け取ると

しっかりと 前に構え、

「私は、幹部自衛官に任命されたことを光栄とし、重責を自覚し、幹部自衛官たる徳操のかん養と技能の修練に努め、率先垂範職務の遂行にあたり、もって部隊団結の核心となることを誓います」

と宣言し、宣誓書へ署名した。

 

自衛隊司令は

「すずや君、今までと勝手が違う事も多いが、宜しく頼む」

 

すずやは、

「はい、すずや頑張ります」

こんごうは、それを聞くと、

「これをもちまして、艦娘すずや、入隊式並びに幹部自衛官任命式をおわります」

と告げた。

いずもやこんごう、そしてひえい、はるなにきりしま、そしてあかしがすずやの横へ来て

皆挨拶してきた。

少し照れながら挨拶するすずやを見ながら、熊野は横へ座る三笠へ

「三笠様。今すずやの口から、鈴谷からは想像も出来ない言葉がでました! 最上姉さま達が聞いたら卒倒するかもしれません。」

三笠は、

「のう熊野よ、人は死線を超えると成長すると言うが、これがそうであるとよいな」と言ったそばから、

すずやは、

「自衛艦娘 すずやだよ! パラオは賑やかだね!よろしくね!」といつもの調子で皆に挨拶していた。

 

熊野は

「中身はあまり変化ないようですが…」

 

そんな会話が聞かれるなか、いずもが、

「こんごう、すずや3佐の初期教育をお願い」

「はい、副司令」と返答すると、

すずやに向かい

「よろしくね」と挨拶した

「こちらこそ、よろしくお願いします」と一礼してきた。

 

ざわめく室内に、泊地提督の声がした

「さあ、皆 すずやの件は以上だ、引き続き、作戦会議をおこなう」と言った瞬間

皆、所定の位置へ戻り着席した。

 

皆、着席し、指揮所内が静かになった事を確かめると、三笠は前方へ立ち、

「さて諸君。先日の会議でも話したが、深海棲艦のラバウル群体の重爆撃部隊の夜間偵察がここ数日頻発しておる。間違いなくこのパラオ泊地の機能を壊滅させる目的で行動を起こすと推察される。先日も話したが、間もなく大規模な攻防戦が開始されると予想されておる。皆、日頃の準備怠りなきよう、宜しくたのむ」と言い席へついた。

三笠が席へ着くと横に座る熊野が

「三笠様、いまの話はなんの事ですの? ここで戦闘が起こるとは?」

 

「熊野、深海棲艦は潜水艦部隊による群狼作戦でパラオ泊地の機能を麻痺させ、石油輸送路を遮断し、トラックを日干しにする算段じゃった、しかしそれは自衛隊艦隊の活躍で頓挫してしまったのじゃ、そこで直接的にパラオ泊地壊滅を目論み、重爆撃機による攻撃を計画していると推察される、またそれに伴う艦隊戦もな」

熊野は顔を引きつらせ、

「三笠さま、そんな危険な場所へ鈴谷を預けるなど!」と言いかけたが、

「熊野、ここも、トラックも戦地である事には変わりない」

「しかし、もしここで大規模戦闘が起こるなら、せめて長門さんなりを応援に」

「それは出来ん、ここの戦力が増強されたとなれば、奴らも警戒する、こちらが無防備であると思わせる所に今回の作戦の要点がある」

「しかし!」

「まあ、焦るでない、こちらもちゃんと用意しておる、それよりお主は明日儂と帰り、

近日中に発動されるマーシャル方面作戦に集中する」

「マーシャル群島開放作戦ですね」

「そうじゃ、このパラオに敵の眼が向いている内に態勢を整え、一気に攻め立てる」

 

「では、パラオはおとりではありませんか!」

「そうだとも、しかしパラオには最強の防空艦隊がおる、問題はない」

「しかし」

すると三笠は、熊野を見つめ

「安心せい、儂が保証する」

その言葉に熊野は息を呑んだ

“このパラオ特務艦隊とは一体なに? 三笠様がここまで信頼する艦娘とは?”

そう思いながらこんごう達を見た

 

すずやは、こんごうの横へ座り、説明を聞いた

由良が、数枚の紙を配りはじめた、そこには

“パラオ近海における深海棲艦の行動予測”と印刷されていた

泊地提督が

「資料は回ったか? ではいずもさんお願いします」といい、檀上を代わった

いずもは前へ来ると、

「皆さん、資料は手にとりましたか? これはパラオ泊地司令部と海自司令部の情報分析妖精が検討した、今後この近海で起こるであろう戦闘について推測した資料です、機密資料なので部外者には見せないでくださいね」といい、皐月をみた

「うう、いいネタだったのに」と呟く皐月

「では、説明します、現在深海棲艦はこのパラオ泊地に対し、B-17を使った夜間偵察を実施し、すでに3回の夜間偵察をうけました」と言いながら、壁面中央のモニターを操作して、飛来した偵察機の進路情報を表示した。

皆じっとモニターを見る、すずやと熊野は初めてみた衛星写真に少し驚いたようだ。

 

「現在、深海棲艦ラバウル航空隊はこのパラオ泊地殲滅にむけ、効果的な爆撃コースの選定作業に入っていると推察されます。現在まで確認されたコースは2種類。南進コースと北進コースです。どちらを選ぶかは判断の難しい所ではありますが、我々は北部海域及び南部海域でこの重爆撃部隊を迎え撃つ事になります」

すると瑞鳳が手を上げ

「質問よろしいですか? 相手がB-17だとこちらの零戦隊では手が出ません、本土で試験中の丙戦の月光とかの応援はないのですか?」

それには、泊地提督が

「瑞鳳、あれはまだ試作機の段階で実戦配備はまだ先だよ」

「では、どうするのですか、相手は8千メーター近くの高高度で進入してきます」

 

すると、いずもが

「それには次のように対応します、資料の2ページ目を見てください」と言われ皆ページを捲った。

「まず、北部及び南部海域にイージス艦2隻を派遣して 前衛電探警戒網を構築します」といい、前方のモニターにCG映像を映し出した

「侵攻して来た重爆撃部隊に対し、対空噴進弾による、第1波攻撃を仕掛けます」

CG画面で、侵攻する光点に海上からSM-2で攻撃する映像が流れた。

「侵攻してくる敵の数が少なければ、この攻撃で全滅させる事もできますが、そう簡単にはいかないでしょう、まあ3割程度殲滅するぐらいだと思ってください」

そして、

「攻撃編隊が乱れた所を、私の艦載機群で高高度要撃を行い、7割近くを排除したいと思っています」

 

鳳翔が、

「残りの残存機は?」

「はい鳳翔さん、私の艦載機群で 重爆撃隊の頭を押さえこみます、4千以下まで抑え込みますので、そこまで来れば零戦隊でも十分対応できると思います」

 

由良が

「もし、その零戦隊をすり抜ける機体があれば?」

いずもはニコリと笑い

「その時は、皆さんと泊地防空隊の出番です」

 

すると秋月が手を上げ、

「あのもし重爆撃部隊が、複数に分れて来た時は?」

「基本は同じです、イージス艦でそぎ落とし、私の艦載機群でそぎ落とし、最後は零戦隊が仕上げるというパターンです、なお零戦隊と私の艦載機F-35の誘導は、私の司令部と上空で待機する、早期警戒機で行います」

 

すると、秋月が

「質問続けます、敵が重爆撃部隊だけでは爆撃効果が薄いはずです、必ず戦爆混成部隊で来ると思いますが?」

 

いずもは、

「流石、秋月さんですね。重爆撃部隊だけでは、固定目標は爆撃できても、艦艇を含む移動目標は殲滅できません。艦爆、艦攻部隊、そしてそれを護衛する戦闘機部隊を進出させてくるでしょう」

いずもは、話を続け、

「これら航空戦力は、ラバウルの陸上運用機だけでは、足りません、よって空母機動部隊を出してくる事が予測されます、そして空母機動部隊がでるとなると、戦艦を中心とした打撃艦隊も同行すると考えられます」

 

「艦隊戦ですか!」と瑞鳳が驚いた

 

「ええ、そうです」といいいずもは、画面を動かして

「今回の戦闘は大きく分けて3つの場面を想定しています」

 

「まず、深海棲艦の重爆撃部隊による泊地機能の破壊、

そして、空母艦載機群による、泊地内部の艦艇並びに移動目標の破壊

最後に 空母機動部隊に随行する戦艦群による艦砲射撃による地上目標の完全破壊、

場合によっては敵勢力の上陸、占領です」

いずもは 画面上のCG映像を操作しながら説明した。

 

一瞬室内がざわめいたが、泊地提督が立ち上がると、

「諸君、既に我々はラバウルの動きを察知して、その撃退へ向け準備を進めている、

残る艦載機群への対応、並びに空母機動部隊への対応について説明をする」

 

するといずもは、別の画面を操作して

「次のページに現在までに判明している、深海棲艦の戦力表があります」

パラパラとページを捲る音が室内に響いた。

「うわ~、豪華だね」という陽炎の声が響いた

そこには、深海棲艦ラバウル航空隊、その周辺地域の艦艇群、そしてマーシャル群島方面の戦力、遠くはミッドウェー群体の戦力が記載されていた。

いずもは、

「この表の情報は、哨戒任務にあたるイクさん達イ号潜水艦部隊や、先月行われた榛名さん達の強行偵察、そしてマーシャル群島で現在実施中の鼠輸送作戦で接敵した情報を元に作成しています」

すると三笠が、

「皆、そのマーシャルの艦艇情報は駆逐艦部隊の接敵情報だけでなく、宇垣の諜報部隊の現地人情報員の通報も数多い、彼らは現地奥深く進入し、その情報を命がけで集めてきてくれておる、その事心してくれ」

 

鳳翔が手を上げ

「この表によりますと、ラバウルの艦艇は数が少ないですね、重巡と軽巡、駆逐艦数隻に、

軽空母が数隻?です、これでは十分な海上航空戦力にはならないと思いますが?」

 

その質問には三笠が

「鳳翔、その通りじゃ、ラバウルの艦艇群はニューブリテン島周辺海域を警護する目的で配置されたと思われる、ここまで攻め込む余裕はない」

いずもが

「ソロモン諸島の艦艇群もおなじように、ここまで攻め込むには規模が小さいです、

そこで、最も可能性があるのは」といい 画面を拡大した

「ミッドウェーの群体本隊とマーシャル群島群体です」

暫し、皆で画面をみるが、

「どっちがくるにゃ?」と睦月が聞いた。

 

「戦力的に余裕のあるのはミッドウェーですが、何分距離がある、そうなるとマーシャルの群体から分派してくる可能性が大きいです」

 

長波が手を上げ

「いずもさん! でもマーシャルからだとトラックの哨戒圏を通過する事になります、

いくらなんでも、我々に発見されるのでは?」

「長波さん、良い質問ですね、普通に最短コースでくれば、間違いなくトラックの哨戒圏に入ります、ですが、我々には一つ盲点があります」

「盲点?」と皆首を傾げた

「ルソン北部海域は、現在哨戒が全くできていません、ここに集結して一気に南下する可能性もあります」

「ルソン北部」鈴谷が 低い声で唸った

三笠が、

「連合艦隊司令部が作成した艦隊運用計画書は、ルソン北部警備所から深海棲艦側へ筒抜けとなっていると推察する、儂らの眼を盗んで大規模艦隊を動かす事など造作もない」

長波が

「じゃ、どこから来るか全くわからないという事ですか? それでは迎撃できません」

いずもは、画面を切り替え、パラオを中心とした、写真データを表示し

「大丈夫ですよ、私の早期警戒機とこんごう達のイージスシステムを使えば、半径500km以上の探知能力があります、早期警戒機を複数飛ばして探知範囲を広げて24時間体制で監視すれば、敵の動きもはっきりします」と探知範囲を写真データにオーバーラップさせた。

トラックの手前から、サイパンの南部までがすっぽりと探知範囲に含まれた。

 

泊地提督が

「今回は、自衛隊艦隊の電探で敵の所在がはっきりしているという事を前提に作戦行動を行う、今までのように敵を探して、ウロウロせんだけましだ、奴らは我々が広範囲の探知網を持っているという事を知らん」

提督は話を続けながら

「奴らは遠方から戦爆混成部隊で奇襲攻撃してくるだろう、自分達は安全圏内だと思い込んでな、そこを突く」

 

いずもは、何処から取り出したのか教鞭を右手に持ち画面に向かい

「敵、空母機動部隊については、鳳翔さん、瑞鳳さん、そして私の航空隊で完膚なきまでに叩きのめします」といい画面上侵攻してくる敵空母機動部隊を教鞭で叩いた。

“パシッ”という乾いた音が室内へ響いた

「そして、敵戦艦群について、こんごう、ひえい、そして陽炎さん、長波さんの高速艦艇群で迎え討つ」とこれも同じく進軍する艦艇群のアイコンを叩いた

「由良さん、睦月さん、皐月さんは鳳翔さん以下の空母艦隊の護衛を、きりしまと秋月さんは、泊地防空戦のあと、空母艦隊の防空指揮を」

「はるなは、泊地であかしと共に情報整理と補給活動の指揮」

いずもは、矢継ぎ早に各員に 大まかな分担を指示した

そして、

「資料の3ページ以降に今説明した内容の詳細が載っています、各員その内容を理解し、行動してください」と教鞭をぴしゃりと鳴らした

その姿を見た長波は 密かに

「うわっ、香取り線香そっくし」と呟いたが

「長波さん、質問ですか?」と鋭い視線で聞かれ

「えっ、あっ ありません!」

 

それを聞くと、いずもはいつもの笑顔に戻り、席へ着いた

三笠がゆっくりと席から立ち上がり、

「皆、今回予想される戦闘は、連合艦隊にとって皆初めての事ばかりじゃ、高高度飛行する重爆撃部隊の迎撃、本格的な空母機動戦、電探を使った大規模な指揮統制、不測の事態が起こる恐れが大いにある、各員作戦の意義を十分に理解して行動してほしい」

 

泊地提督が

「この戦いの趣旨は、パラオ並びにトラックへの航空脅威の排除、そしてマーシャル方面に駐留する深海棲艦の誘因と殲滅だ。防戦から攻勢へ素早く移行する作戦でもある。少ない戦力ではあるが、全力で臨んでもらいたい。私からは以上だ。自衛隊司令、貴官からは」

と司令に話を振った。

司令は皆の前に立ち、

「特に自分からは言う事はありません、いずも後は頼んだ」とあっさりと切り上げた

余りのあっさりぶりに、睦月達が吹き出しそうになった。

すずやは、横に座るこんごうへ

「こんごうさん、あの司令、大丈夫なんですか?」

「大丈夫って?」

「だって、物凄く頼りないですよ」

 

「心配になった?」

「ええ、まあ」とすずやは不安な顔をしたが、すずやを挟んで反対側に座るひえいが、

「心配ないって、うちの司令いつも、あんな感じだもんね」

するとはるなも

「今日は、言葉数が多かったですね」

きりしまが

「普段なら、“あとは頼むぞ”で終わりですからね」

すずやは、

「こんごうさん、本当に大丈夫ですよね」

そんなすずやを見てこんごうは笑いながら、

「さあ、どうでしょう」

 

少しざわめく室内に由良の手を叩く音が響いた

「では、皆さん 現時刻を持って泊地艦隊は準出撃体制へ移行します、各艦、燃料、弾薬の補給を怠りなく、呼集後24時間以内に出撃となります」

いずもは、

「あかし 対空用接近信管の装備は?」

あかしは起立して

「はい、各艦の砲弾に適合する接近信管並びに対空砲弾については定数を揃え、空母を除く各艦艇へ配備しました。ただ各艦ともまだレーダー測距ができませんので、イージス艦の指揮統制が必要だと思います」

いずもはきりしまを見て

「きりしま、防空指揮統制はどう?」

「はい、副司令。各艦への簡易型戦術ディスプレイの搭載並びに各種アンテナの設置も完了し、

現在運用試験を断続的に行っていますが、大きな問題はありません」

「あかし、秋月さんの改修は?」

すると、あかしは頭を掻きながら、

「済みません、プランは出来ているんですけど」といい、すずやを見て

「大規模修理が入って、まだ手が付けられません」

すずやは、

「ごめんなさい」と小さな声で謝った。

すると秋月が、

「いずもさん。今回は改修が間に合いませんでしたが、それでもきりしまさんのご指導の下、新型対空砲弾の訓練を積んできました。私の長10cm砲、きっとお役に立ちます」

と力強く言った

睦月も、

「準備は万端、睦月、負ける気がしないのね」

駆逐艦の子達は自分の思いを、口に出していた

その姿を見ながら 三笠は

“これならば、問題あるまい”と作戦遂行を決心した

 

すずや任命式と会議が終わったあと、こんごうはすずやと熊野、あかしを連れて、工廠横の桟橋へ来ていた、そこには大破した重巡鈴谷の船体が、浮きドックに載せられ、係留されていた。

 

簡易通路を通り浮きドックへ向うと、すずや達の姿を見つけた、鈴谷副長達が甲板上に集まってきた。

「かっ、艦長!ご無事で」と目に涙を浮かべながら、副長が言うと、

すずやは

「みんな、迷惑かけてごめんね、すずや元気になったよ!」

と言いながら、艦橋上部にいる兵員妖精達に大きく手を振って元気な姿をアピールした。

 

大きく手を振るすずやを見ながら、副長が、

「鈴谷艦長、その服は?」

「あっ、これ?」といい海自の制服を見ながら

「すずや、自衛艦娘になっちゃった、似合う?」

すると、熊野が

「副長さん、あんまり中身は進化していませんけど」と付け加えた

「熊野、酷い!」と言いながら、熊野の肩をポンポンと叩くすずや

 

そんな二人の姿を見ながら、

「はあ? 自衛艦娘とは?」副長が困惑気味に聞くと

横に立つこんごうが、

「既に聞き及んでいるとは思うけど、重巡鈴谷には敵前逃亡の嫌疑がかけられているわ、このまま放置するわけにもいかないから、一時的に身柄を自衛隊で預かる事になったの」

「では?」

「まあ、一応 日本海軍から海上自衛隊へ出向という形をとっているわ」

 

「出向ですか?」と驚きの顔をする副長

「そう、ですから、重巡鈴谷乗員の皆さんも、日本海軍兵員妖精から海上自衛隊 隊員妖精として転属になります」

「我々もですか!」

「ええ、そうよ、まあやる事は変わりないから問題ないけど、後で服務規程なんかをいずも司令部から係官が来て説明するから聞いてくださいね」

「はい、了解しました。」と副長が返答した

「副長さん、それと船体修理の期間中、すずやさんは私の艦で研修となりました、暫く留守になる事がありますが、よろしくお願いしますね」

「はい、こんごう艦長、すずや艦長の事よろしくご指導願います」と一礼した

 

こんごうは、あかしをみて

「それで、損傷状況は?」

「う〜ん、正直言えばもう 一から作り直して、艦霊降ろしをやった方が早いレベルや」

それを聞いたこんごうは、

「そんなに酷いの?」

あかしは大型のタブレットを操作しながら、

「ようここまでもったというのが、正直な感想。前部砲塔は3門とも大破、後部砲塔も辛うじて動く程度。高角砲等も似たり寄ったりで、機関付近に被弾多数。まあ操舵系が生きていたから辛うじて航行できたというのが不幸中の幸いですね」

「艦体は?」

「被弾による、ダメージがかなりある、詳細はこれから調べるけど、キールに相当する部分に損傷が無ければ、何とかする」

と言いながら、画面をスクロールさせて、

「とにかくまず、破損した砲塔や機関を下して、中を整理して図面を引いてとやる事一杯ですよ」と言いながら目は嬉しそうにしていた

その眼を見たこんごうが、

「ねえ、前部砲塔撤去して、VLS装備したりとか、後部に甲板と格納庫作って航空巡洋艦にしようとか考えてない?」

「えっ!そっ、そんな事」と言いながらそっとタブレットを後ろに隠そうとしたが、その動きより早くこんごうが、ひょいとタブレットを取り上げた。

「あっ、こんごうさん!」とあかしが声にだしたが、

タブレットの画面をみたこんごうが、唸った

そこには、たかなみ型護衛艦をベースにした重巡鈴谷の改装計画が記載されていた

それを見たこんごうは、

「ねえ、あかし。こんな物、司令が許可すると思う?」

それには、

「でも、こんごうさん ほら」といい画面を指さした、そこには

既に司令の電子決済印が押されてた。

「なっ、なんですって!」

「だって、私も最初は、単純な修理計画書を作ったんですけど、司令が“うちの艦隊には汎用護衛艦がいないから、すずやさんにその役目をお願いしよう”って言い出したんですよ」

こんごうは、頭を抱え

「それで、すずやさんの教育を私に言ってきたわけだ」といい、

「頭痛くなってきた」と呟いた

そんなこんごうとあかしの会話を横で聞いていた熊野は、

「皆さん、どういたしましたの?」

「いえ、こっちの話です」とこんごうは話をすり替え、

そっとあかしに、

「ねえ、この事はすずやさんには話したの?」

「いえ、まだですよ、まだ基本計画段階ですから、とにかく艦内を整備するのが先です」

「それに平行して鳳翔さんの改装とか、各艦へのレーダー搭載とかやる事一杯で、すずやさんの改修工事は2か月ぐらいかかる予定です」

こんごうは、熊野と談笑するすずやに、

「すずやさん、あかしの話だと、修理と補修に2か月程度かかるみたい、それまで暫く私の艦で研修ね」

その言葉を聞いて、すずやと熊野は

「えっ、2か月?」

「ごめんなさいね、色々他の艦の改修作業も入ってきてるから、最大でそれ位見てほしいって」

あかしは、

「本当御免、鳳翔さんの改修計画次第なんだけど、最短で1ヶ月、最長で2ヶ月頂戴」とすずやを見て 手を合わせて拝み倒した。

「こんごうさん、半年とか1年とかの間違いではないですか?」と熊野が聞き返してきた。

すずやも

「だって、こんなに壊れてるんですよ、大破判定だって!」

するとあかしは、

「元の鈴谷さんに戻すだけなら 2週間以内に出来るけど、護衛艦としての機能を付加するとさっき言った期間はかかるな〜」

「うそ、まじ?」とこんごうを見るすずや。

「まあ、あの三笠もあかしが建造して、10日で完成したもんね」というこんごう

「三笠って、横須賀にある記念艦の三笠?」と不思議がるすずやに、熊野が

「すずや、いまトラックの艦娘の間で話題沸騰しているのが、戦艦三笠復活ですわ、あの戦艦三笠が、新造艦として就航したのです」

「うそ?」

「すずや、嘘を言ってもしかたないでしょう?」と熊野が言うとあかしが、

「映像ありますよ」といって 大型のタブレットを操作して、三笠進水式の様子を映し出した。

三笠進水式の様子を見る、すずやと熊野。後では副長達も折り重なるように覗いていた。

するとすずや副長が、

「艦長、我が艦もこのように生まれ変わる事ができるのですか?」

「それは...」と答えに詰まるすずやをみて、

「えっへん、このあかしにお任せください、最新鋭艦に仕上げてごらんにいれます」と胸を張ったが、こんごうから、

「あんまり変な装備載せないでね」と釘を刺された

「あかしさん、我々も協力します、ぜひその改修作業お願いします」と急に副長達が乗り気になった。

「艦長、生まれ変わる絶好の機会です、最新鋭艦と生まれ変わりご恩返しする機会です、もうこれは海神の神々が与えてくれた恩恵とおもいましょう!」

すずやも、副長やあかしの気迫に押され、

「うん、すずやもがんばる」と言い出した

こんごうは

“はあ、これでまた悩みのタネをかかえこんだわね”と内心思ったが、横にいる熊野から

「あの、こんごうさん、出来の悪い姉ですが、宜しくご指導お願い致します」

するとすずやが、

「出来が悪いは余計よ」とわき腹を突いた。

そんな会話を聞きながら、

「本当に中のいい姉妹ですね」と笑ってみていた。

 

こんごうは、あかしに

「それで、なんでたかなみ型なの? あきづき型とかあさひ型とかでもいいと思うけど」

「実は、DDへの改修で検討したのがあさひ型なんですけど、すずやさんの霊力がミニイージスに耐えられるか自信がなくて、確実なたかなみ型で検討をしています、ただ」

「ただ?」

「昨日、こんごうさんの艦霊と接触した事で霊力の波に少し変化があったみたいで、波動が以前よりも少し大きくなっているという観測結果がでています」

「波動が?」と驚くこんごう

「はい、司令やいずもさんと検討しましたが、今後の動き次第では、あさひ型を検討してもよいとの事です、ですから艦体改修に少し時間を取っています」

「ふう~ん、なるほどね。その辺りの訓練も含めて私に面倒を見ろって事なのかしら?」

「多分」とやや自身なさそうに答えるあかし。

「まっ、なんとかしましょう」と言いながら、子犬のようにじゃれあうすずやと熊野を見ていた。

 

夕暮れが迫る中、すずやと熊野は、護衛艦こんごうへ案内された。

本当なら艦娘寮へすずやを泊めたい所であるが、パラオ艦隊は準戦闘体制へ移行したことで、寮もバタバタしており、また三笠が、

「明日の早朝、儂と熊野はトラックへ帰還する、話をするなら今晩じゃぞ」といい二人でゆっくりできる場所をという事で、こんごうの船内で宿泊する事となった。

 

内火艇で護衛艦こんごうへ向い、その姿をみたすずやは、

「あの時の艦だ」と叫んだ

熊野が

「あの時の艦とは? すずや」

「すずやが寝てる時、夢でこんごうさんと初めて会った場所にいた艦だ!」

「でもすずや、こんごうさんの艦を見るのは初めてなのでは?寝ぼけて他の艦と見間違えたのでは?」

「なによ、熊野なんか 間宮に買い物に行くって言って出たまま、そのまま海上で行方不明になったじゃん!」

「そっ、それは言わない約束ですよ!」とむくれる熊野

 

そんな会話をしながら、こんごう達を乗せた内火艇がゆっくりと護衛艦こんごうへ横付けされた、こんごうを先頭にスロープの階段を上っていく。

甲板が見えた所で、当直の一士の吹く号笛がなった。

 

甲板上では、副長をはじめ幹部士官が総出で出迎えてくれた。

一斉に敬礼してこんごう達を迎えた。

代表して副長が、

「こんごう艦長、お帰りなさい」と挨拶してきた。

「副長、皆 留守の間 ありがとう」と返事をして

「留守の間、なにか問題は?」

すると、砲雷長が

「問題がないのが、問題ですよ」と笑って答えた。

「じゃ、平常運転だったみたいね」とこんごうも笑顔で答えた

副長は、

「すずや艦長、熊野艦長 ようこそ護衛艦こんごうへ、乗員妖精を代表して歓迎いたします」

すずやは、いつもの様に

「すずやだよ、宜しくね」と明るく挨拶し、

熊野は

「ごきげんよう、熊野ですわ」と静かに挨拶した

こんごうは、ブレスレットに付属する時計を見て

「今日はもう遅いから、艦内案内は明日にしましょう、時間も時間だから、食事にしましょう」といい すずや達をつれて士官室へ向った。

 

士官室にはいると、調理長が待っていた

「こんごう艦長 お帰りなさい」

「うん、ありがとう」と言いながら、席に着き、すずやと熊野も対面に座った。

「皆さん、お疲れ様のようですので、栄養の付くものを今日は奮発しました」といい

士官室付きの2士妖精が、食事を運んできた

白いお皿に盛られた千切りキャベツと、熱々の湯気が立つ大振りとんかつ、そしてお味噌汁とご飯であった

「うわっ、ありがとう 調理長、これ大好物なの」と喜ぶこんごう

すずやや熊野も

「トンカツなんて、久しぶり」

「本当、美味しそうですわ」と喉を鳴らした

調理長達は、

「では、艦長 ごゆっくりどうぞ」といい 席を外した

こんごうは、

「じゃ、冷めないうちに頂きましょう」といい、

皆揃って

「いただきます」と挨拶しながら、サクサクととんかつを頬張った

 

すずやは、黙々ととんかつとごはんを頬張っていた

「すずや、そんなに焦らなくても」と言うと

「熊野、すずや よく考えたらここの所まともな食事してなかったから」と言いながら、

お味噌汁をすすった

「もう、行儀悪いですよ」

「いいの、今は誰も見てないから」とガツガツと食事をするすずやを見る別の眼

 

 

いずも士官室

いずも士官室には、自衛隊司令、そして副官のいずも、三笠がテーブルに座り、

こんごうの士官室で とんかつを必死に食べるすずやをモニター越しに見ていた

「しかし、凄い食べっぷりですね」と由良司令が言うと、

「まあ、仕方なかろう、あれだけ霊力を消費したのじゃ、体力あっての艦娘だからの」

「司令、そろそろいいですか?」

「済まない」と言うと、いずもは画面を切り替え、湾内情報を表示した。

「もう、覗き見は悪趣味ですよ」といずもは、由良司令をやや睨みながら話かけたが、

「表面上は元気だが、霊力的にはだいぶ弱っているはずだ。まあ、あれだけ食欲がでれば一安心ですか、三笠様」

「まあ、今は熊野が側に居るからよいが、明日の朝にはトラックへ返る、その後すずやの心の不安をどう支えるかが問題じゃ、こんごう殿なら出来ると思ったのだが」

「三笠様、こんごうなら問題ありません、任せて大丈夫です」といずもが太鼓判を押した

「まあ、司令やいずも殿が言うなら間違いなかろう」

 

三笠と由良司令達は、泊地司令部での会議の後、場所をここいずも士官室へ移して

夕食を交え、協議をしていた。

三笠達の夕食は、いずもが自ら調理して提供した

今日の献立は、パラオ産の白身魚のソテーと野菜の付け合わせであった

 

食後のコーヒーを飲みながら、食器を下げる士官室付の2士妖精が一礼して退室するのを確かめると、三笠は、

「司令は幸せ者じゃな、毎日このようないい手料理を食べさせて貰って」

「まあ、そこは感謝しています、なにせ自分は全く生活力がありませんから」

いずもは、少し顔を赤くしながら、司令の横へ着席した

「さて、本題とはいろうか」

表情を厳しくする由良司令と、いずも

三笠は、由良司令を見て、

「さて、パラオ防衛についてじゃが、今日の内容で問題ないと感じる、多少作戦内容に齟齬が生じる事があるが、泊地提督と綿密に連携して対応してもらいたい」

「はい三笠様、今回は全体の作戦指揮は泊地司令部の簡易指揮所で行う予定です、自分もそこへ詰めますので、問題ないかと、各艦への情報伝達についてもコミュニケーションシステムの搭載を既に終了しておりますので、作戦行動範囲内では問題ありません」

 

「会議でも話したが、今回の様な大規模な諸島防衛作戦は、連合艦隊として初めての事。

この戦訓を生かすためにもぜひお願いしたい」

「自衛隊艦隊の総力を挙げて防衛いたします」と由良司令といずもは一礼した

 

三笠は少し言いづらそうにして、

「司令、実は今回の件とは別に少し相談したい事があるのじゃが」

「なんでしょうか?」

「まず一つは、ルソン北部警備所に取り残された曙の救出」

「その件につきましては、本日泊地提督から山本長官、宇垣参謀長から要請が来ている旨を聞きました」

「では!」

「はい、お引き受けいたします」

「いずも殿も?」

するといずもは、

「当艦には、陸戦兵力を担当する陸上自衛隊妖精が数多く乗艦しております。彼らの装備の荷ほどき、点検作業も既に開始しておりますので十分対応できます」

「しかし司令、海軍と陸軍が同一作戦とは、時代が変わったものじゃな」

「確かに、如何に戦後生まれた自衛隊と言えども、官僚組織の弊害は避けられないもので

各自衛隊の指揮権は別に存在しました、しかし度重なる大規模な自然災害、緊迫する国際情勢 このままでは組織の硬直化を招くという事で数度に渡る組織改革を経て 統合作戦指揮という概念が生まれました」

いずもが、

「現在、パラオ泊地に駐留する自衛隊の最高位は由良ですから、彼が陸、海、空の自衛隊の指揮権を持つ事になります」

「自衛隊という組織の下、3軍が協力体制を敷いているという事か?」

「その通りですね、そしてその自衛隊をコントロールする防衛省のトップは、首相が指名した大臣、すなわち非軍属、政治家です」

「文民統制というやつじゃな」

「すずやさんの宣誓書の中にもありましたが、我々自衛隊は、政治に直接かかわる事をよしとはしません、しかし政治に無関心でいいという訳でなく、むしろ細心の注意を払っています」

司令は続けて、

「本来であれば、我々自衛隊は文民統制の下行動する組織ですから、最高位の指揮官は

内閣総理大臣であるべきですが、この時代にはそんな法律はありません、今の所は、こちらへ飛ばされて来る前の指揮権をそのまま継続していますが、いずれは然るべき、統制下へ入るべきだと考えています」

三笠は少し考え

「本来なら総理の指揮下へ入るべきだが、今は内閣の基盤が弱い。軍部が強すぎるのじゃ。明治、大正の世には考えられん事」そして

「この手の話は、儂より姉上の方が得意。文を書いて相談してみるか。陸軍、海軍とは違う第三の軍事組織として、統帥権の及ばぬ組織として」

由良司令は、

「よろしくお願いいたします」と一礼した、そして

「三笠様、本題の方は?」と問いただした

「かなわぬの、いずも殿、この文書を投影してくれ」といい、自身のタブレットを操作して、文書ファイルからある文書を転送した。

いずもは、それを自身のタブレットへ受け取ると、デスクサイドのパソコンへ接続し、前面の大型ディスプレイへ表示した

そこには

“マーシャル諸島海域開放作戦 計画概要 最重要機密”と書かれていた

三笠は、テーブルの上のリモコンを操作して頁を捲った

「これは、現在連合艦隊司令部で作成中のマーシャル諸島開放作戦の概要書じゃ。内容は以前にイソロク達と話した内容に近いもの。まだ骨子段階であるがな」

「実はな、今回の作戦についてじゃが、問題が幾つかある、一つは敵の正確な拠点所在地、勢力がはっきりしない事、これについては、威力偵察を行い、儂と金剛のイージスシステムで追跡する事で勢力を観測する事になっておる、そして最大の問題が」

 

「マジュロの人質ですか?」と司令が切り出した

「知っておったか」

「ええ、泊地提督との情報交換の席で、予想されるマーシャル方面の戦闘について意見交換を行いましたが、その席で」

 

「状況が予断を許さぬ状態でな」といい マジュロの近況をまとめたページを表示した。

由良司令といずもはそれを見ながら、

「いずも、どうおもう?」

「救出作戦となると、少し面倒ですね」

 

「面倒とは?」

「はい三笠様、まず人数です、1000名近い人員を短時間で収容するには、LCACと呼ばれる上陸用舟艇を使うのが一番ですが、現在1隻しか手持ちがありません、ロクマルや陸自のMV-22を使っても短時間での収容には限界があります、それにこの概要書によると、マジュロ近郊の島々にも分散して避難している方がいるとの事ですから、一斉に救出作戦をするには一カ所へ集結する必要があります、そうすれば沖合の深海棲艦の艦隊に察知される危険性があります」

 

由良司令は暫し マジュロの写真を見て

「三笠様、連合艦隊司令部は救出作戦が御望みなのですか?」

「そうじゃ、もしマーシャルで戦闘が起これば、奴らこのマジュロの人質を砲撃すると通告してきよった」

由良は腕組みをしながら、

「いずも、このマジュロの沖合にいる見張りの重巡艦隊、撃破は可能か?」

「まあ、余程変なやつが出なければ、こんごうとひえいのコンビで行動不能にする事は可能だと思いますが、まさか?」

「ああ、救助するにしても対象が分散し過ぎる、一般人ではなおさらだ」

司令は三笠に

「三笠様、救出ではなく、強襲作戦でいきましょう」

「強襲作戦じゃと?」

「ええ、まずこんごうとひえいを、このマジュロ近海まで秘密裏に進入させます、そして一気に見張り役の重巡艦隊を殲滅、その後 いずもに乗艦した陸自妖精が、上陸して橋頭堡を確保、島周辺全域を防衛して、マーシャル方面作戦の発動を可能とするという案です」

 

それには、三笠が慌てた

「そんな事をすれば、周りの島々から奴らが押し寄せて来るぞ」

司令はニコリと笑い、

「奴ら、必死で侵攻してくるでしょうね、自分の縄張りに急に敵の部隊が湧き上がり、おまけに人質まで奪われたとなると」

三笠は司令の眼をみて

「由良司令、まさかオトリになるつもりか?」

 

「ええ、奴らの注目は一時的にこちらへ向きます、その隙に」

「深層部にある、飛行場の破壊と、敵司令部の殲滅か、由良司令」

「はい、そして誘発されて出てきた空母機動部隊を 赤城さん達で迎えうち、護衛の戦艦部隊は長門、大和さん達の出番という訳です、自分達はじっと島に立てこもる作戦です」

三笠は腕を組みながら、深く瞑想し、

「諸島防衛戦か、しかしこちらの援軍が間に合わなければ 孤立するぞ」

「その時は、島民抱えて さっさと逃げますよ」

「引き際が、肝心という事か?」

「まあ、目的は島の占領ではなく、邦人の保護ですから、危ないと解れば退くのもありです」

「敵が、奪還の為上陸した所を背後から突く、というのも一手か」

「奴らの目を、マジュロ近海へひきつけるというのが、戦術目的です」

 

三笠は、由良司令といずもを見ながら

「分かった、トラックに帰り次第、由良司令の提案、イソロクと協議しよう、パラオからどの程度出せば良い?」

 

「主に対潜活動に鳳翔さんと、侵攻作戦に瑞鳳さんがあれば」

 

「由良達は?」

「改装が間に合えば、参加を、ダメならお留守番を」

三笠は

「作戦発動は、おおよそ2か月後を予定しておる、済まぬが、マジュロ近海防衛戦の概要作成を頼む」

「はい、取り急ぎ」といい、由良司令はいずもを見た

「明日より、いずも司令部の作戦情報班で検討にはいります」

それを聞くと、三笠は、コーヒーを再び口に含み、じっと画面に映るマーシャル諸島を睨んだ、そして

「この戦いで、連合艦隊の歴史が変わるかもしれん」と呟いた

 

 

 

こんごう艦内

すずやと熊野は、お腹いっぱい、とんかつを食べた後、こんごうの淹れた食後の紅茶と冷やした間宮特製のフルーツゼリーを堪能した。

 

その後こんごうは、すずや達を居住区内の艦娘士官区画へ案内した。

艦長室の直ぐ近くに、外来艦娘用の部屋がある。

室内は2段ベットに、簡単なデスクといった具合だ。

「すずやさん、暫くこの部屋を使って」と言われた

「個室ですか?」

「まあ、今日は熊野さんとお二人ですけど、明日からはお一人の個室よ」

 

すると熊野は、

「こんごうさん、よく監視してください、すずや気を抜くとすぐ散らかして大変なんです」

「なによ、熊野なんか よく迷子になるくせに」と反撃したが、こんごうが

「本当に仲がよろしいのですね」

「良くないです!!」と二人揃って答えた。

室内は明るく、綺麗に整頓されていた。

既にはるなが、すずやと熊野の着替えを用意してくれて届けてくれていた。

 

その後、浴室や併設された艦娘用のランドリーなどを案内され

「凄い装備、こんな贅沢な装備、大和にもないよ」

「ほんとにすごいですわ、水をこれだけ使えるなんて」と驚きの連続であった

こんごうは

「私はまだ艦内業務が残っているから、艦橋へ上がります。お二人ともお風呂室で汗を流して、ゆっくりしてくださいね、用事がある時は、壁面の艦内電話で呼んでください」

といい席を外した

 

こんごうが去った後、浴室で

「入っていいのかな?」

「いいみたいですわよ」と熊野はあっさりと服を脱いで浴室へ入った

「あっ、ずるい熊野!」といい、服を脱ぐすずや

浴室には、小さめの浴槽とシャワー

浴槽には海水を濾過して温めた水が張ってあった。

少し狭いが、二人して浴槽に浸かった。

温かい海水が、体に染みて気持ちいい。

「ああ、生きてるって感じがする」

「ほんと、私の艦にもこんな個室の浴槽が欲しいですわ」

 

すずやと熊野はお風呂とシャワーを堪能し、はるなが用意した艦内服に着替え、部屋へ戻った。

熊野はベッドに腰掛け、すずやは椅子へ掛けた。机の上には艦内規則に関する小冊子や各種資料が綺麗に整理されて置かれている。

これから こんごう艦内で生活する為にはこれを覚える必要があるのだ。

パラパラと書類に目を通す すずや。

ふと熊野の方へ振り返り、

「熊野、これありがとう」といいポケットから鈴の付いたお守りを出した。

「すずや、これは元は貴方のお守りよ?」

「熊野、もう すずやは大丈夫。だからこれは貴方が持っておいて。でないと」

「でないと?」

「最上姉さん達が大変な目にあうわ」

熊野はムッとして、

「もう!」と怒ったが、不意に すずやが抱きついてきた。

「すずや?」

「熊野、来てくれてありがとう」

「うん」と熊野は静かに答えた。

 

静かに、艦内の時は流れた。

 

 

深夜、艦橋の照明は夜間照明に落とされ、薄暗い。

当直以外の要員は就寝し、艦内は静けさが漂い、いつもは聞こえにくい波の音がここまで聞こえてくる。こんごうは、艦橋横の見張り所でじっと静かな波間を見ていた。

不意に後に気配を感じ振り返ると、すずやだった。

「すずやさん、眠れない?」

「ええ、まあ」

「熊野さんは?」

「だいぶ疲れていたみたいで、直ぐに寝てしまいました。あの子、一度寝ると中々起きないから」

すずやは こんごうへ近づき、

「あの、すずやを助けてくれてありがとうございました」と深々と一礼した。

「いえ、私は、私がするべき事をしたまでよ」

「三笠様から聞きました。艦霊への接触は大変危険な術式、一歩間違えば こんごうさんも悪霊に浸食される恐れがあったって!」

こんごうは静かに海を見ながら、

「私は海上自衛官、国民の生命と財産を守るのが使命なの。その大義があるなら持てる力をすべて出して、守るべき人を守る。それが私達自衛艦娘の生き方なの」

「大義ですか?」

「そう、不変の行動の原理よ。なせぞれをするのか? それは何のためか? その判断基準となる不変の行動原理、それが“国民を守るための楯となる”こと。今日貴方が行った“宣誓”がその全てを表しているわ」

 

「宣誓とは、自分の思いを言霊に託し、現実とするための儀式」と こんごうはそっと語った。

 

すずやは思った。

“こんごうさん、戦艦金剛さんもそうだけど、意思というか、心が強い。あの力は本物だったんだ!”

 

こんごうは すずやへ向い、

「すずやさん、貴方にも守るべき人はいるはずよ。明日からはその人たちを守るため、がんばりなさい」

 

「はい、こんごうさん」

すずやは こんごうの眼を見て、しっかりと答えた。

 

月灯りが二人の艦娘を照らす、パラオの夜。

この夜が明ければ、そこに待つのは希望なのか、それとも。

 

ただ静けさだけが、今を支配していた。

 

 






こんにちは スカルルーキーです

え〜、ノリと勢いで 鈴谷を自衛隊に入隊させてしまいました。
どっ、どうしよう!
護衛艦 すずや
現行の海自の艦艇命名法では、難しいみたいですね

次回は パラオ防空戦その1です・・・ 多分

では

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