分岐点 こんごうの物語   作:スカルルーキー

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パラオ泊地近海から、全速力で 遠ざかって行く一隻の潜水艦
夜間とはいえ、水上走行しながら、一心不乱に北上していた。

本当は 単なる好奇心だった。
いつものように 上陸して、写真を撮って さっさと帰るつもりだった。
なのに なぜ? こんな事になった?






20.招かざる客

 

 

三笠進水式 当日 夜

 

パラオ泊地内は 三笠進水式、そして提督と由良の結婚披露宴の余韻で、まだまだ人の歓声が 絶えない。

 

そんな中 月明かりに照らされ、パラオ泊地の外、湾内に隣接するジャングルの中の小道を進む 一人の女性。

 

ヤシの葉で織った大き目の日よけの帽子を被り、長袖のシャツを着ている以外は 見た目は現地の島民の様であった。

長い黒髪を後で束ねているが、現地人より 色白なのが目立つ。

肩には 同じくヤシの葉で編んだ、小さなバックを掛けて、手には白い紙袋をもっていた。

 

彼女は 焦っていた、今日一日の事を どう説明するのか?

元々は 少し興味本位で、このパラオへ向った、特に目撃したあの新型重巡が気になっていた、いつものように 単身上陸して、写真撮影でもできれば 御の字と思っていたが。

 

深夜の内に パラオへ接近し、組立式ボートで単身 島へ近づいた、いざ上陸して ボートを隠して、夜明けと同時に小さめのジャングルの小道を抜けると 小さな集落があった。

 

近くにいた 女の子に

「パラオ泊地はどう行くの?」と片言の現地語で聞くと、女の子は、

「おねえちゃんも 三笠様を見にいくの?」と訳のわからない返事が帰ってきた。

 

「えっ?」と 慌てると 女の子は、

「今から 村の皆で 三笠様を見にいくの! 一緒に行こう!」といきなり手を取って歩きだした。

女の子の後をついて行くと、村の入口に軍用のトラックが待っていた。

足掛けの台を使い、トラックの荷台にのると、そのトラックは 走りだした。

 

そして なんと そのトラックは日本海軍のパラオ泊地内部へ入って行った。

入口の近くで降ろされると、多くの警備兵が立つなか、島民と矢印の示す方向へ歩いていった。

なんと あっさりと 泊地内部へ侵入できたのだ。

「どうなっているの?」と内心 いぶかりながら、そのまま進んだ。

 

途中、湾の外周部に あの新型重巡と新型の大型空母が2隻いた。

すかさず バッグからカメラを出して 数枚写真をとったが、不意に 背後から声をかけられた、振り向くと、緑色の服を着た警備員がいた。

日本語で、

「写真撮影は 指定の場所でお願いします」と言われた、

昔習った 片言の日本語で、

「すみません、気をつけます」と返事をすると、

そのまま 笑顔で立ち去った

 

「えっ カメラ没収しないの?」と思ったが、まあいいやと思い、そのまま順路に沿って 進んだ先に見えたのは、想像を絶する物だった。

 

「みっ 三笠! これどう見ても戦艦 三笠!」と思わず 声にだしてしまった。

 

目の前には 造船台に乗せられた 真新しい戦艦 三笠。

近づいて 良く見ると少し違いが分かる、船体の大体の形状は同じでも あの艦首のバルバスバウは何? 主砲が 単装砲が前後に 1門づつ? 副砲が無い? あの後部甲板の開いた空間は? マストにある各種のレーダー装置とか、よく見ると艦橋も大型化されているの?

確かに なりは戦艦三笠なんだけど、中身はまるで別の船 そんな気がする。

どこか あの新型重巡と共通な部分を感じる。

「危険な感じだわ」とつい声に出てしまった。

 

そしてようやく気がついた、今日 泊地内部へ侵入できたのは 偶然にもこの新型艦の進水式の為に 一般の島民を招待していたからだ。

 

警備の兵員に見つからない様に カメラで数枚写真を撮った。

ふと 艦首前のテントを見ると 前列にいる軍人に目が止まった。

「山本イソロク連合艦隊司令長官!」

驚いた、あの山本長官がいる! いやそれだけじゃない、ミッドウェーの連中がうち漏らした金剛の姿も見える、魚雷2発を食らったはずなのに、全く元気だ!

横は 旗艦の由良か! 鳳翔、その隣は 軽空母の瑞鳳、睦月達もいる、とふとテントの前方を見て目を疑った!

「えっ 金剛がもう一人いる?」

 

席に座る巫女服姿の金剛とそっくりな もう一人の金剛が 白い軍服を着て立っていた。

「どっ どう言う事?」と慌てながら、テントの後方をみると、資料で見た、比叡や榛名も見える、しかし服は巫女服ではなく白の軍服だ。

これだけの艦娘を集めて、一体 何が起こるのか?

 

始まったのは 戦艦三笠の進水式。

そこで目にしたのは “艦霊降ろしの儀式”

我々とおなじ、艦の魂と自ら魂を 海の神へ捧げ融和させる儀式だ。

融和した瞬間、艦は白く輝き、艦特有の文様が出た、高位の魂の融和だ。

そして 甲板上に現れたのは やはり、高位の艦娘 戦艦 三笠!

そう 戦艦三笠が復活したのだ!

一瞬、

「姫様になんて言おう」とつぶやいた。

 

三笠進水式の後、兵員妖精に誘導されて来たのは 進水したての三笠。

思わず、カメラを構え数枚写真を撮った所で、此方へ歩いてくる集団に目が止まった。

 

三笠だ、その横には 白い制服を着た金剛、そして

 

「ひっ 姫様!」

アリューシャンにいるはずの姫さまが 三笠と歩いている!

 

いや 待て! 落ち着くんだ、と内心言い聞かせ、落ち着いてその女性を見る、

姫様より 少し年上?

髪は黒く、腰まである?

肌の色も 艦娘達と同じだ、姫さまではない?

でも あのお顔は 間違いなく姫様だ!

状況が 理解できず、ぼーとしていると 先程の村の少女が 駆け寄ってきた。

 

「あっ さっきのおねえちゃん」といいながら駆け寄ってくると 私の手を取り、

「ねっ 一緒に 三笠に乗ろう!」と歩きだした

 

「えっ」と思いながら 少女の後をついて行くと なんと先程進水したばかりの三笠に 乗艦できた。

前部甲板に立つと 小型の主砲が見える、駆逐艦級の子が装備する120mmクラスの砲だ。

なんか 拍子抜けした感じであるが、その時 突然 ベルが鳴った。

「只今より、主砲の稼働試験を行います」と言い、少し下がるように言われ、下がると 急に 主砲は物凄い勢いで動きだした。

物凄い勢いで動く砲を見て、驚いた、だってこのクラスの砲は 旋回には水圧か電動を使うはずよ、こんなに早く動くはずはない! どうなっているの?

 

暫し 動きに見とれていると、少女は

「おねえちゃん あの上に登ろう!」といい、また私の手を取って歩きだした。

見ると 艦橋の最上部にある 露天艦橋だ。

通路を通り、露天艦橋へ出る、艦橋内部は非公開だが、内部の通路を通る時に気がついた。

この艦、溶接の継ぎ目が無い! リベットもない まるで初めからその形で出来上がったみたいだ

矢印の順路通りに進むと 露天艦橋に出た。

思ったより高い位置にある、下を見ると会場が一望できた。

パラオの風が心地よい。

一瞬 不思議に思った

深海凄艦の私が 今 新造された三笠の露天艦橋にいる どう説明しよう?

多分 誰も信じてくれないかな?

 

ふと背後から 声をかけられた

「もし良かったら 写真を取りましょうか?」と言われ、

返事に困っていると、少女が

「おねえちゃん 一緒に写ろう」と笑顔で話かけてきた

近くにいた 兵員妖精が

「じゃ ここにどうぞ」と指示した場所に立つと

「では 撮ります」と数枚 写真を撮ってもらった。

 

すると兵員妖精が

「お姉さんが立っている場所は 日本海海戦の時に東郷提督が立っていた場所です」と言われた、そして

「お嬢ちゃんが立っている場所が 三笠艦長が指揮をとった場所ですよ」と教えて貰った

 

すると少女は

「ねえ、兵員妖精さん!三笠様はこの船で、深海凄艦をやっつけてくれるの⁉︎」と聞いてきた。一瞬心が痛んだが、白い制服を着た妖精兵員は意外な返事を返してきた。

 

「お嬢ちゃん、三笠様は 悪い深海凄艦はやっつけるけど、良い深海凄艦とは仲良くしたいと思っているはずだよ」

 

少女は、

「悪い深海凄艦? 良い深海凄艦?」

 

「そう、昔、昔 ず~と昔 世界の七つの海を最初に渡ったのは 人類ではなくて、海の民の深海凄艦だったと言われているんだよ」

黙って 妖精兵員の話を聞く少女、

 

「その頃の深海凄艦は とても大人しくて、優しい種族だった」

 

「優しい深海凄艦?」

 

「そう でもある時、その優しさを恨んだ 邪神が 深海凄艦の心をだまし取った」

「邪神はこう言った、人類は敵、艦娘は敵、海は我ら深海凄艦の物」

続けて、

「邪神に心奪われた深海凄艦は その後 無差別に人類を攻撃してきた、けど中には、邪心に負けず、人と争う事を嫌って、北の海に移り住んだ 心優しい深海凄艦もいる」

 

「じゃ 兵員妖精さん、この辺りの深海凄艦は 悪い深海凄艦なの?」

 

「そうだね、今は悪い深海凄艦、でもきっといつかは、心開いてくれると思うな」といい 少女の頭を撫でた。

 

「あの 三笠様は 本当にそう思っているのですか?」とつい聞いてしまった。

白い制服を着た 兵員妖精は、

「ええ あの方は とても意思の強いお方です、真偽をはっきりと見分ける事ができる方です、あの方の望みは 深海凄艦の撲滅ではなく、海神の神々の導きにより海の安泰を、実現する事です」

「そして、その為の戦艦 三笠 なのです」

 

「でも今は深海凄艦と 戦っていますよね」と聞くと、

 

「ええ 残念ながら、しかし彼らと 話し合う事ができるなら、それが一番の解決策だと思います」

今 とんでもない事を聞いた、三笠は深海凄艦と話し合う気があるという事か?

 

そして 兵員妖精から 「写真は帰りに お渡しします」と言われて 後部甲板へ出た。

そこにも  前部甲板と同じ主砲があった。

後から 見ると マストにも色々と装置らしき物がある。

私の艦にもある回転式レーダー、でも形状が違う、それにあの後部艦橋に貼り付けてある白い大きな板は 何?

 

一瞬 体が震えた。

この三笠を 先頭に 金剛、長門 そして大和を従え、後方には赤城を中心とした 空母機動艦隊、そして 無数の駆逐艦、巡洋艦

その艦隊が 大海原を進む姿を思い浮かべた。

その露天艦橋で、指揮をする三笠をみて いったいどれだけの深海凄艦が 勝てるだろうか?

三笠は その存在が“日本海軍”なのだ

 

「早く、アリューシャンに帰って、姫様や長老達に報告しなくちゃ」

そう 思いながら、後部甲板にかけられたラッタルを降りると、そこにはテントがあった。

白い板の掲示板に 色々な写真がある、すべて色付だ!

よく見ると さっき撮影された私と少女の写真もあった。

係の兵員妖精から、「ご自分の分をお取り下さい」と言われて 自分の写る写真とその横の少女と一緒に写る写真をとった。

そして 恐る恐る、

「あの 御幾らなんですか?」と訊ねた。

すると 兵員妖精から、

「いえ それは 今日の記念で、無料で差し上げています」と言われてしまった。

“えっ 天然色の写真が 無料だって!”と内心驚いた。

少女も 自分の分を貰って喜んでいたが、兵員妖精に、

「お姉ちゃんと一緒の写真はないの?」と聞いた

 

兵員妖精は

「あっ お姉さんと一緒の写真がもう一枚ですね」というと 何か機械を操作して あっという間に 新しい天然色の写真をもってきて、少女に渡した。

 

「ありがとう、兵員妖精さん!」と少女は言うと、私とテントの端へ行くと、そこで 白い紙で出来た袋を 渡された。

なんだろうと思って、袋の中を開けると、小さな金属製円形のバッジと絵葉書、そして小さな冊子が入っていた。

バッジを見ると、パラオの島々と三笠の影が描かれた絵が描いてあった。

絵葉書は、先程の露天艦橋で、左手を腰にあて、右手を前方へ向け、指揮をする三笠の姿。

もう一つの小冊子には 三笠の歴史が紹介されている。

 

それを見た瞬間、

「うん! 姫様に最高のお土産が出来たわ、長門や大和の写真より何十倍もこっちの方が 喜んでもらえそう」

内心 姫様の喜んでいる顔を思い描いた。

 

テントの外へ出ると、そこには色々な 食べ物を並べた露店があった。

係の兵員妖精から無料で好きな物を食べていいと言われて、

どれにしようか 悩んでいると、少女が、

「お姉ちゃん、あれにしよう!」といい 並んだ先にいたのは、

戦艦 金剛達であった。

私の数人先に 戦艦金剛、睦月をはじめとする駆逐艦の艦娘が並んでいた。

 

どっ どうしよう!

もしここで 正体がばれれば タダでは済まない。

視線をあげないようにしながら 少女に引っ張られて列に並ぶ。

 

なんとか、列の後へ並び ばれていない事を祈り、少女と順番を待っていると、トレーとスプーンを渡され、並んでいると、白いエプロンをつけた女性に白いお皿に ご飯に黄色い粘度の高いスープのような物がかけられた物を渡された。

 

渡してくれた女性を見て、顔が引きつった!

「戦艦 比叡!」

 

その比叡から

「はい、護衛艦 ひえいの特製カレーよ、ゆっくり食べてね」と笑顔で言われ、戸惑いながらも受け取った。

 

初めてみる食べ物だ、香辛料の匂いが なんとも美味しそうだ。

お肉と野菜の煮込み料理のようである。

 

 

少女と 席へ着き、恐る恐る口にしてみると、口の中で 香辛料の辛味とご飯、野菜の旨みが混ざって 美味しい。

「お肉もいいけど、タラとかイカもあうかな」などといいつつ、少女の顔を見ると、

満面の笑みで 一生懸命食べていた。

 

ふと アリューシャンで 別れた駆逐艦の子達を思い出していた。

あの子達は 今。

 

暫く 少女と食事をしていると、急に少女が立ち上がり、

「おじちゃん、おばちゃん!」と言いながら 長身の男性と女性に向け手を振っていた。

 

長身の男性 真っ黒に日焼けし、引き締まった体躯 多分 漁師だろう

横の女性は対照的に、小柄だがしっかりとした表情の持ち主だった。

 

「こら!  探したぞ」と男性が言うと、少女は、

 

「えへっ ごめんなさい このお姉ちゃんと三笠に乗ってきた!」と笑顔で話した。

 

男性は 少女の横へ座り、女性が私の横へ座った。

 

「済みません、この子がご迷惑をおかけしたようで」とおばちゃんと呼ばれた女性が 話かけて来た。

 

「いえ、私も一人ですから、大丈夫です」

 

「美味しいか?」と 男性が少女に聞くと、

 

「うん、皐月お姉ちゃんのカレーも美味しいけど、ひえいお姉ちゃんのカレーも美味しいよ!」と少女は満面の笑みで答えた。

 

「皐月? 駆逐艦 皐月ですか?」と横の女性に聞いた。

 

「ええ、そうです」そして 女性は、

「彼女は、私の姪子 姉の忘れ形見です」

 

「忘れ形見?」

 

「ええ、私の姉夫婦は 島でも1,2を争う 漁師でした。」

「2年前。その日もいつもと同じように漁へ出ましたが、姉たちの漁場へ運悪く、深海凄艦の駆逐艦が迷い込んできてしまい、姉夫婦は…。」 そう言うと女性は黙ってしまった。

 

そして、

「急を聞いた、泊地から 皐月さんが駆けつけて、深海凄艦の駆逐艦は撃退しましたが、姉夫婦は仲間を助けた代償に帰らぬ人となりました」

 

「当初、あの子は両親を亡くした事が理解出来なくて、泣いてばかりの日々でしたが、ある日 皐月さんが村へ来て、あの子を泊地へつれていき、自分の艦へ乗せて 両親が無くなった海域へ連れていき、こう言いました」

 

「貴方の御両親はこの海域で 海神の神々の元へ 旅立ちました」

「でも それを悲しんではだめです、貴方の御両親は 黄泉の国から貴方を見ています!」

「しっかり生きていきましょう!」と励ましてくれました。

 

「それ以来、事ある毎に、皐月さん達が村へ来てくれて、彼女だけでなく皆を励ましてくれています」

 

一瞬 声が出なかった。

私達が攻撃しているのは 日本海軍だけではない?

なぜ 島民も攻撃しているの?

私が聞いていたのは “日本軍は 占領地で支配的行為をして地元民を苦しめている、我々の戦いは 開放の戦いだ!”と聞いていたが、実際はかなり違うのか?

 

姫様は 自衛以外の攻撃は避けるようにといい、ミッドウェーの連中は 日の丸を上げているのはすべて日本海軍だといい 攻撃する様に言っていた?

辻褄が合わない事に今更 気がついた。

 

暫し 黙っている私を見て女性は

「でも あの子が あんなに嬉しそうにしているのは 久しぶりに見ました、ありがとうございます」と言われ、

「ええ」と答えるのが やっとであった。

 

その後、

「お姉ちゃん、また遊ぼうね」と笑顔で言われ 少女達と別れ、暫し泊地内を散策していたが、またもや何かあるのか 皆集まりだした。

“何だろう”と思い 行くと、

大勢の島民が 軽巡由良の前に集まっていた。

 

近くにいた人へ

「なにが起こるのですか?」と聞いたところ、

 

「あんた 知らないで来たのかい? 今から、ここの提督さんと由良さんの結婚式があるの」と 女性が教えてくれた。

 

「結婚式?」

あの人と艦娘が契りを交わし、絆を深める儀式の事か?

昔、まだ我々の北の群体でも、人と交流があった時代によくそんな儀式をしたと聞いた事がある、人と魂の契りを交わし 新しい魂を召喚する儀式だ。

今は 人ではなく海の神と契りを交わしているが、人とするのが本来の姿だと聞いた。

 

式が始まったようで前方が騒がしいが、人が多くて中々見えない。仕方なく、少し離れた高台に移動して物陰に隠れ、持参した小型双眼鏡を取り出して観察した。

数台の車が来て、中から山本や三笠が降りてきた。

そして金剛だ! いつもの戦闘装束ではなく日本古来の巫女服のようだ。

次は ここの司令か? 意外に男前だな、などと思っていると 次の車からは、

真っ白な和服?を着た女性、時折 見せる顔から ここの旗艦 由良か?

しかし、凄い。染み一つない真っ白な衣装など初めて見た。島民も驚いているようだ、

後には 金剛型の3番艦 榛名だ! テントの端には 2番艦の比叡や4番艦の霧島が見える。 あのテントの外で機材に埋もれているのは 工作艦 明石か!

そして やはりいた 金剛そっくりな女性! 白い制服を着ている。

制服を着ているという事は艦娘ではなく 軍人か軍属か? いや受ける印象では艦娘だ。

もしかして、実は金剛は三笠と同じく双子の姉妹で、その一方か? などと考えていたが、着ている服が比叡達と同じである事に気がついた。

もしやと思い 再度 比叡達を見ると、資料でみた比叡よりも やや身長が高く 大人に見える。 よく似た別人?

いかん! ここで悩んでも仕方ない、ますは情報収集。

そう思い 比叡達の横に視線を移して 視線が止まった。

 

「やっぱり どう見ても 姫様よね、印象では先帝の姫様が近いかしら?」

そこには 腰まで黒髪を伸ばし、鋭い眼光を放ち やや白い肌が特徴的な一人の女性がいた。

比叡や明石が、敬礼をしている所を見ると、上官か?

双眼鏡の倍率を上げて、階級章を見ると 大佐? あの歳で大佐という事は 艦娘なら 旗艦クラス!

ふと その艦娘を双眼鏡でみていると 急に彼女が振り返り、視線があった!

にこやかな笑顔で此方を見ている!

「見つかった? この距離で!」と思ったが、彼女はまた視線を前の祭壇へ戻した

「偶然 そう見えただけ?」と思いながら監視を続けた

 

式は つつがなく進んでいるようである、ここまではごく普通の人の式の様だ

双眼鏡で式を見ていると 榛名が 祭壇から何かを取り出した。

「何?」と思い 双眼鏡の倍率を上げる。

指輪! あれは契りの指輪!

艦の魂と自身の魂の結びつきを強化する指輪だわ。あの金属は 精神感応金属。

どうして日本海軍があの金属をもっているの? あれはごく少量しか、産出しない貴重な金属。その精錬にも特殊な技術がいるはずよ。姫様だっていまだに納得のいく物が出来ないって悩んでいるのに。それを日本海軍がもっているなんて!

ふと、先程の金剛そっくりな艦娘や姫様に似た艦娘の左腕にも同じ光沢の金属の腕輪が見える。

 

しばし 思考していたが急に 式典会場から光が漏れた。

「艦の魂と 艦娘の魂が反応している!」 慌てて由良の艦体を見た。

由良の艦隊は 青白く光り輝き、艦体に由良特有の文様を映していた。

「イデア・クレスト! 高位の魂の融和、軽巡クラスで出るなんて 余程あの司令官との相性がいいのね」と言いながら 艦体に写る文様を見た

文様は大きく分けて2つある 所属する群体の文様 多分ここではパラオ泊地の文様

そして 由良独自の文様だ

ただ ここからでは遠すぎてよくわかんない。

まあいい、パラオの旗艦の固有の能力が 我々の「elite」クラスはあるってことね、しかし 「flagship」や軽巡棲鬼までは厳しいか、いやまて 今の段階で「elite」なら経験値をあげれば その可能性もあるってことか?

並みの軽巡クラスでは、あのイデア・クレストは出ない。今後の動きに注意する必要があるみたいね。

 

持参した メモに色々と書き込みながら、思考をまとめていくが、一つというか色々と気になる事がある、それは 我々と共通する部分だ。

イデア・クレスト、契りの指輪と精神感応金属、三笠の船体の建造技術。

急に 日本海軍が深海凄艦に近づいてきている。

 

「技術情報が洩れている? いや、それは考えにくい。精神感応金属などは、姫クラスの一部の首領しかその製法をしらない。北方群体では姫様だけだ。」

一瞬 先程見た 姫様そっくりの艦娘を思い出した。

「まさかね」と思っていると 急に泊地入口の島影から 航空機の大編隊が現れた。

双眼鏡でみると どうやら式を記念して 祝賀飛行をしているようだ、九九艦爆やゼロ戦が 編隊を組んで上空を通過していった。

しかし 最後に現れた機体をみて 驚いた

「あの新型の対潜航空機!」と言い、慌ててカメラを出したが、小型カメラではこの距離では写らないなあ、でも無いよりはまし!と数枚撮影した。

あの パタパタという独特な音は 鈍亀な私達には 死の音色に聞こえてくる。

 

ふと湾内を見ると、あの新型重巡3隻と駆逐艦5隻がゆっくり進んできた。

各艦の側舷には各艦の隊員が登舷礼の為、整列しているのが分かる。

そのまま会場前を通過して、湾の奥地で旋回している。

新型重巡の回頭を見たが、予想以上に動きがいい。

再び会場前までくると、次々と祝砲を打っていく。

その数 13発。

「13発か、とするとあの司令は 少将か?」などと考えていた。

艦隊が過ぎ去ると、次は 島影から轟音が聞こえて来た。

まるで雷鳴のような音だ。

音のする方を見ると 昼間なのにライトをつけながら 3機の新型機が近づいてきている。

「日本海軍の新型戦闘機?」

突然 機体の後方から白煙を吐き出した。

「故障?」

いや それにしては安定して飛んでいる、3機はそのまま会場までくると 右へ旋回して湾内を一周した、会場上空まで戻ると、白煙は止まり、二手に別れた。

物凄い加速だ。

私は任務の関係から 各国の軍用機の知識もあるが、あんな機体を見たことはない。

第一 あの機体にはプロペラがない! だとするとドイツ、イギリスで開発中のジェット機か? でもまだ試作段階のはず、こんな辺境の基地で運用できるほど完成度が高いとは聞いてない、それを日本海軍は独自で作り上げた?

いや 可能性としては 否定できない。

かつて 航空後進国だった日本は数年で 世界一線級の九六式 後にゼロ戦を作り上げた。

しかし 眼前の機体は 試作機でもない 完全な実戦運用機のようだ。

日本にそこまでの開発力があるのか?

など 考えだしたら切がない。

思いついた 思考の断片をメモへとりながら その機体を目で追う。

すると 会場前で 2機がいきなり急上昇した!

なっ なんて速度!

見たことがないような速度で 上昇する機体、ミッドウェーにあったF4Fなんて比べ物にならない!

上昇する機体を目で追っていくと、また 突然 白煙を出し始めた。そして 上空に現れた ハートマーク!

その図形に見とれていると、海面すれすれから別の機体が急上昇してきた。

そしてハートの中心を射抜くように 白煙を引きながら飛び去っていく!

「へぇ~ 凄いわね、日本海軍にもこんな演出のできる人がいるのね」

会場から 割れんばかりの拍手が起こっていた。

 

暫くして、式場にいた島民が移動し始めた。何だろうと思い後をついていくと、司令部棟らしき建物の近くにある艦娘達の宿舎の前に案内された。

何があるのだろう?と思っていたら、三笠以下 全員そろったところで、寮の一階の食堂らしき場所のドアが開き、先程の司令官と由良が出て来た。

どうやら 結婚披露宴のようだ。

由良は先程とは違い今回は 白い洋風のドレスだ。

「いいな あれ」とつい本音が出てしまった。

いっ いかん 情報収集の任務中だと思いながらも ドレス姿の由良をみて、

「いったい この泊地にはどれだけ衣装があるのよ」と関係のない事を考えていた。

 

司令と由良は、大きな樽の前まで進むと、木づちで その樽の蓋を叩き割った。

どうやら 祝い酒を振る舞っているようだ。

知らずに列に並ぶと 係の兵員妖精が 小さな升を渡してくれた。

三笠進水記念と焼き印されている。

そのまま並んで、樽の前まで進み、眼前には 航空母艦 鳳翔だ!

柄杓についだ 日本酒を笑顔で注いでくれた。

少しお辞儀をしてお礼をして、気づかれないように会場の端へ向う、そして

地元島民の音頭で乾杯となった。

大型のテントの中には 色々と食べ物が並んでいる、圧巻なのはマグロの兜焼きだ。

 

よく見ると、先程の少女が睦月や皐月たちに囲まれて、楽しそうに食事をしている。

じっとしていると、黒髪の女性がこちらへ来た。戦艦 榛名だ!

 

「お食事は されないのですか?」と聞かれ、

 

「いえ じっとしているのが楽なので」と答えると、

 

「そうでしょうね」と笑顔で言われ、そして

「食べないと勿体無いですよ」と 卵を焼いた料理と マグロの料理、野菜の盛り合わせの載った皿を渡された。

 

「ありがとうございます」と言うと、

 

榛名は

「また 近いうちにお会いできるかもしれませんね」とだけいい 去っていった。

 

「なんの事だろう?」と思いながら 升のお酒と料理を堪能した。

「ああ こんな事なら副長達もつれてくれば良かったかな?」などと 普段では考えない事を思いながらゆっくりとした時間を楽しんだ、思えばここ一ヵ月 ミッドウェーの連中にこき使われて まともな休みが無かった。

「ほんと、ここ敵地なんだけど ミッドウェーより落ち着くわ」などと思いながら、テントの中央を見ると、三笠と比叡がどうやら飲み比べを始めたようで、島民も集まっている。

 

ちらと時計を見ると そろそろ帰らないと、回収時間に間に合わない。

小さな升のお酒を飲み干し、綺麗に拭いて 先程貰った紙袋へ収めた

「うん この升は私の記念にとっておこう」といい 皆に気づかれないように静かに 消えた。

 

てくてくと ジャングル中の道を歩いていく。

日は既に落ちて、周りは闇に包まれていた、時折 雲間から月明かりがさしている。

村から泊地までは トラックで10分程度だったから そんなに遠くないとおもっていたが ようやく先程の村が見えてきた。

まだ少女達は帰ってきてないようだ、村の中はがらんとしていたが、留守役の村人が数人見える、そのまま村を抜けて 小道へ入った。

そのまま行けば、ボートを隠した茂みへ出るはずだった。

ここまで歩きながら 色々考えた。

今日一日の事を どう説明するのか?

 

姫様や 北の長老達はいいとして ミッドウェーの連中に報告する?

「そこまでの義理はないわ、とにかく アリューシャンに帰って姫様に報告よ」と言った瞬間、 茂みの影から 人影がでて来た。

 

「それが 正解ね カ級elite!」

 

「誰⁉︎」と声を出してしまった。

 

雲間から 月あかりがさして、声の主を照らしだした。

 

「姫様!」と思わず声に出してしまった。

 

いや違う こいつは先程、泊地で見た 艦娘だ!

でも いざ目の前で見ると やはりそっくりだ、もし姫様が後数年たって もう少し霊体的に成長すれば 間違いなくこの艦娘と同じ姿になるだろう、そう感じた。

「何者?」と、まともな返事が帰ってくるとは思わないが聞いてみた。

 

「私は 艦娘いずも、日本国 海上自衛隊所属のヘリコプター搭載護衛艦の艦娘よ」

 

「いずも?」 初めて聞く名前だ、いや 確か古い日本海軍の有人艦にそんな名前の艦があったな!

「という事は あの新型重巡か!」

 

すると そのいずもと名乗った女性は

「残念、その横にいた大型空母よ」といい 笑顔で近づいてきた。

思わず 後ずさりした。

咄嗟に 紙袋を落とし、肩にかけたヤシの葉のバッグから 護身用の銃を抜き構えた。

 

「私を捕まえて、尋問する気⁉︎」

 

「落ち着きなさい、もしその気があるならとっくに泊地内で捕まえているわ」

 

「くっ やはりばれていたのか!」 まんまと泳がされていたわけだ!

 

「まあ 気がついていたのは、三笠様に私、こんごうにはるな位かな、後は 鳳翔さんも居た事には気がついているでしょうね、陽炎さんは、皆が騒がないならいいやという感じだったしね」

 

「なぜ私を捕まえないの⁉︎」

 

「今日は お祝いの日ですからね、騒ぎを起こして台無しにしたくないというのが本音かしら」

 

一瞬 この艦娘さえなんとか無力化できれば、泊地を脱出できる。

“御免”と思いながら 拳銃の引き金を引きかけたが、

 

「カ級 あなたそれコルトM1911でしょう、ハンマー上げてないと 撃てないわよ」

 

「えっ」といい 慌てて見ると ハンマーは落ちたままだった。

そうだ、暴発したら大変と思って ハンマー落としてあった。

普段 全く使わないから金庫の中にいれてある、今回のような敵前上陸偵察の時に護身用として持ち出す位だ、最後に実弾訓練したのは 半年も前の事だった。

ゆっくりとハンマーを親指で上げた。

 

「余裕ね、敵にそんな事言って」と銃口を再度 いずもと名乗る艦娘へ向けた。

 

「カ級 撃つだけ無駄よ」と言うと その艦娘は左手を前に出し

「フィールド展開」と告げた、すると彼女の前に 青白く光る 光の楯が現れた。

 

「かっ 神の楯!」

 

「そう、北方海域群体では そう呼んでいるわね」

 

そんな 馬鹿な!

神の楯 古の神々が使ったと言われる、何者の攻撃をも跳ね返す楯!

艦霊を集中的に集め、それを積層させ、具現化する事で実体化させる事ができると言われているが、姫様でも出来ない芸当!

「何故 貴様がそれを使える! 私達の北方深海凄艦でも まだ実現できていないのに!」

 

「そうね、今の北の姫はまだ 14歳位かな 幼いからここまで霊力を練り上げる事が出来ない、でも先帝の姫は少しできたはずでは?」

 

「貴様が なぜそれを知っている!」

 

「私も 白き姫が持つ古文書を読んだ事があるのよ」

 

「なんだと⁉︎」

おかしい あの古文書は一族の長にだけ 閲覧ができる書だ、日本海軍がその存在を知るはずは 無い! この艦娘 何者!

 

「それより カ級、その銃をしまいなさい、今撃っても 私には当たらない、でも私は この楯で 貴方を貫く事もできる 違って?」

 

その通りだった。あの神の楯は霊力で出来ている。その形状を変化させれば楯だけではなく、どんな防御をも貫く槍にもなると言い伝えでは言われている。

 

「くっ 艦娘の言うことなど」

 

「聞けないというわけ、じゃ 同族なら聞いてくれるのかしら?」

 

そう言うと いずもと名乗る艦娘は、ゆっくりとした動作で 髪留めのリングを外した。

すると 髪が 毛先から白く色が抜けていく、

「まっ まさか!」

顔に掛けているメガネを外した。

黒い瞳は 赤く変化し 肌の色は透き通るのでは思うほど白くなった。

そして 彼女から感じる 霊力の波動は 間違いない 白き北の姫 北方棲姫

 

「控えなさい カ級」と言われて、

素直に 銃を仕舞い、跪く。

 

「驚かせて 御免ね、これで話を聞く気になった」

 

「貴方は 一体 何者なんですか?」

 

「カ級 面をあげなさい、私は艦娘 いずも、そしてもう一つの名前は 次世代の北方棲姫」

 

「次世代の北方棲姫?」

 

「そう、もっと詳しく言えば、日本へ移住した深海凄艦 第2世代、深海凄艦として生まれ、艦娘として育った」

 

「そっ そんなばかな!」

 

「カ級。今日、貴方は何を見たの? 三笠様の進水式、由良さんの婚礼の儀。日本海軍と島民、あの少女の笑顔は偽物だった?」

 

「いえ、けっして」

 

「では、今日見た事は すべて包み隠さず、北の姫君へ報告しなさい、私の事も含めて」

 

「では、私を見逃すと?次世代の姫」

 

「ええ そうよ、貴方は 私達を攻撃していない、攻撃の意思がない者を 捕虜には出来ないわ、貴方は北の海から ここパラオを見にきただけですから」そう言うと、

「でも ただでは 無理ね」

 

「私に何を?」

 

「北の幼き姫にお使いを頼めるかしら?」

 

「お使いですか?」

 

「そう、日本海軍 連合艦隊司令長官付筆頭秘書艦 戦艦 三笠大将から 北の姫に伝言よ」

 

「三笠から!」

 

「いい、今からいう事を記録しなさい」と言われ 慌てて メモを取り出した、

 

「北の姫君へ、日本海軍 連合艦隊司令長官室のドアは何時でも開いておる、好きな時に 訪ねてくるがよい、話をしよう」

 

メモを取りながら、

「どう言う意味でしょうか?」

 

すると いずもと名乗る艦娘は

「ふふ、そのままよ、三笠様は 北の姫と話がしたいという事よ」

 

「姫と! ですか!?」 少し驚いた。あの三笠が姫と会談したいと!?

 

「そうよ、大巫女様や三笠様は 冷静にこの海の安泰、秩序を見ていらしゃる、戦に走らず、民の安泰を願う北の一族とは一度話したいといっていたわよ」

 

「なぜ三笠はそこまで 我が一族を?」

 

「さあ 私もそこまでは分からないけど、三笠様は 以前 ウラジオストクにいたことがあるから、多分 先帝の姫とお会いした事があるのでは?」

 

「その様な話初めて聞きました!」

 

「いい カ級、直ぐにこの海域から離脱しなさい、24時間は 対潜活動はないわ」

 

「では 見逃してくれるのですか?」

 

「というより、今日 皆騒ぎ過ぎて 明日はお休みという事ね」と いずもと名乗る艦娘はいった。

 

「えっ そんな?」

 

「意外と 日本海軍ものんびりしてるのよ」 そして

「いい、でもその後は、徹底的に潜水艦狩りを行うわ。この海域の安全を確保して、マーシャル方面の作戦に集中する為にね。」

 

「では?」

 

「ええ、マーシャル方面にいる ミッドウェーの分隊は 徹底的に排除する、その後 ソロモン海を開放して オーストラリアを助ける」

 

「でも それでは!」

 

「ええ かなりの被害がでる事は必至よ、私も無傷ではいられないわ、でもやるの、

艦娘は海神の巫女、海の安泰を守るのが使命、邪神に乗っ取られたミッドウェーやソロモンの群体を排除するのは仕方ない事よ」

「三笠様も苦渋の決断よ、本当なら 話して分かる相手なら良かったわ、でももう悪霊化した群体はどうする事も出来ないの」

 

すると いずもと名乗る艦娘は私の肩に手をかけ

「いい カ級、長老達に伝えなさい! 決して姫様から離れてはダメよ! 最後まであきらめず、その時が来るまで 耐えなさい!」

そして、

「今後レ級は勢力を増して、姫様の周囲を切り崩していくわ! でも、先帝の姫の言葉、“争いは何も生まない!”を忘れてはだめよ! いい!?」

 

「なぜ 貴方がその言葉を!?」

 

「ふふ、それはこの次、無事に会えたら教えてあげる、さあ時間が無いわ 行きなさい」

 

そう言われ、茂みへ押し出された。

落とした 紙袋を拾い、茂みへ走る。

振り返ながら、彼女を見ると、髪留めをつけ、メガネを掛け、艦娘 いずもへと戻っていた。

 

急いで、茂みの中に行き、隠してあったボートを引きずって 海岸へ出た。

波間に漕ぎ出し、合流地点へ向う、湾内の岬の位置から距離を推測して、時計を見た。

もうすぐ合流時間だ、前方の海域に何か浮かんで来た!

慌てて ボートを漕いで近づく。

 

私の艦だ! 安心するのと同時に、焦る気持ち。

艦へ横づけして ボートから離れようとして ふとボートの中に別の紙袋があるのに気がついた、“何?”と思いながらそれを拾い 縄はしごを登る。

 

「艦長 お帰りなさい」と副長から声をかけられたが、答える前に ヤシの葉のバッグから コルトを取り出し、スライドを引き、

「離れて!」といい 数発 ボートへ撃ちこんだ!

 

「どうしたのです!?」と慌てる副長に、

 

「ボートは破棄、水上航行!全速で海域を離脱します!」

 

「水上航行ですか!」

 

「ええ 既に日本海軍に捕捉されています! 水上警戒を厳として離脱 ウェーク島で燃料補給して アリューシャン、ダッチハーバーへ帰還します!」

 

ぐったりとしながら 司令塔の上で、

「もう 今日一日で 10年分は艦霊力が減ったわ!」といいながら、先程 拾い上げた紙袋を開いた、中には透明な袋に入った茶色の小さな粒。

紙袋の中に、深海凄艦語で、

“副長さんたちへ お土産です、皆で食べて いずも”と書かれていた。

 

何だろうと思いながら 袋を切り開いて 一つ取り出した

透明な包みを開いて 口に入れてみる。

 

「これ チョコレートじゃない!」と慌てた、なにせ チョコレートなどは貴重品だ、もう暫く食べて無い。

袋の中を見ると おなじ様な物がいくつか入っていた。

数個 取り出して副長へ渡し、残りを先任伍長へ渡して、

「日本海軍からの差し入れよ、皆で食べて」

 

「へえ~、粋な差し入れですね」と先任伍長は艦内へ消えて行った。

 

ディーゼルエンジンが始動し、20ノット近い速力でパラオを離れた

 

司令塔の上で 水上警戒をしながら、

「いい なんとしてもアリューシャンに帰るの、この戦局を一変するかも知れない事態だわ」と言うと、

 

「艦長、何があったのです!?」

 

周りを見回し 誰も居ない事を確かめると

「日本海軍が接触してきた! 戦艦三笠が 姫様との会談を希望している!」

 

「なんですと!」と驚く副長

 

「それだけではないわ! 日本海軍と行動を共にする姫様そっくりな深海凄艦とあったの!」

 

「どういう意味です!?艦長」

 

暫し沈黙して、

「副長、もしかして私、歴史の分岐点にいたのかも?」

 

「分岐点?」

 

「ええ もしあそこで私が 彼女を銃で撃っていたら間違いなく私は殺されていた、でも そうならず、今は 姫様への伝言を預かっている、これが上手くいけば この争いは終わる」

そう言いながら カ級は 司令塔から 前方の海域を見て

「姫様 今 帰ります!」とつぶやいた。

 

 

海岸線で 遠ざかって行くカ級潜水艦をみながら

「お母様に、ちゃんと伝えるのよ」と呟きながら、ポケットから タブレットを取り出し相手を呼び出し、一言、

「終わりました」とだけ 告げた

 

 

 

 

工廠前の桟橋で 一人の男性が じっと由良の艦体を見ていた。

突然 ポケットのタブレットが鳴り、耳に当てると 一言

「終わりました」と 優しい声が聞こえた。

 

「分かった、気をつけて」とだけ言うと 通信が切れた。

 

月明かりに照らされる由良の船体を見ていた。

乗員は 披露宴に出ているのか 船内は静かだった。

 

ふと 手で 船体を触ると、船体は光輝き、幾重にも文様が浮きでた。

「これで よかったんだ」と独り言をいうと、背後から、

 

「そちも、これで落ち着いたか? 司令」と声をかけられた

振り返ると 三笠が立っていた。

 

「聞いていたのですか? いずもは カ級と接触できました」

 

すると三笠は

「いずも殿の事ではない、司令 そち自身の事じゃ!」

 

暫し 黙り

「なんの事でしょうか? 三笠様」

 

「司令 初めて会った時にも言ったが 儂の眼を誤魔化せるとおもっておるのか?」

 

「お気づきでしたか?」と自衛隊司令

 

「いや 正直言えば最初は気がつかなかった、余りにもいずも殿の存在が大きすぎるのでな、しかし彼方の次元の姉上が寄越した手紙には “七人の海神の巫女の末裔を送る”と書いてあった」

 

「大巫女様も余計な事を」という司令

 

「それでな、こんごう殿に鎌をかけてみたが、あっさりと躱された」

 

「まあ 彼女ならその辺りは心得ていますから」

 

すると 三笠は

「自衛隊司令 そちが人ならば 名があろう 何というのじゃ」と問うと

 

自衛隊司令は暫し 考え そして意を決し、

 

「自分の名前は 由良、そう長良型軽巡 4番艦 由良の孫、史上 数例しかいない 男性の艦娘ですよ」

 

「やはりな、しかし その様な事があるのか?」

 

「ええ 自分を含め、数人しか確認されていません、男性型の艦娘は 元々は異端児、艦霊も小さく 殆どが“人”として暮らしています」

 

「なぜ 由良に言わなかった、自分が“由良”であると」

 

「艦娘 由良は見ての通り、慎ましく真面目な性格です。泊地提督と婚礼の儀も済ませていないのに、いきなり“孫”が現れては、精神的に耐えられないと思っただけです。それに、金剛さんはあの性格ですから違和感なく こんごうを受け入れましたが、祖母の由良は…。」

 

「真面目過ぎたという訳か」

 

「はい 三笠様」

 

「それに いずも殿の事もあるという訳か」

 

「ええ その通りです、いずもは 自分の婚約者です、今回のオーストラリア遠征が終われば、結婚するはずでした」

 

「なるほど、それであれほど提督と由良の婚礼に いずも殿がこだわった訳じゃな、ではあの指輪も」

 

「はい 三笠様、あれは自分といずもの為に 彼方の次元の大巫女様に作って頂いたものです」

 

「ならば 良かったのか その様な物を」

 

「ええ、いずもとしては、自分よりも由良さんを第一にという 考えなのでしょう」

 

「どういう意味じゃ?」

 

「彼方の次元の由良おばあさまに、いずもを紹介する為 このパラオへ来た時の事です、よもや艦娘の孫が 深海凄艦 それも次世代の北方棲姫と結婚するなど考えてもいなかったようで、散々な目にあいました」

 

「それ以来 いずもは 如何に艦娘として振る舞うかを意識してきました」

そして、

「この次元の由良に同じような反応をされてしまい、暫く悩んでいたようですが、今回の件で お互いが理解できたようで安堵しています」

 

三笠は 静かに歩いて近づき、

「彼方の由良は だいぶ苦労したようじゃの」

 

「ええ、深海凄艦と米軍は、マーシャル方面の攻略を成功させ、同時にトラックに大規模空襲を行い 多数の艦船を撃沈しました、艦娘達は辛うじて助かった者もいますが、中には 艦と運命を共にした者もいます、その後 このパラオへ撤退して来ましたが、奴らはそれを見越していました、B―17等で爆撃を加え 湾内で多数の艦船を撃沈し このパラオ泊地の機能は停止しました」

 

司令は ゆっくりと由良の船体をみて

「由良も 最後まで戦いましたが、B-17の爆撃で 轟沈、艦娘 由良は辛うじて脱出できましたが、副長以下 多くの兵員妖精は黄泉の国へ旅立つ事になったそうです」

「そして 由良と提督は このパラオへ残り、戦後 パラオ復興の為に尽力しました」

司令は 湾内を見回し、

「自分も幼少の頃は このパラオで育ちましたが、まあ男性の艦娘という事で、横須賀の大巫女様が “日本へ来ては?” と言われ、その後横須賀の海軍神社へあずけられましてね」

 

「そこで いずも殿と出会ったというわけか」

 

「ええ そう言う事です」

 

「で、そちは今後どうするのじゃ?」と三笠に聞かれ、司令は、

 

「そのままです、自分はただの男性、艦霊力もなく、艦と魂を交わす事はありません、

ですから、このまま“自衛隊司令”としてこの世界で生きていくだけです」

 

暫く、由良の艦体を見ながら 三笠は

「それも “漢”の生き方という事か」

 

「はい」とだけ 司令はいい じっと静かに 由良の艦体を見ていた

 

 

 

ルソン島 東部海域 同日夕刻

 

一隻の重巡が 一隻の駆逐艦を追い詰めていた。

必死に逃げる 深海凄艦 イ級。

それを追う 重巡洋艦。

 

その重巡は 書類上はなぜか軽巡とされていたが、設計当初から 改装により、重巡へ変更できるよう企画された艦であった、しかし、とある事件で強度不足が発覚、姉2隻とは形状の異なる艦として生まれた経緯がある。

 

重巡洋艦 鈴谷

 

艦橋で、艦長席に座りながら、艦娘 鈴谷は

 

「副長! はあ、はあ、・・ あれで最後!?」

 

「はい 鈴谷艦長!」と答えるが その副長も息も絶え絶えである。

 

もう1週間近く、近海で深海凄艦の艦隊を追いまわしているのである、主砲も2番が故障、後部も4番が損傷、高角砲等もボロボロであった。

 

「いい 絶対沈めるの!」

 

「艦長?」と慌てる副長、そして鈴谷の姿をみる。

 

いつもなら綺麗に皺ひとつない 茶色の制服は所々 煤にまみれ、破れている。

長く海の様に青く透き通る髪は 色褪せて、いつも元気で活気あふれる笑顔はなく、目の下に隅がみてとれる。

 

「いい 敵は全部シズメテやるの! そうして 司令官に褒めてもらうの」

「そうすれば 司令は 私だけを見てくれる! 他の艦娘より、この鈴谷を!」

 

そう言うと鈴谷は、

「さあ、どんどん撃ちこみなさい! 深海へシズメテあげる」

不敵な笑いを浮かべ、

「シズメ!」と言い放った

 

変貌していく 鈴谷を見ながら、副長は

「熊野艦長がいれば! こんな事には」と つぶやきながら、不気味な笑い声を浮かべる鈴谷を見ていた。

 

一人の艦娘が 闇へ落ちかけていた、しかし まだ辛うじて耐えていた。

心の片隅にいる 妹を思い出しながら。

 

 

 




こんにちは スカルルーキーです

分岐点 こんごうの物語を読んで頂き ありがとうございます。

鈴谷さん 可愛いデスヨネ、あのフレンドリーな所とか


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