分岐点 こんごうの物語   作:スカルルーキー

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夕闇迫る 南の楽園

束の間の休息、しかしそれは新しい嵐の前触れでもあった


9.投錨と夕飯

パラオへ向かう こんごうの足取りは 急に重たくなった、まあ航海は 副長以下の幹部が仕切っているので船速が遅くなるとか 羅針盤が急に狂うなんて事はないのだが、気分的には 重い……

自分の横を並走している 金剛お姉さまの隣には、彼女が最も苦手とする相手、駆逐艦 陽炎が居るのだ

 

「艦長、顔色悪いですけど 大丈夫ですか?」と 副長に言われ

 

「う~ 大丈夫、多分」と何とも頼りない返事をする こんごう

 

「まあ 艦長、お気持ちは分かりますけど、あの 陽炎さんが 艦長の知っている 陽炎さんと同じ人とは限りませんよ、此処はしっかりして頂かないと」と副長

 

「うん 頑張る」

 

 

 

いずも艦橋

「なあ いずも、どうして こんごう達、特に こんごうは ああ 陽炎さんを怖がるんだ?」と不思議がる 司令

 

「あら 司令ご存知ないですか? 彼女達、陽炎さんに殺されかけましたからね」とあっさりと言う いずも

 

「おい おい、どういう事だ? 殺されかけるとは?」

 

「司令 彼女達の士官候補生時代、イージス艦娘候補生の主席教官が 陽炎さんだった事はご存知ですよね」

 

「ああ、聞いた事がある」

 

「訓練艦の操船訓練 初日に、動きが鈍いという理由で実弾砲撃受けたそうですよ」と真顔で言う いずも

 

「ほっ、本当か!」と驚く 司令

 

「まだそんなのは 軽いほうですよ」とあっけらかんと言う いずも

「艦隊運動訓練では 酸素魚雷の雷撃を受けたとか、登山訓練では 気を抜こうものなら小銃で実弾、威嚇を受けながら 一晩中追い掛けられたとか、昼間休憩なしで航海訓練して 帰隊したらそのまま夜間戦闘訓練とか、逸話だらけですよ。こんごうなんか 立ったまま 寝る特技覚えたそうですから」

 

「ふ~ん そうなのか、なるほどな そう言う事か」と納得する 司令

 

「そう言うこと?」と聞き直す いずも

 

「まあ これから暫く お世話になるんだ、仲良くして欲しいもんだ」

 

こんごうの気持ちなどお構いなく、パラオへ近づく艦隊

ようやく 夕闇せまる頃、泊地入口まで辿り着いた

「由良、金剛はそのまま 工廠の桟橋へ誘導してくれ、自衛隊艦隊は 湾外の水深の深い場所に、一応 警戒の為 1隻誰かを付けておいてくれ」と 提督が指示すると

 

「はい、金剛さんの誘導は 陽炎に、自衛隊艦隊は 泊地入り口の1番地区へ誘導します。彼処なら 湾内からも監視出来ますし、監視は 皐月ちゃんを明日の朝まで、その後は順次 半日交代で」

 

「ああ 済まない、さて直ぐに戻って トラックに報告電文を送ろう。遅れると後々面倒になりそうだ」と席から立ち 体を伸ばす 提督

 

「はい 提督さん」と 由良は、泊地司令部横の桟橋へゆっくりと進んだ

 

金剛は、桟橋へ接岸後 元気だと言い張ったが、由良と 鳳翔に無理矢理、艦娘治療施設 通称「入渠(お風呂)」へ叩き込まれた

一方、自衛隊艦隊は 皐月に誘導されて 湾の入り口より少し離れた場所を 投錨地として指定された、投錨に備え イージス艦4艦 いずも、あかしと隊列を組み替えていた

 

司令は、指定された場所を双眼鏡で眺めて

「やはり 此処か」と一人事を呟いた

 

「何かおっしゃいましたか? 司令」

 

「いや なんでもない」と不機嫌に答える 司令

 

「懐かしいですか、司令?」と聞く いずもを、鋭く睨んだ 司令

 

「それは 聞かないでくれ。過去の話だ」とだけ 答えじっと黙ってしまった

 

こんごうは 機関微速のまま、ゆっくりと 皐月の後を付いて行った

「みんな ボクは 皐月、よろしくね」と明るい声が聞こえる

 

「此方は 自衛隊艦隊 こんごうです。皐月教…… 皐月さん、宜しくお願いします」と恐る恐る答えた

 

「こんごうさん? うちの 金剛さんの親戚かな? まあいいや、この辺りから順次 投錨して、いまタグボートが来るから」

 

「タグボートですか? まあなくても何とかします、大丈夫ですよ」と こんごうは答え

 

「イージス艦隊、各艦投錨よ~い!」と号令すると、ひえい以下の船が一斉に急減速した

 

「航海長 投錨指示お願い!」と こんごうが指示を出す

 

「甲板員 準備急げ!」と外で声がする。妖精隊員が慌ただしく動くのが見て取れる

 

「航海長! 投錨位置確認!」

 

「あと500!」

 

「水測員 水深は大丈夫?」と こんごう

 

「はい、現在十分確保できています。いずもでも問題ありません」

 

「では、艦尾を 陸地側に向けて、この位置から横方向に一定間隔で投錨します」

 

「はい、艦長」と 航海長が返事をする

 

「艦首、艦尾 サイドスラスター起動、回頭!」と 航海長が指示する

 

艦尾のスラスターが動き、艦尾が急速に陸地側に動きだす、艦首が流れないように 反対側に艦首スラスターが制動を掛けた

航海長の細かな指示のもと、こんごうは その場で 約90度近い回頭をしてみせた

「錨 うて~!」と 航海長が 甲板員に言うと 合図と共に艦首の錨が轟音を立てて 夕闇迫る海面へ向けて落ちていった

 

こんごうが 投錨すると次々と ひえいたちも同様な動きを見せて 錨を下していった

結局、湾内からタグボートが来る前に 全ての艦の投錨が終わってしまった

 

皐月は 艦橋からこの様子を眺めていた。一応 由良さんから不審な動きが有ったら報告しろとは言われたが、初めて見る 大型艦の自力投錨作業に驚いていた

「ねえ 副長」と 皐月

 

「はい、皐月艦長、なんですか?」と 副長

 

「大型の重巡とか 空母があんな回頭 出来るの?」

 

「出来るでしょう。現に目の前で彼らはやって見せましたから」とあっさり現実を受け入れる 皐月副長

 

「一体、どうなってるの?」

 

「艦長、合流する時の無線聞きました? 未来から来た艦隊という話ですけど」と困惑する 副長

 

「ボクは 構わないね。未来だろうと過去だろうと、艦娘は艦娘なんだし」

 

「それより 副長! 見張り 明日の朝までだって! 信じられない!」といきなり怒る 皐月

 

「陽炎なんて、“私 金剛さんのドック入り手伝うから”とか言って さっさと帰るし、秋月は 防空担当ですからと逃げるし、睦月も 長波も 缶に火が入ってないとか言って出て来ないし。う~ 朝から叩き起こされて、一日走って、見張り押し付けるなんて! オマケに、緊急出港だったから、糧食班乗せてくる余裕が無くて まだご飯食べてないし!」とプンプンモードである

 

「まあ 仕方ないでしょう? 由良さんは今日の報告書作成が有りますし、まさか 鳳翔さんや 瑞鳳さんに遣らせる訳にはイカンでしょう」と 皐月副長

「明日の朝まで、何も起こらなければ良いですよ。何も!」

 

「ボク もう知らない!」と艦長席でふて寝をする 皐月を、副長は無視して前方の 自衛隊艦隊を眺めた

 

 

ようやく、夕日が水平線に消え始めた。艦隊を夕日が染めていた

 

 

 

パラオ泊地司令部

提督と 由良は、金剛を入渠させると、直ぐにトラックの 連合艦隊司令部への電文作成に入った

まず、金剛の保護、容体などを簡素にまとめ、第一報を送信

コレで まあ妹達は落ち着くだろう

次からが問題だった、金剛の参謀の書いた戦闘詳報を元に、自衛隊艦隊の戦闘をまとめようとするが、中々理解出来ないというか 想像できないのだ、海中から現れる艦 それも驚きだが、数分で40機の艦載機を撃破、たった1発のロケット弾で潜水艦を撃沈

水観妖精の報告では、重巡を含む5隻の艦隊を一方的に叩き潰した事

35ノット近い速力で、戦闘機並みの機動力など言い出したら切りが無い

未来から来た謎の艦隊である事、日本語が通じ此方との意思疎通が出来る事、敵意が無い事などを簡素にまとめ、最後に日本海軍の意向を代表できる参謀を派遣して頂きたいとつけ添え、何とか文章にまとめ上げ、送信した

多分コレを見た 参謀達は「パラオの提督は幸せ過ぎてオカシクなったか?」と言うかも知れないが、事実は事実である

後は 待つだけである

 

いずも艦橋

司令は いずもから、各種の報告を受けていた

 

「司令、各艦 投錨作業完了しました」と いずも

 

「各艦に今日はゆっくりと休むように伝えてくれ、当直は誰だ」

 

「本来なら こんごうですが、戦闘の疲れもありますし、防空当直は私のCICで行います。対潜は この深さなら問題ないと思います。一応 はるなのソナー妖精のデータをリンクして監視します」と いずも

 

「済まないがよろしく頼む」

 

「それと、各艦から戦闘報告の速報が出ています、各艦弾薬は10%前後消費、こんごうと ひえいは 砲戦をしているので30%です、燃料は各艦 6割ほど消費です」

「それと、これが あかしからです。各艦の損害復旧見積りです、やはり ひえいが一番時間が掛かりますが、手持ちの部品で何とかなりそうです」

 

「おっ、プラントのお世話にならずに済みそうか?」と 司令

 

「それと、あかしと はるなから、潜水ドローンの使用許可申請です」とボードを差し出した

 

「潜水ドローン、何に使うんだ?」

 

「はい、はるなは 周辺地域の海底地形のサーチと水温観測です。あかしは 鉱床探査だそうです」と いずも

 

「鉱床?この辺りにナノマテリアルの鉱床があるのか」と 司令

 

「あら、ご存知ありませんでしたか? 高濃度の鉱床が発見されたと記録がありますが」

 

「初耳だな、まあ俺には関係ない話だし。ドローンの使用は許可する、GPSが使えないので 運用には細心の注意を払うよう添えてくれ」

 

「はい、司令」

 

「それと、先程 由良さんから、明日のマルハチサンマルに、泊地司令部で面談したいとの事です」

 

「う〜ん、まず おれとお前で行こう、まずは挨拶してからだ。その時の雰囲気次第で、こんごう達を合わせる、いきなり 金剛さん達ソックリな彼女達が行けば混乱する恐れがあるしな」

 

「はい、ではそのように手配します」と いずも

 

「とにかく 今日は疲れた、休もう」とぐったりする 司令

 

「そろそろ 体を鍛え直したほうがよろしいのでは、し れ い」と 司令の脇腹をつねる いずも

 

「勘弁してくれ」

 

こんごうは、早目に艦内巡検を 副長と 先任伍長を伴って行った

初の本格戦闘を 1日に2回も行い、オマケに35ノットの高速走行 砲戦と慌ただしい一日であった、

機関室に顔をだし 機関長に主機の調子を確かめて、今後の予定を伝え

CICや他の部署にも 顔を出したが飛行科員から“出番はまだですか?”と聞かれて、「その内 死ぬほどあるわよ」と答えて なだめて回った

副長と艦橋に戻り、夜間当直の確認をして 艦長席に座り直してようやく落ちついた

夕闇に染まる海を見ながら ぼーとして居ると、不意に概念伝達通信の回線が開いた

ひえいである

 

「こんごう、今日はお疲れ」と ひえい

 

「其方こそ、破損個所はどう?」

 

「まあ アッセンブリ交換で何とかなりそう、さっき あかしが来て見てたから明日にも直るって。それより こんごう」

 

「なによ?」 だいたいこう話す時は何か嫌な事がある時である

 

「前方にいる 皐月だけどさ、見た?」

 

そう言われ、駆逐艦 皐月の艦橋を双眼鏡で確認すると

艦長席で、猫みたいに丸くなって寝ている 皐月が見える

 

「皐月教官 寝てる?」と こんごう

 

「あの人、ああやって寝てる時は機嫌が悪い証拠よ」と ひえい

 

「そうなの?」

 

「多分、夕ご飯抜きで此方の監視でも 言われたんじゃないの?」

 

「じゃ、ひえいが夕ご飯誘えば~」

 

「私 さっき食べたし、はるなも きりしまももう済んでるって」

 

「ああ~ 分かりましたよ、私が生贄になればいいのよね、わ た し が!」と呆れる こんごう

 

「ごめん、お願い」と ひえい

 

「ちゃんと 司令に連絡してね、それと宿題もお願いよ」と こんごう

 

「えっ!? 戦闘詳報一緒に作ってくれるんじゃないの?」と焦る ひえい

 

「不機嫌な 皐月教官の相手と戦闘詳報作成、どっちが良い?」

 

「戦闘詳報!」と即答する ひえい

 

「じゃ、決まりね」と こんごう

こんごうは 艦長席に据え付けの多機能型ディスプレイを操作し、駆逐艦 皐月を呼び出した

 

 

 

皐月の艦橋では、皐月本人の放つ 不機嫌オーラの為か非常に重苦しい雰囲気に包まれていた

「艦長、護衛艦 こんごうさんから、通信入ってますよ」と 皐月副長が言うと

 

「もう、なに?」と不機嫌そうに席を立った 皐月が無線を取った

 

「こちら 皐月、何か用!」とぶっきらぼうに答えた

 

「あの こんごうですけど、皐月さん もう夕食 食べました?」

 

「まだだよ。皆の見張りで明日の朝まで ご飯はお預け!」と不機嫌に答えた

 

「もし 良かったら此方へ、食べに来ませんか?」

 

「えっ、良いの?」と急に声が明るくなった

 

「はい。私も今からですから、一人で食べるより二人の方が楽しいですしね」

 

「ボクが、乗っても大丈夫なの?」と 皐月

 

「はい、うちの司令の許可も出ていますから」と こんごう

 

「ボク、行く! 行きます!」と慌てて答える 皐月

 

「では、此方から内火艇をお迎えに上がらせます」と こんごう

 

「じゃ、ボク 待ってます!」と元気に答えた

 

 

皐月副長は

「こんごう艦長 助かります、これで 皐月艦内の平穏無事が保てます」と感謝していた

 

 

皐月は、こんごうからの通信が終わると、居ても立っても居られないのか

「副長、あとお願い」と言い放ち、さっさと甲板へ降りて行った

 

迎えの内火艇で こんごうへ向う間、眼前の こんごう達が監視対象である事などスッカリ忘れて、何を食べさせてくれるのか楽しみであった

 

妖精隊員に案内され ラッタルを登ると、そこには 戦艦 金剛さん ソックリな青い服を着た女性が待っていた

「初めまして、護衛艦 こんごうです」と その女性は優しく微笑んだ

 

第一印象は、少し背を高くした流暢な日本語を話す 金剛さん

優しそうな人で、ホッとした

「皐月だよ。よろしくなっ!」と チョット言ってみたが、怒る風もなく、落ちついた雰囲気だった

 

横にいる 妖精さんが

「こんごう副長妖精です。皐月様、ようこそ こんごうへ」と敬礼してくれた

 

「あっ、どうも」と慌てて答礼する

 

「皐月さん、 そんなに固くならなくても良いですよ」とこんごうさん

「では、此方へ」と こんごうさんに案内されて、艦内に入る

 

外からだと分からないけど 中は大きな艦、それに空気が冷たい 暑苦しくないし、やっぱり大型艦はいいよな〜、などと思いながら、兵員妖精とすれ違った

サッと 道を開けて敬礼してくれる。ペコリとお辞儀をしながらすれ違った

うわ~ 凄いや、時々戦艦とか乗せて貰うけど、駆逐艦なんか相手にしてもらえないから 妖精さんも無視していく事が多いのに此処の妖精さんは規律が厳しいのかな。そう言えば 金剛さんも“鬼金剛”とか言われて、厳しいって聞いた事があったな

「此方へ」と こんごうさんに案内された部屋は、士官室と呼ばれる部屋

正面の壁には、主要航路が書かれた世界地図、隣の壁には この艦の写真かな、うわ全部色つき写真だ!賞状みたいな物も有る

部屋の中は白いテーブルクロスが掛けられた 綺麗なテーブルに ゆったりと座れる椅子が並んでいた

うわ~、こんな所で食事するの? ボクなんか何時も艦橋でおにぎりとかだから、なんか落ち着かないな

 

「どうぞ」と席を勧められて、恐る恐る席に着く

「用意して来ますから、暫くお待ちくださいね」と言いながら こんごうさんは外へ出た

 

ゆっくりと部屋の中を眺める。正面の世界地図を観る

特に不思議な所は無いけど、支那の部分の表示が中華人民共和国ってなってる

あれ?日本は沖縄の先までで、色が変わってる?

よく見ると 大分違うな、横に目をやると、壁には進水式の写真かな

艦をバックに立つ3人の女性

さっき見た こんごうさん、その隣は 白い制服かな?髪を肩で切り揃えたよく似た女性、そしてその前には、椅子に腰掛けている黒いドレスを着た 金剛さんかな?

少し老けて見える

右下に、撮影年月日 2022年4月とある

その横には、賞状か?

災害救援活動 感謝状?

2023年 8月に発生した台風被害地に対しての救援活動に関する感謝状だって!

その下は、海難救難活動に関する感謝状?

その横の写真は、2024年 在日米軍合同演習!

こんごうさんによく似た船と並走する写真、マストの下に巨大な星条旗が掲揚してある

えっ、米軍と演習? 米軍って敵性国家じゃないの?

う〜ん、やっぱり未来から来たって本当なのかな

そうして、キョロキョロしている内に、こんごうさんがトレーに何かを乗せて帰ってきた

「はい、お待たせしました」と ボクの前にカレーライスと、野菜の小皿を置いてくれた

「何も無くて 御免なさいね、急な戦闘とかで全然準備して無くてこんな物しか無いけど」と言ってくれたけど、もうコレで十分です

温かいご飯にカレー、オマケにお肉たっぷりだし、野菜の付け合わせなんか久しぶり!

こんごうさんも、対面に座って

「では、いただましょう」と言ってくれた

手を合わせて「頂きます!」

恐る恐る、スプーンですくって、口にした

うん 美味しい! 少し辛めだけどご飯と合って、全然大丈夫!

凄い、野菜だって採れたてみたいで新鮮だよ! 小さいトマトかな、初めて見た

口の中で甘酸っぱい

「お口に合いますか?」と聞かれて

 

「全然 大丈夫、鳳翔さんのご飯も美味しいけど、和食が多いからカレーなんか久しぶりです」

 

「良かった、丁度作り置きが有ったから、お口に合って」

 

「最近、深海棲艦の潜水艦のせいで、補給が心細くって お醤油とかお味噌とか中々届かなくて、鳳翔さん 泣いてたもんな」

 

「そうなんですか?」と こんごうさん

 

「うん、でも助かった!今日、糧食妖精さん 泊地に置いて来たから朝から何も食べてなくて」

そういう話をしている内に、あっという間に カレーを食べ終わってしまった

うん、お腹一杯です

 

「そう言えば、皐月さんは果物好きですか?」と聞かれ

 

「うん 大好きだよ、南国は果物が美味しいから好きだよ」と答えた

 

「じゃ、ちょっと待っててください」と言われ、こんごうさんはまた外へ出た

そう言えば 今思い出したけど、こんごうさん達 監視するように言われてたけど、コレだけ親切にしてもらって 監視する必要があるのかな?

暫くすると、こんごうさんは またトレーを抱えて帰ってきた

今度は、小さいお皿に透明な寒天のような物が乗っていた

 

「これは? 何だろう」と思っていたら

 

「コレはですね、間宮特製のフルーツゼリーと言います。とても美味しいですよ」と言われて小さなスプーンで突いてみた

 

こんごうさんは、テーブル横の引き出しを開けて 何かを取り出してした

ソレは、綺麗なティーセットだった

手際よく 紅茶を淹れてくれる、この人やっぱり 金剛さんの親戚なのかな?

「どうぞ」と薦められた、凄い! こんなにお砂糖がある!

砂糖を 少し入れて 一口飲んでみた

うん コレも美味しい! 金剛さんの紅茶を何回かご馳走になったけど、それに劣らず美味しい

「うん、まあまあかな」と こんごうさんは言うけど、ボクは十分 美味しいと思うけど

フルーツゼリーを 少しスプーンですくって 口に含む

中に入っている果肉が シャキッとしてて 甘く美味しいよ〜

こんな美味しいお菓子、初めて食べた!

ふと、こんな事を思い出した

「こんごうさんって、戦艦 金剛さんの親戚なんですか、ソックリだし 写真とか」と言って、さっきの写真を指さした

 

「あっ コレですね、コレは竣工式の写真かな。お祖母様とお母さんと撮った写真」

「左後が私、右がお母さん 戦艦 金剛の娘、そして前に座るのが」

 

「金剛さんですか?」と聞いてみた

 

「そうですよ。今の 金剛さんより、少し老けましたね」と こんごうさん

 

「こんごうさんって!」

 

「そう、私は戦艦 金剛の孫娘にあたります。80年後の未来から来た」

 

 

少し沈黙して

「ねえ こんごうさん、80年後の未来の日本ってどんな国なんですか?」

と聞いてみた、一番知りたい事かもしれない

 

「う〜ん、まあ 戦争も無くて 平和な世の中かな、世界第3位の経済大国、世界7大国家の一つ、私達なんて不人気商売かな」と笑って答えてくれた

 

「じゃあ、終わりは来るんですね」

 

「えっ」と驚く こんごうさん

 

「だって、毎日、毎日 深海棲艦との戦闘、あっちこっち損傷して オマケにアメリカやオーストラリアにも睨まれて、何もしてないのに追い掛け回されて、本当に終わりが来るのか心配で」と 段々涙がでて来た

 

 

 

すると、こんごうさんは席を立って、ボクの横にきてそっと抱いてくれた

優しい、暖かい香がした。そして

 

「大丈夫、どんなに今が暗くても、明けない夜はありません!」

「今、私達がこうして要られるのは、私達の時代の 皐月さんたちが頑張ってくれたからです」

 

一瞬 ボクが?と思った

「皐月さん だけでは有りません、由良さんだって 陽炎さんだって頑張ったから、私達の日本が平和な国家になったのです」

「だから、頑張りましょう、私達もお手伝いしますから」とそっと頭を撫でてくれた

 

それだけで、少し嬉しくなった

「うん、ボク がんばる」とだけ答えた

 

 

 

いずも司令官私室

司令は いずもと、こんごう士官室の映像を見ていた

 

「なんか、覗き見してるようで 悪いな」と 司令

 

「まあ、コレも情報収集の一環だと 思えば仕方ないですよ」と いずも

 

「今の話だと、まだアメリカとオーストラリアは参戦していないな」

 

「そうなりますね、緊張状態が継続していると言う事でしょうか?」

 

「う〜ん もしかしたら、真珠湾攻撃が失敗したのか?」

 

「でも ソレなら、アメリカは参戦の理由が出来るのでは」と いずも

 

「いや、攻撃前に発見されたとか、深海棲艦との交戦とか色々あるぞ!」

 

「もう少し 情報が欲しいですね」

 

「ああ 明日にでも聞いてみるさ、それより、深海棲艦の潜水艦による通商破壊が深刻だな」

 

「補給に支障を来すようではね」

 

「まずは シーレーン防衛からスタートだな、はるなの出番が増えそうだ」

 

「はい、司令」

 

 

 

 

こんごうさんに 晩御飯をご馳走になって帰る時、紙製の箱を渡された

「妖精さんにお土産です」と にこやかに言われた

艦に戻って、箱を開けた

見た事も無い様な お菓子が一杯入っていた

ジャガイモを薄く切って油で揚げてある物とか、小さい寒天みたいなお菓子とか

小さく包んである貴重品のチョコレートまで、もう色々である

 

「副長 皆を呼んで来て、一緒に食べよう!」

 

「はい、艦長!」と 副長は急いで、皆を呼んできた

 

それから暫く、艦内では皆の嬉しそうな声が木霊した

「ありがとう、こんごうさん、ボク 頑張るから」

 

 

 

皐月を、見送った こんごうは

「艦長、皐月さんは如何でした?」と 副長に聞かれ

 

「うん、可愛かったわよ」と素直に答えた

 

「艦長、彼女が後に「武功抜群」と言われた存在となると思うと、複雑ですね」

 

「副長、守るわよ! 彼女達をソレが私達、自衛隊の本分よ」

 

「はい、艦長」

 

パラオの長い1日は、漸く終わった

 

 

 

 

 

トラック泊地 連合艦隊司令部

その部屋の主は、今日 幾度も艦娘の襲撃を受けていた

先程、投錨した 長門と 大和の艦影を見ながら、じっと窓辺に立つ白い第2種軍装を纏う初老の男性、若い頃はさぞかしモテたであろう風貌の顔つき、絵になる男である

少尉候補生時代の日本海海戦で左手の人差指と中指を欠損したが何とか生きて帰った、彼はじっと外を眺めていた

 

階段を 駆け足で上がってくる音がする

今日で もう何回目だ

凄まじい音と共に、ドアが開く

 

「長官! 直ぐに燃料補給と 駆逐艦を3隻、いや2隻で良い、貸して欲しい」

 

そう叫びながら 飛び込んできた 長門、そしてその後を追う様に入室する 大和

 

男は、連合艦隊司令長官 山本五十六(イソロク)

ゆっくりと振り返って

「お帰り 長門、大和も遠路ご苦労」と労をねぎらう

 

「長官! とにかく、今すぐ 金剛の救援を!」と詰め寄る 長門

 

すると、長官席の横にある もう一つ机の主が、読みかけの新聞を畳みながら

「長門よ、お主は儂に挨拶もなしか?」と不機嫌に言った

 

長門は、焦りながら

「失礼しました姫様、戦艦 長門及び 大和、呉より着任いたしました」

 

「姫様、ご無沙汰しております」と 大和は丁寧に一礼して挨拶

 

「うむ、ご苦労」とだけ、その主は答えた

やや古い海軍の提督服をアレンジした服装を着てはいるが、普通の軍人ではない

 

山本は、長門に 一枚の電文を渡した

「今日の昼過ぎに、パラオ艦隊が 金剛を救助した、今はパラオに入港している」

 

「では、金剛は助かったのですか、長官!」と 長門

 

「ああ、パラオの皆に感謝する事だ」と静かに答えた

 

「怪我の具合は?」

 

「それも問題ないとの連絡を受けている、艦体修理の為に数日 パラオに滞在して、その後コチラに 来る事になる」

長門、大和ともに 表情が明るくなった。

 

山本は

「二人とも 下がって良いぞ、今日はもう休め」と言い

 

「それと、外でウロウロしとる 比叡達に、宿舎へ帰るように言え!」と姫は付け加えた

 

「はい、失礼します」と退室する 長門達

 

 

 

再び、外を見る 山本

入れ替わりに、今度は男性と艦娘が一人 入ってきた

「長官、お呼びでしょうか?」と男性

 

「宇垣参謀長、パラオからの電文は読んだか?」と 山本

 

「はい。しかしながら、イマイチ信用できません」と 宇垣

 

「パラオの提督が信用できないと?」

 

「いえ、彼は軍令部時代から 実直な男で有名です、秘書艦の 由良も優秀な艦娘である事は自分も承知しております、だからこそこの内容が理解できないのです」

 

「40機近い艦載機を数分で撃墜、潜水艦を一撃で撃沈、5隻の艦隊を一方的に撃破か……」と 山本

「80年後の未来から来た艦隊」とそう 山本はつぶやくと

 

赤いネクタイを着けた セーラー服姿のメガネ姿がよく似合う艦娘に

「大淀」

 

「はい、長官」

 

「俺は、明日から1週間ほど風邪で寝込む事にする」と 山本

 

「はい 分かりました、ご用意する陸攻は1機で よろしいでしょうか?」と 大淀

 

「済まないが頼むぞ」

 

「はい、では護衛は 赤城の一航戦から、手練れを6機ほど ご用意致します」

 

「大淀、儂も行くぞ!」と姫様

 

「おっ、お前もか?」

 

「当たり前だ、お前の万年秘書艦は儂だからな。お前が行くなら儂も行く」

 

「では、ご用意いたします」と 大淀は一礼して、退室していった

 

宇垣参謀長は 慌てて

「何も、長官自ら出向かなくても 参謀あたりを出せばよろしいのではないでしょうか?」

 

「宇垣よ、お前が理解できん物を、若造どもが理解できると思うか?」

「確かに俺もにわかには信じがたい、しかし今から80年前 航空機が戦艦を撃沈する事など誰が予想した、理解できない物は否定するのではなく、この目で確かめるだけだ」

 

「宇垣、諦めよ、この男は一度言い出したら絶対に引かん、お前も知っておろう」と姫

 

宇垣はしぶしぶ了解した

「すまんが、留守中たのんだぞ」というと 山本はまた外を眺めだした

 

トラック泊地 飛行場管理棟

飛行場管理主任は 急な司令部からの命令に苛立っていた

明日の早朝に、パラオまで要人輸送の為、陸攻を用意しろと言われ、赤城の零戦が

6機護衛に付く

「まったく、こんな時間にイキナリ言われても困るな」と言いながら、管理表を眺めて何とか用意した

 

「おい 通信士、パラオに電文送っておけ、味方打ちされては堪らん」

 

「通信士なら、さっき帰りましたよ」

 

「くそ、なら俺が打っておくか」と 主任は電文を パラオへ送った

それが、後に事件へと発展する第一歩であった

 

 

 

トラックの夜は 静かに更けていった

 

 




こんにちは
スカルルーキーです

「分岐点 こんごうの物語」を読んでいただいて ありがとうございます
お気に入りのを登録して頂いた皆様 これからも頑張って書いていきたい思っておりますので よろしくお願いします

さて 次回は 嵐 来島です
台風は 嫌いです、はい

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