分岐点 こんごうの物語   作:スカルルーキー

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老兵は死なず ただ静かに前を見て 希望に生きる


新兵は がむしゃらに 漠然と前だけ見て生きる


その先にある光とは




13.老兵と新兵

「この書類に 黙って 署名せい!」

 

「俺様の実力 見せてやる」

 

 

 

 

まぶしい朝日を浴びて 目が覚めた

ふと自分の姿を見ると 昨日の姿 艦内服のままで 机で寝込んでいた

結局 金剛お姉さまを 艦娘寮まで送り届けて それから一昨日の追撃艦隊戦の戦闘詳報を仕上げて、昨日の演習報告書を書いていたら そのまま寝込んだようだ

 

時計を見ると まだ総員起こしには早い、顔を洗い 運動着に着替えて後部のヘリデッキに出た、軽くストレッチをして体を解す、急に動けば体に悪い、特に足は十分にストレッチして準備を整えた、そして呼吸を整え、軽く後部甲板を走りだした

暫くすると 数名の隊員妖精も来て同じように走っている、皆体が資本だ、出来る時にやっておこう、近くに停泊中のひえいの甲板を見ると ひえいも青い顔をしながら走っていた、はるなは ストレッチをしているのが見える 一番遠い きりしまはどうやら縄跳びをしているようだ、

 

「ようやく 皆 気持ちに余裕がでて来たみたいね」と思いながら総員起こしまで じっくり走り 汗を流した

 

山本は 朝日を浴びる自衛隊艦隊を双眼鏡で見ていた

後部甲板で数名の兵員とこんごう君らしき姿がある、走りこんでいるようだ

艦娘寮の前を見ると 陽炎が運動着を着て 出て行った

後を追うように 皐月が出てきて二人揃って駆け出していく

ふと 横を見ると三笠も起きて来た

双眼鏡を渡すとやはり彼女達が気になるようで、しきりに見ている

「うらやましいか 三笠」

 

「イソロク 羨んだところで 出来ることなどない、儂にしかできん事をする それだけじゃ、 さあ今日も忙しいぞ」と着替えだした

 

結局 山本は三笠が着替え終わるまで 外を眺め続けた

 

 

 

朝 雨戸をあける音で目が醒めた

うすぼんやりとする意識の中で 目の前には由良がいた

「提督さん おはようございます」と元気に挨拶してきた

 

「ああ由良 おはよう」

 

すると 由良は横に座り

「あっ あの昨夜はみっともない真似をして 申しありませんでした」と頭を下げて謝ってきた

 

俺は気にも留めず 由良の手をとり

「大丈夫、誰だって苦手な物は 一つや二つあるものさ、まあ急に馴染もうとせず じっくり行こう、無理に焦った所で仕方ないよ」

「さあ 瑞鳳の邪魔が入る前に ご飯を食べて今日も頑張ろう」と笑ってみせた

ようやく 由良も顔が緩む これでいい

 

朝食の準備の為 由良が台所へ消えたあと、今後の事を考えていた

自衛隊艦隊の来島は予定外だが、実は以前から問題があった

深海凄艦の潜水艦と通商破壊艦隊による補給路の寸断だ、昨年末より頻発するようになりここ1ヶ月は 特にひどい、仮にルソン パラオのルートを深海凄艦に突破されれば 太平洋から 西進した深海凄艦で南シナ海の輸送ルートは危機的状況になる 深海凄艦は現在 マーシャル方面で死霊妖精を使った上陸作戦を決行し、諸島部に航空基地建設を目論んでいるようだ その破壊の為 トラックから連日のように艦隊が出てはいるがいまだ効果的な成果がない

 

その為 主力部隊がこちらまで手が出せない状態だ、金剛、長門、大和を本土から呼び寄せたのも マーシャル方面防衛作戦の補強の為である

どこかに 哨戒の穴がある事は確かだ これだけ大規模に艦隊が入れる訳はない

「やはり奴ら マーシャル方面をおとりにして 背後を潰すつもりか」独り言を言いながら待っていると 由良が朝食を運んできてくれた 質素だが二人には十分だ

由良と朝食を食べながら、この時間がいつまで続くかと考えを巡らせた

 

 

自衛隊艦隊の司令は 士官室でいずもと朝食を食べていたが、どうにも居心地が悪い

原因は 眼前に座るいずもだ

どうしてか分からんが 今朝は機嫌が悪い、自分でも原因がよく思い出せないので 無視しているが どうもそれも原因のようで 憮然として朝食を食べていたが

「司令! 早く食べていただかないと 会合時間に間に合いません!」

 

不機嫌に話すいずもに

「なあ いずも なにか今日 機嫌悪くないか? 具合でも悪いのか?」と問いただした

 

「し れ い! 貴方のそのデリカシーのない所が 唯一 嫌いなんですけど」

と 余計に不機嫌な答えが帰ってきた

 

無意識に

「はは それ以外は好きなんだな」と笑ってごまかしたが

 

 

 どうやら地雷を思いっきり踏んだようだ

 

 

パラオの朝は それぞれの思惑をもって 過ぎていった

 

 

いずもの不機嫌度は まあ 泊地司令部に顔を出す頃には 平常状態に戻っていた

まあ そのあたりは流石に 副司令である

今日の議題は 泊地借用に関する覚え書と現状分析である

泊地借用に関しては 泊地提督と自衛隊司令の間で覚書を交わした、一応お世話になるのだから ただという訳にはいかず 当面は 泊地の対空警戒と周辺海域の哨戒作戦への従事が主な作戦となった 泊地側からは食料、燃料の供給をしてもらう事とした、泊地側が不思議がったのは 弾薬についてだ

そもそも 規格が大幅に違うので海軍側からの提供は困難であった

すると 自衛隊司令は弾薬の一部原材料を提供していただければ 後はこちらで調達するので近海の採掘権を一部欲しいという事であった、まあ問題ないとの判断で山本が許可した。

「海水から弾薬が作れるのか?」と山本が聞いたが いずもは

「それは ひみつですよ」と笑ってごまかされた

自衛隊は 現在投錨している背後の陸地の一部を借りて 宿営地を確保、仮司令部もそこに設置することで了解を得た、ようやく仮の動かない地面を確保した

いずもは あかしに連絡し、午後から陸自妖精隊員らが 設営に入る

 

 

三笠は 会合の途中で席を外した、まあこのような細かい部分に自分がいてもつまらんし まあ それに昨夜 山本の前で泣いた事が 恥ずかしい事もあり、少しいづらい事もあって 「せっかく パラオに来たのだ、少し散歩をする」と言って一人で外に出た

由良が 誰かお伴をといったが、

「まあ 子供でもあるまいから 大丈夫だよ」と山本が止めた

 

ぶらぶらと 泊地内を歩く、南の島独特の匂いがした

泊地の簡易桟橋までくると 駆逐艦が数隻見える、陽炎、皐月、睦月、長波だ

遠くには 今出港したのか 秋月が見える

数名の妖精兵員が 気がついたのか 敬礼して挨拶してくれた、答礼しながら前を過ぎる

また とぼとぼと歩いていくと 工廠前に出た

工廠の桟橋前では 中破した金剛がいるが 何やら動きがある 回りに数隻の作業船が出ている 金剛の船底部分に何やら ホースのような物がいくつも繋がれていた

桟橋近くでは テントが立てられ、中をみれば こんごう殿やあかし殿の姿が見える、何かしてしているようだ、

 

「おはよう こんごう殿 あかし殿 何をしておる?」

 

あかしは 監視用のディスプレイから目を離すと、

「あっ おはようございます 三笠様」と元気に挨拶をしてきた

 

「これから 金剛お姉さまの艦体を 海上から持ち上げます」と答えるこんごう

 

「持ち上げるじゃと 金剛の排水量は 3万トンあるのじゃぞ」と驚く三笠

 

「はい このままだと 破孔の修理もできません、本来ならドック入りが必要ですが、パラオには 乾ドックがありませんから 浮きドックを使います」

 

「浮きドック? あかし殿 何処にも見えんが」

 

「はい 既に金剛さんの船底で待機してます 前線修復用の組立式浮きドックを持ち込みました、昨晩から組立て 先程完成しました」

 

三笠は桟橋から 金剛の船底を覗きこんだ すると海中から アクアラングを付けたひえいが 浮かび上がった

「あかし! 盤木の設置完了 各班も所定の位置についたわよ って 三笠様 おはようございます」と慌てるひえい

 

「おはよう ひえい殿 何をしておった」

 

「はい 金剛さんの船底で浮きドック用に盤木の設置作業の確認です」

 

テントの周囲では 金剛副長以下の乗員、パラオ工廠妖精、あかしの工廠作業隊員などか持ち場につき、作業の開始を待っていた

 

「では はじめます」

こんごうは 無線をとり、

「各作業船、排水作業開始、毎分50cmずつ上がる様に調整して」

すると 数隻いた作業船の上に設置されたコンプレッサーが動きだし、圧搾空気を浮きドックへ供給し始めた

 

「各作業船 そのまま作業続行して」とこんごうが無線で話す

 

「金剛 前後、左右傾斜角なし、よし浮上開始」

すると 金剛の喫水線がジワリジワリと下がり始め 艦が浮上し始めた

 

「あかし 傾斜大丈夫?」

 

監視用モニターを見ながら

「こんごうさん 問題あらへん そのまま上げて」とあかし

 

金剛の船体が ゆっくりと浮上し、浮きドックがようやく見えてきた

艦尾では スクリューや舵なども顔を出している、

 

「あかし、どう?」とこんごう

 

「今の所 スケジュール通り あと少しで完全浮上するよ」

 浮上開始から 10分程度で 浮きドックは完全浮上し、金剛の船体はその姿を海上にさらした

 

桟橋から 簡易式の通路が次々と渡され 金剛副長以下の兵員妖精が浮きドックへ乗り込んでいく、あかしの作業員や泊地の工廠妖精もそれに続く

金剛副長が メガホンで「各員 打ち合わせ通り 船体固定 かかれ!」と号令すると 金剛の艦上からいくつももやい紐が投げおろされ、浮きドックへ固定されていく

海上からは あかしの作業船が クレーンアームやロボットアームを使い 足場機材を浮きドックへ搬入を開始した

 

三笠は こんごう、あかしを伴って 破孔を見る為 作業用通路を通り、左舷側に回りこんだ

 

「手酷くやられたの」と めくれ上がった艦底を撫でる

そこには 2メートル近い 亀裂が走り、無数にひしゃげた金属の板、配管が散乱していた

 

こんごうは 三笠に対し

「申し訳ありません、私達がもう少し早く 行動を起こせばこんな事にはならなかったと思います」と謝ったが、三笠は

「まあ 済んだ事よ、金剛も無事なら問題あるまい」

「さて 当のこの艦の主は 何処へ行った?」

 

「金剛お姉さまなら 司令部へ “長官にお茶を出してくる”と出かけましたが」

 

「奴め、またサボりおったな、なあ金剛副長、どうじゃこのこんごう殿をこの艦の艦長に迎えるか? そちも楽ができるぞ」と笑いながら話した

 

「それは いいですね ぜひお願いしたいですな」と副長も笑って答えた

 

 

暫し 金剛を眺める三笠

「こんごう殿 この艦はな 英国と日本の絆の証じゃった 儂の艦がまだ現役であった頃 ようやく日本海軍は世界に通用する巡洋戦艦の建造を決めた しかしまだ国内ではとてもその技術がなかったのじゃ、儂の艦を作ってくれたビッカースに発注して この金剛が建造された、当時のビッカースの皆は 日本海海戦での儂の功績を称え、最高の船を作ってくれた、自国の艦を上回る性能の艦 有難いことじゃ 儂もこやつも英国生まれ、出来れば英国とは砲火を交えたくないものじゃ」

金剛を撫でながら

「儂も もう一度 あの海を自分の艦で走りたいもの 艦霊がある限り」

 

すると あかしは

「三笠様は ご自分の艦をご希望なのですか」

 

「そうじゃ あかし殿 しかし 儂の艦は今横須賀で 見世物状態 あれではとても戦えぬ、儂とて 海神の巫女 戦船の主じゃ、戦ってこそ生きる意味もある 儂は昨日のこんごう殿の戦いを見て 感じたのじゃよ 儂が今なすべき事を」

 

すると あかしが思わぬ事をいった

「戦艦 三笠建造できますよ、三笠様さえお覚悟を決めていただければ」

 

するとこんごうは

「あかし なんて事いうのよ まさかあんたあれ使う気⁉︎ そもそも艦霊降ろしの儀はどうするのよ 大巫女様は横須賀よ ここでは出来ないわ!」

 

すると

「こんごう殿 艦霊降ろしの儀は問題ない 儂は自分の力で艦霊を憑依させたのじゃ 姉に出来て儂に出来ぬはずはないぞ」

 

こんごうは 慌てて

「しかし 三笠様 もしもの事があれば」

 

三笠は慌てるこんごうを手で制し

「あかし殿 頼めるのじゃな ならば頼もう 儂の艦でもう一度 海へでるぞ」

 

あかしは きちんとした姿勢に直り

「あかし 持てる機能 全力で戦艦 三笠 建造致します」と敬礼した

 

そう言うと ポケットからタブレットを取り出し

「では 三笠様 第一関門 突破と行きましょう」といいながらタブレットを操作し始めた。

 

 

泊地司令部 2階会議室

三笠が退室してから 暫く経つ、先程 金剛が来て 紅茶を差し入れてくれた それを飲みながら 議題は 泊地周辺部の戦況分析へと移った

泊地提督から 最近の深海凄艦の活動に関する報告がなされた 特に後方輸送ルート遮断に関する考察が主な議題だ

山本から

「現在 マーシャル諸島方面に 深海凄艦の侵攻部隊が来ている、連日 トラックから航空部隊、艦隊をもって上陸を防いでいるが 我々が放棄した マロエラップあたりに小規模な基地があるのか 航空攻撃が頻発している 偵察を行っているが今一歩つかめていない 一気に攻めてこないのが不気味だ」

 

泊地提督が

「やはり こちらの後方輸送ルート破壊の陽動ではないでしょうか」

 

山本は 少し考え

「マーシャルで こじらせてトラックの燃料を消費させておきながら 頃合いを見て一気にくるか」

 

「本職はそう見ています、 トラックはやはり補給路が細いのが最大の欠点です」

 

すると自衛隊司令は

「そして 一気に 南シナ海へ侵入して パレンバレン油田輸送ルートの破壊ですか」

「ああ もうそうなると止めようがない トラックを諦めた時点で終わりだ」

 

泊地提督は

「しかし こう巧妙に攻められると 辛いです」

 

「それは やはり誰か入れ知恵をしていると考えるべきです 元々 深海凄艦は作戦が単調だったはずです、陽動などの連携した行動は苦手でした」と自衛隊司令

 

「米国も ハワイを人質に取られている 下手には動けんはずだ」と山本

 

「長官 米国はいわばヤマタノオロチのような存在です、市場主義という本体の上に複数の頭をもつ 非常に扱いにくい存在です、市場開拓の為には 自国民を危険にさらす事もいとわない資本主義という仮面をかぶる化け物です」

 

「やはり 米国が一枚かんでいるか」と山本

 

「長官 ハワイは人質といっても 島には 原住民と日本などの移民しか残っておりません、米国人はいち早く脱出したと聞いております」

 

「ああ泊地提督 今のところ 島には米国民は少数しか残っておらん、そう言う意味では人質としての価値は少ない、しかし 戦略的には価値のある地域だ」

 

「長官 それでは深海凄艦に ハワイの番人をさせているという事ではないでしょうか」と自衛隊司令

 

「方法は 良く分かりませんが、直接、間接的に接触をもっていると考えるべきです」

 

山本は 天井を眺めながら

「まずは 戦略上は これ以上の深海凄艦の西進出を防ぐ、その為にはマーシャル方面の安定化か、それにルソン、パラオ、トラックの輸送ルートの安全確保だな」

 

「まずは マーシャルのごたごたの解決か、マロエラップ付近には深海凄艦の艦隊が居る、放棄した航空基地が一番怪しいな まあ そっちはトラックで何とかする 泊地提督は自衛隊司令と 後方ルート確保を頼む、こうも潜水艦と軽空母艦隊が出てきてはたまらん」

 

「まあ 掃海については 自衛隊艦隊の協力とルソン警備各隊の協力があれば 何とかなりますが、問題は」

 

「なぜ この哨戒網の網に穴が出来たか だな」と山本

 

「はい 金剛雷撃の件も併せて 腑に落ちません」と泊地提督

 

「金剛さんたちは 偶然雷撃されたのではなく、待ち伏せされたという事ですね」と自衛隊司令

 

「ああ そう見るべきだな 雷撃前夜、不明な電波を探知している、複数の潜水艦に待ち伏せされた 追撃艦隊も事前にあの海域へ進出していた」と山本

 

「その件も 少し思い当たる所がある こっちで調べるから とにかく掃海業務を頼む」

 

「はい 分かりました」と泊地提督が返事をした

 

 

誰かが 階段をもの凄い勢いで登ってきた

「あの足音は 瑞鳳じゃないな」と泊地提督

 

すると もの凄い勢いでドアが開いた

髪を振り乱しながら 入ってきたのは 三笠であった

山本の前までくると 開口一番こう言い放った

 

 

「イソロク 中身は見ずともよい この書類に 黙って 署名せい!」

いいながら 数枚の書類を出した

 

 

山本は 直感的に感じた

「こいつが こうやってくる時は 何かとんでもないことをしでかした時だ」

以前は 二水戦を借りたいと言い出し、三日三晩 トラックの回りの深海凄艦の潜水艦部隊を追い回して蹴散らした

帰港した時 神通はけろっとし「いい訓練ができました」と言っていたが、不知火達は 「もう二度と勘弁してください!」といい 宇垣に泣きついたそうだ

 

山本は 自身の前に突き出された書類を見て 言葉を失った そこには

 

“護衛艦 三笠  艦番001 建造申請書” と書かれていた

 

「三笠 これはどういう意味だ?」

 

「儂は あかし殿の協力で もう一度 艦を建造し 海へ出る」

 

「自衛隊司令 そんな事が可能なのか?」と慌てる山本

 

「いずも どういう事だ」

 

「はい 今 あかしから申請書がこちらにも来ました プラントを使い あきづき型をベースにする見たいですね、まあ防空駆逐艦というより 駆逐艦隊旗艦という性格のようです」

 

「あいつめ 口をすべらせたな まったく」とあきれる自衛隊司令

 

「自衛隊司令 説明してほしいのだが」山本は困惑気味に聞いた

 

「我々の艦隊の各艦の船体は この時代の船体の建造方法と大きく異なり、短期間で船体を作る事ができます、まあ模型を作る要領ですね」

 

「模型だと?」

 

そうする内に あかしが 大型のアルミトランクをもって部屋へ入ってきた

「おっ 遅れました」

 

「遅いぞ あかし殿」

 

「みっ 三笠様が速すぎるんですよ」と息を切らせていた

 

自衛隊司令は 山本に対して

「では 簡単にご説明します 自分たちの時代、船舶建造は大きく2種類に分類されています」

 

「2種類?」

 

「はい 長官 この現在の技術の発展型のブロック工法を用いた船舶建造、これは既存技術にスケジュール管理法などを取り入れた物です、これ自体はさして目新しい物はありません 現在の技術を 磨けばいつかはたどり着けます」

 

「そして もう一つが “ナノマテリアル”を使った船体一体成型法です」

「“ナノマテリアル”を使った船体一体成型法?とは」

 

「まあ現物を見て説明しましょう あかし頼む」と自衛隊司令

 

そう言われると あかしは アルミトランクから 四角い機械を取り出した、大きさは新聞紙半分程度の四角い薄い箱だ、それをテーブルに置くと、四隅に棒状のアームをつけて

配線をセットした

そして ポケットから少し大きめのボルトとナットをとりだした

「では説明します 私達の艦隊の船体を構成しているのは 特殊記憶金属 通称“ナノマテリアル”と呼ばれる物です この金属の特徴は金属原子を人工的に制御する事で 任意の形状、固さ、属性を作り出す事ができます」

 

「そんな事が可能なのか?」

 

「では 実際に御覧頂きます、今回はこのボルトとナットを複製してみせます」

そう言うと あかしは ボルトとナットを機械の上に置いた

 

「では スキャン開始します」と言いながら 自身のタブレットを操作した

アームの下から 青白いレーザー光が出て ボルトとナットを取り囲んだ

「スキャン終了です」といい あかしは機械から ボルトとナットを取り出した

 

そして 

「では 形成開始します」といい 再度自身のタブレットを操作した すると

アームの下方から再度 青い光がでると 空中で光点を結び そこに先程のボルトとナットらしき外形が浮かびあがった、次第にその形をあらわにしてくるボルトとナット

形がハッキリと浮かびあがる

 

「それでは 最終工程の固着作業に入ります」というと 再度タブレットを操作すると

ボルトとナットが パチンっとショートしたような音をしながら 機械の上へ転げ落ちた

それを拾うと あかしは山本へ手渡し、

「長官 これで完成です」と にこやかに答えた

 

山本は それを手にとり 無意識のうちにボルトにナットをはめて回してみた 綺麗に回りながら はまっていくナット

「では この技術を使うのか 司令?」

 

「はい 長官 今回はこの小さい部品でしたが あかしにはこの数倍の規模の機材を製作する機械を搭載しています、今回の金剛さんの修理もこの技術を使い 部品の製作を行いますから短期間で修理が可能です」

 

「三笠は どの様にするのだ?」

 

「あかし どうする?」

そう司令に言われ あかしは持参した図面を広げた

「はい 今回は大型建造プラントを使い、船体のハル、甲板を一体形成で作ります、その後、機関部、艦橋部を個別で同時製作、搭載します」

 

「なに! 船体ハルと甲板部を一体成型だと!」驚く山本

 

「問題有りません こんごうさんやいずもさんもそうして製作しましたから ハルを製作する際に 内部の防水壁やその他の部分も同時に作りますから ハル自体なら1日で完成です」

 

「1日だと 信じられん」と驚く泊地提督

 

「私の船体ですら 数か月かかって ようやく形になったんですよ」と由良

 

いずもは にこやか

「まあ ちょっとした錬金術だと思ってください」

 

山本は

「では もしかして 君たちが弾薬の補給は要らないといったのは まさか」

 

「はい そうです、この技術があれば前線で弾薬等の製造ができます」

 

「それでは 前線で戦艦の大量生産が可能じゃ」と三笠

 

「しかし そうは問屋がなんとかでして 三笠様」

 

「どういう事じゃ いずも殿」

 

「このナノマテリアル 実は純度の問題があって 純度98%以上でないと活性化しません それ以下なら単なる銀砂なんです」

 

「なんじゃと! こんなに便利な物なのにか」

 

「はい 自分の次元では 使用に耐えるこのナノマテリアルは ベーリング海、日本海 ソロモン諸島の一部 オーストラリア海域、、そしてこのパラオ海域等数カ所で発見されています」

 

「それに もっと重要な事があります」

 

「重要な事?」

 

「はい 長官 ナノマテリアルの構造を維持する為の中心となるコアシステム この時代の艦霊石の霊力です、戦艦級の霊力がなければ船体の維持ができません」

 

「なるほどな」

 

山本は しばし右手の人差し指で テーブルを叩きながら

「自衛隊司令 まさか!」

 

「昨日も話ましたが、自分たちの次元では深海凄艦と接触し その後その技術を吸収しました、そうですこの技術は深海凄艦の艦体製作技術を拡張し整理したものです」

 

「では 奴らが巣を作るのは そのナノマテリアルが産出する地域なのか」

 

「はい 長官、奴らが気付けば いずれここパラオも目標にするでしょう」

 

言葉を失う 泊地提督と由良

「提督 由良さん 安心して下さい ようは、彼らを近づけなければいいのです、ここに近づけば手痛い目にあうと教えこめばいいだけですよ」と、いずもは明るくいった

 

「で 儂の船はどうなるのじゃ!」と怒る三笠

 

「もし これを東郷元帥が知ったら 俺たちはただでは済まんぞ」と諦め顔の山本

 

「ふん 当の本人は 今頃 高天原で お前の困った顔を見て笑っておるわ」

 

暫し考え 山本は

「由良 筆を」とだけ言った

 

硯の入る筆箱を差し出す由良

「長官 よろしいのですか?」

 

「こうなるのも すべて神の思し召し・・か」

と言いながら ゆっくりとした動作で 墨をとき、そしてしっかりと 申請書に

 

“日本海軍 連合艦隊司令長官 山本イソロク”と書いた

 

「イソロク 水雷戦隊 儂が預かる!」といい

 

三笠は それを受け取ると 振り返り 自衛隊司令へと差し出した

 

司令といずもは席を立ち 姿勢を正し、両手でそれを受け取り

「自衛隊艦隊 その持てる力をもって 戦艦 三笠建造致します」と受け取った

 

 

戦艦 三笠 復活の瞬間であった

 

 

 

 

こんごうは はるなと二人で泊地司令部に呼びだされていた

「あれから どうなったのかな」と思いながらはるなと二人 泊地提督執務室で鳳翔さん 瑞鳳さんと待っていた

あかしが 口をすべらせて“三笠建造できます!”なんていうから慌てたけど 司令なら許可しないわよね 多分・・・・

などと 考えていたが 暫く待って 帰ってきた泊地提督と由良さんの困惑した顔を見て

“やっぱり 淡い望みだったか”と諦めた なんかまた頭痛の種が増えたような気が

 

泊地提督は 公室に入ると 私の顔を見て

「済まんな こんごう君」とだけいった ああやっぱりか

 

泊地提督は 机に座ると 私達に

「さて 悩みの種が増えたが まあそれは置いておいて、午後からいずもさんの海域習熟航行に同乗させてもらう事になった、うちからは、鳳翔と瑞鳳 私と由良がいずもさんに乗る あとは 山本長官だ」

 

「あの 三笠様は?」と おそるおそる聞いてみたが

 

「あかし君と 装備の打ち合わせだそうだ」

 

「済みません 何かとんでもない事になって」と謝るが

 

「まあ 仕方ないさ、ご本人の希望だしね」と泊地提督

 

鳳翔、瑞鳳が不思議がる こんごうが 大体のいきさつを説明するが皆驚くばかりである

 

「すまんが いずもさんの直衛に うちから陽炎と長波を出したいんだが 面倒を見てもらえないかな」

 

「どのように」とこんごう

 

「陽炎は 問題ないのだが 長波は今まで内地の泊地勤務で大型空母の護衛経験が殆どない 艦隊行動は出来ても 対潜などは素人同然なんだ」

 

「本当ですか⁉︎」と慌てるこんごう

 

「ああ 本土ではまだ深海凄艦の潜水艦部隊の活動が少ないから 砲戦などを重点的に教育しているが どうも連携が苦手のようでな いい機会だと思うので同行させてみたい」

 

「で なぜ私に?」とこんごう

 

「陽炎が 二水戦に誘ったそうじゃないか? 陽炎がどうしたら“うん”と言ってもらえるかと相談してきたぞ まあそんな優秀な人を トラックに取られるのは御免だよと言っておいた」と笑って答えたが

 

はるなは

「こんごうは うちのエースです 間宮羊羹 1本で渡せるほど 安くは有りません!」と反論したが 泊地提督は まあまあとなだめた

 

こんごうは

「では 露払いを私が 右翼と左翼を 陽炎さん達にお願いします 装備は 対潜装備で、はるなは 単独で 対潜哨戒でいい?」

 

「うん それでお願い」

 

「では いずも副司令には 私から 陽炎さん達には 由良さんからご連絡お願いします」

 

「済まんが 宜しく頼む」

 

午後のパラオは暑かった

 

 

 

午後のいずもの護衛任務へ向けて 陽炎と長波は準備を進めていたが、陽炎はともかく長波は 不機嫌だった 昨日挨拶した時 いきなり怒られた上に 予想以上に皆 自衛隊艦隊と和気あいあいとしていたので 自分だけ外された気分であった

 

陽炎が心配して声を掛けた

「長波 ちゃんと爆雷積んだ? 間違ってドラム缶積むんじゃないわよ」

 

「だっ 大丈夫 自分で積み替えできるから!」と言いながらも どうにもおぼつかない

 

長波は ここパラオへ配属されてまだ半月、着任したばかりである、以前は呉鎮守府勤務であった 国内航路の警備が主たる任務で今まで本格的な戦闘経験がない

実は 本来なら最新鋭駆逐艦である夕雲型の4番艦として当初はトラックへ配属予定であったが 連合艦隊司令部のある参謀の意向で ここパラオで現場教育される事になっていた。トラックの指揮官クラスからは 連日 いつこちらへ配置換えできるのかと催促されていたが、このまま最前線へ放りこめば間違いなく 深海凄艦の標的にされてしまう、

陽炎は 先日 夕雲から貰った手紙を思い出していた、あまりのガキ大将ぶりに心配になった夕雲から “宜しくお願いします”と手紙をもらったのだ。

泊地提督からも 性能的に一番近く、また陽炎型の後継艦種である夕雲型であるので 指導を頼むと言われたが、昨晩のような事が度々ありほとほと手を焼いていた

どうしてああ夕雲型は 個性派揃いなの? やっぱり戦時建造の影響かな…

と 自分たちの事は 思いっきり棚にあげて

「怒れば反発するし、褒めればつけ上がるし どうしたもんかな?」と悩んでいた

「まっ ここは仕方ない 数をこなして慣れさせるしかないか」と思いながら自分も爆雷の点検を始めた

 

 

ヒトヨンマルマル 自衛隊艦隊 旗艦 いずもは こんごう はるな パラオ泊地艦隊 陽炎、長波を伴って 先日使用した演習海域より 北部を 25ノットで航行していた

今回の航行は 二つの目的があった 一つは艦載機の周辺地域の慣熟飛行、それと山本達にいずもを見てもらう事である

 

いずもの甲板上では 次々に F-35がデッキアップされ 順次発艦している

今回は カタパルトを使った通常発艦方式で 次々 発艦している

その後方には 同じくいずも艦載機 E-2Jが発艦の為 主翼を折りたたんで待機中だ

左舷側の上空には SH-60Kが不測の事態に備え 待機している

 

こんごうは 露払い役として 艦隊の先頭を航行していた、いずもの右舷側には 陽炎 左舷側には 長波 少し離れた所には はるなが航行している

こんごうの前方には こんごう搭載のSH-60Kが 5マイルほど前方で ディッピングソナーを下し 警戒していた

はるな いずもも 同じ搭載機をだして、警戒している

なぜ これほど警戒するのか

それは 前回金剛が雷撃された地点へ近づく航路である為である

 

陽炎は いずも越しに見える長波が気がかりであった しきりに双眼鏡で動きを見ていた

「あちゃ 彼奴 旗艦の動きについて行けてないな 赤黒調整 上手く出来てないのか?」

 

「艦長 多分 いずもさんの大きさに 惑わされているのでは?」

 

「やっぱりそう思う? さっきから位置を保つので 精一杯みたいね 多分 回りが見えてない」

 

長波は 先程から いずもを追い越したと思えば 急に後退して 遅れたりと 位置が固定できていない いずもの左舷側をウロウロするばかりである

 

遂に 陽炎が

「長波! 無理にいずもさんに合わせるんじゃない 相手は大型空母よ 相対位置をしっかりとって それを守るように 赤黒調整しなさい!」と怒鳴った

 

「解かってるよ 陽炎姉ちゃん でもこの空母が ちょこちょこ動くんだ!」と返答してきた

 

「駄目だ 長波 全然回りが見えてない」とぼやく陽炎

「艦長 大丈夫ですかね、肝心の対潜警戒」と陽炎副長が聞いてきたが

 

「まあ こんごうさん達がいるからいいとは思うけど これから先は 要注意よ」と気を引き締める陽炎

 

 

こんごうも ウイングにでて長波の動きを監視していた

「まあ 予想よりはいいわね、いずもの動きに なんとか合わせてる」

 

「陽炎さんは 流石ですね、相対位置に変化がありません」と副長

 

「そうでしょう だって 二水戦所属は伊達じゃないわ 神通さん直伝ですしね」

 

「しかし いずも副司令も 意地悪ですね、微妙に速度とコースを変化させてますね」

 

「副長 まあ なんだかんだ言いながら 副司令も世話好きですからね」とこんごうは言いながら 双眼鏡で前方海域を眺めた

 

いずもの飛行隊司令部では いずもが鳳翔、瑞鳳などに 説明をしていた

 

鳳翔は 次々と発艦していく F-35をみて

「なんて素早い 発艦なんでしょう あの“カタパルト”という装置、あの大型機をあっという間に 打ち出せる能力、これがあれば私の艦でももっと大型の艦載機が搭載できるかも、それに あの“ヘリコプター”という機体 垂直に離陸していきましたね

陸軍のカ式観測機のような機体ですが、あれなら 私も直ぐに搭載できるのでは?」などと興味津々であった

瑞鳳は とにかく最新鋭のジェット機に驚いていた

「なんて上昇力! 速度も速い 80年も経つと 飛行機ってあんなに変わるの!」

しかし 鳳翔も瑞鳳も F-35の次にカタパルトにセットされた機体をみて 安心した

「80年後でも プロペラ機もちゃんとあるのね でもあの大きな背中に背負ったお皿はなに?」

 

するといずもは

「あの機体は 艦隊防空体制の要 早期警戒機と言います まあ空飛ぶ電探基地と言うべきものですよ あの円盤は電探のアンテナですよ 電探の特性上 水平線の向こう側や 島などの障害物の後は 見えにくいのですが、あの機体に搭載された電探で上空から監視する事で 死角を無くしています 対水上 対空の1000近い目標を探知できて 40以上の攻撃目標の誘導が可能な優れた機体ですよ」

 

すると山本が

「具体的には どの様に使うのだね」

 

「通常の警戒行動では 艦隊自体の探知圏域は 周囲600km程度ですが、あの機体をその外周部に飛行させることで、500kmほど探知圏域を拡充できます、また上空から飛行中の機体の管制も可能ですので 航空隊の誘導や帰還の指示なども可能です 最大の特徴はあの機体で探知した各種の情報は即座に この艦やこんごう達に通知されます。具体的には あの機体には 攻撃誘導士官が搭乗しており、前線で各部隊に対して 細かな指示が可能ですまたその情報を この艦の戦闘指揮所で指揮管理する事で より広域に戦場を把握できます」

 

「長官 何度も申し上げますが 戦闘は“先に見つけた方が勝ち”という原則は80年経っても変わりないものです、ただその見つけ方が進化しただけです」

 

「凄まじい 指揮能力だね」と感心する山本

 

「まあ 変な言い方ですが、80年後 世界中に張り巡らされた情報通信網を使えば 東京の海軍省の会議室で、お茶を飲みながら 作戦士官が最前線のトラックの戦闘を見ながら 指揮を執る事も可能になりました」

 

すると 山本は

「世界は 狭くなったという事かね」

 

「はい 長官 しかしながら その場所にいって実際に戦うのは 強き意思をもった者である事には 変わりはないのです」

 

「80年経っても 我々の業はそうやすやすとは 変わらんという事か」

 

「残念ながら」と いずもは前方を航行するこんごうをみた

 

いずもは 山本にそう答えながら 同席する飛行隊司令妖精に

「このあとのスケジュールは?」

 

「はい 副司令 F-35の各小隊毎 周囲慣熟飛行の後 3回のタッチアンドゴーを行い、その後 フルストップです、E―2Jは時間いっぱい上空監視です」

 

「最初の小隊は いつ頃 帰ってくるの?」

 

飛行隊司令妖精は レーダー画面を確認し

「間もなく 10マイル イーストです」と答えた

 

いずもは 山本や鳳翔達を 見張り所へ案内した

そこには 緑色の飛行服を着て、無線機を片手に 双眼鏡で帰投した機体を監視する飛行隊飛行班長妖精がいた いずも達に気がつくと敬礼して挨拶した

「どう 班長?」といずもが聞くと

 

「間もなく 最初の小隊の訓練がはじまります」

 

鳳翔が

「あの機体が着艦するのですか?」

 

「着艦の訓練ですね、一旦着艦したら即座に離艦します」

 

「では あの斜め甲板を使うのですね 楽しみです」

 

上空では 地形慣熟飛行を終了した最初の小隊の3機のF-35が着艦コースに乗るためにいずもの回りを周回する、編隊を解いて 3機 縦 一列に並んで 飛んでいた

最初の1機目が ゆっくりと左旋回をしながら着艦コースに入ってきた

小刻みに 機体を揺らしながら時速300km近い速度で進入してくるF-35

そして 斜め甲板に接地した瞬間に 轟音を立て再度 上昇していった

そして 次の機体も 同じように甲板に接地した瞬間に再度離艦していった

「いずもさん この機体 前回は 真っ直ぐ着艦していましたが 普通に着艦もできるのですね」

 

「はい鳳翔さん あの機体は 垂直離陸、垂直着陸の他に通常の機体と同じように運用する事もできます」

 

「いずもさん! いま“垂直離陸”といいませんでしたか?」と驚く鳳翔

「はい 鳳翔さん この機体は垂直離着陸が可能な万能機ですよ、1機で制空、対地、対艦、偵察が可能な優秀な機体です」

 

「凄い能力ですね」と鳳翔

 

「ただ 操縦する妖精隊員は大変ですよ 色々と覚える事が多くて」と笑っていた

 

 

突然 横にいた飛行班長が

「頭 上げすぎるな!」と無線で怒鳴った

よく見ると 3番機がやや機首を上げて着艦しようとしていた

 

その様子をみる山本

「いつの時代も 操縦士を養成するのは容易ではないという事だな いずも君」

 

「はい 長官 いくら自動化が進んだとは言え、やはりすべてを自動で行える程にはまだ遠いです」

 

各小隊は タッチアンドゴーを繰り返し スケジュールを消化していった

最後は 各機 着艦し 順次素早く艦内へ収容されていった

着艦と収容を同時に行う事で、素早く次に備える各員の動きをみて 鳳翔は隊員の動きの良さに圧倒されていた

 

 

艦橋では 自衛隊司令と泊地提督、そして由良が艦隊全体の動きを見ていた

由良は どうにも長波の動きが気になるようで先程からずっと 双眼鏡で監視している

「長波 どうにかついてきていますけど 大丈夫でしょうか? 提督」

 

「こればかりは 数をこなすしかないよ、同一艦種ばかりで教練しているから 中々 こつがつかめないのだろう、とにかく慣れさせることだ これが出来なければ トラックの大和や赤城の護衛なんぞ 出来ん話だからな」

「自衛隊司令 済まない 長波の為に こんな無理をお願いして」

 

「いえ 長波さんにもはやく慣れてもらわないと、いずも一人では脇があまいですからね」といったそばから

 

「司令 だれの脇が甘いのですか?」と背後から 突かれた

振り返ると いずもが山本や鳳翔達をつれて帰ってきていた

 

「おっ 早かったな」という司令

 

「あまり変な事 言わないでいただけますか 司令」

 

「はは」と笑って誤魔化すので精一杯だった

 

「自衛隊司令 素晴らしいな いずも君は」

 

「ありがとうございます」

 

「艦の性能もさることながら 空母の運用自体も大変組織的で 参考になったよ もしトラックに来る事があれば 赤城や加賀達にも見せて頂きたいものだ」

 

「まあ 機会があれば」などと話をしていたその時である

 

 

「艦橋 CIC はるな 艦種不明音源探知! 方位200 距離 6000」と報告してきた

 

「間もなく はるなスワロー01 該当地域へ進出します」

はるなのSH-60Kが 不明音を探知した海域へ急行している

 

「はるな いずもです、 不明音照合できましたか?」

 

「副司令 まだ特定できていません、曳航パッシブソナーだけで探しています。 少し温度境界層があるようです」

 

「はるな まだ 距離があるわ、しっかりと探知して 仕留めなさい 私の機体も直ぐ応援に行くから」

 

「はい 副司令!」

 

「由良さん 陽炎さんと長波さんにも 対潜警戒 厳にするように伝えて下さい」

といずもは 由良に頼んだ

 

由良は 携帯式の無線機をいずもから借りて 陽炎と長波に 対潜警戒を厳とするように

連絡したのだが

 

「副長 潜水艦どこ!」と慌てる長波

 

「まだ 発見されてません! 不明音源だけです」

 

「どの辺にいるんだよ!」とどなる長波

 

「あの航空機のあたりじゃないですかね」と 遠方でSH-60Kがホバリングするあたりを指した

 

「よし いってみよう、長波様に続け 蹴散らすぞ!」といいながら

 

「とぉぉりかぁじ」と号令し、艦を回頭させた

 

由良は慌てた

「てっ 提督! 長波 艦隊から離脱します!」

 

「どうした! 由良!」と慌てて聞き直す泊地提督

 

「分かりません! 急に回頭して あの航空機の方向へ向ってます!」といいヘリコプターを指さした

 

「とにかく 呼び戻せ! このままだと はるなさんと交叉するぞ!」 

 

状況を見ながら いずもは

「CIC 戦術士官! 長波が警戒海域へ入ります、こんごうと はるなに 警報を!」

 

「戦術士官です! 長波 はるなと交叉します! はるな回避させます」

 

はるな艦橋では 副長が大声で

「右舷見張り員! 長波の位置 確認しろ!」

 

「右舷 3時方向より急速回頭してます 本艦へ交叉コース!」

 

「航海長! 警告汽笛!」 汽笛が単音で 急速に5回鳴らされた

 

「艦橋! はるなです 回避して!」と はるながCICから指示をだした

 

「くそ! こっちは 曳航ソナー曳いているのに! “おもぉぉかぁじ 機関 強速!」

はるなの船体が左へ傾き、急速に右舷へ回頭していく!

その前方を 急速回頭してきた 長波が横切る! その距離 200m弱

「ふう 交わしたか!」と安堵する副長

 

「進路 もど~せ! いずもに合わせろ! 全くどうなってるんだ!」と怒鳴る副長

 

由良は長波に

「長波 戻りなさい! 勝手に 離れてはだめです!」と言うと

 

「由良さん 長波が潜水艦 蹴散らしてきます!」といいだした

 

横から 陽炎が

「長波! なに勝手な事してるの! はるなさんの聴音の邪魔するんじゃない!」

 

すると長波は

「陽炎姉ちゃん 長波の活躍見てて!」と それきり無線に出なくなった

 

陽炎は

「あの馬鹿ガキ大将!」と無線のマイクを投げつけた

 

はるなの艦載機 SH-60Kでは 機長である機上戦術士官が 搭載されているディッピングソナーを下し、探知を開始していた、当初は磁気探査装置(MAD)を空中曳航して この付近だと あたりをつけていた 単純に探知するだけならMADでいいのだが、はるな経由で音紋照合する必要があった、まかり間違って 日本海軍のイ号や米国のガトー級などを撃沈すれば大問題だ 慎重に相手の動きを探っていた

 

不意に 操縦士から

「機長 今日は釣れませんね?」

 

「済まん もう少し我慢してくれ さっきMADに反応があった 沈没船かもしれんがここは 我慢比べだ!」

 

ふと 水上艦用開口レーダー画面を見ると 1隻艦艇が近づいてきている

「操縦士 近づく船舶はなんだ!」

 

「機長! 駆逐艦がこちらへ 急速接近してきます!」と副操縦士が報告してきたのと同時に

 

「はるなスワロー01 いずもCIC! 長波が警戒海域へ侵入する 気をつけろ!」

 

「いずもCIC! こちらは今 聴音中だ 近づけるな!」

「はるなスワロー01 こちらからも 近づくなと警告しているが 聞いてない!」

 

機上戦術士官は 焦りだした 徐々に長波の機関音がデッピングソナーに入感し始めた

「馬鹿野郎! これじゃ全然判別できん!」とコンソールを叩いた

 

長波は 海上で空中停止して 糸のような物を下している航空機を眺めていた

「へ~ 空中で止まる飛行機なんて初めてみた まあいいや あの下あたりにいるのか!」

 

「艦長 いいんですか? 由良さん、陽炎さん怒ってますよ」と困惑する副長

 

「大丈夫 長波が潜水艦蹴散らせば 皆認めてくれるから」と自信満々に答える

 

「後部甲板! 爆雷投下用意 深度30!」と突然 長波が命令した

 

「艦長 いきなり投下するのですか⁉︎ すこし機関落として 聴音しては⁉︎」

 

「いいって そこにいるのが分かっていれば、後は爆雷の雨あられで仕留めれば!」

 

「よう~し あの飛行機の回りを ぐるっと一周して爆雷投下するぞ」と長波は張りきっていた

 

はるな艦載機の機長は切れる寸前だった

ようやく 潜水艦のしっぽを掴み掛けた所へ いきなり警戒海域へ侵入してきたかと思えば、今後は当機を中心に周囲をグルグルと回りだした、長波の推進音で完全に探知海域の音響データがぐちゃぐちゃにされてしまった

「あの馬鹿駆逐艦! ヘルファイア積んでたら ぶち込んでやる所だ!」と怒る機長

 

「どうしますか 機長!」と操縦士が聞いて来た

 

「駄目だ 一旦離脱して もう一度 MADで探知しなお・・・」と言いかけた時

 

「機長! 駆逐艦爆雷投下始めました!」と操縦士が叫んだ

 

「離脱しろ! 巻き込まれるぞ!」機長が叫ぶ

ソナーケーブルを垂らしたまま 急上昇し 機体を捻り離脱するSH-60K 

 

直後に背後で 数本の水柱が立った!

「馬鹿野郎! 殺す気か!」戦術士官はヘッドセットをコンソールに投げつけた

 

いずも艦橋では 由良が何度も長波を呼び出していたが返事がない

「提督 だめです 返事がありません」

 

「長波 何を始める気だ」

 

暫くすると 突然 水柱が数本立て続けに立ちはじめた

「お〜 派手にやってますね」と自衛隊司令

 

「はるな いずもです 不明音源は?」とはるなを呼び出した

 

「はるなです。 済みません 完全にロストしました 」

 

「仕方ないですね、これだけ海中をかき回されては、 各スワロー隊にもう一度 MADで探知させなさい」

 

「はい 副司令!」

 

「こんごう 状況は把握できていますか?」

 

「はい リンクシステムで確認しています」

 

「不明艦が深海凄艦なら この状況を利用して仕掛けてきます、警戒を厳にしなさい」

 

すると 山本は

「済まんな自衛隊司令、いずも君 余計に状況を悪くしたようで」と謝ってきたが、

 

「ご心配には及びませんよ 山本長官、こんごう達ならちゃんと対応してくれますから」と平然といずもは答えた

 

はるなは 自身のCICで各SH-60Kに対して、担当空域を割り振り 再度磁気探知を開始した

「ロストする直前の位置から考えて そう遠くにはいっていないはずです、周辺地域を重点的に探しなさい」

 

「砲雷長 どう思う?」

 

「位置的に見れば 一番危ないのは こんごうさんですね」

 

はるなは 戦術ディスプレイの情報を見ながら

「もしかして こんごう 誘ってる?」

 

「多分そうですね、ロストした場所から考えると 本艦やいずもさんより こんごうさんが一番危険なのでは?」

 

「そう思うわ 潜水艦からすれば 露払いのこんごうの足を止めれば 艦隊の行き足が落ちる、そこに2射目を浴びせれば いずも副司令も狙える」

 

「ソナー 奴ら必ず仕掛けてくるわよ こんごうが被害担当艦をしてくれるからしっかり探知しなさい!」

 

「はい 艦長!」と元気にソナー妖精が答えた

 

こんごうは ややいずもから離れて 単調なコースをとっていた

「副長 引っかかると思う?」

 

「これで 食いついてくれないと 困りますな」と副長

 

「一応 構えておこうかしら!」とこんごうは言うと

「副長 対魚雷戦用意して、無誘導だからデコイは要らない 足だけで躱してみせるから」

副長は直ぐに 艦内放送をかけ 対魚雷戦準備にはいった

 

暫く そのまま直線コースを航行していたが

「艦橋! CIC 高速推進音 聴知! 数6 接触まで 2分!」

 

「CICデータ 回して!」

 

艦長席に併設してある戦術ディスプレイに 雷跡予想進路が表示された

「皆 行くわよ!」と声を掛けた!

 

すかさず副長が

「機関 第5戦速! ダッシュ!」

急速に機関音があがる、

 

こんごうは 落ち着いて

「左舷から 扇状に6線か! まあ少しは考えたみたいね」

 

「おもぉぉかぁじ!  雷跡と並行コース取って!」とこんごうが命じた

35ノット以上の高速で 右舷に回頭するこんごうの船体

 

「ウオッチ! 見えてる⁉︎」とこんごうが 叫ぶ

 

「右舷 2線です」、「左舷 1線確認しました」

左右の見張り員から 雷跡の報告が入る

ディスプレイの情報と素早く照合する 右舷がそのままのコースで躱せる

 

左舷は 右舷通過後に回頭か!

「間もなく 通過! 総員衝撃備え!」と副長が放送で流すと  頭に防弾ヘルメットを被った見張り員は手で耳を押さえた

 

こんごうも 艦長席に座り直し構えた

「右舷 あと10秒!」

 

刻々と 魚雷が通過する時間が迫る、

「あと5秒 4、3、2 1・・・・ 右舷 雷跡 2線通過!」と見張員が叫んだ

すると こんごうは即座に

 

「おもぉぉかぁじ 5!」といい 左舷側の魚雷の回避に入った

 

「左舷 5秒!」 左舷側の見張り員が叫ぶ

高速で右舷側に傾くこんごうの船体

 

「左舷 雷跡通過! 継続 雷跡なし! 躱しました!」と見張り員

 

「CIC 砲雷長 他は?」とこんごう

 

「全弾 躱しました! 周囲 推進音ありません」

ほっと一安心した こんごう達

「機関 第3戦速 航海長 いずもに合流するわよ」

 

「はい 艦長!」と航海長が返答し 操舵手に合流進路を指図した

 

はるなCIC

「ソナー 掴んだ?」

 

「掴みました! 先程の位置から1000程 入りこまれています」

 

「砲雷長 やれる?」とはるな

 

「艦長 ダメです、長波さんが近すぎです、ヒトフタもアスロックもダメです!」

 

いずも艦橋

「いけないわね、長波さんが 近すぎて攻撃できないみたいです、由良さん 再度長波さんに 危険だから離れるように言って下さい」

 

「はい いずもさん!」 すると由良は再度無線を取り直して

 

「長波 直ぐにその海域を離れなさい! これは命令です! これからはるなさんが対潜攻撃を始めます! 直ぐに離れなさい!」

すると 長波は何を勘違いしたのか 自分に攻撃命令が出たと思いこみ 残りの爆雷を投下し始めた

 

「長波 止めなさい! いま直ぐ止めなさい!!」と由良が怒鳴るが 全然聞いてないようだ

 

すると自衛隊司令は

「いずも 戻ろうか これ以上しても混乱するだけだ」

 

「そっ そうですね」と呆れるいずも

 

「済まないね 司令 いずも君」と申し訳なさそうな山本と泊地提督

 

由良は長波に再度無線で艦隊集結を命じた

今度は素直に合流してきた

「まあ 無線は聞こえていたみたいですね司令」

 

「ああ あれは手がかかるぞ」と司令

 

 

はるなは自身のCICの艦長席で 頭を抱え深くため息をついた

一旦ロストした 不明艦を 再度 こんごうがおとりになる事で誘いだす所までは上手くいったのに またしても彼女の勝手な行動で すべてが水の泡と消えた

いや そもそも最初にロストしたのは 彼女が警戒海域へ勝手に入ってきた事から始まった

「ソナー 先程の音源解析出来次第 ライブラリーへ登録して 次は必ず仕留めます」

そう言うと ぐったりしながら 艦橋へ移動した

 

艦隊は結局 こんごうを先頭に 長波の代わりにはるなが いずもの左舷の警戒に付き

長波は殿として 夕焼けに染まるパラオ泊地に帰投した

 

 

 

長波は 簡易桟橋に自分の艦を係留すると 司令部へ歩きだした

桟橋の端には 陽炎と後には はるなとこんごうが待っていた

長波を見つけると 陽炎はゆっくりと長波に近づいた 右手を握りしめて

 

陽炎を見つけた長波は

「陽炎姉ちゃん 長波様の活躍みてくれた⁉︎」と胸を張っていたが

 

「長波!!!」と怒鳴る陽炎の右手が 長波の顔へ振り下ろされる前に

陽炎の後にいた はるなが前に進み出て

長波の頬を 右手で張り倒した

よろめき 倒れる長波

 

「なっ なにしやがる!」と 頬を手で押さえる長波

 

すると はるなは冷めた眼で

「貴方は 自身の身勝手な行動で 艦隊全体で行っていた対潜活動を 台無しにしました、貴方の無差別な爆雷攻撃で 聴音活動はできずじまい、その後こんごうがおとりになって 再度 不明艦を探知したのにも関わらず 命令を無視し爆雷攻撃を仕掛け 最終的に不明艦を取り逃がしました、貴方はこの意味が分かりますか!」

 

すると長波は

「なんだい そっちの攻撃がのろまなだけじゃない!」

 

それを聞いた 陽炎が

「長波!! あんた!」と前へ出ようとしたが、はるなが手で制した

 

「今日 捕り逃がした潜水艦は 次回はもっと賢くなって襲ってきます、そして襲われるのは 私達ではなく 近海の漁船や貨物船です、この意味を考えなさい! 理解出来ないのなら 二度と艦に乗って出ない事ね、次は貴方が沈められる番よ」

そう言うと はるなは 振り返り こんごうと陽炎を伴って司令部へ向った

 

 

長波は

「なんだい 偉そうに」と言いながら 舌を出してアッカンベーとして見せた

「ふん そんなに言うなら 長波様の実力見せてやる」といい 自分の艦に戻って行った

 

 

泊地司令部では 事の顛末を聞いた 三笠が

「済まぬな 自衛隊司令 内地での教育が今一歩 不足しとるようだ」と謝ってきたが

 

「まあ 三笠様 仕方ないですよ、これは経験です、今後彼女が経験を積んで自ら納得しないと 押し付けてもどうにもならんでしょう」と自衛隊司令

 

すると 陽炎が

「しかし 次があればいいですが」

 

「陽炎?」と泊地提督

 

陽炎は姿勢を正して

「確かに 駆逐艦級は 他の艦種に比べて 性格のキツイ子が多いのは事実です、不知火などもそうですが、あそこまでなると実戦では危険です」

 

「無謀すぎるか?」

 

「はい 長官 こう言ってはなんですが 勇気と無謀は別物です 長波は それを履き違えています 絶対的に不利な状況下でも 無謀な攻撃はせず技術をもって対処する それが出来なければ駆逐艦は務まりません」

 

すると山本は

「実は 長波を最初に見た宇垣もそれを心配してな それでここに預けたのだが」

 

「それで 当の長波はどうした」と泊地提督

 

「はい はるなさんにきつく注意され 今は自分の艦へ戻りました 明日にでも司令部へ出頭させ 反省させます」と由良

 

はるなは

「申し訳ありません 出過ぎた真似を致しました」と丁重に謝ったが

 

陽炎が

「はるなさんが やってなければ 私が ぶんなぐって 海に叩きこんでたわ」

 

それを聞いたこんごうは

“ああ 私も何回 この人に海に叩き込まれた事か!”とその時の事を思い出していたが

 

不意に

「こんごうさん どうしました?」と陽炎に聞かれ

「いっ いえ何でも有りません」と慌てて答えた

 

山本は

「しかし こんごう君の雷撃回避運動は 素晴らしかったな、何か特別な装置でもあるのかい?」

 

するとこんごうは

「確かに ソナーの性能はこの時代の物の数段上ですが それ以外は機動力だけです」

 

「ほう それは素晴らしいな、どんな教練をしたのだい」

 

「まあ それは ご想像におまかせします 長官」と笑顔で答えた

まさか横に立つ その本人に訓練の度に “酸素魚雷で追いかけ回されました” なんて言えません

 

「まあ この件は 明日にでもこちらで対応しておきます 陽炎頼むぞ」と泊地提督が言うと 陽炎は渋々

「頑張ります」とだけ答えた

 

そのまま こんごう達は解散となり はるなと二人 自分たちの艦へ戻っていった

日は沈み 夕闇が迫っていた

 

 

泊地が寝静まる頃、1隻の駆逐艦が 静かに湾を離れた

目的地は今日 潜水艦を取り逃がした海域だ

 

「艦長 大丈夫ですか? 勝手に 出港なんかして」と副長から言われたが

 

「ふん あんな奴らの言う事なんか 聞いてられるか 最新鋭艦の長波様の実力 見せてやる」と全く聞いてない

 

副長以下の妖精兵員も 長波本人が行くと言えば 行かざるを得ない 彼らにとって長波は 召喚主である。従うしかないのだ

艦は 目的海域へ近づきつつあった、月明かりのまぶしい夜だった

月明かりに照らされる海面を 双眼鏡で見ながら、必死に潜水艦を探した

「聴音 まだ聞こえない?」と長波がせっついてきたが

 

「まだ 感有りません」と聴音妖精が返事をしてきた

 

「どこかにいるはず 絶対 見つけたら探信儀で位置を確定して 突撃だ!」と息巻いていた

 

静かに 海面から突き出る潜望鏡

深海凄艦 カ級の艦長は 冷静に周囲を見た

昼間 大型空母と重巡2隻、駆逐艦2隻を見つけ、上手く雷撃ポイントについた

慎重に海流を使いながら、位置についた しかし突然向かってきた駆逐艦が無差別に爆雷攻撃し 海底が荒らされた瞬間に 空母群の先頭の重巡へ向けて雷撃したが 上手く交わされたようだ、その後また駆逐艦が再度爆雷を見当違いのところへ投げ込んだおかげで 無事 身を隠す事ができた

 

 数日前に戦艦を雷撃したと僚艦から連絡があったが、その僚艦とも今は連絡が取れない、おまけに補給を担当するハズの通商破壊艦隊も合流場所へ来なかった

あと半日 粘って獲物がなければ巣に帰ろうと思っていたが、どうやら残り物には何とかで 獲物が向こうからやってきた

あの艦影は 昼間 頭上に無差別に爆雷を落とした駆逐艦のようだ

 

「バカナヤツダ カイヒウンドウモセズ マッスグクル」

 

カ級は 静かに潜望鏡を下し、無音潜航しながらゆっくりとその身を 海中深く隠した

 

 

「くそっ 全然見えない」といいながら 長波は月明かりに照らされる海面を見ていた

時折、海面が反射しているが 潜望鏡と区別がつかない

 

「聴音 まだ見つからないの⁉︎」と怒鳴るが、

 

「艦長! まだです」とあっけない返事であった

段々と 焦りだけが増していた

 

カ級は そのままじっと海中で身を潜めていた

先程 潜望鏡で確認した駆逐艦の位置から 予想進路を割り出し

ソナーも 音源を確認している 

 

「ソウダ ソノママコイ シンカイヘシズメテヤル」といい

6本の必中の矢を 海中から投げ出した

 

 

長波は 艦橋で苛立ちながら叫んでいた

「いったい どこにいるのよ! なぜ見つからないの!」

 

すると 暫く黙っていた副長が

「長波艦長 申し上げます 当艦は確かに 夕雲型4番艦 最新鋭の艦ではありますが、他の駆逐艦と比べて 決定的に不足している物があります!」

 

「なっ なにが不足してるっていうの!」と怒鳴り返す長波

 

「経験です」

 

「経験?」

 

「はい 艦長 我々は今まで国内勤務でした しかしここパラオは 後方拠点とはいえ前線です、今までとは訳が違います、不用意な行動は慎むべきです!」

 

すると長波は

「副長まで 長波を馬鹿にするの!」

 

「いえ そうは申しません、しかし これ以上当海域に留まる事は危険です」

 

長波は 艦長席にふて腐れて座り

「ここまで来て 手ぶらで帰れるかって! 絶対見つけて 沈めてやるんだから」

 

「しかし 艦長! 我々はその手掛かりすらつかめていません!」

 

「ぐっ」と詰まる長波

 

「艦長 帰りましょう!」と言う副長

 

 

 

その時である 突然艦橋据え付けの無線機から

「長波さん! 左舷 8時から雷跡 6! 機関強速 進路150へ 死にたくなければ急ぎなさい!」

 

「えっ なに⁉︎」と呆然とする長波

 

咄嗟に副長は

「機関 強速! おもぉぉかぁじ! 進路150!」と号令した

機関音が上がり、ゆっくりとではあるが 回頭を始める長波

 

「副長! 勝手に 指示しないで!」と長波は言ったが

 

「艦長 あの声はこんごうさんです」

 

「こんごうさん!?」

 

副長は無線を取ると

「こんごうさん 長波副長です 指示を!」

 

「そのまま 進路150 最大戦速で走りなさい!右舷雷跡2 左舷雷跡4よ! 先に右舷側の雷跡が通過 その後 取り舵で左舷側の雷跡を躱します 合図したら取り舵 10よ!」

 

副長は 

「雷跡 確認しろ! 急げ!」

 

「右舷 雷跡 フタ確認! 躱せます!」と右舷の見張り妖精がどなった

 

「左舷 見えません!」

 

すると 副長は 落ち着いて

「必ずある 探せ!」

 

左舷見張り妖精は 慎重に海面を見た 一瞬 海面が光った

「雷跡 5時 2線! 交叉します!」

 

長波は焦って

「早く 躱して!」

 

しかし 副長は

「まだだ! 合図があるまで 直進だ!」

 

「副長 このままだと 当たる!」と怒鳴る長波

 

「艦長 こんごうさんは 雷跡が見えています! いまどっちに切っても逃げられません! ここは耐えます!」

 

「見えてるって? どういう事よ⁉︎」

 

副長は

「昼間 こんごうさんが雷撃を躱したのを覚えていますか⁉︎ あれは偶然ではありません 見えてないと 出来ない芸当です!」

 

突然 左舷見張り妖精が

「雷跡 1線 右舷側に回ります!」

 

右舷方向にすり抜ける雷跡!

「えっ!」と驚く 長波

 

すると 無線から

「今よ 取り舵!10」とこんごうの声がした

 

すかさず 副長が

「とぉぉりかぁじ 10! 急げ!」

操舵手が 操舵輪を さっと操作し、急速に回頭する 駆逐艦 長波!

 

直後 左舷を魚雷が通過した

「左舷 雷跡ヒト 通過! 後続見えません!」

 

暫し沈黙が艦橋を包んだ

ふと無線から

「長波! 陽炎よ、泊地へ帰投しなさい!」

 

長波は 

「はい」とだけ答え俯いたままだった

 

 

はるなCIC

「CIC 艦橋です 長波 回避成功です、目標周囲 船舶なし」

はるなは 静かに 椅子に座り直し

「では攻撃に移ります」

 

すかさず 砲雷長が

「はい 艦長! 対潜戦闘よ〜い」と号令した

 

はるなはCICの艦長席で 静かに瞑目し、そっと呼吸を整え つぶやいた

 

「エンゲージ」

 

はるなの脳裏に 海中に息を殺して潜む カ級が浮かび上がる

 

はるなは静かに

「砲雷長 使用弾頭 アスロック ヒト発、 諸元入力後 直ちに発射、私の大事な人達に 危害を加える不届き者を 深海へ沈めなさい」

 

アスロックを担当する戦術士官から

「アスロック 諸元入力完了、VLSハッチ 開放!」

 

すると砲雷長は すかさず

「アスロック ヒト発 撃~て!」

CICに アスロックの発射の轟音が響いた

 

 

長波は はるか前方の海上から 打ちあがる火の玉を見た

少し上昇すると、頭上を越えていき 消えていった

しばらくして 後方に大きな水柱が立った

「後方で 爆音確認しました 自衛隊艦隊が 潜水艦を撃沈した模様です」と見張り妖精が報告してきたが、もうそんな事はどうでもよかった 

 

不意に副長が

「艦長 これが自分たちに不足している“経験”です」

 

そっと顔を上げる長波

 

副長は 長波を見ながら、

「こんごうさんは 自分たちをこの暗闇の中 誘導しながら冷静でした、はるなさんもです、 自分たちはこの状況の中 冷静でしたか?」

 

「副長?」

 

長波副長は 黙ったまま 少し明るくなった水平線をみた

 

 

 

こんごう艦橋

「艦橋 CICです はるな 深海凄艦 カ級撃沈を確認! 周囲 他の反応ありません」

 

「CIC こんごうです 泊地まで警戒態勢を維持、 長波は帰ってきてる?」

 

「はい 帰投コースをとってます」

 

こんごうは 艦橋で 陽炎と前方の海域を眺めていた

最初に 長波が泊地を出て行った事に気がついたのは 当直のひえいのCICだった

即座に いずもへ連絡、いずもから泊地司令部で残業していた由良さんを捕まえて確認した。

陽炎が慌てて 追いかけようとしたが 艦のボイラーの火を落としていたので出港できず、急遽 こんごうに乗艦して 後をはるなと追いかけてきた

はるなは 海域へ来ると曳航ソナーを流し情報収集していたが その時 長波を狙って 静かに移動するカ級を探知した

しかし 直後 カ級は長波に 6本の魚雷を発射、即座にこんごうは はるなのリンクデータから 予想コースを割り出し、長波を回避誘導する事ができた

 

「こんごうさん、また迷惑かけちゃったね」と陽炎は謝ったが

 

「いえ 皆無事ならそれでいいですよ」と笑顔で答えた

 

「でも凄い艦ね、速力、機動力 探知、攻撃力 ますます二水戦に欲しいわね」

 

「陽炎さん、私の授業料は高いですよ」と笑って答えた

 

「で その高い授業料を教え込んだ教官は どんな人なの?」と真顔で聞いてきた

 

すると こんごうは

「それはですね、80年後の“あ な た” ですよ 陽炎主席教官」と敬礼して答えた

 

「えっ 私?」と驚く陽炎

 

「ええ 私も ひえいも はるなも きりしまも もう一つの世界の貴方の教え子です」

そして こんごうは 艦娘士官候補生時代の 猛訓練の様子を話して聞かせた

 

「私が 鬼教官ね~」と言いながら腕を組む陽炎

「意外といいかも “陽炎教官”って響き」

 

「どうしてですか 陽炎さん」

 

「こんごうさん 長波にとって私は 先輩ではなく“姉”のような存在だったから 甘えがあった。それは私もそうだった 大切な陽炎改の駆逐艦 でもそれでは今回のような事が繰り返される、私は彼女達の姉ではなく鬼教官にならなけば ダメってことね」

 

「では 私も陽炎さんの事は これから教官と呼ばせて頂きます」

 

「でも こんごうさんは別にそう呼ばなくても」と慌てる陽炎

 

「確かに でも次元が違っても 陽炎さんは陽炎教官です 私達の技術は 今の貴方の体験が元になっています、それにずっと教官って言って来た方ですし」

 

「じゃ それでいいか、 ではこれからも宜しく 優秀な教え子さん」と言いながら右手を差し出して来た

 

「はい 宜しくお願いします 陽炎教官」と握手をしながら 二人で大笑いした

 

 

 

朝日が水平線に登る頃 長波はパラオ泊地へ帰ってきた

前日の夕方と同じように 桟橋に艦体をもやい綱で係留し、桟橋を歩いて司令部へ向った

桟橋の端には 前日と同じように 陽炎、はるな 少し後ろにこんごうが待っていた

長波は 陽炎たちの前へ来ると、じっとして動けなくなってしまった

 

今度も絶対殴られると思い じっと眼を閉じた

誰かが 近づいてくる気配を感じる、“殴られる”と思った瞬間 急に抱きしめられた

「無事で良かった」と声がした

そっと目を開けると はるなさんが抱いてくれていた

そして 両肩を優しくつかんで 私の眼を見ながら

 

「勝手は はるなが許しません! 勇気と無謀は違います 心して下さい」

 

それを聞いた瞬間 気が抜けた

目から涙が出てきた そして自然に

「ごめんなさい」とだけ答えるのが精一杯だった

 

 

後にいた陽炎が 前に出て

「長波 あなた今から私の事は “教官”と呼びなさい」

 

「陽炎姉ちゃん?」

 

陽炎は 腕を組みながら 長波を睨み

「いい長波 私は貴方の事を 宇垣さんや夕雲達から預かったの、もし私の事を “姉ちゃん”と呼びたければ、一人前の水雷屋になりなさい! 私が貴方を認めて一人前だと判断したら “姉ちゃん”と呼ばせてあげる、それまでは“教官” わかった長波⁉︎」

 

長波は暫くして

「はい 陽炎ね・・ 陽炎教官」と小さく返事をした

 

「長波 聞こえないわ」

 

すると長波は大きな声で

「はい 陽炎教官!」と返事をした

 

「長波 私の授業料は高いわよ こんごうさんやはるなさんも 私の事は教官と呼ぶからね」と こんごう達をみた

すると こんごうとはるなは揃って

「はい 陽炎主席教官!」と元気に返事をした

 

「では 長波 司令部通達をいいます 本日10時に 提督執務室へ出頭しなさい、今回の件の処分を提督から言い渡します それまで自室で謹慎しなさい」

 

「はい 陽炎教官」

そう言うと 陽炎たちは司令部へ向った

長波は 敬礼したまま その後ろ姿を見送った

 

 

 

 

横須賀鎮守府 水上機用滑走水面域 早朝

1機の二式大艇が その滑走水面に 着水してきた

搭乗しているのは 乗員以外では 一人の海軍軍人のみ、昨日トラックを飛び立ち、途中サイパンで機体を乗り継ぎ、18時間近く飛び続けた

機体は そのまま水面を滑走しようやく停止した、迎えの内火艇に乗り換え 目立たないように桟橋に着く、白い海軍二種軍装をきたその将校は 歩いて横須賀鎮守府のある部屋へ直行し その部屋の前にくると もう一度身なりを整え、ドアをノックした

「どうぞ」と中から女性の声がする

そっとドアを開けて中へ入る

その部屋の主である 横須賀鎮守府 提督秘書艦 高雄の前まで来ると 一礼して

「トラック泊地 連合艦隊司令部 連絡将校です」とだけ告げ 左手に手錠で繋いだ鞄を差し出した

高雄は 秘書艦室の金庫から手錠を解錠する鍵を取り出し、手から手錠を外した

連絡将校は

「では 確かに」とそれだけ言うと 退室しようとしたが

 

「あっ 連絡将校さん」といい高雄が 引き留めた そして

 

「遠路ご苦労さまでした、横須賀でゆっくりして行ってください」と机の中から封筒を出し 将校へ渡した

 

「小官は 故郷へ帰省の為に 横須賀へ来ただけですから」といい退室して行った

 

高雄は そのまま隣室に通じるドアを開けた

隣室の主である 横須賀鎮守府 提督は執務机で本を読んでいた

「提督 トラックからです」

 

「誰の連絡将校だ?」

 

「宇垣参謀長付きの連絡将校さんでした」

 

「ほう おやじさんか」

そう言うと 机の中の小物入れから 鞄の解錠用のカギを出した

 

「提督 なぜ重要書類用のカギがそんな所から出てくるのですか?」と睨む高雄

 

「高雄 こんな所にあるから誰も気にしないんだよ」

 

「それは 単に 片づけが下手なだけでは」と突っ込まれているが

それを全く気にせず提督は鞄を解錠した

 

中から 厳重に油紙で防水処理された書類を2冊取り出し 静かにそれを開き、読みだした

 

高雄は その間に お茶を入れて、提督の机に置いた

鎮守府提督は 1冊目を 読み終わると それを高雄に渡し 高雄はそれを受け取り 静かに表紙を見た

そこには“戦艦 金剛 パラオ北部海域 深海凄艦 雷撃戦報告書”と記載され 上部には最重要機密文書と朱色で記載されていた

高雄は

「読んでも?」と言うと、鎮守府提督は

「ああ 構わんよ」といい 自らは2冊目の書類に目を通しだした

その表紙には“パラオ泊地艦隊 戦艦金剛救出作戦報告書”と記載されており これも最重要機密文書と朱色で記載されていた

静かに頁をめくる音だけが執務室に響く

 

高雄は 1冊目を読み終わると

「提督 これはどういう事でしょうか? 軍令部の発表とはまるっきり違いますが」

 

「ああ 最初は金剛 お得意の悪戯かと思ったが、こちらも面白いぞ」ともう1冊を渡した、それを読む高雄

 

「パラオか、 なあ高雄 新婚旅行はパラオにお前の艦でいくか?」

すると高雄は 顔を赤くし

「提督 ふざけないでください」と怒るが

 

「高雄 大巫女様のところへ行く」といい 2冊の報告書を抱え席を立った

 

 

 

横須賀鎮守府内 海軍神社境内

その神社の宮司である大巫女は 朝の祝詞を上げ終わると、社務所で物思いにふけっていた 何やら予感がしたのだ

自らも 口寄せの巫女として艦霊を憑依させて以来、幾度なく感じる事はあったがここ数日は落ち着かぬ日々を過ごしていた

社務所の引き戸を開ける音がした ふと見ると 鎮守府提督と高雄であった

「おはよう 提督、高雄、朝からなんじゃ」と問いただすと

 

「おはようございます 大巫女様 トラックのおやじからです」と 2冊の報告書を渡した

 

「宇垣か」と言いなら 大巫女はそれを受け取ると 二人を社務所奥の自室へ 招いた

 

自室に入ると上座に座る、提督も対するように 正座して座った

受け取った報告書を ゆっくりと開き、一文字づつ確かめるように読んでいた

静かに ページを捲る それをじっと待つ鎮守府提督

大巫女はそれを読み終わると 巫女服の袖に腕を通しながら 暫し瞑目し、

「パラオには 誰が?」

 

「はい 翌日に長官と三笠様が 現地の情報員によると途中、深海凄艦の手荒い歓迎があったようですが 無傷で到着されています」

 

「ほう では三笠達は この艦隊に助けられたか?」

 

「はい 詳細は不明ですが」鎮守府提督は答えた

「ふっ あ奴は 昔から悪運だけは強いからの」と答え、 横にある机に向かい直り

文をしたため始めた それを書き終わると、引き出しから 菊の文様の入った漆黒の文入れを取り出した それを見た 高雄はポケットから 白い手袋を取り出し 手にはめた

 

大巫女は 文をその文入れに収め 高雄に

「高雄 これを 二重橋へ」とだけ伝えた

高雄は それを受け取ると 大切に運びながら退室した

残る鎮守府提督

 

 

鎮守府提督に向かい直り、大巫女は再び瞑目しながら

「提督、 今 武蔵と陸奥は?」

 

「はい、武蔵は 呉です、陸奥は対馬警備の為 佐世保です」

 

「近いうちに ここに呼び寄せるかもしれん、動けるよう各鎮守府へ 根回しを」

 

「大巫女様 では⁉︎」

 

「ああ “時”は動きだした その時が来れば 武蔵、陸奥、刺し違えても お守りせねばならぬ」

 

「しかし、大巫女様 本当に“大掃除”ができるのでしょうか?」

 

「提督 やらねば我らには未来はないぞ」と静かに答えた

 

「はい その時は 自分も高雄と共にお伴致します」

 

「くれぐれも、 大本営には気取られるでないぞ」

 

「はい 大巫女様」

 

「しかし パラオか、三笠がまた だだをこねて無ければ 良いがの」

 

「パラオの提督は 自分の海兵同期ですから 何とかするでしょう」

 

「だと良いがの提督、なんせ東郷も手を焼いた三笠だからの」と諦め顔の大巫女であった

 

横須賀の朝は 静かに流れていった

 

 

パラオ泊地 司令部 提督執務室前

長波は 指定された時間より 少し早く執務室前に来た

自室から ここへ来るまでの間 色々と考えたが、結局 何も思いつかない

今回の事は 命令を無視した自分の責任である事は明白である 弁解の余地はない

多分 良くて 艦長任務はく奪、営倉入り、最悪は解体かなと思いながらドアの前に立った 「ええい ここはグダグダ考えても仕方ない 長波様 突撃だ!」と ドアをノックした

中から 由良の声で 「どうぞ」と入室許可が出た

そっとドアを開けて 中へ入る

一礼して 顔を上げる

執務机には 泊地提督、向かって左には由良さん、陽炎さん、金剛さん、鳳翔さん

右手には 自衛隊艦隊の司令、いずもさん、こんごうさんに はるなさんがいる

ソファーには 三笠様と山本長官が 紅茶を飲んでいた

そこに居る 人達の威圧感で 押しつぶされそうだ 視点が合わない

震える声で

「長波 出頭しました」というのが精一杯だった

 

提督は静かに

「長波 今回の件についてだが、何か弁解する事は?」

 

「ありません 自分のせいです」と答える

 

提督は 私を見て

「では 処分を言い渡す 駆逐艦 長波艦長は 艦長職務を剥奪、1週間の営倉入りとする」

 

予想した通りだった もう艦に乗って海にでる事はない

自然と 涙がでて来た、今まで当たり前の様に海に出て思いっきり走れたのに もうそれが出来ない 今になって はるなさんの言葉の意味を理解した気がする

 

 

暫し 提督は私を見ていたが 不意に

「と 言いたい所だが、当泊地は 駆逐艦不足だ、最新鋭の駆逐艦を遊ばせておく余裕なぞない、特に近日中に近海の深海凄艦 潜水艦狩りを 自衛隊のはるなさんの協力で始める。 はるなさんから 優秀な最新鋭駆逐艦を 護衛につけてほしいと申し出があった」

 

提督は一呼吸おいて

「駆逐艦 長波 自衛隊艦隊はるなさんの護衛任務を命ずる 陽炎の指導の下 しっかりたのむぞ」

 

「えっ」と呆然とした

 

三笠様が 静かに

「長波よ 誰にでも失敗はある、だが生き残る為には 今日の失敗を明日の糧にする事じゃぞ」

 

そして 山本長官が

「長波 今回の処分は保留する、お前の成長をもって償え」

 

「長波 質問は」と提督に聞かれた

「あっ ありません」と答えるのがやっとだった

 

すると 陽炎が

「長波 私は “厳しい”らしいから 覚悟しなさい」

 

「はい 陽炎ね・・ 陽炎教官!」と大きな声で返事をした

 

すると はるなさんが前まできて

「よろしくね 長波さん」と右手を出してきた

おそるおそる右手で握手した、温かい優しい手だった

 

 

退室する 長波や陽炎を見送り 執務室に残る泊地提督

由良が そっと 書類を出した

「昨夜の 夜間哨戒任務表です」と言われ 黙って署名した

そこには 夜間哨戒 担当艦 長波と 記載されていた

「明日への一歩になればいいがな」とつぶやいた

 

 

 

 

これは 動乱の日々のほんの一ページに過ぎなかった

 

 

 

 




こんにちは スカルルーキーです
分岐点 こんごうの物語を読んで頂き ありがとうございます

人は 失敗するから人なんだと 思う今日この頃です

次回は 再生です

誤字脱字を 随時修正しております

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