分岐点 こんごうの物語   作:スカルルーキー

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私は 少しづつ積み重ねていく事で 今の私を築き上げてきました
それは これからも変わりありません、ただあの人達と共に 重ねていきたいと思います




14 再 生

「大袈裟ではないでしょうか」

 

 

「ご期待に沿えるよう粉骨努力致します」

 

 

 

「ここは絶対 生きて帰るわよ」

 

 

 

パラオの午後はゆっくりと、しかし確実に流れていた。

パラオ泊地 司令部1階 泊地事務室

 

「夕雲型 4番艦 長波様 抜錨します!」と元気な声で無線が流れた。

鳳翔は窓の横に置いてある双眼鏡で、桟橋を見る。

長波は自らの艦の艦首に立ち、両腕を腰に当てがい前方を睨んでいた。

艦がゆっくりと桟橋を離れて行く。

その横では 陽炎が、これも同じく桟橋を離れ、湾の出口を目指していた。

視線を変えて湾の影に居る自衛隊艦隊を見ると、はるなさんの艦体の主機が始動したのか排気口からほんの少し黒い煙が上がったが、それも直ぐになくなって排気熱の揺らぎだけが辛うじてわかる。

甲板上では兵員妖精さんが慌ただしく動き、抜錨準備にかかっているようですね。

錨の巻き上げが始まりました。

「昨夜もそうでしたが、素早い抜錨ですね。私では出来ない芸当です」

しばらく眺めていたが、陽炎たちの後を追って出港していった。

昨夜の長波の一件の後、長波の今後の事を考慮して処分は保留となった。

皆さんなんだかんだ言いながら、彼女に期待しているという事ですね。

そう思いながら双眼鏡を元の場所へ戻すと、自分の机に向かった。

 

現在の私の仕事は大きく二つある。一つは後輩である軽空母瑞鳳の指導。

瑞鳳は諸般の事情から当初は給油船、潜水母艦、そして軽空母とその容姿を変貌させた事もあり、他の空母達に比べ練度が低かった。決して能力がない訳ではない。

それを心配したトラックのある参謀が、“済まんが 鳳翔に指導を頼む”とここパラオへ預けられた。

航空母艦としての基本行動、艦隊運用、航空機運用など多岐にわたる教育を行っている。

確かに戦闘力でいけば一航戦の赤城達に劣るが、空母経験値に関しては連合艦隊では一番長い。

そしてもう一つの仕事は、ここパラオにおける主計局の仕事である。

 

ここパラオに泊地を開設した当初は 由良さんがすべての諸事務を行っていたが、パラオがトラックへの中継基地として拡充されるに従い、泊地規模が大きくなり彼女だけでは処理できなくなっていた。

そんな折、パラオ航空基地へ航空機輸送の為来島していた私が見かねて 由良さんを手伝っていた。

その姿を見た泊地提督は、何処でどういう手を使ったのか分からないが、そのまま私をパラオ泊地へ転属させてしまった。

当初、困惑する私に提督は「内地で予備役扱いになるより、多少不便だがここを手伝ってほしい。パラオは気楽だぞ」と言われ、そのままここパラオにいる。

 

ただ、私がここパラオに引き留められたのは、後進の前線指導の為である事を感じていた。その証拠に瑞鳳の前は赤城がここパラオに配属され、私と行動を共にした。

一航戦である赤城さんをこの後方基地であるパラオに一時的に配属して、航空艦隊旗艦としての教育を行った。

確かに私は空母としては旧式。航空機の搭載機数も他の方の半分にも満たない。

甲板が短く、艦爆や艦攻の運用にも支障をきたす事がある。

それでも提督や由良さんは私の経験に価値があるといい、私を大切にしてくれている。

それに答えるべく日々精進している。

 そして数日前に来島した自衛隊艦隊、超大型の空母を含む機動艦隊。こんごうさん達の重巡4隻、超大型の空母いずもさん、支援艦あかしさん。

支援艦のあかしさんでさえ私より大きい。

一番大きな いずもさんは秘書艦で有能な方のようです。その方から、

「あなたが頑張って頂いたから今の私があるのです、感激です」と言われてしまいました。

私の頑張りであの様な方が生まれたならもっと精進しなければと、昨日 いずもさんにのせて頂いた後、思いました。

 そう思い出しながら、自らの机に向かって書類の確認を始めた。

ここパラオは、トラック泊地への重要な後方拠点である。必ず一定量以上の油、資材を確保しておく必要があった。以前、かなり豊富な補給に対して「ここの規模では大袈裟ではないでしょうか?」と連合艦隊司令部の高級参謀に聞いた事があるが、その方は

「トラックにもしもの事があると一大事だが、そうなった時はここが最前線だ。後ろが寂しいと前では戦えんよ」といっておられた。

あの方はいつも仏頂面ですが、ちゃんと見ておられる。

世間ではあの方は長官と反目しているとか色々言われていますが、私はそうは思いません。長官も分かっていらっしゃるからあえて 重要な役職に置かれるのでしょう。

さて、当面の問題は予定外の自衛隊艦隊の来島ですが、問題は油ですね。

油は主に軽油と、航空機は灯油だそうです。私達は重油ですから軽油の備蓄を切り崩していけば、暫くは大丈夫でしょう。灯油もまだ大丈夫ですね。

しかしこのまま深海凄艦の潜水艦の補給路遮断が続けば・・・・

その為にも はるなさんたちの活躍に期待する所大なのですが、何もお手伝い出来ないのが寂しいですね。

 そう思いながら補給品の確認表に目を通し、備蓄状況を確かめていく。そうしていた所、由良さんが来て「提督からお話がありますので、会議室までお願いします」と言われた。なんだろうと思いながら由良さんと二人、会議室へ向った。

 

会議室に入ると泊地提督、山本長官、三笠様、自衛隊司令、いずもさんがいた。

泊地提督から

「鳳翔、忙しい所すまんな。少し話がある」と切り出された。

「まあ、立ち話もなんだ。かけたまえ」と長官に着席を勧められ、末席に座った。

机の上には複数の地図、海図が広げられていた。

 

そのどれにも数ヶ所に×印がしてある。多分最近の深海凄艦の潜水艦の雷撃場所や通商破壊艦隊の出現場所だ。

 

「さて鳳翔、君にお願いがある」

 

「提督、お願いですか?」

 

「ああ、自衛隊のいずもさんの艦載機を君の艦で運用試験してほしい」

 

「艦載機ですか?」

 

「はい、正確には対潜ヘリコプターです」と告げるいずも。

 

「対潜ヘリコプターと言うと、昨日見せて頂いたカ式観測機に似た機体ですか?」

 

「ああそうだ。あの機体が我が海軍の空母で運用できるかを実証試験してほしい」

 

「しかし提督、いずもさんがいるのにその様な試験が必要なのですか?」

 

「ああ、80年近い技術格差がある。はい乗せましたでは上手くいかない可能性がある」

 

「それに いずもには実は問題がある」

 

「問題?」

 

「いずもさんは、対潜活動をするには大きすぎるのだ」

 

「はい。私は小回りが効きません。本来ならその手の活動はあかしの領分なんですが、

現在、金剛さんの修理、三笠様の建造、自衛隊宿営地の建設など 手一杯でそこまで出来ません。そこで海軍で一番勤勉な鳳翔さんにお願いしてはと思いまして」

 

「しかし私は旧式ですし、それなら瑞鳳さんでは?」

 

「ああ、それも検討したが、彼女は現在空母としての教育中だ。そこで無理に新しい分野である対潜ヘリコプターの運用となると荷が重い」

 

「鳳翔、済まぬが儂からも頼む。ここで対潜兵器の運用ができなければ我が海軍は日干しとなる。先日の件や金剛の件がいい例じゃ」

 

「三笠様」

 

「鳳翔、実はな、君以外にも対潜ヘリコプターを搭載させたい子達がいる。ただまだ内地で改修作業中だ。今なら改修の手直しも間に合う」

 

「済まないが、大変だとは思うが頼めるか、鳳翔」

 

「はい、提督。鳳翔、努力致します」

 

「ああ、済まない。詳細はもう少しこちらで煮詰めて通知する。明日の午前中にも第1回目の運用試験を行いたい。艦の準備をしておいてくれ。忙しい所済まなかった」

そう言われ、私は会議室を後にした。

 

 

「いずも君、これでいいかな」

 

「はい山本長官、ありがとうございます。鳳翔さんなら私の艦載機を安心してお預けできます。」

 

「しかしなぜ彼女なんだい?」

 

「はい。鳳翔さんは世界で初めて航空母艦として専用の設計をされた艦、そして我々空母型の艦娘の起源ともいえる方です。その運用能力の柔軟性が決め手です」

 

「それに彼女は戦後日本を復興させた功労者でもあります」

 

「功労者?とはどういう事なのだ、司令」

 

「はい。我々の次元では日本が敗戦した事はお話したとおもいますが、戦後シナ大陸、朝鮮半島に取り残された邦人を日本本土へ帰還させる必要がありました。しかし日本海や対馬海峡は残存した深海凄艦の潜水艦などで大変危険な海域でした。しかし彼女は、敗戦により武装解除された裸同然の自身の艦で、多くの在留邦人を日本へ連れて帰る作戦に従事しました。多くの日本人が故郷へ無事帰る事ができたのです。彼女は日本の港へ着くと、退艦する引き揚げ者の方々を一人一人見送り、励ましたそうです。その励ましがあったからこそ、殺伐した当時の日本で生きていけた方が多くいたと聞き及んでいます」

 

「鳳翔らしいの」

 

「はい、三笠様。私は信じています、あの方なら出来ると」 いずもはしっかりと答えた。

 

 

 

「対潜ヘリコプターですか」

1階の泊地事務室へもどり、会議室をでる前に いずもさんから渡されたヘリコプターの仕様書を見てみました。

聞いた事のない用語が並んでいますので、これは?と思っていた所へ、丁度こんごうさんが前を通りましたので声を掛けてみました。

「済みません、こんごうさん!」

 

「あっ、こんにちは、鳳翔さん。どうしました?」

 

「実は、対潜ヘリコプターの運用試験を私の艦で行う事になりまして、今仕様書を見ていたのですが、用語が分からなくて」

そう言いながら仕様書を見せた。

 

「ああ、ロクマルの仕様書ですね」とこんごうさんがいった。

 

「“ろくまる”?」

 

「はい、鳳翔さん。正式名称、三菱 SH-60Kと言います。私達は略して“ロクマル”と呼んでますよ」

そう言いながら こんごうは事務所の中に入ってきて、対面の椅子に座った。

 

「何か、可愛い名前ですね」

 

「ええ。でも本当の愛称は “シーホーク”ですけど。ロクマルという言い方の方が一般の方にも浸透してしまって」

 

「この機体は米国製なんですか?」

 

「元の開発は米国ですけど、その機体を元に日本独自の改造を加えて、本家のロクマル以上の性能を叩きだした優れた機体です」

 

「えっ本家を追い抜いた性能ですか?」

 

「ええ。まあ日本のお家芸と言える技術、創意工夫ですよ」

 

「創意工夫ですか?」

 

「私の艦も元はアメリカのアーレイバーク級という艦をお手本にしていますが、その艦の運用技術を日本独自に煮詰めて、私の母の“こんごう”、その後続艦のあたごさんを経て開発されましたから」

 

「さて本題に戻して、簡単に説明しますね」

「この機体の本質を一言で言えば、空飛ぶ前線戦闘指揮所です」

 

「戦闘指揮所?」

 

「はい。この機体は私達イージス艦などに搭載されて、広域な対潜情報の収集、分析、攻撃指揮などを行います」

 

「その様な事が可能なのですか?」

 

「はい、そうですね。では説明しますね」

 

「鳳翔さんたちが対潜活動を行う場合、方法が主に見張り、聴音、音波探信儀、そして攻撃ですが、このロクマルはそれらをすべてこの1機に搭載しています」

 

「えっ、あの機体にですか?」

 

「はい、まずは見張りですね。これは数種類の電探を搭載し、主に水上目標を探知しています。島影に隠れてこっそりと敵を探知するとか、低空飛行から一気に上昇して広域探知してまた低空飛行で身を隠すなんていう事もできます」

 

「観測機の様な仕事ですね」

 

「はい。次に対潜活動の肝である聴音と音波探信儀ですが、まず聴音ですが、私達はパッシブソナーと呼んでいますが、あの機体には2種類の聴音機を積んでいます。一つはディッピングソナーという物で、先日ロクマルから糸のようなものが海面に垂らされていたのを覚えていますか?」

 

「ええ、ろくまるが空中で止まっている事にも驚きましたが」

 

「あれはホバリングという技術ですが、あの糸のようなケーブルの先に聴音機が仕掛けてあります。ヘリを中心に3km程度の海中の音を拾う事が出来ます。そしてもう一つがソノブイという物です。これはその名の通り、聴音機をつけたブイを空中から投下できます」

 

「こんごうさん、そのブイで拾った音はどうするのですか?」

 

「はい、ロクマルへ無線で送信されます。ロクマルの上で音紋判定も出来ますが、より詳細な判定をする場合は私やはるな、いずもへ送信されて専門の士官が判定する場合もあります」

 

「凄いですね」

 

「鳳翔さん、これで驚いては大変ですよ」とこんごうは笑った。

 

「次に音波探信儀、これはアクティブソナーと呼んでいます」

 

「実は先程のディッピングソナーもソノブイも、この音波探信儀機能をもっています」

 

「そうなんですか」

 

「はい、程度の差はありますけど。そしてこの時代にはない物が一つ。それが磁気探知装置、通称 MADです」

 

「磁気探知装置?」

 

「はい、潜水艦は巨大な鉄の塊です。ですから磁石に反応しますよね。潜水艦が海中を進めば地磁気が乱れます。それを観測する事で潜水艦の位置を特定する事ができます」

 

「そんな手があったのですか?」

 

「はい。まず手順としては、艦隊の進行方向に3機程度のロクマルを飛ばして、このMADで潜水艦の探知を行います。反応があればディッピングソナーを下して音を探る。または艦隊の予想進路上にソノブイを投下して探知します。その際の探知情報はすべて私達へ通知されます。そしてもし見つけた物が深海凄艦の潜水艦なら、ロクマルに搭載している爆雷、短魚雷で潜水艦を撃沈する事もできます。勿論、私達が攻撃する場合もありますよ」

 

「凄い機能ですね、これなら潜水艦も恐れるでしょう」

 

「まあ、潜水艦としてはたまりませんね。いきなり頭上に大型の聴音機を持った駆逐艦が現れるような物です。一度見つけるとお互いの機体同士で探知情報を自動でやり取りします。探知の網を段々と絞って行き、最後は艦名まで特定できます」

 

「艦名までですか?」

 

「はい。鳳翔さん、船一隻、一隻には音紋というのがあるのはご存知ですか?」

 

「音紋?」

 

「そうです。スクリューの音、機関の音、また音波探信儀を当てた時の反射音の違いなどで艦を特定する事ができます。すでに先日から私達は金剛お姉さま、長門さん、大和さん、由良さん以下の艦隊の音を録音して記録分類しています」

 

「この音紋収集は対潜活動でもっとも重要な仕事です。各種聴音で拾った音の中から慎重に友軍の音紋を取り除き、残りの音紋からカ級などを分類していきます」

 

「何か、物凄く大変なのですね」

 

「ええ、非常に忍耐力が必要な作業です。私達の中では はるなが一番この能力が高いですね、我慢強さでは一番ですよ」

 

「でも先日は長波ちゃんがご迷惑をお掛けして」と申し訳なさそうにする鳳翔。

 

「まあ今朝の件も、結果がだせれば問題ありませんよ」と笑って答えてくれた。

この方の笑顔は周りの人を惹きつける何かがあるのでしょうか。

 

 

「でも鳳翔さん、どんな優秀な機体にも問題はあります」

 

「問題?」

 

「速度の遅さと足の短さです。速度はどんなに頑張っても250㎞が精一杯、航続距離は800kmなんです」

 

「なにか、赤とんぼ並みなんですね」

 

「ですからあの機体には、燃料や資材補給の為の母艦が必要なんです」

 

「それで私に白羽の矢が立った訳ですね」

 

「済みません。私も1機搭載しているのですが、それだけでは足らなくて。なんかご無理を申し上げて」と謝るこんごう。

 

「でも、一体どんな風に活躍するのか少し楽しみになってきました」

 

「そうですか。まああのロクマルは色々使い道のある機体ですよ、例えば遭難者救助」

 

「遭難者救助ですか?」

 

「ええ、空中で止まる事ができますから、海上で遭難した人を釣り上げて救助したり災害派遣などで活躍します。あとは偵察とか連絡とか、弾着確認とか便利な機体ですよ」

 

「益々楽しみですね、こんごうさん」

 

「鳳翔さん、対潜母艦なんてのもいいですよ」

 

「対潜母艦?」

 

「はい。日本は海洋国家です。周りは海ですから対潜技術は我が国にとって重要な国防技術です。強力な対潜航空機を搭載し、海上交通路の防衛にあたる。あかしの先輩のいせさんとか かがさんとかもそう言う思想で建造されました」

 

「私でもお役に立てるのですね」しっかりとした目で こんごうを見る鳳翔。

 

「勿論です、鳳翔さん」

 

そして こんごうは、

「鳳翔さん、確かに対潜活動はとても地味な活動です。砲戦のような華々しさもなければ、航空戦のような派手さもありません。しかし今後の日本を救えるかどうかの瀬戸際だと考えてください」

 

「瀬戸際ですか?」

 

「そうです。私達の次元では日本が連合国と深海凄艦との三つ巴の戦いになり、連合国に負けた事はご存知ですよね」

 

「ええ、先日提督と由良さんから聞きました。でもあくまでこの世界では可能性であるとも」

 

「はい。私達の次元では1943年の後半以降、米国は反転攻勢に出てきました。確かに大きな海戦で米国が勝利した事も敗戦の要因ではありますが、もっとも大きい要因は日本が日干しになった事です。米軍は深海凄艦の活動と合わせて日本の後方補給線を潜水艦で叩き、遮断する事に成功しました。トラックでは作戦遂行の為の油すら事欠くようになり、海軍は次第に大規模な作戦が事実上不可能な所まで追い込まれました」

 

「そっ、そんな!」

 

「事態はもっと悪くなります。連合艦隊はトラックを放棄、このパラオまで撤退しますが、その時には殆どの艦艇で重油が不足、まともに動ける船など殆どありませんでした」

「それを察知した米軍は深海凄艦を追い立て、このパラオを攻め落しました」

「その際多くの艦艇がこのパラオで撃沈されてしまい、ミクロネシア諸島での日本海軍は事実上壊滅してしまったのです」

 

青ざめる鳳翔、言葉が出ない。

 

「その後、深海凄艦と米軍はフィリピンを落とし北上、沖縄へ迫ります。ようやく大本営軍令部もこのままではまずいと感じたのか沖縄防衛を決意しますが、もはや多勢に無勢で、沖縄も米軍と深海凄艦に包囲されてしまいました」

 

「そして無謀にも軍部は民間人の疎開を計画、対象となった子供や婦女子、傷病者を乗せた船は沖縄を離れましたが、本土に着く前に待ち伏せされた深海凄艦の潜水艦部隊に次々と襲われ、その多くが本土にたどり着く前に・・・」こんごうはそこまで言って声を詰まらせた。

 

「鳳翔さん、この悲劇をこの世界で繰り返す訳にはいかないのです。日本海軍がきちんとした対潜活動が出来なければ、また同じ事の繰り返しです。その為にもお願いできますか?」

 

鳳翔は こんごうを見つめ、

「この鳳翔、ご期待に沿えるよう粉骨努力致します」と答えた。

 

こんごうはその後も鳳翔にロクマルの運用上の注意を話した。

積載燃料や機材によって性能が大幅に制限される事、追い風での着陸が苦手な事、離陸や着陸時にはテールローターに近づかない事、同一場所で急降下すると危険な事などを話した。

 

 

事務室の廊下の影で鳳翔とこんごうの話を聞く3人の女性。

「いずも殿、ほんとうにこんごう殿は良き女子じゃの。しっかりと鳳翔に目標を示しておる」

 

「はい、三笠様。彼女は単に艦娘として優れているだけではなく、“リーダー”としても非常に優れた才をもっています。彼方の次元の金剛様、陽炎教官はじめ、皆様に育てて頂きましたから。」

 

「まあ、それに引き換えお主は。もう少し落ち着かんと孫娘の方が姉らしいぞ」

 

「三笠様、それでは私がリーダーシップが無いように聞こえマス!」

 

「まあ良い。そちの第三戦隊、頑張らねば孫娘達に追い抜かれるぞ」そう言うと三笠といずもは揃って歩きだした。

 

「ぐう・・・・」

金剛は

「ならばここは・・」と考え、そして工廠へ歩き出した。

 

 

翌朝08:30

鳳翔は早朝から艦のボイラーの出力を上げていた。

なにせ旧式の艦である。出港するにしても何時間も前から準備が必要なのだ。

艦内では慌ただしく準備に追われていた。

そして今日は自衛隊のいずもさん、その部下の飛行課の妖精兵員さん、ろくまるの整備妖精さんなどが乗船しています。

ロクマルの整備妖精さんが早速、私の整備妖精さんと甲板上で打ち合わせに入りました。

私は艦橋で いずもさんと打ち合わせをしています。

いずもさんは艦橋の後にある机に持参した板のような物を置きました。

「それでは打ち合わせに入ります」といずもさんがいうと、

その板からスクリーンのような物が投影されて、そこにはこんごうさん、その横には三笠様、はるなさん、驚きましたが陽炎ちゃんと長波ちゃんが映っています。

「陽炎さん、長波さん。機械の調子はどう?」といずもさん。

「はい、順調です。便利な機械ですね、声だけでなく画像も見れるなんて」

「長波も大丈夫です」

どうやら昨夜の内に自衛隊で使う通信機を持ち込んだようです。

「では、今日は主に二つの訓練を行います。一つは鳳翔さんでの対潜ヘリコプターの運用訓練、もう一つが長波さんの艦隊運動訓練です」

「最初に長波さんの艦隊運動訓練は、陽炎さんに教官をお願いします」

「長波、覚悟しなさい。昨日の比じゃないくらい鍛えてあげる」と陽炎。

「お願いします、陽炎教官」と一礼する長波。

長波ちゃんもだいぶ変わりましたね。ここへ来た当時はやんちゃ坊主でしたが、今はちゃんと艦長に見えます。やはり経験が成長させるのでしょうか。トラックのあの方が知ればきっと喜んで頂けるでしょう。

 

「さて本日の主な訓練です。鳳翔さんでのロクマル運用試験です。私の艦から2機のロクマルを鳳翔さんへ派遣します。今日は着艦、補給、再発進の訓練です。勿論、対潜活動も行います。対潜担当艦を はるなさんお願い。こんごうさんは露払いを。三笠様は こんごうでイージスシステム慣熟です、質問はありますか?」

すると こんごうが、

「昨日より訓練海域が西よりですが、何かあるのでしょうか?」

「ここ一ヶ月の深海凄艦の潜水艦の活動範囲を昨日検討した結果です。多分2匹か3匹位いると思うから、今日は尻尾だけでも掴めれば良しとします」と笑顔で答えるいずも。

その笑顔を見てこんごうとはるなは

「多分2匹か3匹? という事は補給の為の機動部隊もいるって事じゃないですか?」

と内心思ったが いずもの笑顔に圧倒されていた。すでに織り込み済みだという事か?

 

こんごうはちらっと横に立つ三笠様を見たが、何やら嬉しそうである。

「あっ、これはいるな。潜水艦だけならいいけど」と直感で感じた。

いずもはさらりとこんごうの質問を躱し、

「では、各艦抜錨。泊地出港後、鳳翔さんを護衛対象に指定、輪形陣を形成しなさい。こんごうを露払いに右翼は陽炎さん、左翼は長波さん、殿は はるなでお願い」

 

「了解しました」と敬礼して答えるこんごうさん達。

 

通信が切れ、いずもさんは 

「では鳳翔さん、私達も行きましょう」と元気に言ってくれました。

「いずもさん、行きましょう! 副長! 鳳翔、抜錨します!」

「はい、鳳翔艦長! 抜錨!」と副長が号令します。

艦内に、出港を知らせる号令ラッパが鳴り響きます。

鳳翔はその身をゆっくりと、そして確実に湾外へ向けていった。

 

こんごうは湾の外周部で鳳翔、陽炎、長波をまっていた。

いずもの甲板では鳳翔へ派遣されるSH-60K、2機が待機していた。

今日の三笠は群司令官席ではなく艦長席に座っている。

 

「済まぬな、こんごう殿。そちの席を占領して」

 

「いえ、今日は三笠様の研修が目的ですから大丈夫です。それに私はこれが有りますから」と艦内服のポケットから小型のヘッドセットを取り出し、左耳へ装備した。

 

そして

「システムリンク。陽炎さん、聞こえますか?」と陽炎を呼び出した。

 

「はい、こんごうさん。聞こえてますよ」と網膜投影ディスプレイに陽炎が映し出された。

 

「あの陽炎教官、酸素魚雷は積んでますか?」

 

「一応、16発積んでるわよ」

 

「長波さんもですか?」

 

「ええそうよ、私達の標準装備だからね。ねえ、もしかして?」

 

「余り考えたくないのですけど、居るかもしれませんから」

 

「ふ~ん、居るかもね・・。その時は期待してるわ」と鋭く視線を投げる陽炎。

 

「まあ何とかしますよ、教官」と笑顔で答えた。

 

 

三笠は こんごうと陽炎の話を聞きながら、

“流石、こんごう殿じゃの。あの話だけであれが居る可能性に気がついたか!”

“いずも殿もそうじゃが こんごう殿も逸材。ぜひ連合艦隊の高級参謀に迎えたい所じゃ。まあそれはあ奴が許さんだろうが”

 

こんごうは副長へ、

「では、私達も戦場へ行きましょう! 副長、抜錨します」

 

「はい、艦長」と静かに答え、しっかりとした口調で

 

「出港! 総員出港配置! 抜錨用意!」と凛と命じた。艦内に号令ラッパが鳴り響いた。

 

 

泊地司令部2階の提督執務室の窓辺から出港していく鳳翔達を見送る山本や泊地提督、そして自衛艦隊司令。

山本は

「こうやっていつも見送るばかりだと、これでいいのかといつも思うよ」

 

すると由良が、

「長官、見送る人がいるからこそ、帰ってこようと思うものです」

 

「由良?」

 

「長官、大切な人がいるからこそ帰ってこようと思うものです。それが全ての艦娘の思いです」

 

「ああ、心しておくよ」

 

静かにソファーに座り、作戦海域の海図を見る自衛艦隊司令をみて山本は、

「自衛艦隊司令は落ち着いているね」と言うと司令は、

 

「まあ、艦隊行動になると自分の出る幕はありません。いずもが居なければ、自分は1mmも艦隊を動かす事ができませんから」

 

「そうなのかね」と不思議がる山本に対し、

 

「自分は江田島にいる頃から艦隊指揮が苦手でして、本来なら艦隊司令ではなく、この時代の軍令部第一課あたりの人間なんですけど」

 

「しかしそのお蔭で我々は色々とヒントを貰っている。それも才能だよ」

 

「はい、山本長官」とだけ答え、また海図へ視線を落とし思考を巡らせた。

 

 

こんごう達は湾の外へ出ると、鳳翔達に後方から追いついた。こんごうは鳳翔の前方へ着き、その後 陽炎、長波が左右を固め、最後に殿のはるなである。

 

こんごうは水上レーダー画面で全艦定位置についた事を確かめると、艦橋から双眼鏡で長波を見た。一昨日はいずもの横をウロウロするばかりであったが、今日はきちんと定位置をキープし、鳳翔の動きに合わせている。

「昨日の特訓が功を奏したみたいね。流石、陽炎教官だわ」

 

昨日、午後からはるなは近海地域の海底の調査の為に泊地を出たが、その時に護衛にと陽炎と長波がついた。はるなを護衛対象として数時間にわたり艦隊運動教練をしたのだ。帰ってきたはるなに “どうだった?”と聞いてみたが、一言“昔を思い出したわ”という返事だった。多分、スパルタ教育だったのだろうな。

 

彼方の陽炎教官は、他の教官のように懇切丁寧に説明してやらせるなんて事はない。明日はこれをやるとしか言わないのだ。

お蔭で毎日消灯寸前まで訓練の事前準備や調べ物で終わるのだ。それでも足らない時は、布団にもぐってペンライトを銜えながら資料を漁ったり、日の出前に起き出して皆に気がつかれないように調べたりと大変であった。

その為睡眠不足は日常茶飯事で、訓練艦の艦橋で立ったまま寝るという特技を身につけた。

 

そのお蔭で士官学校を中の上の成績で卒業できた。

ひえいは元々運動が得意、はるなは忍耐力があり細かい作業が得意、きりしまは計算が早くて的確。みんなそれぞれ得意な分野があるが、なぜか私には得意な分野がなく、すべて平均値より少し上である。成績もまあまあで、特徴がないのが特徴である。

容姿も並みだしな〜。でもなぜか訓練艦の艦長を決める時、陽炎教官は私を指名した。

他の艦は候補生が交代でするのだが、私達の艦だけは艦長が私、砲術がひえい、

航海と機関がはるな、通信、レーダーがきりしまだった。

それ以来いつも四人でチームを組んでいた。イージス艦の艦長に就任してからも、演習などでは所属護衛隊群が違ってもチームを組んで、四隻で行動する事が多かった。

他の子からは、“戦艦 金剛型の復活か”なんて言われたけど、まあこうなると何となくわかる気がする。多分彼方の次元の陽炎教官もグルだったんだ。

 

 

そんな事を考えながら航法システムを確認し、

「航海長、進路情報は大丈夫?」

 

「はい、艦長。まあGPSがないのが辛いですが、INSなどで補完できますので問題有りません」

 

「天測苦手だからあてにしてますよ、航海長」

え〜とか言いながら天測儀を構え、測定を始める航海長達。

 

「CIC 艦橋 こんごうです。飛行科戦術士官いますか?」

 

「はい、艦長。戦術士官です」

 

「いずもの艦載機は?」

 

「はい、5分ほど前に離艦しました。あと10分程で艦隊上空です」

 

「鳳翔にはタカンとヘリデータリンクがありません。航法誘導は当艦とはるなで行いますので、宜しくね」

 

「はい。先程、いずも副司令からも誘導の指示がありました」

 

「ではお願い」

といいCICとの通信を切り、艦長席に座る三笠の横に立った。

 

ニコニコしながら前方を眺める三笠。

「あの~、三笠様?」

 

「なんじゃ、こんごう殿」

 

「三笠様、いずも副司令と隠し事とかないでしょうか?」と探ってみた。

 

「ふん、そちも戦艦 金剛と同じで真っ向勝負よの。気がついておろう」

 

「やはりですか。潜水艦が艦隊行動をとるには補給だけでなく、指揮をする水上艦艇が必要のはずです。潜水母艦でしょうか?」

 

「いや、多分通商破壊が可能な打撃艦隊ではないかというのが自衛艦隊司令の見解じゃぞ」

 

「司令の見解ですか」と考え込むこんごう。

 

「ああそうじゃ。奴はここ数ヶ月の深海凄艦の潜水艦による被害地域からその行動範囲を推測しておった。またな、被害時期の推移や内容も検討したぞ」

 

「はあ~、司令の勘ってよく当たりますから」と諦め顔のこんごう。

 

「ほう、そうなのか」

 

「はい、三笠様。司令はいずもさんが居ないと、もうてんでダメ男の典型で指令書1枚書けない方なんですけど、作戦の立案は天才的で、昨年行った在日米軍との演習では私とひえいで米軍の機動部隊に切り込みをかけ、はるなの対潜能力で米国潜水艦部隊を狩り、いずもさんときりしまで艦隊防空戦を戦い、相手の空母群に一撃を加える事ができました。米軍からも一目置かれる存在ですよ」

 

「うちの宇垣と黒島を足して割ったような者じゃな」

 

「ただ私生活はてんでダメなようで、いずもさんがすべて面倒みてますから」

 

「では夜もか?」

 

「三笠様、艦内では禁止事項です」とこんごうは顔を赤らめながらはっきりと否定した。

 

そんな会話をしていると、

「艦橋 CIC 間もなくいずも艦載機、鳳翔に到着します」

するとこんごうは三笠を伴って艦橋横の見張り所へ移動し、対潜ヘリの到着をまった。

 

 

鳳翔といずもは、甲板横の対空機銃用のスポンソンに臨時に設置された臨時飛行指揮所にいた。いずもの持つタブレットにこんごう、はるなを経由した対潜ヘリの航法データが表示されていた。

 

「鳳翔さん、これをみれば今どこにロクマルがいて、燃料がどのくらい残っているかとか、対潜兵器の消耗率とかが分かります」

 

「すごいですね。着艦前に分かれば、何を用意すればいいかが分かります」

 

「はい。今日はまず、このまま着艦して機体を拘束、燃料を補給します。予定海域の前方で離艦し対潜活動を実施します。対潜活動はこんごうとはるなの機体も共同で行います」

 

既に危険防止の為、甲板要員はすべて退避。飛行甲板には黄色と黒の色のついた服を着る いずもさんの兵員妖精さんが、誘導用の旗のような物をもってまっています。

すると無線機から、

 

「Hōsyō control, this is “IZUMO SWALLOW01 flight” approaching 10miles, state base+4.」と無線が入りました

「IZUMO SWALLOW flight Hōsyō control, radar contact. Your vector to final visual approach course. 01, continue approach report 3 miles.」 無線機を手にした いずもさんの士官が英語で何か答えています。

 

「いずもさん、すべて無線は英語なんですか?」

 

「原則は英語です。正式にはATC用語という専門用語を組み合わせた物ですけど、鳳翔さんの士官さんが今後交信するときは日本語で構いませんよ」

 

「では、いずもさんの士官さんは皆さん英語が得意なんですね」と聞いてみたが、

いずもさんの横に立つ緑色の飛行服を着て無線を持つ妖精士官さんは、私の言葉を聞いて急に赤くなり始めました。

 

「皆ではありませんよ。彼なんか昨年ハワイで演習した時に現地の女性に声を掛けられて、全然分からず飛んで帰ってきましたから」

 

そう言われて頭をかく妖精士官さん。その仕草が可愛いのでほっと安心しました。

やはり、妖精さんは時代が変わっても妖精さんなんですね。

 

先程まで赤くなっていた士官さんが急に、

「いずも副司令、間もなく有視界距離です」

 

「飛行班長、アプローチは?」

 

「はい、今回はストレートアプローチで行います」

 

それを聞くと、いずもは鳳翔に着陸方法を説明した。

「機体が着艦する場合は大きく分けて2種類の進入方法があります。一つは場周飛行です。空母上空まで来て着陸甲板の状態を確認して、飛行場と同じように周回コースを取って着艦する方法です。もう一つが計器無線誘導による直接進入方法です」

 

「計器無線誘導?」

 

「簡単にいいますと、空母から電探を使い飛行機を着陸コースへ誘導します。その後は着艦誘導用の電波を使って、着艦する方法です。この方法なら悪天候でも安心して空母へ帰還できます」

 

「でもそれでは、こちらの居場所が敵に知れてしまうのでは?」

 

「はい、その危険性は十分にありますが何重にも防護策を施してありますし、まあ彼方が見えるという事はこちらも見えているという事ですよ。私達の時代では無線封鎖は意味がありません。積極的に連絡を取り合い、情報を共有し対処する。敵をいち早く見つけ、仲間に確実に知らせ、備えるですよ」

 

「今回は無線誘導と有視界着艦を併用します。はるなの電探で5kmほどの距離へ誘導します。その後、目視できる距離まで来たら有視界着艦ですね」

 

「いずもさん、初歩的な質問をしてよろしいですか?」

 

「どうぞ鳳翔さん」

 

「自衛隊の皆さんは電探を上手く活用しているようですが、近づく航空機が敵か味方かどうやって識別しているのですか?」

 

「そういえばまだ説明していませんでしたね。私達の運用する航空機には敵味方識別装置が搭載されています」

 

「敵味方識別装置?」

 

「はい、別名IFF。艦隊間で決められた一定の電波を送受信する機械です。受信した電波が味方の符号かどうかで敵味方を判別できますよ。最近では」といいながらタブレットを鳳翔に見せて、

「機体の登録番号、高度、速度、移動方向などもこうやって見る事ができます」

 

「便利な機械ですね」

 

「いずれ鳳翔さん達の機体にも、簡易型の装置をつけていただく事になりますよ」

 

「そ、そうなのですか?」

 

「そうしないと きりしまに全機撃墜されてしまいます」と笑っていたが鳳翔は、

 

「きりしまさんって意外に怖いですね」

 

そう話している内にもロクマルが目視で見えてきました。

甲板の右舷2カ所に立つ誘導員の妖精さんの前方の方が、大きく両手を上げています。

「鳳翔さん、では着艦入ります。速度、進路を維持してください」

すかさず伝令妖精に、

「副長へ、進路、速度このまま維持。間もなく着艦です」

伝令妖精が駆け足で艦橋へ向います。

私の艦は 赤城さんと違い、艦橋が甲板の下です。こういう時には少し不便です。

 

2機のロクマルがゆっくりとはるなさんの横をすり抜けて、私の艦の横まで進んで来ました。相対速度が同じなのでしょう。私達には止まって見えますが、私の艦は20ノット近い速度が出ています。

操縦席に座る妖精さんがこちらを見ています。

先頭のロクマルがゆっくりと横方向に移動して来ました。

「おお、横に移動したぞ!」 甲板側舷の通路で私の飛行隊の妖精たちが鈴なりで見ています。

誘導員の指示に従い、ゆっくりと移動するロクマル。

少しうねりがあるせいで甲板が揺れていますが、安定した空中移動です。

甲板上に来るとぴたりと止まっています。

物凄い風が吹き付けます。

「鳳翔さん、間もなく着艦します」といずもさんが大声で叫んだ。

誘導員さんが腕を水平にして少し下方向へ揺らしています。

“降りろ”という事なのでしょうか。

それに合わせてゆっくりと降下してきます。甲板の揺れ具合を確かめながらゆっくりと降りてきました。

そして最後は“どん”と勢いよく着艦しました。

すかさず いずもの飛行班長さんが、

「いずも甲板要員、機体拘束急げ!」と号令します。

色付の服を着た いずもの甲板要員妖精さんが一斉に機体へ駆け寄ります。手にはフックの付いたチェーンをもっています。それを機体へ取り付けると甲板の拘束具へ繋げます。

機体が急な揺れで海面に落下しないように拘束します。

数人の私の飛行隊要員が甲板上の機体へ近づこうとしましたが、即座に いずもの飛行班長に大声で下がるように注意されました。

まだ頭上では回転翼が回っていますし、尾翼の小さい回転翼は物凄い勢いで回っています。当たれば大変です。

ロクマルのドアが開いて、中の操縦士さんと甲板要員が何か話しています。

すると、先程まで轟音がしていた機体から音が消えていきました。回転翼の回転も段々と落ちて、ようやく止まっていきます。

甲板の後方ではもう1機が着艦して来ました。こちらも慎重に位置を合わせています。

よく見ると細かい動きもできるようで、着艦位置を細かく調整しています。

こちらも最後は“どん”いう感じで着艦してきました。

2機の機体の拘束が終わると、いずもさんの作業妖精さんが艦内から燃料ホースを取り出してきました。昨日のうちに あかしさんたちが簡易式の燃料補給装置を設置してくれています。

燃料補給中にロクマルの操縦士さんが挨拶にきました。

いずもさんは

「お疲れさま、着艦どうでした?」

 

「はい、副司令。誘導装置がないのは仕方ありませんがそれ以外は特に大きな問題はありません。アイランドがない分、DDGより簡単かもしれません」

 

「荒れた時は?」

 

「固定翼機と共同運用なら、ベアトラップがないのは致し方ありません。腕でカバーします」

 

操縦士さんは私を見ると敬礼して、

「鳳翔さんに着艦できて光栄です。宜しくお願いします」と挨拶してくれました。

 

「ご苦労様です。今日は宜しくお願いします」

 

操縦士さんは いずもさんへ向き直り、

「離艦予定海域まではどの位ですか?」

 

すると いずもさんが、

「あと30分位よ。それまでに燃料補給と探査範囲の打ち合わせをお願い」

 

「はい、副司令」といい敬礼し、彼は自分の機体へ戻っていきました。

 

着艦した機体ではすでに燃料補給が始まっているようで、黒いホースが繋がれています。

ロクマルの回りには私の艦載機の飛行士妖精や整備妖精が取り囲んでいます。

ロクマルへ戻った飛行士さんは私の艦載機の飛行士に捕まったようで、先程から何やら質問攻めにされていますが、遂に皆をつれて説明を始めました。

そのたびに

「おお、凄い」とか「ほ〜」とか色々な反響が聞こえます。

 

暫く皆の反応を見ていましたが、

急に私の飛行小隊の兵員妖精が一人、こちらへ駆けてきました。そして、

「鳳翔艦長!あのロクマルという機体、俺たちでも操縦できるのですか?」と聞いてきました。

 

「えっ」と驚きました。

 

「今聞いた話だと、固定翼機を100時間程度飛ばせば転換訓練を受ける事ができると言っていました。ぜひ自分を推薦してください!」

 

それを聞きつけた他の飛行士妖精達も、

「なら、自分もお願いします。彼奴より飛行時間は自分の方が長いです!」

 

「貴様ら! 小隊長の俺を差し置いて! 艦長! 小隊長である自分をお願いします」

一斉に私や いずもさんを取り囲んで懇願してきました。

 

「皆さん、いったいどうしました?」

 

「鳳翔艦長、あの機体があれば深海凄艦の潜水艦へ一矢報いる事ができます。今までは我々はやられっぱなしでしたが、仲間の敵が撃てるのです!」

 

鳳翔は思い出した。この子達の戦友は、先月初旬に内地からトラックへ輸送船で向っている所を深海凄艦の潜水艦に撃沈され、誰ひとりとして帰ってこなかったのだ。

「でも小隊長、あの時の潜水艦は 三笠様が二水戦の 神通さん達と追い回して撃沈したと聞いていますけど」

 

「確かにそうです、艦長! しかしまだ奴らは諦めていません! ここで頑張らねば自分たちと同じ思いをする仲間が増えます。ぜひ自分たちにもやらせて下さい!」

全員で一斉に頭を下げてきましたが、困惑して いずもさんを見てしまいました。

 

すると いずもさんは、

「皆さん、残念ですがあの機体は特殊な装備を満載していますので、直ぐに転換訓練は出来ません」というと、小隊長は拳を握りしめ、

「いずもさん、残念です。せっかく一矢報いる機会だと思ったのですが」

 

すると いずもさんは、

「皆さんの気持ちはよく分かりました。でも機会は意外と早く来るかもしれませんよ」と意外な事をいった。

 

私は意味が分からず、

「いずもさん、どういう事でしょうか?」

 

「いま、うちの あかしは金剛さんの修理、三笠様の建造、自衛隊宿営地の建設とてんてこ舞いですけど、その後に行うのが対潜爆雷の改良とパラオ泊地滑走路の改修です」

 

「対潜爆雷の改良とパラオ泊地滑走路の改修ですか?」

 

「はい、九九艦爆にも搭載可能な高性能な航空爆雷の開発を行います」

 

すると飛行小隊長は、

「自分達の機体に爆雷が搭載できるのですか!」

 

「ええ、それもとびきりの高性能爆雷ですよ。既に設計図はありますから、あとは試験品を作って運用試験をしていきます。もう少し時間をくださいね」

 

すると小隊長は、

「いずもさん、やります。一矢報いる為にも航空爆雷、ものにしてみせます!」

 

そう言うと皆で敬礼して、またロクマルの方へ戻っていきました。そしてロクマルの操縦士を捕まえて、ロクマルに体験搭乗させろと直談判しているようです。

遂に根負けしたのか いずもさんへ許可をお願いにきました。

「構いませんから数名ずつ乗せてあげてください」と許可を頂きました。

 

「済みません、なにかご無理を申し上げて」と謝ったが、いずもさんは笑顔で、

 

「いえ、構いませんよ。彼らが得る物があればそれで十分価値はあります」

と答えてくれました。

 

暫くして いずもさんの飛行班長さんが

「副司令 そろそろ発艦予定海域です、こんごう、はるなの各スワローも準備でき次第 発艦します」

 

すると いずもさんは 凛として

「では 各機発艦準備に入りなさい 準備でき次第 発艦!」と命じました

 

甲板上では 最初に着艦した機体へ 飛行士さん達と私の飛行小隊長と新人の飛行士が乗り込みました

操縦席では 先程の飛行士さんが気ぜわしく色々と操作している姿が分かります、後の窓から 少し不安げな私の飛行小隊長達が見えます、不安そうな眼と期待に溢れる目が交互に見えます

すると ロクマルから聞いた事がないような きぃぃんという独特な音が聞こえてきました、どうやらエンジンが始動したようです。

 

はじめはゆっくりと回転していた回転翼は 次第に回転数を増していきました、ピカピカと機体の後で ライトが点灯しています

操縦士さんが 何やら機内から合図をすると、一斉にいずもさんの甲板要員が機体拘束具を外しました、

機体の回りから 一斉に要員が離れます、誘導員の方が手で合図を送ると、操縦士さんが敬礼して 回転翼の回転数がさらに上がり 機体は突然 ふわりと 1mほど浮き上がりました

側舷の待避所でその様子を見ていた 私の飛行隊の飛行士妖精から

「浮いたぞ!」と大きな歓声が上がります

 

パタパタと独特の音を響かせ眼前で 空中停止しています でも実際 私の艦は20ノット以上でているので 少し前進しているのでしょうか?

誘導員妖精さんが 大きく手で進行方向を指し示すと、ロクマルは機首を下げて甲板上を一気に加速して 発艦していきました、甲板から飛び出すと、機体を左へ捻り 高度をどんどん上げて行きます

私の飛行隊の飛行士妖精達から 「なんて機動力なんだ まるで猫のような俊敏性じゃないか!」と声が上がります

振り向くと 既に後方の2番機も発艦準備が出来ているようで、回転翼の回転数が上がっています、

しかし、いずもさんに乗せて頂いた時も感じましたが、自衛隊の妖精兵員さんは皆さん よく教練されているのでしょう、私の艦へ来ても迷う事なく仕事をこなしています

そう考えているうちに、2番機も 発艦するようですが こちらは少し滑走して発艦していきました、普通に滑走離陸でもできるのですね

 

「では 艦橋に行きましょう! 狩りの時間ですよ」といずもさんは 私を伴い艦橋へ向かいました

 

 

護衛艦 こんごう 艦橋

こんごうは 自身の艦橋で 双眼鏡を使いながら前方警戒をしていた

幾ら 対水上レーダーがあるとはいえ 目視での警戒は馬鹿にならないのだ

 

以前 こんな事を言われた

「あなたが注意深ければ 敵を撃滅できるかもしれません、しかし散漫だったら艦隊が壊滅するかもしれないのです!」

これは 彼方の次元の陽炎教官が 神通さんから叩き込まれたというのを聞いた事がある

そう言う意味で言えば その教え子の私達はある意味 二水戦の神通さんの教えを受けていたともいえる、その自分が 今 陽炎教官に二水戦に誘われている なんとも奇遇だな

などと考えていたが 不意に副長から

「艦長 間もなく警戒海域です」

 

「では 飛行科 準備でき次第直ちに発艦、発艦後は はるな飛行科戦術士官の指揮下へ」

 

「はい 艦長!」と復唱し、CICへ下命した

 

私は別にCICを呼び出し

「CIC 艦橋 こんごうです、ソナー要員 間もなく警戒海域です、必要なら曳航ソナーも使いなさい」

 

すると ソナー妖精は

「艦長 後方に鳳翔さん達がいるので 探知精度が上がりません、暫くはバウソナーで 対応します」

 

「では はるなとのデータリンクを確認して 精度向上に努めなさい、必ずいるわ」

 

「はい 艦長! 必ず掴みます!」と元気に返答してきました

 

ここからが正念場です、奴らの動きを探る為にも 何としても見つけなければ

 

 

三笠は 艦長席に座りながら、こんごうが指示する内容を聞いていた

先程まで 穏やかであったこんごう殿の表情が 豹変した

艦霊力を研ぎ澄まし、艦と精神を一体化させその能力を拡充させる

それを まるで水が流れるように 停滞なく行えるとは流石じゃ

やはり 厳しい教練を耐え忍んだというだけはある、その力 拝見させてもらおう

 

 

駆逐艦 長波

長波は 艦橋で真新しい双眼鏡を使い左舷方向を監視していた

昨日のはるなさんの護衛任務で 陽炎教官から指導してもらったおかげで、今日は鳳翔さんにしっかり合わせる事ができた 先程から航海長が細かく赤黒を調整している

すると 通信士から

「はるなさんから 通信が入っています」と言われた

昨日渡して貰った 板状の装置の前に立つと はるなさんが浮かびあがった

 

「長波さん 間もなく警戒海域です。私とこんごうで 潜水艦探知を行います 場合によっては 長波さんと陽炎さんに 攻撃をお願いする事もありますので準備をしておいてください」

 

「はい はるなさん すでに対潜爆雷の点検は終わっています。指示いただけば 長波 突撃できます!」と元気に答えた

 

「はい 期待していますよ では」と通信が終わった

いつも思うけど はるなさんって美人だな。こう話し方に落ち着きがあって 戦艦榛名さんもそうだけど、やっぱり家系かな? ああいうの 少し憧れるな 長波もなれるかな?

 

 

長波副長は その彼女の姿を見ながら

“数日前まで やんちゃだとか色々言われていましたが、今はとても頼もしくみえる。やはり 死線を超えた事が大きいのか。それとはるなさんやこんごうさんのように 器量の大きな方と接しているせいか。経験は艦娘を育てるというのは本当のようだ”

そう思いながら 自身も双眼鏡で警戒に当たった

 

 

はるなは自身のCICで、長波との通信を切ると、少しにこやかにしていた

「艦長 何かいいことでも有りましたか?」

 

「いえ 砲雷長 何も。ただ長波さんも 結構可愛いなと思っただけです」

 

「まあ 容姿は良い方ですね。あれでもう少し 心身共に成長すればモテるでしょうね ただ・・」

 

「ただ?」

 

「ただ それまであとどれ位 失敗を重ねるでしょう」

 

すると はるなは静かに語りかけた

「砲雷長 それが人の器量の厚みだとある方は言いました。器量のある人はその厚みの分だけ失敗を重ねている。 砲雷長 “半紙の積み重ね”という言葉を知っていますか?」

 

「半紙の積み重ねですか?」

 

「そうです、中国の歴史の書物や仏教の書など価値ある書物は とても分厚い物が多いですね、しかしその1ページは 半紙、光にかざせば反対側が透けて見えるほど薄いものです 人はよく“努力しました”と言いますが、努力とは意識出来ない程 薄い物だと 私は考えています、その薄氷のような薄さを 毎日重ねて初めて 目標が達成できると思っています、長波さんも 私もその薄い半紙を重ねて明日へ繋げていく そう考えています」

 

「艦長」

 

「砲雷長 私は 必ず彼女は 大成すると信じています、あのルンガ沖夜戦で田中少将の指揮下 勇猛果敢に戦い、深海凄艦の重巡群を蹴散らした方です」

 

「そうですね」

 

「そして もう一人、私達の前を行く あの方もまた日々の積み重ねを怠らない方です」

 

「鳳翔さんですね」

 

「鳳翔さんには 脱帽します、先日 試験運用の話があったばかりですが、こんごうに説明を受けて、それからロクマルの性能を猛勉強したと聞いています そして今日 試験とはいえ 離発着をしています、流石です」

 

「自分達でも 運用できるまで数日かかりましたから」

 

はるなは 席を立ち 皆に向け力強く

「さあ 負けてはいられません 各員! 対潜警戒を厳にしなさい! 必ず尻尾を掴みます!」

 

CIC要員が 一斉に

「はい! はるな艦長!」と答え 動きだした

 

 

こんごう艦橋

「CIC こんごうです 飛行科戦術士官 こんごうスワローは あとどれ位飛べるの?」

 

「あと30分で ビンゴです、先にいずもスワロー隊が 燃料補給の為 鳳翔へ降ります、その後 うちの機体です、はるなスワローはカバーで今から発艦します」

 

「了解、穴が出来ないように 注意して!」

 

「はい 艦長」

 

「ソナー士官 状況は?」

 

「各測定機器の状態は良好です、温度レイヤーも許容範囲内です」

 

「少しキツイですが 頑張ってください」

 

「ありがとうございます 艦長」

 

こんごうは 横に立つ航海長へ

「航海長 変針予定地点までは?」

 

「残り1時間程度です、対潜活動中ですので 、少しずつ変針していきます」

 

「了解です、航法データリンクがないから 陽炎さん達にも 逐次変針航路を連絡してね」

 

「はい 艦長」

 

 

ふと後から視線を感じ 振り返ると三笠様が じっと私を見ていた。

「三笠様 何か?」

 

「いや ふとそちらが不憫に思えてな」

 

「不憫ですか?」

 

「そうじゃ、金剛の件や長波の件もそうじゃが、そちらは確実に戦果を上げておる、それだけではない、わが海軍に意識の変化をもたらして来ておる」

 

「意識の変化ですか?」

 

「そうじゃ、鳳翔、陽炎、皐月、そして長波 関わる者たちに 戦う目的を示しておる それこそが 最大の変化じゃ、 今まで漠然と深海凄艦と戦うという事だけ教え込まれた艦娘に 明日の為に何をすべきかという事を考えさせておる、長波などこの数日でまるで別人のようじゃぞ」

 

「ありがとうございます、そのお言葉だけで十分です」

 

「そち達は謙虚じゃな」

 

「はい 三笠さま それが 自衛隊の本質です、 私達の次元の艦娘士官学校の第一期生の卒業式の日に、こう語った方がいます」

 

「君達は自衛隊在職中、決して国民から感謝されたり、歓迎されることなく

 自衛隊を終わるかもしれない。きっと非難とか叱咤ばかりの 一生かもしれない。

 御苦労だと思う。しかし、自衛隊が国民から歓迎され ちやほやされる事態とは、

 外国から攻撃されて国家存亡の時とか、災害派遣の時とか、国民が困窮し国家が混乱に直面している時だけなのだ。

言葉を換えれば、君達が日陰者である時の方が、国民や日本は幸せなのだ。どうか、耐えてもらいたい。」

 

そう静かに語るこんごう

「自分達は この訓示を 先輩達から毎日聞かされました、そして後輩にも毎日聞かせてきました、我々は その時の為の組織です、そして今 この瞬間が その時であると思っています」

 

三笠は暫し黙り

「そち達の戦後 日本はその歩みを間違わなかったという事じゃな」

 

「はい その証拠が 自分たちです、力に驕る事なく謙虚に進む これが80年後の日本海軍の姿です」

 

「なあ こんごう殿 儂らにも その道は歩めるのか」

 

「三笠様、“歩めるのか”ではなく 自ら“歩む”ですよ」とこんごうは明るく答えた

 

「そういえば こんごう殿 陽炎が二水戦の嚮導に誘ったそうじゃの」

 

「えっ なぜぞれを三笠様が知っているのですか?」

 

「昨日、泊地提督では埒があかないと思った陽炎が イソロクや儂に “どうしたらトラックへこんごう殿を転属させる事ができるか?”と相談にきたぞ」

 

「えっ!!!」驚くこんごう

 

「あ奴は 本気のようじゃからの、既に神通に手紙を書いておるようじゃ 逸材を見つけたとな」

 

「本当ですか⁉︎」

 

「まあ 安心せい、現状では無理じゃよ、そち達は存在しない艦隊じゃ、それに自衛隊司令が 首を縦には振らんよ」

 

「そっ そうですよね」

 

「それに二水戦の嚮導では そちには役不足じゃ、儂の専属秘書艦ならどうじゃ」

 

「ひっ 秘書艦ですか!!!」

 

「そうじゃ 儂も艦を持ち また海へ出る、そうなれば一から三までの水雷戦隊を総括する大将となる 有能な秘書艦が欲しいと思っておった所じゃ」

 

「総合水雷戦隊ですか!」

 

「そうじゃ、自衛隊司令と話しておったがの マーシャル方面のごたごたが片付けば次は あのソロモン海じゃ そして現在危機的状態になりつつあるオーストラリアへ向う オーストラリアを助け アメリカとの講和を目指す」

 

「そんな戦略があったのですか」

 

「それには あのソロモン海 鉄底海峡を抜けなければならん! その為の儂の艦 そして統制された水雷戦隊が必要なのじゃよ」

 

こんごうは暫し考え

「秘書艦は無理ですが 司令の許可が下りれば その時はお伴させて頂きます」

 

三笠は

「うむ 期待しておるぞ こんごう殿」

 

そして三笠は こう切り出した

「こんごう殿 少し話は 変わるが あの自衛隊司令 あ奴は 人か?」

 

それを聞いた こんごうの眼が鋭くなった

「三笠様 自分達の時代では 個人の資質に関する事は例え親しい間柄でもうかつにはお話出来ません、それは三笠様 ご自身で機会をみて お尋ねください」

 

三笠は静かに

「そうか ならそうしよう」とだけ答えた

 

三笠の返事を聞き 前方を見直したこんごうであったが、その時

「艦橋! CIC 方位330 距離8000 微弱なエコー感です!」

 

即座にこんごうは

「CIC 砲雷長! 状況報告!」

 

「はい 艦長、先程、バウソナーで 微弱な推進音を探知しました、ただ音源が不安定なので 現在データをはるなで解析中です」

 

「担当空域には だれが向ってる?」

「うちの機体です。5分で着きます。予備燃料まで使えば、あと30分は対潜活動ができます」

 

「了解です、無理しないように 早目に交代を申請して!」

 

「副長、念の為に “合戦用意! 対潜戦闘準備!”」

すると 副長は素早く 艦内放送をとり、

「合戦用意! 対潜戦闘」と放送、艦内に号令が飛び交った

 

駆逐艦 長波艦橋

長波は じっと腕を組んで 前方を睨んでいた

警戒海域に入って 既に1時間以上経過していた そろそろ変針地点だ

先週までの自分なら 今頃は突っ走っていたが今は 守るべき鳳翔さん、はるなさんがいる、じっとその時を待っていた

突然 こんごうさんから発光信号が上がった

「副長?」

 

「艦長 こんごうさんより “合戦用意 対潜戦闘準備”です!」

 

「見つけた!」

 

すかざす副長が

「総員 合戦用意 対潜戦闘!」と号令した 艦橋後部で艦内へ向け号令ラッパが鳴り響いた

 

無線が鳴り、陽炎教官が出た。

「長波 突っ走るんじゃないわよ、爆雷、主砲、対空機銃用意しなさい!」

 

「えっ  主砲と対空機銃もですか?」

 

「長波 昨日の話を忘れたの?」

 

「あっ はい直ぐに準備します」

 

昨日 はるなさんの護衛任務後の反省会で はるなさんから 基本的な対潜活動の講義が有りました、そこで水深の浅い場所では 対潜攻撃の後 爆雷を落とした時に出来る騒音の隙を突かれて急に浮上してきた潜水艦と砲戦になる危険性を指摘されていました、

攻撃するだけではだめで 防御も大切であるという事でした

 

はるなさんの対潜兵器についても説明があり、特に驚いたのが 自動追尾装置付きの魚雷です。魚雷自身が聴音した音源へ向けて 自動で進む魚雷なんて初めて聞きました

今まで、海の中の潜水艦は爆雷攻撃だけと思っていたのでそんな兵器なんて思いもしなかったけど、ただこの魚雷は欠点があって 攻撃目標の近くに友軍艦がいると誤射する可能性がある事とか 音源近くに騒音があるとダメだとか、水深が浅いと使えないとかです

そういう事なら 先日 自分がしでかした事の重大な過ちを思い知ったな

はるなさんからは

 

「こちらも 必死なら あちらはもっと必死に逃げます 心して下さい」と言われました

ならば こちらはもっと必死に追ってやる。

長波様 頑張るぞ

 

 

空母鳳翔 艦橋

鳳翔の艦橋でも 緊張が走った 今までも潜水艦と遭遇した事はあるが こちらから積極的に探した事はなかったからだ

 

「いずもさん 大丈夫でしょうか?」と心配顔の自分に いずもさんは

「まだ距離があるから大丈夫ですよ この距離で魚雷攻撃されても十分躱せます」と平然と言っていただきました

 

しかし、8kmの遠距離で探知できるなんてすごいです

「はるなさん いずもです 状況報告を!」

 

「はい 副司令、現在 方位330 距離8000 深度不明で 微弱な音源探知、こんごうスワロー はるなスワローが MAD展開中です」

 

「了解です、いずもスワロー01は現在 燃料補給中ですから バックアップは02を充てて下さい、はるなさん もう1匹位いると思うので宜しく」

 

「はるな了解です」

 

「鳳翔さん はるなに任せておけば 大丈夫ですよ あの子 狩りは得意なんですから」

 

「狩りですか?」

 

「ええ 深海に潜む獰猛な奴のね」と笑顔で答えてくれました

 

 

 

 

こんごう搭載のロクマルの機上戦術士官は気ぜわしく 管制卓の上に設置されているドラッグボールを操作しながら、はるなから送信されてくる飛行コースに沿うように飛行士に進路を指示していた

 

「海面 何か見えるか?」と後席にいる監視員に聞くが

 

「何もありません」と返事が帰ってきた

 

磁気探知装置の画面を慎重に見ながら 操作を続けていたが

「いた マーク!」と呟いた かすかだがMADに反応があった

そのまま 一旦通過する

深海凄艦 カ級は 全長95m 排水量は2000トン近い かなり大型の外洋航行の潜水艦だ

「飛行士 もう一度 アプローチしてくれ」と機長の戦術士官が指示すると 操縦席に据え付けのディスプレイに先程 反応があった地点が表示されている

ロクマルは 機体を翻し、再度反応のあった場所へ向う、もう一度 反応を確かめる為だ

「少し動いたか?」 先程反応のあった場所から 数百メートル動いている

どうやら 沈没船ではない なら

「飛行士 マーク位置付近に ホバリングしてくれ ディッピングソナーを下す」

「はい 機長」 そう言うと飛行士は素早く機体を予定地点へ向わせた

 

 

予定地点へ静かに近づく、周囲を警戒しながらホバリングへ移行した

海面が 吹きおろしの風で白く 波立った、

「ソナー 降ろします!」と 機上整備員がヘッドセット越しに声を掛けてきた

管制卓のボタンを素早く操作して ディッピングソナーの聴音モードに入る

機上解析と並行してはるなへ ヘリデータリンクを使い聴音データが送られた

「こんごうスワロー01 はるなCIC ソナーモードをアクティブへ変えてくれ」

 

「了解 アクティブへ 変更する」

機上戦術士官は 再度 管制卓を操作し、ソナーモードをアクティブへ替え 積極的な探知へ切り替えた

 

パッシブとは異なり アクティブはいわば最終的な索敵である、相手の音源を探るだけでなく、こちらから低周波音源を発信しその反響音を取る、そして反響音の反射率などで 相手の位置 艦種を特定するのだ

機上解析には カ級の表示が出ているが はるなではもう一歩踏み込んだ解析をしているようだ

 

戦術士官は なぜ攻撃命令が出ないのかと思ったが ふと水深を見て納得した

その先 水深がやや浅くなっている 30m程度の場所が数カ所ある、ここで12式を投下しても エコーが乱れて探知できない。

 

「はるな艦長 どうする?」

 

 

はるなCIC

「解析士官 どう?」はるなは 聞いてみたが 返事は思わしくなかった

 

「駄目です 反響係数から カ級であるのは間違いありません、いるのは分かっていますが こうも急に水深が浅くなっていては 12式やアスロックでは不確実要素が 大きいです あと少し 北よりに追い立てれば問題有りません」

 

 

はるなは暫し考えた 本来なら私やこんごうで 追い立てればいいが、鳳翔さんがいるのでここを離れられない、もう1匹どこかで見ているはずだ 離れた隙に雷撃の危険性がある

「よし、陽炎さんと長波さんに お使い頼もう」

そう言うと 戦術ディスプレイに陽炎と長波を呼び出した

 

「えっお使いですか?」と驚く 陽炎と長波

 

「そう お使いです、今 こんごうのヘリが飛んでいるあたりは見えますか?」

 

「はい 双眼鏡でぼんやりと」そう答える陽炎

 

「あのあたりに カ級が潜んでいます、本来ならヘリ搭載の魚雷か私のアスロックで攻撃したいのですが、あの付近の水深が浅く攻撃には 不適当なので 潜水艦を 北側に追い出してもらいます」

 

すると長波が

「どうやってやるのですか?」

 

「あの付近に 探信儀を鳴らしながら 近づいてもらいます、そしてカ級を探しているふりをしてもらって 追い立てます、もし動けば私がアスロックで攻撃します、ダメなら皆さんに爆雷攻撃をお願いします」

 

すると陽炎は

「分かりました、長波いくわよ 機関 第三戦速! 艦隊の前に出て そのあと単横陣へ移行して 追い立てるわよ!」

 

「はい 陽炎教官! 長波 突撃します!」

陽炎と長波は 鳳翔から離れ、こんごうの側面を抜けると 加速して艦隊を離れていった

 

陽炎と長波は 艦隊を離れたあと 進路を北に取り 単横陣へ陣形を 変えた

はるなからは 時折進路の指示を貰いながら 10ノットまで船速を落とし 対潜警戒をしながら進んだ、陽炎たちの後方から1機のロクマルが上空を追い越した

それを見る陽炎

「あの先にいるのね 必ず仕留めてみせるから」

 

はるな艦載機は 警戒海域に入った

「こんごうスワロー はるなスワローだ、交代だ 後は任せてくれ」

 

「すまん、燃料がビンゴだ 後は頼む」そういうと こんごう艦載機は ディッピングソナーを巻き取り、海域を離脱した

 

AHCDSが 操縦席のディスプレイにホバリング予定地点を表示した

素早くそのポイントへ着くと 即座にディッピングソナーを繰り出し、探知を開始した

やや南側にずれた所に音源を探知した、どうやら少しづつ動いているようだ

まだ こちらに探知されている事に気がついていないようだ

 

開口レーダーに 陽炎と長波が近づいてくるのが分かる、少しであるが 探信音が入りだした、じっとカ級の動きを見る 機上戦術士官

やや 動きが止まったか? 先程よりも推進音が少ない

慎重に 陽炎たちの探信音を取り除き カ級の音紋だけに絞る エコーが変わった?

変針してるのか? 即座にディッピングソナーを パッシブからアクティブへ替え再度 スキャンする

「よし 動きだした、方位は北だ そのまま進め」

しかし 次の瞬間 かすかに反応があった推進音が消えた

 

「ちぃ!止まったか、陽炎と長波をやり過ごす気だ」

 

はるなCIC

「艦長! カ級 行き足を止めました! 陽炎たちをやり過ごす気です!」

ソナー担当士官が はるなへ報告してきました、自分でも 戦術ディスプレイで情報を確認しますが、どうやらその様です

 

「仕方ありません 陽炎さん達にお願いしましょう」

 

「はるなスワロー、はるなです、陽炎さん達に爆雷攻撃をお願いします、進路、投下位置の指示を」

 

はるなスワローの戦術士官は水上開口レーダーの画面と ディッピングソナーの解析画面を見ながら 陽炎たちの進路を計算し 爆雷投下地点を割り出した

助かったことに 目標は殆ど動いていない、

「上手く隠れたつもりだろうが、そうは行かんぞ」そう言うと 通信機を操作し、陽炎と長波を音声のみで呼び出した

 

「こちら はるな艦載機 陽炎、長波聞こえるか!」 はるなの戦術士官が呼ぶと

 

「陽炎よ 聞こえるわ」

 

「なっ 長波です」 なぜか緊張している長波

 

「では 誘導を開始する 陽炎 面舵5 長波 そのままよ~そろ!」

陽炎は 素早く面舵を切った

 

「陽炎! 舵戻せ! よ~そろ!」無線で 誘導される

陽炎も初めての事である 潜水艦がそこに居ると分かっていて誘導されるなど

 

「誘導員さん! 爆雷は投射機 それとも手動?」と陽炎が聞いた

 

「おっとすまん 手動で 各艦6発 深度25だ!」

 

陽炎はすかさず

「副長 後部甲板へ伝令! 爆雷手動投下用意 装填数6 深度25!」

副長は 艦内放送をとり即座に命じた

横を走る長波でも 爆雷ラックから艦尾にある投下機へ爆雷の装填が始まった

 

数分もしない内に 後部甲板から

「爆雷 準備よろし! いつでも行けます!」

 

陽炎は 無線で

「陽炎よ、爆雷準備できたわ」

すると 長波も

「長波も 投下準備できました・・ あの」

 

「どうした 長波?」と聞く はるなの機上戦術士官

 

「せっ 先日は済みませんでした」 無線越しでも 頭を下げる姿が分かる

 

「お嬢さん、そういうなら確実に仕留めてくれよ」とはるな士官

 

「長波 頑張ります」という元気な返事が帰ってきた

 

「さて 二人とも進路そのままだ 俺たちの9時方向に奴は隠れている 投下まで あと5分だ」

 

はるなは 自身のCICでじっとその様子を見ていた

戦術ディスプレイ上には カ級の予想位置、そしてそれを挟み込むように進む 陽炎と長波、ヘリデータリンクを介して 爆雷投下予定地点の情報が表示された

 

「よし ここまで来れば あとはスワロー隊に任せて大丈夫です、ソナー士官!他の反応は?」

 

「駄目です、パッシブでは限界があります、アクティブへ変更したいのですが、エネミーアルファを撃沈しないと 混乱します」

 

「仕方ありませんね、エネミーアルファが片付き次第 アクティブへ変更します」

 

はるなは 航空士官に向け

「航空士官 いずもスワロー隊は 予定地区に入りましたか?」

 

「はい 艦長 現在 MAD探査中です」

 

「どんがめが 一匹で行動するとは考えにくいです、周囲15km圏域内に もう1匹いるはずです 注意しなさい」

 

「はい 艦長!」

 

はるなも こんごうも その持てる力を発揮して 捜索を行う

しかし もう1匹は中々かからない はるなは思った

「こういう時に P-1、いやせめてP-3C ブロック3があれば一気に探せるのに ロクマルでは 行動範囲に制限がある、固定翼機との連携も検討する必要があるかも」

「とにかく 見つからないのであれば 頭を押さえて動けなくするしかないわね」そう考えはじめた

 

陽炎と長波は 投下予定地点へ向けて 進路を取っていた

陽炎は横を走る 長波を見ると 艦橋で双眼鏡を片手に、忙しく進路指示をしている長波が見える、

「うん いい顔だわ、でもまだ “お姉ちゃん”と呼ばせる訳にはいかないわね」

陽炎は 爆雷投下前の最終確認に入った

 

すると 誘導機から

「間もなく 投下開始地点だ、各艦探信儀停止、爆雷投下用意!」

 

陽炎は即座に

「探信儀停止、爆雷投下よう~い!」と号令をかけた

 

静かに 時間だけが過ぎる、艦橋ではだれ一人として話す物もなく 機関の音だけが響いている 時折 波の砕ける音、艦首が波を叩く音 ごく普通の海の音が艦橋を支配していた その時をじっと待つ

 

突然 無線が吠えた!

「各艦 投下 始め!」

 

陽炎は即座に 見張り所にいる副長へ

「投下 始め!」と大声で怒鳴った

 

副長はメガホンで後部甲板の要員へ

「投下! 投下!」と怒鳴る

 

後部甲板要員が 投下機のゲートのレバーを降ろし、ゲートが開く

ゴロン、ゴロンという感じで 爆雷が海中へ 落ちていく

 

ゆっくりと そして確実に海中へ没していく爆雷

陽炎副長が

「全弾 投下完了」と怒鳴った

 

 

横を走る長波でも 投下が終わったようだ 

すかさず陽炎は 無線を取り

「長波 機関 強速! 当海域を離脱、遅れるな! ついてこい!」

白波をかき分け 全力で海域を離脱する陽炎と長波

 

はるなのロクマルも同時に動いた

機長である 戦術士官が ヘッドセット越しに

「ディッピングソナー巻き上げ! 上空待機! 花火が上がるぞ!」

 

爆雷が 静かにそして確実に 目標深度まで沈降していく

そして 静かに身を潜めていたカ級の頭上へ降り注いだ

カ級は その結末を見る事なく 深海へと旅立った

 

陽炎は その背後に いくつもの巨大な水柱をみた

「見張り員 浮遊物を確認して! 他は周囲の警戒よ!」

 

はるな艦載機は 爆雷投下地点付近の上空で 戦果確認作業に入った

海面は 泡立ち、その中には 油やその他多数の浮遊物が浮かびあがってきた

「はるなCIC はるなスワロー アタックポイントで多数の浮遊物 油を確認!」

 

「はるなスワロー はるなCIC こちらでも 船体の着底音を確認 撃沈判定だ!」

 

「はるなスワロー了解」そう返事をすると 無線のチャンネルを切り替え

「陽炎、長波、こちらはるな艦載機。カ級は撃沈された。繰り返す。カ級は撃沈された、長波嬢ちゃん、よくやった!」

 

長波は 艦橋でこの無線を聞き  副長へ向け

「副長!皆! 撃沈したぞ!初戦果だ!!」

 

「艦長 やりましたね、初戦果 それも潜水艦です 夕雲さん達が聞いたら大喜びですよ!」

 

そこに 陽炎が無線で

「長波、艦隊に合流するわよ、ついてきなさい」

 

長波は元気に

「はい 陽炎教官 長波 行きます!」と返事を返し 陽炎の後を追った

 

 

「こちらでも 船体の着底音を確認 撃沈判定だ!」

鳳翔艦内では その音声が 戦術ディスプレイを通じて、艦内放送で流れた

艦内各所で歓声が上がる、今まで手も足も出なかった深海凄艦の潜水艦を撃沈したのだ、それも 組織的に狙いを定めてである

甲板上で艦内放送を聞いた 鳳翔飛行隊の妖精兵員は

「小隊長! 自衛隊がやってくれました、陽炎と長波で 共同撃沈です!」

 

「やった!やったぞ!」と歓声が上がった

 

鳳翔の艦橋でも 副長以下の要員が皆喜んでいたが いずもは表情をさらに厳しくし海図を見ていた

 

その厳しい表情をみて 鳳翔は

「いずもさん どうしました?」

 

暫し黙るいずも そして

「潜水艦による通商破壊は 普通2~3隻程度の潜水艦で行います、先日の夜の潜水艦、そし今回の潜水艦 もう1隻 近くにいるはずなのですけど はるなやこんごうの索敵網に引っ掛からないのは解せません、元々2隻なのか それとも手練れで尻尾を見せないのか?」

 

「いずもさん まだ潜水艦がいると?」

 

「自衛隊司令は そう考えているみたいです」

 

「では もう1隻?」

 

「ええ」そう言いながらいずもは 海図へ視線を落とした

 

 

 

深海凄艦 北方海域群体、カ級潜水艦

そのカ級は静かに 遠方を過ぎる鳳翔達の艦隊を海中から見送った

「艦長 宜しかったのですか?攻撃せずに」

 

するとカ級艦長は

「いいわ 別に無理に攻撃する事もないし、義理は十分果たしたわよ」

 

「あの空母は 鳳翔ですね、前後の重巡は新型でしょうか?」

 

「ええ 見たことがないわね、それに」

 

「艦長?」

 

「いえ なんでもないわ ただあの艦と鳳翔とは 戦いたくないと直感で思っただけよ」

 

「“直感”ですか」

 

「まあね なんとなくよ それで副長 バッテリーと酸素はあとどれくらい持つの?」

 

「両方とも 4時間程度ですね、このままの状態だとバッテリーは良くても 酸素が厳しいです」

 

「なら 尚更 ここは手控えます。日本海軍の駆逐艦はしつこい奴らばかりよ。先月のトラックの偵察の時も 川内型の軽巡と陽炎型の駆逐艦に追い回されて くたくたになったのを忘れた⁉︎ あんな思いはゴメンよ このまま潮流にのって海域を離脱します」

 

「あの時は 他の艦が滅多打ちにされましたからね その隙にこちらは逃げられましたけど」

 

「トラックか 長門や大和の写真撮れば 姫様喜んでくれたかな」

 

「そう言えば 姫様は三笠がお気に入りだそうですね」

 

「ええ 先代の姫様が 三笠の武勇伝を毎日子守歌替わりに語っていたそうよ、本気で 横須賀の三笠を強襲して奪えないかって言ったらしいわよ でも横須賀の三笠は ダメねあれは見世物だわ」

 

「では 彼女の魂は?」

 

「意外と 近くにいたりしてね」

 

副長は 声を潜めて

「艦長 話は変わりますが」

 

「ええ 今回の派遣の件ね」

 

「少し不自然では」

 

「間違いなくレ級の策だわ」

 

「では」

 

「今回の遠征も レ級達戦艦群が 米国のレーダー技術をミッドウェーの群体から導入する見返りに行われたわ、でも中身は穏健派ばかり派遣された」

 

「やはり」

 

「ええ 遠征という粛清よ」

 

副長は 拳を握り静かに

「なんと! あ奴は先代が 苦労してようやくアリューシャンに築いた安住の地を汚すつもりですか」

 

「レ級達はその苦労を知らないわ、若いからこそ南で暴れたい、でも北の幼い姫と取り巻きがそれを許さない ならば力のない姫を屈服させ、取り巻きを粛清し権力を手に入れ南進して暴れる」

 

「副長 ここは絶対 生きて帰るわよ」

 

「はい 艦長!」

静かに 白きカ級は 海域を離れた

 

 

鳳翔の艦橋で いずもはずっと腕を組み、時折メガネを直しながら海図を見ていたが、

一言

「やはり 取り逃がしたかな、向こうが一枚上手だった 見たいですね」

海図には 各スワロー隊の索敵範囲、撃沈したカ級の航跡などが記されていた

 

「いずもさん?」と心配顔の鳳翔

 

「いえ 何でもありませんよ、ただどんなに探しても ダメな時はダメですからね そろそろ変針点ですから 帰り支度をしましょう」

 

そう言いった矢先 予想した最悪の事態が起こった

 

 

 

パラオの海は 波乱の時が流れていた

 

 

 




半紙の積み重ねは 私が高校生の頃の先生の口癖でした
今日の積み重ねは明日の糧になる のかな?


次回は 恐れと勇気です

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