分岐点 こんごうの物語   作:スカルルーキー

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静かに 明ける佐世保の朝、一人の婦人がそっと 庭先でたたずんでいた
静かに、そっと



プロローグ 見送る人

 

眼前の空に迫る、無数の点…。

 

「ねえ、まだ?」

 

「まだ、ダメだって!」

 

「対空戦闘!」

 

「CIC! 指示の目標! トラックナンバー 8001から8010! 主砲打ち方始め!」

 

「僚艦とのデータリンク、問題ない?」 

 

「えっーい! 後何機いるの!?」

 

「頭上に艦爆! 頭取られてるよ!」

 

「いい!? 絶対守りきるのよ!」

 

「CIWS! 叩き落として!」

 

 

 

 

 

 

 

そう……今、私たちは「戦場」にいる。

 

 

 

 

西暦2025年4月

佐世保湾の入口、小さな丘の上にその家はあった。

家主の初老のご婦人の要望で建てられた、欧風の洋館のようなたたずまいを見せる小さな家である。

 

海が見渡せるバルコニーに、その婦人は静かにたたずんでいた。

年代物の椅子にゆっくりと腰掛け、膝にはショールを乗せ遠く佐世保湾を見つめている。

時より彼女の長いブラウンの髪が、春の風に揺れていた。そんな平和な日々の朝。

 

ふと、背後から近寄る気配を感じ、振り返る。

そこには白い海上自衛隊制服を着た40代の女性と、やや場違いな巫女服をまとう一人の女性、そして面立ちの似た古めかしい海軍服を着た3人の女性がいた。

 

女性自衛官「お母様。寒くはございませんか?」

 

婦人「いえ、春の風が気持ちいいデース。まるで、皆と走った海の上のよう」

 

婦人は巫女服の女性を見るや、慌て体を起こそうとした。しかし、女性は手で制した。

 

女性「よい! お主の傷に触るぞ」

 

軍服女性「そうじゃ、無理をするでない」

 

女性「お主、その服は!」

 

そう言うと、婦人が座る椅子の隣へとそっと腰かけた。

婦人「はい……数十年ぶりに、袖を通しました。今日、この日のために」

 

そう言った婦人は巫女服をあしらった服を着ており頭にはカチューシャをつけている。

婦人の足には、若い頃に受けた怪我の痕があった。

 

女性自衛官「お母様。今、お茶を淹れますね」

サイドテーブルのティーセットへ手をかけようとしたが、

 

婦人「いえ……ティーは私が。貴方は、これをオネガイシマース」

 

婦人はそう言うと、2枚の旗を女性自衛官に渡した。

女性自衛官はそれを受け取ると、手慣れた手つきでバルコニーの先にある掲揚台に掲げた。

一枚の旗は、白地に赤い四角のチェッカー模様。

もう一枚は、白地に青の縁取り、その中には赤い四角。

春の風を受けたなびく国際信号旗 UW。

 

 

婦人「貴方。仕事は大丈夫ナノデスカ? 艦娘運用課長の貴方が、艦隊の抜錨まで見ていなくて」

 

女性自衛官「はい。昨夜、少しは話しましたから………」

     「あの子も、もう立派な艦娘。艦長なのですから、大丈夫です」

少し顔を俯けながらも、哀しげに囁くように言った。

 

 

巫女「許せ……幾ら約束とはいえ、7人も生贄を出す事になるとは……」

 

軍服女性「本当にすまぬ……」

女性も声を詰まらせながら、そっと婦人の手をとった。

 

婦人「大巫女様、姫提督。お顔を上げてクダサーイ。あの子達ならダイジョウブデス」

       

春の風が、婦人のブラウンの髪をさらさらと巻上げていた。

 

女性自衛官「お母様。あの子達が来ました……またあの子が先頭です」

 

軍用の双眼鏡を覗きながら女性自衛官が指さす眼下の佐世保湾を4隻のイージス艦、1隻のヘリ搭載護衛艦、そして1隻の支援艦が単縦陣で進んでいる。

すると、婦人は椅子にたて掛けてあった杖をとり、そろそろとバルコニーの前の掲揚台まで歩きだした。

 

女性自衛官「お母様、あの子気がついたようです。ウイングに出ていますし、妖精隊員も整列しています」

 

先頭を行くイージス艦の甲板に、妖精自衛官が整列。艦橋のウイングには、同じブラウンの長い髪をまとう女性自衛官がこちらに敬礼している姿が見える。

婦人は掲揚台の下までくると、眼下に進む艦隊に向け、直立不動な見事な海軍式敬礼でそれに答えた。

 

他の艦娘も皆気がついたようで、艦橋や甲板に出て敬礼している。

婦人は艦隊が過ぎるまでじっと答礼し続け、最後の艦が過ぎた後に、そっとその場に膝から崩れ落ちた。

 

慌てて母親に駆け寄る女性自衛官。

婦人は両手で顔を抑えながら次第に声を詰まらせ、

「分かっていたのデス……あの子が生まれた日、艦娘候補生になった日……そして、あの艤装を持った日。こうなる事は分かってイマシタ……」

「あの子達は帰ってキマセン。この世界には……」

 

 

大巫女「それでも、我々は彼女たちを送り出さねばならん……許せ」

姫提督「彼女達には、我らの英知をすべて授けた。彼女達が新しい世界で、強く生きていけるように」

 

泣き崩れてた婦人はそっと立ち上がると、まっすぐ去りゆく艦隊を見つめて、そっと囁いた。

「気をつけて、いってらっしゃい。“こんごう、ひえい、はるな、きりしま、いずも、あかし、司令”」

 

 

そうやってそっと艦隊を見守る婦人こそ、

かつて、深海棲艦と死闘を繰り広げ、日本の海を守り抜いた艦娘高速戦艦「金剛」その人であった。

 




皆様
こんにちは スカルルーキーです
以前から 艦これを舞台にSS書いて見たいと思っていましたが ようやく実現しました
艦これイメージを壊さないよう心がけていきますのでよろしくお願いします


2016年10月14日
京勇樹様のご協力で文書校正致しました。
ありがとうございました。

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