分岐点 こんごうの物語   作:スカルルーキー

13 / 81
南の海に とどろく轟音

からめ合う 二つの航跡 激しいぶつかる闘志




12.公開演習

「えっ 演習ですか?」

 

 

 

こんごうは散々だった

泊地司令部へ 挨拶に行ったはずなのに、山本長官の前で恥を搔き、三笠様の身体検査まで受けて ようやく解放され 自分の艦へ戻ってきた

 

その後こんごうは ひえい達と艦隊コミュニケーションシステムを使い、先日の戦闘の反省会をしていた

 

「では 先日の戦闘のまとめをします」

 

「まず 対空戦闘ですけど、結果的にはOKです しかし、最終防衛ラインを突破した機体が2機いました、 これは本来 はるなの担当機でしたが、はるなは対潜活動を継続しながらの対空戦闘となりました、たしかに相手は 80年前のレシプロ機 低速だという思い込みがあったと思います、ここに盲点というか慢心がありました 今回は射撃開始位置が 1万5千と近い事もあって はるなの追従が間に合わないという結果になり 直上まで侵攻を許した ここまでいい?」

 

「ごめん こんごう 私がしっかりしてればもっといい結果が出せたのに」しょげるはるな

 

「はるな 責めてる訳じゃないからしっかりしなさい」

「いい はるな そんな時は 遠慮せずに きりしまに間に合わないって 言わなきゃだめよ きりしまも 状況をしっかりみてね」

 

「こんごう そこは私も悪かったと思います 注意します」ときりしま

 

「次に 対潜ですけど これは問題なく 100点かな はるな頑張って追いかけたかいがあったね」

 

「うん こんごう ありがと」

 

「次に 追撃艦隊迎撃の件だけど… 、ねえ ひえい 何で戦闘詳報 半分しか出来てないの?」

 

ひえいは 眼前で手を合わせた

「ごめん こんごう 戦闘に夢中になり過ぎて 戦術データレコーダーのスイッチ入れて無かった」

 

「ああ もういい! 私のデータで辻褄合わせとくから!」

こんごうは “今日は徹夜かな”と内心ぼやいた

 

画面を切り替え ひえいのCICを呼び出した

「ひえいCIC 砲雷長いる?」

 

「はい ひえい砲雷長です こんごう総括」

 

すると こんごうは 表情を厳しくして こう言い放った

「貴方 士官は 上官であるひえいに対し、戦闘手順の順守のリコメンドを怠りました、今後 このような事があれば ひえい艦長と合わせて 10kmの罰走を検討します 以後気をつけなさい! 戦闘に 呑まれてはダメよ! 呑まれるのは酒だけにしなさい」

「はい こんごう総括 以後CIC要員 注意いたします」とCIC要員一同で敬礼して画面が切り替わった

 

 

きりしまは その画面を見ながら

「でた! 久々の金剛力士!」と内心思った

こんごうは 普段は 明るく非常に優しい 雰囲気も良くてどちらかと言えば 社交的だ

しかし、厳しい所もある 仲間の安全に関する事などは特に厳しい

付いたあだ名は「金剛力士」

寺院の入口の門の左右に立つ金剛力士像、阿形像は怒りの表情を顕わにし、吽形像は怒りを内に秘めた表情を表す。 金剛力士は 寺院内に仏敵が入り込むことを防ぐ守護神。

まさに艦隊の敵を防ぐ イージス艦に相応しいあだ名だ

本人も 気にいっているようで、その名に恥じないようにしたいと言っていた

 

こんごうは 画面を戻し 皆にこう語った

「いい 皆 今回の水上戦闘で解ったことは 駆逐艦や空母は 私達の127mmでも通用するけど、やはりリ級重巡には 初弾で致命傷を与えられてないわ、ひえいが精密射撃で 艦橋と兵装を重点に叩いた事 12式が行き足を止めた事、特に砲塔回りでは徹甲榴弾の効果が大きいみたいです、今後の研究課題としましょう」

 

「ねえ こんごう 今後 戦艦クラスが出てきたらどうするのよ」とひえい

 

「一番 効果的なのが 90式を4発位 叩き込む、出来れば相手の射程内には入りたくないわね アイオワ級の40.6㎝なんか当たれば1発で轟沈よ」

 

「これだけは肝に銘じて 確かに私達の装備は80年後の装備で 優れているわ、でも それは80年後の戦闘用に作られた兵装で この時代の戦闘用じゃないわ、私達が優れているのは 足の速さと 情報力よ、相手に不用意に近づかず、いかに優位な立場で 一撃を加えるか、これが肝よ 発見されて囲まれたら数と威力で押し負ける」

 

「臆病者と言われてもいいからチームとして最後まで生き延びる これが最優先よ」

 

「分かった こんごう」とひえい

 

「うん がんばる」とはるな

 

「しっかり しようね」ときりしま

 

 

不意にはるなが

「ねえ こんごう 私達 帰れないのかな? 元の時代に」

 

「何 寂しくなった?」

 

「そうでもないけど、 少し寂しいかな」とはるな

そうだ、この子は 今でも“おばあちゃん子”で 航海中も毎日 メールを欠かした事がなかった

 

「正直いえば 私も分からないとしか 答えようがないわ きりしま 確か昔 三笠様が書いた論文読んだわよね」

 

「ええ 確かに読んだけど もし仮に次元の波動を意図的に接触させるとなると 地球クラスの力場を発生させる力がいるのでは と推測してたわ」

 

「そんなエンジンなんて この時代にはないぞ」とひえい

 

「でも いずも副司令のあれなら?」ときりしま

 

「それは 無理ね あのエンジンはコントロールが難しい、実際副司令以外に使いこなせてないわ」とこんごう

 

「それにね 仮にもう一度 ゲートが開いたとしてもその先に繋がっているのが 私達の元の世界とは限らないわ、また違う世界の可能性もある」

「ねえ はるな 寂しいのは分かるわ でも 一人でこの世界に来た訳じゃない 司令達を入れれば 7人で来たのよ、皆で乗り越えよう、後80年すれば元の世界と同じかもよ」と笑ってこんごうは言った

 

「うん ありがとう」

 

「まあそれに はるな 2000kmも 東に行けば、現役時代の榛名様もいるし、比叡様、霧島様だっているわよ」

 

「そっ そうね こんごう」

 

「きっと近いうちに 会えるから楽しみにしてようよ」とこんごう

 

「じゃ 今日の反省会はこれで 終わり ひえいとはるなは修理急いでね では解散」

 

「「「解散します!」」」と皆から返事が返って ディスプレイが消えた

 

 

そっと 副長が コーヒーを出してくれた

「ありがとう 副長」と言いながら カップを受け取り 一口飲んだ

 

「はるな艦長 大丈夫ですかね?」

 

「副長連絡会では なにか?」

 

「いえ 今の所はなにも 気をつけておくように はるな副長に言っときます」

 

「ええ お願い」とコーヒーを飲みながら ふと外を見ると 一隻の内火艇が近づいて来た、何だろうと思いながら双眼鏡で見ると

 

「えっ お姉さま!」

そこには 手を振りながら近づいてくる金剛の姿があった

 

「副長 金剛お姉さまが こっちに来るわ! 何か 聞いてる?」

 

「いえ 何も、多分 暇だから遊びにきたのでは?」

 

「ちょっと もうすぐそこじゃないの 副長 なんで言ってくれないのよ!」

 

「いや だって泊地内部ですし、金剛艦長じゃないですか」

 

「あ~ 幹部はすぐ甲板に集合して!」

 

慌てて 艦橋から 副長と飛び出していった

甲板のラッタル横には 既に先任伍長と衛兵下士官が待っていた

副長以下の士官が並び 内火艇が接舷するのを待った

 

金剛は 内火艇が接舷するとラッタルに飛び乗り、元気に駆け上がっていく、昨日の今頃は死にかけたとは思えないほど元気である

甲板には 青い制服を着た 妖精隊員さんが待ち構え、衛兵が号笛を吹いて 金剛を迎えた

登りきると こんごうと 数名の士官妖精が 金剛を迎えた

「お姉さま 護衛艦こんごうへようこそ」とこんごう

 

他の妖精も敬礼で 挨拶した 

「戦艦 金剛艦長! 副長妖精です 妖精一同 金剛艦長をお迎えできて光栄です」

 

「皆さん 私が金剛デース」と元気に答えた

 

「お姉さま 入渠中のはずでは?」

 

「ドクターから 出渠のOKが出ましたから 遊びにキマシタ」

 

「それは OKが出たのではなくて、OKを出させたの間違いでは?」

 

「もう こんごうちゃんたら」と言いながら さっさと中へ入っていった

完全にマイペースである

 

「副長 御免 艦橋業務お願い」と頼み 金剛の後を 追いかけた

 

金剛は 中に入り 改めて驚いた

中は新品の様にピカピカである 床も綺麗に磨いてあって埃一つない

 

「中は新品の様デスネ」

 

「はい お姉さま 3年前に竣工したばかりの最新鋭艦ですから」

 

こんごうは ちらりと時計を見た お昼前であったが

「お姉さま お昼はもう食べましたか?」

 

「いえ まだデス 良く考えれば昨日からちゃんと食事をしていませんネ」

 

「では 私でよければ お作りしますよ」

 

「OH! ではオネガイシマース」と上機嫌で答える金剛

 

「では お手軽にパスタで行きましょう」とこんごう

二人そろって 科員食堂へ行き 糧食班長にお願いして調理場を貸してもらい

手際よく、パスタを茹でながら 玉ねぎとベーコン、ほうれん草を切り、軽く炒めて、ゆで上がったパスタと合わせて、塩、コショウで味付けして 出来上がりです

あと 班長がサラダをつけてくれました

ここでは 邪魔になるので、二人揃って士官室へ向い 二人向かいあって座りました

 

「立派な士官室デス」とお姉さまは驚いていますが いずもさんよりは小さいです

 

「では 頂きましょう」と言いながら 二人で食べ始めた

 

「美味しいデス こんごうちゃんは料理も上手デスネ」と褒めて頂いた

 

「ありがとうございます」

 

「本土はいいデスが、トラックやパラオでは 日本食が殆どで 中々パスタは食べられません」とお姉さま

 

「昨夜 皐月艦長をお迎えして夕食をご一緒しましたが 同じような事を言っていましたね」

 

「でも ワインがないのが寂しいデスネ」

 

「お姉さま 当艦内は規則で禁酒ですよ」

 

「そうなのですか、金剛には酒保に行けば お酒もアリマス」

 

「お姉さま お酒は飲むうちはいいですが、呑まれると大変な事になりますよ」

 

「高雄事件デスカ?」と少し赤くなりながら答えた

 

「お姉さま あれは我が金剛家の暗黒史ですから 触れないでおきましょう」

 

「そっ そうですね」と金剛

やっぱり こちらの戦艦金剛も やってしまったか!とこんごうは思った

 

何の気ないおしゃべりをしながら 食事を終わらせ ふと壁面の写真を見た金剛

三人の女性が映る写真を見た

 

「これは 私デスネ」と尋ねた

 

「はい もう一つの次元の戦艦 金剛です 右後ろが私のお母さんです」

 

「私も 黒いドレスを着ると少し雰囲気が落ち着きますね」と金剛

 

「はい 聞いた所によると、友人から薦められたと言っていますが お母さんも私も思い当

たる人がいないですけど」

 

「この子が 私の子供なのデスネ」

 

「はい もう一つの次元の金剛の子です 今は防衛省統合幕僚監部 運用部 艦娘運用課 っていう 長い名前の部署の課長です まあ今の時代の三笠様の様なお仕事です」

 

「そっ そんなに偉いのデスカ!」

 

「はい 三笠様が直接ご指導されて 今の部署をお作りになりました お母さんで2代目です 前任者は 長門様です」

 

「頑張りマシタネ」と嬉しそうに話す金剛

 

「私は誰と ケッコンカッコカリできるのかしら」と金剛

 

「お姉さま それは秘密ですよ 聞いてしまったら 女(艦娘)の楽しみが無くなりますよ」とこんごうは 笑って答えた

 

「お姉さま お茶にしませんか?」と言いながらテーブル横から ティーセットを取り出した、金剛は それを見た瞬間に驚いた

 

「こんごうちゃん それは マイセンではナイデスカ!」

 

「はい そうです お姉さま」

真っ白なカップソーサーに 独特の青いデザインの文様 美しい曲線美のティーカップ

間違いない マイセンだ

 

「おばあさま、戦艦金剛が 私が竣工した際に 海外の武官の方などをお迎えした時などに恥ずかしくないようにと 贈ってくださいました」

こんごうは カップとソーサーを準備すると

 

「済みません、佐世保を出る時 これしか手に入らなくて」

 ダージリンの茶葉の箱を出してきた

 

「それは ダージリンデスネ 今インド洋は深海凄艦の巣です こんな良い茶葉は手にハイリマセン」

 

こんごうは カップとポットにお湯を注ぎ、まず温める、そして冷めないうちにそれを捨て、手早く茶葉をポットにいて お湯を注ぎ入れた、部屋の中に 紅茶の香りが 漂い始める、2分ほど待って、茶こしでこしながら ゆっくりとカップに注ぎ入れた

 

「いい香りデス、色もGoodデスネ」と金剛

 

「ありがとうございます まだまだですけど」と言いなら 自分もそっと飲んでみた

うん まあまあかな もう少し蒸した方がいいかな などと考えていると

 

「こんごうちゃん達は トラックには来ないのデスカ?」

 

「多分 その話を 今されていると思います、暫くはここパラオでしょう」

 

「なぜデス 比叡達も向こうにいるのデスよ」

 

「今 私達がトラックへ行けば 混乱が起こります、それを避ける為と もうひとつ」

 

「もうひとつ?」

 

「もし 本土の大本営に知れれば 武力で私達を接収にくる可能性があります」

 

「大本営が!」驚く金剛

 

「どこの国家にも属さない謎の艦隊 私達は なりこそ重巡ですが攻撃力は 大和級です いずも副司令なんか 1隻で米国の太平洋艦隊とわたりあえるかもしれません」

 

「そんなに 強いのデスカ!」

 

「そんな強大な力をもった艦隊です、多分 長官自ら来られたのは、大本営にグダグダ言わせない為でしょう」

 

「きちんと 地ならしをして皆に紹介する これが一番ですよ、それまでは私達は影の存在ですね」とこんごうは明るく答えた

 

「でも 比叡達には紹介したいデス 特に霧島は喜びマス!」

 

「どうしてですか?」

 

「霧島は 妹が欲しいといつも言ってマス!」と笑いながら金剛は答えた

 

「妹ですか?」と笑顔で答えた

士官室にこんごう達の笑い声が響くなか 突然 テーブルの上のタブレットが鳴った

 

「失礼します お姉さま 副司令から呼び出しです」といいながらタブレットを操作

 

投影ディスプレイにいずもが映し出された

「あら こんごうさん 休憩中でしたか?」

 

「はい 副司令 丁度お客様が来艦中です」と言うと こんごうの横に 金剛がひょいと顔を出した

 

「ハーイ いずも 昨日はサンキュウネ」と金剛は明るく声を出した

 

「あら 金剛さん 御加減は宜しいのですか?」

 

「もう Goodデス! これもこんごうちゃんのおかげデス!」と笑顔で答えた

 

「では 護衛艦 こんごう 司令通達を行います 本日 ヒトゴウマルマルに 指定海域で 山本連合艦隊司令長官並びに戦艦 三笠大将に対して 対水上、対空戦闘の公開演習を行います」

 

「えっ 演習ですか?」慌てるこんごう

 

「まあ 簡単なデモよ 指定時間までに 演習海域に進出しなさい 詳細は今 そちらへ送ったから」すると タブレットに指令書が届いた

 

「はい 副司令 受領致しました ヒトゴウマルマルまでに 演習海域に進出します」

 

「あっ それと 観戦武官として 三笠大将がそちらへ行くから」

 

「えっ 三笠様ですか!」

 

「そろそろ そちらへ着く頃じゃないかしら じゃ あとよろしく」とさっさと通信を切った

 

こんごうは 慌てて艦内電話をとり、艦橋の副長を呼び出した

「副長! 内火艇がこちらへ来てない?」

 

「艦長 1隻向かって来てますね あれは 三笠様では?」

 

「ヒトゴウマルマルに 公開演習をする事になったわ、観戦武官として三笠様が乗艦されます、至急艦内放送と 幹部はお出迎えの用意を!」

艦内に “戦艦三笠大将 来艦” と放送が入る、幹部妖精が一斉に甲板に集合した

こんごうは 戦艦金剛と 甲板へ向った

手空きの隊員妖精が左舷甲板に集合し 整列した

幹部妖精が ラッタル横に集合する、こんごうも並んだ

 

三笠は 遠くからその艦影を眺めていた

確かに 今の艦影からみれば チグハグに見える、しかし軍艦とは 無駄を許さない艦だ

形にはそれぞれ意味がある、あの形に意味があるのだろう などと考えていると 左舷甲板に 妖精が集合し登舷しているのが分かる、急な訪艦だが、歓迎してくれるようだな

ゆっくりと左舷 ラッタル横まで内火艇がくると号笛がなり 一斉に敬礼して挨拶してきた、我が海軍の伝統は守られているぞと感じながら、一歩一歩ラッタルを登っていった

ラッタルを登り切った先には 護衛艦こんごう 幹部妖精 そしてなぜか戦艦金剛がいた

 

こんごうは敬礼しながら

「連合艦隊 戦艦 三笠大将 護衛艦 こんごうへようこそ」

やはり出来た女子だ

横に並ぶ参謀とおぼしき妖精も一斉に敬礼し

「戦艦三笠様 副長妖精以下 一同 お迎えできて感激です」

 

「うむ 三笠じゃ 今日はよろしく頼むぞ」と答礼して答えた

 

「で、なぜお主がおる? 金剛!」

 

「出渠のOKが出ましたから 遊びにキマシタ」と金剛

 

「どうせ お主の事じゃ 枕でも身代わりにして抜けてきたな!」

 

「さあ」としらばっくれる金剛

 

「まあ良い こんごう殿 行くぞ」と歩きだす三笠

 

「副長 三笠様に艦内説明してきます、その後 士官室で演習打ち合わせよ、ヒトヨンマルマルには抜錨するから、お願い」

 

「はい 艦長 準備致します」といい 副長は幹部を集め 演習準備に取り掛かった

 

こんごうは まず 三笠を艦首方向へ案内した

まず 艦首に装備されている 単装砲の前まできた

「三笠様 ご説明いたします これが我が艦の主砲 オート・メラーラ製の54口径127mm単装速射砲です、砲自体の設計はイタリアです、弾頭の重量はおよそ30kg まあ金剛お姉さまの45口径35.6cmに比べれば 可愛いですが、特徴はその速射力と精度です、毎分45発発射できます、射程は30kmです」

 

「なぬ 45発! まるで高射砲並み それに射程30kmとは 同等の駆逐艦の倍ではないか」

 

「はい この砲は主に対空、対水上の戦闘で使用します、対地用の使用も可能ですが、さすがに 戦艦のように面制圧には向きません」

彼女は ポケットからヘッドセットを取り出して、CICを呼び出した

 

「CIC 砲雷長 主砲テスト稼働させて」

すると 主砲が 360度回転、砲身を素早く上下に可動させた

 

「なっ なんと素早い動きじゃ 中の砲手は大丈夫か?」

 

「はい 三笠様 中は完全自動化されております、装填、発射、排莢まで完全自動です

 弾種も数種類選べ 射撃中も自由に変更できるよう改良されています 自動目標追尾装置がついていますので一度 狙った獲物は外しません」

 

そこに金剛が

「三笠様 凄かったデス! 深海凄艦の艦載機がこれでバタバタと撃ち落とされマシタ!」

 

三笠は 思った、“儂の時代 主砲で航空機を撃ち落とすなど考えもつかなかった でかいだけでは 時代に乗り遅れるという事か”

 

こんごうは 次は 艦橋前の甲板に並ぶ蓋の様な物の前に三笠を案内した

「CIC VLS ハッチ開放して 一つでいいわ」

床面に設置された蓋が 素早く開いた

 

「こんごう殿 これはなんじゃ」

中を覗くと白く尖った太い棒の様な物が見える

 

「はい 三笠様 これは誘導式対潜ロケット弾です 私達はアスロックと呼んでいます」

 

「どういう代物なのじゃ」

 

「はい 対潜用の魚雷にロケットを繋げ 打ち出します、魚雷は潜水艦の手前の空中で切り離され 着水、その後自動で潜水艦を探知、撃沈できます」

 

「なに! 魚雷で潜水艦を撃沈できるのか?」

 

「はい 私の時代では 対潜魚雷は必需品です 射程が10km位あります」

 

「金剛を襲った潜水艦はこれで撃沈したのじゃな」

 

「はい そうです」

 

「では この蓋の下はすべてそれなのか?」

 

「いえ 半分程度です、残りは 対空用誘導式ロケット弾です」

 

「対空誘導弾?」

 

「はい 大型の航空機 例えばB-17あたりの高高度を飛行する機体を撃墜する目的で使う無線誘導式のロケットです、射程は100km程度でしょうか、勿論小型の艦載機でも撃墜できますが、単価的に合わないので 大型機用ですね」

 

「これ以外にも、誘導式対艦ロケット弾なども装備しています」

 

「殆どが ロケット弾なのだな」

 

「はい 三笠様」

 

「しかし こんごう殿、なぜこの兵器を こやつの時には使わなかった?」と言いながら 金剛を指した

 

「はい 三笠様 それは深海凄艦に目撃されるのを防ぐ為です」

 

「どういうことじゃ?」

 

「三笠様 あまり強大な威力の兵器は 彼らの関心を呼びます」

 

「なるほどな」

 

「彼らはそれを研究して 開発する能力を持ちます、 その兵器の原理や仕組みなどのヒントを与えれば それらを模倣する技術です」

 

「では 奴らが最新の米国の電探や最新鋭の艦の技術を持つのは その為か?」

 

「はい ですから 余りに強力な兵器を見せては後々 問題になる恐れがありますから」

 

そういいながら こんごうは艦橋の前方へ三笠達を案内し 頭上の白い筒の付いた機銃を指した

 

「彼方に見えるのが本艦の対空機銃 CIWSです 20mmの砲身を6門束ねた ガトリング砲です 毎分3000発 発射できます これも自動追尾装置付きです 本艦には4カ所装備しています」

 

「3000発じゃと 何という速度じゃ!」

 

「はい しかし問題もあります、余りに発射数が多いので弾切れになりやすいですね」

 

こんごうは その近くの艦橋壁面を指さした

「そして これが本艦の対空の目である SPY-1D型電探です 探知距離は およそ600kmです」

 

「600kmじゃと 凄いの!」

 

「はい 本艦には この電探が4面貼り付けてあります ですから360度探知方向に死角がありません また各艦にはこれと同じ対空電探が装備されています、各艦で感知した情報を 瞬時に集めて いずもの戦闘指揮所で解析、作戦指示ができる様になっています。本来 私達 4隻で日本本土の上空 監視できる様 設計されました」

 

「三笠様 私達の“イージス艦”のイージスとは ギリシャ神話に出てくる女神アテナの持つ ありとあらゆる邪悪・災厄を払う魔除けの楯という意味です、まさに海神の巫女である 私達“艦娘”に相応しい名前です」

 

「魔除けの楯か まさに邪神を払う楯であるな」

 

三笠は 心の中で思った

“彼方の次元の姉は こんな立派な艦と艦娘を6人も! 例え海神の神々との約束とはいえ ありがたい この戦い たとえこの身に代えてでも終わらせねば 申し訳が立たぬ”

 

 

こんごうは 通路を通り艦橋中央区の区画へ入った

そのドアの前には 衛兵が立っており厳重な警備がしかれていた

衛兵は こんごうを見ると敬礼し、インターホンで

「艦長、戦艦三笠様、戦艦金剛艦長 入室します」とつげ ドアを開いた

部屋の中は 薄暗く、壁面にはいくつも四角いスクリーンの様な物が並んでいる、妖精兵が 椅子に座り、色々なボタンなどを操作している姿が分かる ここは?

三笠も 金剛も初めて見る風景に驚いていた

 

「三笠様 ここは本艦の戦闘指揮所です、コンバット インフォメーション センター 略して CICと言います、彼がここの主の砲雷長です」

 

砲雷長妖精は 振り返って敬礼して挨拶してきた

「三笠様、戦艦金剛艦長をお迎えできて 光栄です」

 

「この部屋は 戦闘指揮所なのか しかし外が見えんではないか?」

 

「三笠様 私達の時代、航空機の速度は 音の2倍 それから打ち出されるロケット弾は 音の4倍です それが200km以上遠方から打ち出されます、見えた時にはおしまいですよ、私達の戦い方は より遠くで敵を見つけ、それをより遠くで撃ち落とす、先程の主砲も ロケット弾もその為です 優秀な電探でいち早く見つけ、分析しそして確実に撃破する これが私達の戦い方です、ひと昔前まで 艦長はここで戦闘指揮をとっていましたが、私のような砲戦をする場合 少し不利になりますので このイヤホンを使って このCICと連絡をとりながら、艦橋で指揮をする場合もあります」

 

「砲雷長 現状報告して」

 

砲雷長は 前面の画面にレーザーポインターを当てながら

「はい 艦長 まず航空機ですが この3機は先程 泊地飛行場を飛び立った部隊です、それ以外の航空機はありません、次に水上艦艇ですが、先程この2隻が 泊地を出港しました」

そう言いながら 前面のスクリーンを指した

 

「周囲の状況が 一目でわかる 素晴らしい仕組みじゃ!」

 

「はい 三笠様 我々の時代の戦闘は 情報戦です いかに早く索敵できるか、それは何であるかが鍵です ここに 各種の情報を集約し、分析し 通信網で艦隊に即座に転送する 私が見つけた敵を ひえい達が攻撃、その逆もあります、部隊として連携した運動がとれるように 設計されました」

 

「砲雷長 出港した船はなに?」

 

「監視カメラの映像から 軽巡 由良と駆逐艦 陽炎です 陽炎は標的船を曳航しています」

 

「えっ 陽炎教官なの?」

 

「はい 間違いありません 艦長 カメラデータ確認しました」

 

暫し 黙るこんごう 表情が厳しくなった

「どうした? こんごう殿」

 

「いえ 何も、砲雷長 ミーティングの時間です 士官室へ」

 

こんごうは 三笠達を伴って 士官室へ集まった

「さて 時間が無いから 手際よくやるわよ、まず機関長 主機は?」

 

「問題ありません 燃料も午前中にあかしより補給を受けました」

 

「砲雷長 主砲、CIWSは?」

 

「午前中に点検作業を済ませてあります、訓練プラン通り 主砲は訓練弾12発 CIWSは 訓練用曳光弾を各砲に1セット 準備しました」

 

「弾種、信管をしっかり確認して、 それと観戦艦として由良が近くを航行します、射線の背後の確認を怠らないように、 航海長 演習海域は問題ない?」

 

「泊地 北側の10マイル程の位置を指定されています、巡行速度で約40分程度です 周囲に島はありません」

「さて 今回は 我が自衛隊艦隊の基本的性能を展示する目的でおこなわれます まずは駆逐艦が曳航する木製標的船に 対水上戦闘 訓練弾12発 砲戦開始距離は15000、次は瑞鳳隊の97艦攻隊 6機が曳航するターゲットに対しての対空射撃です 副長 97艦攻のターゲットって?」

 

「はい あかしさんが 小型のアルミターゲットを用意したそうです、誤射防止の為に 97艦攻には 簡易型のトランスポンダーを装備しています、コードは既にCICに通知済みです」

 

「さて ここまでで何か質問は?」

 

「艦長 駆逐艦は 陽炎さんですよね」

 

「そうよ 副長 何か?」

 

「いえ この時代の陽炎さんはあそこまでしないと思いますが、訓練プラン作成がいずも副司令ですから 少し」

 

「やはりそう思う、多分しかけてくるわ、いい皆 きちんといつもと同じにやれば 問題ない、大丈夫よ。」

 

「はい 艦長」

 

 

こんごうは 席を立つと、

「では 皆さん 戦場へ行きましょう」

 

「はい! 艦長!」 全員から返事があり 皆持ち場へ帰っていった

こんごうは 三笠と金剛をつれて 艦橋へ向っていた

 

三笠は 道中 副長に

「こんごう殿は 陽炎と何かあったのか?」と問いただしてきた

副長は こんごうに聞こえないように 士官候補生時代の猛訓練の様子を話した

それこそ 死人が出ないのがおかしいとまで言われた訓練だ

 

三笠は それを聞き

“姉上 そこまでしてくれるとは、益々 我が果たす役割は大きいということじゃな”

艦橋に案内された三笠は まず艦橋に祀られている艦内神社に 金剛と参拝した

そして 三笠はこんごうに 黄色いカバーの掛かった席へ案内された

「ここは?」

 

「はい 三笠様 ここは群司令官席です 当艦に司令官が座乗される場合につかいます」

 

金剛は すぐ近くの赤いカバーの掛かった席に案内された

「私は ここデスカ」

 

「はい お姉さま ここは艦長席です」

 

「立派な席ですね 色々ついてイマス」

 

「もう お触りはダメですよ」と笑っていた

 

 

こんごうは 艦橋前方に立ち 一言

「出港 訓練海域へ向います」

 

「航海長 抜錨! 機関 主機始動!」と副長が命じ、艦が一斉に息を吹き返した

各員が慌ただしく動き、前方甲板では 錨を巻き上げる為に甲板員が位置につき 巻き上げが始まった

 

金剛は ふと艦長席の横のポケットにある双眼鏡を見た

「これは 私の物と同じデハナイデスカ」

ビッカースの工廠のマークの入った 古い双眼鏡

手に取ってみる、重く冷たい、でも暖かい なんとも言えない不思議な感じだ

そっと首にかけてみた 80年という重みを感じる

艦橋の前方に立つこんごうの後姿を見ながら

先程の写真の中の3人を思い出していた

 

“この子は もう一人の私や その子に大切に育てられたのデスネ、彼女達の未来の為にも 私も頑張らなければ、そう 守らなければ”

 

艦は ゆっくりと湾を離れていった

 

 

陽炎は 不機嫌だった

昨日からのどたばた続き 今朝は訳の分からない飛行機のせいで 髪がぐちゃぐちゃで まとめ直すのに時間がかかった おまけに警戒解除となって ようやく休めると思い桟橋を歩いていると 鳳翔さんに呼び止められた

「ねえ 陽炎ちゃん、午後から標的船曳航してくれる?」

 

「えっ 標的船ですか?」

 

「そう 自衛隊さんが公開訓練するから手伝って欲しいって ご指名よ」

 

「でも 私 今帰ってきた所なんですけど? 睦月達は?」

 

「睦月さんは 哨戒中、長波さんは配備されて間がないから海域に不慣れ 秋月ちゃんも当直明けですよ」

 

「それなら 私も警戒明けですけど・・・・」

すると鳳翔は 笑顔で

「そう言えば 皐月さんが・・・・」と言いかけて

 

「行きます、直ぐに準備して行きます!」

 

「では お願いね」と言いながら 司令部へ戻っていった

 

「ふう 危なかった 鳳翔さん 静かに怒るから怖いよ」と言いながら トボトボと来た道を戻りながら 自分の艦へ戻ってきた

そんなことを思い出しつつ ぶつぶつ文句をいいながら 旗艦由良と 演習海域へ向っていた

 

旗艦 由良の艦橋では 山本司令長官 座乗のもと 泊地提督等が揃っていた

由良は

「山本司令長官 後30分ほどで 訓練海域へ到達します 済みません何分 旧式艦なので大した装備もなくて」と遠慮がちにいった

 

「いや 構わんよ、最近は戦艦ばかりだったが たまにはこうして他の艦もいいものだ」と笑って答えた

 

由良の艦橋で いずもはタブレットを操作しながら、戦術データを読み込んでいた

「司令 こんごう 出港しました 訓練海域には予定時刻に到着予定です」

 

「分かった、まあ通常演習なら問題ないな」

 

「あら司令 通常訓練でいいのですか?」

 

「ああ いずも そうだが 何か?」

 

「では こんごう達の通常訓練にしましょう」と笑顔で答え

 

「由良さん、済みません陽炎さんへ無線を繋いで下さい」

暫くすると 陽炎が無線に出た

 

「こちら陽炎 なんなのよ!」といきなり不機嫌である

 

「こんにちは 陽炎さん 私は今回の訓練を指揮する自衛隊のいずもです 宜しく」

 

「で 用事はなに?」益々 不機嫌度が増していく

 

「陽炎さん 実弾は積んで来てますか?」

 

「当たり前でしょう こちらは実戦部隊よ」

 

「では うちのこんごうが射程に入ったら 砲撃してください、勿論ちゃんと狙ってくださいね」

 

「えっ あんた 気は確か⁉︎ 実弾だよ 当たれば痛いじゃ済まないよ!」と怒る陽炎

 

「ええ 大丈夫ですよ 駆逐艦ごときの弾にあたるほど やわな訓練はしてませんから」

 

「それはどういう意味よ この私が狙いを外すとでも思ってるの⁉︎」

 

「では きちんと当てくださいね 重巡クラスの大きさがありますから 十分でしょう」

 

「いいわよ そこまで言うならやってやるわよ」と陽炎

 

「あっ それと こんごうが撃つ12発の訓練弾の内 1発でも曳航船に当たらなければ そうですね、  間宮の羊羹を 1本差し上げますよ」

 

「えっ 本当?」と驚く陽炎

 

「では 外した本数分だけ 差し上げますよ」

 

暫し沈黙が流れ

「よし 全力でやります」と陽炎

 

「では 回避運動はお任せしますから 頑張ってくださいね」といずも

 

「お前 そのうち こんごうから意地わるいって言われるぞ」と司令

 

「あら これ位 もう想定してるはずですよ 彼女なら」

 

「では もう一つ おまけしましょう」といずも

 

「由良さん 瑞鳳隊へ連絡してください 砲戦が始まったら 突入して下さい」

 

由良は慌てた

「大丈夫なんですか、実弾砲撃の上 砲戦と対空戦闘を同時になんて」

 

「大丈夫ですよ 彼女なら問題ありません」と平然とこたえるいずも

 

「提督?」

 

「長官よろしいのですか?」と泊地提督

 

「やってもらおう 彼女の実力を見るいい機会だ 君も興味あるだろ」

 

「まあ そうですが、由良 瑞鳳隊に 突入合わせるよう伝えろ!」

 

「はい 提督さん」

 

「さあ これは見ものだな」と 楽しそうにする山本であった

 

 

 

こんごうは 演習海域の手前で やや船速を落として、進出時間を調整していた

既に CICでは 由良と陽炎 そしてパラオを離陸した瑞鳳隊が探知されていた

「副長 どう思う?」

 

「多分 状況開始と同時に 瑞鳳隊も突入してくるのでは?」

 

「問題は 陽炎よ タダで撃たせてもらえるとは思わないわ」

 

「回避運動位するでしょうか?」

 

「もしかしたら 本気で砲戦挑んでくるかもよ」

 

「そこまで しますかね? 艦長」

 

「う〜ん いずも副司令の事だから もしかしたら間宮の羊羹あたりで けしかけてるかも」

 

「CIC砲雷長! 聞いてる?」

 

「はい 艦長!」

 

「予定通り、状況開始と同時に 海域へ第五戦速で 突入 水上戦闘開始します、但し 対空戦闘も同時になる可能性があるから その時はCIWSで対応お願い」

 

「了解しました」

 

「艦長 状況開始 5分前です」

 

 

こんごうは 静かに神経を集中していた、目を閉じ 戦域をイメージしていた 自ずと肩に力が入る

 

突然 わき腹を 突かれた

 

「ひゃい!」と へんな声がでた

振り返ると 金剛が人差し指で こんごうの脇腹を突いていた

 

「お姉さま! なにを!」と慌てるこんごう

 

「こんごうちゃん リラックスデス! そんなに力が入っていてはNOデス!」

 

「そうじゃぞ こんごう殿、指揮官はこう ふんぞり返っておればよい」と三笠は 椅子に寄り掛かった、

 

「はい そうですね」と笑顔で答え

 

「うん いつも通りに行こう それがいいわ」

そう言うと すこし気軽に立ち、

「では 皆さん 時間です 行きましょう!」といいながら 左手を前方へ向け つぶやいた

 

「エンゲージ!」

 

艦全体を 青白い光が包み 幾重にも文様が走る

艦霊と精神を一体化し 艦を意識下に置く、妖精隊員に活力がみなぎり、一気に力が湧いてくる、戦闘艦として覚醒し 青い海を 白波をかき分け突き進む

「副長 戦闘戦速!」

 

「第五戦速!」と副長が命じ 機関が唸りを上げた

 

「艦長! 訓練海域突入します 状況開始!」

 

「航海長 舵もらうわ」とこんごう

 

素早く 操舵手が

「ユーハブコントロール」と号令すると同時に操舵輪から手を放した

 

こんごうが「アイ ハブ!」と素早く答える

 

急速に標的船との距離を詰めるこんごう

その距離 一五〇〇〇m 間もなく砲戦開始だ

こんごうが左耳につける 網膜投影型ディスプレイに 刻々とCIC情報が映し出された

陽炎もこちらを視認したのか 速力を上げて来た 標的船を曳航しているとはいえ 既に

20ノットを超え 更に増速している

こんごうは 右舷前方から 標的船へ接近する航路を取った 由良は左舷側にいる

陽炎が面舵を切ってきた

「やはり ただでは撃たせてもらえないみたいね」

 

標的船も陽炎に従い流れて行くが 速度が出ているので航跡が安定していない

不意に 陽炎の後部砲塔から 火の手が上がった!

「陽炎 発砲!」とウイングの見張り員が叫んだ

 

「CIC! 弾道解析!」とこんごうが叫ぶ

同時に 投影ディスプレイに着弾予想位置が表情された

「左舷 遠弾! まだいける!」と距離を詰めるこんごう

 

「弾着! いま!」 と見張り員が叫ぶと同時に左舷後方の海上に 弾着した

 

「ほう 撃ってきよったわ やるな 陽炎」と興奮気味の三笠

 

「こんごうちゃん 撃ち負けないデ」と応援する金剛

 

こんごうは 落ち着いて

「水上戦闘よ〜い! CIC 指示の目標 標的船 弾種 訓練弾 ヒトフタ発 撃ち方 始め!」

 

「撃ち方 始め!」と砲雷長が復唱し 砲戦が開始された

本来なら 連続で発砲するが 陽炎が面舵を切りながら回避するので タイミングを計りながらの発砲である

こんごうは 30ノット以上の高速で 陽炎の左舷側へ迫る 射線につかせまいと 更に面舵を切る陽炎

艦が 大きく遠心力で左に傾く、しかし安定した走行だ。船体下部のフィンスタビライザーが効き、安定した回頭を実現している。

 

三笠は感心した

“30ノット以上出ておるのに 舵を切っても安定した操船 揺れが殆どない、素晴らしい艦じゃ! おまけにまだ余裕があるようじゃのこんごう殿”

 

何とか こんごうを振り切ろうとする陽炎 更に後部砲塔から 砲撃が続いた

「左舷 近弾 段々近づいてきた!」とこんごう

 

「あと少し回りこめば 射線確保できる!」と思った瞬間

陽炎は取り舵で 急速反転して来た!

 

「よし かかった!」とこんごう

一瞬であるが 標的船が 陽炎の旋回に追従できず大きく 外へ流れた

 

「砲雷長 今よ! 叩き込んで!」とこんごうが叫ぶ

 

砲雷長は 返事を惜しんで ピストル型のトリガースイッチを引いた

唸る127mm砲

 

陽炎は 焦っていた

最初 遠方に艦影を確認して 訓練開始と由良から無線連絡を受け 速度を上げて来たが

こちらの予想以上に あの重巡 足が速い!

 

「なんで この距離であの速度がだせるのよ! 重巡でしょ!」と艦橋で怒鳴る陽炎

 

「間もなく 12000です! 急速接近中 速い!」と副長

 

「とにかく 回して回して! 引き離すわよ!」

 

見張り所で 後方を見るが じりじりと距離を詰めてくる このままでは追いつかれるのも時間の問題だ

 

「いい 撃たせなきゃいいのよ “おもぉぉかぁじ”」

急速に舵を切る 陽炎

 

「いいのですか? 艦長!」

 

「いいの 間宮の羊羹がかかってるのよ なんでもするわよ!」

それでも追従して食いついてくる重巡

 

行き足をとめなきゃ このままだと食いつかれる

「後部砲塔 砲撃 始め!」

 

「艦長!」慌てる副長

 

「いい 絶対近づけないでよ 羊羹が遠のくから!」

 

見張り要員が

「弾着! 全弾遠弾です!」

 

驚く陽炎

「えっ 全部!」

 

「艦長 重巡の速度に追いつけません 35ノット以上でてますよ!」

 

「うそ! そんな速度だせる訳ないでしょ!」と 慌てて外を見る陽炎

そこには すぐそこまで迫る 重巡の姿が! 振り切れない!

 

「振り切るわよ とりかぁぁじ!」陽炎が急反転して 重巡の追従を躱そうとしたその時 今まで沈黙していた重巡の単装砲が火を噴いた

 

「なっ なにあの速さ!」

 

急反転したせいで、標的船が大きく外へ流された瞬間に 重巡の単装砲が一気に発砲してきた、アッという間に 数発 標的船へ吸い込まれる、次々と命中する砲弾

 

「くそ! でもまだ機会はあるわ! とにかく逃げ回って無駄撃ちさせるわよ!」

必死に 追撃をかわそうとする陽炎 それを追い詰めるこんごう

お互いの航跡を からめ合わせながら 一歩も引かない攻防が続いていた

 

 

瑞鳳隊は 上空から突入のタイミングを計っていた

各機 金属製の2m程の小さな矢尻のような物を 曳航していた

 

「隊長 始まりましたけど どうします?」と前席の操縦手が聞いてきた

 

「まあ 仕方がない 打ち合わせ通りやろう」と機長がいうと 僚機にハンドサインで分隊離脱を指示した

遠方で二手に別れた 97艦攻隊は こんごう左舷前方から侵入する3機 そして右舷後方から侵入する3機に別れ 扇状に左右から模擬雷撃するようにコースを修正した

こんごうを前後から 挟み込むようなコースだ

ほぼ艦橋と同じ高さまで降下し 模擬雷撃ポイントへ向かう

遠くに 2隻の艦艇が 交互に絡みあいながら追撃戦をしているのが分かる

こちらは 重巡の後方から接近するようになる、分派したやつらは正面

あと少しで模擬投下地点だ ここまで来ればさっさと 通過して対空射撃を躱せばいいと思った瞬間 凄まじい衝撃が襲った! 振り返ると曳航していたはずの金属製の的が粉々に砕け散っている 後続の機体を見ると その機体の標的に向けて 見慣れぬ重巡が凄まじい対空射撃をしている

数秒撃ったと思えば ピタっと止み また数秒撃つの繰り返しだが その弾幕が今まで見たことないほど集中している

 

機長は 背筋に凍る物を感じた

「なんだ ありゃ! あんな弾幕 どうやって躱せっていうんだよ 瑞鳳!」

瞬く間に 2番 3番の標的も砕かれ 事実上 この分隊は撃破された

 

 

「艦長 CIC! 瑞鳳隊 仕掛けてきました, CIWS対応します!」

 

「砲雷長! お願い」

 

「はい お任せ下さい!」

 

「CIC 指示の目標 アルファ群 トラックNo6001から03 艦首CIWS、AAWオート、同じく ブラボー群 8001から8003 艦尾CIWS、AAWオート」

 

事前に登録した 目標に対し、オートモードで対応する為、安全装置を外すと CIWSは全力で 射撃を開始した

 

 

三笠は 突然始まった対空射撃に驚いた

よく外を見ると 前方にこちらへ向けて 標的を曳航しながら近づいてくる 97艦攻隊 3機が見える 先程紹介してもらった 対空機銃が数秒唸ったと思った瞬間 曳光弾が標的へ吸い込まれ 標的が粉砕された そして次の標的に向け再度射撃が始まる

“儂らの対空射撃とは全く異なる、短時間に集中的に攻撃する事で 弾幕形成しておるな”

その間も こんごうは高機動を繰り返しながらじわじわと 陽炎との距離を詰めていた

 

「艦長! CIC 対空射撃終了 制空権確保です!」

 

「砲雷長! 残り4発で 間違いない!」

 

「間違いありません! 残弾4です」

 

「砲雷長 いいこのまま 必中距離まで詰めるわよ 軸線確認している?」

 

「このまま 行けば由良が入ります、どちらかに 躱して下さい!」

 

「えっ 仕方ない! 機関強速! 由良と陽炎の間に割って入るわよ!」

こんごうは 先程までの陽炎を 追従する運動から 一気に加速して 由良と陽炎の間に割って入るコースを取った

 

一時的に 陽炎が右舷側に大きく逃げ 追撃は仕切り直しとなった

 

「機関 第五戦速 もど~せ!」

 

「砲雷長! 仕切り直すわ 」

 

「おもぉぉかぁじ! これで決めるわよ!」

 

「陽炎 再度 発砲!」

 

「回避! 取り舵 5!」

こんごうは CICからの着弾解析を見ながら 即座に反応した

右舷後方に 数本の水柱がたつ

こんごうは FCSの情報を見ながら射撃軸線が取れる位置へ艦を滑らせていった

陽炎の後部砲塔から 盛んに砲撃が繰りかえされるが、寸での所で躱している

すると陽炎は何故か之字運動を止め こちらと同航戦の軌道を取り始めた

 

 

陽炎は 対空射撃が開始された瞬間 「しめた!」と思った

対空戦闘に集中しているうちに 距離を開いて逃げ切ろうとしたが あろうことかあの重巡 艦攻隊を瞬殺しやがった!

さっきから之字運動の連続 普通の重巡なら 高速の駆逐艦についてくるなんて出来ないのに なんなの!あの艦!

素早い動きで こっちの砲撃は全部外れるし、あの単装砲! 連射速度が速い上に照準が正確 今まで全弾命中! 何かの間違い⁉︎ 何か悪い夢を見てる気分だわ!

陽炎は殺気を感じた、もの凄い殺気だ まるで仁王様に睨まれているそんな気にさせる

こんな殺気久しぶり! いいわよ やってろう! 逃げ回ってもらちがあかない

 

「副長!同航戦へ持ち込んで! あの重巡のどてっぱらに 1発ぶち込んでやる!」

 

「艦長! いくら何でもそれはやりすぎですよ!」

 

「向こうが良いって言ったんだぞ!」と怒鳴る陽炎

「分かりました 後は知りませんからね」と諦め顔の副長

「さあ 来やがれ!」と目をぎらつかせる陽炎

 

こんごうは 急に陽炎が 同航戦へ移行したのが気になった

仕掛けてくるか!

「砲雷長! 同航戦へ移行 射撃再開 タイミング任せます! 陽炎仕掛けてくるわよ 気をつけて!」

「お任せください 合わせて見せます!」

陽炎の後方から急速に同航戦へ移るこんごう

陽炎の第1主砲がこちらを指向しているのが分かる

もう少しで 射線が確保できる! そう思ったとたん 陽炎の第1主砲が発砲した

「まずい!直撃!」そう感じたと同時に

「機関! 後進一杯!」と叫んだ

艦は 急にまるで壁に当たったかのように 急減速した

こんごう自身も 手摺に捕まり踏ん張って堪えた

 

船首を 砲弾が掠めていく

「前進 一杯! イクワヨ!」と叫ぶこんごう

急加速するこんごう!

「射線確保 砲撃再開!」と砲雷長が叫び 最後の4発が撃ち込まれた

 

「うそ! 躱した!」 陽炎は呆然とした

被害が一番少なそうな 艦首を狙って撃ちこんだ砲弾は 重巡が急停止したせいで 躱されてしまった、

こちらが 仕掛けてくる事を予想してた! それにあの急制動は何⁉︎ 車じゃないのよ!

そして 躱したと思えば 即座に加速してきた

まずい 撃たれる

「重巡 発砲!」と見張り妖精が報告してきたが もう手遅れだ

次々と標的船に命中する しかしここで 運命の女神は陽炎に傾いた

2発目が当たった時に 飛び散った破片が曳航ロープを切断したのだ!

急速に 陽炎から離れる標的船

すでに こんごうは射撃を終えている、3発目は辛うじて標的船の船首へ当たったが 最後の4発目は 標的船には当たらず海中へ落ちた

 

こんごうは 艦橋で呆然としていた

「うそ あんなのあり⁉︎」

2発目が着弾したあと 急に標的船の船速がおちた 曳航ロープが切れた!

既に射撃が終わっている 修正出来ない

「当たって!」と叫んだが  4発目が外れた

 

由良から「状況終了 各艦 速やかに集結せよ」と無線連絡がはいる

 

艦橋で 肩を落とすこんごう 言葉がでない

副長がそれを察したのか

「状況終了、操舵手 舵かわれ! 砲雷長 水上戦闘用具収め、各員所定の位置へ付き 艦隊合流用意!」と命じた

 

こんごうは 手摺を握りながら

「今度こそ、今度こそ勝てると思ったの・・に・・」 俯き 声を詰まらせた

 

不意に 頭を撫でられた

金剛が 優しく頭を撫でている

「ダイジョウブデス ガンバリマシタ 立派デスよ」

 

三笠が こんごうの横に並び

「うむ 見事な戦いであった 何も言う事は無い」とこんごうの肩をたたいた

「さあ 胸を張って帰るぞ」

「はい 三笠様」

 

由良の艦橋では 山本も泊地提督も そして由良も言葉を失っていた

「いずも君 彼女達はいつもあんな教練をしているのか?」と驚きながら聞いた

「長官 いつもではありませんが、こんごう達は比較的多いでしょうね、教官が教官でしたから」

泊地提督は 心底驚いた

陽炎は 元第二水雷戦隊所属の新鋭艦だ! 艦の性能もさることながら経験値も高く、 配属を希望する所は多い、その陽炎を速力、機動力だけで追い込んだ。

おまけに 対空戦闘は 瑞鳳隊を全く寄せ付けなかった

彼女達は 単に艦の性能がいいとかそう言う練度ではない 彼女達は厳しい教練を耐えた“精鋭”なのだ、これなら水観の報告も嘘ではないと 納得するしかない

 

由良を先頭に 陽炎、こんごうと単縦陣を組み パラオ泊地へと帰路についた

 

 

トラック泊地 夕刻 戦艦 大和 第三主砲 横

その男は 甲板から 釣り糸を垂らしながら 夕焼けの湾内を眺めていた

もし 士官に見つかれば鉄拳制裁ものであるが だれも咎める者はいなった

常に不機嫌そうで「鉄仮面」などと皆から揶揄される事も多いこの男 ただここにいる時は、落ちついた雰囲気で 物思いにふけっている時が多い

背後から 足音がする

 

振り返ると 三人の艦娘が立っていた

「おう どうした長門?」

 

「宇垣参謀長 あの報告書はどういう事でしょうか?」

 

「ああ 赤城隊が持ち帰ったパラオの報告書と金剛の書いた奴か?」

 

「そうです 内容が上手く理解出来ないのですが」と大和も不思議がるが

 

「二人ともまあ なんだ あの通りだ それ以外は無い」

 

「では 金剛は パラオ艦隊ではなく その所属不明の艦隊に救助されたというのが正解ですか?」

 

「そうだ! 長門“自衛隊”と言うそうだぞ その艦隊」

 

「“自衛隊”ですか? 海軍にはそのような組織は無いと思いますが」

 

「ああ 大和 何でも80年後の未来から来た艦隊らしいぞ」

 

「80年後?」驚く 長門、大和

 

「大淀 大本営海軍軍令部への報告書は?」

 

「はい 出来ております、昨日 現地時間午前七時頃 戦艦金剛は パラオ北部海域にて 深海凄艦 潜水艦により雷撃攻撃を受け 左舷 2カ所を被弾 応急修理後、 近海を哨戒中のパラオ泊地艦隊 旗艦由良以下、陽炎 皐月 秋月の援護を受け、同8時頃飛来した深海凄艦 航空機40機を撃破、同時刻 パラオ艦隊旗艦 由良が潜水艦潜望鏡を発見 砲撃によりこれを撃沈、 その後 追撃して来た 追撃艦隊 重巡1 軽空母1 駆逐艦3は 由良、陽炎、皐月が反転攻勢を行い 撃破、金剛はその後 パラオ泊地へ入港 金剛艦体は 中破、金剛本人は 1週間の安静入渠・・・・ という作文を作りましたがいかがでしょうか」

 

「凄いな パラオ艦隊大活躍だな はは・・」と笑う宇垣

 

「褒賞の一つでも 出しますか?」と大淀

 

「おう そうだな それで報告しておいてくれ、金剛とパラオの報告書は 横鎮の彼奴経由で大巫女様まで頼む 最重要機密文書だ」

 

 

 

ごとっと 物影から音がした

「比叡 そこに居るのは分かっているから出ておいで」と宇垣

 

おそるおそる もの影から出てくる 比叡、榛名、霧島

 

「宇垣参謀長 どういう事でしょうか?」と声をこわばらせる比叡

 

「まあ 落ち着け比叡」

 

「金剛お姉さまは無事ですよね」と震えた声でいう榛名

 

「榛名も霧島も まあ話を聞け」

 

「それと・・・・」と言いながら 第三砲塔の上を眺める宇垣

 

「お前はそんな所で 何をしている 青葉!」

 

「へっへっ 恐縮です」と言いながら すとんと宇垣の横に飛び降りた

そして ポケットから数枚の写真をとりだして 宇垣に渡した

 

「ネタはあるんですが、赤城隊も陸攻隊も口が堅くて 中々でして」

 

「それで 俺の所へ突撃取材か?」と宇垣

「そうですよ だって長官も三笠様も行ってるっていえば ただ事じゃないでしょう!」

 

それを聞いた比叡たちは

「参謀長! 本当にお姉さまは無事なんですか!」と宇垣に詰め寄った

 

「まあ 落ち着け3人とも!金剛は無事で 今日の昼には出渠してパラオで遊びまくっているそうだぞ」

 

「えっ!」と全員驚く

 

「いいか 今から言う事は おれの独り言だ 但し洩らせば 1週間 営倉に入ってもらう それでも聞くか?」

 

全員頷いた。宇垣はそっと大淀を見た。

「参謀長 人払いは出来ております ご安心を」

 

「金剛が 潜水艦により雷撃されたのは事実だ」

 

青ざめる 比叡たち

「済まない、自分たちがついていながら」と長門

 

「その後 金剛は速力低下、傾斜角増大で 戦列を離脱 単身 パラオへ向った」

 

比叡は 長門を睨み

「なぜ! お姉さまを一人にしたのです!」

 

「比叡 それは金剛が言い出した事だ、ここで金剛に合わせていれば 再度雷撃される、護衛の軽巡、駆逐艦は前日の低気圧の為 避難していた 仕方ない判断だ もしお前ならどうする?」

 

「しっ しかし!」と食い下がる比叡

 

「まあ 聞け そこへ 深海凄艦の艦載機 40機が接近してきた」

 

「かっ 艦載機40機ですか いくらお姉さまでも!」と霧島

 

「だがな 神は諦めなかった 海中から重巡4隻が浮上し これを数分で撃退したそうだ」

 

「参謀長 今なんと? 海中から戦闘艦が浮上してきた?」

 

「そうだ 比叡 金剛を輪形陣で囲むように浮上してきたそうだ そしてほんの数分で全機 撃墜! 金剛達に被害は1機 破片が落ちた位だそうだ」

 

「信じられません!」と榛名

 

「そして 金剛を雷撃した潜水艦は その子達の1隻が 特殊爆雷1発で撃沈」

 

「1発で!」と驚く

 

「ああ そしてその後 その艦隊の旗艦空母と随行艦が浮上してきたそうだ」

 

「空母ですか?」

 

「大きさは 大和級、多分 現在建造中の3番艦に匹敵するとの事だ」

 

「そして まだあるぞ 金剛を追撃してきた 深海凄艦の重巡1 空母1、駆逐艦3隻を その不明艦隊の内 2隻が分派して一方的に叩き潰したそうだ」

 

声を無くす 比叡達

「その後 パラオ艦隊が金剛と合流し その不明艦隊と共にパラオで現在 停泊中だ」

 

「では お姉さまの容体は?」

 

「ああ 比叡 それも心配ない、金剛自身は その不明艦隊の艦娘が 金剛に乗船して治療したそうだ、髭軍医も問題ないと太鼓判を押している 安心しろ」

 

比叡達の顔が 明るくなった

「長官が お風邪で臥せっているとお聞きいたしましたが あれは」と榛名

 

「まあ 報告書ではらちがあかんのでな いつもの悪い癖だ まあ俺はそのお蔭で ゆっくりとしていられるがな」

 

宇垣は 青葉から貰った写真の内 1枚を比叡達に渡した そこには見慣れない4隻の重巡が写る

「これが その不明艦隊ですか?」

 

「ああそうだ 俺も初めて見たがな 何でも自衛隊と言うそうだぞ おまけに 80年後の未来から来たと言っている」

 

「80年後の未来!」 全員で驚いた

 

「その艦の名前 なんでも こんごう、ひえい、はるな、きりしまって言うそうだ」

 

「えっ 私達と同じですか」と霧島

 

「そうだ なんせその子達は お前達の孫娘だからな」

 

「えっ」  比叡

 

「孫」   榛名

 

「娘」   霧島

 

「孫娘ですか!!!」 

 

「良かったな 比叡 お前のようなおてんばでも 貰ってくれるもの好きな提督がいるらしいな ははは・・・」と 笑いながら自らの頭をなでる宇垣

 

写真を 取り戻す宇垣

「とにかく この事は最重要機密だ これ以上騒ぎ立てるな、長官達がお戻りになったら説明を聞いて 判断する それまで各自 教練に励めよ 孫娘に置いて行かれるぞ」

 

大淀が 前へ出てきて

「では 皆さん ここはそう言う事でお願い致します」

 

そう言いながら メモを取っていた青葉のメモ帳を取り上げた

「あっ 大淀さん 勘弁してください!」とすがる青葉

 

「検閲しますから 没収です」

 

「来週のネタがありませんよ!」と涙目の青葉

 

「金剛危機一髪 パラオ艦隊 決死の救出作戦ってのはどうだ」と宇垣

 

「それでは 大本営の誇大広告と同じですよ」

 

「まあ とにかく作文でもなんでもしてくれ、頼んだぞ青葉」

 

「じゃ 約束ですよ 情報開示されたらその艦隊 取材させてください それで手を打ちます」

そう言いながら 比叡達と青葉は 大和を下船して行った

 

長門と大和が去ろうとした時 宇垣は 海中に投げ込んでいた かごを引き上げ 大和に投げた

「誰かに さばかせて 士官室に差し入れてくれ 酒のつまみ位にはなるだろう」

 

「ありがとうございます 士官妖精も喜びます」と嬉しそうな大和

 

宇垣は 長門達が去ると、再度写真を見た

そこには 金剛そっくりな女性が 手を振りながら歩いている写真があった

「皐月 だいぶ馴染めたようだな」と独り言をいいながら

 

宇垣はまた 釣り糸を垂らし始めた

 

 

 

こんごうは パラオへ入港し 再度投錨した

三笠と金剛は いずもが用意した内火艇で 先に上陸していた

司令から 「泊地の艦娘達に挨拶するから ヒトハチマルマルまでに上陸集合」と連絡を受け、制服に着替えて 妖精隊員の操船する内火艇で桟橋に向かい上陸した

桟橋には 陽炎がいずもからせしめた 間宮の羊羹を1本握ってまっていた

 

上陸して 陽炎の前に立つこんごう

不意に陽炎から

「やっとあえた 陽炎よ 宜しくね」と手を出された

 

意外だったので 慌てながら

「こんごうです 宜しくお願いします」と握手をしてしまった

 

陽炎は 手を放して 腰に当てがい

「しかし あんたいい腕してるわ、あそこまで私を追い込んだ艦娘は久しぶりかな ここじゃ中々ないしね 不知火とか黒潮も真っ青の動きだったわ」

 

「あっ ありがとうございます」と固くなるこんごう

まあ そうだろう なんせ目の前には 鬼の陽炎教官がいるのだ

 

「別に 固くならなくていいわよ それより貴方、嚮導艦やってみない?」

 

「えっ 嚮導艦ですか?」と驚くこんごう

 

「そう トラックにいる神通さんが駆逐隊を嚮導できる腕のいい重巡クラスの艦娘、さがしてたの 貴方ならぴったりだと思う どう?」

 

いきなりそんな事を言われ少し慌てた

「あの まだここに来て間がありませんから」と困惑気味に言う

 

「まあ 返事は何時でもいいわ 期待してるから」と笑顔で答える陽炎

 

「さっ 休憩はいろ 休憩!」と 二人で並んで司令部へ向った

 

 

 

泊地司令部横の食堂では 所属艦娘が全員集められていた

そこには 山本長官、三笠、そして自衛隊艦隊のこんごう達が待っていた

最初 こんごう達をみた 瑞鳳や睦月、長波、秋月は トラックから金剛さんを心配した比叡さん達が来たと思ったが 泊地司令から大体の経過説明を聞いて 言葉を無くした

しかし 既に皐月や鳳翔からそれらしい事を聞いていたので 動揺も少なかった

 

山本長官から

「暫く 彼らはここパラオを中心に活動を行う、皆宜しく頼む。」と説明され

 

泊地提督から

「なお 自衛隊艦隊は 諸般の事情が整うまで 秘匿艦隊扱いとして外部の泊地等の接触を極力避ける事とする、昨日の戦艦金剛の救助も 我がパラオ艦隊が行った事になっている。」

 

すると鳳翔が

「長官 なぜです これだけの強力な艦隊 公開すれば士気の向上にもつながるとおもいますが?」

 

すると 山本が

「鳳翔 本来ならそうしたい所だが、彼らの持つ情報が 不用意に外部にでると問題もある、それにだ ・・・・」

 

三笠が

「最大の問題は本土の馬鹿どもだ 新しいおもちゃが タダで手に入ったと知れば 我先にと動き出すぞ、普段はのろまなくせに こんな時は動きが早いからの」

「まっ そう言う事だ 皆仲良くしてくれ では自己紹介といこうか」

 

自衛隊司令以下 いずも達はパラオ泊地の皆の前へ進み出た

「皆さん はじめまして 海上自衛隊の司令です、自衛隊司令と呼んで下さい」

 

「私は ヘリコプター搭載型護衛艦 いずもです 秘書艦を兼任しています 宜しく」

 

「イージス艦 こんごうです、宜しくお願いします」とこんごうがいうと どよめきが起こった、金剛そっくりな上 声まで似ているとあればやはり驚く

 

「同じく ひえいです」 元気な声で答えた

 

「はるなです」 優雅に髪をなびかせながら 礼儀正しくお辞儀して挨拶

 

「きっ きりしまです 宜しくお願いします」 何故か緊張気味のきりしま

 

「工作支援艦のあかしです 修理はお任せください」 既に 明日からの金剛の修理で頭が一杯です

 

 

 

パラオ艦隊は

「航空母艦 鳳翔です 不束者ですが宜しくお願いします」

 

「軽空母 瑞鳳です 今 鳳翔さんの指導で訓練中です」

 

「駆逐艦 陽炎よ さっきは楽しかったわ」

 

「睦月型の睦月です」

 

「同じく 皐月です こんごうさん昨日はありがと」

 

「防空駆逐艦 秋月です 艦隊防空担当をしています」

 

「夕雲型駆逐艦4番艦 長波様だ 宜しくな!」と言った瞬間 長波は陽炎からげんこつを食らった

 

「あっ あんたは何て挨拶をしてるの!」

 

「だって 陽炎姉ちゃん」としょげる長波

 

「だっても へちまもない いい 長官や三笠様もいるの ちゃんとしないと 陽炎型の名が廃るわよ!」

 

「は〜い」

 

「陽炎 それ位にしてやれ」と 泊地提督が収めた

 

「鳳翔 頼む」と山本がいうと 鳳翔と瑞鳳が食堂の奥から 大皿の料理を並べ始めた

「あの 急な事で 大した物は用意出来ませんでしたが よろしいでしょうか」と謙遜しながら言う鳳翔 地元の魚のお刺身の盛り合わせ 煮物、お肉と野菜などのいため物などが並ぶ

 

「ああ 十分だぞ まあここは戦地だ 贅沢をいっても仕方ない」と山本

 

すると ひえいが

「やっぱり 歓迎会にはこれでしょう」と言いながら 缶ビールを1箱持ち出した

 

「あんた それどこから持ち出したのよ」とこんごう

 

「へへ~ オーストラリアで懇親会する時飲もうと思って持ってきたのよ 向こうのビールって味薄いでしょ!」

 

ひえいは 皆に1本づつ配り始めた

陽炎や睦月達に配っていいのか?と こんごうは思ったが、艦齢で計算すると十分大丈夫なので そこは見て見ぬふりをした

最初 プルトップの開け方が分からず 困っていたがこんごう達が開けて回って事なきを得た

 

そして 三笠が

「皆 杯はもったか では 戦艦金剛の無事と 自衛隊艦隊の来島 そして我々の未来を祈願して “乾杯”」というと

 

全員で 杯を交わした

一気に飲んでしまう三笠 見た目 14歳位であるが 艦娘 最年長だ

「三笠様 いい飲みっぷりですね」とひえい

 

「ひえい殿 もう一つもらおう」と催促する三笠

 

「ひえい君 余り飲ませんでくれよ」と山本が言うが 全然聞いてない

 

テーブルでは皆で大皿の料理を取り合った、特に駆逐艦級の子は食べ盛りである

午後の演習どころではない乱戦模様だ

既にこんごう達は 圧倒されて手出しできない、ここは下手すると被害が増えそうだ

遠巻きに見ながら 観戦していたが やはりここは陽炎と皐月が抜きんでて 大漁だった

山本と泊地提督、そして自衛隊司令は 鳳翔の用意した別のテーブルへ移り、3人で 会談しながらの食事となった

 

「こんごうちゃん ノンデマスカ」と金剛に声を掛けられたが

 

「実は 私 あまり飲めないです」とこんごう

 

「どうしてデスカ?」

 

「昔 飲み過ぎて大騒ぎになった事があって それ以来 ほどほどにしてます」とこんごう

 

「大騒ぎ?とは ナンデスカ?」

こんごうは 回りに聞こえないように そっと金剛に耳打ちした

 

「それは ひえい達も災難でしたね」と金剛

 

「お姉さま やはりお酒は飲んでいる内が一番ですよ」と笑いながら話していた

 

ふと ひえいを見ると 三笠様と 飲み比べが始まっていた

周りに 陽炎や皐月、睦月がいる

いずも副司令は どうやら鳳翔、瑞鳳さんに捕まって 色々と質問攻めにあっていた

はるなは 由良さんと対潜談義に花を咲かせていた

 

きりしまは 固まっていた

どうやら 秋月さんに捕まっているようだが、大丈夫か?

「あの きりしまさんって 自衛隊艦隊の対空担当なんですか?」と聞く秋月

 

「そっ そうです」と やや緊張しながら答えた

 

「どうかしました?」と不思議がる秋月

 

きりしまとしては 緊張するなという方がおかしい 彼女にとって彼方の世界の秋月は 師匠と言うべき存在であった きりしまの対空能力向上には秋月のノウハウを注ぎ込んだといってもいい こんごうにとって陽炎が師匠なら、きりしまにとっては 秋月がそうだ

 

「きりしまさん 今度私と演習して下さい!」

 

「えっ 演習ですか?」

 

「ぜひ 金剛さんを助けたという あの対空戦闘を見せてください お願いします」と頭を下げてきた

 

「はい 必ずお見せしますよ」と言いながら 教官と演習か! ここは計算しておこう

 

 

艦娘達の盛り上がりとは別に 男性陣は平常運転であった

鳳翔の手料理を食べつつ 今後の方針などを話しながら 時は過ぎた

 

 

2時間程でお開きとなった

まあ 今日は顔合わせといった所だ 急な来島で準備も出来ていないし 名前を覚えればいいという程度で 解散となった

金剛は 結局 こんごうに抱かれて 泊地艦娘寮へ送ってもらい ひえいは三笠様に飲み負けて きりしまとはるなに抱えられて帰った

三笠は平然と 山本と宿泊先の司令部の宿舎へ向う

 

 

宿舎には 鳳翔が待っており 二人の為に色々と準備してくれていた

鳳翔が退室したあと 三笠は 床にへたり込んだ

そうすると ぽろぽろと泣き始めた

「大丈夫か 三笠」

 

「大丈夫 酔ったわけではない」と 涙声でいう三笠

 

「イソロク 儂は今日ほど 自分の艦がないという事が 悔しいと思った事はないぞ」

 

「どうした⁉︎ 三笠」

 

「彼方の姉は 儂たちの為、幾ら海神の神々との約束とはいえ あのような立派な艦と 娘を6人も送ってくれた そればかりではない 彼女達に生き残る為にありとあらゆる英知を授けてくれておる そんな彼女達に 今の儂では何もしてやれん それが悔しいのじゃ」

 

「三笠 お前はよくやった 黎明の日本海軍で旗艦を務め 日本海海戦では初めて艦娘として憑依 覚醒し、その後除籍後は艦娘育成と戦い続けてきたではないか」

 

「イソロク ではなぜ 儂は今でも憑依も解けず この姿でいる それは戦えという事ではないのか!」

 

「儂は 海神の巫女 艦娘三笠じゃ 海の民の安泰の為 戦う それ以外に生きる意味など 無いわ」

 

イソロクは 三笠の手をとり

「三笠 その道は険しいぞ それでも行くか」

 

「知れたことよ 儂のこの身に代えてでも 海の安泰を掴むのじゃ」

三笠は 決意を新たにした

 

 

泊地提督は 由良に送られて 私邸へ帰ってきた

玄関先で 由良に

「今日は お休み 疲れただろ由良」と問いかけたが 返事がない

 

「どうした 由良」

 

由良は 黙ったまま 提督の袖口を掴んだ

「今日 泊まってもいいですか?」

 

「由良?」

 

由良は 段々涙声になりながら

「わ 私怖かったです、いずもさんが 解っています あの人が深海凄艦じゃないって でも私こわかったんです」と泣きながら 提督に抱きついた

 

提督は静かに 由良の頭を撫でた

「提督?」顔を上げる由良

 

「一緒に寝るだけだからな」といいながら 玄関を開けて中へ招きいれた

 

暫くして 部屋の電気が消え 静かな夜が訪れた

 

 

 

それを 自室の椅子に座りながらディスプレイで見ている 一人の男性

「司令 覗き見は悪趣味ですよ」と 後ろから声をかけられた

 

「いずも 部屋に入る時はノックの一つも欲しいもんだがな」

 

「もう 覗く位なら 言えば良かったのでは?」

 

「それは出来ん相談だな」

 

「貴方って そう言う所が あの人と同じでそっくりよ」

 

「今日だって 無理にあそこに居なくても良かったのに 無理するからあんな恐怖を味わう事になるのよ これじゃ 私がまるで悪者じゃないですか」

 

「まあ そう言うな 借りは何時か返すよ」

「さあ 余り期待せずに待ってますけど 私がおばあちゃんになる前には返してもらいたいですわ」

 

「お前でも 老けるのかな?」

 

「司令 もしかして喧嘩売ってませんか?」

司令は それには答えず ただじっと画像を眺めていた

 

 

 

パラオの夜は静かに更けていった

 

 

 

 

 

 




こんにちは スカルルーキーです
「分岐点 こんごうの物語」を読んで頂きありがとうございます

お酒は怖いです、あれほど危険な物はありません
私ですか? いつも呑まれてますけど

次回は 復活です


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。