分岐点 こんごうの物語   作:スカルルーキー

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パラオ泊地 深夜 静まりかえる湾内。


しかし 確実に近づく 所属不明機。




22.頭上の敵機

いずもCIC 艦隊指揮官席

 

前面の大型ディスプレイに映し出された対空レーダー画面を見る、由良司令といずも。

同時に戦術データリンクを通じて、三笠、金剛、簡易型ではあるが陽炎、長波にも情報が表示されている。

既に、きりしまにより対空識別コードが割り振られていた。さらに沖合で待機中のこんごうではSM-2の発射諸元データが入力済みであった。

 

この段階で既にこの所属不明機の運命は決まっていたが、由良司令はじっと腕を組み何かを考えていた。そして、

 

「いずも、済まないが泊地司令部の山本長官へ回線をつないでくれ。“意見具申”したい」

 

暫く待つと、泊地司令部の簡易指揮所にいる、山本長官と泊地提督が画面に現れた。

横の画面には三笠もいる。

 

「山本長官、意見具申よろしいでしょうか?」

 

「なんだい? 自衛隊司令」と山本が聞くと、

 

「このまま所属不明機を通過させて、帰路を確認したいのですが」

 

「見逃せという事か?」

 

「はい。こんごうからの探知情報では、ニューブリテン島、多分ラバウルからの機体ではないかと推測しますが、

帰路を確定して離陸地を確定したいと思います。」

 

「泊地提督、どう思う」

 

「自分としては、このパラオの脅威になるのであれば排除したい所ではありますが、次の戦いの布石なら」

 

「うむ、ならば決まりだ。泊地提督、海軍艦娘に通達、現状維持のまま待機だ」

 

泊地提督は短く「はい、長官」と返事をし、通信妖精を呼び、桟橋へ伝令を走らせた。沖合待機の秋月には、泊地内部から発光信号で通知が行く。

 

 

会話を聞いた三笠は

「自衛隊司令、どちらが釣れると思う?」と聞くと、

 

「自分は欲張りなので、ラバウルとミッドウェー両方釣れると嬉しいのですが。」

 

それを聞いた山本は、

「大概俺も博打打ちと海軍内では有名だが、それを上回る博打打ちだな! 君は!」

 

「まあ、公私とも博打打ちではありますが、今の所、負けていませんから」という由良司令の後で、

物凄いオーラを放ち、睨んでいるいずもを見て、皆 “最大の被害者は彼女か”と思った

 

 

その映像を見ていた こんごうは、艦長席から危うく滑り落ちそうになった。

 

“由良司令!!!! それは地雷を踏んだどころの話ではありません!”

“直上でクラスター爆弾がさく裂したようなもんです!!”

良かった、私泊地に居なくて! 今頃ひえい達! 大丈夫よね? ね! ね!

 

 

やや青ざめるこんごうを見て 副長が、

「司令、やらかしました?」と聞いた。

 

「ええ。今頃いずも艦内はアラート状態よ」と頭を抱えていた。

 

「まあ、よろしいじゃないですか? 夫婦なんとかは犬も食わぬといいますから」

 

「それより、不明機は?」

 

「あと30分で泊地上空です。今いずも艦載機が接触しています。」

 

「では現状維持のまま待機」といい、モニター画面を注視した。

 

 

 

パラオ南東上空 いずも艦載機

 

ゆっくりと 不明機に近付くF-35

 

機体の灯火は翼端灯を含めすべて消し、グリーンの夜間編隊照明も消してある。

今回の編隊長であるスカル05、TACネーム”ターキー”は、

「06! コンタクト出来てるな!」と僚機を呼び出した

 

「Six! Radar contact!!」と僚機から返事が来た。

 

「ポン! そのままの距離を保て! 俺が行く」

 

「ターキーさん! 近づくのですか!?」やや慌てて僚機が答えた。

 

「ああ! 奴らの機上レーダーではこちらは見えん。国籍を確認する。フォローしろ」

 

「Six, follow Five!!」

 

「念の為だ。 Master arm on, master arm on.」

 

「Six, master arm on...Fence in. Trigger open.」と発し、

火器管制装置の安全装置を解除して、25mmバルカン砲の射撃準備をした。

 

深夜の闇の中、ゆっくりと国籍不明機の後から近づいていく。

F-35のパイロット妖精が被るヘッドマウントディスプレイシステムには既に、赤外線映像が映り、国籍不明機の輪郭が見える。

 

機内に接近警報の電子音が規則的に流れた。

さっと各種警報モニターを見たが、レーダー類の警報は沈黙したままだ。

 

ゆっくりと直上へ回り、すこし機体をバンクさせて形状を見る。そして右に流れながら高度を落とし、国籍不明機の下部へ流れた。

 

「B-17か!」

 

機首に装備されたセンサーが不明機の情報を取る。ごく小さいが電波の発信がある。機上レーダーではなく無線機のノイズのようだ。

どうやらこちらには気がついていない。ついて貰っても困るのだが。

じっと主翼や胴体を確認するが、国籍を識別できるものがない。

「やはり深海凄艦機か。無印のようだな」といい、機上データをいずもへ送信した。

 

 

いずもCIC

 

「司令! スカル05エレメントコンタクト! データリンク来ます!」

 

航空管制士官がインカムで伝えてきた。

機上データリンク装置から、国籍不明機の情報が流れてくる。

いずもは司令センターにいる情報士官を呼び出し、

「受信映像から、B-17の型式が分かる?」

 

「はい、副司令。アンテナや観測窓の位置から夜間偵察型と判定します。この型だと威力偵察の為に数発の自由落下爆弾が搭載できます」

 

「分かったわ、情報解析を続けて」と言いながら、

「司令、どういたしますか?」

 

「偵察だけならこのまま防空識別圏まで見逃す。もし爆弾倉を開けば即時撃墜せよ。」

 

いずもは飛行隊司令妖精を呼び、自衛隊司令の命令を伝えた。

 

あと10分で泊地上空に到達する。

 

戦艦金剛の艦橋では、金剛がじっと艦長席に座っていたが、元々じっとしているのが苦手な性格なので、

戦術ディスプレイの画面を開いて、深海凄艦機の動きを見たり、色々としていた。

ふとこんごうを呼び出してみようかと考えたが、向こうは沖合で対空警戒中だ。

画面の表示を見ると、戦闘態勢に入っているようで、彼女の艦の光点だけが色が違った。

 

見かねた金剛副長が、

「艦長、見張り所へ行きますか?」と声を掛けた。

 

「ソウデスネ、ここでは落ち着きません」といい、副長を伴い、艦橋横の見張り所へ移動した。

 

見張り所へ出ると、そこに居るはずの見張り妖精の姿が見当たらない。

「見張り妖精は何処へ」と思うと、物陰でじっとしている兵員妖精を見つけて、

 

「何をしているのですか! 対空警戒中デス!」と怒った。

 

「はっ、はい、艦長。いえB公が来てるって聞いて」と慌てる見張り妖精。

 

「もう、今来ているのは偵察機です! 本格的な爆撃ではありません! それより警戒を厳とシナサイ!」と、自身も愛用の双眼鏡で対空警戒を始めた。

 

実際は沖合のこんごうからの情報で、B-17の位置は既に分かっている。加えて、いずものF-35も接敵して後をつけている。

第一、自身の艦のSPY-1F改とFCS-3が適時捕捉、解析しているので全く問題ないのだが、やはり昔からの癖で、目視で確認するのが一番安心するのである。

 

 

「艦長、戦闘指揮所です。本艦8時方角、距離30km、高度5000m。間もなく目視圏内に入ります」

戦闘指揮所から、インカムで報告が来た。

指示された方向を見る。月明かりの中、じっと目を慣らしていく。

 

「来た!」と副長が叫んだ。

 

月明かりに照らされた闇夜の中、小さい点が段々と大きくなり、数分ではっきりとした飛行機の形に見えて来た。

グングンとこちらへ近づいてくる。これが昼間なら今頃泊地内部は大騒ぎである。

 

「流石、レーダーの威力は凄いデスネ。でもなぜ撃墜しないのでしょうカ?」と不思議に思ったが、

 

そんな金剛のつぶやきに対し副長は、周囲に兵員が居ない事を確かめ、

「まあ、自衛隊は勿論ですが、三笠様や我が艦のレーダーはこの時代には無いものですからね」

「余り夜間の探知能力がある事がばれると、今後の作戦行動に影響がでると判断したのではないですか?」

 

「影響デスカ?」という金剛

 

「はい。先日の由良さんの結婚披露宴で、各艦の副長と山本長官、自衛隊司令でお話する機会がありました」

「その席で、長官から“マーシャル方面の準備が整うまで、パラオに敵の注意を惹きつけてもらいたい”という旨の話がありました」

 

「パラオをオトリにするのですか!」

 

「その様ですね、元々彼らは、トラックの無力化を狙い、このパラオに対して潜水艦部隊による群狼作戦を仕掛けました」

「しかし、自衛隊艦隊や鳳翔さんの活躍でそれが頓挫しかけています。今後、第二波、第三波を仕掛けてくる事は大方予想できます。」

「多分それだけではなく、このパラオ自体の壊滅、占領を目論む可能性があると小官は考えます。」

 

「パラオの占領ですか!」と驚く金剛

 

「はい。パラオが深海凄艦の手に落ちれば、トラックは事実上、輸送ルートが無くなります」

「通常資源はグアム、サイパンルートが使えますが、石油のパレンバン油田ルートはこのパラオが重要な拠点です」

 

 

「油が無ければ、私達艦娘といえ、ただの小娘ですからね」と金剛が答えると、

 

 

「まあ、小娘かどうかは別にして、奴らがここを目指す理由は有ります」

 

金剛は上空を通過するB-17を見ながら、

「残った方がいいでしょうか」とつぶやいた。

 

「艦長、我々は明日の午後、ルソンから入港する油槽船団を護衛する為に、明後日の午後にはトラックへ 三笠様と向います。」

「確かに、今後このパラオで一戦あるでしょうが、大丈夫です。“こんごう”がいます。ひえい、はるな、きりしまもいます。」

「この金剛型の艦霊を宿す、海神の巫女。心配する事はありません。」と力強く言った。

 

 

「ソウデスネ、彼女達がいます。私はトラックへ行き、やるべきことをしましょう」

そう言うと遠ざかって行く大型偵察機を見た。

 

 

いずもCIC

 

「エネミーアルファ、泊地上空を通過、再度海上へ出ました。高度緩やかに上昇中。飛行進路160。帰路へ着いたと判断されます」

対空管制士官が報告を上げてきた。

 

由良司令は、

「いずも。スカル隊に、パラオ防空識別圏まで監視させろ。こんごうを前進させて、帰路の進路情報を取れ。」

 

「はい、司令」といい、続けて、

「こういう時にE-2Jが使えると便利なのですけど」

 

「滑走路の延長工事はどうなっている?」と由良司令が問うと、いずもは

 

「はい、山本長官の御厚意で資材は最優先で回してもらえる事になりました」

「既に造成、鎮圧作業に陸自施設部隊が入っていますので、運用だけなら来週にも可能だと思われます」

 

由良司令は司令官席に座りながら、

「済まんが、あかしに急がせてくれと言いたい所だが、そうも言えんな」

 

「彼女、頑張ってますからね。倒れなきゃいいですけど。」と心配するいずも。

 

そう言いながら、視線をモニターに動かした。そこには遠ざかって行くB-17の進路情報が映し出されていた。その進路の先にはニューブリテン島があった。

 

結局、B-17は送り狼がいる事には気がつかないまま、ラバウル方面へ転進し、1時間後パラオ防空識別圏を抜けた。

泊地内部は警戒を解除し、皆、寝床へ戻って行ったが、こんごうは引き続き対空警戒にあたるため沖合で待機していた。

 

翌朝、朝日が昇る頃、こんごうはようやく帰路へ着き、泊地外周の自衛隊係留地へ帰ってきた。

 

艦橋横の見張り所でこんごうは朝日を浴びて、投錨準備の指揮をしていた。

サイドスラスターを巧みに使い、投錨位置を確認し、錨を打つ。勢いよく朝日に光る海面に落下する錨。

 

「艦長、投錨作業終了しました、艦内係留配置へ変更します」と航海長が報告すると、

 

「では、お願いね。艦橋当直士官への引継ぎ宜しく。」といいながら、艦長席を立った。

 

本当ならこのまま自室で少し仮眠を取りたい所であるが、いつもの習慣というのは怖いもので、意識せず、運動着に着替え、後部甲板に立っていた。

 

体力自慢の妖精隊員が数名、夜勤明けにも関わらず走り込んでいるのが分かる。

自分もストレッチをして体を解し、ゆっくりと走り出した。

 

20分程走り込んだ所で、後部ヘリ格納庫のシャッターが音を立てて開いた。

まだ課業開始まで時間がある。

 

「なんだろう?」と思い近づいてみると、飛行科整備班が集合して、整列していた。

 

「整備班、気をつけ!」と整備班長が号令を掛け、一斉に整備妖精が直る。

白髪の目立つ整備班長、本来ならオーストラリアへの演習が終了すれば除隊、

そのまま現世に残るか、高天原へ召されるかであったが、こちらへ飛ばされてしまった。

 

整備班長の事を整備班では “ホワイトロック”と呼んでいた。

白髪交じりの石頭と言う意味であるが、海自内部の整備担当者の間では、“整備で困った時は こんごうのホワイトロックに聞け!”という合言葉があった。

そんな現場で叩き上げたその腕を見込んでか、運用課長の先代こんごうが、

“お願い、あの子の艦へ行って!”と無理矢理、退役直前の彼を配属したのだ。

当時は「親ばか!」とかなり言われたが、今となっては貴重な戦力だ。

 

こんごうの格納庫の正面には、一つの額縁があった。

中には「愛機心」と書かれた班長直筆の書がある。

 

答礼をしながら、

「おはよう班長。どうしたの、まだ課業開始まで時間があるわよ?」

 

「はい、艦長。今から24時間は待機ですから、いまのうちにこいつの整備をと思いまして」といい、こんごう搭載のSH-60Kを指した。

 

「何か不具合でも?」と聞くと、整備班長は

 

「いえ、不具合はありません。いつでも全力をだせるはずです。ですから、今やるのです」といい ロクマルを撫でた。

 

こんごうは 笑顔で、

「では、お願いね」といい、その場を離れた。

整備班長の怒号が格納庫中に響く、いつものこんごう艦載機の整備風景が始まった。

 

甲板を歩いていると、泊地外周を走っている、陽炎教官と皐月さんが見えた

いつものメンバーだが、少し遅れて必死に追いつこうとする長波が見える。

 

「ふふ、頑張ってますね」といいながら、その後ろを見ると、

「あれ? 秋月さん?」

長波の少し後ろを陽炎達に追いつこうと、秋月が必死に走っていた。

 

「昨日の演習が良い意味で起爆剤になったかしら」と思いながら自室へ戻った

 

シャワーを浴び、艦内服に着替え、定時のミーティングをこなした。とは言え副長以下、皆、夜勤明けでおまけに戦闘待機明けである。

 

こんごうは士官を集め、一言。

「何か問題は?」

 

すると、砲雷長が

「問題が無いのが問題ですね」

 

すると、こんごうはあっさりと、

「では、09:00より24時間の湾内待機へ入ります。みんなお疲れ。」といい、席を立った。

これから24時間はお休みです。

皆はね...。

 

自室に戻ると、ゆっくりとした動作で紅茶を入れて、一息つく。そしてノートパソコンを起動し、各科から上がって来た決裁書類に目を通す。

予め各科の班長が優先順位をつけてくれているので、確認の電子サインをして行く。

 

時計を見ると08:30だ。

艦内電話で艦橋の当直士官を呼び出し、

「こんごうです。09:00より泊地司令部での会合に出席してきます。緊急の際は、副長の指示を仰ぐように。」と言い、席を立った。

内火艇を出そうかと思ったが、皆昨晩の事でくたくたに見え、こんな時はと、

「フィールド展開」といい、クラインフィールドを板状に展開し、自身で海面を歩いて泊地の桟橋へ向った。

 

それを見た泊地の妖精兵士たちの間で、

「やはりこんごうさんは “七人の海神の巫女に違いない!”」と後日大騒ぎになった。

そんな事は全く意に介さず、桟橋へ着いたこんごうは、たまたま桟橋に居た陽炎から、

 

「いくら見慣れたとはいえ、やっぱり驚くわ」と声をかけられた。

 

「陽炎教官も練習してみます?」と返したが、

 

陽炎は、

「器が違い過ぎよ」と笑って答えた。そして、

「そのうち、海面をスケートみたいに滑る事ができるかもね」

 

「スケートですか?」と答えたが、意外に行けるかもと考えていた。

この一言が高速スーパーイージス艦 “こんごう”の原点となるのである。

 

そして二人揃って司令部2階の会議室、今は簡易司令部へと向った。

 

簡易司令部に入室すると、既に主だったメンバーが来ていた。

司令やいずも、山本長官をはじめとする幹部は、隣室の泊地提督室で打ち合わせをしているようで、まだ居ない。

室内の前方には大型の液晶モニターが数台あり、既に今日の警戒担当艦“ひえい”のCIC情報が、刻々と映し出されていた。

通常なら大型の会議テーブルがあるが、今日は後方へ押しやられ、前方から綺麗に椅子が並べてある。

陽炎は前方の駆逐艦の娘が並ぶ椅子へ座り、こんごうは、後方のイージス艦が並ぶ椅子へ座った。

 

ひえいの横へ座ると、

「お疲れ! こんごう」とひえいから声をかけられ、

「眠くない? 大丈夫?」とはるなから 心配された。

 

「皆 大丈夫よ」と言いつつ、もし目前に 自室のベッドが有ったら、そのまま雪崩れ込んで、惰眠を貪りたいというのが本音である。

 

きりしまを見て、

「きりしま フォローありがとう」

昨夜、B-17を探知後、SM-2の諸元データを入力していたが、リンク16を通じて、きりしまが ずっと諸元データの補正をフォローしてくれていた。

 

しかし きりしまの返事は

「こんごう、額に“眠い”って書いてるわよ」

 

「えっ」といい 慌てて額を押さえる

ひえい達が 大笑いしてしまい、いきなり室内の注目を浴びてしまった

 

そんな中ドアが開き、自衛隊司令達が入室してきた。在室者の中で一番上級である鳳翔大佐が号令を掛け、一斉に起立した。

 

日本海軍パラオ泊地の在籍艦娘で 最高位は、旗艦の由良 大佐である、次席は鳳翔同じく大佐、その下が瑞鳳 中佐で、駆逐艦は皆 少佐である、但し長波は いまのところ パラオ泊地預かりなので、少佐候補生?である。

金剛は 第三戦隊旗艦 大佐、三笠は 海軍大将である。

ある意味、山本と同格であるが、三笠は 日本海海戦の時には既に大将扱いの巫女、山本は少尉候補生だった事から軍歴は三笠が圧倒的に長い。

しかし指揮権は 山本が握っている、あくまで艦娘は 提督の指揮下の元 行動するというのが原則だからである。

故に 指揮官と艦娘の信頼関係は非常に重要な要素だが、ただそれを悪用しようとした輩も多い。

 

山本以下が席に着き、一斉に一礼した後、着席した。

 

こんごうは ちらっと いずもを見たが、

“あちゃ~、まだ機嫌悪そう”と思い 横のひえいを見たが、ひえいの顔も引きつっていた。

いずもの不機嫌を引き起こした張本人は “なんの事だ”と言わんばかりに平然としている。

 

どうも あのお二人は その辺がチグハグなのだが、まあそれがいいのかな?などと考えていると、会議の進行役のいずもから

「こんごうさん、昨夜は夜間哨戒お疲れ様、眠くない?」と聞かれ、ここはストレートに、

 

「はい 今すぐに惰眠を貪りたいです」と正直に答えた。

こんな時 答えを繕うとろくな事がない。

 

「じゃ、座ったまま寝ないでね」といい 視線を皆へ向けた

 

いずもが下がり、山本が

「皆、昨日深夜の深海凄艦 夜間偵察機の飛来対応 ご苦労であった、幸い被害もなく、深海凄艦機は ニューブリテン島のラバウルへ帰還したと推測される」

そう言うと、

「では なぜ撃墜しなかったのか? と皆思っていると思うが、それについては 今後の作戦の呼び水にする為 あえてしなかった」

 

「次の作戦ですか?」と鳳翔が質問した。

 

「まず それには 現状の分析から先にしておこうと思う、いずも君頼む」といい

説明をいずもに引き継いだ。

 

「では、パラオ周辺海域の敵性勢力の分析を行います。」と言い、正面の大型ディスプレイ画面を衛星写真に切り替えた。

無論、この時代にはまだ偵察衛星がないので、いずも艦内のデータライブラリーから抜き出してきたものだ。

 

「およ? 地球ってやっぱり青いの!」と驚く睦月

 

「すご! 宇宙から見るとやっぱりパラオって孤島よね」と言う陽炎

 

「いずもさん! これって横須賀とか呉も出せるのですか」と秋月が聞いてきた、

 

「気になる? 会議の後で見せてあげるわ、さてここがパラオ、そしてここがトラック」といい レーザーポインターで位置を示した。

 

「そして、今の所最大の脅威である、ミッドウェー、マーシャル、ソロモン諸島の深海凄艦の群体所在地よ。」といい、衛星写真上にタブレットを使い、書き込みをした。

それと同時に、衛星写真に各群体の勢力域が上書きされた。

 

 

「現在このパラオは、ミッドウェーから分派したマーシャル方面群と、ソロモン諸島群に挟まれた形になっているわ。これは最前線のトラックも同じ事ですが、パラオは今まで、南シナ海の防衛拠点であるルソン島の各警備所の支援の元、トラックへの資源供給拠点として機能しています。」

「そのお蔭でミクロネシアにおける活動拠点であるトラック泊地は順調に規模を拡大し、現在、マーシャル方面に駐留する深海凄艦群を押さえる事に成功しているわ。ここまでいいかしら。」と言いながら、特徴的なメガネを掛け直した。

 

「「「はい」」」と一斉に、駆逐艦の子達が返事をした。

その姿を駆逐艦の子達の後席で、ニコニコしながら聞いている鳳翔、瑞鳳に金剛。

 

それだけ見ると、まるで中学生の授業参観の風景であるが、これはれっきとした軍事作戦会議なのである。

 

「では、睦月さん。そのトラック泊地の戦略的役割はなんですか?」

 

「ふえぇぇぇ…、質問ですか?」と慌てる睦月。ちらっと横に座る皐月を見みたが、

「僕も知らないよ、単に泊地に適していたからじゃないの?」と答えた。

 

「あんた達はね...」と呆れる陽炎

 

「では 陽炎さん」といずもは 同じ質問を陽炎へ投げかけた。

 

「遮断よ、中部太平洋のミッドウェーの群体と ソロモン諸島の群体の連携を遮断する目的で トラック泊地の建設が始まったと記憶しています」

 

「はい、その通りですね、しかし、その動きを察知した ミッドウェーの群体は 当時 日本の委託統治領だったマーシャル諸島を占領、そこに分派した群体の巣を作り、拠点とした、現在 トラック泊地の連合艦隊とマーシャル諸島の深海凄艦で 近隣海域の制海権をめぐり、交戦状態となる、というのが流れです」

 

そう言うと 視線を駆逐艦の子達の後方へ移し、

「では瑞鳳さん、なぜトラックの連合艦隊は やすやすとマーシャル諸島へ深海凄艦を上陸させてしまったのですか?」

 

「そ、それは」と言いかけ、山本や三笠を見た、

 

すると三笠は

「よいぞ、瑞鳳、失策は失策として、しっかり認識出来ねば、また同じ間違いを繰り返す」

 

「はい。主な原因は、昨年末に計画された対米開戦の初戦、真珠湾攻撃の失敗です。」

「深海凄艦はこちらの動きを察知し、我々よりも早くハワイを包囲し、赤城さん達 南雲艦隊を待ち伏せしました。結果、真珠湾攻撃は失敗し、赤城さん、加賀さんが大破。翔鶴さん、瑞鶴さんも小破となり、対米開戦は中止。急遽、トラックへ帰還する事になったと聞いています。」

「その際ミッドウェーの群体の追撃を受け、追いつかれる寸前で、急を聞きつけた第三戦隊が援護に向かい、追撃艦隊を撃退し、赤城さん達をトラックへ連れ戻したと聞いています。その時の追撃艦隊がその後、拠点として占領したのがマーシャル諸島です。」

 

山本は 深く息をして、

「あれは 俺の大失策だったよ、まさかあそこまで深海凄艦が追いかけてくるとは思わなかった、赤城、加賀が被弾し動きが鈍った事に加え、陽動で 長門や扶桑達を呉で待機させ ギリギリで出撃し、護衛が手薄だった、まんまと奴らの罠にはまった」

 

するといずもは 質問を今度は、

「はい その第三戦隊旗艦 金剛さん、追撃艦隊を撃退した時におかしいと思った事は?」

 

「OH、ソウネ、途中まで必死に追いかけて来たのに、急に転進して マーシャルへ向ったわ、そして、その艦隊は何故か上陸部隊を同行させてイマシタ」

「もっと不思議なのは その後方で 米海軍の戦艦群が監視していた、私の水観が彼らの動きを監視してイマシタケド、深海凄艦を攻撃するわけでもなくじっと距離を保ってイマシタ」

 

いずもは それを聞くと、

「以上の状況から、推測して現在 日本海軍で使用している暗号電文は その全てを、米国に解読されていると判断します」

 

「「「ええええ!!!」」」と驚く駆逐艦の子達

 

すると 鳳翔が、

「はい、皆さん静かにしましょうね。いずもさん、なぜそのように判断するのですか?」

 

「はい。まず米軍は、日本海軍の真珠湾攻撃を正確に予測していました。湾内に停泊中の空母群が目標である事、占領はせず港湾施設の破壊、艦隊行動の阻止が目的である事を察し、いち早く湾内の空母群を本土まで引き上げさせ、そして米国籍の住民を疎開させませした。」

「いくら真横にミッドウェーの群体があるからとはいえ、そこまでがら空きにすれば、ミッドウェーの群体はここぞとばかりに島を包囲するでしょうね。」

 

 

山本は、

「そして そんな事とは知らず、のこのこと単冠湾からハワイを目指して 南下した南雲君たちの艦隊は、12月7日 早朝 事前偵察を行った所、真珠湾はがら空き、そして湾内には多数の深海凄艦艦隊を発見した」

「本当ならそこで攻撃目標を米軍から深海凄艦へ変えて 湾内機能を破壊すれば 1年は奴らの動きを止める事ができた、名目も現地島民、及び日系移民保護という事で言い訳もできたがな」

 

すると、三笠は

「ああ、南雲ならやらんな、あ奴は 与えた事はこなすが、それ以上の事態が生じた時は、無理じゃよ、飛龍の山口はだいぶ突いたらしいが、結局逃げ腰になった」

「儂は護衛に第三戦隊もつけろと言ったが、南雲が“足の遅い戦艦はいらん”といって 結局 利根と筑摩、阿武隈以下の駆逐艦数隻という お寒い状態だった」

 

 

三笠は 腕を組み直し、

「我々は 慢心しておったのじゃよ、深海凄艦とほぼ互角の戦いをする我が海軍、深海凄艦に押され、支配地域を縮小させる米海軍、その米海軍に負けるはずなどないと」

 

すると いずもは、

「はい 三笠様、米国は海洋戦力では 日本、深海凄艦に勝てないと悟り、その戦力差を、“情報戦”で埋めるという手で出てきました」

 

「“情報戦”ですか」と鳳翔

 

「そうです、深海凄艦並びに日本海軍、いえ日本の外務省などあらゆる機関の暗号電文を解析し、我々の行動を予測、そして情報を集積する事でそれを確定し、上手く深海凄艦を煽り、日本海軍にぶつけて来た」

 

「そう言う事じゃよ、鳳翔。米国上層部は戦わずして最大の利益を得た、という事じゃ」

 

「では、私達の作戦行動は米軍に筒抜けなのですか!?」と瑞鳳が聞くと、いずもが、

 

「ええ、間違いありません。それだけではなく、一部は深海凄艦に情報が洩れている可能性があります。」

 

陽炎は、

「どういう意味ですか?」

 

「金剛さんへの雷撃の件です」

 

「いずもさん?」

 

「先日、金剛さんにお願いして、当初の作戦行動計画書を見せて頂きましたが、当初は 瀬戸内海で 長門さん達と合流後に サイパンルートでトラックを目指していましたが、瀬戸内海を立つ直前、長門さんにより、航続距離の短い駆逐艦に配慮して、ルソン、パラオ経由のコースに変更されました」

 

「ソウデス! 長門が駆逐艦の子達に外洋の長距離航海は 厳しいといい、コースを変更しました」

 

するといずもは、

「このコース変更は、軍令部には無許可で 長門さんの判断で行われたものですが、例の大型低気圧の為 護衛の阿武隈さんや白雪さん達がルソンへ避難した後に、このパラオ近海で深海凄艦の潜水艦部隊の待ち伏せを受けます」

 

「という事は、ルソンへ避難して来た 阿武隈達を見た何者かが、丸裸状態の金剛達の事を深海凄艦へ通報したと考えるのが一番じゃな」と三笠

 

「諜者ですか?」と鳳翔が聞くと 山本は

 

「その件は 今うちの方で調べさせている、相手に気づかれる恐れがあるので内密に頼むぞ」

 

いずもは 話題を変え、

「では これまでの経過については宜しいですか?」と聞くと 先程と同じように駆逐艦の子達が元気に返事をした。

 

「山本長官から 今後のパラオ方面の展開についてご説明します」といい いずもは席へ戻った。

 

山本は大型ディスプレイの前までくると、皆を見て、一言

「済まぬ。トラックの体制が整うまで、このパラオにオトリになってもらいたい。」

 

「おっ オトリですか!!」と驚く長波

 

すると 横に座る 陽炎は、

「いいんじゃない、捨て石と言われるより 数倍ましよ」

 

山本は続けて、

「現在、トラックではマーシャル諸島開放作戦の為、資材の備蓄及び教練を行っているが、それを察知した 深海凄艦が近隣海域まで進出しており、小競り合いが続いている」

「まあそれだけならいいが、先月などは大規模な潜水艦部隊により、補充予定の航空機及び飛行士妖精が被害にあっている」

 

鳳翔はそれを聞いた瞬間 表情を鋭くした、被害にあったのはこのパラオで鳳翔が教育した部隊で、今の鳳翔隊にとっては同期の飛行士妖精達だ。

 

「しかし、その奴らの潜水艦部隊による群狼作戦も 自衛隊艦隊の出現と鳳翔の活躍で頓挫しかかっている」

「やつらとしては、このパラオを無力化し、トラックへの補給線を分断する事で、マーシャル諸島開放作戦を形骸化したいと考えていると推察している」

 

「では、昨夜の航空偵察も?」

 

「そうだ、瑞鳳、奴らとしては急速にこのパラオの戦力が強化された事に気がついているはずだ、まあ自前の戦力ではないがな」と言うと、少し笑い声が出た。

 

「自衛隊艦隊がこちらの世界へ来てから、ミッドウェーの群体はいいところが無い。金剛をうち漏らし、追撃した軽空母艦隊はコテンパンにやられて、長波を追い詰めた潜水艦は一撃で撃沈。その後は鳳翔対潜部隊による潜水艦狩り。そして鳳翔を狙ったル級を含む機動艦隊も殲滅された。それに引き換え当方の損害は、最初の金剛の雷撃2本のみ。圧倒的な戦果だ。」

 

「奴らの基本的な行動として、より強大な戦力に注意を注ぐ傾向がある。今ミッドウェーの群体にとって、トラックよりこのパラオの方が危険視されていると思われる。」

 

山本は 一呼吸置き、

「先日 接触した、オーストラリア船団により、パラオに正体不明の重巡や航空機が配備された事は おいおいアメリカに知れ、そしていつかは深海凄艦へ情報が流れる」

 

三笠が、

「見えない敵、理解できない敵ほど、怖いものはない、噂が噂を呼び、真実からかけ離れた虚像を生み出す事もある」

 

「昨日深夜 偵察機を見逃したのは?」

 

「そうだ 鳳翔、奴らにこのパラオに重巡4隻、空母2隻が配属されたと勘違いさせる為だ」

 

「三笠様や金剛さんも今なら居ます、このパラオはトラックに匹敵する拠点となった感じですね」と瑞鳳

 

「瑞鳳、儂らは明日の午後 トラックへ帰るぞ、そろそろ帰らんと、宇垣が大変な事になっとるかもしれん、そうなれば大淀もな」

 

「まあ、ここはいずも君たちに期待しよう。さて話を戻す。深海凄艦はこのパラオを脅威として、何らかの手を打ってくるはすである。一番考えられるのが、昨日深夜飛来した、B-17等を使った大規模航空攻撃だ。」

「今までトラックにも数度来てはいたが、威力偵察程度であった。しかし今回は泊地の機能停止となると、大規模攻撃を受ける可能性がある。」

 

「泊地防空戦ですか!」と秋月が叫んだ

 

「ああ そうだ、秋月 期待しているぞ」

 

「はい 長官、この秋月 長10cm砲と高射装置で泊地をお守りしてみせます」

 

すると、山本は後方のきりしまを見て、

「きりしま君、すまんが秋月の事 宜しく頼む」

 

するときりしまは 起立し、

「はい 山本長官、防空駆逐艦として育てて見せます」

 

「秋月への教育は そのままトラックにいる、照月達へ応用される、期待している」

 

「長官、しかし重爆撃機による航空攻撃だけでは 泊地機能を停止するには不十分なのではないでしょうか?」

 

「ああ、鳳翔 奴らは必ず空母機動部隊も投入してくる、護衛には戦艦群も同行すると考えられる」

 

「えっ!! それだと完全に戦力不足です」と睦月が言った。

 

すると 金剛が、

「長官、臨時に私が 暫く残りマスカ?」

 

答えは いずもから帰ってきた。

「金剛さん、大丈夫ですよ、その時は こんごう、ひえいのイージス艦、そして私と瑞鳳さんの艦載機群で対応します」

 

「そうじゃぞ、主は トラックで待つ、比叡達、第三戦隊を鍛え上げる使命があろうが、うかうかしておると 孫娘たちに追い抜かれるぞ」

 

「三笠様~」と涙目の金剛であるが それには構わず、山本は、

 

「いいか 皆、今後数ヶ月、このパラオは激戦区になる可能性が大きい、気力、体力、そして装備、きちんとして対応してもらいたい」

 

「「「はい 長官!」」」と皆で返事をした、山本は最後に

 

「自衛隊司令、いずも君、済まぬがよろしく頼む」といい席に着いた

 

代わり、三笠が皆の前へ立ち、

「良いか、この戦いの最終的な目標は、太平洋地域から、深海凄艦強硬派を排除し、各地に点在する 穏健派を和平へのテーブルに導く事である、決して殲滅ではない」

 

「和平へのテーブル」と皆がつぶやいた

 

「我ら 艦娘、海神の巫女として、海の安泰を築く、深い思慮をもって行動する事を願うぞ」といい、席へ戻った

 

由良が そっと立ち上がった。

ケッコンカッコカリ後、動作がより落ち着き、大人の雰囲気が漂い出している。

”やっぱり ケッコンカッコカリの威力って凄いのね”と陽炎は 内心思っていたが、

 

「はい、ではこの後の予定を確認しますね、鳳翔さん、自衛隊艦隊のはるなさんは随伴艦 睦月さんと皐月さんを伴ってパラオ南部海域へ 対潜活動に従事して頂きます」

「同時に新型の対潜爆雷の試験運用を行います」

「それと泊地飛行隊から 改修された二式大艇が同行します、あかしさん 簡単に説明お願いします」といい 話をあかしへ振った。

 

あかしは 立ち上がり、前方へ出てきた。

「へへっ~、今回試作しました新型対潜爆雷は、現行の対潜爆雷の欠点を補い、より効率的に潜水艦を仕留める方法を考案しました。本来なら我々の装備する12式短魚雷の装備が一番効果的なのですけど、データリンクシステムなどの複雑な電子機器を各艦へ装備する事を考えると、時間がかかりすぎます。そこで各駆逐艦の基本装備はそのままで、より効果的に撃破できるようにと考案しました。」

 

そうすると 画面を切り替えた、そこには航空爆弾に似たものが映っていた。

「え〜 では、先日、潜水艦初撃沈をした長波さん、今までの爆雷の欠点とはなんでしょうか?」と あかしが聞くと、長波は真顔で、

 

「ドラム缶と間違えやすい事」と元気に答えた

 

一斉に室内が爆笑モードになった。

「あんたね、幾ら前科があるとはいえ、本気で言う?」と呆れる陽炎

 

長波は 新人教育を呉で受けたが、そこでの爆雷投下訓練の初日、搭載予定の訓練用爆雷の近くに偶然置いてあった、輸送用ドラム缶を間違えて積んで、訓練に出た。

一緒に訓練を受けていた 夕雲達が次々と爆雷を投下していくのに対し、長波の投下した爆雷(ドラム缶)は なんと ぷかぷかと海面を漂いまるで浮遊機雷の状態となり、訓練海域にいた 夕雲達をパニック状態にした。

 

訓練を指揮していたのが 香取であるが、帰港後 教官室に呼び出され、

「なぜ あのような事をしたの?」と聞かれ、これはまずいと、あれこれと言い訳をしたが、結局

「ほほう...?なるほど。これは少し、厳しい躾が必要みたいですね」と言われ、有難い直接指導を1時間受けるはめとなった。

 

教官室を退室した 長波は、待っていた夕雲達に開口一番、

「あの 香取り線香 覚えてろ!!」と悪態をついたのだ。

呉の笑い話、“長波ドラム缶事件”である。

 

これ以来、長波=爆雷=ドラム缶という図式が、連合艦隊内に広まった。

広めたのは勿論、彼女である。

 

大爆笑する三笠や金剛、必死に笑いを堪える鳳翔、その姿を見て唖然とする瑞鳳。駆逐艦の子達は 陽炎を除き、全員撃沈状態である。

余りの破壊力に状況が呑み込めず、唖然とする自衛隊艦隊。

 

「え〜 予想外に受けているみたいですけど、話を続けます」とあかしは仕切り直し、

「同じ質問を 陽炎教官に」と続けた。

こんごう達にとって 陽炎が鬼教官であるように、こんごうの後輩であるあかしにとっても 陽炎、皐月は厳しい教官であった。

 

「不確実な所よ、私達の爆雷は水圧感知式、相手のいる深度を正確に把握できなければ、効果は薄いわ、おまけに投下位置もよ、ドラム缶形状だから、投下後、沈降する間に分散してしまう可能性がある、こんごうさん達の対潜魚雷を見てその差を痛感したわ」

 

「はい、流石ですね、その通りです、そこで少しその不確実性を改善しました、改良点は二つ、まず信管です、今まで、水圧感知式でしたが、これを磁気接近信管併用型に変更しました」

 

「磁気接近信管?」と聞く 陽炎

 

「はい。これは安全深度、10m以上になると作動します。潜水艦は巨大な鉄の塊です。この信管は沈降する進路上に、磁気に反応する物体があれば起爆します。一応、今までの水圧感知式の機構もありますので、投下時に選択して投下してください。」

「次に、形状の改善です。爆雷を流線型に変更しました。後部には小型の制動フィンをつけています。先程の磁気反応信管と連動して沈降しながら、姿勢制御が可能です。」

 

それを聞いた陽炎は

「それって 誘導式じゃない!」と声を出した。

 

するとあかしは、

「誘導式と言えるかどうかは分かりませんが、潜水艦の真上、もしくは進路上で投下すれば、確実に潜水艦へ向い 沈降し、信管が作動します」

「そしてこの爆雷は 九九艦爆にも搭載可能です」

 

鳳翔の顔色が明るくなった、これであの子達の敵は撃てると。

 

いずもが立ち上がり、

「そこで 重要になるのが、潜水艦の位置を正確に探知する事です、これは鳳翔さんに搭載するロクマルと随行するはるなが行います、また今回から 広域の探知に 二式大艇改を使います」といい 前方の画面に 改造された二式大艇が映し出された。

機体上部に白いアンテナブレードが数本追加され、右側面には 複数の穴の開いた板の様な物が組み込まれた、ロクマルのソノブイシューターを流用したソノブイ投射機、そして、尾翼後方に伸びる3m程の棒状の物。

機首の形状も少し変わり、小型レーダーを装備している。

 

その姿をみた こんごうは、

「尾翼をT型にして、白い塗装に灰色の船底色を塗れば PS-1じゃない。」と思いつつ横を見ると、ひえい達も同じ考えのようだ。

 

いずもは続けて、

「大きな改造点は、お尻についている棒のような物ですね。これはロクマルが搭載している磁気探知装置と同じ物です。これを使い、鳳翔対潜艦隊の進行方向を探索します。反応があった場合、ロクマルが急行し、敵味方を判定します。もし敵と判断した場合、まず鳳翔隊による爆雷攻撃。それでうち漏らした場合は、駆逐艦による攻撃となります。」

 

すると鳳翔が、

「あの、はるなさんの 誘導噴進爆雷は使わないのですか?」

 

「アスロックですね、あれは1発が高価すぎるので いざという時の保険と思ってください、それにあれは 水深が浅い海域では効果が期待できません」

 

すると 三笠が

「鳳翔よ、この新型対潜爆雷を使いこなせば、我が海軍の対潜能力が一気に向上する、あかし殿の協力により、探針、聴音能力も向上する事が期待されておる、この意味が分かるな」といった

鳳翔は 以前 こんごうから聞いた 彼方の次元の戦争末期の状態を思い出し、

 

「はい 三笠様、鳳翔 精進いたします」と答えた

 

すると 由良が、

「では これで今日の会議は終わりとします、質問のある方は」と聞くと 即座に秋月が手をあげた。

 

「あの、あかしさん! その磁気反応信管、私の長10㎝砲の砲弾にも応用できるのですか!?」

 

それを聞いた あかしは 待ってましたとばかりに、

「え〜、結論から言えば可能です、すでにこんごうさん達の127mm砲には 対空用接近信管が装備さています」

 

そう言うと、タブレットを操作し、正面のモニター画面を切り替えた、そこには1枚の写真が映し出された。

「近接信管、別名 VT信管といいます」

 

「VT信管?」と秋月が問いただした。

 

あかしは

「原型は 私達の次元では 1943年初頭に開発されます、原理は至って簡単です、信管部分に 小型の電波発信装置を搭載、航空機に近付くと反射波を受け 航空機の前方や近くで起爆する仕組みです、現在使用される時限信管は 高射装置や測距儀の諸元をもとに信管の起爆時間を設定しますが、高速で移動する航空機には諸元計算が間に合わす、不向きです」

 

そして 画面を切り替え、簡単なアニメーション画像を出した。

「まず 接近する敵航空機群に対して、方位 仰角を合わせ、この接近信管付砲弾を発射します、発射後の衝撃で 安全装置が解除され、敵航空機群へ近づけば」

暫し間を置き

「ボンっとさく裂します、無理に直撃を食らわる必要もなければ、作動時間の設定も要りません」

 

すると 秋月が、

「レーダーによる方位、距離測定が正確になれば、撃墜率は大幅に向上しますね」と喜んだが、いずもの言葉は 厳しかった。

 

「秋月さん、残念ながらこの接近信管を使わなければならない状態とは 艦隊防空戦にとっては 厳しい状況です」といい、

「きりしま 説明おねがい」ときりしまを 呼び出した。

 

きりしまは、前方の大型ディスプレイ画面の前まで来ると、自身のタブレットを操作し画面を切り替えた、

「先日、お聞きしましたが、鳳翔さん達を始め このパラオ泊地の皆さんは 本格的な空母機動戦を経験した事がないとおもいます」

 

そう言うと 泊地提督は、

「ああ、いまの所 本格的な空母機動艦隊戦の経験はない、先日の金剛追撃艦隊がいい例だが、あれは自衛隊艦隊の戦いで我々自身としては未経験だ」

 

すると きりしまは

「今後の艦隊戦の主な主役は 空母群へ移行します、空母が持つ、高機動力を駆使し、海域を面で制圧する戦法へ移行すると思われます」

 

すると 山本は

「航空機を使った 面制圧か! 真珠湾では出来なかったが、やはり時代の流れはそこへ行くか!」

 

「はい 山本長官、長官のお考えの通りのシナリオです、しかし これを真っ先に実行したのは 日本海軍ではなく深海凄艦と米軍です」ときりしまは答えた

 

「えっ、空母機動艦隊は日本海軍のお家芸じゃないんですか!?」と瑞鳳が聞くと、

 

すると いずもが

「ええ 確かに正規空母クラスの大型艦の数では 当時の日本海軍は世界一だったわ、でも 保有する航空機数では 米国や深海凄艦には及ばない。この意味する事が分かる?」

 

「物量戦か」という山本

 

「はい 長官、赤城さんクラスの空母を一隻建造する費用で、3隻の軽空母を建造できます、日本海軍は空母に於いても 大艦主義を行った結果、戦域で必要な数を調達できず、点で勝利できても、それを戦線という線で結ぶ事ができず、線を織って面、即ち戦域を確保できません」と いずもが答えた。

 

きりしまは 

「では 話を戻します、今後 海戦の主戦力は航空機の機動力、戦艦の面制圧力が主たる物になります、ですので、空母には空母を、戦艦には航空機と戦艦で対応するという事になります」

 

すると金剛が

「きりしまちゃん。戦艦には、戦艦ではないのですか!?」

 

きりしまは 金剛を見て、

「金剛お姉さま、確かに、戦艦の面制圧力は絶大なのですけど、何分足が遅いのが問題です、お姉さまは 32ノットだせますが、他の艦は20ノット台です、これでは距離があれば逃げられてしまいます」

 

「ます航空機による先制攻撃、そして行動制限、後続の戦艦群による戦域制圧が いまの時代で一番効果があるかと」

「もし戦艦群が使えないのであるなら、ル級クラスには最低30機以上の攻撃隊が必要です」

「前回のこんごうが ル級を制圧できたのは 90式誘導弾で効果的な先制攻撃ができ、また鳳翔隊がル級を一点攻撃した事が最大の勝因です」

 

きりしまは 向き直り、

「今後の運用については視点を変える必要があると 自分は意見具申します」と山本に言った。

 

これを聞いた三笠は、

”これを 宇垣が聞いたらなんと言うかな、あ奴とて解かっておるはずじゃ、長門を始めとする戦艦群が、このままでは時代遅れになる事を、しかし、今ならまだ間に合うという事か!”

 

きりしまは 画面を切り替え、

「さて、空母群を中心とした、艦隊防空戦ですが 防衛線を三重に設定します」

 

鳳翔が

「三重ですか?」

 

「はい、まず索敵線。通常は索敵機による広範囲の索敵ですが、パラオ艦隊においては、我がイージス艦隊と、いずも艦載機による広範囲のレーダー監視です。この監視網は、パラオ周辺海域 600km圏域内を監視します。」

 

「600km!!」と皆が唸ったが 山本達は平然としていた、すでにその恩恵に預かっている事を痛感していた

 

「ええ すでに昨夜 こんごうのレーダーがラバウルから飛来するB-17を早期にとらえたわ、まずより遠くに網を張って対応します」そう言うときりしまは 大型ディスプレイ画面の衛星写真に イメージ図を重ねて表示した。

 

「こんなに 遠くまで」と驚く室内

 

きりしまは 眼光鋭く、

「そして、次の網の主役は 瑞鳳さんの艦載機です」といい瑞鳳を見た

 

「えっ 瑞鳳の艦載機ですか!」と慌てる瑞鳳

 

「はい、いずも副司令の早期警戒機E-2Jと私達の戦闘指揮の誘導に従って頂き、効率的に迎撃します」

きりしまは、タブレットを操作し複数の地点から飛来した航空機を 効率的に迎撃する戦闘機隊のイメージアニメを表示させた。

 

「そして、最後にすり抜けて来た敵艦載機群は、秋月さんを中心とした防空駆逐隊で撃破します」

 

「私達が “最後の砦”ですね」と 秋月が唸った。

 

 

きりしまは 落ち着いて、

「これは そうね、陸戦の接近格闘戦に近いものがあるわね」と言うと 由良司令をチラッと見た、由良司令は 了解を意味する動作をした。

 

「ねえ、こんごう! 眠気覚ましに 特戦S部隊資格者の貴方とひえいで模擬して」

 

やや眠そうな顔をしていたこんごうは いきなり振られて

「えっ いきなり私がやるの!」と席を立った。

 

「あら、私も久しぶりに見たいわ、こんごうの格闘戦」と いずもも同意した。

 

すると きりしまは、

「はるな、私のバッグの中に 模擬戦用のゴムナイフがあるから 出して」

 

それを聞いたこんごうは諦め顔に

「全て 計算ずくですね」とひえいと二人 ゴム製ナイフを手に 大型ディスプレイの

前に出た。

 

皆 何が始まるのか興味津々であった。

 

ひえいが、

「私が攻めでいい?」と聞くと こんごうは

 

「じゃ、私が守りで」と答えた。

 

二人 対峙するような形で立つと ナイフを構えた

 

金剛が、

「危険なのでは!」と声を出したが、

 

きりしまは

「二人が持っているのは ゴム製の模造ナイフです、実際には切れる事はありません」

といい、二人を見た

 

こんごうとひえいは、対峙しながら、呼吸を整え、そして一気に 霊力を高めた。

 

ひえいは 何時でもこんごうを刺せるように中段にナイフを構えた、

そして受けるこんごうは、斜に構えた。

 

見ようによっては隙がある、しかし いざ突くとなると隙が無い構えだ。

お互いに立ち位置を動かしながら相手の隙を伺う、そして一瞬の動きの後

 

「そこ もらった!!」とひえいの右手が こんごうの右わき腹を狙い突き出た、

しかし こんごうはそれを見切り、突き出たひえいの右手を躱し、ひえいの右手首にさっと自身のゴムナイフを這わせた、

 

「痛っ、」といい 一瞬、苦痛の表情を浮かべるひえい、

 

対するこんごうは、いつもと変わらず、落ち着いて ひえいを見ている。

再び、構え直すひえい

こんごうの隙を狙い もう一度 右手を突き出した、今後は 首元だ!

 

こんごうは ブラウンの髪を揺らしながら さっとそれを交わすと、突き出されたひえいの右ひじにさっとゴムナイフを這わせた。

 

とっさに後ずさりするひえい

「うう、攻めずらい」と呻くが、すでに右手首と肘には 赤くナイフの擦った痕が出来ていた

 

「はい、そこまで」といずもがいい

 

即座にひえいが、

「こんごう 少しは手加減してよ!」と悪たれたが、当のこんごうは

 

「ひえい、腕鈍った?」と息ひとつ乱さず、切り返してきた、

 

それを見た山本は 横に座る自衛隊司令に

「こんごう君達は 陸戦教育を受けているのかい?」

 

「はい、一般歩兵科と同じ課程を研修していますが、あの二人はその中でも 一番訓練の厳しい部隊の教育を受け 試験に合格しました」

 

「なぜ 艦娘に陸戦教育を?」

 

「はい 日本近海の諸島防衛に関して陸自と協力して敵前上陸する可能性があります、彼女達は 海自部隊の最前線指揮官として陸戦を想定しています」

 

「そこまで!!」と唸る山本

戦後 日本は厳しい状況で生きて来た事を痛感した

 

 

こんごうとひえいの模擬格闘戦を見て 唖然とする泊地の艦娘達

きりしまは、ひえいの右手をとり、

 

「艦隊防空戦とは、まさにこのひえいの右手なの。この右手が相手の攻撃。一打、一打を確実に迎撃し、相手に多大な出血を強いる。それも出来るだけ遠方でね。そして相手の体力をそぎ落としていく。本隊にたどり着いた時には余力が無い程にね。」

 

きりしまは、そっとひえいの腕を下すと 目でお礼をいい、ひえいも 手をあげてそれに答えながら席に戻った。

「艦隊防空戦及び、陸上拠点防空戦 どちらも重要になるのは、相手の動きをいち早く知り、構え、冷静に対応する事です」

「正解な情報を集め、分析し、冷静に対応する これが基本です」

と言うと 駆逐艦の子達が

「はい」と皆で返事をしてきた、それを見守る鳳翔、そして三笠。

 

三笠は、

「イソロク、どう思う、この1時間の話で パラオの機能は 10年は進んだ気がするの」と問うと、

 

「ああ、出来れば、いずも君達には トラックに今直ぐにでも来て貰って赤城達を指導してもらいたいものだ」

 

すると三笠は

「いっそのこと、南雲を本土へ送り返して、いずも殿を空母旗艦兼指揮官にするか!」

 

「それは 俺も一瞬考えた、俺に人事権があるなら今すぐにでも 辞令を書きたいよ」とぼやいた。

 

「まあ 今は我慢じゃな、その時は こんごう殿は儂の秘書艦じゃな」といい 皆を見直した。

 

その後、出港予定の鳳翔、睦月、皐月、はるなの確認事項を打ち合わせ、会議は解散となった。

 

秋月はそのまま きりしまに拉致されて、きりしまの艦へ連れていかれて、艦隊防空戦の基礎からみっちり講義を受けた。

ただ本人は非常に喜んで、その後事ある毎に、きりしまの元へと足を運んだ。

 

 

こんごうは きりしまの内火艇で送って貰った、本当なら行きも迎えにいく予定であったが、連絡した時にはすでに本人が スタスタと海面を歩いていたのである。

 

内火艇中で 秋月はこんごうに、

「こんごうさん、今度、“光の障壁”見せてください」

 

するとこんごうは

「ああ、これね」といい、右手の手の平の上に 球体のクラインフィールドを発生させた。

 

「凄い これが光の障壁ですか!」といい 興味津々に見た。

「きりしまさん達もこれが使えるのですか?」ときりしまを見たが、

 

「残念、こんごう以外で使えるのは、いずも副司令だけよ、でも艦全体を覆い 形状を変化させる事ができるのはこんごうだけね」

 

「こんごうさんだけ 特別なんですか?」と秋月が問うと、こんごうが

 

「私が特別というわけでもないわ。これは本来なら艦娘なら皆できる事なの。ただ具現化するのに物凄い艦霊力が必要なの。今の球体でそう、白露型の艦霊力とほぼ同じね。」とあっさりと言った。

 

「えっ ええええ!」と驚く秋月。

ちょっと待って。あんな小さな球体で、白露型と同じ艦霊力! もし艦全体を覆うとか、陽炎さんに聞いた防護壁にするとかだと、どれだけの艦霊力がいるの!

単純計算でも、大和さんが数隻分いるわよ。と考え、青ざめる秋月。

 

秋月の肩をそっと掴む きりしま

「こんごう 怒ると怖いわよ」と真顔で言った。

 

「えっ」

 

すると 横に座るひえいも

「別名 金剛力士」と楽しそうにいい

 

はるなが、

「私達 イージス艦隊、いえ日本に降り注ぐ邪神を振り払う力よ」

 

そう言うとこんごうが

「もう 皆、秋月さん固まってるわよ」といい 青ざめた秋月を見た。

「そんな 大袈裟なものじゃないわ、でもこの力で守れるなら 守りたい、ただそれだけよ」といい 遠方に見える 自艦と横に並ぶ戦艦 金剛を見た。

 

秋月は思った、

“私も この人たちの様に、強い信頼関係を 照月達と結べるのでしょうか?”

 

こんごうは きりしま達に送ってもらい 自艦へ戻って来た、帰艦後、艦橋 CICなどの主要な所を副長と見て回った。

後部ヘリ庫では整備班長の怒号が響いていたが、それに反して 隊員の動きはよく、ロクマルもいつもより輝いて見える。

艦娘として 艦の装備品の機嫌が分かるのだ、ロクマルは何時でも全力で飛べる状態だ!

こんごうは ホワイトロックを見て、

「ロクマルは満足しています」とだけ告げた、彼にはそれで十分だった。

 

自室に戻り制服の上着をハンガーに掛け、ようやく一言、

「お久しぶり、ベッドさん。」と言い、寝床へ雪崩込んだ。睡魔に見舞われ落ちるまで、あっという間であった。

 

 

 

 

 

遠くで鳥のさえずりが聞こえる、ガーデンテラス、

中央に大きめのテーブルが一つ、そこに待つ、黒いドレスをまとう金色の髪の女性

 

「どうした、ぼーとしていないで、掛けたらどうだ」とぶっきらぼうに席を薦められた。

 

「ありがとう」と声に出してみた、声がする

 

「大分 力が安定してきたようだな、次元を超えたせいか」

その女性は 手慣れた手つきで 紅茶を入れて 私に差し出した

そっと 口にした、

「温かい」と言った

 

「同じ事を言った 潜水艦がいたな」とその女性はいった。

 

「ここは どこなの?」

 

「ここか? ここは概念伝達の上位層、一定の艦霊力を持つものが集う事ができる場所、ここだけは、次元や時間の概念はない」

 

再び 紅茶を口に含む、

「御祖母様と同じ 味がするわ」

 

「そうだろ、元々めんどくさがりな私に 紅茶という趣味を教えたのは 金剛だからな」

 

「御祖母様!?」

 

「ああ そうだ、足を怪我して以後、時々来ている、あの怪我が元で 霊力が流出しているが、その代償としてこの部屋のドアを開いた、残念ながらお前の母は 目前まで来たが今一歩 足らない、しかしお前は この部屋のドアをやすやすと開け、自在に出入りしている、その意味が分かるな」

 

「光の巫女」

 

「そうだ、ただ まだ今のお前では足らん」といい 自身も紅茶を飲んだ。

 

「最初の試練の準備は整っているようだな」

 

「最初の試練」

 

「まあ 今のお前の力なら問題にならん、しかし 相手は邪神だ、気をつけることだな」

 

「貴方は」

 

「私か? わたしは、コ ン ゴ・・・」

 

 

と言われかけた所で 艦内電話の音で目が覚めた。

ふと時計を見る、現地時間 午後2時過ぎ あれから 4時間も爆睡していた事になる。

 

電話をとった、相手は副長だった

「お休みの所すみません、鳳翔隊が 1匹捕まえました」

 

眠気も吹き飛び、

「分かったわ、すぐCICへいくわ」といい 電話を降ろし 制服を艦内服へ着替えようと思ったが、何故かまたもや、服がベッドの回りに散乱して 下着姿だった。

 

「ああ 艦内電話で良かった」と内心思いながら、艦内士官服へ着替え CICへ急いだ。

 

 

艦内通路に こんごうの足音が 響く、

パラオの海に近付く 次の戦い

静かに 波の音が響いていた。

 

 

 




こんにちは スカルルーキーです

「分岐点」 こんごうの物語を読んで頂きありがとうございます

気が付けば お気に入りの数が 120を突破しておりました。
登録して頂いた皆様 ありがとうございます。



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