分岐点 こんごうの物語   作:スカルルーキー

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今日、このパラオの地で 一人の強き意思を持つ男性と、艦の魂を宿す 優しき女性が 新たなる門出を迎える。


19.門出

 

パラオの日を浴び、輝く艦体を 桟橋に係留した三笠は、こんごう達と次の仕事に向かっていた。

 

三笠の艦体の横には 仕切りロープが張られ、甲板には、ラッタルが2つ掛けられていた。

三笠の意向で 出来る限り島民に 三笠を公開していた。

島民は ロープに沿って、順番に進み、まず前部甲板に進む、主砲などを見て、そして露天艦橋を通り、後部甲板へ降りる、そして退艦。その順序で 出来立ての三笠を堪能できるのだ。

流石に 内部を公開できないが、露天艦橋は見晴らしもよく、特に子供達には人気であった。

三笠の兵員妖精が露天艦橋で 日本海海戦の説明をしながら、東郷提督や秋山参謀の立っていた位置を指し示すと、子供達は皆そこへ立って思い思いのポーズを決めていた。

中には 東郷の真似をして 右手を左へ指し示して 回頭指示のポーズをする子もいる。

すると いずもの隊員妖精がそれを デジカメで写真を撮影してくれる。

そのデータは 三笠艦内の無線LANを経由して、桟橋にあるラッタル横のテント内へ転送され、プリントアウト。

子供達が帰る頃には それはホワイトボードへ掲示され、自由にもって帰れるのだ。

 

これは 三笠が、

「折角 皆 来てくれるのじゃ、何か記念になる物はないか」と言った所 いずもが

「ならば 自衛隊風のおもてなしをしましょう」といい 企画したものだ。

島民は 退艦する際に、その写真と 三笠が露天艦橋で指揮を執る姿を写したポストカード、戦艦三笠のシルエットとパラオ諸島のシルエットをアレンジした缶バッジ、そして

“戦艦 三笠の歩み”と書かれた、現地語、英語、日本語で書かれた小冊子をプレゼントされた。

小冊子には英国で建造された三笠の当時の写真や、日露戦争当時の写真などを載せ、建造から 口寄せの巫女との出会い、日本海海戦、三笠覚醒、そして戦後、ワシントン軍縮条約による “廃艦”、 記念艦として保存、 三笠本人の連合艦隊主席秘書艦としての生活などが紹介されていた。

最後に新造艦建造にあたり、三笠の志とこの艦を建造するにあたり多大なる協力をしてくれた現地島民工廠要員、並びに島民に対し 感謝の言葉が書かれていた。

 

 これらは すべていずも達の手作りであるが、記念としては十分であった、印刷枚数1000枚にも満たないこのポストカードや缶バッジが 後年、世界中の三笠ファンに高値で取引されたことは 後の話である。

 

 退艦し、桟橋に戻った島民の前のテントには焼きそば、たこ焼き、カレーなどの露店が並び、まるで縁日の会場のような状態であった。

それらはすべて無料で島民へ提供された。

子供達には 輪投げや水ヨーヨー釣りなどもある。

いずもやこんごうの隊員妖精が それらの露店で島民への給仕をしていた。

ちなみに カレーはひえいお手製のカレーである。

当初 ひえいのカレーと聞いた 金剛と鳳翔は

「それは いけません!」と反対したが、いずもが

「大丈夫ですよ、ひえいのカレーは 自衛隊カレーコンテスト、2年連続1位ですから」と太鼓判を押した。

今も 食欲をそそる匂いが 会場に漂い、長蛇の列が出来ていた

その列を見ると、そこには金剛と睦月達駆逐艦の子も皆並んでいた。

 

 

三笠は 島民達に囲まれながら、ゆっくりとその前を歩いていた。

「司令、いずも殿、誠にありがたい、ここまでしてくれるとは」

 

「三笠様、まあこちらもそれなりの用意がしてありましたから、まあ在庫一掃処分です」と司令はあっさりと言った。

 

「とは いうもののこれだけの量じゃぞ、本当に済まぬ」

 

三笠が恐縮するのは仕方無い。訪れた島民は数百名にのぼる。 そして泊地の要員なども入れると1000名分に近い。その人達のお昼を無料で提供してくれたのだ。

おまけに給仕も警備、案内も自衛隊が行っておる、その組織力の高さを痛感した。

 

三笠は、

我が日本海軍は軍隊としては優れておるが、こういう対外的な行事が苦手である。まあ精々観閲式などで皇室をお招きする程度じゃが、一般の民を相手にこのような事は到底できまい。

 

自衛隊という組織が 日頃からいかに国民を意識し、接しているかこれを見れば分かるというもの、我が海軍は このように組織を変貌させる事ができるのか?

しかし 自衛隊司令は 在庫処分といっておったが、いったいオーストラリアでどれだけの民間人を相手にするつもりだったのじゃ?

 

「自衛隊司令、しかしよくこれだけの量の材料を保管しておったの」

 

すると司令は

「まあ いずもの格納庫スペースの一部に保冷車をもちこんでいましたからね、元々はオーストラリアで演習の後の一般公開の際の余興で 日本の縁日を再現する予定で材料をかなり多目に搭載してきたのが良かったです」

 

「国際演習か、その後に一般公開とは 我が海軍では考えられんの」

 

すると いずもは

「まあ 寄港地での広報活動も自衛隊の公務の一つですから、国際協調をする為には お互い理解しあえて初めて可能となります」

「それに 各国の士官の方々にも毎回 好評なんですよ、皆さん家族連れできて来てくださいますから」

 

「では 次回 東アジアを歴訪する際は、いずも殿に同行してもらって 国際交流といこうかの」と笑いながら 歩いていた。

 

そして 戦艦 三笠の前に係留されている一隻の軽巡洋艦の前までくると

「さて、今日の主役はこの艦の主じゃ、泊地提督と軽巡 由良の“婚礼の儀!”にまいろう」といい いずも達を伴い 艦娘寮へ向った。

 

 

 

話は 三笠建造が決まった日まで遡る。

山本から、新造艦建造の許可を 気迫で押し切った三笠は、満足しながら申請書を自衛隊へ渡した。

完全に舞い上がっている三笠を見た 山本は、

「三笠 喜んでいる所済まんが、お前、今朝の話は二人にしたのか?」

 

すると三笠は

「へっ? いかん、完全に失念しておったわ」といい

泊地提督と由良を席に着かせた。

 

そして

「実は 二人に話がある」といい、こう切り出した。

 

「そなた達の“ケッコンカッコカリ”の件なのじゃがな、一応すべて整っておるので、儂がこのパラオに居る間に 仮祝言を挙げてはと イソロクが言うのでな」そして、

「まあ 仮じゃ、祭壇も婚礼衣装もないが、祝詞を奏上し 神々へご報告する事はできる」

 

泊地提督が

「しかし、その様な事は」と言いかけたが

 

「よかろう、提督 今後戦局は厳しさ、激しさを必ず増してくる、思い残す事がないようにしておきたまえ」と山本がいった。

 

三笠も

「それもあるがの、由良の事を思えば、そういつまでもこのままと言う訳にはいくまい」

「それに 今なら“金剛”もおる、二人の晴れ姿を見せてやるのもよかろう」

 

由良は提督を見て 決意をしたのか、頷いた。

二人にはそれで十分であった

 

提督は、

「有難くお受けいたします」といい 二人揃って深々と頭を下げてきた。

 

すると 横で聞いていた いずもが

「ご婚約 おめでとうございます、自衛隊もご協力させていただきます」

 

「おお 自衛隊も協力してくれるのか?」と三笠が聞くと、

 

いずもは

「はい 都合のいいことに色々と積んできてますから」と言い出した。

 

「積んできているとは?」

 

「はい、三笠様。自分達がオーストラリアへ演習に向かっていた事はお話ししましたが、演習後、現地日本大使館の要望で自衛艦娘展を行う事になっていまして、その為の資材を多数積んでいます。」

といい

「あかし、搭載リストを出して!」というと あかしはタブレットを操作して

「えっと、婚礼に関する搭載品はこれだけあります」といい 三笠へタブレットを差し出した。

それを見た三笠は息を飲んだ。

「なんじゃこれは、必要な物が殆どあるではないか!」といい

 

あかしは、

「はい、祭壇からお祓い用の御幣(ごへい)などの催事品、そしてなんと言っても、婚礼衣装もあります」といい画面をスクロールさせ 由良へ見せた。

 

「凄い、こんな立派な白無垢の衣装なんて」と驚きを隠せないでいた。

 

あかしは 楽しそうに

「由良さん、まだ色々とありますよ、ほらこれとか」とページをスクロールさせて、由良に見せた。

 

「あかし、着せ替え人形じゃないだから、あとでゆっくりと由良さんに選んでもらいなさい」といずもが呆れて言う。

 

「自衛隊司令、いいのかい ここまでして頂いて」と山本が言うと、

 

「まあ このまま積んでいても邪魔になるだけですし、喜んで頂けるならお使い下さい」

 

三笠は

「しかし、ここまで揃えば、“契りの指輪”が無いのが惜しいの、それさえあれば 正式な“婚礼の儀!”が行えるのじゃが」と残念がった。

 

由良は

「三笠様、これだけでも私達には十分すぎます」

 

すると いずもが自衛隊司令へ向い、

「司令 よろしいですね」と問いただした、暫し黙る司令

「司令! よろしいですね!」と少し語尾が強くなった。

 

「しかし、いずも あれは1組しかないぞ、いいのか?」

 

「構いません、司令! それに 由良さんと提督の婚礼です! 何を言っているんですか!」と怒りだした。

 

「君が納得するなら 俺は構わん」と言うと 静かに席に着き直した。

 

いずもは 三笠に向かい、

「契りの指輪、まあ結婚指輪ですが、搭載しています」といい 自身のタブレットから写真データを取り出した。

「これは、私達の次元の大巫女様が、この腕輪と同じ精神感応金属で製作した一点物です。艦娘の能力を最大限発揮できるように基本調整済み。お相手の方のデータを刷り込み、反応調整すれば完了です。」

 

「そんな貴重な指輪を よろしいのですか?」と聞く由良に対して いずもは

 

「構いません、艦娘とはいえ女性です、幸せになる為なら最大限に努力して当たり前です」と言いながら 司令を睨んで、

「どこかの誰かさんは、全然 理解していただけない様ですけど!」と 本気で怒っていた

 

「しかし なぜこの様な貴重な物を搭載しておるのじゃ」と三笠が聞くと、いずもは やや赤くなりながらも、

 

「えっ こ、これは オーストラリアで開催される予定だった自衛艦娘展で 展示する予定で、搭載してました」と慌てて答え、何かを言いかけたあかしを 睨んで、黙らせた。

 

暫し いずもの反応を見ていた三笠であったが、

「まあ 由良よ、これも渡りに船、有難く頂いておくがよい」

 

「本当によろしいのでしょうか」と再度確かめる泊地提督であったが、自衛隊司令が答える前に、いずもがきっぱりと

 

「勿論です」と言いながら いずもは 由良の手を取り、

「女性の幸せは この時の為にあると言ってもいい位です、お二人の婚礼は このいずもが全力でお手伝いします」

 

こうして、拍地提督と由良の婚礼の儀は 三笠進水式 当日の午後 執り行われる事となった。

勿論、泊地内部に通知されて 地元島民にも知れ渡る事になる。

三笠進水で湧く島民に取ってもこれは 一大事であった。

今まで深海凄艦の脅威に対して正面から立ち向かってくれた恩人 パラオ泊地の提督とその旗艦 由良の婚礼となれば 族長達が黙っていなかった。

パラオ司令部には 族長達の使者がやってきては、婚礼の日取りや必要な物はないかとか大騒ぎとなった。

まあ 長波や鳳翔の潜水艦撃沈や打撃艦隊撃破などもあり、泊地自体では話題に事欠かない日々であった。

 

三笠曰く、“儂の進水式など、由良の婚礼の儀の余興にすぎぬ!”という位 皆この婚礼の儀を楽しみにしていた。

そして その婚礼の儀が間もなく始まるのだ。

 

三笠進水式に参加した島民はそのまま泊地内部で、自衛隊から提供されたお昼で お腹を満足させたあと、進水したての三笠を見学して、暫し待つことになる。

その戦艦 三笠の前の係留桟橋には 軽巡 由良が係留されていた。

 

 

 

昨日、夕刻帰還した由良の艦体は そのまま工廠横のこの桟橋に係留された後、由良本人は、各種の報告をした後に はるなに連れられていずも艦内の艦娘調整施設へ案内された。

そこで各種の計測機器を使い、艦霊波動を計測した。

 

はるなは、

「折角 調整施設に来ていますから、リラクゼーションしましょう」といい、

由良を調整カプセルへ案内した、そこにはカプセル式の調整槽が並んでいた。

由良が、

「これは なんですか? 初めて見る機械ですけど」と言うと

はるなが、

「これは 皆さんでいう所の入渠施設みたいなものです、精神の緊張を和らげる機能があります、気持ちいいですよ」と笑顔で答え、由良を入浴着に着替えさせカプセルの中に案内した。

 

やや緊張する由良を見て

「少し 修復剤の入った水を浸しますけど 大丈夫ですよ」といい カプセルの蓋を閉めた、カプセル内部で仰向けに寝て、ほんの少し修復剤入りの水が満たされた。

何処からか 波の音が聞こえてきた、静かな波の音。

まるで海の上に浮かんでいるような感覚。

いつの間にか、ゆっくりと睡魔に襲われ寝てしまった。

 

由良が眠りについたのを確認すると はるなは タブレットでいずも副司令を呼び、

「由良さんの精神同調 準備できました」と告げた。

 

調整室には いずもと三笠が現れた。

「はるなさん ごめんなさいね、前回の件があるから あまり由良さんに負担をかけたくないの」といいながら いずもは制服の上着を脱いだ。

 

「はい、副司令 私は外の待機室にいます、終わったら呼んでください」といい退室していった。

部屋の中央には 由良の眠るカプセル、そしてその周囲には いくつかの計測機器が並んでいた。

「いや 本当なら儂がするべき事なのだが、この手の調整は苦手でな、後日 姉上にお願いするつもりであったが、いずも殿ができるとは意外であったな」

 

「三笠様、以前にもお話ししましたが、私は 亡命深海凄艦の2世代目です、横須賀の海軍神社で保護対象として育ちましたから、彼方の次元の大巫女から 色々と仕込まれました」

 

「では いずも殿も巫女修行をしたと?」

 

「はい、16歳になるまでの間に大巫女のご指導で、修行させていただきました。」

そういいながら、いずもは持参した小さいアルミトランクを机の上に置き、中から1組の指輪をとりだし、それを測定器にセットした。

 

いずもは 自らの霊力が最大限発揮できるようにする為に、メガネと髪留めのリングを外した、みるみるうちに髪は 白く染まり、そして肌も白く色が抜けていた。

もう一人の いずもが姿を現した。

 

「では 三笠様 始めます」といいながら、

右手を測定器に載る指輪へ向け、左手を由良の眠る調整カプセルに乗せた。

いずもは 呼吸を整え、そして ゆっくりと由良の艦霊波動を 自身で感じ始めた。

左手のブレスレットが 青白く光り、受動した波動は、いずもの体を通して、整合され、計測機器へつながる指輪へ記憶される。

 

三笠は その作業をじっと見ていた。

“やはり、いずも殿もこの能力をもっておったか! これだけの大型空母を運用できるのじゃ、もしやとおもったが 流石 姉上 よく見出された。”

 

“あかし殿が言っておったが、あかし殿の技量があれば 艦娘の波動を指輪に、機械で記憶させる事もできるそうじゃが、それでは機械の雑音も一緒に記憶される。

しかし、いずも殿ほどの能力、口寄せの巫女の力があれば、艦娘の波動を雑音なく聞き出し、それを綺麗に整合させ 指輪へ記憶させる事が可能じゃ”

 

三笠は その後も由良の波動をゆっくりと慎重に コピーするいずもを見て、

“素晴らしい、確かに今のいずも殿の姿は 深海凄艦 北方棲姫 しかし その艦霊はとても清らかで 美しい、大和などと比べても決して劣る事はない、いやそれ以上じゃ。

そして 強い。

美しいものは 意外に、脆弱であることが多いが、いすも殿の魂は儂の見る限り、美しく 強い”

 

“このいずも殿もそうであるが、こんごう殿をはじめ、自衛艦娘の皆 艦霊に雑念が無い、美しく、そして意思が強い、自らの志がしっかりしておるからあれだけの艦をもっても押し潰される事がない、彼女達を見れば 彼方の次元の姉上達が歩んだ道が いかに厳しいものであったか! 儂らもより一層精進せねば!”

 

いずものブレスレットの光が ゆっくりと消滅していった。

「終わりました、これで婚礼の儀の準備は完了です」といい 指輪を大切に再びケースへ保管した。

 

 

由良は 夢を見ていた、白い光に包まれてゆく夢であった。

最初、夢の中でその光を見た時“怖い”という意識があった。恐る恐るその光に触れてみる。暖かい優しい光。その光に自身が包みこまれる。まるで海の中で、そっと浮かんでいるような不思議な感覚。

暫くすると 意識が戻り始めたのが自分でも分かった。

“はっと 思い”目を開けると そこには 笑顔のはるなさんが 私を覗き込んでいた。

 

「お目覚めですか?」と優しく聞かれた。

「すみません 何か眠り込んでしまったようで」

 

「いえ 構いませんよ、そういう機械ですから」

 

「えっ どういう意味ですか?」

 

「このカプセルは 艦娘の艦霊の波動を正常な状態へ戻す機能があります、艦娘は 元は人ですから、艦の魂とのあいだに知らないうちに 歪が生じる事があります。」

「長年 その歪は、精神力で、押さえつけておく物とされてきましたが、艦娘研究が進むにつれて、抑えるものではなく 適度に発散させるべきものという研究がなされました。」

 

「歪ですか?」

 

「そうです 由良さん、その歪が最大限になった時に起こるのが 艦娘の精神崩壊だと言われています」

 

「精神崩壊、まさかそれは」

 

「はい 艦娘の悪霊化、深海凄艦化とも言われています」

はるなは 続けて、

「艦娘がもつ、恨みとか妬みとか、そういう負の部分に歪がたまり、そして暴走していきます」

「この機械は、その歪 私達は“ストレス”と呼んでいますが、それを軽減する機械です」

 

はるなは 由良の手を取って

「由良さん、婚礼の儀 すなわち結婚とは 読んで字のごとく お互いの信頼を結ぶものです、これからは 泊地提督さんと二人 信頼の絆を今以上に結び紡いで、負の歪に飲まれないようにしてくださいね」

 

「はい はるなさん」

 

するとはるなは

「いいですか、その為には お互いになんでも話せるようになってください、提督さんが だだをこねたら、尻に敷いておく位が丁度いいとおもいますよ」

 

「えっ」 由良は少し慌てた。

いつも おしとやかでまるで日本美人の典型ともいえる はるなが 意外に過激な発言をしたのだ。

 

「まあ、うちの司令と いずも副司令が いい例ですよ、あれ位がお互いにいい信頼関係を築いた証拠ですね」

 

「お二人が ですか?」

 

「ええ、お二人はこの時代の 海軍兵学校の先輩後輩の関係ですが、個人的にもね」といいそれ以上は 話さなかった。

 

「さあ、もう夜も遅いです、寮へお送りします」といい 二人で退艦した。

内火艇で いずもを去る由良を一人の男性がじっと 飛行甲板の上から 眺めていた。

 

工廠横の桟橋では 煌々とライトが照らされ、ある作業が行われていた。

 

由良本人が いずもで 調整をうけている間、工廠横の桟橋では あかしが ハンドマイクを片手に 自身の工廠隊員、そして泊地工廠妖精、由良兵員妖精を前に叫んだ

「いいか皆、明日は 艦娘最大のイベント! 由良さんの婚礼の儀! 工廠妖精の意地にかけても、綺麗に磨きあげるの!」いうと、

 

「おう!」と皆で返事が帰ってきた!

 

「では 総員配置につけ!」と号令をかけた。

一斉に桟橋横に整列する妖精

「船体 浮上!」とマイクで言うと、昨日まで 金剛を浮き上がらせていた浮きドックが今度は 由良の艦体を ゆっくりと持ち上げた。

金剛に比べて 1/5程度の排水量の由良である、あっという間に艦体は浮上した。

「総員!所定の工程の通り、作業はじめ!」とあかしが号令をかける。

 

一斉に 浮きドックに簡易ラッタルが掛けられて、わらわらと兵員妖精が乗り移る。

これから 由良を徹底的に磨きあげるのだ。

まず 特殊な洗浄機を使い 船底に付着したフジツボなどの付着物をとり除く、その後研磨機で 綺麗に磨きあげ、船底色を塗装する、甲板、艦橋も同様の作業が行わる、そして艦内は 由良兵員妖精が 徹底的にお掃除である。

特に 由良副長は気合が入っていた

「いいか! この由良は艦隊旗艦であると同時に、提督と艦長にとっては 第二の新居である、それに相応しいよう気合をいれて 綺麗にしろ!」

 

その作業を外のテントで管理しているあかしの所へ、こんごうと鳳翔が夜食のおにぎりを持ってきた。

 

「お疲れ、あかし、調子は?」

 

すると あかしは

「大丈夫、あと3時間位で 完了しそう」といいながら、進行表を確認していた。

 

「あかし 明日は三笠様の進水式もあるから 無理しないようにね」と言うと、あかしは

 

「まあ 大丈夫! 昼間少し寝てるし、それにこんな機会 滅多にないもん、第一世代の艦娘の婚礼なんて 資料でみるぐらいだし、ある意味貴重な経験」

 

「じゃ 夜食みんなで食べて」といい こんごうと鳳翔はテントを後にした。

 

あかしたちは 交代で休憩を取りながら夜食の鳳翔特製おにぎりを食べ お腹を満たした。

その後、最終的に艦体に ナノマテリアルをコーテングしてステルス性を向上させ、作業は 深夜 日付が変わるまで続いた。

 

 

その由良の艦体が いま、進水を終えたばかりの三笠の前に係留されていた。

昨晩のあかし、工廠妖精、由良の兵員妖精達の頑張りによって 艦体はまるで新造艦のように 綺麗に仕上がっていた。

早朝より、由良の副長の指揮の元、満艦飾が施されている。

そして 前の桟橋には 祭壇、その祭壇に通じるように 赤いカーペットが用意された。

祭壇の後方には 関係者のテント、椅子が綺麗にならべられている。

会式の時間が迫り、まず鳳翔が進物台に 早朝に地元島民が持参した、パラオの魚類、野菜、果物をお供えした。すべて地元で捕れた物である。

 

鳳翔、瑞鳳、睦月をはじめとする駆逐艦の子、泊地関係者 パラオ族長達が席に付き始めた。島民もみな思い思いの場所へ着き 由良達の到着をまつ。

ここでも 自衛隊司令達は目立たぬように端へ着席し あかしはまたもやテントの外で観測機器とにらめっこをしている

 

 

泊地 艦娘寮から 数台の車が会場へ入ってきた。

まず 最初の車から降りて来たのは 連合艦隊司令長官 山本イソロク

続いて、戦艦 三笠 しかし先程まで着ていた提督服ではなく、式を執り行う為の斎主 正装である。 そして次の姿を見て鳳翔達が驚いた。

金剛である、金剛が正式な巫女服を着て後に続いているのである。

普段の戦闘装束は巫女服をアレンジしたもので動きやすさを重視し、肩のあたりが露出していたり、やや大きめ目の胸部装甲が目だったり、なぜかスカートだったりと色々ツッコミどころのある服であるが、今日はまったく隙のない正式な巫女服である。

 

瑞鳳が

「金剛さん 何か雰囲気が違いますね? まさか“こんごう”さんじゃないでしょうか?」

 

「瑞鳳ちゃん、でも こんごうさんなら あそこに」と指さすと こんごうは海上自衛隊の幹部第一種夏服を着て 前方の司会席に座っていた。

 

「鳳翔さん、金剛さん もしかしたら ひえいさんのカレー食べてまともになったとか?」

 

「瑞鳳ちゃん、だといいけど?」と あきれながら答えた。

 

そして 次の車からは パラオ泊地提督が降りてきた。

真っ白な海軍第2種軍装である、腰には帯剣し儀礼用の正装をしている、幾分顔つきが固いのが読みとれる。

そして 最後の車から降りて来たのは 巫女服をまとうはるなが介添をしながらゆっくりと車を降りる 白無垢姿の由良。

真っ白な衣装に 元々色白な事もあり、余計にその白さが目立つ、いつも長くリボンで結ってあるピンクの髪は 上手くまとめて綿帽子の中に収めてあった。

ちなみに 巫女服姿のはるなを見た島の人達は 由良の結婚式に戦艦金剛、榛名が介添にわざわざ、トラックから来たと後日騒ぎになってしまい、由良の威厳を高める事になった。

 

 

その姿を見た 長波は

「綺麗、由良さん とっても綺麗」と何度も呟いていた。

その横で ポケットから カメラを取り出し 写真を撮る皐月

 

それを見た 陽炎は

“こいつか! 青葉にネタを送ってたの! 大体そのカメラ もしかして、それライカじゃない! 一台で魚雷1発分のお値段するのよ、どこで手にいれた!”

 

まず巫女服姿の金剛が先頭に立ち、その後を新郎新婦、媒酌人である山本、そして神職である三笠が並んだ。

するといずもが 金剛の元へ行き、持参したアルミケースから金剛の持つ三方、神へ捧げるお供え物を置く盆に足のついた入れ物へ “契りの指輪”を収めた。

 

 

こんごうは それを確かめると 静かに立ち上がり

「皆様、只今より 日本海軍 パラオ泊地提督、長良型4番艦 由良、婚礼の儀 始めさせて頂きます」と深く一礼した。

 

そして

「参進の儀」と 静かに良く通る声で言うと

金剛がゆっくりと前へ進み始めた、提督や白無垢姿の由良もそれに続く、由良の後方には介添のはるなが 朱傘を持って歩いている。山本、三笠もそれに続く。

会場はその厳粛な雰囲気に包まれ、静かになった。

 

祭壇の前まで来ると 金剛は一礼し、契りの指輪の入った三方を 祭壇中央へ供え、裾へ下がり 提督と由良は祭壇前に進む、山本は最前列に座り、三笠はゆっくりと祭壇の前に踊りでた。

こんごうは

「皆様 ご起立願います」といい 皆、起立すると、斎主である三笠が 拝礼し、みなそれに合わせて拝礼。

 

「修祓(しゅばつ)の儀」とこんごうが 静かに言うと

三笠は 祓詞(はらいことば)を述べ 御幣を用いて提督、由良、参列者の穢れを祓う。

 

「祝詞奏上の儀」 そうこんごうが言うと 三笠は 懐から奉書紙をとりだし、

静かに眼前に広げた、皆軽く 頭を下げた。

そして 海神の神々へ 泊地提督と由良の婚姻を報告する祝詞を 静かに威厳を込めて、奏上した。

 

その後 参列者は静かに席へついた。

 

「三々九度の盃」

こんごうの声が 会場に響く、

金剛は祭壇にある 三々九度の杯の載った三方をとり、提督と由良の前に差し出した。

 

その3人の姿を見た 鳳翔は知らず目に涙を浮かべていた。

「鳳翔さん? どうしました」と瑞鳳に聞かれ、

 

「いえ、今までの事を少し思い出しだけです」といい 懐から手ぬぐいを 取り出し涙を抑えた。

鳳翔は この二人を結びつける為、金剛が起こした一世一代の大芝居の事を思い出していたのだ。

 

まず一の杯を提督がとり、はるなが御神酒を静かに注いだ、そして三口で飲み干す、次に由良が 同じ動作をしながら一の杯を飲み干した、そして再び提督が 杯をもち再び三口で飲み干す。

二の杯は由良から始まり、三の杯は提督からとなる、合計九回 これで三々九度となるのである。

 

「誓詞奏上(せいしそうじょう)」

その声を聞くと 泊地提督と由良は 祭壇の前に進み出た。

巫女服姿のはるなが 祭壇にある三方に置かれた 奉書紙をとり、それを泊地提督へ渡す。

提督は ゆっくりとそれを開き、

「本日 ここに海神の神々の導きにより、婚礼の儀を執り行い、固き絆と信頼をもって共に 歩む事を誓います。」

「日本海軍 パラオ泊地 提督 少将」と言うと 続けて

「長良型軽巡洋艦 4番艦 由良」と由良が続けて誓いの言葉を述べた。

泊地提督は それを祭壇へ収めた

 

二人が 少し下がり はるなの介添で 椅子へ掛けると、

金剛が 巫女神楽で使う鈴をもち 前へ踊り出た。

 

「巫女の舞を奉納いたします」と こんごうがいうと 

静かにそして 威厳に満ちた鈴の音を鳴り響かせ、金剛が舞を奉納した。

皆 その姿を静かに見守った、西洋人の面立ちの金剛が 見事に舞を舞っている。

ブラウンの髪が パラオの風にたなびいていた。

その姿は まるで地上に降りた 海神の巫女その者である。

 

提督が ふと由良を見ると、少し目に涙を浮かべていた。

「由良 大丈夫かい?」と言うと

「はい 提督さん、金剛さんが 私達の為に一生懸命、舞を奉納してくれているのが 嬉しくて」と 声を詰まらせていた

 

舞が終わり、金剛が一礼し裾へ下がった。

 

「玉串拝礼(たまぐしはいれい)」

はるなが 玉串の入った三方を持ち、三笠が 作法に則り、それを 泊地提督、由良へと渡す、提督と由良は それを神前へ供えた、続いて仲人である山本がそれに続いた。

本来ならこの後は 親族の番であるが、新郎も新婦も親族は来ていない。

三笠は テントの後方で目立たない様に座る、一人の男性を見たが、じっと瞑目していた。

 

 

「契りの指輪を交換致します」と こんごうの声が会場に響いた

はるなが、祭壇に供えられた 契りの指輪を収めた三方を持ち 提督と由良の前に立った。

 

いずもは そっと目立たぬように テント横の計測機器の前にいるあかしの元へ行き、

「あかし、由良さんの状態は?」

 

「大丈夫です、精神波形、バイタルデータ共に許容範囲内です」

 

「さて ここからが問題よ、これまでは普通の婚礼、でも艦娘の婚礼はここからが本番よ」

 

「あの、副司令 本当によろしかったのですか? あれは」と言いかけたが

 

「あかし、いいの、また機会があれば 横須賀の大巫女様にお願いするわ」

 

「司令、拗ねてませんか?」

 

「まあね、ああいう所は まだまだ子供ね」とだけいい

「始まるわよ!」と 提督と由良へ意識を向けた。

 

提督と由良は 向かい合い、そしてまず 由良が提督の左手の薬指へ 指輪をはめた。

そして、次に提督が、由良の左手を取り、そっと薬指へ契りの指輪をはめ。

そして 静かに その指輪へ 口づけをした。

その瞬間、その指輪は青白く光り輝き 提督と由良を優しく包んだ。

「おお!」と 島民から 驚きの声があがる。

二人を包んだ 光はその後、ゆっくりと渦を巻きながら 桟橋へ係留してある 由良の艦体を 包み始めた。

すると 由良の艦体に幾重にも白く文様が走った。 由良の艦霊が提督と由良に反応しているのだ!

 

「イデア・クレスト確認、個体識別パターン 長良型軽巡4番艦 由良と確認!」あかしが 観測モニターを見ながら報告する。

 

「あかし! 状況は?」

 

「はい 副司令、艦霊波形 同調率80% 上昇中!」そう言うと、じっとモニターを見た

「85、90%、なお上昇、95%です、バイタル正常、間もなく安定します」

 

あかしがそう言うと、艦を包んでいた 光は渦を巻きながら、艦橋の中へ 吸い込まれていった。

「艦霊波形同調率 95% 安定しました、成功です」と右手の親指をたてた!

 

すると 三笠は ゆっくりと立ちあがり、提督と由良の前までくると、

「これで 二人は正式な 夫婦となった、由良の艦霊も喜んでおる」といい 由良の艦体を指示した

「共に 強き絆をもって歩んでいくのじゃぞ」

「はい 三笠様」と泊地提督と由良が答えた。

 

「しかし 親族がおらんのが 少し寂しい気もするがの」と言うと、提督は

「自分は 国に両親がおりますが、由良の事は紹介済みでありますから 問題ありません」

「私も そのうち長良姉さんたちにも会えますから、その時に報告いたします」

すると 三笠は テントの後方を見たが

「まあ 良いか」といい、祭壇の前へ進み

海神の神々へ つつがなく婚礼の儀が終わった事を報告し、一拝、皆起立し、一礼し 式は無事終了となった。

 

その後、提督、由良を囲み 記念写真を 由良の艦体をバックに撮影した。

写真は 3枚撮られた、最初の写真は 最前列に提督と由良、その左右に三笠、山本、そして 泊地所属の艦娘と金剛 後方には パラオの族長達、自治政府の関係者。

これは 一般公開用の写真

 

2枚目は 最前列は変わらないが、後列には 由良の副長や航海長などの幹部が並び、由良の甲板には その他の兵員妖精が思い思いの場所にいる写真

 

そして3枚目は 前列はそのままであるが、後列は自衛隊のメンバーが入った写真である。

提督の後方に 自衛隊司令、由良の後方にはいずも、そしてその左右を こんごう達が埋め、会場にいた隊員妖精も 由良の甲板に並び写真に収まった。

しかし その写真は決して表にでる事のない写真でもある。

 

写真を撮り終えた、提督と由良に こんごうが

「では お二人の門出を祝い、祝賀行事を行います」と告げた

 

それを聞いた由良達は驚いた

「祝賀行事ですか?」

 

こんごうは マイクを持ち、会場にいる来賓者に対し

「パラオ泊地 提督と由良さんのご結婚を祝し、パラオ所属航空隊による祝賀展示飛行を行います」と言うと、

「皆様、会場右手 泊地湾内入口 上空をご覧ください」とアナウンスした

 

すると、泊地湾内入口の 島影から航空機の大編隊が現れた!

こんごうが 説明する

「先頭の編隊は 航空母艦 鳳翔艦爆隊 先日 戦艦撃沈を果たした部隊です」とアナウンスすると 島民から拍手が起こった。

上空には 鳳翔の99艦爆隊が傘型体形で進入してきた。

 

「後方は 航空母艦 瑞鳳より、97艦攻隊です」

瑞鳳の97艦攻隊は ひし形体形で それに続いた。

 

鳳翔と瑞鳳の艦爆、艦攻隊は ゆっくりと泊地内部へ侵入し、編隊を保ったまま、由良の艦体の頭上を 通過していった。

「続きまして、鳳翔、瑞鳳 制空戦闘機隊 ならび由良艦載機、金剛艦載機です」

由良の水観を先頭に 左右を金剛艦載機2機が固め、右に鳳翔の零戦隊、左に瑞鳳の零戦隊が大きな傘型体形で進入してきた。

20機近い機体が 綺麗に並んで まるで一枚の板のように旋回しがら 進んできた

島民からも声が漏れる。

由良が

「水観 見ないと思ったら あんなところにいたのね」

 

そして 次は

「後方より進入してきますのは パラオ泊地所属 対潜特殊航空機隊です」

湾入口の島影から こんごう達の艦載機 SH-60Kが4機 ダイアモンド編隊で進入してきた、初めて見る機体に 島民も驚く。

ロクマルはそのまま、由良の艦体の上空に来ると4番機を務めた、きりしま艦載機のサイドドアが開き、中から紅白の紙吹雪が会場に撒かれた。

会場を埋め尽くす紅白の紙吹雪。

 

三笠が空中を舞う紙吹雪を見ながら、

「粋な計らいじゃの」といい、提督達を見た。

通過する ロクマルを見ると、窓から隊員妖精が手を振っているのが分かる

 

続けて こんごうは、

「皆様、 泊地入口 湾内をご覧ください」と言うと、

 

なんとそこには、護衛艦 こんごう、ひえい、はるな、駆逐艦 睦月、皐月、陽炎 秋月、長波が 単縦陣でゆっくりと湾内を進んできた。

各艦の側舷には 各艦の隊員が登舷礼の為 整列しているのが分かる

湾に沿うような形で 回頭しゆっくりと工廠のある桟橋へ近づく艦隊。

そして 由良の艦体の前まで来ると、

見張り所にいたこんごう副長は 艦外放送で、

「パラオ泊地提督、旗艦由良さんの婚礼を祝い 総員 敬礼!」と号令をかける。

甲板上に整列していた隊員妖精が一斉に敬礼した。

桟橋上の山本、泊地提督、など軍属が答礼する、由良もお辞儀をして答礼した。

その後も ひえい、はるなと次々と通過して祝意を表した。艦隊は 一旦湾内の端まで行きそこで回頭 再度 由良達の目前を通過する航路を通った

 

艦隊が 帰ってきた事を確かめると 司会のこんごうは

「各艦、婚礼を祝い 祝砲を放ちます」とアナウンスすると

 

先頭のこんごうの 127mm砲が 海上へむけて旋回した。

同じく、ひえい、はるなも砲を旋回させた、睦月達も ゆっくりであるが主砲を旋回させ

そして、由良の前を通過した瞬間、各艦順番に祝砲を上空へ向けて放った。

合計 13発 泊地内部へ 響く祝意の号砲!

 

山本は こんごうへ向い

「こんごう君、提督、由良の為にありがとう」

 

するとこんごうは、

「長官、もう一つ とっておきがありますよ」と言った。

 

「とっておき?」

 

自衛隊及びパラオ駆逐艦隊の祝砲に感動したのか、提督と由良はじっと艦隊を見送っていたが、その二人の前に いずもが進み出て

 

「では 私のいずも航空隊からは お二人の愛の大きさをこのパラオの皆さんにご紹介しますね」といい ポケットから小型ヘッドセットを取り出し、耳へ装着した、そして

 

「フライトコマンダー! いずもです ミッション スタート」とコールした。

 

すると 突如 島影から 3機のF-35が低空で進入してきた。

車輪を降ろし、フラップも下げ、低速飛行である。

車輪に付いている着陸灯を点灯しているので 遠くからでもはっきりと分かる。

3機は 傘型編隊を組み、会場右手から 近づいてきた。

すると突然 3機の後から白い煙が出てきた。

島民の皆から 「おお!」と驚きの声がでる

 

山本は

「故障か?」と言ったが、こんごうは

「式典用の発煙装置ですよ」と答えた。

 

3機はまず 会場上空までくると ゆっくりと右360度旋回を行い 湾内を 白煙を引きながら一周した、一周する間に 車輪とフラップを収め、通常飛行体形へ移行する。

 

すると こんごうはマイクを取り、

「これより いずも航空隊により、新郎新婦へ今日の日を記念し、贈り物を致します」

 

湾内を一周した編隊は 再び由良上空までくると、白煙を止め、1番機、2番機は左手へ

そして 3番機はそのまま加速し直進し飛び去っていく。

島民はその急加速にまた驚き、声がでた。

 

左手に別れた 2機はゆっくりと左旋回をしながら 横一列に編隊を組み直すと、会場の後方から 再び侵入してきた。

島民も泊地関係者もこれから何が起こるのが 興味津々だった。

轟音を響かせ、会場の上空を通過した2機のF-35は そのまま会場上空を通過すると 機首を引き起こし、垂直上昇へ入った。

みるみるうちに上昇する2機の機体、会場から驚きの声があがる。

すると 2機は くるりと半回転しお互いのお腹を合わせるような形になった。

そしてその瞬間、また機体の後部から白煙を出した。

「おおー」と島民から声が上がる、

白煙を出し始めた瞬間 2機はまるで花が開くように 左右に別れた、

そしてそのまま 半円の宙返りの機動をとった、しかし途中で 円の半径を変化させて 空に大きな図形を描いた、その図形は徐々に形になってゆく、宙返りが終わり 海面すれすれで 2機は 再び交叉した瞬間に 白煙が止まり、2機は左右に飛び去っていく

 

 

パラオの青く透き通る空に、2機のF-35は特大のハートマークを書いたのだ。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

パラオの空に 巨大なハートマークが現れた瞬間 会場右手の海面すれすれから 先程別れた 3番機が45度の角度を保ち一気に加速して上昇していく、機首がもち上がった瞬間、後部から白煙を吐き始めた、ハートマークの中心に向けて一気に加速する。

そして 見事 ハートの中心を貫き 空高く消えて行った

まるで 由良の心を撃ち抜いた提督の誠意を表すが如く。

 

会場から 驚きの歓声が沸き上がる。

 

いずもは二人を見て

「これからも このパラオの空の下、末永くお幸せに」

 

それを聞いた由良は

「提督さん、由良は、由良はとても幸せです、皆にこんなに祝って頂いて」

とついに 感極まり、目に涙を受浮かべ始めた。

提督は

「いずもさん、本当にありがとう、自衛隊の皆さんのおかげで、由良と二人 なんとお礼をしたらいいか」

 

「泊地提督、お二人の幸せを願う人達が大勢いるからこそ 私達も頑張っただけです」

といい

「由良さん 花嫁さんがそんなに泣いたら せっかくの美人が台無しになりますよ」といい、はるなを呼び、披露宴の為のお色直しへ向わせた。

 

三笠は

「さあ 皆、堅苦しい式はこれで終わりじゃ、披露宴を行うとしよう」といい 金剛を伴い 艦娘寮へ向った。

 

披露宴の会場は 艦娘寮の1階の食堂とその前の広場が使われる。

食堂は元々 外からの出入りがしやすいように前の広場に面した大き目の入口があるので

食堂をメイン会場にして、外の広場に大型テントを設営して 島民の皆さんをもてなす事になっている、食堂には 新郎新婦の席などを用意し、だれでも自由に出入りできるようにしてあった。

 

披露宴会場に自衛隊司令と山本が入ってきた。まだ誰もおらずがらんとしていたが、食堂の奥では鳳翔と瑞鳳、こんごう達各艦の糧食班が、フル稼働で披露宴の準備をしていた。

 

山本と自衛隊司令は 空いた席へ座り暫し時間をつぶした

「司令 今回は本当に世話になったな、なんとお礼を言えばいいか」と山本が切り出した

 

「まあ 自分達もいつまでも機材を積みっぱなしとは行きませんし、ここで少しでも地元との顔繋ぎができればいいわけですから」

 

「これで 泊地提督と由良も落ち着いて生活できるといいがな」

 

「長官、まあ二人の事は今後 時間が解決します」

 

「ああ それにしても また明日からは激務だな」と言うと

 

「ええ 多分 奴らはこのパラオを目の敵にしてくるでしょう」

 

「司令もそう思うか」

 

「はい 長官、ここ数日 奴らはいいところがありません、戦艦ル級を含む数隻を撃沈されていますが こちらはほぼ無傷、そして今日 島民を基地内部へ入れた事で 我々の存在もそのうち 島民の噂となって奴らの耳に入ると思います」

 

「と言う事は 奴らにとっての脅威度が増すという事か?」

 

「はい、奴らは 潜水艦を使った群狼作戦を計画し このパラオの無力化を計画していたはずですが、それが頓挫しました、今後 奴らはマーシャル方面の作戦を有利に進める為にも 何としてもパラオは無力化したいはずです」

 

「次の一手を打ってくるか!」

 

「はい 次は多分 長官の好きな奇襲作戦あたりかもしれません」

 

「奇襲作戦?」

 

「はい 航空機を使った 滑走路の破壊と港湾施設の無力化、油が無ければ艦娘もお手上げですから」

 

「その後は 打撃艦隊による艦砲で仕上げか?」

 

「はい まあそんな所ですね、長官」

 

「明日にでも、対策を検討するとしよう」

そう言うと、また二人で ぼそぼそと 他の人には聞こえないように密談を繰り返した。

 

 

艦娘寮の控え室では 由良のお色直しが はるなと瑞鳳の手伝いで行われた。

こうなると男性は出番がなく、提督は廊下で待つはめになる。

ウロウロと廊下を歩く姿は、檻の中の熊である。

気になるのか、中を覗こうとして瑞鳳に叱られた。

 

 

別室では、祭司を終えた、三笠と金剛が着替えの為に休憩していた。

いずもとこんごうが 手伝いの為に入室してきた。

 

椅子に座る、三笠と金剛に対し、いずもは

「三笠様、金剛さん お疲れ様でした、大変素晴らしい式でした。島民の皆さんも大変喜んでいます」

 

「いや 儂は ただ祝詞を奏上したに過ぎん、いずも殿達の演出が素晴らしかった、由良達も記念に残る いい式であったろう」

 

「三笠様にそういって頂くと、企画した者たちが喜びます」といい、

いずもは、三笠の横に座る金剛へ

「金剛さんも、巫女役 お疲れさまでした と言いたい所ですが」といい、

 

いずもの横に立つこんごうが、

「金剛お姉さま、いえ 大巫女様も お疲れさまです」と言った

 

すると金剛は

「ばれておったか、三笠よ、この女子たちは手強いの」といつもと違う口調で話始めた。

 

三笠は

「そなた達 いつ気がついた」

 

すると いずもは

「私は、指輪を三方へ収める時かしら、こんごうは?」

 

「私は、車から降りた瞬間です」

 

「ほう よう気がついたな、なぜじゃ」と金剛の姿をした大巫女が聞くと、

 

こんごうは、

「金剛お姉さまはイギリス生まれの帰国子女です。あれほど見事に、巫女服を着こなす事はできません。それに感じる艦霊の波動が金剛お姉さまではなく、大巫女様の波動でした。確信をもったのは巫女の舞です。いくらお姉さまでもあれほど完璧には舞う事はできませんね。」

いずもは、

「私は 大巫女様が口寄せの巫女の技を使い、艦娘の艦霊に一時的に憑依する技をもっている事をしっていますから、多分そうなのでは思っただけです」

 

「三笠よ、この子達は素晴らしい洞察力じゃ」

 

「姉上、いずも殿もこんごう殿も 他の子も自衛隊の艦娘は皆 素晴らしい子ばかりです」

「彼方の次元の姉上や儂らがいかに努力して 築き上げたかこの子達をみれば分かろうというものです」

 

「うむ、さて時間もないことじゃ、三笠よ、先日 皇居で 水面に小石を投げ込んでおいた、近いうちに動きがあるもしれん、こころしておくがよい」

 

「姉上!まさか! では大掃除を始めるのですか!」

 

「ああ その通りじゃ、いまの所はおとなしくしておるようじゃが、そのうち我慢できなくなって動きだした所を 押さえる」

 

「分かりました、イソロクにもそれとなく伝えておきます」

 

「いずも殿、こんごう殿 ぜひ横須賀に来た時は 海軍神社へ足をはこんでおくれ」

 

「はい、大巫女様」といずもとこんごうは一礼して 答えた。

 

「では 近いうちに」と言うと、金剛はばたりと糸が切れた人形のように動かなくなった

 

そっと 金剛を覗き込むこんごう

 

すると 突然 がばっと立ち上がり

「大巫女は 何処へ行ったネ! 人の体を乗っ取りマシタ!」といつもの金剛が戻ってきた。

 

「お帰りなさいませ、お姉さま」

 

「こんごうちゃん、大巫女は何処へ消えた!」と言うと

 

「はい、多分もう横須賀にお戻りになられたかと。」

 

「折角、提督と由良の結婚式 色々 サプライズを考えていたのに 全部台無しデス!」

とプンプンモードで怒りだした。

 

それを聞いた こんごうはいきなり 金剛の頭にげんこつを入れ、

「大巫女様のご判断は正しかったようですね。いいですかお姉さま。これ以上、金剛家の暗黒史に新しいページを刻む様な事は慎んでください!」と睨みつけた。

 

その気迫に蹴落とされそうになる金剛であったが、

「ほんの少し位は いいデスヨネ」

 

すると

「いえ、これは後で鳳翔さんにお説教をお願いする必要がありますね」

 

その名前を聞いた瞬間に金剛は 完全に固まってしまった。

 

そんな二人の漫才のような会話を聞きながら、三笠はいずもを傍らに呼び、

「いずも殿 済まぬが 使いを頼めるかの」

 

「お使いですか?」

 

三笠は いずもの耳元で何かを囁いた。

いずもは

「分かりました、行動は押さえてありますので、機会を見て接触します」

 

「済まぬが 頼むぞ」といい

「では 着替えて 披露宴に参ろうか」といい 固まる金剛をほってさっさと着替え、披露宴会場へ向った。

 

披露宴会場では 既に山本達が席についていた。

会場の前の広場にも 多くの島民が集まり、皆で新郎新婦の到着を待つ。

 

眼前には 鳳翔や瑞鳳、こんごう達の糧食班が作った料理が所せましと並べられた。

圧巻なのはマグロの料理。早朝に地元漁師が船を出し、釣り上げた物だ。

以前は深海凄艦のせいで漁が出来ない事もあったが、由良達のおかげで漁が再開できたのだ、その由良の為にと わざわざ漁師総出で釣ってきたもの。

中身は 刺身、煮物、焼き物、兜焼きもある。

勿論、瑞鳳特製 卵焼きを忘れてはいけない。

 

そして 会場の中央にでんと構える 菰を巻き付けた大きな酒樽

それを見たこんごうはひえいに

「ちょっと、ひえい 何処からあれ手に入れたのよ?」

 

「えっ⁉︎樽酒?あれはオーストラリア演習の景品。対地攻撃演習でオーストラリア軍と賭けをして、もし私達が勝てば向こうの奢り、此方が勝てばこれが景品の予定だった。」

 

「じゃ ひえいあれ 積んできたわけ?」と呆れ顔のこんごう

 

「そっ ヘリ庫の中に梱包して置いてた、いや飛行班からじゃまだとか 対潜爆雷の代わりに投下してもいいかとか色々言われたけど やっと処分できて助かる」

こんごうも それ積むスペースがあるなら、対潜航空爆雷でも積んでおいて欲しかったと思うのであった

 

そこへ きりしまが駆け込んできた

「御免 遅れた!」と慌てるきりしま

「きりしま お疲れ!」と声を掛けるこんごう

「状況は?」

 

「うん、周囲に敵性反応はなし、恐ろしい位に静かね」

 

「副長さん達は?」

 

「皆 半舷上陸させてる」それを聞くとこんごうは

 

「なら ゆっくり出来るわね」といい 皆で準備に入った。

 

時間となり、皆席についた。

 

ここでも司会のこんごうが、

「それでは、パラオ泊地提督、並びに長良型軽巡 由良さんの結婚披露宴を開催いたします」というと 一斉に会場から拍手が起こった。

 

「新郎、新婦入場」というと、ひえいときりしまが両開きのドアを開き パラオ泊地司令に腕を絡ませ、純白のウエディングドレスをまとった由良が 進み出た。

介添に はるなと鳳翔がついた

会場の皆 息を飲んだ、純白のドレスをまとう由良、髪は先程とは違い、綺麗に特徴あるリボンで束ねてあるが そのピンクの色が純白のドレスの上で 一層色鮮やかに見える。

 

睦月達駆逐艦隊の子が左右に並び、紅白の紙吹雪を散らした。

そして中央の樽酒の前まで紙吹雪の中を進み出てくると、

 

「それでは 鏡抜きを行います」とこんごうが言うと、

二人は 樽酒の前まで進み出て、一礼し、そして一気に木づちで、樽酒の蓋を叩き割った。

一斉に会場から拍手が起こる。

提督と由良、介添のはるなと鳳翔が 柄杓で、その酒を 皆についで行く。

子供達にはパラオ産の果物のジュースが注がれた。

皆に配られた升には、三笠進水式記念という文字と、パラオ泊地提督、由良結婚記念

という文字が焼き印されていた。

その升が後日、三笠ファンに高値で取引される事になるとはこの時 誰も知るよしもない

 

皆に酒が回るのを見ると 三笠が立ちあがり

「皆 杯はもったか! 本来なら乾杯の音頭を 儂か山本がする所であるが、本日は パラオ族長の長が来ておる、ぜひパラオ族長の長に音頭を願おう」と言うと、会場から割れんばかりの拍手が起こった。

 

ゆっくりと 提督達の前に進みでる パラオ族長の長。

 

そして

「今日 ここに パラオ泊地提督、由良さんの婚礼を パラオ島民で祝える事を嬉しく思います、思い起こせば 十年前 突如現れた深海凄艦により このパラオは危機的な状況となりましたが、提督、由良さん始め 睦月さん達の活躍により、このパラオの海は安泰を取り戻しました、本当に島民皆で感謝しております」と言うと ついに感極まり由良は目に涙を浮かべた。

「この場を借りて、パラオ島民一同 泊地の皆さんに御礼申し上げます」

そして 島民を見ながら

「パラオ島民皆の願い 泊地提督と由良さんの婚礼を祝して 乾杯!」というと

一斉に 杯が上がり、皆で杯を開けた。 会場から割れんばかりの拍手が起こる。

この後は 無礼講だ、駆逐艦隊の子は 地元の子達と一斉に 食べ物へ向い、皆で分け合う、大人は 酒を酌み交わしながら、提督達を祝った。

 

ただ、山本とこんごうはじっとして酒を避けていた。

「おっ、こんごう君は 飲まないのか?」という山本の問いに、

「はい、まあ以前 大失敗をしまして、副司令からも ほどほどにと言われております」

結局 飲めない二人は 同席となり、会場の隅で じっとする事になる。

 

会場では またもや 三笠とひえいの飲み比べが始まり、地元の若者も加わり 大騒ぎとなった。

 

鳳翔や金剛は 提督や由良の周りで 色々と話しているが、時折 由良の顔が赤くなるのが分かる。

 

皆 それぞれの思いを抱き 披露宴は進んだ、午後8時を回り、島民も順次 帰路へ着き、一応の終わりを迎えた。

 

泊地提督と 由良は 新居である泊地提督私邸へ向い、そのほかのメンバーも解散となり、泊地に 静かな時間が訪れた。

 

ようやく 落ち着きを取り戻した艦娘寮の食堂では、鳳翔とこんごう達が 後片付けをしていた、ひえいはやはり飲み負けて、今回は きりしまに引きずられて帰っていった。

こんごう曰く、相手は艦娘一、酒豪の三笠様、あの東郷提督が自ら鍛えた方を相手に勝負を挑む気持ちがわからないと呆れていた。

 

会場の片付けをしながら、鳳翔とこんごうは 色々と話していたが、こんごうが、

「あの鳳翔さん、金剛お姉さまが色々とご迷惑をお掛けしているみたいで、本当に申し訳ありません」といきなり謝った。

 

「あら、こんごうさん、そんなに気にする必要はありませんよ、今日の事で、結果よしとしましょう」

 

「あの、鳳翔さん、やっぱりこちらの次元の戦艦金剛も やらかしてますか?」と言うと、鳳翔は余程おかしかったのか 少し笑いながら、

 

「という事は 彼方の次元の金剛さんも 同じような事をやったみたいですね」といい こんごうを 椅子へ座らせると、静かに 語りだした。

「そう、あれは私がこの泊地へ赴任して暫くしてからだったわ、由良さん達の活躍でようやく、このパラオ近海の深海凄艦の脅威が排除されて、安定化した矢先に、泊地正面海域へ 深海凄艦の打撃艦隊が現れたの」

「戦艦ル級を含む 大規模艦隊で、正規空母を含む艦隊だったわ」といいながら、

自らも椅子へ座り、

「当時 連合艦隊の司令部は 柱島にあったけど、急遽 司令部は 空母赤城さんと金剛さんを このパラオへ派遣したの」

すると こんごうが、

「お姉さまだけでなく 赤城さんもですか?」

 

「ええ、流石に旧式空母の私だけでは 不安だったのでしょう」と言うと、

「金剛さん、赤城さんが臨時で加入し、泊地の戦力は一気に強化されました、特に金剛さんは まさに艦隊の楯となり由良さん達をかばったのです」

 

「お姉さまらしいですね」

 

「ええ あの方は 本当は心優しい方です」

「深海凄艦 打撃艦隊は金剛、赤城さんの活躍で ほぼ壊滅状態となり、パラオの海は平穏を取り戻しました、その頃、金剛さん、赤城さんへ 最前線のトラックへ転属指令が出ました」

 

「トラックですか?」

 

「ええ、当時トラックは深海凄艦との戦闘が激化していて、戦力強化が急がれていました。本土から三笠様指揮の元、加賀さんや長門さんが派遣されてくる事になり、赤城さんは一航戦、金剛さんは第三戦隊旗艦として赴任する事になりました。」そして、

「事件は お二人の送別会の夜に起こりました」

 

黙って聞く こんごう

「当時 既に、提督と由良さんは お互いが将来の伴侶となるであろうと意識はしていましたが、時局の関係で中々言い出せない日々だったのです、勿論 皆で、それなりの機会を作ったのですけど、由良さんがその~」と言いうと こんごうは

 

「真面目過ぎたという事ですか?」

 

「ええ、この様な時局、自分だけ提督と、というのが許せなかったのでしょう」

「でも 周りの私達は逆に、こんな時だからこそ、想いを伝えるべきなのではと 思っていました」

 

「そこで お姉さまが要らぬお節介を焼いたと?」

 

「まあ、こんごうさん。要る、要らないは別にして、泊地の艦娘は皆、何とかしてやりたいという気持ちは同じでしたよ。」と言うと、鳳翔は少し間を置き、

 

「あの夜、送別会でしこたま飲んだ金剛さんは、その足で 提督の家に行き、提督に

“私と由良とどちらと ケッコンカッコカリをするの!"と迫ったの」

 

「やはり、やってしまいましたか」と諦め顔のこんごう

 

「勿論 提督は由良さん以外の娘は 考えていないから、言葉巧みに躱そうとしたらしいだけど、金剛さん 少しお酒が回り過ぎたみたいで、その 半裸状態で迫ったの!」

 

「えっ!」と驚くこんごう

 

「そこに間が悪く、由良さんが異変を察知して怒鳴り込んできてね」

 

「そして、艦娘の戦いへ発展したという事ですね」

 

「ええ、元々は 金剛さんとしては、提督に“俺は由良以外は無い!”と言わせる予定だったのですけど、予定より早く由良さんが 気がついて、返事が出るまえに 来てしまいました」

 

「えっ どういう意味ですか?」

 

「ふふ、それはね、すべて金剛さんの芝居だったのですよ」

 

「芝居?」

 

「そう、金剛さんは史上3人目の艦娘。三笠様から直接ご指導を受けた方です。その金剛さんが、少々のお酒で、そんな真似をすると思いますか?」

 

「では すべて芝居だったと?」

 

「ええ、まず金剛さんが、提督に迫り、自白させたあと、頃合いを見て 由良さんを呼んで 後はよろしく! という算段だったのですが、由良さんの到着が早過ぎて 提督の返事がでる前に ひと悶着になってしまいました」

 

「でも 良く収拾がつきましたね」とこんごう

 

「ええ 一応 私が仲裁に入る事になっていましたが、その・・・」

と鳳翔は 言いにくそうに、

「余りにも 二人の剣幕が凄すぎて 提督と二人して 見入ってしまって」

 

「鳳翔さんを 黙らせるほど凄かったという事ですか!」

 

「ええ、あれを修羅場というのでしょうか、まあ最終的に提督が “俺は由良と二人でこのパラオを築いて来た、これからもそれは変わらん!”という言葉で決着しました」

「その時の金剛さんは、“提督、由良の手を離しては ダメよ”といい 去って行きました けど 私と二人 艦娘寮で その後朝まで飲んだ事を覚えていますよ」

 

「私の家に伝わる、パラオ事件ですね」というと、鳳翔は

 

「すると まだ色々ありそうね」といたずらぽく聞いた、

 

「ええ 高雄事件とか、言い出したらきりがありません」と言い 腕時計をみて、

 

「鳳翔さん、そろそろ時間では?」と言うと、

 

「やはり やりますか?」と鋭く、聞き返してきたが、こんごうは

 

「ええ 多分 間違いなく」そう言うと 鳳翔と二人 席をたち、暗闇へ消えて行った。

 

パラオ泊地提督私邸

私邸とはいえ、以前と変わらぬ質素な一軒家である。少将の私邸としては少し狭い気もするが、本人はこれでも十分と言っている。家の周囲には目隠し程度の生垣が巡らされているが、それ以外はごくありふれた家である。

今まで 単身で暮らしていたが、今日からは もう一人増えるのである。

 

由良の私物は 今日の午前中に 艦娘寮から運び込まれた。

私物といっても ごく少量であるが。

 

提督と由良の前には 大き目の布団が一組

少し二人とも戸惑っていた、なぜ布団が一組しかないの?

 

これも金剛のサプライズである。由良の引っ越しを指揮したのは金剛である。

元々あった提督の布団と、由良の艦娘寮からの布団は泊地の倉庫へ押し込み、パラオ中を探して大き目の布団を用意させたのだ。

 

布団を前にして、提督と由良は座り

「これも、金剛のいたずらかな?」と提督が言うと、

 

「そっ そうですね」と赤くなりながら由良が答えた。

 

提督が由良の手を取り、

「由良 済まないが その」

 

「提督さん、解かっています」と赤くなりながらそう答えた。

 

「それと由良、その・・・ 二人でいる時は」

 

「はい、あ な た」といいながら そっと目を閉じた

 

重なる二人の影。そして部屋の電気が消え、静かな夜が訪れた。

 

 

その静かな夜、一つの影が パラオ提督私邸の前を横切った。

 

「う~ん、ここからでは良くワカリマセン、やはりも少し中に」と言いかけた時 その黒い影の肩を がっしりと押さえる 二人の影

 

「やはり、いましたね、お姉さま!」と言うこんごう、頭には 暗視装置をつけていた。

 

「鳳翔! こんごうちゃん」と驚く金剛。

「二人も 気になりますよね、提督と由良」と金剛が言うと、鳳翔は

 

「それは、お二人にとっては大切な事ですけど、周りは温かく見守ってやるのが常識です!」

そう言うと

「こんごうさん、これは少しお話が必要のようですね」とこんごうへ向い言うと、

「はい 鳳翔さん!」と返事をした瞬間に 二人は 金剛の両脇を掴みそして

「では 両舷前進強速!」と 鳳翔の合図と共に 金剛を引きずり、艦娘寮へ向ったのであった。

 

「ねっ 二人とも!まって!!」という 金剛の叫びだけがパラオの闇に響いていた。

 

その後、艦娘寮へ到着した鳳翔達は、たまたま居合わせた睦月達、通称睦月艦隊と金剛を説教するはめとなる。パラオの夜に金剛の声と睦月達の笑い声が深夜まで響いていた。

 

 

 

 




こんにちは スカルルーキーです

分岐点 こんごうの物語を読んで 頂きありがとうございます。

艦これのケッコンカッコカリを リアルでいくとこんな感じなのでしょうかね。
もうSSですから なんでもありです。

次回は 鈍亀と少女のお話です

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