分岐点 こんごうの物語   作:スカルルーキー

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「やらずに出来ないというのと、やって出来ないと言うのは全く意味が違う、そちはどちらを選ぶ?」



「私達は国民 最後の砦、私達の後には 非力で無防備な人々がいる」




21.最後の砦

パラオ 南部訓練海域

 

数隻の艦船が 単縦陣を組み パラオの海を突き進んでいた。

 

先頭の艦の戦闘指揮所では 一人の艦娘が 艦長席に座り、じっと腕を組んで、前方のモニター画面を睨んでいた。

 

旧型艦にくらべ、各種のモニターは 高解像度の液晶モニターになったおかげで、室内は明るい、各指揮所要員のヘッドセットも小型軽量化されている。

艦長用は 本当にスマートフォンのワイヤレスマイク並になった。

 

後方のオブザーバー席には もう一人艦娘が 興味津々といった顔で座っていた。

黒い髪を肩で切りそろえ、ポニーテールにまとめられたダークブラウンの髪とダークグレーの瞳が特徴。

第六十一駆逐隊と書かれた ヘアバンドで髪をまとめ やや大きめの髪留めが目立つ、

利発な顔つきで 前方のモニターを見ていた。

 

 

静かに 時は流れていたが、CICに声が響く!

「目標探知、方位060 距離 30km! 高度2000m 対地速度250km!」

 

即座に 砲雷長は

「数は?」

 

するとレーダー士官は

「数 12! 本艦隊へ真っ直ぐ突っ込んできます!」

 

艦長席に座る きりしまは その特徴的なメガネを右手の中指でかけ直すと、

「戦艦三笠を 護衛目標に指定、 教練 対空戦闘!」

 

「はい 艦長!」と砲雷長は返事をし、

「戦艦三笠を 護衛目標に指定、教練 対空戦闘よう~い!」と復唱した。

 

即座に 自席のパネルにある 対空戦闘配置のボタンを押す、艦内に 対空戦闘警報の電子ベルが鳴り響く。

一斉に 艦内各所の 防水ドアが閉鎖された。

「艦橋 CIC 第3戦速!」

きりしまの艦隊は 対空戦闘へ向け速度を上げた。

 

情報管理士官が

「三笠 FCS-3 及びリンク16 コンタクト!」

戦艦三笠に 搭載されているFCS-3とデータリンク確立を確認した。

 

レーダー士官が

「目標 2手に分離、アルファ群 6 ブラボー群 6、ブラボーは降下を開始しました!」

 

すると きりしまは 

「探知目標を エネミーへ変更! 主砲、CIWSで対応」

 

即座に砲雷長は

「CIC 指示の目標! 主砲 攻撃始め!」

 

攻撃士官は 管制卓のボタンを操作しながら、

「攻撃目標! アルファ群 6001から6006、 主砲 撃ち方 始め!」

 

その声を聴いた主砲管制士官は

「射線クリアー、弾種 対空弾頭、用意よし! 発砲!」

管制卓から ピストル型のトリガースイッチを引き出し、引き金を引いた。

 

おおよそ距離2万8千で、上空を進空して来る目標に対し、砲撃を開始した。

ダン! ダン!と艦内に響く、主砲射撃音。

 

前方のモニターには 艦橋からの映像が流れている、主砲が 小気味よい音をたてながら、対空砲弾を撃っていた。

空薬莢が 甲板上へ転がっていくのが見える。

 

きりしまの後方に座る、艦娘 秋月は

「凄い なんて速さ、私の長10cm砲は 海軍でも速射では負けた事がないのに 比べ物にならない!」

 

レーダー士官が

「6001、02ターゲットキル! 04、05同じく キル! 03、06低高度へ退避、回頭しています」

 

 

すると 砲雷長は

「攻撃目標変更 ブラボー群」

 

今度は 低空を侵攻してくる艦攻部隊が相手だ!

 

レーダー士官が

「ブラボー群 二手に分離、一波は本艦へ もう一波は 三笠へ向います!」

 

即座に きりしまは

「三笠へ向ったエネミーを 最優先攻撃!」

 

 

攻撃士官は 管制卓のドラッグボールを操作し、攻撃目標を選択

「攻撃目標! ブラボー群 6010から6012、 主砲 撃ち方 始め!」

 

三笠を襲う艦攻部隊に対して127mm砲の砲撃が始まった!

CICに響き渡る 砲撃音、

 

リンク16を管理する情報士官が

「三笠 回避行動開始しました!」

リンク16を通じて、三笠の回避運動方向が画面に表示される。

きりしまは 自艦の位置、三笠の未来予測位置、そして自艦へ迫る艦攻部隊の位置を見て

 

「艦橋 面舵10、ブラボー群と 三笠の間に割って入ります!」

 

右へ舵を切る きりしま

 

レーダー士官が

「6010、11ターゲットキル! 12 右旋回して海域を離脱しました!」

 

きりしまは

「ウオッチ! 逃げた機体は 投弾したの!?」

 

艦橋横の見張り員は

「いえ 艦長! 黒煙を吐きながら 右旋回! 降下しています! 撃墜判定です」

 

「攻撃士官! 残りは?」

 

「本艦へ向う 数3 11時の方向、距離 6千!」

 

きりしまは 冷静に

「主砲 対応!」

 

攻撃士官は 再度 目標を選択し直し、

「攻撃目標! ブラボー群 6007から6009、 主砲 撃ち方 始め!」

 

主砲管制士官は

「射線クリアー! 発砲!」

先程と同じく 艦首の127mm砲が まるで高射砲の様な速度で砲撃を 開始した

 

じっと モニター画面を見る 秋月

「凄い! 12機の攻撃機に対して、自艦の防御だけでなく 他艦の防御もできなんて、きりしまさんだけで これだけの能力があるなら こんごうさん達を含めると いったいどうなるの? こんごうさん達4隻で 南雲機動艦隊を完全防御できるかも!」

 

「ターゲット 6007、08キル、09ロスト!」

 

「ウオッチ 状況報告!」

 

「はい 艦長! 閃光2確認、残る一機は 海面へ激突した模様、周囲 航空機確認できません!」

 

砲雷長は

「全周確認!」

 

レーダー士官は

「現在 周辺海域に探知目標なし!」

 

きりしまは 艦長席に座り、慎重にモニターを見て、

「艦橋、きりしまです、三笠以下へ 艦隊集合進路指示を」

艦橋では 各艦の進路指示を行っていた。

 

 

「きりしまさん! 凄いです 単艦でこれだけの艦隊防空 私にはできません!」とはしゃいでいる 秋月をきりしまは 手で制した。

 

「きりしまさん?」

 

「秋月さん、敵が たった12機で諦めると思う? 軽空母ならあともう一波、正規空母なら二波はあるわ、レーダー士官! シースキミング注意して!」

 

レーダー士官は

「セクター精度 上げます!」

 

とたんに

「新たな目標探知! 数2 方位080、距離50km 高度30m 速度600km!」

 

「えっ 距離50km 速度600km!!」と驚く秋月、数分で到着する距離だ

 

きりしまは

「レシプロ機じゃないわ! 対艦ミサイル警報! VLS攻撃始め!」

艦内に 対艦ミサイル警報と 放送がはいる。

 

 

攻撃士官は即座に 管制卓を操作し、

「VLS 1、2番ハッチ 開放! SM-2 諸元入力!」

 

VLS発射管制士官が

「SM-2 諸元入力よし! 射線クリアー!」

艦内に鳴り響く、VLS発射警報音!

 

砲雷長は 各部署の状況を確認して

「CICの指示の目標 SM-2 ふた発 サルボー!」

 

攻撃士官、発射管制士官が復唱し、発射される2発のSM-2

 

艦橋前方に設置さているVLSから 対空ミサイルSM-2が轟音を立てて、2発 発射された。

 

「なっ なにあれ!」初めて 対空ミサイル、いやミサイル自体を初めてみた秋月はあっけにとられた。

しばしポカンと モニターを見ていた。

 

誘導管制士官が

「到達まで あと10秒、・・・5秒、・・・」

「ターゲット チャーリー キル! デルタ サバイブ!」

 

「ターゲット デルタ そのまま本艦へ突っ込んできます!」

 

きりしまは それでも慌てる事なく、落ち着き、

「主砲、CIWS 攻撃始め!」

 

主砲管制士官は、即座に管制卓を操作し、

「主砲、砲線クリアー! 発砲!」といい 127mmの砲撃が始まった。

 

CIC内部に響き渡る 127mmの発射音

 

「主砲で あんな高速の機体を迎撃できるの?」 秋月は驚きを超えて、不思議であった。 自分達の長10cm砲の砲弾は 時限信管。発射後、迎撃目標の前方で炸裂するようにしてある。だから高射装置からの諸元情報が重要になるが、航空機が高速で飛行してくる場合、この諸元入力が間に合わない。

結局、“諸元入力するより、砲測測定で射撃する方が早い”などという事がままある。

また、4基ある砲を1基の高射装置で管理する関係上、複数目標の迎撃が不得意だった。

 

数発を発射した後、

「ターゲット デルタ キル!」

と攻撃士官が報告してきた、同時に 艦橋横の見張り員から

 

「閃光 ヒト 確認!」と無線が入る。

 

対空レーダー士官は 再度 全周警戒を行い、

「対空 脅威目標 なし!」

続いて、

「対水上 同じく脅威目標 なし!」と水上レーダー士官が報告してきた。

 

砲雷長は、インカムを切り替え、

「ソナー、周囲探知目標は?」

 

ソナー担当士官は

「パッシブソナー、探知目標ありません、アクティブに切りかえますか?」

 

砲雷長はチラッと きりしまを見たが、きりしま 腕を組んだまま、椅子に掛けて、前方のモニターを睨んでいた。

「いや いい、警戒継続だ」と答えた。

 

秋月は もう興奮状態だった。

「きりしまさん、凄いです、これがレーダー射撃の威力なんですね! レーダーを積めばこの秋月の長10cm砲も お役に立てるのですね!」

 

興奮状態の秋月に対して、きりしまの返答は 冷酷だった

 

「残念ながら 秋月さん、それは無理よ」

 

「えっ」

 

「単純に高性能なレーダーを積んでも、それは要素の一つにしか過ぎないわ、一カ所を補強しても、他の部分が耐えられずに、システムが 壊れてしまう」

きりしまはそう言いつつ、まだモニターから目を離さない。

 

「砲雷長! 第3波に気をつけて!」

きりしまは ここで思考を切り替えた。

「第1波は 通常航空攻撃、 第2波は 対艦ミサイル、すると3波は?」

 

即座に

「ソナー! アクティブピン! 近くに潜水艦がいる!」

 

即座に 海底に向け アクティブピンが放たれた!

「アクティブ コンタクト! 距離6千! 11時の方角」

ほぼ正面に 待ち伏せされた! 誘い込まれたか!

「ソナー音紋照合!」と砲雷長が言うが、即座に

 

「駄目です、海底に着底しています! 沈没船と識別できません」

 

一瞬 ヘリを出して、狩り出す?と考えたが、通信モニターが開き、

「いずもです、きりしまさん、状況終了です」と伝えてきた。

 

「はい 副司令、 状況終了します」といい

「砲雷長、教練 状況終了、対空、対潜戦闘用具収め」と通達した。

 

「艦橋、副長いる?」

 

「はい 艦長」と副長がモニターに出てきた、

 

「教練終了よ、一旦戦列を離れて、殿について、操艦任せる」

 

「はい 艦長、操艦お預かりします」

 

モニターを切り替え、あかしに乗船中のいずもと繋がった。

「いずも副司令 戦列を離れ、殿へ着きます」

「ええ お願い、この後 三笠様の兵装テストの予定だから、警戒行動お願いね」

 

「はい 副司令」

 

いずもは タブレットを操作し、

「うん 今日の訓練もほぼ満足な結果ね、さすが士官学校主席ね」

 

「いえ 歴代成績では 副司令の足元にも及びません」

 

「ふふ。ではまず、第1次攻撃は、問題点は無。第2次はSM-2の打ち漏らしがあったけど、それも冷静に対応して防衛ラインを割り込んでないわ。3次の潜水艦は、あれはあかしの探査ドローンだけど、これも探知までの時間は問題なしね。」

 

するときりしまは、

「あの、質問よろしいでしょうか? 第1波の標的機なのですが、動きがAIにしては、すごくリアルでした。それにSM-2の打ち漏らしは、何か原因があるのでしょうか?」

 

「あっ あれね、あかし」

 

「はい! 副司令」とあかしが別モニターに映し出された

 

「へへー、きりしまさん、お疲れ様です、さて 今回のレシプロ標的機ですけど、普段なら AIが自動操縦しますけど、GPSが使えないので 彼らにお願いしました」

と言い画面が横を向くと、そこには数台のモニターを前に、机に突っ伏して沈没している兵員妖精。よく見ると瑞鳳隊である。

 

ようは こういう事であった。

本来なら 対空射撃標的機は AIがGPSを使い指定した空域を自動で飛行するが、この次元には まだGPS衛星がない、そこであかしは 瑞鳳隊に 標的機の操縦を頼んだのである、訓練海域の手前で、あかしの甲板上から 2m程の標的機 12機が打ち出された、その後操縦を無線誘導に切り替え 瑞鳳隊が引き受けわけである。

 

復活した瑞鳳隊隊長は

「きりしまさん、完敗です、前回のこんごうさんの件があったので 手練れを11人連れて来ましたが、全く近づけませんでした」

 

「ありがとう、隊長さん」というきりしま。

すると 隊長の横にいる 別の飛行妖精が、

「隊長、このままでは また瑞鳳艦長に怒られます! 暫く卵焼きもお預けですよ!」

「うっ それはまずい、何か方策を考えねば、 打倒 イージス艦だ」

すると 他の飛行妖精も

「おう!」と声を出した

 

それを見たきりしまは

「副司令、何か目的が違ってきているみたいですけど、打倒するのは 空母ヲ級とかにしていただくと有り難いのですけど」

 

「ふふ、まあいいじゃないの、貴方の対空網を突破できれば、空母ヲ級なんて 寝てても突破できるわ」

 

きりしまは 話題を変え、

「で、あかし あのチャカは何?」

 

するとあかしは

「今回は2発のチャカ改を使いましたけど、最初の1発目はオトリ、1発目で SM-2のレーダー情報を受信して 2発目で解析してリピートで誤魔化して近づいた、流石にイージスシステムで制御する127mmまでは誤魔化せませんでしたね」

 

するときりしまは メガネをかけ直し、

「ふふ~ん、あかし その手できたわけ、いいわよ、次回はきりしま特製 SM-2アルゴリズムで対応してあげる」

 

「えっ え〜! 勘弁してつかあさい」というあかし

きりしま特製アルゴリズム 別名「霧クマモード」 そうあの“霧くま”である。

 

「はいはい、その辺にして二人とも。秋月さんが固まっているわよ。」

きりしまの鋭い眼光に押されて固まる 秋月

 

「では きりしま、周囲警戒おねがいね」といい いずもは通信を切った。

その後 ようやく復帰した秋月を連れて 艦橋へ戻るきりしま

艦長席に座り、その後方のオブザーバー席に秋月を座らせた。

各種画面データを確かめて異常がない事を確認する。

 

今日は 本来は三笠の公試であったが、警戒艦が必要という事できりしまが出てきた。

泊地対空警戒は こんごう、はるなは先日の片づけ、ひえいは 撃沈中(休肝日)である。

単縦陣の先頭は これから兵装テストを行う、三笠 その後方には 長波、そしていずもも同乗しているあかしであった。

隊列の最後尾に付き直すと、周囲の対空警戒を厳とした

 

長波は 今回は標的船の曳航を担当する、一番の下っ端だからではなく 本人が志願してきた、操艦指導に陽炎も同乗している。

 

持参した双眼鏡で、前方で曳航船の準備をする長波を見て秋月は、

「長波さん、最近積極的になりましたね、以前はこう扱いにくい所があったのですが」

 

「まあ、あのままガキ大将でも、困るでしょうね。」とモニターを見ながらきりしまは答えた。

 

「ガキ大将ですか? まあその通りですけど」と笑いながら秋月は答えた。

 

「でも あの子 化けるかもね」ときりしま

 

「化ける?」

 

「そう、はるながね、“あの子は素質があるから 経験を積めば大成する”って言うの、こんごうもね、だから私もそう思っているわ」

 

「そうなのですか?」

 

「ええ 今日もその片鱗がみえているわ、単純な曳航ならいいけど、兵装テストの曳航は難しいものよ、きちんとした弾着測定の為に操艦には注意が必要だしね」

「それにね」

 

「それに?」

 

「彼女 美人じゃない、駆逐艦の中ではいい線行ってる、もう少し経験を積んで 艦霊力が大きくなれば、人気でるわよ」

 

「え〜 そうなんですか!」と驚く秋月

 

「言えば、“あきづき”さんも 人気あるわよ」

 

「えっ 私ですか?」

 

「ふふ、残念」といい ポケットからタブレットを取り出し画面を操作し、1枚の写真を表示して 秋月へ見せた。

そこには、自分によく似た白い制服を着た女性の写真、黒髪を肩で切りそろえ、頭には黒い鉢巻? 大きな瞳に利発そうな顔立ち、ちょっと胸部装甲が大きいのが...

 

「誰です?」

 

「駆逐艦 秋月さんの孫娘 護衛艦 あきづき DD-115よ」

 

「えっ 私の孫娘!」と言い 写真を食い入るように見た。

 

「ええ 私達のいた世界ではね、元々 私とはるなは舞鶴所属だったけど、その時に、私のパートナーが彼女だったの、色々お世話になったわ」

 

「パートナーとは いったい?」と不思議がる秋月。

 

「そうね、私の本来の任務は 大気圏の外側、まあ簡単に言えば宇宙から落下してくる 敵のミサイルを迎撃する事なの」

 

「宇宙から落下するミサイル、って そんな兵器が!」

 

「ええ 後20年もすれば出来上がるわ、すでにドイツでは原型の開発が進んでいるはずよ」

 

秋月は驚いた、そんな兵器が出来てくるとは!

 

「私をはじめ、こんごうやひえい、はるなもそれを大気圏ギリギリで迎撃できる様に設計されたの、特に私は それに特化した設計となっているわ」

「だから 問題があるの、その弾道ミサイルを迎撃している時、数秒で勝敗が決まるの、集中しているから他の防空任務が殆ど出来ないのよ」

「その時、あきづきさんが、僚艦防空を担当してくれるわけ 本当、任せて安心だったわ」

 

「彼女 そんなに優秀なのですか」

 

「ええ、でもね、その彼女達の基礎を作ったのは 彼方の次元の貴方です」

 

「私ですか?」

 

「ええ、戦後発足した海上自衛隊では、防空担当艦のネームシップは必ず“あきづき”です、貴方の名前は 引き継がれています」

「それだけ、秋月の名前は 重いという事です、そしてその名を受けた子は皆その責務を果たして来ました」

きりしまは 静かに秋月を見て、

「秋月さん、私の僚艦をお願いできるかしら?」

 

「えっ 私がですか?」

 

「ええ 貴方にはその素質があると思うわ」

 

少し考え、秋月は、

「よろしくお願いします きりしまさん」といい 右手を差し出した。

 

「では お願いね」といい きりしまは笑顔でその手を握った。

 

 

その光景を 別モニターで見ていたいずも、そしてその画面を中継して見ていた三笠。

「まあ やっぱり落ち着く所に落ち着いたわね」といずもが言うと、三笠は

 

「済まぬの、いずも殿、こんごう殿達に色々と指導してもらって」

 

「いえ、三笠様、自分を含め、こんごう達も皆、彼方の次元の先達の方々に教えて頂いたのですから、自分達が後身に指導するのは務めです」

 

「では 儂もご指南願おうかの」

 

「はい 三笠様」といい いずもは画面を切り替え 長波を呼び出した

 

「長波さん 準備はできましたか?」

 

すると長波は、

「はい いずもさん、あかしさんから標的船受け取りました、曳航準備完了です」

長波の後には 陽炎も見える、

 

「では 計画書通りに右舷へ回り、6千で並走してください」

いずもは 横に座る、あかしへ

「あかし、準備は?」

 

「はい、副司令 FCS-3リンク確認、各種モニタリング機器異常なし、何時でもいけます」

 

長波は 三笠の右舷へ回り込み、6千で艦を安定させた

いずもは 各艦の配置を確認したあと、

「各艦へ通達、これより、三笠主砲試射開始します!」と無線で通報した。

弾着支援の為 あかしから、いずも観測機SH-60Kが離陸

 

三笠のマストに国際信号旗のUとYが掲げられた。

 

三笠は 艦長席ではなく、露天艦橋にいた。

「副長、やはりここが一番落ち着くな」

 

すると 三笠副長も、

「はい 艦長、しかし昔に比べ この露天艦橋も色々と装備が増えましたな」と回りを見回した。

そこには、今までの測距儀はなく、防水型の各種のモニターが数個並んでいた。

それらが各種の情報を 映し出していた。

高倍率の双眼鏡も数機セットされている。

 

操舵手は 今回から艦橋内部へ移動したが、艦内はインカムでつながっていて操艦自体には問題がない。

勿論 艦橋内部には 艦長席もあるが、三笠は 戦闘はここで指揮を執ることにこだわった。

 

「では 副長、前部主砲から始めようかの」といい

左手を腰に当てがい、右手を前に振りだして!

「前部主砲、目標 標的船、試射始め!」と号令をかけた!

 

副長は

「前部主砲 目標 右舷 標的船 試射 始め!」と復唱した

 

艦橋内部 中央に位置する戦闘指揮所(CIC)では、

砲術長が、

「戦闘指揮所 指示の目標 右舷 標的船 主砲 整合よう~い!」

 

前部主砲攻撃士官は

「主砲、弾種 訓練弾、ヒト発、整合用意よし、射線よし」

 

それを確認すると

「てっ!」と号令をかけ、トリガースイッチを押した。

 

ダン!と ヒト発前部主砲から砲弾が標的船へ発射された。

 

標的船を首からかけた双眼鏡で見る三笠

 

「弾着! 今!」と戦闘指揮所から声があがる

標的船の手前に大きな水柱がたった。

 

「三笠CIC いずも06 前200」

標的船の手前200mに弾着しようだ。

 

それを見た三笠は

「やはり 初弾命中とはいかなかったか」と残念がったが、

副長は 自慢の髭をなぞりながら、

「艦長、初弾 200mなら上出来です、次こそは当てて見せます」といい

「戦闘指揮所 諸元整合いいか!」

 

「前部主砲 諸元修正よろし! いけます!」

 

「撃て!」

 

再び 1発前部主砲が発射される、甲板にゴンという音共に空薬莢が放出された。

「弾着! 今!」と戦闘指揮所から声があがる

 

即座に弾着観測機から

「命中!」と声が上がった!

 

「よし」と笑みを浮かべる三笠、ヘッドセットを使い戦闘指揮所へ

「次、3連射 準備でき次第 攻撃始め」

 

戦闘指揮所では 三笠の指示を砲術長が復唱し、即座に訓練弾を3発 前部主砲のマガジンラックへ自動装填、そして、三笠はモニターを確認すると 再び

「撃て!」と 標的船を指示し射撃を指示した!

 

ダン、ダン、ダンと小気味よく前部主砲が発射された

「弾着! 今!」と管制士官から声があがる。

 

「三笠CIC いずも06 お見事!全弾命中だ」

観測機から報告があがった。

 

「おお やった!」と歓声が上がったが 三笠は

 

「馬鹿者! まだ後部主砲が残っておる! 気を抜くでない!」と一喝した。

再び 緊張の走る三笠艦内

 

「後部主砲、目標 標的船、試射始め!」と三笠は再び命じた。

 

前部主砲と同じ要領で 試射が行われた。

後部主砲は前部主砲の諸元をいち早く取り込み、初弾から近弾を叩きだし、2射目で命中、その後の三連射でも全弾命中となった。

 

その後 長波は 曳航船を新品に取替えた。 そして

 

「では、今日一番の教練と移ろうかの。」と三笠は言うと、艦隊コミニュケーションシステムを使い、長波を呼び出した。

 

「では 長波、今日の教練の一番の課題にはいろうかの」と言うと、長波は

 

「はい 三笠様 お願い致します」といい 一礼した。

これから行なわれるのは 行進間射撃

 

今までの射撃は テストが主目的であったので長波と三笠の船速を同調させて砲撃していた、いわば相対速度 零である。

しかし 行進間射撃は 三笠が先行する長波を追い抜く間に射撃を加える、命中させるには高度な射撃管制装置や照準装置、兵員の練度が要求される。

今の三笠の兵員妖精は先代の三笠の兵員妖精達だ、練度は十分、射撃管制装置も最新式である、今回は指導役にいずもCICの要員が数名乗って指導している。

 

一礼した長波を見た三笠は ついその可愛さに

「そうじゃの、もし儂の砲撃を1発でも躱せたら・・」と言うと、

 

長波の後方にいた 陽炎が、

「1発につき、間宮羊羹 1本!」と言い切った。

 

「ほう 陽炎 そうくるか?」という三笠、やや言葉を失う長波をみて、

 

「いい長波! 私がこんごうさんと演習した時は 12発の内 1発は躱せた、長波 やって見せなさい! 貴方は夕雲型の最新鋭駆逐 出来ない事はない!」

ようは 陽炎は 三笠の胸を借りて やって見せなさいといっているのだ。

 

意図を察した三笠も、

「長波、最初から出来ないといって諦めるのは簡単じゃ。しかしやらずに出来ないというのと、やって出来ないと言うのは全く意味が違う。そちはどちらを選ぶ?」と問うたが、

長波の返事は最初から決まっていた。

 

「よろしくお願いします! 長波 全力で回避してみせます!」

 

「では 始めるとするかの」といい、別モニターのいずもを見たが、にこやかに微笑んでいるだけだった。

 

長波は三笠と並走する航路をとった、訓練は、前後砲塔の放つ 計12発の訓練弾を長波の曳航する標的船へ命中させる事。

 

2隻が並走するのを確かめると、いずもは

「では 教練 開始します」と無線で告げた

 

即座に三笠は

「全砲門! 目標 標的船! 撃ち方 始め!」と命じた。

 

しかし、それより一歩早く 長波は

「機関 強速! 取り舵一杯!」と言い 急速に三笠との距離を詰めた。

 

三笠は

「ほう 何をする気じゃ?」といい 長波の動きを見た

 

長波は 急速に三笠に接近した後、速度を調整し、なんと三笠の真後ろへ着こうとしていた。

 

それを見た 陽炎は驚いた。

“へえ~、あの短時間によく考えたわね、三笠様の艦は こんごうさんと違い、前後に砲がある、その射線に 影となる所がない、ならば自身を盾にして 標的船を守るという事ね”

 

長波は、以前 陽炎から こんごうとの演習の件を聞いていた、その後副長達と検討したが、結果として“こんごうさん達に搭載されている速射砲には かなわない”という答えであった。

その発射速度、精度とも今の自分たちではどうする事もできないとあきらめかけていたが、砲術長が、「しかし どんな砲も最低射撃距離がありますから、それを割り込めば、単なる127mmの筒ですよ」と何の気なしに言った。

 

長波は

「それだ! もしそんな状況があったら一気に相手の懐に飛び込んで 近接戦闘で仕掛ける、雷撃戦よ!」

 

その場にいた全員が

「ええ! 本気ですか!?」

 

すると 長波は

「いい 確かにこんごうさん達には通用しない戦術かもしれない、でも深海凄艦には別よ、前に はるなさんに聞いたの、この時代の電探、レーダーっていうそうだけどそんなに精度が良い訳ではないって、という事は、向こうが こちらを“ただ見えている”事を念頭においておけばいい! ならば懐に一気突っ込んで! こちらの土俵へ引きずりこんでやるだけよ」

この会話以降 長波は機会ある毎に、艦を如何に素早く操艦するかを訓練してきた。以前、艦隊行動がとれず右往左往していた頃と比べると、今日の動きはまるで別の艦だ!

 

 

長波の動きを見て三笠は

「ほほ~。やるの、長波。この1週間でまるで別の艦娘のような動きじゃ。しかし、相手が悪かったの。」と言い、

 

「副長、機関 第3戦速! 小刻みに進路を変えて 長波を誘え」と伝えた

すると副長は

「三笠艦長、意地悪ですな」と髭を触りながら答えると、

「ふふ、いい子には試練を与えるのが この三笠流じゃ、金剛もそうして育てた、その結果が あの護衛艦 こんごう殿じゃ!」と楽しそうに答えた。

「さあ 長波 ついてこられるかの」といい 後方に必死に食ら着く長波を見た。

 

今まさに 老兵と新兵のつばぜり合いが始まった!

 

加速して 引き離しにかかる三笠を見た長波は、

「副長 機関 強速! 食らいついて! 引き離されたら、回り込まれて 側面火力で押し切られる!」

 

「はい 艦長! 操舵手、操舵適時判断で操舵してよし!」

 

「はい 操舵任されました!」といい 操舵手の手にも力が入る

 

そう言う間にも 三笠は 長波を振り切ろうと小刻みに進路を変えた。

 

必死に食いつく長波を見ながら 艦橋後方で 腕を組みながら、じっと長波を見る陽炎。

“うん、いい顔になってきたわ。勢いに流されず、冷静に状況を判断している。一つ階段を上がったかな。こうなると黒潮も危ないわね”と思いながら、長波を見ていた。

 

長波は

「副長、曳航船! ちゃんと影になっている!?」

 

「はい 艦長 今の所は、しかし このまま左右に振れが大きくなると まずいです」

 

「うっ、乗せられた?」

長波は、ここでようやく三笠の思惑に気が付いた。三笠に追従する為に船速を上げて、食いついたが、小刻みだった進路変更は先程からやや大きくなりつつある。振れ幅が大きくなる。船速があるので曳航している標的船が自艦の影ではなく、大きく外側に流れている。

 

長波は即座に

「操舵手! 三笠の動きに惑わされないで、振れ角を最小にして 後部主砲の射線に気をつけて!」と怒鳴った

急激に 左右の動きを止め、三笠後部主砲と曳航船の間に入るように舵を切った!

 

それを 露天艦橋から見た三笠は

「どう思う 副長?」

 

すると副長は

「まあ、及第点ではないでしょうか? こちらの意図を早くも見抜きました、これが“ぜかまし”とか“ぽいぽい犬”なら今頃 撃沈判定ですね」

 

すると三笠は

「そちも よう知っておるの?」

副長は

「まあ 高天原でも 皆 見ておりますからね」

 

「では これも 東郷や秋山達が見ておるという事かの」

 

「はい 多分、皆 三笠様が 楽しそうにしておる姿を喜んでおりましょう」

 

「さて このまま追いかけっこという訳にもいくまい、仕掛けるかの」

といい そして

「面舵 一杯 側面に回り込む!」

 

副長は 伝声管の蓋を開き

「お〜もかじ! 長波の後方へ回りこむ!」と艦橋へ伝えた。

艦首が 右へ急激に動き始めた、波を切り白く航跡を右へ曳いた。

 

長波艦橋では

「三笠 面舵! 後方へ回り込みます!!」と副長が叫んだ

 

長波は 少し悩みそして、

「三笠 左舷方向へ! 大回りしながら後部主砲の射線を妨害して!」

 

三笠の左舷方向へ やや大回りしながら、曳航船と自艦の位置を調整して 後部主砲の射線の妨害に出た。

 

海原に2隻の艦の航跡が円を描いていた。

ほぼ 一周回ったところで、三笠は

「では 取り舵一杯、さて上手くできるかの? 長波」

 

副長は先程と同じように 伝声管で 取り舵を伝えた。

急速に 旋回方向を変える三笠!

 

その動きを見た、長波は

「副長! 取り舵一杯! 三笠の航跡に交叉するように 右舷へ回り込んで!」

左回頭を始めた三笠の外側へやや膨れながら 自艦と曳航船の位置を取り直していた。

 

「やるの、長波」と感心する三笠

 

「艦長、そろそろ頃合いでは?」という三笠副長

 

「では、仕掛けようかの」

 

「はい 艦長、戦闘指揮所! 合図あり次第発砲できるように準備! 前後砲塔 各装弾数6発」

 

「戦闘指揮所 了解、準備できています」と返答が帰ってきた。

 

三笠は 自分の左耳に装着したヘッドセットを操作し、

「総員! 衝撃に備えよ、機関 後進一杯!」

 

戦艦 三笠に装備された、可変ピッチスクリューが逆ピッチになり、船速が一気に減少、まるで 急ブレーキをかけたような勢いで減速した。

第3戦速で 追従していた長波は この減速に間に合わない!

勢い余って 三笠の前方へ躍り出た。

 

長波は

「まずい!! 撃たれる」と叫ぶが、三笠の真横へ並んでしまった。

 

「主砲 撃ち方 始め!」と三笠が叫ぶと、一斉に前後砲塔が射撃を開始した。

ダン、ダン、ダン、と小気味良い音で射撃が続く

 

長波も

「振り切って!」と叫んだが 次々と標的船へ弾着している、この時お互いの距離は1千と少し、もう必中距離であった。

急加速する長波であったが、三笠も加速し、それを追った。

次々と標的船へ弾着する砲弾、ほぼ水平からの射撃である。

小刻みに三笠の艦体が波で揺れるが、砲身の仰角制御は自動追尾機能で補完されていた。

しかし、なにかの拍子で 数発 標的船の後方へ弾着した。

 

それを見た三笠は

「やはり、全弾命中とはいかなかったか?」

 

すると副長は

「初の行進間射撃で8割近い命中弾がでれば、合格なのではないでしょうか。長波にもご褒美がいるでしょうし。」と笑顔で語った。

 

「まあ よい、では撃ち方止め、主砲攻撃止め」といい モニターにいずもを呼び出した。

 

「いずも殿 どうじゃ?」と三笠が問うと、いずもは、

 

「初回の試射としては合格ではないでしょうか。初回からああいう実戦的な射撃ができるのは、流石に三笠様の妖精兵員ですね。」

 

副長は

「おそれいります、いずも殿」と一礼した。

 

「しかし、長波さんも頑張りましたね、三笠様の機動力が上回ったとはいえ、判断は良かったというべきでしょうか?」

 

「うちの副長は及第点を出したが、いずも殿は?」

 

「まあ 自分なら70点というべきですね、着眼点はいいですが、機動力では三笠様が上である事は分かっていましたから」

 

「厳しいの、では いずも殿ならどうする?」

 

「自分なら...」と言いかけた所に 別モニターが起動し、

 

「2、3発ぶち込んで、一気に逃げ切ります!」と陽炎が答えた

 

「お主、そこまでするかの」と呆れる三笠

 

「三笠様、間宮羊羹がかかっているのです。それ位当たり前です。威嚇射撃で対応が遅れた所を一気に引き離し、再度後方へ付き直す。」

間宮羊羹 恐るべし。

 

するといずもは笑いながら、

「まあ 三笠様がそれ位で、尻込みする方でもありませんしね」

 

「それで、長波はどうした?」と三笠が聞くと 陽炎の映るモニターが長波を写したが、

そこには 長波、副長以下の幹部が集まりなにやら話し込んでいた。

 

「陽炎、長波達は何をしておる?」と三笠

 

「はい、今の追いかけっこを記録して 後で反省会をするそうです」

よく見ると チャートデスクにあつまり、鉛筆で航跡を記録していた

 

「陽炎、そちが指示して 長波を下げよ」といい

「さて 残りの教練を行うとするかの」と 次の教練へ移った。

 

次は 対空戦闘教練である、またもや瑞鳳隊の操縦の無線標的機を 6機を迎撃するのであるが、瑞鳳隊の隊長は先程のきりしまとの戦闘で ヒントを得ていた。

“超低空飛行で侵攻すれば見つかりにくいのでは”と考えた

 

三笠に対し、左舷、右舷の両方向から超低空で侵攻してきたが、三笠のFCS-3は的確にそれをとらえていた、結果は言うまでもないが、CIWSの射程圏内に隊長機が入ってきたのには いずもも驚いた。

後に、主翼の前縁に海水の塩の塊を作るまで超低空飛行訓練を繰り返した、瑞鳳隊の始まりであった。

 

対潜訓練は、あかしの潜水ドローンを使っての模擬攻撃であるが、こちらも はるなの探知アルゴリズムを改良して搭載してあるので問題なく発見できた。ただアスロックが未搭載なので、12式での模擬攻撃となったが、三笠は、

「トラックに行けば 神通や不知火達がおる、儂が見つけて、狩りは彼女達に任せればよい」といって 無事終了となった

 

全ての教練を終了し、パラオへ帰還する事となり、いずもは、きりしまに

「きりしま、露払いをお願い」と言ったが、急に画面が開き、陽炎が

 

「いずもさん、いいかしら」といい、

 

「なんでしょうか 陽炎さん」

 

「先導艦 長波にさせてもらえないかな?」

陽炎の言葉を聞いて驚く 長波

「えっ 先導艦ですか?」

 

「いい長波。いつまでも私達のお尻ばかり見てても仕方ないでしょう! 貴方に続く後輩の子達も建造されているのよ。きちんと指揮してパラオへ帰還しなさい。」

 

それを聞いた三笠も

「では 長波、頼もうかの」といい いずもも、

 

「はい、それでは、長波さんを旗艦に、きりしま、三笠様 殿はあかしで帰ります、それと帰りは 戦術ディスプレイ情報を切断して 推測航法で帰りますので 長波さん、変針点指示お願いしますね」といい 情報システムを遮断した。

これから先は 天測航法と、発光信号で通信を行う。

 

「え〜!!」と慌てる長波であったが、意外に立ち直りが早く、

「長波様 パラオへ帰還します!」と元気にいい、

「通信妖精、各艦指定の位置へ艦隊合流、機関 原速」といい、

「航海長、天測! 現在位置確定して、羅針盤妖精 進路指示お願い!」と矢継ぎ早に指示を出した。

 

その姿を見ながら、陽炎は

“うん いい感じになってきたわ、この短時間でこれだけ出来れば 上出来かな”と思いながら 厳しい目で長波を見つめていた。

 

きりしまは 長波の後方へ着き、各種警戒を行いながらパラオを目指した。

勿論 きりしまの水上レーダーには すでにパラオが映っており、泊地で警戒中のこんごうと データリンクができていたので 帰り道に迷うなんて事はないのだが、これも長波の訓練の一環 そっと状態を見守っていた。

きりしまの艦橋で、前方を航行する長波を見ながら、秋月は

「皆さん 長波に期待されているみたいですね」と言うと、きりしまは、

 

「まあ 三笠様の教育方針は 可愛い子には 試練を与えよ ですからね、それに陽炎教官がついていますから、この短時間で変貌したのも分かる気がするわ」

 

「あの 変な事聞きますけど、なぜこんごうさん達は 陽炎さんの事を 教官と呼ぶのですか?」

 

「ああ それね、私達の世界では、駆逐艦 陽炎さんは戦後まで生き残り、私達 艦娘士官学校の鬼教官だったの、私を始めこんごう達も死ぬような思い、いえ、死にかけたわ」

といい 言葉を切った

 

「死にかけた?」と秋月

 

すると きりしまは、

「そうね、色々経験させてもらったけど、私的には あの登山訓練が一番きつく、思い出に残るかな」

 

「登山訓練ですか?」

 

「あれは 艦娘士官候補生学校の1年次の終了試験の時の事よ、富士の裾野に広がる演習場で 1週間の野営演習があったわ、勿論 宿泊施設がある訳じゃないから、テントの設営から、炊事場の設営とか色々と自前でやる必要があったの、参加したのは 16名の艦娘候補、4名のチームで行動していたから、計4チームよ、私達は こんごうに ひえい はるなに私」

 

「昔から 4人で行動されていたのですね?」と秋月が聞くと

 

「ええ、まあ彼方の次元の戦艦 金剛様が よく御姉妹を佐世保へ呼んでいましたから、私達も小さい頃から 顔見知りでしたし、元になる艦霊も同じ金剛型ですしね」

「気の合う仲間というより、姉妹に近いかしら」

 

「えっ きりしまさん達は姉妹じゃないですか?」と驚く秋月。

 

「そうよ、おばあさまの世代は 艦霊が姉妹でも、私達は 本来は別の家系に繋がるの、でも 戦艦 金剛型の家系である事には変わりはないわ」そう言いながら

「話を戻すわね、訓練最終日 最大の試練とも言うべき、山中行軍があったわ 20kg近い装備を担いで、富士の演習場の中30kmを12時間で行軍するの」

 

「30kmを12時間ですか? 意外に遅いですね」

 

「ええ それが普通の道であればね、訓練前日の夕方に 各班に1枚の地図が渡されるわ、出発地点と最終地点、途中の検印場所2カ所の地図よ、ただそこに行くには 道らしい道がないの、検印所の一部は富士の樹海に隣接する場所よ、迷い込んだら出られないわ」

 

「えっ、どういう意味ですか!?」と驚く秋月。

 

「ようはこういうことよ、20kgの荷物を担いで、道なき道のジャングルの中を 乙女4人で 30km、12時間以内に指定2カ所を通過してこいという訓練よ」

「おまけにね、なんと地図を見てびっくり、出発地点は宿営地から反対側の30km先なのよ、そこまでは自力で移動する事になっているから結局皆 夜中に宿営地を出て演習場の道をトボトボ歩いて出発地点へ向うわけ、出発地点についた時には大半は疲れ切っていたわ」

 

「きりしまさん達もですか?」と秋月は聞いたが、

 

「いえ こんごうがね、“目標は 山中行軍を戦い抜く事よ、その前段の移動で負けてはダメ”ってね、早めに宿営地を出て、休憩しながら、出発地点に向ったわ、お蔭で出発地点に一番のり、休憩も十分とれてベストな状態で山中行軍に向ったの」

 

聞き入る秋月。

 

「各チーム 指定時間毎にスタートしたわ、私達は3番目よ、まず先導はひえいよ、サバイバルナイフを使いながら 道なき道を進んでいくわ、そのすぐあとにこんごう、前方警戒しながらひえいと二人 道を切り開いていた、その後ははるな、地図とコンパスで現在位置を確認しながら進んでいたわ、そして殿が私、後方警戒よ」

 

「あの山中行軍ですよね、なぜそんなに警戒する必要があるのですか?」

 

「ふふ。山中行軍って、演習なの。だからどこで敵に出合って攻撃を受けるか分からないわけ。実際、私達には自衛用の自動小銃と拳銃が渡されていたわ。弾は訓練用の空砲ですけど、敵に出くわしたら、空砲で威嚇しながら逃げなさいという設定だったわね。」

 

「そんな!」と唖然とする秋月。

 

「そして、その敵役が 陽炎主席教官と皐月次席教官よ」

 

「えっ 陽炎さんと皐月さん?」

 

「ええ そして最初に二人に接触したのは2つ目の検印所よ、そこまでは道がないだけで順調にきたわ、でもその検印所は違ったの、少し広めの空間の真ん中にテーブルがあってその上に 検印の判が置いてあったわ、ひえいが 検印所を見つけて、広い空間へ飛び出そうとした瞬間 こんごうが引き留めたの」

「それでね ”鳥の声がしない!“て言ったの、皆で茂みに隠れてその検印所を監視したわ、そしたらいたのよ、二人が反対側の丘の上で小銃を構えてまっていたわ」

 

「じゃ」と秋月が言うと、

 

「そのまま 広場に出ていたら こちらは威嚇されて失格になっていたわね、結局 こんごうが、おとりになっている間に ひえいが検印を奪って、茂みに逃げ込んで捺印するという戦法にでたわ、でもそこで想定外の事が起こったの、陽炎主席教官たちは空砲ではなく 実弾を撃ってきたわ!」

 

「ええ!!!」と余りの事に 席を立つ秋月。

 

「もう凄かったわよ、小銃抱えてオトリになって逃げ回るこんごうへ、二人とも遠慮なく小銃を撃ちまくってたから」

そう語ると、きりしまは、秋月を見ながら、

「その隙に脚力のあるひえいが、全力で茂みから飛び出して、検印を奪って、隠れるはるなへ投げたわ、はるなが台帳に捺印して再び逃げ回るこんごうへ、印鑑を投げてそれをこんごうが拾い、テーブルに戻したの」

きりしまは、ゆっくりと息をしながら、

「ひえいが茂みの中から威嚇応戦する間に、こんごうは別の茂みに雪崩こんだの」

「しばらくして、こんごうが合流してきたけど 姿を見てびっくりしたわ、顔は跳弾した石や木の枝で創だらけで、頬から血が流れていたわ」

驚きの表情を浮かべる秋月へきりしまは話を続け、

「治療しようとしたけど、こんごうが“すぐに移動するわ! 追いかけてきてる!”って言って、皆で直ぐに移動をしたの」

「で、その後は!?」と秋月。

 

「あとはもう 追いかけっこよ、姿が見えたと思ったら 実弾で威嚇される、威嚇って言ってもすぐ真横に撃ちこまれるから こっちも必死で逃げたわ、ここまで来て撃破判定されたら 1年留年ですしね、事実上の退学よ、皆で必死に逃げたわ、でも運が悪く、私がね、足を滑らせて 沢に落ちたの」

 

「そこでね、右足を、くじいたようで、歩けなくなった」

 

じっと聞き入る秋月。

 

「私はね、このままだと時間内にゴール出来ないから、皆で先に行って!って言ったの」

 

「でもね、こんごうは“ゴールする時は 4人じゃないと意味はない!”とか言ってね、なんと私を担いで、歩きだしたの!」

 

「えっ!」

 

「私の荷物は ひえいとはるながもってくれたわ、でもこんごうは 最後まで自分の装備は自分で抱えていたわ、背中に私を背負って、前には自分の装備抱えたままでね」

「小銃を杖代わりにしながら、必死に森の中を歩いていったの、途中何度もこけそうになりながら、私は 置いていってといったけど、“けが人は静かにしてろ!”って怒られちゃった」

 

「私達の行き足が鈍ったのを見て 陽炎教官達も追いついてきてね、後から実弾撃ちこまれる事態になったけど、それでもこんごうは 私をおろさなかった、決して私の体重が軽いわけじゃないわ、私を背負って 自分の荷物でバランスを取りながら歩いていたの」

「でも 体には物凄い荷重がかかるわ、こんごうはそれを艦霊力だけで耐えて見せた」

 

じっと 遠くを見ながら、きりしまは

「ゴールが見えてきた頃よ、こんごうがふらつきだしたの、数時間に渡り艦霊力だけで 私と自分の荷物を支えて来たの 霊力のコントロールが上手くできなくて、力加減が出来なくなっていたわ、先にゴールしたほかのチームのメンバーが助けようしたけど、こんごうが触らせなかった、触った瞬間に失格になる事をおもいだしたから、ひえいもはるなも 私の装備で一杯だったし それに後方から陽炎教官達が またもや威嚇射撃してきて 近づくと危ない状態だった」

 

「それでも 彼女は諦めなかった、“私達は国民 最後の砦、私達の後には 非力で無防備な人々がいる”、って言いながら 一歩 一歩 歩いて行った」

 

しばし 黙る秋月。

「それで 結果は?」

 

「見ての通りよ、私達 4人は制限時間一杯で ゴール、1年次最終試験を通過して 2年次へ進級できたわ、そして今は こんな立派なイージス艦の艦娘よ」そう言うと きりしまは 前を見て、

「それ以来 私達は 何があっても諦めない、最後まで足掻きながら、のたうってでも 先へ進む そう皆で決めたの」

 

「きりしまさん?」

 

「私は ただあの時のこんごう達の気持ちに答えたいと思っているわ、その為に 今の自分に何ができるのか、何をしなければならないのか ずっと考えている、その結果が今の 私 防空担当艦 きりしまよ」

 

そう言うと きりしまは席を立ち、秋月に向かい、

「ねえ 秋月さん、駆逐艦 秋月、いえ 艦娘 秋月として守るべきものがある?」

 

秋月はそう聞かれて、答えに詰まった。

今までは、ただ“深海凄艦を撃滅せよ”と教えられてきたが、それだけではダメだ!と言われている。

ふと 昨日 幸せにほほ笑む由良、提督、パラオの人々を思い出した、そして 今 トラック泊地にいる姉妹艦を想い出した。

 

「私は、提督や、由良さん、泊地の仲間 このパラオの人々を 長10cm砲と高射装置、この力で、守りたい」

そう 素直に答えた。

 

するときりしまは、

「なら 自らを磨くことね」と答えた。

 

「磨く?」

 

「こんごうの名前の由来を知ってる?」と秋月に問う きりしま

 

「たしか 戦艦金剛さんは 金剛山から取られたと記憶しています」

 

「そう。でも“こんごう”には別の意味もあるの。金剛石 別名 ダイアモンド。地球上で最も硬い宝石。その硬さから、強い絆と不屈の意思 という石言葉で呼ばれているわ。」

 

「強い絆と不屈の意思」

 

「こんごうは その名に恥じぬよう、いつも自身の艦霊力を磨きあげてきたわ、それこそ 幼い頃から、戦艦金剛様のご指導を受け、先代 護衛艦 こんごう、母親の叱咤をうけながら」

「その努力の結果が スーパーイージス艦 こんごう! 自衛艦娘の中で、ただ一人 クラインフィールド、この時代でいう “光の障壁”と呼ばれる 艦霊力の集合体を自在にコントロールする力を持ったわ」

 

きりしまは 自身のメガネを掛け直し、

「こんごうはね、いつも笑顔で、優しくて、時々怖くて、自信に満ちているわ。正にこのスーパーイージス艦の戦隊統括に相応しい艦娘よ。この時代の長門さんや大和さんにも決して引けを取らないと、私達は思っている。」

「でもね、それは私達の見えない所で少しづつ努力を積み上げた結果なの。確かに、士官学校の成績は私がダントツの1位よ。はるなが次席、ひえいは真ん中で こんごうは後ろから2番目。でもそれは成績という数字の評価。それ以外の心の強さとか、想いの強さとは考えないもの。」

 

「心の強さ」と秋月はつぶやいた。

 

「ねえ、艦娘にとっての 心、技、体って何だと思う?」

 

「心、技、体ですか?」と聞かれ、戸惑う秋月。

 

「芯(しん)、心の強さ。どんな苦境にあっても、邪心に負けず、己の信ずる道を進む強き意思。」

「技、己の装備を使いこなす技、日頃の錬成によってなされた積み上げた力」

「体、強き心は強き体に宿る、日々の教練を通じ、如何なる事態にも負けない体、精神同調できるしっかりした器を作りあげる事」

 

そう言うと、きりしまは

「こんごうは、それを自身の行動で私達に教えてくれた、だから私は彼女のその気持ちに答えたい」

 

きりしまは そう言うと、

「さっきの話に戻るわね、レーダーを装備できれば、防空能力が向上するか? それは 否よ、レーダーは ただ情報を与えてくれるだけ、その情報の意味を考えなければだめよ」

 

「情報の意味ですか?」

 

「そう いい例を見せてあげるわ」といいながら 艦長席を回転させ 秋月に対峙するようにして、

「戦術ディスプレイ フルインフォメーション」と音声命令を出した。

 

そこには 複数の投影ディスプレイが開いた、秋月はその数に驚いた。

「こっ これはなんですか?」

 

するときりしまは

「これは、私の艦で現在 稼働中のレーダー情報よ、対空、対水上、対潜ソナー情報の表示画面及び 航海進路情報よ」

 

「こっ こんなにあるのですか!」

 

「そうよ。私の艦の各戦術士官はこの情報の中から、必要な情報を抜き出して、戦術データとして識別していくわけ。例えば」と言い、一つのディスプレイ画面を拡大した。そして、

「CIC対空警戒士官! このフレンドリーコード2001の情報を頂戴」と言うと、

 

するとCICの士官は、

「はい 艦長、2001は 15分程前に パラオから離陸した二式大艇です、トランスポンダーコード 4001、高度2000、速度300で 泊地外周を飛行しています」

 

「では あかしの改修した機体ですね」

 

「はい、きりしま艦長 対潜試験装備機です」

 

「では、引き続き 上空監視を続けなさい」といい 画面を切り替えた。

「一つの画面だけでも、これだけの情報があるわ。この光点一つ、一つの意味を考えなければ、高性能レーダーは単なる情報を垂れ流す機械にしかならない。」

 

「情報の意味」と秋月は考えだした。

 

「私の次元、このレーダーが開発された当時、米軍はこの意味が理解できなくて、多くの艦船で 味方や岩や島を誤射する事件が 相次いだの、戦場で最も重要な要素の一つに“冷静”でいられる事というのがあるわ、冷静にそして的確に判断すること」

 

「三笠様は 長年の経験から、それが出来る、金剛お姉さまもね、では秋月さん 貴方にはそれができるかしら?」

 

「戦場で冷静でいられる事ですか!」

 

「ええ、どうしても、戦いの場では気持ちが高ぶるわ、確かに強大な敵に対し虚勢を鼓舞する事も大切な要素ではあるけど、最も重要な事は 冷静である事、今の戦いは次の戦いの布石なの、そこに思考がいかなければ、相手に踊らされてしまうわ」

 

「防空戦闘とは まさに先読みの戦いなの」

そう言うときりしまは 自席を元の位置へ戻し、

そして

「いい 秋月さん、艦隊防空は最後の砦、私達の後は 何もない、心して」といい、前方を航行する長波を見た

 

「はい きりしまさん!」と 決意を新たにした秋月であった。

後に “連合艦隊最強の防空艦隊”と言われた 2隻の艦娘の物語の始まりだった。

 

その後、長波は数度にわたり変針をし、無事パラオへ帰還した。まあ途中航路が少しズレたが、その後の修正が良かったので、いずもから合格点を貰った。

長波は、本当なら三笠から間宮羊羹を3本もらえたのだが、たまたま泊地に在庫がなく、いずもが艦内に保管していたフルーツゼリーセットを乗員分貰って皆で分けた。

 

長波は 後に、“この時の味は一生忘れない”と言っている それほど、三笠との対決は貴重な経験となり 後日に続くのである。

ちなみに 陽炎は 見ていただけなので、彼女の分は無かった。

 

パラオの日は沈み、夜の帳が下りる

静かに流れるパラオの海を一隻の イージス艦がパラオ諸島を周回するコースを航行していた、その艦の名前は こんごう

本来なら 泊地外部の自衛隊投錨地で対空警戒を行っているはずであるが、今日は司令の許可を貰い 外洋に出ていた。

由良司令に “外洋に出る理由は?”と聞かれたこんごうは、素直に

「“勘”です」とだけ 答えた。

 

すると 由良司令は、

「SM-2を準備しておけ。一応、いずものアラートで対応させるが、打ち漏らした場合は頼む。」とだけ言い、こんごうを夜間対空哨戒へ出した。

 

深夜、こんごうは 艦橋の艦長席に着き、右手で頬杖をついてウトウトとしているように見える、しかし左手のブレスレットは少し青白く光を放っていた。

確かに、身体としては寝ている、しかし艦魂と同調し、意識下では全てのシステムを把握していた、こんごうお得意の立ったまま寝る特技をイージスシステムに適合させた技だ。

 

しかし、突然 こんごうが起き上がった!

「CIC! 探知目標の詳細情報!」とインカムに怒鳴った!

 

「はい、探知数 1、方位 120、高度8000 緩やかに降下中です、速度350km 距離 420km、進路解析によると、パラオの日本海軍泊地を目指しています!」

 

「CIC対空士官 アンノウンコードを割り振りなさい、通信妖精、至急いずもCICへ情報伝達 司令の指示を仰いで」

 

すると、艦橋内部へ 副長以下の要員が駆け込んできた

「艦長、すみません 遅れました」

 

「副長 大丈夫よ、まだ十分時間はあるわ」といいい 内心

“さて 由良司令 どうするかしら?”と考えを巡らせた。

 

いずも 艦隊司令私室

由良司令は椅子に座り、じっと本を見ていた。別に読んでいた訳ではなくただ眺めていただけである。昼間。こんごうが外洋へ出たいといった時に理由を聞くと、「勘です」といっていたが、こんごうの勘は良く当たる。いい意味でも悪い意味でも。

 

突然 机の上に置いてあるタブレットが鳴った、タブレットを取り通信回線を開くと、いずもCICの当直士官からだ、士官の顔を見た瞬間に

「来たか?」と聞くと

 

「はい、司令、こんごう経由の情報を元に精査しましたが、偵察型のB-17ではないかと思われます」

 

すると、別にモニターが起動し、やや慌てていずもが、

「遅れました」と言って現れた。

 

すると司令は

「いずも すまんが HOTだ、深海凄艦か米軍か確認したい CICへ来てくれ」

 

そう言うと タブレットをズボンのポケットに仕舞い、上着を羽織ってCICへ向った。

艦内に アラート発進を告げるベルが鳴り響いていた

 

 

泊地提督と由良は、ひとつの布団の中で寝ていた。

初日は緊張していたが、今日も業務は変わらずあり、家に帰り着いたときには二人とも疲れていたので、すんなりと睡魔に襲われたが、遠くでする雷鳴の様な音に目が覚めた。

 

枕元に置いてあった自衛隊との連絡用のタブレットが鳴った。

由良は教えて貰った要領で操作し画面を起動したが、画面には

いつもならいずもさんが映るはずだが“音声通信”と表示されている。

 

「夜分に失礼します、今よろしいですか?」といずもの声が聞こえた

 

「はい、いずもさん 大丈夫です」というと ようやく画面が起動し いずもが映った。

 

「由良さん、夜分に失礼します」といい いずもが一礼した。

白い長襦袢を着た 由良は髪を整え、

「すみません 寝間着姿で」と頬を赤らめながら答えたが、いずもの次の言葉で それも吹き飛んだ。

 

「夜分にご連絡したのは、所属不明の大型航空機 1、このパラオを目指して来ています、いま私の航空隊から 2機確認の為に離陸しました、20分で接敵します」

 

「深海凄艦ですか!」

と慌てる由良、しかしいずもは冷静に、

 

「いえ まだ確認が取れません、接敵してからでも十分間に合います、沖合には こんごうも出ています、多分、夜間偵察ですね」と言うと、ディスプレイ画面にもう一つの画面が開いた、三笠である。

 

「由良よ、慌てるでない。儂の所にも情報がきておるが、まだ300kmはある。艦娘は非常呼集、各員艦内待機とせよ。夜間偵察なら問題ない、そのままやり過ごす。」

 

「はい 三笠様」といい 電話へ飛びつき、ハンドルを回して交換手を呼び出し、

「艦娘寮へ非常呼集、艦内待機!」といい 自身も着替え出した。

 

代わりに 泊地提督が画面に出てきた。

「遅くなって申し訳ありません」と提督は謝ってきたが、それを聞いた三笠は

 

「非礼を詫びるのはこちらじゃの いずも殿、新婚の家に夜分に連絡するなど」といいいずもを見たが、いずもも

 

「はい 三笠様」と言いながらも やや顔を赤くしていた。

 

泊地提督はそんな二人の微妙な会話には触れず、

「三笠様、“そのままやり過ごす”とはどういう意味ですか?」

 

すると 三笠の後方に、山本長官が現れ、

「泊地提督、現在 大型の夜間偵察が可能な機体を保有するのは 米国と深海凄艦だ、米国なら 撃墜すれば国際問題になりかねない、ここはまず慎重に国籍を確認したい、それと深海凄艦なら、一旦 パラオを通過させて 一報を入れさせる、その後 撃墜だ」

 

「しかし、それでは、パラオ泊地の情報が!」と言いかけて、

「長官、おとりですか?」と問い直した。

 

「済まぬ。マーシャル方面侵攻作戦の準備が整うまで、ミッドウェーとソロモンの群体の注意をこのパラオに惹きつけてほしい。」

 

「分かりました、詳細は 朝にでもお聞かせください、それでこの機体の対応は如何いたしますか?」

 

すると いずもは、

「その件に 関しては、我が自衛隊にお任せください、後10分程度で接敵できます」

 

山本は

「そう言う事だ、泊地提督、一応 艦娘は艦内待機、司令部要員は招集して待機としてくれ」

 

「了解しました、司令部へ向います」といい 通信が切れた。

 

由良が セーラー服の戦闘装束に着替えて現れた。

そして

「あっ あなた、では行ってきます」

 

「うん、気をつけていっておいで」といい 頬に軽くキスをした。

 

「はい」と 小さな声が返ってきた。

そっと部屋を出る由良。

 

駆逐艦係留桟橋

長波は息を切らせて 艦橋へ走り込んできた。

「機関、始動!! 即時対空戦闘用意!!」と入るなり怒鳴ったが、

 

副長が、

「缶の火は入っています! 司令部より抜錨準備にて待機との命令です!」

 

「えっ 出ないの?」

 

「はい こちらへ向っているのは 偵察型のようです、国籍確認ができるまで 待機との事です」

 

「分かったわ、機関出力維持 甲板員は抜錨用意、主砲、対空機銃 即応用意!」

といい

 

「艦内 夜間照明へ変更」と副長が指示し、艦橋の電気が赤色灯へ切り替わった。

 

前後に係留されている陽炎や皐月を見ると これも同じく待機状態である、秋月は念のため 泊地沖合で待機の為、出港している。

 

長波は 双眼鏡で泊地外周にいる自衛隊艦隊を見た。

戦艦金剛の甲板では 甲板員が動いているのが見える。

“あれ? 夕方には居た こんごうさんがいない?”と思いながらも、他の艦を見ると 動きがない?

 

いや 艦橋を見ると 夜間照明だ、すでに主機を起動して抜錨もしている。

多分 漂泊状態にしている、流石 動きが早い!

 

長波は自身の艦長席に設置された簡易型の戦術ディスプレイを起動した。

こんな時 いちばん情報が集まるのはいずもさんの戦闘指揮所だ、まず現状確認と思い 画面を切り替えると、そこには 三笠、金剛、由良、陽炎、そして自衛隊艦隊のメンバーの画面が開いた。

 

「長波、準備は出来たかの?」と三笠に聞かれ、

 

「はい 長波 いつでも動けます」と答えた

 

「では、静かに待つとするかの」と三笠はいい 自艦の艦長席に座り、腕を組んだ

 

 

パラオの夜は、いつもと変わらぬ夜の時を刻んでいた。しかし、確実に邪神をまとう空の要塞は近づいていた。

 

 

 

 

 

 




こんにちは スカルルーキーです

私の住んでいる町には 航空自衛隊の基地があります、夕方 車で滑走路脇のフェンス沿いを走ると、黙々とランニングをする自衛官の方々を 多く見ます、若い隊員さんもいれば、年配の方もいます。

夕日に映る彼らを見て、何か感じる今日この頃です

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