分岐点 こんごうの物語   作:スカルルーキー

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「昔から名は体を表す」と言います


“相手を傷つけるという事は 自分も傷つける”という事なの、
これを乗り越えなければ、私達は単なる殺戮集団になるわ


「お前の力は 神へ通じる力、その力に呑まれていないか?」



24 漂流(上)「カ級殲滅戦」

パラオの東部海域を 波を掻き分け一路 トラック諸島へ進む、大規模船団。

戦艦2隻、重巡1隻、軽巡1隻、駆逐艦5隻 正規空母1隻 油槽船8隻。

 

露払いは 戦艦三笠、次艦は戦艦金剛 その後を複縦陣で進む8隻の油槽船

そしてその油槽船の右舷を 阿武隈、白雪、左舷を 初雪 深雪が固め、

その後方には 正規空母 鳳翔、その左右には 陽炎と長波、殿は

護衛艦 こんごうである、

 

上空には 鳳翔零戦隊が直掩機として張り付き、また自衛隊のロクマル部隊が対潜活動を行っていた、そして前方海域では 二式大艇改が広域対潜活動を行っている。

 

二重、三重の対潜網を敷いて、この油槽船団を護衛していた

 

油槽船団の船団長である元中佐は 自身の指揮する油槽船の船橋横の見張り所で、

双眼鏡を片手に 前方を航行する金剛と三笠を見ていた。

現在時間は午後4時、丁度お昼過ぎに泊地を出発して4時間を経過した頃だ、

足の遅い民間船が多い、ゆっくりとした速度で航行している。

本来なら 潜水艦対策の為 之字運動をする所であるが、これだけの船団、

おまけに民間船までいるとなると 複雑な艦隊行動は厳しい。

どうしようかと悩んでいたが 自衛司令から

「鳳翔さんと、うちのこんごうが対潜活動に出ますので、安全海域までお伴させましょう」

と申し出てくれた、泊地提督も快諾して、急遽 このような大規模船団となった

トラック泊地の哨戒圏の手前まで 護衛する事になり こんごう達の帰りは翌日になる事が予想された。

 

じっと前方を航行する戦艦金剛を見る元中佐、ふいに後方から声をかけられた

「艦長、彼女の事が 気になりますか?」

 

「航海長か。まあ気にならんというのは嘘だが、早々気にしても仕方ない。」

 

「ほう、気がないという割には 熱心に見てましたな」と言いながら、

自身も双眼鏡で戦艦金剛を見た。

 

「航海長 今の金剛をどう思う?」

 

「正直言ってよろしいですか、かなりいじられていますね、

まず船体ですが、以前の金剛は長年の戦闘で 各所に歪があったはずですが、

それが見当たりません、継ぎ目がしっかりしています、

それに聞いたところによると 魚雷を2本受けたはずですが、

その痕もなく、船体の平滑度が増しています。

いったいどういう魔法を使えばあんな事ができるのか?」

 

航海長は 視線を金剛の前方を行く 三笠へ移した

「艦長、それより 三笠ですよ、自分はパラオへ入港した時、

あの三笠が海面に浮いている姿を見て、危うく腰を抜かす所でしたよ」

 

「ああ、おれも絶句したよ、

しかもあの三笠は 三笠であって三笠でない、最新鋭の戦艦だ」

 

「いえ あれはまっこと疑いようのない“三笠”です」とはっきりした声が後方からした。

 

「機関長、お疲れさまです」と元中佐が丁重に挨拶した

 

白髪の初老の男性が立っていた、深い彫が特徴の厳しい面差しの男性

機関長、元帝国海軍人 戦艦三笠の乗員にて 日本海海戦の際は砲手として参戦、

その後 負傷除隊、元中佐に誘われ、今も海で暮らしている。

 

「艦長、戦艦三笠とは 東郷司令の意思を引き継ぎ、強き意思を持って、

 日本の進むべき道を指し示す艦です、いままさにその艦が自分達の前にあります」

機関長は続けて、

「艦長、昨日はご無理をいい、申し訳有りません」と機関長は丁重に謝った。

 

「いえ 構いませんよ、機関長の頼みなら、それで三笠様には お会いできましたか?」

 

「はい、上陸後、工廠前の三笠へ向ったところ、艦橋にいらした三笠様が気がつかれ、

艦内を案内して頂きました」

 

「ほう、艦内を見たのか」

 

「はい 艦長、乗船後すぐ 三笠様は“そちが担当しておった15センチ砲は この艦には、無い、済まぬ、その代わり高性能の127mm主砲を装備したぞ“、

とおしゃり、自分を主砲へ案内してくれました」

 

「その砲 専門家として見て どうだった」

 

「“素晴らしい”の一言です、最大射程 30km、発射速度毎分約40発、そして最も注目すべきはその命中率です、先日行われた試射の成績を聞きましたが 8割以上の命中率です、自動目標追尾装置付き、弾種も自動で複数選べるとの事、いやまさに時代の差を感じました」

 

「8割だって! 凄いな、流石 三笠様だな」と驚く航海長

 

「試射の際 駆逐艦を相手に模擬戦をしたそうですが、駆逐艦を追い込んで 曳航標的に

砲撃したそうです、最大速力は38ノット、瞬間的には40ノット近く出るそうです」

 

「駆逐艦の機動力を上回った! 本当か!」と元中佐が聞く

 

「はい 相手は長波だそうです」

 

「それは 単に長波の経験不足だけでは」と航海長が言ったが

 

「いや、今の長波は 俺たちが知っている彼女じゃない、陽炎に鍛え上げられている、

その証拠に、この編成の艦隊行動を難なくこなしている、練度も高い」

そこには 鳳翔の横を ぴったりと位置を保ちながら、対潜警戒に勤しむ長波が見える。

 

機関長は 元中佐へ向い

「艦長、いえ中佐、三笠様は あの艦で深海凄艦との闘いに終止符を打つおつもりです。

昨日お話して それを感じました。髭の副長以下の兵員妖精も皆活力溢れる姿をしております」

 

「やはりな」と厳しい眼差しで前方を航行する三笠を見た

 

泊地を出港する際、最終の打ち合わせを泊地司令部で行ったが、元中佐は、

山本長官や三笠の厳しい気配に気がついていた。

確かに 他の者に見せる雰囲気は いつもの姿だった、しかし 気迫が違う。

こう何か 鬼気迫るものがあった。

そう言えば、自衛隊艦隊の旗艦に 挨拶へ行ったそうだが、何かあったのか?

 

不意に 機関長から

「中佐、また金剛に乗りたいですか?」と聞かれた。

 

元中佐は じっと前方の金剛を見て、

「その時は 俺の全てを懸ける、この戦い 長引かせてはいかん、深海凄艦は単に米国に利用されているだけだ、真の敵は米国の野心だ」

 

機関長は

「自分もその時は 三笠へ参ろうと思います、何も出来ないかもしれませんが、

髭の副長以下 あの海戦で共に戦った戦友妖精がいるのです、人としてじっとしている訳には行きません」

 

すると航海長が、

「じゃ 俺はこのぼろ船でみんなの帰りを待ってますよ」

 

「航海長、ぼろ船はないだろう、これでも一応 新鋭油槽船だしな」

 

三人は 笑ってお互いの肩を叩いた。

その時 独特の音を立てながら 空母鳳翔から 特殊対潜航空機ロクマルが発艦して行った、他の油槽船の乗員が帽フレで見送っている、それに答えるが如く 機体をバンクさせていた。

 

航海長が

「鳳翔さん 頑張ってますね、なにか以前より生き生きとして見えます」

 

「あのまま横須賀鎮守府で予備役になるよりよっぽど良かった。あの人の経験は、

前線で生かされる。一航戦の赤城も鳳翔さんの指導を受けて見違えるほど良くなった。

今は瑞鳳だが、彼女も内地の時代より格段に上がっている」

 

「そう言う意味で言えば パラオの提督は“人を生かす”事が得意のようですね」

 

「彼奴は軍令部時代から 人を育てる事が得意だったよ」

 

「確か 中佐とパラオ提督は 海兵同期でしたな」と機関長が聞くと

 

「ええ、自分にパラオ、そして横鎮、呉の提督は海兵同期ですよ、もう四馬鹿と呼ばれて

散々な目にあいましたよ、パラオの奴なんか、“正面海域にル級が出た! 昔の借りを返しに来い!”とか抜かして、いきなり金剛と赤城を連れて行くはめになりましたがね、

それも奴の手の内でしてね、赤城はそのまま鳳翔の下で実戦教育、金剛は 睦月達に

実戦艦隊行動指導ですよ」

 

「そのパラオは 今やトラックに匹敵する注目株ですな」と機関長

 

「気づかれましたか、長官の考えの様ですが かなりの博打です」

 

「ですが、三笠様がいてその博打に張ったわけですから、パラオに自分も賭けたいです。」

 

元中佐は、

「その賭けも、多分彼女達次第です」といい 殿の1隻の艦を見た、

「機関長は あの艦をどう思います?」

 

「綺麗な艦ですな、姿が綺麗というだけでは有りません、聞くところによると、

 あの艦は“こんごう”というそうですね、

“昔から名は体を表す”といいますが、あの艦から感じるものは、

三笠様や戦艦金剛と同じものを感じます、いえそれ以上の強き意思を感じます」

 

「流石、史上初の艦娘誕生の瞬間を体感された方です」といい そして元中佐は

「自分達は 彼女達の為にも、この未来を切り開く責任があります」そう言いながら、

こんごうをじっと見た

 

 

護衛艦 こんごう 艦橋

 

こんごうは 艦橋の艦長席へ着き、右手で頬杖をつき、戦術ディスプレイモニター画面を眺めながら じっとしていた。

長く伸びたブラウンの髪を 右手の人差し指でクルクルと巻いてはほどき、また巻いてはほどく。かれこれ 30分近く同じ動作を繰り返している。

 

丁度 30分ほど前、CICより

「正体不明のモールスらしき電波信号 複数感知」と報告を受けて以来 同じ動作を繰り返していた。

 

副長以下の艦橋要員はじっとその姿を見ていた、

副長は

“こんな時の艦長は 何かを考えている”証拠だ

逆の事を言えば 何を言っても聞いてないので、ほっておくに限る、そしてその後は、

大体 嫌な事が多い。

 

突然、

「副長、ロクマル用のヘルファイア 何発搭載してきてる?」と不意にこんごうが聞いてきた

 

「はい、12発です」

 

「鳳翔さんには?」

 

「いえ 運用上の問題から搭載していません、いずも艦載機分の装備は当艦で管理しております」

 

「それを含めて 12発か、何とかなるかな」

 

「何とかなる?」

 

「さてと」といいながら、こんごうは 補助画面を切り替え、

飛行科整備班長を呼び出した

そこには、老眼鏡を掛けて 書類に目を通す整備班長がいた。

 

こんごうはぶっきらぼうに

「ホワイトロック、ヘルファイアと74式 搭載にどれくらい時間がかかる?」

 

「1機当たり、20分で換装してみせます、急ぐなら 今うちのロクマルは燃料補給と休憩で待機してますが?」

 

「一応、搭載できるように準備して、要るのは夜だから、今はまだランチャーだけでいいわ」

 

「はい 艦長」

 

「そこに、飛行班長は居る?」

 

「はい 近くに」といい、整備班長は飛行隊班長を呼んだ。

 

「班長、今夜はロケット花火を上げるかもしれない、腕の良いのを入れといて」と言うと

 

「なら 自分を含め、古株で固めます」

 

「お願い」といい 画面を切り替えた

 

こんごうは 手遊びを止め、そして

「さて 本丸を突いてみるか」といい 艦隊コミニュケーションシステムを起動し 三笠を直接呼び出した。

 

三笠は 艦橋で艦長席に座っていた、その後方の真新しい群司令官席に山本がいる。

「こんごうです、三笠様 お忙しいところよろしいでしょうか?」

 

三笠は ニヤリとして

「そろそろ 連絡してくる頃じゃと思っておったが、早かったの」

 

そう聞いた瞬間

“ああ やっぱりか”と半ば諦めた

「あの 三笠様、またうちの司令と内緒の話とかしてないですか?」

 

すると三笠は

「内緒話ではなく ちゃんと説明するといっておったがの、聞いておらぬか?」

 

「一応聞きましたけど、“ルソン経由の航海情報は深海棲艦へ筒抜けだ”としか聞いてませんけど」

 

「なら、それで十分と判断したのじゃろ、由良司令は」

 

「はあ、やはりですね、先程の不明電波情報はご存知ですね、待ち構えてますよ」

 

すると三笠は

「うむ、今夜の事もある、皆を呼ぶか」といい、システムを搭載している、

金剛、鳳翔、陽炎に長波を呼び出した。

 

順次 画面に現れる各艦娘達

三笠は、

「全員そろったな、早速であるが、今夜にも深海棲艦の襲撃が予想される、先程、正体不明の電波発信を複数感知した」

 

「へえ~、楽しい夜になりそう」と陽炎がほほ笑んだ。

「この前の借りはきっちり返しマス」と金剛

 

「夜間のロクマルの運用、初めてですが、問題有りません」と鳳翔

一人長波が

「すみません、状況が呑み込めないのですが」と焦っていたが

 

陽炎が

「長波、今夜 深海棲艦の潜水艦部隊の群狼作戦が仕掛けられるという事よ、獲物は私達、

不明電波は たぶん近海のカ級を呼び集めている証拠よ」

 

「ええええ、私達が獲物ですか? 長波小さいから美味しくないと思いますけど」と真顔で言ったが、

 

「長波、あんた私よりでかい胸部装甲でよく言うわね。今度入渠したとき締め上げてあげる。」と陽炎が切り返した。

 

「はいはい 二人ともそれ位にしましょうね」と鳳翔がたしなめるとさっと姿勢を正す、陽炎に長波

 

「三笠様、どの様に対処いたしますか?」と鳳翔が聞くと、

 

「こんごう殿意見は」

 

「はい、残念ながら 夜間は二式大艇改及び鳳翔隊の航空支援は受けられないので、

まず、ロクマル2機による前衛警戒を中心に索敵します。勿論私や三笠様のソナーも動員します。そして発見した不明艦については 武装したロクマルを急行させ識別し、深海棲艦なら まずロクマルで攻撃、そして行き足を止めた所を 砲撃で仕留めたいと思います」

 

「阿武隈達には どう説明するのデス?」

 

「はいお姉さま。自衛隊が指揮する訳には行きませんので、三笠様の情報を発光信号で通知する位です。

気が付いたら戦闘が終わっていたというのが筋書きです。」

 

「楽しい夜になりそうじゃの」と嬉しそうな三笠の後で、諦め顔の山本

 

こんごうは内心

“お察しします 長官”と思った

 

そして三笠は

「よいか皆、今後この航路の安全を確保する上でもここで 徹底的に叩いておく、

一隻たりとも逃すでないぞ」

 

「はい! 三笠様」と元気な返事が返ってきた

 

すると別画面が開きそこには由良司令といずもが映っていた

「そう言う事だ、こんごう頼むぞ、全火器の使用を許可する」と由良司令がいい

 

「今日のいずも隊は腕利きを揃えておいたわ、お願いね」といずもも笑顔でいった

 

「はい、司令。」と答えたが内心、

“ああ また貧乏くじか”などとぼやいた。

 

三笠は微笑みながら、泊地司令部でルソン北部警備所から情報が

漏れているのではないかとの話が出た際の事を思い出していた。

由良司令から、“せっかくなら確かめてみますか?”と切り出されたのだ。

ルソン南部集積地へ、阿武隈艦隊のパラオ入港の報告と出港予定を通知し、それが北部警備所のみへいくように仕掛けた。

多分、予定航路上で網を張っていた潜水艦に発見され、

近隣海域のカ級を呼び寄せているに違いない。しかしここは、我が手の内。

集まってくれるなら好都合。一気に叩いておく。

 

微笑む三笠を見ながら 山本は

“東郷提督のご苦労が 身に染みて分かる”と思った

流石 連合艦隊一の暴れ馬と呼ばれただけはある、戦いに 怯まない 臆さない

今夜は 眠れそうもないな

 

ふと画面に映るこんごう君を見て

〝心中察してくれているようだ、お互い貧乏くじを引いたな“と目で送った

 

夕闇迫る頃、二式大艇改は搭載燃料の限界点を迎え帰路へ着いた、

護衛の零戦隊及び対潜爆雷搭載の鳳翔九九艦爆隊も 夜間の飛行に支障があるので

順次着艦となった。

 

しかし、ロクマル部隊はそのまま 交代で対潜活動を継続した。

陽が傾き、水平線へ消えようとしている頃、1機のロクマルが発艦した。

それを見た元中佐は

「夜間運用能力があるのか?」と思ったが

口には出さないが

“まあ 当たり前か、80年近い技術格差があるのだ、垂直に離着陸するだけでも驚いたが、夜間や悪天候でも運用できる機体となると それだけで航空機運用は飛躍的に向上する、源田さんが聞いたら 飛んでくるぞ!“

 

元中佐は 表情を厳しくし

「通信士、護衛艦隊並びに油槽船団へ発光信号。“夜間の敵来襲に備え 対潜活動を厳とせよ。

“神の道”まで もうすぐだ“」

 

「はい、艦長」と返事をした通信士は 電文を作成し、信号を送った

 

「神の道か」と元中佐は呟いた

先月、トラック諸島周辺の輸送航路上で 深海棲艦、潜水艦部隊の大規模な襲撃事件が

あった。

内地や台湾航空隊、パラオ航空隊で 教育訓練を受けた零戦、艦爆隊が輸送船に分乗していたが、多数の艦艇が撃沈される事態となった。

これに対応すべく三笠様は 第二水雷戦隊 神通を旗艦として 駆逐艦 不知火、黒潮、島風、夕立、時雨、春雨、五月雨、涼風など陣営で カ級部隊の包囲殲滅戦を実施し 徹底的に叩いた、それ以降 トラック諸島周辺海域ではカ級は確認されていない

この掃海済みルート 別名“神の道” 縦横無尽に暴れた神通達から取られた名前だが、

問題はそのルートの入口だ。今輸送船は必ずここを通る。ここで待ち構えていれば

向こうから餌が来る状態だ。トラック側は掃海できていても パラオ側はこれからだ。

 

「間違いなく いるな、これだけの餌だ かからん方がおかしい」といい

「なら、お手並み拝見といこうか」とこんごうを見た

 

夜も更け、午後8時を過ぎる頃、ようやく最初の獲物が動きだした

「艦橋、CIC いずも07 MADコンタクト! 方位100 距離6000」

 

こんごうはすかさず、

「全艦へ通達、対潜戦闘用意! 三笠、金剛へFCS、リンク16コンタクト!」

艦内に対潜配置の電子音が鳴り響いた。

 

「ソナー 音紋判定は?」

 

「現在 いずも07よりデータリンク中です、間もなく判定でます!」

 

いずも艦載機 いずもスワロー07

機長を務める戦術士官妖精が

「よし! 見つけた,いまのコースをもう一回まわるぞ!」

 

「はい 機長!」と飛行士妖精が答えた

コクピットの航法ディスプレイにはAHCDSの情報が映し出され進路を指示していた。

 

最初にMAD反応があった時、即進路上にソノブイ数本を放出した。今そのパッシブソナーデータが こんごうへ転送されている。

 

忙しく管制卓のコンソールを操作した、別のセンサー員もソノブイデータを精査している。

「機長、上がってきてますね」とセンサー員が言うと、

 

「ああ、こんごう艦長の感は鋭いからな」

 

すると 無線で

「いずもスワロー07 アンノウンアルファは カ級と判定、エネミーアルファへコードを変更する」

戦術情報ディスプレイには 先程までアンノウンと表示されていた不明潜水艦が、

エネミーコードで表示されている。

 

無線に こんごう艦長から

「こんごうより 各隊へ、エネミーアルファへ対し 攻撃を実施する、

いずもスワロー07は 監視を継続、

こんごうスワローはアタックポイントへ移動」

 

「いずも07 ラジャー」と機長が返信した

 

「こんごうスワロー ラジャー」とこんごう艦載機も返事を返した

 

機長は 静かに

「さあ 狩りの時間の始まりだ!」と呟いた

 

深海棲艦 南方群体 カ級

カ級は いま静かにゆっくりと浮上していた。

長波電波で、ミッドウェーの群体本部から、此方へ大型の油槽船団が向っているとの情報を得た。指揮艦から「キンリンカンテイハ、シュウケツセヨ」と指示が来た。

どうやら 私が一番乗りだ。

情報によると日本海軍の船団は 油槽船団8隻 軽巡1 駆逐艦3だ

駆逐艦が厄介だが、奴らはまともなレーダーを持たない。

夜間なら、浮上してレーダーで砲戦を挑んだほうが、魚雷を撃ちこむより確実だ。

さっさと1,2隻タンカーに撃ちこんで、おさらばしよう。

沈んで身を隠せば 奴らに見つける手段はない、夜は我々の味方だ

 

「ムオンフジョウ、センボウキョウシンド」

ゆっくり排出されるバラスト、艦が少し軋みアップトリムになった

 

潜望鏡深度までゆっくりと浮上して 潜望鏡で周囲を監視した

なんと 驚いた事に 油槽船団らしき艦影が見えるが夜間にも関わらず灯火管制をしていない、うっすらと光が見える。

「ヤツラ ユダンシテイルナ、ソノママシズメテヤル」

といい、

「フジョウ! ソクホウセンジュンビ」と指示した

 

ゆっくりと艦首から海面へ出た。司令塔が海面へ現れ、甲板が波で洗われる。

機関が始動し、船体に振動が起こった。甲板上に死霊妖精が一斉に出て見張りと砲戦の為の準備を開始した。

 

発令所から「テキユソウセンダンマデ 距離6000、ハンノウタスウ」とレーダー員が報告してきた。

 

「ヨシ、イッキニチカヅイテヤル」

機関を戦闘出力まで上げ一気に距離を詰め始めた。漆黒の闇の中に ほんのりと光が漏れていた。あの光の先に獲物がいる。これで戦果を上げれば群体内部の地位も安泰だ。

カ級艦長は ひそかに笑いながら非力な獲物へ向った。

 

しかしその頭上では

 

 

「エネミーアルファ 浮上するぞ!」と機内で いずも07の機長が叫んだ!

逆合成開口レーダー(ISAR)の検索画面を即座に見た、海面制圧を目的に作られたISARは即座に 海面上に覗き出たカ級の潜望鏡を確認した。

「センサーマン、他の探知目標は?」

「機長、今の所 感なしです」

 

機首に装備された赤外線探知装置(FLIR)を目標のカ級へ合わせ、ロック。

ゆっくりと浮上するカ級の赤外線映像が映る、

「飛行士、見えているか!」

ヘルメットの上に赤外線暗視装置をつけた飛行士妖精が

「はい、機長、確認しました!」

 

「いいか この距離を保て、夜間とはいえ、対空機銃が厄介だ」

 

そこには完全に浮上し、甲板上で砲撃戦へ向け準備を進めるカ級の死霊妖精達が見えた。

監視映像情報は即こんごうへデータ中継され こんごうで解析、三笠、金剛へ通知され、位置情報は戦術ディスプレイ搭載の陽炎、長波へも知らされている。

すでにこの段階で カ級の目算は崩れてしまった。

 

こんごう艦橋でその映像を見るこんごう

「三笠様、では攻撃開始します」

 

「頼むぞ こんごう殿」と三笠

 

「はい、三笠様」と返事をしたこんごうは 立て続けに、

「CIC 艦橋、こんごうスワロー攻撃開始、砲撃データを三笠、戦艦金剛、陽炎へ通達、

当艦と長波は砲撃準備にて待機」

 

「はい艦長!!」と関係部署の妖精隊員が一斉に返事をしてきた

後に「第2次トラック諸島 カ級殲滅戦」と言われる海戦が始まった

 

いずもスワロー07から送られてくる位置詳報を確認しつつ こんごうスワローは攻撃位置へ前進していた。

 

戦術士官は

「この距離で魚雷を打たないとなると、砲戦で挑む気か? 大した自信だ。しかし、その甘さが命取りだ」といい

赤外線映像を使い、ヘルファイアのレーザー照準をカ級の船体中央部へロックした。

「FE 74式準備は!」

 

「はい、機長! いつでも行けます!」

暗視装置をつけ 転落防止用の安全帯をつけたフライトエンジニアが サイドドアを閉めたまま7.62mm機関銃を用意している。

 

「こんごうCIC こんごうスワロー、攻撃始めます!」

 

「こんごうCIC 了解」と返信がきた

 

飛行士妖精は 一気に加速しながらカ級へ向った

戦術士官は管制卓を操作し、火器管制装置の兵装をヘルファイアへと設定、弾頭シーカーが、誘導用レーザー照準を掴んだ事を確かめた。

「悪く思わんでくれ」といい 安全装置を解除し、

「射線方向、障害物なし! 安全装置解除確認」

飛行士妖精が

「操縦席 準備よし!」と反応してきた。

 

戦術士官は 息を飲み、そして

「ヘルファイアよう~い、 撃て!」といい 管制卓右にあるジョイステック型のトリガーを弾いた

 

「パシュン」という少し間の抜けた様な音が機内へ響き ランチャーから一つの火矢が物凄い勢いで弾き出た

赤外線探知装置の画面には 海面上を進むカ級が映しだされていた。

 

カ級艦長は 浮上後、司令塔の上で 自艦の前方で 光る一筋の光跡を見た

真っ暗闇のなか、一瞬光ったと思った、

「ウン? ナンダ」と思ったが その光跡は直ぐに見えなくなった。

その直後 波の音に交じり“パタパタ”と聞いた事の無い音が聞こえる。

「ナンノオトダ?」

そう思った直後、艦体を揺るがす轟音がした。

突然 艦体後部で火柱が上がり、後部の砲塔付近で爆発が起きた!

振動で体を司令塔に叩きつけられ、遠のく意識を呼び戻し、頭を押さえながら起き上がる

「ドウシタ!?」と慌てて艦体後部を見た。そこには燃え上がる艦体、粉々に砕けた76mm砲と、負傷した者や既にこと切れた悪霊妖精が横たわっていた。

急いで 発令所内部を見下ろす、しかし煙が充満し、内部がよく見えない。

誰かが 助けを呼ぶ声や呻き声が聞こえる、意味不明の声を出している者もいる

騒然とする艦内、一体どうなっている!!

その直後、パタパタと何かが海上を近づいてきた

「ナンダ!!」と思ったが カ級艦長の意識もそこで終わった。

 

彼女が最後に見たのは、漆黒の闇の中 急に姿を表した大きな物体と その物体から打ち出された7.62ミリ機銃弾の光跡であった。

 

漆黒の海面上を飛行するこんごう艦載機

「FE 司令塔を中心に叩き込め!!」と戦術士官は叫んだ

ヘルファイアを発射後、サイドドアを開放し、射撃体勢を取ったFEは、急速に近づくカ級へ74式を構えた

不意にFEが

「空薬莢は拾わなくていいですよね」と間の抜けた質問をした。

 

「これは 実戦だ、遠慮はいらん、でもあとで使用弾数は数えるからな、数えたくなければ、全弾叩き込め!」

 

「まってました!」とFEは言うと、発射速度の切り替えレバーを 毎分1000発へ切り替えた。

戦術士官が

「任意に射撃開始してよし!」

 

「はい 機長!」とFEが返事をした

 

暗視装置を通して 前方で火の手を上げるカ級が見えた、

「射撃開始します!!」とFEがさけぶのと同時に 74式機銃が唸りを上げて射撃を開始した。

 

飛行士妖精は上手くカ級を取り巻くように旋回飛行した、それに合わせFEが カ級の司令塔や対空機銃へ向け射撃を続ける、暗視装置越しに銃弾に倒れる深海棲艦の悪霊妖精が見える、しかしここで手を抜けばその仕返しは必ずくる。

「射撃終了!!」とFEの声がした。

 

即座に機長の戦術士官は

「即 安全空域まで退避!」と叫んだ

飛行士妖精は 機体を捻り、一路安全空域へ向け全力退避した

 

この段階で既にカ級は艦長以下の要員の多数が死傷していた、船体もかろうじて浮上航行できる程度である。

しかし 三笠は手を抜かなかった、今日の目的は敵潜水艦の殲滅戦だ。

「戦闘指揮所 前部主砲 打ち方始め!」と号令した。

戦艦三笠に搭載されたオットーメララ127mm砲が射撃を開始した。それと同時に、データリンクしている戦艦金剛の右舷15cm砲も射撃を開始、陽炎の主砲もこんごう経由の射撃データを元に砲撃を開始した。

 

短時間の内にカ級の周囲に 十数発の砲弾が降り注ぎ、多数の水柱と火炎が上がった

水柱が収まり、海面が静かになった時、既にカ級の姿は粉々になり海底へ消えていた。

 

直ぐに いずも07が現場に降下するが そこにはおびただしい漂流物とすでにこと切れた悪霊妖精が漂っていた。

FEやセンサー員が暗視装置で確認するが、生存者は発見出来ない

戦術士官は

「俺たちも 油断すれは 結果は同じだ」と呟き、

 

「こんごうCIC エネミーアルファの撃沈確認、生存者なし」と報告した

 

油槽船団を指揮する元中佐は、船橋横の見張所でその戦闘を見ながら、正直驚いた。

「凄いな、夜間の戦闘をほぼ圧倒的に進めた」

 

横で状況を見守る航海長も、声が出ない。ようやく、

「自分も海防艦で長い間 戦ってきましたが、夜間戦闘で相手に1発も撃たせないで、

圧勝したのは初めてです」

 

元中佐はじっと黙ったまま 後方を航行する こんごうをみた

“彼女達は 本物だ”

 

軽巡 阿武隈の艦橋では 副長以下の兵員妖精が騒いでいた

「艦長、流石三笠様です!! あのカ級に1発も撃たせる事なく 圧勝しました!」

「金剛、陽炎も凄い、夜間照準をこんなに正確に! 初弾夾叉です!」

 

阿武隈は もう驚きを通り越していた。

昼間でも難しい砲撃 いくら距離が6000と近いとはいえ、

いきなり夾叉 または命中弾

これが 新“三笠”の実力なの!

それに 金剛さんや陽炎の連携の取れた砲撃は?

 

パラオに関わった艦には何かあるの?

すると“由良姉さんも?”疑問は深まるばかりであった。

 

 

こんごう艦橋では カ級撃沈の報告を聞いたが 誰一人騒ぐ者もなく、

逆にいつもより静かになった。

こんごう自身の精神力が研ぎ澄まされている為だ、

 

「うちのスワローを一旦 引き上げさせますか?」と不意に副長が聞いてきた。

 

「そうね」とこんごうが言うと

 

「CIC 航空士官、こんごうスワローを一旦収容して、燃料、弾薬補給を」と指示し

「いずも07は?」と聞き直した、

 

「はい、艦長 あと20分で交代です、現在 鳳翔甲板上で 08がスタンバイ、

間もなく発艦です」

こんごうは 気持ちを落ち着かせ 艦内放送を取った

「艦長です、最初の獲物がかかりました、これから夜明けまで、何匹かかるか分かりません、皆、適度に緊張して」といった瞬間 艦内に笑いが聞こえた そして

「いい 夜明けまで持ちこたえて、阿武隈さん達を無事 トラックへ送り届けます」

 

「おう!!」と艦内に一斉に声がした

 

直後、CICより、

「ソナー コンタクト! 方位060 距離8000 不明推進音探知!」

 

こんごうは

「CIC 鳳翔さんへ連絡、直ちに08発艦! 07と追い詰めなさい!」

慌ただしくなるこんごう艦内、後部甲板では先程攻撃を行ったこんごうのロクマルが補給の為帰還してきた、各種の命令や復唱が続くなか こんごうは

「これからが 勝負よ」と 漆黒の闇を睨んだ その先には

 

パラオ泊地 司令部簡易指揮所

夜の8時を回ったとはいえ煌々とあかりが灯っていた。

2階の簡易指揮所には パラオ泊地提督、由良を始め 瑞鳳や睦月達 全艦娘が揃っていた、自衛隊も司令以下のメンバーが集合し、戦況を見ていた

 

昼間、三笠様や金剛姉さまを見送ったあと、司令から

「今回の帰路は カ級をおびき出す作戦だ!」と聞かされ、ひえい達は慌てた。

ひえいは、

「直ぐにこんごうに連絡して 掩護に!」と自艦の主機を起動しかけたが

 

いずもから

「心配無用よ。あの編成なら心配するだけ無駄だわ。ねえ、はるな」

と言われた はるなは、

「ええ、副司令、相手のカ級がかわいそうになります」

 

きりしまも

「久々に 金剛力士が見れるかもよ」と言い放った

 

「そっ そうね、うん」といい ひえいも納得した

「まあ 彼女がいる限り大丈夫か」と言いながら 落ち着きを取り戻した。

夜、こんごう達がカ級と接触したとの報告を受けると、皆は簡易指揮所へ集まってきた。

 

何故か テーブルの上には おにぎりとサンドイッチが並んでいた

おにぎりは 由良が作ったものだ、少し塩の効いたおにぎり、

サンドイッチは野菜とツナのサンドをいずもが作っていた。

皆 最初は真面目に戦術情報を見ていたが、睦月達はどうやらいずもの作ったツナサンドが気になる様で、ついに皐月が

「いずもさん これ食べていいですか?」と聞いてきた

 

「はい、今夜は長くなりそうですから、皆さん適度に食べてください」といった瞬間に

睦月達の行動は早かった、さっとサンドイッチを掴むと

「いただきます」といい 必死に頬張った

ちなみに 秋月は右手にツナサンド、左手におにぎりを握っていた

 

あまりの素早い動きに泊地提督も驚いた

「お前達 ちゃんと夕食は食べただろ!」と言うと

皐月が

「だって 提督、今日 僕達非番だったから糧食班もお休みで 朝からまともに食べてませんよ! 鳳翔さんがいないと うちの艦娘寮は食料危機です!!」

 

提督は由良をみて

「本当か?」と聞くと

由良は

「済みません、こちらの手違いで 艦娘寮の食事手配がうまくいってなくて、私が居た時は鳳翔さんと交代でしていましたけど いまは」

すると 睦月が

「由良さんが 提督の所に行ったから、鳳翔さんだけです!」

 

「それは まずいな」と考え込むと

 

「では 私達がお世話いたしましょうか?」といずもがいった

 

すると由良が

「それは」と言ったが いずもは

 

「まあ とても手間のかかる輩が 一人いますから 何人か増えても問題ありません、それに こんごう達の宿舎の件もあるので 艦娘寮へ統合させていただくとありがたいのですが」

 

泊地提督も

「分かりました、 鳳翔が帰還次第検討します」と前向きに話した、

自衛隊艦娘宿舎と泊地艦娘寮の統合が その後の戦局を変える要素になるとはこの時だれも考えていなかった

 

「提督 由良さんも おひとついかがですが?」といずもに サンドイッチを薦められた

 

ひとつ手にとり、ゆっくりと食べる。

野菜のシャキッとした触感と 魚の旨みがパンに溶け込んで 美味しい

泊地提督は

「この魚はなんですか?」といずもに聞いた

 

「材料は色々ありますが、キハダマグロがいいですね、このパラオでもよく取れる魚ですよ」

サンドイッチを食べながら 泊地提督はある事を想い出していた

「そう言えば、族長の長から、漁民の所得向上について相談されていたな」といい

「マグロ缶か!」と言い

「売れると思うか 由良?」

 

「どうなんでしょうか?」と不思議がる由良

すると いずもは

「私達の時代、マグロ缶、別名ツナ缶は、食卓になくてはならないものです。それほど日本人はマグロ好きなんですよ。」というと、

 

「そうなのか」と感心する提督

すると いずもは

「いっそのこと このパラオで魚の養殖でもしますか?」と言い出した

 

「魚を養殖できるのですか?」

 

「はい 提督、2025年 養殖技術は完成された技術です、少しずるですけど、

パラオの為 資料をお渡しできます」

 

それを聞いた提督は、

「これで、パラオの民も少しは楽になれる。今まで苦労したんだ、それ位海神もお許しになるよ。」

 

その横で 黙々と由良のおにぎりを食べている自衛隊司令

それを見た由良が

「済みません 私のおにぎり、いずもさんに比べて質素で」と言ったが、

 

司令は

「いえ 十分です」といい

「自分の祖母の味です」とだけ伝えた。

 

急に由良が

「司令の祖母はどんな方なのですか?」と聞いてきた

一瞬 いずもの表情が硬くなった

「優しくもあり、厳しくもある。そんな方です。」とだけ告げた。

すると由良は

「司令官さんをみると 想像できそうですね」と笑顔で答えた

 

「ええ」と静かに答えた

 

その間にも 戦局は動きだしていた

コンソールを操作していた自衛隊士官妖精が、

「三笠 カ級へ砲撃開始しました!」と報告してきた

どうやら 最初のカ級を追い込んだようだ

 

「いずも艦載機より報告、カ級撃沈確認。」と続けて報告してきた。

 

「やった!!」と叫ぶ瑞鳳たち しかし 逆にひえい達は表情を厳しくした

 

「ひえいさん?」と瑞鳳が声を掛けた

 

「これ位で喜んじゃダメよ、見なさい」と正面の大型ディスプレイを指さした。

そして

「はるな 説明できる?」と言うと

 

「ええ いいわ」と静かに席を立った

 

由良が 睦月達に席へつくように促した

「では、説明します。現在三笠様を旗艦としたヒ12油槽船団は、こちらに表示されているコースを航行中です。」と一筋の線を指し示した。

緩やかな之字運動コースが表示されていた。

 

「そして これが今撃沈されたカ級の探知後の航跡です」と言うと 画面に別の線が重ねて表示されていく。

 

「艦隊の前方方向から来ている?」と瑞鳳

 

「はい、多分一番近い艦が 油槽船団の頭を押さえ、損傷艦を出す事で船団の行き足を鈍らせた所で、左右から一斉に襲うのではと推察します」

 

その直後

「こんごう CICより ソナーコンタクト、方位060 距離8000」と報告が入る。

 

「来たね」とひえい

 

「来ましたね」とはるな

 

「計算通りです」ときりしま

 

リクライニングシートに座る由良司令へ いずもが

「何隻いると思いますか?」

 

「多分、4か5隻だな。不明電波を受信してそう間がない。此方は既に近隣海域で

先程の艦を含め4隻撃沈している。」

 

「はい 私達の資料では カ級は10隻程度の群体で行動するとあります、既に4隻撃沈、1隻は 北へ帰りましたからね」

 

「彼女は 無事かな」

 

「大丈夫でしょう。はるなの耳をすり抜けた子です。これでも北のカ級は優秀なんですよ」といずもはにこやかに言った。

 

「そうだな 国連平和維持海洋部隊の新カ級には 演習で何度も苦い経験があるからな」

そう言いながら続けて

「しかし、多分ミッドウェーの群体だと思うが このカ級達は不用意だな、先月 三笠様達にだいぶ追い込まれたと聞くが」

 

「多分、こちらにまともなレーダー技術がないと思いこんでいるに違いありません、夜間なら 自分たちに分があると踏んだのでしょう」

 

「問題は、異変にいつ、気が付くかだな。」

 

「はい 司令、しかし 相手がこんごうですからね」

 

「そう思うと、確かにはるなの言う“カ級がかわいそうに思う”というのもあながち間違いではないな。」そして司令はふと、

「北へ帰った彼女、うちでスカウトできないかな?」

 

「えっ」と驚くいずも

 

「彼女、君の話は素直に聞いたのだろ、もし北の姫と和解できたらなら、

可能性がなくもない」

 

するといずもは

「司令、それは高い買い物になるかもしれませんよ、あの方はただでは転ばない方です」

 

「ああ 知っているよ、でもそれに見合う物があると思う」

そう言って 戦術情報を映し出している大型ディスプレイをみた

 

既に先程探知された不明音源はカ級と判定され、

エネミーブラボーと符号され、攻撃対象として識別されていた。いずも08号機が該当海域で探査を実施していた。

自衛隊士官が、

「こんごうCICより通達、いずも08に12式にて攻撃指令!」と叫んだ

 

攻撃ポイントへ向う いずも08

大型ディスプレイには、急速にカ級へ接近するいずも艦載機が表示された。

 

「いずも08 12式攻撃始めました」と報告する士官

画面には いずも08からのライブ映像が映し出された。

夜間 投下される12式。投下と同時に落下傘が開き、静かに海面に着水した。

「12式自立走行を確認、目標エネミーブラボーを認識」

 

暫し じっと画面を見る泊地のメンバー

突然、大型ディスプレイの中のカ級の表示が点滅した。

「12式、エネミーブラボーへ命中確認、戦果評価中」と報告する士官

 

静まりかえる指揮所

「いずも08より、浮遊物多数発見、撃沈と判定、周囲 その他脅威目標なし」

 

「おお!! やった!!」と声がでる泊地のメンバー

自衛隊メンバーは それとは対照的に画面をじっとみていた。

 

きりしまの横に座る秋月は

「きりしまさん、嬉しくないですか? こんごうさん達 カ級を撃沈してますよ」

 

きりしまは 自身のメガネを外し、ポケットからメガネ拭きを出し、ゆっくりとレンズを磨きながら、

「こんごう達が無事なのは、正直嬉しいわ、でもカ級を撃沈した事は 正直なんとも

思わない、私達の装備を持ってすれば、これ位は当たり前よ」

 

「そっ そうなんですか?」

 

「ええ まだ条件の悪い悪天候の場合でも 活動できるように色々と装備の研究はされているわ」そう言いながら メガネを掛け、

「でも、撃沈された艦にも 兵員妖精はいたわ、確かに悪霊に使役されているとはいえ、

彼らが、高天原で新しき主に恵まれる事を祈るばかりだわ」

 

「きりしまさん、優しいですね」と秋月が言うと、

 

「確かに。でも私以上に優しいこんごうが、あれだけ念を放ちながら攻撃している。

彼女の心情を考えるとね、素直に喜べないの」

 

「きりしまさん?」

 

「いい これは覚えておいて。“相手を傷つけるという事は 自分も傷つける”という事なの。これを乗り越えなければ、私達は単なる殺戮集団になるわ」

 

秋月は 静かに

「はい」とだけ答えた

 

 

こんごうは 2隻目を12式で仕留めた

船団まで距離があり、このままいけば 複数の船が魚雷の射線に入る可能性があったのだ、

大小20隻近い船団である、魚雷攻撃を受ければ 回避はままならない

 

「CIC 航空管制士官、いずも隊の状況は?」とこんごうが聞くと、

 

「はい 艦長 08号機、只今帰投コースに入りました。

スタンバイは 07です、こんごう隊 後部甲板上にて 武装待機中」

 

「ありがとう、そのまま継続して」そう言いながら 画面を切り替え、

鳳翔を呼び出した。

 

「鳳翔さん、こんごうです、状況いかがですか?」

 

画面に鳳翔が出てきた

「はい こんごうさん、此方は大丈夫です、夜間の離発着も問題ありません」といい

別の画面に 鳳翔の甲板の状況が映しだされた。

 

そこには 夜間照明の中 鳳翔へ向け着艦しようとするいずも08が映しだされた。

甲板上には 色とりどりの作業用ジャケットを着た整備妖精が待機している。

よく見ると 鳳翔の妖精達だ、

実はロクマルを運用するにあたり、いずもから各要員が分乗していたが、いずも要員から、

誰がどんな業務を担当しているのか分かりづらいと指摘され、鳳翔乗員も担当毎に色の違うジャケットを着るようになった。

これにより、艦内業務は以前に比べシステム化されている、確実に進化しているのだ。

 

「鳳翔さん、夜明けまでが勝負です、少し長丁場になります、各員の休養に配慮して下さい」

すると 鳳翔は

「そこは 抜かりありませんよ」といい 後方の副長達を指示した

そこにはチャートデスクの上に積まれたおにぎり。それを美味しそうに食べる副長以下の艦橋要員たちが映しだされた。たぶん鳳翔さんが艦内全員分を作ったにちがいない。

 

こんごうは

“いいな、私も食べたい”と思いつつ

「夜も更けて来ました、甲板からの転落事故等に留意してください、では」といい通信を切った

 

 

油槽船団を預かる元中佐は遠方で微かに光った閃光を見た

直後 旗艦三笠より、“2隻目のカ級撃沈確認、対潜配置継続せよ”と発光信号を受けた

 

「航海長、どの位距離があると思う?」と横で見張りを続ける航海長へ

「ざっと8000という所ではないですか?」

 

「雷撃距離に入る前に仕留めたという事か」

 

「まあそんな感じですね。しかしあの“こんごう”という艦、素晴らしい指揮能力ですね。夜間の対潜指揮、複数の航空機管制能力、多分先程の三笠様や戦艦金剛さん、陽炎の砲撃支援も彼女でしょう」

そう言うと 航海長は

「未来から来た艦という噂はあながち嘘でもなさそうですね」

 

「おっ そんな噂があるのか?」

 

「ええ、上陸した船員が泊地要員から聞いたそうです、それに気になる話も」

 

「気になる話?」

 

「はい、中佐。あの“こんごう”と言う艦娘、前回 陽炎と長波を引き連れて、ル級を含む艦隊をせん滅したそうですが、その時に“光の障壁”を使ったそうです」

 

「ほっ! 本当か!」と慌てる元中佐

 

「はい、直接 長波の乗員から確認しました。光の障壁を使い、ル級達の砲弾をはじき返したそうです。そのお蔭で陽炎、長波は敵艦隊に打撃を加える事に成功したと」

航海長は続けて、

「彼女達は自衛隊というそうですね、彼女達が 古の言い伝えにある“七人の海神の巫女”に違いないと 泊地内部では噂というか 既に肯定的意見になりつつあるそうです」

 

「航海長 今の話は」と元中佐が言うと

航海長は

「はい。うちの情報収集員を含め、全艦に緘口令を敷いています。親父さんへの報告書は情報収集役がまとめていますが、“空想科学小説を書いている気分です”と言っていました」

 

「済まんが 上の方からも“彼女達は鍵だ”と念押しされている、頼むぞ」

 

「はい」と静かに航海長は答えた

 

元中佐を含むこの油槽船団、所属は大手の海運会社の所属であるが、

日本だけではなく、関係各国の主要な港を回って資源調達をしている関係上、連合艦隊司令部直属の情報収集部隊でもある。隊長は勿論元中佐で、直属の上司は宇垣参謀長。

しかし主は、横須賀に住まうあの方だ。

そちなみに青葉は この部隊の艦娘情報収集を担当している。

 

航海長は静かに

「出港時に護衛艦こんごうの見張り所に立つ艦娘こんごうさんを見ましたが、本当に

戦艦金剛さんにそっくりですね。あの特徴的な髪や顔だちなど」

 

すると元中佐は

「ああ、おれも司令部で彼女を見たときは驚いた、金剛にお姉さんがいたのか!と本気でおもったぞ」

すると航海長は少しいたずらぽく

「どちらが お好みですか?」と聞いてみたが

 

「戦艦金剛だな」と元中佐が即答した

 

「聞いた 自分がばかでしたな」と笑ったが

“でも 遠方からでもはっきりと分かる、鋭い視線、冷静沈着な指揮、鳳翔さん、陽炎、長波、そして三笠様や金剛さんが信頼をおく器量、それは多分 貴方の遺伝かもしれませんな、そうなるとやはり 早急に計画を進めないと彼女が生まれない事に、機関長と相談するか”などとあらぬ事を考えていた。

航海長は 闇夜の中うっすらと光るこんごうの航海灯をみた

 

時計の針は深夜12時を回り、真夜中となった。

戦艦三笠の艦橋では 三笠が艦長席に座り、艦長席に設置された戦術情報が表示されたモニターを眺めていた。

 

「4時間前に仕掛けてきたので そろそろだと思うのだが」と言うと、

 

「待つのは苦手か」と後方の席に座る山本に問われた

 

「ああ じっとしているのは性に合わん」といい、コミュニケーションシステムを起動し、

護衛艦こんごうを呼び出した

 

映しだされた画面には、艦長席に座り右手で頬杖をつき、じっと目を閉じてうたた寝をしているこんごうの姿があった。

「おっ、寝ておる。まあこの姿も様になっておるの」と言いながらふと左手の腕輪をみたが、そこだけは青白く光輝いていた。

「艦霊が反応しておる?」と言うと、こんごうの横に立つ副長が小さな声で

「三笠様、どうなされました」と聞いてきた。

 

「いや、中々動きが無いのでな。こんごう殿の意見を聞いてみようかと思ったが、寝ておるとは。敵中でも寝る事ができるとは見上げた事じゃの。」

 

「はい、今艦長は仮眠しておりますが、意識下では艦魂と同調しておりますので、艦の全てのシステムを意識下へ置くことができます。まあ体は寝ていても意識はある状態です」

 

「ほう、そのような事ができるのか?」

 

「はい。自衛艦娘多しといえど、これができるのはこんごう艦長だけです。彼方の次元の陽炎教官や皐月教官に精神面を鍛えられましたから、2、3日徹夜をしても支障ありません」

 

「以前も聞いたが、陽炎達は相当であったのじゃな」

 

副長は 静かに、

「はい、三笠様。こんごう艦長は、自分が超えるべき壁と言っておりました」

 

三笠は 自席の別モニターに映る鳳翔の右を固める陽炎をみて、

「儂も 彼方の三笠に負けぬよう、彼女達を鍛えよという事か」

 

副長は

「はい」とだけ返事をした。直後、急にこんごうの眼が開き、姿勢を正した。

 

「ソナー アクティブピン! 左前方に感じる!」

こんごうは意識を戻すと即座に各種モニターを見回したが、なぜかコミニュケーションシステムが起動し、三笠が映っていた。しばし状況を考察して、自分のうたた寝顔を三笠と後方に座る山本に見られた事を悟った。

 

「みっ 三笠様、山本長官、失礼しました」と慌てたが

 

「のうイソロク、中々良いものがみれたの」というと

 

山本は

「麗しき美女は 寝姿も様になっていたぞ」

 

「はあ」とこんごうは諦めた。これで三笠様の前で恥をかくのも3回目だ。

 

艦内通信を通じて、

「艦橋 CIC ソナーコンタクト 方位060 距離8000 微速にてこちらに近づいています!」

 

 

「ソナー 感は 1つ?」とこんごうが聞いた

 

「はい 今の所1つです」

 

「航空士官、アンノウンチャーリーの後方へロクマルを飛ばして! もう1匹感じたわ」

 

「CIC 航空士官了解しました!」と返事が返ってきた

 

「三笠様、そろそろ次の戦いの時間です」とこんごうは 視線を厳しくした

 

三笠は

「なら 参ろうか」とこれに答えた

 

 

パラオ泊地 司令部簡易指揮所

深夜を回ったが、指揮所の灯りは消える事はなかった。

 

前方の大型ディスプレイには、トラックへ向け航行するヒ12油槽船団およびその護衛艦隊、そして鳳翔以下のパラオ対潜艦隊が映し出されていた。

 

先程までの喧騒が嘘のように今 司令部は静まり返っていた。

それもそのはずで、睦月や皐月は 油槽船団に動きがないのと サンドイッチとおにぎりでお腹一杯となり リクライニングシートで睡眠を貪っていた、

瑞鳳はうつらうつらとしており、

秋月は 目は開いているが 視点が定まってない

それに引き換え 自衛隊メンバーは じっと画面を見ていた

時折 会話をしながら緊張を保っているのが分かる。

 

泊地提督は

“やはり彼女達の方が数段上だな、精神力、体力ともに”と思った

見かねた由良が、目配せで提督を見ると 少しうなずいた

 

由良は

「瑞鳳ちゃん、睦月ちゃん達と寮へ引き上げていいわよ」

 

「えっ」と驚く瑞鳳

 

「多分 このまま夜明けまで動きがないかもしれないし、明日の業務もあるから、

ここは 私と提督がいれば大丈夫よ」

 

すると瑞鳳は

「済みません ご厚意に甘えます」といい 席を立ち 睦月へ

「睦月 皐月 秋月 寮へ帰るわよ」と言うと 睦月は寝ぼけて

「睦月 お腹一杯です!」と返事をした

それを聞いた皐月が

「ほんと 世話の焼ける姉だ」と言いながら 睦月を抱いて歩きだした

しかし、実は進水日は自分の方が早かったりする。

 

その直後、きりしまのタブレットが鳴った。それと同時に自衛隊戦術士官の動きが慌ただしくなった。

 

きりしまはタブレットではなく、左耳に付けた網膜投影型のヘッドセットを操作した。

「私よ、何?」と聞くきりしま、そして即座に

 

「司令、来ました! CIC こちらへ情報回して!」と叫んだ

 

正面の大型ディスプレイの画面が切り替わり、防空当直艦 きりしまの対空警戒情報が表示された。そこには1つの不明機が表示されていた。

 

戦術士官が、きりしまCICから転送された情報を読み解く。

「方位130、高度8000 速度350km 距離500km、降下中。

進路解析によると、パラオの日本海軍泊地を目指しています!」

 

きりしまが

「数は?」と聞くと

 

「反応数 1です、この距離だと小型機がいると 識別厳しいです」

 

由良司令は

「いずも HOTだ! 国籍確認」

いずもは即座にヘッドセットで自艦の飛行隊司令妖精を呼び出し、HOTを指示した。

 

由良は泊地提督をみて

「よろしいでしょうか」と聞くと 

 

「ああ 頼むよ」とだけ答えた

 

「泊地内の全艦娘は各艦で抜錨準備にて待機。不明機飛来に備えよ!」と叫んだ。

 

その声を聴いた瞬間 睦月も目を覚まし

 

「はい 旗艦!」と一斉に返事をして皆自艦へ駆け出した

 

「じゃ 私達もいきましょう」とひえいが言うと、皆 自艦へ向った

 

簡易指揮所には 泊地提督と自衛司令といずもだけが残り 静かな時間が訪れた

由良司令はじっと席に着き、腕を組みながら、そっと

「頼むぞ こんごう」と呟いた

 

 

ヒ12油槽船団

こんごう達は 今夜3度目となるカ級の襲撃を受けていた。

こんごうが察知したカ級の気配は その後のアクティブソナーとロクマルにより、

確定されていた。

戦艦三笠の戦闘指揮所でも 同時刻 存在を確認、エネミーチャーリーと符号されていた。しかし、後方に感じた気配はまだ探知されていない。

 

船団前方へ進出したいずも08では

「本当にいるのでしょうか?」とセンサーマンが 機長である戦術士官へ問いかけていた。

 

「いる」とだけ答える戦術士官

しかし指定海域へ来てかれこれ10分以上 MADを展開しているが、全く反応がない。

 

「こんごう艦長の勘違いでは?」と再び聞いたが

 

「こんごう艦長が、この手の勘で外した事はない。

こんごう艦長の勘、ひえい艦長の狙い、はるな艦長の耳、そしてきりしま艦長の計算は

確実だ」

そう言いながら、MAD探知画面を凝視していたが、

「うん? こういう事か!」と即座に管制卓を操作した。

 

そして、 

「こんごうCIC いずも08、探査海域の地磁気に乱れがある、MADでは効果が薄い」

すると

「08了解、ソノブイへ切り替える、AHCDSへデータを転送する」

と言うと即座に 検索エリアのデータが転送されてきた

後部のFEを見ると既にMADケーブルの回収作業を開始していた。

「FE 次ソノブイ投下だ!」と言うと、

 

「MAD回収でき次第、投下できます!」と答えた

 

「操縦士 データ来てるな」とコクピットへ声を掛けると

 

「はい、機長 進路情報表示されました」と返事がきた。

機体は緩やかに旋回し、新しい探知進路を取った。その直下の海中では

 

深海棲艦 ミッドウェーの群体所属カ級戦隊 指揮艦

カ級戦隊指揮官は焦っていた。

この2週間ほどの間に、パラオ近海で多くの潜水艦が消息を絶っていた。

今自分の戦隊で確認が取れたのは8時間前 前方海域にいた2隻と、

この艦の前方3000ほど前に居る艦だけだ。既に半数近くが不明だ。

撃沈されたとは考えにくい。偵察情報を提供していた北の群体のカ級は、

“契約期間が切れた”とぬかして帰ってしまった。

 

そして先程、 2度爆発音を確認した。

どうやら前方の2隻が攻撃をしたようで、今頃船団では損傷艦が出て行き足が遅くなっているはずだ。

 

そしてこの本隊2艦で仕上げだ。まず前方艦が浮上して、夜間レーダー砲撃を加える。

更なる損傷艦が出た所で、後方から私が雷撃して仕上げる。

これで今まで数多くの船団を沈めてきた。今回も軽巡と駆逐艦が数隻いるが、

奴らはまともなレーダーやソナーを持たない。夜は我々の味方だ。

 

発令所で 時計を見ながら、そろそろ時間だと思った

前方艦がゆっくりと浮上を開始し、砲撃。敵の船団前方を塞ぐ。その後水上航行で高速離脱。そして、こちらの出番だ!

「センボウキョウシンドマデ フジョウ、レーダーソッキョカイシ」と命じた

 

潜望鏡をセットし、ぐるりと一周回って監視した。進行方向左手前方にうすぼんやりと灯りが見える。

直ぐに方位を割り出した。同じ頃レーダーも距離と方位を知らせてきた。

「ゼンポウカンガ ホウゲキシタラ、コチラモライゲキデ シズメテヤル」と目を輝かせた

 

いずも08の機上では慌ただしく動きがあった。

ソノブイを投下した直後にパッシブソナーに感があり、その後不明音源は潜望鏡深度まで浮上、大胆にも潜望鏡と艦上レーダーで測距を開始したようだ。機上のESMが水上レーダー波を捉えた。

機上の赤外線探知装置と逆合成開口レーダーが海面に突き出た潜望鏡を探知した。

「見つけた、逃がさん!」といい、戦術士官は不明音源をロックした。

こんごうからアンノウンコードからエネミーへ変更通知が届いた。攻撃対象だ。

 

「さあ こんごう艦長 どうする?」と管制画面を見た。

そこには 2つのエネミーコードが表示されていた。

 

こんごうは 三笠へ回線を開き

「三笠様、2隻で同時に波状攻撃を仕掛けてくるつもりです」と具申した、

 

「まず 先手で前方を叩こうかの、いずも殿のロクマルはまだ海域にいるのか?」

 

「はい 三笠様 07号機が監視中です」

 

すると三笠は、

「陽炎、長波、いずも殿の艦載機の誘導に従い、敵3番艦を爆雷攻撃、あぶりだせ、

撃沈できればよし、損傷浮上すれば 戦艦金剛と儂の砲撃で仕留める!」

 

コミニュケーションシステムの画面に陽炎、長波が現れた。

陽炎が

「はい三笠様。陽炎、長波、第3攻撃目標へ向い 爆雷攻撃を実施します。

長波! ついてきなさい!」と言ったが、少し間を置き、

「やっぱり長波、あなたが爆雷投下指揮をとりなさい」と言いなおした。

 

「ええっ 長波ですか!」と驚く

「夜間の爆雷攻撃訓練なんて受けてませんよ 陽炎教官!」

 

「私もめったにない事だもんね、だから貴方にやらせるの。いい、ここでしっかり

決めて、白雪達に夕雲型の実力を見せてあげなさい」

 

すると長波は、姿勢を正し、

「はい! 長波様 頑張ります」

陽炎は 視線を三笠へ移したが、三笠はそっと頷いただけであった

 

長波は元気よく、

「パラオ駆逐艦隊 カ級迎撃へ向います! 陽炎教官と合流後 船団離脱、

いずも艦載機誘導に従い、攻撃予定海域へ進出!!」と号令した

 

それを聞いた 陽炎は機関出力を上げ、鳳翔を追い抜き、その舳先を横切って

長波へ合流した。

本来なら減速して殿のこんごうを回避して長波へ合流するが、

こんごうは今、対潜配置でソナーを曳航している。

不用意に近づけばスクリューへ曳航ソナーを巻き込む恐れがある。

ならばここは、気心の知れた鳳翔さんの舳先を回る方が安全だ。

 

鳳翔も咄嗟にその動きを察知し、進路を維持。それを待って一気に陽炎が追い抜いた。

それを見たこんごうは

“流石 陽炎教官”と思い、

 

長波は

「あんなに素早い操艦 まだ長波には無理!」と言うと、

長波副長が

「確かに 今は無理です、でも次はやって見せます、

出来ない事は教練で克服してみせます」

 

「副長、今からの夜間爆雷攻撃も 初めての経験、気合いれていくよ!」と言うと

 

その声に応じて 艦内から

「おう! 艦長!」と返事がきた

 

士気の上がる長波を艦橋から見ていたこんごうは、ふと長波の船体が一瞬、

青白く光ったように見えた。

一瞬 目の錯覚かと思ったが、確かに一瞬だけどイデア・クレストが船体に浮かび上がった。

艦魂が高レベルで反応している状態の時に浮かびあがる文様、高位の艦娘が持つ物だ

「駆逐艦クラスであれを持てるとは! やはり彼女は化けるのかな」などと考えたが今は

前面のカ級2隻へ意識を集中した。

 

こんごうは

“エネミーチャーリーは 長波さん達があぶりしてくれるからいいけど、

問題はその後方のデルタね、今の所 チャーリーの影に隠れるような進路を

取っているけど 多分、チャーリーが浮上 砲戦を挑んだ瞬間に、

混乱に乗じて雷撃するつもりね。

まだ 軸線が定まっていないから、雷撃するまで時間がありそうだけど

どう動く?“

 

こんごうは 暫し考え、

「CIC 私よ」

 

「はい 砲雷長です」

 

「エネミーチャーリーの攻撃開始と 同時にデルタに対し、アスロック攻撃を

行う」

 

「はい 艦長、アスロック ヒト、諸元入力開始します」

 

「いい 雷撃される前に撃沈するのよ」

 

「はい」と砲雷長が返答したのと同時に CICでは いずも08からの戦術データが

アスロックへ入力されていた。

入力情報はリンクシステムを通じて 三笠、戦艦金剛へ通知された。

また 陽炎、長波のデータリンクの表示画面にも 攻撃準備中の表示がでている

 

 

急速に敵3番艦へ距離を詰める 長波と陽炎。

いずも07の誘導に従い単縦陣を複縦陣へ組み換え、カ級を囲みこむ様に進む。

 

長波は 艦橋でじっと漆黒の海を睨んでいた、

あの海の下には 非力で無防備な油槽船団を狙う奴がいる!

ふと、出港時に手を振っていた、船団の人達を思い出した。

思わず 手に力が入る。

「投下開始まで 3000、信管設定確認せよ!」といずも艦載機から指示がでた!

 

副長が後方の爆雷妖精へ

「間もなく投下、信管設定確認!」と声を張り上げた、

 

後部甲板の爆雷妖精兵員が、

「信管、磁気信管設定 ヨシ! 安全装置解除!」と返答してきた。

 

長波は、

「敵潜水艦 浮上に備え、砲戦準備!」と叫んだ

 

副長が、

「陽炎教官ともに準備できています」と返答してきた

よく見ると 陽炎教官の艦の機銃座にも兵員妖精が付き 準備している

 

じっとその時を待った、そして

「爆雷投下 開始!」と艦載機から指示が出た

 

「投下! 投下!」と副長が叫ぶ

後部甲板から 爆雷妖精が

「投下 始め!」と号令を掛け レバーを曳いた

 

ゴロン、ゴロンと漆黒の海へ落とされる磁気信管爆雷

 

長波は、

「機関 強速! 海域を急速離脱!」と号令した、加速し 海域を離れる長波、それに合わせて海域を離れる陽炎。

 

長波は 続けて

「安全海域へ侵入後、面舵! 単縦陣へ移行、右舷砲戦準備!」と叫んだ

 

発光信号で陽炎へ変針指示を送る。即座に反応する陽炎。一斉回頭し、素早く長波の航海灯を目標に後方へ着くと、主砲を爆雷投下地点へ向けた。

 

直後、深夜の海面に数本の巨大な水柱が上がった

いずも07から

「爆雷、起爆確認! 戦果判定中!」と報告してきた

低高度へ舞い降りるロクマル、サーチライトを照らし海面を検索する。

 

「浮遊物多数 確認 撃沈と判定する」 ロクマルの戦術士官が通信で知らせてきた。

 

長波は 一言

「よし!」といい、右手を握った。しかし以前の様に騒ぐ事もない。まだ脅威は払拭できていない、もう一隻いる。

 

ふと船団の後方で火の玉が闇夜に打ち上がった。

戦術ディスプレイを慌てて見ると、敵4番艦へ攻撃中の表示が出ていた。

「こんごうさんの 噴進魚雷だ!」

 

一旦上昇し その後 長波達の頭上を飛び越え 闇夜に消えていった。

長波はふと あの夜の事を想い出していた。

あの時は 何も出来ない自分が悔しくて仕方がなかった、でも今は少し違う。

「長波は あと何度こんな夜を過ごせば 一人前になるのかな」と呟いた

気を取り直して

「副長、海面捜索! 生存者がいないか確認して」

ライトを付け 海面を照らすがそこには漆黒の海だけが映っていた

 

 

こんごう艦橋

「艦橋 CIC 長波隊、チャーリーへの攻撃開始しました」

 

するとこんごうは落ち着き

「エネミーデルタへ VLA攻撃始め!」

 

「CIC了解、VLA攻撃始めます」と砲雷長が返答した。

CICでは 各員が アスロック諸元入力、射線確認などのVLA発射シークエンスを

素早くこなした。

 

艦内に VLA発射警報のベルが鳴り響いた、その直後 艦橋前方が 一瞬光ったかと思うと、闇夜を照らす火の玉が一直線に上昇していった。

 

「アスロック 正常飛行を確認、着水まで 20秒!」と攻撃士官が報告する

別の士官が

「エネミーチャーリーの撃沈を確認、現在海域で生存者捜索中」と報告する

 

こんごうは それを聞いても表情一つ変えなかった

“多分 生存者は皆無だわ、あの深度で起爆すれば水圧で船内は粉々になる”

一瞬 心が痛む しかしここで手を抜けば被害はこちらへ来る。

心を鬼にして そう金剛力士として

 

「アスロック 着水確認、自立走行確認、目標弾着まで 10秒!」

 

しかし、直後 CICより予想外の報告が入った

「高速推進音 探知! 数6 雷撃です!!!」」とソナー妖精が叫んだ

 

こんごうは 身を乗り出し、

「間に合わなかった! 航海長! 警告短音! 各艦へ雷跡データ送信!」

続けて

「CIC 雷跡データ回して!」

網膜投影ディスプレイに雷跡データが表示された

艦隊全域に響く 警告汽笛!

 

「まずい、初雪さん、深雪さんが直撃コースだわ!」こんごうは焦った

 

CICより 

「エネミーデルタ アスロック命中確認、いずも08にて戦果確認中!」

本来なら喜ぶ所だが あと数分で魚雷が船団を襲う、猶予がない

 

「副長,デルタの対応指揮お願い! 私は魚雷を防ぎます!」

 

「了解しました 艦長」といい副長が 艦内電話をとり、CICへ 攻撃したデルタ目標に対する指示を行った

 

こんごうは 艦隊コミニュケーションシステムに映る三笠へ

「三笠様、魚雷は私が防ぎます! 初雪さん達へ警報を!」

 

「こんごう殿 なにをする気じゃ!!」と三笠は聞いたが

 

こんごうは、

「守ってみせます、それが使命です!!!」とだけ言いい

「機関 最大戦速! 対魚雷戦用意!」と叫んだ

艦内に一斉に 対魚雷戦闘用意の警報ベルと艦内放送が鳴り響いた。

急速に加速するこんごうの船体

鳳翔の左舷を抜け 先行する油槽船団の左を守る 初雪、深雪の左側へ迫った

 

こんごうは自席に座り、そっと呼吸を整えた。

ふと金剛姉さまの「リラックスデス」という声を思い出し、すこし微笑み、

そして一気に霊力を放出し、静かにこう呟いた。

 

「エンゲージ」

 

 

その瞬間、こんごうのブレスレットが青白く光り、彼女の体を幾重にもリング状の文様が包んだ。

副長達は息を呑んだ。いままで幾度も艦霊と高位接続するために精神感応金属を使っていたが、この様な事象は初めてだ。

船体も青白く光り輝き、はっきりとイデア・クレストが浮かび上がる。

白き輝ける艦、いま正に こんごうの艦体はその姿を変貌させた。

 

「操舵手 舵もらうわよ」とこんごうが言うと、

 

即座に 操舵手妖精は、

「ユーハブ!」と答え 操舵輪を離した。

 

こんごうは、まるで自分で海面を走る様なイメージを描き、

初雪、深雪の左舷へまわりこみ、そして

「フィールド展開!」と唸った

 

こんごうの艦体が放つ 青白い光に映しだされた初雪、深雪 そしてヒ12油槽船団

その船団の左舷に ハニカム状のフィールドが展開されていく。

 

フィールドは一気に水面下にも形成され、まるで魚雷防御ネットの様に 初雪達を囲った

 

副長が即座に

「総員 衝撃に備え!」と艦内放送で叫んだ!

 

「雷撃 命中まであと10秒!」 砲雷長の声が艦内に響く!

見張り員が 雷撃に備え身を屈めた瞬間!

こんごうの左舷 フィールドに沿うような形で 一斉に6本の水柱が上がった。

凄まじい衝撃がこんごうの船体を襲う、一瞬 電源が落ちて非常電源に切り替わった。

 

「うっ」と苦痛の表情を浮かべるこんごう

クラインフィールドは艦霊力の集合体だ。魚雷を6本も受け止めれば、

その反動はこんごう自身へ跳ね返ってくる。

水柱がこんごうの艦体を覆い尽くした。

 

しばしの沈黙のあと、その水柱の中から青白く光るこんごうの艦体が現れた。

 

「こんごう殿!!」

「こんごうちゃん!!」

「こんごうさん!!」

三笠や金剛、鳳翔達が慌てて こんごうを呼んだ。

 

こんごうは意識を保ち、

「ダメコン 損害報告! 副長 各部署点呼!」

 

「機関部 ダメコン損害確認中!」と返事が来た

 

艦長席の船体データの表示画面をみるが 今の所 損害はない。

機関長が

「機関科 ダメコン損害報告なし、船体異常なし!」と機関長が報告を上げてきた

横に立つ副長も

「各科 異常なしです、数人衝撃でこけた程度ですね」

 

「CIC デルタの戦果確認は?」とこんごうが聞くと、

 

「はい 報告遅れました、浮遊物多数、撃沈判定です。

生存者捜索中ですが、現在の所 報告ありません」と砲雷長が返答してきた。

 

「そう」と声を落とした。

 

「ソナー 再度全周警戒、 夜明けまでもう少しよ」といい

「操舵手 舵交代」と言うと

 

「はい、アイハブコントロール」といい 操舵手妖精が操舵輪を握った

 

こんごうは静かに気持ちを落ち着かせ、

「フィールド解除」といい、霊力を静かに抑えた。

白く輝いていた船体が静かに光を抑え、そしていつもの船体へ戻っていった。

 

「航海長 お願い、鳳翔さんの後ろにつけて」と言うと

 

「はい 艦長 操艦あずかります」といい 航海長が指揮し こんごうの艦体は 減速して、ゆっくりと鳳翔の後方へ回った

 

コミュニケーションシステムの画面には 三笠以下パラオ艦隊のメンバーが映しだされた。

 

「こんごう殿 無事か?」と三笠が聞くと

 

「はい 問題ありません」と答えたが、その額には大粒の汗が光っていた

 

三笠は

“よくぞ堪えた、あれだけの霊力を一気に放出したのじゃ、並みの艦娘なら今頃気を失っておる、霊力に制約があるとはいえあれだけの力 本当の彼女の姿とは一体!”

 

横から 金剛が

「こんごうちゃん、無理はNOです!」と言ったが こんごうは

 

「金剛お姉さま、大丈夫ですよ、私はとある方に鍛えられてますから」といい 別画面のとある方を見たが、何か目が厳しい、あの目は後でお小言をいう時の眼だ!

 

鳳翔が、

「こんごうさん、お体は大丈夫ですか?」と優しく声を掛けてくれた

 

「はい 問題ありません」

 

すると鳳翔は

「では パラオ艦隊の皆さん 夜明けまでもう少しです、気を引きしめていきましょう」

 

「はい!」と皆で返事をした

長波、陽炎が鳳翔の左右へ着き直し、艦隊は再度 対潜警戒配置へ戻った

結局 撃沈したカ級4隻の乗員は 誰一人救助されていない

こんごうは じっと前方を見ながら、

“これが 戦い この悲しみを乗り越えた先に、いったい何があるの”と静かに考えていた。

 

元中佐達は油槽船の船橋横の見張り所で、今の目前での出来事をどう理解したらよいか、

悩んでいた。

カ級4隻の波状攻撃をこちらの損害無しで、襲ったカ級は全て撃破。

一方的に叩きのめした!

 

最初のカ級を 特殊対潜航空機と三笠、金剛、陽炎の砲撃で撃沈した時は、その統制能力に驚いた。

その直後、第2攻撃目標を特殊対潜航空機の単体で攻撃、撃沈と報告が上がった時は

その技術格差に驚いた。

そして

第3目標を 長波、陽炎が夜間爆雷攻撃で撃沈と聞いた時は、

護衛艦こんごう以下の自衛隊の優れた探知能力と通常型の駆逐艦を的確に誘導し、効果的に敵潜水艦を攻撃できる組織的運用をみて驚いた。

 

そして 第4目標を攻撃した 護衛艦こんごうの使った兵器を見て

〝ロケット弾?“と思ったが、騒ぎを聞きつけた 情報収集船員が見張り所へ来て

「あれは 噴進魚雷ですね! 初めて見ました!」と興奮気味に話していた。

 

「噴進魚雷だと?」

 

「はい 正式にはアスロックというそうです、長波や金剛の乗員から色々仕入れましたが、

ロケット推進で 敵潜水艦の近くまで魚雷を飛ばし、自立走行で敵潜水艦を撃沈するそうです」

 

「ほんとうか?」

 

「はい、いま その証拠が」と情報収集員が言うと、遠方で爆発音がした。

音の方向を見るが 闇夜で何も見えない。

そう思った直後 後方の護衛艦こんごうが警告汽笛を鳴らしながら、

急速に加速し船団の左舷に進出してきた!

 

「何が起こっている!」と叫んだ

すると 三笠から発光信号で “左舷雷撃に備えよ!”と警告してきた!

 

「左舷 雷跡確認! いぞげ!」と航海長が叫ぶ、見張り員が一斉に海面を見るが

闇夜の中 何も見えない。

 

「確認できません!」と叫ぶ 見張員

 

その直後 急に回りが明るくなった 優しい光が左舷から降り注いだ

そこには 闇夜の中 白く艦体を光らせ、艦体に幾重にも文様を走らせた、

護衛艦 こんごうの姿があった。

 

「高位の艦娘が その意識を高めた時に船体に現れる“光の文様!”」

 

そして そのこんごうから 放たれた光は 空中で幾重にも折り重なり、蜂巣状の集合体となり、船団左舷に まるで“楯”のように展開した

 

元中佐は

「あれが “光の障壁”」と唸った

 

突然 その障壁に沿うように6本の大きな水柱が 轟音と共に立ち上がった!

 

「雷撃か!」

 

水柱のせいで 護衛艦こんごうの船体が一瞬見えなくなった

 

「こんごう!!」と叫び 身を乗り出した

 

その瞬間 脳裏に

黒いドレスをまとう金剛が、幼女を抱え 頭を撫でている姿が脳裏に浮かんだ

 

意識の中で

“今のは?”と思ったが 水柱が収まり、その中から 白き輝きを放ちながら海面に、浮かぶ 護衛艦こんごうの船体が見えた。

 

「雷撃を 光の障壁で防いだのか!!」

 

不意に

「中佐 あの時と同じです」と後方から声をかけられた

振り返ると 機関長が立っていた

 

「気配を感じました、あの時、日本海海戦で三笠様が “覚醒”した時と同じ気配を感じます」

 

「機関長!」

 

「彼女は 海神の神々に選ばれし者です、並みの艦娘ではありません」

 

「機関長、では 彼女が古の言い伝えにある“七人の海神の巫女”であると?」

 

「自分は そう考えます、光の障壁を自在に操る最高位の巫女であると」

 

元中佐は暫し考え、

「トラックへ着いたら 三笠様にお伺いしよう、二人で行けば何か話してくれるかもしれません」

 

「中佐」と機関長が言うと

 

「なにか?」と元中佐が答えたが、

 

機関長は 静かに、

「いえ、彼女の気配が貴方に よく似ています」

 

それには 中佐は無言だった

 

 

ヒ12油槽船団護衛艦隊 旗艦 阿武隈

阿武隈の艦橋、いや艦内は今 驚きの声で沸き返っていた

 

阿武隈副長は

「かっ 艦長! みっ、見ましたか! 光の巫女、ついに我が帝国海軍に 七人の海神の巫女が舞い降りたのです、パラオのあの“特務艦隊”は光の巫女達だったのです!」

 

副長すらこの調子である、艦内が騒然となるのも仕方ない

阿武隈は必死に

「皆さん、あたしの指示に従ってください。んぅぅ、従ってくださぁいぃ!」と艦内を把握するのに必死だったが 既に時遅しであった。

阿武隈艦内でこの状況である、雷撃の危機があった初雪、深雪は

「海神の使者に助けられた」と大騒ぎとなった

 

その喧騒を知ってか知らずか、戦艦三笠に座乗する山本は、

「三笠、どうする? こんごう君の秘密が 露呈したぞ」

 

「ふん、そんな物は気にしとらん、今は皆が無事にトラックへ着く事が最優先じゃ、

あとの事は あとで考えればいい」といい放った。

“あの程度で驚いていては、本当のこんごう殿の力 まだまだあんな物ではない気がする”

そう三笠は思っていた。

 

 

第3波のカ級襲撃から 数時間 ようやく水平線が明るくなり出した。

朝焼けに染まる 油槽船団とパラオ対潜部隊。

 

「う〜ん、何とか乗り切ったかしら」と艦長席で 背伸をするこんごう。

 

副長も

「そうですね、今の所 周囲に脅威目標もありません、天候も良好のようです、

あと少しでトラックからのお迎え部隊も合流できるとおもいます」

 

既にこんごうのCICでは トラックからの出迎えの駆逐艦3隻が此方へ向ってきているのが捕捉されていた。

 

「じゃ 私達は帰り支度をはじめましょう、羅針盤妖精 変針点を再度確認、航海長指揮お願い」

 

「はい 艦長」と航海長が返事をした

 

「艦橋 CIC トラックからの直掩機 機数12機確認しました、

接触まで1時間程度です、三笠CICが 無線誘導を開始しました」

 

こんごうは コミニュケーションシステムで三笠以下 金剛、パラオ艦隊を呼び出した

「三笠様、そろそろパラオ艦隊は 御いとましたいとおもいます」と言うと

 

三笠は

「うむ、ここまで来れば問題なかろう、出迎え部隊もすぐそこまできておる、

こんごう殿、鳳翔、陽炎、長波 今回の護衛任務 ご苦労であった、

帰路も気を抜くでないぞ」といい

 

山本が

「皆 ご苦労だった、これで当面パラオ、トラック間の航路の安全は確保された、

ルソン方面も今後 掃海が進めば、問題ないと考える」と続けて

「先程、パラオ司令部より、昨夜深夜 深海棲艦のB-17の夜間偵察を再度受けたと報告があった、偵察のみで被害は 留守部隊の睡眠妨害だけだったらしい」

 

すると 陽炎は

「まさか 奴ら、安眠妨害で士気が落ちた所を狙う気?」などと冗談でいったが、

 

「あながち間違いではないぞ、先日も話したが、これからパラオは激戦区になる、

皆 しっかり休養を取って 気力、体力を整えておいてもらいたい」

といって話を終わった

 

突然 戦艦金剛が

「三笠様、こんごうちゃん達をトラックへ招待しては だめですか?」と聞いて来た

 

「金剛!」と怒る三笠

 

「だって三笠様、トラックまで後少しデス、昨夜働きづめの彼女達に お茶の一つも出さずに 戻したとなると 比叡達に怒られます」

“要は こんごうを比叡達に会わせたいという事である”

 

「馬鹿者! 今こんごう殿をトラックへ連れて行ってみろ、あの騒ぎどころの話ではないぞ」といい 阿武隈を指さした

そこには 昨夜縦横無尽に活躍した、パラオ艦隊、特に護衛艦こんごうを見ようと

後部甲板に鈴なりに集まる兵員妖精達がいた、どの艦も大体様子は似た物で、

朝日を浴びて映しだされた、護衛艦こんごうの艦体を見て手を合わせて拝む者までいた。

 

「金剛お姉さま、ご厚意は嬉しいのですが、まだその時ではありません」とこんごうが言うと、三笠が

 

「金剛、意外に早くこんごう殿をトラックへ呼ぶ機会が来るかもしれん」

 

「マーシャル諸島開放作戦デスカ!」

 

「そうじゃ、金剛、この作戦には 自衛隊司令以下 パラオ艦隊の力なくては、

成功はおぼつかぬ」

そして三笠は

「その時は こんごう殿を儂の専属秘書艦として配属するぞ」と言い切った

 

「ええええ!!!」と驚く陽炎

長波が

「三笠様! それは職権濫用です! こんごうさんはパラオの守り神です!」

 

陽炎も

「こんごうさんは 我が第2水雷戦隊 神通さんを補佐して頂く 嚮導艦としてお迎えします、三笠様には渡せません!」と遂に こんごう争奪戦が勃発しかけた。

後方で 山本は 処置無しと諦めていたが、

 

「コホン、三笠様 お話の途中ですか、そろそろ変針点です」

と鳳翔が鋭く切り込んだ、

 

「うっ 済まぬ鳳翔、まあこの件はまたと言う事で、では皆 ご苦労であった」

 

「はい」とパラオ艦隊全員で敬礼して 回線が閉じた

 

 

パラオ艦隊の専用回線が開き、対潜部隊旗艦を務める鳳翔が、

「皆さん、パラオへ戻ります、艦隊 輪形陣から単縦陣へ移行します、

露払いを 長波ちゃん、次艦を陽炎ちゃんお願いね、殿はこんごうさん お願いします」

 

「はい 旗艦!」とこんごう含め一斉に返答した。

 

「では 艦隊再編を開始します」と鳳翔が言うと

 

長波は 自艦の艦橋で、

「機関 原速 黒10、三笠様の左舷へ並走する進路を!」と指示を出した、

加速し、戦艦三笠へ並走する長波

その動きを確認した 鳳翔とこんごうは阿吽の呼吸で、一旦減速した、

鳳翔達が減速して、進路を確保した陽炎が右舷から 長波の後方へ素早く付くのと同時に

鳳翔、こんごうが 陽炎の後方へ着き、単縦陣へ移行を終了した

 

その動きを見ていた三笠は

“うむ、鳳翔達の動きの良さは分かる、やはり長波の成長が著しい、これも彼女達のおかげじゃ”

 

単縦陣へ移行し、油槽船団に並走したパラオ艦隊旗艦鳳翔は 油槽船団各艦へ向け

“パラオ艦隊 護衛任務終了、貴油槽船団の航海の安全を願う”と発光信号を送った

 

油槽船団護衛艦隊 旗艦 阿武隈より、

“パラオ艦隊の護衛 感謝いたします 光の巫女とパラオ艦隊に海神の御加護を”と返信があった

 

各艦 兵員妖精などが甲板などに出て、皆思い思いに別れを惜しんでいた

こんごうも右舷見張り所へ出て、前方を航行する戦艦金剛を見ると、金剛が大きく手を振っているのが分かる。

此方も手を振って返答した。ふと金剛の後方を航行する油槽船団の先頭船の見張り所にいる男性に目が止まった。

 

こんごうは そっと誰にも聞こえない小さな声で

「金剛お姉さまを頼みます、中佐 いえ 御爺様」と呟き 姿勢を正し、敬礼した。

 

そのこんごうの姿に気が付いたのか、元中佐も答礼してきた。

何もない空間に二人の意思が通じた瞬間であった。

 

パラオ艦隊 露払い役の長波が

「パラオ艦隊 帰投進路を取ります、逐次回頭 180度、進路220へ」と号令した

 

長波から順次 回頭を開始 そして別れる 二つの艦隊

小さくなる艦影を見ながらこんごうは、

「お姉さま、次にお会いできる時を楽しみにしています」と呟いた

 

 

ヒ12油槽船団を 無事トラックの哨戒圏内に送り届けたこんごう達は 帰路へ着いた、

残り復路を半日かけてゆっくりと帰ればよい。

 

こんごうは 艦長席にゆったりと掛け直すと、

「副長、戦闘配置から 警戒配置へ移行して、休める者は順次休養を」

 

「はい、艦長」といい 士官へ

「警戒配置」と命じた、艦内放送で警戒配置への変更指示が流れる。

 

すると副長が、

「艦長も自室でお休みになられますか?」と聞いてきたが

 

「いいわ、すこしみっともないけど、ここで休むわ」といい リクライニングシートの

背もたれを少し倒した。

姿勢を少し横たえ、力を抜いた、ただ目だけは 各種モニターを追っている。

鳳翔の甲板を写すモニターでは 艦隊直掩機の零戦部隊が発艦しようとしていた。

その後方には 前衛哨戒任務へ向う99艦爆隊が待機していた。

どうやら 昨夜活躍したロクマル部隊を見て、

“次は自分たちの番だ”と士気も上がっているようである。

 

復路の航海進路は長波が指揮を執っている。かなり艦隊指揮にも慣れたようで、時より之字運動を組み込みながら、一路パラオを目指していた。

 

知らず知らずのうちにこんごうは睡魔に襲われ、そっと眠りについた。

 

 

遠くで 海鳥の鳴く声が聞こえる、

ふと気が付くと、そこは大きな艦の上だった。

 

「戦艦 金剛!」

 

その艦の艦橋部分を見上げていた

“えっ おかしい、さっきお姉さまとお別れしたばかりなのに”と思うと、後ろから

 

「私の艦がそんなに珍しいのか? こんごう」と声をかけられた

振り返ると 金色の髪に黒いドレスの長身の女性が立っていた

 

「コンゴウ!」

 

「こんな時、人類は“久しぶりだな”というそうだな、残念ながら我々には時間の概念がない、とはいえ 久しぶりだな“こんごう”」

 

「ここは 何処?」

 

「概念伝達の上位層だ、いつもガーデンテラスでは味気ないので、今回は私の艦を再現してみた、まあここでは話もできん」といい私を伴い艦首方向へ歩きだした

 

歩きながら、船体を見た。

確かに外形は 戦艦金剛だ、でも見たことのないハッチや兵装が所々にある

 

きょろきょろしながら 二人して第一砲塔の下まで来た、丁度砲身の影にいつものテーブルセットがおいてあった。

黙って椅子に掛けた。

手際よく コンゴウが紅茶を差し出した

 

「ありがとう」といい そっと口へ運んだ

香ばしい香りが全身を包んだ

 

海鳥の鳴き声が響く海原でお茶会するなど考えても見なかった。

 

ふと舷側に並ぶ、金剛にはないハッチが気になった。

「それが 気になるかこんごう」

 

「この艦は なに? 戦艦金剛のようで、そうでない 確かに気配は金剛よ、でも」

 

「中身はまるで違うか?」

 

「ええ」

 

「お前達の言う艦魂、我々の“ユニオンコア”は金剛型だ。ゆえに気配は同じだ。

しかし次元が違う。それが違えば兵器としての質も違ってくる。例えば」といい、

コンゴウは右手をかざした。

すると第2砲塔が船体から分離し、空中で変形したと思うと、まばゆい光を放ち

一筋の光を放った。

「れっ レーザー兵器!」と思わず叫んだ。

 

「その驚きを忘れるな こんごう」

 

「どういう意味?」

 

「そのままだ、今のお前は あの次元の子達には 驚きだ、もう“神”の領域といえる」

 

「神の領域」

 

「だが その力に呑まれてはならない、以前の私のように」

 

「以前の私?」

 

「我々の次元、我らユニオンコアを持つ艦は “霧の艦隊”と呼ばれていた。人類をはるかに凌駕する兵力、科学力をもち、“アドミラルコード”と呼ばれる“人類を海洋から排除せよ”というただ一つの命令を忠実に守る兵器だった。」

 

「人類を海洋から排除! それでは貴方たちは!」

 

「そう 人類の敵、お前達の次元の深海棲艦に相当するな」

 

身構えるこんごう

「まあ そう警戒するな」と手で制した

そして

「ある時、一人の娘と、5人の仲間が我々に挑んできた、その戦いの中で 私は悟ったのだよ“己の力に呑まれた自分を”」

 

「己の力に呑まれた自分!」

 

「こんごう、お前の力は 神へ通じる力、その力に呑まれていないか?」

 

答えが出ないこんごう、

「まだ “その時”まで時間はある、じっくり考える事だな」とコンゴウはいい

そして

「お前を呼ぶ 魂の声が聞こえるぞ」と言い 艦首方向を指さした

 

突如 誰かが叫んだ

 

「た す け て」

 

眩い光が降り注ぎ、コンゴウが

「その声に答えるのが お前の使命だ こんごう」

 

意識が 薄らいでいるなか 誰かが叫んでいた

「か... かん... かんちょう 艦長!」と声がする

 

はっと 意識を取り戻した

無意識に体を起こして回りを見渡した

 

「艦長! 大丈夫ですか!」と副長が慌てて声を掛けてきた。

うすぼんやりとする意識の中で 艦長席のモニターを確認する。

「4時間位 寝てた?」

 

「はい、暫くウトウトされていましたが 急に呻きだしたので、お声を掛けました、

大丈夫ですか!」

 

「ごめん 副長、夢の中で 戦艦金剛でお茶会する夢を見てた」

 

「はっ? お茶会ですか?」と呆れる副長

 

「現在位置は?」

 

「パラオの東 300㎞ およそ8時間で帰投できます」

こんごうは 自身でもモニターを確認した

 

「異常はないわよね」

 

すると 副長は

「いまの所は」

 

しかし 直後 その希望を打ち破る呼び出し音が鳴った。

 

 

「うん? なんだこれ?」

CICで FCS-3の対水上レーダー画面を 凝視していた士官が唸った

咄嗟に手を上げた。

即座に近付く 砲雷長。

 

「どうした?」

 

「砲雷長、このエコーなんですが、最初は岩礁かとおもったのですが、該当区域に岩礁がありません、微速ですが、動いているようです」

 

「動いている?」

 

「正確には “漂流”している大型目標というのが正解でしょうか?」

 

「動きに規則性はあるのか?」

 

「はい 少し前から監視していますが、東へ進んでいます、延長線上にはトラック泊地があります」

 

「セクターを上げて検索しろ!」と砲雷長は言うと インカムを操作して 艦橋を呼んだ

 

「艦橋 CIC 本艦より2時方向 距離250㎞ 不明大型漂流物らしきもの探知!」

 

返答は いつもの副長ではなく こんごう自身からあった

「砲雷長、私よ、不明漂流物の大きさは?」

 

「はい、大型の艦船のようです、戦艦よりやや小さい感じです、たぶん重巡クラスではと」

 

「一番近い航空機は?」

 

「はい、鳳翔艦爆隊3番機が 前衛哨戒中で一番近いです、次はいずも07です」

 

「航空士官! 鳳翔3番機と07をこの不明漂流物へぶつけて!」

 

「はい 艦長」と航空管制士官から返答があった

 

こんごうは 即座にコミニュケーションシステムを起動し、鳳翔を呼び出した

画面に現れた鳳翔

「鳳翔さん、情報は届いてますか?」

 

「はい こんごうさん、今確認しました」

 

「念のため 戦闘配置へ移行しましょう」とこんごうが言うと、

 

「そうですね、私の哨戒機といずもさんの機体で確認して 近づきましょう」

 

こんごうは 画面を切り替え、

「対水上戦闘よう~い! 皆起きて!」

 

艦内に水上戦闘警報の電子ベルの音が鳴り響いた、一斉に動き出すこんごうの艦内、水密ドアがしまり、各員が持ち場に付いた。

緊張高まるこんごうの艦内。

 

「さて、何がでるかしら?」とこんごうは、不明艦へ接近する2機の航空機を画面で見た。

 

陽炎は艦長室で少し仮眠をとっていた。突然、いつも持参しているタブレットの電子音がなった。寝ぼけながら画面を見ると 戦術情報が表示されて、旗艦鳳翔から

“戦闘配置指示、方位300 距離250km 大型不明艦1”と表示されていた。

「敵襲!」と一瞬叫んだが、まだ表示は敵味方識別不明のままだ。

 

慌てて起きて艦橋へ向おうとしたが、服が皺だらけだ。

鏡の前で服を整え直し、洗面所で顔を洗って、髪を整えて艦橋へ向う。

 

艦橋へ入り、ゆっくりと艦長席へ着くと、静かに、

「副長、状況報告」

 

「はい、陽炎艦長。大型不明艦をこんごうさんが探知しました。現在 鳳翔さんの索敵3番機、および対潜警戒中のいずもさんの7番機が確認へ向いました」

 

「接触までは?」

 

「はい 索敵機は 30分ほどです、本隊の接触まで6時間といった所でしょうか」

 

すると 陽炎は

「どちらにしても、パラオへの帰路上か、何かしら?」

 

ふと 艦長席のコミニュケーションシステムを見ると 長波が自艦の艦橋で指揮を執る姿が映っていたが...

 

「長 波」と陽炎が声を掛けた

 

「はっ はい 陽炎教官! 水上戦闘用意完了しました!」と返事をしたが、

 

「貴方、鏡見てみなさい。」と言われた。

 

「へっ」と思い 自分の姿を見る長波

スカートは皺だらけで、シャツのボタンは掛け違い、大き目のリボンは曲がり、特徴的な色違いの髪は ぼさぼさであった。

 

「長波、貴方は 駆逐艦 長波の艦長であり、そして200名の兵員妖精の長でもあるのよ、いつ如何なる時もそれを忘れてはだめよ」

 

そう言われ 長波は

「はい 教官」といい 指揮を副長へ任せ、一旦自室へ戻った

 

一礼する長波副長に、

「では お願いね」といい 画面を切り替える陽炎。

 

すると陽炎副長が、

「昔を思い出しますな」

 

「なっ なによ」と横眼で見ると

 

「いえ、別に」

 

「ふん、そんな昔の事 記憶にアリマセン」と 右手を振ってみせた。

 

昔、まだ陽炎が新人であった頃、夜間の単艦航行中に いきなり深海棲艦の駆逐艦と出合い頭の戦闘になった事があった。

慌てた陽炎は 寝間着姿のまま指揮をとり なんとか無事切り抜けたが、当時の指導教官であった神通から

「艦娘とはいえ、女の子です、その様なはしたない姿で艦橋に立つとは何事ですか!」と

戦果よりそっちを注意された。

 

まあ 昔の思い出である。

 

陽炎は 艦長席の簡易戦術ディスプレイを見ながら、

「さて、鬼が出るか蛇が出るか 楽しみだわ」

 

 

鳳翔九九艦爆隊 3番機は こんごうの航空士官の誘導のもと、不明艦艇へ向っていた。

機長の飛行士妖精は 操縦桿を握り じっと前方を凝視していた。

 

「機長、不明艦ってなんでしょうか?」と急に後席の機銃員が聞いてきた。

 

「分からん、分からんから不明艦だ」とぶっきらぼうに答えた。

 

「友軍艦ですかね」と期待する声で再度聞いて来たが、

 

「いや 期待せんほうがいい、友軍艦の情報はお艦やこんごうさんがちゃんと管理しているはずだ、それに該当しないとなると」

 

「やっぱり 深海棲艦ですかね」と諦めた声で返事が来た。

 

「しかし、単艦というのがおかしい、重巡級なら お伴がいるはずだ!」

 

「奴ら そういう所は律儀ですからね」

 

「ああ、昔の武家社会と言うべきだ、君主と家臣という関係だ」

 

「じゃ この単艦は 浪人ですか?」

 

「分からん、そろそろおしゃべりもこれ位にしよう、該当海域にはいるぞ」

 

「はい 機長」といい 後席員も双眼鏡を出して 水平線を監視し始めた、すると

「右、3時方向 船影あり!」

 

首を振って 目を凝らした

うっすらと艦影が見える。

 

「よし、接触するぞ。お艦に電文!」と言うと、後席の機銃員が電文をまとめ

鳳翔へ送信した。

直後に無線で

「こちら いずも7番機、鳳翔艦爆3番機へ こちらも船影を確認した 接近には注意されたし」

 

ふと後方をみると いつの間にか いずも7番機が後方へ付いていた。

 

「いずもの旦那!今確認接近する。攻撃されたらとんずらする」

 

「鳳翔3番 了解した、すまん此方は 対艦武装がない、後方で待機する」

 

バンクして 了解の意思を表した。

やや加速し 高度を取った。

不明艦の手前で一気に螺旋降下して雲間を抜けた。

眼下には 大型の不明艦だ

 

マストを一番最初に見た。

「あった! 日章旗だ! 友軍艦だ」

 

そして船体を見て、そこで息を呑んだ。

「なんだ、これは!!」

 

以前 この艦を見た時は 綺麗に磨きあげられ 輝いていた。

しかし 今眼下にある艦は!!

 

おびただしい砲撃を受けたのであろう、数え切れないほど損傷している、

煙突の識別帯は煤で見えなくなって、前方の20.3cm砲は全て破壊され、

後方も砲が辛うじて原型をとどめている程度だ。

高角砲や機銃類も大なり小なり被害を受けて、もう戦闘艦としての機能を喪失しているとしか言いようがない。

 

降下して 艦体を凝視した。

甲板上に 兵員妖精らしき姿が見えるが みな倒れて動かない、

此方に気が付けば 手を振って歓迎してくれるのに その動きすらない

 

なんて事だ!

 

慌てて無線を入れた

「不明艦を視認! 不明艦は“重巡 鈴谷! 損傷多大!”至急 救助を!」

 

 

 

 

トラック泊地 連合艦隊司令部 参謀長室

その部屋の主は朝から落ち着かない様子で 執務机に居た。

 

「参謀長、三笠様達が入港するのは 午後ですよ、今からその様子では」と大淀に言われたが、

 

「だがよ、大淀、最新鋭戦艦と最新電探搭載の高速戦艦が来るとなると 船舶屋としては落ち着いてられん」

 

「でも、艦は最新ですけど、持ち主は最古参とその弟子ですよ」と言うと

 

「うう、それを言うな!」

 

ドアをノックする音が室内に響いた。

大淀が返事をすると、青葉が入室してきた。

突然 カメラを構えた

 

「なんだ 青葉!」と宇垣が聞くと

 

「いえ、参謀長の意外な表情で これはネタになるかなと...」

 

「馬鹿者! それで用件はなんだ!」と不機嫌に言うと、

 

「明日発売の 週刊青葉です、最終稿ですよ」といい新聞を渡した

 

一面は、

“伝説の戦艦 三笠 復活!”という見出しで 露天艦橋で腰に左手をあてがい、右手を大きく振りかざした三笠が掲載されていた。

 

「艦の性能面は?」と宇垣が聞くと

 

「旧三笠に少し盛ってます、まあ駆逐艦程度という事でまとめました、でも本当は」

 

「ああ、大和級だ、こちらへ回ってきた機密文書では想像を絶する数値の羅列だったよ」

 

「まあ三笠様が、自分の艦で海へ出た!というだけで、もう大騒ぎ間違いなしですよ」

 

「頭が痛い」と宇垣は頭を抱えた。

 

頁をめくり次の二面は

“パラオ泊地 提督と軽巡由良 長き春についに終止符!”といい 由良のケッコンカッコカリの記事であった

写真は 軽巡由良をバックに提督と由良、そして由良兵員妖精の集合写真であった

 

青葉は

「え〜、本当は別の写真が いい絵だったのでそちらを使いたかったですけど」といい、大淀を見たが、

 

「パラオ特務艦隊との集合写真なんか使ったら それこそ発禁にします!」と釘を刺した。

 

記事の内容は パラオ諸島 島民総出でお祝いされた事が記載されていた

記事を読みながら 宇垣の顔が緩んだ

 

「さて 次は誰の番かな」と言うと 青葉は、

 

「横鎮の高雄さんが 申請してますから、多分」

 

「おっ 海兵同期組か、その次は呉か 彼奴か?」

 

「まあ 呉は問題無しとして 元中佐は相手が相手ですからね」と青葉

 

「なんだ、知ってるのか?」

 

「艦娘の間では もう常識ですよ、先日 パラオに元中佐が寄ったそうですけど、

金剛さんべったりだったそうですよ」

 

「今日の午後にも、三笠様と帰ってくる。ここでべったりなのは勘弁してほしいな。」

 

すると 大淀が

「まあ 金剛さんはわきまえる方ですから 比叡さん達の前では そう心配する事もないとおもいますけど」といい、

「別の意味で 比叡さん達が心配ですね」

 

「ああ 元中佐が来るとなると、ここも騒がしくなるな」と言いながら新聞のページを捲った。

 

戦果報告の覧を見た

特集に、“パラオ対潜部隊 活動開始”という見出しで

空母鳳翔を中心に 陽炎 長波が並走する写真が掲載されていた、但しその時にいた

こんごう、はるなは 写真が加工され消されていた。

 

とくに 長波は

“夕雲型最新駆逐艦 長波 単独夜間対潜活動で カ級を初撃沈”という見出しが出ていた

 

宇垣は

「またもや パラオ艦隊大活躍だな」といい 大淀を見た。

 

「はい、軍令部へ作文も提出済みです。少し盛りましたが、撃沈した事実は事実ですので。詳細については、いつものように大巫女様へ届けてあります。」

 

そして ページの一番下 目立たない所に 小さく

“新任艦娘紹介”とあり

新こんごう型 こんごう、ひえい、はるな、きりしま

指揮艦船 いずも

支援艦  あかし

と小さく書かれていた

 

それを見た宇垣は

「まあ 事実は事実だしな」といい 許可の判を押した

 

青葉が退室しようとした所、またもやドアがノックされた。

大淀が再び返事をした所、最古参の通信妖精員が入室してきた。

一瞬 青葉を見て 目配せをした。

この通信妖精は 裏では宇垣傘下の情報収集部隊の所属だ。

「悪い知らせです」とだけいい、通信紙を大淀へ渡し 一礼して退室した。

 

それを一読した大淀の表情が硬くなった

「ルソン北部警備所からです、重巡鈴谷が 消息不明になったとの事です」といい

電文を 宇垣へ渡した

 

通信紙を受け取り、一読する宇垣

「まずい 一足遅かったか! 青葉 至急 現地の情報員に確認させろ!」

 

青葉は姿勢を正し

「はい 参謀長」といい 急ぎ退室した。

 

大淀は

「しかし、この“逃亡、精神崩壊の疑いあり、発見次第 被害拡大防止の為 撃沈を希望”とは 無茶苦茶ですね」

 

宇垣は 電文を握り絞め

「やつめ、口封じにでたな! そうはさせん! 大淀!」

 

「はい、即行動に移します」といい 執務室の電話をとり相手を呼び出した

 

 

トラック泊地 艦娘寮

栗色の髪を ポニーテールにまとめ、いつも身ぎれいにして 服を皺ひとつなく着こなすその艦娘は少し困った癖があった。

 

“一人で航海すると迷子になる”のである。

 

以前も 単艦で航海訓練中に急に羅針盤が狂い、あらぬ方向へ行き出した。

急を聞いた直ぐ上の姉が 助けに来てくれた。

「もう 貴方って神戸生まれで、お洒落なのに 肝心な所が駄目ね」と言われ、

しくしく泣きながら 姉の後をついて呉へ帰還した 帰還後姉から

「ほら いつまでも泣いてないで」と言われ 小さな鈴の付いたお守りを貰った

 

「これが あれば羅針盤妖精も絶好調よ、横須賀海軍神社謹製 鈴谷のお守りよ」

「ありがとう 鈴谷」と言うと、

「さっ 元気だして行こう、熊野」と返事が来た

 

彼女はそんな事を思い出しながら、鈴の付いたお守りをポケットにいれた。あれ以来、羅針盤妖精が狂う事もない。

 

艦娘寮を出る時 寮の職員から呼び止められた。

「至急 参謀長室まで」といわれ なんだろうと思い 寮の玄関を出た時、

不意に鈴の音がした。

 

見ると ポケットに入れたお守りから鈴が 取れて落ちていた

“嫌な予感がした”

 

暑いトラックの太陽を睨み

“鈴谷!!”と思い、参謀長室へ駆け出した

 

トラックの暑い太陽が そんな彼女を焦がし続けた

 

 




こんにちは スカルルーキーです

分岐点 こんごうの物語を読んで頂き ありがとうございます。

活動報告でも書きましたが、最近少し忙し 中々投稿出来なかった事をお詫び申し上げます。

毎日、閲覧情報を見ながら
「ああ、読んでくれる方がいる」と思いながら
「もっと 勉強しなくては」と猛省する日々でもあります

さて 次回は 漂流(下)です...

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